(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】高速度鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231025BHJP
C22C 38/26 20060101ALI20231025BHJP
C21D 9/00 20060101ALN20231025BHJP
B22F 3/15 20060101ALN20231025BHJP
C21D 9/18 20060101ALN20231025BHJP
【FI】
C22C38/00 302E
C22C38/00 301H
C22C38/00 304
C22C38/26
C21D9/00 M
B22F3/15 M
C21D9/18
(21)【出願番号】P 2019135978
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆久
(72)【発明者】
【氏名】三浦 滉大
(72)【発明者】
【氏名】越智 亮介
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-528646(JP,A)
【文献】特表平06-509610(JP,A)
【文献】特開2004-323874(JP,A)
【文献】特開2018-003146(JP,A)
【文献】特開2016-060961(JP,A)
【文献】特開2008-095190(JP,A)
【文献】特開昭60-190550(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0078475(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/00- 9/44, 9/50
B22F 1/00- 8/00,10/00-12/90
C22C 1/04- 1/059,33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)0.30質量%以上0.80質量%以下のC
(2)0.01質量%以上1.0質量%以下のSi
(3)0.01質量%以上1.0質量%以下のMn
(4)Cr
(5)Mo及び/又はW
並びに
(6)V及び/又はNb
を含み、
残部がFe及び不可避不純物であり、
下記数式(I)から(IV)を満たす高速度鋼。
7.3 ≦ Cr / C ≦ 20 (I)
3.7 ≦ Mo + 0.5 ・ W ≦ 8.5 (II)
0.5 ≦ V + 0.5 ・ Nb ≦ 2.0 (III)
0.5 ≦ N2 / N1 (IV)
(これらの数式において、Cr、C、Mo、W、V及びNbは、それぞれの元素の質量含有率を表し、
N1は、断面組織に見られる、円相当径が1μm以上5μm以下である炭化物の数を表し、
N2は、この断面組織に見られる、円相当径が1μm以上5μm以下であってかつアスペクト比が1.2未満である炭化物の数を表す。)
【請求項2】
下記数式(V)を満たす請求項1に記載の高速度鋼。
0.8 ≦ N2 / N1 (V)
【請求項3】
上記不可避的不純物としてNを含んでおり、このNの含有量が100ppm以上である請求項1又は2に記載の高速度鋼。
【請求項4】
上記不可避的不純物としてOを含んでおり、このOの含有量が100ppm以上である請求項1から3のいずれかに記載の高速度鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口金、パンチ等の工具に適した高速度鋼に関する。詳細には、本発明は、いわゆるマトリックスハイスに関する。
【背景技術】
【0002】
工具に、高速度鋼が用いられている。高速度鋼は、「高速度工具鋼」とも称されている。高速度鋼はさらに、「ハイス」とも称されている。高速度鋼は、多くのCを含有する。一般的な高速度鋼はさらに、Mo、W及びVを含有する。Mo、W及びVのそれぞれは、Cと結合して炭化物を生成させる。この炭化物は、高速度鋼の強度及び耐摩耗性に寄与しうる。高速度鋼の具体例として、「JIS SKH51」及び「JIS SKH40」が挙げられる。
【0003】
多くのCを含むが故に、高速度鋼では、熱間での靱性が不足する傾向が見られる。この欠点を補う目的で、C、Mo、W又はVの含有率が低減された高速度鋼が、提案されている。このような高速度鋼は、「マトリックスハイス」と称されている。
【0004】
特開2017-155306公報には、焼入れ-焼戻し後の炭化物の種類と量とが制御されたマトリックスハイスが開示されている。このマトリックスハイスでは、M6C、M2C及びMCの合計量の、炭化物の総量に対する比率は、5.0%以上である。
【0005】
特開2018-48407公報には、均熱処理を経て得られたマトリックスハイスが開示されている。このマトリックスハイスでは、断面組織中の炭化物の円相当径の最大値は、1.00μm以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-155306公報
【文献】特開2018-48407公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2017-155306公報に開示されたマトリックスハイスの靱性は、十分ではない。特開2018-48407公報に開示されたマトリックスハイスは靱性に優れるが、均熱処理が必要であるから、その製造工程は極めて複雑である。
【0008】
本発明の目的は、複雑な工程を経ることなく得られ、かつ靱性に優れた高速度鋼の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る高速度鋼は、
(1)0.30質量%以上0.80質量%以下のC
(2)0.01質量%以上1.0質量%以下のSi
(3)0.01質量%以上1.0質量%以下のMn
(4)Cr
(5)Mo及び/又はW
(6)V及び/又はNb
並びに
(7)不可避的不純物
を含む。この高速度鋼は、下記数式(I)から(IV)を満たす。
4.3 ≦ Cr / C ≦ 20 (I)
2.5 ≦ Mo + 0.5 ・ W ≦ 8.5 (II)
0.5 ≦ V + 0.5 ・ Nb ≦ 2.0 (III)
0.5 ≦ N2 / N1 (IV)
これらの数式において、Cr、C、Mo、W、V及びNbは、それぞれの元素の質量含有率を表す。N1は、断面組織に見られる、円相当径が1μm以上5μm以下である炭化物の数を表す。N2は、この断面組織に見られる、円相当径が1μm以上5μm以下であってかつアスペクト比が1.2未満である炭化物の数を表す。
【0010】
好ましくは、高速度鋼は、下記数式(V)を満たす。
0.8 ≦ N2 / N1 (V)
【0011】
高速度鋼が、不可避的不純物としてNを含んでもよい。好ましくは、このNの含有量は、100ppm以上である。
【0012】
高速度鋼が、不可避的不純物としてOを含んでもよい。好ましくは、このOの含有量は、100ppm以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る高速度鋼は、靱性に優れる。この高速度鋼は、簡易な方法で製造されうる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る高速度鋼は、いわゆるマトリックスハイスである。この高速度鋼は、Fe基合金である。この高速度鋼は、所定量の添加元素を含む。好ましくは、残部は、Fe及び不可避不純物である。以下、この高速度鋼における各元素の役割が詳説される。
【0015】
[炭素(C)]
Cは焼入れでFeに固溶し、かつ焼戻しによって析出する。さらにCは、他の元素と結合して炭化物を形成する。従ってCは、高速度鋼の耐摩耗性、高温強度及び軟化抵抗性に寄与しうる。これらの観点から、Cの含有率は0.30質量%以上が好ましく、0.40質量%以上がより好ましく、0.43質量%以上が特に好ましい。過剰なCは、高速度鋼の靱性を阻害し、かつ高温での強度を阻害する。これらの観点から、Cの含有率は0.80質量%以下が好ましく、0.74質量%以下がより好ましく、0.70質量%以下が特に好ましい。
【0016】
[ケイ素(Si)]
Siは、製鋼工程での脱酸に寄与する。Siはさらに、固溶強化にも寄与する。これらの観点から、Siの含有率は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上が特に好ましい。過剰のSiは、高速度鋼の靱性を阻害する。靱性の観点から、Siの含有率は1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.6質量%以下が特に好ましい。
【0017】
[マンガン(Mn)]
Mnは、製鋼工程での脱酸に寄与する。Mnはさらに、高速度鋼の熱処理特性を高める。これらの観点から、Mnの含有率は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上が特に好ましい。過剰のMnは、高速度鋼の加工性を阻害する。加工性の観点から、Mnの含有率は1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.6質量%以下が特に好ましい。
【0018】
[クロム(Cr)]
Crは、高速度鋼の熱処理特性を高める。さらにCrは、高速度鋼の耐食性にも寄与する。これらの観点から、Crの含有率は1.0質量%以上が好ましく、2.0質量%以上がより好ましく、3.0質量%以上が特に好ましい。Crが過剰であると、粗大な炭化物が形成される。この炭化物は、高速度鋼の高温強度及び軟化抵抗性を阻害する。過剰なCrはさらに、高速度鋼の耐食性を阻害する。これらの観点から、Crの含有率は16.0質量%以下が好ましく、14.0質量%以下がより好ましく、12.0質量%以下が特に好ましい。
【0019】
高速度鋼が下記数式(I)を満たすことが、好ましい。
4.3 ≦ Cr / C ≦ 20 (I)
この数式において、Crはクロムの質量含有率(質量%)を表し、Cは炭素の質量含有率(質量%)を表す。上記数式(I)を満たす高速度鋼では、比(Cr/C)は4.3以上20以下である。比(Cr/C)が4.3以上である高速度鋼は、熱処理特性及び耐食性に優れる。この観点から、比(Cr/C)は6.0以上がより好ましく、7.3以上が特に好ましい。比(Cr/C)が20以下である高速度鋼は、高温強度、軟化抵抗性及び耐食性に優れる。これらの観点から、比(Cr/C)は18以下がより好ましく、16以下が特に好ましい。
【0020】
[モリブデン(Mo)及びタングステン(W)]
Mo及びWは、それぞれ、高速度鋼の熱処理特性を高める。Mo又はWを含有する高速度鋼では、焼戻し時に微細な炭化物が析出する。この炭化物は、高速度鋼の強度及び耐摩耗性に寄与する。高速度鋼が、Mo及びWの両方を含有してもよく、いずれか一方を含有してもよい。
【0021】
高速度鋼が下記数式(II)を満たすことが、好ましい。
2.5 ≦ Mo + 0.5 ・ W ≦ 8.5 (II)
この数式において、Moはモリブデンの質量含有率(質量%)を表し、Wはタングステンの質量含有率(質量%)を表す。この数式における「Mo+0.5・W」は、モリブデン当量である。上記数式(II)を満たす高速度鋼では、モリブデン当量は2.5質量%以上8.5質量%以下である。モリブデン当量が2.5質量%以上である高速度鋼は、熱処理特性、強度及び耐摩耗性に優れる。この観点から、モリブデン当量は3.0質量%以上がより好ましく、3.7質量%以上が特に好ましい。モリブデン当量が8.5質量%以下である高速度鋼では、粗大な炭化物が析出しにくい。従ってこの高速度鋼は、靱性に優れる。この観点から、モリブデン当量は7.5質量%以下がより好ましく、6.8質量%以下が特に好ましい。
【0022】
[バナジウム(V)及びニオブ(Nb)]
V及びNbは、焼入れ時の結晶粒の粗大化を抑制する。さらに、V又はNbを含有する高速度鋼では、焼戻し時に微細な炭化物又は窒化物が析出する。この炭化物及び窒化物は、高速度鋼の高温強度、軟化抵抗性及び耐摩耗性に寄与する。高速度鋼が、V及びNbの両方を含有してもよく、いずれか一方を含有してもよい。
【0023】
高速度鋼が下記数式(III)を満たすことが、好ましい。
0.5 ≦ V + 0.5 ・ Nb ≦ 2.0 (III)
この数式において、Vはバナジウムの質量含有率(質量%)を表し、Nbはニオブの質量含有率(質量%)を表す。この数式における「V+0.5・Nb」は、バナジウム当量である。上記数式(III)を満たす高速度鋼では、バナジウム当量は0.5質量%以上2.0質量%以下である。バナジウム当量が0.5質量%以上である高速度鋼は、高温強度、軟化抵抗性及び耐摩耗性に優れる。この観点から、バナジウム当量は0.7質量%以上がより好ましく、0.8質量%以上が特に好ましい。バナジウム当量が2.0質量%以下である高速度鋼では、粗大な炭化物及び窒化物が析出しにくい。従ってこの高速度鋼は、靱性に優れる。この観点から、バナジウム当量は1.8質量%以下がより好ましく、1.6質量%以下が特に好ましい。
【0024】
[窒素(N)]
この高速度鋼は、前述の通り、不可避的不純物を含む。典型的な不可避的不純物は、Nである。Nは、炭化物及び窒化物の粗大化を招く。粗大な炭化物及び窒化物は、高速度鋼の靱性を阻害する。靱性の観点から、Nの含有量は300ppm以下が好ましく、200ppm以下が特に好ましい。Nは、V及びNbと結合し、炭化物及び窒化物の形成を促す役割も果たす。この観点から、Nの含有率は100ppm以上が好ましく、140ppm以上が特に好ましい。
【0025】
[酸素(O)]
典型的な他の不可避的不純物は、Oである。Oは、介在物(酸化物)の生成の原因となる。介在物は、破壊の基点となり得る。破壊の抑制の観点から、Oの含有量は300ppm以下が好ましく、200ppm以下が特に好ましい。微量の酸化物は、高速度鋼の耐摩耗性に寄与しうる。耐摩耗性の観点から、Oの含有率は100ppm以上が好ましく、120ppm以上が特に好ましい。
【0026】
[炭化物]
本発明に係る高速度鋼は、多数の炭化物を含む。炭化物として、M23C6、M6C、M2C及びMCが例示される。ここでMは、Cr、Mo、W、V、Nb及びFeのうちの1種又は2種以上である。炭化物の概念には、炭窒化物も含まれる。
【0027】
粗大な炭化物は破壊の基点となるので、粗大な炭化物は高速度鋼の靱性を阻害する。本発明者らが得た知見によれば、粗大でかつアスペクト比が大きな炭化物が特に、靱性を阻害する。アスペクト比が小さければ、サイズがある程度大きい炭化物であっても、靱性を大きく阻害することはない。
【0028】
かかる知見に基づき、本発明者らは、下記数式(IV)を満たす高速度鋼が好ましいことを見いだした。
0.5 ≦ N2 / N1 (IV)
この数式(IV)においてN1は、断面組織に見られる、円相当径が1μm以上5μm以下である炭化物の数を表す。N2は、これらの炭化物のうち、アスペクト比が1.2未満であるものの数を表す。
【0029】
上記数式(IV)を満たす高速度鋼では、サイズが大きな炭化物の存在は、ある程度許容される。一方、サイズが大きくかつアスペクト比が大きい炭化物の、多量の存在は、許容されない。この数式(IV)を満たす高速度鋼では、破壊が発生しにくい。この高速度鋼は、靱性に優れる。
【0030】
数N1及びN2のカウントでは、無作為に選定された10の断面組織が、走査型電子顕微鏡によって撮影される。撮影の倍率は、10,000倍である。撮影によって得られた10の画像において、円相当径が1μm以上5μm以下である炭化物の数N1が、画像処理によってカウントされる。同じ画像から、円相当径が1μm以上5μm以下であってかつアスペクト比が1.2未満である炭化物の数N2が、画像処理によってカウントされる。これらの数N1及びN2に基づき、比(N2/N1)が算出される。
【0031】
円相当径は、図形の面積と同じ面積を有する真円の直径である。円相当径は、下記の数式によって算出されうる。
円相当径 = (4 × 図形の面積/ π)0.5
【0032】
アスペクト比は、1つの炭化物における、短軸の長さに対する長軸の長さの比である。ここで長軸の長さは、当該炭化物の輪郭に対し外接する円の直径である。短軸の長さは、長軸と直交する方向における、当該炭化物の幅である。
【0033】
靱性の観点から、比(N2/N1)は0.8以上が好ましい。換言すれば、高速度鋼が下記数式(V)を満たすことが好ましい。
0.8 ≦ N2 / N1 (V)
理想的な比(N2/N1)は、1.0である。
【0034】
この高速度鋼は、サイズが1μm以上である炭化物を含む。この高速度鋼は、均熱処理等の複雑な工程を経ることなく、得られうる。
【0035】
[シャルピー衝撃値]
高速度鋼のシャルピー衝撃値は390J/cm2以上が好ましく、410J/cm2以上が特に好ましい。シャルピー衝撃値は、「JIS Z 2242」に準拠して測定される。
【0036】
[粉末冶金法]
本発明に係る高速度鋼は、粉末冶金法によって得られうる。粉末冶金法ではまず、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、ディスクアトマイズ法、粉砕法等により、金属粉末が製作される。この金属粉末が高温雰囲気で加圧されて固化し、成形体が得られる。好ましい加圧方法として、熱間等方圧加圧法が挙げられる、熱間等方加圧法では、摂氏数百度から2000度の高温下で、数十MPaから200MPaの等方的な圧力で粉末が加圧される。好ましくは、加圧媒体として、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが用いられる。不活性ガスの使用により、金属粉末の酸化が抑制される。この方法によって得られた高速度鋼には、一次炭化物が析出している。この一次炭化物に関して、数N1及びN2がカウントされる。
【0037】
[溶製法]
本発明に係る高速度鋼は、溶製法によっても得られうる。溶製法では、成分調整された溶湯が鋳型に鋳込まれて、鋼塊が得られる。この鋼塊が、自由鍛造に供される。この自由鍛造では、鋼塊が金敷で加圧され、変形させられる。好ましくは、実体鍛錬と据え込み鍛錬とが、繰り返される。実体鍛錬では、鋼塊の断面積が縮小し、鋼塊の長さが増大する方向に、加圧がなされる。据え込み鍛錬では、鋼塊の断面積が増大し、鋼塊の長さが縮小する方向に、加圧がなされる。実体鍛錬と据え込み鍛錬との繰り返しにより、炭化物のアスペクト比が低減される。好ましくは、鍛錬率が4以上である実体鍛造と、鍛錬率が1/4以下である据え込み鍛錬とが実施される。実体鍛錬の鍛錬比と、据え込み鍛錬の鍛錬比との積は、2以上が好ましい。この方法によって得られた高速度鋼には、一次炭化物が析出している。この一次炭化物に関して、数N1及びN2がカウントされる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0039】
[実施例1]
原料を真空誘電溶解炉にて溶融し、溶湯を得た。この溶湯を鋳型に鋳込み、円柱状の鋼塊を得た。この鋼塊の、直径は約150mmであり、長さは約150mmであった。この鋼塊に実体鍛錬及び据え込み鍛錬を繰り返し施して丸棒を得た。この丸棒の、直径は約35mmであり、長さは約600mmであった。この丸棒の組成が、下記の表1に示されている。
【0040】
[実施例2-15及び比較例1-5]
下記の表1に示される通りの組成とした他は実施例1と同様にして、丸棒を得た。
【0041】
[実施例16]
溶湯にアトマイズを施して、粉末を得た。この粉末にふるいで分級を施して、サイズが850μmを超える粒子を除去した。この粉末を、円筒状のスチール缶に充填した。このスチール缶に真空脱気を施し、さらにこのスチール缶を密閉した。アルゴンガス雰囲気にて、圧力が200MPaであり温度が950℃である条件で、熱間等方加圧を行って、成形体を得た。この成形体にターニングを施し、さらに自由鍛造(実体鍛錬)を施して、丸棒を得た。この丸棒の、直径は約35mmであり、長さは約600mmであった。この丸棒の組成が、下記の表2に示されている。
【0042】
[実施例17-25]
下記の表2に示される通りの組成とした他は実施例16と同様にして、丸棒を得た。
【0043】
[比(N2/N1)]
丸棒の軸方向と直交する10の断面において、組織を走査型電子顕微鏡によって撮影した。倍率は、10,000倍であった。画像処理により、円相当径が1μm以上5μm以下である炭化物の数N1をカウントした。さらに、これらの炭化物の中で、アスペクト比が1.2未満であるものの数N2を、画像処理によってカウントした。そして、比(N2/N1)を算出した。この結果が、下記の表3及び4に示されている。
【0044】
[靱性]
丸棒から試験片を切り出した。この試験片は、10Rのノッチを有する。この試験片に1100℃の焼入れを1回施し、さらに450-600℃の焼戻しを2回施した。ロックウェル硬さが56-57HRCとなるよう、焼戻し温度を調整した。この熱処理により、試験片に二次炭化物が生成した。この試験片に、前述されたシャルピー衝撃試験を施して、衝撃値を測定した。この結果が、下記の表3及び4に示されている。これらの表には、「JIS G 0202(2013)」の規定に準拠してロックウェル硬度計(Cスケール)にて測定された硬さ(HRC)も、示されている。
【0045】
[耐摩耗性]
丸棒から試験片を切り出した。この試験片は、縦が20mmであり、横が20mmであり、高さが5mmであるサイズを有する。この試験片に1100℃の焼入れを1回施し、さらに450-600℃の焼戻しを2回施した。ロックウェル硬さが56-57HRCとなるよう、焼戻し温度を調整した。この熱処理により、試験片に二次炭化物が生成した。この試験片に、下記の条件で摩耗試験を施した。
試験器:株式会社東京試験機の「OAT-U」
リング:SCM420
摩耗距離:200m
最終荷重:61.8N
得られた比摩耗量が、下記の表3及び4に示されている。
【0046】
[総合評価]
下記の基準に基づき、各丸棒を格付けした。
S:衝撃値が410以上であり、比摩耗量が0.02以下である。
A:衝撃値が410以上であり、比摩耗量が0.02より大きく0.1以下である。
B:衝撃値が410以上であり、比摩耗量が0.1より大きい。
C:衝撃値が390以上410未満であり、比摩耗量が0.1より大きい。
F:衝撃値が390未満であり、比摩耗量が0.1より大きい。
この結果が、下記の表3及び4に示されている。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
表3及び4に示されるように、各実施例の高速度鋼は、全ての評価項目において優れている。以上の評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る高速度鋼は、口金、パンチ、手工具、機械工具、刃物、金型等の、種々の用途に用いられうる。