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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜方法及び蒸発源
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20231024BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20231024BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231024BHJP
【FI】
C23C14/24 A
H05B33/10
H05B33/14 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021117304
(22)【出願日】2021-07-15
(65)【公開番号】P2023013263
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 博之
(72)【発明者】
【氏名】菅原 由季
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 快度
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-137583(JP,A)
【文献】特開2015-067865(JP,A)
【文献】特開2007-046100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
H05B 33/10
H10K 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着物質を気化させて基板に成膜を行う成膜装置であって、
固体または液体の蒸着物質を収容する収容空間及び気化した蒸着物質が拡散する拡散空間を内部に有する容器と、
前記容器の内部において前記収容空間と前記拡散空間とを区切り、気化した蒸着物質が通過する開口が形成される板状部材と、
前記開口を囲み、前記板状部材から延出する延出部と、を備え
前記容器は、前記収容空間の外周面を画定する第1の周壁部と、前記拡散空間の外周面を画定する第2の周壁部と、を含み、
前記第1の周壁部及び前記第2の周壁部は分離可能である、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記板状部材は、前記第2の周壁部と一体に形成される、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記板状部材は、前記第1の周壁部及び前記第2の周壁部と別体で設けられる、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の成膜装置であって、
前記収容空間を、各々が蒸着物質を収容する複数の収容部に仕切る仕切部材をさらに備える、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項に記載の成膜装置であって、
前記仕切部材が、第1の方向に離間して複数設けられ、
前記延出部は、前記第1の方向で隣り合う2つの前記仕切部材の間に設けられる、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
請求項1からまでのいずれか1項に記載の成膜装置であって、
前記容器を覆うカバー部材をさらに備える、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
請求項に記載の成膜装置であって、
前記容器と前記カバー部材の間に設けられ、蒸着物質を加熱するヒータをさらに備える、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
請求項に記載の成膜装置であって、
前記カバー部材の内部には、水冷管が設けられる、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
請求項6から8までのいずれか1項に記載の成膜装置であって、
前記カバー部材は、前記第1の周壁部を覆う下カバーと、前記第2の周壁部を覆う上カバーと、を含む、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項10】
請求項9に記載の成膜装置であって、
前記上カバーは、前記下カバーに対して回動部により回動自在に支持されており、前記第2の周壁部を覆う閉位置と前記第2の周壁部を露出する開位置との間で開閉可能に構成される、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の成膜装置であって、
前記容器には、第2の方向に沿って並び、前記拡散空間で拡散された蒸着物質を放出する複数のノズルが設けられる、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項12】
請求項11に記載の成膜装置であって、
前記成膜装置は、少なくとも前記容器、前記板状部材及び前記延出部を含んで構成される蒸発源を、基板に対して移動方向に相対的に移動しながら成膜を行い、
前記第2の方向は、前記移動方向に交差する方向である、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の成膜装置であって、
前記収容空間と前記拡散空間とは、前記板状部材を介して接している、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項14】
請求項11または12に記載の成膜装置であって、
前記第2の周壁部と前記第1の周壁部とを接続する接続壁を更に含み、
前記拡散空間の前記第2の方向の幅が、前記収容空間の前記第2の方向の幅より小さい、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項15】
請求項1から14までのいずれか1項に記載の成膜装置を用いて基板に成膜する成膜工程を備える、
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項16】
蒸着物質を気化させて基板に成膜を行うための蒸発源であって、
蒸着物質を収容する収容空間及び気化した蒸着物質が拡散する拡散空間を形成する容器と、
前記容器の内部において前記収容空間と前記拡散空間とを区切り、気化した蒸着物質が通過する開口が形成される板状部材と、
前記開口を囲み、前記板状部材から延出する延出部と、を備え
前記容器は、前記収容空間の外周面を画定する第1の周壁部と、前記拡散空間の外周面を画定する第2の周壁部と、を含み、
前記第1の周壁部及び前記第2の周壁部は分離可能である、
ことを特徴とする蒸発源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、成膜方法及び蒸発源に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の製造においては、蒸発源から放出された蒸着物質が基板に付着することで基板に薄膜が形成される。特許文献1には、蒸発源の構成として、蒸着物質を収容する収容部と気化した蒸着物質が拡散する拡散部とが上下方向に分離して設けられ、これらが連通部を介して接続することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-003122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、蒸着物質を収容する収容部の上面を形成する壁部と、蒸着物質が拡散する拡散部の下面を形成する壁部との間に連通部が設けられるため、蒸着源が上下方向に大型化してしまう恐れがある。
【0005】
本発明は、蒸発源の大型化を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によれば、
蒸着物質を気化させて基板に成膜を行う成膜装置であって、
固体または液体の蒸着物質を収容する収容空間及び気化した蒸着物質が拡散する拡散空間を内部に有する容器と、
前記容器の内部において前記収容空間と前記拡散空間とを区切り、気化した蒸着物質が通過する開口が形成される板状部材と、
前記開口を囲み、前記板状部材から延出する延出部と、を備え
前記容器は、前記収容空間の外周面を画定する第1の周壁部と、前記拡散空間の外周面を画定する第2の周壁部と、を含み、
前記第1の周壁部及び前記第2の周壁部は分離可能である、
ことを特徴とする成膜装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、蒸発源の大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係る成膜装置の構成を模式的に示す平面図。
図2図1の成膜装置の構成を模式的に示す正面図。
図3】成膜ユニットの構成を模式的に示す斜視図。
図4】蒸発源の内部構造を示す断面図。
図5】空間形成部及び板状部材の分解図。
図6】蒸発源及びカバー部材の構成を示す斜視図。
図7】蒸発源及びカバー部材の構成を示す斜視図。
図8】(A)は有機EL表示装置の全体図、(B)は1画素の断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第1実施形態>
<成膜装置の概要>
図1は、一実施形態に係る成膜装置1の構成を模式的に示す平面図である。図2は、図1の成膜装置1の構成を模式的に示す正面図である。なお、各図において矢印X及びYは互いに直交する水平方向を示し、矢印Zは垂直方向(鉛直方向)を示す。また、各図においては、図面を見易くするために、一部の符号を省略している場合がある。
【0011】
成膜装置1は、気化させた蒸着物質を基板に付着させることで成膜を行う。本実施形態では、成膜装置1は、蒸発源を移動させながら蒸着を行う。成膜装置1は、例えばスマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられ、複数台並んで配置されてその製造ラインを構成する。成膜装置1で蒸着が行われる基板の材質としては、ガラス、樹脂、金属等を適宜選択可能であり、ガラス上にポリイミド等の樹脂層が形成されたものが好適に用いられる。蒸着物質としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などが用いられる。成膜装置1は、例えば表示装置(フラットパネルディスプレイなど)や薄膜太陽電池、有機光電変換素子(有機薄膜撮像素子)等の電子デバイスや、光学部材等を製造する製造装置に適用可能であり、特に、有機ELパネルを製造する製造装置に適用可能である。また、本実施形態では成膜装置1はG8Hサイズのガラス基板(1100×2500mm、1250mm×2200mm)に対して成膜を行うが、成膜装置1が成膜を行う基板のサイズは適宜設定可能である。
【0012】
成膜装置1は、成膜ユニット10(蒸発源ユニット)と、移動ユニット20と、複数の支持ユニット30A及び30B(以下、これらを総称する場合は支持ユニット30と表し、これらの構成要素等についても同様とする)と、を備える。成膜ユニット10、移動ユニット20及び支持ユニット30は、使用時に真空に維持されるチャンバ45の内部に配置される。本実施形態では、複数の支持ユニット30A及び30Bがチャンバ45内の上部にY方向に離間して設けられており、その下方に成膜ユニット10及び移動ユニット20が設けられている。また、チャンバ45には、基板100の搬入、搬出を行うための複数の基板搬入口44A及び44Bが設けられている。なお、本実施形態において「真空」とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされた状態、換言すれば減圧状態をいう。
【0013】
また、成膜装置1は、成膜ユニット10に電力を供給する電源41と、成膜ユニット10及び電源41を電気的に接続する電気接続部42を含む。電気接続部42は水平方向に可動のアームの内部を電気配線が通って構成されており、後述するようにXY方向に移動する成膜ユニット10に対して電源41からの電力が供給可能となっている。
【0014】
また、成膜装置1は、各構成要素の動作を制御する制御部43を含む。例えば、制御部43は、CPUに代表されるプロセッサ、RAM、ROM等のメモリ及び各種インタフェースを含んで構成され得る。例えば、制御部43は、ROMに記憶されたプログラムをRAMに読み出して実行することで、成膜装置1による各種の処理を実現する。
【0015】
<支持ユニット>
支持ユニット30は、基板100及びマスク101を支持するとともに、これらの位置調整を行う。支持ユニット30は、基板支持部32と、位置調整部34と、マスク支持部36とを含む。
【0016】
基板支持部32は、基板100を支持する。本実施形態では、基板支持部32は、基板100の長手方向がX方向、基板100の短手方向がY方向となるように基板100を支持する。例えば、基板支持部32は、基板100の縁を複数箇所で挟持すること等によって基板100を支持してもよいし、静電チャック等によって基板100を吸着することで基板100を支持してもよい。
【0017】
位置調整部34は、基板100とマスク101との位置関係を調整する。本実施形態では、位置調整部34は、基板100を支持した状態の基板支持部32を移動させることにより、基板100とマスク101との位置関係を調整する。しかしながら、マスク101を移動させることで基板100とマスク101の位置関係を調整してもよい。位置調整部34は、チャンバ45に固定された固定部341と、基板支持部32を支持し、固定部341に対して移動する可動部342とを含む。可動部342は、固定部341に対してX方向に移動することで、基板支持部32に支持された基板100をX方向に移動させ、基板100とマスク101のX方向の大まかな位置関係を調整する。さらに、可動部342は、基板100とマスク101の精密な位置調整(アライメント)を行うために、支持している基板支持部32をXY方向に移動させる機構を含む。アライメントの具体的な方法については公知の技術を採用可能なため詳細な説明は省略する。また、可動部342は、基板支持部32をZ方向に移動させ、基板100とマスク101のZ方向の位置関係を調整する。可動部342には、ラック・アンド・ピニオン機構やボールねじ機構等、公知の技術を適宜適用可能である。
【0018】
マスク支持部36は、マスク101を支持する。本実施形態では、マスク支持部36は、チャンバ45内においてマスク101がX方向の中央に位置するように、マスク101を支持する。例えば、マスク支持部36は、マスク101の縁を複数箇所で挟持すること等によってマスク101を支持してもよい。
【0019】
本実施形態の成膜装置1は、複数の支持ユニット30A及び30Bにより、複数の基板100A及び100Bを支持することができる、いわゆるデュアルステージの成膜装置1である。例えば、支持ユニット30Aに支持された基板100Aに対して蒸着が行われている間に、支持ユニット30Bに支持された基板100及びマスク101のアライメントを行うことができ、成膜プロセスを効率的に実行することができる。以下、支持ユニット30A側のステージをステージA、支持ユニット30B側のステージをステージBと表記することがある。
【0020】
また、本実施形態では、成膜時には、支持ユニット30により基板100の略半分がマスク101に重ね合わされた状態となる。そのため、成膜時に基板100のマスク101と重ね合わされていない部分に蒸着物質が付着することを抑制するための不図示の抑制板が、チャンバ45の内部に適宜設けられる。
【0021】
<移動ユニット>
移動ユニット20は、成膜ユニット10をX方向に移動させるX方向移動部22と、成膜ユニット10をY方向に移動させるY方向移動部24とを含む。
【0022】
X方向移動部22は、成膜ユニット10に設けられる構成要素として、モータ221と、モータ221により回転する軸部材に取り付けられたピニオン222と、ガイド部材223とを含む。また、X方向移動部22は、成膜ユニット10を支持する枠部材224と、枠部材224の上面に形成され、ピニオン222と噛み合うラック225と、ガイド部材223が摺動するガイドレール226とを含む。成膜ユニット10は、モータ221の駆動により回転するピニオン222がラック225と噛み合うことで、ガイドレール226に沿ってX方向に移動する。
【0023】
Y方向移動部24は、Y方向に延び、X方向に離間する2つの支持部材241A及び241Bを含む。2つの支持部材241A及び241Bは、X方向移動部22の枠部材224の短辺を支持している。Y方向移動部24は、不図示のモータ及びラック・アンド・ピニオン機構等の駆動機構を含み、2つの支持部材241A及び241Bに対して枠部材224をY方向に移動させることにより、成膜ユニット10をY方向に移動させる。Y方向移動部24は、成膜ユニット10を、支持ユニット30Aに支持された基板100Aの下方の位置と、支持ユニット30Bに支持された基板100Bの下方の位置との間でY方向に移動させる。
【0024】
<成膜ユニット>
図3は、成膜ユニット10の構成を模式的に示す斜視図である。成膜ユニット10は、Y方向を長手方向とし、X方向に並んで設けられる蒸発源12a~12c(以下、これらを総称する場合は蒸発源12と表し、これらの構成要素等についても同様とする)を含む。蒸発源12の構成については後述するが、本実施形態では複数の蒸発源12が設けられることにより、1つの成膜ユニット10で複数の蒸着物質を気化させて放出することができる。また、成膜ユニット10は、蒸発源12を覆うカバー部材15及び蓋部材16を含む。本実施形態では、カバー部材15は成膜ユニット10の支持台19に固定されている。カバー部材15の詳細については後述する。
【0025】
また、成膜ユニット10は、Y方向で蒸発源12a~12cの両外側に設けられる監視装置14a~14f(以下、これらを総称する場合は監視装置14と表し、これらの構成要素等についても同様とする)を含む。監視装置14は、蒸発源12からの蒸着物質の放出状態を監視する。本実施形態では、監視装置14a、14dが蒸発源12aからの蒸着物質の放出状態を監視し、監視装置14b、14eが蒸発源12bからの蒸着物質の放出状態を監視し、監視装置14c、14fが蒸発源12cからの蒸着物質の放出状態を監視する。また、監視装置14a~14cが筐体145aに、監視装置14d~14fが筐体145bにそれぞれ収容されている。筐体145a、145bには、監視対象の各蒸発源12から放出された蒸着物質が各監視装置14に到達できるように、蒸着物質を内部に進入可能にするための開口が適宜設けられる。
【0026】
本実施形態の監視装置14は、ケース141の内部に膜厚センサとして水晶振動子(不図示)を備えている。水晶振動子には、ケース141に形成された開口等の導入部(不図示)を介して蒸発源12から放出された蒸着物質が付着する。水晶振動子の振動数は蒸着物質の付着量により変動する。よって、制御部43は、水晶振動子の振動数を監視することで、基板100に蒸着した蒸着物質の膜厚を算出することができる。単位時間に水晶振動子に付着する蒸着物の量は、蒸発源12からの蒸着物質の放出量と相関を有するため、結果的に複数の蒸発源12からの蒸着物質の放出状態を監視することができる。
【0027】
なお、本実施形態では、1つの蒸発源12に対して2つの監視装置14が設けられているが、1つの蒸発源12に対して1つの監視装置14が設けられてもよい。また、蒸発源12及び監視装置14の数は適宜変更可能である。
【0028】
また、成膜ユニット10は、蒸発源12から放出された蒸着物質の基板100への飛散を遮断する不図示のシャッタを有し得る。例えば、成膜ユニット10は、蒸発源12a及び12bから放出された蒸着物質の基板100への飛散を遮断するシャッタと、蒸発源12cから放出された蒸着物質の基板100への飛散を遮断するシャッタとを有してもよい。そして、例えば不図示のシャッタにより蒸発源12cから基板100への蒸着物質の飛散を遮断した状態で蒸発源12a及び12bによる蒸着を行った後に、不図示のシャッタにより蒸発源12a及び12bから基板100への蒸着物質の飛散を遮断した状態で蒸発源12cによる蒸着を行ってもよい。これにより、蒸発源12a及び12bが放出する蒸着物質と蒸発源12cが放出する蒸着物質とが異なる場合には、1つの成膜ユニット10により2層の薄膜を基板に成膜することができる。また、蒸発源12a及び12bに互いに異なる蒸着物質を放出させる場合には、基板100上で混合膜を形成する共蒸着が可能となる。
【0029】
本実施形態では、成膜ユニット10は、移動ユニット20によりX方向(移動方向)に移動しながら蒸発源12から蒸着物質を放出することで基板100に対して成膜を行う。しかしながら、搬送される基板100に対して固定的に配置された蒸発源による成膜が行われる採用も可能である。
【0030】
<蒸発源>
次に、蒸発源12の構成について説明する。図4は、蒸発源12の内部構造を説明するための断面図である。なお、図4では、蓋部材16が省略され、上カバー152が閉じた状態が示されている。
【0031】
蒸発源12は、内部に空間を有する容器121と、板状部材124とを含む。容器121は、蒸着物質を収容する空間である収容空間SP1と、気化した蒸着物質が拡散する空間である拡散空間SP2と、を含む内部空間を画定する。なお、ここで言う空間は容器121によって区画された領域を意味する。当該領域が気体、液体など、容器121の構成部材とは別の物質で充填されていても、空間と呼ぶこととする。
【0032】
容器121は、一対の側壁1211及び一対の側壁1212を含む。一対の側壁1211は、収容空間SP1のY方向における側面を画定する。一対の側壁1212は、拡散空間SP2のY方向における側面を画定する。また、容器121は、一対の接続壁1213を含む。一対の接続壁1213は、一対の側壁1211と一対の側壁1212とを接続する。詳細には、一対の接続壁1213のうちの一方は、一対の側壁1211及び一対の側壁1212のうちの+Y側のもの同士を接続する。また、一対の接続壁1213のうちの他方は、一対の側壁1211及び一対の側壁1212のうちの-Y側のもの同士を接続する。また、一対の接続壁1213は、一対の側壁1211の上端部と一対の側壁1212の下端部を接続する。本実施形態では、Y方向において一対の側壁1212が一対の側壁1211の間に設けられるので、一対の接続壁1213は一対の側壁1211からY方向において容器121の内側に延びるように設けられる。
【0033】
このような構成により、容器121は、収容空間SP1の上面に、収容空間SP1よりY方向における幅が狭い拡散空間SP2が設けられるように内部空間を形成する。ここで、収容空間SP1の幅を広くすると、蒸着物質の収容量を大きくすることができる。一方で拡散空間SP2の幅が広くすると、Y方向(基板100の幅方向)でより外側にノズル122が配置されることなになり、基板100の蒸着面の法線方向に対して大きい角度で蒸着物質が基板100に向かって飛散することになる。この場合、基板100とマスク101との間に蒸着物質が入り込んでしまう恐れがある。本実施形態では、収容空間SP1を相対的に幅広に、拡散空間SP2を相対的に幅狭に構成することで、蒸着物質の収容量を大きくしつつ、蒸着物質が基板100とマスク101との間に入り込むことを抑制している。
【0034】
また、容器121は、収容空間SP1の底面を画定する底壁1214、拡散空間SP2の上面を画定する上壁1215、収容空間SP1のX方向における側面を画定する一対の側壁1216、及び拡散空間SP2のX方向における側面を画定する一対の側壁1217を含む。以上説明した構成により、図4における図示の方向で全体として逆T字型の形状を有している。
【0035】
収容空間SP1には、複数の仕切部材126が、Y方向に離間して設けられている。各仕切部材126は、底壁1214及び側壁1216に接続するように設けられている。そして、複数の仕切部材126によって仕切られる各部分が、それぞれ蒸着物質を収容する収容部として機能するように構成されている。本実施形態では、4つの仕切部材126によって、収容空間SP1に5つの収容部が形成される。収容空間SP1に複数の収容部が設けられることで、後述するヒータ129による蒸着物質の加熱にムラがあり、Y方向において蒸着物質の減り方にばらつきがあった場合でも、基板100に対する成膜のムラを抑制することができる。なお、本実施形態では、収容空間SP1に形成される複数の収容部は大きさが均等になるように形成されているが、各収容部の大きさが異なっていてもよい。
【0036】
また、上壁1215には、複数のノズル122が形成されている。拡散空間SP2で拡散された蒸着物質は、複数のノズル122から基板100へと放出される。複数のノズル122は、Y方向に離間して設けられている。また、複数のノズル122のうちY方向外側に配置されたノズルは、その軸方向がZ方向に対してY方向外側に傾くように設けられている。このような構成により、基板100の幅方向の全体に渡って蒸着物質を蒸着させることができる。
【0037】
板状部材124は、容器121の内部において、収容空間SP1と拡散空間SP2とを区切る部材である。本実施形態では、板状部材124は、容器121により形成される内部空間を上下に区切っている。すなわち、板状部材124により、容器121の内部空間のうち下側の空間が収容空間SP1となっており、上側の空間が拡散空間SP2となっている。
【0038】
また、板状部材124には、気化した蒸着物質が通過する開口1241が形成される。本実施形態では、収容空間SP1に収容されている蒸着物質が気化すると、開口1241を通過して拡散空間SP2へと進入する。すなわち、板状部材124は、容器121の内部空間を複数の空間に区切りつつ、気化した蒸着物質による各空間の間の移動を許容するように構成されている。本実施形態では、板状部材124は1枚の平板で構成されるが、板状部材124の形状等は適宜変更可能である。
【0039】
また、板状部材124には、開口1241を囲み、板状部材124から延出する延出部125が設けられている。本実施形態では、延出部125は、板状部材124から収容空間SP1への延出している。延出部125により、収容空間SP1から拡散空間SP2へと移動する気化した蒸着物質の整流が行われる。これにより、拡散空間SP2において気化した蒸着物質が均質に拡散しやすくなる。また、容器121の内部を仕切る板状部材124に延出部125が設けられるため、容器121が上下方向に大型化するのを抑制することができる。具体的には、本実施形態では、収容空間SP1の上面と拡散空間SP2との下面が板状部材124を介して接している。そのため、収容空間SP1と拡散空間SP2とが間隔を空けて設けられる構成と比べて収容空間SP1及び拡散空間SP2を上下方向にコンパクトに配置しつつ、延出部125による整流が行われた蒸着物質を拡散空間SP2に導入することができる。
【0040】
本実施形態では、延出部125は筒状の形状を有している。延出部125の形状は適宜変更可能であるが、延出部125は例えば、軸方向に垂直な面の断面が円状、楕円状、又は多角形状の筒状の形状を有していてもよい。また、本実施形態では延出部125は板状部材124から下側、すなわち収容空間SP1側に延出しているが、延出部125は板状部材124から上側、すなわち拡散空間SP2側に延出してもよい。或いは、延出部125は板状部材124から上下両側に延出してもよい。また、本実施形態では、板状部材124の、開口1241を形成する縁の部分と延出部125とが連続している。すなわち、開口1241と延出部125の中空部分の内径が同じになるように構成されている。しかしながら、延出部125の内径よりも開口1241が小さくなるような構成も採用可能である。すなわち、板状部材124の開口1241を形成する縁の部分が、延出部125の中空部分に重なってもいてもよい。
【0041】
また、延出部125の板状部材124から延びる長さについても適宜設定可能である。例えば、延出部125の長さは、5~120mm、10mm~100mm、15mm~35mm、20~30mm等であってもよい。さらに言えば、延出部125の長さは、25mmであってもよい。また例えば、延出部125の長さは、仕切部材126との位置関係に基づいて設定されてもよい。例えば、延出部125の長さは、Z方向において延出部125と仕切部材126とが重複しない範囲で設定されてもよい。
【0042】
また、開口1241の形状についても、延出部125と同様に適宜変更可能であり、円状、楕円状、又は多角形状の形状であってもよい。また、開口1241の形状は、X方向(基板100の移動方向)及びY方向(基板100の幅方向)の長さの関係に基づいて設定されてもよい。例えば、開口1241のX方向の長さをa、Y方向の長さをbとした場合に、長さa<長さbとなるように開口1241の形状を設定してもよい。すなわち、開口1241の形状がY方向に長くなるように設定されてもよい。この場合、収容空間SP1から拡散空間SP2へと移動する蒸着物質の量を安定化することができる。一方、長さa>長さbとなるように開口1241の形状を設定してもよい。すなわち、開口1241の形状がX方向に長くなるように設定されてもよい。この場合、Y方向における成膜のムラを抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では、開口1241は、Y方向において複数の仕切部材126の間に設けられる。すなわち、仕切部材126は開口1241の直下を避けて設けられている。これにより、基板100に対する成膜の均一性を向上することができる。さらに言えば、開口1241を中心にして、容器121の内部の構成が図4の図示の方向で左右対称に構成されてもよい。これにより、基板100に対する成膜の均一性を向上することができる。
【0044】
また、前述したように、容器121は、カバー部材15に覆われている。カバー部材15については後述するが、本実施形態では、下カバー151及び上カバー152で構成されるカバー部材15と、容器121との間に、蒸着物質を加熱するヒータ129が設けられている。詳細には、下カバー151と、側壁1211、底壁1214及び側壁1216との間にヒータ129が設けられている。また、上カバー152と、側壁1212との間にもヒータ129が設けられている。ヒータ129としては公知の技術を適宜採用可能であるが、例えば、ヒータ129は電熱線が金属板に埋め込まれることにより構成されてもよい。また、本実施形態では、ヒータ129は、容器121の各壁部にそれぞれ取り付けられている。なお、ヒータ129の配置については適宜変更である。本実施形態のように収容空間SP1を形成する壁部と拡散空間SP2を形成する壁部の両方を加熱可能なようにヒータ129が設けられてもよいし、これらの壁部の一方を加熱可能なようにヒータ129が設けられてもよい。
【0045】
また、本実施形態では、カバー部材15の内部には、カバー部材15を冷却する冷却用配管154が設けられている。冷却用配管154は、冷却水が通過可能な配管であり、不図示の放熱部に接続する。冷却水は、冷却用配管154と放熱部との間を循環し、冷却用配管154を通過する際にカバー部材15の熱を吸熱し、放熱部において吸収した熱を放熱する。蒸発源12から放出される蒸着物質、さらに言えば有機材料は、熱の影響を受けて発光特性が変わってしまう恐れがある。よって、冷却用配管154により、ヒータ129の熱がカバー部材15の外部に放熱されることを抑制することで、蒸発源12の熱が蒸着物質の特性に与える影響を低減することができる。なお、図4では下カバー151の内部にのみ冷却用配管154が設けられているが、上カバー152の内部にも冷却用配管154が設けられてもよい。
【0046】
図5は、容器121及び板状部材124の構造を説明するための分解図である。本実施形態では、容器121は、下部121aと上部121bとに分離可能に構成されている。また、板状部材124は下部121a及び上部121bと別体に設けられている。下部121a、上部121b及び板状部材124は、ボルト等の締結部材により組み立て及び分解が可能である。
【0047】
下部121aは、側壁1211、底壁1214及び側壁1216を含む。また、上部121bは、側壁1212、上壁1215及び側壁1217を含む。よって、本実施形態では、収容空間SP1の外周面を画定する周壁部としての側壁1211及び側壁1216と、拡散空間SP2の外周面を画定する周壁部としての側壁1212及び側壁1217とが、分離可能に構成されている。このため、蒸着物質の補充やメンテナンス等の際には収容空間SP1及び拡散空間SP2の両方へ容易にアクセスすることができる。
【0048】
また、本実施形態では、板状部材124は、収容空間SP1の外周面を画定する周壁部(側壁1211及び側壁1216)、及び、拡散空間SP2の外周面を画定する周壁部(側壁1212及び側壁1217)と別体で設けられている。したがって、容器121の内部のメンテナンスを容易に行うことができる。なお、ここでの別体で設けられるとは、例えば、作業者がメンテナンス等の際にボルト等の締結を解除することで互いに分離可能なように設けられることであり得る。
【0049】
一方で、板状部材124は、拡散空間SP2の外周面を画定する周壁部(側壁1212及び側壁1217)と一体に形成されてもよい。これらが一体に形成されることにより、容器121及び板状部材124の熱伝導性が向上し、ヒータ129による加熱効率を向上することができる。
【0050】
なお、本実施形態では、上部121bにおいて側壁1212と接続壁1213が接続して設けられているが、上部121bにおいて接続壁1213が省略されてもよい。この場合、板状部材124の側壁1212よりもY方向における外側の部分が、側壁1211と側壁1212とを接続する接続壁として機能してもよい。
【0051】
<カバー部材>
図6は、蒸発源12、カバー部材15及び蓋部材16の構成を示す斜視図である。図7は、蒸発源12及びカバー部材15の構成を示す斜視図である。図7では、図6の状態から蓋部材16が外されカバー部材15が開かれた状態が示されている。
【0052】
本実施形態では、カバー部材15及び蓋部材16により3つの容器121の略全体が覆われるように構成されている。詳細には、下カバー151が側壁1211、底壁1214、側壁1216及び側壁1217を覆い、上カバー152が側壁1212及び接続壁1213を覆い、蓋部材16が上壁1215を覆っている。
【0053】
また、上カバー152は、下カバー151に対して、回動部153により回動自在に支持される。例えば回動部153は、上カバー152に接続し、X方向を軸方向とする軸部材と、この軸部材を回転可能に支持する軸受部材を含む。この構成により、上カバー152は、少なくとも接続壁1213を覆う閉位置(図6)と、接続壁1213が露出する開位置(図7)との間で開閉可能である。さらに言えば、本実施形態では、上カバー152の開位置は、容器121を下カバー151からZ方向に取り出し可能となるように設定される。すなわち、平面視で、開位置にある上カバー152と、下カバー151に一部が覆われている容器121とが重ならないように、開位置が設定される。これにより、容器121をカバー部材15からZ方向に容易に取り出すことができる。
【0054】
なお、本実施形態では上カバー152が下カバー151に対して開閉するのに伴い、上カバー152に取り付けられたヒータ129も上カバー152とともに開閉する。したがって、カバー部材15を開閉可能に構成しつつも、容器121のより多くの面に対してヒータ129を設置することができる。
【0055】
なお、上カバー152は少なくとも接続壁1213を覆っていればよく、側壁1212については上カバー152ではなく蓋部材16が覆ってもよい。この場合でも、蓋部材16を取り外し、上カバー152を開くことで、容器121をカバー部材15から取り出すことができる。或いは、上カバー152が上壁1215又は側壁1217の少なくとも一部を覆ってもよく、蓋部材16が省略されてもよい。また、下カバー151、上カバー152及び蓋部材16の各部材は、適宜分割されていてもよい。
【0056】
<電子デバイスの製造方法>
次に、電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。この例の場合、図1に例示した成膜装置1が製造ライン上に複数設けられる。
【0057】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。図8(A)は有機EL表示装置50の全体図、図8(B)は1画素の断面構造を示す図である。
【0058】
図8(A)に示すように、有機EL表示装置50の表示領域51には、発光素子を複数備える画素52がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。
【0059】
なお、ここでいう画素とは、表示領域51において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。カラー有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子52R、第2発光素子52G、第3発光素子52Bの複数の副画素の組み合わせにより画素52が構成されている。画素52は、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子の3種類の副画素の組み合わせで構成されることが多いが、これに限定はされない。画素52は少なくとも1種類の副画素を含めばよく、2種類以上の副画素を含むことが好ましく、3種類以上の副画素を含むことがより好ましい。画素52を構成する副画素としては、例えば、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子と黄色(Y)発光素子の4種類の副画素の組み合わせでもよい。
【0060】
図8(B)は、図8(A)のA-B線における部分断面模式図である。画素52は、基板53上に、第1の電極(陽極)54と、正孔輸送層55と、赤色層56R・緑色層56G・青色層56Bのいずれかと、電子輸送層57と、第2の電極(陰極)58と、を備える有機EL素子で構成される複数の副画素を有している。これらのうち、正孔輸送層55、赤色層56R、緑色層56G、青色層56B、電子輸送層57が有機層に当たる。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0061】
また、第1の電極54は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層55と電子輸送層57と第2の電極58は、複数の発光素子52R、52G、52Bにわたって共通で形成されていてもよいし、発光素子ごとに形成されていてもよい。すなわち、図8(B)に示すように正孔輸送層55が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成された上に赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bが副画素領域ごとに分離して形成され、さらにその上に電子輸送層57と第2の電極58が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成されていてもよい。
【0062】
なお、近接した第1の電極54の間でのショートを防ぐために、第1の電極54間に絶縁層59が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層60が設けられている。
【0063】
図8(B)では正孔輸送層55や電子輸送層57が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を有する複数の層で形成されてもよい。また、第1の電極54と正孔輸送層55との間には第1の電極54から正孔輸送層55への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成してもよい。同様に、第2の電極58と電子輸送層57の間にも電子注入層を形成してもよい。
【0064】
赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bのそれぞれは、単一の発光層で形成されていてもよいし、複数の層を積層することで形成されていてもよい。例えば、赤色層56Rを2層で構成し、上側の層を赤色の発光層で形成し、下側の層を正孔輸送層又は電子ブロック層で形成してもよい。あるいは、下側の層を赤色の発光層で形成し、上側の層を電子輸送層又は正孔ブロック層で形成してもよい。このように発光層の下側又は上側に層を設けることで、発光層における発光位置を調整し、光路長を調整することによって、発光素子の色純度を向上させる効果がある。
【0065】
なお、ここでは赤色層56Rの例を示したが、緑色層56Gや青色層56Bでも同様の構造を採用してもよい。また、積層数は2層以上としてもよい。さらに、発光層と電子ブロック層のように異なる材料の層が積層されてもよいし、例えば発光層を2層以上積層するなど、同じ材料の層が積層されてもよい。
【0066】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。ここでは、赤色層56Rが下側層56R1と上側層56R2の2層からなり、緑色層56Gと青色層56Bは単一の発光層からなる場合を想定する。
【0067】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1の電極54が形成された基板53を準備する。なお、基板53の材質は特に限定はされず、ガラス、プラスチック、金属などで構成することができる。本実施形態においては、基板53として、ガラス基板上にポリイミドのフィルムが積層された基板を用いる。
【0068】
第1の電極54が形成された基板53の上にアクリル又はポリイミド等の樹脂層をバーコートやスピンコートでコートし、樹脂層をリソグラフィ法により、第1の電極54が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層59を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。なお、本実施形態では、絶縁層59の形成までは大型基板に対して処理が行われ、絶縁層59の形成後に、基板53を分割する分割工程が実行される。
【0069】
絶縁層59がパターニングされた基板53を第1の成膜装置1に搬入し、正孔輸送層55を、表示領域の第1の電極54の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層55は、最終的に1つ1つの有機EL表示装置のパネル部分となる表示領域51ごとに開口が形成されたマスクを用いて成膜される。
【0070】
次に、正孔輸送層55までが形成された基板53を第2の成膜装置1に搬入する。基板53とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、正孔輸送層55の上の、基板53の赤色を発する素子を配置する部分(赤色の副画素を形成する領域)に、赤色層56Rを成膜する。ここで、第2の成膜室で用いるマスクは、有機EL表示装置の副画素となる基板53上における複数の領域のうち、赤色の副画素となる複数の領域にのみ開口が形成された高精細マスクである。これにより、赤色発光層を含む赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの赤色の副画素となる領域のみに成膜される。換言すれば、赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの青色の副画素となる領域や緑色の副画素となる領域には成膜されずに、赤色の副画素となる領域に選択的に成膜される。
【0071】
赤色層56Rの成膜と同様に、第3の成膜装置1において緑色層56Gを成膜し、さらに第4の成膜装置1において青色層56Bを成膜する。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置1において表示領域51の全体に電子輸送層57を成膜する。電子輸送層57は、3色の層56R、56G、56Bに共通の層として形成される。
【0072】
電子輸送層57までが形成された基板を第6の成膜装置1に移動し、第2の電極58を成膜する。本実施形態では、第1の成膜装置1~第6の成膜装置1では真空蒸着によって各層の成膜を行う。しかし、本発明はこれに限定はされず、例えば第6の成膜装置1における第2の電極58の成膜はスパッタによって成膜するようにしてもよい。その後、第2の電極58までが形成された基板を封止装置に移動してプラズマCVDによって保護層60を成膜して(封止工程)、有機EL表示装置50が完成する。なお、ここでは保護層60をCVD法によって形成するものとしたが、これに限定はされず、ALD法やインクジェット法によって形成してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1:成膜装置、10:成膜ユニット、12:蒸発源、121:容器、124:板状部材、125:延出部、15:カバー部材、151:下カバー、152:上カバー、100:基板、101:マスク、SP1:収容空間、SP2:拡散空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8