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7371851肉体的疲労及び疲労感を予防又は改善するオレアナン型トリテルペンを含有する組成物
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  • -肉体的疲労及び疲労感を予防又は改善するオレアナン型トリテルペンを含有する組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】肉体的疲労及び疲労感を予防又は改善するオレアナン型トリテルペンを含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20231024BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20231024BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20231024BHJP
   A61K 36/63 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
A23L33/105
A61P3/00
A61K31/19
A61K36/63
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019129760
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021013326
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓人
(72)【発明者】
【氏名】山内 優輝
(72)【発明者】
【氏名】武政 徹
(72)【発明者】
【氏名】高木 英樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 清司
(72)【発明者】
【氏名】妙▲圓▼園 香苗
(72)【発明者】
【氏名】白井 隆長
(72)【発明者】
【氏名】川合 英介
【審査官】河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-058392(JP,A)
【文献】特開2002-097135(JP,A)
【文献】特開2017-184718(JP,A)
【文献】国際公開第03/057224(WO,A1)
【文献】特開2016-172695(JP,A)
【文献】特開2016-135804(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106520426(CN,A)
【文献】特開2008-017734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61P
Mintel GNPD
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレアナン型トリテルペン又はその塩を有効成分として含有する、抗疲労用組成物であって、
前記オレアナン型トリテルペンがマスリン酸及びオレアノール酸の混合物であり、
運動で発生する肉体的疲労及び/又は疲労感を予防及び/又は改善するための、前記抗疲労用組成物(ただし、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸を含む場合を除く)。
【請求項2】
主要トリテルペンとしてマスリン酸とオレアノール酸とを含有するオリーブ果実抽出物を有効成分として含有する、抗疲労用組成物であって、
運動で発生する肉体的疲労及び/又は疲労感を予防及び/又は改善するための、前記抗疲労用組成物(ただし、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸を含む場合を除く)。
【請求項3】
請求項1又は2記載の組成物を含有する、抗疲労用飲食品。
【請求項4】
請求項1又は2記載の組成物を含有する、抗疲労用医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばオレアナン型トリテルペンを含有する抗疲労用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
疲労は、痛みや発熱とともに、生体の3大アラームとされる程、肉体的あるいは精神的な原因によって生じる過負荷の状態を表現する重要な生体警告シグナルである。しかしながら、これまでに疲労が生じる機序や疲労の自覚的感覚(疲労感)に至る機序は完全には解明されていない(非特許文献1;p188「3.疲労のバイオマーカー」を参照)。
【0003】
健常者における疲労は、厚生省疲労調査 研究班の木谷らが「過度の肉体的・精神的活動により生じた独特の病的不快感と休養を求める欲求を伴う精神・身体機能の減弱状態」と定義している(非特許文献2;p200「はじめに」を参照)。従って「抗疲労」効果とは、精神又は身体に何らかの過負荷を与えた際に生じる不快感(疲労感)を緩和させたり、パフォーマンスの低下を抑制させたりする効果といえる。
【0004】
日本疲労学会の制定する抗疲労臨床評価ガイドラインによると、疲労とは心身への過負荷により生じた活動能力や能率の低下のことを指し、疲労感は疲労が存在することを自覚する感覚とされる。さらに、ヒトを対象とした臨床試験において抗疲労効果を評価する方法として、自覚的疲労度や血中の酸化ストレスマーカー等の測定を挙げている(非特許文献3;p4「4.1 日常生活により問題となる疲労の定義」、p10「別表」を参照)。これら複数の評価項目を比較した試験を実施し、統計的に有意な差が認められた場合、疲労回復の効果を有していると判定される。特に自覚的疲労度を測定する方法であるVAS(Visual Analogue Scale)は、特定保健用食品の抗疲労臨床評価における疲労感の評価方法として有用とされており、信頼性の高い方法といえる(非特許文献4)。
【0005】
平成14年度に厚生労働省が実施した労働者健康状況調査によると、「普段の仕事で疲れる」とする労働者は72%にのぼることが確認された(非特許文献5;「1.身体の疲れ及び精神的ストレス等の状況 (1)普段の仕事での身体の疲れ」を参照)。現在では社会構造の複雑化やスピード化、高齢化に伴いますます疲労や疲労感が広く社会に蔓延していると予想され、過労防止や経済活性化のためにも、その対処策が求められている。
【0006】
疲労を回復するための手法として、経験的に、休養、睡眠、入浴、栄養、軽い運動、アロマテラピー等が利用されている。特に運動による肉体的な疲労の予防には、運動前に十分な糖質やアミノ酸を摂取し、エネルギーを蓄積させておく方法が広く行われている。さらに近年、抗疲労物質、抗疲労サプリメントとして、簡便に摂取することができる食品成分が様々提案されている。例えばセサミン、イミダゾールジペプチド、スフィンゴミエリン、カテキン類、レスベラトロール(特許文献1~4及び非特許文献6)等を摂取することが疲労の予防、及び回復に有効であると提案されている。
【0007】
一方、マスリン酸を始めとするオレアナン型トリテルペン類について、運動による骨格筋機能増強作用を促進させる作用(特許文献5)、大腸癌抑制作用(非特許文献7)、皮膚の美白(特許文献6)、破骨細胞の分化抑制及び骨吸収活性効果(特許文献7)、肥満予防効果(特許文献8)、難消化性デキストリン、コロソリン酸、マスリン酸及びトルメンチック酸を有効成分として含有する組成物について血糖値上昇抑制(特許文献9)、オレアノール酸について抗う蝕(特許文献10)、抗ガン作用(特許文献11)等が報告されている。しかしながら、これらいずれの文献にも、オレアナン型トリテルペン類の抗疲労作用、疲労感軽減作用については何ら示唆も開示もされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-141014号公報
【文献】特開2002-173442号公報
【文献】特開2016-121132号公報
【文献】特開2005-089384号公報
【文献】特開2017-109942号公報
【文献】国際公開第2002/043736号
【文献】特開2014-141444号公報
【文献】国際公開第2003/011267号
【文献】特開2006-347967号公報
【文献】特開平1-290619号公報
【文献】特開平8-119866号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】田中ら, ストレスと疲労のバイオマーカー, 日本薬理学雑誌, 2011年, 137, pp. 185-188
【文献】田中ら, CBEX-Dr 配合飲料の健常者における抗疲労効果, Jpn Pharmacol Ther(薬理と治療), 2008年, vol. 36, no. 3, pp. 199-212
【文献】抗疲労臨床評価ガイドライン第5版, 日本疲労学会, 平成23年(2011年)7月22日作成, pp. 1-13
【文献】抗疲労臨床評価ガイドライン第5版, 日本疲労学会, 平成23年(2011年)7月22日作成, 別添
【文献】平成14年労働者健康状況調査の概況: 身体の疲れ及び精神的ストレス等の状況, 厚生労働省, 平成15年(2003年)8月(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/saigai/anzen/kenkou02/r1.html)
【文献】Wu RE et al., Molecules, 2013年, 18, pp. 4689-4702
【文献】Juan ME et al., J Nutr., 2006年, 136(10), pp. 2553-2557
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の実情に鑑み、運動等の身体活動によって引き起こされる肉体的な疲労及び疲労感を予防及び改善するための組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、オレアナン型トリテルペン類を含有する組成物を摂取することにより、簡便に疲労や疲労感を軽減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)オレアナン型トリテルペン若しくはその塩又はそれらのプロドラッグを有効成分として含有する、抗疲労用組成物。
(2)オレアナン型トリテルペンが、マスリン酸、オレアノール酸及びそれらの混合物から成る群より選択される、(1)記載の抗疲労用組成物。
(3)主要トリテルペンとしてマスリン酸とオレアノール酸とを含有するオリーブ果実抽出物を有効成分として含有する、抗疲労用組成物。
(4)肉体的疲労及び/又は疲労感を予防及び/又は改善するための、(1)~(3)のいずれか1記載の抗疲労用組成物。
(5)(1)~(4)のいずれか1記載の組成物を含有する、抗疲労用飲食品。
(6)(1)~(4)のいずれか1記載の組成物を含有する、抗疲労用医薬品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水球等の激しい運動や筋力トレーニングによって生じる疲労及び疲労感を予防及び改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】オリーブ果実由来オレアナン型トリテルペン含有液のHPLC分析チャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明に係る抗疲労用組成物(以下、「本発明に係る組成物」という)は、オレアナン型トリテルペン若しくはその塩又はそれらのプロドラッグを有効成分として含有するものである。本発明に係る組成物によれば、肉体的疲労及び/又は疲労感を予防及び/又は改善することができる。従って、本発明に係る組成物は、肉体的疲労及び/又は疲労感の予防剤、治療剤又は改善剤として使用することもできる。
【0017】
本発明において、トリテルペンは炭素数30を基本骨格とする化合物であり、その代表例として五環性トリテルペンが挙げられる。ここで、五環性トリテルペンとは、トリテルペン類の1種であり、イソプレン単位6個から成る五環性の化合物で、炭素数は30個を基本とするが、生合成過程で転位、酸化、脱離あるいはアルキル化され炭素数が前後するものも含まれる。
【0018】
これらは、天然の植物から得ることも、人工的に得ることもできる。また、市販品も好適に利用することができる。五環性トリテルペンは、一般に、その骨格により分類されている。例えば、オレアナン型トリテルペン、ウルサン型トリテルペン、ルパン型トリテルペン、ホパン型トリテルペン、セラタン型トリテルペン、フリーデラン型トリテルペン、タラキセラン型トリテルペン、タラキサスタン型トリテルペン、マルチフロラン型トリテルペン、ジャーマニカン型トリテルペン等が挙げられる。
【0019】
本発明に係る組成物は、五環性トリテルペン類のうち、オレアナン型トリテルペンを有効成分として含有する。オレアナン型トリテルペンとしては、例えばマスリン酸、オレアノール酸、マスリン酸とオレアノール酸との混合物等が挙げられる。
【0020】
マスリン酸は、オリーブ果実及び葉、ナツメ、アーモンド、バナバ葉、セージ、リンゴ、クランベリー、カリン等に含まれる。オレアノール酸は、オリーブ果実及び葉、ブドウ、ビート、ナツメ、アーモンド、バナバ葉、セージ、サンザシ、ラズベリー、カリン、ローズマリー葉、グァバ、シソ葉、ブルーベリー、プルーン、ビワ、ザクロ、レモンバーム、バジル、ローズヒップ、カキ、センブリ等に含まれる。
【0021】
これらオレアナン型トリテルペンは、上述の植物から公知の方法で抽出、精製して得ることができる他、化学合成によって得ることもできる。オレアナン型トリテルペンは、単独の成分又は2以上の種類の成分の混合物(組合せ)であっても良い。
【0022】
オレアナン型トリテルペンは、上述の植物の抽出物の形態で用いても良い。特に古くからの食経験があり、オレアナン型トリテルペンが豊富に含まれており、搾油後の二次利用が可能なことから、オリーブ果実抽出物の形態を用いることが好ましい。当該オリーブ果実抽出物は、主要トリテルペンとしてマスリン酸とオレアノール酸とを含有する。
【0023】
オレアナン型トリテルペンの製造方法としては、例えば乾燥、半乾燥又は未乾燥のオリーブ果実、搾油工程で生産されるオリーブオイル搾油粕を出発原料とし、マスリン酸等のトリテルペンが抽出可能な低級アルコール(エタノール、メタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール等)、又はその含水アルコールでトリテルペンを抽出する方法が挙げられる。必要であれば、ケン化処理、中和を行い、吸着剤としてオクタデシルシリカ(ODS)、シリカゲル、合成吸着剤等を使用して、分画、精製してマスリン酸及び/又はオレアノール酸を主成分として含むトリテルペンの混合物を得ても良い。このようなオリーブ果実から抽出されるトリテルペンには、概ねマスリン酸とオレアノール酸とが4:1の割合で含まれているが、オリーブ果実の生育状況や生育地域、あるいは搾油条件等により、当該比が1:1~7:1になる場合もある。
【0024】
他の植物を出発原料とする場合には、原料として使用する植物に適した方法でオレアナン型トリテルペンを得ることができる。また、得られるオレアナン型トリテルペンの成分の種類及びその構成比は原料として使用する植物に依存する。
【0025】
オレアナン型トリテルペンの塩としては、薬学的に許容される塩が好ましく、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、ピロ硫酸、メタリン酸等の無機酸、又はクエン酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、コハク酸、スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸)、アミノ酸(例えば、グルタミン酸)等の有機酸との塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、リジン塩、アルギニン塩が挙げられる。
【0026】
オレアナン型トリテルペン若しくはその塩のプロドラッグとは、生物系に投与した場合に、自発的な化学反応の結果として、又は触媒する酵素若しくは代謝反応により、オレアナン型トリテルペン又はその塩を生ずる全ての化合物を示す。水酸基において使用されるプロドラッグを構成する基としては、例えば、C2-7-アシル基、C1-6-アルコキシ(C2-7アシル)基、C1-6-アルコキシカルボニル(C2-7-アシル)基、C1-6-アルコキシカルボニル基、C1-6-アルコキシ(C2-7-アルコキシカルボニル)基、(C2-7-アシルオキシ)メチル基、1-(C2-7-アシルオキシ)エチル基、(C2-7-アルコキシカルボニル)オキシメチル基、1-〔(C2-7-アルコキシカルボニル)オキシ〕エチル基等が挙げられ、C2-7-アシル基、C1-6-アルコキシカルボニル基が好ましい。カルボキシル基において使用されるプロドラッグを構成する基としては、例えば、C1-6-アルキル基、C1-6-アルコキシ-C1-6-アルキル基、(C2-7-アシルオキシ)メチル基、1-(C2-7-アシルオキシ)エチル基、(C2-7-アルコキシカルボニル)オキシメチル基、1-〔(C2-7-アルコキシカルボニル)オキシ〕エチル基等が挙げられ、C1-6-アルキル基、C1-6-アルコキシ-C1-6-アルキル基が好ましい。
【0027】
本発明に係る組成物の摂取量(投与量)は、摂取(投与)する肉体的疲労及び/又は疲労感を有する被験者の年齢、性別、症状の程度、摂取(投与)形態によって異なるが、有効成分(オレアナン型トリテルペン若しくはその塩又はそれらのプロドラッグ)換算で、例えば成人では1日当たり好ましくは0.1mgマスリン酸当量/kg体重以上であり、より好ましくは1.0mgマスリン酸当量/kg体重以上である。また特に摂取量(投与量)の上限はないが、60mgマスリン酸当量/kg体重を超えると製品コストの観点から好ましくない。
【0028】
マスリン酸当量とは、マスリン酸とマスリン酸以外の化合物の混合物の量を混合物に含まれるマスリン酸の質量で表現したものである。具体的には、1.0mgマスリン酸当量のオリーブ果実由来トリテルペンとは、1mgのマスリン酸を含む、オレアノール酸や例えば図1のチャートに示されたマスリン酸以外の他のピークの化合物との混合物の量を意味する。
【0029】
本発明に係る組成物を、例えば疲労又は疲労感を伴う運動を行う期間や日常生活にあわせて好ましくは1~2週間、さらに好ましくは1~20週間にわたり、1日量を1~3回に分けて摂取(投与)する。また、疲労又は疲労感を伴う運動を行う期間又は日常生活中は、そのような運動又は日常生活の頻度にかかわらず、すなわち運動を行う日や疲労又は疲労感を伴う日常生活の日であっても、運動を行わない日や疲労又は疲労感を伴う日常生活の日でない日であっても毎日摂取(投与)することが好ましい。摂取(投与)のタイミングとしては、運動を行う日や疲労又は疲労感を伴う日常生活の日である場合、その日に行う運動や日常生活の前後を問わない。
【0030】
本発明に係る組成物は、助剤と共に任意の形態に製剤化して、経口投与又は非経口投与が可能な医薬品とすることができる。例えば、経口用の剤形としては、錠剤、口腔内速崩壊錠、カプセル、顆粒、細粒等の固形投薬形態、シロップ及び懸濁液のような液体投薬形態とすることができる。非経口の剤形としては、注射剤、点眼剤、点鼻剤、貼付剤、坐剤、皮膚外用剤の形態とすることができる。なお、医薬品には医薬部外品も含まれる。
【0031】
固形投薬形態とする場合、一般製剤の製造に用いられる種々の添加剤を適当量含んでいてもよい。このような添加剤として、例えば賦形剤、結合剤、酸味料、発泡剤、人工甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、安定化剤、pH調整剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0032】
液体投薬形態とする場合、本発明に係る組成物は必要に応じてpH調整剤、緩衝剤、溶解剤、懸濁剤等、等張化剤、安定化剤、防腐剤等の存在下、常法により製剤化することができる。
【0033】
皮膚外用剤の形態としては、特に限定されず、例えば、乳液、クリーム、化粧水、パック、分散液、洗浄料、メーキャップ化粧料、頭皮・毛髪用品等の化粧品や、軟膏剤、クリーム剤、外用液剤等の医薬品等とすることができる。上記成分以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、各種皮膚栄養成分、紫外線吸収剤、酸化防止剤、油性成分、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、色剤、水、防腐剤、香料等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0034】
本発明に係る組成物は、機能性食品、健康食品、特定保健用食品、栄養機能食品等の保健機能食品、特別用途食品(例えば、病者用食品)、健康補助食品、サプリメント等として調製されてもよい。例えば、本発明に係る組成物は、「肉体的疲労及び/又は疲労感を予防及び/又は改善する」等を表示した機能性表示食品に利用できる。サプリメントとして、例えば、一般的なサプリメントの製造に用いられる種々の添加剤と共に錠剤、丸状、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、ゼリー状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等の形状とすることができる。
【0035】
本発明に係る組成物は、飲食品に配合することができる。配合可能な飲食品としては、特に限定はないが、例えば、飴、グミ、チューインガム等の菓子類;クッキー、クラッカー、ビスケット、チョコレート、プリン、ゼリー、スナック菓子、米菓、饅頭、羊羹等の菓子類;アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、ジェラート等の冷菓;ドーナツ、ケーキ、食パン、フランスパン、クロワッサン等のベーカリー食品;うどん、そば、中華めん、きしめん等の麺類;白飯、赤飯、ピラフ等の米飯類;カレー、シチュー、ドレッシング等のソース類;ハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、魚肉ソーセージ等の練り製品;天ぷら、コロッケ、ハンバーグ等の各種惣菜類;ジュース、お茶等の飲料等が挙げられる。
【0036】
本発明に係る組成物の効果は、例えば自覚的疲労度の測定方法であるVAS(例えば、解析項目として「全身疲労感」;非特許文献4)や血中酸化ストレスマーカー(例えば、TBARS(Thio barbituric acid reactive substances:2-チオバルビツール酸反応性物質);新規抗疲労成分:イミダゾールジペプチド, 日本補完代替医療学会誌, 第6巻, 第3号, 2009年10月:123-129及び大石 修司, 運動と酸化ストレス-活性酸素と抗酸化防御のバランスの重要性-, IRYO, Vol. 69, No. 7 (317-324) 2015)の測定により評価することができる。例えば、疲労又は疲労感を伴う運動を行う被験者、あるいは疲労又は疲労感を伴う日常生活を送る被験者に対して本発明に係る組成物を摂取させる(又は投与する)。本発明に係る組成物を摂取(又は投与)してない等の対照群と比較して、VAS又は血中酸化ストレスマーカーの測定値が有意に低い場合、本発明に係る組成物は抗疲労効果を有すると判断することができる。
【0037】
一方、上述の本発明に係る組成物の記載に準じて、本発明は、本発明に係る組成物を患者又は被験者(ヒト)に投与するか、又は摂取させることを含む、肉体的疲労及び/又は疲労感の予防、治療及び/又は改善方法にも関する。
【実施例
【0038】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
〔オリーブ果実由来トリテルペンが疲労及び疲労感に及ぼす影響の評価〕
1.製造例1[オリーブ果実由来トリテルペンの製造方法]
圧搾等の公知の搾油法によりオリーブオイルを除去したオリーブ果実搾油粕を得た。
【0040】
このオリーブ果実搾油粕100gに90%含水エタノール(v/v)を250g加えて、70℃で攪拌しながら2時間加熱した後、固液分離により得られた液体部分をエバポレーター等で減圧留去して濃縮液を得た。
【0041】
この濃縮液を水に分散させ、合成吸着樹脂アンバーライトXAD4(オルガノ社製)を担体としたカラムクロマトグラフィーに供し、50%含水エタノールから100%エタノールに至る10%刻みのステップワイズ溶出によりトリテルペン高含有画分を得、減圧留去して液油体状のオリーブ果実由来オレアナン型トリテルペンを得た。
【0042】
図1は、オリーブ果実由来オレアナン型トリテルペン含有液のHPLC分析チャートである。Aのピークはマスリン酸、Bのピークはオレアノール酸である。ピークの同定は、標準品とのリテンションタイムの比較及びLC/MS解析により行った。定量値は、標準品のピーク面積を基準に算出した。このトリテルペン含有液にはマスリン酸とオレアノール酸が10:4の割合で含まれていた。
【0043】
マスリン酸含有量が10質量%になるようにデキストリンを添加して混合し、水に分散した後、スプレードライして粉末のオリーブ果実由来トリテルペン剤とした。
【0044】
2.製造例2[試験食の作製]
表1で示した配合で原料を混合し、スティックゼリーを調製した。スティックゼリー1本当たりの内容量は10gであり、マスリン酸及びオレアノール酸の含有量は各々30mg、12mgである。
【0045】
【表1】
【0046】
3.試験例1[オリーブ果実由来トリテルペンが疲労及び疲労感に及ぼす影響の評価]
(1) 被験者選択
国立大学法人筑波大学水球部に所属する健康な男子大学生12名を被験者として選択した。
(2) 試験内容
オリーブ果実由来トリテルペンが運動、及び日常生活で発生する疲労及び疲労感に及ぼす影響を評価するに当たり、被験者に表2に示す水球練習及び筋力トレーニングを含む運動介入を月曜日~日曜日の1週間行った。その際、製造例2に示すオリーブ果実由来トリテルペン剤を含む試験食(実施例)、又は含まない試験食(比較例)を運動後に毎日2本摂取させた。
【0047】
なお、試験デザインは二重盲検クロスオーバー試験とし、被験者を無作為にA、Bの2群に分け、第1クールの1週間はA群に実施例のスティックゼリー、B群に比較例のスティックゼリーを摂取させ、浄化期間として試験食を摂取しない1週間を設けた後、第2クールの1週間ではA群に比較例のスティックゼリー、B群に実施例のスティックゼリーを摂取させた。
【0048】
第1クール、第2クールの結果を統合し、実施例、比較例それぞれ12名分の測定値を得て、平均を比較、解析した。
【0049】
【表2】
【0050】
(3) 方法
(3-1) 自覚的疲労度の測定
運動により発生する肉体的な疲労や疲労感を評価する項目として、運動翌日起床時の自覚的疲労度をVASにて1週間継続して評価した。例えば、火曜日起床時のVASによる自覚的疲労度の評価は、月曜日の運動及び日常生活の結果現れた疲労感であるため、月曜日の数値として記載した(表3)。なお、VASは10cmの直線の左端を「全く疲労感がない」状態である0とし、右端を「これ以上ないくらい疲労感がある」状態である10として、現在の状態が直線上のどの位置にあるかを10cmの直線と垂直に交わる棒線で記入させ、測定値とした。測定値をもとに、曜日ごとでのT検定により統計解析を行った。
【0051】
(3-2) 血中酸化ストレスマーカーの測定
酸化ストレスマーカーを測定することにより、疲労の程度を評価することが可能とされている(新規抗疲労成分:イミダゾールジペプチド, 日本補完代替医療学会誌, 第6巻, 第3号, 2009年10月:123-129;P124「4. 酸化ストレスマーカーによる疲労評価」を参照)。
【0052】
試験期間中の各月曜日の午前中に採血を行い、試験食摂取前後の血中TBARS(Thio barbituric acid reactive substances:2-チオバルビツール酸反応性物質)濃度を、TBARS測定キット(OxiSelect TBARS Assay Kit、CELL BIOLABOS, Inc)にて測定した。TBARSは各群の介入前後の比較をT検定、群間比較を2WAY-ANOVAにて統計解析を行った。
【0053】
なお、TBARSは、酸化ストレスに応答して濃度が上昇する物質の総称で、脂質ヒドロペルオキシドや、マロンジアルデヒドなどに代表されるアルデヒドなどが含まれる。また、TBARSは、運動性酸化ストレスの指標として広く研究されてきた対象であり、急性運動後に骨格筋や心筋、肝臓、血漿でのそのレベルが上昇することが示されている(大石 修司, 運動と酸化ストレス-活性酸素と抗酸化防御のバランスの重要性-, IRYO, Vol. 69, No. 7 (317-324) 2015;p319「1.急性運動」を参照)。
【0054】
(4) 結果
VASによる自覚的疲労度の測定の結果、表3で示す通り、全日程を通して、比較例と比べて実施例の方が低値を示していた。統計解析の結果、特に6日間試験食の摂取を続けた土曜日では、有意にVASの値が低値を示していた(P値<0.05)。
【0055】
また、オリーブ果実由来トリテルペン摂取の効果の大きさ(効果量)を解析するため、Cohen's dを求めた。Cohen's dは、t検定のような2グループの平均値の差を比較するときに使用される計算値で、算出される数値は、標準偏差を単位として平均値がどれだけ離れているかを表している。例えば、d = 1なら、1 標準偏差(SD)分だけ離れていることを意味する。なお、Cohen's dの値が0.8以上で「効果量大」、0.5以上で「効果量中」、0.2以上で「効果量小」、0.2未満では「効果ほとんど無し」と判定される(水本ら, 効果量と検定力分析入門 : 統計的検定を正しく使うために;2010年度部会報告論集「より良い外国語教育のための方法」: 47-73, Issue Date:2011-06-06)。
【0056】
Cohen's dを元に効果量を比較した結果、週の後半になるに従って、効果量が大きくなる傾向がみられた(表3)。
【0057】
さらに、血中TBARS濃度を測定した結果、表4に示す通り、比較例では介入前と比べて介入後で有意に血中TBARS濃度が上昇していたのに対し、実施例では介入前と比べて介入後で血中TBARS濃度が有意に低値を示していた(P値(前後比較)<0.05)。また、各例の変化量を群間で比較したところ、有意な差がみられた(P値(群間比較)<0.05)。
【0058】
VASによる自覚的疲労度の数値が比較例よりも実施例の方が低値を示したことから、オリーブ果実由来トリテルペンを摂取することで、運動で発生する肉体的な疲労感が改善されることが明らかとなった(表3)。また、効果量が週の後半になるにつれて大きくなることから、運動後のオリーブ果実由来トリテルペン摂取が、運動当日の疲労を改善するだけでなく、翌日の疲労の予防にもつながっている可能性が示唆された。つまりオリーブ果実由来トリテルペンには疲労予防効果も期待できる。
【0059】
結果を詳しく考察すると、日曜日(月曜日起床時測定)はオフであるため、VASの数値は最も数値が低くなった。また、月曜日は水球練習があるため、疲労度が日曜日よりも若干上がった。火曜日と木曜日は筋力トレーニングを実施しているため、火曜日、木曜日をピークに疲労感が上昇し、筋力トレーニングから時間が経つほど疲労感が回復してきているものと推測された。
【0060】
また、比較例に比べて実施例で血中TBARS濃度が低値を示していたことから(表4)、血中酸化ストレスレベルが軽減していることが示唆された。
【0061】
これらのことから、オリーブ果実由来トリテルペンを摂取することで、運動で発生する酸化ストレスを軽減し、肉体的な疲労が予防、改善されることが示唆された。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
図1