(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】有機ルテニウム化合物からなる化学蒸着用原料及び該化学蒸着用原料を用いた化学蒸着法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/18 20060101AFI20231024BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20231024BHJP
C07F 15/00 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C23C16/18
H01L21/285 C
C07F15/00 A
(21)【出願番号】P 2021574085
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2021002933
(87)【国際公開番号】W WO2021153639
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2020014851
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】原田 了輔
(72)【発明者】
【氏名】津川 智広
(72)【発明者】
【氏名】大武 成行
(72)【発明者】
【氏名】岩井 輝久
(72)【発明者】
【氏名】李 承俊
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-522124(JP,A)
【文献】国際公開第2019/088722(WO,A1)
【文献】特表2010-534769(JP,A)
【文献】特開2020-090689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/18
H01L 21/285
C07F 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学蒸着法によりルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を製造するための化学蒸着用原料において、
2価のルテニウムに、トリメチレンメタン系配位子(L
1)と3つのカルボニル配位子が配位した、下記化1の式で示される有機ルテニウム化合物からなる化学蒸着用原料。
【化1】
上記化1において、トリメチレンメタン系配位子L
1は、下記化2の式で示される。
【化2】
(上記の化1の式中、配位子L
1の置換基Rは、水素、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数3以上9以下の環状アルキル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキニル基、炭素数6以上9以下のアリール基、のいずれかである。)
【請求項2】
配位子L
1の置換基Rが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基又はネオペンチル基のいずれかである請求項1記載の化学蒸着用原料。
【請求項3】
有機ルテニウム化合物からなる原料を気化して原料ガスとし、前記原料ガスを
反応ガスと共に基板表面に導入しつつ加熱するルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の化学蒸着法において、
前記原料として請求項1又は請求項2記載の化学蒸着用原料を用い、前記反応ガスとして水素を用いる化学蒸着法。
【請求項4】
反応ガスとして還元性ガスを適用し、
原料ガスを前記反応ガスと共に基板表面に導入して加熱する請求項3記載の化学蒸着法。
【請求項5】
還元性ガスは、水素、アンモニア、ヒドラジン、ギ酸、アルコールのいずれかのガスである請求項4記載の化学蒸着法。
【請求項6】
成膜温度を150℃以上350℃以下とする請求項3~
請求項5のいずれかに記載の化学蒸着法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学蒸着法(化学気相蒸着法(CVD法)、原子層堆積法(ALD法))によりルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を製造するための有機ルテニウム化合物からなる化学蒸着用原料に関する。詳しくは、分解温度が低く、適度な熱安定性を有する化学蒸着用原料に関する。
【背景技術】
【0002】
DRAM、FERAM等の半導体デバイスの配線・電極材料としてルテニウム又はルテニウム化合物からなる薄膜が使用されている。これらの薄膜の製造法としては、CVD法(化学気相蒸着法)、ALD法(原子層堆積法)といった化学蒸着法が適用されている。このような化学蒸着法で使用される原料(プリカーサー)として、多くの有機ルテニウム化合物が従来から知られている。
【0003】
化学蒸着用原料としての有機ルテニウム化合物としては、例えば、特許文献1には環状ジエニルであるシクロペンタジエニル又はその誘導体が配位する、化1に示すビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)が開示されている。この有機ルテニウム化合物は、比較的古くから化学蒸着用の原料化合物として知られている。
【0004】
【0005】
また、シクロヘキサジエニルとカルボニルを配位子とする、化2の(1,3-シクロヘキサジエン)トリカルボニルルテニウムも化学蒸着用原料としての有機ルテニウム化合物として有用である(特許文献3、非特許文献1)。
【0006】
【0007】
更に、ルテニウムに配位する配位子として、β-ジケトナト配位子が適用される有機ルテニウム化合物も有用である。例えば、特許文献2には、テトラメチルヘプタンジオナトとカルボニルが配位する、化3に示すジカルボニル-ビス(テトラメチルヘプタンジオナト)ルテニウムやβ-ジケトナト配位子として3つのアセチルアセトナトが配位する化4に示すトリス(アセチルアセトナト)ルテニウムも知られている。また、特許文献4には化5に示すジカルボニル-ビス(5-メチル-2,4-ヘキサンジケトナト)ルテニウムが開示されている。
【0008】
【0009】
【0010】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2000-281694号公報
【文献】米国特許第6303809号公報
【文献】米国特許第5962716号公報
【文献】特開2012-006858号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Materials Research Society Symposium B-Materials, Processes, Intergration and Reliability in Advanced Interconnects for Micro- and Nanoelectronics, 2007, 990. 0990-B08-01
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
化学蒸着用の有機ルテニウム化合物に要求される特性としては、これまではルテニウム薄膜形成の可否・効率性や原料としての取り扱い性といった、薄膜形成における基本的特性が主体であった。化学蒸着法では、原料化合物を気化して原料ガスとし、これを基板に輸送して基板上で分解して薄膜を形成する方法である。このプロセスにおいては、原料化合物の速やかな気化が必要であるので、容易に気化して原料ガスとなる蒸気圧の高い気化特性を有する化合物が好適であるとされてきた。
【0014】
しかし、各種半導体デバイスにおける電極・配線の高密度化や高精細化に伴い、化学蒸着用原料となる有機ルテニウム化合物に要求される特性も多様となっている。
【0015】
この要求特性として挙げられるものの一つが、成膜工程で使用できる反応ガスの適用範囲の拡充である。有機ルテニウム化合物は、加熱によって分解するため、単独でもルテニウムを析出することは可能ではある。但し、適切な成膜温度で化合物を分解し成膜速度を確保するため、原料と共に反応ガスを導入するのが一般的である。そして、この反応ガスとして酸素が使用されることが多い。しかし、次世代の半導体デバイスにおいては、薄膜及びその下地である基板の酸化防止が求められている。化学蒸着法による成膜の際に薄膜や基板が酸化することを防止するためには、水素等の還元性ガスを反応ガスとして使用することが好ましい。つまり、水素等の還元性ガスのもとでも高い反応性を有する有機ルテニウム化合物が求められる。
【0016】
上記した従来の有機ルテニウム化合物は、基本的な要求特性は満たしているものの、反応ガスの適用範囲の拡充や熱的安定性に関する要求への対応が困難である。例えば、化1の有機ルテニウム化合物は、蒸気圧が高いことに加え、常温で液体状態にあることから取り扱い性に優れ、これまでの成膜条件のもとでは有用性のある有機ルテニウム化合物であった。しかし、この有機ルテニウム化合物は、酸素を反応ガスとして使用することが必須であり、基板の酸化防止の要求に応えることはできない。
【0017】
上記化2の有機ルテニウム化合物は、高蒸気圧の化合物であるので、従来の成膜条件のもとでは好適な化合物である。しかも、この有機ルテニウム化合物は、反応ガスとして水素ガスを使用することもできる。しかし、この有機ルテニウム化合物の場合、水素ガスとの反応性が十分でなく、熱的安定性の問題もある。熱的安定性が低い化合物は、基板表面以外で化合物の分解が生じ、原料を安定して供給することが困難であり、歩留まりが悪く取扱い性にも劣る。このため、適度に高い熱的安定性の有機ルテニウム化合物が求められている。
【0018】
上記の化3、化4および化5の有機ルテニウム化合物については、反応ガスの選択肢が比較的広範であり、水素ガスも一応は使用可能であるとされている。但し、これらの有機ルテニウム化合物は、配位子であるβ-ジケトナト配位子の構造中に酸素原子が含まれ、この酸素原子が金属原子であるルテニウムに直接配位している。酸素原子がルテニウム原子に直接配位するβ-ジケトナト配位子を含む有機ルテニウム化合物は、水素ガスとの反応性が十分でなく、配位子中の酸素原子がルテニウム薄膜に混入することがある。反応ガスとして酸素を使用する場合も、酸素がルテニウム薄膜に混入することがある。ルテニウム薄膜への酸素の混入については、特許文献2の中でも言及されており、ルテニウム薄膜中に酸素が3%程度含まれていることが明らかとなっている。ルテニウム薄膜中に混入した酸素は、比抵抗の増加など、電極材料特性に影響を及ぼす場合がある。更に、これらの有機ルテニウム化合物は、実際には水素ガスとの反応性が十分といえるものではないので、水素ガスのもとでの効率的な成膜には適していない。そのため、化3、化4および化5の有機ルテニウム化合物による成膜でも、酸素ガスが使用されることが多い。
【0019】
以上のように、これまでの有機ルテニウム化合物からなる化学蒸着用原料は、多様化する要求特性に対して必ずしも対応できるものではない。そこで本発明は、気化特性や取扱い性等の化学蒸着用原料としての基本特性について重視しつつ、水素ガス等の還元性ガスに対しても好適な反応性を有する共に、適切な熱的安定性を有する有機ルテニウム化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決する本発明は、化学蒸着法によりルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を製造するための化学蒸着用原料において、2価のルテニウムに、トリメチレンメタン系配位子(L1)と3つのカルボニル配位子が配位した、下記の化6式で示される有機ルテニウム化合物からなる化学蒸着用原料である。
【0021】
【化6】
上記化6において、トリメチレンメタン系配位子L
1は、下記の化7の式で示される。
【化7】
(上記の化7の式中、配位子L
1の置換基Rは、水素、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数3以上9以下の環状アルキル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキニル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアミノ基、炭素数6以上9以下のアリール基、のいずれかである。)
【0022】
本発明に係る化学蒸着用原料を構成する有機ルテニウム化合物は、配位子としてトリメチレンメタン系配位子(L1)を適用する点において特徴を有する。本発明において、トリメチレンメタン系配位子とは、トリメチレンメタン(η4-メチレン-1,3-プロパンジイル)からなる配位子、及びトリメチレンメタンに置換基が導入されたトリメチレンメタン誘導体からなる配位子である。従来の化学蒸着用の有機ルテニウム化合物の配位子に対し、トリメチレンメタン系配位子は以下のような利点を有する。
【0023】
トリメチレンメタン系配位子の基本となるトリメチレンメタンは、炭素と水素とからなる炭素骨格の少ない三座配位子である。そのため、この配位子は、ルテニウム薄膜にとって不純物となり得る元素を含んでいない。特に、トリメチレンメタン系配位子は、β-ジケトナト配位子とは異なり、ルテニウムに直接配位し得る酸素原子を含まない。そして、後述のとおり水素ガスとの反応性が良好であるので、ルテニウム薄膜への酸素混入や下地基板の酸化が生じ難くなっている。本発明によれば、皮膜への酸素混入や基板の酸化を抑制し、高品質のルテニウム薄膜を成膜できる。
【0024】
また、トリメチレンメタン系配位子は、2価のルテニウムに配位する配位子である。これに対し、上記の化2のヘキサジエン等の配位子は、0価のルテニウムに配位する配位子である。ここで、2価のルテニウムによって構成される錯体は、0価のルテニウムで構成される錯体と対比したとき配位子と結合力が高くなる傾向がある。従って、本発明に係る有機ルテニウム化合物は、熱安定性が適度に高い化合物である。
【0025】
そして、高原子価(2価)のルテニウムを含む有機ルテニウム化合物は、水素ガスとの反応性が従来技術よりも向上している。よって、本発明に係る有機ルテニウム化合物は、反応ガスとして水素等の還元性ガスを適用することができる。
【0026】
本発明に係る有機ルテニウム化合物は、以上のような錯体の構造的利点及び水素等の還元性雰囲気における高い反応性を獲得することにより、基板及びルテニウム薄膜の品質の問題を解決する。そして、適度な熱安定性の確保によってロスのない効率的な成膜を可能とする。
【0027】
更に、本発明に係る有機ルテニウム化合物は、高蒸気圧という、化学蒸着用原料に前提的に要求される特性も良好である。有機ルテニウム化合物の蒸気圧は、配位子の分子量に対応する傾向がある。トリメチレンメタン系配位子は、炭素骨格の少ない低分子量の配位子である。そして、トリメチレンメタン系配位子と共にルテニウムに配位するカルボニル配位子も低分子量であることから、蒸気圧が高く気化しやすい化合物である。
【0028】
以上の通りの多くの利点を有する、本発明に係る化学蒸着用原料となる有機ルテニウム化合物について詳細に説明する。以下、中心金属であるルテニウム(2価)に配位する配位子(トリメチレンメタン系配位子(L1)とカルボニル配位子)に関する説明と本発明に係る有機ルテニウム化合物の具体例等について説明する。
【0029】
(A)トリメチレンメタン系配位子(L1)
本発明で適用する有機ルテニウム化合物は、配位子としてトリメチレンメタン系配位子(L1)を適用することを特徴とする。
【0030】
本発明において、トリメチレンメタン系配位子(L1)としてトリメチレンメタンを適用するのは、既に述べたとおり、トリメチレンメタンは化学蒸着用原料の構成要素として好ましい特性を複数具備しているからである。本発明の化学蒸着用原料は、熱安定性や反応性が良好であり、蒸気圧が高く容易に気化して原料ガスとなる気化特性を有する。
【0031】
本発明では、トリメチレンメタン系配位子として、トリメチレンメタンに加えてトリメチレンメタン誘導体を適用する。トリメチレンメタンに置換基を導入するのは、錯体構造に非対称性を付与することで、融点の低下や分解温度及び気化特性の調整を図ることができるからである。融点の低下により、常温で液体状態の化学蒸着用原料とすることができる。そして、分解温度を調整して適切な熱的安定性を得ることができ、気化特性の調整により効率的な成膜を行うことができる。即ち、トリメチレンメタン誘導体の適用により、化学蒸着材料としてより好ましい取扱い性と、安定的で効率的な成膜をするための熱安定性が得られる。
【0032】
本発明において、トリメチレンメタン系配位子としてトリメチレンメタン誘導体を適用するとき、その置換基Rは、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数3以上9以下の環状アルキル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキニル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアミノ基、炭素数6以上9以下のアリール基、のいずれかである。
【0033】
置換基Rについて、炭素と水素を主体とする上記の炭化水素基に限定するのは、ルテニウム薄膜にとって好ましくない酸素等の元素を化合物の構成元素から排除するためである。
【0034】
また、置換基Rの炭化水素基の炭素数を制限するのは、有機ルテニウム化合物の熱的安定性を考慮しつつ気化特性の好適化を図るためである。
【0035】
本発明で必要とされる熱安定性を確保するためには、分解温度をある程度高くすることが好ましい。一般的に、化学蒸着に適用される金属錯体においては、配位子に炭化水素基が導入された場合、炭化水素基の炭素数の増大と共に分解温度が上昇する傾向にある。よって、熱的安定性を確保するためには一定以上の炭素数が必要であるが、過度に高い分解温度も基板への影響等を考慮すれば好ましくない。また、分解温度を決定付ける要因は、炭素数のみとは限らない。錯体の分解温度は、分岐鎖の有無や二重結合・三重結合の有無、立体構造等による影響も受け得る。これらを考慮して、熱的安定性の調整のために置換基の炭素数が制限される。
【0036】
更に、トリメチレンメタンに適切な炭素数の炭化水素基を導入することで、有機ルテニウム化合物の気化特性の調整が可能となる。但し、置換基の炭素数の増大により化合物の分子量が大きくなると、蒸気圧が低下することが多い。置換基である炭化水素基の炭素数の制限は、蒸気圧等の気化特性を好適な範囲とするためにも必要である。
【0037】
以上のような理由から、本発明は、熱的安定性(分解温度)や気化特性等の各種特性を複合的に考慮して、置換基R(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アリール基)の炭素数を上記のとおり設定した。そして、置換基Rとしてより好ましい炭化水素基は、炭素数2以上4以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数5以上8以下の環状アルキル基、炭素数3以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基、炭素数3以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキニル基、炭素数3以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアミノ基、炭素数6以上8以下のアリール基である。
【0038】
置換基Rの具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基(2-methylpropyl)、sec-ブチル基(1-methylpropyl)、tert-ブチル基(1,1-dimethylethyl)、n-ペンチル基、イソペンチル基(3-methylbutyl)、ネオペンチル基(2,2-dimethylpropyl)、sec-ペンチル基(1-methylbutyl),tert-ペンチル基(1,1-dimethylpropyl)、n-ヘキシル基、イソヘキシル基(4-methylpentyl)、ネオヘキシル基(2,2-dimethylbutyl)、sec-ヘキシル基(1-methylpentyl)、tert-ヘキシル基(1,1-dimethylpentyl)、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、フェニル基、ベンジル基である。より好ましくは、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基(2-methylpropyl),n-ペンチル基、イソペンチル基(3-methylbutyl),ネオペンチル基(2,2-dimethylpropyl)である。これらの具体例において、特に好ましい置換基Rは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基又はネオペンチル基のいずれかである。
【0039】
(B)カルボニル配位子
そして、本発明で適用する有機ルテニウム化合物では、トリメチレンメタン系配位子(L1)と共にルテニウムに配位する配位として、3つのカルボニル配位子を適用する。カルボニル配位子もルテニウムとの結合力が良好であり、錯体全体の熱安定性を向上することができる。また、カルボニル配位子も低分子量の配位子であり、化合物の気化特性を良好にすることができる。
【0040】
(C)本発明の有機ルテニウム化合物の具体例
本発明に係る化学蒸着用原料を構成する有機ルテニウム化合物の好適な具体例は、下記化8の式で示されるような化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0041】
【0042】
次に、本発明に係る化学蒸着用原料を適用した、ルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の化学蒸着法について説明する。本発明に係る化学蒸着法では、これまで説明した有機ルテニウム化合物からなる原料を、加熱することにより気化させて原料ガスを発生させ、この原料ガスを基板表面上に輸送して有機ルテニウム化合物を熱分解させてルテニウム薄膜を形成させるものである。
【0043】
この化学蒸着法における原料の形態に関し、本発明で適用される有機ルテニウム化合物は、蒸気圧が高いので容易に気化して原料ガスにすることができる。また、適宜の溶媒に溶解して、この溶液を加熱して原料ガスを得ることもできる。このときの原料の加熱温度としては、0℃以上150℃以下とするのが好ましい。
【0044】
気化した原料は、適宜のキャリアガスと合流して基板上に輸送される。本発明の有機ルテニウム化合物は、不活性ガス(アルゴン、窒素等)をキャリアガスとし、反応ガスを使用せずともルテニウムの成膜が可能である。但し、ルテニウム薄膜の効率的な成膜のためには、反応ガスの適用が好ましい。そのため、上記した原料ガスは、反応ガスと共に基板上に輸送されることが好ましい。尚、反応ガスは、キャリアガスを兼ねることもできるので、上記した不活性ガス等からなるキャリアガスの適用は必須ではない。
【0045】
原料ガスは反応ガスと共に反応器に輸送され、基板表面で加熱されルテニウム薄膜を形成する。本発明に係る化学蒸着用原料による成膜では、反応ガスとして水素等の還元性ガスを使用可能である。還元性ガスとしては、水素の他、アンモニア、ヒドラジン、ギ酸、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール)等のガスが適用できる。
【0046】
また、本発明の有機ルテニウム化合物によるルテニウム薄膜等の成膜においては、酸化性ガス又は酸素含有反応剤のガスを反応ガスとすることもできる。上記の通り、酸素等の酸化性ガスは、基板の酸化や薄膜への酸素混入を生じさせ得るが、それらを懸念する必要がない場合には酸化性ガス等を反応ガスとすることで効率的な成膜が可能となる。また、本発明の有機ルテニウム化合物は、酸素等を反応ガスとしても比較的で酸化物を生じさせにくい傾向がある。よって、酸素等の酸化性ガスも反応ガスとして有用である。酸化性ガスとしては、酸素、オゾン等が使用できる。また、酸素含有反応剤とは、構成元素として酸素原子を含み、有機ルテニウム化合物の分解反応に活性を有する化合物である。酸素含有反応剤による反応ガスとしては、ガス状の水やアルコール等が挙げられる。
【0047】
成膜時の成膜温度は、150℃以上350℃以下とするのが好ましい。150℃未満では、有機ルテニウム化合物の分解反応が進行し難く、効率的な成膜ができなくなる。一方、成膜温度が350℃を超えて高温となると均一な成膜が困難となると共に、基板へダメージが懸念される等の問題がある。尚、この成膜温度は、通常、基板の加熱温度により調節される。
【発明の効果】
【0048】
本発明に係る化学蒸着用原料を構成する有機ルテニウム化合物は、ルテニウムに配位する配位子の選定により、水素ガス等による反応性が良好である。また、本発明の有機ルテニウム化合物好適な熱安定性を有する。本発明によれば、水素ガス等の還元性雰囲気で高品質のルテニウム薄膜の成膜が可能であり、基板の酸化と薄膜への酸素混入を高次元で抑制できる。
【0049】
尚、本発明の有機ルテニウム化合物の配位子は、蒸気圧等の観点からも好適な構成である。従って、化学蒸着用原料に従来から要求されている気化特性も良好である。以上から、本発明に係る化学蒸着用原料は、近年の高度に微細化された半導体デバイスの電極形成に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】実施例1の有機ルテニウム化合物のDSC測定結果を示す図。
【
図2】実施例2の有機ルテニウム化合物のDSC測定結果を示す図。
【
図3】実施例3の有機ルテニウム化合物のDSC測定結果を示す図。
【
図4】実施例4の有機ルテニウム化合物のDSC測定結果を示す図。
【
図5】比較例1の有機ルテニウム化合物のDSC測定結果を示す図。
【
図6】実施例1~実施例4及び比較例1、比較例2の各有機ルテニウム化合物のTG曲線を示す図。
【
図7】第1実施形態(反応ガス:水素)で成膜した実施例1のルテニウム薄膜の膜厚方向断面を示すSEM像。
【
図8】第1実施形態(反応ガス:水素)で成膜した実施例3のルテニウム薄膜の膜厚方向断面を示すSEM像。
【
図9】第2実施形態(反応ガス:酸素)で成膜した実施例1のルテニウム薄膜の膜厚方向断面を示すSEM像。
【
図10】第2実施形態(反応ガス:酸素)で成膜した実施例3のルテニウム薄膜の膜厚方向断面を示すSEM像。
【発明を実施するための形態】
【0051】
第1実施形態:以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、本発明に係る有機ルテニウム化合物について、合成の可否を確認した。ここでは、トリメチレンメタン系配位子(L1)として、トリメチレンメタン(実施例1)に加え、置換基Rがエチル基(実施例2)、プロピル基(実施例3)、イソブチル基(実施例4)、オクチル基(実施例5)となるトリメチレンメタン系配位子が配位した有機ルテニウム化合物を合成した。そして、これらの有機ルテニウム化合物についての物性評価を行い、更にルテニウム薄膜の成膜試験を行った。
【0052】
[有機ルテニウム化合物の合成]
実施例1:(η4-メチレン-1,3-プロパンジイル)トリカルボニルルテニウムの合成
トリカルボニル-ジクロロルテニウムダイマー50.0g(97.5mmol)をテトラヒドロフラン1400mlに懸濁し、3-クロロ-2-(クロロメチル)-1-プロペン 27.0g(214.5mmol)のテトラヒドロフラン溶液300mlを加えた。削状マグネシウム12.0g(479mmol)をゆっくりと加え、その後室温で8時間撹拌した。反応混合物にメタノール10mLを加えクエンチし、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をペンタン500mLで1回、次いで250mLで2回抽出し、溶媒を減圧留去した。得られたオイルを蒸留精製することで、目的物として無色液体17.0g(71.1mmol)を得た(収率36%)。合成反応は、下記のとおりである。
【0053】
【0054】
実施例2:(η4-2-プロピリデン-1-イル,3-プロパンジイル)トリカルボニルルテニウムの合成
トリカルボニル-ジクロロルテニウムダイマー12.2g(24.0mmol)をテトラヒドロフラン420mlに懸濁し、1-クロロ-2-(クロロメチル)-2-ペンテン82.0g(53.6mmol)のテトラヒドロフラン溶液100mlを加えた。削状マグネシウム4.4g(192mmol)をゆっくりと加え、その後室温で3時間撹拌した。反応混合物にメタノール12mLを加えクエンチし、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をペンタン30mLで3回抽出し、溶媒を減圧留去した。得られたオイルを蒸留精製することで、目的物として無色液体4.84g(18.1mmol)を得た(収率38%)。本実施例における合成反応は、下記のとおりである。
【0055】
【0056】
実施例3:(η4-2-ブチリデン-1,3-プロパンジイル)トリカルボニルルテニウムの合成
トリカルボニル-ジクロロルテニウムダイマー6.12g(12.0mmol)をテトラヒドロフラン200mlに懸濁し、1-クロロ-2-(クロロメチル)-2-ヘキセン4.81g(28.8mmol)のテトラヒドロフラン溶液50mlを加えた。削状マグネシウム22.7g(96.0mmol)をゆっくりと加え、その後室温で3時間撹拌した。反応混合物にメタノール6mLを加えクエンチし、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をペンタン30mLで3回抽出し、溶媒を減圧留去した。得られたオイルを蒸留精製することで、目的物として無色液体27.9g(9.92mmol)を得た(収率41%)。本実施例における合成反応は、下記のとおりである。
【0057】
【0058】
実施例4:(η4-2-(3-メチルブチリデン)-1,3-プロパンジイル)トリカルボニルルテニウムの合成
トリカルボニル-ジクロロルテニウムダイマー6.12g(12.0mmol)をテトラヒドロフラン200mlに懸濁し、1-クロロ-2-(クロロメチル)-5-メチル-2-ヘキセン5.21g(28.8mmol)のテトラヒドロフラン溶液50mlを加えた。削状マグネシウム2.2g(96.0mmol)をゆっくりと加え、その後室温で3時間撹拌した。反応混合物にメタノール6mLを加えクエンチし、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をペンタン30mLで3回抽出し、溶媒を減圧留去した。得られたオイルを蒸留精製することで、目的物として無色液体2.12g(7.18mmol)を得た(収率30%)。本実施例における合成反応は、下記のとおりである。
【0059】
【0060】
実施例5:(η4-2-ノニリデン-1,3-プロパンジイル)トリカルボニルルテニウムの合成
トリカルボニル-ジクロロルテニウムダイマー6.12g(12.0mmol)をテトラヒドロフラン200mlに懸濁し、1-クロロ-2-(クロロメチル)-2-ウンデセン6.83g(28.8mmol)のテトラヒドロフラン溶液50mlを加えた。削状マグネシウム2.2g(96.0mmol)をゆっくりと加え、その後室温で3時間撹拌した。反応混合物にメタノール6mLを加えクエンチし、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をペンタン30mLで3回抽出し、溶媒を減圧留去した。得られたオイルを蒸留精製することで、目的物として3.37g(9.60mmol)を得た(収率40%)。本実施例における合成反応は、下記のとおりである。
【0061】
【0062】
以上のとおり、本実施形態において、置換基Rとして、水素及び炭素数1~8の炭化水素基を有する有機ルテニウム化合物を合成可能であることが確認された。
【0063】
[物性評価]
本実施形態で合成した有機ルテニウム化合物のうち、実施例1~実施例5の化合物について、各種物性(融点、分解温度、気化特性)を検討評価した。
【0064】
(I)融点の検討
各実施例の有機ルテニウム化合物について示差走査熱量測定(DSC)を行い融点と分解温度を測定した。DSCは、測定装置として、NETZSCH社製 DSC3500-ASCにて、サンプル重量1.0mg、キャリアガスを窒素として、走査速度10℃/minで測定温度範囲を-60℃~400℃として測定した。DSCは、比較のため、従来技術である(1,3-シクロヘキサジエン)トリカルボニルルテニウム(上述した化2:比較例1とする)についても行った。実施例1~実施例4及び比較例1の各有機ルテニウム化合物のDSCの結果を
図1~
図5に示す。
【0065】
DSCの結果、実施例1(R=水素)の有機ルテニウム化合物においては、21.5℃で融点を示すピークが観察された。一方、実施例2(R=メチル基)、実施例3(R=エチル基)、実施例4(R=イソブチル基)の有機ルテニウム化合物のDSCでは-60℃を下限とする測定温度範囲での融点を示すシグナルはみられなかった。
【0066】
上記のDSCの結果から、本実施形態に係る有機ルテニウム化合物は、いずれも常温(25℃前後)において液体状態で取り扱うことが可能であることが確認された。そして、トリメチレンメタンに置換基(エチル、プロピル、イソブチル)を導入した実施例2~実施例4の有機ルテニウム化合物は、置換基のない実施例1に対して融点が大きく低下することが分かった。これらの実施例の有機ルテニウム化合物は、常温において更に安定して液体状態を維持できる化合物といえる。トリメチレンメタンに炭化水素基を導入することで、成膜工程における化学蒸着用原料の取扱い性を良好にすることができることが確認された。尚、比較例1の有機ルテニウム化合物の融点は24.6℃であり、実施例1とほぼ同じ融点である。
【0067】
(II)熱安定性の検討
そして、DSCの分析結果から、各有機ルテニウム化合物の分解温度が測定できる。DSCによって測定された各有機ルテニウム化合物の分解温度は下記のとおりである。
【0068】
【0069】
上記のとおり、従来化合物である(1,3-シクロヘキサジエン)トリカルボニルルテニウム(比較例1)の分解温度は190.1℃である。一方、トリメチレンメタン系配位子(L1)が配位する実施例1~実施例4の有機ルテニウム化合物は、比較例1に対して分解温度が高く熱安定性に優れているといえる。尚、置換基Rが水素である実施例1と、置換基として炭化水素基が導入された実施例2~実施例4とを対比すると、エチル基を導入した実施例2では、実施例1よりも分解温度が低下している。そして、プロピル基を導入した実施例3、イソブチル基を導入した実施例4で分解温度が上昇する。置換基の炭素数は、分解温度を変化させるものの単純な傾向を示すわけではなく、分解温度は、錯体中の分枝鎖の存在や立体構造等の影響も受けていると考えられる。
【0070】
(III)気化特性(蒸気圧)の検討
次に、実施例1~実施例4の有機ルテニウム化合物について、熱重量-示唆熱分析(TG-DTA)を用いて気化特性の検討を行った。TG-DTAは、BRUKER社製TG-DTA2000SAにて、サンプル重量5mgをアルミニウム製セルに充填し、窒素雰囲気下にて、昇温速度5℃/min、測定温度範囲室温~500℃にて、熱量および重量変化を観察した。TG-DTAによる検討は、比較のため、比較例1の有機ルテニウム化合物((1,3-シクロヘキサジエン)トリカルボニルルテニウム)と、同じく従来技術であるジカルボニル-ビス(5-メチル-2,4-ヘキサンジケトナト)ルテニウム(上記の化5:比較例2とする)についての測定を行った。
【0071】
実施例1~実施例4、比較例の有機ルテニウム化合物のTG曲線を
図6に示す。実施例1~実施例4のトリメチレンメタン系配位子が配位する有機ルテニウム化合物は、比較例2(ジカルボニル-ビス(5-メチル-2,4-ヘキサンジケトナト)ルテニウム)に対して、いずれも蒸気圧が高く速やかに気化することが分かる。また、比較例1((1,3-シクロヘキサジエン)トリカルボニルルテニウム)との対比においても、実施例1~実施例3の有機ルテニウム化合物は蒸気圧が高い。実施例4は、比較例1と同等の蒸気圧といえる。従って、本実施形態の有機ルテニウム化合物は、蒸気圧の観点からの気化特性は良好といえる。
【0072】
また、実施例1~実施例4を対比すると、置換基として炭化水素基の導入のないトリメチレンメタンが配位する実施例1が最も蒸気圧が高く気化し易い。つまり、置換基が導入され分子量が増大することで、蒸気圧が低下する傾向があることがわかる。もっとも、実施例1はTG-DTA測定の際、試料のセットと同時に気化し始めていたことから、蒸気圧が若干高過ぎともいえた。そのため、トリメチレンメタン配位子に置換基を導入することは、蒸気圧の調整の観点から有効となる場合があると考えられる。
【0073】
以上の物性評価の結果から、本発明のトリメチレンメタン系配位子が配位する有機ルテニウム化合物は、液体で取り扱い性に優れ、好適な蒸気圧で有用な気化特性を有し、その一方で分解温度は200℃以上で適度な熱安定性を有し、化学蒸着用原料として好適であることが確認された。
【0074】
[成膜試験]
本実施形態の実施例1(R=水素)、実施例3(R=プロピル基)の有機ルテニウム化合物について成膜試験を行い、ルテニウム薄膜の成膜可否について検討を行った。また、対比のため、従来の化学蒸着用原料であるジカルボニル-ビス(5-メチル-2,4-ヘキサンジケトナト)ルテニウム(化5、特許文献4)についての成膜試験も行った(比較例2)。
【0075】
本実施形態に係る有機ルテニウム化合物を原料として、CVD装置(ホットウォール式CVD成膜装置)によりルテニウム薄膜を形成させた。成膜条件は下記の通りである。
【0076】
基板材質:Si
キャリアガス(窒素ガス):10sccm、200sccm
反応ガス(水素ガス):10sccm、200sccm
成膜圧力:30torr、50torr
成膜時間:15min、30min
成膜温度:190℃、200℃、210℃、230℃、250℃
【0077】
上記条件でルテニウム薄膜を成膜し、膜厚と抵抗値を測定した。ルテニウム薄膜の膜厚は、日立ハイテクサイエンス社製 EA1200VXを用いたXRF(X線反射蛍光法)の結果から、複数箇所の膜厚を測定し、その平均値を算出した。また、抵抗値は、4探針法にて測定した。この測定の結果を表2に示す。
図7、図8に、実施例1、実施例3のルテニウム薄膜の膜厚方向断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した結果を示す。
【0078】
【0079】
図7及び
図8で示すとおり、実施例1及び実施例3の有機ルテニウム化合物によって、表面が平滑で均一なルテニウム薄膜が形成されていることが確認できる。実施例1及び実施例3の有機ルテニウム化合物によって、短時間で十分な膜厚のルテニウム薄膜が形成できることが確認された。また、比較例2の有機ルテニウム化合物による成膜条件と対比すると、各実施例の有機ルテニウム化合物は、より低温での成膜が可能であることがわかる。本発明に係る有機ルテニウム化合物は、反応ガスである水素との反応性が高く、効率的な成膜を可能とする。
【0080】
また、薄膜の品質に関してみると、比較例2と比較して、比抵抗が格段に低い高品質なルテニウム薄膜であることが確認できる。本発明の有機ルテニウム化合物は、β-ジケトナト配位子を含む比較例2の有機ルテニウム化合物と異なり、ルテニウムに直接配位し得る酸素原子を含まず、水素等との反応性が良好である。そのため、ルテニウム薄膜への酸素混入のおそれが少なく、比抵抗の低い高品質のルテニウム薄膜を成膜できる。
【0081】
第2実施形態:本実施形態では、第1実施形態の実施例1(R=水素)、実施例3(R=プロピル基)、比較例2の有機ルテニウム化合物を原料とし、反応ガスとして酸素を適用してルテニウム薄膜の成膜試験を行った。成膜は、第1実施形態と同じCVD装置(ホットウォール式CVD成膜装置)を使用した。成膜条件は下記の通りである。
【0082】
基板材質:Si
キャリアガス(窒素ガス):10sccm、50sccm
反応ガス(酸素ガス):10sccm
成膜圧力:1torr、2torr、3torr
成膜時間:15min、30min
成膜温度:190℃、210℃、250℃
【0083】
上記条件でルテニウム薄膜を成膜し、膜厚と抵抗値を測定した。ルテニウム薄膜の膜厚及び抵抗値の測定方法は第1実施形態と同様である。この測定の結果を表3に示す。また、
図9及び
図10に、実施例1及び実施例3のルテニウム薄膜のSEM像を示す。
【0084】
【0085】
表3及び
図8、
図9から、実施例1及び実施例3の有機ルテニウム化合物は酸素を反応ガスとしてもルテニウム薄膜を成膜できることが分かる。本実施形態でも、表面が平滑で均一なルテニウム薄膜が形成されている。また、実施例1、3の有機ルテニウム化合物は、比較例2の有機ルテニウム化合物よりも低温で高い成膜速度でルテニウム薄膜を成膜させることができる。そして、成膜したルテニウム薄膜の比抵抗を対比すると、実施例1及び実施例3によるルテニウム薄膜は、比較例2によるルテニウム薄膜と比較して比抵抗が極めて低い。実施例1、3の有機ルテニウム化合物によれば、酸素を反応ガスとしてもルテニウム酸化物の生成が抑制されているためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る化学蒸着用の原料を構成する有機ルテニウム化合物は、熱安定性が高く、反応ガスとして水素等の還元性ガスを適用してもルテニウム薄膜の成膜が可能である。また、酸素を反応ガスとしても良好なルテニウム薄膜の成膜が可能である。本発明に係る化学蒸着用原料は、好適な蒸気圧を有し取扱性も良好である。本発明は、DRAM等の半導体デバイスの配線・電極材料としての使用に好適である。