(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】光学ガラス、光学素子及び光学機器
(51)【国際特許分類】
C03C 3/12 20060101AFI20231024BHJP
C03C 3/062 20060101ALI20231024BHJP
C03C 3/068 20060101ALI20231024BHJP
C03C 3/15 20060101ALI20231024BHJP
C03C 3/155 20060101ALI20231024BHJP
C03C 3/253 20060101ALI20231024BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C03C3/12
C03C3/062
C03C3/068
C03C3/15
C03C3/155
C03C3/253
G02B1/00
(21)【出願番号】P 2017032379
(22)【出願日】2017-02-23
【審査請求日】2020-02-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】井上 博之
(72)【発明者】
【氏名】増野 敦信
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 宙央
(72)【発明者】
【氏名】江口 真悟
【合議体】
【審判長】日比野 隆治
【審判官】宮澤 尚之
【審判官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-037181(JP,A)
【文献】特開2008-273750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
La
3+、Y
3+、Gd
3+、Lu
3+、Yb
3+のいずれかの希土類イオン並びにW
6+及びNb
5+を含有する酸化物を含む光学ガラスであって、
前記光学ガラスに含まれる陽イオン全体に対する前記希土類イオンの含有量(cat%)が19cat%以上30cat%以下であり、
前記W
6+の含有量が4cat%以上70cat%以下であり、
前記Nb
5+の含有量が65cat%以下であり、
前記Nb
5+とTi
4+の含有量の合計が75cat%以下であり、
前記Ti
4+
の含有量が60cat%以下であり、
前記希土類イオンとW
6+
とNb
5+
とTi
4+
の含有量の合計が85cat%以上であり、
d線における屈折率が2.05897以上2.31以下、アッベ数が16以上24以下
、ガラス転移点が731.2℃以下であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
さらに、下記の組成:
0 cat% ≦Bi
3+≦10cat%、
0 cat% ≦Te
4+≦10cat%、
0 cat% ≦Ta
5+≦15cat%、
0 cat% ≦Zr
4+≦10cat%、
0 cat% ≦Zn
2+≦15cat%、
0 cat% ≦Mg
2+≦15cat%、
0 cat% ≦Ca
2+≦15cat%、
0 cat% ≦Ba
2+≦15cat%、
0 cat% ≦Si
4+≦5cat%、
0 cat% ≦B
3+≦15cat%、
0 cat% ≦Ge
4+≦15cat%、
0 cat% ≦Al
3+≦15cat%、
0 cat% ≦Ga
3+≦15cat%、
0 cat% ≦In
3+≦5cat%、
を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
La
3+、Y
3+、Gd
3+、Lu
3+、Yb
3+のいずれかの希土類イオン及びW
6+を含有する酸化物を含む光学ガラスであって、
前記光学ガラスに含まれる陽イオン全体に対する前記希土類イオンの含有量(cat%)が19cat%以上30cat%以下であり、
前記W
6+の含有量が4cat%以上70cat%以下であり、
Nb
5+とTi
4+の含有量の合計が0cat%以上75cat%以下であり、
前記Nb
5+
の含有量が65cat%以下であり、
前記Ti
4+
の含有量が60cat%以下であり、
前記希土類イオンとW
6+
とNb
5+
とTi
4+
の含有量の合計が85cat%以上であり、
d線における屈折率が2.05897以上2.31以下、アッベ数が16以上24以下
、ガラス転移点が731.2℃以下であり、
さらに、下記の組成:
0 cat% ≦Bi
3+≦10cat%、
0 cat% ≦Te
4+≦10cat%、
0 cat% ≦Ta
5+≦15cat%、
0 cat% ≦Zr
4+≦10cat%、
0 cat% ≦Zn
2+≦15cat%、
0 cat% ≦Mg
2+≦15cat%、
0 cat% ≦Ca
2+≦15cat%、
0 cat% ≦Ba
2+≦15cat%、
0 cat% ≦Si
4+≦5cat%、
0 cat% ≦B
3+≦15cat%、
0 cat% ≦Ge
4+≦15cat%、
0 cat% ≦Al
3+≦15cat%、
0 cat% ≦Ga
3+≦15cat%、
0 cat% ≦In
3+≦5cat%、
を満たすことを特徴とする光学ガラス。
【請求項4】
前記W
6+の含有量が10cat%以上70cat%以下であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
d線における屈折率が2.07以上2.31以下であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項6】
La
3+、Y
3+、Gd
3+、Lu
3+、Yb
3+のいずれかの希土類イオン及びW
6+を含有する酸化物を含む光学ガラスであって、
前記光学ガラスに含まれる陽イオン全体に対する前記希土類イオンの含有量(cat%)が19cat%以上30cat%以下であり、
前記W
6+の含有量が5cat%以上20cat%以下であり、
Nb
5+とTi
4+の含有量の合計が56cat%以上75cat%以下であり、
前記Nb
5+
の含有量が65cat%以下であり、
前記Ti
4+
の含有量が60cat%以下であり、
前記希土類イオンとW
6+
とNb
5+
とTi
4+
の含有量の合計が85cat%以上であり、
d線における屈折率が2.23以上2.31以下、アッベ数が16以上20以下
、ガラス転移点が731.2℃以下であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項7】
前記光学ガラスは、厚み0.5mmにおける分光透過率5%を示す波長が385nm以下であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
前記光学ガラスのガラス転移点が575℃以上729℃以下であることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項9】
La
3+及びW
6+を含有する酸化物を含む光学ガラスであって、(La
3+,Ti
4+,W
6+,Nb
5+)の組成が(30cat%,10cat%,60cat%,0cat%)、(30cat%,0cat%,70cat%,0cat%)、(30cat%,0cat%,10cat%,60cat%)、(30cat%,50cat%,10cat%,10cat%)、(30cat%,10cat%,50cat%,10cat%)及び(30cat%,10cat%,60cat%,0cat%)で囲まれた第1の領域、
(La
3+,Ti
4+,W
6+,Nb
5+)の組成が(27cat%,43cat%,10cat%,20cat%)、(27cat%,13cat%,40cat%,20cat%)、(27cat%,13cat%,30cat%,30cat%)、(27cat%,3cat%,30cat%,40cat%)、(27cat%,3cat%,10cat%,60cat%)及び(27cat%,43cat%,10cat%,20cat%)で囲まれた第2の領域、
(La
3+,Ti
4+,W
6+,Nb
5+)の組成が、(24cat%,26cat%,20cat%,30cat%)、(24cat%,16cat%,30cat%,30cat%)、(24cat%,16cat%,60cat%,0cat%)、(24cat%,6cat%,70cat%,0cat%)、(24cat%,6cat%,30cat%,40cat%)、(24cat%,0cat%,26cat%,50cat%)、(24cat%,0cat%,6cat%,70cat%)、(24cat%,26cat%,10cat%,40cat%)及び(24cat%,26cat%,20cat%,30cat%)で囲まれた第3の領域、
(La
3+,Ti
4+,W
6+,Nb
5+)の組成が(22cat%,28cat%,10cat%,40cat%)、(22cat%,18cat%,20cat%,40cat%)、(22cat%,18cat%,10cat%,50cat%)及び(22cat%,28cat%,10cat%,40cat%)で囲まれた第4の領域としたときに、
27cat%<La
3+≦30cat%で前記第1の領域のいずれかの組成と前記第2の領域のいずれかの組成を結んだ線上にある第1の組成、24cat%<La
3+≦27cat%で前記第2の領域のいずれかの組成と前記第3の領域のいずれかの組成を結んだ線上にある第2の組成、又は22cat%≦La
3+≦24cat%で前記第3の領域のいずれかの組成と前記第4の領域のいずれかの組成を結んだ線上にある第3の組成のいずれかの組成を有すること
を特徴とする光学ガラス。
【請求項10】
光学ガラスを有する光学素子であって、
前記光学ガラスは、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光学ガラスであることを特徴とする光学素子。
【請求項11】
前記光学素子が、レンズ、プリズム、又はミラーのいずれかであることを特徴とする、請求項10に記載の光学素子。
【請求項12】
光学素子を有する光学機器であって、
前記光学素子が請求項10又は11に記載の光学素子である光学機器。
【請求項13】
前記光学機器は、カメラであって、
前記光学素子は
、レンズであることを特徴とする請求項12に記載の光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の希土類イオンを含有する光学ガラス、それを用いた光学素子、及びその光学素子を用いた光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
高屈折率高分散ガラスとして、チタン系酸化物ガラス、ビスマス系酸化物ガラス、テルル系酸化物ガラスが知られている。上記のガラスではチタンイオン、ビスマスイオン、テルルイオンの順に可視光に近い吸収を有し、高分散を与える。しかしながら高分散化するほど可視光の吸収が起こり、透過率5%を示す波長(nm)λ5が長波長になり、ガラスが黄色みを帯びてくる。このため、高屈折率高分散でλ5をより短波長にするためにチタン系酸化物ガラスがよく用いられる。
【0003】
特許文献1では、チタン系酸化物ガラスが開示されている。また、特許文献2ではLa2O3、TiO2及びSiO2の3成分、又は、La2O3、TiO2、SiO2及びZrO2の4成分系のガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第10/071202号公報
【文献】特開2008-069047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたガラスは、SiO2を必須成分としている為に屈折率が低下し、低分散となるために高屈折率高分散のガラスが得にくい。またSiO2の揮発により組成変動が起きやすいという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に記載されたガラスはチタン系酸化物ガラスであるが、ガラス転移点が高いため、金型を用いてガラスを軟化させてレンズとするガラスモールドレンズでは、成形温度を高くしなければならず、モールド耐久性に劣るという問題があった。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、高屈折率高分散で低ガラス転移点を有する光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学ガラスは、La3+、Y3+、Gd3+、Lu3+、Yb3+のいずれかの希土類イオン並びにW6+
及びNb
5+
を含有する酸化物を含む光学ガラスであって、
前記光学ガラスに含まれる陽イオン全体に対する前記希土類イオンの含有量(cat%)が19cat%以上30cat%以下であり、
前記W6+の含有量が4cat%以上70cat%以下であり、
前記Nb
5+
の含有量が65cat%以下であり、
前記Nb5+とTi4+の含有量の合計が75cat%以下であり、
アッベ数が16以上24以下であることを特徴とする。
また、上記の組成を有する光学ガラスを有する光学素子及びこの光学素子を用いた光学機器に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高屈折率高分散でガラス転移点が低いガラスを得ることができる。特に、d線(587.56nm)における屈折率ndが2.07以上2.31以下、アッベ数νdが16以上24以下である透明なガラス球体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】Laイオンを30cat%としたときのWO
3-NbO
5/2-TiO
2三相図である。
【
図3】Laイオンを27cat%としたときのWO
3-NbO
5/2-TiO
2三相図である。
【
図4】Laイオンを24cat%としたときのWO
3-NbO
5/2-TiO
2三相図である。
【
図5】Laイオンを22cat%としたときのWO
3-NbO
5/2-TiO
2三相図である。
【
図6】Laイオンを20cat%としたときのWO
3-NbO
5/2-TiO
2三相図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
(光学ガラス)
本発明の光学ガラスは、陽イオンとして、特定の希土類イオン(La3+、Y3+、Gd3+、Lu3+、Yb3+イオン)、W6+イオン、Nb5+イオン及びTi4+イオンの合計量を高い割合で含有するガラスであり、高屈折率且つ透明である。なお、以降、それぞれのイオンを、単にLaイオン、Yイオン、Gdイオン、Luイオン、Ybイオン、Wイオン、Nbイオン及びTiイオンと称する場合がある。上記以外のイオンについても同様である。
【0012】
本発明の光学ガラスの第一の態様は、La、Y、Gd、Lu、Ybのいずれかの希土類イオン及びWイオンを含有する酸化物を含む光学ガラスであって、前記光学ガラスに含まれる陽イオン全体に対する前記希土類イオンの含有量(cat%)が19cat%以上30cat%以下であり、Wイオンの含有量が4cat%以上70cat%以下であり、NbイオンとTiイオンの含有量の合計が0cat%以上75cat%以下であり、アッベ数が16以上24以下である。上記いずれかの希土類イオンの含有量が19cat%未満だとガラスが得られ難く、30cat%より大きいと高分散ガラスが得られない。
【0013】
希土類イオンのうち、Laイオンはガラスの網目構造を形成するための成分であり、LaイオンはY、Gd、Lu、Ybイオンから選ばれる少なくとも1つ以上のイオンと部分的に置換が可能である。Yイオンは0cat%以上15cat%以下、Luイオンは0cat%以上10cat%以下、Ybイオンは0cat%以上10cat%以下で置換させることができる。またGdイオンは0cat%以上20cat%以下置換させることができ、GdイオンのみLaイオンと0cat%以上20cat%以下で全量置換させることが可能である。
【0014】
Y、Gd、Lu、Ybイオンを上記範囲で含有することで、結晶化開始温度(Tx)とガラス転移点(Tg)との温度差ΔTx(Tx-Tg=ΔTx)を大きくすることができる。ΔTxが大きいガラスの方が、ガラス化してから結晶化するまでの温度範囲が大きいため扱いやすいという効果を奏する。上記含有量の範囲未満であるとその効果が得られず、上記含有量の範囲より多くなるとガラスが結晶化する。
【0015】
本発明のガラスは、ガラスに含まれる陽イオン全体に対する割合で、Wイオンを4cat%以上70cat%以下含有する。本発明のガラスは、Wイオンを5cat%以上20cat%以下含有することが好ましい。Wイオンはガラス化範囲を広げ、ガラス転移点を下げる効果がある成分である。Wイオンの含有量が4cat%未満であると、ガラス転移点を下げる効果が小さくなる。70cat%より多いとガラスが不安定化し結晶化(失透)し易くなる。また溶融時の粘度が低くなり大きなガラス体を得られない。さらに、金型を用いて加熱し成形するガラスモールドレンズ作製中に型と反応し融着しやすくなる。
【0016】
本発明のガラスは、ガラスに含まれる陽イオン全体に対する割合で、Nbイオンを0cat%以上65cat%以下含有することができる。ガラス中でNbイオンは、一部ガラス網目形成成分として働き、特に高屈折率を付与する働きをする。Nbイオンが65cat%を超えると、ガラスが不安定化し結晶化(失透)する。
【0017】
本発明のガラスは、ガラスに含まれる陽イオン全体に対する割合で、Tiイオンを0cat%以上60cat%以下含有することができる。60cat%より多いとガラス転移点が上昇する。また、λ5が長波長になりガラスが黄色味を帯びるため好ましくない。
【0018】
本発明のガラスはガラスを構成する陽イオンとして、NbイオンとTiイオンの合計の割合が、ガラス中の陽イオン全体に対して、0cat%以上75cat%以下含有する。56cat%以上75cat%以下が好ましい。これらのイオンの合計割合が75cat%より多いと、ガラスが不安定化し結晶化するので好ましくない。
【0019】
本発明のガラスは、ガラスに含まれる陽イオン全体に対して、特定の希土類イオン―Wイオン-Tiイオン、特定の希土類イオン―Wイオン-Nbイオンの3成分系の合計量が85cat%以上が好ましく、より好ましくは100cat%である。さらに、特定の希土類イオン―W-Nb-Tiの4成分系の合計量が85cat%以上で、その合計量が100%であることが最も好ましい。上記範囲であれば、従来のガラスの網目構造と比較し、Ti-O結合やNb-O結合が5.5~5.7高配位数で稜共有を有した網目構造を示し、さらにW-Oが4配位することで、高屈折率で低ガラス転移点のガラスを得ることができる。
【0020】
本発明のガラスは、任意成分として以下に述べる、Biイオン、Teイオン、Taイオン、Zrイオン、Znイオン、Mgイオン、Caイオン、Baイオン、Siイオン、Bイオン、Geイオン、Alイオン、Gaイオン又はInイオンを含有することができる。以下の任意成分の割合は、ガラスに含まれる陽イオン全体に対する割合である。なお、出来上がったガラスに含まれるそれぞれの陽イオンの割合はICP(誘導結合プラズマ)発光分析等により測定することができる。
【0021】
本発明のガラスはBi3+イオン、Te4+イオンを0cat%以上10cat%以下含有することができる。Biイオン、Teイオンは高分散を与える成分であるが、Biイオン、Teイオンが10cat%より多いとガラスが黄色く着色し、λ5が悪化してしまう。また、溶融粘度が低くなり大きなガラス球も得られず、揮発も増加して均質なガラスが得られない。
【0022】
本発明のガラスはTa5+イオンを0cat%以上15cat%以下含有することができる。TaイオンはΔTxを大きくする効果と高分散化に効果があるが、Taイオンの増加に伴いガラス転移点が上昇し、15cat%より多いとガラスモールドレンズ作製中に型と反応し融着しやすくなる。
【0023】
本発明のガラスはZr4+イオンを0cat%以上10cat%含有させることができる。ZrイオンはΔTxを大きくする効果と高分散化に効果があるが、Zrイオンの増加に伴いガラス転移点が上昇し、10cat%より多いとガラスモールドレンズ作製中に型と反応し融着しやすくなる。また、結晶核として働き、10cat%より多いとガラスが失透してしまう。Zrイオンの増加に伴い、ガラス転移点が上昇するため添加しないことがより好ましい。
【0024】
本発明のガラスはZn2+イオン、Mg2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオンを、それぞれ0cat%以上15cat%含有させることができる。Znイオン、Mgイオン、Caイオン、Baイオンを含有させることで、λ5の数値を小さくする(良化)させることができる。一方でアッベ数を大きく(低分散化)させる効果も有する。よって、15cat%以上含有させるとアッベ数が大きくなり低分散化してしまい、所望の高分散ガラスを得られない。また、Caイオン、Baイオンは含有量に比例しガラス転移点が上昇する。
【0025】
ただし、Znイオン、Mgイオン、Caイオン、Baイオンの4イオンのうち、Znイオンの低分散化効果が小さく、ガラス転移点Tgを低下させる為、金型を用いて加熱し、成形するガラスモールドレンズ用としては最も適したイオンである。また、Baイオンは劇物に相当する為、含有させないことがより好ましい。さらに、Mgイオンは屈折率を低下させる為、含有量は10cat%以下が好ましい。
【0026】
本発明のガラスはSi4+イオンを0cat%以上5cat%以下含有させることができる。少量の含有でガラス転移点Tgを低下させる効果があるが、5cat%より多く含有させると結晶化してしまう。一方、Siイオンはガラス作製中の加熱でSiイオンが揮発してしまうので、Siイオンを含有させないことがより好ましい。
【0027】
本発明のガラスはB3+イオンおよびGe4+イオンを、それぞれ0cat%以上15cat%以下含有させることができる。BイオンとGeイオンはガラス転移点Tgを低下させ、上記範囲内であればΔ56Txを大きく変化させない。また、含有による屈折率の低下と低分散化効果も小さい。しかしながら15cat%以上含有させると失透してしまう。
【0028】
本発明のガラスはAl3+イオンを0cat%以上15cat%以下含有させることができる。Alイオンはガラスを低分散化させる効果が大きく、λ5も良化させる。しかしながらガラス転移点Tgを上昇させる効果を有する。15cat%より多く含有させるとアッベ数が24を超え、低分散化される。また結晶化してしまう。
【0029】
本発明のガラスはGa3+イオンを0cat%以上15cat%以下含有させることができる。Gaイオンはガラス転移点Tgを低下させる効果とΔTxを大きくする効果に関し、Znイオンに次いで有用なイオンであるが、Znイオンに比べ高価である。
【0030】
本発明のガラスはIn3+イオンを0cat%以上5cat%以下含有させることができる。Inイオンはガラス転移点Tgを低下させる効果とΔTxを大きくする効果を有するが、5cat%より多く含有するとガラスが失透してしまう。
【0031】
本発明のガラスはd線(587.56nm)における屈折率ndが2.07以上2.31以下、より好ましくは2.23以上2.31以下の高屈折率を有する。
【0032】
また、本発明のガラスは16以上24以下、より好ましくは16以上20以下のアッベ数を有する。
【0033】
本発明の光学ガラスの第二の態様は、La3+、Ti4+、Nb5+及びW6+を含有する酸化物を含み、前記光学ガラスに含まれる陽イオン全体に対する含有量(cat%)が、
前記La3+が27~30cat%、及び、前記Ti4+、前記Nb5+及び前記W6+の合計が70~73cat%であり、かつ、下記の組成:
0 cat% ≦Ti4+≦60cat%、
0 cat% ≦Nb5+≦60cat%、
0 cat% ≦W6+≦70cat%、
を満たすことを特徴とする。
【0034】
また、上記第二の態様において、前記La3+が30cat%、及び前記Ti4+、前記Nb5+及び前記W6+の合計が70cat%であり、かつ、下記の組成:
0 cat% ≦Ti4+≦60cat%、
0 cat% ≦Nb5+≦60cat%、
10 cat% ≦W6+≦70cat%、
を満たし、
さらに、前記Ti4+が20~50cat%、前記Nb5+が0cat%及び前記W6+が20~50cat%である場合を除くことを特徴とする。
【0035】
さらに、上記第二の態様において、前記La3+が27cat%、及び前記Ti4+、前記Nb5+及び前記W6+の合計が73cat%であり、かつ、下記の組成:
3 cat% ≦Ti4+≦53cat%、
10 cat% ≦Nb5+≦60cat%、
10 cat% ≦W6+≦60cat%、
を満たし、
さらに、前記Ti4+が3cat%、前記Nb5+が20~30cat%及び前記W6+が40~50cat%である場合と、前記Ti4+が23~43cat%、前記Nb5+が10cat%及び前記W6+が20~40cat%である場合とを除くことを特徴とする。
【0036】
本発明のガラスの原料は、ガラス作製条件に応じて上記の陽イオンを含有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩などの公知材料から選択することができる。
【0037】
(光学素子)
本発明の光学素子は、上記の光学ガラスを成形することによって得られる。本明細書において、光学素子とは、レンズ、プリズム、反射鏡(ミラー)、回折格子等の光学機器を構成する素子をいう。
【0038】
(光学ガラスの製造方法)
本発明の光学ガラスの製造方法は、炭酸ガスレーザを試料に照射して溶解させ、その溶融物をノズルから噴出されたガス流体により浮上させた後、冷却固化させる無容器凝固法である。ガス流体のガス種は用途に合わせて、空気、窒素、酸素、アルゴンなどに代表される不活性ガスを用いることができる。また、ガス流量は溶融物の浮上に合わせて200~5000ml/分とすることができる。
【0039】
無容器凝固法とは、Pt合金(Ptまたは白金合金、例えばPt―Au,Pt―Au―Rhなど)やC系(CやSiCなど)等の容器を用いずに、材料を加熱溶解させた後、冷却固化させてガラスを得る方法である。
【0040】
無容器凝固法の特徴は大きく2つある。1つ目は容器を用いることが無い為、溶融物と容器の界面で発生する不均一核生成が無く、深い冷却度を得ることができることである。2つ目は、容器を用いることが無い為、従来は容器そのものの融点(例えばPtならば1768℃)以上の高融点を有する試料も加熱溶解できることである。
【0041】
無容器凝固法での主な工程は、試料を加熱溶解させる工程、その試料を加熱溶解させた溶融物を浮上させる工程、及び加熱源を切り冷却固化させる3つである。
【0042】
試料を加熱溶解させる工程では、加熱源として炭酸ガスレーザに代表されるレーザ加熱源、高周波加熱源、マイクロ波加熱源、ハロゲンランプの集光によるイメージ炉などを用いることができる。
【0043】
溶融物を浮上させる工程では、磁気浮遊,静電浮遊,音波浮遊,ガスジェット浮遊やそれぞれの組み合わせ(例えば音波浮遊とガスジェット浮遊など),微小重力下(例えば落下や宇宙空間など)を用いることができる。
【0044】
溶融物を浮上させた状態で冷却固化する工程では、溶融物から結晶が発生しない冷却速度で冷却固化させることで透明なガラス球を得ることができる。
【0045】
[実施例]
以下に、実施例を用いて本発明を説明する。
実施例1~158では、ガラス中の陽イオンの組成が、表1に示す各試料の割合になるように、ガラス原料として、La2O3(LaF3,La2S3)、Y2O3、Gd2O3、Lu2O3、Yb2O3、WO3、Nb2O5、TiO2(TiS2)の合計が10gとなるよう秤量した。なお、表中、希土類合計とあるのは原料中の希土類イオンの合計という意味である。
【0046】
比較例1~151では、ガラス中の陽イオンの組成が、表2に示す各試料の割合になるように、ガラス原料として、La2O3(LaF3,La2S3)、Y2O3、Gd2O3、Lu2O3、Yb2O3、WO3、Nb2O5、TiO2(TiS2)、Bi2O3、TeO2、Ta2O5、ZrO2、ZnO、MgO、CaO(CaCO3)、BaO、SiO2、B2O3(H3BO3)、GeO2、Al2O3、Ga2O3、SnO2、In2O3の合計が10gとなるよう秤量した。
【0047】
その後メノウ乳鉢を用いて15分間ガラス原料が均一になるよう混合した。この混合物中の水分を除く為に、600℃で7時間電気炉中にて焼成した。焼成粉末を加圧ゴム型に充填させた後、冷間等方圧加圧法にて20kNで1分間保持した。出来上がった棒状粉末(圧粉体)を、1200℃で7時間焼成を行ない、焼結体を得た(ただし、混合物中の水分を特段気にする必要が無い場合は、粉末を簡易プレスし圧粉体としてもよい)。
【0048】
この焼結体1を試料2として、
図1に示すガスジェット浮遊装置のノズル3上にセットし、500ml/分の酸素ガス4をノズル穴から流しながら、炭酸ガスレーザ5を上部から照射し加熱した。酸素ガス4は乾燥空気でも窒素でも、試料2を浮上させることができれば種類は問わない。またガス量は焼結体1の大きさに合わせて0.5~6L/分の間で適宜調節することが可能である。ガスジェット浮遊装置のノズル3上にセットした焼結体1を加熱し、完全に融液となり酸素ガスによる浮上を確認した後、レーザ出力を遮断して急速に冷却して球体試料2を得た。
【0049】
[評価方法]
(ガラス化判定)
球体試料2は、その後光学顕微鏡(100倍)にて観察を行い結晶の有無を判定した。表1及び表2には、得られた球体試料の直径が2mm(2φ)と3mm(3φ)の場合に分けて、光学顕微鏡で観察した時に結晶が観察されなかったものには○、若干結晶が観察されるものの光学ガラスとして問題ないと思われるものには△、結晶が観察されたものには×を表記している。なお、球体試料の直径が2mmの場合には、本発明の効果は十分発揮されるが、直径3mmの場合には、適用用途が広がるためより効果が発揮される。
【0050】
(ガラス転移点及びΔTxの測定)
球体試料2をメノウ乳鉢で粉砕して、外径5mm高さ2.5mmの白金製パンに詰めた後、リガク製DSC8270示差走査型熱量計(DSC)にて10℃/分の昇温速度で1200℃まで加熱し、ガラス転移点(Tg)の検出を行った。結晶開始温度Txとガラス転移点Tgとの差ΔTx(Tx-Tg=ΔTx)を求めた。
【0051】
(屈折率測定)
屈折率とアッベ数は、互いに直交する2面を研磨により作製し、島津製作所製KPR-2000を用いて測定した。サンプルが小さい場合は透明な球体試料を半球状に研磨した後エリプソメーター(J.A.Woollam.Co.,Inc製M-2000F)にて測定した。
【0052】
(透過率測定)
表面反射を含む分光透過率測定は、試料を厚み0.5mmの二平面鏡面研磨し、島津製作所製分光透過率装置(UV-3100PC)で測定した。この時の分光透過率5%を示す波長(nm)をλ5として表記した。
【0053】
(評価結果)
得られた球体試料の実施例1~158の結果を表1に示す。また比較例1~151で得られた試料について同様の評価を行った結果を表2に示す。
【0054】
表1に示すように、希土類イオンの合計が19cat%以上30cat%以下、Wイオンが4.88cat%以上70cat%以下、NbイオンとTiイオンの合計が0cat%以上75cat%以下の場合に、光学顕微鏡観察で結晶が観察されず、示差走査型熱量計での測定においてガラス転移点が確認され、透明なガラス球体試料を得ることができた。なお、直径3mm(3φ)の場合には結晶が観察された試料もあるが、直径2mm(2φ)の場合にはすべての試料について結晶が観察されなかった。
【0055】
d線(587.56nm)における屈折率はすべて2.07以上であった。またアッベ数(νd)はすべて24以下であった。
【0056】
表2に示すように、WO3を含有しない比較例1~36のうち、比較例10~13、18~19、24、28、33~36においては、結晶が観察されたため光学ガラスとして使用できないものがあった。また、希土類イオンの含有量が27cat%以上30cat%以下の比較例1~9はガラス転移点が705℃より高く、また、希土類イオンの含有量が20cat%以上27cat%未満の比較例10~36はガラス転移点が690℃より高かった。これらは表1に示したWイオンを含有している実施例よりガラス転移点が高く、ガラスモールドを得難いものであった。また、比較例37~151では、結晶が観察されため光学ガラスを得ることができなかった。
【0057】
WO
3-TiO
2-Nb
2O
5の系について、La
2O
3を30cat%含む実施例及び比較例の結果を三相図にプロットしたものを
図2に、La
2O
3を27cat%含む場合を
図3に、La
2O
3を24cat%含む場合を
図4に、La
2O
3を22cat%含む場合を
図5に、La
2O
3を20cat%含む場合を
図6にそれぞれ示す。各図中、丸の中に実施例または比較例の番号を記載した。
【0058】
図2は比較例1~8及び比較例37~40が、
図3は比較例9及び比較例41~46が、
図4は比較例10~18、比較例47~59及び比較例60~64が、
図5は比較例19~23及び比較例65~70が、
図6は比較例33~36及び比較例71~90が、それぞれ結晶化し、光学ガラスが得られず、他の系では光学ガラスが得られたことを示している。
【0059】
本発明の第三の実施態様について説明する。
図2において、La
3+,Ti
4+,W
6+,Nb
5+の組成が、実施例2(30cat%,10cat%,60cat%,0cat%)、実施例3(30cat%,0cat%,70cat%,0cat%)、実施例9(30cat%,0cat%,10cat%,60cat%)、実施例10(30cat%,50cat%,10cat%,10cat%)、実施例20(30cat%,10cat%,50cat%,10cat%)、実施例2(30cat%,10cat%,60cat%,0cat%)で囲まれた第1の領域でガラス化する。
【0060】
図3において、La
3+,Ti
4+,W
6+,Nb
5+の組成が、実施例25(27cat%,43cat%,10cat%,20cat%)、実施例32(27cat%,13cat%,40cat%,20cat%)、実施例33(27cat%,13cat%,30cat%,30cat%)、実施例37(27cat%,3cat%,30cat%,40cat%)、実施例39(27cat%,3cat%,10cat%,60cat%)、実施例25(27cat%,43cat%,10cat%,20cat%)で囲まれた第2の領域でガラス化する。
【0061】
図4において、La
3+,Ti
4+,W
6+,Nb
5+の組成が、実施例40(24cat%,26cat%,20cat%,30cat%)、実施例45(24cat%,16cat%,30cat%,30cat%)、実施例42(24cat%,16cat%,60cat%,0cat%)、実施例48(24cat%,6cat%,70cat%,0cat%)、実施例52(24cat%,6cat%,30cat%,40cat%)、実施例55(24cat%,0cat%,26cat%,50cat%)、実施例57(24cat%,0cat%,6cat%,70cat%)、実施例41(24cat%,26cat%,10cat%,40cat%)、実施例40(24cat%,26cat%,20cat%,30cat%)で囲まれた第3の領域でガラス化する。
【0062】
図5において、La
3+,Ti
4+,W
6+,Nb
5+の組成が、実施例58(22cat%,28cat%,10cat%,40cat%)、実施例59(22cat%,18cat%,20cat%,40cat%)、実施例60(22cat%,18cat%,10cat%,50cat%)、実施例58(22cat%,28cat%,10cat%,40cat%)で囲まれた第4の領域でガラス化する。
【0063】
これらの実験結果から、27cat%<La3+≦30cat%で、第1の領域のいずれかの組成と第2の領域のいずれかの領域のいずれかの組成を結んだ線上にある第1の組成はガラス化すると考えられる。また、24cat%<La3+≦27cat%で第2の領域のいずれかの組成と第3の領域のいずれかの組成を結んだ線上にある第2の組成はガラス化すると考えられる。また、22cat%≦La3+≦24cat%で第3の領域のいずれかの組成と第4の領域のいずれかの組成を結んだ線上にある第3の組成はガラス化すると考えられる。
【0064】
第三の実施態様のガラスは、下記のいずれかの組成を有する。27cat%<La3+≦30cat%で第1の領域のいずれかの組成と第2の領域のいずれかの組成を結んだ線上にある第1の組成、24cat%<La3+≦27cat%で第2の領域のいずれかの組成と第3の領域のいずれかの組成を結んだ線上にある第2の組成、又は22cat%≦La3+≦24cat%で第3の領域のいずれかの組成と第4の領域のいずれかの組成を結んだ線上にある第3の組成、のいずれかの組成を有することを特徴とする。
【0065】
第三の実施態様のガラスは、第一の実施態様のガラスに記載した組成および物性を満たすことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の光学ガラスは、成形して光学素子にすることができる。また、この光学素子を光学機器、例えばカメラ、デジタルカメラ、VTR、DVDなどの光ピックアップレンズとして使用することができる。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【符号の説明】
【0080】
1.焼結体
2.試料
3.ノズル
4.酸素ガス
5.炭酸ガスレーザ