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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】スラリー流動化装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 25/434 20220101AFI20231024BHJP
   C23C 4/12 20160101ALI20231024BHJP
   B01F 25/432 20220101ALI20231024BHJP
   B05B 7/20 20060101ALN20231024BHJP
   B01F 23/50 20220101ALN20231024BHJP
   B01D 35/02 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
B01F25/434
C23C4/12
B01F25/432
B05B7/20
B01F23/50
B01D35/02 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019027340
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020131105
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-02-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)近畿経済産業局 平成27年度革新的ものづくり産業創出連携促進事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)「電子線、オゾン環境下で摺動に優れる部材のためのセラミック緻密膜とその製造装置の研究開発」委託契約、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】513101191
【氏名又は名称】株式会社セイワマシン
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】藤野 圭司
(72)【発明者】
【氏名】桐原 聡秀
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-144740(JP,A)
【文献】特開2007-289904(JP,A)
【文献】実開平05-037331(JP,U)
【文献】特開平08-033967(JP,A)
【文献】特表2012-519577(JP,A)
【文献】電子線、オゾン環境下で摺動に優れる部材のためのセラミック緻密膜とその製造装置の研究開発,平成27年度戦略的基盤技術高度化支援事業 研究開発成果等報告書,日本,2016年03月,1-20頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 23/50、25/40-46
C23C 4/12
B01D 29/01、35/02
B05B 7/20
B28C 5/06
B29B 7/32、74-76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子含有スラリーが圧送される配管と、
前記配管の内側にこの軸線方向に嵌挿されており、外周部に前記軸線方向に対して傾斜した方向に延びる傾斜溝が形成された、棒状部材と、
を有し、
前記傾斜溝は、前記棒状部材を、前記軸線方向における一端部から他端部まで貫通しており、
前記棒状部材は、
前記軸線方向に離間して位置しており前記傾斜溝及び雄ねじが形成された複数の太径部と、
前記軸線方向に隣り合う一対の前記太径部の間に位置しており前記太径部に比して細い細径部と
を有しており、
前記配管は、前記棒状部材が内部に嵌挿される円筒状のニップルと、前記ニップルの前記軸線方向における端部に接続されるスラリー出口ソケットとを有しており、
前記スラリー出口ソケットは、前記微粒子含有スラリーが圧送される圧送方向に貫通した孔部を有する円筒部材であって、前記圧送方向の上流側の口元に前記孔部よりも拡径されており前記ニップルの前記端部が接続される座繰り部を有しており、
前記太径部は、外周部が、前記微粒子含有スラリーの圧送方向の下流側に向かって左右方向の一方側に傾斜した方向に延びる前記雄ねじにより構成されており、
前記棒状部材は、前記雄ねじを前記スラリー出口ソケットの前記孔部の口元にねじ込ませることによって前記スラリー出口ソケットの前記孔部に対して片持ち状態で固着されており、
前記配管には、スラリー濾し部が更に設けられており、
前記スラリー濾し部は、網状のメッシュ部材により構成されており、
前記スラリー濾し部は、複数設けられており、
前記複数のスラリー濾し部は、前記微粒子含有スラリーの圧送方向における下流側に向かって、前記メッシュ部材の開口が細かくなる、スラリー流動化装置。
【請求項2】
前記軸線方向に隣り合う一対の前記太径部それぞれに形成された、一対の前記傾斜溝は、前記軸線方向に対して互いに反対方向に傾斜している、
請求項に記載のスラリー流動化装置。
【請求項3】
前記複数の太径部のうち、前記軸線方向において、上流側に位置する前記太径部における前記傾斜溝の形成数は、この下流側に位置する前記太径部に形成された前記傾斜溝の形成数以下である、
請求項1又は2に記載のスラリー流動化装置。
【請求項4】
前記スラリー濾し部は、互いに異なる位相で積層された複数の前記メッシュ部材により構成されている、
請求項1~3のいずれか1つに記載のスラリー流動化装置。
【請求項5】
前記スラリー濾し部は、前記軸線方向において間隔を開けて3つ以上設けられており、
前記スラリー濾し部間の前記間隔は、上流側において下流側よりも長い、
請求項1~4のいずか1つに記載のスラリー流動化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリー流動化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ボイドやクラックの発生を抑えながら、被覆材の表面に、耐熱性及び被膜強度に優れた緻密な溶射皮膜を形成することが、強く望まれている。そのための方法として、特許文献1には、耐熱性を有する微粒子を溶射材料として用いることが開示されている。具体的には、微粒子を有機溶媒に分散させた微粒子含有スラリーを作成し、これを噴霧化させた状態で燃焼フレームに導入することによって、有機溶媒を消失させながら、微粒子を被溶射材に溶射する。
【0003】
特許文献2には、シリンジから圧送された微粒子含有スラリーを、配管を介して、これを噴霧化する噴霧装置に供給することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-213214号公報
【文献】特開2018-168414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微粒子含有スラリーは、チクソトロピー性(チクソ性ともいう)と称される特殊なレオロジー性をもっており、剪断力が加わった場合には流動化し、無荷重である場合にはその形状を保つ特性を有している。しかしながら、シリンジから配管内に圧送された微粒子含有スラリーは、剪断力を掛けずにわずか数分間、静置しているだけで、容易にその流動性が低下してしまう。したがって、配管に圧送された微粒子含有スラリーを、その流動性を高く維持しつつ噴霧装置へ搬送することが望まれている。
【0006】
本発明は、配管内に圧送された微粒子含有スラリーの、流動性を向上させることができる、スラリー流動化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者は、微粒子含有スラリーの流動性の経時的な低下について、次のように考えた。すなわち、チクソ性流体(非ニュートン流体)は、図15(a)に概念的に示すニュートン流体に対して、図15(b)に示すように溶媒中における粒子の分散量を増大させたものであり、微粒子が分散された直後においては微粒子が互いに接近しており、微粒子含有スラリーは粘度が高いものの流動性を示す。この状態から数分間、静置することによって、図15(c)に示すように微粒子が分子間力で結合して、微粒子含有スラリーの流動性が低下すると考えた。
【0008】
一方、上述したように、微粒子含有スラリーに剪断力を加えることによって、図15(b)に示す状態に戻る。したがって、配管内を圧送される微粒子含有スラリーに対して、その流動性を増大若しくは維持するように、配管内においても剪断力を生じさせることを着想した。本発明は、係る新たな着想に基づく。
【0009】
本発明は、
微粒子含有スラリーが圧送される配管と、
前記配管の内側にこの軸線方向に嵌挿されており、外周部に前記軸線方向に対して傾斜した方向に延びる傾斜溝が形成された、棒状部材と、
を有し、
前記傾斜溝は、前記棒状部材を、前記軸線方向における一端部から他端部まで貫通しており、
前記棒状部材は、
前記軸線方向に離間して位置しており前記傾斜溝及び雄ねじが形成された複数の太径部と、
前記軸線方向に隣り合う一対の前記太径部の間に位置しており前記太径部に比して細い細径部と
を有しており、
前記配管は、前記棒状部材が内部に嵌挿される円筒状のニップルと、前記ニップルの前記軸線方向における端部に接続されるスラリー出口ソケットとを有しており、
前記スラリー出口ソケットは、前記微粒子含有スラリーが圧送される圧送方向に貫通した孔部を有する円筒部材であって、前記圧送方向の上流側の口元に前記孔部よりも拡径されており前記ニップルの前記端部が接続される座繰り部を有しており、
前記太径部は、外周部が、前記微粒子含有スラリーの圧送方向の下流側に向かって左右方向の一方側に傾斜した方向に延びる前記雄ねじにより構成されており、
前記棒状部材は、前記雄ねじを前記スラリー出口ソケットの前記孔部の口元にねじ込ませることによって前記スラリー出口ソケットの前記孔部に対して片持ち状態で固着されており、
前記配管には、スラリー濾し部が更に設けられており、
前記スラリー濾し部は、網状のメッシュ部材により構成されており、
前記スラリー濾し部は、複数設けられており、
前記複数のスラリー濾し部は、前記微粒子含有スラリーの圧送方向における下流側に向かって、前記メッシュ部材の開口が細かくなる、スラリー流動化装置を提供する。
【0010】
本発明によれば、配管内に棒状部材が嵌挿されているので、微粒子含有スラリーは、棒状部材の上流側から下流側へ傾斜溝を通って圧送される。傾斜溝は配管の軸線方向、すなわち微粒子含有スラリーの圧送方向に対して傾斜しているので、当該傾斜溝において、微粒子含有スラリーは、圧送方向に対して傾斜した方向に案内される。この結果、傾斜溝に圧送される微粒子含有スラリーに剪断力が生じるので流動化させやすい。
【0011】
また、配管内を圧送される微粒子含有スラリーには、配管の内壁面に沿って圧送される部分が減速しやすく該内壁面近傍に速度勾配が生じる。当該速度勾配に起因して、配管の内壁面の近傍における微粒子含有スラリーに剪断力が生じて流動化しやすい。ここで、傾斜溝は、配管に比して流路の断面が小さいので、流路の断面全体にわたって上記速度勾配が生じやすく、傾斜溝内の微粒子含有スラリー全体を効率的に流動化させやすい。
【0012】
したがって、傾斜溝に微粒子含有スラリーを圧送することによって、配管内を圧送される微粒子含有スラリーに剪断力を生じさせて、その流動性を増大若しくは維持しやすい。また、配管内を圧送される微粒子含有スラリーの圧力を利用して、傾斜溝に案内させるものであり、配管内に微粒子含有スラリーを攪拌するスクリュー等を設けることを要せず、何らの動力も要せず、省エネルギである。また、スラリー流動化装置を簡易且つコンパクトに構成することができるので、配管内に容易に設けることができると共に配設の自由度が高い。
また、棒状部材は太径部が雄ねじによって構成されていることにより、ニップルの内壁面とこの内側に嵌挿された棒状部材の外表面とが嵌合する領域が最小化するので、配管への棒状部材の固着が抑制される。したがって、配管への棒状部材の着脱作業性が向上する。特に、微粒子を含んでおり、棒状部材と配管との間に微粒子が噛み込んで取り外しが困難になる等の不具合が起こりやすい、微粒子含有スラリーを流動化させる場合に、好適に上記効果が発揮される。
【0013】
好ましくは、前記傾斜溝は、複数形成されている。
【0014】
本構成によれば、微粒子含有スラリーを、流量を増大させながら、配管に比して流路の断面積が小さい傾斜溝に圧送することによる過大な圧力増大を抑制して、圧送できる。これによって、微粒子含有スラリーを安定して流動化させやすい。
【0016】
一般に傾斜溝が長くなるにつれて、傾斜溝において微粒子含有スラリーを圧送する方向が傾斜溝の延在方向に沿いやすく、微粒子含有スラリーに生じる剪断力が弱まる。本構成によれば、傾斜溝は、断続的に設けられた太径部に形成されているので、傾斜溝が過度に長大化することが抑制されるので、微粒子含有スラリーに生じる剪断力が弱まる前に傾斜溝による案内を終了させやすい。したがって、微粒子含有スラリーの圧送方向に断続的に形成された傾斜溝によって、微粒子含有スラリーに、高い剪断力が断続的に生じる。
【0017】
また、複数の傾斜溝それぞれによって流動化された微粒子含有スラリーが、細径部と配管の内壁面との間に画定される空間に流入して混合且つ攪拌されるので、細径部においても微粒子含有スラリーの剪断力が生じ、この結果、傾斜溝により生じた微粒子含有スラリーの流動性の維持及び増大を図りやすい。
【0018】
したがって、複数の太径部における傾斜溝と細径部とによって、棒状部材の上流側から下流側へ圧送される微粒子含有スラリーに生じる剪断力を高く維持しやすく、微粒子含有スラリーをより一層効果的に流動化させやすい。
【0019】
また、好ましくは、前記軸線方向に隣り合う一対の前記太径部それぞれに形成された、一対の前記傾斜溝は、前記軸線方向に対して互いに反対方向に傾斜している。
【0020】
本構成によれば、軸線方向に隣り合う一対の傾斜溝は、互いに反対方向に傾斜しているので、上流側の傾斜溝から下流側の傾斜溝への切り替わりにおいて、微粒子含有スラリーの流動の向きを大きく変化させやすく、微粒子含有スラリーに生じる剪断力が増大する。これによって、微粒子含有スラリーの流動性をさらに増大させやすい。
【0021】
また、好ましくは、前記複数の太径部のうち、前記軸線方向において、上流側に位置する前記太径部における前記傾斜溝の形成数は、この下流側に位置する前記太径部に形成された前記傾斜溝の形成数以下である。
【0022】
本構成によれば、微粒子含有スラリーが上流側から下流側へ圧送されるにつれて、流動化される量が増大する。これによって、微粒子含有スラリーの粘度が徐々に低減するので、微粒子含有スラリーを効率的に流動化させやすい。
【0025】
また、好ましくは、前記配管には、スラリー濾し部が更に設けられており、
前記スラリー濾し部は、網状のメッシュ部材により構成されている。
【0026】
本構成によれば、スラリー濾し部によって微粒子含有スラリーが濾されるので、微粒子含有スラリーがダマ状となって纏まって圧送されることが抑制される。これによって、微粒子含有スラリーの流動をさらに促進させやすい。
【0027】
また、好ましくは、前記スラリー濾し部は、複数設けられており、
前記複数のスラリー濾し部は、前記微粒子含有スラリーの圧送方向における下流側に向かって、前記メッシュ部材の開口が細かくなる。
【0028】
本構成によれば、微粒子含有スラリーが上流側から下流側へ圧送されるにつれて、徐々に細かく濾される。これによって、圧送される微粒子含有スラリーの圧力増大を抑制しつつ、流動化をさらに促進させやすい。
【0029】
また、好ましくは、前記スラリー濾し部は、互いに異なる位相で積層された複数の前記メッシュ部材により構成されている。
【0030】
本構成によれば、スラリー濾し部は、互いに異なる位相で積層された複数のメッシュ部材により構成されているので、一方のメッシュ部材の開口から他方のメッシュ部材の開口にかけて流路が捩じられるように構成される。この結果、微粒子含有スラリーは、スラリー濾し部によって捩じられながら濾されるので、剪断力が生じ、流動性が増大する。
【0031】
また、スラリー濾し部を互いに異なる位相で積層された複数のメッシュ部材により構成することによって、スラリー濾し部の開口が細かくなるので、微粒子含有スラリーの流動を促進しやすい。
【0032】
また、好ましくは、前記スラリー濾し部は、前記軸線方向において間隔を開けて3つ以上設けられており、
前記スラリー濾し部間の前記間隔は、上流側において下流側よりも長い。
【0033】
本構成によれば、上流側のスラリー濾し部において濾される微粒子含有スラリーは、下流側のスラリー濾し部でさらに濾される微粒子含有スラリーに比して粘度が高い。したがって、相対的に粘度が高い上流側のスラリー濾し部を通過した微粒子含有スラリーが、この下流側に位置するスラリー濾し部に流入するまでの空間が相対的に長く構成されているので、相対的に粘度が高い微粒子含有スラリーを、十分に混合して撹拌させやすい。これによって、微粒子含有スラリーの流動性がさらに増大する。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、配管内に圧送された微粒子含有スラリーを、流動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の一実施形態に係る溶射システムの概略図。
図2A図1の溶射システムの一作動形態を示す概略図。
図2B図1の溶射システムの他の作動形態を示す概略図。
図3】スラリー流動化装置のスラリーの圧送方向に沿った断面図。
図4図3のIV-IV線に沿った断面図。
図5図3のV-V線に沿った断面図。
図6図3のVI-VI線に沿った断面図。
図7図3のVII-VII線に沿った断面図。
図8図3のVIII-VIII線に沿った断面図。
図9】スラリーミキサーの外周部の展開図。
図10】傾斜溝における微粒子含有スラリーの流動化を示す概念図。
図11】細径部の外周側の空間における微粒子含有スラリーの攪拌を示す概念図。
図12】傾斜溝の断面における微粒子含有スラリーの速度勾配を示す概念図。
図13】配管の断面における微粒子含有スラリーの流速の速度勾配を示す概念図。
図14】実施例2に係るスラリーミキサーの外周部の展開図。
図15】微粒子含有スラリーの流動性の変化を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各距離の比率等は現実のものとは相違している。
【0037】
図1は、本発明の一実施形態に係る溶射システム1の概略図である。溶射システム1は、溶射材として微粒子(例えば酸化アルミニウム微粒子)を有機溶媒(例えば液状のアクリル系樹脂)に分散させた微粒子含有スラリーS(以下、スラリーSと称する)を使用して、微粒子を被溶射材Zに溶射する。溶射システム1は、スラリーSを供給するスラリー供給装置3と、スラリーSを流動化させるスラリー流動化装置4と、スラリーSを噴霧化するスラリー噴霧装置5と、スラリーSを溶射するスラリー溶射装置6とを、スラリーSの搬送方向に沿って上流側から順に有している。
【0038】
溶射システム1は、さらに、スラリー供給装置3に補給されるスラリーSを貯留するスラリー貯留タンク2と、上記各装置2~6を接続してスラリーSが搬送されるスラリー配管7と、スラリー配管7に設けられた第1及び第2三方弁8a,8b及び圧力センサ9とを有している。
【0039】
スラリー貯留タンク2は、有底蓋付きの容器であり、内側にスラリーSが貯留されている。スラリー貯留タンク2の内部にスクリュー等を設けて、貯留されたスラリーSを攪拌して剪断力を付与するようにしてもよい。スラリー貯留タンク2は、第1スラリー配管7aを介して第1三方弁8aに接続されている。
【0040】
スラリー供給装置3は、シリンジ3aと、シリンジ3a内に前進後退可能に配設されたプランジャ3bとを備えている。シリンジ3aの前端部は、第2スラリー配管7bを介して第1三方弁8aに接続されている。プランジャ3bを前進させることによって、シリンジ3aに充填されたスラリーSが第2スラリー配管7bに圧送される。以下の説明では、シリンジ3aからここに充填されたスラリーSが圧送される方向を圧送方向Fと称する。
【0041】
スラリー流動化装置4は、第1及び第2三方弁8a,8b間を接続する第3スラリー配管7cの途中に設けられている。スラリー流動化装置4は、第3スラリー配管7c内を圧送されるスラリーSを流動化させるものである。本明細書において、スラリーSを流動化させるとは、スラリーSの粘度を低減させて流れやすくすることを意味している。
【0042】
また、第3スラリー配管7cには、スラリー流動化装置4の下流側に、流動化したスラリーSの圧力を計測する圧力センサ9が設けられている。
【0043】
スラリー噴霧装置5は、第2三方弁8bの下流側に設けられており、第2三方弁8bから第4スラリー配管7dを介して供給されたスラリーSを噴霧化する。スラリー溶射装置6は、スラリー噴霧装置5の直下流側に隣接して設けられ、噴霧化されたスラリーSをガスフレームに導入させて被溶射材Zに向けて溶射する。スラリー溶射装置6によるガスフレームによって、スラリーS中の有機溶媒が消失し、粒子が被溶射材Zに溶射される。
【0044】
第1三方弁8aには、第1~第3スラリー配管7a~7cが接続されている。第1三方弁8aは、第2及び第3スラリー配管7b,7c間が連通する第1弁位置(図1)と、第1及び第2スラリー配管7a,7b間が連通する第2弁位置(図2A)とに切り替え可能である。
【0045】
図1に示すように、第1三方弁8aを第1弁位置に位置させて、プランジャ3bをシリンジ3a内で前進させることによって、スラリーSがスラリー供給装置3から圧送されて、第2及び第3スラリー配管7b,7cに圧送方向Fへ供給される。また、図2Aに示すように、第1三方弁8aを第2弁位置に切り替えて、プランジャ3bをシリンジ3a内で後退させることによって、スラリーSがスラリー貯留タンク2からシリンジ3aの内部に補給される。
【0046】
第2三方弁8bには、第3及び第4スラリー配管7c,7dに加えて、スラリー貯留タンク2に連通する第5スラリー配管7eがさらに接続されている。第2三方弁8bは、第3及び第4スラリー配管7c,7dが連通する第1弁位置(図1)と、第3及び第5スラリー配管7c,7eが連通する第2弁位置(図2B)とに切り替え可能である。
【0047】
図1に示すように、第2三方弁8bを第1弁位置に位置させることによって、スラリー流動化装置4により流動化されたスラリーSがスラリー噴霧装置5に供給される。また、図2Bに示すように、第2三方弁8bを第2弁位置に切り替えることによって、スラリー流動化装置4を通過したスラリーSがスラリー貯留タンク2に戻される。
【0048】
溶射システム1の運転を立ち上げた初期段階又は数分間停止させたのちの再起動時においては、スラリー流動化装置4によって流動化されたスラリーSの流動性が十分ではなくスラリーSの圧力が安定しない場合がある。この場合、圧力が安定しないスラリーSをスラリー噴霧装置5に供給しても、スラリーSを均一に噴霧化させにくく(すなわち噴霧径にバラツキが生じやすい)、溶射されて成形される溶射皮膜の品質を安定させにくい。
【0049】
本実施形態では、圧力センサ9により計測されるスラリーSの圧力に基づいて、スラリー流動化装置4を通過したスラリーSの圧力が所定の圧力範囲内に安定したことが確認されるまで、第2三方弁8bを第2弁位置に位置させることによって、スラリーSがスラリー貯留タンク2に戻される。
【0050】
一方、圧力センサ9により計測されるスラリーSの圧力に基づいて、スラリーSの圧力が上記所定の圧力範囲内に安定したことが確認された場合、第2三方弁8bを第1弁位置に切り替えることよって、スラリーSがスラリー噴霧装置5に供給される。圧力が安定したスラリーSをスラリー噴霧装置5に供給することによって、噴霧化されるスラリーSを均一に噴霧させやすく、溶射されて成形される溶射皮膜の品質を向上させやすい。
【0051】
以下、スラリー流動化装置4について説明する。
【0052】
図3は、スラリー流動化装置4の圧送方向Fに沿った断面図である。スラリー流動化装置4は、圧送方向Fの上流側から順に設けられた、第1スラリー流動化部20と、第2スラリー流動化部40とを有している。
【0053】
第1スラリー流動化部20は、円筒状のソケット21と、この軸方向の両側に軸線方向に螺着された中空の一対のブッシング22と、ソケット21の内側において一対のブッシング22の間に画定される空間に配設されたスラリー濾し部23とを備えている。一対のブッシング22とソケット21との間の締結は、テーパーねじ構造が採用されており、両者の間のシールが保たれた状態で締結されている。上流側のブッシング22は、内径部に第1三方弁8aに連通するスラリー入口配管28が接続されている。
【0054】
スラリー濾し部23は、複数のメッシュ部材24と、複数のスペーサ27とが積層されて構成されている。メッシュ部材24は、ワイヤを網状に編み込んで作成されており、開口が相対的に粗い粗メッシュ部材25と、開口が相対的に細かい細メッシュ部材26とを含んでいる。スペーサ27は、所謂平ワッシャにより構成されており、中央部に厚み方向に開口部27aを有する環状部材である。
【0055】
粗メッシュ部材25は、例えば、線径が0.6mmであるステンレス製のワイヤ(SUS304)が12メッシュ(1インチ当たりの開口の数)となるように編み込まれたものである。細メッシュ部材26は、例えば、線径が0.35mmであるステンレス製のワイヤ(SUS304)が30メッシュとなるように編み込まれたものである。
【0056】
スラリー濾し部23は、圧送方向Fの上流側から順に、上流側スラリー濾し部23Aと、中間スラリー濾し部23Bと、下流側スラリー濾し部23Cとを有しており、圧送方向Fの下流側に向かって、スラリー濾し部23の目(すなわちメッシュ部材24の開口)が細かくなるように構成されている。
【0057】
図4は、図3のIV-IV線における第1スラリー流動化部20の断面図であり、下流側から見た上流側スラリー濾し部23Aが示されている。図4を併せて参照して、上流側スラリー濾し部23Aは、2枚の粗メッシュ部材25と、これらの間に介設された2枚のスペーサ27とが、圧送方向Fに積層されて構成されている。
【0058】
図5は、図3のV-V線における第1スラリー流動化部20の断面図であり、下流側から見た下流側スラリー濾し部23Cが示されている。図5を併せて参照して、下流側スラリー濾し部23Cは、2枚の細メッシュ部材26と、これらの間に介設されたスペーサ27とが、圧送方向Fに積層されて構成されている。
【0059】
図6は、図3のVI-VI線における第1スラリー流動化部20の断面図であり、下流側から見た中間スラリー濾し部23Bが示されている。図6を併せて参照して、中間スラリー濾し部23Bは、2枚の粗メッシュ部材25が開口の位相を互いに異ならせて積層されて構成されている。開口の位相を異ならせるには、ワイヤの向きが互い異なるように、一方の粗メッシュ部材25を他方に対して平面内で回転させて(例えば45°)積層してもよく(図6)、若しくは、図示は省略するが一方の粗メッシュ部材25を他方に対して平面内で上下及び左右に平行移動させて互いの開口をずらすように積層してもよい。
【0060】
これにより、2枚の粗メッシュ部材25が積層されてなる中間スラリー濾し部28Bの開口の大きさが、粗メッシュ部材25より細かくなる一方で、細メッシュ部材26よりは大きくなるように設定される。
【0061】
図3に示すように、各スラリー濾し部23A~23Cの間には、スペーサ27が介設されて積層されている。また、上流側スラリー濾し部23Aの上流側にも、スペーサ27が積層されている。
【0062】
第2スラリー流動化部40は、円筒状のニップル41と、ニップル41の内側にこの軸線方向に嵌挿されたスラリーミキサー42と、ニップル41の下流側に位置するスラリー出口ソケット55とを有している。ニップル41は、上流側の端部において第1スラリー流動化部20の下流側のブッシング22の内径部にねじ込まれて接続されている。
【0063】
スラリー出口ソケット55は、圧送方向Fに貫通した孔部56を有する円筒部材である。孔部56の上流側の口元には、孔部56よりも拡径された座繰り部57が形成されている。座繰り部57にニップル41の下流側の端部がねじ込まれて接続されている。
【0064】
スラリー出口ソケット55の下流側の端部には、スラリー出口配管58(図1参照)が接続されている。上述したように、スラリー流動化装置4は、上流側端部に第1三方弁8aに連通するスラリー入口配管28が接続されている。したがって、第1及び第2三方弁8a,8b間を接続する第3スラリー配管7cは、スラリー入口配管28と、ソケット21と、一対のブッシング22と、ニップル41と、スラリー出口ソケット55と、スラリー出口配管58とによって、構成されている。
【0065】
スラリーミキサー42は、圧送方向Fに延びる棒状部材であって、複数の太径部43と、太径部43より細い複数の細径部47とを有している。太径部43は、外周部が雄ねじにより構成されている。太径部43(具体的には雄ねじの山部)の外径D1はニップル41の内径D2に対して、僅かに大きく設定されており、具体的には外径D1と内径D2との差は0.1mm±0.05mmの範囲に設定されている。これによって、太径部43の外周部のうち傾斜溝48を除く部分とニップル41の内径部との間の隙間をごく僅かに設定しやすく、該隙間へのスラリーSの流動が抑制される。よって、スラリーSを傾斜溝48に流動させやすい。
【0066】
スラリーミキサー42は、下流側の端部において、孔部56の上流側の口元にねじ込まれて固着されている。したがって、スラリーミキサー42は、スラリー出口ソケット55の孔部56に片持ち状態で固着されている。スラリーミキサー42は、スラリー出口ソケット55に固着されているので、後述するように傾斜溝48内を案内されるスラリーSの流動により、スラリーミキサー42が回転することが抑制されている。
【0067】
複数の太径部43には、圧送方向Fの上流側から順に、上流側太径部44と、中間太径部45と、下流側太径部46とが含まれる。複数の太径部43は、それぞれ軸線方向に離間しており、これらの間それぞれに、細径部47が位置している。複数の太径部43それぞれの外周部には、圧送方向Fに向かって周方向に傾斜した方向に延びる複数の傾斜溝48が形成されている。
【0068】
図7は、上流側太径部44の軸線方向に直交する断面図である。図7に示すように、上流側太径部44には、複数の傾斜溝48として、4個の上流側傾斜溝49が周方向に等間隔で形成されている。図8は、中間太径部45の軸線方向に直交する断面図である。図8に示すように、中間太径部45には、複数の傾斜溝48として、6個の中間傾斜溝50が周方向に等間隔で形成されている。図示は省略するが、下流側太径部46は、中間太径部45と同様に、複数の傾斜溝48として、6個の下流側傾斜溝51が周方向に等間隔で形成されている。
【0069】
したがって、上流側傾斜溝49の形成数である4個は、下流側に位置する中間傾斜溝50の形成数である6個より少なく、中間傾斜溝50の形成数である6個は、この下流側に位置する下流側傾斜溝51の形成数である6個に等しい。よって、圧送方向Fにおいて、上流側に位置する傾斜溝48の形成数は、この下流側に位置する傾斜溝48の形成数以下に設定されている。
【0070】
図9は、スラリーミキサー42の外周部を展開して示す図であり、傾斜溝48にハッチングが付されている。図9に示されるように、圧送方向Fに隣り合う太径部43それぞれに形成された一対の傾斜溝48は、圧送方向Fに対して互いに反対方向に傾斜している。具体的には、図9において、圧送方向Fに向かって、上流側傾斜溝49は下方に傾斜しており、この下流側の中間傾斜溝50は上方に傾斜しており、このさらに下流側の下流側傾斜溝51は下方に傾斜している。すなわち、複数の傾斜溝48は、複数の太径部43にわたって、圧送方向Fに向かってジグザグ状に延びるように形成されている。
【0071】
以下、傾斜溝48の構成について、上流側傾斜溝49を例に取って説明するが、中間傾斜溝50、下流側傾斜溝51についても同様である。図7に示すように、本実施形態では、上流側傾斜溝49は、断面形状が矩形状に形成されているが、この他種々の断面形状を採用することができ、例えば三角形状、半円状に形成してもよい。
【0072】
上流側傾斜溝49の溝幅Wは、1mm以上であり上流側太径部44の半径R以下の大きさに設定されている。また、上流側傾斜溝49の溝深さHは、1mm以上であり上流側太径部44の半径Rの90%以下に設定されている。
【0073】
図9における展開図において、上流側傾斜溝49は、圧送方向Fに対して傾斜角度Aで傾斜した方向へ、外周部を上流側太径部44の上流側端部から下流側端部へ貫通するように直線状に延びている。傾斜角度Aは、5°以上85°以下に設定されている。上流側傾斜溝49は、圧送方向Fに対して傾斜していればよく、外周部において上流側端部から下流側端部へ向かって屈曲させたり湾曲させたりしてもよい。
【0074】
また、上流側傾斜溝49は、圧送方向Fに対して傾斜しているので、延在方向に沿った長さL1は、上流側太径部44の圧送方向Fに沿った長さL0よりも長い。具体的には、上流側傾斜溝49の長さL1は、上流側太径部44の長さL0の102%以上であり、上流側太径部44に形成された4つの上流側傾斜溝49それぞれの長さL1を合計した合計長さは、上流側太径部44の長さL0の310%以上となるように、傾斜角度Aが設定されている。
【0075】
本実施形態では、細径部47は、図7において仮想線で示すように、外周面47aが上流側傾斜溝49の溝底面と同じ径方向位置となるように、外径が設定されている。しかしながら、細径部47の外周面47aを、上流側傾斜溝49の溝底面と径方向に異ならせてもよい。
【0076】
上記説明したスラリー流動化装置4によるスラリーSの流動化作用について説明する。
【0077】
図3に示すように、スラリー供給装置3により圧送されたスラリーSは、圧送方向Fに搬送されて、第1スラリー流動化部20に至る。このとき、スラリーSは、粘度が高くペースト状で搬送される。スラリーSは、第1スラリー流動化部20において、まず上流側スラリー濾し部23Aに至る。
【0078】
上流側スラリー濾し部23Aは、一対の粗メッシュ部材25により構成されており、これらの間に2枚のスペーサ27が介設されている。このため、上流側の粗メッシュ部材25により粗く濾されたスラリーSが、下流側に配設された粗メッシュ部材25に流入する前に、攪拌されて剪断力が付与される。これによって、スラリーSが、上流側の粗メッシュ部材25により濾された部分とは異なる部分が、下流側の粗メッシュ部材25により更に濾される。
【0079】
上流側スラリー濾し部23Aにより濾されたスラリーSは、中間スラリー濾し部23Bに至る。中間スラリー濾し部23Bは、一対の粗メッシュ部材25が互いに位相をずらして積層されている。このため、スラリーSは、中間スラリー濾し部23Bを通過する際に、上流側の粗メッシュ部材25から下流側の粗メッシュ部材25にかけて捻られると共により細かい開口により濾されることになる。
【0080】
中間スラリー濾し部23Bにより濾されたスラリーSは、下流側スラリー濾し部23Cに至る。下流側スラリー濾し部23Cは、一対の細メッシュ部材26により構成されている。これにより、スラリーSは、さらに細かく濾される。
【0081】
したがって、スラリーSは、第1スラリー流動化部20を、上流側スラリー濾し部23A、中間スラリー濾し部23B、及び下流側スラリー濾し部23Cを順に通過するにつれて、スラリーSは次第に細かく濾される。
【0082】
次に、スラリーSは、第2スラリー流動化部40に至る。第2スラリー流動化部40において、スラリーSが圧送される流路を構成するニップル41には、スラリーミキサー42が嵌挿されている。また、スラリーミキサー42の外周面には複数の傾斜溝48が形成されている。したがって、スラリーSは傾斜溝48を通って、スラリーミキサー42を上流側から下流側へ搬送される。
【0083】
図10は、傾斜溝48におけるスラリーSの流れを示す概念図であり、傾斜溝48の上流側の周辺を側方から見た拡大図である。図10に示すように、傾斜溝48は、圧送方向Fに対して傾斜している。このため、図10において矢印G1で示すように、傾斜溝48において、スラリーSは、圧送方向Fに対して傾斜した方向に案内される。この結果、スラリーSに剪断力が生じるので、スラリーSの流動性が増大する。
【0084】
図11は、図3のXI-XI線に沿った断面図であり、細径部47の外周側の空間Xを示す。図11に示すように、傾斜溝48を通過したスラリーSは、細径部47とニップル41の内壁面との間に画定される空間Xに至る。スラリーSは、傾斜溝48の延在方向に沿って、空間Xに至るので、図11中に矢印G2で示すように細径部47の外周部の周りを、傾斜溝48の傾斜方向へ流動しやすい。これによって、傾斜溝48を通過して流動性が増大したスラリーSは、空間Xにおいて攪拌されてその流動性が維持若しくはさらに増大する。
【0085】
空間Xで攪拌されたスラリーSは、下流側の傾斜溝48に案内されて、さらにその流動性が増大する。本実施形態では、第2スラリー流動化部40は、3つの太径部44~46それぞれに複数の傾斜溝49~51が形成されており、3つの太径部44~46の間に2つの細径部47が設けられている。
【0086】
したがって、第2スラリー流動化部40において、スラリーSは、3つの太径部44~46それぞれの傾斜溝49~51において流動化が促進されると共に、2つの細径部47の外周部において攪拌されて、流動性が維持若しくはさらに増大されるようになっている。換言すれば、太径部43における傾斜溝48での剪断力の付与と、細径部47の外周部の空間Xにおける攪拌による剪断力の付与とを組み合わせることによって、スラリーSに、剪断力が連続的に付与される。
【0087】
また、図7と同様の断面である図12に示すように、スラリーSを、流路断面がスラリー配管7の配管径よりも小さい傾斜溝48を通過させることによって、スラリーSを効果的に流動化させることができる。具体的には、スラリー配管7内を圧送されるスラリーSには、傾斜溝48の断面において、溝壁面に向かって流速が低下するように速度勾配が生じる。この速度勾配により、スラリーSには剪断力が生じ、流動性が増大する。傾斜溝48は、流路断面積が小さいので、上記速度勾配が流路断面の略全体(クロスハッチングを付して示す)において生じやすく、スラリーSを効率的に流動化させやすい。
【0088】
一方、図13に示すように、スラリー配管7のうち、スラリーミキサー42が設けられていない断面においては、速度勾配が大きくなる部分が、クロスハッチングを付して示すようにスラリー配管7の内壁面の周辺に限定されることから、流路の断面全体にわたって、スラリーSに剪断力を生じさせにくく効率的に流動化させにくい。
【0089】
第2スラリー流動化部40を通過したスラリーSは、第2三方弁8bに至る。スラリーSは経時的に流動性が低下しやすいため、圧力センサ9により計測されるスラリーSの圧力が所定の圧力範囲に安定していることが確認された場合、第2三方弁8bが第1弁位置に切り替えられて、スラリーSは、第4スラリー配管7dを介してスラリー噴霧装置5に至る。
【0090】
スラリーSは、スラリー流動化装置4によって、十分に流動性が増大されているので、スラリー噴霧装置5によって、略均一に噴霧化されて、この下流側のスラリー溶射装置6において溶射される。
【0091】
上記説明した溶射システム1によれば、以下の効果を奏する。
【0092】
(1)ニップル41内にスラリーミキサー42が嵌挿されているので、スラリーSは、スラリーミキサー42の上流側から下流側へこの外周部に形成された傾斜溝48を通って圧送される。傾斜溝48はスラリー配管7の軸線方向、すなわち圧送方向Fに対して傾斜しているので、傾斜溝48において、スラリーSは、圧送方向Fに対して傾斜した方向に案内される。この結果、傾斜溝48に圧送されるスラリーSに剪断力が生じるので流動化させやすい。
【0093】
また、スラリー配管7内を圧送されるスラリーSには、配管の内壁面に沿って圧送される部分が減速しやすく該内壁面近傍に速度勾配が生じる。当該速度勾配に起因して、配管の内壁面の近傍におけるスラリーSに剪断力が生じて流動化しやすい。ここで、傾斜溝48は、スラリー配管7に比して流路の断面が小さいので、流路の断面全体にわたって上記速度勾配が生じやすく、傾斜溝48内のスラリーS全体を効率的に流動化させやすい。
【0094】
したがって、傾斜溝48にスラリーSを圧送することによって、スラリー配管7内を圧送されるスラリーSに剪断力を生じさせて、その流動性を増大若しくは維持しやすい。また、スラリー配管7内を圧送されるスラリーSの圧力を利用して、傾斜溝48に案内させるものであり、スラリー配管7内にスラリーSを攪拌するスクリュー等を設けることを要せず、何らの動力も要せず、省エネルギである。また、スラリー流動化装置4を簡易且つコンパクトに構成することができるので、スラリー配管7内に容易に設けることができると共に配設の自由度が高い。
【0095】
(2)複数の傾斜溝48よって、スラリーSを、流量を増大させながら、スラリー配管7に比して流路の断面積が小さい傾斜溝48に圧送することによる過大な圧力増大を抑制して、圧送できる。これによって、スラリーSを安定して流動化させやすい。
【0096】
(3)一般に傾斜溝48が長くなるにつれて、傾斜溝48においてスラリーSを圧送する方向が傾斜溝48の延在方向に沿いやすく、スラリーSに生じる剪断力が弱まる。傾斜溝48は、断続的に設けられた太径部43に形成されているので、傾斜溝48が過度に長大化することが抑制されるので、スラリーSに生じる剪断力が弱まる前に傾斜溝48による案内を終了させやすい。したがって、圧送方向Fに断続的に形成された傾斜溝48によって、スラリーSに、高い剪断力を断続的に生じる。
【0097】
また、複数の傾斜溝48それぞれによって流動化されたスラリーSが、細径部47とスラリー配管7の内壁面との間に画定される空間Xに流入して混合且つ攪拌されるので、スラリーSに剪断力が生じ、この結果、細径部47において傾斜溝48により生じたスラリーSの流動性の維持及び増大を図りやすい。
【0098】
したがって、複数の太径部43における傾斜溝48と細径部47とによって、スラリーミキサー42の上流側から下流側へ圧送されるスラリーSに生じる剪断力を高く維持しやすく、スラリーSをより一層効果的に流動化させやすい。
【0099】
(4)圧送方向Fに隣り合う一対の傾斜溝48は、互いに反対方向に傾斜しているので、上流側の傾斜溝48から下流側の傾斜溝48への切り替わりにおいて、スラリーSの流動の向きを大きく変化させやすく、スラリーSに生じる剪断力が増大する。これによって、スラリーSの流動性がさらに増大する。
【0100】
(5)圧送方向Fにおいて、上流側に位置する太径部43における傾斜溝48の形成数は、この下流側に位置する太径部43に形成された傾斜溝48の形成数以下であるので、スラリーSが上流側から下流側へ圧送されるにつれて、流動化される量が増大する。これによって、スラリーSの粘度が徐々に低減するので、スラリーSを効率的に流動化させやすい。
【0101】
(6)太径部43は外周部が雄ねじにより構成されているので、ニップル41の内壁面とこの内側に嵌挿されたスラリーミキサー42の外表面とが嵌合する領域が最小化するので、スラリーミキサー42のニップル41への固着が抑制される。したがって、ニップル41へのスラリーミキサー42の着脱作業性が向上する。特に、微粒子を含んでおり、スラリーミキサー42とニップル41との間に微粒子が噛み込んで焼き付きやすい、微粒子含有スラリーSを流動化させる場合に、好適に上記効果が発揮される。
【0102】
(7)スラリー濾し部23によってスラリーSが濾されるので、スラリーSがダマ状となって纏まって圧送されることが抑制される。これによって、スラリーSの流動をさらに促進させやすい。
【0103】
(8)スラリー濾し部23は、圧送方向Fにおいて、下流側に向かってメッシュ部材の開口が細かくなるので、スラリーSが上流側から下流側へ圧送されるにつれて、徐々に細かく濾される。これによって、スラリーSの流動化をさらに促進させやすい。
【0104】
(9)中間スラリー濾し部23Bは、互いに異なる位相で積層された一対の粗メッシュ部材25により構成されているので、一方の粗メッシュ部材25の開口から他方の粗メッシュ部材25の開口にかけて流路が捩じられるように構成される。この結果、スラリーSは、中間スラリー濾し部23Bによって捩じられながら濾されるので、剪断力が生じ、流動性が増大する。
【0105】
また、中間スラリー濾し部23Bを互いに異なる位相で積層された一対の粗メッシュ部材25により構成することによって、中間スラリー濾し部23Bの開口が細かくなるので、スラリーSの流動を促進しやすい。
【0106】
(10)上流側スラリー濾し部23Aにおいて上流側の粗メッシュ部材25を通過した、相対的に粘度が高いスラリーSが、この下流側に位置する粗メッシュ部材25に流入するまでの空間が2枚のスペーサ27によって長く確保されているので、上流側の粗メッシュ部材25で濾されたスラリーSを、下流側の粗メッシュ部材25に至るまでに十分に混合、撹拌させやすい。これによって、スラリーSの流動性がさらに促進する。
【0107】
(11)傾斜溝48の長さL1は、太径部43の長さL0の102%以上であり、且つ、1つの太径部43に形成された複数の傾斜溝48の長さL1を合計した長さは、太径部43の長さL0の310%以上である。これによって、傾斜溝48の長さが所定量確保されるので、剪断力がスラリーSに十分に付与される。
【0108】
(12)傾斜溝48の傾斜角度Aは、5度以上85度以下に設定されているので、剪断力がスラリーSに十分に付与される。傾斜角度Aが5度未満であると、圧送方向に沿いやすく剪断力が不十分となりやすい。傾斜角度Aが85度を超えると、隣接する傾斜溝48間の隙間を確保しにくい。
【0109】
(13)傾斜溝48の溝幅Wは、1mm以上であり太径部43の半径R以下の大きさに設定されているので、傾斜溝48の断面にわたって、圧送されるスラリーSに速度勾配を生じさせやすく、剪断力がスラリーSに好適に生じさせやすい。溝幅Wが1mm未満であると、傾斜溝48における流路が過度に小さくなるため、圧送されるスラリーSの圧力が過度に上昇しやすい。溝幅Wが太径部43の半径Rより大きいと、傾斜溝48が大きくなりすぎるため、傾斜溝48の断面にわたって、圧送されるスラリーSに速度勾配を生じさせにくい。
【0110】
(14)傾斜溝48の深さHは、1mm以上であり太径部43の半径Rの90%以下に設定されているので、傾斜溝48の断面にわたって、圧送されるスラリーSに速度勾配を生じさせやすく、剪断力がスラリーSに好適に生じさせやすい。深さHが1mm未満であると、傾斜溝48における流路が過度に小さくなるため、圧送されるスラリーSの圧力が過度に上昇しやすい。深さHが太径部43の半径Rの90%より大きいと、傾斜溝48が大きくなりすぎるため、傾斜溝48の断面にわたって、圧送されるスラリーSに速度勾配を生じさせにくい。
【0111】
上記実施形態では、第1スラリー流動化部20を、順に開口が細かくなる3つのスラリー濾し部23によって構成したが、これに限らない。すなわち、スラリー濾し部23を1つ又は2つ以上で構成してもよい。
【0112】
また、上記実施形態では、第2スラリー流動化部40において、スラリーミキサー42を、3つの太径部43と2つの細径部47とを有するように構成したが、これに限らない。すなわち、スラリーミキサー42を、1つの太径部43のみで構成してもよく、また2つ以上の太径部43とこれらの間に設けられた細径部47とを有するように構成してもよい。
【0113】
また、上記実施形態では、スラリー流動化装置4を、第1スラリー流動化部20と第2スラリー流動化部40とを有するように構成したが、これに限らない。すなわち、スラリー流動化装置4を、第2スラリー流動化部40を少なくとも有するように構成すればよく、第1スラリー流動化部20を必ずしも有していなくてもよい。
【0114】
また、上記実施形態では、溶射材料として微粒子含有スラリーを例にとって説明したが、微粒子にはナノ粒子が含まれてもよい。微粒子含有スラリーとして、例えばナノ粒子のみが有機溶媒に分散された、ナノ粒子含有スラリーを採用してもよい。配管内における搬送が容易ではないナノ粒子含有スラリーにおいて、本発明の効果がより好適に発揮される。微粒子含有スラリーを構成する有機溶媒としては、アクリル系に限らず、ウレタン系、エポキシ系を使用できる。また、微粒子としては、酸化アルミニウムに限らず、酸化ジルコニウム、シリコン、炭化シリコン、炭化タングステン、又はこれらの混合物等を使用できる。
【0115】
なお、本発明は、上記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【実施例
【0116】
以下の表1に示す比較例1のスラリー配管と、比較例2及び実施例1,2のスラリー流動化装置を対象に、スラリーSの流動性について評価試験を行った。本評価に使用したスラリーSは、有機溶媒としての液状のアクリル系樹脂にメジアン径D50が500nmの酸化アルミニウム微粒子を50%の体積割合で混合することによって作製された。すなわちスラリーSの体積比は、微粒子が50%、液状樹脂が50%である。このスラリーSは、チクソ性を有している。
【0117】
表1に示すように、比較例1は、スラリー流動化装置4が設けられておらず、単なるスラリー配管7として構成されている。比較例2では、スラリー流動化装置4に、第1スラリー流動化部20のみが設けられており、第2スラリー流動化部40が設けてられていない。
【0118】
実施例1は、上述した実施例に係るスラリー流動化装置4であり、すなわち、第1及び第2スラリー流動化部20,40が両方とも設けられている。実施例2は、実施例1に対してスラリーミキサー42を、図14に示す変形例に係るスラリーミキサー60に変更したものである。図14に示すように、スラリーミキサー60は、2つの太径部63と、この間に位置する1つの細径部67と、2つの太径部63それぞれに形成された傾斜溝68とにより構成されている。
【0119】
流動性の評価では、スラリーSを、スラリー供給装置3から1分あたり10ccで圧送して、比較例1,2及び実施例1,2に係るスラリー配管7又はスラリー流動化装置4にそれぞれ通過させた後、スラリーSを水平方向に放出した際の、下方に垂れ落ちるスラリーSの太さ(直径)及び途切れるまでの長さを計測した。総合判定において、下方に垂れ落ちるスラリーSは、太さが細いほど、及び途切れるまでの長さが長いほど流動性が向上していると判断した。
【0120】
【表1】
【0121】
表1に示されるように、比較例1は、第1及び第2スラリー流動化部20,40を両方とも備えていないので、スラリーSは流動化せず、放出されたスラリーSは、太さ約8mm、長さ約15mmで途切れることを繰り返しながら垂れ落ちている。流動性としては不十分であり「×」の評価となっている。
【0122】
比較例2は、比較例1に対して第1スラリー流動化部20を備えているので、スラリーSの流動性は少し改善しており、放出されたスラリーSは、太さ約6mm、長さ約50mmで途切れることを繰り返しながら垂れ落ちている。比較例1に対して少し滑らかさが見られるようになったが、流動性としてはまだ不十分であり「△」の評価となっている。
【0123】
実施例1,2は、ともに第2スラリー流動化部40を備えているので、比較例1,2に比してスラリーSの流動性がさらに向上している。実施例1では、放出されたスラリーSは、太さ約1.0mmで所定長さ途切れず垂れ落ちており、流動性としては全く問題なく「◎」の評価となっている。
【0124】
一方、実施例2では、放出されたスラリーSは、太さ約1.5mm、長さ約80mmで途切れることを繰り返しながら垂れ落ちている。実施例1よりは、スラリーSの流動性は低下するものの概ね問題ないレベルであり「○」の評価となっている。実施例2は、第2スラリー流動化部40における太径部43及び細径部47の数が、実施例1よりも少ないために、流動性が実施例1よりも劣っている結果となったと推定される。
【産業状の利用可能性】
【0125】
以上説明したように、本発明に係るスラリー流動化装置によれば、配管内に圧送された微粒子含有スラリーを、流動性を向上させることができるので、この種の技術分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0126】
1 溶射システム
2 スラリー貯留タンク
3 スラリー供給装置
4 スラリー流動化装置
5 スラリー噴霧装置
6 スラリー溶射装置
7 スラリー配管
9 圧力センサ
20 第1スラリー流動化部
23 スラリー濾し部
25 粗メッシュ部材
26 細メッシュ部材
40 第2スラリー流動化部
42 スラリーミキサー
43 太径部
47 細径部
48 傾斜溝
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15