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特許7372886検量線生成方法、自動分析装置、検量線生成プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】検量線生成方法、自動分析装置、検量線生成プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/00 20060101AFI20231025BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20231025BHJP
   G01N 21/59 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
G01N35/00 A
G01N35/00 F
G01N21/27 F
G01N21/59 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020136572
(22)【出願日】2020-08-13
(65)【公開番号】P2022032616
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 興子
(72)【発明者】
【氏名】足立 作一郎
(72)【発明者】
【氏名】藪谷 千枝
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-175342(JP,A)
【文献】特開平11-142412(JP,A)
【文献】特開2001-249137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00
G01N 21/27
G01N 21/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に含まれる被測定物質の濃度を定量する自動分析装置における検量線を生成する検量線生成方法であって、
前記被測定物質の濃度がゼロではない1つの標準液と前記被測定物質と反応する試薬とを含む混合液に対して光を照射することにより、前記1つの標準液内の前記被測定物質が反応する過程を測定するステップ、
前記1つの標準液内の前記被測定物質が反応する過程を表した反応過程データに対してフィッティングした線のなかから複数の異なる時間における複数の光量データであるキャリブレーションデータを抽出するステップ、
前記複数の異なる時間を前記被測定物質の複数の濃度に変換することにより前記濃度と前記光量データの関係を示す前記検量線を生成するステップ、
を有することを特徴とする検量線生成方法。
【請求項2】
前記複数の異なる時間を前記被測定物質の複数の濃度に変換するステップは、
前記フィッティングした線のなかから複数の光量データを抽出する測光ポイントと被測定物質の濃度の関係を表す測光ポイント-濃度変換用データを生成するステップと、
前記複数の光量データは複数の既知濃度からなる標準液群のキャリブレーションデータに相当する光量データであって、
前記生成された測光ポイント-濃度変換用データを用いて、前記時間を前記濃度に変換するステップ、
を有することを特徴とする請求項1に記載の検量線生成方法。
【請求項3】
前記1つの標準液の濃度は前記標準液群の最も濃い標準液の濃度に対応するものであることを特徴とする請求項2記載の検量線生成方法。
【請求項4】
前記1つの標準液の濃度は前記標準液群のうち最も濃い濃度以外の標準液の濃度に対応するものであって、前記1つの標準液の反応過程データを外挿することによって最も濃い濃度の標準液のキャリブレーションデータを生成することを特徴とする請求項2記載の検量線生成方法。
【請求項5】
前記1つの標準液の濃度は前記標準液群のいずれかの標準液の濃度に対応するものであって、それらが異なる場合に、前記標準液群のすべての標準液の濃度を、検量線を生成する際に用いる前記1つの標準液の濃度を用いて補正することを特徴とする請求項2記載の検量線生成方法。
【請求項6】
前記複数の異なる時間を前記物質の複数の濃度に変換するステップでは、別途取得された前記測光ポイント-濃度変換用データを前記自動分析装置に読み出して使用することを特徴とする請求項2記載の検量線生成方法。
【請求項7】
前記測光ポイント-濃度変換用データは、外部記憶媒体に記憶されていることを特徴とする請求項6記載の検量線生成方法。
【請求項8】
前記複数の異なる時間を前記物質の複数の濃度に変換するステップでは、ユーザインターフェース上で入力された前記測光ポイント-濃度変換用データを使用することを特徴とする請求項2記載の検量線生成方法。
【請求項9】
前記複数の光量データのうち前記物質がゼロ濃度の標準液に相当する光量データについては、ゼロ濃度の標準液を実測して得られる光量データを用いることを特徴とする請求項2記載の検量線生成方法。
【請求項10】
前記検量線の生成は、前記自動分析装置と独立したツールにて生成するものであることを特徴とする請求項1記載の検量線生成方法。
【請求項11】
前記生成された検量線を、過去に取得された検量線データと比較して、エラーチェックを実施するステップと、
前記エラーチェックで設定された閾値を外れた場合に、前記生成された検量線に対するエラーを報知し、使用するかどうかを選択させる画面を表示することを特徴とする請求項1記載の検量線生成方法。
【請求項12】
被測定物質が未知濃度の検体と試薬の混合液を収容するセルに光を照射する光照射手段と、
前記混合液からの光を測定する測定部と、
(1)被測定物質の濃度がゼロではない1つの標準液と前記物質と反応する試薬とを含む混合液に対して光を照射することにより、前記1つの標準液内の前記物質が反応する過程を測定し、(2)前記1つの標準液内の前記物質が反応する過程を表した反応過程データに対してフィッティングした線のなかから複数の異なる時間における複数の光量データであるキャリブレーションデータを抽出し、(3)前記複数の異なる時間を前記物質の複数の濃度に変換することにより生成された、前記濃度と前記光量データの関係を示す検量線と、前記測定部における反応過程データから得られる光量データを用いて、前記検体の濃度を定量する解析部とを有することを特徴とする自動分析装置。
【請求項13】
前記検量線は、前記自動分析装置内の記憶部に保持されており、前記解析部に読み出されて、前記検体の被測定物質の濃度の定量に使用されることを特徴とする請求項12記載の自動分析装置。
【請求項14】
検体に含まれる被測定物質の濃度を定量する自動分析装置における検量線を生成する処理をコンピュータに実行させる検量線生成プログラムであって、前記コンピュータに、
前記被測定物質の濃度がゼロではない1つの標準液と前記被測定物質と反応する試薬とを含む混合液に対して光を照射することにより、前記1つの標準液内の前記被測定物質が反応する過程を測定するステップ、
前記1つの標準液内の前記被測定物質が反応する過程を表した反応過程データに対してフィッティングした線のなかから複数の異なる時間における複数の光量データであるキャリブレーションデータを抽出するステップ、
前記複数の異なる時間を前記被測定物質の複数の濃度に変換することにより前記濃度と前記光量データの関係を示す前記検量線を生成するステップ、
を実行させることを特徴とする検量線生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル内に含まれる被測定物質の濃度を定量する際に用いる検量線を生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置は、血液や尿などの生体試料(サンプル)中に含まれるタンパク質、ホルモン、ウイルスなどを定量する装置である。自動分析装置においては、検査項目に対応する試薬とサンプルを混合し、サンプルと試薬の混合反応液に対して光を照射した際に生じる反応液の濁度変化(透過光、散乱光の変化)を捉え、一定時間における反応液の吸光度や散乱光強度あるいはそれらの変化量を、検査項目ごとにあらかじめ用意しておいた検量線と比較してサンプル中の被測定物質の濃度を定量する。
【0003】
自動分析装置における検量線は、被測定物質の濃度あるいは活性と吸光度、散乱光強度あるいはそれらの変化量との間の関係を表すものであり、校正(キャリブレーション)動作によって生成される。キャリブレーションは、装置間差や試薬ロット間差を無くすために必要であり、特に装置や試薬を新規に導入した場合や、試薬のロットが変更された場合は必須である。
【0004】
検量線を生成するために使用されるサンプルは、既知濃度の被測定物質が含まれた標準液である。検査項目や試薬メーカーによって標準液の数は異なり、既知の異なる濃度で被測定物質を含有する複数の標準液が存在する検査項目もある。キャリブレーションにおいては、初めにこれらの標準液と検査項目に対応する試薬をそれぞれ混合し、各標準液と試薬の混合反応液に対して光を照射して得られる反応液の経時的な濁度変化(透過光、散乱光の変化)を反応過程データとして取得する。次に、各標準液の反応過程データから一定時間における吸光度や散乱光強度あるいはそれらの変化量が抽出される。抽出されたデータを、各標準液の被測定物質の濃度に対してプロットし、被測定物質濃度と抽出データの関係式を得ることにより、検量線が生成される。一度の検量線生成時において各標準液を測定する回数(反応過程データを得る回数)は装置によって異なる。各標準液に対して複数回の反応過程データを得る装置においては、一定時間における抽出データの平均値あるいは中央値などを使用する。
【0005】
このように、検量線を得るためには、複数の標準液の準備や検量線生成用データの取得が必要である。これらの作業は基本的には被測定物質が未知濃度のサンプルの測定を開始する前に実施される。したがってキャリブレーションを必要とする検査項目が複数ある場合、被測定物質が未知濃度のサンプルの測定開始までに時間を要することとなる。そこで検量線の生成にかかる負担を軽減するために、検量線の生成を簡易化する技術や生成回数を低減する技術が開発されている。
【0006】
特許文献1は、1つの濃度の標準液を装置にて自動希釈して多点濃度の検量線を生成する方法を開示している。特許文献2は、分析条件が毎回同一になるように制御し、記憶しておいた検量線データに基づいて被測定物質の濃度を定量する装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-249137号公報
【文献】特開2008-175722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
検量線を生成するために使用する標準液の数は検査項目に依存するものの、多いものでは6個(6濃度)以上ある。一度の検量線生成時において各標準液を測定する回数は、装置、試薬、検査項目などによって異なり、複数回の測定データから検量線を生成する装置も存在する。標準液の数や検量線生成時の各標準液に対する測定回数が多い検査項目においては、検量線を生成するために消費する試薬量が多くなる。また、キャリブレーションの必要な検査項目が複数ある場合、検査項目ごとに異なる複数の標準液を準備するので、作業が煩雑になる。さらに、全項目の検量線が生成されるまでに時間を要し、被測定物質が未知濃度のサンプルの測定を開始するまでの待機時間が長くなる。
【0009】
特許文献1においては、1つの標準液を希釈することにより複数の標準液を作製しているので、実質的に用いている標準液は1つのみである。特許文献2においては、分析条件を毎回同一とすることにより、同じ検量線を繰り返し使用するものであるので、1つの検量線を作成する際に使用する標準液の数を低減することが困難である。したがって特許文献1~2のような検量線生成を簡易化する従来手法においては、複数の標準液から得られるデータを検量線に対して十分反映しつつ、検量線を作成する手間を抑制することは、困難であると考えられる。
【0010】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、2個(2濃度)以上の標準液を用いて検量線を生成する分析工程において、検量線の精度を確保しつつ、検量線を生成する手間を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る検量線生成方法は、ゼロ濃度以外の濃度の被測定物質を含有する1つの標準液と前記被測定物質に反応する試薬とを混合した混合反応液に光を照射して前記混合反応液の経時的な濁度変化を測定することにより反応過程データを取得し、前記反応過程データの離散的な部分を補完したフィッティング線のなかから複数の異なる時間における複数の光量データを抽出し、前記複数の異なる時間を前記被測定物質の複数の濃度に変換することにより、前記複数の光量データと前記複数の濃度の関係を表した前記検量線を生成する。
すなわち、従来法では複数の既知濃度の標準液群を測定して各標準液の反応過程データを取得し、それらの反応過程データから抽出した光量データを用いて検量線を生成していたが、本発明ではゼロ濃度以外の任意の濃度の1つの標準液の反応過程データのフィッティング線から多点キャリブレーションデータに相当する複数の光量データを抽出して検量線を生成できることに特徴がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る検量線生成方法によれば、キャリブレーションを必要とする検査項目において、1つの標準液を測定して取得した反応過程データから多点キャリブレーションに相当する検量線を導出するので、複数の既知濃度の標準液を測定して検量線を生成する従来法と比較して、試薬の消費量を抑制することが可能となる。また、従来法と比較して、準備する標準液の数を少なくすることができるので、準備の煩雑さを解消することに繋がる。上記以外の課題、構成、および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1における検量線生成手順を説明するフローチャートである。
図2】実施形態1に係る自動分析装置100の全体構成図例を示す。
図3】キャリブレーション情報を設定するために用いる設定画面の例を示す。
図4】吸光度測定により取得される反応過程データの例を示す。
図5】6つの既知濃度C’1~C’6の標準液群の吸光度測定による反応過程データの例である。
図6】表1のデータをプロットして折れ線で近似した場合の検量線の例を示す。
図7】標準液6のデータ処理後の反応過程データとフィッティング線の例を示す。
図8】標準液6のデータ処理後のフィッティング線と検量線生成用の吸光度変化量データに相当する測光ポイントを示す。
図9】標準液Nのデータ処理後の反応過程データとフィッティング線の例を示す。
図10】標準液Nのデータ処理後のフィッティング線と測光ポイント:P1~PNに相当する吸光度変化量:ΔA1~ΔAN(アウトプット情報)を示す。
図11】検量線タイプが折れ線だった場合の実施形態1で生成される検量線の例を示す。
図12】算出した測光ポイントをキャリブレーション設定画面例の中の測光ポイント欄に入力した例を示す。
図13】試薬(ロットC)と標準液6(ロットD)の反応を表した反応過程データを処理したデータに対するフィッティング線を示す。
図14】標準液6(ロットD)のデータ処理後のフィッティング線と図12に示した測光ポイントに相当する吸光度変化量(アウトプット情報)を示す。
図15】生成された検量線を示す。
図16】実施形態1の方法で生成された検量線(図15)と従来法で生成した検量線を重ね合わせた例を示す。
図17】算出した測光ポイントをキャリブレーション設定画面例の中の測光ポイント欄に入力した例を示す。
図18】試薬(ロットG)と標準液3(ロットH)の反応を表した反応過程データを処理したデータに対するフィッティング線を示す。
図19】標準液3(ロットH)のデータ処理後のフィッティング線と図17に示した測光ポイントに相当する散乱光強度変化量(アウトプット情報)を示す。
図20】生成された検量線を示す。
図21】実施形態1の方法で生成された検量線(図20)と従来法で生成した検量線を重ね合わせた例を示す。
図22】実施形態2におけるキャリブレーション情報の設定画面の例を示す。
図23】標準液Nのデータ処理後のフィッティング線と測光ポイント:P2~PNに相当する吸光度変化量:ΔA2~ΔAN(アウトプット情報)を示す。
図24】被測定物質がゼロ濃度の標準液1の反応過程を測定した反応過程データを示す。
図25】実施形態2で生成された検量線の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態1>
本願発明者は、キャリブレーションを必要とするラテックス免疫比濁項目の中で、被測定物質がゼロ濃度以外のある濃度:CNの標準液を測定して得られる反応過程データは、当該標準液の濃度よりも薄い濃度の標準液の反応を反映していることを見出した。具体的には、濃度:CNの標準液を測定して得た前記反応過程データにおいて反応開始後X秒目の測定値あるいは演算値が、濃度:CM(CM≦CN)の標準液を測定した時の一定時間Y秒目(Y≧X)における測定値あるいは演算値に相当するという知見である。本願発明者は、この知見に基づき、被測定物質がゼロ濃度以外のある濃度の標準液1つを測定して得られる反応過程データだけを利用し、この反応過程データの異なる反応時間における複数のデータ(測定値あるいは演算値)を抽出して被測定物質の複数の濃度と紐づけてプロットし、これらの各プロットを任意の数式で近似することにより、複数濃度の標準液群を測定して得られる反応過程データから生成していた従来法の検量線と同等の検量線を生成できると考えた。
【0015】
本発明の実施形態1では、標準液の数がN(N≧2)点以上である検査項目において、当該項目に対応する最も濃い被測定物質濃度を有する標準液Nだけを測定して取得した反応過程データから検量線を生成する場合を説明する。
【0016】
図1は、本実施形態1における検量線生成手順を説明するフローチャートである。装置または試薬を新たに導入し、あるいは試薬ロットを変更する際に、検量線を新たに生成する。当該検査項目において用いる標準液のうち被測定物質の濃度が最大である標準液Nを用いて、反応過程データを測定する。得られた反応過程データに対して当該項目の演算ポイントにしたがってデータ処理を施したうえで、フィッティング線を導出する。標準液Nの測定とは独立して別途設定された標準液1~Nの被測定物質濃度と反応時間(測光ポイント)の関係を表した「測光ポイント-濃度変換用データ」のうち、まず測光ポイント情報をフィッティング線に対して適用することにより、フィッティング線から標準液1~Nのキャリブレーションデータに相当する点を特定する。この時点で、複数の測光ポイントに対応する複数の光量データ(吸光度、散乱光強度、あるいはそれらの変化量)が得られる。次に、前記「測光ポイント-濃度変換用データ」にしたがって複数の測光ポイント情報を被測定物質の濃度情報に変換することにより、光量データと被測定物質の濃度の関係を示す検量線を生成する。前記「測光ポイント-濃度変換用データ」は、標準液Nの反応過程データから標準液1~Nの標準液群のキャリブレーションデータに相当する光量データを抽出するために必要な測光ポイント情報を標準液群の被測定物質の濃度に相当する情報に対応付けたものである。ここでは、標準液1~Nをセットとして扱う場合、標準液1~Nを標準液群と表記し、「標準液群の測定」とは「標準液1~Nの測定」を意味する。以上の手順の詳細は後述する。
【0017】
これまでに、ゼロ濃度以外の任意の既知濃度標準液1つの測定データを用いるキャリブレーションとしては、スパンキャリブレーションが存在している。スパンキャリブレーションとは、ゼロ濃度以外の既知濃度標準液1つのデータを用いて、既存の検量線におけるキャリブファクターうち、傾きに相当するK値(Kファクター)のみを更新するキャリブレーション方法である。しかし、スパンキャリブレーションは、キャリブファクターが複数個存在する多点キャリブレーションにおいて生成される非直線系(例えばスプライン関数)の検量線情報の更新には適用できないという課題があった。本実施形態1においては、ゼロ濃度以外の既知濃度標準液1つの反応過程データから、多点キャリブレーション相当の検量線生成用データを抽出し、前記データと濃度の関係式を得て検量線を生成する。したがって、スパンキャリブレーションの課題であったスプラインのような関数の検量線にも対応できる。
【0018】
本実施形態1の反応過程データは例えば自動分析装置を用いて測定される。被測定物質濃度と反応時間(測光ポイント)の関係を示す「測光ポイント-濃度変換用データ」は、例えば試薬や標準液を提供するメーカーから提供されてもよいし、従来法で生成した検量線データとその検量線の生成に使用された最も濃い標準液の反応過程データが自動分析装置内に存在する場合、それらのデータを使用して装置内で計算されてもよい。または、外部記憶媒体に記憶されている情報を読み込んで使用してもよい。メーカーから提供される場合は、試薬ロットと標準液ロットの組み合わせごと、あるいは試薬ロット単体ごと、あるいは標準液ロット単体ごとに、提供される場合が想定される。
【0019】
<実施の形態1:自動分析装置の構成>
図2は、本実施形態1に係る自動分析装置100の全体構成図例を示す。基本的な装置動作について図2を用いて説明するが、以下の例に限定されない。
【0020】
自動分析装置100は、サンプルディスク103、試薬ディスク106、反応ディスク109の3種類のディスクと、これらのディスク間でサンプルや試薬を移動させる分注機構110、111と、3種類のディスクや分注機構を駆動させる駆動部117と、駆動部を制御する制御回路118と、反応液の吸光度を測定する吸光度測定回路119と、反応液からの散乱光を測定する散乱光測定回路120と、各測定回路で測定されたデータを処理するデータ処理部121と、データ処理部121とのインターフェースである操作部122と、情報を印刷して出力するプリンター123と、ネットワーク等と接続する通信インターフェース124から概略構成される。
【0021】
サンプルディスク103の円周上には、サンプル101の収容容器であるサンプルカップ102が複数配置される。サンプル101は血液、尿、髄液、標準液などである。試薬ディスク106の円周上には、試薬104の収容容器である試薬ボトル105が複数配置される。反応ディスク109の円周上には、サンプル101と試薬104を混合させた反応液107の収容容器であるセル108が複数配置される。各ディスクは駆動部117に含まれるモーターによって回転させられ、このモーターは制御回路118で制御される。
【0022】
サンプル分注機構110は、時計回り及び反時計回りに回転するサンプルディスク103上に配置されたサンプルカップ102からセル108にサンプル101を一定量移動させる際に使用する機構である。サンプル分注機構110は、例えばサンプル101を吐出または吸引するノズルと、ノズルを所定の位置に移動させるロボットと、サンプル101をノズルから吐出またはノズルに吸引するポンプで構成される。このロボットやポンプは、駆動部117に相当する。
【0023】
試薬分注機構111は、時計回り及び反時計回りに回転する試薬ディスク106上に配置された試薬ボトル105からセル108に試薬104を一定量移動させる際に使用する機構である。試薬分注機構111は、例えば試薬104を吐出または吸引するノズルと、ノズルを所定の位置に移動させるロボットと、試薬104をノズルから吐出またはノズルに吸引するポンプで構成される。このロボットやポンプは、駆動部117に相当する。
【0024】
セル108は、反応ディスク109において、温度及び流量が制御された恒温槽内の恒温流体112に浸漬されている。このため、セル108及びその中の反応液107は、反応ディスク109の回転に伴う移動中も、その温度は一定温度に保たれる。本実施形態の場合、恒温流体112として水を使用し、その温度は制御回路118により37±0.1℃に温度調整される。勿論、恒温流体112として使用する媒体や温度は一例である。
【0025】
攪拌機構113は、セル108内で、サンプル101と試薬104を攪拌し混合させる機構である。攪拌機構113は、例えばサンプル101と試薬104を攪拌する攪拌棒と、攪拌棒を所定の位置に移動させるロボットと、攪拌棒を回転させるモーターで構成される。このロボットやモーターは、駆動部117に相当する。
【0026】
洗浄機構114は、分析処理が終了したセル108から反応液107を吸引し、空になったセル108を洗浄する機構である。洗浄機構114は、例えば、分析終了後の反応液107を吸引するノズルと、反応液107が吸引された後のセル108に洗浄水を吐出するノズルと、洗浄水を吸引するノズルと、ノズルを動かす機構で構成される。この機構は駆動部117に含まれる。洗浄終了後のセル108には、再び、サンプル分注機構110から次のサンプル101が分注され、試薬分注機構111から新しい試薬104が分注され、新たな分析処理に使用される。
【0027】
反応ディスク109の円周上の一部には、吸光度測定部115と散乱光測定部116が配置される。吸光度測定部115と散乱光測定部116は必ずしも両方必要なわけではなく、どちらか一方の搭載でもよいし、両方搭載されていてもよい。
【0028】
吸光度測定部115は、光源と透過光受光器を有している。例えば、光源がハロゲンランプであり、光源から射出された光をセル108に照射し、セル108に収容された反応液107を透過した光を回折格子で分光し、フォトダイオードアレイで受光する構造である。フォトダイオードアレイで受光する波長は、340nm,405nm,450nm,480nm,505nm,546nm,570nm,600nm,660nm,700nm,750nm,800nmである。これら受光器による受光信号は、吸光度測定回路119を通じ、データ処理部121の記憶部121aに送信される。ここで、吸光度測定回路119は、一定時間毎に各波長域の受光信号を取得し、取得された光量値をデータ処理部121に出力する。
【0029】
散乱光測定部116は、光源と透過光受光器と散乱光受光器を有している。例えば、光源がLEDであり、光源から射出された光をセル108に照射し、セル108に収容された反応液107を透過した光は透過光受光器で、反応液107で散乱した光は散乱光受光器で受光される。照射光の波長には、例えば700nmを使用する。散乱光測定では、サンプルに含まれる夾雑物(乳ビ、溶血、黄疸)の影響をより受けにくくすることと可視光であることを考慮し、600nm~800nmの波長の照射光を使用するのが好ましい。光源には、LED以外に、レーザ光源、キセノンランプ、ハロゲンランプ等を用いてもよい。受光器には例えばフォトダイオードが使用される。透過光及び散乱光受光器による受光信号は、散乱光測定回路120を通じ、データ処理部121の記憶部121aに送信される。散乱光測定回路120も、一定時間毎に受光信号を取得し、取得された光量値をデータ処理部121に出力する。散乱光受光器は、例えば、反応ディスク109の回転によるセル108の移動方向に対して概ね垂直となる面内に配置される。このとき、内部に多数の単体のリニアアレイを配置し、複数角度の散乱光を一度に受光する構成であってもよい。リニアアレイを用いることにより、受光角度の選択肢を広げることができる。また、受光器でなく、ファイバやレンズなどの光学系を配置し、別位置に配置された散乱光受光器に光を導いてもよい。
【0030】
データ処理部121は、記憶部121aと解析部121bで構成される。記憶部121aには制御プログラム、測定プログラム、データ解析プログラム、検量線データ、測定データ、解析結果等が格納される。測定プログラムは、例えば、検量線生成データの測定プログラムやサンプル測定プログラムである。操作部122あるいは通信インターフェース124を介して分析の依頼がデータ処理部121に入力されると、該当する測定プログラムが実行され、制御プログラムが働く。制御プログラムは制御回路を動かし、制御回路が駆動部を動かすことで、各機構に働きかけ分析が実施される。吸光度測定回路119及び散乱光測定回路120を介してデータ処理部121に出力された測定データは、記憶部121aに格納され、データ解析プログラムと一緒に解析部121bに読み出される。データ解析プログラムは、例えば、検量線生成プログラム、検量線を用いて被測定物質が未知濃度のサンプル濃度を定量するプログラム、検量線やサンプル測定結果に対してエラーを判断するプログラムである。データ解析プログラムに従って解析された解析結果、解析条件、解析時に生成されたデータなどは、記憶部121aに戻されて保持される。記憶部121aに格納された解析結果やエラー情報は操作部122の表示部122aに表示され、必要であればプリンター123で印刷出力される。データ処理部121は、例えば、CPU等のプロセッサにより実現される。
【0031】
操作部122は、表示部122aと、入力部としてのキーボード122bとマウス122cから構成される。入力は、キーボード122bの他に、表示部122aの画面をタッチして入力してもよいし、表示部122aの画面に表示されているものをマウス122cで選択して入力してもよい。
【0032】
通信インターフェース124は、例えば、病院内のネットワークと接続され、HIS(Hospital Information System)やLIS(Laboratory Information System)と通信される。
【0033】
<実施の形態1:検量線生成用の反応過程データの取得>
本実施形態1において検量線を生成するために使用する反応過程データの取得について説明する。
【0034】
図3は、キャリブレーション情報を設定するために用いる設定画面の例を示す。まず、キャリブレーションが必要となる検査項目において、キャリブレーション情報と分析パラメータを設定する。設定画面は、標準液のロット、使用する標準液Nの濃度、標準液Nを収容するサンプルカップ102をサンプルディスク103に架設するときのポジション番号、検量線データ点数、データ点数分の検量線生成時の濃度と測光ポイント情報などを入力する欄がある。図3では、それぞれ、標準液のロット:AAA、標準液の濃度:Y、標準液の架設ポジション:10、検量線データ点数:N、濃度:C1~CN、測光ポイント情報:P1~PNとした。濃度と測光ポイントの意義については後述する。分析パラメータとしては、サンプルや試薬の分注量や、データ処理に使用する演算ポイントなどがある。標準液の架設ポジション以外の情報は、例えば試薬と標準液を提供するメーカーから与えられる。標準液の架設ポジションは、操作者が任意に設定できることが望ましい。
【0035】
キャリブレーション情報と分析パラメータは、操作部122から入力されてもよいし、CD-ROMなどの記憶媒体を介して記憶部121aに読み込ませてもよいし、通信インターフェース124を介して読み込ませてもよい。あるいは、過去に記憶部121aに格納済みであれば、その情報を呼び出してもよい。キャリブレーション情報の一部である濃度と測光ポイントは、測光ポイント-濃度変換用データに相当するものである。この濃度と測光ポイントは、記憶部121aに従来法で生成した検量線データとその検量線の生成に使用された最も濃い濃度の標準液の反応過程データが存在する場合、それらのデータと標準液Nの濃度情報を使用して、解析部121bで計算したものを反映してもよい。計算方法の例は、のちに記載する<実施の形態1:測光ポイント-濃度変換用データの設定>の通りである。図3では、具体的な濃度と測光ポイント情報が見える設定画面の例を示したが、これらを非表示とした設定画面でもよい。設定された情報は、記憶部121aに格納されて、解析部121bに読み出されて検量線の生成に使用される。
【0036】
次に、当該項目の試薬ボトルを試薬ディスク106に架設し、当該標準液Nをサンプルディスク103に架設する。その後、操作部122あるいは通信インターフェース124を介してキャリブレーションの依頼が入力される。入力内容はデータ処理部121に伝わり、記憶部121aに格納された検量線生成データの測定プログラムが実行され、制御プログラムが働く。制御プログラムは制御回路を動かし、制御回路が駆動部を動かすことにより、各機構が動き分析が実施される。具体的な分析動作は、例えば以降の説明の通りである。ここでは、第1試薬と第2試薬が存在する項目を例にして説明するが、本発明は第1試薬と第2試薬が存在する項目に限定されない。
【0037】
まず、洗浄機構114が動作してセル108が洗浄される。次に、サンプル分注機構110が動作してサンプルカップ102内のサンプル101(標準液Nに該当)がセル108に一定量分注される。試薬分注機構111が動作して試薬ボトル105内の試薬104として第1試薬が、前記サンプル101を収容するセル108に一定量分注され、サンプル101と試薬104の混合液である反応液107となる。サンプル101や試薬104が分注される時、制御回路118は駆動部117に働きかけて、サンプルディスク103、試薬ディスク106、反応ディスク109を回転駆動させる。この際、各ディスク上に配置されているサンプルカップ102、試薬ボトル105、セル108は、サンプル分注機構110と試薬分注機構111の駆動タイミングに応じて、所定の分注位置に回転して位置決めされる。
【0038】
続いて、攪拌機構113が動作して、セル108内の反応液107が攪拌される。反応ディスク109の回転により、反応液107を収容するセル108は、吸光度測定部115と散乱光測定部116をそれぞれ通過する。各測定部を通過するたびに、反応液107からの透過光又は散乱光の信号は、それぞれ吸光度測定回路119と散乱光測定回路120を介して、データ処理部121の記憶部121aに送信される。このデータは、反応過程データとして蓄積される。
【0039】
はじめのサンプル101の分注から約5分が経過したころに、試薬104として第2試薬が試薬分注機構111によって反応液107を収容するセル108に追加分注され、攪拌機構113によって攪拌されて、一定時間(約5分間)反応ディスク109の回転に伴って吸光度測定部115と散乱光測定部116をそれぞれ通過する。各測定部を通過するたびに得られる反応液107からの透過光又は散乱光の信号は、それぞれ吸光度測定回路119と散乱光測定回路120を介して、データ処理部121の記憶部121aに送信され、合計約10分間の反応過程データとなる。
【0040】
図4は、吸光度測定により取得される反応過程データの例を示す。横軸に示す測光ポイントは、反応過程データが測定された順番を表している。縦軸は吸光度測定回路119によって測定された吸光度データを示している。この例では、約18秒間隔で吸光度データが取得されており、測光ポイント1~16までがサンプルと第1試薬の反応液から得られた吸光度データであり、測光ポイント17~34までがサンプルと第1試薬と第2試薬の反応液から得られた吸光度データとなる。反応過程データが散乱光測定回路120によって測定される散乱光強度データの場合は、図4における縦軸が散乱光強度になる。取得された標準液Nの反応過程データは記憶部121aに格納され、解析部121bに読み出されて検量線の生成に使用される。反応過程データを複数回取得した場合は、検量線を生成する際、それらの平均をとったデータを検量線生成用データとしてもよいし、どれか1つを選択して使用してもよい。
【0041】
<実施の形態1:測光ポイント-濃度変換用データの設定>
次に、反応時間と被測定物質の濃度の関係を表した「測光ポイント-濃度変換用データ」の設定について説明する。反応時間は測光ポイントと置換可能である。ここでは、反応過程データの横軸が測光ポイントで出力されることを想定して、反応時間を測光ポイントとして表現する。ここでは、従来法により生成された検量線データと、その検量線の生成に使用された最も濃い濃度の標準液の反応過程データを用いて、測光ポイント-濃度変換用データを導出する例を説明するが、以下の導出例に限定されない。
【0042】
従来法において検量線を生成する際のデータ処理法を知り、その処理法を応用する必要があるので、まず、従来法での検量線の生成から記載する。はじめに複数の既知濃度C’1~C’N(N≧2)の標準液群の反応過程データをそれぞれ取得する。具体的に説明するために、N=6とする。
【0043】
図5は、6つの既知濃度C’1~C’6の標準液群の吸光度測定による反応過程データの例である。ここで、分析パラメータで設定された演算ポイントが例えば(18、30)だったとして(演算ポイントの18は演算開始ポイントに相当し、30は演算終了ポイントに相当する)、このポイント間の一定時間における吸光度変化量ΔA’1~ΔA’6を算出する。演算ポイントは検査項目ごとに指定される。算出した吸光度変化量(ΔA’1~ΔA’6)を標準液群の各被測定物質濃度(C’1~C’6)に対してプロットし、これらのデータの関係式を検量線とする。表1に従来法により取得した検量線生成用データを示す。
【0044】
【表1】
【0045】
図6は、表1のデータをプロットして折れ線で近似した場合の検量線の例を示す。この検量線は、従来法により生成した検量線に相当する。
【0046】
次に、最も濃い濃度C’6の標準液6の反応過程データを処理する。はじめに、検量線生成用データの抽出に使用した演算ポイントを使って、測定値を処理する。例えばゼロ点調整などを実施する。ここでの例では、測光ポイント18の吸光度:A’18を基準とした変化量を検量線生成用データとしたので、標準液C’6の反応過程データにおいても、全ての測定値からA’18を減算処理する。データ処理後の反応過程データをフィッティングし、フィッティング式を導出して離散的な測定データを補完する。フィッティング関数は、例えば多項式関数や指数関数などである。
【0047】
図7は、標準液6のデータ処理後の反応過程データとフィッティング線の例を示す。
【0048】
図8は、標準液6のデータ処理後のフィッティング線と従来法により取得した検量線生成用の吸光度変化量データ(ΔA’1~ΔA’6)に相当する測光ポイント(P1~P6)を示す。表1の従来法により取得した吸光度変化量のデータ(ΔA’1~ΔA’6)をフィッティング式に対してそれぞれ代入することにより、各標準液の吸光度変化量(ΔA’1~ΔA’6)に対応する測光ポイント(P1~P6)を算出する。表2は、従来法により取得した検量線生成用の変化量データ(ΔA’1~ΔA’6)と、これらのデータを標準液6の反応過程データのみから抽出する際に必要となる測光ポイント(P1~P6)の関係を示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表1と表2において、吸光度の変化量データ(ΔA’1~ΔA’6)は同じであることから、表3に示すとおり、被測定物質の濃度と測光ポイントの関係を導く。
【0051】
【表3】
【0052】
「測光ポイント-濃度変換用データ」の設定は表3の情報の導出で完了するわけではなく、検量線を生成する際に改めて使用する標準液6の濃度(C6)に応じて、表3の被測定物質の濃度(C’1~C’6)を見直す必要がある。検量線は、特に試薬ロットが変わるごとに改めて生成する必要がある。検量線を生成する際に標準液6を改めて用いるが、この標準液6内の被測定物質の濃度(C6)が、表3の導出で使用した標準液群の中の標準液6内の被測定物質の濃度(C’6)に対応するものの実際にはそれらの濃度が異なる場合がある(例えば標準液ロットが異なる場合)。このような場合に備えて、表3に示す標準液群(標準液1~6)の濃度(C’1~C’6)を、検量線を生成する際に改めて使用する標準液6の濃度(C6)を用いて補正することで、最終的な「測光ポイント-濃度変換用データ」の設定が完了する。ここでは、例えば以下の式(1)を用いて、濃度を補正する例を示す。
CM=CN×(C’M÷C’N)・・・式(1)
【0053】
CMは本発明で生成する検量線のデータ点数M番目(1≦M≦N)の被測定物質の濃度、CNは標準液N(N≧2)の濃度、C’Mは被測定物質の濃度と測光ポイントの関係表(表3)の導出に使用した標準液群の中の標準液Mの濃度、C’Nは被測定物質の濃度と測光ポイントの関係表(表3)の導出に使用した標準液群の中の標準液Nの濃度である。
【0054】
以上の説明例のようにして、被測定物質の濃度:CMと反応時間(測光ポイント):PMの情報が導出される。導出された情報をここでは「測光ポイント-濃度変換用データ」と呼ぶ。分かりやすくするためにN=6としたまま、表4に「測光ポイント-濃度変換用データ」を整理して示す。
【0055】
【表4】
【0056】
この表4の「測光ポイント-濃度変換用データ」が、図3における濃度と測光ポイントの情報に相当する。測光ポイント情報は、1組の標準液ロットと試薬ロットの組み合わせで導出したものでもよいし、様々なロットの組み合わせで導出した測光ポイントデータを平均したものを使用してもよい。この「測光ポイント-濃度変換用データ」は、試薬と標準液を提供するメーカーから、試薬ロットと標準液ロットの組み合わせごと、あるいは試薬ロット単体ごと、あるいは標準液ロット単体ごとに、提供されてもよい。また、前述したとおり、記憶部121aの中に、この情報を導出するために必要となる情報が格納されている場合は、必要情報と計算プログラムを解析部121bに読み出して解析部121bで計算した後、記憶部121aに戻し、必要に応じて呼び出してもよい。または、外部記憶媒体に記憶されている情報を読み込んで使用してもよい。
【0057】
ここでの説明例では、従来法で生成する検量線データとして反応過程データの一定時間の変化量を使用したが、変化量でなくてもよく、ある測光ポイントの吸光度や散乱光強度でもよいし、指定された測光ポイントの前後のポイントのデータの平均値などでもよい(これらは演算ポイントを1点とした場合に相当する)。この場合、標準液6の反応過程データの処理は必須ではなくそのままのデータを使用してよいし、あるいは当該演算ポイントの前後のデータの平均値などを使用してもよい。また、従来法での検量線データの生成において、今回の説明例と同様、反応過程データの一定時間の変化量を算出する場合であっても、演算ポイント間の単なる減算処理ではなく、演算ポイントの前後のポイントのデータも併用してそれらの平均値を減算処理してもよい。この場合、検量線生成用に取得された標準液6の反応過程データの処理でも同様な演算処理を実施すればよい。また、濃度の見直しは、式(1)の換算式に限定されるわけではなく、多項式関数や指数関数などを用いてもよい。データの処理方法は、検査項目ごとに決定されるものである。
【0058】
本願発明者は、標準液1~6のうち被測定物質濃度が最も濃い標準液6の反応過程データは、その他の標準液1~5の反応過程データを包含していることを見出した。すなわち標準液6の反応過程データの離散的な部分を補完したフィッティング線のうち、表4に示す測光ポイントP1~P6における光量データは、標準液群(標準液1~6)の各反応過程データから従来法により算出していた検量線生成用の光量データ(上記では吸光度変化量ΔA’1~ΔA’6)と等価であることが分かった。
【0059】
そこで本実施形態1においては、標準液6の反応過程データのフィッティング線に対して標準液群(標準液1~6)から従来法にて取得した光量データを一旦適用することにより、標準液6の反応過程データのフィッティング線から従来法の多点キャリブレーションデータに相当するデータを抽出する測光ポイント情報を導出しておく(図8)。さらに、これらの測光ポイント情報を、標準液群(標準液1~6)にそれぞれ含有されている被測定物質の濃度に相当する情報に紐づけておく(表4)。この紐づけられた測光ポイント情報と被測定物質の濃度の関係を、ここでは「測光ポイント-濃度変換用データ」と呼んでいる。本発明では、この「測光ポイント-濃度変換用データ」と、変更された試薬ロットにて取得する標準液6の反応過程データのみを用いることにより、標準液群(標準液1~6の全て)を用いて生成されていた検量線と等価な検量線を実現した。
【0060】
ここで、本発明における検量線の生成方法を簡単に記載するが、より詳細な手順や具体例は、<実施の形態1:検量線の生成>以降に記載する。
【0061】
本発明ではまず、変更された試薬ロットにて取得される標準液6のみの反応過程データのフィッティング線に対して、「測光ポイント-濃度変換用データ」のなかの測光ポイント情報を適用して複数の光量データ(吸光度、散乱光強度、あるいはそれらの変化量)を抽出する。この時点で、複数の測光ポイントに対応する複数の光量データが得られる。次に、「測光ポイント-濃度変換用データ」にしたがって測光ポイント情報を被測定物質の濃度情報に変換することにより、抽出した光量データを被測定物質の濃度に紐づける。この紐づけられた被測定物質の濃度と抽出した光量データの関係式を得ることにより検量線を生成する。このように、新たにキャリブレーションが必要となった場合でも、従来法のように標準液群(複数濃度の標準液のセット)の反応過程データを取得する必要はなく、「測光ポイント-濃度変換用データ」と、変更された試薬ロットにて取得された標準液6の反応過程データのみを用いながら、標準液群(標準液1~6の全て)を用いた場合と等価な検量線を実現した。手順の詳細および具体例は後述する。
【0062】
<実施の形態1:検量線の生成>
設定された「測光ポイント-濃度変換用データ」を用いて検量線を生成する手順について説明する。記憶部121aに格納されたキャリブレーション情報(図3)、分析パラメータの演算ポイントおよび検量線タイプ、標準液N(上記例においては標準液6)の反応過程データ(<実施の形態1:検量線生成用の反応過程データの取得>で取得したデータであり、ここでは吸光度データとする)、検量線生成プログラムが、解析部121bに呼び出される。「測光ポイント-濃度変換用データ」は、キャリブレーション情報(図3)のうちの濃度と測光ポイントの情報に相当する。検量線生成プログラムの実行内容は、次の通りである。
【0063】
はじめに、演算ポイントの情報に従って、標準液Nの反応過程データを処理する。演算ポイントは検査項目によって決められる。処理方法は、測光ポイント-濃度変換用データの設定において、既知濃度C’Nの標準液の反応過程データを処理した方法と同じ方法とされることが望ましい。例えば、ここでは<実施の形態1:測光ポイント-濃度変換用データの設定>で使用した処理方法を例にして、演算ポイントが(18、30)の2点であるとして、測光ポイント18の吸光度:A18を基準として全ての測定値からA18を減算処理する。データ処理後の反応過程データをフィッティングし、フィッティング式を導出して離散的な測定データを補完する。
【0064】
図9は、標準液Nのデータ処理後の反応過程データとフィッティング線の例を示す。フィッティング関数は、例えば多項式関数や指数関数などである。測光ポイント-濃度変換用データの設定において使用したフィッティング関数と同じ種類の関数を使用することが望ましい。得られたフィッティング式に、キャリブレーション情報(図3)で設定された測光ポイント情報(P1~PN)を代入し、吸光度変化量のデータ(ΔA1~ΔAN)を算出(アウトプット)する。
【0065】
図10は、標準液Nのデータ処理後のフィッティング線と測光ポイント:P1~PNに相当する吸光度変化量:ΔA1~ΔAN(アウトプット情報)を示す。ここで、アウトプットされた吸光度変化量:ΔA1~ΔANは、従来法による検量線生成において標準液群(標準液1~N)を測定した時の反応過程データから得られる光量データと等価である。次に、測光ポイント-濃度変換用データにしたがって、測光ポイント:P1~PNを被測定物質の濃度情報(図3の濃度情報:C1~CN)に変換することにより、濃度(C1~CN)と吸光度変化量のデータ(ΔA1~ΔAN)を紐づける。濃度(C1~CN)に対して吸光度変化量のデータ(ΔA1~ΔAN)をプロットし、分析パラメータ情報で指定された検量線タイプ(リニア、折れ線、スプラインなど)の数式で近似してキャリブファクターが算出され、検量線が生成される。
【0066】
図11は、検量線タイプが折れ線だった場合の実施形態1で生成される検量線の例を示す。横軸が被測定物質の濃度であり、縦軸が吸光度変化量データ:ΔAである。キャリブファクターとは、キャリブレーションポイント(検量線ポイント)における吸光度、散乱光強度、あるいはそれらの変化量データや、検量線の傾きなどといった近似式の係数情報である。キャリブファクターとその算出方法は、検量線のタイプ(リニア、折れ線、スプラインなど)によって変わるものである。生成された検量線や処理後の反応過程データなどは記憶部121aに格納される。被測定物質が未知濃度のサンプルが測定されたときに、検量線の情報は解析部121bに呼び出されて、被測定物質の濃度の定量に使用される。
【0067】
ここでは、標準液Nの反応過程データの処理において、演算ポイントが2点の場合を説明したが、演算ポイントが1点の場合もある。1点の場合は、そのポイントのデータをそのまま使用してもよいし、そのポイントの前後のデータの平均値などを使用してもよい。また、演算ポイントが2点の場合においても、上記の様に演算開始ポイント(上記ではポイント18に相当)の測定データを基準にして減算する処理内容でなくてもよく、例えば、演算開始ポイントの前後の複数ポイントのデータの平均値などを基準に減算処理してもよい。このとき、減算対象ポイントのデータにおいても、そのポイント前後の複数ポイントのデータの平均値などを使用してもよい。
【0068】
<実施の形態1:検量線の生成とキャリブファクターの算出例その1>
以下、具体的な検査項目を挙げて、当該市販試薬と当該市販標準液を用いて、本実施形態1で説明した内容に従って検量線を生成した例を紹介する。吸光度測定項目として、FDP(フィブリノゲン・フィブリン分解産物)項目を、また散乱光測定項目として高感度CRP(C反応性たんぱく)項目を選択して検量線の生成例を紹介する。いずれもラテックス免疫比濁項目であるが、本発明はラテックス免疫比濁項目に限定されない。
【0069】
まず、FDP項目の場合について紹介する。はじめに測光ポイント-濃度変換用データを設定する。ここでは、上記で説明した導出例に従うため、従来法で検量線を生成したデータが必要となる。このデータは、次の試薬と標準液を用いて取得した。
【0070】
・試薬:ロットA
・標準液群:ロットB、濃度は6点。
・標準液群(ロットB)の濃度:標準液1_0.0 μg/mL、標準液2_7.6 μg/mL、標準液3_15.0 μg/mL、標準液4_29.0 μg/mL、標準液5_61.0 μg/mL、標準液6_121.0 μg/mL。
【0071】
まず、試薬(ロットA)と標準液群(ロットB)を反応させて、標準液群(標準液1~6)の反応過程データをそれぞれ取得し、演算ポイント2点(19、34)を使用して、このポイント間の吸光度変化量を算出した。ここでは、各ポイントの1つ前のポイントのデータも使用して、33と34ポイントの吸光度の平均から、18と19ポイントの吸光度の平均を減算して、吸光度変化量とした。次に、標準液群(ロットB)のうちの標準液6の反応過程データを式(2)により処理した。Xは18~34ポイントである。
Xポイント目のデータ=(Xと(X-1)ポイントの吸光度の平均値)-(18と19ポイントの吸光度の平均)・・・式(2)
【0072】
処理後の反応過程データを指数関数でフィッティングした。このとき、測光ポイント24を境界として24ポイント以前と、24ポイントより後ろでフィッティングを分けた。入手したフィッティング式に、上記で算出した標準液群の吸光度変化量をそれぞれ代入し、測光ポイントを算出した。ここでは24ポイント以前と24ポイントより後ろでデータを分けてフィッティングしたが、必ずしもデータを分割してフィッティングを実施する必要はなく、フィッティング線が処理後の反応過程データに最も合う条件でフィッティングすることが望ましい。
【0073】
図12は、算出した測光ポイントをキャリブレーション設定画面例の中の測光ポイント欄に入力した例を示す。
【0074】
次に濃度情報を設定した。検量線生成に用いる反応過程データの取得に使用した試薬と標準液は以下の通りである。このとき使用する試薬及び標準液のロットは、測光ポイント-濃度変換用データの設定で使用したロットと異なる。
【0075】
・試薬:ロットC
・標準液:ロットD、濃度は6点あるうち、標準液6のみを使用
・標準液(ロットD)の濃度:標準液6_121.0 μg/mL(参考までに、標準液6以外の濃度を記載する。標準液1_0.0 μg/mL、標準液2_7.3 μg/mL、標準液3_15.2 μg/mL、標準液4_29.0 μg/mL、標準液5_61.0 μg/mL)
【0076】
ここでは、式(1)を用いて濃度を算出した。算出した被測定物質の濃度は、図12に示すキャリブレーション設定画面例の中の濃度欄に示すとおりである。ここでは標準液群(ロットB)における標準液6内の被測定物質濃度(121.0μg/mL)と標準液6(ロットD)内の被測定物質濃度(121.0μg/mL)は同じであるので、式(1)を用いて濃度を換算した結果は標準液群の被測定物質濃度と同じになる。ここで、ロットBとロットDの標準液6の被測定物質濃度が互いに異なる場合は、式(1)にしたがって、検量線の生成に使用する被測定物質の濃度を標準液群(ロットB)の標準液1~6に対応する値へ換算する必要がある。この換算は、後述する例その2においても同様である。
【0077】
最後に検量線を生成する。試薬(ロットC)と標準液6(ロットD)を反応させて取得された反応過程データを、式(2)を用いて処理して指数関数でフィッティングし、フィッティング式を入手した。このとき、測光ポイント24を境界として24ポイント以前と、24ポイントより後ろでフィッティングを分けた。測光ポイント-濃度変換用データを設定するときに採用したフィッティング条件を適用することが望ましいため、同じ条件でフィッティングした。
【0078】
図13は、試薬(ロットC)と標準液6(ロットD)の反応を表した反応過程データを処理したデータに対するフィッティング線を示す。
【0079】
図14は、標準液6(ロットD)のデータ処理後のフィッティング線と図12に示した測光ポイントに相当する吸光度変化量(アウトプット情報)を示す。フィッティング式に図12の測光ポイントをそれぞれ代入し、検量線ポイントそれぞれに対応する吸光度変化量を算出した。
【0080】
表5は、検量線ポイントと濃度のほかに図14における測光ポイントと吸光度変化量(アウトプット情報)を示す。
【0081】
【表5】
【0082】
図15は、生成された検量線を示す。濃度に対して吸光度変化量をプロットし、折れ線で近似して検量線を生成した。ここでの例では、検量線タイプは折れ線であり、キャリブファクターとしては、例えば各検量線ポイントにおける吸光度変化量と、各濃度区間の傾きなどがある。各検量線ポイントにおける吸光度変化量は表5に示す吸光度変化量の通りである。各濃度区間の傾きは、例えば次のようになる。FDP濃度が0.0μg/mL以上7.6μg/mL未満では傾きは(153-18)/(7.6-0.0)≒17.8、FDP濃度が7.6μg/mL以上15.0μg/mL未満では傾きは(292-153)/(15.0-7.6)≒18.8、FDP濃度が15.0μg/mL以上29.0μg/mL未満では傾きは(563-292)/(29.0-15.0)≒19.4、FDP濃度が29.0μg/mL以上61.0μg/mL未満では傾きは(1050-563)/(61.0-29.0)≒15.2、FDP濃度が61.0μg/mL以上では傾きは(2035-1050)/(121.0-61.0)≒16.4。
【0083】
図16は、本実施形態1の方法で生成された検量線(図15)と従来法で生成した検量線を重ね合わせた例を示す。従来法で生成した検量線とは、上記の標準液1~6(ロットD)を標準液群として扱い、試薬(ロットC)とそれぞれ反応させて得られた反応過程データを用いて33と34ポイントの吸光度の平均から18と19ポイントの吸光度の平均を減算して得た吸光度変化量を、標準液1~6(ロットD)の濃度(標準液1_0.0 μg/mL、標準液2_7.3 μg/mL、標準液3_15.2 μg/mL、標準液4_29.0 μg/mL、標準液5_61.0 μg/mL、標準液6_121.0 μg/mL)に対してプロットし、折れ線で近似したものである。図16から、本実施形態1の方法で生成された検量線は従来法で生成した検量線と概ね一致した。
またここで、ロットDの標準液1~6を未知濃度のサンプルと見なして試薬(ロットC)と反応させて反応過程データを測定し、本実施形態1の方法で生成された検量線データ(図15)と比較して標準液1~6(ロットD)の濃度を定量した。具体的には、標準液1~6(ロットD)の反応過程データのそれぞれにおいて、33と34ポイントの吸光度の平均から18と19ポイントの吸光度の平均を減算して得た吸光度変化量を検量線データと比較して、当該標準液1~6の被測定物質の濃度を定量した。表6は、その結果と正確性を示す。
【0084】
【表6】
【0085】
得られた正確性は、測定期待値の85~115%以内であることを確認した。ここで、測定期待値は既知濃度に相当する。
【0086】
<実施の形態1:検量線の生成とキャリブファクターの算出例その2>
次に、高感度CRP項目の場合について紹介する。はじめに測光ポイント-濃度変換用データを設定する。ここでも、上記で説明した導出例に従うため、従来法で検量線を生成したデータが必要となる。このデータは、次の試薬と標準液を用いて取得した。
【0087】
・試薬:ロットE
・標準液群:ロットF、濃度は3点。
・標準液群(ロットF)の濃度:標準液1_0.0 mg/dL、標準液2_0.2 mg/dL、標準液3_1.0 mg/dL。
【0088】
まず、試薬(ロットE)と標準液群(ロットF)を反応させて、標準液群(標準液1~3)の反応過程データをそれぞれ取得し、演算ポイント2点(20、34)を使用して、このポイント間の散乱光強度変化量を算出した。ここでは、各ポイントの1つ前のポイントのデータも使用して、33と34ポイントの散乱光強度の平均から、19と20ポイントの散乱光強度の平均を減算して、散乱光強度変化量とした。次に、標準液群(ロットF)のうちの標準液3の反応過程データを式(3)により処理した。Xは18~34ポイントである。
Xポイント目のデータ=(Xと(X-1)ポイントの散乱光強度の平均値)-(19と20ポイントの散乱光強度の平均)・・・式(3)
【0089】
処理後の反応過程データを指数関数でフィッティングした。このとき、測光ポイント21を境界として21ポイント以前と、21ポイントより後ろでフィッティングを分けた。入手したフィッティング式に、上記で算出した標準液群の散乱光強度変化量をそれぞれ代入し、測光ポイントを算出した。ここでは21ポイント以前と21ポイントより後ろでデータを分けてフィッティングしたが、必ずしもデータを分割してフィッティングを実施する必要はなく、フィッティング線が処理後の反応過程データに最も合う条件でフィッティングすることが望ましい。
【0090】
図17は、算出した測光ポイントをキャリブレーション設定画面例の中の測光ポイント欄に入力した例を示す。
【0091】
次に濃度情報を設定した。検量線生成に用いる反応過程データの取得に使用した試薬と標準液は以下の通りである。このとき使用する試薬及び標準液のロットは、測光ポイント-濃度変換用データの設定で使用したロットと異なる。
【0092】
・試薬:ロットG
・標準液:ロットH、濃度は3点あるうち、標準液3のみを使用。
・標準液(ロットH)の濃度:標準液3_1.0 mg/dL(参考までに、標準液3以外の濃度を記載する。標準液1_0.0 mg/dL、標準液2_0.2 mg/dL)
【0093】
ここでは、式(1)を用いて濃度を算出した。導出した被測定物質の濃度情報は、図17に示すキャリブレーション設定画面例の中の濃度欄に示すとおりである。
【0094】
最後に検量線を生成する。試薬(ロットG)と標準液3(ロットH)を反応させて取得された反応過程データを、式(3)を用いて処理して指数関数でフィッティングし、フィッティング式を入手した。このとき、測光ポイント21を境界として21ポイント以前と、21ポイントより後ろでフィッティングを分けた。測光ポイント-濃度変換用データを設定するときに採用したフィッティング条件を適用することが望ましいため、同じ条件でフィッティングした。
【0095】
図18は、試薬(ロットG)と標準液3(ロットH)の反応を表した反応過程データを処理したデータに対するフィッティング線を示す。
【0096】
図19は、標準液3(ロットH)のデータ処理後のフィッティング線と図17に示した測光ポイントに相当する散乱光強度変化量(アウトプット情報)を示す。フィッティング式に図17の測光ポイントをそれぞれ代入し、検量線ポイントそれぞれに対応する散乱光強度変化量を算出した。
【0097】
表7は、検量線ポイントと濃度のほかに図19における測光ポイントと散乱光強度変化量(アウトプット情報)を示す。
【0098】
【表7】
【0099】
図20は、生成された検量線を示す。濃度に対して散乱光強度変化量をプロットし、折れ線で近似して検量線を生成した。ここでの例では、検量線タイプは折れ線であり、キャリブファクターには、例えば各検量線ポイントにおける散乱光強度変化量と、各濃度区間の傾きなどがある。各検量線ポイントにおける散乱光強度変化量は表7に示す散乱光強度変化量の通りである。各濃度区間の傾きは、例えば次のようになる。CRP濃度が0.0mg/dL以上0.2mg/dL未満では傾きは(538-4)/(0.2-0.0)=2670.0、CRP濃度が0.2mg/dL以上では傾きは(1553-538)/(1.0-0.2)≒1268.8。
【0100】
図21は、本実施形態1の方法で生成された検量線(図20)と従来法で生成した検量線を重ね合わせた例を示す。従来法で生成した検量線とは、上記の標準液1~3(ロットH)を標準液群として扱い、試薬(ロットG)とそれぞれ反応させて得られた反応過程データを用いて33と34ポイントの散乱光強度の平均から19と20ポイントの散乱光強度の平均を減算して得た散乱光強度変化量を、標準液1~3(ロットH)の濃度(標準液1_0.0 μg/mL、標準液2_0.2 mg/dL、標準液3_1.0 μg/mL)に対してプロットし、折れ線で近似したものである。図21から、本実施形態1の方法で生成された検量線は従来法で生成した検量線と概ね一致した。
またここで、ロットHの標準液1~3を未知濃度のサンプルと見なして試薬(ロットG)と反応させて反応過程データを測定し、本実施形態1の方法で生成された検量線データ(図20)と比較して標準液1~3(ロットH)の濃度を定量した。具体的には、標準液1~3(ロットH)の反応過程データのそれぞれにおいて、33と34ポイントの散乱光強度の平均から19と20ポイントの散乱光強度の平均を減算して得た散乱光強度変化量を検量線データと比較して、当該標準液1~3の被測定物質の濃度を定量した。表8は、その結果と正確性を示す。
【0101】
【表8】
【0102】
得られた正確性は、測定期待値の90~110%以内であることを確認した。ここで、測定期待値は既知濃度に相当する。
【0103】
ここでは、折れ線タイプのキャリブファクターの算出例について記載したが、算出方法はこれに限定されるものではない。また、キャリブファクターとその算出方法は、検量線のタイプ(リニア、折れ線、スプラインなど)によって変わるものである。
【0104】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る自動分析装置100は、標準液Nの反応過程を測定することにより得られる反応過程データに対して、「測光ポイント-濃度変換用データ」を適用することにより、標準液Nの反応過程データのうち「測光ポイント-濃度変換用データ」に示された測光ポイントに合致する点を特定する。この測光ポイント情報は、従来標準液群(標準液1~N)を測定して入手していたキャリブレーションデータに相当する光量データを、標準液Nの反応過程データのみから抽出するために必要な情報であり、標準液Nの測定とは独立して別途設定されたものである。また、この測光ポイント情報は、標準液群の被測定物質の濃度に相当する情報と紐づけられている。特定された点は測光ポイントと光量データからなるものである。「測光ポイント-濃度変換用データ」にしたがって、特定された点のうちの測光ポイント情報を被測定物質の濃度に変換することにより、光量データと被測定物質の濃度の関係を表す検量線を生成する。これにより、実際に測定するのは標準液Nのみでありながら、標準液1~Nのキャリブレーションデータを取り込むことができる。したがって標準液群(標準液1~Nの全て)を用いて生成した検量線と等価な検量線を、標準液Nのみの測定によって得ることができる。
【0105】
上記実施例は、被測定物質濃度が最も濃い標準液Nを使用した場合の検量線生成方法について説明したが、必ずしも標準液Nを使用する必要はなく、標準液Nに含まれる最も濃い被測定物質濃度の反応を外挿できる程度の濃度を有する標準液(N-n)(nは整数であり、0<n<N)のみを使用して上記した内容と同様の方法で検量線を生成してもよい。この場合も、実際に測定するのは標準液(N-n)のみでありながら、標準液1~Nのキャリブレーションデータを取り込んだ検量線を生成できる。したがって、標準液群(標準液1~Nの全て)を用いて生成した検量線と等価な検量線を、標準液(N-n)のみの測定によって得ることができる。
【0106】
本実施形態1に係る自動分析装置100は、測光ポイント-濃度変換用データを得るときに使用する標準液群のロットと検量線生成用の反応過程データを得る標準液のロットが異なる場合は、式(1)にしたがってロット間の被測定物質の濃度の差分を補正した上で、検量線を生成する。これにより、一旦測光ポイント情報を取得しておけば、検量線生成用の反応過程データを得るために使用する標準液のロットや当該標準液に含有される被測定物質の濃度を指定する必要はない。つまり、測光ポイント-濃度変換用データの取得に使用した標準液群のロットとは異なるロットの標準液1つ(標準液Nあるいは標準液(N-n)の測定のみによって検量線を生成することができる。
【0107】
本実施形態1において、測光ポイント-濃度変換用データは、自動分析装置100を用いて標準液群(標準液1~N)を実測することにより取得してもよいし、あらかじめ取得した測光ポイント-濃度変換用データを読み出して取得してもよい。この測光ポイント-濃度変換用データは自動分析装置に付帯されているメモリーから読み出す手法に限らず、インターネット等を通じた通信手段を用いて取得してもよい。また、図12などで例示した入力画面を介して入力してもよい。これにより、自動分析装置100の運用条件などに応じて、測光ポイント-濃度変換用データを様々な形態で取得することができる。
【0108】
<実施の形態2>
本発明の実施形態2では、標準液の数がN(N≧3)点以上の検査項目において、最大濃度の標準液Nに加えて被測定物質を含まないゼロ濃度の標準液1を測定し、実施形態1と同様の手法で標準液Nの反応過程データから抽出した検量線ポイント2~Nに相当するデータと、標準液1の反応過程データから抽出した検量線ポイント1のデータを用いて、検量線を生成する場合について説明する。最大濃度の標準液Nの反応過程データだけを実測するのではなく、被測定物質がゼロ濃度の標準液1を実測したデータも使用する点が実施形態1とは異なる。本実施形態2では、被測定物質に関係しない非特異的な反応が生じた場合の影響を正確に検量線に反映することが可能となる。
【0109】
これまでに、ゼロ濃度の標準液とゼロ濃度以外の任意の既知濃度の標準液の2つの標準液を用いるキャリブレーションとして、2ポイントキャリブレーションが存在する。2ポイントキャリブレーションでは、前記2つの標準液のデータを用いて既存の検量線におけるキャリブファクター(試薬ブランク値とK値)を更新する。具体的には、ゼロ濃度標準液を用いて試薬ブランク値(ブランク吸光度、ブランク散乱光強度、あるいはその両方)を補正し、ゼロ濃度以外の任意の既知濃度の標準液を用いてK値(Kファクター)を更新する。本実施形態2にかかる発明は、前記標準液Nの反応過程データから抽出した検量線ポイント2~Nに相当する多点データと、前記標準液1の反応過程データから抽出した検量線ポイント1のデータを用いて新規に検量線を生成するものであり、2ポイントキャリブレーションの応用である。
【0110】
自動分析装置の構成と測光ポイント-濃度変換用データの設定は実施形態1と同様であるため、説明の重複を避け、ここでは説明を割愛し、実施形態1と異なる構成部分のみを記載する。
【0111】
<実施の形態2:検量線生成用の反応過程データの取得>
本実施形態2での検量線の生成に使用する反応過程データの取得について説明する。まず、キャリブレーションが必要となる検査項目において、キャリブレーション情報と分析パラメータを設定する。
【0112】
図22は、本実施形態2におけるキャリブレーション情報の設定画面の例を示す。キャリブレーション情報には、標準液のロット、使用する標準液1と標準液Nの濃度、標準液1と標準液Nを収容するサンプルカップ102をサンプルディスク103に架設するときのポジション番号、検量線データ点数、データ点数分の検量線生成時の濃度と測光ポイント情報などがある。図22では、それぞれ、標準液のロット:BBB、標準液1の濃度:0、標準液Nの濃度:Z、標準液1の架設ポジション:13、標準液Nの架設ポジション:14、検量線データ点数:N、濃度:C1~CN、測光ポイント情報:P2~PN(C1に対応する測光ポイントは入力および表示不可)とした。
【0113】
C1に対応する測光ポイントを入力および表示不可とした理由は、以下の通りである。標準液1は、典型的には被測定物質の濃度がゼロの標準液を用いる(図22:標準液の濃度に入力されている通り)。この場合、標準液1は当該試薬とは反応せず反応過程データにおいて経時的な変化は見られないのが通常であるが、実際にわずかに反応して光量変化が得られる場合がある。そこで本実施形態2においては、標準液1については実測によって検量線生成用の光量データを得ることとした。したがって標準液1の検量線生成用データは、分析パラメータで指定される演算ポイントを使用して算出されるので、C1については標準液Nの反応過程データに適用する測光ポイント情報は不要であり入力不可とした。
【0114】
分析パラメータには、サンプルや試薬の分注量や、データ処理に使用する演算ポイントなどの情報がある。標準液の架設ポジション以外の情報は、例えば試薬と標準液を提供するメーカーから与えられる。標準液の架設ポジションは、操作者が任意に設定できることが望ましい。キャリブレーション情報と分析パラメータは、操作部122から入力されてもよいし、CD-ROMなどの記憶媒体を介して記憶部121aに読み込ましてもよいし、通信インターフェース124を介して読み込ましてもよい。あるいは、過去に記憶部121aに格納済みであれば、その情報を呼び出してもよい。キャリブレーション情報の一部である濃度と測光ポイントは、測光ポイント-濃度変換用データに相当するものである。この濃度と測光ポイントは、記憶部121aに従来法で生成した検量線データとその検量線の生成に使用された最も濃い濃度の標準液の反応過程データが存在する場合、それらのデータと標準液Nの濃度情報を使用して、解析部121bで計算したものを反映してもよい。計算方法の例は、実施形態1で記載したとおりである。図22では、具体的な濃度と測光ポイント情報が見える設定画面の例を示したが、これらを非表示とした設定画面でもよい。設定された情報は、記憶部121aに格納されて、解析部121bに読み出されて検量線の生成に使用される。
【0115】
次に、当該項目の試薬ボトルを試薬ディスク106に架設し、当該標準液1と標準液Nをサンプルディスク103に架設する。その後、操作部122あるいは通信インターフェース124を介してキャリブレーションの依頼が入力される。入力内容はデータ処理部121に伝わり、記憶部121aに格納された検量線生成データの測定プログラムが実行され、制御プログラムが働く。制御プログラムは制御回路を動かし、制御回路が駆動部を動かすことで、各機構が動き分析が実施される。具体的な分析動作は、実施形態1と同様であるため、ここでは説明を割愛する。取得された標準液1と標準液Nの反応過程データは記憶部121aに格納され、解析部121bに読み出されて検量線の生成に使用される。ここで、各標準液において反応過程データを複数回取得した場合は、検量線を生成する際、それらの平均をとったデータをインプット情報としてもよいし、どれか1つを選択してインプット情報としてもよい。
【0116】
<実施の形態2:検量線の生成>
実施形態2における検量線の生成について説明する。記憶部121aに格納されたキャリブレーション情報、分析パラメータの演算ポイントおよび検量線タイプ、標準液1と標準液Nの反応過程データ(ここでは吸光度データとする)、検量線生成プログラムが、解析部121bに呼び出される。検量線生成プログラムの実行内容は、次の通りである。
【0117】
まず、演算ポイントの情報に従って、標準液Nの反応過程データを処理する。演算ポイントは検査項目によって決められる。処理方法は、測光ポイント-濃度変換用データの設定において、既知濃度C’Nの標準液の反応過程データを処理した方法と同じ方法とされることが望ましい。例えば、ここでは演算ポイントが(18、30)の2点であるとして、測光ポイント18の吸光度:A18を基準として全ての測定値からA18を減算処理する。データ処理後の反応過程データをフィッティングし、フィッティング式を導出して離散的な測定データを補完する。フィッティング関数は、例えば多項式関数や指数関数などである。測光ポイント-濃度変換用データの設定において使用したフィッティング関数と同じ種類の関数を使用することが望ましい。得られたフィッティング式に、キャリブレーション情報(図22)で設定された測光ポイント情報(P2~PN)を代入し、吸光度変化量のデータ(ΔA2~ΔAN)を算出してアウトプット情報とする。
【0118】
図23は、標準液Nのデータ処理後のフィッティング線と測光ポイント:P2~PNに相当する吸光度変化量:ΔA2~ΔAN(アウトプット情報)を示す。
【0119】
図24は、被測定物質がゼロ濃度の標準液1の反応過程を測定した反応過程データを示す。図23に続いて、標準液1の反応過程データから、演算ポイントに従ってデータを抽出する。演算ポイントは検査項目ごとに一意に指定されているため、上記の例で使用した(18、30)の2点とする。このポイント間の一定時間における吸光度変化量ΔA1(=30ポイント目の吸光度-18ポイント目の吸光度)を算出する。
【0120】
濃度に対して吸光度変化量のデータをプロットし、分析パラメータ情報で指定された検量線タイプ(リニア、折れ線、スプラインなど)の数式で近似してキャリブファクターが算出され、検量線が生成される。キャリブファクターとは、キャリブレーションポイント(検量線ポイント)における吸光度、散乱光強度、あるいはそれらの変化量データや、検量線の傾きなどの近似式の係数情報である。キャリブファクターとその算出方法は、検量線のタイプ(リニア、折れ線、スプラインなど)によって変わるものである。
【0121】
図25は、実施形態2で生成された検量線の例を示す。生成された検量線や処理後の反応過程データなどは記憶部121aに格納される。被測定物質が未知濃度のサンプルが測定されたときに、検量線の情報は解析部121bに呼び出されて、被測定物質の濃度の定量に使用される。
【0122】
ここでは、標準液Nの反応過程データの処理において、演算ポイントが2点の場合を説明したが、演算ポイントが1点の場合もある。1点の場合は、そのポイントのデータをそのまま使用してもよいし、そのポイントの前後のデータの平均値などを使用してもよい。また、演算ポイントが2点の場合においても、上記の様に演算開始ポイント(上記ではポイント18に相当)の測定データを基準にして減算する処理内容でなくてもよく、例えば、演算開始ポイントの前後の複数ポイントのデータの平均値などを基準に減算処理してもよい。このとき、減算対象ポイントのデータにおいても、そのポイント前後の複数ポイントのデータの平均値などを使用してもよい。また、標準液1の反応過程データから演算ポイントに従ってデータを抽出する場合も、上記した算出例だけでなく、演算ポイント数に応じて、標準液Nの場合同様、様々な算出式が使われてよい。
上記の実施例は、被測定物質濃度が最も濃い標準液Nと被測定物質がゼロ濃度の標準液1を使用した場合の検量線生成方法について説明したが、標準液Nに含まれる最も濃い被測定物質濃度の反応を外挿できる程度の濃度を有する標準液(N-n)(nは整数、0<n<N)を標準液Nの代わりに使用して上記した内容と同様の方法で検量線を生成してもよい。
【0123】
<実施の形態3>
本発明の実施形態3では、実施形態1~2で説明した検量線生成の内容を実行するプログラムを用いて、自動分析装置と独立したツールにて検量線を生成する場合を説明する。基本的なプログラムの内容について以下で説明するが、以下の例に限定されない。
【0124】
プログラムは、例えば、測光ポイント-濃度変換用データを設定するステップ(ステップ(1))と、標準液Nの反応過程データからステップ(1)で設定された測光ポイントに従って検量線生成用の光量データを抽出するステップ(ステップ(2))と、データ抽出時に使用した測光ポイント情報を被測定物質の濃度情報に変換して濃度情報と抽出データを紐づけるステップ(ステップ(3))と、被測定物質の濃度に対して抽出データをプロットし、そのプロットを指定された数式で近似して検量線を生成するステップ(ステップ(4))を有する。ステップ(1)における具体的な処理内容は、<実施の形態1:測光ポイント-濃度変換用データの設定>で説明した内容と同じであるため、ここでは重複の説明は避ける。ステップ(2)~(4)における具体的な処理内容も、<実施の形態1:検量線の生成>で説明した内容と同じであるため、説明は割愛する。このプログラムにおいて、例えばステップ(2)は、実施形態2のような標準液1と標準液Nの反応過程データから検量線生成用の光量データを抽出するステップであってもよい。
【0125】
本実施形態3のプログラムは、自動分析装置100とは独立した解析ツールなどに搭載されて運用される。プログラムで使用する情報には、従来法で生成された検量線情報(キャリブレーションデータ)、その検量線生成時に使用した演算ポイントや標準液の濃度や反応過程データ、試薬ロット変更後に測定する標準液N及び標準液1の濃度情報や反応過程データなどがある。これらの情報は、当該プログラムを搭載する解析ツールに既に記憶されているデータでもよい。あるいは、これらの情報は当該解析ツールの操作部から入力されてもよいし、外部記憶媒体や通信インターフェースを介して解析ツールに読み込ましてもよい。あるいは、解析ツールと接続した自動分析装置で取得された情報を自動分析装置から解析ツールに読み込んで使用してもよいし、解析ツールと接続していない自動分析装置で取得した情報を、外部記憶媒体やインターネットなどを介して解析ツールに読み込ましてもよい。
【0126】
本実施形態3に係るプログラムによれば、本発明の検量線生成手段を搭載していない自動分析装置においても、本実施形態3のプログラムを搭載する解析ツールと当該装置を接続することにより、解析ツールで生成した検量線を当該装置に送り、当該装置においても本発明の方法で生成した検量線を使用できる。また、解析ツールで生成した検量線を当該装置に送ることなく解析ツール内の記憶部に格納したままとし、当該装置で測定された被測定物質が未知濃度のサンプルの反応過程データを解析ツールに読み込み、解析ツール内で検量線データを活用して被測定物質の濃度を定量してもよい。この場合、被測定物質の濃度の定量結果を当該装置に送り、当該装置にて表示してもよいし、当該装置と接続された通信インターフェースを経由して院内ネットワークに送られてもよいし、あるいは解析ツールから直接院内ネットワークに送る手段を採用してもよい。ここで、当該解析ツールと当該装置の接続は必須ではなく、必要な情報を外部記憶媒体やインターネットなどを通じてやり取りする手段を採用することにより、本発明で生成された検量線を用いて被測定物質が未知濃度の検体の濃度を定量してもよい。
【0127】
<実施の形態4>
本発明の実施形態4では、実施形態1~3で生成された検量線を、自動分析装置100あるいは検量線生成プログラムを搭載した解析ツールに格納済みの検量線データと比較して、エラーチェックを実施し、エラーチェックの設定に該当した場合は生成された検量線に対するエラーを報知し、使用するかどうかを選択する機能を搭載した自動分析装置100および解析ツールについて説明する。ここで、自動分析装置あるいは検量線生成プログラムを搭載した解析ツールに格納済みの検量線データとは、従来法によって生成された検量線データや本発明の方法で生成された検量線の前回データなどを意味する。
【0128】
自動分析装置の構成例は実施形態1で説明したとおりであるため、ここでは、自動分析装置でのエラーチェックの実施、エラーの報知、使用するかどうかの選択機能に焦点をあてて説明する。解析部121bにおいて本発明の方法で検量線が生成されたとき、記憶部121aに記憶されているエラー判定情報が解析部121bに読み出され、生成された検量線データと比較されてエラー有無がチェックされる。エラーチェックの内容としては、例えば、キャリブファクターのような検量線の数式における係数情報などを、格納済みの検量線データと本発明の検量線データで比較して乖離程度を算出し、その乖離が設定済みの閾値を超える場合に、エラーを報知するものである。エラーチェックの結果は、生成された検量線情報と共に記憶部121aに送られる。エラー情報がある場合は、そのエラー情報と検量線データと当該検量線を使用するかどうかの確認依頼が記憶部121aから表示部122aあるいは通信インターフェース124を介して院内ネットワークなどに送られて表示される。この表示は、ユーザーによって表示する/表示しないを選択できる方が好ましい。使用するかどうかの選択は、表示部122aの画面をタッチして選択してもよいし、表示部122aの画面に表示されているものをマウス122cで選択してもよい。あるいは、院内ネットワークで選択された情報が通信インターフェース124を介して記憶部121aに送られてもよい。
【0129】
次に、検量線生成プログラムを搭載した解析ツールでのエラーチェックの実施、エラーの報知、使用する検量線の選択機能について説明する。この機能は、実施形態3で説明した検量線生成プログラム内に、ステップ(5)として組み込まれてもよいし、解析ツール内の解析部にエラー判定機能を持たせてもよい。
【0130】
実施形態3で説明した検量線生成プログラム内にステップ(5)として組み込む場合、例えば、ステップ(1)~(4)で検量線が生成されたあと、ステップ(5)として検量線チェックプラグラムが働き、解析ツール内記憶部に記憶されている比較用の検量線データが当該プログラム内に読み出され、生成された検量線データと比較されてエラー有無がチェックされる。エラーチェックの内容としては、上述したとおりである。エラーチェックの結果は、生成された検量線情報と共に、解析ツール内の記憶部に送られる。エラー情報がある場合は、そのエラー情報と検量線データと当該検量線を使用するかどうかの確認依頼が、解析ツールの表示部に表示される。この表示は、ユーザーによって表示する/表示しないを選択できる方が好ましい。確認依頼などの情報は、解析ツールに接続した自動分析装置の記憶部121aに送られて、表示部122aあるいは通信インターフェース124を介して院内ネットワークなどに送られて表示されてもよい。検量線使用可否の選択結果は解析ツール内の記憶部に送られて、「使用する」が選択された場合は、実施形態1~3で生成された検量線が使用される。
【0131】
解析ツール内の解析部にエラー判定機能を持たせる場合、例えば、検量線生成プログラムにより検量線が生成された後、格納済みの比較用の検量線データが記憶部から解析部に読み出され、これらの検量線における情報が比較されてエラー有無がチェックされる。エラーチェックの内容としては、上述したとおりである。エラーチェックの結果は、解析ツール内記憶部に送られる。エラー情報がある場合、そのエラー情報と検量線データと当該検量線を使用するかどうかの確認依頼が、解析ツールの表示部に表示される。この表示は、ユーザーによって表示する/表示しないを選択できる方が好ましい。確認依頼などの情報は、解析ツールに接続した自動分析装置の記憶部121aに送られて、表示部122aあるいは通信インターフェース124を介して院内ネットワークなどに送られて表示されてもよい。検量線使用可否の選択結果は解析ツール内の記憶部に送られて、「使用する」が選択された場合は、実施形態1~3で生成された検量線が使用される。
【0132】
ここでは、生成された検量線データにエラーが報知された際、使用するかどうかを選択する機能に関して説明したが、「使用しない」を選択した場合に、使用する検量線を選択できる機能を追加してもよい。
【0133】
<実施の形態5>
本発明の実施形態5では、実施形態1~3で生成された検量線、あるいは実施形態1~3で生成されてかつ実施形態4で選択された検量線を用いて、被測定物質が未知濃度のサンプルを測定し、その濃度を定量する場合について説明する。
【0134】
まず、未知濃度の被測定物質を含むサンプルの反応過程データの取得について説明する。当該項目の試薬ボトルを試薬ディスク106に架設し、当該サンプルをサンプルディスク103に架設する。その後、操作部122あるいは通信インターフェース124を介してサンプル測定の依頼が入力される。入力内容はデータ処理部121に伝わり、記憶部121aに格納されたサンプル測定プログラムが実行され、制御プログラムが働く。制御プログラムは制御回路を動かし、制御回路が駆動部を動かすことで、各機構が動き分析が実施される。具体的な分析動作は、<実施の形態1:検量線生成用の反応過程データの取得>に記述した内容と同様であるため、ここでは説明を割愛する。取得された反応過程データは記憶部121aに格納される。
【0135】
次に、被測定物質の濃度の定量に関して説明する。記憶部121aから解析部121bに、当該反応過程データと検量線データとデータ解析プログラムが読み出される。被測定物質が未知濃度のサンプルの当該反応過程データから測定項目ごとに指定された演算ポイントに基づいて吸光度や散乱光強度あるいはそれらの変化量データが抽出される。この抽出されたデータを、検量線の光量データと比較して、当該サンプル中の被測定物質の濃度を定量する。抽出されたデータ、定量後の濃度情報、エラー情報などは記憶部121aに格納され、操作部122の表示部122aに表示される。また、必要であればプリンター123で印刷出力される他、通信インターフェース124を通じて病院内のネットワークなどに送られる。ここでは、自動分析装置内の解析部121bにてサンプル中の被測定物質の濃度を定量する例を記載したが、取得した反応過程データを実施形態3のような検量線生成プログラムを搭載した別のツールに読み込み、そのツール内で検量線データとサンプル測定データを比較してサンプル中の被測定物質の濃度を定量してもよい。
【0136】
<本発明の変形例について>
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、同一の構成または他の構成を追加・削除・置換することが可能である。
【0137】
以上の実施形態においては、ラテックス免疫比濁項目を例にして、抗体または抗原が感作されたラテックス試薬と被測定物質(抗原または抗体)を含む標準液や生体由来サンプルを混合し、抗原抗体反応によって生じるラテックス凝集反応を、吸光あるいは散乱光によって測定する場合を説明したが、本発明において測定する検査項目はラテックス免疫比濁項目に限定されるものではない。例えば、抗体または抗原を感作した不溶性担体(シリカ粒子、磁性粒子、金属コロイド等)と被測定物質(抗原または抗体)を含む標準液や生体由来サンプルを混合し、抗原抗体反応によって生じる粒子の凝集反応を吸光あるいは散乱光で測定する系でもよい。
【0138】
換言すると、2個(2濃度)以上の標準液のうち被測定物質の濃度が最も濃い標準液N(N≧2)を測定して得られる反応過程データが、標準液Nよりも薄い濃度の標準液における反応を包含しており、標準液Nの反応過程データと測光ポイント-濃度変換用データにしたがって生成した検量線が標準液群(標準液1~N)を用いて生成した検量線に対して近似している(両者の差分が閾値以内であり、実施形態4で説明したエラーが生じない)限りにおいて、以上の実施形態で説明したサンプル・検査項目・標準液以外に対して、本発明に係る検量線生成方法を適用することができる。
【0139】
また、必ずしも標準液Nを使用する必要はなく、標準液Nに含まれる最も濃い被測定物質濃度の反応を外挿できる程度の濃度を有する標準液(N-n)(nは整数であり、0<n<N)を標準液Nの代わりに使用した場合でも、標準液(N-n)の反応過程データが標準液(N-n)よりも薄い濃度の標準液における反応を包含しており、さらに当該反応過程データで標準液Nの反応を外挿でき、標準液(N-n)の反応過程データと測光ポイント-濃度変換用データにしたがって生成した検量線が標準液群(標準液1~N)を用いて生成した検量線に対して近似している限りにおいて、以上の実施形態で説明したサンプル・検査項目・標準液以外に対して、本発明に係る検量線生成方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0140】
100 自動分析装置
101 サンプル
102 サンプルカップ
103 サンプルディスク
104 試薬
105 試薬ボトル
106 試薬ディスク
107 反応液
108 セル
109 反応ディスク
110 サンプル分注機構
111 試薬分注機構
112 恒温流体
113 攪拌機構
114 洗浄機構
115 吸光度測定部
116 散乱光測定部
117 駆動部
118 制御回路
119 吸光度測定回路
120 散乱光測定回路
121 データ処理部
121a 記憶部
121b 解析部
122 操作部
122a 表示部
122b キーボード
122c マウス
123 プリンター
124 通信インターフェース
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