(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】コロラドハムシに対する抵抗性が高められた植物、及びその製造方法、並びに植物におけるコロラドハムシに対する抵抗性の判定方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20231025BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20231025BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231025BHJP
A01H 1/02 20060101ALI20231025BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20231025BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20231025BHJP
C12N 9/04 20060101ALN20231025BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20231025BHJP
A01H 6/82 20180101ALN20231025BHJP
【FI】
C12N15/53
C12N15/54
C12N5/10
A01H1/02 Z ZNA
A01H1/00 A
A01H5/00 A
C12N9/04 Z
C12N9/10
A01H6/82
(21)【出願番号】P 2019161119
(22)【出願日】2019-09-04
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2018165459
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅基 直行
(72)【発明者】
【氏名】水谷 正治
(72)【発明者】
【氏名】秋山 遼太
(72)【発明者】
【氏名】浅野 賢治
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/146678(WO,A1)
【文献】特表2008-517604(JP,A)
【文献】J. Econ. Entomol.,2001年,Vol.94, No.5,pp.1260-1267
【文献】J. Chem. Ecol.,1988年,Vol.14, No.10,pp.1941-1950
【文献】Environmental Entomology,1986年,Vol.15, No.5,pp.1057-1062
【文献】Theor. Appl. Genet.,1999年,Vol.98,pp.39-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)~
(b)からなる群から選択される少なくとも一のDNA及び下記(e)~
(f)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを含む、スピロソラン骨格23位へのアセトキシ基導入に用いられるための組成物
(a)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA
(e)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA。
【請求項2】
下記(a)~
(b)からなる群から選択される少なくとも一の
DNA及び下記(e)~(f)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを含む、植物におけるレプチン蓄積量の向上に用いられるための組成物
(a)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA
(e)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA。
【請求項3】
下記(a)~
(b)からなる群から選択される少なくとも一の
DNA及び下記(e)~(f)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを含む、植物へのコロラドハムシに対する抵抗性向上に用いられるための組成物
(a)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA
(e)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA。
【請求項4】
下記(a)~
(b)からなる群から選択される少なくとも一の
DNA及び下記(e)~(f)からなる群から選択される少なくとも一のDNAが導入された、コロラドハムシに対する抵抗性が高められた植物体を再生しうる形質転換植物細胞
(a)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA
(e)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA。
【請求項5】
請求項
4に記載の形質転換植物細胞から再生された、コロラドハムシに対する抵抗性が高められた形質転換植物。
【請求項6】
コロラドハムシに対する抵抗性が高められた植物の製造方法であって、
下記(a)~
(b)からなる群から選択される少なくとも一の
DNA及び下記(e)~(f)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを、植物細胞に導入する工程、
並びに
前記工程においてDNAが導入された形質転換植物細胞から植物を再生する工程
を含む方法
(a)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA
(e)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA。
【請求項7】
植物におけるコロラドハムシに対する抵抗性を判定する方法であって、
被検植物における、
下記(a)~
(b)からなる群から選択される少なくとも一のDNAと下記(e)~
(f)からなる群から選択される少なくとも一のDNAとの存在若しくは発現を検出する工程、及び
前記工程にて、前記DNAの存在又は発現が検出された場合に、前記被検植物は、コロラドハムシに対する抵抗性を有すると判定する工程
を、含む方法
(a)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA
(e)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA。
【請求項8】
コロラドハムシに対する抵抗性を有する植物を製造する方法であって、
コロラドハムシに対する抵抗性を有する植物と任意の植物とを交配させる工程と、
前記工程における交配により得られた植物において、コロラドハムシに対する抵抗性を、請求項
7に記載の方法により判定する工程と、
コロラドハムシに対する抵抗性を有すると判定された植物を選抜する工程と
を、含む方法。
【請求項9】
コロラドハムシに対する抵抗性を有する植物を製造する方法であって、
下記(a)~
(b)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを有する植物と、下記(e)~
(f)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを有する植物とを交配させる工程と、
前記工程における交配により得られた植物において、コロラドハムシに対する抵抗性を、請求項
7に記載の方法により判定する工程と、
コロラドハムシに対する抵抗性を有すると判定された植物を選抜する工程と
を、含む方法
(a)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA
(e)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードする
DNA。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロラドハムシに対する抵抗性が高められた植物及び該植物を再生しうる植物細胞に関する。また、本発明は、前記植物の製造方法、及び植物へのコロラドハムシに対する抵抗性向上に用いられるための組成物に関する。さらに、本発明は、植物におけるコロラドハムシに対する抵抗性を判定する方法に関する。また、本発明は、スピロソラン骨格23位への水酸基若しくはアセトキシ基の導入に用いられるための組成物、又は植物におけるレプチニン若しくはレプチンの蓄積量向上に用いられるための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コロラドハムシ(学名;Leptinotarsa decemlineata、英名:Colorado potato beetle)は、コウチュウ目カブトムシ亜目(多食亜目)ハムシ科の昆虫である。ナス科(Solanaceae)の植物に寄生し、葉を食する害虫であり、特に、ジャガイモ(Solanum tuberosum等)において最大の虫害をもたらし、殺虫剤である農薬を使わない場合には生産量の40~80%損失の生じ得るという報告もある(非特許文献1)。コロラドハムシ(CPB)は、日本には上陸していないが、北米から欧州、アジアの世界各地に生育域を広げている(非特許文献1)。近年、中国にも定着し、2010年には27万平方kmに分布し、生育域を大きいところでは45km/年で拡散している(非特許文献2)。そのため、CPB抵抗性ジャガイモ等の育種は、日本においても急務であり、また世界的に重要な課題である。
【0003】
この点に関し、CPBに対して抵抗性を示すジャガイモとして、Solanum chacoense(野生種)が知られている。また、S.chacoense由来のCPB抵抗性ジャガイモは、レプチンを蓄積することによって当該抵抗性を発揮できることが明らかになっている(非特許文献3及び4)。さらに、これらレプチンは、通常の栽培種であるジャガイモ(S.tuberosum等)において蓄積されているソラニンやチャコニンから、2段階の反応を経て生合成されると予想されている(非特許文献5)。また、これらレプチンの生合成を担う遺伝子は、S.chacoense由来の染色体第2番と第8番にあることが示唆されている(非特許文献6)。
【0004】
しかしながら、このS.chacoenseは、栽培化されていない野生種であり、通常の食用のジャガイモと比較して収量や栽培性が著しく劣るため、農業生産に適さないという問題がある。そのため、S.chacoense由来の系統を、通常のジャガイモ(S.tuberosum等)と交配することによって、後代でCPB抵抗性を有する系統を得ることが試みられている。優良な実用品種としてのジャガイモを育種するためには、CPB抵抗性に不要なS.chacoense由来のゲノム領域を除去する必要があり、通常、その除去はS.tuberosum等との戻し交雑によって行なわれる。しかしながら、前述のとおり、レプチン生合成を担う遺伝子が同定されておらず、またそれら遺伝子の座上情報も、第2番、第8番という大まかなものしか明らかになっていない。そのため、当該遺伝子の存在等を指標とする個体選抜を行なうことができず、CPB抵抗性を有する実用品種を得るに至っていない。
【0005】
また、ジャガイモ等の植物にCPB抵抗性を付与する方法としては、遺伝子組換えやゲノム編集等によって、レプチン生合成を担う遺伝子をジャガイモ等に導入する方法も考えられる。しかしながら、上述のとおり、前記遺伝子が同定されていないため、かかる方法によってもCPB抵抗性植物を製造するに至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】MaharijayaとVosman(2015)Euphytica 4:133-142
【文献】Liuら (2012)Entomologia Experimentalis et Applicata 143:207-217
【文献】SturckowとLow(1961)Entomologia Experimentalis et Applicata 4:133-142
【文献】Sindenら(1986)Environmental Entomology 15:1057-1062
【文献】Sagredoら(1999)Theor Appl Genet.98:39-46
【文献】Sagredoら(2006)Theor Appl Genet.114:131-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物にCPB抵抗性を付与する遺伝子、すなわちレプチンの生合成を担う遺伝子を同定することにある。また、本発明の目的は、同定された遺伝子を用い、CPBに対する抵抗性が高められた植物を効率的に製造する方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、前記遺伝子の存在等を指標とし、植物におけるCPBに対する抵抗性を効率的に判定する方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のとおり、CPB抵抗性ジャガイモであるS.chacoenseにおいて、その抵抗性を付与するレプチンは、ソラニンやチャコニン(ソラニダン骨格を有する化合物)から生合成されることが予想されている。本発明者らは、この生合成に関し、同じナス科植物であるトマト(S.lycopersicum)における、α-トマチン(スピロソラン骨格を有する化合物)の代謝過程(
図1の上段 参照)に着目した。そして、S.chacoenseにおいては、このトマトにおけるα-トマチンの代謝過程同様の23位水酸化酵素(「23DOX」とも称する)及び23位アセチル基転移酵素(「23ACT」とも称する)が、α-ソラニンやα-チャコニンを基質とする、レプチニン生成を介したレプチン生合成に関与していると想定した(
図1の下段 参照)。
【0009】
そこで、先ずは、S.lycopersicum及びS.chacoenseのそれぞれについて、これら酵素をコードする遺伝子の同定を試みた。なお、α-トマチンの代謝過程に23DOX及び23ACTが関与することは明らかになっていたが、それらの配列は明らかとなっていなかった。そのため、先ずは、トマトの発現データベースから、前記代謝過程に関与することが想定される遺伝子の配列を選抜し、それらの全長ORF配列を決定した。次いで、得られたS.lycopersicumの配列に基づき、S.chacoenseにおける相同遺伝子をスクリーニングし、RACE法により、それらの全長ORF配列も決定した。
【0010】
そして、このようにして得ることができたS.lycopersicum及びS.chacoenseの各遺伝子がコードする酵素を、大腸菌にて合成し、それらの酵素活性をin vitroにて分析した。その結果、S.lycopersicum及びS.chacoenseの23DOX〈各々「Sl23DOX」及び「Sc23DOX」とも称する)は、各々α-トマチンの23位に水酸基を導入し、さらにS.lycopersicum及びS.chacoenseの23ACT〈各々「Sl23ACT」及び「Sc23ACT」とも称する)は、当該水酸基をアセチル化できることが明らかになった。
【0011】
しかしながら、従前の予想とは異なり、α-ソラニン等を基質としても、前記23DOXによって、当該化合物の23位に水酸基は導入されず、また当該水酸基は、前記23ACTによってアセチル化されることなく、レプチンを生成することはできなかった。
【0012】
一方、前記23DOX遺伝子を導入したジャガイモ(S.tuberosum)においては、レプチニンの生成が検出され、さらに前記23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子を導入したジャガイモにおいては、レプチンの生成が認められた。
【0013】
以上のことから、S.chacoenseにおいては、従前想定されていたような、ソラニダン骨格を有する化合物(α-ソラニン、α-チャコニン)からレプチンが生合成されるわけではなく、スピロソラン骨格を有する化合物23位への水酸基、次いでアセトキシ基の導入を経て、更にこれら化合物のスピロソラン骨格がソラニダン骨格に各々変換されることによって、レプチンが生合成されていることが明らかになった。
【0014】
また、Sc23DOX遺伝子とSc23ACT遺伝子を認識する各プライマーセット作成した。さらに、S.chacoenseと2倍体のレプチンを作らないジャガイモの交雑種を作成した。そして、これら交雑種について、前記プライマーセットを用いたPCR、及びレプチン生成量の解析を行なった結果、DNAマーカー(S.chacoenseの23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子)の存在と、レプチン蓄積との遺伝的挙動が一致することが確認された。
【0015】
さらに、CPB抵抗性を有さないS.tuberosumにて、23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子の有無について解析したところ、驚くべきことに、前記23DOX及び23ACTと高い配列同一性を有するタンパク質(St23DOX及びSt23ACT)をコードする各遺伝子を有していることが明らかになった。
【0016】
また、これら遺伝子がコードする各タンパク質を、大腸菌にて合成し、それらの酵素活性をin vitroにて分析した。その結果、上述のSl23DOX及びSc23DOX同様に、St23DOXは、α-トマチンの23位に水酸基を導入できることが明らかになった。さらに、St23ACTについても、上述のSl23ACT及びSc23ACT同様に、前記水酸基をアセチル化できることが明らかになった。
【0017】
そして、以上の知見に基づき、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、より詳しくは、以下を提供するものである。
<1> 下記(a)~(d)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを含む、スピロソラン骨格23位への水酸基導入に用いられるための組成物
(a)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードするDNA
(c)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードするDNA
(d)配列番号:1、3又は5に記載のヌクレオチド配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質をコードする、DNA。
<2> 前記(a)~(d)からなる群から選択される少なくとも一のDNA及び下記(e)~(h)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを含む、スピロソラン骨格23位へのアセトキシ基導入に用いられるための組成物
(e)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードするDNA
(g)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードするDNA
(h)配列番号:7、9又は11に記載のヌクレオチド配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質をコードする、DNA。
<3> 前記(a)~(d)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを含む、植物におけるレプチニン蓄積量の向上に用いられるための組成物。
<4> 前記(a)~(h)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを含む、植物におけるレプチン蓄積量の向上に用いられるための組成物。
<5> 前記(a)~(h)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを含む、植物へのコロラドハムシに対する抵抗性向上に用いられるための組成物。
<6> 前記(a)~(h)からなる群から選択される少なくとも一のDNAが導入された、コロラドハムシに対する抵抗性が高められた植物体を再生しうる形質転換植物細胞。
<7> <6>に記載の形質転換植物細胞から再生された、コロラドハムシに対する抵抗性が高められた形質転換植物。
<8> コロラドハムシに対する抵抗性が高められた植物の製造方法であって、
前記(a)~(h)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを、植物細胞に導入する工程、及び前記工程においてDNAが導入された形質転換植物細胞から植物を再生する工程を含む方法。
<9> 植物におけるコロラドハムシに対する抵抗性を判定する方法であって、
被検植物における、前記(a)~(d)からなる群から選択される少なくとも一のDNAと前記(e)~(h)からなる群から選択される少なくとも一のDNAとの存在若しくは発現を検出する工程、及び前記工程にて、前記DNAの存在又は発現が検出された場合に、前記被検植物は、コロラドハムシに対する抵抗性を有すると判定する工程を、含む方法。
<10> コロラドハムシに対する抵抗性を有する植物を製造する方法であって、
コロラドハムシに対する抵抗性を有する植物と任意の植物とを交配させる工程と、前記工程における交配により得られた植物において、コロラドハムシに対する抵抗性を、<9>に記載の方法により判定する工程と、コロラドハムシに対する抵抗性を有すると判定された植物を選抜する工程とを、含む方法。
<11> コロラドハムシに対する抵抗性を有する植物を製造する方法であって、
前記(a)~(d)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを有する植物と、前記(e)~(h)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを有する植物とを交配させる工程と、
前記工程における交配により得られた植物において、コロラドハムシに対する抵抗性を、<9>に記載の方法により判定する工程と、
コロラドハムシに対する抵抗性を有すると判定された植物を選抜する工程と
を、含む方法。
【0018】
なお、S.chacoense由来の23DOX遺伝子のヌクレオチド配列、及び該配列がコードするタンパク質のアミノ酸配列を、配列番号:1及び2に各々示す。S.tuberosum由来の23DOX遺伝子のヌクレオチド配列、及び該配列がコードするタンパク質のアミノ酸配列を、配列番号:3及び4に各々示す。S.lycopersicum由来の23DOX遺伝子のヌクレオチド配列、及び該配列がコードするタンパク質のアミノ酸配列を、配列番号:5及び6に各々示す。
【0019】
また、S.chacoense由来の23ACT遺伝子のヌクレオチド配列、及び該配列がコードするタンパク質のアミノ酸配列を、配列番号:7及び8に各々示す。S.tuberosum由来の23ACT遺伝子のヌクレオチド配列、及び該配列がコードするタンパク質のアミノ酸配列を、配列番号:9及び10に各々示す。S.lycopersicum由来の23ACT遺伝子のヌクレオチド配列、及び該配列がコードするタンパク質のアミノ酸配列を、配列番号:11及び12に各々示す。
【発明の効果】
【0020】
本発明において同定された、水酸化酵素遺伝子及び/又はアセチル基転移酵素遺伝子を用いることによって、スピロソラン骨格23位に水酸基又はアセトキシ基を導入することが可能となり、またレプチニン又はレプチンを生成することも可能となる。さらに、本発明によれば、レプチンの生合成能を増強し、レプチンを蓄積させることにより、植物のCPBに対する抵抗性等を高めることも可能となる。すなわち、CPBに対する抵抗性が高められた植物を効率的に提供することが可能となる。また、本発明によれば、前記遺伝子の発現又は存在を指標とし、植物におけるCPBに対する抵抗性等を効率的に判定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】トマト(S.lycopersicum)、CPB抵抗性ジャガイモ(S.chacoense)及びCPB非抵抗性ジャガイモ(S.tuberosum)におけるグリコアルカロイドを示す、概略図である。図中枠線内は、各ナス科植物において生成されるステロイドグリコアルカロイドを示し、図中左側の、スピロソラン骨格3位及びソラニダン骨格の3位における「R」は、これら骨格に酸素原子を介して結合する糖複合体を意味する。また、図中上段(S.lycopersicumの枠線内)においては、トマトにおけるα-トマチン(スピロソラン骨格を有する化合物)の代謝過程にて、当該骨格の23位に23位水酸化酵素(23DOX)によって水酸基が導入され、さらに当該水酸基に23位アセチル基転移酵素(23ACT)によってアセチル基が導入されることを示す。
【
図2】S.lycopersicum由来23DOX発現用ベクター、S.chacoense由来23DOX発現用ベクター及びS.tuberosum由来23DOX発現用ベクターを各々導入した大腸菌(図中、各々「Sl23DOX」、「Sc23DOX」及び「St23DOX」にて示す)の粗抽出画分を用い、23位水酸化酵素活性を検出した結果を示す、LC-MSのチャートデータである。図中、縦軸は強度を示し、横軸は保持時間を示す(図中の表記については、
図4、7、9、13及び14において同様である)。
【
図3】
図2に示したピーク(1)~(4)のマススペクトルである。図中、縦軸は強度を示し、横軸は質量電荷比を示す(図中の表記については、
図5、8、10及び15において同じである)。
【
図4】S.lycopersicum由来23ACT発現用ベクター、S.chacoense由来23ACT発現用ベクター、S.tuberosum由来23ACT発現用ベクター及び空ベクターを各々導入した大腸菌(図中、各々「Sl23ACT」、「Sc23ACT」、「St23ACT」及び「23ヒドロキシ-トマチン+陰性対照」にて示す)の粗抽出画分を用い、23位アセチル基転移酵素を検出した結果を示す、LC-MSのチャートデータである。図中、「23アセトキシ-トマチン」は、その標品についてのチャートデータを示す。
【
図5】
図4に示したピーク(1)~(4)のマススペクトルである。
【
図6】形質転換に使用したベクターの構造を示す図である。図中、導入する遺伝子部分のT-DNAのライトボーダー(RB)、レフトボーダー(LB)、それらボーダーの内部の構造、及び制限酵素認識部位を示す。
【
図7】CPB非抵抗性ジャガイモ(図中「S.tuberosum」)、Sc23DOXを発現させたジャガイモ(図中「S.tuberosum Sc23DOX-ox-#9」)及びCPB抵抗性ジャガイモの花(図中「S.chacoenseの花」)について分析した結果を示す、LC-MSのチャートデータである。
【
図8】
図7に示したピーク(1)~(4)のマススペクトルである。
【
図9】空ベクターを導入したCPB非抵抗性ジャガイモ(図中「ベクターコントロール」)、Sc23DOX及びSc23ACTを発現させたジャガイモ(図中「Sc23DOX+Sc23ACT共発現」)及びCPB抵抗性ジャガイモの花(図中「S.chacoenseの花」)について分析した結果を示す、LC-MSのチャートデータである。
【
図10】
図9に示したピーク(ピークI及びII、並びにレプチンI及びII)のマススペクトルである。
【
図11】CPB抵抗性を示さないジャガイモ品種及びジャガイモ育種に使われる系統、並びにCPB抵抗性野生種である「S.chacoense PI 458310」から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、PCRによりSc23DOX遺伝子を検出した結果を示す、ゲル電気泳動の写真である。図中、「M」は100bpマーカーを示し、「1」は男爵薯についての解析結果を示し、「2」はメークインについての解析結果を示し、「3」はさやかについての解析結果を示し、「4」はサッシーについての解析結果を示し、「5」はコナフブキについての解析結果を示し、「6」はデジレーについての解析結果を示し、「7」は97H32-6についての解析結果を示し、「8」は西海35号についての解析結果を示し、「9」は北海87号についての解析結果を示し、「10」はVTn 62-33-3についての解析結果を示し、「11」はW553-4についての解析結果を示し、「12」はS. chacoense (PI 458310) についての解析結果を示す(図中の表記については、
図12において同様である)。
【
図12】CPB抵抗性を示さないジャガイモ品種及びジャガイモ育種に使われる系統、並びにCPB抵抗性野生種である「S.chacoense PI 458310」から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、PCRによりSc23ACT遺伝子を検出した結果を示す、
【
図13】レプチンを発現しているS.chacoense PI 458310から得た実生3系統と、レプチンを発現していないジャガイモ系統 97H32-6とを交配し、獲得した雑種について、ステロイドグリコアルカロイドを解析した結果を示す、、LC-MSのチャートデータである。図中、「97H32-6」は97H32-6について解析した結果を示し、「2-34」、「2-19」及び「2-3」は、各々表1に示す雑種 PI 458310-2×97H32-6 34及びPI 458310-2×97H32-6 19及びPI 458310-2×97H32-6 3について解析した結果を示す。
【
図14】空ベクターを導入したCPB非抵抗性ジャガイモ品種コナフブキ(図中「ベクターコントロール」)及びSc23DOXを発現させたコナフブキ(図中「Sc23DOX ♯15」)について分析した結果を示す、LC-MSのチャートデータである。図中の囲み枠においては、保持時間14.5~15.5分のチャートデータを拡大して示してある。
【
図15】
図14に示したピーク(レプチンI及びII)のマススペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<本発明の組成物について>
後述の実施例において示すとおり、本発明者らによって、トマト(S.lycopersicum)及びCPB抵抗性ジャガイモ S.chacoenseにおける、23位水酸化酵素(23DOX)遺伝子(Sl23DOX遺伝子及びSc23DOX遺伝子)が各々単離され、それらの配列が同定された。そして、レプチニンの生合成が認められないジャガイモ S.tuberosumに、前記23DOX遺伝子を導入した結果、スピロソラン骨格を有するステロイドグリコアルカロイドの23位に水酸基が導入され、さらにスピロソラン骨格がソラニダン骨格に変換されることによって、当該ジャガイモにおいて、レプチニンの有意な生合成が認められるようになった。
【0023】
さらに、23DOX遺伝子をS.tuberosumも有しているものの、その発現量が十分ではないため、当該ジャガイモにおいてレプチニンの生合成が認められないということも明らかにした。
【0024】
したがって、本発明は、スピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質(以下、「本発明の23DOX」とも称する)をコードするDNAを含む、スピロソラン骨格23位への水酸基導入に用いられるための組成物、又は、植物におけるレプチニン蓄積量の向上に用いられるための組成物を、提供する。
【0025】
また、後述の実施例において示すとおり、本発明者らによって、S.lycopersicum及びS.chacoenseにおける、23位アセチル基転移酵素(23ACT)遺伝子(Sl23ACT遺伝子及びSc23ACT遺伝子)も単離され、それらの配列が同定された。そして、レプチンの生合成が認められず、CPBに対する抵抗性を有さないジャガイモ S.tuberosumに、前記23DOX遺伝子及び前記23ACT遺伝子を導入した結果、スピロソラン骨格を有するステロイドグリコアルカロイドにおいて、23DOXにより導入された水酸基がさらにアセチル化され、またスピロソラン骨格がソラニダン骨格に変換されることによって、当該ジャガイモにおいて、CPB抵抗性に関与するレプチンの有意な生合成が認められるようになった。
【0026】
また、S.tuberosumの品種の中でも、育成過程でS.chacoenseを用いて作出されているが、レプチンを生産しない97H32-6やコナフブキ等の品種では、Sc23ACT遺伝子を有しているということを明らかにした。
【0027】
さらに、23ACT遺伝子をS.tuberosumも有してはいるものの、その発現量が十分ではないため、当該ジャガイモにおいてレプチンの生合成が認められないということも明らかにした。
【0028】
したがって、本発明はまた、本発明の23DOXをコードするDNAと、スピロソラン骨格の23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質(以下、「本発明の23ACT」とも称する)をコードするDNAを含む、スピロソラン骨格23位へのアセトキシ基導入に用いられるための組成物、植物におけるレプチン蓄積量の向上に用いられるための組成物、又は植物へのCPBに対する抵抗性向上に用いられるための組成物 をも、提供する。
【0029】
本発明において、水酸基又はアセトキシ基が導入される基質としては、少なくともスピロソラン骨格を有していればよく、例えば、スピロソラン配糖体が挙げられる。
【0030】
本発明において、23位に水酸基が導入される基質としては、例えば、α-トマチン、α-デヒドロトマチン、α-ソラマリン、β-ソラマリン、それぞれのアグリコンが挙げられ、また、23位の水酸基にアセチル基が導入される基質としては、例えば、レプチニン、23ヒドロキシトマチン、23ヒドロキシデヒドロトマチンが挙げられる。
【0031】
本発明において、「レプチニン」としては、例えば、レプチニンI(3β‐[2‐O,4‐O‐ビス(α‐L‐ラムノピラノシル)‐β‐D‐グルコピラノシロキシ]ソラニド‐5‐エン‐23β‐オール)、レプチニンII(3β‐[(3‐O‐β‐D‐グルコピラノシル‐2‐O‐α‐L‐ラムノピラノシル‐β‐D‐ガラクトピラノシル)オキシ]ソラニド‐5‐エン‐23β‐オール)が、挙げられる。
【0032】
本発明において、「レプチン」としては、例えば、レプチンI(3β‐[2‐O,4‐O‐ビス(α‐L‐ラムノピラノシル)‐β‐D‐グルコピラノシロキシ] ソラニド‐5‐エン‐23β‐オール 23‐アセテート)、3β‐[2‐O,4‐O‐ビス(α‐L‐ラムノピラノシル)‐β‐D‐グルコピラノシロキシ]ソラニド‐5‐エン‐23β‐オール)、レプチンII(3β‐[(3‐O‐β‐D‐グルコピラノシル‐2‐O‐α‐L‐ラムノピラノシル‐β‐D‐ガラクトピラノシル)オキシ]ソラニド‐5‐エン‐23β‐アセテート)が、挙げられる。
【0033】
また、本発明の「組成物」の態様としては、後述の「本発明のDNA」が有効成分として含まれていればよいが、他の成分が混合されているものであってもよい。このような他の成分としては特に制限はなく、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、保存剤が挙げられる。
【0034】
<本発明のDNAについて>
前述の組成物の有効成分として含有される「本発明の23DOXをコードするDNA」の例として、S.chacoense由来の23DOXをコードするcDNAの配列を配列番号:1に示す。当該配列がコードするタンパク質(Sc23DOX)のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。「本発明の23DOXをコードするDNA」の別の例として、S.lycopersicum由来の23DOXをコードするcDNAの配列を配列番号:5に示す。当該配列がコードするタンパク質(Sl23DOX)のアミノ酸配列を配列番号:6に示す。なお、Sl23DOX遺伝子は、トマト第2染色体のSolyc02g062460に座乗する。「本発明の23DOXをコードするDNA」の別の例として、S.tuberosum由来の23DOXをコードするcDNAの配列を配列番号:3に示す。当該配列がコードするタンパク質(St23DOX)のアミノ酸配列を配列番号:4に示す。
【0035】
前述の組成物の有効成分として含有される「本発明の23ACTをコードするDNA」の例として、S.chacoense由来の23ACTをコードするcDNAの配列を配列番号:7に示す。当該配列がコードするタンパク質(Sc23ACT)のアミノ酸配列を配列番号:8に示す。「本発明の23ACTをコードするDNA」の別の例として、S.lycopersicum由来の23ACTをコードするcDNAの配列を配列番号:11に示す。当該配列がコードするタンパク質(Sl23ACT)のアミノ酸配列を配列番号:12に示す。なお、Sl23ACT遺伝子は、トマト第8染色体のSolyc08g075210に座上する。「本発明の23ACTをコードするDNA」の別の例として、S.tuberosum由来の23ACTをコードするcDNAの配列を配列番号:9に示す。当該配列がコードするタンパク質(St23ACT)のアミノ酸配列を配列番号:10に示す。
【0036】
現在の技術水準においては、当業者であれば、前記「本発明の23DOXをコードするDNA」又は「本発明の23ACTをコードするDNA」(これら2種のDNAについて「本発明のDNA」とも総称する)の配列情報が得られた場合、そのヌクレオチド配列に対して種々の改変を行い、スピロソラン骨格の23位に水酸基を導入する活性を有するタンパク質、又はスピロソラン骨格の23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質をコードする変異遺伝子の製造を行うことが可能である。さらに、自然界においても、ヌクレオチド配列が変異することは起こり得ることである。
【0037】
したがって、本発明の23DOXをコードするDNAには、スピロソラン骨格の23位に水酸基を導入する活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAも含まれる。また、本発明の23ACTをコードするDNAには、スピロソラン骨格の23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号:8.10又は12に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAも含まれる。
【0038】
ここで「複数」とは、23DOX又は23ACTのアミノ酸配列全体においては、通常、100アミノ酸以内(例えば、90アミノ酸以内、80アミノ酸以内、70アミノ酸以内)、好ましくは60アミノ酸以内(例えば、50アミノ酸以内、40アミノ酸以内)、より好ましくは30アミノ酸以内(例えば、20アミノ酸以内、10アミノ酸以内)、特に好ましくは数個のアミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、2アミノ酸以内)である。
【0039】
また、各ヌクレオチド配列に対して変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知の手法、又はこれに準ずる方法により、例えば、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製)等)を用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて行うことができる。
【0040】
さらに、現在の技術水準においては、当業者であれば、特定のDNAが得られた場合、そのDNAの配列情報を利用して、同種若しくは他の植物から、各活性を有するタンパク質をコードする相同遺伝子を単離することが可能である。このような相同遺伝子を取得するための植物としては、ナス科植物が挙げられ、例えば、ソラヌム・パンドゥラエフォルメ(Solanum panduraeforme)、ソルヌム・ヴェルバサイフォリウム(Solanum verbascifolium)、ソラヌム・ペンネリ(Solanum pennellii)、ソラヌム・エチオピクム(Solanum aethiopicum)、アメリカイヌホオズキ(Solanum americanum)、イヌホオズキ(Solanum nigrum)、ワルナスビ(Solanum carolinense)、タマリロ(Solanum betaceum)、ヒヨドリジョウゴ(Solanum lyratum)、ツノナス(Solanum mammosum)、ナス(Solanum melongena)、ペピーノ(Solanum muricatum)、タマサンゴ(Solanum pseudocapsicum、トマト(Solanum lycopersicum)、Solanum chacoense等のナス属に属する植物、トウガラシ(ピーマン、パプリカ)(Capsicum annuum)、アヒ・アマリージョ(Capsicum baccatum)、ウルピカ(Capsicum cardenasii)、シネンセ種(Capsicum chinense)、キダチトウガラシ(Capsicum frutescens)、ロコト(Capsicum pubescens)等のトウガラシ属に属する植物、シュッコンタバコ(N.alata)、タバコ(Nicotiana spp.)等のタバコ属に属する植物、チョウセンアサガオ(Datura metel)、アメリカチョウセンアサガオ(Datura inoxia)、シロバナヨウシュチョウセンアサガオ(Datura stramonium)等のチョウセンアサガオ属に属する植物、コダチチョウセンアサガオ(Brugmansia arborea)、キダチチョウセンアサガオ(Brugmansia suaveolens)等のキダチチョウセンアサガオ属に属する植物、ホオズキ(Physalis alkekengi var. franchetii)、オオブドウホオズキ(トマティージョ,Tomatillo)(Physalis ixocarpa他)等のホオズキ属に属する植物、イガホオズキ属に属する植物、ハダカホオズキ属に属する植物、ペチュニア属に属する植物、ハシリドコロ属に属する植物、ヒヨス属に属する植物、ベラドンナ属に属する植物、マンドラゴラ属に属する植物、クコ属に属する植物、カリブラコア属に属する植物が、挙げられる。
【0041】
また、本発明のDNAの相同遺伝子を取得するための植物としては、23アセトキシルスピロソランを含有している植物が好ましく、このような植物としては、例えば、イヌホオズキ(Solanum nigrum)が知られている(Eich,Soloanaceae and Convolvulaceae:Secondary Metabolite(2008),Springer、表7.3)。さらに、「本発明の23DOXをコードするDNA」の相同遺伝子を取得するための植物としては、23ヒドロキシスピロソランを含有している植物が好ましく、このような植物としては、例えば、ソラヌム・パンドゥラエフォルメ(Solanum panduraeforme)、ソルヌム・ヴェルバサイフォリウム(Solanum verbascifolium)等が知られている(Eich, Soloanaceae and Convolvulaceae:Secondary Metabolite (2008), Springer、表7.3)。
【0042】
相同遺伝子を取得するための方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern,E.M.,J.Mol.Biol.,98:503,1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki,R.K.,et al.Science,230:1350-1354,1985、Saiki,R.K.et al.Science,239:487-491,1988)等が挙げられる。相同遺伝子を単離するためには、通常、ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、「1XSSC、0.1% SDS、37℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.5XSSC、0.1% SDS、42℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.2XSSC、0.1% SDS、65℃」程度の条件が挙げられる。このようにハイブリダイゼーションの条件が厳しくなるほど高い同一性を有するDNAの単離を期待し得る。ただし、上記のSSC、SDS及び温度の条件の組み合わせは例示であり、DNAの濃度、DNAの長さ、ハイブリダイゼーションの反応時間等を適宜組み合わせることにより、必要なストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0043】
したがって、本発明の23DOXをコードするDNAには、スピロソラン骨格の23位に水酸基を導入する活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号:1、3又は5に記載のヌクレオチド配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAも含まれる。また、本発明の23ACTをコードするDNAには、スピロソラン骨格の23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号:7、9又は11に記載のヌクレオチド配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAも含まれる。また、前記各ヌクレオチド配列において遺伝暗号の縮重に基づく配列(縮重配列)を含むDNAも、本願発明の各DNAに含まれる。
【0044】
取得された相同遺伝子がコードするタンパク質は、通常、配列番号:2、4若しくは6に記載のアミノ酸配列、又は配列番号:8、10若しくは12に記載のアミノ酸配列と高い同一性を有する。高い同一性とは、例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上)、さらに好ましくは95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の配列の同一性である。配列の同一性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等を利用して(例えば、デフォルト、すなわち初期設定のパラメータを用いて)決定することができる。
【0045】
したがって、本発明の23DOXをコードするDNAには、配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードするDNAも含まれる。また、本発明の23ACTをコードするDNAには、配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードするDNAも含まれる。
【0046】
DNAがコードするタンパク質が、スピロソラン骨格の23位に水酸基を導入する活性又はスピロソラン骨格の23位の水酸基をアセチル化する活性を有するか否かは、例えば、後述の実施例に記載するように、当該DNAをコードするタンパク質を大腸菌等を用いて合成し、得られたタンパク質に、2価鉄イオン、アスコルビン酸及び2-オキソグルタル酸の存在下、スピロソラン骨格を有する化合物(例えば、α-トマチン又は23ヒドロキシ-トマチン)を添加し、反応させる。そして、得られた反応産物を、一般に報告されているMatsudaら(Phytochem.Anal.15:121-124,2004)やKozukueら(J.Agric.Food Chem.52:2079-2083,2004)やNakayasuら(Plant Physiol.175:120-133)の液体クロマトグラフィーを用いたグリコアルカロイドの分析方法を用いて分析することにより、判定することができる(例えば、前記反応産物を、液体クロマトグラフィーに供し、得られた画分は、質量分析やUVまたは多波長検出器等を用いて分析することができる)。なお、分析における諸条件については、当業者であれば、適宜設定することが可能である。
【0047】
「本発明のDNA」としては、それらの形態に特に制限はなく、cDNAの他、ゲノムDNA、及び化学合成DNAが含まれる。これらDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、植物からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PAC等が利用できる)を作成し、これを展開して、23DOX遺伝子(例えば、配列番号:1、3又は5に記載のDNA)又は23ACT遺伝子(例えば、配列番号:7、9又は11に記載のDNA)のヌクレオチド配列を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、23DOX遺伝子又は23ACT遺伝子に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、植物から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。また、市販のDNA合成機を用いれば、目的のDNAを合成により調製することも可能である。
【0048】
また、本発明のDNAは、上述の組成物において、ベクターに挿入された態様で含まれていてもよい。かかるベクターとしては、特に制限はなく、例えば、植物細胞内で挿入DNAを発現させることが可能なものが挙げられる。本発明にかかるベクターは、本発明のDNAを恒常的又は誘導的に発現させるためのプロモーターを含有し得、またエンハンサー、ターミネーター、選択マーカー等を適宜含有するものであってもよい。
【0049】
また、後述のアグロバクテリウムを介する方法により、本発明の形質転換植物細胞を調製する場合においては、本発明のDNAは、上述の組成物において、アグロバクテリウムに導入された態様で含まれていてもよい。
【0050】
なお、かかるベクター及びアグロバクテリウムのより詳細な態様については、以下の<本発明の植物細胞について 1>にて例示する。
【0051】
<本発明の植物細胞について 1>
本発明のCPBに対する抵抗性が高められた植物体を再生しうる植物細胞として、前述の本発明の23DOXをコードするDNA及び本発明の23ACTをコードするDNAのうちの少なくとも1のDNAが導入されることにより形質転換された植物細胞が挙げられる。
【0052】
本発明の植物細胞の由来する植物としては特に制限はなく、例えば、ジャガイモ等のナス科植物が挙げられる。本発明の植物細胞は、これら植物種に限定されないが、特に、ソラニダン環のグリコアルカロイドを生産する通常のジャガイモ(Solanum tuberosum)が好ましい。通常のジャガイモ以外の植物としては、限定されないが、Solanum種の中で塊茎を形成するPotatoeサブセクションに含まれる植物種が挙げられる(Hawkes,The Potato(1990),Smithonian Inst. Press、表6.1)。
【0053】
なお、23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子の発現量が少ない、またはこれら遺伝子を有していない植物種に対しては、CPBに対する抵抗性が高めるために、本発明の23DOXをコードするDNA及び本発明の23ACTをコードするDNAの双方を導入することが望ましい。一方、後述の実施例において示すように、S.tuberosumにおいては生来少なくともSc23ACT遺伝子を有しているものもある。そのような植物種に対しては少なくとも本発明の23DOXをコードするDNAを導入することが望ましい。また逆に、生来少なくとも23DOX遺伝子を有している植物種に対しては、少なくとも本発明の23ACTをコードするDNAを導入することが望ましい。
【0054】
本発明の植物細胞には、植物培養細胞、栽培植物の植物体全体、植物器官(例えば、葉、花、茎、根、塊茎、根茎、種子等)、または植物組織(例えば、表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)のいずれであってもよい。さらに、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルス、未熟胚、花粉等が含まれる。
【0055】
本発明のDNAの植物宿主への導入方法としては、アグロバクテリウム感染法等の間接導入法や、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法、リポソーム法、マイクロインジェクション法といった直接導入法等が挙げられる。
【0056】
例えば、アグロバクテリウム感染法を用いる場合、以下のようにして本発明のDNAを導入した形質転換植物細胞を作出することができる。
【0057】
先ず、形質転換用組換えベクターを作製し、次いでアグロバクテリウムにより形質転換を行う。形質転換用組換えベクターは、本発明のDNAを含む断片を適当な制限酵素で切断後、必要に応じて適切なリンカーを連結し、植物細胞用のクローニングベクターに挿入することにより得ることができる。クローニング用ベクターとしては、pBE2113Not、pBI2113Not、pBI2113、pBI101、pBI121、pGA482、pGAH、pBIG等のバイナリーベクター系のプラスミドやpLGV23Neo、pNCAT、pMON200等の中間ベクター系のプラスミドを用いることができる。
【0058】
バイナリーベクター系プラスミドを用いる場合、上記のバイナリーベクターの境界配列(LB,RB)間に、本発明のDNAを挿入し、この組換えベクターを大腸菌中で増幅する。次いで、増幅した組換えベクターをアグロバクテリウム・チュメファシエンスEHA105、C58、LBA4404、EHA101、C58C1RifR等にエレクトロポレーション法等により導入し、本発明のDNAを導入したアグロバクテリウムを植物の形質転換に用いればよい。その他、三者接合法(Nucleic Acids Research,12:8711(1984))によって、本発明のDNAを含む形質転換に用いるアグロバクテリウムを調製することができる。すなわち、本発明のDNAを含むプラスミドを保有する大腸菌やヘルパープラスミド(例えばpRK2013)を保有する大腸菌とアグロバクテリウムを混合培養し、リファンピシリン及びカナマイシンを含む培地上で培養することにより形質転換用の接合体アグロバクテリウムを得ることができる。
【0059】
植物細胞内で、外来遺伝子である本発明のDNAを発現させるためには、本発明の前後に植物用のプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等を連結することが望ましい。本発明において利用可能なプロモーターとしては、例えばカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)由来の35Sプロモーター、トウモロコシのユビキチン(UBI)プロモーター、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子プロモーター、オクトピン(OCT)合成酵素遺伝子プロモーター等が挙げられる。エンハンサーとしては、ウイルス起源の翻訳エンハンサーや植物起源の翻訳エンハンサーを用いることができる。ウイルス起源の翻訳エンハンサーとしては、例えば、タバコモザイクウイルス、アルファルファモザイクウイルスRNA4、ブロモモザイクウイルスRNA3、ポテトウイルスX、タバコエッチウイルス等の配列が挙げられる。また、植物起源の翻訳エンハンサーとして、ダイズのβ-1,3グルカナーゼ(Glu)由来の配列、タバコのフェレドキシン結合性サブユニット(PsaDb)由来の配列等が挙げられる。ターミネーターとしては、例えば、CaMV由来やNOS遺伝子由来のターミネーター等を用いることができる。ただし、プロモーター、エンハンサー、ターミネーターは上記のものに限定されず、植物体内で機能することが知られているものであればいずれも使用することができる。これらのプロモーター、エンハンサー、ターミネーターは、発現させようとする本発明のDNAが機能し得るように連結する。
【0060】
なお、本発明のDNAをジャガイモで発現させる場合に用いられるプロモーターとしては、特に制限なく、前記35Sプロモーター等の植物全体において目的遺伝子の発現を可能とするプロモーターであってもよく、目的遺伝子を塊茎以外の部位にて発現させることを可能とするS.chacoense由来のプロモーターであってもよい。当該プロモーターとしては、例えばS.chacoenseの23DOX遺伝子又は23ACT遺伝子のプロモーターが挙げられる。これらは、Sc23DOXコーディング領域やSc23ACTコーディング領域の上流数kbを単離することにより、当業者であれば適宜調製できる。
【0061】
さらに、効率的に目的の形質転換植物細胞を選択するために、選択マーカー遺伝子を用いることが好ましい。選択マーカーとしては、カナマイシン耐性遺伝子(NPTII)、ハイグロマイシン耐性遺伝子(htp)、ビアラホス耐性遺伝子(bar及びpat)等が挙げられる。本発明のDNA及び選択マーカー遺伝子は、単一のベクターに一緒に組み込んでも良いし、それぞれ別個のベクターに組み込んだ2種類の組換えDNAを用いてもよい。
【0062】
さらに、本発明の23DOXをコードするDNA及び本発明の23ACTをコードするDNAの両方を導入する場合には、後述の実施例において示すように、これらDNAを単一のベクターに一緒に組み込んでも良いし、それぞれ別個のベクターに組み込んだ2種類の組換えDNAを用いてもよい。
【0063】
また、本発明のDNAの植物宿主への導入方法としては、上述の間接導入法及び直接導入法の他、ゲノム編集法による遺伝子挿入を用いてもよい。ゲノム編集法は、部位特異的なヌクレアーゼ(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR-Cas9等のDNA二本鎖切断酵素)を利用して、標的遺伝子を改変する方法である。例えば、ZFNs(米国特許6265196号、8524500号、7888121号、欧州特許1720995号)、TALENs(米国特許8470973号、米国特許8586363号)、ヌクレアーゼドメインが融合されたPPR(pentatricopeptiderepeat)(Nakamura et al.,Plant Cell Physiol 53:1171-1179(2012))等の融合タンパク質や、CRISPR-Cas9(米国特許8697359号、国際公開2013/176772号)、CRISPR-Cpf1(Zetsche B.et al.,Cell,163(3):759-71,(2015))やTarget-AID(K.Nishida et al.,Targeted nucleotide editing using hybrid prokaryotic and vertebrate adaptive immune systems,Science,DOI:10.1126/science.aaf8729,(2016))等のガイドRNA(gRNA)とタンパク質の複合体を用いる方法が挙げられる。
【0064】
<本発明の植物細胞について 2>
後述の実施例において示すとおり、S.tuberosumは23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子を有している。しかしながら、それらの発現量が低いため、レプチンを十分に蓄積することができない。すなわち、これら内在性の遺伝子の発現を増強させることにより、レプチン蓄積量も向上し、CPBに対する抵抗性も増強させることが可能となる。
【0065】
したがって、本発明は、
下記(a)~(h)からなる群から選択される少なくとも一の内在性DNAの発現が増強された、CPBに対する抵抗性が高められた植物体を再生しうる植物細胞をも提供する。
(a)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードするDNA
(c)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードするDNA
(d)配列番号:1、3又は5に記載のヌクレオチド配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質をコードする、DNA
(e)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードするDNA
(g)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードするDNA
(h)配列番号:7、9又は11に記載のヌクレオチド配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質をコードする、DNA。
【0066】
内在性の遺伝子の発現を増強させる方法としては、例えば、ゲノム編集や相同組換えにより、内在性23DOX遺伝子及び/又は内在性23ACT遺伝子の各上流にあるプロモーターを、相同組換え等により他のプロモーターに置換する方法が挙げられる。「他のプロモーター」としては、例えば、上述のCaMV由来の35Sプロモーター、トウモロコシのUBIプロモーター、NOS遺伝子プロモーター、OCT合成酵素遺伝子プロモーター、S.chacoenseの23DOX遺伝子のプロモーター、S.chacoenseの23ACT遺伝子のプロモーターが挙げられる。ここで用いられるゲノム編集としては、特に制限はないが、SDN-2(Site-Directed Nuclease 2、標的配列に相同的な短いDNA断片(鋳型)を人為的に合成し、切断の際に、これを人工制限酵素と合わせて導入することによって、1又は数塩基程度の変異を計画的に誘発させるタイプのゲノム編集)、SDN-3(Site-Directed Nuclease 3、数千塩基対程度の交雑可能な同種又は近縁種由来ではない遺伝子(トランスジーン)を含む長いDNA断片を相同な配列で挟む形で導入することによって、ゲノム上の所定部位に当該DNA断片を形成させるタイプのゲノム編集)が挙げられる。より具体的には、以下に示す方法によって、内在性23DOX遺伝子及び内在性23ACT遺伝子の発現を増強することができる。
【0067】
先ず、St23DOX遺伝子の開始コドンの部位を含む20ヌクレオチドを認識するgRNAとCas9タンパク質と、St23DOX遺伝子のプロモーター、CaMV由来の35Sプロモーター及びSt23DOX遺伝子を連結したDNAとを、エレクトロポレーション法により茎切片にある細胞内に導入する。細胞内に取り込まれたgRNAとCas9複合体が、St23DOX遺伝子プロモーターとSt23DOX遺伝子の間でDNAを切断し、その際にゲノム編集のSDN-3の現象が起きることで、St23DOX遺伝子のすぐ上流にCaMV由来の35Sプロモーターを挿入することができる。処理を行った後の茎切片を植物ホルモンを含むMS培地(ゼアチン 2ppm,インドール-3-酢酸 0.05ppm及び寒天0.8%を含む)、25℃にて、16時間照明(光量子束密度32μE/m2s)/8時間無照明の条件下で週間ごとに継代することで、再分化した個体を得ることができる。再分化した個体からDNAを抽出しCaMV由来の35Sプロモーターを挿入した個体を選抜する。CaMV由来の35Sプロモーターが挿入された個体は、内在性のSt23DOX遺伝子の発現量を上げることができ、レプチニンを産生することができる。この植物体の茎を、同様にSt23ACT遺伝子の開始コドンの部位を含む20塩基を認識するgRNAと、Cas9タンパク質と、St23ACT遺伝子のプロモーター、CaMV由来の35Sプロモーター、St23ACT遺伝子を連結したDNAとを、エレクトロポレーション法により茎切片にある細胞内に導入する。その結果、内在性のSt23DOX遺伝子の発現量及び内在性のSt23ACT遺伝子の発現量を上げることができ、レプチンを産生することが可能となる。
【0068】
また、内在性23DOX遺伝子及び/又は内在性23ACT遺伝子の発現を活性化する因子(転写活性化因子)をコードするDNAを導入することによっても、当該内在性遺伝子の発現を増強することができる。さらに、内在性23DOX遺伝子及び/又は内在性23ACT遺伝子の発現を抑制する因子(転写抑制因子)をコードするDNAをゲノム編集等で破壊することによっても、当該内在性遺伝子の発現を増強することができる。なお、当業者であれば、文献等の記載に基づき、グリコアルカロイド生合成遺伝子群の転写制御因子を適宜選択し、それらを対象とすることによって、内在性23DOX遺伝子及び/又は内在性23ACT遺伝子の発現を増強することができる。例えば、当業者であれば、グリコアルカロイド生合成遺伝子群の転写因子として知られているJRE4(Thagunら Plant Cell Physiol. 2016 57:961-75 参照)を対象とすることによって、前記内在性遺伝子の発現を容易に増強することができる。
【0069】
<本発明の植物、及びその製造方法について 1>
本発明は、前記植物細胞から再生された植物体を提供する。植物細胞からの植物体の再生は、その細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、「植物細胞培養マニュアル」山田康之 編著、講談社サイエンティフィク、1984、「形質転換プロトコール[植物編]」、田部井豊 編、株式会社化学同人、2012年9月20日出版等に記載の方法に従って、形質転換植物細胞から植物体を再生することができる。
【0070】
一旦、ゲノム内に本発明のDNAが導入された形質転換植物や前記内在性DNAの発現が増強された植物が得られれば、これら植物から有性生殖又は無性生殖により子孫を得ることが可能である。よって、本発明の植物には、再分化した当代である「T0世代」の他、その植物の自殖や他殖の種子から得られた後代等、T0世代を元にした、あらゆる栽培や育種の手段により得られ得る世代や個体をも包含する。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。したがって、本発明には、本発明の植物細胞、該細胞を含む植物、該植物の子孫及びクローン、並びに該植物、その子孫、及びクローンの繁殖材料が含まれる。
【0071】
また、本発明は、本発明の23DOXをコードするDNA及び本発明の23ACTをコードするDNAを、植物細胞に導入する工程、及び前記工程においてDNAが導入された形質転換植物細胞から植物を再生する工程を含むことを特徴とする、CPBに対する抵抗性が高められた植物の製造方法をも提供するものである。
【0072】
なお、このようにして得られる、本発明のDNAを導入した形質転換植物、及びその次世代等において、当該DNAが組み込まれていることの確認は、これらの細胞及び組織から常法に従ってDNAを抽出し、公知の手法(例えば、PCR法、サザンブロット法)を用いて導入した本発明のDNAを検出することにより行うことができる。
【0073】
また、本発明は、植物細胞において、本発明の23DOXをコードする内在性DNA及び本発明の23ACTをコードする内在性DNAの発現を増強する工程、及び前記工程において前記内在性DNAの発現が増強された植物細胞から植物を再生する工程を含むことを特徴とする、CPBに対する抵抗性が高められた植物の製造方法をも提供するものである。
【0074】
なお、このようにして得られる、内在性DNAの発現が増強された植物、及びその次世代等において、当該DNAの発現が増強されていることの確認は、これらの細胞及び組織から常法に従ってmRNA又はタンパク質を抽出し、公知の手法(例えば、RT-PCR法、ノーザンブロット法、ELISA法、ウエスタンブロット法)を用い、本発明のDNAの発現を、当該DNAがコードするmRNA又はタンパク質の発現の検出を通して行うことができる。
【0075】
また、このようにして得られる、本発明の植物において、CPBに対する抵抗性が高められているかどうかの確認は、例えば、当該植物について、CPBを用い、圃場での成虫数と食害数の調査、円盤状に切った葉上での成虫の摂食速度調査、切り離した地上部での幼虫生育や幼虫生存率の調査(非特許文献4 参照)を行い、その結果を、コントロール(例えば、本発明のDNAが導入されていない植物、本発明の内在性DNAの発現が増強されていない植物(例えば、野生型))のそれと比較することにより、CPBへの抵抗性が高められたことを確認することができる。
【0076】
また、上述のとおり、CPBへの抵抗性は、レプチンの蓄積量に応じる。したがって、上記液体クロマトグラフィーを用いたグリコアルカロイドの分析方法により、レプチン量を測定し、当該量がコントロールのそれより多ければ、CPBへの抵抗性は高められたと確認することもできる。
【0077】
<本発明の判定方法について>
本発明の、植物におけるCPBに対する抵抗性を判定する方法は、被検植物における、本発明の23DOXをコードするDNAと本発明の23ACTをコードするDNAとの存在若しくは発現を検出する工程、及び前記工程にて、前記DNAの存在又は発現が検出された場合に、前記被検植物は、CPBに対する抵抗性を有すると判定することを特徴とする。
【0078】
本発明のDNAの「存在」の検出は、被検植物における当該DNA、又はそれらの発現制御領域のヌクレオチド配列を解析することを特徴とする。なお、検出対象となる「本発明の23DOXをコードするDNA」及び「本発明の23ACTをコードするDNA」は、上述のとおりである。
【0079】
例えば、本発明の23DOXをコードするDNAと本発明の23ACTをコードするDNAが被検植物のゲノムDNA上に存在していなければ、当該植物はCPB抵抗性を有していないものと判定することができる。また、23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子が存在していても、これら遺伝子において、ヌクレオチドの挿入や欠失が認められれば、CPB抵抗性が低減又は消失していることとなる。したがって、本発明の23DOXをコードするDNA及び本発明の23ACTのヌクレオチド配列を解析することによって、CPB抵抗性を有しているか否かを判定することができる。
【0080】
また、23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子の発現を制御する領域(エンハンサー、プロモーター、サイレンサー、インスレーター)のヌクレオチド配列を解析することによって、CPB抵抗性を有しているか否かを判定することもできる。
【0081】
23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子、又はそれらの発現制御領域のヌクレオチド配列の解析に際しては、それら配列をPCRにより増幅した増幅産物を用いることができる。前記PCRを実施する場合において、用いられるプライマーは、前記遺伝子又はそれらの発現制御領域を、各々特異的に増幅できるものである限り制限はなく、それらの配列情報に基づいて適宜設計することができる。
【0082】
なお、CPB抵抗性を有しているか否かを判定する方法においては、例えば、「対照のヌクレオチド配列」と比較する工程を含むことができる。被検植物における23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子のヌクレオチド配列と比較する「対照のヌクレオチド配列」は、例えば、Sl23DOX、Sl23ACT、St23DOX、St23ACT、Sc23DOX及びSc23ACTを各々コードするヌクレオチド配列が挙げられる。
【0083】
検出した被検植物における前記遺伝子又はそれらの発現制御領域のヌクレオチド配列と、前記対照のヌクレオチド配列とを比較することにより、被検植物においてCPB抵抗性を有しているか否かを判定することができる。例えば、前記対照のヌクレオチド配列と比較して、ヌクレオチド配列において大きな相違がある場合(特に、新たな終止コドンの出現やフレームシフトにより、コードするタンパク質の分子量やアミノ酸配列に大きな変化が生じる場合)、被検植物はCPB抵抗性を有していない植物である蓋然性が高いと判定される。
【0084】
一方、後述の実施例において示すとおり、S.tuberosumにおいて、St23DOX遺伝子及びSt23ACT遺伝子を有しているものの、それら遺伝子の発現量が少ないため、CPB抵抗性が発揮されない。したがって、被検植物における23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子の各発現制御領域と比較する場合には、Sl23DOX遺伝子、Sl23ACT遺伝子、Sc23DOX遺伝子及びSc23ACT遺伝子の各発現制御領域は、陽性の対照ヌクレオチド配列として用いられ、St23DOX遺伝子及びSt23ACT遺伝子の各発現制御領域は、陰性の対照ヌクレオチド配列として用いられる。
【0085】
すなわち、検出した被検植物における発現制御領域のヌクレオチド配列が、Sl23DOX遺伝子、Sl23ACT遺伝子、Sc23DOX遺伝子及びSc23ACT遺伝子の各発現制御領域と高い同一性(例えば、90%以上の同一性、好ましくは95%以上(96%以上、97%以上、98%以上、99%以上。100%の同一性)を有する場合には、被検植物はCPB抵抗性を有している植物である蓋然性が高いと判定され、一方、St23DOX遺伝子及びSt23ACT遺伝子の各発現制御領域と高い同一性(例えば、90%以上の同一性、好ましくは95%以上(96%以上、97%以上、98%以上、99%以上。100%の同一性)を有する場合には、被検植物はCPB抵抗性を有している植物である蓋然性が低いと判定される。
【0086】
なお、前述のとおり、23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子を有していても、それらの発現量が低いため、CPB抵抗性を発揮できない植物もある。したがって、前記23DOX及び23ACTをコードするヌクレオチド配列を指標とする判定結果と、前記23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子の発現制御領域のヌクレオチド配列を指標とする判定結果とを、組み合わせて、被検植物がCPB抵抗性を有しているか否かを判定することが望ましい。
【0087】
また、本発明のDNAの「存在」の検出は、本発明のDNAの存在位置の目印となるDNA配列からなるDNAマーカーを検出することによっても行なうことができる。かかるDNAマーカーは、23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子内に各々存在するか、これら遺伝子に各々隣接するか、あるいは近傍に存在するDNAマーカーを用いればよい。
【0088】
本発明において利用可能なDNAマーカーは、特に制限されず、一般的に知られている種々のDNAマーカーを好適に用いることができる。例えば、SSR(単純反復配列)マーカー等のマイクロサテライトマーカー、RFLP(制限酵素断片長多型)マーカー、SNP(一塩基多型)マーカーが挙げられる。
【0089】
なお、本発明の判定方法における、被検植物からのDNAの調製は、常法、例えば、CTAB法を用いて行うことができる。DNAを調製するための植物としては、成長した植物体のみならず、種子、幼植物体、塊茎を用いることもできる。また、ヌクレオチド配列の決定は、常法、例えば、ジデオキシ法やマキサム-ギルバート法などにより行なうことができる。塩基配列の決定においては、市販のシークエンスキット及びシークエンサーを利用することができる。
【0090】
被検植物における23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子、又はそれらの発現制御領域のヌクレオチド配列が、対照のヌクレオチド配列と相違するか否かは、上記した直接的なヌクレオチド配列の決定以外に、種々の方法により間接的に解析することができる。このような方法としては、例えば、サザンブロッティング、PCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造多型)法、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用したRFLP法やPCR-RFLP法、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(denaturant gradient gel electrophoresis:DGGE)、アレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法が挙げられる。
【0091】
また、本発明の判定方法においては、被験植物における、本発明の23DOXをコードするDNA及び本発明の23ACTをコードするDNAの発現を検出することを特徴とするものである。
【0092】
ここで「DNAの発現の検出」には、転写レベルにおける検出及び翻訳レベルにおける検出の双方を含む意である。さらに、「発現の検出」には、発現の有無の検出のみならず、発現の程度の検出も含む意であり、またDNAの発現産物の分子量を検出することも含む意でもある。
【0093】
本発明のDNAの転写レベルにおける検出は、常法、例えば、RT-PCR(Reverse transcribed-Polymerase chain reaction)法やノーザンブロッティング法により実施することができる。前記PCRを実施する場合において用いられるプライマーは、本発明のDNAを特異的に増幅できるものである限り制限はなく、当該DNAのヌクレオチド配列に基づいて適宜設計することができる。
【0094】
一方、翻訳レベルにおける検出は、常法、例えば、ウェスタンブロッティング法やELISA法により、実施することができる。ウェスタンブロッティングに用いる抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよく、これら抗体の調製方法は、当業者に周知である。
【0095】
前記発現を検出した結果、被験植物において、本発明のDNAの発現量が、CPB抵抗性植物(例えば、S.chacoense)のそれよりも有意に低ければ、またはCPB非抵抗性植物(例えば、S.tuberosum)のそれよりも低い又は同等である場合には(例えば、本発明のDNAが実質的に発現していなければ)、または本発明のDNAの発現産物の分子量がCPB抵抗性植物における分子量と有意に異なれば、被験植物はCPB抵抗性を有していない、又は低いと判定される。
【0096】
<本発明の植物、及びその製造方法について 2>
本発明は、前記判定方法を利用した、CPBに対する抵抗性を有する植物を製造する方法を提供する。
【0097】
かかる製造方法として、CPBに対する抵抗性を有する植物と任意の植物とを交配させる工程と、前記工程における交配により得られた植物において、CPBに対する抵抗性を、前述の方法により判定する工程と、CPBに対する抵抗性を有すると判定された植物を選抜する工程と
を、含む方法が、挙げられ、
また、本発明の23DOXをコードするDNAを有する植物と、本発明の23ACTをコードするDNAを有する植物とを交配させる工程と、
前記工程における交配により得られた植物において、CPBに対する抵抗性を、前述の方法により判定する工程と、
CPBに対する抵抗性を有すると判定された植物を選抜する工程と
を、含む方法が、挙げられる。
【0098】
「CPBに対する抵抗性を有する植物」としては、当該抵抗性又はレプチン生合成能を有している限り、特に制限はなく、例えば、S.chacoenseが挙げられる。
【0099】
前記品種と交配させる「任意の植物」としては、例えば、CPBに対する抵抗性を有していない品種、CPBに対する抵抗性を有する植物品種とCPBに対する抵抗性を有していない品種との交配により得られた植物が挙げられるが、これらに制限されない。また、「任意の植物」としては、CPBに対する抵抗性以外の他の特性を有しているものであってもよい。「他の特性」としては特に制限はなく、例えば、CPB以外の害虫に対する抵抗性、各種病害に対する抵抗性、多収性、早生性が挙げられる。
【0100】
「本発明の23DOXをコードするDNAを有する植物」としては、23DOXをコードするDNAを少なくとも有していればよく、例えば、Sc23DOXをコードするDNAを少なくとも有する植物:S.chacoenseが挙げられる。「本発明の23ACTをコードするDNAを有する植物」としては、23DOXをコードするDNAを少なくとも有していればよく、例えば、Sc23ACTをコードするDNAを少なくとも有する植物:S.chacoense、S.tuberosum(コナフブキ、97H32-6及び西海35号、サクラフブキ、パールスターチ等)が挙げられる。
【0101】
また、本発明の製造方法を利用すれば、CPB抵抗性植物を、幼植物の段階等で選抜することが可能となり、当該形質を有する品種の育成を、短期間で行うことが可能となる。したがって、本発明は、CPBに対する抵抗性を有する植物を育種する方法を提供するものでもある。
【0102】
かかる方法において、CPB抵抗性品種と任意の植物品種(植物系統)とを交雑し、または、本発明の23DOXをコードするDNAを有する植物と、本発明の23ACTをコードするDNAを有する植物とを交雑し、上述のとおり、本発明のDNAの存在又は発現を指標として選抜することにより、育種することができる。より具体的な選抜育種方法として、例えば、任意の植物品種(例えば、S.tuberosum)と本発明のDNAを有する植物品種(例えば、S.chacoense)を交雑させ雑種を得て、得られた雑種と前記任意の植物品種を戻し交雑し、本発明のDNAを有する雑種を選抜し、さらに戻し交雑を行う方法が挙げられる。戻し交雑及び選抜は、数回、好ましくは2~10回繰り返す行うことが好ましい。このような方法により、本発明のDNAを有する実用品種を得ることができる。
【0103】
本発明は、またこのようにして作出された、CPBに対する抵抗性を有する植物をも提供する。当該植物において、少なくとも本発明のDNAを有していれば特に制限はないが、全染色体における前記任意の植物品種における置換率が50%以上(例えば、60%以上)であることが好ましく、70%以上(例えば、80%以上)であることがより好ましく、90%以上(例えば、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)であることがさらに好ましい。なお、置換率は、ゲノム全域に存在するDNAマーカーを解析し、前記任意の植物品種における割合を算出することにより、得ることができる。また、DNAマーカー選抜による育種は、例えば、Hamwieh et al.(2011)Euphytica,179:451-459の記載に沿って行うことができる。
【0104】
<本発明の判定方法に用いられるキットについて>
上述のとおり、本発明の23DOXをコードするDNA及び23ACTをコードするDNAを検出することによって、植物におけるCPBに対する抵抗性の有無を判定することができる。したがって、本発明は、上述の判定方法により、植物におけるCPBに対する抵抗性を判定するための薬剤であって、下記(a)~(d)から選択される少なくとも1の化合物を含む薬剤
(a)本発明の23DOXをコードする遺伝子、その転写産物又はその相補的ヌクレオチドにハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオド
(b)本発明の23ACTをコードする遺伝子、その転写産物又はその相補的ヌクレオチドにハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオド
(c)本発明の23DOXに結合する抗体
(d)本発明の23ACTに結合する抗体。
【0105】
本発明に係るオリゴヌクレオドは、上記検出方法に合わせ、プライマーの態様であってもよく、プローブの態様であってもよい。
【0106】
プライマーは、本発明の23DOXをコードする遺伝子又は本発明の23ACTをコードする遺伝子(ゲノムDNA)、その転写産物(mRNA)又はその相補的ヌクレオチド(cDNA、cRNA)にハイブリダイズし、該転写産物等の増幅及び検出を可能とする限り特に限定されない。プライマーは、DNAのみであってもよく、またその一部又は全部において、架橋化核酸等の人工核酸(修飾核酸)によって置換されているものであってもよい。プライマーのサイズは、少なくとも約15ヌクレオチド長以上あればよく、好ましくは15~100ヌクレオチド長、より好ましくは18~50ヌクレオチド長、さらに好ましくは20~40ヌクレオチド長である。また、このようなプライマーは、上記検出方法に合わせ、当業者であれば公知の方法により設計し、作製することができる。
【0107】
プローブは、本発明の23DOXをコードする遺伝子又は本発明の23ACTをコードする遺伝子、その転写産物又はその相補的ヌクレオチドにハイブリダイズし、それらの検出を可能とする限り特に限定されない。プローブはDNA、RNA、人工核酸又はそれらのキメラ分子等であり得る。プローブは、1本鎖又は2本鎖のいずれでもよい。プローブのサイズは、少なくとも約15ヌクレオチド長以上あればよく、好ましくは15~1000ヌクレオチド長、より好ましくは20~500ヌクレオチド長、さらに好ましくは30~300ヌクレオチド長である。このようなプローブは、当業者であれば公知の方法により作製することができる。また、プローブは、マイクロアレイのように、基板上に固定された形態で提供されてもよい。
【0108】
抗体は、本発明の23DOX又は23ACTに特異的に結合し得る限り特に限定されない。例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよく、また抗体の機能的断片(Fab、Fab’、scFv等)であってもよい。このような抗体は、当業者であれば公知の方法により作製することができる。また、抗体は、ELISA法や抗体アレイ等に用いるべく、プレート等の基板上に固定された形態で提供されてもよい。
【0109】
また、本発明のキットに含まれるオリゴヌクレオチド又は抗体は、検出方法に合わせ、標識用物質で標識されていてもよい。標識用物質としては、例えば、FITC、FAM、DEAC、R6G、TexRed、Cy5等の蛍光物質、β-D-グルコシダ―ゼ、ルシフェラーゼ、HRP等の酵素、3H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質が挙げられる。
【0110】
また、前記オリゴヌクレオチド又は抗体は、組成物として許容される他の成分を含む態様であってもよい。このような他の成分としては、例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩、二次抗体等が挙げられる。
【0111】
また、本発明のキットは、上記オリゴヌクレオチド、抗体の他、標識の検出に必要な基質、陽性対照や陰性対照、あるいは試料の希釈や洗浄に用いる緩衝液等を組み合わせてもよい。さらに、かかるキットには、当該キットの使用説明書を含めることができる。
【0112】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の植物細胞、植物、及びその製造方法、並びに本発明の判定方法、及び当該判定方法を用いた植物の製造方法は、本発明の組成物同様に、CPBに対する抵抗性のみならず、レプチンの生成等も対象とすることができる。すなわち、本発明は、以下の態様も提供することができる。
<12> 下記(a)~(h)からなる群から選択される少なくとも一のDNAが導入された、レプチンの蓄積量が高められた植物体を再生しうる植物細胞
(a)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードするDNA
(c)配列番号:2、4又は6に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質を、コードするDNA
(d)配列番号:1、3又は5に記載のヌクレオチド配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつスピロソラン骨格の23位を水酸化する活性を有するタンパク質をコードする、DNA
(e)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードするDNA
(g)配列番号:8、10又は12に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質を、コードするDNA
(h)配列番号:7、9又は11に記載のヌクレオチド配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつスピロソラン骨格23位の水酸基をアセチル化する活性を有するタンパク質をコードする、DNA。
<13> 前記(a)~(h)からなる群から選択される少なくとも一の内在性DNAの発現が増強された、レプチンの蓄積量が高められた植物体を再生しうる植物細胞。
<14> <12>又は<13>に記載の植物細胞から再生された、レプチンの蓄積量が高められた植物。
<15> レプチンの蓄積量が高められた植物の製造方法であって、
前記(a)~(h)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを、植物細胞に導入する工程、及び
前記工程においてDNAが導入された形質転換植物細胞から植物を再生する工程
を含む方法。
<16> 植物におけるレプチンの生成能を判定する方法であって、
被検植物における、
前記(a)~(d)からなる群から選択される少なくとも一のDNAと前記(e)~(h)からなる群から選択される少なくとも一のDNAとの存在若しくは発現を検出する工程、及び
前記工程にて、前記DNAの存在又は発現が検出された場合に、前記被検植物は、レプチンの生成能を有すると判定する工程
を、含む方法。
<17> レプチンの生成能を有する植物を製造する方法であって、
レプチンの生成能を有する植物と任意の植物とを交配させる工程と、
前記工程における交配により得られた個体において、レプチンの生成能を、<16>に記載の方法により判定する工程と、
レプチンの生成能を有すると判定された植物を選抜する工程と
を、含む方法。
<18> レプチンの生成能を有する植物を製造する方法であって、
前記(a)~(d)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを有する植物と、前記(e)~(h)からなる群から選択される少なくとも一のDNAを有する植物とを交配させる工程と、
前記工程における交配により得られた植物において、レプチンの生成能を、<16>に記載の方法により判定する工程と、
レプチンの生成能を有すると判定された植物を選抜する工程と
を、含む方法。
【0113】
また、上述のとおり、本発明によれば、レプチンの生成能を有する植物を得ることができる。よって、本発明は、CPBのみならず、レプチンによって摂食が抑制される生物、レプチンを忌避する生物、レプチンによって成育が抑制される生物、レプチンによって殺される生物等を対象とすることもできる。
【0114】
なお、本明細書で引用した全ての文献は、そのまま参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0116】
野生種のジャガイモ S.chacoenseは、レプチン(レプチンI、レプチンII)を蓄積することにより、CPBに対する抵抗性を発揮することが明らかになっている。さらに、これらレプチンの蓄積は、
図1の下段に示すとおり、ソラニダン(α-チャコニン、α-ソラニン)の23位が水酸化されることにより、レプチニンI、レプチニンIIが生成され、更にこれら化合物23位の水酸基がアセチル化されることによって、生じていると想定されている(非特許文献5 参照)。しかしながら、レプチン生成を担い、ひいてはS.chacoenseにCPB抵抗性を付与する遺伝子は、同定されていない。
【0117】
そこで、かかる遺伝子を同定すべく、本発明者らは、同じナス科植物であるトマト(S.lycopersicum)における、スピロソラン配糖体(α-トマチン)の代謝過程(
図1の上段)に着目した。そして、S.chacoenseにおけるレプチン生成においては、このトマトにおけるスピロソラン配糖体の代謝過程同様に、23位水酸化酵素(「23DOX」とも称する)及び23位アセチル基転移酵素(「23ACT」とも称する)が関与していると想定し、S.chacoenseにおけるこれら酵素をコードする遺伝子の同定を、以下に示す方法にて試みた。なお、トマトにおいてもこれら酵素をコードする遺伝子の配列は明らかになっていない。そのため、先ずはその配列を同定することから始めた。
【0118】
(実施例1) 23DOX遺伝子の取得
トマトにおいて、前記スピロソラン配糖体の代謝(トマチンからエスクレオサイドAの生成)は、果実の成熟過程において生じることが明らかになっている。そこで、トマトの果実において発現する水酸化酵素(ジオキシゲナーゼ)をコードする遺伝子の同定を試みた。
【0119】
具体的には先ず、矮性トマト品種 マイクロトムの果実からRNA抽出用キット(製品名:RNeasy、キアゲン社製)を用いてRNAを抽出し、リアルタイムPCR用cDNA合成キット(製品名;ReverTra Ace(登録商標) qPCR RT Kit、東洋紡社製)を使ってcDNAを作成した。
【0120】
一方、トマトの発現データベース(Sol Genomics Network:https://solgenomics.net/)で果実に特異的に発現しているジオキシゲナーゼの構造を持つタンパク質をコードする配列(Solyc02g062460)を見出した。
【0121】
そして、前記トマト果実のcDNAを鋳型とし、前記配列を基に合成したプライマーGGATCCATGGCATCTATCAAATCAG(配列番号:13)、CTCGAGTCAAAATACCACAATAAATCTTG(配列番号:14)を用いて、アニール温度55℃にてPCR(30サイクル、タカラバイオ社製 Ex taq HSを使用)を行い、遺伝子を増幅した。これをpMD19ベクター(タカラ社製)へクローニングして、遺伝子断片を取得し全長配列を決定した(この遺伝子がコードするタンパク質を「Sl23DOX」とも称する。また、このアミノ酸配列を配列番号:6に示す)。
【0122】
次に、レプチンを発現しているS.chacoense PI 458310(USDA Potato Genbankより入手した種子を播種)の葉からRNeasy(キアゲン社製)を用いてRNAを抽出し、ReverTra Ace qPCR RT Kit(東洋紡社製)を使ってcDNAを調製した。S.chacoenseのヌクレオチド配列については網羅的な解析が進められていないこともあり、大概の配列は不明であったため、前記Sl23DOX遺伝子の配列をもとに作成したディジェネレートプライマーCTWAAACCAAACACTYCAYWATGGGAAT(配列番号:15)、GGGTGTTYWTCATCYACWARTTCTTTTGG(配列番号:16)を用い、アニール温度55℃にてPCR(30サイクル、東洋紡社製 KOD FX Neoを使用)を行った。得られたPCR増幅産物をpCR4Blunt-TOPOベクター(サーモフィッシャー社製)へクローニングして遺伝子断片を取得し、部分配列を決定した。
【0123】
次いで、cDNA断片の全長ORF配列を決定するためにRACE法を行なった。より具体的には、先ず、SMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社製)を用い、そのキットのプロトコルに従って、S.chacoenseのRNAからRACE用cDNAの合成を行った。次に、このRACE用cDNAを鋳型とし、5’-RACEにおいては、キットに添付のユニバーサルプライマーと遺伝子特異的プライマー TGGTGATTACCCTGAGGCCAAAAGA(配列番号:17)を用い、3’-RACEにおいては、遺伝子特異的プライマー GGTCGATTGCATTCTCCTGTCCAC(配列番号:18)とキットに添付のユニバーサルプライマーを用い、アニール温度58℃にて、各々についてPCR(35サイクル、タカラバイオ社製 Ex Taq HSを使用)を行った。
【0124】
そして、増幅した遺伝子を、pMD19ベクター(タカラ社製)へクローニングして、遺伝子断片のシークエンス解析を行った。その結果5’-RACEにより得られた断片には開始コドンと予想される配列が見出され、3’-RACEによって得られた断片には終止コドンが見出された。
【0125】
次に、S.chacoenseのcDNAに対し、得られたRACE断片の塩基配列を元に作成したプライマー CATATGGCATCTACCAAATCAGTTAAAGT(配列番号:19)及びGTCGACTCAAACACCGCAATAAGTCTTGA(配列番号:20)を用い、アニール温度55℃にてPCR(35サイクル、タカラバイオ社製 PrimeSTAR HSを使用)を行った。得られたPCR増幅産物をpCR4Blunt-TOPOベクター(Thermo Fisher社製)へクローニングして、遺伝子断片を取得し、全長配列を決定した(決定した配列がコードするアミノ酸配列を配列番号:2に示す。また当該遺伝子がコードするタンパク質を、以下「Sc23DOX」とも称する)。なお、Sl23DOXとSc23DOXのアミノ酸レベルの配列同一性は87%であった。
【0126】
(実施例2) 23ACT遺伝子の取得
上記水酸化酵素同様に、トマトの果実において発現するアセチル基転移酵素をコードする遺伝子の同定を試みた。具体的には先ず、トマトの発現データベース(Sol Genomics Network:https://solgenomics.net/)で果実で発現しているアセチル基転移酵素の構造を持つタンパク質をコードする配列(Solyc08g075210)を見出した。トマト果実のcDNAに対し、この配列を基に合成したプライマー GGATCCCATATGACAGCATCAAGTTTTGTATCTATG(配列番号:21)及びGTCGACCTAGAGATTCGTAACTGGAGAAGC(配列番号:22)を用いて、アニール温度55℃にてPCR(40サイクル、タカラバイオ社製 PrimeStar HSを使用)を行い、遺伝子を増幅した。これをpCR4Blunt-TOPOベクター(サーモフィッシャー社製)へクローニングして、遺伝子断片を取得し、全長配列を決定した(以下、この遺伝子がコードするタンパク質を「Sl23ACT」とも称する。また、このアミノ酸配列を配列番号:12に示す)。
【0127】
次に、S.chacoenseの葉から抽出したRNAを、次世代シークエンサーを用いて網羅的に解読し、EST(expressed sequence tag)データベースを作成した。このESTデータベースにて、Sl23DOXをクエリ配列としてblastを行い、アセチル基転移酵素をコードすると思われる遺伝子の3’側断片を見出した。
【0128】
次に、当該遺伝子の5’側断片を得、ひいては全長ORF配列を決定するために、RACE法を行なった。RACE法はSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社製)を用いて行った。より具体的には、キットのプロトコルに従い、S.chacoenseのRNAからRACE用cDNAの合成を行った。さらに、このRACE用cDNAを鋳型とし、キットに添付のユニバーサルプライマーと遺伝子特異的プライマーTGCCATCCACTGGCATTCACATGG(配列番号:23)を用い、アニール温度58℃にてPCR(35サイクル、タカラバイオ社製 Ex Taq HSを使用)を行い、遺伝子を増幅した。次いで、得られた増幅産物をpMD19ベクター(タカラ社製)へクローニングして、遺伝子断片のシークエンス解析を行った。その結果、5’-RACEにより得られた断片には開始コドンと予想される配列が見出された。
【0129】
そして、アセチル基転移酵素をコードすると思われる遺伝子の全長ORF配列を決定すべく、S.chacoenseのcDNAを鋳型とし、前記各断片の塩基配列を元に作製したプライマー CATATGGCAGCATCAAGTTGTGTAT(配列番号:24)及びGTCGACTTAATTAAGATTAGTAATTGGAGAAGA(配列番号:25)を用い、アニール温度55℃にてPCR(30サイクル、タカラバイオ社製 PrimeStarを使用)を行い、遺伝子を増幅した。得られたPCR産物を、pENTR/D-TOPOベクター(サーモフィッシャー社製)へクローニングして、遺伝子断片を取得し、全長配列を決定した(Sc23ACT。そのアミノ酸配列を、配列番号:8に示す)。なお、Sl23ACTとSc23ACTのアミノ酸の同一相同性は80%であった。
【0130】
(実施例3) 23DOXのin vitroでの酵素活性の検出
実施例1にて同定した遺伝子がコードするタンパク質が、想定したように、α-トマチン又はα-ソラニンを基質として、これら化合物の23位に水酸基を導入できるかどうかを、以下に示す方法にて検証した。
【0131】
先ず、23DOXを大腸菌において合成すべく、Sl23DOX遺伝子及びSc23DOX遺伝子をpCold ProS2ベクター(タカラバイオ社製)にそれぞれつなぎ、大腸菌BL21(DE3)に導入した。得られた組み換え大腸菌を37℃でOD600値が0.5になるまで培養し、15℃に冷却し30分間放置した。終濃度が0.1mMとなるようにIPTGを加えて、15℃で24時間浸とう培養し、組み換えタンパク質の発現を誘導した。
【0132】
次に、発現誘導を行った大腸菌体を回収し、ソニケーションバッファー[50mM Bis-Tris-HCl(pH7.0)、150mM NaCl、1mM ジチオトレイトール、10% グリセロール]に懸濁し、超音波破砕機で菌体を破砕した後、遠心分離を行い、上清から粗抽出画分を得た。これに、50μM 基質を含む100mM Bis-Tris-HCl溶液(pH7.2,5mM 2-オキソグルタル酸,10mM アスコルビン酸ナトリウム及び200μM FeSO4含有)を加え、反応をさせた。
【0133】
得られた反応産物を、LC-MS(ウォーターズ社製、製品名:UPLC-ESI-MS ACQUITY)を用い分析した。なお、カラムはACQUITY HSS T3 1.8μm φ2.1×100mm(ウォーターズ社製)を用いた。LC分析において、移動相A:0.1% ギ酸水、B:アセトニトリルでグラジエント溶出を行った。グラジエント溶出は、0-3分,90% A/10% Bで保持後、3-33分,90% A/10% Bから57.5% A/42.5% B、33-38分, 57.5% A/42.5% Bから0% A/100% B、38-43分,100% Bで保持することによって行なった。
【0134】
その結果、
図2及び3に示すとおり、α-トマチンを基質にした場合に、S.lycopersicum由来のもの(Sl23DOX)のみならず、S.chacoense由来の23DOX(Sc23DOX)についても、23位に水酸基が導入された産物が得られることが明らかになった。
【0135】
しかしながら、図には示していないが、α-ソラニンを基質にした場合には、Sl23DOX及びSc23DOXの双方において、新たな反応生成物を得ることはできなかった。
【0136】
(実施例4) 23ACTのin vitroでの酵素活性の検出
実施例2にて同定した遺伝子がコードするタンパク質が、想定したように、23ヒドロキシ-トマチン、又はレプチニンI又はレプチニンIIを基質として、これら化合物23位の水酸基をアセチル化できるかどうかを、以下に示す方法にて検証した。
【0137】
先ず、23ACTをin vitroにて合成すべく、Sl23ACT遺伝子及びSc23ACT遺伝子をpCold ProS2(タカラバイオ社製)にそれぞれつなぎ、大腸菌BL21(DE3)に導入した。得られた組み換え大腸菌を37℃でOD600値が0.5になるまで培養し、15℃に冷却し30分間放置した。終濃度が0.1mMとなるようにIPTGを加えて、15℃で24時間振とう培養し、組み換えタンパク質の発現を誘導した。発現誘導を行った大腸菌体を回収し、ソニケーションバッファー[50mM Bis-Tris-HCl(pH7.0)、150mM NaCl、1mM ジチオトレイトール、10% グリセロール]に懸濁し、超音波破砕機で菌体を破砕した後、遠心分離を行い、上清から粗抽出画分を得た。これに、50μMの基質を含む100mM Bis-Tris-HCl溶液(pH7.2、400μM アセチルCoA含有)を加え、反応させた。
【0138】
得られた反応産物を、LC-MS(ウォーターズ社製、製品名:UPLC-ESI-MS ACQUITY)を用い分析した。なお、カラムはACQUITY HSS T3 1.8μm φ2.1×100mm(ウォーターズ社製)を用いた。LC分析において、移動相A:0.1% ギ酸水、B:アセトニトリルでグラジエント溶出を行った。グラジエント溶出は、0-30分, 90% A/10% Bから45% A/55% B、30-31分, 45% A/55% Bから100% B、31-35分,100% Bで保持することによって行なった。
【0139】
その結果、
図4及び5に示すとおり、23ヒドロキシトマチンを基質にした場合に、Sl23ACT又はSc23ACTの存在下では、23位にアセトキシ基が導入された産物を得られることが明らかになった。
【0140】
一方、図には示していないが、レプチニンIやレプチニンIIを基質にした場合には、Sl23ACT及びSc23ACTのいずれにおいても、新たな反応生成物を得ることはできなかった。
【0141】
以上のとおり、今回同定した遺伝子がコードする、トマト及びS.chacoenseの23DOX及び23ACTは、α-トマチン(スピロソラン骨格)23位における水酸化反応及びアセチル化反応を触媒することが明らかになった。その一方で、従前想定されていたα-ソラニン(ソラニダン骨格)からレプチンに至る反応過程において、これら酵素の関与は認められなかった。すなわち、23DOX及び23ACTは、スピロソラン骨格を有する化合物特異的に作用する酵素であることが示唆された。
【0142】
(実施例5) 23DOX遺伝子を導入したジャガイモにおける、ステロイドグリコアルカロイドの解析
次に、S.chacoense由来の23DOX遺伝子を導入した形質転換ジャガイモを作製し、この形質転換体において、レプチニンI及びレプチニンIIが生成されるかどうかを、以下に示す方法にて検証した。
【0143】
先ず、Sc23DOX遺伝子をpRI201ベクター(タカラバイオ社製)につなぎ、pRI201_Sc23DOXベクターを作成した(
図6の上部 参照)。これをアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA105株に導入した。ベクターを含むアグロバクテリウム・ツメファシエンスを、50ppmのカナマイシンを含むYEB液体培地[5g/lビ-フエキス、1g/l酵母エキス、5g/lペプトン、5g/l蔗糖、2mM硫酸マグネシウム(pH7.2)]にて28℃、12時間振とう培養した。培養液1.5mlを10,000rpmで3分間遠心して集菌後、1.5mlの3%蔗糖を含むMS培地[Murashige&Skoog,Physiol.Plant.,15,473-497(1962)参照]に再懸濁し、感染用菌液とした。
【0144】
試験管内で培養したジャガイモ(Solanum tuberosum)品種「サッシー」の節を含まない3-5mmに切断した茎をアグロバクテリウム感染用の材料とした。これを上記のアグロバクテリウムの菌液に浸した後、滅菌済みの濾紙上に置いて過剰のアグロバクテリウムを除去した。これをシャーレ内の植物ホルモンを含むMS培地(アセトシリンゴン 100μM、ゼアチン 2ppm、インドール-3-酢酸 0.05ppm及び寒天 0.8%を含む)上に置き、3日間培養した。培養は、25℃にて、16時間照明(光量子束密度32μE/m2s)/8時間無照明の条件下で行った。次いで、アセトシリンゴンの代わりにカルベニシリン250ppmを含んだ培地で2週間ごとに継代した。再分化した個体を得ることができた。
【0145】
得られた再分化個体(#9)の葉約100mgを液体窒素で凍結させ、ミキサーミルで破砕した(1/30sec,2min)。破砕した葉に300μLのメタノールを加え、10分間ソニーケーションした。遠心分離(15000rpm,10min)を行い、上清を回収した。この抽出操作を三度繰り返し、回収した上清を減圧乾固し、残渣を200μLメタノールに再溶解した。再溶解液20μLを180μLのメタノールに溶かし、LC-MS(ウォーターズ社製、製品名:UPLC-ESI-MS ACQUITY)を用い、グリコアルカロイドを分析した。カラムはACQUITY HSS T3 1.8μm φ2.1×100mm(ウォーターズ社製)を用いた。LC分析においては、移動相A:0.1%ギ酸水、B:アセトニトリルでグラジエント溶出を行った。グラジエント溶出は、0-30分,90% A/10% Bから45% A/55% B、30-31分,45% A/55% Bから100% B、31-35分,100% Bで保持することによって行なった。レプチニンを含む標品としてS.chacoense PI 458310の花からの抽出物を用い、それと比較した。
【0146】
その結果、
図7及び8に示すとおり、レプチニンの生成が認められなかったS.tuberosumにおいて、Sc23DOXを発現させることによって、レプチニンI及びレプチニンIIの生産が可能となることが明らかになった。
【0147】
(実施例6) 23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子を導入したジャガイモの毛状根におけるステロイドグリコアルカロイドの解析
次に、S.chacoense由来の23DOX遺伝子及び23ACT遺伝子を導入した形質転換ジャガイモを作製し、この形質転換体において、レプチンI及びレプチンIIが生成されるかどうかを、以下に示す方法にて検証した。
【0148】
先ず、Sc23DOX遺伝子とSc23ACT遺伝子の両方をpBin+201につないだベクターpBin+201_Sc23DOX_Sc23ACTを作成し(
図6の下部 参照)、これをアグロバクテリウム・リゾゲネスC15834株に導入した。ベクターを含むアグロバクテリウムを、50ppmのカナマイシンを含むYEB液体培地[5g/lビ-フエキス、1g/l酵母エキス、5g/lペプトン、5g/l蔗糖、2mM硫酸マグネシウム(pH7.2)]にて28℃、12時間振とう培養した。培養液をYEB寒天培地(2% アガロース)にスプレッドし、暗所28℃で72時間培養した。試験管内で培養したジャガイモ品種「サッシー」を1-1.5cmに切断し、茎の根側の先端をリゾゲネスのコロニーに付着させ、プラントボックス内でB5培地(0.3% ゲルライト、2% スクロースを含む)に根側の先端が上向きになるように突き立てた。これを暗所20℃で20日間培養し、毛状根の形成が確認された茎の上部を切り取りMS培地(0.3% ゲルライト、2% スクロース、250ppm セフォタキシムを含む)に移し、暗所25℃で7日間培養し、除菌した。伸びた毛状根の先端1cmを切り取りB5培地(0.3% ゲルライト、2% スクロース、250ppm セフォタキシムを含む)に移し、暗所25℃で7日間培養した。得られた毛状根を切片に分け、B5液体培地(2% スクロースを含む)に移し、20℃暗所(100rpm)でさらに14日間振とう培養した。切片から増殖したもの100mgを液体窒素で凍結させ、ミキサーミルで破砕した(1/30sec,2min)。破砕物に300μLのメタノールを加え、10分間ソニーケーションした。遠心分離(15000rpm,10min)を行い、上清を回収した。この抽出操作を三度繰り返し、回収した上清を減圧乾固し、残渣を200μLメタノールに再溶解した。再溶解液20μLを180μLのメタノールに溶かし、LC-MS(ウォーターズ社製、製品名:UPLC-ESI-MS ACQUITY)を用いグリコアルカロイドを分析した。なお、カラムはACQUITY BEH C-18 1.7μm φ2.1×100mm(ウォーターズ社製)を用いた。LC分析において、移動相A:0.1% ギ酸水、B:アセトニトリルでグラジエント溶出を行った。グラジエント溶出は、0-3分,90% A/10% Bで保持後、3-33分,90% A/10% Bから57.5% A/42.5% B、33-38分,57.5% A/42.5% Bから0% A/100% B、38-43分,100% Bで保持することによって行なった。レプチンを含む標品としてS.chacoense PI 458310の花からの抽出物を用い、それと比較した。
【0149】
その結果、
図9及び10に示すとおり、レプチンの生成が認められなかったS.tuberosumにおいて、Sc23DOX及びSc23ACTを発現させることによって、レプチンI及びレプチンIIの生産が可能となることが明らかになった。
【0150】
以上のことから、S.chacoenseにおいては、従前想定されていたような、ソラニダン骨格を有する化合物(ソラニン、チャコニン)からレプチンが生成されるのではなく、スピロソラン骨格を有する化合物23位への水酸基、次いでアセトキシ基の導入を経て、更に当該化合物のスピロソラン骨格がソラニダン骨格に変換されることによって、レプチンが生成されていることが明らかになった。
【0151】
(実施例7) ジャガイモ品種やジャガイモ育種に使われる系統におけるSc23DOX遺伝子の存在可否についての検定
CPB抵抗性を示さないS.tuberosumはSc23DOX遺伝子を有していないことを確認すべく、以下に示す解析を行なった。
【0152】
CPB抵抗性を示さないジャガイモ品種やジャガイモ育種に使われる系統(「男爵薯」、「メークイン」、「さやか」、「サッシー」、「コナフブキ」、「デジレー」、「97H32-6」、「西海35号」、「北海87号」、「VTn 62-33-3」、「W553-4」)及びCPB抵抗性野生種である「S.chacoense PI 458310」から、CTAB法(Hosaka and Hanneman Euphytica, 1998, 103:265-271)によりDNAを抽出した。抽出したDNAに対し、プライマー GGCATCTACCAAATCAGTTAAAG(配列番号:26)及びプライマー GTCTTGAAAACATCACTGGGAG(配列番号:27)を用い、アニール温度60℃にてPCR(35サイクル、BioLine社 BIOTAQを使用)を行い、遺伝子を増幅した。得られた結果を
図11に示す。
【0153】
その結果、S.chacoense PI 458310で約1700ベースの増幅断片が見られた。また、その育成過程でS.chacoenseを用いているコナフブキ及び西海35号でも増幅断片が見られた。しかしながら、これらの増幅断片は、S.chacoenseのそれよりも約200ベース大きく、約2000ベースであった。さらに、これらの塩基配列を決定した結果、Sc23DOX遺伝子とは異なる配列であることが確認できた(この配列については、実施例10 参照のほど)。
【0154】
したがって、調べた範囲では、CPB抵抗性ジャガイモであるS.chacoense PI 458310の他、前記品種や育種に使われる素材の中にはSc23DOX遺伝子を持つものは検出されなかった。
【0155】
(実施例8) ジャガイモ品種やジャガイモ育種に使われる系統におけるSc23ACT遺伝子の存在可否についての検定
実施例7同様に、CPB抵抗性を示さないS.tuberosumはSc23ACT遺伝子を有していないことを確認すべく、以下に示す解析を行なった。
【0156】
ジャガイモ品種やジャガイモ育種に使われる系統(「男爵薯」、「メークイン」、「さやか」、「サッシー」、「コナフブキ」、「デジレー」、「97H32-6」、「西海35号」、「北海87号」、「VTn 62-33-3」、「W553-4」、「S.chacoense PI 458310」)から、前記CTAB法によってDNAを抽出した。抽出したDNAに対し、プライマー GATTATGAATTTTACAATTTG(配列番号:28)及びプライマー TACAGGTAGTGACAACGAGGATC(配列番号:29)を用い、アニール温度60℃にてPCR(40サイクル、BioLine社 BIOTAQを使用)を行い、遺伝子を増幅した。得られた結果を
図12に示す。
【0157】
その結果、驚くべきことに、CPB抵抗性を示さないコナフブキ、97H32-6及び西海35号も、Sc23ACT遺伝子を持っていることが明らかになった。コナフブキ、97H32-6及び西海35号は、その育成過程でS.chacoense(W84及びchc525-3)を用いている(浅間ら,北海道立農業試験場集報,1982,48:75-84,PhumichaiらGenome,2005,48:977-984)。また、W84及びchc525-3がレプチンを蓄積しているとの報告はない。しかしながら、Sc23ACT遺伝子を有していることが明らかになったコナフブキ及び97H32-6に、Sc23DOX遺伝子を導入することによって、これらジャガイモにおいても、レプチン生成能が発揮されることが期待できる。
【0158】
したがって、Sc23ACT遺伝子を検出することによって、このようなレプチン生成能を潜在的に持つ素材を容易に明らかにすることができることがわかった。
【0159】
また、コナフブキを育成過程で用いているサクラフブキ、パールスターチについても、前記解析を行なった。その結果、図には示していないが、これらもSc23ACTを持っていることが明らかとなった。
【0160】
(実施例9) S.chacoenseとジャガイモを交配した後代における、ステロイドグリコアルカロイドと遺伝子の解析
Sc23DOX遺伝子及びSc23ACT遺伝子と、レプチン蓄積との相関を確認すべく、以下に示す解析を行なった。
【0161】
先ず、レプチンを発現しているS.chacoense PI 458310から実生5系統を得た。これらはいずれもレプチンを蓄積していることを確認した。
【0162】
次に、この5系統と、レプチンを発現していないジャガイモ系統 97H32-6を交配し、雑種種子を獲得した。そして、雑種種子を生育させた263個体の葉から、Hattoriら(Breed.Sci.57:305-314)の方法によりDNAを抽出し、実施例7及び8に記載の方法にて、Sc23DOX遺伝子及びSc23ACT遺伝子を各々増幅した。また、雑種種子を生育させた葉約100mgから実施例3に記載の方法にて、各ステロイドグリコアルカロイドを解析した。得られた結果を表1に示す。さらに、3系統についてはLC-MSの分析データを、
図13に示す。
【0163】
【0164】
その結果、前記雑種全ての個体において、Sc23DOX遺伝子とSc23ACT遺伝子を持つことが明らかとなった。また、このことから、S.chacoense PI 458310の実生個体はSc23DOX遺伝子をホモで持つこと、S.chacoense PI 458310の実生個体かジャガイモ系統97H32-6か、その両方がSc23ACT遺伝子をホモに持つことが明らかとなった。
【0165】
さらに、表1に示すとおり、前記雑種全ての個体においてレプチンの蓄積が認められたことから、Sc23DOX遺伝子及びSc23ACT遺伝子の存在とレプチン蓄積とは相関していることが確認された。
【0166】
なお、このようにして得られたSc23DOX遺伝子及びSc23ACT遺伝子を有し、レプチンを生産している系統に対し、更に97H32-6を戻し交雑し、雑種種子を得ることができる。そして、前記と同様の方法にて、これら遺伝子の存在の有無を解析することによって、レプチンを生産する雑種種子を判別することも可能となる。
【0167】
(実施例10) S.tuberosumにおける23DOX遺伝子についての検証
ジャガイモ(S.tuberosum)のゲノムデータベース(Spud DB:http://solanaceae.plantbiology.msu.edu/index.shtml)にある配列を対象とした、tblast解析では、Sc23DOXに最も相同性の高い配列(PGSC0003DMT400081914)でも同一性は79%と低く、S.tuberosumには23DOX遺伝子は存在していないものと考えていた。
【0168】
しかし驚くべきことに、実施例7において示したとおり、S.chacoense PI 458310のSc23DOX遺伝子由来の増幅産物(約1700ベース)より約200ベース大きい、約2000ベースの断片の増幅が、S.tuberosumにおいて認められた。そして、これらの塩基配列を決定した結果、Sc23DOX遺伝子と極めて近い配列が増幅していることが明らかになった。
【0169】
そこで、S.tuberosum品種サッシーのcDNAに対し、プライマー CACCATGGCATCTACCAAATCAGTTAAAG(配列番号:30)及びプライマー TCAAACACCGCAATAAGTCTTGAAA(配列番号:31)を用い、アニール温度55℃にてPCR(40サイクル、タカラバイオ社製 PrimeSTARを使用)を行った。得られたPCR増幅産物をpENTR/D-TOPOベクター(Thermo Fisher社製)へクローニングして、遺伝子断片を取得し、全長配列を決定した(決定したヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列を配列番号:4に示す。また当該遺伝子がコードするタンパク質を、以下「St23DOX」とも称する)。なお、St23DOXとSc23DOXのアミノ酸レベルの配列同一性は94%であった。また、更なる解析の結果、St23DOX遺伝子は、サッシーの他に、少なくともコナフブキ、サクラフブキ、パールスターチ、西海35号、男爵薯にもあることがわかった。
【0170】
(実施例11) St23DOXのin vitroでの酵素活性の検出
実施例10にて同定したSt23DOX遺伝子に関し、実施例3に記載の方法と同様にして解析を行った。その結果、
図2及び3に示すとおり、α-トマチンを基質にした場合に、S.tuberosum由来のもの(St23DOX)についても、23位に水酸基が導入された産物が得られることが明らかになった。すなわち、St23DOXは、Sc23DOX及びSl23DOX同様に、レプチニン生成に関与し得ることが明らかになった。一方、S.tuberosum(品種サッシー)においては、レプチニン生成を介したCPB抵抗性は認められない。したがって、以上のことから、少なくとも品種サッシーにおいて、St23DOXはレプチニンの十分な生成に資する程発現していないことが示唆される。
【0171】
(実施例12) S.tuberosumにおける23ACT遺伝子についての検証
ジャガイモ(S.tuberosum)のゲノムデータベース(Spud DB: http://solanaceae.plantbiology.msu.edu/index.shtml)にある配列を対象とした、tblast解析では、Sc23ACTに最も相同性の高い配列(PGSC0003DMT400023800)でも、同一性は75%と低く、またN末に余分な30アミノ酸が付加していることが確認された。そのため、Sc23ACTと全長が似た長さのものでは同一相同性で50%を越えるものは見つからず、S.tuberosumには23ACT遺伝子は存在していないものと考えていた。
【0172】
しかし驚くべきことに、実施例8で行った検定プライマー作成時にS.tuberosumにも極めてSc23ACT遺伝子に近い配列があることが示唆された。そこで品種サッシーのゲノムに対し、プライマー CATATGGCAGCATCAAGTTGTGT(配列番号:32)及びプライマー GTCGACTTAATTAAGATTAGTAATTGGAGAAG(配列番号:33)を用い、アニール温度55℃にてPCR(40サイクル、タカラバイオ社製 PrimeSTAR HSを使用)を行った。得られたPCR増幅産物をpCR4Blunt-TOPOベクター(Thermo Fisher社製)へクローニングして、遺伝子断片を取得し、全長配列を決定した(決定したヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列を配列番号:10に示す。また当該遺伝子がコードするタンパク質を、以下「St23ACT」とも称する)。なお、St23ACTとSc23ACTのアミノ酸レベルの配列同一性は91%であった。
【0173】
(実施例13) St23ACTのin vitroでの酵素活性の検出
実施例12にて同定したSt23ACT遺伝子に関し、実施例4に記載の方法と同様にして解析を行った。その結果、
図4及び5に示すとおり、23ヒドロキシトマチンを基質にした場合に、St23ACTの存在下では、23位にアセトキシ基が導入された産物を得られることが明らかになった。すなわち、St23ACTは、Sc23ACT及びSl23ACT同様に、レプチン生成に関与し得ることが明らかになった。一方、S.tuberosum(品種サッシー)においては、レプチン蓄積によるCPB抵抗性は認められない。したがって、以上のことから、少なくとも品種サッシーにおいては、上述のSt23DOX同様に、St23ACTはレプチンの十分な生成に資する程発現していないことが示唆される。
【0174】
(実施例14) Sc23ACT遺伝子を持つコナフブキへの、Sc23DOX遺伝子導入
実施例8ではコナフブキはSc23ACTの配列を有することを明らかにしたが、この配列が機能し、コナフブキが23ACT活性を発現していることを確認するため、コナフブキにてSc23DOX遺伝子を導入したジャガイモの毛状根におけるステロイドグリコアルカロイドの解析を行った。
【0175】
具体的には、実施例6同様に、Sc23DOX遺伝子をpBin+201につないだベクターpBin+201_Sc23DOXを作成し、これをアグロバクテリウム・リゾゲネスC15834株に導入した。ベクターを含むアグロバクテリウムを、50ppmのカナマイシンを含むYEB液体培地[5g/lビ-フエキス、1g/l酵母エキス、5g/lペプトン、5g/l蔗糖、2mM硫酸マグネシウム(pH7.2)]にて28℃、12時間振とう培養した。培養液をYEB寒天培地(2% アガロース)にスプレッドし、暗所28℃で72時間培養した。試験管内で培養したジャガイモ品種「コナフブキ」を1-1.5cmに切断し、茎の根側の先端をリゾゲネスのコロニーに付着させ、プラントボックス内でB5培地(0.3% ゲルライト、2% スクロースを含む)に根側の先端が上向きになるように突き立てた。これを暗所20℃で20日間培養し、毛状根の形成が確認された茎の上部を切り取りMS培地(0.3% ゲルライト、2% スクロース、250ppm セフォタキシムを含む)に移し、暗所25℃で7日間培養し、除菌した。伸びた毛状根の先端1cmを切り取りB5培地(0.3% ゲルライト、2% スクロース、250ppm セフォタキシムを含む)に移し、暗所25℃で7日間培養した。得られた毛状根を切片に分け、B5液体培地(2% スクロースを含む)に移し、20℃暗所(100rpm)でさらに14日間振とう培養した。切片から増殖したもの100mgを液体窒素で凍結させ、ミキサーミルで破砕した(1/30sec,2min)。破砕物に300μLのメタノールを加え、10分間ソニーケーションした。遠心分離(15000rpm,10min)を行い、上清を回収した。この抽出操作を三度繰り返し、回収した上清を減圧乾固し、残渣を200μLメタノールに再溶解した。再溶解液20μLを180μLのメタノールに溶かし、LC-MS(ウォーターズ社製、製品名:UPLC-ESI-MS ACQUITY)を用いグリコアルカロイドを分析した。なお、カラムはACQUITY HSS T3 1.8μm φ2.1×100mm(ウォーターズ社製)を用いた。LC分析において、移動相A:0.1% ギ酸水、B:アセトニトリルでグラジエント溶出を行った。グラジエント溶出は、0-30分,90% A/10% Bから45.0% A/55.0% B、30-31分,45.0% A/55.0% Bから0% A/100% B、31-35分,100% Bで保持することによって行なった。
【0176】
その結果、
図14及び15に示すとおり、レプチンの生成が認められなかったコナフブキにおいて、Sc23DOX遺伝子だけを強制的に発現させることによって、レプチンI及びレプチンIIの生産が可能となることが確認された。
【0177】
以上のことから、Sc23ACT遺伝子を持っている系統や品種では、Sc23DOX遺伝子だけを導入することでレプチンを生成できるようになることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0178】
以上説明したように、本発明によれば、同定された、水酸化酵素遺伝子及び/又はアセチル基転移酵素遺伝子を用いることによって、スピロソラン骨格23位に水酸基又はアセトキシ基を導入することが可能となり、またレプチニン又はレプチンを生成することも可能となる。さらに、本発明によれば、レプチンを生合成させ蓄積させることにより、植物のCPBに対する抵抗性等を高めることも可能となる。すなわち、CPBに対する抵抗性が高められた植物を効率的に提供することが可能となる。また、本発明によれば、前記遺伝子の存在等を指標とし、植物におけるCPBに対する抵抗性等を効率的に判定することもできる。したがって、本発明は、CPBによる虫害を受けるナス科植物の栽培等において有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0179】
配列番号:13~33
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列
【配列表】