(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】液状組成物、パウダー、及び、パウダーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20231024BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20231024BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20231024BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20231024BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C08L101/02
C08L27/18
C08J5/24 CEW
B32B15/082 B
B32B15/08 J
(21)【出願番号】P 2021505026
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009684
(87)【国際公開番号】W WO2020184437
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019044624
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019044627
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019096837
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019125278
(32)【優先日】2019-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】山邊 敦美
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-141053(JP,A)
【文献】国際公開第2019/031521(WO,A1)
【文献】特開2019-019004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
C08J 3/00-3/28
C08J 5/00-5/24
B32B 15/00-15/20
B32B 27/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの
下記パウダー
(1)と芳香族樹脂と液状媒体とを含み、前記芳香族樹脂の含有割合が10質量%以上の液状組成物であって、前記芳香族樹脂の含有割合に対する前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有割合の比が1.2以下であり、25℃における粘度が10000mPa・s以下である、液状組成物。
パウダー(1):テトラフルオロエチレンに基づく単位を92~98モル%及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を2~8モル%含有する熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーであって、その体積基準累積50%径が10~60μmである、パウダー
【請求項2】
前記芳香族樹脂の含有割合に対する前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有割合の比が、0.1~0.5である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
前記芳香族樹脂が、芳香族ポリイミド樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエーテルスルホン樹脂、芳香族マレイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂及び芳香族エポキシ樹脂からなる群から選ばれる芳香族樹脂又はその前駆体である、請求項1又は2に記載の液状組成物。
【請求項4】
前記液状組成物の25℃における粘度が、100~5000mPa・sである、請求項1~3のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項5】
前記パウダー(1)の体積基準累積50%径が、16~40μmである、請求項
1~4のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項6】
前記パウダー(1)が、体積基準累積50%径が8μm以下の第1パウダーと体積基準累積50%径が16~40μmの第2パウダーとを含み、前記第2パウダーの含有割合に対する前記第1パウダーの含有割合の比が0.5以下のパウダーである、請求項
1~5のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の液状組成物を、繊維基材に含浸させ、さらに乾燥させる、前記液状組成物の乾燥物と前記繊維基材とを含むプリプレグの製造方法。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の液状組成物を、金属板の表面に塗布し、加熱して前記液状組成物の乾燥物を含む樹脂層を形成させて、前記金属板と前記樹脂層とを有する樹脂層付金属板を得る、樹脂層付金属板の製造方法。
【請求項9】
非溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマー及び芳香族樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂材料と液状媒体とを含有する液状組成物に添加される
、テトラフルオロエチレンに基づく単位
を92~98モル%及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位
を2~8モル%含有する熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーであって、その体積基準累積50%径が10~60μmである、パウダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状組成物、パウダー、及び、パウダーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属箔と絶縁樹脂層とを有する樹脂層付金属箔は、金属箔の加工により金属導体配線(伝送回路)を形成してプリント配線基板として用いられる。高周波信号の伝送に用いられるプリント配線基板には、優れた伝送特性が要求されており、比誘電率及び誘電正接が低い絶縁樹脂層が求められている。
かかる絶縁樹脂層を形成するための液状組成物として、芳香族エポキシ樹脂とテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーとを含む液状組成物(特許文献1参照)が、ポリフェニレンエーテル樹脂とテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーとを含む液状組成物(特許文献2参照)が、それぞれ提案されている。
また、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート等の、付加重合系又は重縮合系の、酸素原子を有する芳香族樹脂や、ポリテトラフルオロエチレン等のテトラフルオロエチレン系樹脂は、諸物性に優れており、スーパーエンジニアリングプラスチックとも称されている。
そのため、その使用態様は拡大しつつあり、分子構造(モノマー種類、その組み合せ等のモノマー構造や、立体規則性、分子量分布等のポリマー構造)を改良したり、その前駆体を使用したりして、樹脂又はその前駆体を含有する液状組成物を調製して、コーティング剤として使用するケースも増えている(特許文献3~6参照)。
【0003】
また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とのコポリマー(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(FEP)等のテトラフルオロエチレン系ポリマーは、離型性、電気特性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性、耐熱性等の物性に優れており、種々の産業用途に利用されている。
テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを溶媒に分散させて液状組成物を調製し、各種基材の表面に被膜を形成するためのコーティング剤として使用する提案がされている(特許文献7及び8参照)。
特許文献9には、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと所定の溶媒とこの溶媒に不溶なポリマーとを含む液状組成物から調製される、溶媒に不溶なポリマーをパウダー粒子表面に付着させたパウダーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-166347号公報
【文献】特開2019-001965号公報
【文献】国際公開2018/207706号
【文献】特表2015-519226号公報
【文献】国際公開2016/159102号
【文献】特開2008-050455号公報
【文献】国際公開2017/222027号
【文献】国際公開2018/016644号
【文献】特開2012-188514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1又は2の液状組成物は、電気絶縁性の樹脂として知られる芳香族樹脂又はその前駆体と、比誘電率及び誘電正接が低いテトラフルオロエチレン系ポリマーとを含むので、その成形品(プリプレグ、樹脂層付金属板、プリント配線基板等)の電気特性の向上が期待できる反面、以下の課題があることを、本発明者らは知見している。
すなわち、液状組成物の成分のうち、芳香族樹脂の含有割合を高めた場合、液状組成物が増粘して取扱にくくなり、かつ、得られる成形品の物性も低下しやすくなる。そのため、繊維基材に高濃度の樹脂成分が含浸保持されたプリプレグを効率的に製造できない。また、成分均質性が高く厚膜の絶縁樹脂層を効率的に成形できない。
【0006】
また、かかる液状組成物には、下記の課題がそれぞれあることも、本発明者らは知見している。
芳香族樹脂又はその前駆体は、樹脂の主骨格に、結合手としてエステル結合、エーテル結合、イミド結合等の酸素原子を含有する場合が多い。これらの樹脂物性を高度に発現させるために、樹脂材料の酸素原子の含有量及び芳香環の含有量を高めると、得られる液状組成物と、その成形品との難燃性が低下してしまう。かかる不都合を解消すべく、液状組成物に公知の難燃剤を添加しても均質分散せず、難燃性が向上しないばかりか、液状組成物又は成形品の本来の物性も損なわれやすい。
テトラフルオロエチレン系樹脂には、表面張力が低く他の材料との相溶性が低いため、その液状組成物から形成される成形品は、表面平滑性、加工性及び接着性に乏しいという課題もある。
さらに、かかる液状組成物の調製において、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを芳香族樹脂のワニス(液状組成物)に直接添加して調製する場合、液状組成物が増粘する等して変質し易いという課題も、本発明者らは知見している。さらに、この場合の液状組成物から形成される成形体の物性(加工性、難燃性、電気特性等)も充分に向上しにくくなるという課題も、本発明者らは知見している。
なお、特許文献9のパウダーは、テトラフルオロエチレン系ポリマーが非フィブリル性の熱溶融性ポリマー(PFA、FEP等)であると、そのパウダー粒子表面に、液状媒体に不溶なポリマーが付着しにくく、その効果は未だ充分ではない(同文献の段落番号0104等を参照)。
【0007】
本発明は、分散状態が良好なテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと高濃度な芳香族樹脂とを含む、取扱性に優れた粘度を有する液状組成物の提供を目的とする。
本発明は、テトラフルオロエチレン系樹脂や芳香族樹脂を含有する液状組成物に添加しても、増粘等の変質が抑制され、均質性が高い液状組成物を形成できる、所定のフルオロポリマーのパウダーの提供を目的とする。
本発明は、かかるパウダーの製造方法の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと芳香族樹脂と液状媒体とを含み、前記芳香族樹脂の含有割合が10質量%以上の液状組成物であって、前記芳香族樹脂の含有割合に対する前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有割合の比が1.2以下であり、25℃における粘度が10000mPa・s以下である、液状組成物。
[2]前記芳香族樹脂の含有割合に対する前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有割合の比が、0.1~0.5である、[1]に記載の液状組成物。
[3]前記芳香族樹脂が、芳香族ポリイミド樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエーテルスルホン樹脂、芳香族マレイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂及び芳香族エポキシ樹脂からなる群から選ばれる芳香族樹脂又はその前駆体である、[1]又は[2]に記載の液状組成物。
[4]前記液状組成物の25℃における粘度が、100~5000mPa・sである、[1]~[3]のいずれかに記載の液状組成物。
【0009】
[5]前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーが、下記パウダー(1)、下記パウダー(2)又は下記パウダー(3)である、[1]~[4]のいずれかに記載の液状組成物。
パウダー(1):テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位からなる熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーであって、その体積基準累積50%径が10~60μmである、パウダー。
パウダー(2):テトラフルオロエチレンに基づく単位を90~99モル%、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を1~3モル%及び酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を含む熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーであって、その体積基準累積100%径が8μm以下である、パウダー。
パウダー(3):熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーと表面処理剤とを含むパウダーであって、その体積基準累積50%径が25μm未満である、パウダー。
[6]前記パウダー(1)が、テトラフルオロエチレンに基づく単位を92~98モル%及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を2~8モル%含有する熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーであって、その体積基準累積50%径が10~60μmのパウダーである、[5]に記載の液状組成物。
[7]前記パウダー(1)の体積基準累積50%径が、16~40μmである、[5]又は[6]に記載の液状組成物。
[8]前記パウダー(1)が、体積基準累積50%径が8μm以下の第1パウダーと体積基準累積50%径が16~40μmの第2パウダーとを含み、前記第2パウダーの含有割合に対する前記第1パウダーの含有割合の比が0.5以下のパウダーである、[5]~[7]のいずれかに記載の液状組成物。
[9]前記パウダー(3)が、前記熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーに対する前記表面処理剤の質量比が0.01超0.25以下のパウダーである、[5]に記載の液状組成物。
【0010】
[10]前記[1]~[9]のいずれかに記載の液状組成物を、繊維基材に含浸させ、さらに乾燥させる、前記液状組成物の乾燥物と前記繊維基材とを含むプリプレグの製造方法。
[11]前記[1]~[9]のいずれかに記載の液状組成物を、金属板の表面に塗布し、加熱して前記液状組成物の乾燥物を含む樹脂層を形成させて、前記金属板と前記樹脂層とを有する樹脂層付金属板を得る、樹脂層付金属板の製造方法。
【0011】
[12]非溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマー及び芳香族樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂材料と液状媒体とを含有する液状組成物に添加される、下記パウダー(1)、下記パウダー(2)又は下記パウダー(3)からなる、パウダー。
パウダー(1):テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位からなる熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーであって、その体積基準累積50%径が10~60μmである、パウダー。
パウダー(2):テトラフルオロエチレンに基づく単位を90~99モル%、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を1~3モル%及び酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を含む熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーであって、その体積基準累積100%径が8μm以下である、パウダー。
パウダー(3):熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーと表面処理剤とを含むパウダーであって、その体積基準累積50%径が25μm未満である、パウダー。
[13]前記表面処理剤が、界面活性剤又はシランカップリング剤である、[12]に記載のパウダー。
【0012】
[14]熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーの原料パウダーと表面処理剤と液状媒体とを含むパウダー分散液を濃縮し、さらに前記液状媒体を分離する、前記熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーと前記表面処理剤とを含むパウダーの製造方法であって、製造されたパウダーに含まれる前記熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーに対する前記表面処理剤の質量比が0.01超0.25以下である、パウダーの製造方法。
[15]前記パウダーの体積基準累積50%径が、25μm未満である、[14]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液状組成物は、分散状態が良好な熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと高濃度に芳香族樹脂とを含み、取扱性に優れる。本発明の液状組成物を用いれば、繊維基材に樹脂成分を高濃度に含浸保持させたプリプレグや、任意の厚さの絶縁樹脂を有する基材を、容易に製造できる。これらのプリプレグや基材は、熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーの均質性が高いため、電気特性に優れている。
また、本発明によれば、非溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマー及び芳香族樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂材料と液状媒体とを含有する液状組成物に対して優れた分散性を示し、それから形成される成形品の物性(表面平滑性、難燃性、加工性等)を改善できる、熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含む添加剤を提供できる。
さらに、本発明のパウダーの製造方法によれば、熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むパウダーが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「液状組成物の粘度」は、B型粘度計を用いて、25℃にて回転数が30rpmの条件下にて測定される、液状組成物の粘度である。測定は3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「液状組成物のチキソ比」は、25℃にて回転数が30rpmの条件で測定される粘度η1を回転数が60rpmの条件で測定される粘度η2で除して算出される値(η1/η2)である。
「熱溶融性ポリマー」とは、溶融流動性を示すポリマーを意味し、荷重49Nの条件下、ポリマーの溶融温度よりも20℃以上高い温度において、溶融流れ速度が0.1~1000g/10分となる温度が存在するポリマーを意味する。なお、「溶融流れ速度」とは、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997)に規定される、ポリマーのメルトマスフローレート(MFR)を意味する。
「ポリマーの溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ポリマーの溶融粘度」は、ASTM D 1238に準拠し、フローテスター及び2Φ-8Lのダイを用い、予め測定温度にて5分間加熱しておいたポリマー試料(2g)を0.7MPaの荷重にて測定温度に保持して測定される値である。
「ポリマーの貯蔵弾性率」は、ISO 6721-4:1994(JIS K7244-4:1999)に基づき測定される値である。
【0015】
「基板又は金属板の十点平均粗さ(Rzjis)」は、JIS B 0601:2013の附属書JAで規定される値である。
「パウダーの体積基準累積50%径(D50)」は、パウダーを水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用い、パウダーの粒度分布を測定し、パウダー粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒径である。
「パウダーの体積基準累計90%径(D90)」は、同様にして求められる累積カーブ上で累積体積が90%となる点の粒径である。
「パウダーの体積基準累積100%径(D100)」は、同様にして求められる累積カーブ上で累積体積が100%となる点の粒径である。
ポリマーにおける「単位」は、重合反応によってモノマー1分子から直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された前記原子団であってもよい。ポリマーに含まれる、モノマーAに基づく単位を、単に「単位A」とも記す。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【0016】
本発明の液状組成物(以下、「液状組成物(1)」とも記す。)は、熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)のパウダー(以下、「Fパウダー」とも記す。)と芳香族樹脂と液状媒体とを含み、25℃における粘度が10000mPa・s以下の液状組成物である。液状組成物(1)は、Fパウダーが液状組成物中に分散したパウダー分散液である。
液状組成物(1)は、芳香族樹脂の含有割合が10質量%以上であり、芳香族樹脂の含有割合に対するFポリマーの含有割合の比(質量比)が、1.2以下である。
【0017】
液状組成物(1)は、芳香族樹脂の含有割合が高くとも、Fパウダーが良好な分散状態にあり、その粘度が所定の範囲に収束して、取扱性(塗工性、含浸性等)に優れている。
これは、前記比が所定の範囲にあり、高濃度に含まれる芳香族樹脂が、溶質的にも溶媒的にもFパウダーの分散を促すためと考えられる。その結果、Fパウダーは液状組成物(1)中での分散速度が沈降速度に比較して大きくなり、液状組成物(1)の物性が阻害されにくくなると考えられる。このため、液状組成物(1)を用いた場合、Fポリマーの含有割合が相対的に低くても、電気特性に優れる成形品(プリプレグ、樹脂層付金属板、プリント配線基板等)を形成できると考えられる。
【0018】
液状組成物(1)における芳香族樹脂の含有割合は、10質量%以上であり、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。その上限は、80質量%が好ましい。
液状組成物(1)における芳香族樹脂の含有割合に対するFポリマーの含有割合の比は、1.2以下であり、1未満が好ましく、0.1~0.5がより好ましく、0.1~0.4が特に好ましい。上述した通り、液状組成物(1)は、Fポリマーの含有割合が相対的に低くても、電気特性等のFポリマーが有する物性を成形品に付与できる。
液状組成物(1)の粘度は、10000mPa・s以下であり、100~5000mPa・sが好ましく、500~4000mPa・sがより好ましい。
【0019】
液状組成物(1)におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位を有する熱溶融性のポリマーである。Fポリマーは、TFEと、TFEと共重合可能なコモノマーとのコポリマーであってもよく、熱溶融性である限り実質的にTFEのホモポリマーといえるポリマーであってもよい。Fポリマーは、ポリマーを構成する全単位に対して、TFE単位を90~100モル%有するのが好ましい。Fポリマーのフッ素含有量は、70~76質量%が好ましく、72~76質量%がより好ましい。
Fポリマーとしては、熱溶融性のポリテトラフルオロエチレン、TFEとエチレンとのコポリマー(ETFE)、TFEとプロピレンとのコポリマー、TFEとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」とも記す。)とのコポリマー(PFA)、TFEとヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」とも記す。)とのコポリマー(FEP)、TFEとフルオロアルキルエチレン(以下、「FAE」とも記す。)とのコポリマー、TFEとクロロトリフルオロエチレンとのコポリマーが挙げられる。なお、コポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を有していてもよい。
【0020】
Fポリマーは、熱溶融性ポリマーであり、溶融温度が260~320℃のFポリマーが好ましい。Fポリマーは、せん断力等の物理的な応力に対する耐性や加工性に優れており、液状組成物(1)の調製又は使用に際して変質しにくい。その結果、分散性や均質性等に一層優れやすい。
Fポリマーの200~260℃における貯蔵弾性率は、0.1~5.0MPaが好ましく、0.5~3.0MPaがより好ましい。この場合、液状組成物(1)から形成される積層体の反りを抑制しやすい。例えば、液状組成物(1)から形成される樹脂層を有する樹脂層付金属板からプリント配線基板を製造する際に、はんだリフロー工程における樹脂層の反りによる剥離が抑制されやすい。
Fポリマーの溶融粘度は、380℃において1×102~1×106Pa・sが好ましく、300℃において1×102~1×106Pa・sがより好ましい。この場合、Fパウダーが密にパッキングして平滑性の高い樹脂層を形成しやすい。また、かかる樹脂層は、前記はんだリフロー工程における断熱層として、他の層のダメージ(剥離、膨れ等)をより軽減しやすい。
【0021】
Fポリマーの好適な具体例としては、低分子量PTFE、変性PTFE、FEP、PFAが挙げられる。なお、低分子量PTFE及び変性PTFEには、TFEと極微量のコモノマー(HFP、PAVE、FAE等)のコポリマーも包含される。
Fポリマーは、TFE単位及び官能基を有するFポリマーが好ましい。官能基としては、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基が好ましい。また、後述の酸素含有極性基も好ましい。官能基は、Fポリマー中の単位に含まれていてもよく、ポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者のポリマーとしては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として官能基を有するポリマーが挙げられる。また、Fポリマーを、プラズマ処理や電離線処理して得られる、官能基を有するFポリマーも挙げられる。
【0022】
官能基を有するFポリマーは、Fパウダーの液状組成物(1)中での分散性、芳香族樹脂との相互作用の観点から、TFE単位及び官能基を有する単位を有するFポリマーが好ましい。官能基を有する単位としては、官能基を有するモノマーに基づく単位が好ましく、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基又はイソシアネート基を有するモノマーに基づく単位がより好ましい。
カルボニル基含有基を有するモノマーとしては、酸無水物残基を有する環状モノマー、カルボキシ基を有するモノマー、ビニルエステル及び(メタ)アクリレートが好ましく、酸無水物残基を有する環状モノマーがより好ましい。酸無水物残基を有する環状モノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸。以下、「NAH」とも記す。)及び無水マレイン酸が特に好ましい。
【0023】
官能基を有するFポリマーの好適な具体例としては、TFE単位と、HFP単位、PAVE単位又はFAE単位と、官能基を有するモノマーに基づく単位(以下、「官能単位」とも記す。)とを有するFポリマーが挙げられる。
PAVEとしては、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3、CF2=CFOCF2CF2CF3(以下、「PPVE」とも記す。)、CF2=CFOCF2CF2CF2CF3、CF2=CFO(CF2)8Fが挙げられる。
FAEとしては、CH2=CH(CF2)2F、CH2=CH(CF2)3F、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CF(CF2)3H、CH2=CF(CF2)4Hが挙げられる。
かかるFポリマーは、ポリマーを構成する全単位に対して、TFE単位を90~99モル%、HFP単位、PAVE単位又はFAE単位を0.5~9.97モル%、官能単位を0.01~3モル%、それぞれ有するのが好ましい。かかるFポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0024】
液状組成物(1)におけるFパウダーは、Fポリマー以外の成分(芳香族樹脂等)を含んでいてもよいが、Fポリマーを主成分とするのが好ましい。FパウダーにおけるFポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。また、Fパウダーの表面が、シリカで被覆されていてもよい。
FパウダーのD50は、10~60μmが好ましく、12~50μmがより好ましく、16~40μmが特に好ましい。この範囲において、Fパウダーは、液状組成物(1)の状態(粘度等)を損なうことなく、より沈降しにくく分散しやすい。
【0025】
Fパウダーの好適な態様としては、D50が8μm以下の第1パウダーとD50が16~50μmの第2パウダーとを含むブレンドパウダーが挙げられる。
第1パウダーのD50は、0.1μm以上が好ましい。この場合、Fパウダーにおける、第2パウダーの含有割合に対する第1パウダーの含有割合の比(質量比)は、0.5以下が好ましく、0.2以下がより好ましい。前記比は0.01以上が好ましい。かかる質量比で第1及び第2パウダーを含めば、これらのパウダーが高度にパッキングして、平滑性が高く空隙の少ない樹脂層を形成しやすい。
なお、FパウダーがD50の異なる複数種のパウダーからなる場合であっても、Fパウダー全体として、D50が10~60μmであればよい。
【0026】
さらに、Fパウダーは、下記パウダー(1)、下記パウダー(2)又は下記パウダー(3)であることが好ましい。
パウダー(1):TFE単位及びPAVE単位からなるFポリマーのパウダーであって、そのD50が10~60μmである、パウダー。
パウダー(2):TFE単位を90~99モル%、PAVE単位を1~3モル%及び酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を含むFポリマーのパウダーであって、そのD100が8μm以下である、パウダー。
パウダー(3):Fポリマーと表面処理剤とを含むパウダーであって、そのD50が25μm未満である、パウダー。
上記パウダー(1)~パウダー(3)の詳細は後述する。
【0027】
液状組成物(1)における芳香族樹脂は、Fポリマーとは異なる樹脂である。本発明における芳香族樹脂とは、加熱等で芳香族樹脂となる芳香族樹脂の前駆体も意味し、また、芳香族樹脂又はその前駆体と、架橋剤、硬化剤等の芳香族樹脂の分子骨格を形成する成分との組合せも意味する。芳香族樹脂の前駆体としては、芳香族樹脂を形成するモノマー、前記モノマーの部分反応物(プレポリマー、半反応物、半硬化物とも呼称される。)が挙げられる。
芳香族樹脂は、液状であってもよく、固体状であってもよい。芳香族樹脂は、非硬化性樹脂であってもよく、硬化性樹脂であってもよい。非硬化性樹脂としては、熱溶融性樹脂、熱硬化性樹脂の硬化物が挙げられる。
【0028】
芳香族樹脂としては、芳香族ポリイミド樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂及び芳香族エポキシ樹脂からなる群から選ばれる芳香族樹脂、及びその前駆体が好ましい。
また、芳香族樹脂は、反応性基(ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基等)やハロゲン原子(臭素原子、フッ素原子等)で、さらに化学修飾されていてもよい。
芳香族樹脂の好適な具体例としては、芳香族エポキシ樹脂、芳香族ポリイミド樹脂、芳香族ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸、芳香族ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、及びそれらの前駆体が挙げられる。この場合、Fポリマーが難燃剤としても機能して、本発明の液状組成物から形成される成形品の難燃性がより向上しやすい。
【0029】
芳香族エポキシ樹脂としては、ナフタレン型、クレゾールノボラック型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、クレゾールノボラック型、フェノールノボラック型、アルキルフェノールノボラック型、ビフェノール型、トリスヒドロキシフェニルメタン型等の各型のエポキシ樹脂が挙げられる。
また、フェノールとフェノール性ヒドロキシ基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、ビスフェノールのジグリシジルエーテル、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノールのグリシジルエーテル化物も挙げられる。
【0030】
芳香族ポリイミド樹脂又はその前駆体(ポリアミック酸)を形成する、芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ベンゼン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロルナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロルナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロルナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-1,8,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メチルフェニルシラン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェニルジメチルシリル)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシクロヘキサン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物が挙げられる。
【0031】
また、芳香族ポリイミド樹脂又はその前駆体(ポリアミック酸)を形成する芳香族ジアミンとしては、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルジフルオロメタン、4,4’-ジアミノジフェニルジフルオロメタン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルケトン、3,4’-ジアミノジフェニルケトン、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-(3,4’-ジアミノジフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-(3,4’-ジアミノジフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、3,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ブタン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘプタンが挙げられる。
【0032】
芳香族ポリエステル樹脂としては、溶剤可溶型液晶性の芳香族ポリエステルが挙げられる。かかる芳香族ポリエステルとしては、特開2010-031256号公報の段落[0019]~[0042]に記載のポリマーが挙げられ、より具体的には、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸と、イソフタル酸及びジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸と、4-ヒドロキシアセトニリドと、無水酢酸との反応物が挙げられる。
ポリフェニレンエーテル樹脂又はその前駆体としては、2,6-ジメチルフェノール、ポリフェノール誘導体、両者の反応物が挙げられる。
【0033】
液状組成物(1)は、他の物質との相互作用に乏しいFポリマーを含みながらも、増粘等の変質することなく、そのパウダー(Fパウダー)が良好に分散する。本発明によれば、Fパウダーの分散を促す成分を実質的に含まない、Fパウダーが分散した、高濃度の芳香族樹脂を含む、液状組成物の提供も可能である。前記成分としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、炭化水素系界面活性剤が挙げられる。
つまり、液状組成物(1)は、前記成分、特にFポリマー以外の含フッ素化合物を含まないか、あるいは、前記含フッ素化合物を含む場合において、前記Fポリマーの含有割合に対する前記含フッ素化合物の含有割合の比(質量比)が0.05以下であるのが好ましい。前記比は0.01以下がより好ましい。かかる液状組成物(1)は、その製造と物性調整がより容易である。
なお、フッ素原子を有する芳香族樹脂は、前記含フッ素化合物には包含されない。
【0034】
液状組成物(1)は、液状媒体を含む。液状組成物(1)における液状媒体の含有割合は、40質量%以下が好ましく、5~30質量%がより好ましい。
液状組成物(1)は、芳香族樹脂の含有割合と、それに対するFポリマーの含有割合の比とが所定の範囲にあるため、液状媒体を含んでも、それによるFポリマーの変質が抑制され増粘しにくい。また、芳香族樹脂を高濃度に含むため、液状媒体を含んでもFパウダーが沈降しにくく、分散安定性に優れる。
液状媒体は、25℃において液状の化合物であり、芳香族樹脂の種類によって、適宜選択される。液状媒体は、液状組成物(1)に含まれる他の成分よりも低沸点であり揮発により除去できる化合物が好ましい。液状媒体は、2種以上を併用してもよい。
【0035】
液状媒体の具体例としては、水、アルコール(エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール等)、含窒素化合物(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等)、含硫黄化合物(ジメチルスルホキシド等)、エーテル(ジブチルエーテル、ジオキサン等)、エステル(乳酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、2-ヘプタノン、シクロヘプタノン、シクロヘキサノン等)、炭化水素系化合物(ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン)、グリコールエーテル(エチレングリコールモノイソプロピルエーテル等)、セロソルブ(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)等が挙げられる。
【0036】
液状組成物(1)は、形成される成形品の反りをより抑制する観点から、無機フィラーを含むのが好ましい。無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、ベーマイトが挙げられる。反りの抑制に加えて、加工性も向上する観点から、球状シリカが好ましい。無機フィラーを含む場合、液状組成物(1)における無機フィラーの含有割合は、25質量%以下が好ましい。
液状組成物(1)は、上述した成分以外の剤を、さらに含んでいてもよい。かかる剤としては、チキソ性付与剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤が挙げられる。
【0037】
液状組成物(1)は、芳香族樹脂の含有割合が10質量%以上となり、それに対するFポリマーの含有割合の比が1.2以下となる条件にて、Fパウダーと芳香族樹脂と必要に応じて他の成分とを混合して製造でき、芳香族樹脂を含む液状の原料組成物に、Fパウダーを添加して製造するのが好ましい。上述した通り、Fパウダーは芳香族樹脂に対する分散性が高いため、芳香族樹脂の含有割合が高い液状組成物を容易に製造できる。
【0038】
液状組成物(1)は、分散状態が良好なFパウダーと、高濃度に芳香族樹脂とを含み、取扱性に優れている。
液状組成物(1)を繊維基材に含浸させ、さらに乾燥させれば、液状組成物(1)の乾燥物と前記繊維基材とを含むプリプレグが得られる。前記乾燥物は、液状組成物(1)から形成される固形物であり、例えば、液状組成物(1)が硬化性である場合には、それから形成される硬化物であり、液状組成物(1)が液状媒体を含む場合には、それから液状媒体が除去されて形成される固化物である。なお、これらの硬化物には半硬化物の態様も含まれる。
前記プリプレグは、液状組成物(1)の乾燥物と繊維基材とを含むプリプレグであり、Fポリマーと芳香族樹脂とをマトリックス樹脂とするプリプレグであるとも言え、Fポリマーの均質性が高く、かつ高濃度に芳香族樹脂が含浸保持されたプリプレグである。
【0039】
繊維基材としては、複数の強化繊維からなる強化繊維束、該強化繊維束を織成したクロス、複数の強化繊維が一方向に引き揃えられた一方向性強化繊維束、該一方向性強化繊維束から構成された一方向性クロス、これらを組み合わせた繊維束、複数の強化繊維束を積み重ねた繊維束が挙げられる。
強化繊維としては、長さが10mm以上の連続した長繊維が好ましい。強化繊維は、強化繊維シートの長さ方向の全長または幅方向の全幅にわたり連続している必要はなく、途中で分断されていてもよい。
強化繊維としては、無機繊維、金属繊維、有機繊維が挙げられる。
【0040】
無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維が挙げられる。
金属繊維としては、アルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維が挙げられる。
有機繊維としては、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維が挙げられる。
プリント基板用途のプリプレグに使用する強化繊維としては、ガラス繊維が好ましく、開繊ガラスクロスがより好ましい。
強化繊維は、表面処理が施されていてもよい。強化繊維は、2種以上を併用してもよい。
【0041】
液状組成物(1)を繊維基材に含浸させ、さらに乾燥させる際には、含浸物を加熱すればよい。加熱の条件は、液状組成物(1)が硬化性である場合にはその硬化温度以上にて加熱すればよく、液状組成物(1)が液状媒体を含む場合には液状媒体の沸点以上にて加熱すればよい。
乾燥は、一定温度にて1段階で行ってもよく、異なる温度にて2段階以上で行ってもよい。乾燥の方法としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法が挙げられる。乾燥は、常圧下および減圧下のいずれの状態で行ってもよい。また、乾燥雰囲気は、酸化性ガス雰囲気(酸素ガス等)、還元性ガス雰囲気(水素ガス等)、不活性ガス雰囲気(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等)のいずれであってもよい。
【0042】
本発明によれば、金属板と樹脂層とをこの順に有し、前記樹脂層が液状組成物(1)の乾燥物を含む樹脂層付金属板(以下、樹脂層付金属板(1)とも記す。)を提供できる。この際、前記乾燥物として、上述したプリプレグも使用できる。
樹脂層付金属板(1)は、電気絶縁性である芳香族樹脂と比誘電率及び誘電正接が低いFポリマーとを含み、Fポリマーの均質性が高く、電気特性に優れ、かつ反りにくい。
具体的には、樹脂層付金属板(1)の比誘電率(20GHz)は、3.6以下が好ましく、3.2以下がより好ましい。また、その誘電正接(20GHz)は、0.009以下が好ましく、0.003以下がより好ましい。
また、樹脂層付金属板(1)の線膨張係数は、-10~+10ppm/℃が好ましい。
【0043】
金属板の材質としては、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等が挙げられる。
金属板の厚さは、1~30μmが好ましい。
金属板としては、圧延銅箔、電解銅箔等の銅箔が挙げられる。金属板の表面には、防錆層(クロメート等の酸化物皮膜等)、耐熱層、粗化処理層、シランカップリング剤処理層が設けられていてもよい。
金属板の表面の十点平均粗さは、0.2~2.5μmが好ましい。この場合、金属板と樹脂層との接着性が良好となりやすい。
樹脂層付金属板(1)は、樹脂層の少なくとも一方の表面に接する金属板を有していれよい。その層構成としては、金属板/樹脂層、金属板/樹脂層/金属板、樹脂層/金属板/樹脂層、金属板/樹脂層/他の基板/樹脂層/金属板が挙げられる。
なお、「金属板/樹脂層」とは、金属板、樹脂層がこの順に積層されていることを示し、他の層構成においても同様である。
【0044】
樹脂層付金属板(1)は、金属板の表面に、液状組成物(1)、又は液状組成物(1)の乾燥物(上述したプリプレグ等)を重ね、さらに加熱して製造するのが好ましい。
加熱における条件は、上述したプリプレグを使用する場合には、160~220℃にて加熱するのが好ましい。また、この際の加熱は、熱プレス方法が採用するのが好ましい。すなわち、金属板の表面に、上述したプリプレグを重ね、0.2~10MPaの圧力にて熱圧着させるのが好ましい。
熱プレスは、気泡混入と酸化による劣化を抑制する観点から、20kPa以下の真空雰囲気にて実施するが好ましい。
【0045】
樹脂層付金属板(1)においては、樹脂層の線膨張係数を制御したり、樹脂層の接着性をさらに向上させるために、樹脂層の表面を表面処理してもよい。
表面処理としては、アニール処理、コロナ放電処理、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ処理、UVオゾン処理、エキシマ処理、ケミカルエッチング、シランカップリング処理、微粗面化処理が挙げられる。
アニール処理において、温度は80~190℃が好ましく、圧力は0.001~0.030MPaが好ましく、時間は10~300分間が好ましい。
【0046】
樹脂層付金属板(1)は、芳香族樹脂を高濃度に含み、かつFポリマーを均質に含むため、電気特性、耐薬品性(エッチング耐性)等の物性に優れており、フレキシブルプリント配線基板、リジッドプリント配線基板等のプリント配線基板に使用できる。
例えば、樹脂層付金属板(1)の金属板をエッチング処理して、所定パターンの金属導体配線(伝送回路)に加工する方法や、前記金属板(1)を電解めっき法(セミアディティブ法、モディファイドセミアディティブ法等。)によって金属導体配線に加工する方法によって、樹脂層付金属板(1)からプリント配線基板を製造できる。
このプリント配線基板は、金属導体配線と樹脂層とをこの順に有する。前記樹脂層は液状組成物(1)の乾燥物であり、その構成としては、金属導体配線/樹脂層、金属導体配線/樹脂層/金属導体配線が挙げられる。
【0047】
プリント配線基板の製造においては、金属導体配線を形成した後に、金属導体配線上に層間絶縁膜を形成し、層間絶縁膜上にさら金属導体配線を形成してもよい。層間絶縁膜は、液状組成物(1)によっても形成してもよい。
また、金属導体配線上にソルダーレジストやカバーレイフィルムを積層してもよい。ソルダーレジストやカバーレイフィルムは、液状組成物(1)によって形成してもよい。
プリント配線基板の具体的な態様としては、上述した層構成を多層化した多層プリント配線基板が挙げられる。
【0048】
多層プリント配線基板の好適な態様としては、多層プリント配線基板の最外層が液状組成物(1)の乾燥物を含む樹脂層であり、金属導体配線/前記樹脂層の層構成を1以上有する態様が挙げられる。
前記態様においては、前記樹脂層の一部が、Fポリマーを主成分とするFポリマー層に置換されていてもよく、具体的には、金属導体配線/前記樹脂層/金属導体配線/Fポリマー層/金属導体配線/前記樹脂層、といった層構成であってもよい。
かかる態様の多層プリント配線基板は、最外層の耐熱性に優れており、加工時の加熱、例えば、はんだリフロー工程における300℃の加熱によっても、金属導体配線と樹脂層の界面剥離が発生しにくい。
【0049】
本発明のパウダーは、非溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマー及び芳香族樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂材料を含有する液状組成物(以下、「液状組成物(p)」とも記す。)に添加して使用される、パウダーである。本発明のパウダーを、以下、「添加剤(1)」とも記す。
添加剤(1)は、下記パウダー(1)、下記パウダー(2)又は下記パウダー(3)である。
パウダー(1):TFE単位及びPAVE単位からなるFポリマーのパウダーであって、そのD50が10~60μmである、パウダー。
パウダー(2):TFE単位を90~99モル%、PAVE単位を1~3モル%及び酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を含むFポリマーのパウダーであって、そのD100が8μm以下である、パウダー。
パウダー(3):Fポリマーと表面処理剤とを含むパウダーであって、そのD50が25μm未満である、パウダー。
【0050】
パウダー(1)におけるFポリマーとしては、TFE単位を92~98モル%及びPAVE単位を2~8モル%含有するポリマーが好ましい。
パウダー(2)におけるFポリマーは、パウダー(1)におけるFポリマーと対比して、酸素含有極性基を有するモノマー(以下、「極性モノマー」とも記す。)に基づく単位(以下、「極性単位」と記す。)を有する点が特徴である。
パウダー(3)におけるFポリマーは、上記パウダー(1)やパウダー(2)におけるFポリマーと同じFポリマーであってもよく、それら以外のFポリマーであってもよい。パウダー(3)におけるFポリマーとしては、前記液状組成物(1)におけるFパウダーを構成するFポリマーが挙げられる。
【0051】
以下、パウダー(1)におけるFポリマーを「添加ポリマー(1)」、パウダー(2)におけるFポリマーを「添加ポリマー(2)」、パウダー(3)におけるFポリマーを「添加ポリマー(3)」、とも記す。また、それぞれのポリマーを総称する際は「添加ポリマー」、それぞれのパウダーを総称する際は「添加パウダー」とも記す。
添加ポリマーにおける各単位の割合(モル%)とは、添加ポリマーを構成する全単位に対する、それぞれの単位の占める割合である。
【0052】
添加剤(1)は、樹脂材料を含む液状組成物(p)に対する分散性に優れ、それから得られる成形品(樹脂層等の成形部位を含む。以下同様である。)に難燃性、加工性等の物性を付与できる。また、得られる成形品は、本来の物性が維持されるか、さらに向上する。
その理由は必ずしも明確ではないが、添加パウダーが、所定のポリマー組成の添加ポリマーを含有し、所定の粒径であるためと考えられる。
【0053】
すなわち、パウダー(1)は、PAVE単位を含有する添加ポリマー(1)を含有し、そのD50が比較的大きい。また、添加ポリマー(1)は、好ましくはPAVE単位を2~8モル%含有する。その結果、化学的にも物理的にも流動性が高いと、まず考えられる。また、D50が比較的大きいため、質量あたりの表面積が低下し、液状組成物(p)の成分との接触が相対的に低下するので、成分間の低親和性が緩和され、その分散性が向上するとも考えられる。さらに、パウダー(1)を構成する各粒子が添加ポリマー1の一次粒子の集合物であると捉えれば、パウダー(1)の嵩密度が低下したためであるとも考えられる。
これらの相乗効果により、液状組成物(p)中に添加されたパウダー(1)は、沈降速度に比較して分散速度が大きくなり、液状組成物(p)の物性を阻害することなく、良好に分散したと考えられる。その結果、パウダー(1)を添加した液状組成物(p)から形成される成形品は、樹脂材料に起因する本来の特性(耐候性、耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性、電気特性等。以下同様。)を維持しつつ、添加ポリマーに起因する高い物性を発揮できたと推察される。
【0054】
一方、パウダー(2)は、極性単位を含有する添加ポリマー(2)を含有し、液状組成物(p)の樹脂材料との相互作用が強いと考えられるが、そのD100が比較的小さい、換言すれば、粒径の大きいパウダーを含まないか、その含有量が少ない。このため、樹脂材料とパウダー(2)との相互作用による液状組成物(p)の増粘や成分の沈降が抑制されやすい。その結果、パウダー(2)を添加した液状組成物(p)から形成される成形品は、樹脂材料に起因する本来の特性を維持しつつ、添加ポリマー(2)に起因する高い物性を発揮できたと推察される。
【0055】
さらに、パウダー(3)は、表面処理剤を含むため、そのD50が25μm未満である小粒径であっても、増粘を伴うことなく、液状組成物(p)に高度に分散する。このため、液状組成物(p)には、比較的多量の樹脂材料も安定的に溶解又は分散できる。また、パウダー(3)が添加された液状組成物(p)も変質しにくい。
【0056】
パウダー(1)及びパウダー(2)の液状組成物(p)に対する添加量は、それぞれ、樹脂材料の質量に対する添加ポリマーの質量の比が0.1~1となる量が好ましく、0.2~0.8となる量がより好ましく、0.3~0.7となる量がさらに好ましい。この場合、液状組成物(p)の粘度を所定の範囲に調整しやすい。パウダーが添加された液状組成物(p)の25℃における粘度は、具体的には、10000mPa・s未満が好ましく、100~5000mPa・sがより好ましく、500~4000mPa・sがさらに好ましい。
【0057】
パウダー(3)の液状組成物(p)に対する添加量は、樹脂材料の質量に対する添加ポリマーの質量の比が0.1~0.5となる量が好ましく、0.1~0.4となる量がより好ましい。この場合、液状組成物(p)に含まれる樹脂材料の量が充分に多くなるため、液状組成物(3)から形成される樹脂層に優れた物性(難燃性、加工性等)を付与できる。
パウダー(3)が添加された液状組成物(p)の25℃における粘度は、10000mPa・s未満が好ましく、50~5000mPa・sがより好ましく、100~1000mPa・sがさらに好ましい。
【0058】
添加剤(1)における添加パウダーは、添加ポリマーを主成分とするのが好ましい。添加パウダーにおける添加ポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。添加パウダーは、上記の樹脂材料自体を含んでいてもよい。なお、パウダー(3)における添加ポリマー以外の成分である表面処理剤等の成分やパウダー(3)の組成等については、後述のパウダー(3)の製造方法の説明において説明する。
パウダー(1)のD50は、10~50μmが好ましく、12~40μmがより好ましく、14~30μmがさらに好ましい。この範囲において、パウダー(1)は、液状組成物(p)への分散性に特に優れる。なお、パウダー(1)のD100は、100μm以下が好ましい。
パウダー(2)のD100は、5μm以下が好ましい。パウダー(2)のD100は、0.3μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。この範囲において、パウダー(2)は、液状組成物(p)への分散性に特に優れる。なお、パウダー(2)のD50は、0.1~3μmが好ましい。
パウダー(3)のD50は、25μm未満であり、10μm以下が好ましく、0.05~8μmがより好ましく、0.1~6μmがさらに好ましい。また、パウダー(3)のD90は、40μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。この範囲のD50及びD90において、パウダーの流動性と分散性とが良好となり、パウダー(3)から形成される樹脂層の電気特性(低誘電率等)や耐熱性が発現し易い。
【0059】
添加パウダーは、コロナ処理、プラズマ処理、電子線処理又は放射線処理されていてもよい。
コロナ処理又はプラズマ処理により、添加パウダーの表面に酸素含有極性基(>C(O)、-C(O)F等)を導入でき、添加パウダーの分散性と、成形品(樹脂層)の表面の接着性とがより向上しやすい。
一方、電子線処理又は放射線処理によれば、添加ポリマーの一部が分解され、オリゴマーが生成すると考えられる。この場合、添加パウダー中には、添加ポリマーに由来するオリゴマーが含まれるようになる。かかるオリゴマーが、分散剤又は可塑剤として機能するので、添加パウダーの分散性と、成形品の加工性とをより向上させやすい。さらに、液状組成物から成形品を形成する際、オリゴマーの分解揮発により発生するガスにより、形成される成形品の表面が粗面化され、成形品の物理的(アンカー効果)又は化学的な接着性の向上も期待できる。また、電子線処理又は放射線処理により、添加パウダーが物理的に脆く、崩壊しやすい状態となっていると考えられる。したがって、成形品中では、添加ポリマーと樹脂材料とがより相互作用しやすい状態となり、添加ポリマーによる難燃性等の物性が顕著に発現しやすい。
【0060】
パウダー(1)は、水系重合により得られるTFEとPAVEのコポリマーの一次粒子を含む分散液を、凝析処理か凍結乾燥処理に供して製造するのが好ましい。かかる処理で得られるパウダー(1)は、パウダーを構成する各粒子が添加ポリマー(1)の一次粒子の集合物であり、嵩密度が低下して分散性が向上しやすい。
パウダー(2)は、例えば、国際公開2016/017801号又は国際公開2019/098202号に記載されるパウダーが好ましい。
【0061】
添加ポリマー(1)は、ポリマーを構成する全単位に対して、TFE単位を92~98モル%及びPAVE単位を2~8モル%含有することが好ましい。添加ポリマー(1)は、TFE単位及びPAVE単位のみからなっていてもよく、さらに他の単位を含有してもよい。
添加ポリマー(1)におけるTFE単位の割合は、94モル%以上がより好ましく、96モル%以上がさらに好ましい。TFE単位の割合は、97.8モル%以下がより好ましく、97.7モル%以下がさらに好ましい。
添加ポリマー(1)におけるPAVE単位の割合は、2.1モル%以上がより好ましく、2.3モル%以上がさらに好ましい。PAVE単位の割合は、6モル%以下が好ましく、4モル%以下がより好ましい。
添加ポリマー(1)が他の単位を含有する場合、他の単位の割合は、5.9モル%以下が好ましく、3.7モル%がより好ましく、1.7モル%がさらに好ましい。
【0062】
添加ポリマー(2)におけるTFE単位の割合は、94モル%以上が好ましく、96モル%以上が好ましい。TFE単位の割合は、99モル%以下が好ましく、98モル%以下がより好ましい。
添加ポリマー(2)におけるPAVE単位の割合は、1.2モル%以上が好ましく、1.5モル%以上がより好ましい。PAVE単位の割合は、2.7モル%以下が好ましく、2.4モル%以下がより好ましい。
添加ポリマー(2)における極性単位の割合は、0.01モル%以上が好ましく、0.05モル%以上がより好ましい。PAVE単位の割合は、3モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。
添加ポリマー(2)は、TFE単位、PAVE単位及び極性単位のみからなっていてもよく、さらに他の単位を含有してもよい。
【0063】
添加ポリマー(1)、(2)におけるPAVEとしては、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3PPVEが好ましく、添加ポリマーの溶融粘度又は溶融温度を後述する範囲に調整しやすい観点から、PPVEがより好ましい。
添加ポリマー(1)、(2)における他の単位としては、HFP単位及びFAE単位が好ましい。FAEとしては、CH2=CH(CF2)2F、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CF(CF2)2H及びCH2=CF(CF2)4Hが好ましい。
【0064】
添加ポリマー(2)における、極性モノマーが有する酸素含有極性基としては、水酸基含有基、カルボニル基含有基、アセタール基及びホスホノ基(-OP(O)OH2)が好ましく、カルボニル基含有基がより好ましい。
水酸基含有基としては、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CF2CH2OH、-C(CF3)2OH及び1,2-グリコール基(-CH(OH)CH2OH)がより好ましい。
カルボニル基含有基はカルボニル基(>C(O))を含む基であり、カルボニル基含有基としては、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH2)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましい。
極性モノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(NAH)及び無水マレイン酸が挙げられる。
【0065】
添加ポリマーの380℃における溶融粘度は、1×102~1×108Pa・sが好ましく、1×103~1×106Pa・sがより好ましい。
添加ポリマーの溶融温度は、200~320℃が好ましく、260~320℃がより好ましい。この場合、樹脂層付基板を作製した場合、樹脂層の基板に対する接着性を更に向上させやすい。
【0066】
添加ポリマーは、フッ素ガス処理されていてもよい。フッ素ガス処理により、添加ポリマーのポリマー鎖の末端には-CF3等のフッ素含有基が導入される。これにより、添加パウダーの分散性をより調整しやすい。また、フッ素ガス処理により、添加ポリマーの一部が分解され、オリゴマーが生成すると考えられる。この場合、添加パウダー中には、添加ポリマーに由来するオリゴマーが含まれるようになる。かかるオリゴマーが分散剤又は可塑剤として機能するので、添加パウダーの分散性と成形品の加工性とをより向上させやすい。さらに、液状組成物(p)から成形品を形成する際、オリゴマーが分解揮発して発生するガスにより、形成される成形品の表面が粗面化され、成形品の物理的(アンカー効果)又は化学的な接着性の向上も期待できる。
【0067】
添加剤(1)は、添加パウダーのまま粉体として液状組成物(p)に添加して使用してもよく、液中に分散させた添加液として液状組成物(p)に添加して使用してもよい。
後者の場合、添加剤(1)は、さらに極性溶媒である液状媒体を含有するのが好ましく、添加パウダーを良好に分散させる観点から、水、エステル、アミド及びケトンからなる群から選ばれる1種以上の極性溶媒を含有するのが好ましい。この場合、添加液における添加ポリマーの含有量は、極性溶媒に対して20~50質量%が好ましい。
極性溶媒は、液状組成物(p)の種類によって、適宜選択できる。
エステルとしては、乳酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。
アミドとしては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
ケトンとしては、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンが挙げられる。
【0068】
また、添加液は、添加パウダーの分散性をより向上させる観点から、さらに界面活性剤を含有するのが好ましい。この場合、添加液における界面活性剤の含有量は、添加ポリマーに対して1~10質量%が好ましい。
界面活性剤は、親水性基と疎水性基とを有する化合物であれば、特に限定されず、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤又はアセチレン系界面活性剤が好ましく、フッ素系界面活性剤が好ましい。界面活性剤は、ノニオン性であるのが好ましい。
【0069】
フッ素系界面活性剤としては、フルオロモノオール、フルオロポリオール、フルオロシリコーン及びフルオロポリエーテルが好ましい。
フルオロポリオールとしては、フルオロ(メタ)アクリレートと水酸基を有する(メタ)アクリレートのコポリマーが好ましく、ポリフルオロアルキル基又はポリフルオロアルケニル基を有する(メタ)アクリレートとポリオキシアルキレンモノオール基を有する(メタ)アクリレートがより好ましい。
フルオロシリコーンは、側鎖の一部にC-F結合を含むポリオルガノシロキサンが好ましい。
フルオロポリエーテルは、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの水素原子の一部がフッ素原子に置換された化合物が好ましい。
【0070】
添加剤(1)における好適な樹脂材料の態様としては、ポリイミド系芳香族樹脂、ポリアミド系芳香族樹脂、ポリエーテル系芳香族樹脂、エポキシ系芳香族樹脂、ポリイミド系芳香族樹脂、ポリエステル系芳香族樹脂及びポリカーボネート系芳香族樹脂からなる群から選ばれる芳香族樹脂が挙げられる。これらの樹脂材料は、各種物性に優れ、かつ添加ポリマーとの親和性も高いことから好ましい。
前記芳香族樹脂の好適な態様は、液状組成物(1)におけるそれと同様である。
【0071】
添加剤(1)によれば、前記芳香族樹脂と添加パウダーとを含有する、液状組成物(以下、「液状組成物(2)」とも記す。)が提供できる。液状組成物(2)は、液状組成物(2)中に添加パウダーが分散したパウダー分散液である。
液状組成物(2)における、芳香族樹脂の質量に対する添加ポリマーの質量の比は、0.1~1となる量が好ましく、0.2~0.8となる量がより好ましく、0.3~0.7となる量がさらに好ましい。
液状組成物(2)は、その総質量に対して、芳香族樹脂を20質量%以上含むのが好ましく、40質量%以上含むのがより好ましく、50質量%以上含むのがさらに好ましい。その上限は、80質量%が好ましい。
液状組成物(2)の粘度は、10000mPa・s未満が好ましく、100~5000mPa・sがより好ましく、500~4000mPa・sがさらに好ましい。
【0072】
液状組成物(2)は、さらに極性溶媒を含むのが好ましい。この場合、液状組成物(2)における極性溶媒の含有量は、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。前記含有量は、60質量%以下が好ましい。この範囲において、得られる液状組成物(2)の粘度を上記範囲に調整しやすい。添加ポリマーが、上述したとおり流動性の高い熱溶融性ポリマーであり、せん断力等の物理的な応力に対する変質耐性に優れるため、分散媒である極性溶媒を含んでも、液状組成物の変質(増粘等)を抑制しやすい。
【0073】
液状組成物(2)は、さらに無機フィラーを含有するのが好ましい。無機フィラーを含有すれば、後述する樹脂層付基板の反りを低減できる。たとえば、樹脂層付基板の線膨張係数(絶対値)は、40℃/ppm以下が好ましく、25℃/ppm以下がより好ましく、10℃/ppm以下がさらに好ましい。かかる線膨張係数の低い樹脂層付基板は、プリント配線基板材料に適する。
無機フィラーとしては、シリカ、マイカ、タルク、クレー、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリナイト、ワラストナイト、炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、ガラス等が挙げられる。
【0074】
無機物フィラーは、粒子状であってもよく、繊維であってもよい。シリカ粒子の比表面積は、6.5m2/g以上が好ましく、6.5~1000m2/gがより好ましく、10~800m2/gがさらに好ましく、20~700m2/gが特に好ましい。
シリカ粒子の細孔容積は、0.05~3.0mL/gが好ましく、0.1~2.0mL/gがより好ましい。
シリカ粒子のD50は、0.005~100μmが好ましく、0.02~20μmがより好ましい。
かかるシリカ粒子は、その内部にベースポリマー又は添加ポリマーが浸透しにくく、樹脂層中に空気相が形成される効果により、成形品の電気特性をも向上させやすい。かかるシリカ粒子としては、シェル部分がメソポーラス構造である中空シリカ粒子、シェル部分がノンポーラス構造である中空シリカ粒子、多孔質シリカ粒子が挙げられる。
【0075】
液状組成物(2)が無機フィラーを含有する場合、液状組成物(2)における無機フィラーの含有量は、0.1~5質量%が好ましく、0.3~1質量%がより好ましい。この場合、線膨張係数を低下させつつ、電気特性にも優れた、成形品が得られやすい。
本発明の液状組成物(2)は、上述した成分以外の剤を、さらに含んでいてもよい。かかる剤としては、液状組成物(1)におけるそれと同様の剤が挙げられる。
【0076】
液状組成物(2)を基板の表面に塗布し加熱して樹脂層を形成すれば、前記基板と前記樹脂層とがこの順に積層された樹脂層付基板(以下、樹脂層付基板(2)とも記す。)が得られる。
基板の厚さは、1~30μmが好ましい。
基板としては、圧延銅箔、電解銅箔等の銅箔が好ましい。基板の表面には、防錆層(クロメート等の酸化物皮膜等)、耐熱層、粗化処理層、シランカップリング剤処理層が設けられていてもよい。
基板の表面の十点平均粗さは、0.2~2.5μmが好ましい。この場合、基板と樹脂層の剥離強度(密着性)がさらに向上しやすい。
液状組成物の塗布は、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法等の方法によって実施できる。
加熱は、樹脂層付金属板(1)における加熱の態様と同様である。
【0077】
液状組成物(2)は、添加ポリマー(添加パウダー)の分散性が高く、形成される樹脂層における添加ポリマーと芳香族樹脂の均質性が高い。かかる成分の均質性は、樹脂層付基板の樹脂層の両表面に存在するフッ素原子の量の比で規定できる。なお、ポリマー層の表面に存在するフッ素原子の量は、エネルギー分散型X線分析により定量できる。
液状組成物(2)によれば、基板と樹脂層とがこの順に積層され、前記樹脂層が、芳香族樹脂と添加ポリマーとを含有し、樹脂層中に含まれる芳香族樹脂の質量に対する添加ポリマーの質量の比が0.1~1であり、前記樹脂層の一方の表面に存在するフッ素原子の量に対する他方の表面に存在するフッ素原子の量の比が0.8~1.2である、樹脂層付基板が提供できる。樹脂層の両表面に存在するフッ素原子の量比は、0.9~1.1が好ましい。
【0078】
樹脂層付基板(2)は、樹脂層の少なくとも一方の表面に接する基板を有していればよい。その層構成は、樹脂層付金属板(1)の層構成と同様である。
樹脂層付基板(2)における樹脂層の厚さは、1~100μmが好ましい。
樹脂層付基板(2)は、樹脂層と基板との剥離強度も高い。前記剥離強度は、7N/cm以上が好ましく、10N/cm以上がより好ましく、13N/cm以上がさらに好ましい。
【0079】
樹脂層付基板(2)は、スーパーエンジニアリングプラスチックである芳香族樹脂と添加ポリマーとを含む樹脂層を備える基板であり、難燃性、電気特性、耐薬品性(エッチング耐性)等の物性に優れ、フレキシブルプリント配線基板、リジッドプリント配線基板等のプリント配線基板材料として有用である。
例えば、本発明の樹脂層付基板が、金属箔等の金属基板を基板として有する場合、その金属基板をエッチング処理して所定パターンの金属導体配線(伝送回路)に加工する方法や、前記金属基板を電解めっき法(セミアディティブ法、モディファイドセミアディティブ法等。)によって金属導体配線に加工する方法によって、プリント配線基板を製造できる。
したがって、かかるプリント配線基板は、金属導体配線と樹脂層とをこの順に有する。かかるプリント配線基板の態様は、樹脂層付金属板(1)におけるプリント配線基板の具体的な態様と同様である。
【0080】
液状組成物(2)における好適な樹脂材料の態様としては、非溶融性のPTFEが挙げられる。非溶融性のPTFEは、フィブリル形成能を有するPTFE(高分子量PTFE)であっても、低分子量PTFEであっても、変性PTFEであってもよい。なお、低分子量PTFE又は変性PTFEには、TFEと極微量のコモノマー(HFP、PAVE、FAE等。)のコポリマーも包含される。
【0081】
添加剤(1)を、非溶融性PTFEのパウダーと水とを含有する液状組成物に添加して分散液を得て、さらに分散液から水を除去することにより処理パウダーが得られる。
添加剤(1)に含まれる添加ポリマーが、上述した通り流動性の高い熱溶融性ポリマーであり、せん断力等の物理的な応力に対する変質耐性に優れるため、極性溶媒である水を含んでも分散液を調製しやすい。また、分散液中では、それぞれのパウダーが高度に相互作用するので、均質性の高い分散液が形成される。このため、かかる分散液から水を除去することにより、非溶融性PTFEに添加ポリマーが高度に結着した処理パウダーが得られる。
調製した分散液から水を除去する方法としては、分散液を凍結させ水を昇華させて除去する方法や、分散液を凝析させてパウダーを回収する方法を採用できる。
【0082】
添加剤(1)を、非溶融性PTFEのパウダーと極性溶媒とを含有する液状組成物に添加して分散液を得て、前記分散液を基板の表面に塗布し加熱して樹脂層を形成すれば、基板と樹脂層とがこの順に積層された樹脂層付基板が得られる。かかる樹脂層付基板の樹脂層は、溶融加工性の添加ポリマーを均質に含むため、加工性に優れている。
基板としては、上述した基板と同じ基板を使用でき、金属箔が好ましい。
前記分散液の塗布は、上述した塗工方法と、同様の方法を採用できる。
加熱は、添加ポリマーの溶融温度以上の温度にて行うのが好ましく、非溶融性PTFEが焼結する温度にて行うのがより好ましい。かかる具体的な温度は、350~380℃である。
他の加熱条件は、上述した加熱条件と、同様の条件を採用できる。
【0083】
この樹脂層付基板は、非溶融性PTFEと溶融加工性の添加ポリマーとが高度に相溶した樹脂層を備える基板であり、加工性、電気特性、耐薬品性(エッチング耐性)等の物性に優れており、フレキシブルプリント配線基板、リジッドプリント配線基板等のプリント配線基板に加工できる。
また、この樹脂層付基板から基板を除去して、前記樹脂層をフィルム(単独膜)として回収してもよい。回収されるフィルムは、良好な延伸物性を示すため、延伸加工すれば、各種の機能膜材料(精密濾過膜(MF膜)、限外濾過膜(UF膜)、逆浸透膜(RO膜)、イオン交換膜(IE膜)、透析膜(MD膜)又は気体分離膜等の膜材料)として有用である。
【0084】
前記パウダー(3)は、Fポリマーと表面処理剤を含む、D50が25μm未満のパウダーである。パウダー(3)において、そのパウダーに含まれるFポリマーに対する表面処理剤の質量比は0.01超0.25以下であることが好ましい。
本発明は、また、Fポリマーと表面処理剤を含む、D50が25μm未満のパウダーであって、パウダーに含まれるFポリマーに対する表面処理剤の質量比は0.01超0.25以下であるパウダーの製造方法を提供する。
すなわち、本発明のパウダーの製造方法は、Fポリマーの原料パウダーと表面処理剤と液状媒体とを含むパウダー分散液を濃縮し、さらに液状媒体を分離する、Fポリマーと表面処理剤とを含むパウダーの製造方法であって、製造されたパウダーに含まれるFポリマーに対する表面処理剤の質量比が0.01超0.25以下である、パウダーの製造方法である。以下、このパウダーの製造方法を以下、「本法(1)」とも記す。また、本法(1)で得られるパウダーは、上記のようにパウダー(3)のうち、Fポリマーに対する表面処理剤の質量比が0.01超0.25以下であるパウダーである。
本法(1)におけるFポリマーとしては、表面処理剤との相互作用を高める観点から、極性官能基を有するポリマーが好ましく、カルボニル基含有基を有するポリマーがより好ましい。したがって、パウダー(3)におけるFポリマーもまた極性官能基を有するポリマーが好ましい。
【0085】
本法(1)により得られるパウダーは、高度に相互作用したFポリマーと表面処理剤とを含むパウダーであり、前記パウダー(3)の範疇に含まれるパウダーである。
本法(1)により得られるパウダーが、液状組成物への分散性に優れる理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0086】
本法(1)において、原料パウダーを含むパウダー分散液を濃縮すると、Fポリマーと表面処理剤との相互作用が強まる。この濃縮状態のパウダー分散液から液状媒体を分離すると、かかる相互作用が維持されたまま、Fポリマーと表面処理剤とを含むパウダーの形成が促されると考えられる。この際、原料パウダーの粒径が比較的小さいと、例えば、パウダーの平均粒子径が25μm未満であると、原料パウダーの比表面積が大きくなり、Fポリマーと表面処理剤との相互作用が相乗的に強まり、高度に表面処理剤を含むパウダーが得られやすい。
なお、表面処理剤と原料パウダーとの相互作用は、原料パウダーの表面に表面処理剤が付着又は結着して生じる物理的な相互作用であってもよく、原料パウダーのFポリマーと表面処理剤とが化学的に結合して生じる化学的な相互作用であってもよい。
【0087】
本法(1)における原料パウダーのD50は、25μm未満が好ましく、0.05~8μmがより好ましい。このように小さいD50の原料パウダーを使用すれば、D50が25μm未満であるパウダーを得やすい。
原料パウダーは、Fポリマー以外の樹脂を含んでいてもよいが、Fポリマーからなるのが好ましい。パウダーに含まれるFポリマーの量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
上記樹脂としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシドが挙げられる。
【0088】
表面処理剤としては、界面活性剤、シランカップリング剤、親水化剤等が挙げられ、界面活性剤及びシランカップリング剤が好ましく、界面活性剤がより好ましい。
界面活性剤は親水部分と疎水部分とを有する化合物であり、シランカップリング剤はシラノール基又はケイ素原子に結合した加水分解性基を有する化合物であり、親水化剤は親水部分を有する化合物である。界面活性剤や親水化剤における親水部分としては、ポリオキシエチレン基、アルコール水酸基、アセタール基、ヘミアセタール基等が挙げられる。界面活性剤における疎水部分としては、フッ素化炭化水素基、長鎖炭化水素基、アセチレン基、ポリシロキサン基等が挙げられる。親水化剤としては、ポリオキシエチレン基を含有する化合物、ポリヒドロキシ化合物、アセタール基又はヘミアセタール基を含有するポリマー等が挙げられる。
【0089】
シランカップリング剤の具体例としては、一般式:R4
p-Si-(OR5)4-pで表されるケイ素化合物(式中、R4は、炭素原子数1~12のアルキル基、R5は、炭素原子数1~4のアルキル基であり、pは1~3の整数である。)が挙げられる。
ポリオキシエチレン基を含有する化合物の具体例としては、一般式:H(OCH2CH2)m(OR2)nOHで表される化合物(式中、R2は、炭素原子数3又は4のアルキレン基であり、m及びnは、それぞれ独立して1~5の整数である。)、一般式:R3O(CH2CH2O)OHで表される化合物(式中、R3は、水素原子又は炭素原子数10~15のアルキル基であり、Oは、平均付加モル数を表し、1~15の整数である。)が挙げられる。
ポリヒドロキシ化合物の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン、アガロース、ラクトースが挙げられる。
アセタール基又はヘミアセタール基を含有するポリマーの具体例としては、ビニルブチラールに基づく単位と、酢酸ビニルに基づく単位と、ビニルアルコールに基づく単位とを含有する三元ポリマーが挙げられる。なお、各単位の比率は、Fポリマーとの相互作用のしやすさを考慮して設定すればよい。
【0090】
界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤が挙げられる。特に、フッ素系界面活性剤が好ましい。
フッ素系界面活性剤の具体例としては、一般式:Rf1-O-Yで表される化合物(式中、Rf1は、炭素原子数1~12のポリフルオロアルキル基であり、Yは、-(CH2)aOH又は-(CH2CH2O)b(CH2CH(CH3)O)cHであり、aは、1~12の整数であり、bは、1~20の整数であり、cは、0~12の整数である。)が挙げられる。
【0091】
フッ素系界面活性剤における疎水部分としては、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基が好ましい。
フッ素系界面活性剤の好適な態様としては、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基とポリオキシエチレン基又はアルコール性水酸基とをそれぞれ側鎖に有するポリマーが挙げられる。
該ポリマーは、ノニオン性であるのが好ましい。
該ポリマーの重量平均分子量は、2000~80000が好ましく、6000~20000がより好ましい。
該ポリマーのフッ素含有量は、10~60質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましい。
該ポリマーがオキシエチレン基を有する場合、該ポリマーのオキシエチレン基の含有量は、10~60質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましい。
該ポリマーがアルコール性水酸基を有する場合、該ポリマーの水酸基価は、10~300mgKOH/gが好ましい。
【0092】
前記ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基の炭素数は、4~16が好ましい。また、前記ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基の炭素原子-炭素原子間には、エーテル性酸素原子が挿入されていてもよい。
前記ポリオキシエチレン基は、炭素数3以上のオキシアルキレン基を有していてもよい。この場合、オキシエチレン基と炭素数3以上のオキシアルキレン基とは、ランダム状に配置されていてもよく、ブロック状に配置されていてもよい。
炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、ポリオキシプロピレン基が好ましい。
前記ポリマーの好適な具体例としては、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を有する(メタ)アクリレートとポリオキシエチレン基又はアルコール性水酸基を有する(メタ)アクリレートとのコポリマーが挙げられる。
【0093】
前者の(メタ)アクリレートの具体例としては、CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2(CF2)4F、CH2=CHC(O)OCH2CH2(CF2)6F、CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2(CF2)6F、CH2=CHC(O)OCH2CH2OCF(CF3)C(=C(CF3)2)(CF(CF3)2)、CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2OCF(CF3)C(=C(CF3)2)(CF(CF3)2)、CH2=CHC(O)OCH2CH2CH2CH2OCF(CF3)C(=C(CF3)2)(CF(CF3)2)、CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2CH2CH2OCF(CF3)C(=C(CF3)2)(CF(CF3)2)、CH2=C(CH3)C(O)CH2CF2(OCF2)f1・(OCF2CF2)f2OCF3が挙げられる(ただし、式中のf1とf2は、それぞれ自然数であり、その和は20である。)。
【0094】
後者の(メタ)アクリレートの具体例としては、CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2OH、CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2CH2CH2OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)4OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)9OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)23OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)9OCH3、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)23OCH3、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)66OCH3、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)120OCH3が挙げられる。
【0095】
フッ素系界面活性剤の具体例としては、「フタージェント」シリーズ(ネオス社製)、「サーフロン」シリーズ(AGCセイミケミカル社製)、「メガファック」シリーズ(DIC社製)、「ユニダイン」シリーズ(ダイキン工業社製)が挙げられる。
【0096】
本法(1)における液状媒体は、25℃で液体であればよい。
液状媒体は、表面処理剤を溶解するのが好ましい。すなわち、表面処理剤は、液状媒体に可溶であるのが好ましい。25℃における液状媒体に対する表面処理剤の溶解度(g/液状媒体100g)は、5以上が好ましい。前記溶解度は、30以下が好ましい。表面処理剤が液状媒体に可溶であれば濃縮における、表面処理剤とFポリマーの相互作用が一層向上しやすい。
液状媒体は、非プロトン性極性溶媒が好ましい。この場合、濃縮における、表面処理剤とFポリマーの相互作用が一層向上しやすい。
液状媒体は、アミド、アルコール、スルホキシド、エステル又はケトンが好ましく、ケトン又はアミドがより好ましい。
【0097】
液状媒体の具体例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジオキサン、乳酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、セロソルブ(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)が挙げられる。好適な具体的な液状媒体としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
液状媒体は、2種以上を併用してもよい。
【0098】
本法(1)におけるパウダー分散液に含まれるFポリマーの量(割合)は、10質量%以上が好ましく、20~50質量%がより好ましい。
本法(1)におけるパウダー分散液に含まれる液状媒体の量(割合)は、15~55質量%が好ましく、25~50質量%がより好ましい。
本法(1)におけるパウダー分散液に含まれる表面処理剤の量(割合)は、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。
また、パウダー分散液における、Fポリマーの量(割合)に対する表面処理剤の量(割合)の質量での比は、0.01超0.25以下が好ましい。
各成分を上記範囲で含めば、Fポリマーと表面処理剤との相互作用を充分に強められるとともに、パウダー分散液の取り扱い性が良好になり、その濃縮及び液状媒体の分離を円滑に行える。
【0099】
パウダー分散液を濃縮する際には、パウダーの晶析を伴ってもよい。
また、パウダー分散液に対しての析出処理を行って、パウダーを強制的に析出させてもよい。析出処理は、パウダー分散液の加熱及び冷却を繰り返して行えばよく、例えば、パウダー分散液を100℃の温度まで加熱した後、0℃の温度まで冷却する操作を繰り返し行えばよい。かかる方法では、加熱によりパウダー分散液の流動性を上昇させ、原料パウダーに表面処理剤を取り込ませやすくし、冷却により表面処理剤を取り込んだ原料パウダーをパウダーとしてパウダー分散液中に析出させやすい。
【0100】
また、析出処理は、パウダー分散液の液状媒体を置換しても行える。具体的には、パウダー分散液の濃縮とパウダー分散液への(高沸点)貧溶媒の添加とを繰り返す。かかる方法では、液状媒体の貧溶媒への置換により、表面処理剤を原料パウダーに取り込ませやすくし、表面処理剤を取り込んだ原料パウダーをパウダーとしてパウダー分散液中に析出させる。
さらに、析出処理は、パウダー分散液に対する塩析操作によっても行える。具体的には、パウダー分散液に、液状媒体に対する溶解性が表面処理剤より高い溶質を添加し、表面処理剤を原料パウダーに取り込ませやすくし、表面処理剤を取り込んだ原料パウダーをパウダーとしてパウダー分散液中に析出できる。
なお、析出処理の際には、種晶としてFポリマーのパウダーをパウダー分散液に添加するようにしてもよい。
なお、以上の析出処理は、任意の2以上を組み合わせてもよい。
【0101】
また、パウダー分散液に対してパウダーの凝析処理を行って、パウダーを強制的に析出せてもよい。具体的には、凝析剤が添加されたパウダー分散液を濃縮しつつ撹拌して、表面処理剤を取り込んだ原料パウダーをパウダーとしてパウダー分散液中に析出させる。
凝析剤としては、硝酸、塩酸、硫酸、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウムが挙げられる。
パウダーが析出したパウダー分散液から液状媒体を分離する。液状媒体を分離する方法としては、デカンテーション、ろ過、遠心分離が挙げられる。かかる操作により、パウダーに取り込まれなかった余剰の表面処理剤が分離される。
分離されたパウダーは、乾燥させてもよいし、乾燥させることなく、後述する樹脂含有液に添加して、液状組成物を製造してもよい。
【0102】
本法(1)で得られるパウダーであるパウダー(3)のD50は前記の通りである。
本法(1)で得られるパウダーの疎充填嵩密度は、0.08~0.5g/mLがより好ましい。本法(1)で得られるパウダーの密充填嵩密度は、0.1~0.8g/mLがより好ましい。疎充填嵩密度又は密充填嵩密度が上記範囲にある場合、パウダーのハンドリング性が優れる。
また、本法(1)で得られるパウダーに含まれるFポリマーの量に対する表面処理剤の量の質量比(表面処理剤の質量/Fポリマーの質量)は、0.01超0.25以下であり、0.05~0.2が好ましい。この場合、粒径によらず、変質を防止しつつ液状組成物を製造しやすい。
【実施例】
【0103】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
原料としては、以下の材料を使用した。
[Fポリマー]
ポリマー1:TFEに基づく単位、NAHに基づく単位及びPPVEに基づく単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含むコポリマー(融点300℃)
ポリマー2:TFEに基づく単位及びPPVEに基づく単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含むコポリマー(融点300℃)
ポリマー3:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含むコポリマー(溶融温度305℃)
ポリマー4:TFE単位及びPPVE単位を、この順に98.3モル%、1.7モル%含むコポリマー(溶融温度305℃)
ポリマー5:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%含み、極性官能基を有するコポリマー(溶融温度300℃)
ポリマー6:TFE単位及びPPVE単位を、この順に98.7モル%、1.3モル%含み、極性官能基を有しないコポリマー(溶融温度305℃)
【0104】
[Fパウダー]
パウダー1:ポリマー1からなる、D50が26.4μmのパウダー
パウダー2:ポリマー2からなる、D50が18.8μmのパウダー
パウダー3:ポリマー2からなる、D50が2.3μmのパウダー
パウダー4:ポリマー2からなる、D50が66.2μmのパウダー
パウダー5:ポリマー1からなる、D50が1.7μm、かつD100が4.9μmのパウダー。
パウダー6:ポリマー3からなる、D50が18.8μmのパウダー
パウダー7:ポリマー4からなる、D50が17.5μmのパウダー
パウダー8:ポリマー3からなる、D50が6.4μm、かつD100が7.9μmのパウダー
パウダー9:ポリマー1からなる、D50が1.5μm、かつD100が4.6μmのパウダー
パウダー10:ポリマー5からなる、D50が2.0μm、D90が5.2μmのパウダー
パウダー11:ポリマー6からなる、D50が2.1μm、D90が5.5μmのパウダー
なお、パウダー9は、高効率精密気流分級機の回転速度を5000rpmに変更した以外は、国際公開2019/098202号の実施例1に記載のパウダーと同様にして製造した。また、パウダー6、7及び8のD100は、それぞれ100μm以下である。
【0105】
[液状媒体]
MEK:メチルエチルケトン
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
[原料組成物]
原料組成物1:ポリフェニレンエーテル系樹脂の前駆体と硬化剤を含み、さらにメチルエチルケトンを含む、芳香族樹脂の含有割合(以下、「WAr」とも記す。)が10質量%以上である熱硬化性の液状組成物
原料組成物2:ポリフェニレンエーテル系樹脂の前駆体と硬化剤を含み、さらにメチルエチルケトンを含む、WArが10質量%未満である熱硬化性の液状組成物
原料組成物3:3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp-フェニレンジアミン(PPD)と硬化剤とを含むポリイミド系芳香族樹脂の前駆体1のNMP溶液(前駆体1の総質量:25質量%)
原料組成物4:3、4、3’、4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と、2、4-ジアミノトルエンと、3、4、3’、4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、2、2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパンとのブロック共重合体(モル比1:1:1:1)のNMP溶液(固形分10質量%)
【0106】
[表面処理剤]
表面処理剤1:ペルフルオロアルキル基とポリオキシアルキレン基及びアルコール性水酸基とそれぞれ側鎖に有するメタクリレート系ポリマー(フッ素含有量35質量%、水酸基価:19mgKOH)。なお、表面処理剤1は、MEKに可溶なノニオン性フッ素系界面活性剤である。
[金属板]
銅箔1:超低粗度電解銅箔(福田金属箔粉工業社製、CF-T4X-SV、厚さ:18μm、Rzjis:1.2μm)
【0107】
[例1]製造・評価例(その1)
[例1-1]液状組成物の製造例
(液状組成物1)
横型のボールミル容器に、原料組成物1を充填し、つぎにパウダー1を添加して、撹拌翼を用いて混合して、パウダー1が分散した液状組成物1を得た(芳香族樹脂の含有割合(以下、「WAr」とも記す。):10質量%以上、芳香族樹脂の含有量に対するFポリマーの含有割合(以下、「WF/WAr」とも記す。):0.3)。
なお、液状組成物1は、粘度が800mPa・sであり、25℃にて3日間静置した後でもパウダーが沈降しなかった。
【0108】
(液状組成物2)
横型のボールミル容器に、原料組成物1を充填し、つぎにパウダー1及びパウダー5のブレンドパウダーを添加して、撹拌翼を用いて混合して、液状組成物2を得た(WAr:10質量%以上、WF/WAr:0.3)。
なお、ブレンドパウダーは、パウダー1の5質量部に対してパウダー5の1質量部を含む。
なお、液状組成物2は、粘度が1300mPa・sであり、25℃にて3日間静置した後でもパウダーが沈降しなかった。
【0109】
(液状組成物3~7)
パウダー及び原料組成物の種類及び混合割合を、表1に示す通り変更した以外は、液状組成物1と同様にして、液状組成物3~7を得た。
なお、液状組成物6及び7を加熱し、液状媒体を留去して、液状組成物のWAr値を高めようとすると、粘度が著しく上昇して、安定した液状組成物が得られなかった。
液状組成物1~7の処方及び性状をまとめて表1に示す。
【0110】
[例1-2]プリプレグの製造例
(プリプレグ1)
3-アミノプロピルメチルジメトキシシランで処理された開繊ガラスクロス(平均厚さ14μm)を液状組成物1中に浸漬させた。浸漬物を150℃にて10分間加熱して、プリプレグ1を得た。
(プリプレグ2~プリプレグ7)
液状組成物1にかえて液状組成物2~7を使用する以外は同様にして、プリプレグ2~7をそれぞれ得た。
【0111】
[例1-3]樹脂付金属箔(樹脂層付金属板)の製造例及び評価例
(樹脂付金属箔1)
銅箔1とプリプレグ1の積層物とを重ね、温度185℃、圧力3.0MPa、時間60分間の熱プレス条件にて、真空熱プレスして、銅箔1、プリプレグ1の固化物層(液状組成物1の乾燥物からなる樹脂層)をこの順に有する、樹脂付金属箔1を得た。
樹脂付金属箔1は、銅箔1と樹脂層との剥離強度が10N/cmであり、はんだリフロー試験(樹脂付金属箔を288℃のはんだに5秒間、5回浮かべる試験)に供しても、銅箔1が樹脂層から浮き上がる現象(剥離現象)が発生しなかった。
また、樹脂層の比誘電率(測定周波数20GHz)は、3.05以下であり、誘電正接は0.016以下であった。
(樹脂付金属箔2~樹脂付金属箔7)
プリプレグ1に代えてプリプレグ2~7を使用した以外は同様にして、樹脂付金属箔2~7をそれぞれ製造し、評価した。
以上の結果をまとめて、表1に示す。
【0112】
【0113】
以上の結果から明らかなように、Fパウダーの平均粒子径が小さいパウダー3を使用した液状組成物4の例では、増粘及び分散安定性の著しい低下により、物性に優れた樹脂付金属箔が得られなかった。
また、Fパウダーの平均粒子径が大きいパウダー4を使用した液状組成物5の例では、樹脂層中のFポリマーの均質性が損なわれて、電気物性に優れた樹脂付金属箔が得られなかった。
さらに、WAr値が低い液状組成物6及び7の例では、プリプレグに保持される樹脂成分の量が不足して、電気物性に優れた樹脂付金属箔が得られなかった。
【0114】
[例2]製造・評価例(その2)
[例2-1]液状組成物の調製
(液状組成物8)
横型のボールミル容器に、100質量部の原料組成物3を充填し、次に5質量部のパウダー6を添加して、15mm径のジルコニアボールを用いて混合して、パウダー6が分散した液状組成物8を得た。液状組成物8中のWAr(前駆体1の含有量)は24質量%であり、WF/WArは0.2である。
【0115】
(液状組成物9)
パウダー6の添加量を30質量部とした以外は、液状組成物8と同様にして、液状組成物9を調製した。
(液状組成物10)
パウダー6をパウダー7に変更した以外は、液状組成物8と同様にして、液状組成物10を調製した。
(液状組成物11)
パウダー6をパウダー8に変更した以外は、液状組成物8と同様にして、液状組成物11を調製した。
(液状組成物12)
パウダー6をパウダー9に変更した以外は、液状組成物8と同様にして、液状組成物12を調製した。
【0116】
<液状組成物の分散性評価>
液状組成物8~12のそれぞれの分散安定性を確認し、以下の基準に従って評価した。
優:25℃にて3日間静置しても沈降物がない。
可:25℃にて3日間静置すると沈降物がある。
【0117】
<樹脂層の均質性評価>
液状組成物8~12のぞれぞれを、銅箔(厚さ12μm)の表面にバーコーターを用いて塗布して、180℃にて30分間で乾燥炉に通して加熱して乾燥させ、樹脂層(ドライ膜、厚さ20μm)を形成させ、銅箔と前記樹脂層とがこの順に積層された樹脂層付銅箔を得た。樹脂層付銅箔の銅箔を塩化第2鉄水溶液でエッチングして、単体の樹脂層を回収した。回収した樹脂層の各表面を分析して、それぞれのフッ素原子の量[質量%]を測定した。測定された値に基づいて、両表面に存在するフッ素原子の比を求め、以下の基準に従って評価した。
優 :1.0以上、1.2以下
良 :1.2超、1.6以下
不可:1.6超
【0118】
<樹脂層の難燃性評価>
上記で回収した樹脂層に対して、UL94試験法に準拠した燃焼試験を行い、「不燃(V-0)」と「可燃」とで評価した。
以上の結果を、表2にまとめて示す。
【0119】
【0120】
さらに、液状組成物8及び例12で得られる樹脂層付銅箔の樹脂層の表面は、ブツや縞が視認されず、表面平滑性に優れていた。
ポリイミド系芳香族樹脂又はその前駆体に代えて、溶剤可溶型液晶性のポリエステル系樹脂又はポリフェニレンエーテル樹脂を使用しても、上記と同様の結果が得られる。
【0121】
[例3]製造・評価例(その3)
[例3-1]改質パウダーの調製
以下で得られる改質パウダーに含まれるFポリマーの量に対する表面処理剤の量の質量比は、使用したパウダー分散液に添加したFポリマーの質量及び表面処理剤の質量と、パウダー分散液を濾過した濾液に含まれるFポリマーの質量及び表面処理剤の質量を測定して求めた。
(改質パウダー1)
まず、35質量部のパウダー10と、5質量部の表面処理剤1と、60質量部のMEKとを含むパウダー分散液を調製した。このパウダー分散液を減圧濃縮して、30質量部のMEKを留去した後、濾過した。次に、得られた濾渣を25℃にて真空乾燥して、改質パウダー1(表面処理剤1の質量/ポリマー5の質量=0.12)を得た。
【0122】
(改質パウダー2)
パウダー10に代えてパウダー11を使用した以外は同様にして、改質パウダー2(表面処理剤1の質量/ポリマー6の質量=0.04)を得た。
(改質パウダー3)
パウダー10に代えてパウダー11を使用し、減圧濃縮に代えてパウダー分散液にホモジナイザー処理した以外は同様にして、改質パウダー3(表面処理剤1の質量/ポリマー6の質量=0.01未満)を得た。
【0123】
<パウダーの貯蔵安定性>
それぞれの改質パウダーをトルエンに分散させて、評価用分散液を調製した。この評価用分散液を、温度5℃にて1週間貯蔵し、以下の基準に従って評価した。
[評価基準]
○(優):パウダーが評価用分散液中に均一に分散するか、又は沈殿しても手で振るだけで容易に再分散した。
△(良):パウダーが評価用分散液中で沈降し、再分散には超音波の付与が必要であった。
×(不可):パウダーが評価用分散液中で沈降し、超音波を付与しても再分散できなかった。
その結果、改質パウダー1が「○」、改質パウダー2が「△」、改質パウダー3が「×」であった。
【0124】
[例3-2]液状組成物の調製
(液状組成物)
原料組成物4に、改質パウダー1を直接添加して、液状組成物13を調製した。なお、ポリマー6のパウダー1の質量/ポリイミド樹脂の質量を25質量部/75質量部(WF/WAr:0.33、WAr:10質量%超)とした。
(例2-2)
改質パウダー1をパウダー10に変更した以外は同様にして、液状組成物14を得た。
【0125】
<液状組成物の増粘率>
各液状組成物のポリイミド樹脂ワニスに対する増粘率を測定し、以下の基準に従って評価した。
[評価基準]
○(優) :増粘率が100%以下であった。
×(不可):増粘率が100%超であった。
その結果、液状組成物13が「○」、液状組成物14が「×」であった。
【0126】
<プリント配線基板の製造>
まず、ポリフェニレンエーテル樹脂の前駆体と、架橋剤と、MEKとを含む樹脂含有液を用意した。この樹脂含有液に含まれるポリフェニレンエーテル樹脂の前駆体及び架橋剤の量を、合計で10質量%以上とした。
次に、横型のボールミル容器に、樹脂含有液を充填した後、上記パウダー1を添加し、撹拌翼を用いて混合した。これにより、パウダー10が分散した液状組成物15(粘度:1000mPa・s以下)を得た。
次に、厚さ18μmの銅箔の表面に、液状組成物15をグラビアリバース法によりロールツーロールで塗工して、液状被膜を形成した。次いで、この液状被膜が形成された銅箔を、120℃の乾燥炉にて5分間、通し、加熱により乾燥させた。その後、窒素雰囲気下の遠赤外線オーブン中で、乾燥被膜を380℃にて3分間、加熱した。これにより、銅箔の表面に樹脂層が形成された樹脂付銅箔を製造した。なお、樹脂層の厚さは8μmであった。
樹脂付銅箔の銅箔をエッチングにより、所定の形状を有する伝送回路(回路パターン)に加工すると、電気特性、剥離強度等の物性に優れたプリント配線基板が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の液状組成物は、繊維基材に高濃度の樹脂成分が含浸保持されたプリプレグや成分均質性が高く厚い絶縁樹脂層の形成に適しており、電気特性と耐熱性に優れた、アンテナ部品、プリント配線基板(フレキシブルプリント配線基板、リジッドプリント配線基板)、カバーレイフィルム、ソルダーレジスト、パワー半導体の絶縁層、航空機用部品、自動車用部品の材料として有用である。
本発明のパウダーは、アンテナ部品、プリント配線板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具や、食品工業用品、のこぎり、すべり軸受け等の被覆物品等を使用するための液状組成物の成分として使用できる。また、プリント配線板は、高周波特性が必要とされるレーダー、ネットワークのルーター、バックプレーン、無線インフラ等の電子機器用基板や自動車用各種センサ用基板、エンジンマネージメントセンサ用基板として有用であり、特にミリ波帯域の伝送損失低減と難燃性の向上を目的とする用途に好適である。
なお、2019年03月12日に出願された日本特許出願2019-044624号、2019年03月12日に出願された日本特許出願2019-044627号、2019年05月23日に出願された日本特許出願2019-096837号及び2019年07月04日に出願された日本特許出願2019-125278号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。