(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】野菜炒め用調味料
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20231025BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20231025BHJP
A23L 27/12 20160101ALI20231025BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20231025BHJP
A23L 13/00 20160101ALN20231025BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23L27/10 C
A23L27/12
A23L27/10 B
A23L19/00 A
A23L13/00 A
(21)【出願番号】P 2019195713
(22)【出願日】2019-10-28
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 岳
(72)【発明者】
【氏名】井ノ本 也寸志
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-143798(JP,A)
【文献】特開2007-049950(JP,A)
【文献】特開2017-099317(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0099054(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103947996(CN,A)
【文献】新宿中村屋 本格四川奥深い香り、かさなる麻婆茄子 140g×5個,2019年02月05日,https://www.amazon.co.jp/新宿中村屋-本格四川奥深い香り、かさなる麻婆茄子-140g×5個/dp/B07NDJYYRL
【文献】体に優しい【白い麻婆豆腐】みぞれ仕立て,2010年02月11日,https://cookpad.com/recipe/1037092
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/
A23L 19/
A23L 13/
Google、Cookpad
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
豚肉を含まないナスの炒めものに使用する調味料であって、調味料全体の重量に対して0.2%~2.0%の豚脂を含み、pHが3.9~4.9である前記調味料。
【請求項2】
酢又は柑橘果汁を含む請求項1記載の調味料。
【請求項3】
調味料全体の重量に対する酢酸の濃度が0.07%~0.75%であるか、又はクエン酸の濃度が0.07%~0.45%である請求項1又は2に記載の調味料。
【請求項4】
調味料全体の重量に対して1.5%~17.5%の酢を含む請求項2又は3に記載の調味料。
【請求項5】
すりおろした野菜をさらに含む請求項1~4のいずれかに記載の調味料。
【請求項6】
すりおろした野菜が大根おろしである請求項
5に記載の調味料。
【請求項7】
調味料全体の重量に対して3%~10%の、豚肉以外の肉類を含む請求項1~6のいずれかに記載の調味料。
【請求項8】
肉類が鶏肉を含む請求項7に記載の調味料。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の調味料を用いてナスを炒める工程を含む、豚肉を含まないナスの炒めものの製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の調味料を用いてナスを炒めることによる、豚肉を含まないナスの炒めものにおけるナスの食感又は外観を改善する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は野菜炒め用調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
ナスを含む野菜の炒め物の調理は、フライパンなどの調理器具を用いて、少量のサラダ油や豚脂などの食用油にてナスを含む野菜を炒めた後、醤油や砂糖などの調味料を加えて炒めながら味付けをすることが一般的である。また、このような野菜炒めの味付け用調味料がいくつかの調味料メーカーより市販されている。しかし、醤油や砂糖などの調味料で味付けするにしても、市販の液体調味料を用いたにしても、炒めたナスに調味液を絡めて炒めると、ナスから色素が流れ落ちてナスの色味が悪くなるとともに、ナスを含む野菜炒めに絡む調味液の色が黒ずんだりする問題がある。また、ナスの食感(歯応え)も柔らかくなりすぎるという問題があった。
ナスの炒め物を調理する上で、ナスの色を鮮やかにするための方法としては、サラダ油などの調理用油で油通しをすることが中華料理では行われている。また、野菜に豚脂を含む加熱油脂を流下・油掛けした後、野菜を炒めることで食感に優れ、色調・艶が良く、離水量が少ない野菜炒めの調理法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、調理用油で先に炒めてもあるいは油通ししたとしても、醤油や砂糖などを含む調味液で野菜を絡めてから炒めて調理すると、ナスの色落ちや絡めた調味液の黒ずみ、さらには食感の軟化等の問題は解決できなかった。
ナスの炒めものを調理する際に、ナスを炒める食用油としてラードを用いることで、ナスに甘みやコクを付与することができ、また、調味液の黒ずみやナスの色落ちを防止することができるが、調味されたナスを食した場合、後味(口内に残るラードのべたつき感、ラード臭等)が悪くなる(重い後味となる)という問題があるとともに、ナスの食感も軟化してしまうという問題があった。ラードで炒めた後調味されたナスの炒め物の後味をさっぱりとさせ、且つ、ナスの軟化を防止するために、食する際にポン酢などの酢を加える調理法が紹介されているが(https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1530011094/)、食した際の後味や軟化を十分に改善することはできなかった。
野菜炒めに用いられえる調味料としては、炒め物調理で行われる油脂を用いて食品素材を炒める工程と調味料で味付けを行う工程との2工程を同時に行うことで、脂跳ねや焦げ付きなどを抑制し、且つ、食品の風味向上等を目的とした調味料が報告されている(特許文献4)が、ナスを含む野菜の炒め物における調味後のナスや絡まった調味液の色味や食感を改善するために適切な調味料に関する先行技術はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4250346号公報
【文献】特許第5766863号公報
【文献】特許第6266970号公報
【文献】特許第3519219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにナスを含む野菜炒めにおいて、ナスの色落ちを防止するために野菜を豚脂で炒めたり、あるいは、野菜と豚肉の炒めのように、豚のバラ肉のような豚脂を含む豚肉とともに炒めたりした場合、炒めた後に醤油等の調味料で調味された調理品の食感は、豚脂の風味や豚脂自体が口内に残存しさっぱり感がないため重たいものとなる。食した際の豚脂由来の食感の重たさを軽減してさっぱり感を付与するために、ポン酢などの酢や柑橘果汁を加えて食することもできるが、炒めたナスの歯応えが硬くなってしまい食感が悪くなることを本発明者らは見出した。
また、ナスを含む野菜炒めを調味するための調味液に野菜炒めの外観や風味の向上などを目的として、肉類のひき肉等の具材を含有させることがあるところ、ひき肉として豚ひき肉に代えて鶏ひき肉を用いると、調理品の食感における重たさは軽減されるがナスの色落ちや調味液の黒ずみが生じ色調が悪くなるという問題があることも本発明者らは見出した。
一方、豚ひき肉を用いた場合、調味料中に溶出した豚脂によりナスの色落ち等の軽減効果は期待できるが、食した際に豚脂の風味が強く後味が悪くなる等の問題があることも本発明者らは見出した。
したがって本発明は、肉類を含まないナスの炒めもの、あるいはナスと豚肉以外の肉類とを含むナスの炒めものを調理する際に用いられる調味料として、少なくともこれらのナスを含む炒めものの食感の重たさ及びナスの色調の劣化を低減するとともに、ナスの食感の低下を防止できる調味料を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ある特定の成分を含有せしめるとともに調味料の物性を改変することにより上記課題が解決できる可能性があることを見出し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、少なくとも以下の発明に関する:
[1]
豚肉を含まないナスの炒めものに使用する調味料であって、調味料全体の重量に対して0.2%~2.0%の豚脂を含み、pHが3.9~4.9である前記調味料。
[2]
酢又は柑橘果汁を含む[1]に記載の調味料。
[3]
調味料全体の重量に対する酢酸濃度が0.07%~0.75%であるか、又はクエン酸濃度が0.07%~0.45%である[1]又は[2]に記載の調味料。
[4]
調味料全体の重量に対して1.5%~17.5%の酢を含む[2]又は[3]に記載の調味料。
[5]
すりおろした野菜をさらに含む[1]~[4]のいずれかに記載の調味料。
[6]すりおろした野菜が大根おろしである[1]~[5]のいずれかに記載の調味料。
[7]
調味料全体の重量に対して3%~10%の、豚肉以外の肉類を含む[1]~[6]のいずれかに記載の調味料。
[8]
肉類が鶏肉を含む[7]に記載の調味料。
[9]
[1]~[8]のいずれかに記載の調味料を用いてナスを炒める工程を含む、豚肉を含まないナスの炒めものの製造方法。
[10]
[1]~[8]のいずれかに記載の調味料を用いることによる、豚肉を含まないナスの炒めものにおけるナスの食感又は外観を改善する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ナスを含む炒めもの、あるいは、さらに肉類を含むナスを含む炒めものを調理する際に用いられる調味料として、これらのナスの炒めものの食感の重たさ及びナスの色調の劣化を低減する調味料を提供することができる。
豚脂がナスの色調を好ましいものにすることは知られていた。しかしながら肉類を含まないサラダ油などで炒めたナスの炒めもの、あるいは、豚肉でない肉を用いたナスを含むナスの炒めものにおいて特定の量の豚脂を用いるとともにpHを調整することにより、ナスの色調を一層好ましいものにし、かつ食感の重たさを軽減できるといった相乗的な効果については、豚脂を用いる場合についても知見はなかった。これらのことを考慮すれば、本願発明が奏する効果は、当業者といえども予測することができない格別なものである。
豚脂を含む調味料について、特許文献2には食材に揉み込む等の方法により、食材の表面を被覆することで食材からのドリップ抑制と食品の風味向上とのバランスを向上させることが可能なラードを12.5~40%含む調味料が記載されている。また、とんこつ風味の野菜煮込み用調味料(特許文献3)が報告されている。しかしながらこれらの技術はいずれも野菜炒めのためのものではない。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明について、より詳細に説明する。
なお本明細書において「添加」又は「添加する」の語は、添加の対象となる2つの成分、物質及び材料のうち、両方が混在している状態にすることを意味する。すなわち、「AをBに添加する」の記載は、必ずしもBにAを加えることのみを限定的に意味するものではなく、AにBを加えることも包含して意味する。
また本明細書において、「%」により表される量・割合(濃度)は、他に特段の記載がない限り重量による割合を示す。
【0009】
本発明における「食感」とは、食物を食した際に生じる感覚を意味し、何らかの指標により程度を示しえるものである。かかる指標に「重さ」や「硬さ」も包含される。食感についての「重さ」とは、脂の風味や脂自体が口内に残存することによる、喫食時のさっぱりした感覚(さっぱり感)を阻害する食感の要素の指標である。
本発明においてある量又は程度を「低減する」とは、ある構成を具備することにより、当該構成を具備しないものに比較して、当該量又は程度が小さくなることを意味する。
本発明において、調味料がある成分を「含む」とは、当該成分が前記調味料中に存在することを意味し、成分の由来は限定されない。すなわち、前記「含む」には、元々原料中に存在している、原料中に存在していなかった成分を外部から添加する、あるいは調味料の製造過程において生じるといった、当該成分が存在することとなったいずれの場合も包含される。
本発明における酢酸濃度とは、醸造酢の日本農林規格に記載されている方法に準じて測定し、比重も考慮して計算した結果得られえる酢酸換算値(重量/重量%)である。
本発明におけるクエン酸濃度とは、果実飲料の日本農林規格に記載されている方法に準じて測定し、比重も考慮して計算した結果得られるクエン酸換算値(重量/重量%)である。
【0010】
本発明は上記のとおり、
豚肉を含まないナスの炒めものに使用する調味料であって、調味料全体の重量に対して0.2%~2.0%の豚脂を含み、pHが3.9~4.9である前記調味料、
に関する。
さらに本発明は、前記調味料に、豚肉でない肉類を調味料全体の重量に対して3%~10%含む前記調味料、にも関する。
【0011】
本発明における豚脂は豚の脂肪分から採取したものであれば限定されず、市販のものも用いることができる。市販の豚脂としてはポークオイル(株式会社司食品工業製)が挙げられる。また、豚の脂肪分(背脂)から採取した豚脂より精製された市販のラードを用いることもできる。
本発明においては、「ラード」と称されることがある豚由来の油脂製品も豚脂として用いることができる。また本発明においては、一般に豚脂と同義として「ラード」の語により特定される油脂製品も豚脂として用いることができる。
さらに本発明においては、JASに規定される、豚脂を原料とした精製ラード(脱臭などの処理をした豚脂)、精製ラードのうち精製した豚脂のみを使用した純製ラードや前記精製ラードにその他の油脂などを配合した調整ラードも豚脂として用いることができる。
【0012】
本発明の調味料に含有される豚脂の量は調味料全体の重量に対して0.2~2.0%であれば限定されず、本発明の調味料に含まれる他の成分の量及びナスに適用される調味料自体の量、ならびに必要に応じて、目的とする効果や他の成分の種類及び量等を基準に、設定することができる。
豚脂の量として調味料全体の重量に対して0.3%~1.5%は好ましく、0.5%~1.0%はより好ましい。
【0013】
一般にナスの炒めものを調味するための調味料においては、調味されたナスの炒めものに好ましい風味を付与するために、調味料に肉等の具材を加えることがある。一般的に調味料中に添加される肉類としては、調味料の使用目的に応じて、牛肉、豚肉、鶏肉、あるいは、粒状大豆蛋白質などが主として使用されるが、具材の肉として豚肉を添加した場合、豚肉に含まれる豚脂が調味料中に溶出してくるため、ナスの色落ちや調味液の黒ずみ等の問題は生じない。しかしながら、豚肉ではない肉類を添加した場合、調味されたナスの炒めものにおけるナスの色落ちが大きな問題となる。したがって、豚肉でない肉類を添加した場合においても、豚脂を含む本発明の調味料は好適に用いられる。
上記豚肉でない肉類を含む本発明の調味料における前記肉類の量は限定されないところ、かかる量として調味料全体の重量に対して3%~10%の量が挙げられ、3%~8%の量は好ましく、4%~7%の量ははより好ましい。
かかる肉類の種類は限定されず、鶏肉、牛肉、マトン、ラム、馬肉等からの1種又は2種以上が挙げられる。これらの肉類のうち、鶏肉は好ましい。
上記肉類を得る部位は限定されず、胸、羽、もも、肩等が挙げられる。鶏肉においては胸から得られる胸肉、とくにささみが好ましい。
【0014】
本発明の調味料のpHは上記の3.9~4.9の範囲であれば限定されないところ、4.2~4.9は好ましい。pHの調整は調味成分や食材の添加により行ってよい。
pHを上記範囲の酸性側に調整することにより、ナスに含まれるアントシアニンが、ナスから流出しにくくなるともに、明るい色彩を呈する。かかる効果と豚脂が有するナスの色調を好ましいものにする効果とが、本発明の調味料においては相乗的に作用する。
【0015】
本発明の調味料のうち調味料全体の重量に対する酢酸の濃度が0.07%~0.75%であるか、又はクエン酸の濃度が0.07%~0.45%であるものは好ましい。酢酸の濃度又はクエン酸の濃度がそれぞれ上記範囲の濃度である本発明の調味料においてはpHは上記の3.9~4.9の範囲に調整することをより簡便に行える。
【0016】
本発明の調味料においては酢を含むことにより、調味料のpHを一層効率的に調整することができる。また酢を含む本発明の調味料においては、酸味による風味が付与されてさっぱり感が付与されるとともに、ナスのえぐ味が豚脂との相乗的な効果により低減される。
本発明の調味料において酢が用いられる場合、酢の量は限定されない。例えば酢として穀物酢(マルカン酢社、酢酸濃度:4.2(w/w%))が用いられる場合、その量として調味料全体の重量に対して1.5%~17.5%の量が挙げられる。
本発明の調味料に用いられる酢の種類は限定されず、穀物酢、醸造酢、りんご酢及びワインビネガー等の食酢、高酸度酢、ならびに酢や香酸柑橘果汁を含む調味料であるぽん酢等が挙げられる。これらの酢の量は、酢酸の濃度を勘案してpHが上記の3.9~4.9の範囲になるように調節してよい。例えば前記穀物酢より酸度が高い高酸度酢を用いる場合には、前記穀物の量より少量で用いるなどしてよい。
なお醤油や野菜といった本発明の調味料に含んでよい材料が酸性のものである場合がありえるが、これらの材料の酸度の本発明の調味料全体の酸度への影響は小さい。
また、本発明の調味料においてはクエン酸等の有機酸の含有量が多い柑橘果汁を使用することもできる。柑橘果汁により、調味料のpHを一層効率的に調整することができる。また、柑橘果汁を含む本発明の調味料においては、酸味による風味によりさっぱり感が付与されるとともに、ナスのえぐ味が豚脂との相乗的な効果により低減される。
、あるいは酸味による風味が付与され、ナスのえぐ味が低減されえる。とくに、レモン、柚子、すだち、かぼす、シークワサー等の香酸柑橘を使用することが好ましい。
本発明の調味料において柑橘果汁が用いられる場合、柑橘果汁の量は限定されない。例えば濃縮レモン果汁が用いられる場合、その量として調味料全体の重量に対して0.2%~1.4%の量が挙げられる。
【0017】
本発明の調味料のうち、すりおろした野菜をさらに含むものは好ましい。すりおろした野菜を含むことにより、調味料のpHを一層効率的に調整することができる。かかる野菜として大根及び玉ねぎが例示される。
またすりおろした野菜、とくに大根おろしと豚脂とを併用する本発明の調味料においては、外観改善において相乗的な効果が奏される。理論に束縛されるものではないが、その理由は、豚脂は融点が比較的高いため、調理後に調理品の温度が喫食に適した温度程度に低下すると固化して物性に保形性が付与される。このため、豚脂を用いた場合にはすりおろした野菜の固形感・立体感が保持され、光を乱反射することにより外観が一層改善されると考えられる。またかかる効果は、所定量の豚脂が調味液に分散された油脂の状態で用いられたためであると考えられる。本発明においては豚脂の量を規定することにより、調味液又は調理品の鮮やかさを保つとともに、豚脂を調味液に均一に分散することができる。
【0018】
すりおろした野菜の量は、所望の効果が発揮される量であれば限定されず、例えば調味料全体の重量に対して10%~30%の量が挙げられる。
すりおろした野菜に用いられる野菜は限定されないところ、大根は好ましい。すなわち、本発明の調味料のうち、大根おろしを含むものは好ましい。大根おろしにより、調理品の外観(照り)が改善される。すなわち大根おろしの性状、すなわち一定の水分を含んだ半透明な固形物であることにより、光を乱反射して輝きをもたらし、食欲をそそる照りが増強される。
また大根おろしにより、本発明の調味料を用いた調理品の風味も改善される。すなわち大根おろしは上記のとおり一定の水分を含んだ固形物であるため、油脂を洗い流しさっぱりした風味を増強するといった効果とともに、酢などの刺激感を抑制しさっぱりした風味を増すことができるといった効果を奏する。
【0019】
しょう油及び砂糖をさらに含む本発明の調味料は、本発明の調味料を用いて調理された野菜炒めの風味が一層向上するため好ましい。
本発明の調味料におけるしょう油としては、通常の醸造方法によって得られるしょう油、濃い口しょう油、薄口しょう油、たまりしょう油、再仕込しょう油、しろしょう油等から選ばれる1種または2種以上を用いてよい。
本発明の調味料に用いられるしょう油の量は所望の効果が発揮される量であれば限定されず、例えば調味料全体の重量に対して8%~15%の量が挙げられる。
砂糖の量は所望の効果が発揮される量であれば限定されず、例えば調味料全体の重量に対して8%~15%の量が挙げられる。
【0020】
本発明の調味料には他の調味成分を含んでよい。かかる調味成分として以下のものが例示される:
ぶどう糖、果糖、水飴、異性化液糖などの糖類;
穀物酢、醸造酢などの食酢;
グルタミン酸ナトリウム、グリシン等のアミノ酸系調味料;
イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸系調味料等の調味料類;
でん粉、加工でん粉、多糖類、ガム類等の増粘剤;
大豆油、ナタネ油、ゴマ油、ラー油等の食用油脂類;
鰹エキス、鰹節エキス、ホタテエキス、昆布エキス等の魚介類・海産物エキス;
鶏、豚、牛等の畜肉類から得られる畜肉エキス;
ニンニクや生姜、椎茸等からの野菜エキス;
食塩、胡椒、酸味調味料、有機酸類、果汁、清酒、ワイン、発酵調味料、味噌、小麦粉、カレー粉、オイスターソース、乳化剤、香料、着色料、アルコール等。
【0021】
本発明の調味料の製造方法
本発明の調味料の製造方法は限定されず、調味料が最終的に調製される前のいずれかの工程において、所定量の豚脂を最終調製前の製品に添加して混和すればよい。豚肉でない肉類を含む本発明の調味料においては、所定量の同肉類を調味料が最終的に調製される前のいずれかの工程において添加して混和してよい。
また本発明の調味料の製造においては、水に各原料を添加したのち混ぜ合わせ、その後約80℃~90℃まで加熱し、いわゆる熱詰めにより容器に充填して製造してもよく、あるいは、そのまま放置して冷却することによって製造してよい。放置して冷却した後に、さらに所望の成分や水を加えて全体の構成を整えてもよい。また、野菜加工品などの具材の種類によっては、容器に充てん後レトルト処理により製造してもよい。
上記加熱に付する時間はとくに限定されない。例えば所望の温度に約10分かけて達温させ、その後すぐに冷却を開始してよいし、約5~10分程度当該温度に保持してもよい。
本発明の調味料においては、上記のようにして得た液状の本発明の調味料から加熱による乾燥等により水分を減じて半液状や固形状のものとしてもよい。
また本発明の調味料は、90℃達温により豚脂を溶かすとともに粘度を出して調味料を構成する調味液に前記溶解した豚脂を抱き込ませる工程を含む方法により製造してよい。本発明の調味料において粘度は限定されない。また粘度を付与するために増粘剤を用いてよいところ、かかる増粘剤の種類は限定されない。
本発明の調味料はまた、パウチに充填後レトルト殺菌(例:120℃、20分加熱)して製造してもよい。
【0022】
<本発明の調理品>
本発明により、上記本発明の調味料とナスとを炒めてなる調理品(ナスの炒めもの)も提供される。
本発明の調理品の種類は一般的にナスの炒めものであると認識されえる外観や名称を有するものであれば限定されないところ、かかるナスの炒めものは典型的には、油脂を多く含まず水分を多く含むナスの炒めものや、少量の油でナスを炒めて調理するナスの炒めものである。本発明の調理品の例としてはナスのみぞれ炒め、ナス炒め、ナスを含む野菜炒め、ナスを含む肉野菜炒めが例示される。
【0023】
本明細書において、ナスは、ナス、茄子、ナスビなどとして通常知られているナス科の植物の果実を意味する。本発明の組成物が対象とするナスは、果皮の色が紫色、赤紫色及び黒紫色のナスの果実であればよく、その形態、品種、産地などはとくに限定されない。例えば本発明の野菜炒めに含まれるナスの種類として、長茄子、丸茄子、千両茄子、小茄子、米茄子、賀茂茄子、及び水茄子が例示される。ナスが提供される形状は限定されず、くし形切り、薄切り、輪切り、半月切り及び乱切りが例示される。
本発明のナスの炒めものに含まれる野菜は限定されず、玉ネギ、長ネギ、ニンジン、ゴボウ、れんこん、生姜、ニンニク、ピーマン(赤ピーマンを包含する)、トマト、コーン及びタケノコが例示される。
本発明のナスの炒めものには他の食材を含んでよい。かかる食材は限定されず、以下のものが例示される:
シソ、パセリ、セロリ、ニラ、ミツバ等の香辛野菜類;
椎茸、マッシュルーム、エノキ、シメジ等のキノコ類;
リンゴ、ナシ、キウイ、パイナップル、梅等の果実類;
ゴマ、ナッツ、栗等の種実類;
ツナ、イカ、ホタテ、カニ、鮭等の魚介類;
ひじき、昆布、ワカメ等の海藻類;及び
卵、豆腐、油揚げ、こんにゃく、粒状大豆たんぱく等の加工食品。
【0024】
本発明のナスの炒めものにおいて用いられる本発明の調味料の量は、同調味料の所望の効果が発揮されるようであれば限定されない。かかる量は、例えば、ナス100gに対して60g~90gである。ナス100gに対する豚脂の量としては、0.12g~1.8gが例示される。
【0025】
本発明の調理品(ナスの炒めもの)の調理方法(製造方法)は限定されず、本発明の調味料とナスとを炒めることを含むものであってよい。より具体的には、例えばフライパンに適量の油を入れて熱し、ナスを中火で適切な時間の間炒めた後、本発明の調味料を加えてさらに炒めることにより、本発明の調理品を製造してよい。
他の食材を含む本発明のナスの炒めものについては、前記他の具材を本発明の調味料を加える前又は後に加えてよい。
本発明のナスの炒めものは豚肉以外の肉類を含んでよく、前記肉類は本発明の調味料に含まれるものであっても含まれないものであってもよい。本発明の調味料に含まれない前記肉類を用いる本発明のナスの炒めものにおいては、同肉類は本発明の調味料を加える前又は後に加えてよい。
【0026】
[例]
以下に本発明を実施例及び参考試験例によってより詳細に説明するが、本発明は如何なる意味においても当該実施例に限定されるものではない。
なお、各例の番号は実施例及び比較例の区別をせず通し番号にて示した。
【0027】
[参考試験例1]肉の種類の検討
(1)材料と方法
調味液を以下のようにして作製した。すなわち所定量の材料(表1に記載)を攪拌しながら90℃に達するまで加熱することで脂を溶解、粘度付与し、増粘剤を発現させ、脂を調味液に抱き込ませた後、レトルト処理(120℃、20分間)行った。肉類として、豚肉又は鶏肉を用いた。
フライパンに小匙1杯(3g)の油(ごま油)を入れて熱し、くし形に切ったナス100gを中火で3分間炒めた後、上記のようにして作製した調味料(調味液)80gを加えてさらに30秒炒め、ナスのみぞれ炒めを作製した。
3名の訓練された専門パネル(訓練期間:10年~15年)による評価を以下の基準により、調理後のナスの外観(照り・鮮やかさ)及び風味(さっぱり感)、えぐ味について行った。本発明におけるえぐ味とは、舌にまとわりつくような苦み、舌やのどがひりひりとするような味を意味し、とくに茄子を生で食した際に不快に感じる苦みや収斂味のような感覚を与える味である。
【0028】
(2)結果
表1に示すとおりであった。すなわち鶏肉を用いることにより風味(さっぱり感)は改善された一方、ナスの外観(照り・鮮やかさ)は豚肉に劣った。なお、各評定は3名のパネル間において一致していた。
【表1】
【0029】
[参考試験例2]酢の効果の検討
(1)材料と方法
参考試験例1における材料及び食酢を用い、参考試験例1の項において示した方法に従い、調味液を作製した。
フライパンに小匙1杯(3g)の油(菜種油)を入れて熱し、くし形に切ったナス100gを中火で3分間炒めた後、上記のようにして作製した調味料(調味液)80gを加えてさらに30秒炒め、ナスのみぞれ炒めを作製した。
参考試験例1と同様な、3名の訓練された専門パネル(訓練期間:10年~15年)による評価を、同じ基準により行った。なお、pHの測定は、東亜ディーケーケーpHメーターHM-25Rを用いて行い、食感(歯切れのよさ)及び風味(酢の刺激臭)についての評価も行った。
【0030】
(2)結果
表2に示すとおりであった。すなわち本試験例においては、食酢の量が調味料全体の重量に対して1.50%~17.5%の場合(pH4.85~3.90)にナスの外観が改善された。風味は1.50%~20.0%の範囲において優れていた。また、酢の添加により、さっぱりした後口になった。なお、各評定は3名のパネル間において一致していた。
下記各実施例・試験例において用いた総合評価の指標に照らすと、いずれのサンプルもも総合評価は×の評価に相当した。
【表2】
【0031】
[実施例・試験例1]豚脂の量、脂質の種類、大根おろしの量の検討
(1)材料と方法
参考試験例1における材料と豚脂、鶏脂もしくは牛脂とを用い、参考試験例1の項において示した方法に従い、調味液を作製した。用いられた各素材の種類及び量は表3に示した。
フライパンに3gの菜種油(さらさらキャノーラ油、J-オイルミルズ社製)入れて熱し、くし形に切ったナス100gを中火で3分間炒めた後、上記のようにして作製した調味料(調味液)80gを加えてさらに30秒炒め、ナスのみぞれ炒めを作製した。
参考試験例1及び2と同様な、3名の訓練された専門パネル(訓練期間:10年~15年)による評価を、同様な基準(「外観」について「○」を上回る評定として「◎」を設けた)により行った。なお、pHの測定は、東亜ディーケーケーpHメーターHM-25Rを用いて行い、食感(歯切れのよさ)についての評価も行った。
これら4項目についての総合的な評価結果による総合評価も行った。総合的な評価は、すべての評価項目が○の場合を○、ひとつでも△がある場合を△、ひとつでも×がある場合を×とし、とくに好ましいとの評価(◎)が3個以上である場合◎とした。
【0032】
(2)結果
表3に示すとおりであった。すなわち本発明の調味料を用いた場合には、外観及び風味ともに優れていた。なお、各評定は3名のパネル間において一致していた。
豚脂は調味料全体の重量に対して2.0%においては所望の効果を示したが、調味料全体の重量に対して4.0%においては風味における効果が奏されなかった。
【0033】
豚脂、鶏脂及び牛脂の中では、豚脂のみが所望の効果を奏した。鶏脂は風味を阻害しなかったが、外観改善効果はなかった。牛脂は外観改善効果を示したが、調理品の風味を阻害した。
植物油脂(菜種油)は風味を阻害しなかったが、外観改善効果はなかった。
【0034】
大根おろしは、調味料全体の重量に対して30%の量でも効果が認められた。
大根おろしと豚脂又は牛脂とを併用した場合には、外観改善において相乗的な効果が認められたが、大根おろしと鶏脂との併用においては、外観改善効果は上記のとおり認められなかった。豚脂又は牛脂は、鶏脂より融点が高いため、調理後に調理品が冷めると固化して物性に保形性を付与する。このため、豚脂又は牛脂を用いた場合には大根おろしの固形感・立体感が保持され、光を乱反射することにより外観が一層改善されると考えられた。またかかる効果は、豚脂又は牛脂が調味液に分散された油脂の状態で用いられたためであると考えられた。肉から発生する脂質の場合には同種の脂質であっても分散度が低く、本発明の調味料が奏する外観を改善する効果は奏さないと考えられた。
豚脂と穀物酢を併用することにより、えぐ味を抑制する効果が相乗的に奏された。
【表3】
【0035】
[実施例・試験例2]肉類を含まないナスの炒めもの
(1)材料と方法
参考試験例1における材料及び食酢を用い、参考試験例1の項において示した方法に従い、調味液を作製した。
フライパンに3gの菜種油(さらさらキャノーラ油、J-オイルミルズ社製)を入れて熱し、くし形に切ったナス100gを中火で3分間炒めた後、上記のようにして作製した調味料(調味液)80gを加えてさらに30秒炒め、ナスのみぞれ炒めを作製した。
参考試験例1及び2と同様な、3名の訓練された専門パネル(訓練期間:10年~15年)による評価を、同様な基準(「外観」について「○」を上回る評定として「◎」を設けた)により行った。なお、pHの測定は、東亜ディーケーケーpHメーターHM-25Rを用いて行い、食感(歯切れのよさ)及び風味(酢の刺激臭)についての評価も行った。
これら5項目についての総合的な評価結果による総合評価も行った。総合的な評価は、すべての評価項目が○の場合を○、ひとつでも△がある場合を△、ひとつでも×がある場合を×とし、とくに好ましいとの評価(◎)が3個以上である場合◎とした。
【0036】
(2)結果
表4に示すとおりであった。すなわち本発明の調味料を用いた場合には、外観及び風味ともに優れていた。なお、各評定は3名のパネル間において一致していた。
これらの結果から、本発明の調味料は肉類を含まないナスの炒めものにおいても所望の効果を奏することが明らかになった。
【表4】
【0037】
[実施例・試験例3]pHを調整する成分の検討
(1)材料と方法
参考試験例1における材料、及び食酢又は濃縮レモン果汁(レモン果汁5344(雄山社製)濃縮倍率 6.6倍)を用い、参考試験例1の項において示した方法に従い、調味液を作製した。
フライパンに3gの菜種油(さらさらキャノーラ油、J-オイルミルズ社製)を入れて熱し、くし形に切ったナス100gを中火で3分間炒めた後、上記のようにして作製した調味料(調味液)80gを加えてさらに30秒炒め、ナスのみぞれ炒めを作製した。
参考試験例1及び2と同様な、3名の訓練された専門パネル(訓練期間:10年~15年)による評価を、同様な基準(「外観」について「○」を上回る評定として「◎」を設けた)により行った。なお、pHの測定は、東亜ディーケーケーpHメーターHM-25Rを用いて行い、食感(歯切れのよさ)及び風味(酢又はレモン果汁の刺激臭)についての評価も行った。
これら5項目についての総合的な評価結果による総合評価も行った。総合的な評価は、すべての評価項目が○の場合を○、ひとつでも△がある場合を△、ひとつでも×がある場合を×とし、とくに好ましいとの評価(◎)が3個以上である場合◎とした。
クエン酸濃度は、果実飲料の日本農林規格に記載されている方法に準じて測定し、比重も考慮して計算した結果得られるクエン酸換算値(重量/重量%)である。
【0038】
(2)結果
表5に示すとおりであった。すなわち本発明の調味料を用いた場合には、外観及び風味ともに優れていた。なお、各評定は3名のパネル間において一致していた。
これらの結果から、本発明の調味料においては果汁を用いることができることが明らかになった。
豚脂とレモン濃縮果汁とを併用することにより、えぐ味を抑制する効果が相乗的に奏された。
【表5】
【0039】
[実施例・試験例4]大根おろしを含まないナスの炒めもの
(1)材料と方法
参考試験例1における材料と豚脂を用い、参考試験例1の項において示した方法に従い、調味液を作製した。用いられた各素材の種類及び量は表6に示した。
フライパンに3gの菜種油(さらさらキャノーラ油、J-オイルミルズ社製)入れて熱し、くし形に切ったナス100gを中火で3分間炒めた後、上記のようにして作製した調味料(調味液)80gを加えてさらに30秒炒め、ナスの炒めものを作製した。
参考試験例1及び2と同様な、3名の訓練された専門パネル(訓練期間:10年~15年)による評価を、同様な基準(「外観」について「○」を上回る評定として「◎」を設けた)により行った。なお、pHの測定は、東亜ディーケーケーpHメーターHM-25Rを用いて行い、食感(歯切れのよさ)についての評価も行った。
これら5項目についての総合的な評価結果による総合評価も行った。総合的な評価は、すべての評価項目が○の場合を○、ひとつでも△がある場合を△、ひとつでも×がある場合を×とし、とくに好ましいとの評価(◎)が3個以上である場合◎とした。
【0040】
(2)結果
表6に示すとおりであった。すなわち本発明の調味料は大根おろしを含まなくても、豚脂を調味料全体に対して0.20%、0.50%又は2.0%配合することにより、ナスの炒めものの外観及び食感について顕著な改善効果を奏した。なお、各評定は3名のパネル間において一致していた。
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によればナス及び肉類を含むナスの炒めものを調理する際に用いられる調味料として、ナスの炒めものの食感の重たさ及びナスの色調の劣化を低減する調味料が提供される。したがって本発明は調味料製造産業及びその関連産業の発展に寄与するところ大である。