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特許7372452光電変換膜、分散液、光検出素子およびイメージセンサ
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  • 特許-光電変換膜、分散液、光検出素子およびイメージセンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】光電変換膜、分散液、光検出素子およびイメージセンサ
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/08 20060101AFI20231024BHJP
【FI】
H01L31/08 L
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022514051
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2021014425
(87)【国際公開番号】W WO2021206032
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2020068717
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅司
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-089690(JP,A)
【文献】特表2018-529214(JP,A)
【文献】特開2014-093327(JP,A)
【文献】特開2012-109434(JP,A)
【文献】国際公開第2019/058448(WO,A1)
【文献】特開2018-162378(JP,A)
【文献】特表2019-536744(JP,A)
【文献】特開2003-101153(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0299772(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/119
H10K 30/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag元素と、Sb元素およびBi元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物半導体の量子ドットを含む光電変換膜。
【請求項2】
前記化合物半導体は、Ag元素と、Bi元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む、請求項1に記載の光電変換膜。
【請求項3】
前記化合物半導体は、Ag元素とBi元素とTe元素とを含む、請求項1に記載の光電変換膜。
【請求項4】
前記化合物半導体は、更にS元素を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の光電変換膜。
【請求項5】
前記化合物半導体は、Ag元素と、Sb元素およびBi元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Te元素と、S元素とを含み、Te元素の数を、Te元素の数とS元素の数の合計で割った値が0.05~0.5である、請求項1に記載の光電変換膜。
【請求項6】
前記化合物半導体の結晶構造が、立方晶系または六方晶系である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光電変換膜。
【請求項7】
前記量子ドットのバンドギャップが1.2eV以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の光電変換膜。
【請求項8】
前記量子ドットのバンドギャップが1.0eV以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の光電変換膜。
【請求項9】
前記量子ドットの平均粒子径が3~20nmである、請求項1~8のいずれか1項に記載の光電変換膜。
【請求項10】
前記量子ドットに配位する配位子を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の光電変換膜。
【請求項11】
前記配位子は、ハロゲン原子を含む配位子、および、配位部を2以上含む多座配位子から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項10に記載の光電変換膜。
【請求項12】
前記ハロゲン原子を含む配位子が無機ハロゲン化物である、請求項11に記載の光電変換膜。
【請求項13】
Ag元素と、Sb元素およびBi元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物半導体の量子ドットと、前記量子ドットに配位する配位子と、溶剤とを含む光電変換膜形成用の分散液。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の光電変換膜を含む光検出素子。
【請求項15】
請求項14に記載の光検出素子を含むイメージセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドットを含む光電変換膜に関する。また、本発明は、量子ドットを含む分散液、光検出素子およびイメージセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンや監視カメラ、車載カメラ等の領域において、赤外領域の光を検出可能な光検出素子に注目が集まっている。
【0003】
従来より、イメージセンサなどに用いられる光検出素子には、光電変換層の素材としてシリコンウエハを用いたシリコンフォトダイオードが使用されている。しかしながら、シリコンフォトダイオードでは、波長900nm以上の赤外領域では感度が低い。
【0004】
また、近赤外光の受光素子として知られるInGaAs系の半導体材料は、高い量子効率を実現するためにはエピタキシャル成長や基板の貼り合わせ工程が必要であるなど、非常に高コストなプロセスを必要としていることが課題であり、普及が進んでいない。
【0005】
また、近年では、量子ドットについての研究が進められている。非特許文献1には、AgBiSの量子ドットを含む光電変換膜を有する太陽電池セルについて記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Maria Bernechea,Nichole Cates Miller,Guillem Xercavins,David So,Alexandros Stavrinadis and Gerasimos Konstantatos,「Solution-processed solar cells based on environmentally friendly AgBiS2 nanocrystals」,Nature Photonics,Vol 10,pp521-525 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、イメージセンサなどの性能向上の要求に伴い、これらに使用される光検出素子に求められる諸特性に関しても更なる向上が求められている。例えば、光検出素子に求められる特性の一つとして、光検出素子にて検出する目的の波長の光に対して高い外部量子効率を有することなどがある。光検出素子の外部量子効率を高めることで、光検出素子での光の検出精度を高めることなどができる。
【0008】
本発明者が、非特許文献1に記載された太陽電池セルの光電変換層に用いられている半導体膜について鋭意検討したところ、AgBiSの量子ドットを含む光電変換膜では、赤外域の波長の光(特に波長900nm以上の光)に対する外部量子効率が低く、この光電変換膜を用いた光検出素子では、赤外域の波長の光に対する検出精度が不十分であることが分かった。
【0009】
よって、本発明の目的は、赤外域の波長の光に対して高い外部量子効率を有する新規な光電変換膜、分散液、光検出素子およびイメージセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が鋭意検討を行ったところ、Ag元素と、Sb元素およびBi元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物半導体の量子ドットは、バンドギャップが小さく、この量子ドットを含む光電変換膜は、赤外域の波長の光に対して高い外部量子効率を有することを見出し、本発明を完成するに至った。よって、本発明は以下を提供する。
<1> Ag元素と、Sb元素およびBi元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物半導体の量子ドットを含む光電変換膜。
<2> 上記化合物半導体は、Ag元素と、Bi元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む、<1>に記載の光電変換膜。
<3> 上記化合物半導体は、Ag元素とBi元素とTe元素とを含む、<1>に記載の光電変換膜。
<4> 上記化合物半導体は、更にS元素を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の光電変換膜。
<5> 上記化合物半導体は、Ag元素と、Sb元素およびBi元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Te元素と、S元素とを含み、Te元素の数を、Te元素の数とS元素の数の合計で割った値が0.05~0.5である、<1>に記載の光電変換膜。
<6> 上記化合物半導体の結晶構造が、立方晶系または六方晶系である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の光電変換膜。
<7> 上記量子ドットのバンドギャップが1.2eV以下である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の光電変換膜。
<8> 上記量子ドットのバンドギャップが1.0eV以下である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の光電変換膜。
<9> 上記量子ドットの平均粒子径が3~20nmである、<1>~<8>のいずれか1つに記載の光電変換膜。
<10> 上記量子ドットに配位する配位子を含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載の光電変換膜。
<11> 上記配位子は、ハロゲン原子を含む配位子、および、配位部を2以上含む多座配位子から選ばれる少なくとも1種を含む、<10>に記載の光電変換膜。
<12> 上記ハロゲン原子を含む配位子が無機ハロゲン化物である、<11>に記載の光電変換膜。
<13> Ag元素と、Sb元素およびBi元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物半導体の量子ドットと、上記量子ドットに配位する配位子と、溶剤とを含む光電変換膜形成用の分散液。
<14> <1>~<12>のいずれか1つに記載の光電変換膜を含む光検出素子。
<15> <14>に記載の光検出素子を含むイメージセンサ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、赤外域の波長の光に対して高い外部量子効率を有する新規な光電変換膜、分散液、光検出素子およびイメージセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】光検出素子の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。
本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。
本明細書において、「半導体」とは、比抵抗値が10-2Ωcm以上10Ωcm以下である物質を意味する。
【0014】
<光電変換膜>
本発明の光電変換膜は、Ag元素と、Sb元素およびBi元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物半導体の量子ドットを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の光電変換膜は、赤外域の波長の光に対して高い外部量子効率を有している。このため、本発明の光電変換膜を光検出素子に用いることで、赤外域の波長の光に対して高い感度を有する光検出素子とすることができる。また、本発明の光電変換膜は、可視域の波長の光に対しても高い外部量子効率を有しているので、本発明の光電変換膜を用いた光検出素子は、赤外域の波長の光と可視域の波長の光(好ましくは波長400~700nmの範囲の光)とを同時に検出することができる。
【0016】
光電変換膜の厚みは、特に制限されないが、高い電気伝導性を得る観点から、10~1000nmであることが好ましい。厚みの下限は、20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。厚みの上限は、600nm以下であることが好ましく、550nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることが更に好ましく、450nm以下であることが特に好ましい。
【0017】
以下、本発明の光電変換膜についての詳細を説明する。
【0018】
本発明の光電変換膜は、Ag(銀)元素と、Sb(アンチモン)元素およびBi(ビスマス)元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Se(セレン)元素およびTe(テルル)元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物半導体の量子ドットを含む。なお、化合物半導体とは、2種以上の元素で構成される半導体のことである。したがって、本明細書において、「Ag元素と、Sb元素およびBi元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物半導体」とは、化合物半導体を構成する元素として、Ag元素と、Sb元素およびBi元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物半導体のことである。また、本明細書において、「半導体」とは、比抵抗値が10-2Ωcm以上10Ωcm以下である物質を意味する。
【0019】
上記量子ドットを構成する量子ドット材料である上記化合物半導体は、Ag元素と、Bi元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物半導体であることが好ましく、Ag元素と、Bi元素と、Te元素とを含む化合物半導体であることがより好ましい。この態様によれば、赤外域の波長の光に対して高い外部量子効率を有する光電変換膜が得られやすい。
【0020】
化合物半導体は、更にS(硫黄)元素を含む化合物半導体であることが好ましい。この態様によれば、赤外域の波長の光に対して高い外部量子効率を有する光電変換膜が得られやすい。なかでも、化合物半導体は、Ag元素と、Bi元素と、Te元素とS元素とを含む化合物半導体(以下、Ag-Bi-Te-S系半導体ともいう)であることが好ましい。また、Ag-Bi-Te-S系半導体としては、Te元素の数を、Te元素の数とS元素の数の合計で割った値(Te元素の数/(Te元素の数+S元素の数))が0.05~0.5であることが好ましい。下限は、0.1以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.2以上であることが更に好ましい。上限は、0.45以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましい。本明細書において、化合物半導体を構成する各元素の種類および数については、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光法や、エネルギー分散型X線分析法によって測定することができる。
【0021】
化合物半導体は、式(1)で表される化合物であることが好ましい。
Agn1 n2 n3n4 ・・・(1)
は、SbまたはBiを表し、Yは、TeまたはSeを表し、n1およびn2はそれぞれ独立して0を超え2以下の数を表し、n3は0を超え4以下の数を表し、n4は0以上4以下の数を表す。
【0022】
は、Biであることが好ましい。
は、Teであることが好ましい。
n1/n2の値は、0.2~3.0であることが好ましい。下限は、0.3以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.6以上であることが更に好ましい。上限は、2.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.8以下であることが更に好ましい。
(n3+n4)/n2の値は、1.5~3.0であることが好ましい。下限は、1.6以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましく、1.9以上であることが更に好ましい。上限は、2.5以下であることが好ましく、2.4以下であることがより好ましく、2.2以下であることが更に好ましい。
n3/(n3+n4)の値は、0.05~0.5であることが好ましい。下限は、0.1以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.2以上であることが更に好ましい。上限は、0.45以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましい。n3/(n3+n4)の値は、1であってもよい(すなわち、n4がゼロであってもよい)
【0023】
化合物半導体の結晶構造については、特に限定はされない。化合物半導体を構成する元素の種類や元素の組成比により種々の結晶構造をとることができるが、半導体としてのバンドギャップを適切に制御しやすく、また高い結晶性を実現しやすいという理由から立方晶系または六方晶系の結晶構造であることが好ましい。本明細書において、化合物半導体の結晶構造は、X線回折法や電子線回折法によって測定することができる。
【0024】
上記化合物半導体の量子ドットのバンドギャップは、1.2eV以下であることが好ましく、1.0eV以下であることがより好ましい。上記化合物半導体の量子ドットのバンドギャップの下限値は、特に限定はないが、0.3eV以上であることが好ましく、0.5eV以上であることがより好ましい。
【0025】
上記化合物半導体の量子ドットの平均粒径は、3~20nmであることが好ましい。上記化合物半導体の量子ドットの平均粒径の下限値は、4nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましい。また、上記化合物半導体の量子ドットの平均粒径の上限値は、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。上記化合物半導体の量子ドットの平均粒径が上記範囲であれば、赤外域の波長の光に対して高い外部量子効率を有する光電変換膜が得られやすい。なお、本明細書において、量子ドットの平均粒径の値は、任意に選択された量子ドット10個の粒径の平均値である。量子ドットの粒径の測定には、透過型電子顕微鏡を用いればよい。
【0026】
本発明の光電変換膜は、上記化合物半導体の量子ドットに配位する配位子を含むことが好ましい。配位子としては、ハロゲン原子を含む配位子、および、配位部を2以上含む多座配位子が挙げられる。光電変換膜は、配位子を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。なかでも、光電変換膜は、ハロゲン原子を含む配位子と多座配位子とを含むことが好ましい。ハロゲン原子を含む配位子を用いた場合は、量子ドットの配位子による表面被覆率を高めやすく、その結果より高い外部量子効率などが得られる。多座配位子を用いた場合は、多座配位子が量子ドットにキレート配位しやすく、量子ドットからの配位子の剥がれなどをより効果的に抑制でき、優れた耐久性が得られる。更には、キレート配位することで量子ドット同士の立体障害を抑制でき、高い電気伝導性が得られやすくなり、高い外部量子効率が得られる。そして、ハロゲン原子を含む配位子と多座配位子とを併用した場合は、より高い外部量子効率が得られやすい。上述したように、多座配位子は量子ドットに対してキレート配位すると推測される。そして、量子ドットに配位する配位子として、更に、ハロゲン原子を含む配位子を含む場合には、多座配位子が配位していない隙間にハロゲン原子を含む配位子が配位すると推測され、量子ドットの表面欠陥をより低減することができると推測される。このため、外部量子効率をより向上させることができると推測される。
【0027】
まず、ハロゲン原子を含む配位子について説明する。配位子に含まれるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられ、配位力の観点からヨウ素原子であることが好ましい。
【0028】
ハロゲン原子を含む配位子は、有機ハロゲン化物であってもよく、無機ハロゲン化物であってもよい。なかでも、量子ドットの陽イオンサイト及び陰イオンサイトの両方に配位しやすいという理由から無機ハロゲン化物であることが好ましい。また、無機ハロゲン化物は、Zn(亜鉛)原子、In(インジウム)原子およびCd(カドミウム)原子から選ばれる金属元素を含む化合物であることが好ましく、Zn原子を含む化合物であることがより好ましい。無機ハロゲン化物としては、容易にイオン化して、量子ドットに配位しやすいという理由から金属原子とハロゲン原子との塩であることが好ましい。
【0029】
ハロゲン原子を含む配位子の具体例としては、ヨウ化亜鉛、臭化亜鉛、塩化亜鉛、ヨウ化インジウム、臭化インジウム、塩化インジウム、ヨウ化カドミウム、臭化カドミウム、塩化カドミウム、ヨウ化ガリウム、臭化ガリウム、塩化ガリウム、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラメチルアンモニウムヨージドなどが挙げられ、ヨウ化亜鉛が特に好ましい。
【0030】
なお、ハロゲン原子を含む配位子では、前述の配位子からハロゲンイオンが解離して量子ドットの表面にハロゲンイオンが配位していることもある。また、前述の配位子のハロゲン原子以外の部位についても、量子ドットの表面に配位している場合もある。具体例を挙げて説明すると、ヨウ化亜鉛の場合は、ヨウ化亜鉛が量子ドットの表面に配位していることもあれば、ヨウ素イオンや亜鉛イオンが量子ドットの表面に配位していることもある。
【0031】
次に、多座配位子について説明する。多座配位子に含まれる配位部としては、チオール基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基、ホスホン酸基が挙げられる。
【0032】
多座配位子としては、式(A)~(C)のいずれかで表される配位子が挙げられる。
【化1】
【0033】
式(A)中、XA1及びXA2はそれぞれ独立して、チオール基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基又はホスホン酸基を表し、
A1は炭化水素基を表す。
【0034】
式(B)中、XB1及びXB2はそれぞれ独立して、チオール基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基又はホスホン酸基を表し、
B3は、S、O又はNHを表し、
B1及びLB2は、それぞれ独立して炭化水素基を表す。
【0035】
式(C)中、XC1~XC3はそれぞれ独立して、チオール基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基又はホスホン酸基を表し、
C4は、Nを表し、
C1~LC3は、それぞれ独立して炭化水素基を表す。
【0036】
A1、XA2、XB1、XB2、XC1、XC2およびXC3が表すアミノ基には、-NHに限定されず、置換アミノ基および環状アミノ基も含まれる。置換アミノ基としては、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基などが挙げられる。これらの基が表すアミノ基としては、-NH、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基が好ましく、-NHであることがより好ましい。
【0037】
A1、LB1、LB2、LC1、LC2およびLC3が表す炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であってもよく、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。炭化水素基の炭素数は、1~20が好ましい。炭素数の上限は、10以下が好ましく、6以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。炭化水素基の具体例としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が挙げられる。
【0038】
アルキレン基は、直鎖アルキレン基、分岐アルキレン基および環状アルキレン基が挙げられ、直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基であることが好ましく、直鎖アルキレン基であることがより好ましい。アルケニレン基は、直鎖アルケニレン基、分岐アルケニレン基および環状アルケニレン基が挙げられ、直鎖アルケニレン基または分岐アルケニレン基であることが好ましく、直鎖アルケニレン基であることがより好ましい。アルキニレン基は、直鎖アルキニレン基および分岐アルキニレン基が挙げられ、直鎖アルキニレン基であることが好ましい。アルキレン基、アルケニレン基およびアルキニレン基は更に置換基を有していてもよい。置換基は、原子数1以上10以下の基であることが好ましい。原子数1以上10以下の基の好ましい具体例としては、炭素数1~3のアルキル基〔メチル基、エチル基、プロピル基、及びイソプロピル基〕、炭素数2~3のアルケニル基〔エテニル基およびプロペニル基〕、炭素数2~4のアルキニル基〔エチニル基、プロピニル基等〕、シクロプロピル基、炭素数1~2のアルコキシ基〔メトキシ基およびエトキシ基〕、炭素数2~3のアシル基〔アセチル基、及びプロピオニル基〕、炭素数2~3のアルコキシカルボニル基〔メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基〕、炭素数2のアシルオキシ基〔アセチルオキシ基〕、炭素数2のアシルアミノ基〔アセチルアミノ基〕、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基〔ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基〕、アルデヒド基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基、カルバモイル基、シアノ基、イソシアネート基、チオール基、ニトロ基、ニトロキシ基、イソチオシアネート基、シアネート基、チオシアネート基、アセトキシ基、アセトアミド基、ホルミル基、ホルミルオキシ基、ホルムアミド基、スルファミノ基、スルフィノ基、スルファモイル基、ホスホノ基、アセチル基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子等が挙げられる。
【0039】
式(A)において、XA1とXA2はLA1によって、1~10原子隔てられていることが好ましく、1~6原子隔てられていることがより好ましく、1~4原子隔てられていることが更に好ましく、1~3原子隔てられていることがより一層好ましく、1または2原子隔てられていることが特に好ましい。
【0040】
式(B)において、XB1とXB3はLB1によって、1~10原子隔てられていることが好ましく、1~6原子隔てられていることがより好ましく、1~4原子隔てられていることが更に好ましく、1~3原子隔てられていることがより一層好ましく、1または2原子隔てられていることが特に好ましい。また、XB2とXB3はLB2によって、1~10原子隔てられていることが好ましく、1~6原子隔てられていることがより好ましく、1~4原子隔てられていることが更に好ましく、1~3原子隔てられていることがより一層好ましく、1または2原子隔てられていることが特に好ましい。
【0041】
式(C)において、XC1とXC4はLC1によって、1~10原子隔てられていることが好ましく、1~6原子隔てられていることがより好ましく、1~4原子隔てられていることが更に好ましく、1~3原子隔てられていることがより一層好ましく、1または2原子隔てられていることが特に好ましい。また、XC2とXC4はLC2によって、1~10原子隔てられていることが好ましく、1~6原子隔てられていることがより好ましく、1~4原子隔てられていることが更に好ましく、1~3原子隔てられていることがより一層好ましく、1または2原子隔てられていることが特に好ましい。また、XC3とXC4はLC3によって、1~10原子隔てられていることが好ましく、1~6原子隔てられていることがより好ましく、1~4原子隔てられていることが更に好ましく、1~3原子隔てられていることがより一層好ましく、1または2原子隔てられていることが特に好ましい。
【0042】
なお、XA1とXA2はLA1によって、1~10原子隔てられているとは、XA1とXA2とをつなぐ最短距離の分子鎖を構成する原子の数が1~10個であることを意味する。例えば、下記式(A1)の場合は、XA1とXA2とが2原子隔てられており、下記式(A2)および式(A3)の場合は、XA1とXA2とが3原子隔てられている。以下の構造式に付記した数字は、XA1とXA2とをつなぐ最短距離の分子鎖を構成する原子の配列の順番を表している。
【化2】
【0043】
具体的化合物を挙げて説明すると、3-メルカプトプロピオン酸は、XA1に相当する部位がカルボキシ基で、XA2に相当する部位がチオール基で、LA1に相当する部位がエチレン基である構造の化合物である(下記構造の化合物)。3-メルカプトプロピオン酸においては、XA1(カルボキシ基)とXA2(チオール基)とがLA1(エチレン基)によって2原子隔てられている。
【化3】
【0044】
B1とXB3はLB1によって、1~10原子隔てられていること、XB2とXB3はLB2によって、1~10原子隔てられていること、XC1とXC4はLC1によって、1~10原子隔てられていること、XC2とXC4はLC2によって、1~10原子隔てられていること、XC3とXC4はLC3によって、1~10原子隔てられていることの意味についても上記と同様である。
【0045】
多座配位子の具体例としては、3-メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2-アミノエタノール、2-アミノエタンチオール、2-メルカプトエタノール、グリコール酸、エチレングリコール、エチレンジアミン、アミノスルホン酸、グリシン、アミノメチルリン酸、グアニジン、ジエチレントリアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、4-メルカプトブタン酸、3-アミノプロパノール、3-メルカプトプロパノール、N-(3-アミノプロピル)-1,3-プロパンジアミン、3-(ビス(3-アミノプロピル)アミノ)プロパン-1-オール、1-チオグリセロール、ジメルカプロール、1-メルカプト-2-ブタノール、1-メルカプト-2-ペンタノール、3-メルカプト-1-プロパノール、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ジエタノールアミン、2-(2-アミノエチル)アミノエタノール、ジメチレントリアミン、1,1-オキシビスメチルアミン、1,1-チオビスメチルアミン、2-[(2-アミノエチル)アミノ]エタンチオール、ビス(2-メルカプトエチル)アミン、2-アミノエタン-1-チオール、1-アミノ-2-ブタノール、1-アミノ-2-ペンタノール、L-システイン、D-システイン、3-アミノ-1-プロパノール、L-ホモセリン、D-ホモセリン、アミノヒドロキシ酢酸、L-乳酸、D-乳酸、L-リンゴ酸、D-リンゴ酸、グリセリン酸、2-ヒドロキシ酪酸、L-酒石酸、D-酒石酸、タルトロン酸およびこれらの誘導体が挙げられ、暗電流が低く、外部量子効率の高い半導体膜が得られやすいという理由から、チオグリコール酸、2-アミノエタノール、2-アミノエタンチオール、2-メルカプトエタノール、グリコール酸、ジエチレントリアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、1-チオグリセロール、ジメルカプロール、エチレンジアミン、エチレングリコール、アミノスルホン酸、グリシン、(アミノメチル)ホスホン酸、グアニジン、ジエタノールアミン、2-(2-アミノエチル)アミノエタノール、ホモセリン、システイン、チオリンゴ酸、リンゴ酸および酒石酸が好ましく、チオグリコール酸、2-アミノエタノール、2-メルカプトエタノールおよび2-アミノエタンチオールがより好ましく、チオグリコール酸が更に好ましい。
【0046】
<分散液>
本発明の分散液は、光電変換膜形成用の分散液であって、Ag元素と、Sb元素およびBi元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物半導体の量子ドットと、量子ドットに配位する配位子と、溶剤と、を含む。
【0047】
量子ドットの詳細は上述のとおりであり、好ましい態様も同様である。分散液中の量子ドットの含有量は、1~500mg/mLであることが好ましく、10~200mg/mLであることがより好ましく、20~100mg/mLであることが更に好ましい。
【0048】
量子ドット分散液に含まれる配位子は、量子ドットに配位する配位子として働くと共に、立体障害となり易い分子構造を有しており、溶剤中に量子ドットを分散させる分散剤としての役割も果たすものが好ましい。
【0049】
配位子は、量子ドットの分散性を向上する観点から、主鎖の炭素数が少なくとも6以上の配位子であることが好ましく、主鎖の炭素数が10以上の配位子であることがより好ましい。配位子は、飽和化合物でも、不飽和化合物のいずれでもよい。配位子の具体例としては、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エルカ酸、オレイルアミン、ステアリルアミン、1-アミノデカン、ドデシルアミン、アニリン、ドデカンチオール、1,2-ヘキサデカンチオール、トリブチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリブチルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、臭化セトリモニウム等が挙げられ、オレイン酸、オレイルアミン、ドデカンチオール、トリオクチルホスフィンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0050】
分散液中の配位子の含有量は、分散液の全体積に対し、0.1mmol/L~500mmol/Lであることが好ましく、0.5mmol/L~100mmol/Lであることがより好ましい。
【0051】
分散液に含まれる溶剤は、特に制限されないが、量子ドットを溶解し難く、かつ、配位子を溶解し易い溶剤であることが好ましい。溶剤としては、有機溶剤が好ましい。具体例としては、アルカン類(n-ヘキサン、n-オクタン等)、アルケン類(オクタデセンなど)、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。分散液に含まれる溶剤は、1種のみであってもよいし、2種以上を混合した混合溶剤であってもよい。
【0052】
分散液中の溶剤の含有量は、50~99質量%であることが好ましく、70~99質量%であることがより好ましく、90~98質量%であることが更に好ましい。
【0053】
本発明の分散液は、本発明の効果を損なわない限度において、更に他の成分を含有していてもよい。
【0054】
<光電変換膜の製造方法>
本発明の光電変換膜は、Ag元素と、Sb元素およびBi元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物半導体の量子ドットと、量子ドットに配位する配位子と、溶剤と、を含む分散液を基板上に付与して、量子ドットの集合体の膜を形成する工程(量子ドット集合体形成工程)を経て形成することができる。
【0055】
分散液が付与される基板の形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。基板の構造は単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。基板としては、例えば、シリコン、ガラス、YSZ(Yttria-Stabilized Zirconia;イットリウム安定化ジルコニア)等の無機材料、樹脂、樹脂複合材料等で構成された基板を用いることができる。また基板上には、電極、絶縁膜等が形成されていてもよい。その場合には基板上の電極や絶縁膜上にも量子ドット分散液が付与される。
【0056】
量子ドット分散液を基板上に付与する手法は、特に限定はない。スピンコート法、ディップ法、インクジェット法、ディスペンサー法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、スプレーコート法等の塗布方法が挙げられる。
【0057】
量子ドット集合体形成工程によって形成される量子ドットの集合体の膜の膜厚は、3nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがより好ましい。上限は、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましい。
【0058】
量子ドットの集合体の膜を形成した後、更に配位子交換工程を行って量子ドットに配位している配位子を他の配位子に交換してもよい。配位子交換工程では、量子ドット集合体形成工程によって形成された量子ドットの集合体の膜に対して、上記分散液に含まれる配位子とは異なる配位子(以下、配位子Aともいう)および溶剤を含む配位子溶液を付与して、量子ドットに配位する配位子を配位子溶液に含まれる配位子Aと交換する。また、量子ドット集合体形成工程と配位子交換工程を交互に複数回繰り返し行ってもよい。
【0059】
配位子Aとしては、ハロゲン原子を含む配位子、および、配位部を2以上含む多座配位子などが挙げられる。これらの詳細については、上述した光電変換膜の項で説明したものが挙げられ、好ましい範囲も同様である。
【0060】
配位子交換工程で用いられる配位子溶液には、配位子Aを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。また、2種以上の配位子溶液を用いてもよい。
【0061】
配位子溶液に含まれる溶剤は、各配位子溶液に含まれる配位子の種類に応じて適宜選択することが好ましく、各配位子を溶解しやすい溶剤であることが好ましい。また、配位子溶液に含まれる溶剤は、誘電率が高い有機溶剤が好ましい。具体例としては、エタノール、アセトン、メタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ブタノール、プロパノール等が挙げられる。また、配位子溶液に含まれる溶剤は、形成される光電変換膜中に残存し難い溶剤が好ましい。乾燥し易く、洗浄により除去し易いとの観点から、低沸点のアルコール、または、ケトン、ニトリルが好ましく、メタノール、エタノール、アセトン、またはアセトニトリルがより好ましい。配位子溶液に含まれる溶剤は量子ドット分散液に含まれる溶剤とは交じり合わないものが好ましい。好ましい溶剤の組み合わせとしては、量子ドット分散液に含まれる溶剤が、ヘキサン、オクタン等のアルカンや、トルエンの場合は、配位子溶液に含まれる溶剤は、メタノール、アセトン等の極性溶剤を用いることが好ましい。
【0062】
配位子溶液を、量子ドットの集合体の膜に付与する方法は、量子ドット分散液を基板上に付与する手法と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0063】
配位子交換工程の後の膜にリンス液を接触させてリンスする工程(リンス工程)を行ってもよい。リンス工程を行うことで、膜中に含まれる過剰な配位子や量子ドットから脱離した配位子を除去することができる。また、残存した溶剤、その他不純物を除去することができる。リンス液としては、膜中に含まれる過剰な配位子や量子ドットから脱離した配位子をより効果的に除去しやすく、量子ドット表面を再配列させる事で膜面状を均一に保ちやすいという理由から非プロトン性溶剤であることが好ましい。非プロトン性溶剤の具体例としては、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、四塩化炭素、ジメチルホルムアミドが挙げられ、アセトニトリル、テトラヒドロフランが好ましく、アセトニトリルがより好ましい。
【0064】
また、リンス工程は、極性(比誘電率)の異なるリンス液を2種以上用いて複数回行ってもよい。例えば、最初に比誘電率の高いリンス液(第1のリンス液ともいう)を用いてリンスを行ったのち、第1のリンス液よりも比誘電率の低いリンス液(第2のリンス液ともいう)を用いてリンスを行うことが好ましい。このようにしてリンスを行うことで、配位子交換に用いる配位子Aの余剰成分を先に除去し、その後配位子交換過程で生じた脱離した配位子成分(元々粒子に配位していた成分)を除去する事ができ、余剰あるいは脱離した配位子成分の両方をより効率的に除去する事が出来る。
【0065】
第1のリンス液の比誘電率は、15~50であることが好ましく、20~45であることがより好ましく、25~40であることが更に好ましい。第2のリンス液の比誘電率は、1~15であることが好ましく、1~10であることがより好ましく、1~5であることが更に好ましい。
【0066】
光電変換膜の製造方法は、乾燥工程を有していてもよい。乾燥工程を行うことで光電変換膜に残存する溶剤を除去することができる。乾燥時間は、1~100時間であることが好ましく、1~50時間であることがより好ましく、5~30時間であることが更に好ましい。乾燥温度は10~100℃であることが好ましく、20~90℃であることがより好ましく、20~50℃であることが更に好ましい。
【0067】
<光検出素子>
本発明の光検出素子は、上述した本発明の光電変換膜を含む。
【0068】
光検出素子における本発明の光電変換膜の厚みは、10~1000nmであることが好ましい。厚みの下限は、20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。厚みの上限は、600nm以下であることが好ましく、550nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることが更に好ましく、450nm以下であることが特に好ましい。
【0069】
光検出素子の種類としては、フォトコンダクタ型の光検出素子、フォトダイオード型の光検出素子が挙げられる。なかでも、高い信号ノイズ比(SN比)が得られやすいという理由からフォトダイオード型の光検出素子であることが好ましい。
【0070】
また、本発明の光電変換膜は、赤外域の波長の光に対して優れた感度を有しているので、本発明の光検出素子は、赤外域の波長の光を検出する光検出素子として好ましく用いられる。すなわち、本発明の光検出素子は、赤外光検出素子として好ましく用いられる。
【0071】
上記赤外域の波長の光は、波長700nmを超える波長の光であることが好ましく、波長800nm以上の光であることがより好ましく、波長900nm以上の光であることが更に好ましく、波長1000nm以上の光であることがより一層好ましい。また、赤外域の波長の光は、波長2000nm以下の光であることが好ましく、波長1800nm以下の光であることがより好ましく、波長1600nm以下の光であることが更に好ましい。
【0072】
光検出素子は、赤外域の波長の光と、可視域の波長の光(好ましくは波長400~700nmの範囲の光)とを同時に検出する光検出素子であってもよい。
【0073】
図1に、フォトダイオード型の光検出素子の一実施形態を示す。なお、図中の矢印は光検出素子への入射光を表す。図1に示す光検出素子1は、下部電極12と、下部電極12に対向する上部電極11と、下部電極12と上部電極11との間に設けられた光電変換膜13とを含んでいる。図1に示す光検出素子1は、上部電極11の上方から光を入射して用いられる。
【0074】
光電変換膜13は上述した本発明の光電変換膜で構成されている。
【0075】
光検出素子で検出する目的の波長の光に対する光電変換膜13の屈折率は1.5~5.0とすることができる。
【0076】
光電変換膜13の厚みは、10~1000nmであることが好ましい。厚みの下限は、20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。厚みの上限は、600nm以下であることが好ましく、550nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることが更に好ましく、450nm以下であることが特に好ましい。
【0077】
光検出素子で検出する目的の光の波長λと、下部電極12の光電変換膜13側の表面12aから、光電変換膜13の上部電極側の表面13aまでの上記波長λの光の光路長Lλとが下記式(1-1)の関係を満していることが好ましく、下記式(1-2)の関係を満していることがより好ましい。波長λと光路長Lλとがこのような関係を満たしている場合には、光電変換膜13において、上部電極11側から入射された光(入射光)と、下部電極12の表面で反射された光(反射光)との位相を揃えることができ、その結果、光学干渉効果によって光が強め合い、より高い外部量子効率を得ることができる。
【0078】
0.05+m/2≦Lλ/λ≦0.35+m/2 ・・・(1-1)
0.10+m/2≦Lλ/λ≦0.30+m/2 ・・・(1-2)
【0079】
上記式中、λは、光検出素子で検出する目的の光の波長であり、
λは、下部電極12の光電変換膜13側の表面12aから、光電変換膜13の上部電極側の表面13aまでの波長λの光の光路長であり、
mは0以上の整数である。
【0080】
mは0~4の整数であることが好ましく、0~3の整数であることがより好ましく、0~2の整数であることが更に好ましく、0または1であることが特に好ましい。
【0081】
ここで、光路長とは、光が透過する物質の物理的な厚みと屈折率を乗じたものを意味する。光電変換膜13を例に挙げて説明すると、光電変換膜の厚さをd、光電変換膜の波長λに対する屈折率をNとしたとき、光電変換膜13を透過する波長λの光の光路長はN×dである。光電変換膜13が2層以上の積層膜で構成されている場合や、光電変換膜13と下部電極12との間に後述する中間層が存在する場合には、各層の光路長の積算値が上記光路長Lλである。
【0082】
上部電極11は、光検出素子で検出する目的の光の波長に対して実質的に透明な導電材料で形成された透明電極であることが好ましい。なお、本発明において、「実質的に透明である」とは、光の透過率が50%以上であることを意味し、60%以上が好ましく、80%以上が特に好ましい。上部電極11の材料としては、導電性金属酸化物などが挙げられる。具体例としては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムタングステン、酸化インジウム亜鉛(indium zinc oxide:IZO)、酸化インジウム錫(indium tin oxide:ITO)、フッ素をドープした酸化錫(fluorine-doped tin oxide:FTO)等が挙げられる。
【0083】
上部電極11の膜厚は、特に限定されず、0.01~100μmが好ましく、0.01~10μmが更に好ましく、0.01~1μmが特に好ましい。なお、本発明において、各層の膜厚は、走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)等を用いて光検出素子1の断面を観察することにより、測定できる。
【0084】
下部電極12を形成する材料としては、例えば、白金、金、ニッケル、銅、銀、インジウム、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスニウム、アルミニウム等の金属、上述の導電性金属酸化物、炭素材料および導電性高分子等が挙げられる。炭素材料としては、導電性を有する材料であればよく、例えば、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン等が挙げられる。
【0085】
下部電極12の膜厚は、特に限定されず、0.01~100μmが好ましく、0.01~10μmが更に好ましく、0.01~1μmが特に好ましい。
【0086】
なお、図示しないが、上部電極11の光入射側の表面(光電変換膜13側とは反対の表面)には透明基板が配置されていてもよい。透明基板の種類としては、ガラス基板、樹脂基板、セラミック基板等が挙げられる。
【0087】
また、図示しないが、光電変換膜13と下部電極12との間、および/または、光電変換膜13と上部電極11との間には中間層が設けられていてもよい。中間層としては、ブロッキング層、電子輸送層、正孔輸送層などが挙げられる。好ましい形態としては、光電変換膜13と下部電極12との間、および、光電変換膜13と上部電極11との間のいずれか一方に正孔輸送層を有する態様が挙げられる。光電変換膜13と下部電極12との間、および、光電変換膜13と上部電極11との間のいずれか一方には電子輸送層を有し、他方には正孔輸送層を有することがより好ましい。正孔輸送層および電子輸送層は単層膜であってもよく、2層以上の積層膜であってもよい。
【0088】
ブロッキング層は逆電流を防止する機能を有する層である。ブロッキング層は短絡防止層ともいう。ブロッキング層を形成する材料は、例えば、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸セシウム、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化タングステン等が挙げられる。ブロッキング層は単層膜であってもよく、2層以上の積層膜であってもよい。
【0089】
電子輸送層は、光電変換膜13で発生した電子を上部電極11または下部電極12へと輸送する機能を有する層である。電子輸送層は正孔ブロック層ともいわれている。電子輸送層は、この機能を発揮することができる電子輸送材料で形成される。電子輸送材料としては、[6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester(PC61BM)等のフラーレン化合物、ペリレンテトラカルボキシジイミド等のペリレン化合物、テトラシアノキノジメタン、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムタングステン、酸化インジウム亜鉛、酸化インジウム錫、フッ素をドープした酸化錫等が挙げられる。電子輸送層は単層膜であってもよく、2層以上の積層膜であってもよい。
【0090】
正孔輸送層は、光電変換膜13で発生した正孔を上部電極11または下部電極12へと輸送する機能を有する層である。正孔輸送層は電子ブロック層ともいわれている。正孔輸送層は、この機能を発揮することができる正孔輸送材料で形成されている。例えば、PTB7(ポリ({4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル}{3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェンジイル}))、PEDOT:PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルホン酸))、MoOなどが挙げられる。また、特開2001-291534号公報の段落番号0209~0212に記載の有機正孔輸送材料等を用いることもできる。また、正孔輸送材料には量子ドットを用いることもできる。量子ドットの平均粒子径は、0.5~100nmであることが好ましい。量子ドットの材料としては、例えば、a)IV族半導体、b)IV-IV族、III-V族、またはII-VI族の化合物半導体、c)II族、III族、IV族、V族、および、VI族元素の内3つ以上の組み合わせからなる化合物半導体などが挙げられる。具体例としては、PbS、PbSe、PbTe、PbSeS、InN、InAs、Ge、InGaAs、CuInS、CuInSe、CuInGaSe、InSb、HgTe、HgCdTe、AgS、AgSe、AgTe、SnS、SnSe、SnTe、Si、InP等の比較的バンドギャップの狭い半導体が挙げられる。また、正孔輸送材料には、上述した光電変換膜の項で説明したAg元素と、Sb元素およびBi元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、Se元素およびTe元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物半導体を用いることもできる。また、量子ドットの表面には配位子が配位していてもよい。配位子としては、上述した光電変換膜の項で説明した配位子が挙げられる。
【0091】
<イメージセンサ>
本発明のイメージセンサは、上述した本発明の光検出素子を含む。本発明の光検出素子は、赤外域の波長の光に対して優れた感度を有しているので、赤外線イメージセンサとして特に好ましく用いることができる。
【0092】
イメージセンサの構成としては、本発明の光検出素子を備え、イメージセンサとして機能する構成であれば特に限定はない。
【0093】
イメージセンサは、赤外線透過フィルタ層を含んでいてもよい。赤外線透過フィルタ層としては、可視域の波長帯域の光の透過性が低いものであることが好ましく、波長400~650nmの範囲の光の平均透過率が10%以下であることがより好ましく、7.5%以下であることが更に好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
【0094】
赤外線透過フィルタ層としては、色材を含む樹脂膜で構成されたものなどが挙げられる。色材としては、赤色色材、緑色色材、青色色材、黄色色材、紫色色材、オレンジ色色材などの有彩色色材、黒色色材が挙げられる。赤外線透過フィルタ層に含まれる色材は、2種以上の有彩色色材の組み合わせで黒色を形成しているか、黒色色材を含むものであることが好ましい。2種以上の有彩色色材の組み合わせで黒色を形成する場合の、有彩色色材の組み合わせとしては、例えば、以下の(C1)~(C7)の態様が挙げられる。
(C1)赤色色材と青色色材とを含有する態様。
(C2)赤色色材と青色色材と黄色色材とを含有する態様。
(C3)赤色色材と青色色材と黄色色材と紫色色材とを含有する態様。
(C4)赤色色材と青色色材と黄色色材と紫色色材と緑色色材とを含有する態様。
(C5)赤色色材と青色色材と黄色色材と緑色色材とを含有する態様。
(C6)赤色色材と青色色材と緑色色材とを含有する態様。
(C7)黄色色材と紫色色材とを含有する態様。
【0095】
上記有彩色色材は、顔料であってもよく、染料であってもよい。顔料と染料とを含んでいてもよい。黒色色材は、有機黒色色材であることが好ましい。例えば、有機黒色色材としては、ビスベンゾフラノン化合物、アゾメチン化合物、ペリレン化合物、アゾ化合物などが挙げられる。
【0096】
赤外線透過フィルタ層は更に赤外線吸収剤を含有していてもよい。赤外線透過フィルタ層に赤外線吸収剤を含有させることで透過させる光の波長をより長波長側にシフトさせることができる。赤外線吸収剤としては、ピロロピロール化合物、シアニン化合物、スクアリリウム化合物、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、クアテリレン化合物、メロシアニン化合物、クロコニウム化合物、オキソノール化合物、イミニウム化合物、ジチオール化合物、トリアリールメタン化合物、ピロメテン化合物、アゾメチン化合物、アントラキノン化合物、ジベンゾフラノン化合物、ジチオレン金属錯体、金属酸化物、金属ホウ化物等が挙げられる。
【0097】
赤外線透過フィルタ層の分光特性については、イメージセンサの用途に応じて適宜選択することができる。例えば、以下の(1)~(5)のいずれかの分光特性を満たしているフィルタ層などが挙げられる。
(1):膜の厚み方向における光の透過率の、波長400~750nmの範囲における最大値が20%以下(好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下)で、膜の厚み方向における光の透過率の、波長900~1500nmの範囲における最小値が70%以上(好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上)であるフィルタ層。
(2):膜の厚み方向における光の透過率の、波長400~830nmの範囲における最大値が20%以下(好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下)で、膜の厚み方向における光の透過率の、波長1000~1500nmの範囲における最小値が70%以上(好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上)であるフィルタ層。
(3):膜の厚み方向における光の透過率の、波長400~950nmの範囲における最大値が20%以下(好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下)で、膜の厚み方向における光の透過率の、波長1100~1500nmの範囲における最小値が70%以上(好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上)であるフィルタ層。
(4):膜の厚み方向における光の透過率の、波長400~1100nmの範囲における最大値が20%以下(好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下)で、波長1400~1500nmの範囲における最小値が70%以上(好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上)であるフィルタ層。
(5):膜の厚み方向における光の透過率の、波長400~1300nmの範囲における最大値が20%以下(好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下)で、波長1600~2000nmの範囲における最小値が70%以上(好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上)であるフィルタ層。
【0098】
また、赤外線透過フィルタには、特開2013-077009号公報、特開2014-130173号公報、特開2014-130338号公報、国際公開第2015/166779号、国際公開第2016/178346号、国際公開第2016/190162号、国際公開第2018/016232号、特開2016-177079号公報、特開2014-130332号公報、国際公開第2016/027798号に記載の膜を用いることができる。赤外線透過フィルタは2つ以上のフィルタを組み合わせて用いてもよく、1つのフィルタで特定の2つ以上の波長領域を透過するデュアルバンドパスフィルタを用いてもよい。
【0099】
本発明のイメージセンサは、ノイズ低減などの各種性能を向上させる目的で赤外線遮蔽フィルタを含んでいてもよい。赤外線遮蔽フィルタの具体例としては、例えば、国際公開第2016/186050号、国際公開第2016/035695号、特許第6248945号公報、国際公開第2019/021767号、特開2017-067963号公報、特許第6506529号公報に記載されたフィルタなどが挙げられる。
【0100】
本発明のイメージセンサは誘電体多層膜を含んでいてもよい。誘電体多層膜としては、高屈折率の誘電体薄膜(高屈折率材料層)と低屈折率の誘電体薄膜(低屈折率材料層)とを交互に複数層積層したものが挙げられる。誘電体多層膜における誘電体薄膜の積層数は、特に限定はないが、2~100層が好ましく、4~60層がより好ましく、6~40層が更に好ましい。高屈折率材料層の形成に用いられる材料としては、屈折率が1.7~2.5の材料が好ましい。具体例としては、Sb、Sb、Bi、CeO、CeF、HfO、La、Nd、Pr11、Sc、SiO、Ta、TiO、TlCl、Y、ZnSe、ZnS、ZrOなどが挙げられる。低屈折率材料層の形成に用いられる材料としては、屈折率が1.2~1.6の材料が好ましい。具体例としては、Al、BiF、CaF、LaF、PbCl、PbF、LiF、MgF、MgO、NdF、SiO、Si、NaF、ThO、ThF、NaAlFなどが挙げられる。誘電体多層膜の形成方法としては、特に制限はないが、例えば、イオンプレーティング、イオンビーム等の真空蒸着法、スパッタリング等の物理的気相成長法(PVD法)、化学的気相成長法(CVD法)などが挙げられる。高屈折率材料層および低屈折率材料層の各層の厚みは、遮断しようとする光の波長がλ(nm)であるとき、0.1λ~0.5λの厚みであることが好ましい。誘電体多層膜の具体例としては、例えば、特開2014-130344号公報、特開2018-010296号公報に記載の膜を用いることができる。
【0101】
誘電体多層膜は、赤外域(好ましくは波長700nmを超える波長領域、より好ましくは波長800nmを超える波長領域、更に好ましくは波長900nmを超える波長領域)に透過波長帯域が存在することが好ましい。透過波長帯域における最大透過率は70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。また、遮光波長帯域における最大透過率は20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましい。また、透過波長帯域における平均透過率は60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。また、透過波長帯域の波長範囲は、最大透過率を示す波長を中心波長λt1とした場合、中心波長λt1±100nmであることが好ましく、中心波長λt1±75nmであることがより好ましく、中心波長λt1±50nmであることが更に好ましい。
【0102】
誘電体多層膜は、透過波長帯域(好ましくは、最大透過率が90%以上の透過波長帯域)を1つのみ有していてもよく、複数有していてもよい。
【0103】
本発明のイメージセンサは、色分離フィルタ層を含んでいてもよい。色分離フィルタ層としては着色画素を含むフィルタ層が挙げられる。着色画素の種類としては、赤色画素、緑色画素、青色画素、黄色画素、シアン色画素およびマゼンタ色画素などが挙げられる。色分離フィルタ層は2色以上の着色画素を含んでいてもよく、1色のみであってもよい。用途や目的に応じて適宜選択することができる。例えば、国際公開第2019/039172号に記載のフィルタを用いることができる。
【0104】
また、色分離層が2色以上の着色画素を含む場合、各色の着色画素同士は隣接していてもよく、各着色画素間に隔壁が設けられていてもよい。隔壁の材質としては、特に限定はない。例えば、シロキサン樹脂、フッ素樹脂などの有機材料や、シリカ粒子などの無機粒子が挙げられる。また、隔壁は、タングステン、アルミニウムなどの金属で構成されていてもよい。
【0105】
なお、本発明のイメージセンサが赤外線透過フィルタ層と色分離層とを含む場合は、色分離層は赤外線透過フィルタ層とは別の光路上に設けられていることが好ましい。また、赤外線透過フィルタ層と色分離層は二次元配置されていることも好ましい。なお、赤外線透過フィルタ層と色分離層とが二次元配置されているとは、両者の少なくとも一部が同一平面上に存在していることを意味する。
【0106】
本発明のイメージセンサは、平坦化層、下地層、密着層などの中間層、反射防止膜、レンズを含んでいてもよい。反射防止膜としては、例えば、国際公開第2019/017280号に記載の組成物から作製した膜を用いることができる。レンズとしては、例えば、国際公開第2018/092600号に記載の構造体を用いることができる。
【0107】
本発明のイメージセンサは、赤外線イメージセンサとして好ましく用いることができる。また、本発明のイメージセンサは、波長900~2000nmの光をセンシングするものとして好ましく用いることができ、波長900~1600nmの光をセンシングするものとしてより好ましく用いることができる。
【実施例
【0108】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0109】
[量子ドット分散液の製造]
(製造例1)
フラスコ中に20mlのオレイルアミンと、1mmolの硝酸銀と、10mLのオクタデセンを測りとり、減圧下(数~数十Pa)にて100℃で180分加熱した。フラスコ内の液体の温度を30℃に冷却し、フラスコ内を窒素フロー状態にした。次いで、1mmolのBi[N(SiCHを1mLのトルエンに溶解させた溶液をフラスコ内の液体に添加した。次いで、フラスコ内の液体の温度を100℃まで昇温した後、2mmolのSeを1mLのオレイルアミンと1mLのドデカンチオールとの混合液に溶解させた溶液をフラスコ内の液体に添加した。フラスコ内の液体の温度を200℃まで昇温し、この温度で15分間保持したのち、室温まで冷却した。次いで、フラスコ内の液体に過剰量のエタノールを加え、10000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを除去したのち、沈殿物をトルエンに分散させ、結晶構造が六方晶であり、エネルギー分散型X線分析法から見積もった原子比率がAg:Bi:Se=1.4:1.0:1.9であるAgBiSe化合物半導体の量子ドットの表面に、ドデカンチオールとオレイルアミンが配位子として配位した分散液(量子ドットの濃度20mg/mL)を得た(製造例1の量子ドット分散液)。紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製、V-670)を用いた可視~赤外領域の光吸収測定から見積もった量子ドットのバンドギャップはおよそ0.81eVであった。なお、量子ドットを構成する化合物半導体の結晶構造はX線回折法によって測定した。
【0110】
(製造例2)
フラスコ中に20mlのオレイルアミンと、1mmolの硝酸銀と、10mLのオクタデセンを測りとり、減圧下(数~数十Pa)にて100℃で180分加熱した。フラスコ内の液体の温度を30℃に冷却し、フラスコ内を窒素フロー状態にした。次いで、0.9mmolの水素化トリエチルホウ素リチウム及び1mmolのSb[N(SiCHを1mLのトルエンに溶解させた溶液をフラスコ内の液体に添加した。続いて、2.5mmolのSeを1mLのオレイルアミンと1mLのドデカンチオールとの混合液に溶解させた溶液をフラスコ内の液体に添加した。フラスコ内の液体の温度を180℃まで昇温し、この温度で15分間保持したのち、室温まで冷却した。次いで、フラスコ内の液体に過剰量のエタノールを加え、10000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを除去したのち、沈殿物をトルエンに分散させ、結晶構造が立方晶であり、エネルギー分散型X線分析法から見積もった原子比率がAg:Sb:Se=1.5:1.0:1.9であるAgSbSe化合物半導体の量子ドットの表面にドデカンチオールとオレイルアミンが配位子として配位した分散液(量子ドットの濃度20mg/mL)を得た(製造例2の量子ドット分散液)。紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製、V-670)を用いた可視~赤外領域の光吸収測定から見積もった量子ドットのバンドギャップはおよそ0.76eVであった。
【0111】
(製造例3)
フラスコ中に、1mmolの酢酸ビスマスと、0.8mmolの酢酸銀と、5.4mLのオレイン酸と、30mLのオクタデセンを測りとり、減圧下(数~数十Pa)にて100℃で5時間加熱した。次いで、フラスコ内を窒素フロー状態にした後、0.9mmolのヘキサメチルジシラチアン及び、0.1mmolのビストリメチルシリルテルリドを5mLのオクタデセンに混合した溶液をフラスコ内の液体に添加した。次いで、フラスコ内の液体の温度を室温まで冷却した。次いで、フラスコ内の溶液に過剰量のアセトンを加え、10000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを除去したのち、沈殿物をトルエンに分散させ、結晶構造が立方晶であり、エネルギー分散型X線分析法から見積もった原子比率が、Ag:Bi:S:Te=1.4:1.0:1.8:0.2であるAgBiSTe化合物半導体の量子ドットの表面にオレイン酸が配位子として配位した分散液(量子ドットの濃度20mg/mL)を得た(製造例3の量子ドット分散液)。紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製、V-670)を用いた可視~赤外領域の光吸収測定から見積もった量子ドットのバンドギャップはおよそ0.95eVであった。
【0112】
(製造例4)
製造例3において、ヘキサメチルジシラチアンとビストリメチルシリルテルリドの比率を変更する以外は、製造例3と同様の手法にて調整することで、結晶構造が立方晶であり、エネルギー分散型X線分析法から見積もった原子比率が、Ag:Bi:S:Te=1.5:1.0:1.6:0.4であるAgBiSTe化合物半導体の量子ドットの表面にオレイン酸が配位子として配位した分散液(量子ドットの濃度20mg/mL)を得た(製造例4の量子ドット分散液)。紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製、V-670)を用いた可視~赤外領域の光吸収測定から見積もった量子ドットのバンドギャップはおよそ0.91eVであった。
【0113】
(製造例5)
製造例3において、ヘキサメチルジシラチアンとビストリメチルシリルテルリドの比率を変更する以外は、製造例3と同様の手法にて調整することで、結晶構造が立方晶であり、エネルギー分散型X線分析法から見積もった原子比率が、Ag:Bi:S:Te=1.5:1.0:1.4:0.6であるAgBiSTe化合物半導体の量子ドットの表面にオレイン酸が配位子として配位した分散液(量子ドットの濃度20mg/mL)を得た(製造例5の量子ドット分散液)。紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製、V-670)を用いた可視~赤外領域の光吸収測定から見積もった量子ドットのバンドギャップはおよそ0.82eVであった。
【0114】
(製造例6)
製造例3において、ヘキサメチルジシラチアンとビストリメチルシリルテルリドの比率を変更する以外は、製造例3と同様の手法にて調整することで、結晶構造が立方晶であり、エネルギー分散型X線分析法から見積もった原子比率が、Ag:Bi:S:Te=1.4:1.0:1.2:0.8であるAgBiSTe化合物半導体の量子ドットの表面にオレイン酸が配位子として配位した分散液(量子ドットの濃度20mg/mL)を得た(製造例6の量子ドット分散液)。紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製、V-670)を用いた可視~赤外領域の光吸収測定から見積もった量子ドットのバンドギャップはおよそ0.78eVであった。
【0115】
【表1】
【0116】
[光検出素子の製造]
(実施例1)
石英ガラス上にITO(Indium Tin Oxide)膜を100nmの厚さ及び、酸化チタン膜を20nmの厚さでスパッタリングにより連続して成膜した。
次いで、酸化チタン膜上に製造例1の量子ドット分散液を滴下した後、2500rpmでスピンコートし、量子ドット集合体膜を得た(工程1)。
次いで、量子ドット集合体膜の上に、配位子溶液として、エタンジチオールのアセトニトリル溶液(濃度0.2v/v%)を滴下した後、20秒間静置し、2500rpmで10秒間スピンドライして量子ドットに配位している配位子を、エタンジチオールに配位子交換した。次いで、リンス液としてアセトニトリルを量子ドット集合体膜上に滴下し、2500rpmで20秒間スピンドライした。次いで、トルエンを量子ドット集合体膜上に滴下し、2500rpmで20秒間スピンドライした(工程2)。
工程1と工程2とを1サイクルとする操作を4サイクル繰り返して、量子ドットに配位子としてエタンジチオールが配位した光電変換膜を50nmの厚さで形成した。
【0117】
次いで、光電変換膜をグローブボックス内で10時間乾燥した。
【0118】
次に、光電変換膜上に、PTB7(ポリ({4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル}{3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェンジイル}))のジクロロベンゼン溶液(濃度5mg/mL)を2000rpmでスピンコートしたのち、グローブボックス中で10時間乾燥させてPTB7膜を形成した。
【0119】
次いで、PTB7膜上にメタルマスクを介した真空蒸着法を用い、MoOを5nm、及びAgを100nmの厚さで連続蒸着により形成し、フォトダイオード型の光検出素子を製造した。
【0120】
(実施例2~8)
光電変換膜の形成工程において、量子ドット分散液の種類、配位子溶液の種類、および、リンス液の種類をそれぞれ下記表に記載したものに変更した以外は、実施例1と同様の手法にて実施例2~8の光検出素子を製造した。
【0121】
(比較例1)
製造例1の量子ドット分散液のかわりに、以下に示す比較例用量子ドット分散液を用いた以外は、実施例1と同様の手法にて光検出素子を製造した。
比較例用量子ドット分散液:結晶構造が立方晶であり、エネルギー分散型X線分析法から見積もった原子比率が、Ag:Bi:S=1.5:1.0:1.6であるAgBiS化合物半導体の量子ドットの表面にオレイン酸が配位子として配位した分散液(量子ドットの濃度20mg/mL)。紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製、V-670)を用いた可視~赤外領域の光吸収測定から見積もったAgBiS量子ドットのバンドギャップはおよそ1.05eVであった。
【0122】
【表2】
【0123】
<評価>
製造した光検出素子について半導体パラメータアナライザー(C4156、Agilent製)を用いて、外部量子効率(EQE)の評価を行った。
まず、光を照射しない状態において0Vから-2Vまで電圧を掃引しながら電流-電圧特性(I-V特性)を測定し、暗電流値の評価を行った。ここで暗電流値は-1Vでの値を暗電流値とした。続いて、1200nmのモノクロ光を照射した状態で、0Vから-2Vまで電圧を掃引しながらI-V特性を測定した。-1Vを印加した状態での電流値から上記暗電流値を差し引いたものを光電流値とし、その値から外部量子効率(EQE)を算出した。
【0124】
【表3】
【0125】
上記表に示すように、実施例の光検出素子の外部量子効率(EQE)は、比較例1の外部量子効率(EQE)よりも顕著に高いことが確認された。
【0126】
上記実施例で得られた光検出素子を用い、国際公開第2016/186050号および国際公開第2016/190162号に記載の方法に従い作製した光学フィルタと共に公知の方法にてイメージセンサを作製し、固体撮像素子に組み込むことで、良好な可視能-赤外撮像性能を有するイメージセンサを得ることができる。
【符号の説明】
【0127】
1:光検出素子
11:上部電極
12:下部電極
13:光電変換膜
図1