(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】エッチング方法およびエッチング装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/302 20060101AFI20231024BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
H01L21/302 201A
H01L21/302 105A
(21)【出願番号】P 2022509027
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2021006253
(87)【国際公開番号】W WO2022176142
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2022-02-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】前田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】大竹 浩人
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-197603(JP,A)
【文献】特開2015-185594(JP,A)
【文献】特開2019-012759(JP,A)
【文献】特開2018-098480(JP,A)
【文献】特開2020-043180(JP,A)
【文献】特開2020-088003(JP,A)
【文献】特開2010-182730(JP,A)
【文献】特開2008-187105(JP,A)
【文献】特開2019-091890(JP,A)
【文献】特開2018-207088(JP,A)
【文献】SHERPA, Sonam D. RANJAN, Alok,Quasi-atomic layer etching of silicon nitride,Journal of Vacuum Science & Technology A. Vaccum, Surfaces, and Films,Volume 35, Number 1,米国,2017年05月22日,p.01A102-1 - 01A102-6,ISSN: 0734-2101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素を有するエッチャントを、窒化ケイ素が表面に出ている試料に供給することにより、水素が窒化ケイ素に結合した第一の改質層と、水素とフッ素が窒化ケイ素に結合した第二の改質層を形成し、前記第一の改質層と前記第二の改質層に赤外線を照射して、これらに含まれるフッ化水素を振動励起させて除去するエッチング方法。
【請求項2】
請求項
1に記載のエッチング方法において、
前記フッ化水素を有するエッチャントの供給と同時に、前記試料に赤外線を照射するエッチング方法。
【請求項3】
請求項
1に記載のエッチング方法を実施するエッチング装置であって、
前記試料を内部に収容する処理室と、
前記処理室内に、フッ化水素を含むガスを供給するガス供給部と、
前記処理室内の排気を行う排気装置と、
前記試料に赤外線を照射する照射装置と、
前記試料を冷却する冷却装置と、を有するエッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング方法およびエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等のモバイル機器の普及やクラウド技術の進展に伴い、半導体デバイスの高集積化が世界中で推進されており、付随した高難度な半導体の加工技術が強く求められている。例えばメモリ半導体に関しては、NANDフラッシュメモリにおいて平面での回路微細化に限界が見え始めており、これを踏まえて三次元多段積層技術を用いたメモリが量産適用されている。一方、ロジック半導体に関しては、三次元構造を持つフィン型FET(Field Effect Transistor)が主流となりつつあり、またその先を行く技術としてGAA(Gate All Around)型の半導体技術開発も盛んに行われている。
【0003】
この様な素子構造の三次元化と微細化が同時並行に進んでいくに従って、デバイス製造プロセスにおいては、高精度の加工寸法精度、被エッチング材料と他材料との高選択比、高スループットを実現する高エッチングレート、高精度の等方性エッチング、などが要求されるようになった。特に等方性エッチングに関しては、フッ化水素酸を用いた酸化ケイ素のエッチングや、熱リン酸を用いた窒化ケイ素のエッチングなど、薬液を用いたウェットエッチング技術が広く用いられてきた。一方で、デバイスが微細化していくに伴い、薬液の表面張力に起因するパターン倒壊が問題となってきており、そのような問題の少ない乾式エッチングの技術が強く望まれている。
【0004】
窒化ケイ素は、半導体デバイスにおいてスペーサーなどに広く使用されている材料である。従来の薬液を用いない窒化物の乾式エッチング技術としては、フルオロカーボンプラズマと赤外線照射を用いた窒化チタンのALE(Atomic Layer Etching)の方法が、特許文献1に開示されている。また、フッ化水素(HFという)の振動励起を用いた酸化ケイ素に対する窒化ケイ素の高選択性を確保できるエッチング方法が、非特許文献1および2にて公開されている。
【0005】
非特許文献1および2の技術は、振動励起したHFを窒化ケイ素に照射し、窒素とケイ素の結合破壊の活性化エネルギーを低下させる事により、窒化ケイ素のエッチングを行うものである。酸化ケイ素に対しては、酸素と水素の振動エネルギーとフッ素と水素の振動エネルギーがほぼ同じため共鳴が起き、活性化エネルギーの低下が起こらないとされる。また、解離の活性化エネルギーも低いためHFの吸着があまり起こらず、結果として窒化ケイ素は酸化ケイ素に対して選択的にエッチングされる。ゆえに窒化ケイ素のトリミングなどに限らず、窒化ケイ素と酸化ケイ素の積層膜における窒化ケイ素の選択的なエッチング工程などにおいて非常に重要な技術となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】V. Volynets, Y. Barsukov, G. Kim, J -E. Jung, S. K. Nam, K. Han, S. Huang, and M. J. Kushner, "Highly selective Si3N4/SiO2 etching using an NF3/N2/O2/H2 remote plasma. I. Plasma source and critical fluxes", Journal of Vacuum Science & Technology A Volume 38 023007 (2020), (URL: https://doi.org/10.1116/1.5125568)
【文献】J -E. Jung, Y. Barsukov, V. Volynets G. Kim, S. K. Nam, K. Han, S. Huang, and M. J. Kushner, "Highly selective Si3N4/SiO2 etching using an NF3/N2/O2/H2 remote plasma. II. Surface reaction mechanism", Journal of Vacuum Science & Technology A Volume 38 023008 (2020), (URL: https://doi.org/10.1116/1.5125569)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1および2においては、振動励起したHFをNF3/N2/O2/H2の混合ガスプラズマを用いて窒化ケイ素に供給している。しかし、一般に振動励起したHFの寿命はマイクロ秒以下程度しかなく、また水素プラズマがスカベンジャー効果により生成されたフッ化物イオンやフッ化物ラジカルを消費してしまうため、上記の技術では基板の領域まで十分な量の振動励起したHFを供給する事が困難である。また加工性の観点から言えば、デバイスの高密度化や高積層化により、ホールの底部など細部にエッチャントを十分に供給できない供給律速な状態となり、結果として場所に依らない均一なエッチングを実現する事が困難となる。
【0009】
本発明は、原子層レベルの高い加工寸法制御性、パターン深さ方向における高い均一性、ならびに酸化ケイ素との高い選択性を保ったまま、窒化ケイ素膜を高エッチングレートでエッチング加工できるエッチング方法およびエッチング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
代表的な本発明にかかるエッチング方法の一つは、
フッ化水素を有するエッチャントを、窒化ケイ素が表面に出ている試料に供給することにより、水素が窒化ケイ素に結合した第一の改質層と、水素とフッ素が窒化ケイ素に結合した第二の改質層を形成し、前記第一の改質層と前記第二の改質層に赤外線を照射して、これらに含まれるフッ化水素を振動励起させて除去する、ことにより達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原子層レベルの高い加工寸法制御性、パターン深さ方向における高い均一性、ならびに酸化ケイ素との高い選択性を保ったまま、窒化ケイ素膜を高エッチングレートでエッチング加工できるエッチング方法およびエッチング装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るエッチング装置の概略の構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係るエッチング方法の処理手順の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施形態に係るエッチング方法において、ステップS102からS104の有無による窒化ケイ素膜および酸化ケイ素膜のエッチングレートの変化を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施形態に係るエッチング方法において、窒化ケイ素膜のエッチングレートのステップS102におけるH
2プラズマの照射時間依存性を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施形態に係るエッチング方法において、窒化ケイ素膜のエッチングレートのステップS103におけるSF
6プラズマの照射時間依存性を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施形態に係るエッチング方法において、窒化ケイ素膜および酸化ケイ素膜のエッチングレートの、ステップS102におけるガス種依存性を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の第1の実施形態に係るエッチング方法において、窒化ケイ素膜および酸化ケイ素膜のエッチングレートの、ステップS103におけるガス種依存性を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の第1の実施形態に係るエッチング方法を用いて、窒化ケイ素膜を含む多層構造体を加工したときの処理手順の一例を示す各工程のウェハの断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2の実施形態に係るエッチング方法の処理手順の一例を示す概略図である。
【
図10】
図10は、本発明の第2の実施形態に係るエッチング方法において、ステップS107の有無による窒化ケイ素膜および酸化ケイ素膜のエッチングレートの変化を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の第2の実施形態に係るエッチング方法を用いて、窒化ケイ素膜を含む多層構造体を加工したときの処理手順の一例を示す各工程のウェハの断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の第2の実施形態に係るエッチング方法を用いて、窒化ケイ素膜を含む構造体を加工したときの処理手順の一例を示す各工程のウェハの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者等は、各種ガスを用いて窒化ケイ素のエッチングを試みた。その結果、水素を含有したエッチャントを窒化ケイ素に供給する事によりその表面に水素を含有した改質層が形成され、フッ素を含有したエッチャントを窒化ケイ素に供給する事により水素およびフッ素を含有した改質層が最表面に形成され、当該改質層の生成量が自己飽和性を有する事、および当該改質層は赤外線照射により除去されること、を見出した。
【0015】
本発明は、この新たな知見に基づいて創出されたものである。本発明によれば、窒化ケイ素の表面への水素およびフッ素をエッチャントの供給による改質層形成と、当該表面改質層への赤外線照射により除去を行い、その形成と除去を繰り返す事により所望の量だけ窒化ケイ素をエッチングすることができる。
【0016】
また本発明のエッチング技術によれば、振動励起したHFを窒化ケイ素上に供給するのではなく、水素およびフッ素を含有した改質層を事前に形成し、その上で赤外線を照射する事により振動励起したHFを生成させるため、十分な量の振動励起したHFを効率的に窒化ケイ素へと供給する事が可能となる。ここでHFの振動励起のエネルギーは約2.4μmの波長域に相当するため、上記波長域を含有する赤外線を照射する事により振動励起を起こすことが可能となる。本発明において、水素およびフッ素を含有した改質層の直下に、水素のみを含有した改質層を配置することを一つの特徴としている。
【0017】
一般に、振動励起したHFは、H2+F→HF*+Hの化学式(ここでHF*は振動励起したHFを表す。)に従って生成されるため、フッ素に対して過剰な水素を供給する必要がある。これは対となるF2+H→HF*+Fという反応よりも反応係数が大きいためである。そこで水素のみを含有した改質層を配置する事により、より効率的に振動励起したHFを生成する事が可能となる。
【0018】
また本発明のエッチング技術によれば、自己飽和性を持つ処理を行うので、ウェハ面内方向およびパターン深さ方向のエッチング量における均一性が高くなる。さらにエッチング量は、改質層の深さ、および繰り返したサイクル処理の回数で決まるため、エッチング量を精密に制御する事が可能となる。
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全ての図において、同一の機能を有する者は同一の符号をつけ、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施形態を説明する図面においては、構成を分かり易くするために、平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0020】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について、
図1から
図8を用いて説明する。本実施形態は、H
2ガスのプラズマ、SF
6ガスのプラズマで生成した反応種、および赤外線照射を用いて、窒化ケイ素をエッチングするものである。
【0021】
図1は、本実施形態に係るエッチング装置100の構成の概略を示す断面図である。本エッチング装置100は、処理室101の内部に設けられたウェハステージ102と、処理室101内でウェハステージ102の上部に取り付けられた赤外線ランプ103と、ウェハステージ102の上部に配設されたプラズマ源104と、プラズマ源104の上部に取り付けられたガス導入部105と、ガス導入部105にガスを供給するガス供給部106と、処理室101内のガスを排気するガス排気部107と、
図1で図示しない制御部を具備している。
【0022】
ウェハステージ102上のウェハ(試料)に照射する赤外線は、後に述べる様にHFを振動励起させて窒化ケイ素をエッチングする必要があるため、HFを振動励起させるのに十分な光量をウェハステージに供給できる光源の配置および出力が必要となる。また、ウェハの加熱は、アンモニアシリケイト、アンモニア、フッ化ケイ素などのエッチングによる副生成物を除去する事に寄与するため、加熱機構を有していることが望ましい。赤外線ランプ103を、ウェハステージ102に載置されるウェハを加熱する加熱機構として機能させることも可能である。
【0023】
ガス供給部106は、水素を含むガス、フッ素を含むガス、およびHFの様な水素とフッ素の両方を含むガスを、選択して供給する能力を具備している。水素を含有するガス(エッチャント)の例としては、H2,HCl,HF,H2O,NH3,CH4などが挙げられる。また、フッ素を含有するガス(エッチャント)の例としては、SF6,CF4,CHF3,CH2F2,CH3F,C2F6,C4F8,NF3などが挙げられる。またガス供給部106は、BCl3の様な還元性のあるガスを供給する能力、およびアルゴンや窒素の様な希釈を可能とする不活性ガスを供給する能力を具備している事が望ましい。
【0024】
処理室101の内部には、ガス導入部105から導入されたガスを分散させるガス分散板108を配置でき、また、導入されたガスおよびプラズマ源104により生じたイオンおよびラジカルの量と分布を制御するシールドプレート109を、プラズマ源104とウェハステージ102との間に配置していても良い。さらに、ウェハにイオンが供給されないように処理室101内の圧力を調整したり、プラズマ源104とウェハステージ102の距離を調整する調整機構を設けてもよい。ウェハステージ102は、その上面に載せられるウェハ(半導体基板)を冷やすためにウェハ裏面にヘリウムガスを供給する機構、およびウェハステージ102自体を冷やすチラーなどの冷却機構を備えている事が望ましい。
【0025】
次に、窒化ケイ素エッチングの具体例について述べる。
図2に示す概略図は、本実施形態に係る、窒化ケイ素膜のエッチング方法における処理手順をあらわすものであり、本エッチングの各工程におけるウェハ断面構造の変化を示している。この処理手順は、エッチング装置100の制御部によって進行制御される。
【0026】
まず、ステップS101にて、ウェハステージ102上に窒化ケイ素が表面に出ているウェハを載置する。ステップS102(第一の工程)では、ガス供給部106からガス導入部105を介して水素を含むエッチャントを処理室101内に供給して、ウェハの窒化ケイ素に照射し、その表面の窒化ケイ素に水素が結合した改質層(第一の改質層)L101を形成する。ステップS103(第二の工程)では、ガス導入部105を介してフッ素を含むエッチャントを窒化ケイ素に照射し、最表面の窒化ケイ素に水素およびフッ素が結合した改質層(第二の改質層)L102を形成する。
【0027】
ステップS103では、エッチャントに水素が含まれていると、スカベンジャー効果によりフッ素が消費されてしまって窒化ケイ素に十分な量のフッ素を供給する事が困難となるため、このエッチャントには水素を含有しない事が望ましい。本実施形態においてはラジカルをエッチャントとして供給しているが、エッチャントの供給形態としてはガスでもイオンでも効果は変わらない。エッチャントとしてイオンやラジカルを用いる場合は、プラズマ源104により生成する。
【0028】
ステップS104(第三の工程)では、形成された改質層L101および改質層L102に対して赤外線ランプ103から赤外線を照射する。これにより、HFの振動励起が促され窒化ケイ素膜のエッチングが生じる。
【0029】
図3に具体例として、H
2ガスプラズマによって生じるラジカルと、SF
6ガスプラズマによって生じるラジカル、および赤外線照射を用いて窒化ケイ素および酸化ケイ素の単膜をエッチングした結果を比較して示す。
図3において、エッチングレートの正値が大きいほど、エッチングが進行している。
【0030】
図3の結果によれば、ステップS102に相当するH
2ガスプラズマの照射がない場合、またはステップS104に相当する赤外線照射がない場合は、窒化ケイ素膜のエッチングがほとんど起こらない事がわかる。一方で、ステップS102、ステップS103、ステップS104が全て揃ったときに窒化ケイ素膜の顕著なエッチングが起こる事がわかる。またいずれの場合でも、酸化ケイ素膜のエッチングは生じていない。以上の結果より、窒化ケイ素膜をエッチングするためには、ステップS102、S103、およびS104が必要である事が分かる。
【0031】
図4と
図5に、それぞれH
2ガスプラズマおよびSF
6ガスプラズマの照射時間と、窒化ケイ素膜のエッチングレートとの関係を示す。いずれの場合も照射時間を延ばすとエッチングレートが飽和するという、いわゆる自己飽和性を有している事が分かる。また
図4と
図5を比較するに、自己飽和性を示す照射時間はSF
6ガスプラズマの方が長い。これは水素原子の方がフッ素原子よりも原子半径が小さく、結果として試料のより深部に到達しているためと考えられる。
【0032】
本実施形態によれば、ステップS102、S103を通じて、試料の最表面に水素およびフッ素を含有した改質層L102が形成され、その直下に水素のみを含有した改質層L101が形成されており、この改質層の構造にステップS104にて赤外線を照射する事により窒化ケイ素膜のエッチングが生じる事が分かる。
【0033】
図6にステップS102において、ガス種を変えたときの窒化ケイ素膜のエッチングレートをそれぞれ示す。ガスとしてH
2でなく、HFを導入しても窒化ケイ素膜のエッチングは生じる。以上の結果より、ステップS102において導入するエッチャントは、少なくとも水素を含んでいれば良い事が分かる。
【0034】
図7にステップS103において、ガス種を変えたときの窒化ケイ素膜のエッチングレートをそれぞれ示す。ガスとしてSF
6でなく、CF
4を導入しても窒化ケイ素膜のエッチングは生じる。一方で、CHF
3やCH
2F
2を導入すると窒化ケイ素膜のエッチングは生じない。以上の結果より、ステップS103において導入するエッチャントはフッ素を含んでいれば良いが、水素も含んでいることは望ましくない事が分かる。なお、ステップS103において、フッ素を有するエッチャントと同時に、窒素を有するエッチャントをウェハに供給してもよい。
【0035】
以上から明らかであるが、本実施形態にかかるエッチング方法は、酸化ケイ素膜に対して高い選択性を有する。ゆえにステップS101とS102の間に、自然酸化膜などの初期酸化膜を除去するためのステップを追加すること、およびBCl3などの還元性のあるエッチャントを導入する事もエッチングレート増大に効果的である。また窒化ケイ素膜は窒素を含み、窒素はケイ素よりも動きやすいため、N2やNF3などの窒素を含むエッチャントを導入する事は、自己複合性を期待できるため、ラフネスの低減などに効果的であると考えられる。
【0036】
次に、実際のデバイス構造における窒化ケイ素のエッチングに関して述べる。窒化ケイ素のエッチング、特に酸化ケイ素膜に対する高選択な等方性エッチングは、ダミーワード線の除去工程などへの適用が期待される。
【0037】
図8にデバイス構造の模式図を示す。窒化ケイ素層と酸化ケイ素層が交互に積層されており、本発明でエッチャントとしてガスやラジカルを用いることで、酸化ケイ素をエッチングする事なく窒化ケイ素のみを横方向に選択的にエッチングする事が可能となる。また本実施形態の方法に依れば、上述の様に自己飽和性を持つ改質層を形成するため、ホールの上下でエッチング量を均一にすることができる。またエッチング時間やエッチャント量を変える事により、改質層の厚さなどを制御する事で、エッチング量も精密に制御する事が可能となる。
【0038】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について、
図9から
図12を用いて説明する。本実施形態は、HFガスのプラズマで生成した反応種、および赤外線照射を用いて、窒化ケイ素をエッチングする例に関するものである。本実施形態においても、
図1に示すエッチング装置を用いて実施できる。
【0039】
図9に示す概略図は、本実施形態に係る、窒化ケイ素膜のエッチング方法における処理手順をあらわすものであり、本エッチングの各工程におけるウェハ断面構造の変化を示している。この処理手順は、エッチング装置100の制御部によって進行制御される。
【0040】
ステップS105にて、ウェハステージ102上に窒化ケイ素が表面に出ているウェハを載置する。ステップS106では、ガス導入部105よりHFを含むエッチャントを窒化ケイ素に照射する。水素原子の方がフッ素原子よりも原子半径が小さく、結果として試料のより深部に到達するため、第1の実施形態と同様に最表面に水素とフッ素を含有した改質層L104(第一の改質層)と、改質層L104の直下にて水素を含有した改質層L103(第二の改質層)が形成される。
【0041】
本実施形態においてはラジカルをエッチャントとして供給しているが、エッチャントの供給形態としてはガスでもイオンでも効果は変わらない。エッチャントとしてイオンやラジカルを用いる場合は、プラズマ源104により生成する。
【0042】
ステップS107では、形成された改質層L103および改質層L104に対して赤外線ランプ103から赤外線を照射してHFの振動励起を促す。これにより窒化ケイ素膜のエッチングが生じる。
【0043】
図10に具体例として、HFガスのプラズマによって生じるラジカルと、および赤外線照射を用いて窒化ケイ素および酸化ケイ素の単膜をエッチングした結果を比較して示す。
図10において、エッチングレートの正値が大きいほど、エッチングが進行している。このとき単膜は2cm角程度であり、300mmのシリコン基板上に配置した。
【0044】
図10の結果より、ステップS107に相当する赤外線照射がない場合は、窒化ケイ素膜のエッチングが起こらない事がわかる。一方で、ステップS106とステップS107が全て実行されたときに、窒化ケイ素膜のエッチングが起こっており、またいずれの場合でも、酸化ケイ素膜のエッチングは生じていない事がわかる。
【0045】
以上の結果より、窒化ケイ素膜をエッチングするためには、ステップS106およびS107が必要である事が分かる。またHFガスのプラズマ照射と同時に赤外線を照射しても、窒化ケイ素膜はエッチングされるため、窒化ケイ素のエッチングを行うためには、エッチャントの供給と同時に赤外線を照射しても良い事が分かる。
【0046】
前述の赤外線を同時に照射するエッチング方法は、これまで述べてきたサイクルエッチングだけでなく、連続エッチングでも適用可能である。その一方で、窒化ケイ素膜の上に赤外線を透過しないアルミナ基材の傘を設置し、赤外線が試料のみに直接照射されない状態にすると窒化ケイ素膜のエッチングは起きない(
図10参照)。シリコン基板自体は赤外線で照射されるため温度が上昇し、試料も加熱されていると考えられるため、窒化ケイ素膜のエッチングは昇温ではなく赤外線照射によって生じる事が分かる。また設置したアルミナの傘により赤外線は直接照射されないが、反射などの効果により微小な赤外線は照射されていると考えられる。
【0047】
以上の結果より、赤外線照射はHFの振動励起を駆動するのに必要であり、また適切な駆動のためには、一定以上の強度の赤外線照射が必要であることがわかる。このため、ウェハステージ102と赤外線ランプ103の距離、または赤外線ランプ103の発光強度の調整が重要である。
【0048】
次に、実際のデバイス構造における窒化ケイ素のエッチングに関して述べる。窒化ケイ素のエッチング、特にエッチング量の精密な制御が可能な原子層レベルエッチングは、デバイスの側壁部を平坦化するトリミングの工程にも適用可能である。
【0049】
図11にデバイスの概略図を示す。前工程において異種材料よりも突き出た構造で窒化ケイ素が残存するデバイス構造において、本実施形態でエッチャントとしてガスやラジカルを用いることで、異種材料をエッチングする事なく窒化ケイ素のみを横方向に選択的にエッチングする事が可能となる。また本実施形態においてイオンを用いることで、窒化ケイ素の異方性エッチングも可能である。
【0050】
図12に、DRAMにおける窒化ケイ素からなるソースおよびドレインの異方性エッチングの概略図を示す。本実施形態においてイオンを用いると、窒化ケイ素の側壁ではなく上部のみに改質層L103および改質層L104が形成されるため、窒化ケイ素膜の異方性エッチングが可能となる。
【0051】
本発明によれば、水素を含有する改質層および水素とフッ素を含有する改質層を窒化ケイ素膜に形成した上で赤外線を照射する事により、十分な量の振動励起したHFを窒化ケイ素膜に供給する事が可能となる。その結果、窒化ケイ素膜を、原子層レベルの高い加工寸法制御性、パターン深さ方向における高い均一性、ならびに酸化ケイ素との高い選択性を保ったまま高エッチングレートでエッチング加工できる技術を提供する事ができる。
【符号の説明】
【0052】
100・・エッチング装置、101・・処理室101、102・・ウェハステージ(冷却装置)、103・・赤外線ランプ(照射装置)、104・・プラズマ源、105・・ガス導入部、106・・ガス供給部、107・・ガス排気部(排気装置)、108・・ガス分散板、109・・シールドプレート(イオンを遮蔽するための穴の開いた遮蔽板)