(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】κ-カゼイングリコマクロペプチドを含む組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/19 20160101AFI20231024BHJP
【FI】
A23L33/19
(21)【出願番号】P 2020509189
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013166
(87)【国際公開番号】W WO2019189350
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2018067061
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018067059
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018234335
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉置 祥二郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】福留 博文
(72)【発明者】
【氏名】中埜 拓
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-271295(JP,A)
【文献】特開平05-276876(JP,A)
【文献】Foods,2014年,Vol.3,pp.94-109,doi:10.3390/foods3010094
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)pHが4~9である、乳原料を含有する水溶液を調製する工程と、
(B)前記(A)工程の水溶液に炭酸水素塩又は炭酸塩を添加し、又は、炭酸水素塩又
は炭酸塩を水に溶解したものを添加して、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンと、
金属イオンと、を含有する水溶液を得る工程と、
(C)前記(B)工程の水溶液を、分画分子量9,000Da以上300,000Da
以下の膜を用いた膜処理に供する工程と、を含むκ―カゼイングリコマクロペプチドを含
む組成物の製造方法:
ここで、当該製造方法は、pH5.0以上に調整した乳質ホエーを80℃以上の温度で
加熱処理して乳清たんぱく会合物を生成させ、該会合物を膜分離しκ-カゼイングリコマ
クロペプチドを膜透過液に回収する工程を含まず、かつ、乳質ホエーを冷却し、Ca及び
/又はMgを添加後、pHを6~9に調整し、40~60℃で加熱保持後、生成した沈澱
物を除去する工程を含まない。
【請求項2】
前記(C)工程の透過液として、κ―カゼイングリコマクロペプチドを含む組成物を得
ることを特徴とする請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項3】
前記(C)工程より前に、pH4未満の乳原料を含む水溶液をpH4以上に調整する工
程を含む、請求項1又は2に記載の組成物の製造方法。
【請求項4】
前記(C)工程で得られた濃縮液を前記膜処理に再度供し、この処理により再透過液を
得る(D)工程をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物の製造方法。
【請求項5】
前記(C)工程において使用する膜の分画分子量が、30,000Da~100,00
0Daである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、κ-カゼイングリコマクロペプチド(以下、「GMP」ともいう。)を含む組成物の製造方法に関する。本発明は、GMPとα-ラクトアルブミン(以下、「LA」ともいう。)を含む組成物の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
乳中に含まれるシアル酸類の一つであるGMPはカゼイノマクロペプチド(以下、「CMP」ともいう。)とも呼ばれ、牛乳のκカゼインにレンネット又はペプシンを作用させた時に生成するシアル酸結合ペプチドである。GMPは、チーズホエイおよびレンネットカゼインホエイ中に含まれることが、従来から知られている。なお、GMPの分子量は約9,000Daであり、pH4未満ではモノマーで、またpH4以上ではポリマー(分子量50,000Da以上)で存在すると言われている。
母乳中には、牛乳と比較して3~5倍程度のシアル酸類が含まれており、このシアル酸類も乳児の感染防御因子の一つとして機能するものと考えられている。シアル酸類の一つであるGMPもウイルスや細菌に対する感染防御作用や、乳酸菌増殖活性を有することが知られている。またLAは、GMP同様に母乳中に含まれるタンパク質の約3割を占める主要なタンパク質である。LAは、GMP同様に胃粘膜の保護作用等の様々な生理活性機能を有することが知られている。LAは、分子量約14,000Daのタンパク質である。
このことから、母乳代替品、機能性食品等の食品としてシアル酸類であるGMPを利用するための工業的規模での生産が強く望まれている。これまでに乳中のシアル酸類であるGMPを分別する技術として、限外濾過あるいは逆浸透膜、イオン交換樹脂を用いる方法が挙げられる。
【0003】
特許文献1は、(1)GMPを含有する乳質原料物質をpH4未満に調整した後、分画分子量10,000~50,000Daの限外濾過膜処理により得た透過液を得、この透過液を分画分子量50,000Da以下の膜を用いて濃縮することを特徴とするGMPの製造法を開示する。また、特許文献1は、(1)で得た透過液を再度pH4以上に調整した後に分画分子量50,000Da以下の限外濾過膜を用いて濃縮することや、(1)で得たこの透過液を分画分子量10,000Da以下の限外濾過膜を用いて濃縮することにより、GMP含有量の高い組成物を得る方法を開示している。
【0004】
特許文献2は、pH5.0以上に調整した乳質ホエイを80℃以上の温度で加熱処理して乳清タンパク質会合物を生成させ、該会合物をポアサイズ0.5μm以下の精密濾過膜または分画分子量50,000Da以上の限外濾過膜で分離しGMPを膜透過液に回収することを特徴とするGMP含有量の高い組成物の製造方法を開示している。
【0005】
特許文献3は、CMPと少なくとも1種類の追加的なタンパク質とを含んでなり、最大で4のpHを有する、ホエイ由来供給物を提供するステップと、単量体CMPを通過させる限外濾過膜フィルターを使用して、前記ホエイ由来供給物を限外濾過し、それによってCMPに関して富化されたUF透過液とUF残余分とを提供するステップと、前記UF透過液に由来する第1の組成物をカチオン交換材に接触させるステップと、前記カチオン交換材と結合しない前記第1の組成物の画分を収集し、それによって前記CMP含有組成物を得るステップとを含む、カゼイノマクロペプチド含有組成物を製造する方法を開示している。
【0006】
特許文献4はホエイを冷却し、Ca及び/又はMgを添加後にpHを6~9に調整することと、40~60℃で加熱保持後に生成した沈殿物を膜孔径1μm以下の限外濾過膜で処理して除去することと、得られた濾過液のpHを4以上に調整後に膜孔径50,000Da以下の膜で処理して濃縮液を回収することと、濃縮液をpH3.0~5.0に調整後に40~55℃で30~60分加熱保持することと、生成した沈殿物を回収しさらにpHを6~8に調整して沈殿物を溶解することと、必要に応じて濃縮、脱塩、乾燥粉末化することを特徴とするシアル酸類とα―ラクトアルブミン含有量の高い組成物の製造法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第2673828号
【文献】特許第3225080号
【文献】特許第6396309号
【文献】特許第3044487号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の実施例1を利用して、ホエイ蛋白質濃縮物1kg中のタンパク質濃度を80質量%、総タンパク質濃度に対するGMP含量を15質量%と仮定すると、濃縮液の凍結乾燥によって得られた54gのGMPに基づいて、GMPの回収率は45%となる。一方で、実施例2を使用してゴーダチーズホエイ500L中のタンパク質濃度を0.7質量%、総タンパク質濃度に対するGMP含量を15質量%と仮定すると、濃縮、脱塩、凍結乾燥によって得られた5.7gのGMPに基づいて、GMPの回収率は1.1%となり、出発原料がチーズホエイの場合には、回収率が著しく低下するといった課題があった。また、特許文献2には得られたGMP組成物の純度に関する記載はあるものの、回収率に関する記載がなく、不明であった。
【0009】
特許文献3の方法では、得られるGMP組成物の回収率が50%に達するものの、UF膜処理とカチオン交換クロマトグラフィーの両方の処理が必要であり、操作が煩雑かつ目的物を得るまでに相当の時間と労力が必要であった。
【0010】
そのため、操作が簡易でありながら、出発原料がチーズホエイ、ホエイ蛋白質濃縮物のいずれであっても収率の高い、GMPを含む組成物の製造方法が求められていた。
本発明は、操作が簡易でありながら、出発原料がチーズホエイ、ホエイ蛋白質濃縮物のいずれであっても収率の高い、GMPを含む組成物の製造方法を提供することを第一の課題とする。
【0011】
特許文献1~3の開示する技術は、必須となる工程も多く操作が煩雑であり、目的物を得るまでに相当の時間と労力が必要であった。そのため、前記課題を解決することができる従来にない新規な、GMPを含む組成物の製造方法が求められていた。
本発明は、操作が容易で製造時間が短縮された、GMPを含む組成物の製造方法を提供することを第二の課題とする。
【0012】
また特許文献1~3の開示する技術では、LAを得ることは全く開示されておらず、また、目的物を得るまでに多くの工程が必要であった。また、GMP及びLAの両方を回収することを開示した特許文献3、4は、必須となる工程が多く、操作が非常に複雑であり、目的物を得るまでに相当の時間と労力が必要であった。そのため、前記課題を解決することができる従来にない新規な、GMPとLAとを含む組成物の製造方法が求められていた。
本発明は、操作が容易で製造時間が短縮された、GMPとLAとを含む組成物の製造方法を提供することを第三の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[A.第一の実施形態]
GMPの分子量は約9,000Daであり、pH4未満ではモノマーで、またpH4以上ではポリマー(分子量50,000Da以上)で存在すると言われている。これに対して、発明者らが鋭意検討した結果、GMPを含み且つpHが4~9である乳原料の水溶液を調製し、該水溶液中で炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンと、金属イオンと、を生じさせることにより、pHが4以上であるにもかかわらず、分画分子量9,000~50,000Daの膜で処理し得られた透過液からGMPを含む組成物が得られることを見出し、発明を完成させた。具体的には、本発明は以下の構成を含むものである。
[1](A)pHが4~9である、乳原料を含有する水溶液を調製する工程と、(B)前記水溶液に前処理を行い、炭酸(水素)イオンと、金属イオンと、を含有する前処理後の水溶液を得る工程と、(C)前処理後の水溶液を、分画分子量9,000Da以上300,000Da以下の膜を用いた膜処理に供する工程と、を含むGMPを含む組成物の製造方法。
[2](C)工程の透過液として、GMPを含む組成物を得ることを特徴とする[1]に記載の組成物の製造方法。
[3](B)工程と(C)工程の間に、pH4未満の乳原料を含む水溶液をpH4以上に調整する工程を含む、[1]又は[2]に記載の組成物の製造方法。
[4](C)工程で得られた濃縮液を前記膜処理に再度供し、この処理により得られえる再透過液を得る(D)工程をさらに含む、[1]~[3]のいずれか一つに記載の組成物の製造方法。
[5]分画分子量が9,000Daより小さい膜を用いて、前記透過液及び/または再透過液を濃縮する(E)工程をさらに含む、[4]に記載の組成物の製造方法。
[6](C)工程において使用する膜の分画分子量が、30,000Da~100,000Daである、[1]~[5]のいずれか一つに記載の組成物の製造方法。
【0014】
[B.第二の実施形態]
GMPの分子量は約9,000Daであり、pH4未満ではモノマーで、またpH4以上ではポリマー(分子量50,000Da以上)で存在すると言われている。
これに対して、発明者らが鋭意検討した結果、GMPを含み且つpHが4~9である乳原料の水溶液を調製し、該水溶液中で炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを生じさせることにより、pHが4以上であるにもかかわらず、分画分子量9,000~50,000Daの膜で処理し得られた透過液からGMPを含む組成物が得られることを見出し、発明を完成させた。具体的には、本発明は以下の構成を含むものである。
(1)(A)乳原料を含むpHが4以上9以下の水溶液を調製する工程と、
(B)前記水溶液中に炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを生じさせる工程と、
(C)前記炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを生じさせた水溶液を分画分子量9,000~50,000Daの膜を用いた膜処理に供する工程と、
を含むことを特徴とするGMPを含む組成物の製造方法、
(2)(D)前記工程(C)の透過液として、GMPを含む組成物を得る工程をさらに含む、(1)に記載の組成物の製造方法、
(3)前記工程(C)より前に、乳原料を含む水溶液のpHを4未満から4以上に調整する工程を含まない、(1)又は(2)に記載の組成物の製造方法、
(4)(E)前記工程(C)で得られた濃縮液を前記膜処理に再度供し、再透過液を得る工程をさらに含む、(1)~(3)のいずれかに記載の組成物の製造方法、
(5)(F)分画分子量が9,000より小さい膜を用いて、前記透過液及び/又は再透過液を濃縮する工程をさらに含む、(1)~(4)のいずれかに記載の組成物の製造方法、並びに
(6)前記工程(C)において使用する膜の分画分子量が、30,000~50,000Daである、(1)~(5)のいずれかに記載の組成物の製造方法。
[C.第三の実施形態]
発明者らが鋭意検討した結果、GMPとLAを含み且つpHが4~9である水溶液を調製し、該水溶液中で炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンと、金属イオンと、を生じさせることにより、分画分子量300,000Da以下の膜を用いた膜処理の透過液からGMPと、LAと、を含む組成物が得られることを見出し、発明を完成させた。具体的には、本発明は以下の構成を含むものである。
(1)(A)乳原料を含むpHが4以上9以下の水溶液を調製する工程と、
(B)前記水溶液中に炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを生じさせる工程と、
(C)金属イオンを生じさせる工程と、
(D)前記炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンと、金属イオンと、を生じさせた水溶液を分画分子量9,000~300,000Daの膜を用いた膜処理に供する工程と、
を含むことを特徴とするGMPと、LAと、を含む組成物の製造方法、
(2)(E)前記工程(D)の透過液として、GMPとLAとを含む組成物を得る工程
をさらに含む、(1)に記載の組成物の製造方法、
(3)前記工程(D)より前に、乳原料を含む水溶液のpHを4未満から4以上に調整する工程を含まない、(1)又は(2)に記載の組成物の製造方法、
(4)(F)前記工程(D)で得られた濃縮液を前記膜処理に再度供し、再透過液を得る工程をさらに含む、(1)~(3)のいずれかに記載の組成物の製造方法、並びに
(5)(G)分画分子量が9,000より小さい膜を用いて、前記透過液及び/又は再透過液を濃縮する工程をさらに含む、(1)~(4)のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
第一の実施形態に係る発明は、従来にない新規なGMPを含む組成物の製造方法を提供するものである。本発明によれば、操作が簡易でありながら、出発原料がチーズホエイ、ホエイ蛋白質濃縮物のいずれであっても収率の高い、GMPを含む組成物の製造方法が提供される。
【0016】
第二の実施形態に係る発明は、前記課題を解決することができる従来にない新規な、GMPを含む組成物の製造方法を提供するものである。本発明によれば、簡便な手法により、GMPを高い収率で回収することが可能である。
【0017】
第三の実施形態に係る発明は、前記課題を解決することができる従来にない新規な、GMPと、LAと、を含む組成物の製造方法を提供するものである。本発明によれば、簡便な手法により、GMPとLAとを高い収率で回収することが可能である。GMPとLAとを高収率で同時に、少ない工程数で回収可能な方法は、未だ報告がない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1はGMPを含む組成物の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第一、第二、第三の実施形態を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
[A.第一の実施形態]
第一の実施形態に係る組成物の製造方法に用いる原材料について説明する。
【0020】
(乳原料)
シアル酸類であるGMPは、牛乳、山羊乳、羊乳等の乳類からチーズ又はレンネットカゼインを製造する際に副生されるホエイに含まれている。よって、実施の形態に係る組成物の製造方法では、このようなGMPを含有する乳原料を用いればよく、チーズホエイ、レンネットカゼインホエイ、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC)、ホエイ蛋白質単離物(WPI)、脱塩したチーズホエイ粉、無脱塩のチーズホエイ粉等を例示することができる。なお、LAについてもGMPと同様の材料を用いることができる。
実施形態に係るGMPを含む組成物の製造方法では、上記した乳原料の水溶液を調製する。このときの固形分濃度は好ましくは0.001質量%以上であれば良く、より好ましくは0.001質量%以上35質量%以下の濃度であれば良く、0.01質量%以上20質量%以下が最も好ましい。
【0021】
(pH調整)
実施形態に係るGMPを含む組成物の製造方法では、乳原料を含む水溶液のpHが4~9の範囲にあることが好ましい。このpH条件と、後述する、炭酸(水素)イオン及び金属イオンの条件と、透過膜の条件とを満たすことで、濃縮処理工程における透過液と濃縮液の選択性が高まるからである。
【0022】
乳原料を含む水溶液のpHが4~9の範囲内である場合はpHを調整する必要はないが、乳原料を含む水溶液のpHが4未満、あるいは9を超える場合はpHが4~9となるように調整してもよい。しかし、GMPの化学構造又は安定性を保持する観点から、このようなpH調整工程を含まないことが好ましい。例えば、本発明のGMPを含む組成物の製造方法では、乳原料を含む水溶液のpHを一旦4未満に調整し、この水溶液を再度4以上に調整する工程を含まないことが好ましい。同様に、乳原料を含む水溶液のpHを一旦9より上に調整し、この水溶液を再度9以下に調整する工程を含まないことが好ましい。
【0023】
乳原料を含みかつpHが4~9である水溶液中に炭酸(水素)イオンと、金属イオンとを生じさせた後、pHが4以下となった場合は、pHを4以上に再調整することが好ましい。
【0024】
pHの調整は食品、経口摂取する医薬品の製造に用いることができるものであればどのようなものでも用いることができる。pHを9より上から9以下に調整するための試薬として、塩酸、硫酸、乳酸等の一つ以上の酸の使用を例示することができ、pHを4未満から4以上に調整するための試薬として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の一つ以上の塩基の使用を例示することができる。但し、炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを生じさせるものを用いてpHを9より上から9以下に調整をすると、得られる組成物中のGMP量が低下するため好ましくない。
上記したとおり、pHは4~9であればよく、4より大きく9以下であることが好ましく、pH4.5~8.5がより好ましく、pH5.0~8.5がさらに好ましく、pH5.5~8.5がさらに好ましく、pH6.0~8.5が最も好ましい。
【0025】
(炭酸水素イオン及び/または炭酸イオン)
実施形態に係るGMPを含む組成物の製造方法では、乳原料を含み且つpHが4~9である水溶液中に炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを生じさせる。炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンは、乳原料を含み且つpHが4~9である水溶液の調製と同時に生じさせてもよいが、炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンの消失を防止するために、調製後に発生させることが好ましい。
なお、本明細書および特許請求の範囲における、「炭酸(水素)イオン」の用語には、炭酸イオンもしくは炭酸水素イオン、またはその両者が含まれる。
炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンは、水溶液中で炭酸イオン及び/または炭酸水素イオンを生じるものであればどのような成分や方法を用いて生成させてもよく、以下に例示した1種類あるいは複数の化合物及び/または方法を組み合わせて炭酸イオン及び/または炭酸水素イオンを生じさせればよい。
気体状の二酸化炭素の吹き込み、液状あるいは固体状の二酸化炭素の添加といった二酸化炭素を添加する方法、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素アンモニウムなどの炭酸水素塩を添加する方法や、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩を添加する方法等が例示できる。炭酸水素塩や炭酸塩を添加する場合、これらの塩を水に溶解して炭酸イオン及び/または炭酸水素イオンを発生させた水溶液を、乳原料を含む水溶液中に加えてもよく、乳原料を含む水溶液中に炭酸水素塩や炭酸塩を直接投入してもよい。
【0026】
実施形態に係るGMPを含む組成物の製造方法では、GMPを含有する乳原料を含むpH4~9の溶液を調製し、該水溶液中に炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを溶液中に生じさせる。溶液中の炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンの濃度は、0.001質量%以上、5質量%以下であることができる。具体的な範囲としては、0.001~5質量%、0.0025~3質量%、0.005~2質量%、0.0075~2質量%、0.01~2質量%、0.025~2質量%、又は0.05~2質量%であることができる。
【0027】
(金属イオン)
実施形態に用いる軽金属塩及び/または遷移金属塩について説明する。軽金属塩及び/または遷移金属塩は、軽金属あるいは遷移金属の1価から3価の陽イオンを含むものであればどのようなものでもよく、1種類又は複数の金属イオンを用いることができる。軽金属塩及び/または遷移金属塩に含まれる軽金属イオン及び/または遷移金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛などが挙げられるが、食品やヒト中に存在するナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛などを用いることが好ましい。軽金属塩及び/または遷移金属塩の種類としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、乳酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩などが挙げられる。
【0028】
これらの金属イオン源として、軽金属及び/または遷移金属の無機塩や有機塩、乳由来のミネラル素材やWPI及び/またはWPCの製造時に生じるホエイミネラルを用いることができる。また、チーズホエイ、レンネットカゼインホエイを原料として使用する場合や、酸ホエイにGMPを含む原料を添加した原料を使用する場合、分画分子量9,000より小さい分画分子量を有する限外濾過膜等による前処理でGMPを調整する際に得られるホエイミネラルを含む透過液を用いても良い。
軽金属塩及び/または遷移金属塩を添加する場合、これらの塩を溶解することにより金属イオンを発生させた水溶液を、乳原料を含む水溶液中に加えてもよく、乳原料を含む水溶液中に直接軽金属塩及び/または炭酸塩を添加することにより、炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンと金属イオンとを同時に発生させることもできる。乳原料を含む水溶液に金属イオンを発生させる場合で、乳原料を含み且つpHが4~9に調整した水溶液に炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンと同時に金属イオンを生じさせても良いが、同時に発生させない場合は、炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを発生させた後に、金属イオンを発生させることが好ましい。
【0029】
溶液中の金属イオンの下限は、具体的には、0.0001質量%以上、0.00025質量%以上、0.0005質量%以上、0.00075%質量%以上、又は0.001質量%以上であることができる。溶液中の金属イオンの濃度の上限は、5質量%以下、3質量%以下、又は2質量%以下であることができる。具体的な範囲としては、0.0001~5質量%、0.00025~3質量%、0.0005~2質量%、0.00075~2質量%、又は0.001~2質量%であることができる。
【0030】
(分離膜)
実施形態に係るGMPを含む組成物の製造方法では、乳原料を含み且つpHが4~9である水溶液中に炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンと、軽金属塩及び/または遷移金属塩と、を生じさせたものを膜処理に供する。膜処理に用いる膜は分画分子量が9,000~300,000Daであればどのようなものでも用いることができるが、10,000~300,000Daが好ましく、20,000~100,000Daがより好ましく、30,000~100,000Daが最も好ましい。
【0031】
膜の材質は、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、4フッ化エチレン、セラミックや、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリアミド等の親水性の膜、あるいは荷電膜を例示することができる。
【0032】
(膜処理方法)
実施形態に係るGMPを含む組成物の製造方法に用いる膜処理法は、食品や経口摂取する医薬品の処理、製造等で一般的に用いられている方法であればどのようなものでもよく、クロスフロー方式での濾過処理、ダイアフィルトレーション等を例示できる。この膜処理における透過液を、GMPを含む組成物として得ることができる。なお、膜処理中の溶液の温度調整は不要であるが、微生物の繁殖を考慮して0℃以上15℃以下とすることが好ましい。
【0033】
(GMPを含む組成物の製造方法の一態様)
(フローチャート)
図1はGMPを含む組成物の製造方法のフローチャートである。GMPを含む組成物の製造方法について
図1のフローチャートを用いて説明する。なお、説明には
図1の方法例を用いるが、本発明はこの方法例に限定されるものではない。
【0034】
(1)乳原料を含む水溶液の前処理(ステップ1)
乳原料を水に溶解させGMPを含む水溶液を調製する。
GMPを含む水溶液は、GMPを含む水溶液のpH調整、及びGMPを含む水溶液中に炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを生じさせる前に、分画分子量9,000Daより小さい分画分子量を有する限外濾過膜等による前処理でGMPの濃度を調整しておくことが好ましい。
また、脂肪分、不溶物等をクリームセパレーター、クラリファイヤー等の前処理を用いて除いておくことが好ましい。乳原料やGMPを含む水溶液を、殺菌を目的とした加熱処理をすることも可能である。
【0035】
(2)乳原料を含む水溶液の濃縮処理(ステップ2)
GMPを含む水溶液の濃縮処理を行う(濃縮処理A)。これにより、GMPを含む透過液(GMP含有透過液)と、濃縮液(濃縮液1)と、が得られる。濃縮処理に用いる膜は分画分子量が9,000~300,000Daであればどのようなものでも用いることができるが、10,000~300,000Daが好ましく、20,000~100,000Daがより好ましく、30,000~100,000Daが最も好ましい。
【0036】
(3)濃縮液のダイアフィルトレーション処理(ステップ3)
GMPの収量を向上させる方法のひとつに、濃縮液1のダイアフィルトレーション(以下「DF」ともいう。)処理がある。
濃縮液1に水などを加えながら膜処理をおこなうDF処理によって、濃縮液1に残存するGMPを透過液(GMP含有透過液2)から回収できる。これを繰り返して再透過液(GMP含有透過液2)からできるだけGMPを回収することが好ましい。
濃縮液に対する加水には、濾過水、イオン交換水、蒸留水、超純水、GMPを含む透過液を膜処理で濃縮する際に得られた透過液、pHやイオン強度を調整した溶液、又はこれらを混合したもの等を使用できる。
【0037】
(4)GMP含有透過液の濃縮及び/または脱塩処理(ステップ4、5)
膜処理の透過液として得られるGMPを含む組成物(GMP含有透過液1、GMP含有透過液2)には、目的とするGMP以外に、乳糖やミネラルが含まれているため、分画分子量9,000Daより小さい分画分子量を有する限外濾過膜を用いて濃縮、脱塩すること、すなわち乳糖やミネラルを除去することが可能である。これにより、組成物中におけるGMP含量をより高めることが可能である。この濃縮及び/または脱塩用の限外濾過膜の分画分子量は、好ましくは5,000Da以下である。
【0038】
(5)GMPを含む組成物の噴霧乾燥及び/または凍結乾燥(ステップ6)
さらに、噴霧乾燥及び/または凍結乾燥等の手段によって水分を減らしたGMPを含む組成物を得ることができる。
【0039】
(GMPを含む組成物のGMP含量測定方法)
処理に使用した原料に含まれるGMP含量および処理の結果得られたGMPを含む組成物に含まれるGMP含量はウレア-SDS電気泳動法を用いて測定した。
【0040】
[実施例A]
以下、第一の実施形態に係る発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1を参照しながら説明していく。
【0041】
(実施例A1):チーズホエイからのGMPを含む組成物の調製
ステップ1:チェダーチーズホエイ40kgを75℃達温殺菌後にクラリファイヤーにかけ、不溶物を除いた。不溶物を除いた後、分画分子量5,000Daの限外濾過膜を使用してチェダーチーズホエイを4倍濃縮し10kgの濃縮液と30kgの透過液を得た。
このチェダーチーズホエイ濃縮液10kgに対して炭酸水素ナトリウムを添加し、よく攪拌した。その後、透過液2.5kgを加え、炭酸水素ナトリウム濃度0.42質量%の脱塩チェダーチーズホエイを12.5kg調製した。0.42質量%炭酸水素ナトリウム-脱塩チェダーチーズホエイのpHは8.4であった。
【0042】
ステップ2:ステップ1で得られた水溶液を、濾過膜(ポリスルフォン素材、分画分子量50,000Da、膜面積0.2m2を用いてクロスフロー方式で濾過処理を行なった。濾過処理の条件は温度10℃、平均運転圧力0.2MPaであった。この処理により濃縮液6.25kgと透過液6.25kg(GMPを含む組成物)を得た。得られた透過液のpHは7.5であった。
【0043】
ステップ3:ステップ2で得られた濃縮液6.25kgに対してDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件はステップ2の記載と同じである。再透過液(GMPを含む組成物)が18.75kgとなった時点でDF処理を終了した。
【0044】
ステップ4:ステップ2、3で得られた、透過液及び再透過液の合計25kg(pH7.6)を濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量5,000Da、膜面積0.33m2を用いてクロスフロー方式で濃縮処理を行なった。処理条件は温度10℃、平均運転圧力0.4MPaであった。この処理により濃縮液5kg(GMPを含む組成物)と透過液20kgを得た。
【0045】
ステップ5:続いて、ステップ4で得られたGMPを含む濃縮液5kgのDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件はステップ4と同じである。DF処理は透過液が10kgとなった時点で終了した。
【0046】
ステップ6:DF処理後のGMPを含む濃縮液5kgを、凍結乾燥処理し、粉末状のGMPを75g得た。乾燥粉末状のGMPの含有率は固形分あたり37質量%であった。使用した原料からのGMPの回収率は50質量%であった。
【0047】
(実施例A2):ホエイタンパク質精製物(WPI)およびホエイミネラル素材からのGMPを含む組成物の調製
ステップ1:WPIとしてチーズホエイ由来のProvon190(Glanbia社)を用いて8質量%WPI水溶液、ホエイミネラル素材としてFondlacSL(Meggle社)を用いて2質量%ホエイミネラル水溶液を調整した。FondlacSLの灰分分析値は100gあたり、Kが5024mg、Naが1704mg、Mgが252mg、Caが1044mgであった。また、濃度が1.68質量%となるようにイオン交換水に炭酸水素ナトリウムを加えた炭酸水素ナトリウム水溶液を調製した。
次に、1.68質量%炭酸水素ナトリウム水溶液3.75kgを8質量%WPI水溶液3.75kgに加えよく攪拌した。その後、2質量%ホエイミネラル水溶液7.5kgを加え、15kgの2質量%WPI-0.42質量%炭酸水素Na-1質量%ホエイミネラル水溶液を調製した。2質量%WPI-0.42質量%炭酸水素Na-1質量%ホエイミネラル水溶液のpHは8.2であった。
【0048】
ステップ2:この水溶液を、濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量50,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濾過処理を行なった。濾過処理の条件は温度10℃、平均運転圧力0.2MPaであった。この処理により濃縮液5kgと透過液10kg(GMPを含む組成物)を得た。得られた透過液のpHは7.5であった。
【0049】
ステップ3:ステップ2で得られた濃縮液5kgに対してDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件はステップ2の記載と同じである。再透過液(GMPを含む組成物)が15kgとなった時点でDF処理を終了した。
【0050】
ステップ4:ステップ2、3で得られた、透過液及び再透過液の合計25kg(pH7.5)を濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量5,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濃縮処理を行なった。処理条件は温度10℃、平均運転圧力0.4MPaであった。この処理により濃縮液5kg(GMPを含む組成物)と透過液20kgを得た。
【0051】
ステップ5:続いて、ステップ4で得られたGMPを含む濃縮液のDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件はステップ4と同じである。DF処理は透過液が15kgとなった時点で終了した。
【0052】
ステップ6:DF処理後のGMPを含む濃縮液5kgを、凍結乾燥処理し、粉末状のGMPを含む組成物を86g得た。乾燥粉末状のGMPの含有率は固形分あたり36質量%であった。使用した原料からのGMPの回収率は50質量%であった。
【0053】
(実施例A3):ホエイタンパク質精製物(WPI)および硫酸銅からのGMPを含む組成物の調製
ステップ1:WPIとしてチーズホエイ由来のProvon190(Glanbia社)を用いて、8質量%WPI水溶液を調整した。次に、濃度が3.36質量%となるようにイオン交換水に炭酸水素ナトリウムを加えた炭酸水素ナトリウム水溶液を調製した。さらに、濃度が0.12質量%となるようにイオン交換水に硫酸銅(II)五水和物(関東化学社)を加えた硫酸銅(II)五水和物水溶液を調整した。8質量%WPI水溶液3.75kgに3.36質量%炭酸水素Na水溶液3.75kgを加えよく攪拌した。その後、硫酸銅水溶液7.5kgを加え、15kgの2質量%WPI-0.84質量%炭酸水素Na-0.06質量%硫酸銅水溶液を調製した。2質量%WPI-0.84質量%炭酸水素Na-0.06質量%硫酸銅水溶液のpHは8であった。
【0054】
ステップ2:この水溶液を、濾過膜(ポリスルフォン素材、分画分子量100,000Da、膜面積0.2m2)を用いてクロスフロー方式で濾過処理を行なった。濾過処理の条件は温度10℃、平均運転圧力0.2MPaであった。この処理により濃縮液5kgと透過液10kg(GMPを含む組成物)を得た。
【0055】
ステップ3:ステップ2で得られた濃縮液5kgに対してDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件はステップ2の記載と同じである。再透過液(GMPを含む組成物)が40kgとなった時点でDF処理を終了した。
【0056】
ステップ4:ステップ2,3で得られた、透過液及び再透過液50kg(pH7.3)を濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量5,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濃縮処理を行なった。処理条件は温度10℃、平均運転圧力0.4MPaであった。この処理により濃縮液5kg(GMPを含む組成物)と透過液45kgを得た。
【0057】
ステップ5:続いて、ステップ4で得られたGMPを含む濃縮液5kgのDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件はステップ4と同じである。DF処理は透過液が10kgとなった時点で終了した。
【0058】
ステップ6:DF処理後のGMPを含む濃縮液5kgを、凍結乾燥処理し、粉末状のGMPを含む組成物を42g得た。乾燥粉末状のGMPの含有率は固形分あたり40質量%であった。使用した原料からのGMPの回収率は31質量%であった。
【0059】
(実施例A4):ホエイタンパク質精製物(WPI)および塩化鉄からのGMPを含む組成物の調製
ステップ1:WPIとしてチーズホエイ由来のProvon190(Glanbia社)を用いて、8質量%WPI水溶液を調整した。次に、濃度が3.36質量%となるようにイオン交換水に炭酸水素ナトリウムを加えた炭酸水素ナトリウム水溶液を調製した。さらに、濃度が0.14質量%となるようにイオン交換水に塩化鉄(III)六水和物(純正化学社)を加えた塩化鉄(III)六水和物水溶液を調整した。8質量%WPI水溶液3.75kgに3.36質量%炭酸水素Na水溶液3.75kgを加えよく攪拌した。その後、塩化鉄水溶液7.5kgを加え、15kgの2質量%WPI-0.84質量%炭酸水素Na-0.07質量%塩化鉄水溶液を調製した。2質量%WPI-0.84質量%炭酸水素Na-0.07質量%塩化鉄水溶液のpHは7.8であった。
【0060】
ステップ2:この水溶液を、濾過膜(ポリスルフォン素材、分画分子量100,000Da、膜面積0.2m2)を用いてクロスフロー方式で濾過処理を行なった。濾過処理の条件は温度10℃、平均運転圧力0.2MPaであった。この処理により濃縮液5kgと透過液10kg(GMPを含む組成物)を得た。
【0061】
ステップ3:ステップ2で得られた濃縮液5kgに対してDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件はステップ2の記載と同じである。再透過液(GMPを含む組成物)が30kgとなった時点でDF処理を終了した。
【0062】
ステップ4:ステップ2,3で得られた、透過液及び再透過液40kg(pH7.3)を濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量5,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濃縮処理を行なった。処理条件は温度10℃、平均運転圧力0.4MPaであった。この処理により濃縮液5kg(GMPを含む組成物)と透過液35kgを得た。
【0063】
ステップ5:続いて、ステップ4で得られたGMPを含む濃縮液5kgのDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件はステップ4と同じである。DF処理は透過液が15kgとなった時点で終了した。
【0064】
ステップ6:DF処理後のGMPを含む濃縮液5kgを、凍結乾燥処理し、粉末状のGMPを含む組成物を71g得た。乾燥粉末状のGMPの含有率は固形分あたり28質量%であった。使用した原料からのGMPの回収率は37質量%であった。
【0065】
[B.第二の実施形態]
本発明の第二の実施形態について、上述の第一の実施態様との相違点を中心に説明する。
【0066】
(pH調整)
実施形態に係るGMPを含む組成物の製造方法では、乳原料を含む水溶液のpHを4~9の範囲外から4~9の範囲内に調整する工程を含むことができるが、GMPの化学構造又は安定性を保持する観点から、このような工程を含まないことが好ましい。例えば、本発明のGMPを含む組成物の製造方法では、乳原料を含む水溶液のpHを一旦4未満に調整し、この水溶液を再度4以上に調整する工程を含まないことが好ましい。同様に、乳原料を含む水溶液のpHを一旦9より上に調整し、この水溶液を再度9以下に調整する工程を含まないことが好ましい。
【0067】
実施形態に係るGMPを含む組成物の製造方法では、水溶液のpHが4~9の範囲内である場合はpHを4~9の範囲内に調整する必要はない。しかし、pHが4未満、あるいは9を超える場合はpHが4~9となるよう調整する。pHの調整は食品、経口摂取する医薬品の製造に用いることができるものであればどのようなものでも用いることができる。pHを9より上から9以下に調整するための試薬として、塩酸、硫酸、乳酸等の一つ以上の使用を例示することができ、pHを4未満から4以上に調整するための試薬として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の一つ以上の使用を例示することができる。しかしながら、炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを生じさせるものは、これらを用いてpH調整をすると、得られる組成物中のGMP量が低下するため好ましくない。
上記したとおり、pHは4~9であればよく、4より大きく9以下であることが好ましく、pH4.5~8.5がより好ましく、pH5~8がさらに好ましく、pH5.5~8がさらに好ましく、pH6~8が最も好ましい。
【0068】
実施形態に係るGMPを含む組成物の製造方法では、固形分を含むpH4~9の溶液を調製し、該水溶液中に炭酸水素イオン及び/又は炭酸イオンを溶液中に生じさせる。このときの溶液中の炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンの濃度は、0.001重量%以上35重量%以下であれば良い。
【0069】
溶液中の炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンの濃度は、具体的には、0.001重量%以上、5重量%以下であることができる。具体的な範囲としては、0.001~5重量%、0.0025~3重量%、0.005~2重量%、0.0075~2重量%、0.01~2重量%、0.025~2重量%、又は0.05~2重量%であることができる。
【0070】
(分離膜)
実施形態に係るGMPを含む組成物の製造方法では、乳原料を含み且つpHが4~9である水溶液中に炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを生じさせたものを膜処理に供する。膜処理に用いる膜は分画分子量が9,000~50,000Daであればどのようなものでも用いることができるが、10,000~50,000Daが好ましく、20,000~50,000Daがより好ましく、30,000~50,000Daが最も好ましい。
膜の材質は、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、4フッ化エチレン、セラミック等を例示することができ、歩留りを上げるためには、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリアミド等の親水性の膜、あるいは荷電膜を使用することが好ましい。
【0071】
(GMPを含む組成物の製造方法の一態様)
(1)ダイアフィルトレーション(DF)処理方法
GMPを得るため、GMPを含む原料から膜処理においてGMPを含む透過液を得る際に、可能な限り再透過液を得ることが歩留まり向上のために好ましい。具体的には、工程(C)において生じた濃縮液に加水し再度限外濾過したり、これを繰り返して再透過液を得ることが更に好ましい。濃縮液への加水は、濾過水、イオン交換水、蒸留水、超純水、GMPを含む透過液を膜処理で濃縮する際に得られた透過液、pHやイオン強度を調整した溶液、又はこれらを混合したものを使用できる。
【0072】
(2)乳原料を含む水溶液の前処理
乳原料を含む水溶液は、水溶液のpH調整、及び水溶液中に炭酸水素イオン及び/又は炭酸イオンを生じさせる前に、分画分子量9,000Daより小さい分画分子量を有する限外濾過膜等による前処理でGMPの濃度を調整しておくことが好ましい。
また、原料中の脂肪分、不溶物等をクリームセパレーター、クラリファイヤー等の前処理を用いて除いておくことが好ましい。また、これらの原料に対して殺菌を目的とした加熱処理をすることも可能である。
【0073】
(3)工程(C)後の濃縮及び/又は脱塩
膜処理の透過液として得られるGMPを含む組成物には、目的とするGMP以外に、乳糖やミネラルが含まれているため、分画分子量9,000Daより小さい分画分子量を有する限外濾過膜を用いて濃縮、脱塩すること、すなわち乳糖やミネラルを除去することが可能である。これにより、GMP含量をより高めることが可能である。この濃縮及び/又は脱塩用の限外濾過膜の分画分子量は、好ましくは5,000Da以下である。
【0074】
(4)GMPを含む組成物の噴霧乾燥及び/又は凍結乾燥
さらに、噴霧乾燥及び/又は凍結乾燥等の手段によって水分を減らしたGMPを含む組成物を得ることができる。
【0075】
(5)GMPを含む組成物のGMP含量測定方法
処理に使用した原料に含まれるGMP含量および処理の結果得られたGMPを含む組成物に含まれるGMP含量はウレア-SDS電気泳動法を用いて測定した。
【0076】
第二の実施形態には、金属イオンが含まれないことが好ましい。
【0077】
[実施例B]
以下、第二の実施形態に係る発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例B1):チーズホエイからのGMPを含む組成物の調製
チェダーチーズホエイ44Lを75℃達温殺菌後にクラリファイヤーにかけ、不溶物を除いた。不溶物を除いた後、分画分子量5,000Daの限外濾過膜を使用してチェダーチーズホエイを2倍濃縮し、20Lの濃縮液と20Lの透過液を得た。このチェダーチーズホエイ濃縮液20Lに対して炭酸水素カリウム水溶液20Lを加え、炭酸水素カリウムの濃度0.2質量%のチェダーチーズホエイを40L調製した。
【0078】
この水溶液を、濾過膜(ポリサルフォン素材、分画分子量30,000Da、膜面積0.2m2)を用いてクロスフロー方式で濾過処理を行なった。濾過処理の条件は温度10℃、平均運転圧力0.2MPaであった。この処理により濃縮液5kgと透過液35kg(GMPを含む組成物)を得た。得られた透過液のpHは7.3であった。
【0079】
この透過液35kgを濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量5,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濃縮処理を行なった。処理条件は温度10℃、平均運転圧力0.4MPaであった。この処理により濃縮液5kg(GMPを含む組成物)と透過液30kgを得た。
【0080】
続いて、前段落で得られたGMPを含む濃縮液5kgのDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件は前段落と同じである。DF処理は透過液が10kgとなった時点で終了した。
【0081】
DF処理後のGMPを含む濃縮液5kgを、凍結乾燥処理し、粉末状のGMPを32g得た。
乾燥粉末状のGMPの含有率は固形分あたり39質量%であった。使用した原料からのGMPの回収率は19質量%であった。
【0082】
(実施例B2):ホエイタンパク質精製物(WPI)からのGMPを含む組成物の調製
WPIとしてチーズホエイ由来のProvon190(Glanbia社)を用いて4%WPI水溶液を調整した。濃度が0.33質量%となるようにイオン交換水に炭酸水素ナトリウムを加えた炭酸水素ナトリウム水溶液を調製した。0.33質量%炭酸水素ナトリウム水溶液7.5kgを4%WPI水溶液7.5kgに加えよく攪拌し、15kgの2%WPI-0.16質量%炭酸水素Na水溶液を調製した。2%WPI-0.16質量%炭酸水素Na水溶液のpHは7.2であった。
【0083】
この水溶液を、濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量50,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濾過処理を行なった。濾過処理の条件は温度10℃、平均運転圧力0.2MPaであった。この処理により濃縮液5kgと透過液10kg(GMPを含む組成物)を得た。得られた透過液のpHは7.3であった。
【0084】
この透過液10kgを濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量5,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濃縮処理を行なった。処理条件は温度10℃、平均運転圧力0.4MPaであった。この処理により濃縮液2kg(GMPを含む組成物)と透過液8kgを得た。
【0085】
続いて、前段落で得られたGMPを含む濃縮液のDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件は前段落と同じである。DF処理は透過液が18kgとなった時点で終了した。得られたGMPを含む濃縮液は2kgであった。
【0086】
DF処理後のGMPを含む濃縮液2kgを、凍結乾燥処理し、粉末状のGMPを含む組成物を44g得た。
乾燥粉末状のGMPの含有率は固形分あたり30質量%であった。使用した原料からのGMPの回収率は22質量%であった。
【0087】
(実施例B3)ホエイタンパク質濃縮物(WPC)からのGMPを含む組成物の調製
WPCとしてチーズホエイ由来のWPC80(ザクセンミルヒ社)を用いて6%WPC水溶液を調整した。次に、濃度が0.33質量%となるようにイオン交換水に炭酸水素ナトリウムを加えた炭酸水素ナトリウム水溶液を調製した。6%WPC80水溶液7.5kgに0.33質量%炭酸水素Na水溶液7.5kgを加えよく攪拌し、15kgの3%WPC-0.16質量%炭酸水素Na水溶液を調製した。6%WPC水溶液のpHは6.7、3%WPC-0.16質量%炭酸水素Na水溶液のpHは7.2であった。
【0088】
この水溶液を、濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量30,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濾過処理を行なった。濾過処理の条件は温度10℃、平均運転圧力0.2MPaであった。この処理により濃縮液5kgと透過液10kg(GMPを含む組成物)を得た。得られた透過液のpHは7.3であった。
【0089】
前段落で得られた濃縮液5kgに対してDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件は前段落の記載と同じである。再透過液(GMPを含む組成物が15kgとなった時点でDF処理を終了した。
【0090】
前々段落と前段落で得られた、透過液及び再透過液25kgを濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量5,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濃縮処理を行なった。処理条件は温度10℃、平均運転圧力0.4MPaであった。この処理により濃縮液2kg(GMPを含む組成物)と透過液23kgを得た。
【0091】
続いて、前段落で得られたGMPを含む濃縮液のDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件は前段落と同じである。DF処理は透過液が6kgとなった時点で終了した。得られたGMPを含む濃縮液は2kgであった。
【0092】
DF処理後のGMPを含む濃縮液2kgを、凍結乾燥処理し、粉末状のGMPを含む組成物を64g得た。
乾燥粉末状のGMPの含有率は固形分あたり30質量%であった。使用した原料からのGMPの回収率は25質量%であった。
【0093】
(実施例B4)レンネットカゼインホエイからのGMPを含む組成物の調製
水酸化ナトリウムを用いてpH7.2に調整したレンネットカゼインホエイ105Lを75℃達温後15秒間保持し殺菌した後にクラリファイヤーにかけ、不溶物を除いた。不溶物を除いた後、分画分子量5,000Daの限外濾過膜を使用して2倍濃縮し、50Lの濃縮液と50Lの透過液を得た。濃縮処理後のレンネットカゼインホエイ濃縮液のpHは7.3、Brixは6.2%であった。このレンネットカゼインホエイ濃縮液50Lに対して炭酸水素カリウム水溶液25Lを加えた、Brix6.7%、炭酸水素カリウムの濃度0.1質量%のレンネットカゼインホエイを75L調製した。
【0094】
この水溶液を、濾過膜(ポリサルフォン素材、分画分子量50,000Da、膜面積0.2m2)を用いてクロスフロー方式で濾過処理を行なった。濾過処理の条件は温度10℃、平均運転圧力0.2MPaであった。この処理により濃縮液5kgと透過液70kg(GMPを含む組成物)を得た。得られた透過液のpHは7.3であった。
【0095】
前段落で得られた濃縮液5kgに対してDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件は前段落の記載と同じである。再透過液(GMPを含む組成物)が30kgとなった時点でDF処理を終了した。
【0096】
前々段落で得られた透過液70kgと前段落で得られた再透過液30kgを併せた液(GMPを含む組成物)100kgを濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量5,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濃縮処理を行なった。処理条件は温度10℃、平均運転圧力0.4MPaであった。この処理により濃縮液5kg(GMPを含む組成物)と透過液95kgを得た。
【0097】
続いて、前段落で得られたGMPを含む濃縮液5kgのDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件は前段落と同じである。DF処理は透過液が15kgとなった時点で終了した。
【0098】
DF処理後のGMPを含む濃縮液5kgを、凍結乾燥処理し、粉末状のGMPを含む組成物を56g得た。
乾燥粉末状のGMPの含有率は固形分あたり48質量%であった。使用した原料からのGMPの回収率は20質量%であった。
【0099】
[C.第三の実施形態]
本発明の第三の実施形態について、上述の第一の実施態様との相違点を中心に説明する。
(pH調整)
実施形態に係るGMPとLAを含む組成物の製造方法では、乳原料を含む水溶液のpHを4~9の範囲外から4~9の範囲内に調整する工程を含むことができるが、GMPの化学構造又は安定性を保持する観点から、このような工程を含まないことが好ましい。例えば、本発明のGMPを含む組成物の製造方法では、乳原料を含む水溶液のpHを一旦4未満に調整し、この水溶液を再度4以上に調整する工程を含まないことが好ましい。同様に、乳原料を含む水溶液のpHを一旦9より上に調整し、この水溶液を再度9以下に調整する工程を含まないことが好ましい。
【0100】
実施形態に係るGMPとLAを含む組成物の製造方法では、水溶液のpHが4~9の範囲内である場合はpHを4~9の範囲内に調整する必要はない。しかし、pHが4未満、あるいは9を超える場合はpHが4~9となるよう調整する。pHの調整は食品、経口摂取する医薬品の製造に用いることができるものであればどのようなものでも用いることができる。pHを9より上から9以下に調整するための試薬として、塩酸、硫酸、乳酸等の一つ以上の使用を例示することができる。pHを4未満から4以上に調整するための試薬として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の一つ以上の使用を例示することができる。しかしながら、炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを生じさせるものは、これらを用いてpH調整をすると、得られる組成物中のGMPとLAの量が低下するため好ましくない。
上記したとおり、pHは4~9であればよく、4より大きく9以下であることが好ましく、pH4.5~8.5がより好ましく、pH5~8がさらに好ましく、pH5.5~8がさらに好ましく、pH6~8が最も好ましい。
【0101】
(炭酸水素イオン及び/または炭酸イオン)
実施形態に係るGMPとLAを含む組成物の製造方法では、固形分を含むpH4~9の溶液を調製し、該水溶液中に炭酸水素イオン及び/又は炭酸イオンを溶液中に生じさせる。このときの溶液中の炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンの濃度は、0.001重量%以上35重量%以下であれば良い。
【0102】
溶液中の炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンの濃度は、具体的には、0.001重量%以上、5重量%以下であることができる。具体的な範囲としては、0.001~5重量%、0.0025~3重量%、0.005~2重量%、0.0075~2重量%、0.01~2重量%、0.025~2重量%、又は0.05~2重量%であることができる。
【0103】
(分離膜)
実施形態に係るGMPとLAを含む組成物の製造方法では、乳原料を含み且つpHが4~9である水溶液中に炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを生じさせたものを膜処理に供する。膜処理に用いる膜は分画分子量が9,000~300,000Da以下であればどのようなものでも用いることができるが、20,000~200,000Daが好ましく、30,000~100,000Daがより好ましく、30,000~50,000Daが最も好ましい。また、上限を50,000Da未満、例えば、45,000Da、又は40,000Daとしてもよく、具体的な範囲としては、9,000~45,000Da、10,000~40,000Da、又は20,000~40,000Daの膜を使用してもよい。
膜の材質は、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、4フッ化エチレン、セラミック等を例示することができ、歩留りを上げるためには、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリアミド等の親水性の膜、あるいは荷電膜を使用することが好ましい。
【0104】
(膜処理方法)
実施形態に係るGMPとLAを含む組成物の製造方法に用いる膜処理法は、食品や経口摂取する医薬品の処理、製造等で一般的に用いられている方法であればどのようなものでもよく、クロスフロー方式での濾過処理、ダイアフィルトレーション等を例示できる。この膜処理における透過液を、GMPとLAを含む組成物として得ることができる。
なお、膜処理中の溶液の温度調整は不要であるが、微生物の繁殖を考慮して0℃以上15℃以下とすることが好ましい。
【0105】
(製造方法の一態様)
(1)ダイアフィルトレーション(DF)処理方法
GMPとLAを得るため、GMPとLAを含む原料から膜処理においてGMPとLAを含む透過液を得る際に、可能な限り再透過液を得ることが歩留まり向上のために好ましい。具体的には、工程(D)において生じた濃縮液に加水し再度限外濾過したり、これを繰り返して再透過液を得ることは更に好ましい。濃縮液への加水は、濾過水、イオン交換水、蒸留水、超純水、GMPとLAを含む透過液を膜処理で濃縮する際に得られた透過液、pHやイオン強度を調整した溶液、又はこれらを混合したものを使用できる。
【0106】
(2)乳原料を含む水溶液の前処理
乳原料を含む水溶液は、水溶液のpH調整、及び水溶液中に炭酸水素イオン及び/又は炭酸イオンを生じさせる前に、分画分子量9,000Daより小さい分画分子量の限外濾過膜等による前処理でGMPとLAの濃度を調整しておくことが好ましい。
また、原料中の脂肪分、不溶物等をクリームセパレーター、クラリファイヤー等の前処理を用いて除いておくことが好ましい。また、これらの原料に対して殺菌を目的とした加熱処理をすることも可能である。
【0107】
(3)工程(D)後の濃縮及び/又は脱塩
膜処理の透過液として得られるGMPとLAを含む組成物には、目的とするGMPとLA以外に、乳糖やミネラルが含まれているため、分画分子量9,000Daより小さい分画分子量を有する限外濾過膜を用いて濃縮、脱塩すること、すなわち乳糖やミネラルを除去することが可能である。これにより、GMPとLA含量をより高めることが可能である。この濃縮及び/又は脱塩用の限外濾過膜の分画分子量は、好ましくは5,000Da以下である。限外濾過膜処理中の溶液の温度調整は不要であるが、微生物の繁殖を考慮して0℃以上15℃以下とすることが好ましい。
【0108】
(4)GMPを含む組成物の噴霧乾燥及び/又は凍結乾燥
さらに、噴霧乾燥及び/又は凍結乾燥等の手段によって水分を減らしたGMPとLAを含む組成物を得ることができる。
【0109】
(5)GMP及びLAを含む組成物のGMP含量測定方法
処理に使用した原料に含まれるGMP及びLA含量および処理の結果得られたGMP及びLAを含む組成物に含まれるGMP及びLA含量はウレア-SDS電気泳動法を用いて測定した。
【0110】
[実施例C]
以下、第三の実施形態に係る発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例C1):チーズホエイからのGMP及びLAを含む組成物の調製
ゴーダチーズホエイ54Lを75℃達温殺菌後にクラリファイヤーにかけ、不溶物を除いた。不溶物を除いたゴーダチーズホエイに含まれるナトリウム濃度は0.04質量%、カリウム濃度は0.16質量%、カルシウム濃度は0.03質量%、マグネシウム濃度は0.006質量%であった。不溶物を除いた後、分画分子量5,000Daの限外濾過膜を使用し2倍濃縮し、25Lの濃縮液と25Lの透過液を得た。濃縮処理後のゴーダチーズホエイ濃縮液のpHは6.3であった。このゴーダチーズホエイ濃縮液25Lに対して炭酸水素カリウム水溶液を加えた。炭酸水素カリウム水溶液を添加後に、ゴーダチーズホエイに内在する軽金属イオン及び/または遷移金属イオンを用いることを目的として、ゴーダチーズホエイを2倍濃縮した際に得られた透過液を炭酸水素カリウム水溶液を添加したゴーダチーズホエイ濃縮液に加え、Brix6.3%、炭酸水素カリウムの濃度0.1質量%のゴーダチーズホエイを50L調製した。
【0111】
この水溶液を、濾過膜(ポリサルフォン素材、分画分子量50,000Da、膜面積0.2m2)を用いてクロスフロー方式で濾過処理を行なった。濾過処理の条件は温度10℃、平均運転圧力0.2MPaであった。この処理により濃縮液5kgと透過液45kg(GMP及びLAを含む組成物)を得た。得られた透過液のpHは7.3であった。
【0112】
この透過液45kgを濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量5,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濃縮処理を行なった。処理条件は温度10℃、平均運転圧力0.4MPaであった。この処理により濃縮液5kg(GMP及びLAを含む組成物)と透過液40kgを得た。
【0113】
続いて、前段落で得られたGMP及びLAを含む濃縮液5kgのDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件は前段落と同じである。DF処理は透過液が30kgとなった時点で終了した。
【0114】
DF処理後のGMP及びLAを含む濃縮液5kgを、凍結乾燥処理し、粉末状のGMPとLAを含む組成物を52g得た。
乾燥粉末状のGMPの含有率は固形分あたり33質量%でありLAの含有率は61質量%であった。β―ラクトグロブリンの含有率は6質量%であった。使用した原料からのGMPの回収率は21%であった。
【0115】
(実施例C2):ホエイタンパク質精製物(WPI)からのGMP及びLAを含む組成物の調製
WPIとしてチーズホエイ由来のProvon190(Glanbia社)を用いて4%WPI水溶液を調整した。濃度が0.3質量%となるようにイオン交換水に炭酸水素ナトリウムを加えた炭酸水素ナトリウム水溶液を調製した。軽金属/遷移金属塩として硫酸銅5水和物を用いて0.1質量%の硫酸銅水溶液を調製した。炭酸水素ナトリウム水溶液及び硫酸銅水溶液の調製にはイオン交換水を用いた。0.1質量%の硫酸銅水溶液15kgを4%WPI-0.3質量%炭酸水素Na水溶液15kgに加えよく攪拌し、30kgの2%WPI-0.15質量%炭酸水素Na-0.05質量%硫酸銅水溶液を調製した。4%WPI水溶液のpHは6.2、4%WPI-0.3質量%炭酸水素Na水溶液のpHは7.2であった。2%WPI-0.15質量%炭酸水素Na-0.05質量%硫酸銅水溶液のpHは6.8であった。
【0116】
この水溶液を、濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量300,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濾過処理を行なった。濾過処理の条件は温度10℃、平均運転圧力0.2MPaであった。この処理により濃縮液10kgと透過液20kg(GMP及びLAを含む組成物)を得た。得られた透過液のpHは7.3であった。
【0117】
この透過液20kgを濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量5,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濃縮処理を行なった。処理条件は温度10℃、平均運転圧力0.4MPaであった。この処理により濃縮液2kg(GMP及びLAを含む組成物)と透過液18kgを得た。
【0118】
続いて、前段落で得られたGMP及びLAを含む濃縮液のDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件は前段落と同じである。DF処理は透過液が18kgとなった時点で終了した。得られたGMP及びLAを含む濃縮液は2kgであった。
【0119】
DF処理後のGMP及びLAを含む濃縮液2kgを、凍結乾燥処理し、粉末状のGMPとLAを含む組成物を106g得た。
【0120】
乾燥粉末状のGMPの含有率は固形分あたり27質量%でありLAの含有率は57質量%であった。β―ラクトグロブリンの含有率は7質量%であった。使用した原料からのGMPの回収率は24%であった。
【0121】
(実施例C3) ホエイタンパク質濃縮物(WPC)からのGMP及びLAを含む組成物の調製
WPCとしてWPC80(ザクセンミルヒ社)を用いて6%WPC水溶液を調整した。濃度が0.33質量%となるようにイオン交換水に炭酸水素ナトリウムを加えた炭酸水素ナトリウム水溶液を調製した。6%WPC80水溶液7.5kgに0.33質量%炭酸水素Na水溶液7.5kgを加えよく攪拌し、15kgの3%WPC-0.16質量%炭酸水素Na水溶液を調製した。6%WPC水溶液のpHは6.7、3%WPC-0.16質量%炭酸水素Na水溶液のpHは7.2であった。
【0122】
この水溶液を、濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量30,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濾過処理を行なった。濾過処理の条件は温度10℃、平均運転圧力0.2MPaであった。この処理により濃縮液5kgと透過液10kg(GMP及びLAを含む組成物)を得た。得られた透過液のpHは7.3であった。
【0123】
前段落で得られた濃縮液5kgに対してDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件は前段落の記載と同じである。再透過液(GMP及びLAを含む組成物)が15kgとなった時点でDF処理を終了した。
【0124】
前々段落と前段落で得られた透過液及び再透過液(GMP及びLAを含む組成物)25kgを濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量5,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濃縮処理を行なった。処理条件は温度10℃、平均運転圧力0.4MPaであった。この処理により濃縮液2kg(GMP及びLAを含む組成物)と透過液23kgを得た。
【0125】
続いて、前段落で得られたGMP及びLAを含む濃縮液のDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件は前段落と同じである。DF処理は透過液が6kgとなった時点で終了した。得られたGMP及びLAを含む濃縮液は2kgであった。
【0126】
DF処理後のGMP及びLAを含む濃縮液2kgを、凍結乾燥処理し、粉末状のGMPとLAを含む組成物を66g得た。
乾燥粉末状のGMPの含有率は固形分あたり30質量%でありLAの含有率は61質量%であった。β―ラクトグロブリンの含有率は9質量%であった。使用した原料からのGMPの回収率は27%であった。
【0127】
(実施例C4)レンネットカゼインホエイからのGMP及びLAを含む組成物の調製
水酸化ナトリウムを用いてpH7.2に調整したレンネットカゼインホエイ105Lを75℃達温後15秒間保持し殺菌した後にクラリファイヤーにかけ、不溶物を除いた。不溶物を除いた後、分画分子量5,000Daの限外濾過膜を使用して2倍濃縮し、50Lの濃縮液と50Lの透過液を得た。濃縮処理後のレンネットカゼインホエイ濃縮液のpHは7.3であった。このレンネットカゼインホエイ濃縮液50Lに対して炭酸水素カリウム水溶液25Lを加えた、Brix6.7%、炭酸水素カリウムの濃度0.1質量%のレンネットカゼインホエイを75L調製した。
【0128】
この水溶液を、濾過膜(ポリサルフォン素材、分画分子量50,000Da、膜面積0.2m2)を用いてクロスフロー方式で濾過処理を行なった。濾過処理の条件は温度10℃、平均運転圧力0.2MPaであった。この処理により濃縮液5kgと透過液70kg(GMP及びLAを含む組成物)を得た。得られた透過液のpHは7.3であった。
【0129】
前段落で得られた濃縮液5kgに対してDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件は前段落の記載と同じである。再透過液(GMP及びLAを含む組成物)が30kgとなった時点でDF処理を終了した。
【0130】
前々段落において得られた透過液70kgと前段落で得られた再透過液30kgを併せた液(GMP及びLAを含む組成物)100kgを濾過膜(ポリエーテルスルフォン素材、分画分子量5,000Da、膜面積0.33m2)を用いてクロスフロー方式で濃縮処理を行なった。処理条件は温度10℃、平均運転圧力0.4MPaであった。この処理により濃縮液5kg(GMP及びLAを含む組成物)と透過液95kgを得た。
【0131】
続いて、前段落で得られたGMP及びLAを含む濃縮液5kgのDF処理を行った。使用した濾過膜と運転条件は前段落と同じである。DF処理は透過液が30kgとなった時点で終了した。
【0132】
DF処理後のGMP及びLAを含む濃縮液5kgを、凍結乾燥処理し、粉末状のGMPとLAを含む組成物を94g得た。
【0133】
乾燥粉末状のGMPの含有率は固形分あたり35質量%でありLAの含有率は58質量%であった。β―ラクトグロブリンの含有率は7質量%であった。使用した原料からのGMPの回収率は21%であった。