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特許7372594手技練習用臓器モデル造形用のハイドロゲル前駆体液、手技練習用臓器モデルの製造方法及び手技練習用臓器モデル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】手技練習用臓器モデル造形用のハイドロゲル前駆体液、手技練習用臓器モデルの製造方法及び手技練習用臓器モデル
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/30 20060101AFI20231025BHJP
   C08F 20/06 20060101ALI20231025BHJP
   B29C 39/02 20060101ALI20231025BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20231025BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231025BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20231025BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20231025BHJP
【FI】
G09B23/30
C08F20/06
B29C39/02
B29C64/112
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019216938
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021085011
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(72)【発明者】
【氏名】松村 貴志
(72)【発明者】
【氏名】新美 達也
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 拓也
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/043582(WO,A1)
【文献】特開2017-179328(JP,A)
【文献】特開2017-171825(JP,A)
【文献】特開2011-153174(JP,A)
【文献】特開2013-241596(JP,A)
【文献】特開2019-163473(JP,A)
【文献】特表2019-503893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
G09B 23/30
C08F 20/06
B33Y 10/00
B33Y 70/00
B33Y 80/00
B29C 64/112
B29C 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸またはその金属塩と、水とを含有する手技練習用臓器モデル造形用のハイドロゲル前駆体液。
【請求項2】
前記ハイドロゲル前駆体液が、さらに重合性モノマーを含有する請求項1に記載のハイドロゲル前駆体液。
【請求項3】
前記ハイドロゲル前駆体液が、さらに水に分散可能な鉱物を含有する請求項1または2に記載のハイドロゲル前駆体液。
【請求項4】
前記ハイドロゲル前駆体液が、さらにビニルシランを含有する請求項1から3のいずれか一項に記載のハイドロゲル前駆体液。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載のハイドロゲル前駆体液を用いてハイドロゲル前駆体液膜を形成する液膜形成工程と、前記ハイドロゲル前駆体液膜を硬化して層を形成する液膜硬化工程と、を繰り返し、前記層を積層させてハイドロゲル造形物を製造する手技練習用臓器モデルの製造方法。
【請求項6】
前記液膜形成工程が、インクジェット印刷法で行われる請求項に記載の手技練習用臓器モデルの製造方法。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載のハイドロゲル前駆体液を一層ずつ露光することにより、順次硬化させ積層させてハイドロゲル造形物を製造する手技練習用臓器モデルの製造方法。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載のハイドロゲル前駆体液を、型に注入し、前記ハイドロゲル前駆体液を硬化させた後、型を除去することによりハイドロゲル造形物を製造する手技練習用臓器モデルの製造方法。
【請求項9】
請求項1からのいずれか一項に記載のハイドロゲル前駆体液を硬化して得られるハイドロゲルから成る手技練習用臓器モデル
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル前駆体液、ハイドロゲル造形物の製造方法及びハイドロゲル造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元立体造形技術の進歩はめざましく、熱溶融積層法、バインダージェッティング法、光造形法、粉末焼結積層造形法、Material Jetting法など様々な3Dプリンターが製造業において用いられている。また材料も金属や樹脂を始め、多様な材料に対応した造形アプリケーションが提案されており、産業用のみならず医療/ヘルスケア領域への応用も期待されている。
これは、3DスキャナーやCT、MRI画像などから容易に3Dデータが得られるようになり、さらに3Dプリンターを用いることで、個人ごとの特徴に合わせた立体造形を精巧に作製することが可能になったためである。
【0003】
医療、ヘルスケア領域への3Dプリンター応用として、ヘルスケア分野では各個人特有の形状を反映する必要のある補聴器具や、義肢への応用が行われている。また、生体医療分野においては、チタンやハイドロキシアパタイト、PEEK等によるインプラント可能な人工骨の造形や、細胞の直接積層による人工臓器の研究も積極的に行われている。そして、医療分野においては手術トレーニングやシミュレーションのため、実際の臓器形状を模した医療従事者向け手技練習用モデルへの応用が進められている。近年医療機器の開発が進み、従来の大きく切り開き取り除く医療から、カテーテル/内視鏡/ロボットアシスト等による患者への負担が少ない低侵襲型医療が主流になりつつある。一方でこれら医療機器を用いた手術オペレーションは、非常に高度な技術と熟練を要するため、医療事故防止の観点から適切な医療従事者向け手技練習用モデルを用いた手術トレーニングの重要性が認識されている。さらに実施事例の少ない難手術においては、事前に対象部位の詳細を再現した医療従事者向け手技練習用モデルを得ることができれば、綿密な術前シミュレーションをすることが可能になる。
【0004】
これら医療従事者向け手技練習用モデルは、3Dプリンターで作製されたアクリル、ウレタン系樹脂モデルや、鋳型による注型法で作製したシリコンモデルが用いられてきた。しかし、これらの手法で作製する場合、樹脂が固いため、縫合や切開といった実際の手技操作を適用できないという問題があった。
また、寒天やコンニャクなど、天然食物由来のハイドロゲルはエネルギーデバイスに対応するものの、任意の立体造形が難しく、また強度が非常に弱いことから切開の感覚や縫合操作が再現できないという問題があった。
【0005】
上記問題を解決するために、例えば、非特許文献1には、ポリアクリル酸ナトリウム、クレイ、水、両末端デンドロン化高分子化合物を用いて作製された高含水率で強靭なハイドロゲルが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、一定以上の圧縮応力及び破断限界を有し、また電気メスなどのエネルギーデバイスによる切開が可能なハイドロゲル造形物を製造することができるハイドロゲル前駆体液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としての本発明のハイドロゲル前駆体液は、下記一般式(1)で表される化合物と、水とを含有する。
1CH=CR2X (1)
(ここでXはカルボキシ基、スルホ基またはそのエステルであり、R1およびR2は、互いに独立して、水素、アルキル基、アリール基、カルボキシ基またはアルキルカルボキシ基である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明により、一定以上の圧縮応力及び破断限界を有し、電気メスなどのエネルギーデバイスによる切開や縫合といった操作にも対応できるハイドロゲル造形物を製造することができるハイドロゲル前駆体液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態を説明する。本発明のハイドロゲル前駆体液は、下記[1]に示すものであるが、その実施の形態には下記[2]~[10]も含まれるので、これらについても併せて説明する。
[1]下記一般式(1)で表される化合物またはその塩と、水とを含有するハイドロゲル前駆体液。
1CH=CR2X (1)
(ここでXはカルボキシ基、スルホ基またはそのエステルであり、R1およびR2は、互いに独立して、水素、アルキル基、アリール基、カルボキシ基またはアルキルカルボキシ基である。)
[2]前記ハイドロゲル前駆体液が、さらに重合性モノマーを含有する前記[1]に記載のハイドロゲル前駆体液。
[3]前記ハイドロゲル前駆体液が、さらに水に分散可能な鉱物を含有する前記[1]または[2]に記載のハイドロゲル前駆体液。
[4]前記ハイドロゲル前駆体液が、さらにビニルシランを含有する前記[1]から[3]のいずれか一項に記載のハイドロゲル前駆体液。
[5]前記ハイドロゲル前駆体液が、ハイドロゲル造形物製造用である前記[1]から[4]のいずれか一項に記載のハイドロゲル前駆体液。
[6]前記[1]から[5]のいずれか一項に記載のハイドロゲル前駆体液を用いてハイドロゲル前駆体液膜を形成する液膜形成工程と、前記ハイドロゲル前駆体液膜を硬化して層を形成する液膜硬化工程と、を繰り返し、前記層を積層させてハイドロゲル造形物を製造するハイドロゲル造形物の製造方法。
[7]前記液膜形成工程が、インクジェット印刷法で行われる前記[6]に記載のハイドロゲル造形物の製造方法。
[8]前記[1]から[5]のいずれか一項に記載のハイドロゲル前駆体液を一層ずつ露光することにより、順次硬化させ積層させてハイドロゲル造形物を製造するハイドロゲル造形物の製造方法。
[9]前記[1]から[5]のいずれか一項に記載のハイドロゲル前駆体液を、型に注入し、前記ハイドロゲル前駆体液を硬化させた後、型を除去することによりハイドロゲル造形物を製造するハイドロゲル造形物の製造方法。
[10]前記[1]から[5]のいずれか一項に記載のハイドロゲル前駆体液を硬化して得られるハイドロゲルから成るハイドロゲル造形物。
【0010】
(ハイドロゲル前駆体液)
本発明のハイドロゲル前駆体液は、下記一般式(1)で表される化合物またはその塩と水とを含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
1CH=CR2X (1)
(ここでXはカルボキシ基、スルホ基またはそのエステルであり、R1およびR2は、互いに独立して、水素、アルキル基、アリール基、カルボキシ基またはアルキルカルボキシ基である。)
これにより、一定以上の圧縮応力及び破断限界を有し、電気メスなどのエネルギーデバイスによる切開が可能なハイドロゲル造形物を作製することが可能になる。また、本発明のハイドロゲル前駆体は、特に低粘度で調製することが可能であるため、立体造形物の製造用液体、好ましくは付加造形法により製造される立体造形物の製造用液体、特にインクジェット方式の吐出手段(インクジェットヘッドなど)を用いる立体造形装置用のインク組成物として好適に用いることができる。
【0011】
<一般式(1)で表される化合物>
本発明のハイドロゲル前駆体液に含まれる化合物は、下記一般式(1)で表されるものである。
1CH=CR2X (1)
ここで、Xは-COOAまたは-SO2Aのいずれかであり、ここで、Aはアルキル基、アリール基またはアルキルヒドロキシ基もしくはそのカルボン酸エステルである。この化合物は、活性エネルギー線の照射などによりポリマー化したときに、主鎖を形成するものである。
1およびR2は、互いに独立して、水素、アルキル基、アリール基、カルボキシ基、アルキルカルボキシ基またはアリールカルボキシ基である。本発明においてアルキルまたはアルキル基とは、直鎖または分枝鎖の、炭化水素基を意味し、好ましくはC6までの炭化水素基である。本発明においてアリールまたはアリール基とは芳香族の炭化水素基を意味し、単環であっても縮合環であってもよいが、好ましくはC6までの芳香族炭化水素基である。
一般式(1)で表される化合物またはその塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、優れた破断応力及び伸び率を有する造形物が得られる点から、(メタ)アクリル酸の金属塩が少なくとも含まれていることが好ましい。
【0012】
前記一般式(1)で表される化合物の例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等の不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル;シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸;アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のリン酸基含有不飽和単量体;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-プロペノイックアシッド、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸α-メチルスチレンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、3-(2-カルボキシエトキシ)-3-オキシプロピルエステル、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルテトラヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトン(n=2)モノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシへキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド、などが挙げられる。
(メタ)アクリル酸の金属塩としては、例えば、アクリル酸カリウム、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸カリウム、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸カルシウム、メタクリル酸亜鉛、メタクリル酸マグネシウム、アクリル酸アルミニウム、メタクリル酸ネオジウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウムなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
<重合性モノマー>
前記ハイドロゲル前駆体液には上記一般式(1)で表される化合物に加え、重合性モノマーを加えることができる。本発明の「重合性モノマー」は上記一般式(1)で表される化合物とともにランダムコポリマーを形成し、これにより、ハイドロゲル造形物の強度が増し、より実際の臓器に近い力学特性を持つ医療従事者向け手技練習用モデルが得られる。
重合性モノマーとしては、単官能モノマーと、2官能又は3官能以上の多官能モノマーが用いられる。
【0014】
-単官能モノマー-
単官能モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-置換アクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換アクリルアミド誘導体、N-置換メタクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換メタクリルアミド誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体、その他の単官能モノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(メタ)アクリルアミド誘導体としては、例えば、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ジメチルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、重合安定性の点から、アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチルアクリルアミドが好ましい。
【0015】
その他の単官能モノマーとしては、例えば、アクリレート、アルキルアクリレート、メタクリレート、アルキルメタクリレートなどが挙げられる。
アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、アルキルアクリレートなどが挙げられる。
アルキルアクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートラウリルアクリレートなどが挙げられる。
メタクリレートとしては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、アルキルメタクリレートなどが挙げられる。
アルキルメタクリレートとしては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、グリシジルメタクリレートなどが挙げられる。
【0016】
更に、その他の単官能モノマーとしては、例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート(EHA)、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート(HPA)、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェノール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
-多官能モノマー-
多官能モノマーとしては、二官能のモノマー又は三官能以上のモノマーが挙げられる。
多官能モノマーは上記一般式(1)で表される化合物及び重合性モノマーで形成されるランダムコポリマー分子を架橋する架橋剤として機能する。
二官能のモノマーとしては、例えば、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート(MANDA)、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート(HPNDA)、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート(BGDA)、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート(BUDA)、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(HDDA)、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(DEGDA)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート(NPGDA)、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(TPGDA)、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化オペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール400ジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
三官能以上のモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTA)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(DPHA)、トリアリルイソシアネート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールの(メタ)アクリレート、トリス(2ーヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタ(メタ)アクリレートエステルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
重合性モノマーの含有量は、ハイドロゲル前駆体液全量に対して、0.5質量%以上30質量%以下が好ましい。重合性モノマーの含有量が多いと電気メスの切開性が悪化するため、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0020】
<水に分散可能な鉱物>
前記ハイドロゲル前駆体液には一般式(1)で表される化合物に加え、水に分散可能な鉱物を加えることができる。これにより、ハイドロゲル造形物の強度が増し、より実際の臓器に近い力学特性を持つ医療従事者向け手技練習用モデルが得られる。
前記水に分散可能な鉱物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、層状鉱物などが挙げられる。
前記層状鉱物は、単一層の状態で水に分散した層状鉱物であることが好ましい。
前記層状鉱物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水膨潤性層状粘土鉱物などが挙げられる。
【0021】
前記水膨潤性層状粘土鉱物としては、例えば、水膨潤性スメクタイト、水膨潤性雲母などが挙げられる。より具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。
前記水膨潤性とは、層状鉱物の層間に水分子が挿入され、水中に分散されることを意味する。
前記水膨潤性層状粘土鉱物としては、前記例示したものを、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、また、適宜合成したものであってもよいし、市販品であってもよい。
【0022】
前記市販品としては、例えば、合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)、SWN(Coop Chemical Ltd.製)、フッ素化ヘクトライト SWF(Coop Chemical Ltd.製)などが挙げられる。これらの中でも、合成ヘクトライトが好ましい。
【0023】
前記水に分散可能な鉱物の含有量としては、前記組成液全量に対して、1質量%以上40質量%以下が好ましく、破断限界を良好にするには1質量%以上15質量%以下がより好ましい。
【0024】
<ビニルシラン>
前記ハイドロゲル前駆体液には一般式(1)で表される化合物に加え、ビニルシランを加えることができる。これにより、ハイドロゲル造形物の強度が増し、より実際の臓器に近い力学特性を持つ医療従事者向け手技練習用モデルが得られる。
ビニルシランとしては(1-Bromovinyl)trimethylsilane、1,4-Bis(dimethylvinylsilyl)benzene、Chlorodimethylvinylsilane、Chloro(methyl)(phenyl)(vinyl)silane、Dichloromethylvinylsilane、Diethoxymethylvinylsilane、2-(Dimethylvinylsilyl)pyridine、Dimethoxymethylvinylsilane、Dimethyldivinylsilane、3-[[Dimethyl(vinyl)silyl]oxy]-1,1,5,5-tetramethyl-3-phenyl-1,5-divinyltrisiloxane、1,3-Dimethyl-1,3-diphenyl-1,3-divinyldisiloxane、Dimethylphenylvinylsilane、Octavinyloctasilasesquioxane、Triphenylvinylsilane、Triethylvinylsilane、2,4,6,8-Tetramethyl-2,4,6,8-tetravinylcyclotetrasiloxane、2,4,6-Trimethyl-2,4,6-trivinylcyclotrisilazane、Trimethylsilylketene Ethyl Trimethylsilyl Acetal (mixture of isomers)、(E)-Trimethyl(3,3,3-trifluoro-1-propenyl)silane、Tetrakis[dimethyl(vinyl)silyl] Orthosilicate、2,4,6-Trimethyl-2,4,6-trivinylcyclotrisiloxane 、Vinyltrimethylsilaneなどがある。
【0025】
前記ビニルシランの含有量としては、前記組成液全量に対して、0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、破断限界を良好にするには0.01質量%以上1質量%以下がより好ましい。
【0026】
<溶媒>
溶媒としては、水を主溶媒として用いるのが望ましい。これにより造形物をハイドロゲルとして得ることができる。
水に水と可溶な有機溶媒を混合しても良い。
溶媒の含有量は、ハイドロゲル前駆体液全量に対して、10質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。また、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0027】
水は、ハイドロゲルの主な溶媒として用いられる。
前記水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、超純水などが挙げられる。
【0028】
前記水は、保湿性付与、抗菌性付与、導電性付与、硬度調整等の目的に応じて、有機溶媒等のその他の成分を溶解又は分散させてもよい。
【0029】
<その他の成分>
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、安定化剤、表面処理剤、重合開始剤、色材、粘度調整剤、接着性付与剤、酸化防止剤、老化防止剤、架橋促進剤、紫外線吸収剤、可塑剤、防腐剤、分散剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0030】
-安定化剤-
安定化剤は、液体としての特性を安定化するために必要に応じて用いられる。安定化剤としては、例えば、高濃度リン酸塩、グリコール、非イオン界面活性剤などが挙げられる。
【0031】
-表面処理剤-
表面処理剤としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂、クマロン樹脂、脂肪酸エステル、グリセライド、ワックスなどが挙げられる。
【0032】
-重合開始剤-
重合開始剤としては、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。光造形の場合は光重合開始剤、型造形の場合は熱重合開始剤、光重合開始剤共に用いることができる。
【0033】
光重合開始剤としては、光、特に波長220nm乃至500nmの紫外線の照射によりラジカルを生成する任意の物質を用いることができる。このような光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p’-ジクロロベンゾフェノン、p,p-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンジルメチルケタール、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
熱重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アゾ系開始剤、過酸化物開始剤、過硫酸塩開始剤、レドックス(酸化還元)開始剤などが挙げられる。
【0035】
アゾ系開始剤としては、市販品を用いることができ、該市販品としては、例えば、VA-044、VA-46B、V-50、VA-057、VA-061、VA-067、VA-086、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(VAZO 33)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩(VAZO 50)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(VAZO 52)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(VAZO 64)、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル(VAZO 67)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(VAZO 88)(いずれも、DuPont Chemical社から入手可能、なお、「VAZO」は商標である。)、2,2’-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(メチルイソブチレ-ト)(V-601)(和光純薬工業株式会社より入手可能)などが挙げられる。
【0036】
過酸化物開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化デカノイル、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(Perkadox 16S)(Akzo Nobel社から入手可能、なお「Perkadox」は商標である。)、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシピバレート(Lupersol 11)(Elf Atochem社から入手可能、なお、「Lupersol」は商標である。)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(Trigonox 21-C50)(Akzo Nobel社から入手可能、なお、「Trigonox」は商標である)、過酸化ジクミルなどが挙げられる。
【0037】
過硫酸塩開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。レドックス(酸化還元)開始剤としては、例えば、過硫酸塩開始剤と、メタ亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムのような還元剤との組み合わせ、有機過酸化物と第3級アミンに基づく系、例えば、過酸化ベンゾイルとジメチルアニリンに基づく系、有機ヒドロパーオキシドと遷移金属に基づく系、クメンヒドロパーオキシドとコバルトナフテートに基づく系などが挙げられる。
【0038】
-色材-
色材としては、例えば、ブラック、ホワイト、マゼンタ、シアン、イエロー、グリーン、オレンジ、金や銀等の光沢色、などを付与する種々の顔料や染料を用いることができる。
顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機顔料としては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(例えば、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料などが挙げられる。
また、顔料の分散性をより良好なものとするため、分散剤を更に含んでもよい。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散物を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。
染料としては、例えば、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能であり、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、マテリアルジェッティング方式に用いる場合、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、及びホワイト等の各色のものを用いることで、フルカラーの造形物を製造することができる。
色材の含有量は、特に制限はなく、所望の色濃度やハイドロゲル前駆体液中における分散性等を考慮して適宜決定すればよく、ハイドロゲル前駆体液の全量に対して、0.1質量%以上20質量%以下が好ましい。
【0039】
本発明のハイドロゲル前駆体液は、上述した各種成分を用いて作製することができ、その調製手段や条件は特に限定されないが、例えば、一般式(1)で表される化合物、水、重合性モノマー、及びその他の成分等をボールミル、キティーミル、ディスクミル、ピンミル、ダイノーミルなどの分散機に投入し、混合することにより調製することができる。
【0040】
-粘度―
ハイドロゲル前駆体液の粘度は、特に制限はない。
マテリアルジェッティング法にてハイドロゲル前駆体液を用いる場合は、好ましくは、25℃環境下で、3mPa・s以上60mPa・s以下の粘度が達成できることであり、より好ましくは、6mPa・s以上30mPa・s以下である。粘度が、3mPa・s未満であると、造形の際に、吐出方向が曲がる、或いは吐出しないなど吐出が不安定になることがあり、40mPa・sを超えると、吐出しないことがある。また、インクジェットヘッドの温度を変更することで、収容したハイドロゲル前駆体液の粘度をこれらの値に調整してもよい。
【0041】
ステレオリソグラフィー法にてハイドロゲル前駆体液を用いる場合は、造形槽中の硬化物を安定に維持させる観点から、25℃における粘度が、50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましく、200mPa・s以上が更に好ましく、取扱い性の観点から、20,000mPa・s以下が好ましく、15,000mPa・s以下がより好ましく、12,000mPa・s以下がより更に好ましい。
また、造形槽の温度を変更することで、収容したハイドロゲル前駆体液の粘度をこれらの値に調整してもよい。
【0042】
型造形法にてハイドロゲル前駆体液を用いる場合は、好ましくは、25℃環境下で、3mPa・s以上1000mPa・s以下の粘度が達成できることであり、より好ましくは、3mPa・s以上100mPa・s以下である。粘度が、1000mPa・sを超えると、粘度が高いため型に注入する際のハンドリング性が低下する。
【0043】
粘度は、例えば、回転粘度計(VISCOMATE VM-150III、東機産業株式会社製)などを用いて25℃の環境下で測定することができる。粘度は、例えば、モノマー、溶媒に分散させる鉱物、又は異なる粘度の溶媒の混合により調整することができる。
【0044】
(ハイドロゲル造形物の製造方法)
本発明のハイドロゲル前駆体液を用いてハイドロゲル造形物を製造する方法としては、例えば、以下の第1の形態から第3の形態を挙げることができる。
【0045】
<第1の形態の製造方法>
第1の形態の製造方法は、ハイドロゲル前駆体液膜を形成する液膜形成工程と、前記ハイドロゲル前駆体液膜を硬化して層を形成する液膜硬化工程と、を繰り返し、前記層を積層させてハイドロゲル造形物を製造し、更に必要に応じてその他の工程を含む。前記液膜形成工程は、インクジェット印刷法で行われることが好ましく、これを一般にマテリアルジェッティング法と呼ぶ。
第1の形態のハイドロゲル造形物の製造方法は、ヘッドの個数を増やすことにより、着色インクや他の樹脂系材料を同時に造形できるため、カラー造形や樹脂系部材とのハイブリッド造形に対応できる。
第1の形態のハイドロゲル造形物の製造方法においては、前記各工程を複数回繰り返すものである。前記繰り返し回数としては、作製する立体造形物の大きさ、形状、構造などに応じて異なり一概には規定できないが、1層あたりの厚みが10μm~50μmの範囲であれば、精度よく、剥離することもなく造形することが可能であるため、作製するハイドロゲル造形物の高さ分だけ繰り返して積層することが好ましい。
【0046】
<液膜形成工程及び液膜形成手段>
液膜形成工程は、一般式(1)で表される化合物と水とを含有するハイドロゲル前駆体液を付与して、前記ハイドロゲル前駆体液を含む液膜を形成する工程であり、液膜形成手段により実施される。
ハイドロゲル前駆体液は、強度付与のため、重合性モノマーもしくは水に分散可能な鉱物もしくはビニルシランを含有することが好ましい。
【0047】
液膜形成手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ディスペンサー方式、スプレー方式、インクジェット方式などが挙げられる。なお、これらの方式を実施するには公知の装置を好適に使用することができる。
これらの中でも、前記ディスペンサー方式は、液滴の定量性に優れるが、塗布面積が狭くなり、前記スプレー方式は、簡便に微細な吐出物を形成でき、塗布面積が広く、塗布性に優れるが、液滴の定量性が悪く、スプレー流による飛散が発生する。このため、本発明においては、前記インクジェット方式が特に好ましい。前記インクジェット方式は、前記スプレー方式に比べ、液滴の定量性がよく、前記ディスペンサー方式に比べ、塗布面積が広くできる利点があり、複雑な立体形状を精度良くかつ効率よく形成し得る点で好ましい。
【0048】
インクジェット光造形機としては市販のものを用いても良い。市販のインクジェット装置としては、アジリスタ(株式会社キーエンス製)等が挙げられる。
【0049】
(第2の形態の製造方法)
第2の形態の製造方法は、ステレオリソグラフィー法が挙げられる。
ステレオリソグラフィー法はハイドロゲル前駆体液を一層ずつ露光することにより、順次硬化させ積層させてハイドロゲル造形物を製造することを特徴とする。
この積層体の各層は、ハイドロゲル前駆体液の液面に光を照射することにより得られる。尚、液面は、リコーター等で均すことができる。このとき、光を選択的に照射すると、所望のパターンの断面を有する硬化物(断面硬化層)を得ることができる。
本第2の形態のハイドロゲル造形物の製造方法は、ハイドロゲル前駆体液の液面に光を照射して、該ハイドロゲル前駆体液の硬化物(断面硬化層)を形成し、この硬化物(断面硬化層)の上に、ハイドロゲル前駆体液を再度供給し、光を照射して、ハイドロゲル前駆体液の硬化物(断面硬化層)をさらに形成し、以後、これを繰り返すことにより、複数の硬化物(断面硬化層)を積層し一体化してなるハイドロゲル造形物を得るものである。
【0050】
ハイドロゲル前駆体液に光を選択的に照射する手段としては、特に制限されるものではなく、種々の手段を採用することができる。例えば、(a)レーザー光、又はレンズ、ミラー等を用いて得られた収束光等を走査させながらハイドロゲル前駆体液に照射する手段、(b)所定のパターンの光透過部を有するマスクを用い、このマスクを介して非収束光をハイドロゲル前駆体液に照射する手段、(c)多数の光ファイバーを束ねてなる導光部材を用い、この導光部材における所定のパターンに対応する光ファイバーを介して、光をハイドロゲル前駆体液に照射する手段、(d)一定の領域毎に一括露光を繰り返し実行する手段、等を採用することができる。
また、上記(b)のマスクを用いる手段においては、マスクとして、液晶表示装置と同様の原理により、所定のパターンに従って、光透過領域と光不透過領域とよりなるマスク像を電気光学的に形成するものを用いることもできる。
【0051】
目的とするハイドロゲル造形物が、微細な部分を有するもの、又は高い寸法精度が要求されるものである場合には、ハイドロゲル前駆体液に選択的に光を照射する手段として、スポット径の小さいレーザー光を走査する手段を採用することが好ましい。
なお、容器内にハイドロゲル前駆体液が収容されている場合、光の照射面(例えば、収束光の走査平面)は、ハイドロゲル前駆体液の液面、透光性容器の器壁との接触面の何れであってもよい。ハイドロゲル前駆体液の液面又は器壁との接触面を光の照射面とする場合には、容器の外部から直接又は器壁を介して光を照射することができる。
【0052】
本発明のハイドロゲル造形物は、上述したように、光積層造形法等の光学的立体造形法により製造することができる。光学的立体造形法においては、通常、ハイドロゲル前駆体液の特定部分を硬化させた後、光の照射位置(照射面)を、既硬化部分から未硬化部分に連続的に又は段階的に移動させることにより、硬化部分を積層させて所望の立体形状とする。ここで、照射位置の移動は、種々の方法によって行うことができ、例えば、光源、ハイドロゲル前駆体液の収容容器、ハイドロゲル前駆体液の既硬化部分の何れかを移動させたり、収容容器にハイドロゲル前駆体液を追加供給したりする等の方法が挙げられる。
ステレオリソグラフィー造形機としては市販のものを用いても良い。市販のステレオリソグラフィー造形機としては、Form2(Formlabs製)等が挙げられる。
【0053】
(第3の形態の製造方法)
第3の形態のハイドロゲル造形物の製造方法は、鋳型を用いた注型法が挙げられる。
本方法ではテンプレートとなる鋳型を作製する。鋳型の作製方法としては、マテリアルジェッティング法、ステレオリソグラフィー法、バインダージェット法、FDM法など、3Dプリンターを用いる事ができる。また、CNC切削加工を用いても良い。
これらにより作製した鋳型の内部中空部分に前記ハイドロゲル前駆体液を注入/充填する。透過性のある樹脂で鋳型を作製した場合はハイドロゲル前駆体液を光開始剤にてUV硬化型にすればUVランプにて簡易的にハイドロゲル前駆体液を硬化させることができる。
非透過性の樹脂で鋳型を形成した場合は、ハイドロゲル前駆体液を熱開始剤にて熱硬化型にすれば熱エネルギーにてハイドロゲル前駆体液を硬化させることができる。
これらの方法でハイドロゲル前駆体液を硬化した後、鋳型を剥離、もしくは破砕等により除去することでハイドロゲル造形物を取り出す事ができる。
【実施例
【0054】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
-ハイドロゲル前駆体液の調整-
アクリル酸カリウム(株式会社日本触媒)59.9質量部、純水40.0質量部、及び開始剤として過硫酸アンモニウム(和光純薬工業)0.1質量部を撹拌し、ろ過により不純物等を除去した。最後に、真空脱気を10分間実施し、均質な液体として、ハイドロゲル前駆体液を得た。
【0056】
-破断限界試験モデル作製:型造形-
PTFEブロックに切削加工によりテストパターン(JIS K 6251に基づき、ダンベル状3号形とした)を深さ5mmで形成した。ここにハイドロゲル前駆体液を充填し、窒素雰囲気中24時間放置することで硬化させ、破断限界試験片として、下記に示す方法により破断限界を測定した。
【0057】
-圧縮応力試験モデル作製:型造形-
同様にPTFEブロックに切削加工によりテストパターン(30×30×10mm)を形成した。ここにハイドロゲル前駆体液を充填し、室温にて窒素雰囲気中24時間放置することで硬化させることで30×30×10mmのハイドロゲル造形物を得た。これを用い、下記に示す方法により圧縮応力試験を実施した。
【0058】
-切開試験及び縫合試験用医療従事者向け手技練習用モデル作製:型造形-
ステレオリソグラフィー造形装置Form2(Formlabs)を用い、腎臓実質部を模した注型用型を作製した。ここに前記ハイドロゲル前駆体液を流し込み、窒素雰囲気中24時間放置することで硬化させ、型を取り外すことで腎臓を模した医療従事者向け手技練習用モデルを得た。これに対し、下記に示す方法により電気メスによる切開試験と手術用針糸を用いた縫合試験を実施した。
【0059】
(実施例2)
-ハイドロゲル前駆体液の調整-
アクリル酸カリウム(株式会社日本触媒)49.9質量部、純水40.0質量部、重合性モノマーとしてジメチルアクリルアミド(KJケミカル)10.0質量部及び開始剤として過硫酸アンモニウム(和光純薬工業)0.1質量部を撹拌し、ろ過により不純物等を除去した。最後に、真空脱気を10分間実施し、均質な液体として、ハイドロゲル前駆体液を得た。
続いて実施例1と同様な方法で破断限界試験モデル、圧縮応力試験モデル、医療従事者向け手技練習用モデルを作製し、下記に示す方法により、破断限界試験、圧縮応力試験、電気メスによる切開試験と手術用針糸を用いた縫合試験を実施した。
【0060】
(実施例3)
-ハイドロゲル前駆体液の調整-
純水40.0質量部を撹拌させながら、層状粘土鉱物として[Mg5.34Li0.66Si820(OH)4]Na 0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトRD、RockWood社製)7.0質量部を少しずつ添加、撹拌し更に、分散剤としてエチドロン酸(東京化成工業株式会社製)0.3質量部を加え撹拌を行い、分散液を作製した。
得られた分散液に、アクリル酸カリウム(株式会社日本触媒)52.6質量部を添加した。
開始剤として過硫酸アンモニウム(和光純薬工業)0.1質量部を撹拌し、ろ過により不純物等を除去した。最後に、真空脱気を10分間実施し、均質な液体として、ハイドロゲル前駆体液を得た。
続いて実施例1と同様な方法で破断限界試験モデル、圧縮応力試験モデル、医療従事者向け手技練習用モデルを作製し、下記に示す方法により、破断限界試験、圧縮応力試験、電気メスによる切開試験と手術用針糸を用いた縫合試験を実施した。
【0061】
(実施例4)
-ハイドロゲル前駆体液の調整-
アクリル酸カリウム(株式会社日本触媒)58.0質量部、純水40.0質量部を撹拌した後、ビニルシランとしてトリエトキシビニルシラン(和光純薬工業株式会社)1.9質量部を添加後30分撹拌した。次いで開始剤として過硫酸アンモニウム(和光純薬工業)0.1質量部を添加撹拌し、ろ過により不純物等を除去した。最後に、真空脱気を10分間実施し、均質な液体として、ハイドロゲル前駆体液を得た。
続いて実施例1と同様な方法で破断限界試験モデル、圧縮応力試験モデル、医療用従事者向け手技練習用モデルを作製し、下記に示す方法により、破断限界試験、圧縮応力試験、電気メスによる切開試験と手術用針糸を用いた縫合試験を実施した。
【0062】
(実施例5)
-ハイドロゲル前駆体液の調整-
開始剤として過硫酸アンモニウムのかわりに1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[商品名:イルガキュア184](BASF株式会社製)0.1質量部を用いた事以外は実施例4と同様な方法でハイドロゲル前駆体液を得た。
-インクジェット(マテリアルジェッティング法)による造形-
マテリアルジェッティング法による3DプリンターとしてMateriART-3DU1(株式会社マイクロジェット)にモデル剤として前記ハイドロゲル前駆体液を使用し、実施例1と同様の形状で破断限界試験モデル、圧縮応力試験モデル、医療従事者向け手技練習用モデルを直接造形し、下記に示す方法により、破断限界試験、圧縮応力試験、電気メスによる切開試験と手術用針糸を用いた縫合試験を実施した。
【0063】
(実施例6)
-ハイドロゲル前駆体液の調整-
開始剤として過硫酸アンモニウムのかわりに1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[商品名:イルガキュア184](BASF株式会社製)0.1質量部を用いた事以外は実施例4と同様な方法でハイドロゲル前駆体液を得た。
-ステレオリソグラフィーによる造形-
ステレオリソグラフィー法による3DプリンターとしてForm2(Formlabs)を使用し、造形インクとして前記ハイドロゲル前駆体液を使用し、実施例1と同様の形状で破断限界試験モデル、圧縮応力試験モデル、医療従事者向け手技練習用モデルを直接造形し、下記に示す方法により、破断限界試験、圧縮応力試験、電気メスによる切開試験と手術用針糸を用いた縫合試験を実施した。
【0064】
(比較例1)
-ハイドロゲル前駆体液の調整-
ジメチルアクリルアミド(KJケミカル)59.9質量部、純水40.0質量部、及び開始剤として過硫酸アンモニウム(和光純薬工業)0.1質量部を撹拌し、ろ過により不純物等を除去した。最後に、真空脱気を10分間実施し、均質な液体として、ハイドロゲル前駆体液を得た。
続いて実施例1と同様な方法で破断限界試験モデル、圧縮応力試験モデル、医療従事者向け手技練習用モデルを作製し、下記に示す方法により、破断限界試験、圧縮応力試験、電気メスによる切開試験と手術用針糸を用いた縫合試験を実施した。
【0065】
(比較例2)
市販のマテリアルジェッティング法による3Dプリンターとしてアジリスタ(キーエンス株式会社製)を利用してモデル剤AR-M2(キーエンス株式会社製)にて実施例1と同様の形状で破断限界試験モデル、圧縮応力試験モデル、医療従事者向け手技練習用モデルを直接造形し、下記に示す方法により、破断限界試験、圧縮応力試験、電気メスによる切開試験と手術用針糸を用いた縫合試験を実施した。
【0066】
(比較例3)
市販のステレオリソグラフィー法による3DプリンターとしてForm2(Formlabs株式会社製)を利用してクリアレジン(Formlabs株式会社製)にて実施例1と同様の形状で破断限界試験モデル、圧縮応力試験モデル、医療従事者向け手技練習用モデルを直接造形し、下記に示す方法により、破断限界試験、圧縮応力試験、電気メスによる切開試験と手術用針糸を用いた縫合試験を実施した。
【0067】
<破断限界の評価>
上記各実施例、比較例における破断限界試験モデルについて、JIS K 6251に基づき、引張試験機(AG-10kNX、株式会社島津製作所製)にて500mm/minの引張速度で試験を行い、前記引張試験の際、標線間距離の変化より伸び率を算出し、破断限界の評価とした。本試験機においてサンプルの変形が見られず、測定限界10kNを超え、エラーとなったものについては測定範囲外とする。
【0068】
<圧縮応力の評価>
圧縮応力の評価に用いた圧縮試験機及び測定方法は以下の通りである。
万能試験機(島津製作所製、AG-I)、ロードセル1kN、1kN用圧縮ジグを設け、上記各実施例、比較例における圧縮応力試験モデルを設置した。ロードセルに掛かる圧縮に対する応力をコンピュータに記録し、変位量に対する応力をプロットし60%圧縮時の圧縮応力を評価した。本試験機においてサンプルの変形が見られず、測定限界1kNを超え、エラーとなったものについては測定範囲外とする。
【0069】
<エネルギーデバイス適用性、縫合可能性の評価>
上記各実施例、比較例における医療従事者向け手技練習用モデルについて、エネルギーデバイスとして、電気メスによる切開試験と手術用針糸を用いた縫合試験を実施した。
切開試験は電気メスPROG(DS3M/株式会社モリタ)を用い、C-1チップをセットし、CUTモードに設定したのちチップを対象物に押し当て、長さ30mm、深さ10mmの切れ込みをいれることで実施した。モデルが焼かれながら切れ込みが出来た場合を○、出来なかった(無反応、もしくはチップが入っていかない)場合を×とした。
縫合試験はサンプルをカッターナイフにて長さ30mm、深さ10mmの切れ込みを入れた後、手術用針糸としてLTR-1練習用針付縫合糸(フジモリ産業株式会社)を用い、切れ込みをまたぐ形でジグザグに3回針にて糸を通した後、両端をつまみ、モデルを持ち上げる操作ができるか確認した。可能だった場合を縫合操作に対応するものとして○、針を通した際にモデルがちぎれたり、持ち上げた際、モデルが破れて糸が外れる、もしくはモデルが硬すぎて針が入らない場合を×とした。
評価結果を表に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1の結果から、実施例1~6は比較例1~3と比べ、電気メスに対応可能である。実施例3~6は縫合にも対応可能である。
実施例2~6は比較例1と比較し、破断限界も高く、圧縮応力も高い物性が得られる。
比較例2~3は非常に固く医療従事者向け手技練習用モデルに不向きとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0072】
【文献】Wang et al., NATURE, Vol.463, 21 January 2010