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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】捕捉装置及び捕捉方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/02 20060101AFI20231024BHJP
   G01N 1/22 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
G01N1/02 D
G01N1/22 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019154701
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021032771
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】木谷 泰行
(72)【発明者】
【氏名】戸邊 祥太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 基延
(72)【発明者】
【氏名】北 将憲
(72)【発明者】
【氏名】田畑 邦夫
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-275027(JP,A)
【文献】特開昭50-160093(JP,A)
【文献】特開2000-230887(JP,A)
【文献】特開2009-070806(JP,A)
【文献】特開平11-142301(JP,A)
【文献】特開昭57-208438(JP,A)
【文献】実開平03-070342(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第00611962(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/02
G01N 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出された排ガスの一部を採取して、前記排ガスを希釈してなる希釈排ガス中の粒子状物質を捕捉する捕捉装置であって、
前記希釈排ガスが流れる希釈排ガス流路と、
前記希釈排ガス流路に設けられたフィルタと、
前記粒子状物質を通過させる一対の多孔部材により構成され、前記一対の多孔部材のうち一方の前記多孔部材上に配置された前記フィルタを他方の前記多孔部材で挟み込み、当該フィルタを前記希釈排ガス流路上で保持するものであり、少なくとも一方の前記多孔部材において前記フィルタを設ける位置を決定するための位置決め部を有する、保持部とを備え、
前記フィルタは、電子顕微鏡用のメッシュ状のフィルタであって、前記粒子状物質の大きさよりも大きな孔を有し、当該孔を形成する複数のフィルタ線状要素により、前記希釈排ガス流路を流れる前記粒子状物質の一部を捕捉する、捕捉装置。
【請求項2】
前記位置決め部は、前記一方の多孔部材の表面に設けられた格子状の収容部である、請求項記載の捕捉装置。
【請求項3】
前記位置決め部は、前記一方の多孔部材の表面に設けられた前記フィルタを収容可能な窪みである、請求項記載の捕捉装置。
【請求項4】
前記位置決め部は、前記一方の多孔部材の表面に設けられており、前記フィルタを配置する位置を示す目印である、請求項記載の捕捉装置。
【請求項5】
前記位置決め部は、前記一方の多孔部材の表面に設けられており、前記フィルタを配置する位置を示す目盛りである、請求項記載の捕捉装置。
【請求項6】
前記フィルタは、直径2mm以上4mm以下の円形状をなすものであり、60%以上80%以下の開口率を有する、請求項1乃至のうち何れか一項の捕捉装置。
【請求項7】
前記フィルタにより補足される前記粒子状物質は、排気管内を流れる一次粒子が前記排気管内から大気中に放出されて成長してなる二次粒子を模擬したものである、請求項1乃至のうち何れか一項の捕捉装置。
【請求項8】
内燃機関から排出された排ガスの一部を採取して、前記排ガスを希釈してなる希釈排ガス中の粒子状物質を捕捉する捕捉方法であり、
前記粒子状物質を通過させる一対の多孔部材の一方の多孔部材上に配置したフィルタを他方の多孔部材で挟み込み、当該フィルタを前記希釈排ガスが流れる希釈排ガス流路上で保持し、
前記フィルタにより前記粒子状物質を捕捉する捕捉方法であって、
前記フィルタを挟み込む際に、少なくとも一方の前記多孔部材に設けられた位置決め部により前記フィルタを設ける位置を決定し、
前記フィルタは、電子顕微鏡用のメッシュ状のフィルタであって、前記粒子状物質の大きさよりも大きな孔を有し、当該孔を形成する複数のフィルタ線状要素により、前記希釈排ガス流路を流れる前記粒子状物質の一部を捕捉する、捕捉方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する捕捉装置及び粒子状物質を捕捉する捕捉方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する技術としては、特許文献1に示すように、排気管内に例えばDPF(Diesel Particulate Filter)等のフィルタを配置して、このフィルタに粒子状物質を堆積させて捕集する技術がある。このように堆積させた粒子状物質は、一部が削り取られて電子顕微鏡により観察される。かかる技術により観察される粒子状物質は、一次粒子と称され、排気管内を流れる粒子状物質である。
【0003】
一方、二次粒子と称されるものとして、排気管から放出されて大気中で成長した粒子状物質がある。そして、この二次粒子の成長過程を観察することは、粒子生成メカニズムを解析することに大きく貢献できると考えられている。
【0004】
ここで、排ガスを空気で希釈してなる希釈排ガスの流路に、上記の既存のフィルタを設けることで、空気中で一次粒子が成長してなる模擬二次粒子を堆積させることはできようが、その堆積された模擬二次粒子の一部を削り取るのでは、成長過程を観察するための試料とすることはできない。
なお、大気中に放出されて浮遊している二次粒子を捕捉しようとした場合、そもそも捕捉すること自体が困難であるし、仮に捕捉できたとしても、その二次粒子が例えばどの車両から放出されたものであるかなど、放出源が不明確となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-137445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本願発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであり、排ガスを希釈してなる希釈排ガスに含まれ、二次粒子を模擬した粒子状物質を観察のための試料とできる状態のまま捕捉することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る捕捉装置は、内燃機関から排出された排ガスの一部を採取して、前記排ガスを希釈してなる希釈排ガス中の粒子状物質を捕捉する捕捉装置であって、前記希釈排ガスが流れる希釈排ガス流路と、前記希釈排ガス流路に設けられたフィルタと、前記粒子状物質を通過させる一対の多孔部材により構成され、前記一対の多孔部材のうち一方の前記多孔部材上に配置された前記フィルタを他方の前記多孔部材で挟み込み、当該フィルタを前記希釈排ガス流路上で保持する保持部とを備え、前記フィルタは、電子顕微鏡用のメッシュ状のフィルタであって、前記粒子状物質の大きさよりも大きな孔を有し、当該孔を形成する複数のフィルタ線状要素により前記粒子状物質を捕捉することを特徴とするものである。
【0008】
このように構成された捕捉装置によれば、内燃機関から排出された排ガスの一部を採取して希釈するので、粒子状物質が大気中で成長した状態を模擬することができ、この捕捉装置内で成長した粒子状物質は二次粒子を模擬したものとなる。そして、その粒子状物質を捕捉するフィルタが、電子顕微鏡用のメッシュ状のフィルタであって、粒子状物質の大きさよりも大きな孔を有し、当該孔を形成する複数のフィルタ線状要素により粒子状物質を捕捉するものであるので、粒子状物質を捕捉した後のフィルタを例えばそのまま電子顕微鏡に装着すれば、堆積した粒子状物質をフィルタから削り取る必要がなく、観察のための試料とすることができる。
【0009】
フィルタが例えば希釈排ガス流路内の中心近傍に設けられている場合と、中心から離れた位置に設けられている場合とでは、希釈排ガスの流速の差などに起因して、粒子状物質の観察結果(形状や大きさ等)に差異が生じる可能性がある。
そこで、捕捉する粒子状物質の再現性をもたせるために、フィルタの配置を同じくする必要がある。そのためには、前記保持部は、少なくとも一方の前記多孔部材において前記フィルタを設ける位置を決定するための位置決め部を有することが好ましい。
【0010】
前記位置決め部は、前記一方の多孔部材の表面に設けられた格子状の収容部であることが好ましい。
このような構成であれば、格子状に設定された複数の箇所において、フィルタの配置を同じくすることができる。
【0011】
前記位置決め部は、前記一方の多孔部材の表面に設けられた前記フィルタを収容可能な窪みであることが好ましい。
このような構成であれば、一対の多孔部材の間からフィルタが抜け落ちてしまうことをより確実に防ぐことができる。
【0012】
前記位置決め部は、前記一方の多孔部材の表面に設けられており、前記フィルタを配置する位置を示す目印であることが好ましい。
このような構成であれば、位置決め部を簡単に設けることができる。
【0013】
前記位置決め部は、前記一方の多孔部材の表面に設けられており、前記フィルタを配置する位置を示す目盛りであることが好ましい。
このような構成であれば、フィルタを精度良く同じ位置に配置することができる。
【0014】
フィルタのサイズが大きく、フィルタの孔が大き過ぎると粒子状物質を捕捉することができず、フィルタのサイズが小さく、フィルタの孔が小さ過ぎるとフィルタに粒子状物質が堆積してしまい、電子顕微鏡による観察時に電子線が通過しないことが懸念されることから、前記フィルタが、直径2mm以上4mm以下の円形状をなすものであり、60%以上80%以下の開口率を有するメッシュ状のものであることが好ましい。
これならば、一部の粒子状物質を通過させつつ、一部の粒子状物質がフィルタに付着するようにして捕捉されるので、粒子状物質がフィルタに堆積させることなく捕捉することができる。
【0015】
上述した作用効果がより顕著に発揮される実施態様としては、前記フィルタにより補足される前記粒子状物質は、排気管内を流れる一次粒子が前記排気管内から大気中に放出されて成長してなる二次粒子を模擬したものである場合を挙げることができる。
【0016】
また、本発明に係る排ガス分析方法は、内燃機関から排出された排ガスの一部を採取して、前記排ガスを希釈してなる希釈排ガス中の粒子状物質を捕捉する捕捉方法であり、前記粒子状物質を通過させる一対の多孔部材の一方の多孔部材上に配置したフィルタを他方の多孔部材で挟み込み、当該フィルタを前記希釈排ガス流路上で保持し、前記フィルタにより前記粒子状物質を捕捉する捕捉方法であって、前記フィルタは、電子顕微鏡用のメッシュ状のフィルタであって、前記粒子状物質の大きさよりも大きな孔を有し、当該孔を形成する複数のフィルタ線状要素により前記粒子状物質を捕捉することを特徴とする方法である。
このような捕捉方法によれば、上述した捕捉装置と同様の作用効果を奏し得る。
【発明の効果】
【0017】
このように構成した本発明によれば、排ガスに含まれる粒子状物質が大気に放出された後の二次粒子を模擬した、模擬二次粒子を観察のための試料とできる状態のまま捕捉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の捕捉装置を示す模式図。
図2】同実施形態の捕捉手段の構成を示す模式図。
図3】同実施形態において模擬二次粒子が捕捉されている様子を示すTEM画像。
図4】同実施形態の捕捉手段の構成を示す模式図。
図5】同実施形態の捕捉手段により捕捉した模擬二次粒子のTEM画像。
図6】その他の実施形態の多孔部材の構成を示す模式図。
図7】その他の実施形態の多孔部材の構成を示す模式図。
図8】その他の実施形態の多孔部材の構成を示す模式図。
図9】その他の実施形態の多孔部材の構成を示す模式図。
図10】その他の実施形態の多孔部材の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明に係る捕捉装置の一実施形態について説明する。
【0020】
本実施形態の捕捉装置100は、図示しない内燃機関から排出された排ガスの一部を採取して希釈し、その希釈されてなる希釈排ガス中の粒子状物質を分析するためのものであり、特に排気管内を流れる粒子状物質(以下、一次粒子という)が大気中に放出されて成長した後の粒子状物質(以下、二次粒子という)の例えば成長過程を解析するためのものである。二次粒子は、固定発生源、移動発生源等における燃焼に伴って発生するSOx、NOx、HCl、VOC等のガス状物質が、主として大気中での化学反応により蒸気圧の低い物質に変化して粒子化したものである。
【0021】
具体的にこのものは、図1に示すように、内燃機関の排ガスが導入される排ガス導入路L1と、排ガスを希釈する希釈ガスが流れる希釈ガス流路L2と、排ガス導入路L1及び希釈ガス流路L2とが接続される希釈トンネル10と、希釈トンネル10で生成された希釈排ガスが流れる希釈排ガス流路L3と、希釈排ガス中の粒子状物質を捕捉する捕捉手段20とを具備する。
【0022】
排ガス導入路L1は、例えば図示しない内燃機関から排出された排ガスの一部を分流採取して希釈トンネル10に導くものであり、一端が内燃機関に接続された排気管内に設けられており、他端が希釈トンネル10に接続されている。
【0023】
希釈ガス流路L2は、希釈ガスたる空気を希釈トンネル10に導くものであり、一端が図示しない希釈ガス源に接続されており、他端が希釈トンネル10に接続されている。
【0024】
希釈トンネル10は、排ガスを所定の希釈比で希釈して希釈排ガスを生成するものであり、マイクロトンネルと称されるものである。この希釈トンネル10内では、排ガスが空気で希釈されるので、希釈前の排ガスに含まれる一次粒子が成長して、二次粒子を模擬したもの(以下、模擬二次粒子という)となる。具体的にこの模擬二次粒子は、二次粒子の形状、大きさ、組成等を模擬したものである。
【0025】
希釈排ガス流路L3は、希釈排ガスを捕捉手段20に導くものであり、一端が希釈トンネル10に接続されており、他端が大気解放されている。なお、希釈排ガス流路L3の他端は、種々の排ガス分析計に接続されていても良い。
【0026】
捕捉手段20は、上述した模擬二次粒子を捕捉するものであり、希釈排ガス流路L3に設けられている。
【0027】
然して、この捕捉手段20は、図2に示すように、一対の多孔部材21により構成された保持部21Xと、TEM(透過型電子顕微鏡)等の電子顕微鏡用のメッシュ状のフィルタ22とを備えている。より具体的には、保持部21Xは、一対の多孔部材21のうち一方の多孔部材21上にフィルタ22が配置され、配置されたフィルタ22を他方の多孔部材21で挟み込む。フィルタ22は、2つの多孔部材21により挟み込まれているため、当該フィルタ22を挟み込んだ保持部21Xを希釈排ガス流路L3上に設けた場合でも、多孔部材21上に配置した位置からフィルタ22が移動することなく、当該フィルタ22を最初に配置した位置と同じ位置で模擬二次粒子を捕捉できる。また、フィルタ22は、模擬二次粒子を捕捉した後に電子顕微鏡で観察される際に、例えば、試料ホルダ等に装着されるフィルタである。なお、ここでは一方の多孔部材21の1箇所に1つのフィルタ22を配置し、配置された1つのフィルタ22を他方の多孔部材21で挟みこむ実施態様について説明する。これに対して、一方の多孔部材21における互いに異なる複数個所それぞれに1つのフィルタ22を設けて、複数個所それぞれに配置されたフィルタ22を他方の多孔部材で挟み込んでも良い。このように一方の多孔部材21における互いに異なる複数箇所それぞれに1つのフィルタ22を設けるようにすることで、互いに異なる複数箇所で一挙に模擬二次粒子を捕捉できる。
【0028】
各多孔部材21は、枠体211と、この枠体211の内側に張り巡らされた複数の線状要素212からなる網地とから構成されたメッシュ状のものであり、希釈排ガス流路L3に配置される。網地をなす複数の線状要素212により形成された複数の網目(孔)21aは、上述した模擬二次粒子が通過可能な大きさである。ここでの多孔部材21は、一例として平面視ほぼ真円の形状をなすものを示すが、その形状は、例えば楕円形状または矩形状等の多角形状を含む他の形状に適宜変更して構わない。また、模擬二次粒子が通過可能な複数の孔21のここでの形状は、一例として平面視矩形状をなすものを示すが、その形状は、例えば円形状、楕円形状、多角形状を含む他の形状に適宜変更して構わない。
【0029】
フィルタ22は、模擬二次粒子の大きさよりも大きな孔22aを有し、当該孔22aを形成する複数のフィルタ線状要素222により模擬二次粒子を捕捉するものであり、一対の多孔部材21に挟み込まれた状態で希釈排ガス流路L3に配置される。具体的にこのフィルタ22は、フィルタ枠体221と、この枠内に設けられた複数のフィルタ線状要素222からなる格子部とを有し、所謂グリッドフィルタと称されるものであり、平面視において多孔部材21よりも小さいサイズである。本実施形態におけるフィルタ22は、一例として平面視ほぼ真円の形状をなすものを示すが、その形状は、例えば楕円形または矩形等の多角形を含む他の形状に適宜変更して構わない。
【0030】
格子状をなす複数のフィルタ線状要素222により形成された複数の孔22aは、少なくとも多孔部材21の網目21aよりは小さい。本実施形態のフィルタ22は、複数の孔22aのうちの1つの孔を通過しようとするある模擬二次粒子を、フィルタ線状要素222に付着させることで捕捉するフィルタである(図3(a)、(b)参照)。つまり、本実施形態のフィルタ22は、模擬二次粒子の全てを捕捉することなく、一部のみを引っ掛けて捕捉するものである。ここで、フィルタ22のサイズが大きく、フィルタ22の孔22aが大き過ぎると粒子状物質を捕捉することができず、フィルタ22のサイズが小さく、フィルタ22の孔22aが小さ過ぎるとフィルタに粒子状物質が堆積してしまい、電子顕微鏡による観察時に電子線が通過しないことが懸念される。そこで、フィルタ22は、例えば直径2mm以上4mm以下の円形状をなすもので、60%以上80%以下の開口率を有するものが好ましく、直径3mm、70%以上の開口率を有するものがより好ましい。なお、上述のようにフィルタ22の形状は円形状に限らず他の形状でもよく、同等のサイズを有するフィルタであればよい。また、ここでいう開口率とは、平面視におけるフィルタ枠体221の内側全体に対して複数の孔22aの総面積が占める割合である。また、各孔22aは、例えば矩形状や円形状であり、その一辺或いは直径が例えば数十nm~数百nm程度の大きさである。
【0031】
本実施形態の捕捉手段は、図4に示すように、フィルタ22を一対の多孔部材21で挟み込んだ状態で、これらを一体的に保持するホルダ23をさらに備えている。
【0032】
ここでは、このホルダ23として、希釈ガス流路に設けられた既存のフィルタホルダを利用している。
より具体的に説明すると、排ガスに含まれる粒子状物質の重さを計測する場合、希釈ガス流路に粒子状物質が通過不能なフィルタ(例えば開口率0%のもの)を設けて粒子状物質を捕捉するようにしており、このフィルタを希釈排ガス流路に配置(セット)するためのフィルタホルダが、本実施形態の捕捉手段のホルダ23として利用されている。ただし、既存のフィルタホルダとは別のホルダを利用して捕捉手段20を構成しても構わない。
【0033】
本実施形態のホルダ23は、一対の多孔部材21やフィルタ22を着脱可能に保持するものであり、具体的にはフィルタ22を挟み込んだ一対の多孔部材21を、さらに外側から挟み込んで保持する一対の挟持部材23X、23Yを備えている。
【0034】
各挟持部材23X、23Yは、周壁部231及び底壁部232を有する筒状のものであり、底壁部232には希釈ガスが通過する開口23aが形成されている。ここでの挟持部材23X、23Yは、二重筒を構成するものであり、具体的には、一方の挟持部材23Xの周壁部231の内側に、他方の挟持部材23Yの周壁部231が嵌り込むように構成されている。
【0035】
より具体的に説明すると、各挟持部材23X、23Yの周壁部231は、ここでは円筒形状をなすものであり、一方の挟持部材23Xの周壁部231の内側は、一対の多孔部材21を収容する空間として形成されている。すなわち、一方の挟持部材23Xの周壁部231の内径は、多孔部材21の外径と同じ或いは若干大きくしてある。また、他方の挟持部材23Yの周壁部231の外径は、一方の挟持部材23Xの周壁部231の内径と同じ或いは若干小さくしてある。
【0036】
かかる構成により、一方の挟持部材23Xの周壁部231の内側に一対の多孔部材21を収容して、他方の挟持部材23Yの周壁部231を一方の挟持部材23Xの周壁部231の内側に嵌め込むことで、一方の挟持部材23Xの底壁部232と他方の挟持部材23Yの周壁部231の先端部との間で多孔部材21の枠体211が挟み込まれて、一対の多孔部材21が挟持される。
【0037】
このように、フィルタ22を挟み込んだ一対の多孔部材21を、さらに外側から一対の挟持部材23X、23Yで挟持して、これらを希釈排ガス流路L3に配置することで、希釈排ガス中の模擬二次粒子をフィルタ22に捕捉することができる。
【0038】
このように構成された排ガス分析システム100によれば、希釈排ガス中の模擬二次粒子を電子顕微鏡用の試料ホルダとして兼用されるフィルタ22で捕捉するので、その捕捉された模擬二次粒子をTEM等の電子顕微鏡で観察することで、模擬二次粒子の大きさや形状等を知ることができ、ひいては二次粒子の生成メカニズムの解析に資する。なお、電子顕微鏡により観察された模擬二次粒子は、図5(a)~(c)に示すように、例えば球状の粒子が房のように凝集した形状や数珠のようにつながった形状である。
【0039】
また、フィルタ22が、70%以上の開口率を有するメッシュ状のものであるので、粒子状物質がフィルタ22に引っ掛かるようにして捕捉され、フィルタ22に堆積してしまうことを抑制することができ、電子顕微鏡による観察時に電子線が遮られてしまうことを防ぐことができる。
【0040】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0041】
例えば、フィルタ22としては、格子にカーボン等のフィルム膜を付着させたものを用いても良い。
【0042】
ところで、フィルタ22が例えば希釈排ガス流路内の中心近傍に設けられている場合と、中心から離れた位置に設けられている場合とでは、希釈排ガスの流速の差などに起因して、粒子状物質の観察結果に差異が生じる可能性がある。
したがって、保持部21Xは、少なくとも一方の多孔部材21においてフィルタ22を設ける位置を決めるための構成を有しても良い。位置を決めるための構成を有することで、一方の多孔部材21の表面のある箇所に1つのフィルタ22を設けて模擬二次粒子を捕捉した後に、別のフィルタ22を同じ箇所に設けることができる。これにより、フィルタ22を用いて捕捉する模擬二次粒子の再現性をもたせることができる。
【0043】
フィルタ22を設ける位置を決めるための構成の一例としては、図6に示すように、多孔部材21のほぼ中央に位置決め部213を設けることである。より具体的には、位置決め部213は、一方の多孔部材21の表面に設けられたフィルタ22を収容可能な窪みである。本実施形態における窪みは一方の多孔部材21の表面のほぼ中心の箇所に1つ設けられているが、多孔部材21の表面の複数箇所に設けられても良い。
【0044】
フィルタ22を設ける位置を決めるための構成の他の例としては、図7に示すように、多孔部材21の網地の複数箇所に設けられた位置決め部214である。このように、位置決め部214は、一方の多孔部材21の表面に設けられたフィルタ22を配置する位置を示す目印である。当該目印は、例えば網地の色や形状などを異ならせることで、ユーザ(例えば、観察者)がそれぞれの箇所を識別可能となるものを挙げることができる。なお、図6に示す窪み213を複数箇所に設けるとともに、これらを識別可能にすることで、これらの窪み213を目印214として用いても良い。このように目印214を設けることにより、フィルタ22を同じ位置に配置することが可能となるため、フィルタ22を用いて捕捉する模擬二次粒子の再現性をもたせることができる。
【0045】
さらに、図9に示すように、一方の多孔部材21の表面に格子状の収容部215を位置決め部として設けてもよい。より具体的には、一方の多孔部材21の表面にフィルタ22が収容される大きさに区切った格子状の収容部215を設けてもよい。収容部215は、鉄やセラミック等の材料で構成される多孔部材21の表面上に設けられた複数の区画である。当該収容部215の1つの区画の大きさは、フィルタ22が収容可能な大きさである。図9では、収容部215は、24個の区画を示すものであるが、区画の数は一例であり、1つ以上で他の数であってもよい。
【0046】
また、図10に示すように、一方の多孔部材21の表面に目盛り216を位置決め部として設けてもよい。このように目盛り216を設けることにより、フィルタ22を精度良く同じ位置に配置することが可能となるため、フィルタ22を用いて捕捉する模擬二次粒子の再現性をもたせることができる。
【0047】
また、多孔部材21としては、模擬二次粒子が通過可能な孔21aが形成されるとともに、フィルタ22を挟み込んで保持できるものであれば、必ずしもメッシュ状のものである必要はなく、例えば図8(a)に示すように、枠体211内において線状要素212が簾状に設けられていても良いし、図8(b)に示すように、枠体211内において線状要素212が放射状に設けられていても良い。
【0048】
さらに、前記実施形態では、フィルタ22として、TEM(透過型電子顕微鏡)用のフィルタを挙げて説明した。そして、前記実施形態で説明したような二次粒子を捕捉することが可能であれば、他の電子顕微鏡用のフィルタを用いても良い。
【0049】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0050】
100・・・捕捉装置
L3 ・・・希釈排ガス流路
10 ・・・希釈トンネル
20 ・・・捕捉手段
21 ・・・多孔部材
22 ・・・フィルタ
23 ・・・ホルダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10