IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トクヤマの特許一覧

<>
  • 特許-改質フライアッシュの製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】改質フライアッシュの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B03D 1/02 20060101AFI20231025BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20231025BHJP
   B03D 1/006 20060101ALI20231025BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20231025BHJP
   B03D 103/00 20060101ALN20231025BHJP
   B03D 101/02 20060101ALN20231025BHJP
   B03D 101/04 20060101ALN20231025BHJP
【FI】
B03D1/02
C04B18/08 Z ZAB
B03D1/006
B09B5/00 N
B03D103:00
B03D101:02
B03D101:04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019228486
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2021094538
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100191204
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 春彦
(72)【発明者】
【氏名】大村 昂平
(72)【発明者】
【氏名】関 卓哉
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-023018(JP,A)
【文献】特開平08-325650(JP,A)
【文献】特開2010-017619(JP,A)
【文献】特開2017-042709(JP,A)
【文献】特開2012-219313(JP,A)
【文献】特開2008-285653(JP,A)
【文献】特開2015-199006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03D 1/02
C04B 18/08
B03D 1/006
B09B 5/00
B03D 103/00
B03D 101/02
B03D 101/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊選鉱法により、石炭専焼灰及びバイオマス混焼灰から選ばれるフライアッシュから未燃カーボンを分離し、未燃カーボン量が2.0質量%以下に低減された改質フライアッシュを製造する方法であって、
前記フライアッシュと水と捕集剤と起泡剤とを含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリーに対して、下方からガスを供給して気泡を発生させ、該スラリー上に形成された未燃カーボンを含むフロスを除去するフロス除去工程と、
前記フロスを除去したスラリーに対して、水及び捕集剤を添加する捕集剤補充工程と、
前記水及び捕集剤を添加したスラリーに対して、下方からガスを供給して気泡を発生させ、スラリー上に形成された未燃カーボンを含むフロスを除去する追加フロス除去工程と、
を有し、
前記捕集剤補充工程における捕集剤の添加量が、前記スラリー調製工程における捕集剤添加量の10~50質量%であり、
前記捕集剤の総添加量が、
前記フライアッシュが石炭専焼灰の場合、フライアッシュ中の未燃カーボン量の1.2質量%以上5.0質量%未満であり、
前記フライアッシュがバイオマス混焼灰の場合、フライアッシュ中の未燃カーボン量の10質量%以上35質量%以下である
ことを特徴とする改質フライアッシュの製造方法。
【請求項2】
前記フロス除去工程終了後の工程において、起泡剤を添加しないことを特徴とする請求項記載の改質フライアッシュの製造方法。
【請求項3】
浮遊選鉱法によりフライアッシュから未燃カーボンを分離し、未燃カーボン量が低減された改質フライアッシュを製造する方法であって、
前記フライアッシュと水と捕集剤と起泡剤とを含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリーに対して、下方からガスを供給して気泡を発生させ、該スラリー上に形成された未燃カーボンを含むフロスを除去するフロス除去工程と、
前記フロスを除去したスラリーに対して、水及び捕集剤を添加する捕集剤補充工程と、
前記水及び捕集剤を添加したスラリーに対して、下方からガスを供給して気泡を発生させ、スラリー上に形成された未燃カーボンを含むフロスを除去する追加フロス除去工程と、
を有し、
前記フロス除去工程終了後の工程において、起泡剤を添加しない
ことを特徴とする改質フライアッシュの製造方法。
【請求項4】
前記捕集剤補充工程における捕集剤の添加量が、スラリー調製工程における捕集剤添加量の10~50質量%であることを特徴とする請求項記載の改質フライアッシュの製造方法。
【請求項5】
前記捕集剤の総添加量が、フライアッシュ中の未燃カーボン量の1.2~35質量%であることを特徴とする請求項3又は4記載の改質フライアッシュの製造方法。
【請求項6】
前記フライアッシュが、未燃カーボンを7.0質量%以上含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか記載の改質フライアッシュの製造方法。
【請求項7】
前記フライアッシュが、バイオマス混焼灰であることを特徴とする請求項1~6のいずれか記載の改質フライアッシュの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未燃カーボン量が低減された改質フライアッシュの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント混合材、コンクリート混合材、モルタル混合材等としてフライアッシュが使用されているが、このフライアッシュは、一般に、炭素分の燃え残りとされる未燃カーボン量が少ないものが好適とされている。例えば、フライアッシュ中の未燃カーボン量が多いと、モルタルやコンクリートの表面に未燃カーボンが浮き出し、黒色部が発生することがある。また、モルタルやコンクリートに添加される化学混和剤などの薬剤が、未燃カーボンに吸着されるといった問題がある。
【0003】
しかしながら、一般に、石炭火力発電所から発生するフライアッシュは、その未燃カーボン量が一様ではなく、多いもので15質量%ほど存在するものもあり、セメント混合材等として好適なものは、一部に限られているのが現状である。
【0004】
このような状況下、フライアッシュに含まれる未燃カーボンを低減する方法が種々提案されており、例えば、燃焼法、分級法、浮遊選鉱法(以下、浮選と記す)などが提案されている。
【0005】
浮選は、フライアッシュ中の未燃カーボンを効率的に除去できる方法の一つであり、この浮選においては、フライアッシュの中の灰粒子と未燃カーボン粒子の分離性を向上させるために捕集剤が使用され、さらに、気泡の生成、安定化を促進するために起泡剤が使用される。この捕集剤には、一般に灯油(ケロシン)や重油が使用され、起泡剤には、一般にパインオイルやMIBCなどが使用されている。
【0006】
しかしながら、このフライアッシュの浮選プロセスでは、これらの薬剤コストが占める割合が大きく、高い薬剤コストが大きな問題となっている。また、製品中や廃液中に薬剤が含まれてしまうため、これを除去するプロセスが必要となることも問題となっている。さらに、製品中に含まれる灯油などの捕集剤は、これを加熱により除去しようとすると、灯油からCOが発生し、環境影響の観点からも好ましくないものである。
【0007】
このような捕集剤の使用量を低減した浮遊選鉱法として、例えば、フライアッシュに水を加えてスラリーとし、該スラリーに捕集剤を添加し、円筒状の本体を軸線方向に貫通する回転軸と、前記本体内を軸線方向に分割して形成される複数の部屋と、前記回転軸に固定され前記各部屋の内部で回転する撹拌羽根とを備えた液中撹拌装置に、前記スラリー及び捕集剤を供給して剪断力を付与し、前記剪断力を付与したスラリー及び捕集剤に起泡剤を添加し、撹拌して気泡を発生させ、該気泡に前記フライアッシュの未燃カーボンを付着させて浮上させることを特徴とするフライアッシュ中の未燃カーボンの除去方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、この方法は、特殊な液中撹拌装置を使用する方法であり、新たな装置導入によるコスト増が発生すると共に、この液中撹拌装置には問題点があることが指摘されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-7485号公報
【文献】特開2007-167787号公報の段落[0006]、段落[0007]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、捕集剤の使用量を抑制できる新規な浮選プロセスを用いて未燃カーボン量が低減されたフライアッシュを製造する改質フライアッシュの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、捕集剤の添加及び浮選分離を複数回に分けて行うことにより、捕集剤の使用量を著しく抑制でき、かつ未燃カーボンを十分に除去できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
また、本発明者らは、近年発生量が増加しているバイオマス系燃料を石炭と併用して燃焼した際に発生するフライアッシュ(以下、バイオマス混焼灰と記す)は、通常の浮遊選鉱法では、十分に未燃カーボンを除去できないことを知見すると共に、本発明の方法を用いることにより、このようなバイオマス混焼灰も十分に未燃カーボン量を低減できることを見いだした。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1]浮遊選鉱法によりフライアッシュから未燃カーボンを分離し、未燃カーボン量が低減された改質フライアッシュを製造する方法であって、前記フライアッシュと水と捕集剤と起泡剤とを含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、前記スラリーに対して、下方からガスを供給して気泡を発生させ、該スラリー上に形成された未燃カーボンを含むフロスを除去するフロス除去工程と、前記フロスを除去したスラリーに対して、水及び捕集剤を添加する捕集剤補充工程と、前記水及び捕集剤を添加したスラリーに対して、下方からガスを供給して気泡を発生させ、スラリー上に形成された未燃カーボンを含むフロスを除去する追加フロス除去工程と、を有することを特徴とする改質フライアッシュの製造方法。
【0014】
[2]前記スラリー調製工程における捕集剤の添加量が、フライアッシュ中の未燃カーボン量の1.0~30質量%であることを特徴とする[1]記載の改質フライアッシュの製造方法。
[3]前記捕集剤補充工程における捕集剤の添加量が、スラリー調製工程における捕集剤添加量の10~50質量%であることを特徴とする[1]又は[2]記載の改質フライアッシュの製造方法。
[4]前記捕集剤の総添加量が、フライアッシュ中の未燃カーボン量の1.2~35質量%であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか記載の改質フライアッシュの製造方法。
[5]前記フロス除去工程終了後の工程において、起泡剤を添加しないことを特徴とする[1]~[4]のいずれか記載の改質フライアッシュの製造方法。
[6]前記フライアッシュが、未燃カーボンを7.0質量%以上含むことを特徴とする[1]~[5]のいずれか記載の改質フライアッシュの製造方法。
[7]前記フライアッシュが、バイオマス混焼灰であることを特徴とする[1]~[6]のいずれか記載の改質フライアッシュの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の改質フライアッシュの製造方法によれば、少量の捕集剤を用いて、フライアッシュ中の未燃カーボン量を十分に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】比較例1における捕集剤使用量と改質フライアッシュの未燃カーボン量(強熱減量)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の改質フライアッシュの製造方法は、浮遊選鉱法によりフライアッシュから未燃カーボンを分離し、未燃カーボン量が低減された改質フライアッシュを製造する方法であって、以下の(1)~(4)の工程を有することを特徴とする。
【0018】
(1)フライアッシュと水と捕集剤と起泡剤とを含むスラリーを調製するスラリー調製工程
(2)スラリーに対して、下方からガスを供給して気泡を発生させ、スラリー上に形成された未燃カーボンを含むフロスを除去するフロス除去工程
(3)フロスを除去したスラリーに対して、水及び捕集剤を添加する捕集剤補充工程
(4)水及び捕集剤を添加したスラリーに対して、下方からガスを供給して気泡を発生させ、スラリー上に形成された未燃カーボンを含むフロスを除去する追加フロス除去工程
【0019】
従来の技術では、スラリー調製工程及びフロス除去工程によって、未燃カーボンの除去を行っていたが、本発明の方法においては、その後に、捕集剤補充工程及び追加フロス除去工程を追加して行う。なお、本発明の方法における処理は、バッチ式処理であっても、連続式処理であってもよい。
【0020】
本発明の方法は、捕集剤の添加量が従来よりも少量であっても、フライアッシュ中の未燃カーボン量(以下、強熱減量と記すことがある)を十分に低減することができる。したがって、薬剤コストの低減や、廃液や製品への薬剤混入量の低減を図ることができる。また、未燃カーボンを除去しにくいバイオマス混焼灰でも十分に未燃カーボン量を低減することができる。
【0021】
以下、本発明の方法における各工程を詳細に説明する。
(1)スラリー調製工程
スラリー調製工程は、フライアッシュと水と捕集剤と起泡剤とを含むスラリーを調製する工程である。例えば、フライアッシュ、水、捕集剤を混合撹拌してエマルション化した後、起泡剤を添加することが好ましい。混合撹拌に用いるミキサーは、剪断力が十分に働き、油滴が水中に分散してエマルション化することが可能なものであれば特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。
【0022】
本発明の方法において処理に供するフライアッシュ(原料フライアッシュと記すことがある)としては、石炭火力発電所などの石炭を燃焼する設備において発生する一般的なフライアッシュの他、石炭と共に、石炭以外の燃料(バイオマス系燃料等)や可燃系廃棄物が混焼され発生したフライアッシュなどの多様なフライアッシュを用いることができる。
【0023】
原料フライアッシュ中の未燃カーボン量は特に制限されないが、未燃カーボン量が好ましくは7.0質量%以上、より好ましくは9.0質量%以上、さらに好ましくは10.0質量%以上の原料フライアッシュを用いる場合に、本発明の効果がより顕著に現れる。
また、石炭及びバイオマス系燃料が混焼されたバイオマス混焼灰において、本発明の効果がより顕著に現れる。
【0024】
本発明の方法によれば、未燃カーボン量を5.0質量%以下、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以下に低減することができる。
【0025】
本発明における未燃カーボン量の測定は、JIS A 6201に記載される強熱減量の測定方法を用いて行われる。なお、本発明においては、強熱減量=未燃カーボン量として扱う。
【0026】
原料フライアッシュと水の配合割合(質量比)は、1:100~50:100程度が好ましい。この範囲で配合することにより、効率的に処理を行うことができる。
【0027】
捕集剤は、フライアッシュの中の灰粒子と未燃カーボン粒子の分離性を向上させるための薬剤であり、本発明の方法においては、例えば、灯油(ケロシン)、軽油、重油といった従来から浮選で用いられている公知の捕集剤を使用することができる。
【0028】
本工程における捕集剤の添加量は、フライアッシュの種類や未燃カーボン量によって変更することが可能であるが、上記のように、従来の浮選の場合に比して少量の配合でよい。例えば、フライアッシュ中の未燃カーボン量の1.0~30質量%であることが好ましく、1.2~25質量%であることがより好ましく、1.5~20質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
特に、通常のフライアッシュ(石炭専焼灰)を用いる場合には、少量であっても効果が得られやすいため、捕集剤の添加量は、フライアッシュ中の未燃カーボン量の好ましくは5.0質量%未満、より好ましくは4.0質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以下、特に好ましくは2.0質量%以下であってもよい。なお、下限側は、フライアッシュ中の未燃カーボン量の好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは1.2質量%以上であり、さらに好ましくは1.5質量%以上である。
【0030】
一方、フライアッシュとしてバイオマス混焼灰を用いる場合には、石炭専焼灰の場合に比して捕集剤を多量に必要とする傾向にあり、捕集剤の添加量は、フライアッシュ中の未燃カーボン量の好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。なお、上限側は、フライアッシュ中の未燃カーボン量の好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。
なお、前記の通りバイオマス混焼灰は、石炭に加えてバイオマス系燃料を共に焼成した際に生じる灰であるが、バイオマス系燃料の混焼率が10質量%を超えるような場合に上記傾向が顕著である。
【0031】
起泡剤は、気泡の生成と安定化を促進するために添加する。起泡剤としては、パインオイル、MIBC、ターピネオールといった従来から浮選で用いられている公知の起泡剤を使用することができる。
【0032】
起泡剤の添加量は、フライアッシュの種類や未燃カーボン量によって変更することが可能であるが、一般に、スラリー調製工程で使用する水量1000mLに対し0.1mL以上添加することが好ましい。これにより、気泡の安定性が増し、未燃カーボン除去効率を向上させることができる。
なお、本発明の方法においては、本工程において起泡剤を添加しておけば、フロス除去工程終了後の工程(例えば、捕集剤補充工程)において起泡剤を必ずしも添加する必要はない。
【0033】
(2)フロス除去工程
フロス除去工程は、スラリーに対して、下方からガスを供給して気泡を発生させ、スラリー上に形成された未燃カーボンを含むフロスを除去する工程である。
【0034】
本工程においては、下方からガスを供給することで気泡を生成し、当該気泡に未燃カーボンを付着させてスラリー上にフロスとして浮上させ、スラリーから未燃カーボンを除去する。スラリー上に浮上したフロスは、例えば、自然にオーバーフローさせるか、機械的にかきとることで除去することができる。
【0035】
本工程の処理は、通常、公知の浮選機を用いて行われる。浮選機は、例えば、浮選機セル、インペラ、空気供給機構等から構成される。浮選機セル内に供給したスラリーをインペラで撹拌しながら、下方からガスを供給して気泡を生成させ、スラリー上にフロスを浮上させて未燃カーボンを除去する。
【0036】
ここで、浮選機セル内に供給するスラリーの総量は特に限定されないが、一般に浮選機セル容量に対して50~95%の範囲で供給することが好ましく、60~85%の範囲で供給することがより好ましい。この範囲で供給することにより、フロス以外のスラリーがオーバーフローすることを防止して、効率的に処理を行うことができる。
【0037】
本工程において用いるガスの種類は特に限定されないが、経済性の観点から空気を用いることが好ましい。ガスの供給方法としては、コンプレッサー等を使用して強制的に供給する方法や、インペラの回転を利用して自然吸気する方法を挙げることができる。
【0038】
(3)捕集剤補充工程
捕集剤補充工程は、フロス除去工程においてフロスを除去したスラリーに対して、水及び捕集剤を添加(補充)する工程である。
従来の浮選は、フロス除去工程で終了していたが、本発明の方法においては、この後に捕集剤補充工程及び追加フロス除去工程を行う。これにより、捕集剤の使用量を抑制しつつ、未燃カーボンの十分な除去を行うことができる。
なお、未燃カーボン残存量に応じて、捕集剤補充工程及び追加フロス除去工程を繰り返してもよい。
【0039】
本工程で用いる捕集剤としては、スラリー調製工程と同様、従来公知のものを用いることができるが、スラリー調製工程で用いたものと同じ種類の捕集剤が好ましい。また、この捕集剤の添加前に、スラリーを混合撹拌することが好ましい。これにより、より効果的に未燃カーボンを除去することができる。
【0040】
本工程における捕集剤の添加量としては、スラリー調製工程における捕集剤添加量の10~50質量%であることが好ましく、15~45質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがさらに好ましい。水及び捕集剤の割合は特に限定されないが、スラリー調製工程におけるスラリーの水と捕集剤の割合と同程度(捕集剤濃度が±10質量%程度の範囲)であることが好ましい。
【0041】
また、水及び捕集剤は、フロス除去工程と同様に、補充後のスラリー総量が、浮選機セル容量に対して50~95%の範囲となるように供給することが好ましく、60~85%の範囲となるように供給することがより好ましい。
【0042】
(4)追加フロス除去工程
追加フロス除去工程は、捕集剤補充工程において水及び捕集剤を添加したスラリーに対して、下方からガスを供給して気泡を発生させ、スラリー上に形成された未燃カーボンを含むフロスを除去する工程である。本工程における操作は、基本的に、フロス除去工程の操作と同様である。
【0043】
以上の(1)スラリー調製工程~(4)追加フロス除去工程を行い、最終的に残存したスラリーを回収する。このようにして回収される改質フライアッシュは、従来の浮選と比較して、少量の捕集剤しか用いていないにもかかわらず、従来の浮選よりも未燃カーボン量が低減されたものとなる。
【0044】
本発明の方法における捕集剤の総添加量としては、フライアッシュ中の未燃カーボン量の1.2~35質量%であることが好ましく、1.5~30質量%であることがより好ましく、1.8~25質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
特に、通常のフライアッシュ(石炭専焼灰)を用いる場合には、少量であっても効果が得られやすいため、捕集剤の添加量は、フライアッシュ中の未燃カーボン量の5.0質量%未満、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下であってもよい。なお、下限側は、フライアッシュ中の未燃カーボン量の好ましくは1.2質量%以上であり、より好ましくは1.5質量%以上であり、さらに好ましくは1.8質量%以上である。
【0046】
一方、フライアッシュとしてバイオマス混焼灰を用いる場合には、石炭専焼灰の場合に比して捕集剤を多量に必要とする傾向にあり、捕集剤の添加量は、フライアッシュ中の未燃カーボン量の好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは18質量%以上である。なお、上限側は、フライアッシュ中の未燃カーボン量の好ましくは35質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0047】
(5)脱水・乾燥工程
当該残存したスラリーは水分や薬剤を含んでいるため、脱水処理することが好ましい。脱水方法は特に限定されず、工業的にはスクリュープレスやフィルタープレスなどの公知の脱水機を用いて行うことができる。
【0048】
次いで、脱水後に得られるケーキを乾燥する。乾燥方法は特に限定されず、公知の方法を使用することができる。工業的には、流動層乾燥機やロータリードライヤーなどを用いることができる。
【0049】
このようにして得られた改質フライアッシュは、単独で又は他の成分と併用して、セメント混合材、モルタル混合材(モルタル混和剤)、コンクリート混合材(コンクリート混和剤)等として使用することができる。一方、回収された未燃カーボンは、燃料等として利用することができる。
【実施例
【0050】
以下に実施例及び比較例を示すが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
なお、本実施例においては、フライアッシュ中の未燃カーボン量を強熱減量と記す。強熱減量の測定は、JIS A 6201に記載される強熱減量の測定方法により行った。
【0051】
原料フライアッシュは、下記表1に示すフライアッシュA(バイオマス混焼灰)、フライアッシュB(石炭専焼灰)の2種類を使用した。
フライアッシュAは、石炭及びバイオマス燃料(木材ペレット)を燃料とした際に発生したフライアッシュであり、強熱減量は10.6質量%であった。
フライアッシュBは、石炭のみを燃料とした際に発生したフライアッシュであり、強熱減量は9.7質量%であった。
【0052】
【表1】
【0053】
本実施例の処理では、水として上水を使用し、捕集剤としてケロシンを使用し、起泡剤としてパインオイルを使用した。なお、捕集剤及び起泡剤の質量は、灯油の比重を0.8g/mlとし、パインオイルの比重を0.92g/mlとして、算出した。
【0054】
また、スラリー調製工程における処理条件は、下記の通りである。
ミキサー種類:家庭用ミキサー
ミキサー容量:3000mL
撹拌羽根径:φ80mm
撹拌羽根回転数:5000rpm
処理時間:3分
【0055】
フロス除去工程及び追加フロス除去工程における処理条件は、下記の通りである。
セル容量:3000mL
インペラ径:φ60mm
インペラ回転速度:1400rpm
処理時間(1回あたり):5分
ガス供給方法:インペラ回転による自然吸気式
【0056】
まず、比較例1及び実施例1~5として、フライアッシュA(バイオマス混焼灰)を使用した場合の例を示す。
【0057】
[比較例1]
フライアッシュA 500g、水 2500mL、所定量の捕集剤を混合撹拌してスラリーを調製した。このとき、捕集剤の使用量は1mL、10mL、30mL、50mL、70mL(捕集剤/水=0.04~2.8Vol%)とした。なお、このときのスラリー総量は、浮選機セル容量に対して90%程度とした。当該スラリーに起泡剤1mLを添加した(スラリー調製工程)。その後、浮選処理を行い、発生したフロスを除去して残ったスラリーを回収した(フロス除去工程)。当該残存したスラリーを吸引ろ過により脱水した後、100℃にて24時間乾燥して水分を十分に除去して改質フライアッシュとし、強熱減量を測定した。
【0058】
図1に、捕集剤使用量と改質フライアッシュの強熱減量との関係を示す。なお、原料フライアッシュ中の未燃カーボン量に対する捕集剤(1mL、10mL、30mL、50mL、70mL)の添加割合は、それぞれ、1.5質量%、15.1質量%、45.3質量%、75.5質量%、105.7質量%であった。
【0059】
[実施例1]
比較例1と同様の手順で捕集剤10mL、起泡剤1mLを使用して浮選処理までを行い、発生したフロスを除去した(スラリー調製工程、フロス除去工程)。このとき、浮選機セル内に残存するスラリーのうち850mLがフロスと同時に除去されていた。当該残存したスラリーに対して、水と捕集剤との混合物(捕集剤/水=0.4Vol%)を850mL追加した後(捕集剤補充工程)、同様に浮選処理を行い、発生したフロスを除去して残ったスラリーを回収した(追加フロス除去工程)。
【0060】
なお、本実施例では、条件を揃える目的で1回目の浮選処理と同じ液面に調整して、2回目以降の浮選処理を行った。当該残存したスラリーを吸引ろ過により脱水した後、100℃にて24時間乾燥して水分を十分に除去して改質フライアッシュとし、強熱減量を測定した。
【0061】
2回目の浮選処理後に得られた改質フライアッシュの強熱減量は、1.6質量%であった。
なお、2回の浮選処理で使用した捕集剤の合計量は13.4mLであった。また、原料フライアッシュ中の未燃カーボン量に対する捕集剤の添加割合は、15.1質量%(スラリー調製工程)、及び5.1質量%(捕集剤補充工程)であり、合計20.2質量%であった。
【0062】
[実施例2]
実施例1と同様の手順で浮選処理を3回繰り返した(捕集剤補充工程及び追加フロス除去工程を2回)。2回目の浮選処理後に残存したスラリーのうち660mLがフロスと同時に除去されていたため、3回目の浮選処理前には水と捕集剤との混合物(捕集剤/水=0.4Vol%)を660mL追加した。
【0063】
3回目の浮選処理後に得られた改質フライアッシュの強熱減量は1.4質量%であった。
なお、3回の浮選処理で使用した捕集剤の合計量は16.0mLであった。また、原料フライアッシュ中の未燃カーボン量に対する捕集剤の添加割合は、15.1質量%(スラリー調製工程)、5.1質量%(捕集剤補充工程1回目)、及び4.0質量%(捕集剤補充工程2回目)であり、合計24.2質量%であった。
【0064】
[実施例3]
実施例1に示す手順に加え、2回目の浮選処理前に水と捕集剤との混合物だけでなく起泡剤を追加して一連の処理を実施した。具体的には、2回目の浮選処理前に、水と捕集剤との混合物(捕集剤/水=0.4Vol%)を800mL、起泡剤を0.3mL追加した。なお、起泡剤の追加量は次の方法により計算した。即ち、1回目の浮選処理の前後でスラリー中の起泡剤の濃度が変わっていないと仮定し、2回目の浮選処理における起泡剤濃度を1回目と同等にするために、水と捕集剤との混合物の追加量を2510(水2500mL+捕集剤10mL)で除して得た値を起泡剤の追加量とした。
【0065】
2回目の浮選処理後に得られた改質フライアッシュの強熱減量は1.7質量%であった。
なお、2回の浮選処理で使用した捕集剤の合計量は13.2mLであった。また、原料フライアッシュ中の未燃カーボン量に対する捕集剤の添加割合は、15.1質量%(スラリー調製工程)、及び4.8質量%(捕集剤補充工程)であり、合計19.9質量%であった。
【0066】
[実施例4]
実施例2に示す手順に加え、2回目及び3回目の浮選処理前に水と捕集剤との混合物だけでなく起泡剤を追加して一連の処理を実施した。
具体的には、2回目の浮選処理前に水と捕集剤との混合物(捕集剤/水=0.4Vol%)を800mL、起泡剤を0.3mL追加した。さらに、3回目の浮選処理前に水と捕集剤との混合物(捕集剤/水=0.4Vol%)を570mL、起泡剤を0.2mL追加した。
【0067】
3回目の浮選処理後に得られた改質フライアッシュの強熱減量は1.3質量%であった。
なお、3回の浮選処理で使用した捕集剤の合計量は15.5mLであった。また、原料フライアッシュ中の未燃カーボン量に対する捕集剤の添加割合は、15.1質量%(スラリー調製工程)、4.8質量%(捕集剤補充工程1回目)、及び3.4質量%(捕集剤補充工程2回目)であり、合計23.4質量%であった。
【0068】
以上の結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示すように、本発明に係る実施例1~4においては、比較例1(30mL)に比して捕集剤の使用量が少ないにもかかわらず、強熱減量が低減した。また、捕集剤補充工程及び追加フロス除去工程を2回繰り返した実施例2及び4は、捕集剤補充工程及び追加フロス除去工程が1回の実施例1及び3に比して、さらに強熱減量が低減した。
比較例1の従来の方法では、バイオマス混焼灰の強熱減量を十分に低下させることができなかったが、本発明に係る実施例1~4の方法では、捕集剤の使用量が少ないにもかかわらず、1%近くまで低下させることができた。
なお、フロス除去工程終了後の工程で起泡剤を添加しなくても、十分な強熱減量低減効果が得られた。したがって、本発明の方法においては、高価な起泡剤を追加する必要がない。
【0071】
次に、比較例2及び実施例5として、フライアッシュB(石炭専焼灰)を使用した場合の例を示す。
【0072】
[比較例2]
フライアッシュB 500g、水 2500mL、所定量の捕集剤を混合撹拌してスラリーを調製した。このとき、捕集剤の使用量は1mL及び10mL(捕集剤/水=0.04Vol%及び0.4Vol%)とした。当該スラリーに起泡剤0.3mLを添加した(スラリー調製工程)。その後、浮選処理を行い、発生したフロスを除去して残ったスラリーを回収した(フロス除去工程)。当該残存したスラリーを吸引ろ過により脱水した後、100℃にて24時間乾燥して水分を十分に除去して改質フライアッシュを得た。
【0073】
得られた改質フライアッシュの強熱減量は、捕集剤を1mL使用した場合(未燃カーボン量に対する捕集剤の添加割合1.5質量%)で2.2質量%、捕集剤を10mL使用した場合(未燃カーボン量に対する捕集剤の添加割合15.1質量%)で1.6質量%であった。
【0074】
[実施例5]
比較例2と同様の手順で捕集剤1.0mL、起泡剤0.3mLを使用して浮選処理までを行い、発生したフロスを除去した(スラリー調製工程、フロス除去工程)。このとき、浮選機セル内に残存するスラリーのうち、660mLがフロスと同時に除去されていたことがわかった。当該残存したスラリーに対して水と捕集剤との混合物(捕集剤/水=0.4Vol%)を660mL追加した後(捕集剤補充工程)、同様に浮選処理を行い、発生したフロスを除去して残ったスラリーを回収した(追加フロス除去工程)。
【0075】
当該残存したスラリーを吸引ろ過により脱水した後、100℃にて24時間乾燥して水分を十分に除去して改質フライアッシュとし、強熱減量を測定した。
【0076】
2回目の浮選処理後に得られた改質フライアッシュの強熱減量は、0.7質量%であった。
なお、2回の浮選処理で使用した捕集剤の合計量は1.3mLであった。また、原料フライアッシュ中の未燃カーボン量に対する捕集剤の添加割合は、1.7質量%(スラリー調製工程)、及び0.4質量%(捕集剤補充工程)であり、合計2.1質量%であった。
【0077】
以上の結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
表3に示すように、本発明に係る実施例5においては、比較例2(10mL)に比して捕集剤の使用量が少ないにもかかわらず、強熱減量が低減した。また、実施例5では、強熱減量が1.0%以下という極めて低い強熱減量を実現した。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の改質フライアッシュの製造法によれば、セメント混合材、モルタル混合材、コンクリート混合材等として有用な改質フライアッシュを得ることができることから、産業上有用である。

図1