(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの除去方法及び1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 21/22 20060101AFI20231024BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C07C21/22
C07C21/18
(21)【出願番号】P 2022128910
(22)【出願日】2022-08-12
(62)【分割の表示】P 2019561025の分割
【原出願日】2018-12-13
【審査請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2017245340
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】野村 順平
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/146190(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/157763(WO,A1)
【文献】特表2016-516042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと
1,3,3,3-テトラフルオロプロピンとを含み、
前記2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと
前記1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの総量に対する
前記2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの割合が0.5モル%以下である、混合物。
【請求項2】
前記2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと
前記1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの総量に対する
前記2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有量の割合が0.05モル%以下である、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
前記1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの濃度が99質量%以上である、請求項1又は請求項2に記載の混合物。
【請求項4】
前記2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの濃度が0.1質量%以下である、請求項3に記載の混合物。
【請求項5】
前記2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの濃度が0.01質量%以下である、請求項3に記載の混合物。
【請求項6】
混合物の総量に対する塩素イオン及びフッ素イオンの総量の割合が10質量ppm未満である、請求項3~請求項5のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項7】
水分濃度が1000質量ppm未満である、請求項3~請求項6のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項8】
酸素濃度が1000質量ppm未満である、請求項3~請求項7のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項9】
洗浄剤、冷媒、発泡剤、溶剤、又はエアゾール用途に用いられる、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの除去方法及び1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、冷凍機用冷媒、空調機器用冷媒、発電システム(廃熱回収発電等)用作動媒体、潜熱輸送装置(ヒートパイプ等)用作動媒体、二次冷却媒体等の熱サイクル用作動媒体としては、クロロトリフルオロメタン(CFC-13)、ジクロロジフルオロメタン(CFC-12)等のクロロフルオロカーボン(CFC)、又はクロロジフルオロメタン(HCFC-22)等のヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)が用いられてきた。しかし、CFCやHCFCは、成層圏のオゾン層への影響が指摘され、現在、規制の対象となっている。
【0003】
前述の経緯から、熱サイクル用作動媒体としては、CFCやHCFCに代わって、オゾン層への影響が少ない、すなわち、オゾン破壊係数(ODP)が低い、ジフルオロメタン(HFC-32)、テトラフルオロエタン(HFC-134)、ペンタフルオロエタン(HFC-125)等のヒドロフルオロカーボン(HFC)が用いられる。例えば、ビルの冷暖房用、工業用の冷水製造プラントなどに用いられる遠心式冷凍機においては、用いる作動媒体がトリクロロフルオロメタン(CFC-11)から1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)や1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)等に転換されている。また、例えば、R410A(HFC-32とHFC-125の質量比1:1の擬似共沸混合冷媒)等は、従来から広く使用されてきた冷媒である。しかし、HFCに関しても、地球温暖化の原因となる可能性が指摘されているため、オゾン層への影響が少なく、地球温暖化係数(GWP)の低い熱サイクル用作動媒体の開発が急務となっている。
【0004】
近年、オゾン層への影響が少なく、かつGWPが低い作動媒体として、大気中のOHラジカルによって分解されやすい炭素-炭素二重結合を有する、ヒドロフルオロオレフィン(HFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)及びクロロフルオロオレフィン(CFO)等に期待が集まっている。本明細書においては、特に断りのない限り飽和のHFCをHFCといい、HFOとは区別して用いる。また、HFCを飽和のヒドロフルオロカーボンのように明記する場合もある。
【0005】
なかでも、HCFO及びCFOは、一分子中のハロゲンの割合が多いため、燃焼性が抑えられた化合物であり、環境への負荷が少なくかつ燃焼性を抑えた作動媒体として検討されている。例えば、特許文献1には1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペ
ン(CF3-CF=CHCl、HCFO-1224yd)を用いる作動媒体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CF3-CF=CHCl、HCFO-1224yd、以下「1224yd」ともいう。)は各種の方法により製造されるが、どの製造方法を採る場合にも、生成物中に不純物が存在する。このような不純物のうち、2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CF3-CCl=CHF、HCFO-1224xe、以下「1224xe」という。)は、1224ydを不安定化させることが分かった。そのため、1224ydの製造によって得られる生成物中の1224xeの含有量を極力低減することが求められる。
【0008】
しかしながら、本願発明者らにより、1224ydと1224xeは沸点が近く、また化学構造も似ていることから、蒸留、抽出等の一般的な精製処理を用いても、1224ydと1224xeを含む混合物から、1224xeを十分に除去できないことが、確認された。
【0009】
そこで、本発明は、1224ydの製造などで得られる1224xeと1224ydを含む混合物中の1224xeの濃度を著しく低減することのできる1224xeの除去方法を提供することを目的とする。また、1224ydに付随する不純物、特には、1224xeを少なくすることで、1224ydを作動媒体などの用途に用いた場合に、その安定性を向上させることのできる1224ydの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の[1]~[7]に記載の構成を有する1224xeの除去方法及び[8]~[14]に記載の構成を有する1224ydの製造方法を提供する。
[1] 1224xeと1224ydを含む混合物をアルカリと接触させることを特徴とする1224xeの除去方法。
[2] 1,1-ジクロロ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(CHCl2CF2CF3、HCFC-225ca、以下「225ca」という。)と1,2-ジクロロ-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(CHClFCClFCF3、HCFC-225ba、以下「225ba」という。)とを含むジクロロペンタフルオロプロパンの異性体混合物を、相間移動触媒の存在下、アルカリ水溶液と接触させて1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CF3-CF=CCl2、CFO-1214ya、以下「1214ya」という。)と1,2-ジクロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CF3-CCl=CClF、CFO-1214xb、以下「1214xb」という。)を含む組成物を得た後、前記組成物を触媒存在下、水素と接触させて、前記混合物を得ることを含む[1]に記載の除去方法。
[3] 前記混合物と前記アルカリとの接触を40℃~90℃の温度で行う[1]又は[2]に記載の除去方法。
【0011】
[4] 前記アルカリは、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上からなる[1]~[3]のいずれかに記載の除去方法。
[5] 前記混合物と前記アルカリの接触を、相間移動触媒の存在下で行う[1]~[4]のいずれかに記載の除去方法。
[6] 前記混合物中の、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合が50モル%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の除去方法。
【0012】
[7] 前記混合物を前記アルカリと接触させて得られる混合物中の、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合が0.5モル%以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の除去方法。
[8] 1224xeと1224ydを含む混合物をアルカリと接触させて、前記混合物中の1224xeを除去することを特徴とする、1224ydの製造方法。
[9] 225caと225baとを含むジクロロペンタフルオロプロパンの異性体混合物を、相間移動触媒の存在下、アルカリ水溶液と接触させて1214yaと1214xbを含む組成物を得、前記組成物を触媒存在下、水素と接触させて前記混合物を得る[8]に記載の製造方法。
[10] 前記混合物と前記アルカリとの接触を40℃~90℃の温度で行う[8]又は[9]に記載の製造方法。
【0013】
[11] 前記アルカリは、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上からなる[8]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12] 前記混合物と前記アルカリの接触を、相間移動触媒の存在下で行う[8]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13] 前記混合物中の、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合が50モル%以下である、[8]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14] 前記混合物を前記アルカリと接触させて得られる第2の混合物中の、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合が0.5モル%以下である、[8]~[13]のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
本明細書において、ハロゲン化炭化水素については化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記し、必要に応じて化合物名に替えてその略称を用いることもある。また、略称として、ハイフン(-)より後ろの数字及びアルファベット小文字部分だけを用いることがある。分子内に二重結合を有し、E体とZ体が存在する化合物、例えば、1224ydや1224xeについては、E体とZ体をそれぞれ化合物の略称の末尾に(E)、(Z)と表記して示す。該化合物の名称、略称において、E体、Z体の明記がない場合、該名称、略称は、E体、Z体、およびE体とZ体の混合物を含む総称を意味する。
【0015】
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の除去方法によれば、1224ydの製造などで得られる1224xeと1224ydの混合物中の1224xeの濃度を著しく低減することができる。また、本発明の1224ydの製造方法によれば、1224ydに付随する不純物、特には、1224xeを少なくすることで、1224ydを作動媒体などの用途に用いた場合に、その安定性を向上させることができる。すなわち、本発明の1224ydの製造方法によれば、不純物である1224xeの濃度が低く安定性が高められた1224ydを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】1224xeの脱塩化水素反応における反応時間と1224xe濃度の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1224xeの除去方法(第1の実施形態)]
本発明の第1の実施形態は、2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CF3-CCl=CHF、1224xe)と1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CF3-CF=CHCl、1224yd)を含む混合物(以下、「第1の混合物」という。)中の1224xeの濃度を低減させる方法である。本明細書において「除去」の用語は、混合物から所定の化合物をそれ自体の状態で取り除くことに加えて、該化合物を反応等により別の化合物に変換させて混合物から消失させることを含むものとして使用される。
【0019】
具体的には、第1の混合物をアルカリと接触させることにより、第1の混合物中の1224xeを後述の式(1)に示すとおり脱塩化水素反応させて1,3,3,3-テトラフルオロプロピンに変換することで除去し、第1の混合物に比べて1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合が低減された混合物(以下、「第2の混合物」という。)を得る方法である。
【0020】
これにより、1224ydと1224xeとを含む第1の混合物中の1224ydの濃度を実質的に減少させずに、1224xeの濃度を低減できる。なお、1224xeを脱塩化水素反応させて得られる1,3,3,3-テトラフルオロプロピンは1224ydを不安定にさせる化合物ではない。したがって、第2の混合物は、1,3,3,3-テトラフルオロプロピンを含んでもよいが、これを含有しないことが好ましい。1224ydと1,3,3,3-テトラフルオロプロピンは、蒸留等の一般的な方法で容易に分離可能である。
【0021】
(第1の混合物)
本発明の第1の実施形態に用いる第1の混合物は、1224ydと1224xeを含有する。
【0022】
第1の混合物における1224ydは、Z体及びE体の混合物であってもよく、Z体のみであってもよく、E体のみでもよい。1224ydは、燃焼性を抑えるハロゲンの割合が高いうえに、大気中のOHラジカルによって分解され易い炭素-炭素二重結合を分子内に有していることから、燃焼性が低く、オゾン層への影響が少なく、かつGWPが小さい。したがって、洗浄剤、冷媒などの作動媒体、発泡剤、溶剤、及びエアゾール用途として有用性が高い。
【0023】
本発明における1224ydは、例えば後述するように、225ca及び225baを含むジクロロペンタフルオロプロパン(HCFC-225)の異性体混合物(以下「HCFC-225の異性体混合物」という。)を原料として、これを相間移動触媒の存在下アルカリ水溶液と接触させて1214yaと1214xbを含む組成物を得て、この1214yaと1214xbを含む組成物を、触媒存在下、水素と接触させて得られる。
【0024】
上述したHCFC-225の異性体混合物を原料として1224ydを製造する方法では、1224yd以外にも1224xeなどの不純物が副生して1224xeと1224ydとを含む混合物が得られることがある。本発明では、例えば、このような1224xeと1224ydとを含む混合物を、第1の混合物として使用できる。第1の混合物における、1224xeは、Z体及びE体の混合物であってもよく、Z体のみであってもよく、E体のみでもよい。
【0025】
本発明に用いる第1の混合物において、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合は、50モル%以下であることが好ましく、30モル%以下がより好ましく、20モル%以下がさらに好ましく、10モル%以下が特に好ましい。すなわち、第1の混合物における1224xeと1224ydの総量に対する1224ydの割合は、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、90モル%以上が特に好ましい。
【0026】
第1の混合物における、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合の下限は特に制限されないが、0.5モル%程度が挙げられる。
【0027】
(アルカリとの接触工程)
本発明の方法においては、第1の混合物をアルカリと接触させる工程(以下、「アルカリ接触工程」ともいう。)を有する。アルカリ接触工程により、第1の混合物をアルカリと接触させることで、1224xeを脱塩化水素反応させることができる。ここで、1224ydはアルカリと接触させると脱フッ化水素反応することが知られている。しかしながら、本発明者らは1224ydと1224xeが共存する第1の混合物をアルカリと接触させる場合、1224ydの脱フッ化水素反応に優先して1224xeの脱塩化水素反応が進行することを見出した。
【0028】
したがって、本発明の方法におけるアルカリ接触工程では、実質的に1224ydが脱フッ化水素反応しないことで、1224ydを減少させずに、1224xeを減少させることができる。結果として、第1の混合物から1224xeが除去され、第1の混合物に比べて、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合が低減された、すなわち、1224xeと1224ydの総量に対する1224ydの割合が増加した第2の混合物が得られる。
【0029】
アルカリ接触工程における1224xeの脱塩化水素反応は、下記反応式(1)で示すことができる。
【0030】
【0031】
本発明において、アルカリ接触工程は、気相又は液相のいずれでも行うことができる。アルカリ接触工程は、1224xeを効率よく脱塩化水素反応させることができ、また、気相で行う場合に比して小さな反応器サイズのものを採用できるため、工業的に実施がより有利である点から液相で行うことが好ましい。ここで、アルカリ接触工程を気相で行うとは、気体の第1の混合物を用いて1224xeを気体状態で反応させることをいい、液相で行うとは、液体の第1の混合物を用いて1224xeを液体状態で反応させることをいう。
【0032】
本発明におけるアルカリ接触工程を気相で行う場合には、固体、好ましくは、粉末状態のアルカリと気体状態の第1の混合物を接触させる方法が挙げられる。
【0033】
本発明におけるアルカリ接触工程を液相で実施する場合は、溶媒に溶解したアルカリ、すなわち溶液状態のアルカリと、液体状態の第1の混合物とを接触させる方法等が挙げられる。例えば、上記アルカリを溶媒に溶解して得られる溶液と第1の混合物とを撹拌等の手段を用いて接触させることが好ましい。
【0034】
アルカリは、第1の混合物と接触した際に、1224xeの脱塩化水素反応が実行可能
なアルカリであれば特に限定されない。アルカリは、金属水酸化物、金属酸化物及び金属炭酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。アルカリとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はこれらの水酸化物、酸化物若しくは炭酸塩などが挙げられる。
【0035】
アルカリが金属水酸化物である場合、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属水酸化物などが挙げられる。アルカリ土類金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムが挙げられる。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
【0036】
本発明の製造方法に用いるアルカリとしては、反応時間及び反応収率の点から、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属水酸化物が好ましく、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属水酸化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明における、アルカリ接触工程を液相で行う場合に、溶液状態のアルカリを調製するために用いる溶媒としては、上記のアルカリの所定量を溶解でき、かつ第1の混合物と反応しない溶媒であれば特に制限されない。例えば、溶媒としては、アルカリ金属水酸化物を十分に溶解でき、溶媒由来の副反応がない等の観点から水が好ましい。
【0038】
アルカリ接触工程は、第1の混合物中の1224xeの脱塩化水素反応が1224ydの脱フッ化水素反応に、より優先して行われる条件で行うのが好ましい。該条件は、例えば、アルカリ存在下での1224xeの脱塩化水素反応及び1224ydの脱フッ化水素反応におけるそれぞれの反応速度定数を勘案して適宜設定できる。該条件でアルカリ接触工程を行うことで、得られる第2の混合物において、第1の混合物に比べて、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合がより低減された、すなわち、1224xeと1224ydの総量に対する1224ydの割合がより増加した第2の混合物が得られる。
【0039】
アルカリ接触工程におけるアルカリの量は、上記観点から、溶媒とアルカリの総量(質量)に対するアルカリ金属水酸化物等のアルカリの質量の割合が、1質量%~30質量%となる量が好ましく、5質量%~15質量%がより好ましい。なお、相間移動触媒を用いる場合のアルカリの量は、相間移動触媒を溶媒として扱い算出される。すなわち、相間移動触媒を用いる場合は、溶媒(相間移動触媒を含む)とアルカリの総量に対するアルカリの割合が上記範囲になることが好ましい。アルカリの量が上記範囲未満であると、1224xeの脱塩化水素反応において十分な反応速度が得られないことがある。一方、アルカリの量が上記範囲を超えると、1224ydが脱フッ化水素反応してしまうことがある。
【0040】
アルカリ接触工程におけるアルカリの量は、上記観点から、第1の混合物中の1224xeと1224ydの総量100質量部に対して、1~60質量部が好ましい。
【0041】
本発明におけるアルカリ接触工程を液相で行う場合の温度は、上記観点から、40℃~90℃が好ましく、60℃~75℃がより好ましい。アルカリ接触工程の温度が40℃未満であると、1224xeの脱塩化水素反応において十分な反応速度が得られないことがある。一方、アルカリ接触工程の温度が90℃を超えると、1224ydが脱フッ化水素反応してしまうことがある。
【0042】
本発明におけるアルカリ接触工程を液相で行う場合の接触時間は、温度やアルカリ水溶液の濃度もよるが、上記観点と、生産性を確保する観点から、0.5~20時間が好まし
く、1~10時間がより好ましい。
【0043】
本発明における、アルカリ接触工程を液相で行う場合、反応系中に反応をより促進する目的で、本発明の効果を損なわない他の物質を存在させてもよい。例えば、アルカリ溶液として、親水性が高い溶媒を用いたアルカリ溶液を使用した場合は、他の物質としては、相間移動触媒又は、1224yd及び1224xeを溶解しうる水溶性有機溶媒等を存在させるのが好ましい。アルカリ接触工程には、相間移動触媒が存在することが特に好ましい。
【0044】
相間移動触媒としては、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、第4級アルソニウム塩、スルホニウム塩、クラウンエーテルなどが挙げられ、第4級アンモニウム塩が好ましい。
【0045】
相間移動触媒が第4級アンモニウム塩である場合、下式(i)で表される化合物(以下、「化合物(i)」ともいう。)が挙げられる。
【0046】
【0047】
ただし、式(i)中、R11~R14は、それぞれ独立して、1価の炭化水素基、又は反応に不活性な官能基が結合した1価の炭化水素基を表し、A-は、陰イオンを表す。なお、式(i)及び後述する式(ii)~(iv)におけるA-は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0048】
R11~R14が炭化水素基である場合、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アリール基などが挙げられ、アルキル基、アリール基が好ましい。R11~R14の炭素原子数は、1~20が好ましく、1~10が好ましい。R11~R14は、それぞれ同じ基であってもよいし、異なる基であってもよい。
【0049】
R11~R14が、反応に不活性な官能基が結合した1価の炭化水素基である場合の官能基は、反応条件に応じて適宜選択されるが、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、ニトリル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシル基などが挙げられる。
【0050】
R11R12R13R14N+としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラ-n-プロピルアンモニウム、テトラ-n-ブチルアンモニウム、メチルトリ-n-オクチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、セチルベンジルジメチルアンモニウム、セチルピリジニウム、n-ドデシルピリジニウム、フェニルトリメチルアンモニウム、フェニルトリエチルアンモニウム、N-ベンジルピコリニウム、ペンタメトニウム、ヘキサメトニウムなどが挙げられる。
【0051】
A-としては、塩素イオン、フッ素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、過塩素酸イオン、硫酸水素イオン、水酸化物イオン、酢酸イオン、安息香酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオンなど
が挙げられ、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫酸水素イオン、水酸化物イオンが好ましい。
【0052】
化合物(i)としては、汎用性及び反応性の観点から、下記R11R12R13R14N+と、下記A-との組合せが好ましい。
R11R12R13R14N+:テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラ-n-プロピルアンモニウム、テトラ-n-ブチルアンモニウム、メチルトリ-n-オクチルアンモニウム。
A-:フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、水酸化物イオン。
【0053】
4級アンモニウム塩としては、テトラ-n-ブチルアンモニウムクロリド(TBAC)、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、メチルトリ-n-オクチルアンモニウムクロリド(TOMAC)が好ましい。
【0054】
相間移動触媒が第4級ホスホニウム塩である場合、下式(ii)で表される化合物が挙げられる。
【0055】
【0056】
ただし、式(ii)中、R21~R24は、それぞれ独立して、1価の炭化水素基を表し、A-は、陰イオンを表す。
【0057】
R21~R24における炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アリール基などが挙げられ、アルキル基、アリール基が好ましい。R21~R24の炭素原子数は1~20が好ましく、1~10がより好ましい。
【0058】
式(ii)における第4級ホスホニウム(R21R22R23R24P+)としては、テトラエチルホスホニウム、テトラ-n-ブチルホスホニウム、エチルトリ-n-オクチルホスホニウム、セチルトリエチルホスホニウム、セチルトリ-n-ブチルホスホニウム、n-ブチルトリフェニルホスホニウム、n-アミルトリフェニルホスホニウム、メチルトリフェニルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウムなどが挙げられる。
【0059】
A-としては、塩素イオン、フッ素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、過塩素酸イオン、硫酸水素イオン、水酸化物イオン、酢酸イオン、安息香酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオンなどが挙げられ、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオンが好ましい。
【0060】
相間移動触媒が第4級アルソニウム塩である場合、下式(iii)で表される化合物が挙げられる。
【0061】
【0062】
ただし、式(iii)中、R31~R34は、それぞれ独立して、1価の炭化水素基を表し、A-は、陰イオンを表す。
【0063】
R31~R34における炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アリール基などが挙げられ、アルキル基、アリール基が好ましい。R31~R34の炭素原子数は1~20が好ましく、1~10がより好ましい。
【0064】
A-としては、ハロゲンイオンが好ましく、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオンがより好ましい。
【0065】
式(iii)で表わされる第4級アルソニウム塩としては、トリフェニルメチルアルソニウムフロリド、テトラフェニルアルソニウムフロリド、トリフェニルメチルアルソニウムクロリド、テトラフェニルアルソニウムクロリド、テトラフェニルアルソニウムブロミドなどが挙げられる。第4級アルソニウム塩としては、トリフェニルメチルアルソニウムクロリドが特に好ましい。
【0066】
相間移動触媒がスルホニウム塩である場合としては、下式(iv)で表される化合物が挙げられる。
【0067】
【0068】
ただし、式(iv)中、R41~R43は、それぞれ独立して、1価の炭化水素基を表し、A-は、陰イオンを表す。
【0069】
R41~R43における炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アリール基などが挙げられ、アルキル基、アリール基が好ましい。R41~R43の炭素原子数は1~20が好ましく、1~10がより好ましい。
【0070】
A-としては、ハロゲンイオンが好ましく、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオンがより好ましい。
【0071】
式(iv)で表されるスルホニウム塩としては、ジ-n-ブチルメチルスルホニウムアイオダイド、トリ-n-ブチルスルホニウムテトラフルオロボレート、ジヘキシルメチルスルホニウムアイオダイド、ジシクロヘキシルメチルスルホニウムアイオダイド、ドデシルメチルエチルスルホニウムクロリド、トリス(ジエチルアミノ)スルホニウムジフルオロトリメチルシリケートなどが挙げられる。スルホニウム塩としては、ドデシルメチルエチルスルホニウムクロリドが特に好ましい。
【0072】
クラウンエーテルとしては、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6などが挙げられる。
【0073】
相間移動触媒の量は、第1の混合物中の1224xeと1224ydの総量100質量部に対して、0.001~5質量部が好ましく、0.01~2質量部がより好ましい。相間移動触媒の量が少なすぎると、十分な反応速度が得られないことがあり、多く用いても、使用量に応じた反応促進効果は得られず、コスト面で不利である。
【0074】
また、反応系が、水相と有機相に分離する場合は、相間移動触媒の代わりに、水溶性有機溶媒(例えば、テトラグライム等)を反応系中に存在させて、有機相と、塩基を含む水相を相溶化させてもよく、相間移動触媒と水溶性有機溶媒を併用してもよい。
【0075】
水溶性有機溶媒としては、1224yd及び1224xeを溶解しうる有機溶媒であって、本発明の反応に影響を及ぼさない溶媒が好ましく、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)、スルホラン、t-ブタノール等が好ましい。該水溶性溶媒は、通常、塩基溶液と相溶性を有する。
【0076】
水溶性有機溶媒の量は、第1の混合物中の1224xeと1224ydの総量100質量部に対して、1~200質量部が好ましく、10~100質量部がより好ましい。水溶性有機溶媒の量が上記範囲未満である場合、十分な反応速度が得られないことがある。また、水溶性有機溶媒の量が上記範囲を超える場合、アルカリの濃度が薄くなるため、反応速度が小さくなり、使用量に応じた反応促進効果は得られなくなる。
【0077】
相間移動触媒又は水溶性有機溶媒を用いる場合は、反応器に導入した後、一般的な撹拌手段によって、反応に関与する化合物とこれらを充分に接触させることが好ましい。
【0078】
ここで、第1の混合物のアルカリ接触工程を、上述した相間移動触媒の存在下、水酸化ナトリウム水溶液中で行った場合における、1224xeの脱塩化水素反応の反応速度定数kは、下記式(E1)で定義することができる。
【0079】
d[1224xe]/dt=k[1224xe][NaOH] ・・・(E1)
(式(E1)中、[1224xe]は、1224xeと1224ydとを含む第1の混合物中の1224xeのモル濃度であり、[NaOH]は、水相中の水酸化ナトリウムのモル濃度である。d[1224xe]/dtは液相中の1224xeのモル濃度の時間変化である。)。
【0080】
反応速度定数kは、相間移動触媒の存在下、1224xeと1224ydとを含む第1の混合物を所定の濃度の水酸化ナトリウム水溶液と接触させて、反応時間と[1224xe]を測定し、この測定を異なる温度条件で行った結果から、上記式(E1)によって求めることができる。相間移動触媒としてテトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(TBAB)を用いた場合の反応速度定数kは、上記の方法により式(E1)とアレニウスの式を用いて、TBABを液相中に0.013mol/L含んだ条件で、温度T(K)の関数として、k=1.3×1018×exp(-1.7×104/T)と求められた。
【0081】
同様に、相間移動触媒の存在下、1224xeと1224ydとを含む第1の混合物をアルカリと接触させた場合の、1224ydの脱フッ化水素反応の反応速度定数も上記同様の方法で求めることができる。また、相間移動触媒の種類や濃度、アルカリの種類を変
えた場合の反応速度定数も、当該相間移動触媒及びアルカリを用いて1224ydの脱フッ化水素反応を行い、1224ydの分解速度を算出することで、同様に求めることができる。これらで求められる反応速度定数に基づいて、上記好ましい温度やアルカリ水溶液の濃度範囲で、反応器の大きさや、求められる1224xe除去率などに応じて、アルカリ接触工程の条件を決定することができる。
【0082】
本発明におけるアルカリ接触工程は、バッチ式で行ってもよいし、半連続式、連続流通式で行ってもよい。接触時間は各様式により適宜調整できる。アルカリ接触工程に用いる反応器の材質としては、1224yd、1224xe、相間移動触媒、水溶性有機溶媒、アルカリ及びこれを溶液とするための溶媒、並びに反応生成物を含む反応液成分等に不活性で、耐蝕性の材質であれば特に制限されない。例えば、ガラス、鉄、ニッケル、及び鉄等を主成分とするステンレス鋼等の合金などが挙げられる。
【0083】
本発明におけるアルカリ接触工程を液相で行った合は、アルカリ接触工程終了後に反応液を放置して、有機相と水相に分離させる。有機相中には、目的物である1224yd以外に、未反応の1224xe、及び1224xeが脱塩化水素して生成する1,3,3,3-テトラフルオロプロピン等が含まれ得る。これらを含む有機相中から、1224ydを回収する際には、一般的な蒸留等による分離精製方法を採用するのが好ましい。
【0084】
本発明において、上記アルカリ接触工程を経た後の第2の混合物中の、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合は、0.5モル%以下が好ましく、0.05モル%以下がより好ましい。すなわち、第2の混合物中の1224xeと1224ydの総量に対する1224ydの割合は、99.5モル%以上が好ましく、99.95モル%以上がより好ましい。
【0085】
[1224ydの製造方法(第2の実施形態)]
本発明の1224ydの製造方法(第2の実施形態)は、1224xeと1224ydを含む第1の混合物をアルカリと接触させる工程を有する。本発明の1224ydの製造方法によれば、第1の混合物をアルカリと接触させる工程により、第1の混合物から1224xeを選択的に除去できる。第2の実施形態における、第1の混合物をアルカリと接触させる工程は、上記1224xeの除去方法(第1の実施形態)におけるアルカリ接触工程と、好ましい態様を含めて、同様にできる。
【0086】
本発明の1224ydの製造方法は、好ましくは、以下の1224xeと1224ydを含む第1の混合物を得る工程、および第1の混合物をアルカリと接触させる工程を有する。本発明の1224ydの製造方法における上記好ましい態様では、1224xeと1224ydを含む第1の混合物を得た後、第1の混合物をアルカリ接触工程に供することで、第1の混合物に比べて1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合が低減され、1224ydの安定性が高められた第2の混合物が、生産性よく得られる。
【0087】
(第1の混合物を得る工程)
第1の混合物を得る工程は、225caと225baとを含むジクロロペンタフルオロプロパンの異性体混合物(HCFC-225の異性体混合物)を、相間移動触媒の存在下、アルカリ水溶液と接触させて、脱フッ化水素により、1214yaと1214xbを含む組成物を得る工程(以下、「脱フッ化水素工程」ともいう。)、その後、触媒存在下、1214yaと1214xbを含む組成物を水素と接触させて、1224xeと1224ydを含む第1の混合物を得る工程(以下、「水素還元工程」ともいう。)を含む。
【0088】
(1)脱フッ化水素工程
脱フッ化水素工程に用いるHCFC-225の異性体混合物は、225ca及び225baを含む。HCFC-225の異性体混合物は、225ca及び225ba以外のジクロロペンタフルオロプロパンの異性体、例えば、1,3-ジクロロ-1,2,2,3,3-ペンタフルオロプロパン(CHClFCF2CClF2、HCFC-225cb)、2,2-ジクロロ-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(CHF2CCl2CF3、HCFC-225aa)及び2,3-ジクロロ-1,1,2,3,3-ペンタフルオロプロパン(CHF2CClFCClF2、HCFC-225bb)等を含んでいてもよい。本発明に用いられるHCFC-225の異性体混合物は、例えば、225ca及び225baからなる、又は、225ca及び225baと、これら以外のジクロロペンタフルオロプロパンの異性体の1種又は2種以上からなるが、これに限定されない。
【0089】
HCFC-225の異性体混合物は、例えば、テトラフルオロエチレンとジクロロフルオロメタンを塩化アルミニウム等の触媒の存在下で反応させることにより製造される。
【0090】
HCFC-225の異性体混合物としては、225caと225baを含有する異性体混合物であれば、上記以外の方法で得られるHCFC-225の異性体混合物を用いてもよい。
【0091】
また、HCFC-225の異性体混合物を、塩化アルミニウム等のルイス酸触媒又は金属酸化物触媒の存在下に異性化反応させ、生成物中の225caの含有比率を原料中の含有比率より高めた上で用いてもよい。金属酸化物触媒としては、Al,Sb,Nb,Ta,W,Re,B,Sn,Ga,In,Zr,Hf及びTiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物等を使用することができる。
【0092】
HCFC-225の異性体混合物中の225caは、脱フッ化水素工程により1214yaとなり、1214yaが水素還元工程により目的物である1224ydとなる。一方、225baは、脱フッ化水素工程により1214xbとなり、1214xbが水素還元工程により1224xeとなる。ここで、1224ydの製造において、HCFC-225の異性体混合物を用いるのは、通常、異性体混合物として得られるHCFC-225から、個々の化合物、この場合、1224ydの原料となる225caを完全に単離するのが困難なためである。
【0093】
HCFC-225の異性体混合物中の225caの含有割合は、例えば、目的物である1224ydを効率よく得る観点から、異性体混合物の総量に対して10~99モル%であることが好ましい。
【0094】
また、HCFC-225の異性体混合物中の225baの含有割合は、例えば、1224ydの製造工程において副生する1224xeの量を低減する観点から、異性体混合物の総量に対して0.1~20モル%であることが好ましい。
【0095】
本発明の第2の実施形態における脱フッ化水素工程においては、下記反応式(2-1)に示されるとおり、HCFC-225の異性体混合物を、相間移動触媒の存在下にアルカリ水溶液と接触させて、HCFC-225の異性体混合物中に含まれる225caを脱フッ化水素反応させ、1214yaを製造する。相間移動触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)が好ましい。
【0096】
【0097】
上記反応式(2-1)に示されるように、相間移動触媒によりHCFC-225異性体混合物中の225caが脱フッ化水素されて1214yaが生成する。反応後、得られた1214yaは蒸留等の公知の方法により分離回収できる。
【0098】
ところが、HCFC-225異性体混合物を脱フッ化水素反応して得られる組成物(1214yaを含む組成物)には、1214ya以外にも、HCFC-225異性体混合物中の225baが脱フッ化水素されて生成した1214xbが含まれる。この、225baの脱フッ化水素反応は下記反応式(2-2)で示される。
【0099】
【0100】
1214yaの沸点は約44℃、1214xbの沸点が約47℃であるため、通常の蒸留によって1214yaと1214xbを完全に分離するのは困難である。そのため、蒸留によって1214yaと1214xbを含む組成物中の1214yaを高濃度化しても、1214xbが不可避的に残留する。蒸留後の1214yaと1214xbを含む組成物中の1214xbの含有割合は、例えば、組成物中に含まれる化合物の全モル量に対して10モル%以下程度である。この1214xbは、以下の水素還元工程で、1224xeに変換される。
【0101】
(2)水素還元工程
次いで、上記で得られた1214yaと1214xbを含む組成物を、触媒(例えば、パラジウム触媒)の存在下、水素と接触させる、水素還元工程を行う。水素還元工程では、1214yaと1214xbを含む組成物中の、1214yaから1224ydが、1214xbから1224xeが、それぞれ生成され、1224ydと1224xeを含む第1の混合物が得られる。
【0102】
水素還元工程における1214yaと水素の反応は下記反応式(3-1)で示される。また、1214xbと水素の反応は下記反応式(3-2)で示される。
【0103】
【0104】
【0105】
水素還元工程の具体的な方法としては、例えば、ガラス、鉄、ニッケル、又はこれらを主成分とする合金等からなる反応器内に触媒を充填して触媒層を形成し、該触媒層に上記の(1)脱フッ化水素工程で得られた1214yaと1214xbを含む組成物(以下、組成物(X)ともいう。)と、水素とを、ガス状で導入する方法が挙げられる。この際、触媒層の最高温度を制御するために、組成物(X)と水素以外に、触媒層に、窒素、希ガス(ヘリウム、アルゴン等)、二酸化炭素、水素化反応に不活性なフロン類等の不活性ガスを導入してもよい。
【0106】
組成物(X)を水素と接触させて還元反応させる反応温度は、気相の反応では、反応に用いる組成物(X)と水素の混合ガスの露点を越える温度とする。また、さらに不活性ガスを用いる場合には、組成物(X)と水素と不活性ガスの混合ガスの露点を越える温度とする。また、本発明の製造方法では、例えば、水素還元工程における反応温度は200℃以下であることが好ましい。
【0107】
水素還元工程における反応後の生成ガスには、1224yd及び1224xeの他に、未反応の1214ya及び1214xb、過還元体である2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CF3CF=CH2、HFO-1234yf)、1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(CF3CHFCH3、HFC-254eb)、1,1,1-トリフルオロプロパン(CF3CH2CH3、HFC-263fb)、3,3,3-トリフルオロプロペン(CF3CH=CH2、HFO-1243zf)等及び塩化水素(HCl)が含まれ得る。
【0108】
本発明においては、上記生成ガスをそのまま第1の混合物として、次の(3)アルカリ接触工程に用いてもよく、上記生成ガスから、1224yd及び1224xe以外の成分を適宜除去して、第1の混合物として、次の(3)アルカリ接触工程に用いてもよい。
【0109】
(3)アルカリ接触工程
本発明の第2の実施形態において、アルカリ接触工程に用いる第1の混合物は、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合が50モル%以下であることが好ましく、30モル%以下がより好ましく、20モル%以下がさらに好ましく、10モル%以下が特に好ましい。すなわち、第1の混合物における1224xeと1224ydの総量に対する1224ydの割合は、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、90モル%以上が特に好ましい。第1の混合物における、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合の下限は特に制限されないが、0.5モル%程度が挙げられる。
【0110】
本発明の第2の実施形態において、第1の混合物をアルカリと接触させるアルカリ接触工程は、上記第1の実施形態におけるアルカリ接触工程と同様にできる。アルカリ接触工程により、第1の混合物から1224xeが除去され、第1の混合物に比べて、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合が低減された、すなわち、1224xeと1224ydの総量に対する1224ydの割合が増加した第2の混合物が得られる。
【0111】
本発明の第2の実施形態において、上記アルカリ接触工程を経た後の第2の混合物中の、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeの割合は、0.5モル%以下が好ましく、0.05モル%以下がより好ましい。すなわち、第2の混合物中の1224xeと1224ydの総量に対する1224ydの割合は、99.5モル%以上が好ましく、99.95モル%以上がより好ましい。
【0112】
(4)1224ydの精製工程
本発明の第2の実施形態において、アルカリ接触工程後の第2の混合物中には、目的物である1224yd以外に、未反応の1224xe、1224xeが脱塩化水素して生成する1,3,3,3-テトラフルオロプロピン等が含まれうる。したがって、アルカリ接触工程後の第2の混合物に対して、例えば、蒸留等の通常の精製処理を行って、第2の混合物中の1224ydの濃度を高めることが好ましい。
【0113】
このようにしてアルカリ接触工程後の第2の混合物を精製処理して得られる精製1224yd中の1224ydの濃度は、99質量%以上が好ましい。精製1224yd中の1224xeの濃度は0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下を実現することができる。
【0114】
また、精製1224yd中にHCl等の酸分や水、酸素が含まれると、その使用に際して設備が腐食したり、精製1224ydからなる作動媒体等の安定性が低下するなどのおそれがある。したがって、酸分、つまり塩素イオン及びフッ素イオンの含有量は、精製1224ydの総量に対して、好ましくは10質量ppm未満、より好ましくは1質量ppm未満、最も好ましくは0.1質量ppm未満である。また、精製1224ydにおける水分濃度は1000質量ppm未満が好ましく、最も好ましくは100質量ppm未満である。精製1224ydにおける酸素濃度は1000質量ppm以下が好ましく、500質量ppm以下がより好ましい。上記範囲外では、1224ydの分解が起きたり、脱脂洗浄性能が阻害されたりする可能性がある。
【0115】
本発明の第2の実施形態では、不純物である1224xeの含有量が低減された精製1224ydが得られることから、精製1224ydの安定性を高めることができる。よって、これを洗浄剤、冷媒、発泡剤、溶剤、及びエアゾール用途に用いた場合にその有用性を向上させることができる。
【実施例】
【0116】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によって
は限定されない。
【0117】
(実施例1)
撹拌器、及びサンプリング用の差込管を備えた容積1Lのオートクレーブを用いて、反応試験を行った。まず、オートクレーブ内を減圧した状態で、所定量の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、TBAB(相間移動触媒)を水に溶解させた触媒水溶液及びイオン交換水を収容した。次いで、1224xeと1224ydを含む有機層(第1の混合物)をオートクレーブ内に供給した。上記NaOHは、水層中の濃度が9質量%となるように調製した。また、TBABはオートクレーブ内の液相の総量に対してTBABが0.013mol/L(1224xeと1224ydの総量100質量部に対して、0.8質量部)となるように添加した。
【0118】
なお、1224xeと1224ydを含む第1の混合物は、HCFC-225の異性体混合物を、相間移動触媒の存在下、アルカリ水溶液と接触させて、脱フッ化水素により、1214yaと1214xbを含む組成物を得、その後、触媒存在下、1214yaと1214xbを含む組成物を水素と接触させることで製造した。第1の混合物において、1224xeと1224ydの総量に対する1224xeおよび1224ydの割合はそれぞれ、0.75モル%および99.25モル%であった。
【0119】
上記で1224xeと1224ydを含む有機層を収容した後のオートクレーブを所定温度の水バスに浸漬し、オートクレーブ内の温度が目標温度(反応温度:65℃)に到達したところで、撹拌を開始し、反応開始とした。
【0120】
反応開始後、所定時間経過毎に差込管よりサンプリングを行い、有機層と水層を二層分離した上で有機層をガスクロマトグラフィーで面積%により含有成分量(モル%)を分析し、残留した1224xeの割合、当初仕込んだ1224xeの割合、及び反応時間から、1224xeの分解速度を求めた。なお、ガスクロマトグラフィーでは、カラムとして、DB-1301(商品名、アジレント・テクノロジー株式会社製、長さ60m×内径250μm×厚み1μm)を用いた。また、同様に、1224ydの分解速度を求めた。上記における、反応時間と、残留した1224xeの濃度(モル%)及び1224ydの濃度(モル%)の関係を表1及び
図1に示す。表1には、有機層が含有する1224ydと1224xeの総量に対する1224xeの割合(モル%)を合わせて示す。
【0121】
また、上記式(E1)を用いて求めた反応速度係数k=1.3×10
18×exp(-1.7×10
4/T)を使用し、反応開始後の時間と、残留1224xeの濃度を算出した。結果を
図1に示す。
図1において、実線は、上記で求めた反応速度定数から算出される残留1224xe濃度の値(計算値)を表し、三角形のプロットは、上記で実測した残留1224xe濃度の値(実験値)を表す。
【0122】
なお、反応1.5時間後における1224xeおよび1224ydを含む混合物の質量回収率は99%であり、1224ydの分解は見られなかった。
【0123】
【0124】
表1及び
図1に示されるように、本発明の1224xeの除去方法では、1224ydと1224xeを含む第1の混合物中の1224xeを脱塩化水素反応させて、該第1の混合物中の1224xe濃度を極めて低減することができる。
【0125】
(実施例2)
実施例1と同じ反応装置にて、反応温度のみ65℃から100℃に変更したところ、反応時間2時間後において1224yd濃度は94%と変わらなかったが、1224xeおよび1224ydを含む混合物の質量回収率は85%に低下した。水層にフッ化ナトリウムが生成しており、1224ydの脱フッ化水素反応による分解が示唆された。
【0126】
実施例2における反応時間と、残留した1224xeの濃度及び1224ydの濃度の関係を表2に示す。表2には、有機層が含有する1224ydと1224xeの総量に対する1224xeの割合(モル%)を併せて示す。このことから、100℃で反応させた場合、1224ydの分解は示唆されるものの、第1の混合物中の1224xe濃度を極めて低減することができる。
【0127】