(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】化合物、重合性組成物、重合体、ホログラム記録媒体、光学材料、及び光学部品
(51)【国際特許分類】
C07D 277/66 20060101AFI20231024BHJP
C07D 333/76 20060101ALI20231024BHJP
C07D 339/08 20060101ALI20231024BHJP
C08F 20/38 20060101ALI20231024BHJP
G03H 1/02 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C07D277/66 CSP
C07D333/76
C07D339/08
C08F20/38
G03H1/02
(21)【出願番号】P 2021558366
(86)(22)【出願日】2020-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2020042609
(87)【国際公開番号】W WO2021100654
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2019208980
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】清水 尭紀
(72)【発明者】
【氏名】矢部 晃子
(72)【発明者】
【氏名】山下 修治
(72)【発明者】
【氏名】大谷 鷹士
(72)【発明者】
【氏名】石川 達也
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-014213(JP,A)
【文献】特開2016-222566(JP,A)
【文献】特表2017-509722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 277/66
C07D 333/76
C07D 339/08
C08F 20/38
G03H 1/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される化合物。
【化1】
[式中、R
1は、水素原子、又はメチル基を表す。R
2は、置換基を有していてもよい芳香環基、又は置換基を有していてもよい芳香環基で置換されたアルキル基を表す。X
1は、
チオエステル結合、(チオ)カーボネート結合
、(チオ)ウレタン結合、(チオ)ウレア結合、又
は置換基を有していてもよい窒素原子を表す。X
2は、酸素、硫黄、又は置換基を有していてもよい窒素原子を表す。Aは、置換基を有していてもよい2価の基を表す。L
は(m+1)価の連結基
であり、置換基を有してもよい炭素数1~8の炭化水素基を表す。mは1~3の整数を表す。nは
0を表す。]
【請求項2】
前記Lが、置換基を有してもよい炭素数1~8の脂肪族炭化水素基である、請求項
1に記載の化合物。
【請求項3】
前記Lが、置換基を有してもよい炭素数1~8の鎖状脂肪族炭化水素基である、請求項
2に記載の化合物。
【請求項4】
前記R
2が、置換基を有していてもよい縮合芳香族複素環基、又は置換基として縮合複素環基を有する芳香族炭化水素基である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
前記R
2が、含硫黄縮合芳香族複素環基、又は置換基として含硫黄縮合複素環基を有する芳香族炭化水素基である、請求項
4に記載の化合物。
【請求項6】
前記R
2が、ジベンゾチオフェニル基、ベンゾチアゾリル基、及びチアンスレニル基のいずれか、又は置換基としてジベンゾチオフェニル基、ベンゾチアゾリル基、及びチアンスレニル基のいずれかを有する芳香族炭化水素基である、請求項
5に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の化合物と重合開始剤とを含有する重合性組成物。
【請求項8】
請求項
7に記載の重合性組成物を含むホログラム記録媒体。
【請求項9】
請求項
7に記載の重合性組成物を重合させてなる重合体。
【請求項10】
請求項
9に記載の重合体を含む光学材料。
【請求項11】
請求項
9に記載の重合体を含む光学部品。
【請求項12】
請求項
8に記載のホログラム記録媒体を含む大容量メモリ。
【請求項13】
請求項
8に記載のホログラム記録媒体にホログラム記録をして得られる光学素子。
【請求項14】
請求項
13に記載の光学素子を含むARグラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率かつ重合性に優れた化合物、及びこれを含む重合性組成物に関する。また本発明は、この重合性組成物又はその重合体を用いた、ホログラム記録媒体、光学材料、及び光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学部材にはガラスが多く用いられている。例えば、光学レンズにあっては、同じ焦点距離のレンズでも、屈折率の高い材料を用いて製造すると、レンズを薄肉化することが可能となり、軽量化、光学経路の設計の自由度が向上するという利点がある。高屈折率光学レンズは光学撮像装置の小型化、高解像度化、広角化にも有効である。
【0003】
近年、ガラスに代わる光学材料として、透明性が高いプラスチックが注目されている。プラスチック材料はガラスに比べて、軽量化しやすく、機械的強度を改善しやすく、加工成形が容易である等の利点を有している。周辺技術の発達に伴い、プラスチック光学材料に対する性能向上の要求も高まっている。例えば光学レンズ用途の材料においては、重合しやすく(易重合性)、硬化性が良好であり、重合物の屈折率が高い(高屈折率)ことが求められる。
【0004】
これまで、屈折率の向上を目的に多くの樹脂が開発されてきた。例えば、o-フェニルフェノールEO変性アクリレート(特許文献1)や9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン(特許文献2)などが挙げられる。また、これらの化合物を修飾した分子構造の様々な化合物が単独重合体や共重合体として開発され、屈折率を向上させるために研究されている(特許文献3、4)。
【0005】
9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンは高屈折率アクリレートとして頻繁に使用されるが、比較的粘度が高い上、モノマーの屈折率が1.62程度と充分に高いとは言えない(特許文献5)。
屈折率を高くするためには、芳香環を導入する以外に、硫黄原子を分子内に取り入れることが有効である。例えば、特許文献6には、一分子に1~2個のナフチルチオ基を有するペンタエリスリトール骨格のジアクリレートモノマーが記載され、その屈折率は1.62~1.65である。
特許文献7には、1分子内に2個のベンゾチアゾール環を有したグリセリン骨格のアクリレート化合物が記載され、その屈折率は1.63である。
これらはいずれも1.65を超える超高屈折率を要求される用途に対しては充分とは言えない。
【0006】
一方、光記録媒体のさらなる大容量化、高密度化に向けて、光の干渉による光強度分布に応じて記録層の屈折率を変化させ、ホログラムとして情報を記録するホログラム方式の光記録媒体が開発されている。また、近年、メモリ用途向けに開発されていたホログラム記録媒体を、ARグラス導光板の光学素子用途へ適用する検討が行われている。
【0007】
特許文献8には、ホログラム記録媒体に用いられる光学材料に関し、超高屈折率化合物として、3つの芳香環を有するペンタエリスリトール型の(メタ)アクリレート化合物が記載され、高い屈折率を得るために(メタ)アクリル基が直接ペンタエリスリトール骨格に結合した構造とするとの記載がある。しかし、この構造では、(メタ)アクリル基周辺の立体障害により充分な重合性能が得られず、ホログラム記録特性が低くなる場合があった。
【0008】
【文献】特開2013-95833号公報
【文献】特開2000-7741号公報
【文献】特開2008-94987号公報
【文献】特開2012-82387号公報
【文献】特開平6-220131号公報
【文献】特表2008-527413号公報
【文献】特開2005-133071号公報
【文献】特開2017-14213号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明は、光学材料又は光学部品として有用な、易重合性を有する高屈折率化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、芳香環を3つ有し、かつ特定の連結基を介して重合性基と連結する構造のペンタエリスリトール型化合物が、易重合性の高屈折率化合物であること、この化合物を用いた重合性組成物および重合物が高屈折率であること、を見出し、本発明に到達した。
本発明の要旨は、以下に存する。
【0011】
[1] 下記式(1)で示される化合物。
【0012】
【0013】
[式中、R1は、水素原子、又はメチル基を表す。R2は、置換基を有していてもよい芳香環基、又は置換基を有していてもよい芳香環基で置換されたアルキル基を表す。X1は、(チオ)エステル結合、(チオ)カーボネート結合、(チオ)アミド結合、(チオ)ウレタン結合、(チオ)ウレア結合、又は(チオ)エーテル結合、或いは酸素、硫黄、又は置換基を有していてもよい窒素原子を表す。X2は、酸素、硫黄、又は置換基を有していてもよい窒素原子を表す。Aは、置換基を有していてもよい2価の基を表す。Lは置換基を有していてもよい(m+1)価の連結基を表す。mは1~3の整数を表す。nは0または1を表す。]
【0014】
[2] 前記nが0である、[1]に記載の化合物。
【0015】
[3] 前記Lが、置換基を有してもよい炭素数1~8の炭化水素基である、[1]又は[2]に記載の化合物。
【0016】
[4] 前記Lが、置換基を有してもよい炭素数1~8の脂肪族炭化水素基である、[3]に記載の化合物。
【0017】
[5] 前記Lが、置換基を有してもよい炭素数1~8の鎖状脂肪族炭化水素基である、[4]に記載の化合物。
【0018】
[6] 前記R2が、置換基を有していてもよい縮合芳香族複素環基、又は置換基として縮合複素環を有する芳香族炭化水素基である、[1]~[5]のいずれかに記載の化合物。
【0019】
[7] 前記R2が、含硫黄縮合芳香族複素環基、又は置換基として含硫黄縮合複素環基を有する芳香族炭化水素基である、[6]に記載の化合物。
【0020】
[8] 前記R2が、ジベンゾチオフェニル基、ベンゾチアゾリル基、及びチアンスレニル基のいずれか、又は置換基としてジベンゾチオフェニル基、ベンゾチアゾリル基、及びチアンスレニル基のいずれかを有する芳香族炭化水素基である、[7]に記載の化合物。
【0021】
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の化合物と重合開始剤とを含有する重合性組成物。
【0022】
[10] [9]に記載の重合性組成物を含むホログラム記録媒体。
【0023】
[11] [9]に記載の重合性組成物を重合させてなる重合体。
【0024】
[12] [11]に記載の重合体を含む光学材料。
【0025】
[13] [11]に記載の重合体を含む光学部品。
【0026】
[14] [10]に記載のホログラム記録媒体を含む大容量メモリ。
【0027】
[15] [10]に記載のホログラム記録媒体にホログラム記録をして得られる光学素子。
【0028】
[16] [15]に記載の光学素子を含むARグラス。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、光学材料として有用な、易重合性高屈折率化合物が提供される。該化合物は光学レンズや光学部材のハードコート層、ホログラム記録媒体に用いる反応性化合物として特に有用である。
本発明の化合物を用いることにより、回折効率が高く、光透過率が高く、収縮率の小さい光学材料、光学部品を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、ホログラム記録に用いた装置の構成の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
【0032】
本発明において、「(チオ)エステル結合」は、エステル結合とチオエステル結合の総称である。「(チオ)カーボネート結合」は、カーボネート結合とチオカーボネート結合の総称である。「(チオ)アミド結合」は、アミド結合とチオアミド結合の総称である。「(チオ)ウレタン結合」は、ウレタン結合とチオウレタン結合の総称である。「(チオ)ウレア結合」は、ウレア結合とチオウレア結合の総称である。「(チオ)エーテル結合」は、エーテル結合とチオエーテル結合の総称である。
【0033】
本発明において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの総称である。「(メタ)アクリル基」は、アクリル基とメタクリル基の総称である。「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸の総称である。
本発明において、「置換基を有していてもよい」とは、置換基を1以上有していてもよいことを意味する。
【0034】
1.本発明の化合物について
本発明の化合物は、下記式(1)で示される、重合性の官能基である(メタ)アクリル基を有する化合物である。
【0035】
【0036】
[式中、R1は、水素原子、又はメチル基を表す。R2は、置換基を有していてもよい芳香環基、又は置換基を有していてもよい芳香環基で置換されたアルキル基を表す。X1は、(チオ)エステル結合、(チオ)カーボネート結合、(チオ)アミド結合、(チオ)ウレタン結合、(チオ)ウレア結合、又は(チオ)エーテル結合、或いは酸素、硫黄、又は置換基を有していてもよい窒素原子を表す。X2は、酸素、硫黄、又は置換基を有していてもよい窒素原子を表す。Aは、置換基を有していてもよい2価の基を表す。Lは置換基を有していてもよい(m+1)価の連結基を表す。mは1~3の整数を表す。nは0または1を表す。]
【0037】
1-1.式(1)中のR1について
R1は、水素原子またはメチル基を表す。より重合性の高い化合物が得られるため、R1は水素原子が好ましい。
式(1)において、mが2又は3でR1が複数存在する場合、複数のR1は同一であってもよく異なるものであってもよい。
【0038】
1-2.式(1)中のR2について
R2は、置換基を有していてもよい芳香環基、又は置換基を有していてもよい芳香環基で置換されたアルキル基を表す。R2に含まれる芳香環は縮合環であってもよい。
R2の芳香環は、芳香族炭化水素環と芳香族複素環とに大別されている。また、置換基を有していてもよい芳香環基で置換されたアルキル基とは、芳香環に置換基を有していてもよいアラルキル基又はヘテロアラルキル基である。
【0039】
該芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、ビフェニレン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの基が挙げられる。
【0040】
該芳香族複素環としては、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、ナフトフラン環、ベンゾナフトフラン環、ジナフトフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ナフトチオフェン環、ベンゾナフトチオフェン環、ジナフトチオフェン環、ピロール環、インドール環、カルバゾール環、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環等の複素原子を1個含んだ芳香族複素環;イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、チアジアゾール環等の複素原子を2個以上含んだ芳香族複素環;ベンゾオキサゾール環、チエノオキサゾール環、チアゾロオキサゾール環、オキサゾロオキサゾール環、オキサゾロイミダゾール環、オキサゾロピリジン環、オキサゾロピリダジン環、オキサゾロピリミジン環、オキサゾロピラジン環、ナフトオキサゾール環、キノリノオキサゾール環、ジオキサゾロピラジン環、フェノオキサジン環,ベンゾチアゾール環、フロチアゾール環、チエノチアゾール環、チアゾロチアゾール環、チアゾロイミダゾール環、チエノチアジアゾール環、チアゾロチアジアゾール環、チアゾロピリジン環、チアゾロピリダジン環、チアゾロピリミジン環、チアゾロピラジン環、ナフトチアゾール環、キノリノチアゾール環、チアンスレン環、及びフェノチアジン環等の複素原子を2個以上含んだ芳香族複素環を含む2または3の環が縮合した環;が挙げられる。これら環構造は任意の位置で複素原子と連結していてよく、また任意の置換基を有していてもよい。
【0041】
アラルキル基としては、ベンジル基、2-フェニルエチル基、ナフチルメチル基が挙げられる。ヘテロアラルキル基としては、フリルメチル基、チエニルメチル基、ベンゾチエニルメチル基等が挙げられる。これらは任意の置換基を有していてもよい。
【0042】
R2としては、低い吸水率を付与させる観点から、芳香族炭化水素基が好ましく、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基がより好ましい。
【0043】
高い屈折率の化合物を得る観点からは、R2としては、置換基を有していてもよい縮合芳香環基もしくは芳香族複素環基が好ましく、複素原子を含んだ芳香族複素環を含む2または3の環が縮合した縮合芳香族基がより好ましい。
【0044】
芳香族複素環基としては、屈折率を高めることができるとの理由から、含硫黄芳香族複素環基であることが好ましい。含硫黄芳香族複素環基は、芳香族複素環を構成する複素原子として、少なくとも硫黄原子を有する。複素原子として硫黄原子のほかに、酸素原子を有してもよく、窒素原子を有してもよく、酸素原子と窒素原子を有してもよい。
着色回避、溶解性確保の点から含硫黄芳香族複素環基を構成する複素原子の数は1~3が好ましく、1~2がより好ましい。
【0045】
含硫黄芳香族複素環基の含硫黄芳香族複素環としては、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾナフトチオフェン環、ジナフトチオフェン環、チオピラン環、ナフトチオフェン環、ジナフトチオフェン環、ジベンゾチオピラン環等の硫黄原子を1個含んだ芳香族複素環;チアンスレン環等の硫黄原子を2個以上含んだ芳香族複素環;チアゾール環、イソチアゾール環、ベンゾチアゾール環、ナフトチアゾール環、フェノチアジン環、チアゾロイミダゾール環、チアゾロピリジン環、チアゾロピリダジン環、チアゾロピリミジン環、ジオキサゾロピラジン環、チアゾロピラジン環、チアゾロオキサゾール環、ジベンゾベンゾチオフェン環、チエノオキサゾール環、チエノチアジアゾール環、チアゾロチアジアゾール環等の複素原子を2種類以上含んだ芳香族複素環等が挙げられる。含硫黄芳香族複素環は、単環であってもよく、縮合環であってもよい。高屈折率化の観点から縮合環が好ましい。縮合環を構成する環の数は2~8が好ましく、2~6がより好ましく、原料入手や合成を容易にする点で2~5であることがさらに好ましい。
【0046】
上記の中でも、高屈折率化と低着色性の点でベンゾチアゾール環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾチオフェン環、ベンゾナフトチオフェン環、ジナフトチオフェン環、チアンスレン環が好ましく、ベンゾチアゾール環、ジベンゾチオフェン環、チアンスレン環のいずれかがより好ましい。
【0047】
R2は置換基を有してもよい。R2が有してもよい置換基としては、例えば、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数1~8のアルコキシル基、フェニル基、メシチル基、トリル基、ナフチル基、シアノ基、アセチルオキシ基、炭素数2~9のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数2~9のアルコキシカルボニル基、スルファモイル基、炭素数2~9のアルキルスルファモイル基、炭素数2~9のアルキルカルボニル基、フェネチル基、ヒドロキシエチル基、アセチルアミド基、炭素数1~4のアルキル基が結合してなるジアルキルアミノエチル基、トリフルオロメチル基、炭素数1~8のアルキルチオ基、炭素数6~10のアリールチオ基、ニトロ基が挙げられる。
中でも、好ましくは炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシル基、シアノ基、アセチルオキシ基、炭素数2~8のアルキルカルボニルオキシ基、スルファモイル基、炭素数2~9のアルキルスルファモイル基、ニトロ基である。
【0048】
R2は、芳香族複素環基を置換基として有してもよい。
R2が置換基として有してもよい芳香族複素環基は前記R2での定義と同義であるが、屈折率向上の観点から、含硫黄芳香族複素環基であることが好ましい。すなわち、この含硫黄芳香族複素環としては、ベンゾチアゾール環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾチオフェン環、ベンゾナフトチオフェン環、ジナフトチオフェン環、チアンスレン環が好ましく、ベンゾチアゾール環、ジベンゾチオフェン環、チアンスレン環のいずれかがより好ましい。
【0049】
置換基を有する芳香環基の具体例としては、ビフェニル基、ベンジルフェニル基、フェノキシフェニル基、ビナフチル基、メチルチオナフチル基、ベンゾチアゾリルフェニル基、ベンゾオキサゾリルフェニル基、ジベンゾチオフェニルフェニル基等の、置換基を有する芳香族炭化水素基;メトキシカルボニルフリル基、メチルチオチオフェン基、ニトロカルバゾール基、メチルベンゾオキサゾール基、メチルベンゾチアゾール基、メトキシベンゾチアゾール基、クロロベンゾチアゾール基等の、置換基を有する芳香族複素環;ビフェニルメチル基、ナフチルチオエチル基、フルオレニルメチル基等の置換基を有するアラルキル基;が挙げられる。
【0050】
1-3.式(1)中のX1について
X1は、(チオ)エステル結合、(チオ)カーボネート結合、(チオ)アミド結合、(チオ)ウレタン結合、(チオ)ウレア結合、又は(チオ)エーテル結合、或いは酸素、硫黄、又は置換基を有していてもよい窒素原子を表す。窒素原子に置換してもよい基は、特に制限はないが、好ましくはメチル基やエチル基などの炭素数1~8のアルキル基、フェニル基やナフチル基などの芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0051】
式(1)の化合物の合成を容易にするとともに、粘度を低くする観点では、X1として、酸素、硫黄、置換基を有していてもよい窒素原子、好ましくは酸素、又は硫黄原子を選択することができる。中でも比較的安価なペンタエリスリトールトリブロミドから製造可能な化合物となる酸素原子を採用することができる。
【0052】
本発明の化合物の重合性向上の観点では、X1はエステル結合、カーボネート結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、またはエーテル結合のいずれかが好ましく、中でもアミド結合、ウレタン結合、ウレア結合のいずれかがより好ましい。
【0053】
本発明の化合物の屈折率向上を目的として、X1としてチオエステル結合、チオカーボネート結合、チオアミド結合、チオウレタン結合、チオウレア結合、またはチオエーテル結合のいずれかを選択することもできる。
【0054】
1-4.式(1)中のX2について
X2は、酸素、硫黄、又は置換基を有していてもよい窒素原子を表す。この窒素原子に置換してもよい基は、特に制限はないが、好ましくはメチル基やエチル基などの炭素数1~8のアルキル基、フェニル基やナフチル基などの芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0055】
X2は、本発明の化合物の吸水率を低く抑える観点から酸素、又は硫黄原子が好ましく、より好ましくは、本発明の化合物に高い屈折率を与える硫黄原子である。
【0056】
1-5.式(1)中のAについて
Aは置換基を有していてもよい2価の基を表す。
ここで2価の基とは、分岐していてもよい2価の有機基であり、好ましくは、炭素数が1~8であり分岐していてもよい2価の有機基であり、より好ましくは、エチリデン基、プロピリデン基、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、2-ヒドロキシプロピレン基、オキソプロピレン基、オキソブチレン基、3-オキサペンチレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基、キシリレン基であり、特に好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、2-ヒドロキシプロピレン基である。Aの炭素数が8以下であると、本発明の化合物が高屈折率化するとともに、粘度が低下し、加工性が向上する傾向にある。
【0057】
Aが有してもよい置換基としては、例えば、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、炭素数1~8のアルキル基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数1~8のアルコキシル基、フェニル基、メシチル基、トリル基、ナフチル基、シアノ基、アセチルオキシ基、炭素数2~9のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数2~9のアルコキシカルボニル基、スルファモイル基、炭素数2~9のアルキルスルファモイル基、炭素数2~9のアルキルカルボニル基、フェネチル基、ヒドロキシエチル基、アセチルアミド基、炭素数1~4のアルキル基が結合してなるジアルキルアミノエチル基、トリフルオロメチル基、炭素数1~8のアルキルチオ基、炭素数6~10のアリールチオ基、ニトロ基が挙げられる。
中でも、好ましくは炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシル基、シアノ基、アセチルオキシ基、炭素数2~8のアルキルカルボニルオキシ基、スルファモイル基、炭素数2~9のアルキルスルファモイル基、フェニル基、ナフチル基である。
【0058】
1-6.式(1)中のmおよびnについて
mは、1~3の整数を表す。本発明の化合物の屈折率がより高くなる傾向にあることから、mは1または2が好ましく、より好ましくは1である。
【0059】
nは0または1を表す。nが大きくなるほど化合物の分子量が増加し、本発明の重合性組成物の粘度が上昇し、加工性を低下させることがある。従って、nは0が好ましい。nが0であると、本発明の化合物の屈折率がより高くなる傾向にある。
【0060】
1-7.式(1)中のLについて
Lは置換基を有していてもよい(m+1)価の連結基であり、本発明の化合物の目的に合わせて、適宜選択することができる。
【0061】
Lとしては、直鎖状、分岐鎖状、環状の連結基を適宜選択し採用することができるが、本発明の化合物の(メタ)アクリル基周辺の立体障害を緩和する観点では、鎖状であるのが好ましい。
【0062】
Lを構成する鎖状の連結基としては、m=1の場合、メチレン基、エチレン基、1,3-プロピレン基、1,2-プロピレン基、ブチレン基、2-ヒドロキシプロピレン基、オキソエチレン基、オキソプロピレン基、オキソブチレン基、オキソヘキシレン基、オキソヘプチレン基、3-オキサペンチレン基、-CH2CH2NHC(O)-、-CH2CH2OCH2CH2NHC(O)-、-CH2CH2NHC(O)-、-CH2CH2SCH2CH2-、-CH2CH2NHC(S)-、-CH2CH2OCH2CH2NHC(S)-、-CH2CH2SCH2CH2NHC(S)-、-CH2CH2NHC(S)-等が挙げられ、これらを組み合わせて使用してもよい。m=2または3の場合は、上記の鎖状化合物中の任意の水素原子が(メタ)アクリロイル基と置換されてもよく、分岐構造によって(メタ)アクリロイル基と結合してもよい。
【0063】
Lが有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、水酸基、メルカプト基、炭素数1~8のアルキル基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数1~8のアルコキシ基、フェニル基、メシチル基、トリル基、ナフチル基、シアノ基、アセチルオキシ基、炭素数2~9のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数2~9のアルコキシカルボニル基、スルファモイル基、炭素数2~9のアルキルスルファモイル基、炭素数2~9のアルキルカルボニル基、フェネチル基、ヒドロキシエチル基、アセチルアミド基、炭素数1~4のアルキル基が結合しているジアルキルアミノエチル基、トリフルオロメチル基、炭素数1~8のアルキルチオ基、炭素数6~10のアリールチオ基、ニトロ基等を挙げることができる。
【0064】
本発明の化合物の各種媒体に対する溶解性の確保と着色回避の観点では、Lは脂肪族炭化水素基であるのが好ましい。この場合、本発明の化合物の屈折率低下や、本発明の重合性組成物の粘度上昇を抑制できることから、Lの脂肪族炭化水素基の炭素数は、1~8(但し、置換基の炭素数は含まない)とするのが好ましい。また、上述の立体障害緩和の観点から、この脂肪族炭化水素基は鎖状であるのが好ましい。
【0065】
本発明の化合物の高屈折率化を目的として、Lとして環状の連結基を選択することもできる。この場合、Lは単環構造や縮合環構造を有してもよく、Lを構成する環の数は1~4が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が更に好ましい。Lを構成する環に芳香族性は必ずしも必要ないが、分子全体に占める大きさを小さく保ちつつ、高い屈折率を維持するためには芳香族炭化水素環であることが好ましい。ここで、Lを構成する芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、アセナフチレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環等が挙げられる。
【0066】
本発明の化合物の重合性向上を目的として、Lにエステル結合、カーボネート結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、またはエーテル結合のうち少なくとも一つを採用することもできる。この場合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合のいずれかがより好ましい。
【0067】
本発明の化合物の屈折率向上を目的として、Lにチオエステル結合、チオカーボネート結合、チオアミド結合、チオウレタン結合、チオウレア結合、またはチオエーテル結合のいずれかを採用することもできる。
【0068】
1-8.分子量
本発明の化合物は、粘度を低く抑え、加工性を良好に保つ観点から、その分子量は2000以下であるのが好ましく、より好ましくは1500以下である。また、重合時の収縮率低減の点から、本発明の化合物の分子量は400以上であるのが好ましく、より好ましくは500以上であり、さらに好ましくは550以上である。
【0069】
1-9.水溶性
本発明の化合物は、保存安定性を向上させる、硬化後の吸湿による変形を防ぐ等の理由から、水不溶性であることが好ましい。ここで「水不溶性」とは、25℃、1気圧の条件下における水に対する溶解度が、通常0.1質量%以下、好ましくは0.02質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下であることをいう。一方、ある程度の水溶性を有することで、水や極性溶媒中での重合時の分散性を改善する、基板との接着性を高める等の効果があるので、その場合の水に対する溶解度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。
本発明においては、式(1)で表される化合物の構造を適宜選択することで、目的・用途に応じた水溶解性を設定することができる。
【0070】
1-10.分子構造と物性との関係
ペンタエリスリトール骨格の四級炭素の4つの分子鎖のうち3つの分子鎖に、芳香環を有するR2が導入された本発明の高屈折化合物は、R2の3つの芳香環が硫黄原子を介して適切な分子間距離に配されている。そのため、重合反応前の化合物(モノマー)では有機溶媒をはじめとする各種媒体に対して高い溶解度を示す。一方で、その重合体では、重合反応によって分子間の芳香環が近傍に配置されるため、局所的な芳香環密度が増加する。結果として、重合体は高い屈折率を発現することができる。
このように、重合体において、高い屈折率を発現するためには、重合反応が充分に進行する必要がある。
本発明の化合物では、ペンタエリスリトール骨格に導入した高屈折部位と重合性基である(メタ)アクリル基とを、適切な連結基Lを用いて連結させることで重合性基周辺の立体障害を軽減し、高い重合性と高屈折率を両立させることができる。
【0071】
式(1)で表される本発明の化合物では、ペンタエリスリトール骨格と(メタ)アクリル部位およびSR2部位との間に、L、A、X1、X2といった連結構造を挟むことができ、それら連結構造の存在により、本発明の化合物の物性を用途に応じて調節することが可能である。
【0072】
本発明の化合物は、化学的に安定な四級炭素からなるペンタエリスリトール骨格を有しているため、合成、加工、保存のあらゆる場面において熱的および化学的に安定である。
【0073】
1-11.例示化合物
式(1)で表される本発明の化合物の具体例を以下に例示する。本発明はその要旨をこえない限りこれらに限定されるものではない。
【0074】
上述の式(1)においてm=1、n=0で表される化合物の具体例は以下の通りである。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
式(1)においてm=1、n=0以外の場合の具体例は以下の通りである。
【0085】
【0086】
1-12.合成方法
式(1)で表される本発明の化合物は、公知の種々の方法を組み合わせることにより、合成することができる。式(1)で表される化合物の合成方法の一例について、下記の構造式を用いて説明する。
【0087】
<式(1)においてn=0である場合の合成例>
まず、Yを3個有する化合物(a)と、チオール化合物(b)、もしくはジスルフィド化合物(b’)とのカップリング反応によって中間体(c)を合成したのち、脱離基を有する化合物(d)との反応によりリンカー基Lを有する前駆体(f)を合成する。(d)の代わりに、求核剤と反応することにより水酸基を生じる化合物(d’)を用いることでも前駆体(f)を合成することが可能である。また、中間体(c)に脱離基を導入後、アミノ基およびメルカプト基X3を有する求核剤(e)と反応させることによっても前駆体(f)を合成することが可能である。
【0088】
前駆体(f)に対して、(メタ)アクリレート化剤(g-1)(塩化アクリロイル、アクリル酸無水物、アクリル酸エステルなど)を作用させることにより化合物(1A)が得られる。
中間体(c)に対して、あらかじめ(メタ)アクリロイル基が導入された(g-2)を作用させることにより、化合物(1A)を直接合成することもできる。中間体(c)に脱離基を有する(h-1)を反応させて得られる前駆体(i)に対して、(メタ)アクリル酸(g-3)をカップリングさせることでも化合物(1A)が合成できる。
【0089】
求核剤(e)において、X3は水酸基、アミノ基およびメルカプト基等から選ばれる基を表し、L及びL1は置換基を有していてもよい(m+1)価の基を表す。Yはハロゲン原子であり、臭素かヨウ素であることが好ましいが、塩素でも構わない。Y1~Y3はハロゲン原子、エステル基、スルホン酸エステル基、カーボネート基、イソシアネート基のいずれかを表す。Zはハロゲン原子、カルボキシル基、アルコキシ基、スルホニル基のいずれかを表す。
【0090】
【0091】
中間体(c)は、化合物(a)に、塩基の存在下に化合物(b)、あるいは塩基と還元剤の存在下に化合物(b’)を作用させることによって得ることができる。
【0092】
中間体(c)の合成に際して、有機溶剤としては、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトン、水等を単独あるいは組み合わせて使用することができる。
塩基としては、トリエチルアミン、ピリジン、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、カリウムtert-ブトキシド等を単独あるいは組み合わせて使用することができる。
還元剤としては、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(ロンガリット)、亜ジチオン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム等のジスルフィド結合を還元してチオールを与える還元剤を単独あるいは組み合わせて使用することができる。
【0093】
化合物(a)のYの全てと化合物(b)および化合物(b’)の「R2-S」の部分が置き換わることにより、中間体(c)が得られる。その置き換えは逐次的に進行するので、全部置き換わることを適当な方法で確認した上で反応を停止させる。中間体(c)への反応状況を確認するための方法としては、薄層クロマトグラフ、液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフ、核磁気共鳴法測定、赤外吸収測定などを挙げることができる。
中間体(c)の純度を高めるために、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフを使用することも可能である。
【0094】
このようにして得られた中間体(c)とリンカー基Lを有する化合物(d)を反応させることにより、前駆体(f)が得られる。(c)と(d)の連結反応は、酸性、塩基性、いずれの条件で行われてもよい。また、金属触媒を使用したクロスカップリング反応やラジカルカップリングを使用することもできる。化合物(d)の代わりに(d’)を用いる方法でも、前駆体(f)を合成できる。前駆体(f)のX1に硫黄、または置換基を有してもよい窒素原子等を導入する場合、水酸基、アミノ基およびメルカプト基等から選ばれるX3を有する求核剤(e)を反応させることによって、前駆体(f)が合成可能である。この際、中間体(c)の水酸基をハロゲン原子、スルホン酸エステル、アシル基などの脱離基に変換後に、求核剤(e)を作用させて前駆体(f)を得る方法が利用できる。
中間体(c)の場合と同様、前駆体(f)の純度を高めるために、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフを使用すること、あるいは適当な溶剤を使用した再結晶も可能である。
【0095】
前駆体(f)と、トリエチルアミン、ピリジンまたはイミダゾール等の有機塩基性化合物あるいは炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基性化合物を単独あるいは組み合わせて共存させたところに、(メタ)アクリレート化剤(g-1)(塩化アクリロイル、アクリル酸無水物、アクリル酸エステルなど)とを作用させることにより、化合物(1A)を得ることができる。
この際、有機溶剤としてはジメトキシエタン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド等を単独あるいは組み合わせて使用することができる。
【0096】
中間体(c)及び前駆体(f)の場合と同様に、化合物(1A)の純度を高めるために、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフを使用したり、適当な溶剤を使用した再結晶を行ったりすることも可能である。
【0097】
化合物(1A)は、ハロゲン原子など脱離基を4つ有する化合物(j)からも合成可能である。水酸基、アミノ基およびメルカプト基等から選ばれる基を有する求核剤(e)、及びチオール化合物(b)あるいはジスルフィド化合物(b’)をカップリングさせることによって、前駆体(f)を合成できる。この場合、反応順序に制限はなく、任意の順番、任意の方法で合成すればよい。前駆体(f)に(g-1)を作用させることによって化合物(1A)が合成できるのは、上記と同様である。
化合物(j)から化合物(h-2)およびチオール化合物(b)あるいはジスルフィド化合物(b’)を任意の順番、任意の方法でカップリングさせることによって得られる化合物(i)に対して、(メタ)アクリル酸(g-3)を作用させることによっても、化合物(1A)を合成できる。
【0098】
【0099】
<式(1)においてn=1である場合の合成例>
ペンタエリスリトール骨格にYを3個有する化合物(a)、水酸基、アミノ基及びメルカプト基から選ばれる基とYをそれぞれ1個ずつ有する化合物(k)、チオ化合物(b)、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(g-2)を公知の種々の方法を組み合わせることにより、本発明の化合物を合成することができる。例えば、化合物(a)、化合物(k)、化合物(b)、化合物(g-2)を順次カップリングさせることにより、化合物(1B)を合成できる。これらのカップリング反応の順序に制限はなく、任意の順序、任意の方法で行えばよい。
【0100】
【0101】
2.本発明の重合性組成物について
本発明の重合性組成物は、式(1)で表される本発明の化合物と重合開始剤を含有する。
重合開始剤により、式(1)で表される本発明の化合物の重合性官能基である(メタ)アクリル基が重合反応を起こし、本発明の重合体を得ることができる。
【0102】
2-1.重合開始剤
重合開始剤の種類は特に限定されず、重合方法に応じて、公知の重合開始剤の中から適宜選択すればよい。また重合方法にも限定はなく、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、部分重合法等の公知の方法で重合することができる。
【0103】
本発明の重合性組成物に含まれる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、レドックス系重合開始剤、アニオン重合開始剤およびカチオン重合開始剤などが例示される。その他、光照射により活性種であるカチオンを発生する光カチオン重合開始剤も使用できる。
なお、後述する重合開始剤の例示する中には、一般に重合触媒と称されるものも含んでいる。
【0104】
2-1-1.ラジカル重合開始剤
<光重合開始剤>
本発明の重合性組成物の重合を補助する光重合開始剤は、公知の光ラジカル重合開始剤であれば、何れを用いることも可能である。例としては、アゾ系化合物、アジド系化合物、有機過酸化物、有機硼素酸塩、オニウム塩類、ビスイミダゾール誘導体、チタノセン化合物、ヨードニウム塩類、有機チオール化合物、ハロゲン化炭化水素誘導体、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ヒドロキシベンゼン類、チオキサントン類、アントラキノン類、ケタール類、アシルフォスフィンオキサイド類、スルホン化合物類、カルバミン酸誘導体類、スルホンアミド類、トリアリールメタノール類、オキシムエステル類等が用いられる。中でも、光重合開始剤としては、相溶性、入手容易性などの観点からベンゾフェノン類、アシルフォスフィンオキサイド化合物、オキシムエステル化合物等が好ましい。
【0105】
光重合開始剤の具体例としては、ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエイト、4-フェニルベンゾフェノン、t-ブチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパノン}、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2-メチル-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノ-1-プロパノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、2-ヒドロキシ-1-{4-〔4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン及びメチルベンゾイルホルメート、1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]-1,2-オクタンジオン、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)エタノン等が挙げられる。
【0106】
これらの光重合開始剤は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0107】
本発明の重合性組成物中の光重合開始剤の含有量は、重合性組成物中のすべてのラジカル重合可能な化合物の合計を100質量部としたとき、通常0.01質量部以上、好ましくは0.02質量部以上、さらに好ましくは0.05質量部以上である。その上限は、通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。光重合開始剤の添加量が多すぎると、重合が急激に進行し、硬化体の複屈折を大きくするだけでなく色相も悪化するおそれがある。一方、少なすぎると重合性組成物が充分に重合しないおそれがある。
【0108】
<熱重合開始剤>
本発明の重合性組成物の重合を補助する熱重合開始剤としては、公知の熱ラジカル重合開始剤であれば、何れを用いることも可能である。例えば、有機過酸化物類及びアゾ化合物類が挙げられる。中でも、重合反応で得られる重合体中に気泡が生じにくいという観点から、有機過酸化物類が好ましい。
【0109】
有機過酸化物の具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド;1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール;1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド;ジラウロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート;及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、1,1,3,3-テトラメチルブチル-2-エチルヘキサノエート等のパーオキシエステルが挙げられる。
【0110】
アゾ化合物の具体例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-1-シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート、4,4’-アゾビス-4-シアノバレリック酸、及び、2,2’-アゾビス-(2-アミジノプロパン)ジハイドロクロライドが挙げられる。
【0111】
これらの熱重合開始剤は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0112】
本発明の重合性組成物中の熱重合開始剤の含有量は、重合性組成物中のすべてのラジカル重合可能な化合物の合計を100質量部としたとき、通常0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは0.8質量部以上である。その上限は、通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。熱重合開始剤が多すぎると重合が急激に進行し、得られる重合体の光学的均一性を損なうだけでなく色相も悪化するおそれがある。一方、少なすぎると熱重合が充分に進行しないおそれがある。
【0113】
光重合開始剤と熱重合開始剤とを併用する場合、その質量比は、通常「100:1」~「1:100」(「光重合開始剤:熱重合開始剤」、以下、本段落において同様。)、好ましくは「10:1」~「1:10」である。熱重合開始剤が少なすぎると重合が不充分となる場合があり、多すぎると着色のおそれがある。
【0114】
2-1-2.レドックス系重合開始剤
レドックス系重合開始剤とは、過酸化物と還元剤の組み合わせによるレドックス反応を利用したラジカル開始剤であり、低温でもラジカルを発生させることができ、通常、乳化重合などで利用される。
【0115】
レドックス系重合開始剤の具体例としては、過酸化物としてのジベンゾイルパーオキサイドに、還元剤としてのN,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジン等の芳香族3級アミン類との併用系;過酸化物としてのハイドロパーオキサイドと還元剤としての金属石鹸類との併用系;過酸化物としてのハイドロパーオキサイドと還元剤としてのチオ尿素類との併用系等が挙げられる。
水溶性レドックス系重合開始剤では、過硫酸塩、過酸化水素、ヒドロペルオキシドのような過酸化物を、水溶性の無機還元剤(Fe2+やNaHSO3など)あるいは有機還元剤(アルコール、ポリアミンなど)と組み合わせて用いる。
【0116】
本発明の重合性組成物中のレドックス系重合開始剤の含有量の好適範囲は、熱重合開始剤と同じである。
【0117】
2-1-3.アニオン重合開始剤
本発明の重合性組成物に用いられるアニオン重合開始剤としては、アルカリ金属, n-ブチルリチウム、ナトリウムアミド、ナトリウムナフタレニド、グリニャール試薬、リチウムアルコキサイド、アルカリ金属ベンゾフェノンケチルなどが例示される。これらは、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0118】
2-1-4.カチオン重合開始剤
本発明の重合性組成物に用いられるカチオン重合開始剤としては、過塩素酸、硫酸、トリクロロ酢酸などのブレンステッド酸類;三フッ化ホウ素、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、四塩化スズなどのルイス酸類;ヨウ素、クロロトリフェニルメタンなどが例示される。これらは何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0119】
本発明の重合性組成物中のアニオン重合開始剤もしくはカチオン重合剤の量は、重合性組成物中のすべてのアニオンまたはカチオン重合可能な化合物の合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上である。その上限は、通常5質量部以下、好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。アニオンまたはカチオン重合開始剤が0.001質量部より少ないと充分な反応が起こらず、5質量部を越えて配合すると可使時間と重合速度の両立が困難となる。
【0120】
2-1-5.光カチオン重合開始剤
本発明における光カチオン重合開始剤とは、光によってカチオン種を発生させる開始剤のことである。光カチオン重合開始剤としては、光照射によってカチオン種を発生させる化合物であれば特に限定されないが、一般的にはオニウム塩がよく知られている。オニウム塩としてはルイス酸のジアゾニウム塩、ルイス酸のヨウドニウム塩、ルイス酸のスルホニウム塩などが挙げられる。具体的には、四フッ化ホウ素のフェニルジアゾニウム塩、六フッ化リンのジフェニルヨウドニウム塩、六フッ化アンチモンのジフェニルヨウドニウム塩、六フッ化ヒ素のトリ-4-メチルフェニルスルホニウム塩、四フッ化アンチモンのトリ-4-メチルフェニルスルホニウム塩等が挙げられる。好ましくは芳香族スルホニウム塩が用いられる。
【0121】
光カチオン重合開始剤の具体例としては、S,S,S’,S’-テトラフェニル-S,S’-(4、4’-チオジフェニル)ジスルホニウムビスヘキサフルオロフォスフェート、ジフェニル-4-フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル-4-フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられ、例えばダウ・ケミカル製、商品名:UVI6992、サンアプロ社製 商品名:CPI-100P、サンアプロ社製 商品名:CPI-101A、サンアプロ社製 商品名:CPI-200K、ビーエ-エスエフ社製 商品名:イルガキュア270などが例示される(イルガキュアは、ビーエーエスエフ社の登録商標)。
【0122】
これらの光カチオン重合開始剤は何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0123】
本発明の重合性組成物中の光カチオン重合開始剤の量は、重合性組成物中のすべての光カチオン重合可能な化合物の合計100質量部に対して好ましくは0.02質量部以上20質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上10質量部以下である。光カチオン重合開始剤が0.02質量部より少ないと充分な反応が起こらず、20質量部を越えて配合すると可使時間と重合速度の両立が困難となる。
【0124】
光カチオン重合開始剤の使用においては、前述のカチオン重合開始剤を併用してもよい。その場合、重合性組成物中のカチオン重合性化合物の100質量部に対し、カチオン重合開始剤を通常0.1~10質量部、好ましくは1~5質量部の範囲で使用する。カチオン重合開始剤の使用量が少なすぎると重合速度が遅くなり、一方、多すぎると得られる重合体の物性が低下するおそれがある。
【0125】
また光カチオン重合開始剤の使用においては光カチオン重合増感剤を併用することもできる。光カチオン重合増感剤とは、光カチオン重合に用いられる光源の照射光と光カチオン重合開始剤の吸収波長がうまくマッチングしない場合に、光カチオン重合増感剤を併用して照射光のエネルギーを効率よく光カチオン重合開始剤に伝える処方であり、メトキシフェノール等のフェノール系化合物(特開平5-230189号公報)、チオキサントン化合物(特開2000-204284号公報)、ジアルコキシアントラセン化合物(特開2000-119306号公報)などが知られている。
【0126】
光カチオン重合増感剤は、光カチオン重合開始剤の1質量部に対し、通常0.2~5質量部、好ましくは0.5~1質量部の範囲で使用する。光カチオン重合増感剤が少なすぎると、増感効果が発現し難くなる場合があり、一方、多すぎると重合体の物性が低下するおそれがある。
【0127】
2-2.重合性化合物について
本発明の重合性組成物に含有される重合性化合物として、式(1)で表される本発明の化合物の何れか1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で含んでいてもよい。
【0128】
本発明の重合性組成物は、本発明の化合物以外の他の重合性化合物を含んでいてもよい。
【0129】
本発明の重合性組成物中の本発明の化合物の含有量は、本発明の重合性組成物の全固形分に対する比率で、1質量%以上、99質量%以下、中でも5質量%以上で、95質量%以下であることが好ましい。本発明の化合物の含有割合が1質量%未満では、本発明の化合物を用いることによる効果が充分に発揮されず、一方で99質量%を超えると硬化性が低下するである傾向にある。
【0130】
他の重合性化合物の例としては、カチオン重合性モノマー、アニオン重合性モノマー、ラジカル重合性モノマー等が挙げられる。これら重合性化合物は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。また、1分子中に2つ以上の重合性官能基を有する重合性化合物(多官能モノマーと称することがある)を用いることもできる。多官能モノマーを用いた場合は重合体内部に架橋構造が形成されるため、熱安定性や耐侯性や耐溶剤性などを高めることもできる。
【0131】
本発明の重合性組成物が本発明の化合物以外の他の重合性化合物を含有する場合、その含有量は、本発明の重合性組成物の全固形分に対する比率で、0.1質量%以上、10質量%以下、中でも0.3質量%以上、5質量%以下であることが好ましい。他の重合性化合物の含有割合が0.1質量%未満では、その添加による特性付与効果が充分に発揮されず、一方で5質量%を超えると光学特性や強度を損なう等の問題が生じやすい傾向にある。
【0132】
<カチオン重合性モノマー>
カチオン重合性モノマーの例としては、オキシラン環を有する化合物、スチレンおよびその誘導体、ビニルナフタレンおよびその誘導体、ビニルエーテル類、N-ビニル化合物、オキセタン環を有する化合物等を挙げることができる。
中でも、少なくともオキセタン環を有する化合物を用いることが好ましく、さらには、オキセタン環を有する化合物と共にオキシラン環を有する化合物を併用することが好ましい。
【0133】
オキシラン環を有する化合物としては、1分子内に2個以上のオキシラン環を含有するプレポリマーを挙げることができる。
このようなプレポリマーの例としては、脂環式ポリエポキシ類、多塩基酸のポリグリシジルエステル類、多価アルコールのポリグリシジルエーテル類、ポリオキシアルキレングリコールのポリグリシジルエーテル類、芳香族ポリオールのポリグリシジルエテーテル類、芳香族ポリオールのポリグリシジルエーテル類の水素添加化合物類、ウレタンポリエポキシ化合物およびエポキシ化ポリブタジエン類等が挙げられる。
【0134】
スチレンおよびその誘導体の例としては、スチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、β-メチルスチレン、p-メチル-β-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メトキシ-β-メチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0135】
ビニルナフタレンおよびその誘導体の例としては、1-ビニルナフタレン、α-メチル-1-ビニルナフタレン、β-メチル-1-ビニルナフタレン、4-メチル-1-ビニルナフタレン、4-メトキシ-1-ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0136】
ビニルエーテル類の例としては、イソブチルエーテル、エチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、p-メチルフェニルビニルエーテル、p-メトキシフェニルビニルエーテル等が挙げられる。
【0137】
N-ビニル化合物の例としては、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルピロリドン、N-ビニルインドール、N-ビニルピロール、N-ビニルフェノチアジン等が挙げられる。
【0138】
オキセタン環を有する化合物の例としては、特開2001-220526号公報、特開2001-310937号公報等に記載されている、公知の各種のオキセタン化合物が挙げられる。
【0139】
これらのカチオン重合性モノマーは、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0140】
<アニオン重合性モノマー>
アニオン重合性モノマーの例としては、炭化水素モノマー、極性モノマー等が挙げられる。
【0141】
炭化水素モノマーの例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ブタジエン、イソプレン、ビニルピリジン、ビニルアントラセン、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0142】
極性モノマーの例としては、メタクリル酸エステル類(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル等);アクリル酸エステル類(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等);ビニルケトン類(例えば、メチルビニルケトン、イソプロピルビニルケトン、シクロヘキシルビニルケトン、フェニルビニルケトン等);イソプロペニルケトン類(例えば、メチルイソプロペニルケトン、フェニルイソプロペニルケトン等);その他の極性モノマー(例えば、アクリロニトリル、アクリルアミド、ニトロエチレン、メチレンマロン酸エステル、シアノアクリル酸エステル、シアン化ビニリデン等)などが挙げられる。
【0143】
これらのアニオン重合性モノマーは、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0144】
<ラジカル重合性モノマー>
ラジカル重合性モノマーとは、1分子中に1つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物であり、例としては、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類等が挙げられる。
【0145】
(メタ)アクリル酸エステル類の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(n-またはi-)プロピル(メタ)アクリレート、(n-、i-、sec-またはt-)ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アダマンチル、クロロエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシベンジル(メタ)アクリレート、クロロベンジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシベンジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシフェネチル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシフェネチル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、クロロフェニル(メタ)アクリレート、スルファモイルフェニル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-(ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、フェノールEO変性(メタ)アクリレート、フェニルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、パラクミルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、N-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、ビスフェノールF EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、ジブロモフェニル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ここで「EO」は「エチレンオキシド」を意味する。
【0146】
(メタ)アクリルアミド類の例としては、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ベンジル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-フェニル(メタ)アクリルアミド、N-トリル(メタ)アクリルアミド、N-(ヒドロキシフェニル)(メタ)アクリルアミド、N-(スルファモイルフェニル)(メタ)アクリルアミド、N-(フェニルスルホニル)(メタ)アクリルアミド、N-(トリルスルホニル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-フェニル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル-N-メチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0147】
ビニルエステル類の例としては、ビニルアセテート、ビニルブチレート、ビニルベンゾエート、安息香酸ビニル、t-ブチル安息香酸ビニル、クロロ安息香酸ビニル、4-エトキシ安息香酸ビニル、4-エチル安息香酸ビニル、4-メチル安息香酸ビニル、3-メチル安息香酸ビニル、2-メチル安息香酸ビニル、4-フェニル安息香酸ビニル、ピバル酸ビニル等が挙げられる。
【0148】
スチレン類の例としては、スチレン、p-アセチルスチレン、p-ベンゾイルスチレン、2-ブトキシメチルスチレン、4-ブチルスチレン、4-sec-ブチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン、ジクロロスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、p-エトキシスチレン、2-エチルスチレン、2-メトキシスチレン、4-メトキシスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-フェノキシスチレン、p-フェニルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0149】
これらのラジカル重合性モノマーは、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0150】
上記例示したカチオン重合性モノマー、アニオン重合性モノマー、ラジカル重合性モノマーは、何れを使用することもでき、また、2種以上を併用してもよい。
樹脂マトリックスを形成する反応を阻害し難いという理由から、ホログラム記録媒体用には、式(1)で表される本発明の化合物と併用するその他の重合性化合物としては、ラジカル重合性モノマーを使用することが好ましい。
【0151】
2-3 その他の添加成分
本発明の重合性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を配合することができる。
【0152】
他の成分としては、例えば、溶剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、増感剤、連鎖移動剤、消泡剤、重合禁止剤、有機物または無機物などからなる任意の充填剤、拡散剤、顔料、蛍光体等の波長変換材料等の各種添加剤が挙げられる。
【0153】
本発明の重合性組成物は、粘度調整のために溶剤を含有していてもよい。
【0154】
溶剤の具体例としては、重合性組成物の物性に応じて、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類;ヘキサン、ペンタン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル類;ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酪酸エチルなどのエステル類;アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類;メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトールなどのカルビトール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテルなどのプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルエステル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなどのアミド類;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;N-メチルピロリドンなどの有機溶媒が挙げられる。
【0155】
これらの溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用できる。また、重合方法(乳化重合、懸濁重合など)によっては、水を用いることもできる。
溶媒(又は分散媒)を用いる場合、その量には特に制限はなく、重合法、加工法、用途に応じて、好適な粘度の重合性組成物となるように調整して使用すればよい。
【0156】
本発明においては、得られる重合体の耐熱黄変性を良好とするために、重合性組成物中に、添加剤として酸化防止剤を配合することが好ましい。
【0157】
酸化防止剤の具体例としては、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリエチレングリコールビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサンジオールビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等のフェノール系酸化防止剤;及びトリフェニルホスファイト、トリスイソデシルホスファイト、トリストリデシルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系酸化防止剤が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用することができる。
【0158】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用することが好ましい。フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤の好ましい組み合わせとしては、フェノール系酸化防止剤としてテトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネートから選ばれる少なくとも1種と、リン系酸化防止剤としてトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトとの組み合わせが挙げられる。
【0159】
本発明の重合性組成物中の酸化防止剤の配合量としては、得られる重合体の耐熱黄変性を良好とする点で、重合性組成物の合計量100質量部に対して0.01~5質量部が好ましく、0.05~3質量部がより好ましく、0.1~2質量部が更に好ましい。
【0160】
2-4 重合性組成物の製造方法
本発明の重合性組成物は、各成分を混合して製造してもよいし、重合開始剤以外の成分を予め混合しておき、重合反応直前に重合開始剤を添加して製造してもよい。
【0161】
3.本発明の重合性組成物の重合方法
本発明の重合性組成物の重合方法は、特に限定されないが、活性エネルギー線を照射して重合させる方法や、加熱して重合させる方法がある。
【0162】
3-1.重合開始法(活性エネルギー線)
本発明の重合性組成物を光ラジカル重合させる場合には活性エネルギー線を照射して実施する。
使用される活性エネルギー線としては、電子線、または紫外から赤外の波長範囲の光が好ましい。光源としては、例えば、活性エネルギー線が紫外線であれば超高圧水銀光源またはメタルハライド光源が、可視光線であればメタルハライド光源またはハロゲン光源が、赤外線であればハロゲン光源が使用できる。この他にもレーザー、LEDなどの光源も使用できる。
【0163】
活性エネルギー線の照射量は、光源の種類、塗膜の膜厚などに応じて適宜設定されるが、好ましくは式(1)で表される本発明の化合物およびその他の重合化合物の重合性官能基の総量の反応率が80%以上、より好ましくは90%以上になるように適宜設定される。反応率は、赤外吸収スペクトルにより、反応前後の重合性官能基の吸収ピーク強度の変化から算出される。
【0164】
活性エネルギー線を照射して重合させた後、必要に応じて加熱処理またはアニール処理をして重合をさらに進行させてもよい。その際の加熱温度は、80~200℃の範囲が好ましい。加熱時間は10~60分の範囲が好ましい。
【0165】
3-2.重合開始法(加熱)
本発明の重合性組成物の重合のために加熱処理する場合は、加熱温度は80~200℃の範囲が好ましく、より好ましくは100~150℃の範囲である。加熱温度が80℃より低いと、加熱時間を長くする必要があり経済性に欠ける傾向にあり、加熱温度が200℃より高いと、エネルギーコストがかかる上に加熱昇温時間および降温時間がかかるため、経済性に欠ける傾向がある。
【0166】
4.重合体
本発明の重合性組成物を重合させてなる本発明の重合体について以下に説明する。
【0167】
4-1.屈折率
一般に、重合反応によって全体の密度が向上するので、重合体の屈折率はその前駆体である重合前の化合物(モノマーと称される)よりも高くなる傾向がある。高い屈折率を有するモノマーを用いて重合反応を充分に進行させることで、得られる重合体の屈折率を高めることができるので、モノマーの分子構造設計により重合体の屈折率を向上させることが重要と考えられている。
【0168】
屈折率は短い波長の照射光で評価すると大きい値を示すが、短波長で相対的に大きい屈折率を示すサンプルは、長波長でも相対的に大きい屈折率を示し、その関係が逆転することはない。従って、一定の波長で屈折率を評価して比較することにより、当該材料の本質的な屈折率の大小を比較可能である。本発明では、587nmの照射光波長での値を基準とした。
【0169】
本発明の重合体の屈折率は1.55以上であることが好ましく、1.60以上であることがより好ましく、1.63以上であることが特に好ましく、1.65以上であることが最も好ましい。本発明の重合体の屈折率の上限は特に限定はないが、通常2.0以下である。
【0170】
本発明の重合体をレンズ等の光学材料として使用する場合、屈折率が1.55よりも小さいと光学レンズ等の中央部が厚くなり、プラスチックの特徴である軽量性が損なわれてしまうことがあり好ましくない。また、レンズ等の精密光学部材の開発においては、複数の屈折率を有する光学材料を組み合わせることで、部材に適した光学特性を実現させることも重要である。この観点から、屈折率1.63を超える重合体は特に有用な光学部材向け材料といえる。
【0171】
本発明の重合体をホログラム記録媒体の記録層材料として用いる場合、本発明の重合体の屈折率は、通常1.68以上、1.78以下、好ましくは1.77以下の範囲である。屈折率が1.68より小さいと、回折効率が低く、多重度が充分でない。また、屈折率が1.78より大きいと、マトリックス樹脂との屈折率の差が大きくなりすぎて散乱が大きくなることにより透過度が低下して、記録や再生に際してより大きなエネルギーを要することとなる。
【0172】
4-2.ガラス転移温度
本発明の重合体のガラス転移温度は90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることがさらに好ましく、120℃以上であることが特に好ましく、また、250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。この範囲を下回ると、使用環境下において、光学物性が設計値から変化してしまうおそれがあり、実用的に必要な耐熱性を満たさない可能性がある。また、この範囲を上回ると、重合体の加工性が低下し、良好な外観や寸法精度の高い成形体が得られない可能性があるほか、重合体が脆くなって機械強度が低下し、成形体の取り扱い性が悪化するおそれがある。
【0173】
5.光学材料及び光学部品
本発明の化合物、重合性組成物、及び重合体は、高屈折率、易加工性、低い収縮率といった性能を有することから、各種光学材料及び光学部品に適用することができる。
【0174】
光学材料としては、光学用オーバーコート、ハードコート剤、光学部材用接着剤、光ファイバー用樹脂、アクリル系樹脂改質剤等を挙げることができる。
光学部品としては、例えば、レンズ、フィルター、回折格子、プリズム、光案内子、表示装置用カバーガラス、フォトセンサー、フォトスイッチ、LED、発光素子、光導波路、光分割器、光ファイバー接着剤、表示素子用基板、カラーフィルタ用基板、タッチパネル用基板、偏光板、ディスプレイバックライト、導光板、反射防止フィルム、視野角拡大フィルム、光記録、光造形、光レリーフ印刷等を挙げることができる。
また、これらの層として用いることもできる。例えば、ディスプレイ保護膜等を挙げることができる。
【0175】
これらのなかでも特に、本発明の重合体の高屈折率特性から、プラスチックレンズに好ましく適用できる。レンズとしては、カメラ(車載カメラ、デジタルカメラ、PC用カメラ、携帯電話用カメラ、監視カメラ等)の撮像用レンズ、メガネレンズ、光ビーム集光レンズ、光拡散用レンズ等が挙げられる。
本発明の重合体を用いたレンズでは、必要に応じ反射防止、高硬度性付与、耐摩耗性向上、耐薬品性向上、防曇性付与、あるいは、ファッション性付与などの改良を行うため、表面研磨、帯電防止処理、ハードコート処理、無反射コート処理、染色処理等の物理的あるいは化学的処理を施すことができる。
【0176】
6.ホログラム記録媒体
本発明の重合性組成物は、ホログラム記録媒体の記録層に好適に用いることができる。その際、本発明の重合性組成物は、本発明の化合物以外に、マトリックス樹脂、光重合開始剤、及びラジカル捕捉剤を含む光反応性組成物であることが好ましい。以下、ホログラム記録媒体向け材料として使用する際の詳細について記述する。
【0177】
6-1.マトリックス樹脂について
本発明の重合性組成物はマトリックス樹脂を含むことが好ましい。特に、ホログラム記録媒体の記録層を構成するマトリックス樹脂は、光の照射によって化学的かつ物理的に大きく変化しない有機物であり、主に有機化合物の重合物で構成される。
【0178】
マトリックス樹脂は、前述した重合性化合物や後述する光重合開始剤等と共に本発明の重合性組成物を構成するため、重合性化合物や光重合開始剤等との相溶性に優れることが強く求められる。マトリックス樹脂と上記他の成分との相溶性が低いと、材料同士の間で界面を作り、界面で光が屈折したり反射することで必要でない部分に光が漏れる原因となるので、干渉縞が歪んだり切れたりして不適当な部分に記録されることにより情報の劣化を起す可能性がある。マトリックス樹脂と上記他の成分との相溶性は、例えば、特許第3737306号公報などに記載があるように、サンプルに対して、透過する光と異なる方向に検出器を設置することにより得られる散乱光強度などに基づいて評価することができる。
【0179】
本発明の重合性組成物のマトリックス樹脂としては、重合性組成物中では溶剤に溶解可能な複数の材料からなり、使用状態に形成後にそれらを三次元架橋させた樹脂を用いてもよく、例えば以下に説明する熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂が挙げられる。
【0180】
三次元架橋させた樹脂は溶剤不溶性であり、常温で液状である重合性化合物と、重合性化合物に対し反応活性な化合物との反応硬化物である。三次元架橋させた樹脂は、物理的な障害となるため、記録時における体積変化を抑制する。即ち、記録後の記録層では、明部は膨張し暗部は収縮し、ホログラム記録媒体表面に凹凸が生じてしまう傾向にある。この体積変化を抑制するために、記録層には三次元架橋させた樹脂マトリックスを含む重合性組成物を用いるのがより好ましい。
この中で、支持体との密着性の観点で、マトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂が好ましい。以下、マトリックス樹脂として使用できる樹脂材料について詳述する。
【0181】
6-1-1.熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂の具体的な材料の例として、塩素化ポリエチレン、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、メチルメタクリレートと他のアクリル酸アルキルエステルとの共重合体、塩化ビニルとアクリロニトリルとの共重合体、ポリ酢酸ビニル樹脂(PVAC)、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルピロリドン、エチルセルロールやニトロセルロールなどといったセルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂などを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0182】
これらの熱可塑性樹脂の溶剤としては、これらを溶解するものであれば特に制約はないが、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類などを挙げることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0183】
6-1-2.熱硬化性樹脂
マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、硬化温度は架橋剤や触媒の種類で多様性がある。
室温で硬化する官能基の組み合わせの例としては、エポキシとアミン、エポキシとチオール、イソシアネートとアミンが代表的である。また、触媒を使う例としてエポキシとフェノール、エポキシと酸無水物、イソシアネートとポリオールが代表的である。
【0184】
前者は、混合すると直ちに反応するので簡便ではあるが、ホログラム記録媒体のような成形を伴う場合、時間的な余裕がないために調整が難しい。一方、後者は、触媒の種類と使用量を適宜選ぶことで硬化温度や硬化時間を自由に選べるのでホログラム記録媒体のような成形を伴いながらの硬化には適当である。これらは低分子から高分子、様々な種類の樹脂原料が市販されているので、重合性の反応性化合物や光開始剤との相溶性や基板との密着性等を維持しつつ選ぶことができる。
以下に各原材料について、説明するが、いずれの原材料も、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0185】
<エポキシ>
エポキシとしては、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)テトラメチレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等のポリオールのポリグリシジルエーテル化合物、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-1-メチルシクロヘキシル-3,4-エポキシ-1-メチルヘキサンカルボキシレート等の4~7員環の環状脂肪族基を有する脂環式エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フェノールまたはクレゾールノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。
【0186】
エポキシは、1分子中に2つ以上のエポキシ基を有するものが好ましいが、その種類は特に制限されない。エポキシ基の数が少ないと、マトリックスとして必要な硬さが得られなくなる場合がある。1分子中のエポキシ基の数の上限は特に制限されないが、通常8以下、中でも4以下が好ましい。エポキシ基の数が多過ぎると、エポキシ基の消費に多大な時間を要しマトリックス樹脂の形成に時間がかかり過ぎる場合がある。
【0187】
<アミン>
アミンとしては、第一級アミノ基または第二級アミノ基を含むものを用いることができる。このようなアミン類の例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンやその誘導体等の脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N-アミノエチルピペラジンやその誘導体等の脂環族ポリアミン、m-キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンやその誘導体等の芳香族ポリアミン、ダイマー酸等のジカルボン酸と上述のポリアミンとの縮合物等のポリアミド、2-メチルイミダゾールやその誘導体等のイミダゾール化合物、これら以外にジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジッド等が挙げられる。
【0188】
<チオール>
チオールとしては、1,3-ブタンジチオール、1,4-ブタンジチオール、2,3-ブタンジチオール、1,2-ベンゼンジチオール、1,3-ベンゼンジチオール、1,4-ベンゼンジチオール、1,10-デカンジチオール、1,2-エタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,9-ノナンジチオール等のジチオール、チオコール(東レ・ファインケミカル社製)、jERキュアQX40(三菱ケミカル社製)等のポリチオール等のチオール化合物が挙げられる。中でも、jERキュアQX40等の市販の速硬化性ポリチオールが好適に用いられる。
【0189】
<フェノール>
フェノールとしてビスフェノールA、ノボラック型のフェノール樹脂、レゾール型のフェノール樹脂等が挙げられる。
【0190】
<酸無水物>
酸無水物としては、一官能性の酸無水物として、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸やその誘導体等、二官能性の酸無水物として無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸やその誘導体等が挙げられる。
【0191】
<アミン、チオール、フェノール、酸無水物の使用量>
アミン、チオール、フェノール、酸無水物の使用量は、エポキシ基のモル数に対する割合で、通常0.1当量以上、中でも0.7当量以上、また、通常2.0当量以下、中でも1.5当量以下の範囲が好ましい。アミン、チオール、フェノール、酸無水物の使用量が少な過ぎても多過ぎても、未反応の官能基数が多く、保存安定性を損なってしまう場合がある。
【0192】
<熱硬化性樹脂用重合開始剤>
熱硬化性樹脂を硬化させるための触媒として、硬化温度や硬化時間に応じてアニオン重合開始剤とカチオン重合開始剤を使用することができる。
【0193】
アニオン重合開始剤は、熱または活性エネルギー線照射によってアニオンを発生するものであり、例としてはアミン類等が挙げられる。アミン類の例としては、ジメチルベンジルアミン、ジメチルアミノメチルフェノール、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等のアミノ基含有化合物、およびこれらの誘導体;イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、およびその誘導体等が挙げられる。これらは、硬化温度や硬化時間に応じて1種あるいは複数使用することができる。
【0194】
カチオン重合開始剤は、熱または活性エネルギー線照射によってカチオンを発生するものであり、例としては芳香族オニウム塩等が挙げられる。具体例としては、SbF6-、BF4-、AsF6-、PF6-、CF3SO3-、B(C6F5)4-等のアニオン成分と、ヨウ素、硫黄、窒素、リン等の原子を含む芳香族カチオン成分とからなる化合物が挙げられる。中でも、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルフォニウム塩等が好ましい。これらは、硬化温度や硬化時間に応じて1種あるいは複数使用することができる。
【0195】
これらの熱硬化性樹脂用重合開始剤の使用量は、マトリックス樹脂に対して、通常0.001質量%以上、中でも0.01質量%以上、また、通常50質量%以下、中でも10質量%以下の範囲が好ましい。これらの熱硬化性樹脂用重合開始剤の使用量が過度に少ないと、熱硬化性樹脂用重合開始剤の濃度が低過ぎるため、重合反応に時間がかかり過ぎる場合がある。一方、熱硬化性樹脂用重合開始剤の使用量が過度に多いと、重合反応として、連続的な開環反応を生じなくなる場合がある。
【0196】
<イソシアネート>
イソシアネートとしては、1分子中に2つ以上のイソシアネート基を有するものが好ましいが、その種類は特に制限されない。1分子中のイソシアネート基の数が少ないと、マトリックス樹脂として必要な硬さが得られなくなる場合がある。1分子中のイソシアネート基の数の上限は特に制限されないが、通常8以下、中でも4以下が好ましい。1分子中のイソシアネート基の数が多過ぎると、イソシアネート基の消費に多大な時間を要しマトリックス樹脂の形成に時間がかかり過ぎる場合がある。1分子中のイソシアネート基の数の上限は特に制限されないが、通常20以下程度である。
【0197】
イソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環族イソシアネート;トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレン-1,5’-ジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;およびこれらの多量体等が挙げられ、中でも3~7量体が好ましい。
【0198】
また、この他に、水、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類と上記のイソシアネートとの反応物等やヘキサメチレンジイソシアネートの多量体、若しくはその誘導体を挙げることができる。
イソシアネートの分子量は、数平均分子量で100以上50000以下が好ましく、より好ましくは150以上10000以下、更に好ましくは150以上5000以下である。数平均分子量が過度に小さいと、架橋密度が上がるためにマトリックス樹脂の硬度が高くなりすぎ、記録速度が低下する可能性がある。また、数平均分子量が過度に大きいと、他成分との相溶性が低下したり架橋密度が下がったりするために、マトリックス樹脂の硬度が低くなりすぎ記録内容が消失する場合がある。
【0199】
<ポリオール>
ポリオールとしては、ポリプロピレンポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0200】
(ポリプロピレンポリオール)
ポリプロピレンポリオールは、プロピレンオキシドと、ジオールまたは多価アルコールとの反応によって得られる。ジオールまたは多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。ポリプロピレンポリオールとして市販されているものでは、サンニックスGP-400、GP-1000(いずれも三洋化成社製、商品名)、アデカポリエーテルG400、G700、G1500(いずれもアデカ社製、商品名)等がある。
【0201】
(ポリカプロラクトンポリオール)
ポリカプロラクトンポリオールは、ラクトンと、ジオールまたは多価アルコールとの反応によって得られる。ラクトンとしては、例えば、α-カプロラクトン、β-カプロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-ε-カプロラクトン、β-メチル-ε-カプロラクトン等が挙げられる。
【0202】
ジオールまたは多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0203】
ε-カプロラクトンの反応から得られるポリカプロラクトンポリオールとして市販されているものでは、プラクセル205、プラクセル205U、 プラクセル205UT、プラクセル210、プラクセル220、プラクセル230、プラクセル240、プラクセル303、プラクセル305、プラクセル308、プラクセル312、プラクセル320、プラクセル401、プラクセルL205AL、プラクセルL212AL、プラクセルL220AL、プラクセルL320AL、プラクセルT2103、プラクセルT2205、プラクセルP3403(いずれも株式会社ダイセル製、商品名)等がある。
【0204】
(ポリエステルポリオール)
ポリエステルポリオールとしては、ジカルボン酸またはそれらの無水物とポリオールとを重縮合させて得られたものが挙げられる。
【0205】
ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等が挙げられる。
【0206】
ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0207】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート等がある。ポリエステルポリオールとして市販されているものでは、アデカニューエースFシリーズ、アデカニューエースYシリーズ、アデカニューエースNSシリーズ(アデカ株式会社製、商品名)等、クラレポリオールN-2010、P-4011、P-1020(いずれもクラレ株式会社製、商品名)等がある。
【0208】
(ポリカーボネートポリオール)
ポリカーボネートポリオールとしては、グリコール類とジアルキルカーボネート(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等)との脱アルコール縮合反応で得られるもの、グリコール類とジフェニルカーボネート類との脱フェノール縮合反応で得られるもの、グリコール類とカーボネート類(例えば、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート等)との脱グリコール縮合反応で得られるもの等が挙げられる。
【0209】
グリコール類としては、例えば、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、あるいは、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオールが挙げられる。
【0210】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、1,6-ヘキサンジオールとジエチルカーボネートとの縮合反応によって得られるポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ポリオール、ペンタンジオールとジエチルカーボネートとの縮合反応によって得られるポリ(ペンチレンカーボネート)、1,4-ブタンジオールとジエチルカーボネートとの縮合反応によって得られるポリ(ブチレンカーボネート)等がある。
【0211】
ポリカーボネートポリオールとして市販されているものでは、プラクセルCD CD205、プラクセルCD CD210、プラクセルCD CD220(いずれも株式会社ダイセル製、商品名)等、デュラノールT5651,デュラノールT5652、デュラノールT5650J(いずれも旭化成株式会社製、商品名)等がある。
【0212】
(ポリオールの分子量)
以上に説明したポリオールの分子量は、数平均分子量で100以上50000以下が好ましく、より好ましくは150以上10000以下、更に好ましくは150以上5000以下である。数平均分子量が過度に小さいと、架橋密度が上がるためにマトリックス樹脂の硬度が高くなりすぎ、記録速度が低下する可能性がある。また、数平均分子量が過度に大きいと、他成分との相溶性が低下したり架橋密度が下がったりすることによりマトリックス樹脂の硬度が低くなりすぎ記録内容が消失する場合がある。
【0213】
<その他の成分>
本実施の形態におけるマトリックス樹脂は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、上述の各成分以外に、他の成分を含有していてもよい。
【0214】
このような他の成分としては、例えば、マトリックス樹脂の物性を変える目的で用いられる、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のヒドロキシル基を有する化合物が挙げられる。
【0215】
<ウレタン重合触媒>
イソシアネート及びポリオールの反応を促進するために、適当なウレタン重合触媒を含んでいてもよい。
ウレタン重合触媒の例として、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムパーフルオロ-1-ブタンスルホン酸、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムp-トルエンスルホン酸、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホン酸、(4-ブロモフェニル)ジフェニルスフホニウムトリフラート、(4-t-ブチルフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホン酸、ジフェニルヨードニウムパーフルオロ-1-ブタンスルホン酸、(4-フルオロフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホン酸、ジフェニル-4-メチルフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホン酸、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホン酸、ビス(アルキルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスホン酸などのオニウム塩類、塩化亜鉛、塩化すず、塩化鉄、塩化アルミニウム、BF3などのルイス酸を主成分にした触媒、塩酸、リン酸などのプロトン酸、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルベンジルアミン、ジアザビシクロウンデセンなどのアミン類、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、トリメリット酸1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリルウムなどのイミダゾール類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウムなどの塩基類、ジブチルスズラウレート、ジオクチルスズラウレート、ジブチルスズオクトエートなどのスズ触媒、トリス(2-エチルヘキサノアート)ビスマス、トリベンゾイルオキシビスマスなどのビスマス触媒、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、1,1’-イソプロピリデンジルコノセンジクロリド、テトラキス(2,4-ペンタンジオナト)ジルコニウムなどのジルコニウム触媒などが挙げられる。
【0216】
なかでも、保存安定性の向上のために、ビスマス触媒、ジルコニウム触媒が好ましい。
【0217】
ビスマス系触媒としては、ビスマス元素を含有する触媒であって、イソシアネート及びポリオールの反応を促進する化合物であれば特に制限はない。
ビスマス系触媒の例として、トリス(2-エチルヘキサノアート)ビスマス、トリベンゾイルオキシビスマス、三酢酸ビスマス、トリス(ジメチルジオカルバミン酸)ビスマス、水酸化ビスマス、トリフェニルビスマス(V)ビス(トリクロロアセタート)、トリス(4-メチルフェニル)オキソビスマス(V)、トリフェニルビス(3-クロロベンゾイルオキシ)ビスマス(V)等が挙げられる。
【0218】
中でも触媒活性の点から3価のビスマス化合物が好ましく、カルボン酸ビスマス、一般式Bi(OCOR)3(Rは直鎖または分岐のアルキル基、シクロアルキル基、あるいは置換または無置換の芳香族基)で表されるものがより好ましい。上記のビスマス系触媒は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0219】
ジルコニウム系触媒としては、ジルコニウム元素を含有する触媒であって、イソシアネート及びポリオールの反応を促進する化合物であれば特に制限はない。
その例として、シクロペンタジエニルジルコニウムトリクロリド、デカメチルジルコノセンジクロリド、1,1’-ジブチルジルコノセンジクロリド、1,1’-イソプロピリデンジルコノセンジクロリド、テトラキス(2,4-ペンタンジオナト)ジルコニウム、テトラキス(トリフルオロー2,4-ペンタンジオナト)ジルコニウム、テトラキス(ヘキサフルオロー2,4-ペンタンジオナト)ジルコニウム、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウム-t-ブトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムエトキシド、ビス(エチルアセトアセテート)ジブトキシジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウムジルコニウム、酸化カルシウムジルコニウム、臭化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、フッ化ジルコニウム、2塩化(インデニル)ジルコニウム、炭酸ジルコニウムなどが挙げられる。
【0220】
中でもその他の成分との相溶性の面から有機配位子を有する化合者が好ましく、アルコキシド、又はアセチルアセトナート(2,4-ペンタンジオナト)構造を有する化合物より好ましい。上記のジルコニウム化合物は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0221】
ビスマス系触媒とジルコニウム系触媒はそれぞれ単独で使用してもよく、また混合して使用してもよい。
【0222】
ウレタン重合触媒の使用量は、マトリックス樹脂に対する比率で、通常0.0001質量%以上、中でも0.001質量%以上、また、通常10質量%以下、中でも5質量%以下の範囲が好ましい。ウレタン重合触媒の使用量が過度に少ないと、硬化に時間がかかりすぎる場合がある。一方、使用量が過度に多いと、硬化反応の制御が困難になる場合がある。
【0223】
ウレタン重合触媒を使うことにより室温で硬化させることができるが、温度を上げて硬化させてもよい。この時の温度としては40℃から90℃の間が好ましい。
【0224】
6-1-3.光硬化性樹脂
マトリックス樹脂として光硬化性樹脂を用いる場合、使う波長に応じたマトリックス樹脂用光開始剤を使用して硬化させる必要がある。光照射する間に硬化することで成形や接着に支障を生じる事から、主に作業する温度である室温付近では安定な硬化反応であることが望ましい。この事から考えると、マトリックス樹脂用光開始剤による触媒的な硬化が望ましい選択であると言える。
【0225】
マトリックス樹脂用光開始剤から、光照射によって、カチオン、アニオンの何れかの活性基質が生成する場合が一般的である。よってこれらの活性基質により硬化を起こすものを選んで硬化させてマトリックス樹脂とするのがよいと考えられる。
【0226】
プロトン等のカチオンに対して反応する官能基として、エポキシ基、オキセタニル基を挙げることができる。これらを有する化合物として具体的には、エポキシ基を有するものとして(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)テトラメチレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等のポリオールのポリグリシジルエーテル化合物、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-1-メチルシクロヘキシル-3,4-エポキシ-1-メチルヘキサンカルボキシレート等の4~7員環の環状脂肪族基を有する脂環式エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フェノールまたはクレゾールノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。オキセタニル基を有するものとしてビスフェノールAの2-エチル-2-オキセタニルエーテル、1,6-ビス(2-エチル-2-オキセタニルオキシ)へキサン等を挙げることができる。(尚、ここで「(ポリ)エチレングリコール」等の記載は、「エチレングリコール」とその重合体の「ポリエチレングリコール」との両方をさす。)
【0227】
アニオンに対して反応する官能基として、エポキシ基やエピスルフィド基を挙げることができる。エピスルフィド基を有する化合物として具体的には、フェニルエピスルフィド、ビスフェノールAのジエピスルフィドメチルエーテル等を挙げることができる。
【0228】
上述したマトリックス樹脂を光硬化させる場合に使用されるマトリックス樹脂用光開始剤の使用量は、重合性化合物に対する比率で、通常0.01質量%以上、中でも0.1質量%以上、また、通常1質量%以下、中でも0.5質量%以下の範囲が好ましい。マトリックス樹脂用光開始剤の使用量が過度に少ないと、硬化に時間がかかりすぎる場合がある。一方、使用量が過度に多いと、硬化反応の制御が困難になる場合がある。
【0229】
また、特にホログラム記録材料として用いた場合、記録するときにも光を照射するので硬化する時の波長と記録する時の波長が異なることが重要であり、波長の差としては小さくとも10nm、好ましくは30nmである。マトリックス樹脂用光開始剤の選択は概ね開始剤の吸収波長から予想することができる。
【0230】
6-2.光重合開始剤
本発明の化合物の重合を補助する光重合開始剤は、公知の光ラジカル重合開始剤であれば、何れを用いることも可能である。例としては、アゾ系化合物、アジド系化合物、有機過酸化物、有機硼素酸塩、オニウム塩類、ビスイミダゾール誘導体、チタノセン化合物、ヨードニウム塩類、有機チオール化合物、ハロゲン化炭化水素誘導体、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ヒドロキシベンゼン類、チオキサントン類、アントラキノン類、ケタール類、アシルフォスフィンオキサイド類、スルホン化合物類、カルバミン酸誘導体類、スルホンアミド類、トリアリールメタノール類、オキシムエステル類等が用いられる。中でも、光重合開始剤としては、可視領域の光で重合反応が生じるという理由から、チタノセン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、オキシムエステル化合物等が好ましい。
【0231】
6-2-1.チタノセン化合物
光重合開始剤としてチタノセン化合物を使用する場合、その種類は特に限定はされないが、例えば、特開昭59-152396号公報、特開昭61-151197号公報等に記載されている各種のチタノセン化合物の中から、適宜選択して使用することができる。
【0232】
チタノセン化合物の具体例としては、ジ-シクロペンタジエニル-Ti-ジ-クロライド、ジ-シクロペンタジエニル-Ti-ビス-フェニル、ジ-シクロペンタジエニル-Ti-ビス-2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニ-1-イル、ジシクロペンタジエニル-Ti-ビス-2,3,5,6-テトラフルオロフェニ-1-イル、ジ-シクロペンタジエニル-Ti-ビス-2,4,6-トリフルオロフェニ-1-イル、ジ-シクロペンタジエニル-Ti-ビス-2,6-ジ-フルオロフェニ-1-イル、ジ-シクロペンタジエニル-Ti-ビス-2,4-ジ-フルオロフェニ-1-イル、ジ-メチルシクロペンタジエニル-Ti-ビス-2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニ-1-イル、ジ-メチルシクロペンタジエニル-Ti-ビス-2,3,5,6-テトラフルオロフェニ-1-イル、ジ-メチルシクロペンタジエニル-Ti-ビス-2,6-ジフルオロフェニ-1-イル、ジ-シクロペンタジエニル-Ti-ビス-2,6-ジフルオロ-3-(ピリ-1-イル)-フェニ-1-イル等が挙げられる。
【0233】
6-2-2.アシルフォスフィンオキサイド化合物
アシルフォスフィンオキサイド化合物の具体例としては、1分子中に光による開烈点を1ヶ所しか持たない単官能開始剤、1分子中に光による開烈点を2ヵ所有する2官能性開始剤が挙げられる。
【0234】
単官能開始剤としては、例えば、トリフェニルフォスフィンオキサイド、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2,6-ジクロルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0235】
2官能性開始剤としては、例えば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6ジクロルベンゾイル)-4-プロピルフェニルフォスフィンオイサイド、ビス(2,6ジクロルベンゾイル)-2,5ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0236】
6-2-3.オキシムエステル系化合物
オキシムエステル系化合物の具体例としては、1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]-1,2-オクタンジオン、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)エタノン、4-(アセトキシイミノ)-5-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾールー3-イル]-5-オキソペンタン酸メチル、1-(9-エチル-6-シクロヘキサノイル-9H-カルバゾール-3-イル)-1-(O-アセチルオキシム)グルタル酸メチル 、1-(9-エチル-9H-カルバゾール-3-イル)-1-(O-アセチルオキシム)グルタル酸メチル、1-(9-エチル-9H-カルバゾール-3-イル)-1-(O-アセチルオキシム)-3-メチル-ブタン酸等が挙げられる。
【0237】
6-2-4.光重合開始剤の使用量
上記の各種の光重合開始剤は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0238】
本発明の重合性組成物中の光重合開始剤の含有量は、重合性組成物の単位重量あたりのモル量で、0.5μmol/g以上が好ましい。より好ましくは1μmol/g以上である。また、本発明の重合性組成物中の光重合開始剤の含有量は、重合性組成物の単位重量あたりのモル量で、100μmol/g以下が好ましい。より好ましくは50μmol/g以下である。
【0239】
光重合開始剤の含有量が少な過ぎると、ラジカルの発生量が少なくなるため、光重合の速度が遅くなり、ホログラム記録媒体における記録感度が低くなる場合がある。一方、光重合開始剤の含有量が多過ぎると、光照射により発生したラジカル同士が再結合したり、不均化を生じたりするため、光重合に対する寄与が少なくなり、やはりホログラム記録媒体における記録感度が低下する場合がある。2以上の光重合開始剤を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが好ましい。
【0240】
6-3.ラジカル捕捉剤
ホログラム記録において、干渉光強度パターンをホログラム記録媒体中のポリマー分布として精度よく固定するために、ラジカル捕捉剤を添加してもよい。ラジカル捕捉剤はラジカルを捕捉する官能基とマトリックス樹脂に共有結合で固定される反応基の両方を有するものが好ましい。ラジカルを捕捉する官能基としては安定ニトロキシルラジカル基が挙げられる。
【0241】
6-3-1.ラジカル捕捉剤の種類
マトリックス樹脂に共有結合で固定される反応基としては水酸基、アミノ基、イソシアネート基、チオール基が挙げられる。このようなラジカル捕捉剤としては4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル(TEMPOL)や、3-ヒドロキシ-9-アザビシクロ[3.3.1]ノナンN-オキシルや5-HO-AZADO:5-ヒドロキシ-2-アザトリシクロ[3.3.1.13,7]デカンN-オキシルが挙げられる。
【0242】
6-3-2.ラジカル捕捉剤の含有量
上記の各種のラジカル捕捉剤は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
本発明の重合性組成物中のラジカル捕捉剤の含有量は、重合性組成物の単位重量あたりのモル量で、0.5μmol/g以上が好ましく、より好ましくは1μmol/g以上である。また、本発明の重合性組成物中のラジカル捕捉剤の含有量は、100μmol/g以下が好ましく、より好ましくは50μmol/g以下である。
【0243】
ラジカル捕捉剤の含有量が少な過ぎると、ラジカルを捕捉する効率が低くなり、低重合度のポリマーが拡散し信号に寄与しない成分が多くなる傾向にある。一方、ラジカル捕捉剤の含有量が多過ぎると、ポリマーの重合効率が低下し、信号記録できなくなる傾向にある。2以上のラジカル捕捉剤を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが好ましい。
【0244】
6-4.その他の成分
本発明の重合性組成物は、本発明の主旨に反しない限りにおいて、上述の成分の他に、その他の成分を含有していてもよい。
【0245】
その他の成分としては、重合性組成物を調製するための、溶媒、可塑剤、分散剤、レベリング剤、消泡剤、接着促進剤などや、特にホログラム記録媒体に用いられる場合には、記録の反応制御のための、連鎖移動剤、重合停止剤、相溶化剤、反応補助剤、増感剤などが挙げられる。また、その他の特性改良上必要とされ得る添加剤の例として防腐剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等などが挙げられる。これらの成分はいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0246】
<増感剤>
本発明の重合性組成物には、光重合開始剤の励起を制御する化合物を添加することができる。このような化合物として、増感剤、増感補助剤等が挙げられる。
【0247】
増感剤としては、公知の各種の増感剤の中から、任意のものを選択して用いることができるが、一般に増感剤としては、可視および紫外のレーザー光を吸収するために、色素等の有色化合物が用いられる場合が多い。ホログラム記録媒体に用いる場合、記録に使用するレーザー光の波長と使用する開始剤の種類にもよるが、緑色レーザーを用いる系の場合、好ましい増感剤の具体例としては、特開平5-241338号公報、特開平2-69号公報、特公平2-55446号公報等に記載されている化合物が挙げられる。青色レーザーを用いる系の場合は、特開2000-10277号公報、特開2004-198446号公報等に記載されている化合物が挙げられる。これらの増感剤は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0248】
得られるホログラム記録媒体に無色透明性が要求される場合には、増感剤としてシアニン系色素を使用することが好ましい。シアニン系色素は一般に光によって分解し易いため、後露光を行なう、即ち、室内光や太陽光の下に数時間から数日放置することで、ホログラム記録媒体中のシアニン系色素が分解されて可視域に吸収を持たなくなり、無色透明なホログラム記録媒体が得られる。
【0249】
増感剤の量は、形成される記録層の厚さによって増減する必要があるが、前述の6-2.光重合開始剤に対する比率で、通常0.01質量%以上、中でも0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、中でも5質量%以下の範囲とすることが好ましい。増感剤の使用量が少な過ぎると、開始効率が低下し、記録に多大な時間を要する場合がある。一方、増感剤の使用量が多過ぎると、記録や再生に使用する光の吸収が大きくなり、深さ方向へ光が届き難くなる場合がある。2以上の増感剤を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにする。
【0250】
<可塑剤>
反応効率の向上やホログラム記録媒体の記録層の物性調整のために、本発明の重合性組成物は可塑剤を含有してもよい。
【0251】
可塑剤の例としては、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシルなどのフタル酸エステル類、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジ-n-ブチルなどのアジピン酸エステル類、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチルなどのセバシン酸エステル類、リン酸トリクレシルなどのリン酸エステル類、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル類、トリメリット酸トリオクチルなどのトリメリット酸エステル類、エポキシ化大豆油、塩素化パラフィン、アセトキシメトキシプロパンなどのアルコキシ化(ポリ)アルキレングリコールエステル、ジメトキシポリエチレングリコールなどの末端アルコキシ化ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0252】
特許第6069294号公報に例示されているようなフッ素元素を有する可塑剤を用いることもできる。フッ素元素を有する可塑剤の例としては、2,2,2-トリフルオロエチルブチルカルバメート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)-(2,2,4-トリメチルヘキサン-1,6-ジイル)ビスカルバメート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)-[4-({[(2,2,2-トリフルオロエトキシ)カルボニル]アミノ}-メチル)オクタン-1,8-ジイル]ビスカルバメート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9-ヘキサデカフルオロノニルブチルカルバメート、2,2,2-トリフルオロエチルフェニルカルバメートなどが挙げられる。
【0253】
これらの可塑剤は重合性組成物の全固形分に対する比率で通常0.01質量%以上50質量%以下、好ましくは0.05質量%以上20質量%以下の範囲で用いられる。可塑剤の含有量がこれより少ないと、反応効率の向上や物性の調整に対する効果が発揮されず、これより多いと記録層の透明性が低下したり、可塑剤のブリードアウトが顕著になったりする。
【0254】
<レベリング剤>
本発明の重合性組成物には、レベリング剤を用いることができる。レベリング剤としては、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸アミン塩、シリコン系レベリング剤、アクリル系レベリング剤、エステル化合物、ケトン化合物、フッ素化合物などが挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0255】
<連鎖移動剤>
本発明の重合性組成物には、連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム等のホスフィン酸塩類、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、2-プロパンチオール、2-メルカプトエタノール、チオフェノール等のメルカプタン類、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類、テルピノレン、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネン等のテルペン類、1、4-シクロヘキサジエン、1,4-シクロヘプタジエン、1,4-シクロオクタジエン、1、4-ヘプタジエン、1,4-ヘキサジエン、2-メチル-1,4-ペンタジエン、3,6-ノナンジエン-1-オール、9,12-オクタデカジエノール等の非共役ジエン類、リノレン酸、γ-リノレン酸、リノレン酸メチル、リノレン酸エチル、リノレン酸イソプロピル、リノレン酸無水物等のリノレン酸類、リノール酸、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソプロピル、リノール酸無水物等のリノール酸類、エイコサペンタエン酸、エイコサペンタエン酸エチル等のエイコサペンタエン酸類、ドコサヘキサエン酸、ドコサヘキサエン酸エチル等のドコサヘキサエン酸類等が挙げられる。
【0256】
これらの添加剤の使用量は、本実施の形態の重合性組成物の全固形分に対する比率で、通常0.001質量%以上、中でも0.01質量%以上、また、通常30質量%以下、中でも10質量%以下の範囲とすることが好ましい。2以上の添加剤を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにする。
【0257】
6-5.重合性組成物における各成分の組成比
本発明の重合性組成物における各成分の含有量は、本発明の主旨に反しない限り任意である。以下に示す各成分の割合は、重合性組成物の単位質量当たりのモル量を基準に以下の範囲であることが好ましい。
【0258】
本発明の化合物を含む、重合性化合物の含有量は、好ましくは5μmol/g以上、より好ましくは10μmol/g以上、さらに好ましくは100μmol/g以上である。また、重合性化合物の含有量は、好ましくは2000μmol/g以下で、より好ましくは1000μmol/g以下、さらに好ましくは500μmol/g以下である。
重合性化合物の含有量が上記下限値以上であることで、ホログラム記録媒体において充分な回折効率が得られ、上記上限値以下であることで記録層における樹脂マトリックスとの相溶性が保たれ、記録による記録層の収縮が低く保たれる傾向にある。
【0259】
本発明の重合性組成物中のマトリックス樹脂として、イソシアネートとポリオールを用いる場合、これらの含有量は、合計で通常0.1質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは35質量%以上で、通常99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下である。この含有量を上記の下限値以上とすることで、記録層を形成することが容易となる。
【0260】
この場合、イソシアネートのイソシアネート基数に対する、ポリオールのイソシアネート反応性官能基数の比は0.1以上が好ましく、より好ましくは0.5以上、通常10.0以下、好ましくは2.0以下である。この比率が上記範囲内となることで、未反応の官能基が少なく、保存安定性が向上する。
【0261】
また、この重合性組成物において、ウレタン重合触媒の含有量はイソシアネート及びポリオールの反応速度を考慮して決定することが好ましく、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。また、0.005質量%以上用いることが好ましい。
【0262】
上記成分以外の、その他の成分の総量は、30質量%以下であればよく、15質量%以下が好ましく、5質量%がより好ましい。
【0263】
6-6.重合性組成物の製造方法
本発明において、重合性化合物、マトリックス樹脂及び光重合開始剤を含む重合性組成物の製造方法は特に限定されず、混合する順序等も適宜調整することができる。また、上記以外の成分を重合性組成物が含む場合、各成分はどのような組み合わせ、順序で混合してもよい。
【0264】
マトリックス樹脂として、イソシアネートとポリオールを用いる場合の、重合性組成物は、例えば以下のような方法で得ることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
重合性化合物、及び光重合開始剤に加え、イソシアネート及びウレタン重合触媒以外の全ての成分を混合し、光反応性組成物(A液)とする。イソシアネート及びウレタン重合触媒を混合したものをB液とする。
または、重合性化合物及び光重合開始剤に、イソシアネート以外のすべての成分を混合し、光反応性組成物(A液)とすることもできる。
【0265】
それぞれの液は脱水・脱気を行うことが好ましい。脱水・脱気が不充分であると、ホログラム記録媒体作製時に気泡が生成し、均一な記録層を得ることができないことがある。この脱水・脱気の際には各成分を損なわない限り、加熱、減圧を行ってもよい。
【0266】
A液及びB液を混合した重合性組成物の製造は、ホログラム記録媒体の成形直前に行うことが好ましい。この際、従来法による混合技術を用いることも可能である。また、A液及びB液の混合時には、残留ガスの除去のために、必要に応じて脱気を行ってもよい。さらにA液とB液はそれぞれ、又は混合後に異物、不純物を取り除くために、濾過工程を経ることが好ましく、それぞれの液を別々に濾過することがより好ましい。
【0267】
また、イソシアネートとして、過剰のイソシアネート基を有するイソシアネートと、ポリオールの反応による、イソシアネート官能性プレポリマーを、マトリックス樹脂として使用することもできる。さらにポリオールとして過剰のイソシアネート反応性官能基を有するポリオールと、イソシアネートとの反応による、イソシアネート反応性プレポリマーを、マトリックス樹脂として使用することもできる。
【0268】
6-7.本発明のホログラム記録媒体について
本発明の重合性組成物を用いた本発明のホログラム記録媒体は、記録層と、必要に応じて、更に支持体やその他の層を備える。通常、ホログラム記録媒体は支持体を有し、記録層やその他の層は、この支持体上に積層されてホログラム記録媒体を構成する。ただし、記録層又はその他の層が、媒体に必要な強度や耐久性を有する場合には、ホログラム記録媒体は支持体を有していなくてもよい。その他の層の例としては、保護層、反射層、反射防止層(反射防止膜)等が挙げられる。
【0269】
6-7-1.記録層
本発明のホログラム記録媒体の記録層は、本発明の重合性組成物により形成される層であり、情報が記録される層である。情報は通常、ホログラムとして記録される。記録方法の項に後述するとおり、該記録層中に含まれる重合性化合物(以下、重合性モノマーと記載)は、ホログラム記録などによってその一部が重合等の化学的な変化を生じるものである。従って、記録後のホログラム記録媒体においては、重合性モノマーの一部が消費され、重合物など反応後の化合物として存在する。
【0270】
記録層の厚みには特に制限は無く、記録方法等を考慮して適宜定めればよいが、好ましくは1μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは1cm以下、さらに好ましくは3mm以下である。記録層の厚みを上記下限値以上とすることで、ホログラム記録媒体における多重記録の際、各ホログラムの選択性が高くなり、多重記録の度合いを高くすることができる傾向にある。記録層の厚みを上記上限値以下とすることで、記録層全体を均一に成形することが可能となり、各ホログラムの回折効率が均一で且つS/N比の高い多重記録を行うことができる傾向にある。
【0271】
情報の記録、再生の際の露光による記録層の収縮率は、記録再現性の点から0.25%以下であることが好ましい。
【0272】
6-7-2.支持体
支持体は、ホログラム記録媒体に必要な強度及び耐久性を有しているものであれば、その詳細に特に制限はなく、任意の支持体を使用することができる。
支持体の形状にも制限は無いが、通常は平板状又はフィルム状に形成される。
支持体を構成する材料にも制限は無く、透明であっても不透明であってもよい。
【0273】
支持体の材料として透明なものを挙げると、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフトエート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、アモルファスポリオレフィン、ポリスチレン、ポリシクロオレフィン、酢酸セルロース等の有機材料;ガラス、シリコン、石英等の無機材料が挙げられる。この中でも、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、アモルファスポリオレフィン、ガラス等が好ましく、特に、ポリカーボネート、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ガラスがより好ましい。
【0274】
支持体の材料として不透明なものを挙げると、アルミニウム等の金属、前記の透明支持体上に金、銀、アルミニウム等の金属、又は、フッ化マグネシウム、酸化ジルコニウム等の誘電体をコーティングしたものなどが挙げられる。
【0275】
支持体の厚みにも特に制限は無いが、0.05mm以上、1mm以下の範囲とすることが好ましい。支持体の厚みが上記下限値以上であれば、ホログラム記録媒体の機械的強度を得ることができ、基板の反りを防止できる。支持体の厚みが上記上限値以下であれば、光の透過量の増加、ホログラム記録媒体の重量やコストの削減等の利点が得られる。
【0276】
支持体の表面に表面処理を施してもよい。この表面処理は、通常、支持体と記録層との接着性を向上させるためになされる。表面処理の例としては、支持体にコロナ放電処理を施したり、支持体上に予め下塗り層を形成したりすることが挙げられる。下塗り層の組成物としては、ハロゲン化フェノール、又は部分的に加水分解された塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0277】
支持体の表面処理は、接着性の向上以外の目的で行なってもよい。その例としては、例えば、金、銀、アルミニウム等の金属を素材とする反射コート層を形成する反射コート処理;フッ化マグネシウムや酸化ジルコニウム等の誘電体層を形成する誘電体コート処理等が挙げられる。これらの層は、単層で形成してもよく、2層以上を形成してもよい。
【0278】
これらの表面処理は、基板の気体や水分の透過性を制御する目的で設けてもよい。例えば記録層を挟む支持体にも気体や水分の透過性を抑制する働きを持たせることにより、ホログラム記録媒体の信頼性を向上させうる。
【0279】
支持体は、本発明のホログラム記録媒体の記録層の上側及び下側の何れか一方にのみ設けてもよく、両方に設けてもよい。但し、記録層の上下両側に支持体を設ける場合、支持体の少なくとも何れか一方は、活性エネルギー線(励起光、参照光、再生光など)を透過させるように、透明に構成する。
【0280】
記録層の片側又は両側に支持体を有するホログラム記録媒体の場合、透過型又は反射型のホログラムが記録可能である。また、記録層の片側に反射特性を有する支持体を用いる場合は、反射型のホログラムが記録可能である。
【0281】
支持体にデータアドレス用のパターニングを設けてもよい。この場合のパターニング方法に制限は無いが、例えば、支持体自体に凹凸を形成してもよく、後述する反射層にパターンを形成してもよく、これらを組み合わせた方法により形成してもよい。
【0282】
6-7-3.保護層
保護層は、記録層の記録再生特性の劣化等を防止するための層である。保護層の具体的構成に制限は無く、公知のものを任意に適用することが可能である。例えば、水溶性ポリマー、有機/無機材料等からなる層を保護層として形成することができる。
【0283】
保護層の形成位置は、特に制限はなく、例えば記録層表面や、記録層と支持体との間に形成してもよく、また支持体の外表面側に形成してもよい。保護層は、支持体と他の層との間に形成してもよい。
【0284】
6-7-4.反射層
反射層は、ホログラム記録媒体を反射型に構成する際に形成される。反射型のホログラム記録媒体の場合、反射層は支持体と記録層との間に形成されていてもよく、支持体の外側面に形成されていてもよいが、通常は、支持体と記録層との間にあることが好ましい。
反射層としては、公知のものを任意に適用することができ、例えば金属の薄膜等を用いることができる。
【0285】
6-7-5.反射防止膜
透過型及び反射型の何れのホログラム記録媒体についても、情報光、参照光及び再生光が入射及び出射する側や、あるいは記録層と支持体との間に、反射防止膜を設けてもよい。反射防止膜は、光の利用効率を向上させ、かつノイズの発生を抑制する働きをする。
反射防止膜としては、公知のものを任意に用いることができる。
【0286】
6-7-6.ホログラム記録媒体の製造方法
本発明のホログラム記録媒体の製造方法に制限は無い。例えば、無溶剤で支持体上に本発明の重合性組成物を塗布し、記録層を形成して製造することができる。この際、塗布方法としては任意の方法を使用することができる。具体例を挙げると、スプレー法、スピンコート法、ワイヤーバー法、ディップ法、エアーナイフコート法、ロールコート法、及びブレードコート法、ドクターロールコート法などが挙げられる。
【0287】
記録層の形成に際し、特に膜厚の厚い記録層を形成する場合、型に入れて成型する方法や、離型フィルム上に塗工して型を打ち抜く方法を用いることもできる。また、本発明の重合性組成物と溶剤又は添加剤とを混合して塗布液を調製し、これを支持体上に塗布、乾燥して記録層を形成して製造してもよい。この場合も塗布方法としては任意の方法を使用することができ、例えば、上述したのと同様の方法を採用することができる。
【0288】
塗布液に用いる溶剤に制限はないが、通常は、使用成分に対して充分な溶解度を持ち、良好な塗膜性を与え、樹脂基板等の支持体を侵さないものを使用することが好ましい。溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、溶剤の使用量に制限は無い。ただし、塗布効率、取り扱い性の面から、固形分濃度1~100質量%程度の塗布液を調製することが好ましい。
【0289】
溶剤の例を挙げると、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン等のケトン系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、ヘプタノール、ヘキサノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール等のアルコール系溶剤;ジアセトンアルコール、3-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブタノン等のケトンアルコール系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶剤;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート等のセロソルブ系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のプロピレングリコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸ブチル、エチレングリコールジアセテート、ジエチルオキサレート、ピルビン酸エチル、エチル-2-ヒドロキシブチレートエチルアセトアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル、3-メトキシプロピオン酸メチル等のエステル系溶剤;テトラフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール、ヘキサフルオロブタノール等のパーフルオロアルキルアルコール系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の高極性溶剤;n-ヘキサン、n-オクタン等の鎖状炭化水素系溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、n-ブチルシクロヘキサン、tert-ブチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の環状炭化水素系溶剤;或いはこれらの混合溶剤などが挙げられる。
【0290】
ホログラム記録媒体の製造方法としては、例えば、熱により融解した重合性組成物を支持体に塗布し、冷却して固化させて記録層を形成して製造する方法、液状の重合性組成物を支持体に塗布し、熱重合させることで硬化させて記録層を形成して製造する方法、液状の重合性組成物を支持体に塗布し、光重合させることで硬化させて記録層を形成して製造する方法なども挙げられる。
【0291】
このようにして製造されたホログラム記録媒体は、自立型スラブ又はディスクの形態をとることができ、三次元画像表示装置や回折光学素子、及び大容量メモリ、その他に使用できる。
特に本発明の重合性組成物を用いた本発明のホログラム記録媒体は、高いtotalΔnを有するものであり、ARグラス導光板としても有用である。
【0292】
6-7-7.ホログラム記録媒体の用途
<大容量メモリ用途>
本発明のホログラム記録媒体に対する情報の書き込み(記録)および読み出し(再生)は、何れも光の照射によって行なわれる。
【0293】
情報の記録時には、重合性モノマーの化学変化、すなわち、その重合および濃度変化を生じさせることが可能な光を、物体光(記録光とも呼ばれる。)として用いる。
【0294】
例えば、情報を体積ホログラムとして記録する場合には、物体光を参照光と共に記録層に対して照射し、記録層において物体光と参照光とを干渉させるようにする。これによってその干渉光が、記録層内の重合性モノマーの重合および濃度変化を生じさせ、その結果、干渉縞が記録層内に屈折率差を生じさせ、前記の記録層内に記録された干渉縞により、記録層にホログラムとして記録される。
【0295】
記録層に記録された体積ホログラムを再生する場合は、所定の再生光(通常は、参照光)を記録層に照射する。照射された再生光は前記干渉縞に応じて回折を生じる。この回折光は前記記録層と同様の情報を含むものであるので、前記回折光を適当な検出手段によって読み取ることにより、記録層に記録された情報の再生を行なうことができる。
【0296】
物体光、再生光および参照光の波長領域はそれぞれの用途に応じて任意であり、可視光領域でも紫外領域でも構わない。これらの光の中でも好適なものとしては、例えば、ルビー、ガラス、Nd-YAG、Nd-YVO4等の固体レーザー;GaAs、InGaAs、GaN等のダイオードレーザ;ヘリウム-ネオン、アルゴン、クリプトン、エキシマ、CO2等の気体レーザー;色素を有するダイレーザー等の、単色性と指向性に優れたレーザー等が挙げられる。
【0297】
物体光、再生光および参照光の照射量には何れも制限は無く、記録および再生が可能な範囲であればその照射量は任意である。照射量が極端に少ない場合には重合性モノマーの化学変化が不完全過ぎて記録層の耐熱性、機械特性が充分に発現されない可能性があり、逆に極端に多い場合は、記録層の成分(本発明の重合性組成物の成分)が劣化を生じる可能性がある。従って、物体光、再生光および参照光は、記録層の形成に用いた本発明の重合性組成物の組成や、光重合開始剤の種類、および配合量等に合わせて、通常0.1J/cm2以上、20J/cm2以下の範囲で照射する。
【0298】
ホログラム記録方式としては、偏光コリニアホログラム記録方式、参照光入射角多重型ホログラム記録方式等がある。本発明のホログラム記録媒体を記録媒体として使用する場合にはいずれの記録方式でも良好な記録品質を提供することが可能である。
【0299】
<ARグラス導光板用途>
本発明のホログラム記録媒体に対して、前述の大容量メモリ用途と同様にして体積ホログラムが記録される。
【0300】
記録層に記録された体積ホログラムに対しては、所定の再生光を記録層に照射する。照射された再生光は前記干渉縞に応じて回折を生じる。この際、再生光の波長が記録光の波長と一致していなくても、前記干渉縞とブラッグ条件が成立すれば回折を生じる。したがって回折させたい再生光の波長と入射角に応じて、対応した干渉縞を記録しておけば、広い波長域の再生光に対して回折を生じさせることができ、ARグラスの表示色域を広げることができる。
【0301】
再生光の波長と回折角に応じて、対応した干渉縞を記録しておけば、ホログラム記録媒体の外部から入射した再生光をホログラム記録媒体内部に導波させたり、ホログラム記録媒体内部を導波してきた再生光を反射、分波、拡大、縮小させたり、ホログラム記録媒体内部を導波してきた再生光をホログラム記録媒体の外部へ出射させることができ、ARグラスの視野角を広げることができる。
【0302】
物体光、再生光の波長領域はそれぞれの用途に応じて任意であり、可視光領域でも紫外領域でも構わない。これらの光の中でも好適なものとしては、前述のレーザー等が挙げられる。再生光としてはレーザー等に限定されず、液晶ディスプレイ(LCD)や有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(OLED)等の表示デバイスも好適なものとして挙げられる。
【0303】
物体光、再生光および参照光の照射量には何れも制限は無く、記録および再生が可能な範囲であればその照射量は任意である。照射量が極端に少ない場合には重合性モノマーの化学変化が不完全過ぎて記録層の耐熱性、機械特性が充分に発現されない可能性があり、逆に極端に多い場合は、記録層の成分(本発明の重合性組成物の成分)が劣化を生じる可能性がある。従って、物体光、再生光および参照光は、記録層の形成に用いた本発明の重合性組成物の組成や、光重合開始剤の種類、および配合量等に合わせて、通常0.1J/cm2以上、20J/cm2以下の範囲で照射する。
【0304】
6-8.ホログラム記録媒体の性能指標について
ホログラム記録媒体の性能は、多重記録全体に亘る回折効率の総和totalΔnを指標とする。透過ホログラムの場合、ホログラムの回折効率は回折された光の強度の透過光強度と回折光強度の和に対する比で与えられる。得られた回折効率から、Coupled Wave Theory(H.Kogelnik、 The Bell System Technical Journal(1969)、48、2909‐2947)による以下の式を用いてΔnを算出し、多重記録全体での総和をtotalΔnとする。
【0305】
【0306】
ここでηは回折効率、Tは媒体の厚み、λは参照光の波長、θは参照光の入射角である。
【0307】
大容量メモリの場合、totalΔnが高いほうが単位体積当たりに多くの情報を記録できることを意味しており、好ましいと言える。またARグラス用途の場合、totalΔnが高いほうがプロジェクターの投影像を明るく瞳に届けることができたり、消費電力を抑えられたり、視野角を広げたりすることができることを意味しており、好ましいといえる。
【実施例】
【0308】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0309】
以下、各化合物について、合成過程を含む化学式を添付しながら合成方法について詳述する。
【0310】
[使用原料]
実施例及び比較例で用いた組成物原料は以下の通りである。
【0311】
<イソシアネート>
・デュラネート(登録商標)TSS-100:ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート(NCO17.6%)(旭化成社製)
【0312】
<ポリオール>
・プラクセルPCL-205U:ポリカプロラクトンジオール(分子量530)(ダイセル社製)
・プラクセルPCL-305:ポリカプロラクトントリオール(分子量550)(ダイセル社製)
【0313】
<光重合開始剤>
・HLI02:1-(9-エチル-6-シクロヘキサノイル-9H-カルバゾール-3-イル)-1-(O-アセチルオキシム)グルタル酸メチル
【0314】
<ラジカル捕捉剤>
・TEMPOL:4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル(東京化成社製)
【0315】
<ウレタン重合触媒>
・トリス(2-エチルヘキサノエート)ビスマスのオクチル酸溶液(有効成分量56質量%)
【0316】
(合成例1)
特開2017-14213号公報に記載の手法を適用して、以下の合成方法により、化合物S-1としてビス(4-ジベンゾチオフェニル)ジスルフィド(DBTDS)を製造し、化合物S-2として4-ジベンゾチオフェンチオール(DBTSH)を製造した。
【0317】
【0318】
ジベンゾチオフェン20gをTHF300mLに溶解し、0℃に冷却しながら、濃度1.6Mのn-ブチルリチウムヘキサン溶液74.6mLを加え、20℃に昇温し、2時間攪拌した。得られた褐色の反応液を-40℃に冷却し、硫黄(粉末状 和光純薬製)3.8gを加えた。-40℃で30分攪拌後、反応液に水5mLを加えて反応停止した。
得られた溶液をエバポレーターで濃縮し、得られた固体をトルエン100mLで30分洗浄し、黄色固体をろ別して、化合物S-1であるDBTDSを製造した。
【0319】
化合物S-1をTHF200mLに分散させた後、水素化ホウ素ナトリウム4.5gを加え、50℃で1時間攪拌した。その後反応液を濾過して得られた溶液をエバポレーターで濃縮し、トルエン200mLを加えた。そのトルエン溶液を水、1規定-塩酸、1規定-水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した後、溶液を濃縮した。ヘキサンで再結晶を行い、化合物S-2であるDBTSH9.4g(40%収率)を得た。
【0320】
得られた化合物S-2の適量(概ね10mg程度)に重クロロホルム数mLを加えて溶解させ、不溶分があれば綿栓濾過して、溶液を専用サンプル管に移して蓋をした。これを用いて、400MHzの核磁気共鳴装置(NMR)で水素の共鳴状態を測定し、それぞれの共鳴線を化合物の水素に帰属させ、目的物が得られていることを確認した。下記に測定データを示した。以下に記載する各目的物についても、同様に測定を行い、目的物が得られていることを確認した。測定データを以下に示す。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)3.63(s、1H)、7.35(Ar、1H)、7.45(Ar、3H)、7.89(Ar、1H)、8.05(Ar、1H)、8.14(Ar、1H)
【0321】
(合成例2)
以下の合成方法により、ビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェニル]ジスルフィド(MPBTD)を化合物S-3として製造した。
【0322】
【0323】
チオサリチル酸170gと2-アミノベンゼンチオール165gをポリリン酸1.1Lに溶解させ、混合物を170℃で2時間反応させた。100℃以下に冷却後、3Lの水に注ぎこみ激しく攪拌した。室温で2時間攪拌後、固形物を濾別し、得られた固体を3Lの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に注ぎ込み20分攪拌した。固形物を濾別後、さらに3Lの水に注ぎ込み懸濁洗浄し、濾別後に260gの粗生成物を得た。
【0324】
上記粗生成物260gとヨウ化ナトリウム1.6gをTHF5Lに溶解させた混合物に対して、内温15℃以下に保ちながら30%過酸化水素水78mLをゆっくり滴下した。15℃で15分攪拌後、LC分析により反応の完結を確認した。飽和亜硫酸ナトリウム500mLをゆっくり加えて反応を停止後、水8Lを加えて混合物を希釈した。生じた固形物を濾別後、300mLの脱塩水で2回懸濁洗浄し、粗生成物を約300g得た。
これをTHFに溶解後、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、240gの淡黄色固体を得た。THF500mLで懸濁洗浄後濾過し、20mLのTHFで2回洗浄して、化合物S-3であるMPBPDを220g白色固体として得た。
【0325】
化合物S-3のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)7.29(td、2H)、7.35(td、2H)、7.42(td、3H)、7.51(td、2H)、7.83(dd、2H)、7.90(dd、2H)、7.93(dd、2H)、8.13(d、2H)
【0326】
(実施例1)
以下の合成方法により、化合物M-1の製造を行った。
【0327】
【0328】
中間体である化合物S-4は、(A),(B)二つのルートで調製した。
ルート(A):合成例1で得られたDBTSH(化合物S-2)20gと炭酸セシウム50gをメチルエチルケトン(MEK)200mLに溶解した。この溶液に、ペンタエリスリトールトリブロミド9gを加え、90℃に昇温し、LC分析で反応進行を確認しながら、5時間攪拌した。反応溶液に水を加えた後、酢酸エチル100mLを加え、有機層を抽出した。得られた有機層を水50mLで2回抽出し、生じた水層を酢酸エチル100mLで2回逆抽出した。得られた有機層を芒硝で乾燥後、濃縮した。前記濃縮により得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物S-4を10g(49%収率)得た。
【0329】
ルート(B):合成例1で得られたDBTDS(化合物S-1)8.3g、ペンタエリスリトールトリブロミド3.5g、炭酸カリウム14g、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(ロンガリット)10gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)25mLに懸濁させた。反応混合物を100℃に昇温し、LC分析で反応進行を確認しながら、3時間攪拌した。反応溶液に水を加えた後、酢酸エチル100mLを加え、有機層を抽出した。得られた有機層を水60mLで2回抽出し、生じた水層を酢酸エチル70mLで2回逆抽出した。得られた有機層を芒硝で乾燥後、濃縮した。前記濃縮により得られた粗生成物をヘキサン:酢酸エチル2:1の混合溶媒にて懸濁洗浄し、化合物S-4を4.8g(61%収率)得た。
【0330】
化合物S-4のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)3.38(s、6H)、3.75(d、2H)、7.22(dd、3H)、7.43(Ar、9H)、7.77(Ar、3H)、7.86(dd、3H)、8.02(Ar、3H)
【0331】
上記で得られた化合物S-4(11g)をテトラヒドロフラン(THF)55mLに溶解させ、ジブチル錫ジラウレート190mgを加えた。この溶液に、2-イソシアナトエチルアクリレート(昭和電工株式会社製、Karenz AOI)2.55gを加え、室温で反応させた。24時間経過後、2-イソシアナトエチルアクリレート0.4gを追添加し、さらに24時間反応させた。反応溶液に酢酸エチル100mLを加え、約50mLになるまで濃縮した。不溶物を除去後、混合物を濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物M-1を7.6g(58%収率)得た。
【0332】
化合物M-1のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)3.19(dt、2H)、3.36(s、6H)、4.02(m、2H)、4.21(s、2H)、4.42(m、2H)、5.79(dd、1H)、6.03(dd、1H)、6.37(d、1H)、7.19(Ar、3H)、7.38(Ar、3H)、7.43(Ar、6H)、7.76(Ar、3H)、7.84(Ar、3H)、8.01(Ar、3H)
【0333】
<ホログラム記録媒体1の作製>
デュラネート(登録商標)TSS-100:2.53gに、重合性モノマーとして化合物M-1:0.269g、光重合開始剤HLI02:0.0097g、ラジカル捕捉剤TEMPOL:3.33mgを溶解させてA液とした。
別に、プラクセルPCL-205U:1.73gとプラクセルPCL-305:0.74gを混合し(プラクセルPCL-205U:プラクセルPCL-305=70:30(質量比))、トリス(2-エチルヘキサノエート)ビスマスのオクチル酸溶液:0.3mgを溶解させてB液とした。
【0334】
A液、B液をそれぞれ減圧下、45℃で2時間脱気した後、A液:2.39gとB液:2.11gを攪拌混合し、さらに数分間、真空で脱気した。
続いて、厚さ0.5mmのスペーサシートを対向する2端辺部にのせたスライドガラスの上に、真空脱気した上記混合液を流し込み、その上にスライドガラスをかぶせ、クリップで周辺を固定して80℃で24時間加熱して、ホログラム記録媒体1を評価用サンプルとして作製した。この評価用サンプルは、カバーとしてのスライドガラス間に、厚さ0.5mmの記録層が形成されたものである。
【0335】
このホログラム記録媒体1は、A液中のイソシアネート基数とB液中のイソシアネート反応性基数の比が1.0で配合されており、重合性モノマーが58.3μmol/g、光重合開始剤が3.63μmol/g、ラジカル捕捉剤が3.63μmol/gであった。
【0336】
<ホログラム記録媒体2の作製>
デュラネート(登録商標)TSS-100:2.62gに、重合性モノマーとして化合物M-1:0.568g、光重合開始剤HLI02:0.0204g、ラジカル捕捉剤TEMPOL:7.04mgを溶解させてA液とした。
別に、プラクセルPCL-205U:1.19gとプラクセルPCL-305:1.19gを混合し(プラクセルPCL-205U:プラクセルPCL-305=50:50(重量比))、トリス(2-エチルヘキサノエート)ビスマスのオクチル酸溶液:0.3mgを溶解させてB液とした。
【0337】
A液、B液をそれぞれ減圧下、45℃で2時間脱気した後、A液:2.58gとB液:1.91gを攪拌混合し、さらに数分間、真空で脱気した。
続いて、厚さ0.5mmのスペーサシートを対向する2端辺部にのせたスライドガラスの上に、真空脱気した上記混合液を流し込み、その上にスライドガラスをかぶせ、クリップで周辺を固定して80℃で24時間加熱してホログラム記録媒体2を評価用サンプルをとして作製した。この評価用サンプルは、カバーとしてのスライドガラス間に、厚さ0.5mmの記録層が形成されたものである。
【0338】
このホログラム記録媒体2は、A液中のイソシアネート基数とB液中のイソシアネート反応性基数の比が1.0で配合されており、重合性モノマーが116μmol/g、光重合開始剤が7.26μmol/g、ラジカル捕捉剤が7.26μmol/gであった。
【0339】
[ホログラム記録と評価方法]
評価用サンプルとして作製されたホログラム記録媒体1、2を使用して、以下に説明する手順でホログラム記録と、ホログラム記録媒体のホログラム記録性能の評価を実施した。
【0340】
ホログラム記録は、波長405nmの半導体レーザーを用いて、ビーム1本あたりの露光パワー密度7.5mW/cm
2で
図1に示す露光装置を使用して、二光束平面波のホログラム記録を行った。媒体を-18°から18°まで回転させ、同一箇所に角度多重記録した。各多重記録での回折効率を測定した。得られた回折効率からΔnを計算し、多重記録全体での総和をtotalΔnとした。
以下詳細に説明する。
【0341】
(ホログラム記録)
図1は、ホログラム記録に用いた装置の概要を示す構成図である。
図1中、Sはホログラム記録媒体のサンプルであり、M1~M3は何れもミラーを示す。PBSは偏光ビームスプリッタを示し、L1は波長405nmの光を発する記録光用レーザー光源(波長405nm付近の光が得られるTOPTICA Photonics製シングルモードレーザー(
図1中「L1」))を示す。L2は波長633nmの光を発する再生光用レーザー光源を示す。PD1、PD2、及びPD3はフォトディテクタを示す。1はLEDユニットを示す。
【0342】
図1に示すように、波長405nmの光を偏光ビームスプリッタ(図中「PBS」)により分割し、2本のビームのなす角が37.3°になるように記録面上にて交差させた。このとき、2本のビームのなす角の2等分線が記録面に対して垂直になるようにし、更に、分割によって得られた2本のビームの電場ベクトルの振動面は、交差する2本のビームを含む平面と垂直になるようにして照射した。
【0343】
ホログラム記録後、He-Neレーザーで波長633nmの光を得られるもの(メレスグリオ社製V05-LHP151:図中「L2」)を用いて、その光を記録面に対し30.0°の角度で照射し、回折された光をフォトダイオード及びフォトセンサアンプ(浜松ホトニクス社製S2281、C9329:図中「PD1」)を用いて検出することにより、ホログラム記録が正しく行なわれているか否かを判定した。
【0344】
(回折効率の測定)
サンプルを光軸に対して動かす角度(二光束、すなわち
図1のミラーM1及びM2からの入射光が交わる点における内角の二等分線とサンプルからの法線とがなす角度)を-18°から18°まで0.4°刻みで91多重または0.3°刻みで121多重の記録を行った。
【0345】
多重記録後、LEDユニット(図中1、中心波長405nm)を一定時間点灯させることで残存する開始剤とモノマーを消費しつくした。この工程を後露光と呼ぶ。LEDのパワーは100mW/cm2とし積算エネルギーが12J/cm2となるように照射した。
【0346】
ホログラムの回折効率は、回折された光の強度の透過光強度と回折光強度の和に対する比で与えられる。
図1におけるミラーM1からの光(波長405nm)を照射し、角度-19°から19°までの回折効率を計測した。得られた回折効率から、Coupled Wave Theory(H.Kogelnik、 The Bell System Technical Journal(1969)、48、2909‐2947)による以下の式を用いてΔnを算出し、多重記録全体での総和をtotalΔnとした。
【0347】
【0348】
ここでηは回折効率、Tは媒体の厚み、λは参照光の波長、θは参照光の入射角(18.65°)である。
【0349】
複数用意したサンプルを用いて、記録初期の照射エネルギーの増減、合計照射エネルギーの増減など、照射エネルギー条件を変えた複数回の評価を行い、重合性モノマーをほぼ消費しつくす(多重記録でtotalΔnがほぼ平衡に達する)条件を模索し、totalΔnが最大値となるようにした。そして、得られた最大値をその媒体のtotalΔnとした。
【0350】
(記録前透過率、記録後透過率の測定)
記録前の評価用サンプルの、入射光パワーに対する透過光パワーの比率を測定することで記録前透過率を測定した。
またホログラム記録後、後露光した評価用サンプルの、入射光パワーに対する透過光パワーの比率を測定することで記録後透過率を測定した。
【0351】
上記ホログラム記録媒体1、2を上記方法で評価した結果を下記表1に示す。
【0352】
(実施例2)
以下の合成方法により、化合物M-2の製造を行った。
【0353】
【0354】
合成例2で得た化合物S-3(MPBTD)1.12g、ペンタエリスリトールトリブロミド500mg、炭酸カリウム640mg、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(ロンガリット)820mgをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)2.5mLに懸濁させた。反応混合物を80℃に昇温し、LC分析で反応進行を確認しながら、4時間攪拌した。化合物S-3(190mg)とロンガリット140mgを追加し、さらに80℃で2時間攪拌した。反応溶液に水を加えた後、酢酸エチル50mLを加え、有機層を抽出した。得られた有機層を水30mLで2回抽出し、生じた水層を酢酸エチル50mLで2回逆抽出した。得られた有機層を芒硝で乾燥後、濃縮した。前記濃縮により得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物S-5を1.17g(93%収率)得た。
【0355】
化合物S-5のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)3.17(s、6H)、3.28(t、1H)、3.64(d、2H)、7.23(Ar、6H)、7.38(Ar、3H)、7.48(Ar、6H)、7.85(Ar、3H)、7.88(Ar、3H)、8.07(Ar、3H)
【0356】
上記で得られた化合物S-5(1.8g)をテトラヒドロフラン(THF)9mLに溶解させ、ジブチル錫ジラウレート28mgを加えた。この溶液に、2-イソシアナトエチルアクリレート(昭和電工株式会社製、Karenz AOI)375mgを加え、室温で反応させた。24時間経過後、2-イソシアナトエチルアクリレート375mgを追添加し、さらに24時間反応させた。反応溶液に0.1M水酸化ナトリウム水溶液を加えた後、酢酸エチル50mLを加え、有機層を抽出した。得られた有機層を水30mLで2回抽出し、生じた水層を酢酸エチル50mLで2回逆抽出した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、25℃以下で濃縮した。前記濃縮により得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物M-2を0.7g(33%収率)得た。
【0357】
化合物M-2のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)3.27(dt、2H)、3.93(s、6H)、4.12(t、2H)、5.25(t、1H)、5.80(dd、1H)、6.10(dd、1H)、6.40(d、1H)、7.16(Ar、3H)、7.23(Ar、3H)、7.39(Ar、6H)、7.48(Ar、3H)、7.85(Ar、3H)、7.90(Ar、3H)、8.04(Ar、3H)
【0358】
重合性モノマーとして化合物M-2を用いた以外は、実施例1と同様にホログラム記録媒体1を作製し、その評価を行った。その結果を下記表1に示す。
【0359】
(実施例3)
以下の合成方法により、化合物M-3の製造を行った。
【0360】
【0361】
上記実施例1で得た化合物S-4(1.4g)をテトラヒドロフラン10mLに溶解させ、ジブチル錫ジラウレート22mgを加えた。この溶液に、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート(昭和電工株式会社製、Karenz BEI)550mgを加え、室温で反応させた。24時間経過後、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート110mgを追添加し、さらに24時間反応させた。反応溶液に飽和炭酸ナトリウム水溶液を加えた後、酢酸エチル50mLを加え、有機層を抽出した。得られた有機層を水50mLで2回抽出し、生じた水層を酢酸エチル50mLで2回逆抽出した。得られた有機層を芒硝で乾燥後、25℃以下で濃縮した。前記濃縮により得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製後、逆相カラムでさらに精製し、化合物M-3を1.5g(81%収率)得た。
【0362】
化合物M-3のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)1.23(s、3H)、3.39(s、6H)、4.09(d、2H)、4.20(d、2H)、4.22(s、2H)、4.63(s、1H)、5.76(d、2H)、6.02(dd、2H)、6.35(d、2H)、7.20(Ar、3H)、7.39(Ar、3H)、7.45(Ar、6H)、7.77(Ar、3H)、7.86(Ar、3H)、8.03(Ar、3H)
【0363】
重合性モノマーとして、化合物M-3と後掲の比較例9で製造した化合物M-9の混合物(モル比10/90)を用いた以外は、実施例1と同様にホログラム記録媒体2を作製し、その評価を行った。その結果を下記表1に示す。
【0364】
(実施例4)
以下の合成方法により、化合物M-4の製造を行った。
【0365】
【0366】
上記実施例1で得た化合物S-4(3.0g)およびトリエチルアミン(3.5mL)をジクロロメタン15mLに溶解させた。混合物を0℃に冷却後、ブロモ酢酸ブロミド540mgをゆっくり滴下した。室温で1時間攪拌後、再び0℃に冷却した反応混合物にブロモ酢酸ブロミド540mgを追加で滴下した。室温で1時間攪拌後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液20mL、酢酸エチル50mLを順次加え、抽出操作を行った。得られた有機層を水50mLで2回抽出し、生じた水層を酢酸エチル50mLで2回逆抽出した。得られた有機層を芒硝で乾燥後濃縮し、化合物S-6の粗生成物を2.2g得た。
この粗生成物をアセトン11mLに溶解させ、トリエチルアミン1.6mLを加えた。混合物にアクリル酸500mgをゆっくり加え、1時間室温で攪拌した。アクリル酸500mgを追添加し、さらに1時間攪拌した。反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を20mL加え、ジクロロメタン50mLで抽出した。水層を新たにジクロロメタン50mLで抽出し、得られた有機層を水60mLで洗浄した。有機層を芒硝で乾燥・濃縮後、およびシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物M-4を440mg(13%収率)得た。
【0367】
化合物M-4のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)3.34(s、6H)、4.23(s、2H)、4.27(s、2H)5.76(dd、1H)、6.00(dd、1H)、6.32(d、1H)、7.21(Ar、3H)、7.39(Ar、3H)、7.43(Ar、6H)、7.76(Ar、3H)、7.87(Ar、3H)、8.01(Ar、3H)
【0368】
重合性モノマーとして化合物M-4を用いた以外は、実施例1と同様にホログラム記録媒体1を作製し、その評価を行った。その結果を下記表1に示す。
【0369】
(実施例5)
以下の合成方法により、化合物M-5の製造を行った。
【0370】
【0371】
2-ブロモベンゼンチオール13.60g、ペンタエリスリトールトリブロミド7.08g、炭酸カリウム9.04gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)21mLに懸濁させた。反応混合物を100℃に昇温し、LC分析で反応進行を確認しながら、4時間攪拌した。室温に冷却後、酢酸エチルで抽出し、水で洗浄した。水層を酢酸エチルで2回逆抽出した。得られた有機層を芒硝で乾燥後、濃縮した。前記濃縮により得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物S-7を13.2g(93%収率)得た。
【0372】
化合物S-7のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)3.23(s、6H)、3.79(d、2H)、6.98(Ar、3H)、7.19(Ar、3H)、7.33(Ar、3H)、7.47(Ar、3H)
【0373】
上記で得られた化合物S-7(2.0g)、ジベンゾチオフェン-4-ボロン酸3.5g、炭酸カリウム2.5gをTHF20mLと水2.0mLに懸濁させ、窒素ガスの通液により脱気した。反応溶液にジクロロビス[ジ-t-ブチル(p-ジメチルアミノフェニル)ホスフィノ]パラジウム(II)30mgを加え、さらに10分間窒素ガスを通液させた。窒素雰囲気下、反応溶液を加熱し、還流下6時間攪拌した。室温に冷却後、酢酸エチルで抽出し、水で洗浄した。水層を酢酸エチルで2回抽出し、得られた有機層に活性炭0.4gを加え、30分攪拌した。セライト濾過後、濃縮し得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物S-8を2.9g(98%収率)得た。
【0374】
化合物S-8のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)2.62(s、6H)、3.00(d、2H)、7.16(Ar、12H)、7.41(Ar、12H)、7.70(Ar、3H)、8.08(Ar、3H)、8.15(Ar、3H)
【0375】
上記で得られた化合物S-8(2.9g)をテトラヒドロフラン(THF)15mLに溶解させ、ジブチル錫ジラウレート40mgを加えた。この溶液に、2-イソシアナトエチルアクリレート(昭和電工株式会社製、Karenz AOI)510mgを加え、室温で反応させた。24時間経過後、2-イソシアナトエチルアクリレート500mgを追添加し、さらに24時間反応させた。反応溶液に水を加えた後、酢酸エチル50mLを加え、有機層を抽出した。得られた有機層を水30mLで2回抽出し、生じた水層を酢酸エチル50mLで2回逆抽出した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、30℃以下で濃縮した。前記濃縮により得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物M-5を1.5g(45%収率)得た。
【0376】
化合物M-5のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)2.53(s、6H)、3.07(m、2H)、3.53(s、2H)、3.99(t、2H)、4.14(dd、1H)、5.81(d、1H)、6.10(dd、1H)、6.40(d、1H)、7.11(Ar、12H)、7.24(Ar、3H)、7.36(Ar、3H)、7.43(Ar、6H)、7.71(Ar、3H)、8.08(Ar、3H)、8.16(Ar、3H)
【0377】
重合性モノマーとして化合物M-5を用いた以外は、実施例1と同様にホログラム記録媒体1を作製し、その評価を行った。その結果を下記表1に示す。
【0378】
(実施例6)
以下の合成方法により、化合物M-6の製造を行った。
【0379】
【0380】
実施例5で得られた化合物S-7(2.0g)、チアンスレン-1-ボロン酸2.7g、炭酸カリウム2.5gをTHF20mLと水2.0mLに懸濁させ、窒素ガスの通液により脱気した。反応溶液にジクロロビス[ジ-t-ブチル(p-ジメチルアミノフェニル)ホスフィノ]パラジウム(II)30mgを加え、さらに10分間窒素ガスを通液させた。窒素雰囲気下、反応溶液を加熱し、還流下6時間攪拌した。室温に冷却後、酢酸エチルで抽出し、水で洗浄した。水層を酢酸エチルで2回抽出し、得られた有機層に活性炭0.4gを加え、30分攪拌した。セライト濾過後、濃縮し得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物S-9を2.2g(68%収率)得た。
【0381】
化合物S-9のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)2.57(m、6H)、2.98(d、2H)、6.99(Ar、6H)、7.07(Ar、3H)、7.14(Ar、12H)、7.22(Ar、6H)、7.44(Ar、6H)
【0382】
上記で得られた化合物S-9(1.1g)をテトラヒドロフラン(THF)7.5mLに溶解させ、ジブチル錫ジラウレート10mgを加えた。この溶液に、2-イソシアナトエチルアクリレート(昭和電工株式会社製、Karenz AOI)290mgを加え、室温で反応させた。24時間経過後、2-イソシアナトエチルアクリレート300mgを追添加し、さらに24時間反応させた。反応溶液に水を加えた後、酢酸エチル50mLを加え、有機層を抽出した。得られた有機層を水30mLで2回抽出し、生じた水層を酢酸エチル50mLで2回逆抽出した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、30℃以下で濃縮した。前記濃縮により得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物M-6を600mg(50%収率)得た。
【0383】
化合物M-6のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)2.49(m、6H)、3.23(m、2H)、3.53(s、2H)、4.08(t、2H)、4.52(dd、1H)、5.82(d、1H)、6.08(dd、1H)、6.40(d、1H)、7.10(Ar、27H)、7.44(Ar、6H)
【0384】
重合性モノマーとして化合物M-6を用いた以外は、実施例1と同様にホログラム記録媒体1を作製し、その評価を行った。その結果を下記表1に示す。
【0385】
(実施例7)
以下の合成方法により、化合物M-7の製造を行った。
【0386】
【0387】
3-ブロモベンゼンチオール4.80g、ペンタエリスリトールトリブロミド2.50g、炭酸カリウム3.19gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)13mLに懸濁させた。反応混合物を100℃に昇温し、LC分析で反応進行を確認しながら、4時間攪拌した。室温に冷却後、酢酸エチルで抽出し、水で洗浄した。水層を酢酸エチルで2回逆抽出した。得られた有機層を芒硝で乾燥後、濃縮した。前記濃縮により得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物S-10を5.0g(100%収率)得た。
【0388】
化合物S-10のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)3.15(s、6H)、3.66(d、2H)、7.09(Ar、3H)、7.25(Ar、6H)、7.45(Ar、3H)
【0389】
上記で得られた化合物S-10(2.3g)、ジベンゾチオフェン-4-ボロン酸3.2g、炭酸カリウム2.9gをTHF23mLと水3mLに懸濁させ、窒素ガスの通液により脱気した。反応溶液にジクロロビス[ジ-t-ブチル(p-ジメチルアミノフェニル)ホスフィノ]パラジウム(II)70mgを加え、さらに10分間窒素ガスを通液させた。窒素雰囲気下、反応溶液を加熱し、還流下6時間攪拌した。室温に冷却後、酢酸エチルで抽出し、水で洗浄した。水層を酢酸エチルで2回抽出し、得られた有機層に活性炭0.5gを加え、30分攪拌した。セライト濾過後、濃縮し得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物S-11を2.9g(87%収率)得た。
【0390】
化合物S-11のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)3.37(s、6H)、3.82(d、2H)、7.28(Ar、3H)、7.34(Ar、3H)、7.41(Ar、15H)、7.71(Ar、6H)、8.05(Ar、3H)、8.11(Ar、3H)
【0391】
上記で得られた化合物S-11(2.9g)をテトラヒドロフラン(THF)14.5mLに溶解させ、ジブチル錫ジラウレート40mgを加えた。この溶液に、2-イソシアナトエチルアクリレート(昭和電工株式会社製、Karenz AOI)850mgを加え、室温で反応させた。24時間経過後、2-イソシアナトエチルアクリレート400mgを追添加し、さらに24時間反応させた。反応溶液に水を加えた後、酢酸エチル100mLを加え、有機層を抽出した。得られた有機層を水50mLで2回抽出し、生じた水層を酢酸エチル50mLで2回逆抽出した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、30℃以下で濃縮した。前記濃縮により得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物M-7を1.1g(33%収率)得た。
【0392】
化合物M-7のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)3.22(m、2H)、3.37(s、6H)、3.99(t、2H)、4.30(s、2H)、4.70(dd、1H)、5.62(d、1H)、5.82(dd、1H)、6.23(d、1H)、7.27(Ar、3H)、7.38(Ar、18H)、7.71(Ar、6H)、8.05(Ar、3H)、8.11(Ar、3H)
【0393】
重合性モノマーとして化合物M-7を用いた以外は、実施例1と同様にホログラム記録媒体1を作製し、その評価を行った。その結果を下記表1に示す。
【0394】
(実施例8)
以下の合成方法により、化合物M-8の製造を行った。
【0395】
【0396】
実施例7で得られた化合物S-10(1.0g)、チアンスレン-1-ボロン酸1.6g、リン酸カリウム2.9gをトルエン14mL、エタノール7mLと水7mLに懸濁させ、窒素ガスの通液により脱気した。反応溶液にジクロロビス[ジ-t-ブチル(p-ジメチルアミノフェニル)ホスフィノ]パラジウム(II)30mgを加え、さらに10分間窒素ガスを通液させた。窒素雰囲気下、反応溶液を加熱し、還流下6時間攪拌した。室温に冷却後、酢酸エチルで抽出し、水で洗浄した。水層を酢酸エチルで2回抽出し、得られた有機層に活性炭0.5gを加え、30分攪拌した。セライト濾過後、濃縮し得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物S-12を1.6g(98%収率)得た。
【0397】
化合物S-12のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)3.27(s、6H)、3.73(d、2H)、7.01(Ar、9H)、7.09(Ar、6H)、7.19(Ar、6H)、7.31(Ar、6H)、7.38(Ar、6H)
【0398】
上記で得られた化合物S-12(1.6g)をテトラヒドロフラン(THF)8.0mLに溶解させ、ジブチル錫ジラウレート20mgを加えた。この溶液に、2-イソシアナトエチルアクリレート(昭和電工株式会社製、Karenz AOI)650mgを加え、室温で反応させた。24時間経過後、2-イソシアナトエチルアクリレート650mgを追添加し、さらに24時間反応させた。反応溶液に水を加えた後、酢酸エチル60mLを加え、有機層を抽出した。得られた有機層を水30mLで2回抽出し、生じた水層を酢酸エチル50mLで2回逆抽出した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、30℃以下で濃縮した。前記濃縮により得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物M-8を1.0g(54%収率)得た。
【0399】
化合物M-8のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)3.23(m、2H)、3.35(s、6H)、4.00(t、2H)、4.29(s、2H)、4.89(dd、1H)、5.68(d、1H)、5.86(dd、1H)、6.26(d、1H)、7.07(Ar、9H)、7.19(Ar、12H)、7.34(Ar、6H)、7.45(Ar、6H)
【0400】
重合性モノマーとして化合物M-8を用いた以外は、実施例1と同様にホログラム記録媒体1を作製し、その評価を行った。その結果を下記表1に示す。
【0401】
(比較例1)
以下の合成方法により、化合物M-9の製造を行った。
【0402】
【0403】
上記合成例1で得た化合物S-2(DBTSH)5gとカリウムtert-ブトキシド2.7gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)50mLに溶解した。この溶液に、ペンタエリスリトールトリブロミド2.25gを加え、80℃に昇温し、LC分析で反応進行を確認しながら、5時間攪拌した。さらに反応溶液を0℃に冷却し、トリエチルアミン1.3mL、塩化アクリロイル0.68mLを加え、20℃に昇温して3時間攪拌した。反応溶液に水50mLを加えた後、酢酸エチル150mLを加え、有機層を抽出した。得られた有機層を1規定-塩酸、1規定-水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した後、濃縮した。前記濃縮により得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン・酢酸エチル)にて精製し、化合物M-9を2.3g(43%収率)得た。
【0404】
化合物M-9のNMR測定データは以下の通りであった。
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ、ppm)3.41(s、6H)、4.23(s、2H)、5.46(d、1H)、5.67(dd、1H)、6.01(d、1H)、7.17(Ar、3H)、7.38(Ar、9H)、7.76(Ar、3H)、7.83(Ar、3H)、8.05(Ar、3H)
【0405】
重合性モノマーとして化合物M-9を用いた以外は、実施例1と同様にホログラム記録媒体1,2を作製し、その評価を行った。その結果を下記表1に示す。
【0406】
【0407】
ホログラム記録媒体1においては、重合性組成物中の重合性モノマー、光重合開始剤、添加剤のモル濃度をそろえ、重合性モノマーの種類のみ変えた。
比較例1では、totalΔnは0.0123であった。実施例1、2、4~8では、totalΔnがそれぞれ0.0175、0.0180、0.0140、0.0187、0.0213、0.0209、0.0211となり、比較例1の場合と比べて約1.1~1.7倍に増加した。
【0408】
上述のとおり、ARグラス導光板の光学素子用途ではtotalΔnが高いほうが投影画像を明るくでき、視野角を広くできる。例えば、Δn=1.7倍(0.0123→0.0213)は、回折効率で2.1倍に相当し、投影像の輝度が2.1倍に向上することを意味している。このことは、同じ投影像輝度の場合、消費電力が0.5倍または電池の使用時間が2.1倍に伸びることを意味している。
また、メモリ用途では、totalΔnの向上で記録容量を向上できる。
したがって、ホログラム記録媒体をこれらの用途に使用する際、実施例で用いている本発明の化合物は、比較例の化合物より優れているといえる。
【0409】
ホログラム記録媒体2においては、ホログラム記録媒体1と比較して、重合性組成物中のポリオールの配合比を変えるとともに、重合性モノマー、光重合開始剤、添加剤のモル濃度をそれぞれ2倍に増やした。
重合性モノマーとして化合物M-9のみを用いた比較例1では、totalΔnは0.0191であった。
一方、化合物M-1を用いた実施例1では、totalΔnが0.0269となり、重合性モノマーとして化合物M-3と化合物M-9をモル比10:90となるよう混合した実施例3では、totalΔnが0.0260であり、比較例1の場合と比べて約1.4倍に増加した。
したがって、ポリオールの配合比や、重合性モノマー、光重合開始剤、ラジカル捕捉剤の濃度が変わっても、本発明の化合物は、比較例の化合物よりも、ホログラム記録媒体への使用に適しているといえる。
【0410】
[屈折率]
実施例および比較例においてモノマーとして用いた化合物の屈折率を以下の方法で測定した。
試料を所定濃度となるように、3-フェノキシベンジルアクリレートとトリメチロールプロパントリメタクリレートの質量比4:1の混合溶液に溶解して試験溶液を調製した。試験溶液は、試料濃度が10質量%、20質量%の2種類とした。 各試験溶液の屈折率を、カルニュー精密屈折計(島津製作所社製品名:KPR-2000)で測定した。試験溶液の温度は23℃、測定波長はヘリウムランプd線(587.6nm)とした。測定結果に基づいて、試料濃度と屈折率との相関を示す検量線を作成し、得られた検量線から、試料濃度が100質量%であるときの屈折率を求め、試料の屈折率とした。
【0411】
【0412】
[屈折率推算値]
実施例および比較例において重合性モノマーとして用いた化合物の、硬化後の屈折率推算を行った。ソフトウェアは、DTW Associates,Inc製Polymer-Desgin Tools Version1.1を使用し、Bicerano法にて、25℃、589nmにおける屈折率値を推算した。その値を下記表3に示す。
上記の測定値と同等な値が得られた。
【0413】
【0414】
実施例の化合物は、比較例の化合物よりも屈折率が若干低いが、上記の通り、ホログラム記録媒体のtotalΔnがより高い値となっている。この結果から、本発明の化合物は、比較例の化合物よりも重合性に優れることがわかる。
【0415】
本発明に係る化合物M-1は、トリ(チオジベンゾチオフェン)基がウレタン結合で結合され、本発明に係る化合物M-4は、トリ(チオジベンゾチオフェン)基がエステル結合で結合されており、アクリレート基との空間的距離が離れている等により、アクリレート基が立体障害を受けにくく、重合性に優れると考えられる。また、化合物M-2、M-3、M-5~M-8においても、同様な理由で重合性に優れると考えられる。
一方、トリ(チオジベンゾチオフェン)基がエチル基で結合されている比較例の化合物M-9は、アクリレート基が立体障害の影響を受けやすいために、重合性の低下が生じていると考えられる。
【0416】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2019年11月19日付で出願された日本特許出願2019-208980に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0417】
S ホログラム記録媒体
M1,M2,M3 ミラー
L1 記録光用半導体レーザー光源
L2 再生光用レーザー光源
PD1,PD2,PD3 フォトディテクタ
PBS 偏光ビームスプリッタ
1 LEDユニット