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特許7372851クレーンおよびクレーンのロープ張設方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】クレーンおよびクレーンのロープ張設方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/06 20060101AFI20231025BHJP
   B66C 13/08 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
B66C13/06 M
B66C13/08 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020028741
(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2021134008
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】安部 達也
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2013-0072571(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第101323417(CN,A)
【文献】実開昭49-049667(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0121831(KR,A)
【文献】米国特許第05150799(US,A)
【文献】特開昭49-006636(JP,A)
【文献】東ドイツ国経済特許第141818(DD,A1)
【文献】国際公開第2010/061645(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00 - 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視で一対の長辺と一対の短辺とを有する略長方形に形成されていて複数の下方シーブを設置される吊具と、この吊具の上方に配置されていて複数の上方シーブを設置されるトロリと、前記下方シーブと前記上方シーブとに掛け回されて前記トロリから前記吊具を懸吊するロープとを備えるクレーンにおいて、
前記ロープは、前記短辺の延長方向である短辺方向に沿って張設される短辺方向ロープRxと、前記長辺の延長方向である長辺方向に沿って張設される長辺方向ロープRとで構成されて、
前記下方シーブは、軸方向が長辺方向と平行となる状態であり長辺方向において前記吊具の両端近傍となる位置であり且つ短辺方向において前記吊具の略中央部となる位置に設置されて前記短辺方向ロープRxが掛け回される四つの下方シーブSaxと、前記長辺方向ロープRが掛け回される四つの下方シーブSaとで構成されて、
前記上方シーブは、前記短辺方向ロープRxが掛け回される上方シーブSbxと、前記長辺方向ロープRが掛け回される上方シーブSbとで構成されて、
前記短辺方向ロープRxが、短辺方向に間隔をあけて前記トロリに配置される前記上方シーブSbxと、前記下方シーブSaxとに掛け回される構成を有していて、
前記長辺方向ロープが、前記トロリから前記下方シーブSaに向かって延びる第一部分と、前記下方シーブSaから前記上方シーブSbに向かって延びる第二部分とを有していて、
辺方向と平行となる方向に見通したときに上下方向における前記吊具の位置に関わらず前記第一部分が上下方向に対して±5度の範囲に張設される鉛直状態となり前記第二部分が前記第一部分に対して傾く状態で張設される傾斜状態となり、
辺方向と平行となる方向に見通したときに上下方向における前記吊具の位置に関わらず前記第二部分が上下方向に対して±5度の範囲に張設される鉛直状態となり前記第一部分が前記第二部分に対して傾く状態で張設される傾斜状態となり、
短辺方向と平行となる方向に見通したときに、長辺方向に間隔をあけて前記吊具に設置される二つの前記下方シーブSaと、長辺方向に間隔をあけて前記トロリに設置される二つの前記上方シーブSbとを備えていて、長辺方向において二つの前記上方シーブSbの内側に二つの前記下方シーブSaが配置されて、一方の前記下方シーブSaから一方の前記上方シーブSbに向かって延びる前記第二部分と、他方の前記下方シーブSaから他方の前記上方シーブSbに向かって延びる前記第二部分とは互いに交差しないことを特徴とするクレーン。
【請求項2】
面視で前記吊具の内側に形成される略長方形の各頂点に対応する位置にそれぞれ設置される構成を前記下方シーブSaが有していて、
前記下方シーブSaxは、四つの前記下方シーブSaにより形成される略長方形の外側に配置される構成を有する請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
短辺方向と平行となる方向に見通したときに長辺方向に間隔をあけて前記吊具に設置される二つの前記下方シーブSaの軸心どうしの間隔は、前記吊具の長辺の長さの20~80%の範囲に設定される請求項2に記載のクレーン。
【請求項4】
前記トロリに設置されていて前記ロープの繰り出しおよび巻き取りを行うドラムを有していて、
前記ドラムの軸方向が長辺方向と平行となる状態であり且つ前記短辺方向において略中央部となる位置に設置される構成を前記ドラムが有していて、
前記ドラムと前記下方シーブSaとを直線状に結ぶ前記ロープの部分が前記第一部分である請求項1~3のいずれかに記載のクレーン。
【請求項5】
平面視で前記下方シーブSaの軸方向が短辺方向と長辺方向との間となる状態で前記下方シーブSaを支持する支持台を備えていて、前記下方シーブSaを軸方向に沿って一方向にのみ傾動可能とする状態に支持する構成を前記支持台が有する請求項1~4のいずれかに記載のクレーン。
【請求項6】
平面視で一対の長辺と一対の短辺とを有する略長方形に形成されていて複数の下方シーブを設置される吊具と、この吊具の上方に配置されていて複数の上方シーブを設置されるトロリと、前記下方シーブと前記上方シーブとに掛け回されていて前記トロリから前記吊具を懸吊するロープとを備えるクレーンのロープ張設方法において、
前記ロープは、前記短辺の延長方向である短辺方向に沿って張設される短辺方向ロープRxと、前記長辺の延長方向である長辺方向に沿って張設される長辺方向ロープRとで構成されて、
前記下方シーブは、軸方向が長辺方向と平行となる状態であり長辺方向において前記吊具の両端近傍となる位置であり且つ短辺方向において前記吊具の略中央部となる位置に設置されて前記短辺方向ロープRxが掛け回される四つの下方シーブSaxと、前記長辺方向ロープRが掛け回される四つの下方シーブSaとで構成されて、
前記上方シーブは、前記短辺方向ロープRxが掛け回される上方シーブSbxと、前記長辺方向ロープRが掛け回される上方シーブSbとで構成されて、
前記トロリから前記下方シーブを経由して前記上方シーブに前記ロープを掛け回す際に、
前記短辺方向ロープRxが、短辺方向に間隔をあけて前記トロリに配置される前記上方シーブSbxと、前記下方シーブSaxとに掛け回されて、
前記長辺方向ロープRが、短辺方向と平行となる方向に見通したときに上下方向における前記吊具の位置に関わらず前記トロリから前記下方シーブSaに向かって延びる第一部分が上下方向に対して±5度の範囲となる状態に張設するとともに前記下方シーブSaから前記上方シーブSbに向かって延びる第二部分が前記第一部分に対して傾く状態に張設して、
辺方向と平行となる方向に見通したときに上下方向における前記吊具の位置に関わらず前記第二部分が上下方向に対して±5度の範囲となる状態に張設するとともに前記第一部分が前記第二部分に対して傾く状態に張設して、
短辺方向と平行となる方向に見通したときに、長辺方向に間隔をあけて前記吊具に二つの前記下方シーブSaが設置されて、長辺方向に間隔をあけて前記トロリに二つの前記上方シーブSbが設置されて、長辺方向において二つの前記上方シーブSbの内側に二つの前記下方シーブSaが配置されていて、一方の前記下方シーブSaから一方の前記上方シーブSbに向かって延びる前記第二部分と、他方の前記下方シーブSaから他方の前記上方シーブSbに向かって延びる前記第二部分とは互いに交差しないことを特徴とするロープ張設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロリからロープにより懸吊される吊具を有するクレーンおよびクレーンのロープ張設方法に関するものであり、詳しくはトロリを大型化することなく吊具の短辺方向における振止効果を向上できるクレーンおよびクレーンのロープ張設方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トロリからロープにより懸吊される吊具を有するクレーンが種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載のクレーンは、吊具の長辺方向に沿ってロープがW字形状に張設されるとともに、吊具の短辺方向に沿ってロープがV字形状に張設される構成を備えていた。
【0003】
V字形状やW字形状に張設されるロープは、傾斜部分から張力に応じた水平方向の力が発生する。長辺方向および短辺方向における吊具の振れが、この水平方向の力により抑制されていた。特許文献1に記載のクレーンは、トロリと吊具との間に張設されるロープにより、吊具の振止効果を得ることができていた。
【0004】
特許文献1に記載のクレーンにおいて例えば短辺方向における振止効果の向上を検討した場合、短辺方向に沿ってV字形状に張設されるロープの上方側の間隔を広げる必要があった。この場合は短辺方向に沿ってトロリを大きくする必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2015-193462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的はトロリを大型化することなく吊具の短辺方向における振止効果を向上できるクレーンおよびクレーンのロープ張設方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するためのクレーンは、平面視で一対の長辺と一対の短辺とを有する略長方形に形成されていて複数の下方シーブを設置される吊具と、この吊具の上方に配置されていて複数の上方シーブを設置されるトロリと、前記下方シーブと前記上方シーブとに掛け回されて前記トロリから前記吊具を懸吊するロープとを備えるクレーンにおいて、前記ロープは、前記短辺の延長方向である短辺方向に沿って張設される短辺方向ロープRxと、前記長辺の延長方向である長辺方向に沿って張設される長辺方向ロープRとで構成されて、前記下方シーブは、軸方向が長辺方向と平行となる状態であり長辺方向において前記吊具の両端近傍となる位置であり且つ短辺方向において前記吊具の略中央部となる位置に設置されて前記短辺方向ロープRxが掛け回される四つの下方シーブSaxと、前記長辺方向ロープRが掛け回される四つの下方シーブSaとで構成されて、前記上方シーブは、前記短辺方向ロープRxが掛け回される上方シーブSbxと、前記長辺方向ロープRが掛け回される上方シーブSbとで構成されて、前記短辺方向ロープRxが、短辺方向に間隔をあけて前記トロリに配置される前記上方シーブSbxと、前記下方シーブSaxとに掛け回される構成を有していて、前記長辺方向ロープが、前記トロリから前記下方シーブSaに向かって延びる第一部分と、前記下方シーブSaから前記上方シーブSbに向かって延びる第二部分とを有していて、辺方向と平行となる方向に見通したときに上下方向における前記吊具の位置に関わらず前記第一部分が上下方向に対して±5度の範囲に張設される鉛直状態となり前記第二部分が前記第一部分に対して傾く状態で張設される傾斜状態となり、辺方向と平行となる方向に見通したときに上下方向における前記吊具の位置に関わらず前記第二部分が上下方向に対して±5度の範囲に張設される鉛直状態となり前記第一部分が前記第二部分に対して傾く状態で張設される傾斜状態となり、短辺方向と平行となる方向に見通したときに、長辺方向に間隔をあけて前記吊具に設置される二つの前記下方シーブSaと、長辺方向に間隔をあけて前記トロリに設置される二つの前記上方シーブSbとを備えていて、長辺方向において二つの前記上方シーブSbの内側に二つの前記下方シーブSaが配置されて、一方の前記下方シーブSaから一方の前記上方シーブSbに向かって延びる前記第二部分と、他方の前記下方シーブSaから他方の前記上方シーブSbに向かって延びる前記第二部分とは互いに交差しないことを特徴とする。
【0008】
上記の目的を達成するためのクレーンのロープ張設方法は、平面視で一対の長辺と一対の短辺とを有する略長方形に形成されていて複数の下方シーブを設置される吊具と、この吊具の上方に配置されていて複数の上方シーブを設置されるトロリと、前記下方シーブと前記上方シーブとに掛け回されていて前記トロリから前記吊具を懸吊するロープとを備えるクレーンのロープ張設方法において、前記ロープは、前記短辺の延長方向である短辺方向に沿って張設される短辺方向ロープRxと、前記長辺の延長方向である長辺方向に沿って張設される長辺方向ロープRとで構成されて、前記下方シーブは、軸方向が長辺方向と平行となる状態であり長辺方向において前記吊具の両端近傍となる位置であり且つ短辺方向において前記吊具の略中央部となる位置に設置されて前記短辺方向ロープRxが掛け回される四つの下方シーブSaxと、前記長辺方向ロープRが掛け回される四つの下方シーブSaとで構成されて、前記上方シーブは、前記短辺方向ロープRxが掛け回される上方シーブSbxと、前記長辺方向ロープRが掛け回される上方シーブSbとで構成されて、前記トロリから前記下方シーブを経由して前記上方シーブに前記ロープを掛け回す際に、前記短辺方向ロープRxが、短辺方向に間隔をあけて前記トロリに配置される前記上方シーブSbxと、前記下方シーブSaxとに掛け回されて、前記長辺方向ロープRが、短辺方向と平行となる方向に見通したときに上下方向における前記吊具の位置に関わらず前記トロリから前記下方シーブSaに向かって延びる第一部分が上下方向に対して±5度の範囲となる状態に張設するとともに前記下方シーブSaから前記上方シーブSbに向かって延びる第二部分が前記第一部分に対して傾く状態に張設して、辺方向と平行となる方向に見通したときに上下方向における前記吊具の位置に関わらず前記第二部分が上下方向に対して±5度の範囲となる状態に張設するとともに前記第一部分が前記第二部分に対して傾く状態に張設して、短辺方向と平行となる方向に見通したときに、長辺方向に間隔をあけて前記吊具に二つの前記下方シーブSaが設置されて、長辺方向に間隔をあけて前記トロリに二つの前記上方シーブSbが設置されて、長辺方向において二つの前記上方シーブSbの内側に二つの前記下方シーブSaが配置されていて、一方の前記下方シーブSaから一方の前記上方シーブSbに向かって延びる前記第二部分と、他方の前記下方シーブSaから他方の前記上方シーブSbに向かって延びる前記第二部分とは互いに交差しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吊具の長辺方向に沿って張設されるロープが短辺方向にも傾斜状態となる部分を有しているので、吊具の短辺方向の振止効果を向上するには有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】トロリと吊具の間に張設されるロープの状態を斜視で例示する説明図である。
図2図1の短辺方向に張設されるロープの状態を示す説明図である。
図3図1の長辺方向に張設されるロープの状態を示す説明図である。
図4図3のAA矢視を例示する説明図である。
図5図3のBB矢視を例示する説明図である。
図6図4のCC矢視を例示する説明図である。
図7図3の下方シーブを拡大して例示する説明図である。
図8図3の変形例を例示する説明図である。
図9図8のDD矢視を例示する説明図である。
図10図9のEE矢視を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、クレーンおよびクレーンのロープ張設方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。図中では吊具の短辺の延長方向である短辺方向を矢印x、この短辺方向xを直角に横断する方向であり吊具の長辺の延長方向でもある長辺方向を矢印y、上下方向を矢印zで示している。
【0012】
図1に例示するようにクレーン1は、水平梁に沿って移動するトロリ2と、このトロリ2からロープRを介して懸吊される吊具3とを備えている。図1では説明のためトロリ2を破線で示している。クレーン1は例えば門型クレーンで構成される。クレーン1はこれに限らず、トロリ2と吊具3とを備えているクレーンであればよく、例えば岸壁クレーンやアンローダや天井クレーンで構成されてもよい。
【0013】
吊具3は、例えばコンテナを荷役するスプレッダや鉱石等のバラ荷を荷役するバケット等で構成される。吊具3はスプレッダの上面に連結されるヘッドブロックで構成されてもよい。この実施形態では吊具1は20ftコンテナを荷役するスプレッダで構成されている。このスプレッダは長辺方向にスライドして40ftコンテナを荷役することも可能である。吊具3は平面視で一対の長辺と一対の短辺とを有する略長方形に形成されている。例えばクレーン1の走行方向に長辺方向yが平行となり、トロリ2の移動方向である横行方向に短辺方向xが平行となる状態にクレーン1は構成される。吊具3の上面には複数の下方シーブSaが設置されている。
【0014】
トロリ2は吊具3の上方に配置されている。トロリ2は図示しない水平梁に沿って短辺方向xに横行する構成を有している。トロリ2には複数の上方シーブSbが設置されている。トロリ2の上方シーブSbと吊具3の下方シーブSaとの間にはロープRが掛け回されている。吊具3はこのロープRによりトロリ2から懸吊されている。
【0015】
トロリ2の上面にはロープRの繰り出しおよび巻取りを行うドラム4が設置されている。この実施形態ではドラム4は、その軸方向が長辺方向yと平行となる状態であり且つ短辺方向xにおいてトロリ2の略中央部となる位置に配置されている。トロリ2には二つのドラム4が設置されている。この二つのドラム4の間にはモータから受ける回転力をドラム4に伝達する減速機5が配置されている。この減速機5により二つのドラム4は同一方向に且つ同一速度で回転する構成を有している。
【0016】
ドラム4の構成は上記に限定されない。二つのドラム4がそれぞれ減速機5を有していて、回転する方向や回転速度をそれぞれ制御される構成にしてもよい。またドラム4は、長辺方向yを軸方向として短辺方向xにおいてトロリ2の略中央部に配置される一つのドラムで構成されてもよく、短辺方向xを軸方向とする一つまたは二つのドラムで構成されてもよい。
【0017】
この実施形態ではトロリ2に四つの傾転機構Jが設置されている。傾転機構Jは、長辺方向yにおいてトロリ2の略中央部であり短辺方向xにおいてトロリ2の両端近傍にそれぞれ設置されている。傾転機構Jは長辺方向yに沿って伸縮可能な電動ジャッキで構成される。傾転機構Jはこれに限らず連結されるロープRの張力を変動させる機能を有していればよい。傾転機構Jは、例えばシーブとリンク機構とを組み合わせた構造や、伸縮シリンダや、伸縮シリンダとシーブとを組み合わせた構造で構成できる。
【0018】
図2に例示するように四つの下方シーブSax(Sax1、Sax2、Sax3、Sax4)は、軸方向が長辺方向yと平行となる状態で吊具3に設置されている。長辺方向yにおいて吊具3の両端近傍となる位置に下方シーブSax1、Sax2と下方シーブSax3、Sax4とがそれぞれ設置されている。短辺方向xにおいて吊具3の略中央部となる位置に下方シーブSaxは設置されている。
【0019】
四つの上方シーブSbx(Sbx1、Sbx2、Sbx3、Sbx4)は、軸方向が短辺方向xとなる状態でトロリ2に設置されている。長辺方向yにおいてトロリ2の両端近傍となる位置に上方シーブSbx1、Sbx2と上方シーブSbx3、Sbx4とがそれぞれ設置されている。上方シーブSbx1と上方シーブSbx2とは短辺方向xにおいてトロリ2の両端近傍となる位置にそれぞれ設置されている。同様に上方シーブSbx3と上方シーブSbx4とは短辺方向xにおいてトロリ2の両端近傍となる位置にそれぞれ設置されている。
【0020】
一方のドラム4から繰り出されて短辺方向xに沿って張設されるロープRx1は下方シーブSax1と上方シーブSbx1とに掛け回されて端部を傾転機構J1に連結される。このドラム4から繰り出されるロープRx2は下方シーブSax2と上方シーブSbx2とに掛け回されて端部を傾転機構J2に連結される。
【0021】
上記と同様に他方のドラム4から繰り出されて短辺方向xに沿って張設されるロープRx3は下方シーブSax3と上方シーブSbx3とに掛け回されて端部を傾転機構J1に連結される。このドラム4から繰り出されるロープRx4は下方シーブSax4と上方シーブSbx4とに掛け回されて端部を傾転機構J2に連結される。
【0022】
図3に例示するように四つの下方シーブSa(Sa1、Sa2、Sa3、Sa4)は、軸方向が短辺方向xから長辺方向yに向かって傾く状態で吊具3に設置されている。つまり下方シーブSaの軸方向は例えば短辺方向xから上下方向zを中心軸として所定の角度傾く方向である。下方シーブSaの軸方向は短辺方向xおよび長辺方向yのいずれとも平行とならない方向である。短辺方向xにおいて吊具3の両端近傍となる位置に下方シーブSa1、Sa3と下方シーブSa2、Sa4とがそれぞれ設置されている。下方シーブSa1と下方シーブSa3とは長辺方向yにおいて吊具3の両端部より内側となる位置であり且つ長辺方向yに間隔をあけて設置されている。同様に下方シーブSa2と下方シーブSa4とは長辺方向yに間隔をあけて設置されている。
【0023】
四つの上方シーブSb(Sb1、Sb2、Sb3、Sb4)は、軸方向が短辺方向xとなる状態でトロリ2に設置されている。四つの上方シーブSbは、長辺方向yおよび短辺方向xにそれぞれ間隔をあけて設置されている。例えば平面視でトロリ2の長辺方向yの両端近傍および短辺方向xの両端近傍にそれぞれ上方シーブSbが設置されている。
【0024】
一方のドラム4から繰り出されて長辺方向yに沿って張設されるロープR1は下方シーブSa1と上方シーブSb1とに掛け回されて端部を傾転機構J3に連結される。他方のドラム4から繰り出されるロープR3は下方シーブSa3と上方シーブSb3とに掛け回されて端部を傾転機構J3に連結される。
【0025】
上記と同様に一方のドラム4から繰り出されるロープR2は下方シーブSa2と上方シーブSb2とに掛け回されて端部を傾転機構J4に連結される。他方のドラム4から繰り出されるロープR4は下方シーブSa4と上方シーブSb4とに掛け回されて端部を傾転機構J4に連結される。
【0026】
図4に例示するように一方のドラム4から繰り出されるロープR1は、トロリ2に設置されるドラム4から下方シーブSa1に至る第一部分6と、下方シーブSa1から上方シーブSb1に至る第二部分7とを有している。
【0027】
図4に例示するように短辺方向xに見通したとき、第一部分6は上下方向zと略平行となる。以下この第一部分6のように略鉛直に張設されるロープRの状態を鉛直状態ということがある。第二部分7は第一部分6に対して傾く状態となる。以下この第二部分7のように上下方向zに対していずれかの方向に傾いて張設されるロープRの状態を傾斜状態ということがある。本明細書において鉛直状態とは、上下方向zに対して例えば±5度などロープRが若干傾いている状態も含む。傾斜状態とは、上下方向zに対して例えば±45度などロープRが傾いている状態に加えて、鉛直状態のロープRよりも傾いている状態も含む。例えば鉛直状態のロープRの傾きが±0度のとき、傾斜状態のロープRの傾きを例えば±3度の範囲とすることができる。
【0028】
図4に例示するようにロープR1およびロープR3において、傾斜状態となるそれぞれの第二部分7から張力に応じた水平方向の力が発生する。この力は長辺方向yに沿って互いに打ち消し合う方向に発生するので、長辺方向yにおける吊具3の振れを抑制できる。
【0029】
図5に例示するように長辺方向yに見通したとき、第二部分7は上下方向zと略平行であり、鉛直状態となる。第一部分6は第二部分7に対して傾く傾斜状態となる。傾斜状態となる第一部分6から張力に応じた水平方向の力が発生する。この力は短辺方向xに沿って互いに打ち消し合う方向に発生するので、短辺方向xにおける吊具3の振れを抑制できる。
【0030】
短辺方向xに沿って張設されるロープRx1-Rx4(図2参照)に加えて、長辺方向yに沿って張設されるロープR1-R4(図5参照)からも短辺方向xにおける振止効果を得られる。短辺方向xにおける振止効果を向上するには有利である。
【0031】
第一部分6と第二部分7とで規定される面は三角形のトラス構造を構成する。この三角形はそれぞれのロープR1-R4で形成されていて、互いに合同となる。四つの合同な三角形が水平方向に互いに打ち消し合う力を発生させるため、吊具3の振止効果を向上するには有利である。
【0032】
経年劣化等によりロープRを交換することがある。吊具3が水平であるときロープR1-R4は同じ長さであるため、ロープ交換後の張力の調整を容易に行うことができる。ロープの交換作業の作業性を向上するには有利である。
【0033】
傾転機構Jが両端に連結されるロープRの張力をそれぞれ独立して制御できる場合は、吊具3のシフト制御、トリム制御およびスキュー制御を行うことができる。
【0034】
図3に例示されるように例えば傾転機構Jが両端の伸縮量を独立して制御できる電動ジャッキで構成される場合は、長辺方向yにおいて同一方向に傾転機構J3、J4を伸長させると、伸長させた方向に吊具3がシフトする。図4において傾転機構J3、J4の右方側を伸長させると吊具3が右方に平行移動して、傾転機構J3、J4の左方側を伸長させると吊具3が左方に平行移動する。このシフト制御は上記に限らず、ロープR1とロープR3との間、およびロープR2とロープR4との間にそれぞれ張力差を生じさせれば相対的に張力の小さい方向に吊具3がシフトする。
【0035】
図1において四つの傾転機構Jのすべてを同一方向に伸長させると、伸長させた側のロープRの張力が減少して吊具3が下がる。長辺方向yにおける吊具3の両端部のうち、傾転機構Jを伸長させた側の端部が下がる。短辺方向xを中心軸とする吊具3の傾きを制御するトリム制御が可能となる。
【0036】
二つのドラム4が独立して回転方向や回転速度を制御される構成の場合は、ドラム4によりロープRの張力を調整することでトリム制御を行うことができる。トリム制御のみ行える構成とする場合には、傾転機構Jを備えない構成としてもよい。
【0037】
図2において傾転機構J1、J2を互いに逆方向に伸長させると、短辺方向xにおいて伸長させた側に吊具3がそれぞれ移動する。一対の短辺がそれぞれ逆方向に移動するので、上下方向zを中心軸とする吊具3の回転を制御するスキュー制御が可能となる。
【0038】
クレーン1はシフト制御、トリム制御およびスキュー制御のいずれも行える構成とすることが望ましい。しかしクレーン1の種類や荷役作業の内容によっては、シフト制御、トリム制御またはスキュー制御のうち少なくとも一つの制御を行えるクレーン1としてもよい。またいずれの制御も行う必要がない場合は傾転機構Jを備えないクレーン1としてもよい。
【0039】
図6に例示するように長辺方向yに沿って張設されるロープR1-R4が掛け回される四つの下方シーブSa1-Sa4は、長辺方向yにおいて内側に寄る位置に配置される。長辺方向yにおける一対の下方シーブSa1と下方シーブSa3との軸心どうしの間隔L1は、吊具3の長辺の長さL0の20~80%の範囲に設定される。間隔L1は、長辺の長さL0の20~50%の範囲に設定されることが望ましい。なお吊具1の長辺の長さL0は20ftコンテナを荷役するスプレッダの大きさを基準としている。40ftコンテナを荷役するために伸長させたスプレッダの場合は長辺の長さがL0の約2倍となるので、間隔L1は吊具1の長辺の長さの10~40%、望ましくは10~25%の範囲に設定される。
【0040】
四つの下方シーブSa1-Sa4は、平面視で吊具3の内側に形成される略長方形の各頂点に対応する位置にそれぞれ設置されることが望ましい。図6では説明のため前述の略長方形を破線で示している。破線で示す長方形の面積は、平面視における吊具3の面積よりも小さくなる状態に設定されている。破線で示す長方形の長辺は吊具3の長辺と平行であり、破線で示す長方形の短辺は吊具3の短辺と平行となっている。破線で示す長方形の各頂点に下方シーブSaの軸心が一致する状態で下方シーブSaは配置されている。
【0041】
この構成によれば吊具3の四隅よりも下方シーブSaが内側に配置されるので、上下方向zを中心軸とする吊具3の回転に対する抵抗を小さくできる。吊具3のスキュー制御に対してロープRが抵抗しにくくなるので、スキュー制御の効果を得やすくなる。
【0042】
図6に例示するように下方シーブSaの軸方向は長辺方向yおよび短辺方向xのいずれとも平行とならない略水平方向に設定されている。図6では説明のため下方シーブSaの軸方向を一点鎖線で示している。下方シーブSaの軸方向と短辺方向xとなす角θは例えば10度~60度または-10度~-60度の範囲に設定することができる。このなす角θはこれに限らず、平面視においてドラム4からロープR1が繰り出される位置および上方シーブSb1が配置される位置に応じて適宜変更することができる。
【0043】
図6に例示する実施形態では、下方シーブSaの一点鎖線で示す軸方向が破線で示す長方形の外側で交差する状態に各下方シーブSaが吊具3に設置されている。つまり四つの下方シーブSaにより形成される四角形の外側で、隣り合う下方シーブSaの軸方向が交差する。
【0044】
図7に例示するように下方シーブSaが、下方シーブSaの軸方向に沿って傾動する支持台8に設置される構成にしてもよい。この実施形態では支持台8は、下方シーブSaを一方向(図7右方)にのみ傾動可能に支持する。図7では説明のため下方シーブSaの傾動方向を矢印で示している。同様に図6において下方シーブSaの傾動方向を矢印で示している。支持台8は上下方向zに対して例えば0度~10度の範囲で下方シーブSaを傾動させることができる。図6に例示するように短辺方向xに間隔をあけて配置される下方シーブSaは、互いに接近する方向に傾動する。下方シーブSaは掛け回されているロープRの張力により受動的に傾動する。
【0045】
図4に例示するようにロープR1がドラム4から繰り出される位置は、ロープR1の繰り出し量に応じてドラム4の軸方向に移動する。そのためロープR1の第一部分6が長辺方向yに沿って傾く。これに応じて下方シーブSa1が傾くので、下方シーブSaに対するロープR1の角度がフリートアングルの範囲を超える不具合を回避しやすくなる。ドラム4から直接下方シーブSaにロープRを張設できるので、シーブの数を削減できる。クレーン1の製造コストを抑制するには有利である。
【0046】
ロープRがドラム4から繰り出される位置は、ドラム4の直径が小さいほどドラム4の軸方向に移動しやすくなる。このロープRの移動に応じて下方シーブSaを傾動させることができるので、ドラム4の直径を比較的小さくすることも可能である。ドラム4の減速比を小さくできるので減速機5の小型化には有利である。
【0047】
本発明において支持台8は必須の構成要件ではない。ドラム4の直径を比較的大きくすればドラム4の軸方向におけるロープRの移動量が小さくなるので、傾動しない下方シーブSaを利用できる。またトロリ2にシーブを設置してこのシーブを経由して下方シーブSaにロープRを掛け回す構成とすることで、ドラム4の軸方向におけるロープRの移動の影響を下方シーブSaが受けない状態とすることができる。この場合も傾動しない下方シーブSaを利用できる。
【0048】
図7に例示する下方シーブSaは、図7の右方にのみ傾き左方には傾かない構成を有している。下方シーブSaが一方向にのみ傾く構成であるため、吊具3に振れが発生した際に下方シーブSaが他方向に傾いて振動が増幅する等の不具合を抑制しやすくなる。下方シーブSaがその軸方向の両側に傾く構成とすることは、本発明において除外されるものではない。
【0049】
図8および図9に例示するように下方シーブSa1から上方シーブSb1に掛け回した後に、上下方向zを軸方向とするもう一つの上方シーブSb1’を掛け回して傾転機構J3にロープR1を張設する構成としてもよい。
【0050】
図10に例示するように四つの下方シーブSa1-Sa4は、平面視で吊具3の内側に形成される略長方形の各頂点に対応する位置にそれぞれ設置されることが望ましい。図10では説明のため前述の略長方形を破線で示している。また下方シーブSaの傾動方向を矢印で示している。
【0051】
図10に例示する実施形態では図6に例示する実施形態と異なり、下方シーブSaの一点鎖線で示す軸方向が破線で示す長方形の内側で交差する状態に各下方シーブSaが吊具3に設置されている。つまり四つの下方シーブSaにより形成される四角形の内側で、隣り合う下方シーブSaの軸方向が交差する。
【0052】
図9に例示するように長辺方向yにおいて一対の第一部分6の間に一対の第二部分7の全部または一部が配置される構成となる。長辺方向yに沿って張設されるロープR1-R4が平面視において吊具3の中心に寄った状態で張設される。傾転機構Jによるスキュー制御に対してロープRが抵抗しにくくなるのでスキュー制御の効果を更に得やすくなる。
【0053】
例えば門型クレーンなどトロリ2の近傍に運転室が設置される場合には、図4に例示する実施形態の方が運転席の前方でロープRが交差しないので運転席から視界を良好に維持しやすくなる。そのためトロリ2の近傍に運転席が設置されるクレーン1の場合は、図9に例示する実施形態より図4に例示する実施形態の方が望ましい。また図4に例示する実施形態の方がシーブSの数を少なくできるので、クレーン1の製造コストを抑制するには有利である。
【0054】
第一部分6はドラム4から下方シーブSaに延びる構成に限定されない。ドラム4から繰り出されて上方シーブSbに掛け回されて、この上方シーブSbから下方シーブSaに延びる部分で第一部分6が構成されてもよい。つまり第一部分6はトロリ2から下方シーブSaに向かって延びるロープRの部分であればよい。第一部分6の上端はドラム4または上方シーブSbのいずれに延びていてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 クレーン
2 トロリ
3 吊具
4 ドラム
5 減速機
6 第一部分
7 第二部分
8 支持台
x 短辺方向
y 長辺方向
z 上下方向
R ロープ
Rx1-4 短辺方向ロープ
R1-4 長辺方向ロープ
Sa 下方シーブ
Sa1-4 下方シーブ(長辺方向)
Sax、Sax1-4 下方シーブ(短辺方向)
Sb 上方シーブ
Sb1-4、Sb1’-Sb4’ 上方シーブ(長辺方向)
Sbx、Sbx1-4 上方シーブ(短辺方向)
J、J1-4 傾転機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10