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特許7372471超音波振動子ホルダ、容器、並びにこれらを用いた分析システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】超音波振動子ホルダ、容器、並びにこれらを用いた分析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/03 20060101AFI20231024BHJP
   G01N 21/59 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
G01N21/03 Z
G01N21/59 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022539811
(86)(22)【出願日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2020028731
(87)【国際公開番号】W WO2022024190
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 利光
(72)【発明者】
【氏名】神林 琢也
(72)【発明者】
【氏名】野島 彰絋
(72)【発明者】
【氏名】河野 駿介
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-211235(JP,A)
【文献】特開昭60-070351(JP,A)
【文献】特開2008-151599(JP,A)
【文献】特開2005-037244(JP,A)
【文献】特開昭60-220856(JP,A)
【文献】特開平09-089851(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0086938(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
B01L 3/00 - B01L 99/00
G01N 1/00 - G01N 1/44
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料を入れる容器が着脱可能であり、超音波を伝達する超音波振動子ホルダであって、
超音波を発信する超音波振動子と、
前記超音波振動子に固定されて、前記容器に前記超音波を伝達する保護層と、
を有し、
前記保護層は、前記超音波振動子と固定された面である第1面と、前記第1面の裏面であって、かつ接触媒質を介して前記容器が固定されるよう設計された第2面と、
を有し、
前記接触媒質は、液体又はゾルの物質であり、
前記第2面は、前記接触媒質の塗布領域を示す目印である塗布領域目印を備える、
超音波振動子ホルダ。
【請求項2】
請求項に記載の超音波振動子ホルダであって、
前記塗布領域は、前記超音波振動子を法線方向に延長した空間と、前記第2面が交わる領域を包含する領域である、
超音波振動子ホルダ。
【請求項3】
請求項に記載の超音波振動子ホルダであって、
前記塗布領域は、前記超音波の進行方向に、前記超音波振動子を延長した空間と、前記第2面と、が交わる領域を包含する領域である、
超音波振動子ホルダ。
【請求項4】
請求項に記載の超音波振動子ホルダであって、
前記容器を、前記塗布領域に固定させることをガイドする、ガイド部材を有する、
超音波振動子ホルダ。
【請求項5】
請求項に記載の超音波振動子ホルダであって、
前記超音波振動子ホルダは、前記接触媒質を充填するための、第1細孔と、
前記第2面と前記第1細孔に接し、塗布領域として、前記接触媒質が満たされるように設計された窪みと、を有する、
超音波振動子ホルダ。
【請求項6】
請求項に記載の超音波振動子ホルダであって、
前記超音波振動子ホルダは、前記窪みに残る空気又は前記接触媒質を排出するための、第2細孔を有する、
超音波振動子ホルダ。
【請求項7】
請求項1に記載の超音波振動子ホルダであって、
前記保護層の厚みは、前記保護層の内部における前記超音波の半波長の0.5倍以上かつ10倍以下である、
超音波振動子ホルダ。
【請求項8】
請求項1に記載の超音波振動子ホルダであって、
前記超音波振動子ホルダは、前記容器を固定する固定構造を有する、
音波振動子ホルダ。
【請求項9】
請求項に記載の超音波振動子ホルダであって、
前記固定構造は、
前記第2面の方向に前記容器を押し当てる押圧構造を有する、
超音波振動子ホルダ。
【請求項10】
請求項1に記載の超音波振動子ホルダと、
前記超音波振動子に電圧を印加する発振器と、
前記容器に光を照射する光源と、
前記容器を透過した光を受光する受光部と、
受光部によって受光した光に基づいて、前記液体試料の分析処理を行う、コンピュータと、
を有する、分析システム。
【請求項11】
請求項10に記載の分析システムであって、
前記コンピュータは、
前記接触媒質の塗布又は充填状態を特定し、
特定した状態が異常を示す場合は、異常を示すメッセージを出力し、
前記メッセージは、接触媒質が十分に充填又は塗布されていないことを示す、
分析システム。
【請求項12】
請求項に記載の超音波振動子ホルダに着脱可能な容器であって、前記容器は、
前記塗布領域に対応する形状を有する側面と、
前記液体試料を入れるためのインレットと、
前記液体試料を排出するためのアウトレットと、
を有する、容器。
【請求項13】
請求項12に記載の容器であって、
前記超音波振動子は、前記容器を、前記塗布領域に固定させることをガイドする、ガイド部材を有し、
前記ガイド部材の形状に対応する形状を有する、容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動子ホルダ、容器、並びにこれらを用いた分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-211235号公報(特許文献1)には、分析ユニットに対して着脱交換可能な、液体試料を収容するための分析セルが記載される。また、特許文献1には、超音波振動子と分析セルの壁面とをゲル状物質を介して密着させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-211235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
懸濁した液体試料中の成分について、超音波を利用して光分析する装置において、液体試料を収容する容器を、超音波振動子ホルダから着脱可能にすることで、超音波振動子を繰り返し利用することが可能となる。ところが容器を超音波振動子ホルダから着脱可能とすることに起因する分析精度の低下を抑制する必要がある。
【0005】
本発明の目的は、液体試料を収容する容器が、超音波振動子ホルダから着脱可能である分析システムにおいて、分析精度の低下を抑制する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される発明のうち、代表的な形態の概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0007】
すなわち、一実施の形態である超音波振動子ホルダは、液体試料を入れる容器が着脱可能であり、超音波を伝達する。前記超音波振動子ホルダは、超音波を発信する超音波振動子と、前記超音波振動子に固定されて、前記容器に前記超音波を伝達する保護層と、を有する。前記保護層は、前記超音波振動子と固定された面である第1面と、前記第1面の裏面であって、かつ接触媒質を介して前記容器が固定されるよう設計された第2面と、を有する。
【0008】
他の実施の形態である分析システムは、超音波振動子ホルダと、前記超音波振動子に電圧を印加する発振器と、前記容器に光を照射する光源と、前記容器を透過した光を受光する受光部と、受光部によって受光した光に基づいて、前記液体試料の分析処理を行う、コンピュータと、を有する。前記超音波振動子ホルダは、液体試料を入れる容器が着脱可能であり、超音波を伝達する。前記超音波振動子ホルダは、超音波を発信する超音波振動子と、前記超音波振動子に固定されて、前記容器に前記超音波を伝達する保護層と、を有する。前記保護層は、前記超音波振動子と固定された面である第1面と、前記第1面の裏面であって、かつ接触媒質を介して前記容器が固定されるよう設計された第2面と、を有する。
【0009】
他の実施の形態である容器は、超音波振動子ホルダに着脱可能な容器である。前記超音波振動子ホルダは、液体試料を入れる容器が着脱可能であり、超音波を伝達する。前記超音波振動子ホルダは、超音波を発信する超音波振動子と、前記超音波振動子に固定されて、前記容器に前記超音波を伝達する保護層と、を有する。前記保護層は、前記超音波振動子と固定された面である第1面と、前記第1面の裏面であって、かつ接触媒質を介して前記容器が固定されるよう設計された第2面と、を有する。前記第2面は、前記接触媒質の塗布領域を示す目印である塗布領域目印を備える。前記容器は、前記塗布領域に対応する形状を有する側面と、前記液体試料を入れるためのインレットと、前記液体試料を排出するためのアウトレットと、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下の通りである。すなわち、液体試料を収容する容器が、超音波振動子ホルダから着脱可能である分析システムにおいて、分析精度の低下を抑制することができる。
【0011】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態である超音波振動子ホルダに容器を取り付けた状態を示す正面図である。
図2図1に示す超音波振動子ホルダを超音波振動子側から視た側面図である。
図3図1に示す保護層の第1面を示す平面図である。
図4図1に示す保護層の変形例を備えた超音波振動子ホルダおよび容器を示す正面図である。
図5図4に示すA-A線に沿って、X-Y平面と平行に切断した断面を示す断面図である。
図6図3に示す保護層の第2面を示す平面図である。
図7図6に対する変形例である超音波振動子ホルダの保護層の第2面を示す平面図である。
図8図7に示す保護層を備える超音波振動子ホルダに容器を固定するステップを示す説明図である。
図9図8に対する変形例であるステップを示す説明図である。
図10図8および図9に対する変形例である超音波振動子ホルダの構成例を示す正面図である。
図11図10のA-A線に沿って、X-Y平面と平行に切断した断面を示す断面図である。
図12図1に示す超音波振動子ホルダの変形例が備える保護層、および保護層の近傍に固定された容器を示す正面図である。
図13図12に示す保護層の窪みに接触媒質を供給する様子を模式的に示す上面図である。
図14図12に対する変形例を示す正面図である。
図15図14に示す保護層の窪みに接触媒質を供給する様子を模式的に示す上面図である。
図16図9に示す容器の固定方法に対する変形例を示す説明図である。
図17図9に示す容器の固定方法に対する他の変形例を示す説明図である。
図18図1に示す超音波振動子ホルダを用いた分析システムの構成例を示す説明図(正面図)である。
図19図18に示す超音波振動子ホルダを超音波振動子側から視た側面図である。
図20図18および図19に示す分析システムを利用した分析方法の工程フローを示す説明図である。
図21図18および図19に示す分析システムを用いた分析方法において、コンピュータによる処理フローの例を示す説明図である。
図22図21に続く処理フローの例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の実施の形態を説明するための各図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0014】
<超音波振動子ホルダ>
図1は、一例である超音波振動子ホルダに容器を取り付けた状態を示す正面図である。図2は、図1に示す超音波振動子ホルダを超音波振動子側から視た側面図(図1のX方向に見た側面図)である。なお、以下の説明において、正面図とは、超音波振動子ホルダの上面および下面の間にある四つの面のうち、超音波振動子10、超音波振動子ホルダ101、保護層11、および容器13のそれぞれが、横方向に並ぶように視認される方向の面を表す図を指す。上記のように視認される方向の面が2面ある場合には、図1に示すように、紙面に向かって左側から順に超音波振動子10、超音波振動子ホルダ101、および保護層11が配列される面を表した図を正面図とする。正面図の反対面側の図は背面図である。また、上記四つの面のうち、正面および背面以外の側面を表す図を側面図と呼ぶ(例えば図2参照)。また、各図には、どの方向から視た図かを示すため、互いに直交するX方向、Y方向、およびZ方向を矢印で示す。X方向およびY方向を含むX-Y平面は、水平面を構成し、Z方向は鉛直方向を構成する。
【0015】
図1に示すように、本実施の形態の超音波振動子ホルダ101は、分析対象である液体試料201が入った容器13に対して超音波を印加する機能を備える。容器13は、超音波振動子ホルダ101に対して着脱可能である。容器13の着脱方法の例は、後述する。容器13を着脱可能にした場合、超音波振動子10と容器13とを分離できる。この場合、例えば容器13をシングルユース(使い捨て)で利用する場合、容器13を分離して交換できるので、超音波振動子10は繰り返しの利用が可能である。また、容器13を洗浄する場合でも、超音波振動子10と分離した状態で洗浄することにより、容器13の洗浄性が向上する。
【0016】
超音波振動子ホルダ101は、超音波振動子10と、超音波振動子10を保護する保護層11と、保護層11と容器13との間に介在する接触媒質12と、を少なくとも有する。なお、上記は、超音波振動子ホルダ101が有する主要な部品であり、上記以外の部品を含んでいることを排除するものではない。例えば、超音波振動子10に電力を供給するリード(図示せず)などがこれに相当し、図1では図示を省略している。
【0017】
保護層11は、超音波振動子10に固定される。保護層11は、容器13に超音波を伝達する機能を備え、かつ、超音波振動子10の損傷を抑制する保護機能を備える。保護層11は、超音波振動子10と固定された面である第1面11Aと、第1面11Aの裏面であって、かつ、接触媒質12を介して容器13が固定されるように設計された第2面11Bと、を有する。
【0018】
容器13と超音波振動子ホルダ101とを着脱可能にした場合、容器13を取り付ける際、あるいは、超音波振動子10の繰り返しの使用により、超音波振動子10が損傷する可能性がある。上記した繰り返しの使用により超音波振動子10が損傷する原因の一つとして、超音波振動子の使用時間が長くなることが上げられる。超音波振動子10の損傷には、超音波振動子10が動作しなくなる場合の他、超音波振動子10が設定通りの超音波を出力しなくなる場合も含まれる。超音波振動子10が動作しない状態を含め、超音波振動子10が設定通りの超音波を出力しない場合、容器13に正しい超音波を印加することができないので、分析精度の低下の原因になる。
【0019】
図1に示す超音波振動子ホルダ101の場合、容器13と超音波振動子10との間には保護層11が介在する。保護層11は超音波振動子10に固定されている。言い換えれば、保護層11は、超音波振動子10から着脱されない。したがって、着脱作業の際に、容器13と超音波振動子10とが接触したり、衝突したりすることを回避できる。このため、超音波振動子10の摩耗や破損などのリスクを回避できる。また、図1に示すように、接触媒質12は、超音波振動子10には塗布されず、保護層11に塗布される。したがって、接触媒質12を超音波振動子10に繰り返し塗布することによる摩耗や破損のリスクを回避できる。すなわち、容器13を超音波振動子ホルダ101に対して着脱可能に構成した場合でも、超音波振動子10の損傷を抑制できる。また、保護層11は、超音波振動子10が出力した超音波を容器13に伝達する機能を備える。これにより、超音波振動子10と容器13とを直接的に接触させなくても、容器13に超音波を印加することができる。
【0020】
超音波振動子10は、電気機械変換効率が高く、電気信号で制御し易いという観点から圧電セラミックス製の振動子を用いることが好ましい。圧電セラミックスは、サイズのバリエーションが多く、超音波振動子10として適切なサイズを選択する観点から、圧電セラミックスを用いることは有利である。また保護層11には、超音波振動子10を保護する機能および超音波振動子10を固定して保持する機能が要求される。このため、高い剛性が得られる材料から成ることが好ましい。また、保護層11には、超音波を効率的に伝達する特性が要求される。これらの観点から、保護層11は、金属材料から成ることが好ましい。また、耐久性や重量などを考慮すると、保護層11は、ステンレス鋼、アルミニウム、あるいはその合金から成ることが特に好ましい。なお、保護層11を介して超音波を容器13に伝達する場合、超音波が保護層11において減衰する場合も考えらえる。ただし、減衰の程度が小さければ、この減衰の程度を考慮して、超音波振動子10の出力を保護層11がない場合と比較して高く設定すれば、正しく分析することができる。
【0021】
保護層11と超音波振動子10とは、接着剤15を介して接着固定されている。超音波振動子10から保護層11への超音波の伝達を考慮すると、超音波振動子10が備える複数の面のうち保護層11と対向する取り付け面10A、および保護層11の第1面11Aのそれぞれは、出来る限り平滑な面であることが好ましい。ただし、超音波振動子10と保護層11との間に、接着剤15が介在している場合、第1面11Aおよび取り付け面10Aのそれぞれに僅かな凹凸が存在する場合でもこの凹凸に接着剤15が埋め込まれる。このため、超音波振動子10から保護層11への超音波の伝達特性を向上させることができる。なお、図1に示す実施態様に対する変形例として、接触媒質12と同様に、非接着性の接触媒質を接着剤15に変えて用いることもできる。この場合、超音波振動子10と保護層11とを固定する他の手段(例えば、後述する押圧構造14と同様の固定方式等)が必要になるが、超音波振動子10から保護層11への超音波の伝達特性を向上させることはできる。超音波振動子10から保護層11への超音波の伝達、および保護層11から容器13への超音波の伝達を考慮すると、保護層11の第1面11Aおよび第2面11Bは、それぞれ平面(曲面ではない面;plane)であることが好ましい。また、保護層11の第1面11Aおよび第2面11Bは、互いに平行であることが好ましい。ただし、変形例として、保護層11の第1面11Aおよび第2面11Bのいずれか一方、あるいは両方が平面でない場合もある。また、別の変形例として、保護層11の第1面11Aおよび第2面11Bが平行に配置されない場合もある。
【0022】
超音波振動子10に固定した保護層11から容器13へ超音波を伝達するための接触媒質12は、超音波カプラントとも呼ばれる。接触媒質12は、液体又はゾルの物質であることが好ましい。接触媒質12として、ゲルを利用してもよいが、接触媒質12の厚さを薄くすることができる観点、あるいは、気泡の混入を抑制しやすいという観点からは、液体またはゾルが好ましい。また、後述する接触媒質12の塗布方法として、接触媒質12を細孔に通して供給する場合には、接触媒質12は液体またはゾルであることが特に好ましい。接触媒質12の例として、水、油、グリセロールなどを例示できる。
【0023】
液体試料201を入れる容器13の構成材料は、分光分析で用いる光を透過させやすいものが望ましい。また、容器13の構成材料は、化学的に安定で、機械的強度と耐熱性があるものがより望ましい。一般的には、容器13としては、分光分析用のセルやキュベットと呼ばれるものを用いる。セルやキュベットの構成材料は、例えば、石英、ガラス、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂などがあり、これらの材料の中から、液体試料201の種類に応じて、上記した光の透過性、化学的な安定性、機械的強度、あるいは耐熱性などの観点から好適なものを選択することができる。図1に示す例では、液体試料201を流すことができるように、容器13は、液体試料201を入れる(供給する)ための供給部であるインレット131と、液体試料201を排出するための排出部であるアウトレット132と、を有する。図1に示すように液体試料201を流すことができる容器13は、フローセルと呼ばれる。図1に示す例では、容器13の下方にインレット131が配置され、情報にアウトレット132が配置される。なお、図示は省略するが、図1に対する変形例として、容器13で液体試料201を流さず、貯液する場合には、供給口と排出口とが兼用化されている形式もある。容器13内での気泡の残留を抑制する観点からは、図1に示すように容器13の下方にインレット131が配置されることが好ましい。
【0024】
また、容器13は、保護層11の第2面11Bと対向する側面13Aを有する。側面13Aは、接触媒質12を介して保護層11に押し付けられる面であり、典型的には平面(曲面ではない面)である。保護層11の第2面11Bと、容器13の側面13Aとがそれぞれ平面であり、かつ、互いに対向している場合、保護層11から容器13への超音波の伝達特性を向上させることができる。
【0025】
図2に示すように、本実施の形態の超音波振動子ホルダ101の場合、側面視(平面視)において、保護層11の平面サイズは、超音波振動子10の平面サイズよりも大きい。図3に示すように、保護層11は、接着剤15(図1参照)を介して超音波振動子10(図1参照)が固定される固定領域11R1を備える。固定領域11R1は、図1に示す超音波振動子10の平面(取り付け面10A)を法線方向(図1に示すY方向)に延ばした領域として定義できる。なお、以下では、固定領域11R1および周辺領域11R2について説明するが、固定領域11R1および周辺領域11R2のそれぞれは、面ではなく、図1に示すY方向に延ばした立体的な部分として説明する。保護層11のうち、固定領域11R1は、接着剤15が密着する領域と、超音波振動子10の取り付け面10Aが接着剤15を介さずに対向する領域と、を含む。なお、接着剤15を固定領域11R1の外縁まで塗布した場合には、固定領域11R1の全体に接着剤15が密着する。また、保護層11は、固定領域11Aの周囲に、周辺領域11R2を備える。周辺領域11R2は、超音波振動子10の固定に直接的に寄与する領域ではないが、超音波振動子10を支持する支持構造体としての機能、あるいは、超音波振動子ホルダ101(図1参照)自体を図示しない装置や光学台などに固定するための構造体としての機能を備える。固定領域11R1には、超音波の伝達特性が要求される。一方、周辺領域11R2には、外力や自重により変形し難い剛性が要求される。
【0026】
図1に示す保護層11の厚さ(Y方向における長さ)、特に、保護層11の固定領域11R1(図3参照)の厚さは、保護層11が超音波振動子10と共振するために、保護層11の中における超音波の半波長の整数倍であることが望ましい。超音波の波長は、分析対象物や分析の目的に応じて設定変更されるが、例えば、ステンレス鋼中の超音波の伝搬速度を約5700m/sec、超音波の振動数を2MHz(メガヘルツ)とすると、1波長の長さは、約2.8mm、半波長の長さは、約1.4mmとなる。保護層11の厚さが極端に薄い場合には、加工が難しい、あるいは剛性が低くなって変形し易いなどの課題が生じる。このため、保護層11の固定領域11R1の厚さは、保護層11の中における超音波の半波長に対して0.5倍以上であることが好ましい。一方、保護層11の固定領域11R1の厚さが厚くなるほど、超音波の保護層11中での減衰の程度が大きくなる可能性が増大する。したがって、保護層11の固定領域11R1の厚さは、保護層11の中における超音波の半波長に対して10倍以下であることが好ましい。すなわち、保護層11の厚み(詳しくは、保護層11のうち、超音波振動子の取り付け面10Aをその法線方向に延ばした方向の固定領域11R1の厚み)は、保護層11内部における超音波の半波長の0.5倍以上かつ10倍以下であることが好ましい。
【0027】
なお、詳細は変形例として後述するが、保護層11における超音波の伝達特性は、固定領域11R1の厚さの影響が周辺領域11R2の厚さの影響よりも大きい。したがって、保護層11のうち、超音波の伝達特性に対する影響が大きい固定領域11R1を選択的に薄く形成し、支持構造体として、高い剛性が要求される周辺領域11R2(図3参照)が固定領域11R1よりも厚くなっている構造が好ましい。
【0028】
また、図1に示すように、超音波振動子ホルダ101は、容器13を固定する固定構造を有する。図1に示す例では、容器13の側面13Aの反対側の面から容器13を保護層11の第2面11Bの方向に向かって押し当てる押圧構造(押圧部材)14を固定構造として採用している。図1に示す押圧構造14は、図1に示すY方向の反対方向(以下、-Y方向と記載する)に容器13を押圧する機構を備える。容器13は、側面13Aの反対側の被押圧面13Bを有する。押圧構造14は、容器13の被押圧面13BをY方向の反対方向(以下、-Y方向と記載する)に向かって押圧する機構を備える。押圧構造14に押圧された容器13は、接触媒質12を介して保護層11の第2面11Bに押し付けられる。保護層11に押し付けられる容器13の側面13Aは、典型的には平面である。
【0029】
容器13を保護層11に接触媒質12を介して固定する固定構造は、容器を着脱可能とする必要がある。このため、この固定構造は、接着剤15により保護層11と容器13とを接着固定するのではなく、使用中に容器13が位置ずれしないように固定する。固定構造の一例としての押圧構造14としては、金属板、金属ブロック、金属棒、ばね、ボルト、ゴム板、樹脂板、樹脂ブロック、樹脂棒、などを例示することができる。あるいは、上記した部材を組み合わせた構造物を押圧構造14として用いることもできる。押圧構造14により容器13を押圧する機構としては、以下の方法を例示できる。例えば、図示しない支持板に螺合されたボルトを、容器13に当接させ、この状態で、ボルトを回し、-Y方向に突出させることにより、容器13を保護層11に押し付ける方法がある。この場合、ボルトを逆方向に回転させることにより、容器13に対する押圧力を取り除き、容器13を超音波振動子ホルダ101から分離することができる。また例えば、金属板、金属ブロック、金属棒、ばね、ボルト、ゴム板、樹脂板、樹脂ブロック、樹脂棒などから成る押圧構造14を容器13に当接させて、押圧構造14を構成する材料の弾力性、あるいは力の反作用を利用して、容器13を保護層11に押し付けて固定する方法がある。容器13に当てた押圧構造14を押圧するための駆動力としては、例えば、空気圧、水圧、油圧、電磁力などを例示できる。
【0030】
なお、容器13を固定する固定構造には、図1に示す押圧構造14の他、種々の変形例がある。固定構造は、容器13および超音波振動子ホルダ101を密着させることができ、かつ、分離させることができればよい。例えば、図示は省略するが、図1に対する変形例として、超音波振動子ホルダ101の保護層11および超音波振動子10の部分と、容器13とをそれぞれ独立して保持し、かつ、独立して搬送可能な搬送機構部を備えている場合もある。この変形例の場合、搬送機構部を動作させることにより、容器13および超音波振動子ホルダ101を密着させることができ、かつ、分離させることができるので、固定構造として利用可能である。
【0031】
<保護層の構造の変形例>
図4は、図1に示す保護層の変形例を備えた超音波振動子ホルダおよび容器を示す正面図である。図5は、図4に示すA-A線に沿って、X-Y平面と平行に切断した断面を示す断面図である。図4および図5に示す変形例の場合、保護層11の固定領域11R1の厚さ11T1(図4参照)が、周辺領域11R2の厚さ11T2より薄くなっている点で図1に示す実施形態と相違する。
【0032】
詳しくは、図5に示すように、保護層11は、固定領域11R1と重なる位置に形成された、凹部(溝、穴)11Hを有する。凹部11Hは、保護層11の第1面11A側から第2面11B側に向かって掘られた穴である。凹部11Hは、保護層11を厚さ方向(第1面11Aおよび第2面11Bの一方から他方に向かう方向)に貫通しない。凹部11Hの底面11Gは、典型的には平面である。超音波振動子10の少なくとも一部分は、凹部11Hの内部に挿入され、凹部11Hの底面11Gに接着剤15(図4参照)を介して接着固定される。なお、本変形例のように第1面11Aが平坦面(flat surface)ではない場合、底面11Gは、保護層11の第1面11Aの一部分であると見做すことができる。この場合、底面11Gと第2面11Bとの間に挟まれた部分の厚さ11T1(図4参照)は、周辺領域11R2に属する部分の厚さ11T2よりも薄くなる。この底面11Gと第2面11Bとの間に挟まれた部分は、固定領域11R1の全体を含む。固定領域11R1は、超音波振動子10の取り付け面10Aを法線方向に延長した領域として定義される。このため、超音波振動子10を凹部11Hに挿入するためのクリアランスを考慮すると、厳密には、底面11Gは、固定領域11R1の全部と、周辺領域11R2の一部分と、を含む。ただし、底面11Gのうち、周辺領域11R2に属する部分の面積は、固定領域11R1に属する部分の面積と比較して、無視できるほど小さい。したがって、実質的には、凹部11Hの底面11Gは、固定領域11R1に属していると見做すことができる。
【0033】
本変形例の場合、保護層11のうち、超音波の伝達に寄与する固定領域11R1の厚さ11T1(図4参照)が周辺領域11R2の厚さより薄いので、保護層11による超音波の減衰の程度を低減できる。また、保護層11の周辺領域11R2の厚さ11T2は、厚くすることができる。例えば、本変形例の場合、保護層11の周辺領域11R2は、超音波振動子10の周囲に額縁状に配置される。この結果、超音波振動子10および保護層11を含む超音波振動子ホルダ101全体の剛性を高めることができる。超音波振動子10が取り付けられる底面11Gの表面状態は、平坦化された面であることが好ましい。ただし、上記したように、超音波振動子10の取り付け面10Aと底面11Gとの間に接着剤15(図4参照)が介在する場合、多少の表面粗さがあっても、接着剤15が埋め込まれるので、表面状態が粗いことに起因する超音波の伝達特性の低下を抑制できる。
【0034】
<接触媒質の供給および容器の配置>
次に、図1または図4に示す接触媒質12の供給方法、容器13の固定方法、およびこれらの処理に適した超音波振動子ホルダの各構成部品の構造について説明する。図6は、図3に示す保護層の第2面を示す平面図である。図6は、保護層11の第2面11Bを示す平面図であるが、図3に示す固定領域11R1と、図6に示す塗布領域12Rとの平面的な位置関係を示すため、超音波振動子10を法線方向に延長した空間と、第2面11Bとが交わる領域(図3の固定領域11R1に対応する領域)を固定領域11R3として二点鎖線で示している。上記したように、固定領域11R1および周辺領域11R2のそれぞれは、面ではなく、図1に示すY方向に延ばした立体的な部分として定義したが、領域11R3は、領域11R1のうち、第2面11Bと交差する面として定義する。
【0035】
図1図4に示す接触媒質12は、図6に示す塗布領域12Rに接触媒質12を供給(塗布)する必要がある。塗布領域12Rは、接触媒質12が供給される予定領域であって、実際に接触媒質12が配置される領域との間に若干の誤差は許容される。図6に示す例の場合、保護層11の第2面11Bは、接触媒質12(図1参照)の塗布領域12Rを示す目印である塗布領域目印20を備える。保護層11が塗布領域目印20を備えていることにより、接触媒質12の供給位置がずれた場合に、そのずれの発生およびずれの程度を、視覚的(イメージセンサなどを用いた場合には光学的)に検出することが可能となる。
【0036】
塗布領域目印20は、接触媒質12の供給位置がずれた場合に視覚的(光学的)に認識することができればよいので、種々の方法が考えられる。例えば、保護層11の第2面11Bを塗布領域12Rの外縁に沿って薄く削り、ケガキ線を形成する方法が例示できる。あるいは、第2面11Bに印刷により塗布領域目印20を形成する方法を適用する場合もある。印刷による方法の場合、ケガキ線を形成する方法と比較して、保護層11の第2面11Bの凹凸を小さく抑えることができるので、超音波の伝達特性の低下を抑制する観点からは好ましい。
【0037】
また、塗布領域目印20の形状にも種々の例がある。例えば図6では、塗布領域12Rの外縁に沿って、枠形状の塗布領域目印20を形成する例を示している。他に、塗布領域12Rの外縁に沿って、部分的に塗布領域目印20を形成する場合がある。この方法の例としては、例えば、塗布領域12Rの外縁が四角形を成す場合、四角形の四つの角部の少なくとも対角の2か所以上に塗布領域目印20を形成する方法、四つの辺のそれぞれに塗布領域目印20を形成する方法、あるいは四つの角部に加え、隣り合う角部の間の各辺にも塗布領域目印20を形成する方法、などを例示できる。
【0038】
図1および図4に示す接触媒質12は、図6に示す塗布領域目印20の範囲内に塗布される。塗布方法としては、例えば、刷毛や綿棒、布、あるいはローラなどの塗布治具を利用して、接触媒質12(図1参照)を保護層11の第2面11B上に引き延ばして塗布する方法がある。別の塗布方法として、図示しないノズルから接触媒質12を流出または噴射させて塗布する場合もある。また、別の塗布方法として、予め接触媒質12が塗布された転写面を備える平板状の転写用治具を、塗布領域12Rに張り付けることにより接触媒質12を転写する方法がある。あるいは、上記した転写用治具として、接触媒質12を染み込ませたスポンジを用いる場合もある。
【0039】
図6に示すように、塗布領域12Rは、超音波振動子10(図1参照;詳しくは超音波振動子10の取り付け面10A)を法線方向に延長した空間と、第2面11Bとが交わる領域11R3を包含する領域である。超音波は、固定領域11R1(図3参照)から伝達され、かつ、塗布領域12Rを経由して保護層11から容器13(図1参照)に伝達される。このため、図6に示すように、塗布領域12Rが固定領域11R1の反対面である固定領域11R3を包含する位置に配置されていることにより、超音波の伝達経路を直線的に配置することができる。なお、図6に対する変形例として、固定領域11R3の一部が塗布領域12Rに含まれない場合もある。ただし、超音波の伝達の効率化の観点からは、図6に示すように固定領域11R3の全体が塗布領域12Rに含まれていることが特に好ましい。
【0040】
また、図1および図4に示す超音波振動子10が出力する超音波の進行方向(図6に示す例ではY方向)に着目すれば、図6に示す構成は以下のように表現することができる。すなわち、塗布領域12Rは、超音波の進行方向に、超音波振動子10(図1参照)を延長した空間と、第2面11Bと、が交わる領域(固定領域11R3)を包含する領域である。この場合、上記した表現と同様に、超音波の伝達経路を直線的に配置することができるので、超音波の伝達を効率化することができる。
【0041】
図7は、図6に対する変形例である超音波振動子ホルダの保護層の第2面を示す平面図である。図8は、図7に示す保護層を備える超音波振動子ホルダに容器を固定するステップを示す説明図である。図9は、図8に対する変形例であるステップを示す説明図である。
【0042】
図7図9に示す例では、超音波振動子ホルダ101A(図8および図9参照)が、容器13(図8および図9参照)、塗布領域12R(図7参照)に固定させることをガイドする、ガイド部材21を有する点で、図1図4に示す超音波振動子ホルダ101と相違する。なお、図8および図9では、図1に示すインレット131およびアウトレット132の図示を省略している。また、図8および図9に示す例では、図1に示す液体試料201を容器13内に供給する前に容器13を固定する態様を示しているので、液体試料201が図示されていない。
【0043】
超音波振動子ホルダ101Aの場合、例えば図8に示すように、保護層11の第2面11B上にあらかじめ接触媒質12を塗布しておく。その後、容器13をガイド部材21に沿って保護層11に向かって押し付ける。あるいは、図9に示すように、容器13の側面13A上にあらかじめ接触媒質12を塗布しておく。その後、容器13をガイド部材21に沿って保護層11に向かって押し付ける。なお、図9に示す例の場合には、容器13に塗布領域の目印が形成されていることが好ましい。容器13への接触媒質12の塗布方法は、図6を用いて説明した保護層11の塗布領域12Rへの接触媒質12の塗布方法と同様である。
【0044】
本変形例では、ガイド部材21は、保護層11に固定されている。超音波振動子ホルダ101がガイド部材21を備えることにより、容器13を押し付ける位置の精度を向上させることができるので、繰り返しの取り付け作業による容器13の位置ずれを防止できる。また、ガイド部材21を用いれば、容器13を押し付ける作業において、目視により試行錯誤する必要がない。このため、容器13を押し付ける作業を効率化することができる。
【0045】
図7に示す例では、ガイド部材21は、L字形状の金具である。ただし、ガイド部材21は、容器13を保護層11に向かって押し付ける際に、容器13の位置を誘導できる材料であれば、その形状や、固定位置には種々の変形例がある。例えば、ガイド部材21の形状の変形例として、U字形状、円柱状、あるいは角柱状などの形状のピンを例示できる。また、ガイド部材21の固定位置に関しては、図7に示す塗布領域12Rの周囲に少なくとも1個以上のガイド部材21が固定されていることが好ましい。また、位置合わせ精度を向上させる観点からは、塗布領域12Rの周囲に複数個のガイド部材21が形成されていることが好ましい。ただし、例えば、固定可能な容器13の種類の汎用性を向上させる観点からは、ガイド部材21により位置が規制される部分は少ない方が好ましい。したがって、例えば、図7に示すように平面視において、塗布領域12Rが四角形を成す場合、例えば、四角形の一片の両端にある角部に、それぞれガイド部材21が固定され、反対側の辺にはガイド部材21が固定されない構造も考えられる。この場合、容器13の選択の自由度が向上する。
【0046】
また、ガイド部材21の変形例として、図10および図11に示す態様もある。図10は、図8および図9に対する変形例である超音波振動子ホルダの構成例を示す正面図である。図11は、図10のA-A線に沿って、X-Y平面と平行に切断した断面を示す断面図である。図10に示す超音波振動子ホルダ101Bはガイド部材21が、保護層11の第2面11Bから第1面11Aに向かって形成された凹部21Aと、容器13の側面13Aに形成された凸部21Bと、から成る点で、図8に示す超音波振動子ホルダ101Aと相違する。凹部21Aおよび凸部21Bのそれずれは互いに対応した形状(凸部21Bを凹部21Aに挿入可能な程度のクリアランスで係合可能な形状)を有する。図11に矢印を付して模式的に示すように、容器13の側面13Aを保護層11の第2面11Bに向かって押し込むと、凸部21Bは凹部21Aに挿入される。これにより、図8および図9を用いて説明したガイド部材21の場合と同様に、高精度で容器13と保護層11との位置合わせ行うことができる。また、本変形例の場合、位置合わせ作業を効率的に実行できる。
【0047】
図10および図11に示す変形例は、容器13の形状に着目すれば、以下のように表現することができる。すなわち、容器13は、ガイド部材(凹部21A)の形状に対応する形状(凸部21B)を有する。図10および図11では、容器13に直方体形状の凸部21Bを形成し、保護層11に直方体形状の凹部21Aを形成する例を取り上げて説明したが、容器13と保護層11との形状により容器13の位置決めを行う方法には種々の変形例がある。例えば、凸部21Bおよび凹部21Aの形状は、直方体形状の他、角柱、円柱、角錐、半球など、種々の形状が適用できる。また、保護層11の第2面11B側に凸部21Bが形成され、かつ、容器13の側面13A側に凸部21Bに対応する凹部21Aが形成されている場合もある。また、図8図9に示すように、保護層11の第2面11Bおよび容器13の側面13Aのそれぞれが平坦面である場合も、容器13の側面13Aの形状が保護層11の塗布領域12Rの形状に対応した形状であることを示す一態様として考えることができる。また、他の変形例として、押圧構造14側に凹部21Aが形成されている場合がある。
【0048】
図6に示す塗布領域目印20や、図7図11に示すガイド部材21を活用することにより、保護層11の塗布領域12R(図6および図7参照)と容器13との間に、接触媒質12(図8図11参照)を確実に介在させることができる。なお、容器13の側面13Aの全体が塗布領域12Rに固定されていることが好ましいが、少なくとも側面13Aの一部分が塗布領域12Rに固定されていれば、その塗布領域12Rに固定された部分を介して容器13内に超音波が伝達される。
【0049】
<接触媒質供給の変形例>
次に接触媒質12を供給する方法の変形例について説明する。図12は、図1に示す超音波振動子ホルダの変形例が備える保護層、および保護層の近傍に固定された容器を示す正面図である。図13は、図12に示す保護層の窪みに接触媒質を供給する様子を模式的に示す上面図である。また、図14は、図12に対する変形例を示す正面図である。図15は、図14に示す保護層の窪みに接触媒質を供給する様子を模式的に示す上面図である。図12図15では、保護層11の第2面11Bに形成された窪み31の輪郭、および保護層11の表面から窪み31までを連通する複数の細孔32のそれぞれを、点線で示している。
【0050】
図12および図13に示す超音波振動子ホルダ101Cおよび図14および図15に示す超音波振動子ホルダ101Dのそれぞれは、接触媒質12を供給するための窪み31および細孔32を備えている点で、図1に示す超音波振動子ホルダ101と相違する。超音波振動子ホルダ101Cおよび超音波振動子ホルダ101Dのそれぞれは、接触媒質12(図13および図14参照)を充填するための第1細孔32A(図13図15参照)と、保護層11の第2面11Bに接し、塗布領域12Rとして、接触媒質12が満たされるように設計された窪み31と、を有する。第1細孔32Aを介して窪み31に接触媒質12を供給することにより、上記した塗布領域目印20(図6参照)がない場合でも、正しい位置に精度よく接触媒質12を供給することができる。
【0051】
また、超音波振動子ホルダ101Cおよび超音波振動子ホルダ101Dのそれぞれは、窪みに残る空気(気体)または接触媒質12を排出するための第2細孔32Bを有する。供給口である第1細孔32Aとは別に、排出口である第2細孔32Bを有することにより、窪み31と容器13とに囲まれた空間内での気泡の発生を抑制できる。図12図15に示す例では、容器13を押し付けた後で、接触媒質12を供給する例を示している。ただし、変形例として、接触媒質12が窪み13に充填された後で、容器13を押し付ける場合もある。
【0052】
超音波振動子ホルダ101Cおよび超音波振動子ホルダ101Dのそれぞれが備える保護層11は、第2面11Bに連なる第3面(側面)11C、第3面の反対側にある第4面(側面)11D、第2面11B、第3面11Cおよび第4面11Dに連なる第5面(上面)11E、および第5面11Eの反対側にある第6面(下面)11Fを有する。
【0053】
窪み31は、保護層11の第2面11Bに設けられた凹部である。窪み31の開口面積(第2面11Bにおける開口した部分の面積)は、容器13内に超音波による凝集層を形成したい領域の面積以上であることが好ましい。例えば、容器13が分光分析用のセルであり、容器13の外側の厚さ(X方向における容器13の長さ、言い換えれば、光源からの光ビームが容器13に入射される位置から容器13から出射される位置までの距離)が3mm、全高が45mm、光路長(光源からの光ビームが容器13内の液体試料201を通過する距離)が1mm、容器13内の凝集層のZ方向(高さ方向)の長さが10mmとする。この場合、窪み31の開口部分は、幅(X方向の長さ)が1~3mm、高さ方向(Z方向)の長さが10~45mmとなっていることが好ましい。また、窪み31の深さ(Y方向の長さ)は、接触媒質12を流すことができる範囲で、極力浅いことが好ましい。例えば、窪み31の深さは、0.01~0.5mmの範囲内であることが好ましい。
【0054】
また、第1細孔32A、第2細孔32Bを含む、複数の細孔32のそれぞれの孔径は、孔を形成する加工性、および接触媒質12の流動性を考慮して決定することができる。例えば、複数の細孔32のそれぞれの孔径は、0.1~1mmの範囲内である。
【0055】
図12および図13に示す超音波振動子ホルダ101Cの場合、保護層11の第3面11Cにおいて、複数の第1細孔32Aの端部が露出し、第4面11Dにおいて、複数の第2細孔32Bの端部が露出する。複数の第1細孔32Aおよび第2細孔32Bのそれぞれは、X-Y平面に沿って伸びる。複数の第1細孔32Aのそれぞれには、注入器33および圧力センサ34が配管35を介して接続される。また、複数の第2細孔32Bのそれぞれには排出用の配管35が接続される。超音波振動子ホルダ101Cの場合、窪み31の長手方向に沿って、複数の第1細孔32Aおよび複数の第2細孔32Bが配置されているので、窪み31内の充填ムラを低減できる。
【0056】
一方、図14および図15に示す超音波振動子ホルダ101Dの場合、保護層11の第5面11Eにおいて、第1細孔32Aの端部が露出し、第6面11Fにおいて第2細孔32Bの端部が露出する。第1細孔32Aには、注入器33および圧力センサ34が配管35を介して接続される。また、第2細孔32Bには排出用の配管35が接続される。超音波振動子ホルダ101Dの場合、細孔32の数を少なくすることができるので、加工効率を向上させることができる。
【0057】
なお、図12~15に対する変形例として、第1面11A(図1参照)や第2面11Bに細孔32を設ける場合もある。ただし、超音波振動子10(図1参照)や容器13の配置に制約を設けないという観点からは、図12図15に示すように、第3面11C~第6面11Fのいずれかの面に細孔32が設けられることが好ましい。
【0058】
<容器押し付け方法の変形例>
次に、容器13を押し付ける方法の変形例について説明する。図16は、図9に示す容器の固定方法に対する変形例を示す説明図である。図17は、図9に示す容器の固定方法に対する他の変形例を示す説明図である。
【0059】
図16に示す方法は、接触媒質12が付着したローラ41に容器13を接触させながら容器13を斜め下方に移動させる工程を有する。言い換えれば、図16に示す方法は、接触媒質12が付着したローラ41に容器13を接触させながら容器13をX-Z平面に対して傾斜した状態で、Z方向の反対方向(-Z方向)に向かって移動させる。この工程により、容器13に接触媒質12が塗布される。
【0060】
また、図16に示す方法は、容器13に接触媒質12を塗布した後、容器13のうち、接触媒質12が塗布された面を保護層11の第2面11Bに押し付ける工程を有する。本工程では、例えば押圧構造14により容器13の被押圧面13Bを押圧する。容器13がX-Z平面に対して傾斜している状態の場合、容器13は、容器13と保護層11とが接触している位置を回転中心として、回転しながら保護層11に押し付けられる。なお、本工程は、例えば手動で容器13を保護層11に向かって押し付けて、最終的に容器13を固定する際に押圧構造14を用いる方法でもよい。
【0061】
図17に示す方法は、接触媒質12を吐出する(噴射する場合もある)ノズル42から、接触媒質12を容器13に塗布しながらノズル42を斜め下方(X-Z平面に対して傾斜した状態で、-Z方向)に移動させる工程を有する。この工程により、容器13に接触媒質12が塗布される。
【0062】
また、図17に示す方法は、図16に示す方法と同様に、容器13に接触媒質12を塗布した後、容器13のうち、接触媒質12が塗布された面を保護層11の第2面11Bに押し付ける工程を有する。本工程は、図16を用いて説明した工程と同様なので、重複する説明は省略する。なお、図17に示す方法の場合、ノズル42から接触媒質12を吐出している途中で、容器13が容器13と保護層11とが接触している位置を回転中心として、回転しながら保護層11に押し付けられてもよい。この場合、接触媒質12の塗布が完了した直後に、接触媒質12の全体が、保護層11に接触する。
【0063】
図16および図17に示す容器13の固定方法の場合、容器13が保護層11の第2面11Bに対して傾斜した状態から回転しながら押し付けられる点で、図9に示す実施態様と相違する。この方法は、接触媒質12内に気泡が残留しにくくなる点で好ましい。また、図16および図17に示す容器13の固定方法の場合、ローラ41(図16参照)やノズル42(図17参照)などの接触媒質供給装置を用いて接触媒質12を塗布することにより、手作業で塗布する場合と比較して、塗布ムラが発生しにくい。このため、接触媒質12の面内均一性を確保できるので、超音波の伝達特性を向上させることができる。なお、図16および図17では、図示を省略したが、図9等を用いて説明したガイド部材21を利用する技術を組み合わせて適用する場合がある。
【0064】
<分析システム>
次に、上記した超音波振動子ホルダを用いた分析システムについて、説明する。以下では、分析システムの代表例として、図1に示す超音波振動子ホルダ101を用いた分析システムについて説明するが、上記した各種の変形例を適用可能である。図18は、図1に示す超音波振動子ホルダを用いた分析システムの構成例を示す説明図(正面図)である。図19は、図18に示す超音波振動子ホルダを超音波振動子側から視た側面図である。
【0065】
図18および図19に示すように、本実施の形態の分析システム300は、超音波振動子ホルダ101と、超音波振動子10に電圧を印加する発振器50(図18参照)と、容器13に光を照射する光源51(図19参照)と、容器13を透過した光を受光する受光部52と、受光部52によって受光した光に基づいて、液体試料201の分析処理を行うコンピュータ53と、を有する。
【0066】
図19に示す例では、分析システム300は、発振器50、光源51、受光部52、コンピュータ53、および分光分析部(分光分析装置)54を有している。図19では、コンピュータ53と分光分析部54とを分離して示している。ただし、図19に括弧書きで示すように分光分析部54の機能は、コンピュータ53の一部として考えることもできる。
【0067】
容器13は、液体試料201を入れるためのインレット131と、液体試料201を排出するためのアウトレット132とを備えている。光源51および受光部52は、容器13を挟むように配置されている。光源51から出力された光ビーム55は容器13を通り、受光部52に到達する。光源51および受光部52は、分光分析部54と電気的に接続されている。また、分光分析部54は、コンピュータ53と電気的に接続されている。あるいは、分光分析部54は、コンピュータの一部である。コンピュータ53の一部としての分光分析部54は、光源51から出力される光の波長の制御や、受光部52が受けた光に基づいて光の強度、吸光度、あるいはスペクトルなどの計測を行う。
【0068】
変形例として、光源51および受光部52のそれぞれが分光分析部54内に収容され、それぞれが光ファイバに接続されている場合もある。この変形例の場合、光源51に接続される光ファイバと受光部52に接続される光ファイバとが容器13を介して互いに対向するように配置される。容器13に出力される光は、光源51に接続される光ファイバから出射され、容器13を透過した光は、受光部52に接続される光ファイバに受光される。また、別の変形例として、一つの筐体内に、超音波振動子ホルダ101、容器13、押圧構造14、光源51、受光部52、分光分析部54、およびコンピュータ53が収容される構造の場合もある。
【0069】
発振器50は、超音波振動子10を設定された周波数および振幅で駆動し、超音波振動子10から超音波を発信させる駆動部品である。図18および図190では図示を省略したが、発振器50は高周波アンプなどの増幅機器や、オシロスコープなどの計測機器に接続され、超音波振動子10に印加される電気信号の増幅、あるいは測定ができるようになっていることが好ましい。
【0070】
次に、超音波の照射による懸濁した液体試料201中の濁質の凝集とそれによる透明領域の形成について説明する。超音波振動子10から容器13内へ放射された超音波は、容器13の平面で反射される。超音波の周波数を特定の周波数に調整すると、容器13内に定在波が形成される。容器13の内部では、超音波の音響放射力によって、定在波の節または腹に、液体試料201中の濁質が寄せ集められて凝集層56が周期的に形成される。定在波の節または腹に互いに隣り合って形成される複数の凝集層56の間には、濁質がないあるいは濁質の濃度が低い透明な領域ができる。この透明領域ができることによって、光源51からの透過光強度が増加し、懸濁した液体試料201の光分析の精度を向上させることができる。
【0071】
本セクションでは、光分析のための分析システムを例示的に取り上げて説明した。ただし、上記した超音波振動子ホルダ10は、光分析システムの他、種々の分析し捨て宇に利用できる。例えば、光分析はせずに、液体クロマトグラフや質量分析に入れる分析試料の分析前処理として固液分離をするため、液体試料201の固液分離あるいは気液分離、液液分離に用いることができる。また、液体試料201中の濁質は、固体微粒子の場合に限定はされず、例えば、気泡の場合、水溶液中の油滴の場合、それらの混合物などの場合がある。本セクションで説明した分析システムによれば、上記した超音波振動子ホルダ101、あるいはその変形例である超音波振動子ホルダを用いることにより、各実施態様で説明した効果が得られる。
【0072】
<分析方法>
次に、図18および図19を用いて説明した分析システムを利用した分析方法について説明する。図20は、図18および図19に示す分析システムを利用した分析方法の工程フローを示す説明図である。図20に示す分析方法は、ステップS101~ステップS110までを含む。以下では図20に示す各ステップについて順に説明する。本セクション以降の説明において、「コンピュータ53に制御された機構」という説明は、例えばロボットを意味する。
【0073】
(ステップS101:接触媒質塗布工程)作業者、または図19に示すコンピュータ53に制御された機構が、図6に示す保護層11の塗布領域12R、または、図9に示す容器13の側面13Aのいずれかに、接触媒質12を塗布する。接触媒質12の塗布方法は、図6図9を用いて説明した方法、図12図15を用いて説明した方法、あるいは図16および図17を用いて説明した方法を例示することができる。なお、図12図15を用いて説明した方法において、容器13を保護層11に押し付けた状態で接触媒質12を窪み31内に供給する場合、ステップS101は、ステップS102およびステップS103の後で実施する。
【0074】
(ステップS102:容器位置合わせ工程)作業者、または図19に示すコンピュータ53に制御された機構が、図1に示す容器13を超音波振動子ホルダ101に取り付ける。容器13の固定は次のステップS103で行うので、本工程では、容器13と超音波振動子ホルダ101との位置合わせを行う。位置合わせの方法としては、手動で試行錯誤する方法もあるが、図7図11を用いて説明したようにガイド部材21を用いて位置合わせを行うことが好ましい。
【0075】
(ステップS103:容器固定工程)作業者、または図19に示すコンピュータ53に制御された機構が、図1に示す押圧構造14を容器13に向かって押し付け、容器13と超音波振動子ホルダ101とが接触媒質12を介して互いに対向した状態で固定する。固定方法としては、図8図9に示すように押圧構造14を利用してX-Y平面に沿った方向に押し付ける方法の他、図16図17を用いて説明したように、容器13が保護層11の第2面11Bに対して傾斜した状態から回転するように押し付ける方法が例示できる。
【0076】
(ステップS104:液体試料供給工程)作業者、または図19に示すコンピュータ53に制御された機構が図1に示す液体試料201を容器13に供給する。液体試料201は、例えば容器13のインレット131から供給され、容器13に充填される。本工程では、例えば、液体試料201を継続的に供給し続け、容器13内で流動的な状態を保つ。あるいは変形例として、本工程では、あるいは、容器13に必要量(あらかじめ設定された充填量)の液体試料201が充填された状態で供給を一旦停止する。本工程の変形例としては、例えば、作業者が、ピペットなどを用いて手動で容器13に供給する場合もある。あるいは、コンピュータ53が制御する機構がポンプなどの送液装置を介して液体試料201を供給する場合もある。
【0077】
(ステップS105:超音波発振工程)図19に示すコンピュータ53が図18に示す発振器50を駆動して、超音波振動子10から超音波を発振させる。超音波は、例えば図1に示す接着剤15、保護層11、接触媒質12、および容器13を介して容器13内の液体試料201に伝達される。
【0078】
(ステップS106:光分析工程)図19に示すコンピュータ53が光源51から光ビーム55を出力し、受光部52が受光した光を計測する。計測方法の一例として、例えば、コンピュータ53は、分光分析部54に制御信号を送り、受光部52を介してスペクトルを取得し、スペクトルから、成分の種類や成分濃度を定性定量分析する。分光分析部54の操作を作業者が実施する場合もある。光分析の際、あるいはその前後に、容器13の中の液体試料201の流速を変える、あるいは流れを止める処理をおこなってもよい。コンピュータ53の分光分析部54は、この計測結果に基づいて、光分析(例えば図18および図19を用いて説明した分光分析)を実施する。なお、ステップS105において超音波を発振させた後、図18に示す凝集層56が形成されるまでには、濁質の移動などの時間を要する。したがって、ステップS105を開始した後、ただちにステップS106を実施するよりは、ステップS106を開始する前に凝集層56の形成を待つ待機時間が設けられていることが好ましい。ステップS106を開始するタイミングは、例えば、図19に示す光源51から容器13の中を通り、受光部52に達した透過光強度が最大になったときに開始する方法、あるいは、透過光強度の時間変化率があらかじめ定めた閾値以下になり、ほぼ一定とみなせる状態になったときに開始する方法が例示できる。
【0079】
(ステップS107:超音波停止工程)図19に示すコンピュータ53が図18に示す発振器50を停止させ、超音波の出力を停止する。
【0080】
(ステップS108:液体試料交換工程)作業者、または図19に示すコンピュータ53に制御された機構が、分析が完了した液体試料201を、例えば図1に示す容器13のアウトレット132から外部に排出し、必要に応じてまた新たな液体試料201を容器13内に供給する。容器13を繰り返し利用する場合には、ステップS104~ステップS108までを繰り返すことにより、複数サイクルの光分析が実施できる。一方、容器13を使い捨て(シングルユース)とする場合には、次のステップS109に進む。
【0081】
(ステップS109:容器取り外し工程)作業者、または図19に示すコンピュータ53に制御された機構が、分析が完了した液体試料201を充填していた容器13を超音波振動子ホルダ101から取り外す。図1に示す接触媒質12は、接着剤15とは異なり、容器13と保護層11とを接着固定していない。このため、本工程において、押圧構造14による押圧力を緩めれば、容器13を容易に取り外すことが可能である。
【0082】
(ステップS109:接触媒質除去工程)作業者、または図19に示すコンピュータ53に制御された機構が、超音波振動子ホルダ101から接触媒質12(図1参照)を除去する。除去方法は、例えば、接触媒質12を図示しない吸引ノズルで吸い取る方法、綿棒や布でこすり取る方法、あるいはスポンジで吸い取る方法などが例示できる。より確実に除去する観点から、洗浄液やリンス液を吹き付ける、あるいはこれらをしみ込ませた布などを利用する方法を採用することもできる。洗浄液やリンス液を利用した場合には特に、洗浄後に塗布領域周辺にガスを吹き付けて塗布領域周辺を乾燥させることが好ましい。
【0083】
なお、容器13を再利用する場合には容器13に付着した接触媒質12も除去する必要がある。容器13をシングルユースとする場合には、この後、ステップS101に戻り、新たな容器13を用いてステップS101からステップS101を繰り返す。なお、繰り返し分析を行う場合に、接触媒質12を残した状態で再利用する場合には本工程は省略できる。ただし、接触媒質12への気泡の巻き込み、あるいは、接触媒質の塗布領域12R(図6参照)からのはみ出しを抑制する観点からは、本工程を実施して、使用済の接触媒質12を除去することが好ましい。繰り返しの分析の最後のサイクルでは、本工程の完了により分析作業が終了する。
【0084】
<コンピュータを利用した分析システム>
次に、図20に示す分析のフローを図19に示すコンピュータを用いて実施する場合に、コンピュータが実行する処理の好ましい態様について説明する。図21は、図18および図19に示す分析システムを用いた分析方法において、コンピュータによる処理フローの例を示す説明図である。図22は、図21に続く処理フローの例を示す説明図である。なお、図21では、図20に示すステップS101をステップS102およびステップS104の後で実施する例として示している。なお、図21および図22に示すフローでは、図20を用いて説明したフローと共通する工程がある。これらの工程については、図20を用いた説明と異なる処理について説明し、共通する部分の説明は省略する。図21および図22に示す分析処理では、図9に示すコンピュータ53が以下の処理を行う。
【0085】
(ステップS103:容器固定工程)図21に示すステップS103は、図19に示す容器13が押圧構造14に押圧される工程(ステップS103A)、およびステップS103Aの後、容器13が押圧される力を検出する工程(ステップS103B)を含む。ステップS103Aでは、コンピュータ53に制御された機構が押圧構造14を駆動し、容器13を押圧する。ステップS103Bでは、コンピュータ53が、押圧構造14による押圧力を検出する。コンピュータ53は、例えば押圧構造14、容器13、あるいは超音波振動子ホルダ101に接続された圧力センサ(図示は省略)と電気的に接続されている。コンピュータ53は、図示しない圧力センサから押圧力のデータを取得する。コンピュータ53は、検出した押圧力が、設定された押圧力の範囲より低い場合、あるいは範囲より高い場合には警告表示処理として、コンピュータ53に接続される表示装置57にメッセージを表示する。圧力値が設定範囲外である場合、コンピュータ53は、例えば、「容器の押し付けをチェック」というメッセージを出力する。
【0086】
(ステップS101:接触媒質塗布工程)図21に示すステップS101は、保護層11の塗布領域12R(図12図15参照)に接触媒質12(図13および図14参照)を供給する工程(ステップS101A)と、接触媒質の供給時の送液圧力を検出する工程(ステップS101B)と、第2細孔32B(図12図14参照)から排出される接触媒質の有無を検出する工程(ステップS101C)と、を含む。
【0087】
ステップS101Aでは、例えば図13および図14に示すように、注入器(シリンジ)33から配管35を介して第1細孔32Aに接触媒質12を注入する。
【0088】
ステップS101Bでは、注入器33と第1細孔32Aとの間に接続される圧力センサ34により接触媒質12の注入圧力(言い換えれば液圧)が計測される。なお、圧力センサ34は、注入器33の注入圧力を直接的に計測する方式でもよい。コンピュータ53(図19参照)は、圧力センサ34と電気的に接続されており、圧力センサ34から圧力値のデータを取得する。圧力値があらかじめ定めた設定範囲(下限閾値)よりも低い場合は、コンピュータ53は、異常と判定し、例えば、「容器と振動子ホルダの間に隙間がないか、接触媒質が漏れていないかチェック」という意味のメッセージを表示装置57(図19参照)に表示する。一方、圧力値が設定範囲(上限閾値)よりも高い場合は、コンピュータ53は、異常と判定し、例えば、「細孔の目詰まりをチェック」という意味のメッセージを表示装置57に表示する。また、圧力値が設定範囲内であった場合、コンピュータ53は、正常と判定し、メッセージを出力しない、あるいは「接触媒質の供給圧力に異常なし」という意味のメッセージを表示装置57(図19参照)に表示する。このステップS101Bにおける処理は以下のように表現できる。すなわち、コンピュータ53は、接触媒質12(図1参照)の塗布又は充填状態を特定し、特定した状態が異常を示す場合は、異常を示すメッセージを出力する。また、このメッセージは、接触媒質12が十分に充填又は塗布されていないことを示す。この処理により、オペレータは、容易に異常発生を認識することができるので、異常状態で作業を行うロスを低減することができる。
【0089】
ステップS101Cでは、コンピュータ53は、第2細孔32B(図12図14参照)から吐出される接触媒質の有無を検出する。検出方法は、例えば、第2細孔32Bの出口(保護層11の表面に露出する端部)の変化を検出可能なセンサ(図示は省略)を設置する。このセンサは、例えば光、超音波、あるいは電気的な変化を検出する電極を利用するセンサである。接触媒質12が検出されない状態では、接触媒質がまだ十分に充填されていないため、コンピュータ53は、ステップS101Aを継続するように制御信号を出力する。一方、接触媒質12が検出された場合は、コンピュータ53は、接触媒質12が十分に充填されたと判定し、次のステップS104に進む。
【0090】
図21および図22に示すフローでは、ステップS104とステップS105の間にステップS201工程が含まれる点、および、ステップS105と、ステップS106との間にステップS202が含まる点で、図20を用いて説明したフローと相違する。以下、ステップS201およびS202について順に説明する。
【0091】
(ステップS201:第1データ取得工程)コンピュータ53は、図21に示すステップS104の後、かつ、図22に示すステップS105の前に、容器13内の液体試料201に関する第1データを取得する。第1データは、超音波を発振させない状態における容器13内の液体試料201の透過光強度またはスペクトルのデータである。
【0092】
(ステップS202:接触媒質の塗布状態の判定工程)コンピュータ53は、図21に示すステップS201および図22に示すステップS105の後に、接触媒質12(図13および図14参照)の塗布状態を判定する。ステップS202は、以下の工程を含む。
【0093】
(ステップS202A:第2データ取得工程)コンピュータ53は、図21に示すステップS201および図22に示すステップS105の後に、容器13内の液体試料201に関する第2データを取得する。第2データは、超音波を発振させた後における容器13内の液体試料201の透過光強度またはスペクトルのデータである。
【0094】
(ステップS202B:データ比較工程)コンピュータ53は、上記した第1データおよび第2データを比較し、第1データおよび第2データに基づいて、接触媒質12の塗布状態の良否を判定する。コンピュータ53は、以下の条件のいずれかに該当する場合、異常と判定し、警告表示処理として、コンピュータ53に接続される表示装置57にメッセージを表示する。上記条件は、第2データの透過光強度が設定範囲より低い場合、第2データのスペクトルベースラインが設定範囲より高い場合、透過光強度について、第2データと第1データとの差が下限閾値より小さい場合、およびスペクトルベースライン高さについて、第2データと第1データとの差が下限閾値より小さい場合である。これらの条件のいずれかに該当する場合、接触媒質12の塗布または充填が不十分で超音波が容器13内に十分に伝達されず、容器13内の液体試料201に、超音波の音響放射力による凝集層56(図18参照)ができず、透明部分ができていない可能性がある。したがって、この場合は、コンピュータ53は警告処理として例えば、「接触媒質をチェック」という意味のメッセージを表示装置57に表示する。一方、上記した条件のいずれにも該当しない場合、コンピュータは、接触媒質12の塗布状態が正常と判定し、次のステップS106に進む。
【0095】
上記したステップS201およびS202は、上記した「コンピュータ53は、接触媒質12(図1参照)の塗布又は充填状態を特定し、特定した状態が異常を示す場合は、異常を示すメッセージを出力する。」という表現の一態様に該当する。
【0096】
以降、ステップS106以降の各工程は、図20を用いて説明したフローと同様なので、重複する説明は省略する。ただし、図22に示すステップS106~ステップS108の間で繰り返し分析を実施する場合、第2回目以降のサイクルでは、ステップS202を省略することができる。上記した容器13の押し付け状態、接触媒質12の塗布状態など、種々の状態の特定方法は上記に例示した方法以外であってもよい。例えば、ステップS103Bで説明した押構造14の押圧力を計測する代わりに、容器13の位置や変位を計測してもよい。また、ステップS101Bにおいて、接触媒質12を注入する時の送液圧力を検出する代わりに、注入開始から第2細孔32Bから接触媒質12が出るまでの時間を計測してもよい。
【0097】
以上、いくつかの実施態様について、変形例を含めて説明したが、本発明は、上記した実施例や代表的な変形例に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変形例が適用できる。例えば、容器13に入れる物質には、液体状態の化学品や医薬品、食品(飲料を含む)、環境試料など種々のものがありうる。また、固体微粒子を含む懸濁液のほかに、油滴が分散した乳濁液、気泡が分散した液体などにも適用可能である。さらに、容器13、超音波振動子10、保護層11、超音波振動子ホルダ101の形状やサイズも変更可能である。また、上記では、種々の変形例を説明したが、各変形例を適宜組み合わせて適用することができる。また、各実施態様の構成の一部について、他の構成の一部を追加・削除・置換をすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、分析システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0099】
10 超音波振動子
10A 取り付け面
11 保護層
11A 第1面
11B 第2面
11C 第3面(側面)
11D 第4面(側面)
11E 第5面(上面)
11F 第6面(下面)
11G 底面
11H 凹部(溝、穴)
11R1,11R3 固定領域
11R2 周辺領域
11T1,11T2 厚さ
12 接触媒質
12R 塗布領域
13 容器
13A 側面
13B 被押圧面
14 押圧構造(押圧部材)
15 接着剤
20 塗布領域目印
20 塗布領域
21 ガイド部材
21A 凹部
21B 凸部
31 窪み
32 細孔
32A 第1細孔
32B 第2細孔
33 注入器(シリンジ)
34 圧力センサ
35 配管
41 ローラ
42 ノズル
50 発振器
51 光源
52 受光部
53 コンピュータ
54 分光分析部
55 光ビーム
56 凝集層
57 表示装置
101,101A,101B,101C,101D 超音波振動子ホルダ
131 インレット
132 アウトレット
201 液体試料
300 分析システム
S101~S110,S101A,S101B,S101C,S103A,S103B,S201,S202,S202A,S202B ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22