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特許7372904ラジカル重合開始剤、これを含有する組成物、その硬化物、その製造方法、および化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】ラジカル重合開始剤、これを含有する組成物、その硬化物、その製造方法、および化合物
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/00 20060101AFI20231025BHJP
   C07D 335/16 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
C08F4/00
C07D335/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020500579
(86)(22)【出願日】2019-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2019005539
(87)【国際公開番号】W WO2019160079
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2018026292
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】原 憲司
(72)【発明者】
【氏名】宮田 渉
(72)【発明者】
【氏名】入沢 正福
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-195664(JP,A)
【文献】特開2017-003911(JP,A)
【文献】特開昭49-092072(JP,A)
【文献】特開2005-307198(JP,A)
【文献】国際公開第2012/121235(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/143560(WO,A1)
【文献】特開2001-206903(JP,A)
【文献】特開2005-289961(JP,A)
【文献】特表2013-530994(JP,A)
【文献】YILMAZ,G. et al.,Counteranion Sensitization Approach to Photoinitiated Free Radical Polymerization,Macromolecules,2012年,Vol.45,p.2219-2224
【文献】PubChem,Version 3,2011年12月19日,PubChem SID:569068, https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/substance/569068
【文献】ESEN,D.S. et al.,One-Component Thioxanthone Acetic Acid Derivative Photoinitiator for Free Radical Polymerization,Photochemistry and Photobiology,2014年,Vol.90,p.463-469
【文献】KARACA,N. et al.,Preparation of hydrogels by photopolymerization of acrylates in the presence of Type I and one-compo,Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry,2010年,Vol.209,p.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-301/00
C07D 335/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)、
(一般式(A)中、 及びZ が、>S及び>C=Oの組み合わせであり、
、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、CN、NO、水酸基、炭素原子数1~のアルキル基、炭素原子数6のアリール基、炭素原子数7~11のアリールアルキル基、炭素原子数の複素環含有基又は下記一般式(B1)、
(一般式(B1)中、Lは、直接結合又はb+1価の結合基を表し、
Bは、酸性基の塩を表し、
bは、1~10の整数を表し、
*は、ベンゼン環との結合箇所を表す。)で表される塩形成基を含む基を表し、
、R、R、R、R、R、R及びRの少なくとも1つは、前記塩形成基を含む基であり、
、R、R、R、R、R、R及びR 用いられるアルキル基、アリール基、アリールアルキル基及び複素環含有基中の水素原子の1つ又は2つ以上が、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基、水酸基、またはニトロ基で置換されていてもよく、
、R、R、R、R、R、R及びR 用いられるアルキル基、アリール基、アリールアルキル基及び複素環含有基中のメチレン基の1つ又は2つ以上が、炭素-炭素二重結合、-O-、-S-又はこれらから選ばれた基を酸素原子が隣り合わない条件で組み合わせた基で置換されていてもよく、
ただし、少なくともR が前記式(B1)で表される塩形成基を含む基であり、かつ、
前記塩形成基を含む基において、L が直接結合又は炭素原子数1~8の脂肪族炭化水素基であり、酸性基の塩を構成するアニオン性基がカルボン酸イオン基であり、かつ、カチオン成分が、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン又はアミン系カチオンである。)で表される化合物を含有することを特徴とするラジカル重合開始剤。
【請求項2】
前記化合物の300nm以上600nm以下の範囲における最大吸収波長が380nm以上である請求項1に記載のラジカル重合開始剤。
【請求項3】
温度25℃、相対湿度65%の環境下において、前記化合物の水100質量部に対する溶解度が0.5質量部以上である請求項1または2記載のラジカル重合開始剤。
【請求項4】
さらに、下記一般式(I)、
(一般式(I)中、Xは、置換基を有していてもよい炭素原子数6~15のアリール基を表し、
は炭素原子数1~8の直鎖のアルキル基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルキル基、炭素原子数1~8の直鎖のアルコキシ基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルコキシ基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6~15のアリール基を表し、
m+はm価のカチオン成分を表し、
mは、1~3の数を表し、
及びXに用いられるアリール基並びにXに用いられるアルキル基、アルコキシ基中の水素原子の1つ又は2つ以上が、エチレン性不飽和基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、置換アミノ基、スルホンアミド基、スルホニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホ基、水酸基、ニトロ基、メルカプト基、イミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、ホスホン酸基又はリン酸基で置換されていてもよく、
及びXに用いられるアリール基並びにXに用いられるアルキル基、アルコキシ基中のメチレン基の1つ又は2つ以上が、炭素-炭素二重結合、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-OCO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-
、-NH-CO-O-、-NR’-、-S-S-、-SO-又はこれらから選ばれた基を酸素原子が隣り合わない条件で組み合わせた基で置換されていてもよく、
R’は、水素原子又は炭素原子数1~8のアルキル基を表す。)で表される化合物を含有する請求項1~3のうちいずれか一項記載のラジカル重合開始剤。
【請求項5】
下記一般式(A)、
(一般式(A)中、 及びZ が、>S及び>C=Oの組み合わせであり、
、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、CN、NO、水酸基、炭素原子数1~のアルキル基、炭素原子数6のアリール基、炭素原子数7~11のアリールアルキル基、炭素原子数の複素環含有基又は下記一般式(B1)、
(一般式(B1)中、Lは、直接結合又はb+1価の結合基を表し、
Bは、酸性基の塩を表し、
bは、1~10の整数を表し、
*は、ベンゼン環との結合箇所を表す。)で表される塩形成基を含む基を表し、
、R、R、R、R、R、R及びRの少なくとも1つは、前記塩形成基を含む基であり、
、R、R、R、R、R、R及びR 用いられるアルキル基、アリール基、アリールアルキル基及び複素環含有基中の水素原子の1つ又は2つ以上が、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基、水酸基、またはニトロ基で置換されていてもよく、
、R、R、R、R、R、R及びR 用いられるアルキル基、アリール基、アリールアルキル基及び複素環含有基中のメチレン基の1つ又は2つ以上が、炭素-炭素二重結合、-O-、-S-又はこれらから選ばれた基を酸素原子が隣り合わない条件で組み合わせた基で置換されていてもよく、
ただし、少なくともR が前記式(B1)で表される塩形成基を含む基であり、かつ、
前記塩形成基を含む基において、L が直接結合又は炭素原子数1~8の脂肪族炭化水素基であり、酸性基の塩を構成するアニオン性基がカルボン酸イオン基であり、かつ、カチオン成分が、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン又はアミン系カチオンである。)で表される化合物と、
ラジカル重合性化合物と、
を含有することを特徴とする組成物。
【請求項6】
さらに、溶剤を含み、前記溶剤が水を含有する請求項記載の組成物。
【請求項7】
さらに、下記一般式(I)、
(一般式(I)中、Xは、置換基を有していてもよい炭素原子数6~15のアリール基を表し、
は炭素原子数1~8の直鎖のアルキル基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルキル基、炭素原子数1~8の直鎖のアルコキシ基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルコキシ基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6~15のアリール基を表し、
m+はm価のカチオン成分を表し、
mは、1~3の数を表し、
及びXに用いられるアリール基並びにXに用いられるアルキル基、アルコキシ基中の水素原子の1つ又は2つ以上が、エチレン性不飽和基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、置換アミノ基、スルホンアミド基、スルホニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホ基、水酸基、ニトロ基、メルカプト基、イミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、ホスホン酸基又はリン酸基で置換されていてもよく、
及びXに用いられるアリール基並びにXに用いられるアルキル基、アルコキシ基中のメチレン基の1つ又は2つ以上が、炭素-炭素二重結合、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-OCO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-NR’-、-S-S-、-SO-又はこれらから選ばれた基を酸素原子が隣り合わない条件で組み合わせた基で置換されていてもよく、
R’は、水素原子又は炭素原子数1~8のアルキル基を表す。)で表される化合物を含有する請求項5または6記載の組成物。
【請求項8】
請求項5~7のうちいずれか一項記載の組成物からなることを特徴とする硬化物。
【請求項9】
請求項5~7のうちいずれか一項記載の組成物に光照射する工程を有することを特徴とする硬化物の製造方法。
【請求項10】
下記一般式(A)、
(一般式(A)中、 及びZ が、>S及び>C=Oの組み合わせであり、
、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、CN、NO、水酸基、炭素原子数1~のアルキル基、炭素原子数6のアリール基、炭素原子数7~11のアリールアルキル基、炭素原子数の複素環含有基又は下記一般式(B1)、
(一般式(B1)中、Lは、直接結合又はb+1価の結合基を表し、
Bは、酸性基の塩を表し、
bは、1~10の整数を表し、
*は、ベンゼン環との結合箇所を表す。)で表される塩形成基を含む基を表し、
、R、R、R、R、R、R及びRの少なくとも1つは、前記塩形成基を含む基であり、
、R、R、R、R、R、R及びR 用いられるアルキル基、アリール基、アリールアルキル基及び複素環含有基中の水素原子の1つ又は2つ以上が、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基、水酸基、またはニトロ基で置換されていてもよく、
、R、R、R、R、R、R及びR 用いられるアルキル基、アリール基、アリールアルキル基及び複素環含有基中のメチレン基の1つ又は2つ以上が、炭素-炭素二重結合、-O-、-S-又はこれらから選ばれた基を酸素原子が隣り合わない条件で組み合わせた基で置換されていてもよく、
ただし、少なくともR が前記式(B1)で表される塩形成基を含む基であり、かつ、
前記塩形成基を含む基において、L が直接結合又は炭素原子数1~8の脂肪族炭化水素基であり、酸性基の塩を構成するアニオン性基がカルボン酸イオン基であり、かつ、カチオン成分が、カリウムイオン、3級スルホニウムカチオン、3級オキソニウムカチオン、4級ホスホニウムカチオン、アミン系カチオン又は3級カルボカチオンである。)で表されることを特徴とする化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合開始剤、これを含有する組成物、その硬化物、その製造方法、および新規化合物に関し、詳しくは、優れた感度及び水への溶解性を有するラジカル重合開始剤、これを含有する組成物、その硬化物、その製造方法、および化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性組成物は、塗料、インキ、接着剤、光学フィルム等、種々の用途に用いられている。水溶性組成物の水溶性開始剤に着目すると、特許文献1では、ベタイン構造を有する光重合開始剤が提案されており、特許文献2では、モルホリン構造を有するα-アミノアセトフェノンが提案されており、特許文献3では、アシルホスフィンオキサイド化合物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2014/050551号
【文献】特開2012-007070号公報
【文献】特開2000-159621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献で提案されている開始剤は、水への溶解性を有するものの、感度が低く、例えば、顔料等の色材の配合時に、硬化が不十分になる、組成物の深部(表層から断面方向に深い箇所)の硬化が不十分になる等の不具合が生じるといった問題を有している。
【0005】
そこで本発明の目的は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、優れた感度及び水への溶解性を有するラジカル重合開始剤、これを含有する組成物、その硬化物、その製造方法、および化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定の三環構造および塩形成基を含む基を有する化合物は、感度及び水への溶解性に優れるラジカル重合開始剤として機能し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明のラジカル重合開始剤は、下記一般式(A)、
(一般式(A)中、Zは、直接結合、>NR101、>O、>S、>S=O又は>C=Oであり、
は、>CR102 、>NR101、>O、>S、>S=O又は>C=Oを表し、
、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、CN、NO、水酸基、炭素原子数1~20のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数6~30のアリール基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数7~30のアリールアルキル基、炭素原子数2~20の複素環含有基又は下記一般式(B1)、
(一般式(B1)中、Lは、直接結合又はb+1価の結合基を表し、
Bは、酸性基の塩又は塩基性基の塩を表し、
bは、1~10の整数を表し、
*は、ベンゼン環との結合箇所を表す。)で表される塩形成基を含む基を表し、
、R、R、R、R、R、R及びRの少なくとも1つは、前記塩形成基を含む基であり、
101及びR102は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数6~30のアリール基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数7~30のアリールアルキル基又は炭素原子数2~20の複素環含有基を表し、
、R、R、R、R、R、R及びR並びにR101及びR102に用いられるアルキル基、アルキル基で置換されていてもよいアリール基、アルキル基で置換されていてもよいアリールアルキル基及び複素環含有基中の水素原子の1つ又は2つ以上が、エチレン性不飽和基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、置換アミノ基、スルホンアミド基、スルホニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホ基、水酸基、ニトロ基、メルカプト基、イミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、ホスホン酸基又はリン酸基で置換されていてもよく、
、R、R、R、R、R、R及びR並びにR101及びR102に用いられるアルキル基、アルキル基で置換されていてもよいアリール基、アルキル基で置換されていてもよいアリールアルキル基及び複素環含有基中のメチレン基の1つ又は2つ以上が、炭素-炭素二重結合、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-OCO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-NR’-、-S-S-、-SO-又はこれらから選ばれた基を酸素原子が隣り合わない条件で組み合わせた基で置換されていてもよく、
及びR、R及びR、R及びR、R及びR、R及びR、R及びRの隣接する基同士が、互いに結合して環を形成してもよく、一般式(A)中の3員環を構成するベンゼン環と縮合環を形成してもよく、
R’は、水素原子又は炭素原子数1~8のアルキル基を表す。)で表される化合物を含有することを特徴とするものである。
【0008】
本発明のラジカル重合開始剤においては、前記化合物の300nm以上600nm以下の範囲における最大吸収波長が380nm以上であるのものが好ましい。また、本発明のラジカル重合開始剤においては、前記Z及び前記Zの組合せが、>S及び>C=Oの組合せであることが好ましい。さらに、本発明のラジカル重合開始剤においては、前記Bが酸性基の塩であり、前記Lが直接結合であることが好ましい。さらにまた、本発明のラジカル重合開始剤においては、前記Bが酸性基の塩であり、前記酸性基の塩を構成するアニオン性基が、カルボン酸イオン基であることが好ましい。本発明のラジカル重合開始剤においては、前記Bが酸性基の塩であり、前記酸性基の塩を構成するカチオン成分が、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン又はアミン系カチオンであることが好ましい。本発明のラジカル重合開始剤においては、前記化合物の水100質量部に対する溶解度が0.5質量部以上であることが好ましい。本発明のラジカル重合開始剤においては、さらに、下記一般式(I)、
(一般式(I)中、Xは、置換基を有していてもよい炭素原子数6~15のアリール基を表し、
は炭素原子数1~8の直鎖のアルキル基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルキル基、炭素原子数1~8の直鎖のアルコキシ基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルコキシ基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6~15のアリール基を表し、
m+はm価のカチオン成分を表し、
mは、1~3の数を表し、
及びXに用いられるアリール基並びにXに用いられるアルキル基、アルコキシ基中の水素原子の1つ又は2つ以上が、エチレン性不飽和基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、置換アミノ基、スルホンアミド基、スルホニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホ基、水酸基、ニトロ基、メルカプト基、イミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、ホスホン酸基又はリン酸基で置換されていてもよく、
及びXに用いられるアリール基並びにXに用いられるアルキル基、アルコキシ基中のメチレン基の1つ又は2つ以上が、炭素-炭素二重結合、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-OCO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-NR’-、-S-S-、-SO-又はこれらから選ばれた基を酸素原子が隣り合わない条件で組み合わせた基で置換されていてもよく、
R’は、水素原子又は炭素原子数1~8のアルキル基を表す。)で表される化合物を含有することが好ましい。
【0009】
本発明の組成物は、下記一般式(A)、
(一般式(A)中、Zは、直接結合、>NR101、>O、>S、>S=O又は>C=Oであり、
は、>CR102 、>NR101、>O、>S、>S=O又は>C=Oを表し、
、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、CN、NO、水酸基、炭素原子数1~20のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数6~30のアリール基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数7~30のアリールアルキル基、炭素原子数2~20の複素環含有基又は下記一般式(B1)、
(一般式(B1)中、Lは、直接結合又はb+1価の結合基を表し、
Bは、酸性基の塩又は塩基性基の塩を表し、
bは、1~10の整数を表し、
*は、ベンゼン環との結合箇所を表す。)で表される塩形成基を含む基を表し、
、R、R、R、R、R、R及びRの少なくとも1つは、前記塩形成基を含む基であり、
101及びR102は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数6~30のアリール基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数7~30のアリールアルキル基又は炭素原子数2~20の複素環含有基を表し、
、R、R、R、R、R、R及びR並びにR101及びR102に用いられるアルキル基、アルキル基で置換されていてもよいアリール基、アルキル基で置換されていてもよいアリールアルキル基及び複素環含有基中の水素原子の1つ又は2つ以上が、エチレン性不飽和基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、置換アミノ基、スルホンアミド基、スルホニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホ基、水酸基、ニトロ基、メルカプト基、イミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、ホスホン酸基又はリン酸基で置換されていてもよく、
、R、R、R、R、R、R及びR並びにR101及びR102に用いられるアルキル基、アルキル基で置換されていてもよいアリール基、アルキル基で置換されていてもよいアリールアルキル基及び複素環含有基中のメチレン基の1つ又は2つ以上が、炭素-炭素二重結合、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-OCO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-NR’-、-S-S-、-SO-又はこれらから選ばれた基を酸素原子が隣り合わない条件で組み合わせた基で置換されていてもよく、
及びR、R及びR、R及びR、R及びR、R及びR、R及びRの隣接する基同士が、互いに結合して環を形成してもよく、一般式(A)中の3員環を構成するベンゼン環と縮合環を形成してもよく、
R’は、水素原子又は炭素原子数1~8のアルキル基を表す。)で表される化合物と、
ラジカル重合性化合物と、
を含有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の組成物においては、さらに、溶剤を含み、前記溶剤が水を含有することが好ましい。また、本発明の組成物においては、さらに、下記一般式(I)、
(一般式(I)中、Xは、置換基を有していてもよい炭素原子数6~15のアリール基を表し、
は炭素原子数1~8の直鎖のアルキル基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルキル基、炭素原子数1~8の直鎖のアルコキシ基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルコキシ基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6~15のアリール基を表し、
m+はm価のカチオン成分を表し、
mは、1~3の数を表し、
及びXに用いられるアリール基並びにXに用いられるアルキル基、アルコキシ基中の水素原子の1つ又は2つ以上が、エチレン性不飽和基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、置換アミノ基、スルホンアミド基、スルホニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホ基、水酸基、ニトロ基、メルカプト基、イミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、ホスホン酸基又はリン酸基で置換されていてもよく、
及びXに用いられるアリール基並びにXに用いられるアルキル基、アルコキシ基中のメチレン基の1つ又は2つ以上が、炭素-炭素二重結合、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-OCO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-NR’-、-S-S-、-SO-又はこれらから選ばれた基を酸素原子が隣り合わない条件で組み合わせた基で置換されていてもよく、
R’は、水素原子又は炭素原子数1~8のアルキル基を表す。)で表される化合物を含有することが好ましい。
【0011】
本発明の硬化物は、本発明の組成物からなることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の硬化物の製造方法は、本発明の組成物に光照射する工程を有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の化合物は、下記一般式(A)、
(一般式(A)中、Zは、直接結合、>NR101、>O、>S、>S=O又は>C=Oであり、
は、>CR102 、>NR101、>O、>S、>S=O又は>C=Oを表し、
、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、CN、NO、水酸基、炭素原子数1~20のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数6~30のアリール基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数7~30のアリールアルキル基、炭素原子数2~20の複素環含有基又は下記一般式(B1)、
(一般式(B1)中、Lは、直接結合又はb+1価の結合基を表し、
Bは、酸性基の塩又は塩基性基の塩を表し、
bは、1~10の整数を表し、
*は、ベンゼン環との結合箇所を表す。)で表される塩形成基を含む基を表し、
、R、R、R、R、R、R及びRの少なくとも1つは、前記塩形成基を含む基であり、
101及びR102は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数6~30のアリール基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数7~30のアリールアルキル基又は炭素原子数2~20の複素環含有基を表し、
、R、R、R、R、R、R及びR並びにR101及びR102に用いられるアルキル基、アルキル基で置換されていてもよいアリール基、アルキル基で置換されていてもよいアリールアルキル基及び複素環含有基中の水素原子の1つ又は2つ以上が、エチレン性不飽和基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、置換アミノ基、スルホンアミド基、スルホニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホ基、水酸基、ニトロ基、メルカプト基、イミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、ホスホン酸基又はリン酸基で置換されていてもよく、
、R、R、R、R、R、R及びR並びにR101及びR102に用いられるアルキル基、アルキル基で置換されていてもよいアリール基、アルキル基で置換されていてもよいアリールアルキル基及び複素環含有基中のメチレン基の1つ又は2つ以上が、炭素-炭素二重結合、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-OCO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-NR’-、-S-S-、-SO-又はこれらから選ばれた基を酸素原子が隣り合わない条件で組み合わせた基で置換されていてもよく、
及びR、R及びR、R及びR、R及びR、R及びR、R及びRの隣接する基同士が、互いに結合して環を形成してもよく、一般式(A)中の3員環を構成するベンゼン環と縮合環を形成してもよく、
R’は、水素原子又は炭素原子数1~8のアルキル基を表す。)で表されることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の化合物は、前記Z及び前記Zの組合せが、>S及び>C=Oの組合せであり、前記Bが酸性基の塩であり、前記酸性基の塩を構成するアニオン性基が、カルボン酸イオン基であり、前記Lが直接結合であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた感度及び水への溶解性を有するラジカル重合開始剤、これを含有する組成物、その硬化物、その製造方法、および化合物を提供することができる。すなわち、上記一般式(A)で表される構造を有する化合物(以下、「化合物A」とも称す。)を含むことにより、本発明のラジカル重合開始剤は、感度及び水への溶解性に優れたものとなる。
【0016】
また、化合物Aの300nm以上600nm以下の範囲における最大吸収波長が380nm以上であることで、感度により優れたものとなる。さらに、化合物AのZ及びZの組合せが、>S及び>C=Oの組合せであることで、感度及び水への溶解性により優れたものとなる。さらにまた、化合物AのBが酸性基の塩であり、Lが直接結合であることで、感度により優れたものとなる。また、化合物Aの、Bが酸性基の塩であり、酸性基の塩を構成するアニオン性基が、カルボン酸イオン基であることで、感度により優れたものとなる。さらに、化合物AのBが酸性基の塩であり、酸性基の塩を構成するカチオン成分が、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン又はアミン系カチオンであることで、水への溶解性により優れたものとなる。さらにまた、化合物Aの水100質量部に対する溶解度が0.5質量部以上であることで、本発明のラジカル重合開始剤は、水への溶解性により優れたものとなる。また、本発明のラジカル重合性化合物は、さらに、一般式(I)で表される化合物を含むことで、感度により優れたものとなる。
【0017】
本発明の組成物によれば、上述の化合物Aを用いているので、感度に優れ、有機溶剤の含有量が少ない組成物を得ることが容易になる。本発明の組成物は、溶剤を含み、この溶剤が水を含有することで、感度に優れ、有機溶剤の含有量が少ないものとすることが容易になる。さらに、上記一般式(I)で表される化合物を含むことで、感度により優れたものとなる。
【0018】
本発明の硬化物によれば、硬化が容易であり、有機溶剤の発生の少ないものとなる。
【0019】
本発明の硬化物の製造方法によれば、本発明の組成物を用いることで、容易に硬化物を得ることができ、有機溶剤の発生の少ないものとなる。
【0020】
本発明の化合物によれば、感度及び水への溶解性に優れるラジカル重合開始剤として用いることができる。
【0021】
本発明の化合物においては、上記Z及び上記Zの組合せが、>S及び>C=Oの組合せであり、上記Bが酸性基の塩であり、上記酸性基の塩を構成するアニオン性基が、カルボン酸イオン基であり、上記Lが直接結合であることが好ましい。かかる構造であることで、本発明の化合物は、感度及び水への溶解性により優れたラジカル重合開始剤として用いることが容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、優れた感度及び水への溶解性を有するラジカル重合開始剤、これを含有する組成物、その硬化物、その製造方法、および化合物に関するものである。以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
A.化合物
まず、本発明の化合物について説明する。
本発明の化合物は、下記一般式(A)で表されるものである。
【0024】
ここで、一般式(A)中、Zは、直接結合、>NR101、>O、>S、>S=O又は>C=Oであり、Zは、>CR102 、>NR101、>O、>S、>S=O又は>C=Oを表し、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、CN、NO、水酸基、炭素原子数1~20のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数6~30のアリール基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数7~30のアリールアルキル基、炭素原子数2~20の複素環含有基、又は下記一般式(B1)で表される塩形成基を含む基を表すが、R~Rうちの少なくとも1つは、一般式(B1)で表される塩形成基を含む基であり、R101及びR102は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数6~30のアリール基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数7~30のアリールアルキル基又は炭素原子数2~20の複素環含有基を表す。
【0025】
【0026】
ここで、一般式(B)中、Lは、直接結合又はb+1価の結合基を表し、Bは、酸性基の塩又は塩基性基の塩を表し、bは、1~10の整数を表し、*は、ベンゼン環との結合箇所を表す。
【0027】
本発明の化合物Aは、上述の構造を有することにより、感度及び水への溶解性に優れるラジカル重合開始剤として用いることができる。ここで、上述の構造を有することで、感度及び水への溶解性に優れたラジカル重合開始剤として用いることができる理由については、以下のように推察される。
【0028】
すなわち、本発明の化合物Aは、上記一般式(A)で表される3環構造を有することにより、長波長の光を含む幅広い波長領域の光を吸収可能となる。例えば、Z及びZの組合せが、>S及び>=Oの組合せである場合には、360nm以上の長波長の光を含む幅広い波長領域の光を吸収可能なラジカル重合開始剤として機能する。
【0029】
また、本発明の化合物Aは、3環構造との間で共役構造をとる置換基を採用すること、塩形成基に含まれるアニオン性基又はカチオン性基と塩を形成するカチオン成分またはアニオン成分として、長波長領域の光を吸収可能な成分を選択すること等により、3環構造単体よりもより長波長の波長領域の光を吸収可能とすることが容易である。
【0030】
このようなことから、本発明の化合物Aは、幅広い波長領域の光を吸収可能であり、感度に優れたものとなる。また、その3環構造の置換基として塩形成基を含む基を有することで、水への溶解性に優れたものとなる。このようなことから、本発明の化合物Aは、感度及び水への溶解性に優れたラジカル重合開始剤として用いることが可能となる。
【0031】
また、長波長領域の光を吸収可能であることで、本発明の化合物Aは、組成物の深部も安定的に硬化できる深部硬化性に優れたものとなる。そして、本発明の化合物Aは、この深部硬化性により、例えば、厚みのある組成物の硬化、水溶性光硬化性インク等の着色剤を含む組成物の硬化等に特に有用なものとなる。さらに、水への溶解性に優れることで、本発明の化合物Aは、カルボキシル基、水酸基、アクリルアミド基、エステル基等の親水性基を有するラジカル重合性化合物、樹脂成分等の水溶性樹脂とも優れた相溶性を示す。その結果、本発明の化合物Aは、水溶性樹脂と組み合わせることで、例えば、無溶剤の組成物にも好適に用いることができる。
【0032】
以下、本発明の化合物Aについて詳細に説明する。
1.塩形成基を含む基
本発明の化合物Aは、上記一般式(B1)で表される塩形成基を含む基を有する。以下、一般式(B1)中においてBで表される塩形成基を、「塩形成基B」と称す。
【0033】
(1)塩形成基B
上記一般式(B1)に用いられる塩形成基Bは、酸性基の塩又は塩基性基の塩である。本発明の化合物においては、上記塩形成基Bは、酸性基の塩であることが好ましい。上記塩形成基Bが酸性基の塩であることで、本発明の化合物Aは感度により優れたラジカル重合開始剤として使用可能となるからである。ここで、酸性基の塩は、Lに結合したアニオン性基と、アニオン性基と塩を形成するカチオン成分と、を含むものである。また、塩基性基の塩は、Lに結合したカチオン性基と、カチオン性基と塩を形成するアニオン成分と、を含むものである。さらに、塩形成基Bに含まれるアニオンおよびカチオンの価数は、同じであればよい。例えば、塩形成基Bが酸性基の塩である場合において、アニオン性基が2価のアニオンである場合には、1価のカチオン成分を2つ含むものであってもよく、2価のカチオン成分を1つ含むものであってもよい。
【0034】
(1-1)酸性基の塩
上記酸性基の塩を構成するアニオン性基としては、所望の感度及び水への溶解性を化合物Aに付与できるものであればよいが、リン酸イオン基、カルボン酸イオン基、スルホン酸イオン基、リン酸エステルイオン基、硫酸エステルイオン基、硝酸エステルイオン基、亜リン酸イオン基、ホスホン酸イオン基、ホスフィン酸イオン基、スルフィン酸イオン基等を用いることができる。なかでも、カルボン酸イオン基(-COO)、スルホン酸イオン基(-SO )であることが好ましく、特に、カルボン酸イオン基(-COO)であることが好ましい。本発明の化合物Aは感度により優れたラジカル重合開始剤として使用可能となるからである。
【0035】
上記アニオン性基と塩を形成するカチオン成分としては、所望の感度及び水への溶解性を化合物Aに付与できるものであればよい。これらカチオン成分としては、無機系イオンでもよいし、有機系イオンでもよい。
【0036】
無機系イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンを挙げることができる。
【0037】
有機系イオンとしては、例えば、3級スルホニウムカチオン、3級オキソニウムカチオン、4級ホスホニウムカチオン、アミン系カチオン、3級カルボカチオン等を挙げることができる。
【0038】
本発明の化合物Aにおいては、合成容易の観点からは、カチオン成分が、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アミン系カチオンであることが好ましく、なかでも、アルカリ金属イオン、アミン系カチオンであることが好ましい。カチオン成分が上述のイオンであることで、化合物Aは水への溶解性及び保存安定性により優れたものとなるからである。
【0039】
アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウム、セシウム等を挙げることができる。なかでも、カリウムイオンであることが好ましい。本発明の化合物Aは水への溶解性により優れたラジカル重合開始剤として使用可能となるからである。
【0040】
アルカリ土類金属イオンとしては、マグネシウムイオン及びカルシウムイオン等を挙げることができる。
【0041】
アミン系カチオンとしては、窒素原子にプラス電荷を有するものであればよく、アンモニウムカチオン(N)、1級~4級アンモニウムカチオンのいずれも用いることができる。なかでも、3級アンモニウムカチオン、4級アンモニウムカチオンであることが好ましく、特に、3級アンモニウムカチオンであることが好ましい。上記アミン系カチオンが、上述のカチオンであることで、本発明の化合物Aは、水への溶解性により優れたものとなるからである。
【0042】
上記3級アンモニウムカチオンとしては、例えば、下記一般式(C3)で表されるカチオン(以下、カチオンC3とも称す。)を用いることができる。なお、アンモニウムカチオンは、1分子内に複数のアンモニウムカチオンを含む場合には、最も置換数が多いアンモニウムカチオンに該当するものとすることができる。例えば、1分子内に、3級アンモニウムカチオンと、2級及び1級のアンモニウムカチオンの少なくとも一方と、を含むカチオンは、3級アンモニウムカチオンに該当するものとすることができる。
【0043】
【0044】
ここで、一般式(C3)中、Y、Y及びYは、それぞれ独立に水酸基、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数2~6のアルケニル基、炭素原子数6~15のアリール基または炭素原子数7~13のアリールアルキル基を表す。
【0045】
、Y及びYで表される基中の水素原子は、水酸基で置換されていてもよく、Y、Y及びYで表される基中のメチレン基は、酸素原子または-NH-で置換されていてもよく、Y、Y及びYのいずれか二つ以上が結合して環を形成していてもよい。
【0046】
上記Y~Yに用いられる炭素原子数1~6のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、アミル、イソアミル、t-アミルおよびヘキシル等が挙げられる。
【0047】
上記Y~Yに用いられる炭素原子数2~6のアルケニル基としては、例えば、ビニル、エチレン、2-プロペニル、3-ブテニル、2-ブテニル、4-ペンテニル、3-ペンテニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニルおよび5-ヘキセニル等が挙げられる。
【0048】
上記Y~Yに用いられる炭素原子数6~15のアリール基としては、例えば、フェニル、トリメチルフェニル、トリル、キシリル、ナフチルおよびアンスリル基等が挙げられる。
【0049】
上記Y~Yに用いられる炭素原子数7~13のアリールアルキル基としては、アルキル基の水素原子が、アリール基で置換された7~13の炭素原子を有する基を意味する。例えば、ベンジル、α-メチルベンジル、α、α-ジメチルベンジル、フェニルエチルおよびナフチルプロピル等が挙げられる。
【0050】
本発明の化合物Aにおいては、上記Y~Yのうちの2以上が結合して環を形成していることが好ましい。本発明の化合物Aの水への溶解性及び感度が、より優れたものとなるからである。なお、後述する化合物No.A1~A14は、カチオンC3が、Y~Yのうちの2以上が結合して環を形成している例を示すものである。
【0051】
本発明の化合物Aにおいては、上記Y~Yの水素原子が一つ以上水酸基で置換されていることが好ましい。本発明の化合物Aは、水への溶解性により優れたものとなるからである。なお、後述する化合物No.A5~A6、A15~A34は、カチオンC3が、Y~Yの水素原子が一つ以上水酸基で置換されている例を示すものである。
【0052】
上記カチオンC3としては、より具体的には、下記化合物No.A1~A34を挙げることができる。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
4級アンモニウムカチオンとしては、例えば、下記一般式(C4)で表されるカチオンを用いることができる。
【0057】
【0058】
ここで、一般式(C4)中、Y、Y、Y及びYは、それぞれ独立に水酸基、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数2~6のアルケニル基、炭素原子数6~15のアリール基または炭素原子数7~13のアリールアルキル基を表す。
【0059】
上記Y、Y、Y及びYに用いられる炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数2~6のアルケニル基、炭素原子数6~15のアリール基または炭素原子数7~13のアリールアルキル基については、上記一般式(C3)中のY等に用いられる基と同様とすることができる。
【0060】
4級アンモニウムカチオンとしては、より具体的には、テトラアルキルアンモニウム、ピロリジンカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、イミダゾリニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、ピペラジニウムカチオン等を挙げることができる。
【0061】
上記テトラアルキルアンモニウムとしては、テトラメチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0062】
上記ピロリジンカチオンとしては、N,N-ジメチルピロリジニウム、N-エチル-N-メチルピロリジニウム、N,N-ジエチルピロリジニウム、スピロ-(1、1’)-ビピロリジニウム、ピペリジン-1-スピロ-1’-ピロリジニウム等を挙げることができる。
【0063】
上記イミダゾリウムカチオンとしては、N,N’-ジメチルイミダゾリウム、N-エチル-N’-メチルイミダゾリウム、N,N’-ジエチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3ジメチルイミダゾリウム、1,2,3トリメチルイミダゾリウム、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリウム等を挙げることができる。
【0064】
上記ピペリジニウムカチオンとしては、N-メチルピリジニウム、N-エチルピリジニウム、1,2-ジメチルピリジニウム等のピリジニウムカチオン、N,N-ジメチルピペリジニウム、N-エチル-N-メチルピペリジニウム、N,N-ジエチルピペリジニウム等を挙げることができる。
【0065】
上記イミダゾリニウムカチオンとしては、N,N-ジメチルイミダゾリニウム、N-エチル-N’-メチルイミダゾリニウム、N,N-ジエチルイミダゾリニウム、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム、1,3,4-トリメチル-2-エチルイミダゾリニウム、1,3-ジメチル-2,4-ジエチルイミダゾリニウム、1,2-ジメチル-3,4-ジエチルイミダゾリニウム、1-メチル-2,3,4-トリエチルイミダゾリニウム、1,2,3,4-テトラエチルイミダゾリニウム、1,2,3-トリメチルイミダゾリニウム、1,3-ジメチル-2-エチルイミダゾリニウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリニウム、1-エチル-2メチルイミダゾリウム、1,2,3-トリエチルイミダゾリニウム等を挙げることができる。
【0066】
上記モルホリニウムカチオンとしては、N,N-ジメチルモルホリニウム、N-エチル-N-メチルモルホリニウム、N,N-ジエチルモルホリニウム等を挙げることができる。
【0067】
上記ピペラジニウムカチオンとしては、N,N,N’,N’-テトラメチルピペラジニウム、N-エチル-N,N’,N’-トリメチルピペラジニウム、N,N-ジエチル-N’,N’-ジメチルピペラジニウム、N,N,N’-トリエチル-N’-メチルピペラジニウム、N,N,N’,N’-テトラエチルピペラジニウム等のピペラジニウムカチオン等を挙げることができる。
【0068】
上記1級アンモニウムカチオン及び2級アンモニウムカチオンとしては、例えば、それぞれ、下記一般式(C1)及び一般式(C2)で表されるカチオンを用いることができる。
【0069】
【0070】
ここで、一般式(C2)中のY及びYと、一般式(C1)中のYは、それぞれ独立に水酸基、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数2~6のアルケニル基、炭素原子数6~15のアリール基または炭素原子数7~13のアリールアルキル基を表す。
【0071】
上記Y及びYに用いられる炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数2~6のアルケニル基、炭素原子数6~15のアリール基または炭素原子数7~13のアリールアルキル基については、上記一般式(C3)中のY等に用いられる基と同様とすることができる。
【0072】
上記1級アンモニウムカチオンとしては、より具体的には、オクチルアミン、ドデシルアミン、ラウリルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アリルアミン、ベンジルアミン、アニリン等のカチオンを挙げることができる。なお、アニリンのカチオンとは、具体的には、C-Nで表されるカチオンを示すものである。
【0073】
上記2級アンモニウムカチオンとしては、より具体的には、ジラウリルアミン、ジテトラデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジステアリルアミン、N-メチルアニリン等のカチオンを挙げることができる。また、2級アンモニウムカチオンとしては、下記化合物No.A51~No.A57等も用いることができる。
【0074】
【0075】
3級スルホニウムカチオンとしては、例えば、(2-カルボキシエチル)ジメチルスルホニウム、(3-クロロプロピル)ジフェニルスルホニウム、シクロプロピルジフェニルスルホニウム、ジフェニル(メチル)スルホニウム、トリ-n-ブチルスルホニウム、トリ-p-トリルスルホニウム、トリエチルスルホニウム、トリメチルスルホニウム、トイフェニルスルホニウム等を挙げることができる。
【0076】
3級オキソニウムカチオンとしては、例えば、トリエチルオキソニウム、トリメチルオキソニウム等を挙げることができる。
【0077】
4級ホスホニウムカチオンとしては、例えば、テトラブチルホスホニウム、ブチルトリフェニルホスホニウム等を挙げることができる。
【0078】
3級カルボカチオンとしては、例えば、トリフェニルカルボカチオン、トリ(置換フェニル)カルボカチオンなどの三置換カルボカチオンが挙げられる。トリ(置換フェニル)カルボカチオンとしては、例えば、トリ(メチルフェニル)カルボカチオン、トリ(ジメチルフェニル)カルボカチオンなどが挙げられる。
【0079】
上記カチオン成分としては、長波長領域の光の吸収効率を向上する等、吸収波長の調整がより容易になる観点からは、下記一般式(A2)で表される化合物(以下、「化合物A2」と称する場合がある。)を好ましく用いることができる。すなわち、本発明の化合物Aは、上記一般式(A)で表される化合物Aのうち、酸性基の塩を有するものと、塩基性基Bの塩を有するものとが、塩を形成しているもの、つまり、一方の化合物Aの塩形成基に含まれるアニオン性基と、他方の化合物Aの塩形成基に含まれるカチオン性基と、が塩を形成しているものであってもよい。
【0080】
【0081】
一般式(A2)中、Z11は、直接結合、>NR201、>O、>S、>S=O又は>C=Oであり、Z12は、>CR202 、>NR201、>O、>S、>S=O又は>C=Oを表し、R11~R18は、それぞれ独立に、水素原子、CN、NO、水酸基、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~30のアリール基、炭素原子数7~30のアリールアルキル基、炭素原子数2~20の複素環含有基又は下記一般式(B2)で表されるカチオン性基を含む基を表すが、R11~R18のうち少なくとも1つは、上記カチオン性基を含む基であり、R201及びR202は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~30のアリール基、炭素原子数7~30のアリールアルキル基又は炭素原子数2~20の複素環含有基を表す。
【0082】
【0083】
一般式(B2)中、L11は、直接結合又はb2+1価の結合基を表し、B2は、カチオン性基を表し、b2は、1~10の整数を表し、*は、ベンゼン環との結合箇所を表す。
【0084】
なお、一般式(B2)に用いられるL11及びb2については、後述する「(2)その他」の項に記載のL及びbと同様とすることができ、なかでも、塩形成基Bが塩基性基の塩である場合に好ましい内容とすることができる。また、一般式(B2)で表されるカチオン性基については、後述する「(1-2)塩基性基の塩」の項に記載のカチオン性基と同様とすることができる。かかる構造とすることで、本発明の化合物Aは、分散安定性及び合成容易性に優れたものとなるからである。
【0085】
一般式(A2)に用いられる、Z11及びZ12、R11~R18並びにR201及びR202については、後述する「2.化合物A」の項に記載のZ及びZ、R~R並びにR101及びR102と同様とすることができる。
【0086】
化合物A2をカチオン成分として含む化合物Aとしては、例えば、後述する一般式(53)~(60)を挙げることができる。また、化合物A2としては、後述する一般式(29)~(52)に記載の塩形成基Bとして塩基性基の塩を含む化合物のカチオン性基を含む部位を組み合わせたものも用いることができる。
【0087】
(1-2)塩基性基の塩
上記塩基性基の塩を構成するカチオン性基としては、1価以上のカチオン性基であればよく、例えば、3級スルホニウムカチオン基、3級オキソニウムカチオン基、4級ホスホニウムカチオン基、4級アンモニウムカチオン基、3級カルボカチオン等を挙げることができる。なかでも、4級アンモニウムカチオン基であることが好ましい。上記カチオン性基が上述の基であることで、上記カチオン成分は、上記アニオン性基との間で保存安定性が良好な塩を形成することができるからである。
【0088】
上記3級スルホニウムカチオン基としては、下記一般式(C11)で表される基とすることができ、具体的には、上述の3級スルホニウムカチオンとして列挙した化合物のS原子に結合する置換基の一つが外れた構造とすることができる。
【0089】
上記3級オキソニウムカチオン基としては、下記一般式(C12)で表される基とすることができ、具体的には、上述の3級オキソニウムカチオンとして列挙した化合物のO原子に結合する置換基の一つが外れた構造とすることができる。
【0090】
上記4級ホスホニウムカチオン基としては、下記一般式(C13)で表される基とすることができる、具体的には、上述の4級ホスホニウムカチオンとして列挙した化合物のP原子に結合する置換基の一つが外れた構造とすることができる。
【0091】
上記4級アンモニウムカチオン基としては、下記一般式(C14)で表される基とすることができ、具体的には、上述の4級アンモニウムカチオンとして列挙した化合物のN原子に結合する置換基の一つが外れた構造とすることができる。
【0092】
上記3級カルボカチオン基としては、下記一般式(C15)で表される基とすることができ、具体的には、上述の3級カルボカチオンとして列挙した化合物のC原子に結合する置換基の一つが外れた構造とすることができる。
【0093】
【0094】
一般式(C11)~一般式(C15)中、R401は、それぞれ独立に、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~30のアリール基、炭素原子数7~30のアリールアルキル基又は炭素原子数2~20の複素環含有基を表し、一般式(C14)中、2又は3のR401が環を形成していてもよい。なお、一般式(C11)~一般式(C15)中の*は、L11との結合箇所を表す。
【0095】
401に用いられる炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~30のアリール基、炭素原子数7~30のアリールアルキル基及び炭素原子数2~20の複素環含有基については、後述する「2.化合物A」の項に記載のR等に用いられるものと同様の内容とすることができる。
【0096】
一般式(C14)中の2つのR401が環を形成しているものとしては、例えば、ピロリジニウムカチオン基、モルホリニウムカチオン基、ピペラジンカチオン基等を挙げることができる。一般式(C14)中の3つのR401が環を形成しているものとしては、ピリジニウムカチオン基等を挙げることができる。
【0097】
上記カチオン性基と塩を形成するアニオン成分としては、化合物Aが水溶性を発揮可能なものであればよい。アニオン成分としては、塩素陰イオン、臭素陰イオン、ヨウ素陰イオン、フッ素陰イオン等のハロゲン陰イオン;過塩素酸陰イオン、塩素酸陰イオン、チオシアン酸陰イオン、六フッ化リン酸陰イオン、六フッ化アンチモン陰イオン、六フッ化ヒ素陰イオン、四フッ化ホウ素陰イオン等の無機系陰イオン;メタンスルホン酸イオン、フルオロスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸陰イオン、トルエンスルホン酸陰イオン、1-ナフチルスルホン酸陰イオン、2-ナフチルスルホン酸陰イオン、トリフルオロメタンスルホン酸陰イオン、ペンタフルオロエタンスルホン酸陰イオン、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸陰イオン、ノナフルオロブタンスルホン酸陰イオン、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸陰イオン、トリデカフルオロヘキサンスルホン酸陰イオン、ペンタデカフルオロヘプタンスルホン酸陰イオン、ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸イオン、パーフルオロ-4-エチルシクロヘキサンスルホン酸イオン、N-アルキル(又はアリール)ジフェニルアミン-4-スルホン酸陰イオン、2-アミノ-4-メチル-5-クロロベンゼンスルホン酸陰イオン、2-アミノ-5-ニトロベンゼンスルホン酸陰イオン、特開2004-53799号公報に記載されたスルホン酸陰イオン、カンファースルホン酸陰イオン、フルオロベンゼンスルホン酸陰イオン、ジフルオロベンゼンスルホン酸陰イオン、トリフルオロベンゼンスルホン酸陰イオン、テトラフルオロベンゼンスルホン酸陰イオン、ペンタフルオロベンゼンスルホン酸陰イオン、等の有機スルホン酸陰イオン;オクチルリン酸陰イオン、ドデシルリン酸陰イオン、オクタデシルリン酸陰イオン、フェニルリン酸陰イオン、ノニルフェニルリン酸陰イオン、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスホン酸陰イオン等の有機リン酸系陰イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドイオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドイオン、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホン)イミドイオン、ビス(ノナフルオロブタンスルホン)イミドイオン、ビス(ウンデカフルオロペンタンスルホン)イミドイオン、ビス(ペンタデカフルオロヘプタンスルホン)イミドイオン、ビス(トリデカフルオロヘキサンスルホン)イミドイオン、ビス(ヘプタデカフルオロオクタンスルホンイミド)イオン、(トリフルオロメタンスルホン)(ノナフルオロブタンスルホン)イミドイオン、(メタンスルホン)(トリフルオロメタンスルホン)イミドイオン、シクロ-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ビス(スルホニル)イミド陰イオン等の有機フルオロスルホンイミドイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸陰イオン、テトラキス(4-フルオロフェニル)ホウ酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、特開2008-81470号公報に記載されたホウ酸陰イオン、特開2007-112854号公報に記載されたホウ酸陰イオン、特開平6-184170号公報に記載されたホウ酸陰イオン、特表2002-526391号公報に記載されたホウ酸陰イオン、国際出願PCT/JP2008/069562号公報に記載されたホウ酸陰イオン等のテトラアリールホウ酸陰イオン、各種脂肪族又は芳香族カルボン酸アニオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、トリス(メタンスルホニル)メチド等の有機スルホニルメチドイオン;等が挙げられ、更に、アルキルスルホン酸イオンやフルオロ置換アルキルスルホン酸イオン、アルキルスルホンイミド、フルオロ置換アルキルスルホンイミドが、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基で置換されたものや、ノルボルニル基、アダマンチル基等の脂肪族環状アルキル基で置換されたものが挙げられる。また、励起状態にある活性分子を脱励起させる(クエンチングさせる)機能を有するクエンチャー陰イオンやシクロペンタジエニル環にカルボキシル基やホスホン酸基、スルホン酸基等の陰イオン性基を有するフェロセン、ルテオセン等のメタロセン化合物陰イオン等も、必要に応じて用いることができる。
【0098】
上記アニオン成分のなかでも、ハロゲン陰イオンであることが好ましく、特に、塩素陰イオン、臭素陰イオン等であることが好ましい。上記アニオン成分が上述のイオンであることで、上記化合物Aは、合成容易性、保存安定性等に優れたものとなるからである。
【0099】
(2)その他
一般式(B1)中のbは、1~10の整数を表し、Lに結合する酸性基の塩又は塩基性基の塩の数、すなわち、塩形成基Bの数を表す。本発明の化合物Aにおいては、bは、所望の感度及び水への溶解性を化合物Aに付与できるものであればよいが、1~5の整数であることが好ましく、なかでも、1~2の整数であることが好ましく、特に、1であることが好ましい。上記bの数が上述の範囲であることで、化合物Aは、分散安定性及び合成容易性に優れたものとなるからである。
【0100】
上記一般式(B1)に用いられるLは、直接結合又はb+1価の結合基を表すものである。b+1価の結合基として用いられるLとしては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、下記(II-a)若しくは(II-b)で表される基、>C=O、-NH-CO-、-CO-NH-、>NR53又はb+1と同数の価数を有する炭素原子数1~120の脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~35の芳香環含有炭化水素基若しくは炭素原子数2~35の複素環含有基を表すものとすることができる。
【0101】
上記R53は、水素原子、炭素原子数1~120の脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~35の芳香環含有炭化水素基又は炭素原子数2~35の複素環含有基を表すものとすることができる。
【0102】
及びR53として用いられる脂肪族炭化水素基、芳香環含有炭化水素基及び複素環含有基のメチレン基は、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-NH-CO-O-、-NR-、-S-S-、-SO-、窒素原子又はこれらの組み合わせで置き換わっている場合もあり、メチレン基の水素原子が水酸基に置換されていてもよく、上記芳香環又は複素環は、他の環と縮合されている場合もある。ただし、結合基Lが窒素原子、リン原子又は下記(II-a)若しくは(II-b)で表される結合基の場合、b+1は3であり、結合基Lが酸素原子又は硫黄原子、>C=O、-NH-CO-、-CO-NH-又は>NR53の場合、b+1は2である。
【0103】
【0104】
53に用いられる炭素原子数1~120の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第三アミル、シクロペンチル、ヘキシル、2-ヘキシル、3-ヘキシル、シクロヘキシル、ビシクロヘキシル、1-メチルシクロヘキシル、ヘプチル、2-ヘプチル、3-ヘプチル、イソヘプチル、第三ヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2-エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル等のアルキル基;メチルオキシ、エチルオキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ、第二ブチルオキシ、第三ブチルオキシ、イソブチルオキシ、アミルオキシ、イソアミルオキシ、第三アミルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、イソヘプチルオキシ、第三ヘプチルオキシ、n-オクチルオキシ、イソオクチルオキシ、第三オクチルオキシ、2-エチルヘキシルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ等のアルコキシ基;メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、第二ブチルチオ、第三ブチルチオ、イソブチルチオ、アミルチオ、イソアミルチオ、第三アミルチオ、ヘキシルチオ、シクロヘキシルチオ、ヘプチルチオ、イソヘプチルチオ、第三ヘプチルチオ、n-オクチルチオ、イソオクチルチオ、第三オクチルチオ、2-エチルヘキシルチオ等のアルキルチオ基;ビニル、1-メチルエテニル、2-メチルエテニル、2-プロペニル、1-メチル-3-プロペニル、3-ブテニル、1-メチル-3-ブテニル、イソブテニル、3-ペンテニル、4-ヘキセニル、シクロヘキセニル、ビシクロヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、デセニル、ぺンタデセニル、エイコセニル、トリコセニル等のアルケニル基及びこれらの基が後述する置換基により置換された基等が挙げられる。
【0105】
53に用いられる炭素原子数6~35の芳香環含有炭化水素基としては、例えば、ベンジル、フェネチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、スチリル、シンナミル等のアリールアルキル基;フェニル、ナフチル等のアリール基;フェノキシ、ナフチルオキシ等のアリールオキシ基;フェニルチオ、ナフチルチオ等のアリールチオ基及びこれらの基が後述する置換基により置換された基等が挙げられる。
【0106】
53に用いられる炭素原子数2~35の複素環含有基としては、例えば、ピリジル、ピリミジル、ピリダジル、ピペリジル、ピラニル、ピラゾリル、トリアジル、ピロリル、キノリル、イソキノリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、トリアゾリル、フリル、フラニル、ベンゾフラニル、チエニル、チオフェニル、ベンゾチオフェニル、チアジアゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、インドリル、2-ピロリジノン-1-イル、2-ピペリドン-1-イル、2,4-ジオキシイミダゾリジン-3-イル、2,4-ジオキシオキサゾリジン-3-イル、ベンゾトリアゾイル等及びこれらの基が後述する置換基により置換された基等が挙げられる。
【0107】
上記結合基Lに用いられる、b+1と同数の価数を有する炭素原子数1~120の脂肪族炭化水素基の構造は、本発明の化合物Aの用途等に応じて適宜設定することができる。上記脂肪族炭化水素基は、直鎖、分岐鎖、環状(脂環式炭化水素)及びこれらの組合せのいずれも用いることができる。
【0108】
また、上記脂肪族炭化水素基中のメチレン基は、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-NH-CO-O-、-NR-、-S-S-、-SO-、窒素原子又はこれらの組み合わせで1以上置き換わっていてもよい。
【0109】
上記結合基Lに用いられる、2価以上の炭素原子数1~120の脂肪族炭化水素基としては、上述のR53に用いられる1価の炭素原子数1~120の脂肪族炭化水素基から水素原子の一部が外れた構造とすることができる。
【0110】
上記結合基Lに用いられる、2価の炭素原子数1~120の脂肪族炭化水素基としては、具体的には、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブチルジイル等のアルキレン;上記アルキレンのメチレン基が-O-、-S-、-CO-O-、-O-CO-で置き換えられたもの;エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等のジオールの残基;エタンジチオール、プロパンジチオール、ブタンジチオール、ペンタンジチオール、ヘキサンジチオール等のジチオールの残基及びこれらの基が後述する置換基により置換された基等が挙げられる。
【0111】
上記結合基Lに用いられる、b+1が3価の炭素原子数1~120の脂肪族炭化水素基としては、具体的には、プロピリジン、1,1,3-ブチリジン等のアルキリジン及びこれらの基が後述する置換基により置換された基が挙げられる。
【0112】
上記結合基Lに用いられる、b+1と同数の価数を有する炭素原子数6~35の芳香環含有炭化水素基の構造は、本発明の化合物Aの用途等に応じて適宜設定することができる。
【0113】
また、上記芳香環含有炭化水素基中のメチレン基は、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-NH-CO-O-、-NR-、-S-S-、-SO-、窒素原子又はこれらの組み合わせで1以上置き換わっていてもよい。
【0114】
上記結合基Lに用いられる、2価以上の炭素原子数6~35の芳香環含有炭化水素基としては、上述のR53に用いられる1価の炭素原子数6~35の芳香環含有炭化水素基から水素原子の一部が外れた構造とすることができる。
【0115】
上記結合基Lに用いられる、2価の炭素原子数6~35の芳香環含有炭化水素基としては、具体的には、フェニレン、ナフチレン等のアリーレン基;カテコール、ビスフェノール等の二官能フェノールの残基;2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等及びこれらの基が後述する置換基により置換された基が挙げられる。
【0116】
上記結合基Lに用いられる、3価の炭素原子数6~35の芳香環含有炭化水素基としては、フェニル-1,3,5-トリメチレン及びこれらの基が後述する置換基により置換された基が挙げられる。
【0117】
上記結合基Lに用いられる、b+1と同数の価数を有する炭素原子数2~35の複素環含有基の構造は、本発明の化合物Aの用途等に応じて適宜設定することができる。
【0118】
また、上記複素環含有基中のメチレン基は、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-NH-CO-O-、-NR-、-S-S-、-SO-、窒素原子又はこれらの組み合わせで1以上置き換わっていてもよい。
【0119】
上記結合基Lに用いられる、2価以上の炭素原子数2~35の複素環含有基としては、例えば、上述のR53に用いられる1価の炭素原子数2~35の複素環含有基から水素原子の一部が外れた構造とすることができる。
【0120】
上記結合基Lに用いられる、2価の炭素原子数2~35の複素環含有基としては、具体的には、ピリジン環、ピリミジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、トリアジン環、フラン環、チオフェン環、インドール環等を有する基及びこれらの基が後述する置換基により置換された基が挙げられる。
【0121】
上記結合基Lに用いられる、3価の炭素原子数2~35の複素環含有基としては、イソシアヌル環を有する基、トリアジン環を有する基及びこれらの基が後述する置換基により置換された基が挙げられる。
【0122】
上記脂肪族炭化水素基、芳香環含有炭化水素基及び複素環含有基等の各官能基は、置換基を有していてもよく、特に断りがない限り、置換基を有していない無置換である又は置換基を有しているものである。このような脂肪族炭化水素基、芳香環含有炭化水素基及び複素環含有基等の水素原子を置換する置換基としては、後述する「2.化合物A」の項に記載のR等に用いられるアルキル基等の水素原子を置換する置換基と同様の内容とすることができる。上記置換基としては、例えば、化合物Aの水への溶解性等をより向上する観点からは、水酸基等の親水性基を用いることができる。
【0123】
上記結合基Lは、塩形成基Bが酸性基の塩である場合には、直接結合、>C=O、-NH-CO-、-CO-NH-、>NR53又はb+1と同数の価数を有する炭素原子数1~120の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、なかでも、直接結合又はb+1と同数の価数を有する炭素原子数1~20の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、特に、直接結合であること、すなわち、酸性基の塩が直接ベンゼン環に結合することが好ましい。本発明の化合物Aは感度により優れたラジカル重合開始剤として使用可能となるからである。例えば、塩形成基Bを構成するアニオン性基がカルボン酸イオン基等である場合、3環構造と塩形成基Bを含む基との間で共役構造をとることが容易となる結果、3環構造単独の場合よりもより長波長領域の光を吸収容易となるからである。
【0124】
上記結合基Lは、塩形成基Bが塩基性基の塩である場合には、炭素原子数1~20の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、なかでも炭素原子数2~10の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。化合物Aは、分散安定性及び合成容易性に優れたものとなるからである。
【0125】
上記結合基Lは、塩形成基Bが塩基性基の塩である場合には、上記脂肪族炭化水素基、芳香環含有炭化水素基及び複素環含有基のメチレン基が、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-NH-CO-O-、-NR-、-S-S-、-SO-又はこれらの組み合わせで1以上置き換わっていることが好ましく、なかでも、-O-で置き換わっていることが好ましく、特に、ベンゼン環側の端部が-O-で置き換わっていること、すなわち、Lの端部が-O-を介してベンゼン環に結合していることが好ましい。上記構造であることで、本発明の化合物Aは、合成容易性に優れたものとなるからである。
【0126】
本発明の化合物Aにおいては、R~Rは、その少なくとも1つが塩形成基Bを含む基である。塩形成基Bを含む基の数、すなわち、R~Rとして含まれる数は、所望の感度及び水への溶解性を化合物Aに付与できるものであればよく、化合物A中に8以下であればよいが、1以上2以下であることが好ましく、なかでも、1であることが好ましい。かかる範囲であることで、本発明の化合物Aは、合成容易性、保存安定性、水への溶解性等に優れたものとなるからである。
【0127】
上記塩形成基Bを含む基の結合位置としては、所望の感度及び水への溶解性を化合物Aに付与できるものであればよく、R~Rのいずれの置換基として含まれるものであってもよいが、例えば、Rであることが好ましい。かかる構造とすることで、本発明の化合物Aは、合成容易性等に優れたものとなるからである。また、本発明の化合物Aは、保存安定性、水への溶解性等に優れたものとなるからである。
【0128】
2.化合物A
~R並びにR101及びR102に用いられる炭素原子数1~20のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、iso-プロピル、ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、iso-ブチル、アミル、iso-アミル、tert-アミル、シクロペンチル、ヘキシル、2-ヘキシル、3-ヘキシル、シクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル、ヘプチル、2-ヘプチル、3-ヘプチル、iso-ヘプチル、tert-ヘプチル、1-オクチル、iso-オクチル、tert-オクチル、アダマンチル等が挙げられる。
【0129】
~R並びにR101及びR102に用いられる炭素原子数6~30のアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントラセニル等が挙げられる。
【0130】
また、上記アリール基中の水素原子の1つ又は2つ以上はアルキル基で置換されていてもよい。アリール基中の水素原子を置換するアルキル基としては、上記R等に用いられる炭素原子数6~20のアルキル基のうち所定の炭素原子数を有するものを用いることができる。
【0131】
~R並びにR101及びR102に用いられる炭素原子数1~20の炭素原子数7~30のアリールアルキル基としては、ベンジル、フルオレニル、インデニル、9-フルオレニルメチル基等が挙げられる。
【0132】
また、上記アリールアルキル基中の水素原子の1つ又は2つ以上はアルキル基で置換されていてもよい。アリールアルキル基中の水素原子を置換するアルキル基としては、上記R等に用いられる炭素原子数6~20のアルキル基のうち所定の炭素原子数を有するものを用いることができる。
【0133】
~R並びにR101及びR102に用いられる炭素原子数2~20の複素環含有基としては、ピリジル、ピリミジル、ピリダジル、ピペリジル、ピラニル、ピラゾリル、トリアジル、ピロリル、キノリル、イソキノリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、トリアゾリル、フリル、フラニル、ベンゾフラニル、チエニル、チオフェニル、ベンゾチオフェニル、チアジアゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、インドリル、2-ピロリジノン-1-イル、2-ピペリドン-1-イル、2,4-ジオキシイミダゾリジン-3-イル、2,4-ジオキシオキサゾリジン-3-イル等が挙げられる。
【0134】
上記炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~30のアリール基、炭素原子数7~30のアリールアルキル基、炭素原子数2~20の複素環含有基等の各官能基は、置換基を有していてもよく、特に断りがない限り、置換基を有していない無置換である又は置換基を有しているものである。
【0135】
本発明の化合物において、基の炭素原子数は、基中の水素原子が置換基で置換されている場合、その置換後の基の炭素原子数を意味する。例えば、上記炭素原子数1~20のアルキル基の水素原子が置換されている場合、炭素原子数1~20とは、水素原子が置換された後の炭素原子数を指し、水素原子が置換される前の炭素原子数を指すのではない。また、本発明の化合物において、所定の炭素原子数の基中のメチレン基が二価の基で置き換えられた場合、その置換前の基の炭素原子数を意味する。例えば、本明細書中、炭素原子数1~20のアルキル基中のメチレン基が二価の基で置き換えられた基の炭素原子数は、1~20となる。
【0136】
このようなアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、複素環含有基等の水素原子を置換する置換基としては、ビニル、アリル、アクリル、メタクリル等のエチレン性不飽和基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;アセチル、2-クロロアセチル、プロピオニル、オクタノイル、アクリロイル、メタクリロイル、フェニルカルボニル(ベンゾイル)、フタロイル、4-トリフルオロメチルベンゾイル、ピバロイル、サリチロイル、オキザロイル、ステアロイル、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t-ブトキシカルボニル、n-オクタデシルオキシカルボニル、カルバモイル等のアシル基;アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ等のアシルオキシ基;アミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ブチルアミノ、シクロペンチルアミノ、2-エチルヘキシルアミノ、ドデシルアミノ、アニリノ、クロロフェニルアミノ、トルイジノ、アニシジノ、N-メチル-アニリノ、ジフェニルアミノ,ナフチルアミノ、2-ピリジルアミノ、メトキシカルボニルアミノ、フェノキシカルボニルアミノ、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ、ホルミルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、カルバモイルアミノ、N,N-ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N-ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t-ブトキシカルボニルアミノ、n-オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N-メチル-メトキシカルボニルアミノ、フェノキシカルボニルアミノ、スルファモイルアミノ、N,N-ジメチルアミノスルホニルアミノ、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ等の置換アミノ基;スルホンアミド基、スルホニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホ基、水酸基、ニトロ基、メルカプト基、イミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、ホスホン酸基、リン酸基等が挙げられる。
【0137】
すなわち、R、R、R、R、R、R、R及びR並びにR101及びR102に用いられるアルキル基、アリール基、アリールアルキル基及び複素環含有基中の水素原子の1つ又は2つ以上は、エチレン性不飽和基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、置換アミノ基、スルホンアミド基、スルホニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホ基、水酸基、ニトロ基、メルカプト基、イミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、ホスホン酸基又はリン酸基で置き換わっていてもよい。
【0138】
上記炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~30のアリール基、炭素原子数7~30のアリールアルキル基、炭素原子数2~20の複素環含有基中のメチレン基は、炭素-炭素二重結合、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-NR’-、-S-S-又は-SO-から選ばれた基を酸素原子が隣り合わない条件で組み合わせた基で1以上置き換えられたもの又は置き換えられていないものとすることができる。また、R’は、水素原子又は炭素原子数1~8のアルキル基を表す。
【0139】
すなわち、R、R、R、R、R、R、R及びR並びにR101及びR102に用いられるアルキル基、アリール基、アリールアルキル基及び複素環含有基中のメチレン基の1つ又は2つ以上は、炭素-炭素二重結合、-O-、-S-、-CO-、-O-CO-、-CO-O-、-OCO-O-、-O-CO-O-、-S-CO-、-CO-S-、-S-CO-O-、-O-CO-S-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-NR’-、-S-S-、-SO-又はこれらから選ばれた基を酸素原子が隣り合わない条件で組み合わせた基で置き換わっていてもよい。R’は、水素原子又は炭素原子数1~8のアルキル基を表す。
【0140】
なお、-O-等の二価の基で置換された基としては、末端メチレン基が置換された基も用いることができ、例えば、アルキル基中の末端メチレン基が-O-で置換された基、すなわち、アルコキシ基も含むことができる。
【0141】
また、R、R、R、R、R、R、R及びR並びにR101及びR102に用いられるアルキル基、アリール基、アリールアルキル基及び複素環含有基は、その基中の水素原子の1つ又は2つ以上が置換基で置換され、かつ、その基中のメチレン基の1つ又は2つ以上が上述の二価の基で置換されていてもよい。
【0142】
例えば、後述する式(302)(303)等に例示するように、R、R、R、R、R、R、R及びR並びにR101及びR102として、アルキル基中のメチレン基の1つ又は2つ以上が-O-で置換され、さらに、そのアルキル基中の水素原子の1つ又は2つ以上が水酸基で置換された基も用いることができる。
【0143】
~Rは、R及びR、R及びR、R及びR、R及びR、R及びR、R及びRの隣接する基同士が、互いに結合して環を形成してもよく、さらに、一般式(A)中の3員環を構成するベンゼン環と縮合環を形成してもよい。
【0144】
隣接する基同士が結合して形成する環構造としては、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、ジヒドロフラン環、ジヒドロピラン環、ベンゼン環又はナフタレン環等を挙げることができる。
【0145】
~Rは、塩形成基Bを含む基以外の基である場合、水素原子、CN、NO、水酸基、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~30のアリール基、炭素原子数7~30のアリールアルキル基又は炭素原子数2~20の複素環含有基であるが、水素原子又は炭素原子数1~10のアルキル基であることが好ましく、なかでも、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基であることが好ましく、特に、水素原子であることが好ましい。より具体的には、本発明の化合物Aとしては、Rが塩形成基を含む基である場合、R~R及びR~Rが水素原子であるものを好ましく用いることができる。本発明の化合物Aは、合成容易性、保存安定性、水への溶解性等に優れたものとなるからである。
【0146】
~Rは、塩形成基Bを含む基以外の基である場合、本発明の化合物Aの長波長領域の光の吸収効率を向上する観点からは、3員環と共役系を形成できるものであることが好ましく、例えば、NO、炭素原子数6~30のアリール基等であることが好ましい。
【0147】
101およびR102は、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数6~30のアリール基又はアルキル基で置換されていてもよい炭素原子数7~30のアリールアルキル基、炭素原子数2~20の複素環含有基であるが、水素原子又は炭素原子数1~20のアルキル基であることが好ましく、水素原子、炭素原子数1~5のアルキル基であることが好ましい。本発明の化合物Aは、分散安定性及び合成容易性に優れたものとなるからである。
【0148】
上記Zは、直接結合、>NR101、>O、>S、>S=O又は>C=Oであり、上記Zは、>CR102 、>NR101、>O、>S、>S=O又は>C=Oである。
【0149】
このようなZ及びZの組合せとしては、Z及びZで結合される2つのベンゼン環を含む3環構造が芳香族性を示す組合せであることが好ましい。本発明の化合物Aは、長波長の光を含む幅広い波長領域の光を吸収可能となるからである。
【0150】
上記Z及び上記Zの組合せとしては、>S及び>C=Oの組合せ(チオキサントン構造)、>N及び>Nの組合せ(フェナジン構造)、>N及び>=Oの組合せ(アクリドン構造)、直接結合及び>=Oの組合せ(フルオレノン構造)等を挙げることができる。なお、カッコ内は上記組合せで形成される3員環の構造を示すものである。
【0151】
本発明の化合物Aにおいては、なかでも、上記組合せが、>S及び>C=Oの組合せ(チオキサントン構造)であること、すなわち、本発明における一般式(A)で表される化合物Aは、下記一般式(A1)で表される化合物であることが好ましい。Z及びZの組み合わせが上述の組合せであることで、本発明の化合物Aは、感度及び水への溶解性により優れたラジカル重合開始剤として用いることが容易となるからである。なお、Zが直接結合である場合、2つのベンゼン環に挟まれるZ及びZを含む環構造は5員環構造となる。
【0152】
【0153】
ここで、一般式(A1)中、R、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、CN、NO、水酸基、炭素原子数1~20のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数6~30のアリール基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数7~30のアリールアルキル基、炭素原子数2~20の複素環含有基又は上記一般式(B1)で表される塩形成基Bを含む基を表し、R~Rの少なくとも1つは、上記塩形成基Bを含む基である。
【0154】
一般式(A1)に用いられるR~R並びに上記一般式(B1)については、上記一般式(A)に記載の内容と同じ内容を示すものである。
【0155】
本発明の化合物Aとしては、具体的には、下記に表される化合物を挙げることができる。
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
本発明の化合物Aの300nm以上600nm以下の範囲の最大吸収波長としては、露光光を吸収して、ラジカルを発生可能なものであればよいが、380nm以上であることが好ましく、なかでも、385nm以上550nm以下であることが好ましく、特に、390nm以上500nm以下、中でも特に、390nm以上450nm以下であることが好ましい。上記最大吸収波長が上述の範囲であることで、本発明の化合物Aは感度に優れたラジカル重合開始剤としてより有用となるからである。
【0164】
以下、最大吸収波長の測定方法は、最大吸収波長を精度良く測定できる方法であれば問題はなく、例えば、下記の方法を用いることができる。
(1)水に化合物Aを溶解し、測定用水溶液を調製する。
(2)測定用水溶液を、石英セル(光路長10mm、厚み1.25mm)に充填し、分光光度計(例えば、日本分光製可視紫外吸光度計V-670等)を用いて吸収スペクトルを測定する。測定用水溶液の吸収スペクトルは、予め水単体での吸収スペクトルを測定し、測定用水溶液の吸収スペクトルから水の吸収スペクトルを差し引いて補正したものを用いる。
【0165】
本発明の化合物Aの水100質量部に対する溶解度としては、本発明の化合物Aの用途等に応じて適宜設定できるものであるが、水溶性開始剤として、水を含む組成物に用いることが容易であるとの観点からは、0.5質量部以上であることが好ましく、0.9質量部以上であることがより好ましく、特に、1.0質量部以上であることが好ましく、なかでも特に、1.2質量部以上であることが好ましく、2.0質量部以上であることが好ましく、特に、3.0質量部以上であることが好ましく、なかでも特に、4.0質量部以上であることが好ましく、なかでも特に、5.0質量部以上であることが好ましい。なお、上記溶解度の上限については、多いほど水への溶解性が高く好ましいため、特に限定されるものではないが、例えば、水100質量部に対して、10質量部以下とすることができる。
【0166】
また、以下、水への溶解度は、温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で、100gの脱イオン水をスターラーで撹拌しながら、本発明の化合物Aを徐々に溶解していき、溶けなくなった(浮遊や沈殿、析出、白濁が見られた)時点での溶解量とする。具体的には、0.1g毎に化合物を添加して測定することができる。
【0167】
本発明の化合物Aの製造方法としては、所望の構造を得ることができる方法であればよく、公知の方法を用いることができる。
【0168】
本発明の化合物Aの製造方法としては、例えば、本発明の化合物Aが酸性基の塩を含む基を有する場合、下記反応式(R1)及び反応式(R2)に例示するように、公知の方法又は市販の酸性基(下記反応式中ではカルボン酸基(-COOH))を含む化合物を準備し、この化合物を塩化メチレン等の有機溶剤に溶解した溶解液または分散した分散液を調製する。
【0169】
次いで、対カチオンを形成可能な化合物(下記反応式(R1)中では、カルボン酸基の水素を引き抜くことで3級アンモニウムカチオンを生成可能な3級アミン、下記反応式(R2)では、アルカリ金属カチオンを生成可能なアルカリ金属水酸化物のアルコール溶液(KOHアルコール溶液))を、上記溶解液または分散液に添加する方法等を挙げることができる。
【0170】
【0171】
本発明の化合物Aの用途としては、光照射によりラジカルを発生するラジカル重合開始剤を挙げることができ、なかでも、水への溶解性に優れるとの効果をより効果的に発揮できる観点から、溶剤として水を含む組成物に用いられる水溶性ラジカル重合開始剤に好ましく用いることができる。
【0172】
具体的には、このようなラジカル重合開始剤が用いられる硬化性組成物の用途としては、メガネ、撮像用レンズに代表される光学材料、塗料、各種コーティング剤、ライニング剤、インク、レジスト、液状レジスト、接着剤、液晶滴下工法用シール剤、画像形成材料、パターン形成材料、印刷版、絶縁ワニス、絶縁シート、積層板、プリント基盤、半導体装置用・LEDパッケージ用・液晶注入口用・有機EL用・光素子用・電気絶縁用・電子部品用・分離膜用等の封止剤、成形材料、二次電池の電極、セパレータ、パテ、建材、サイディング、ガラス繊維含浸剤、目止め剤、半導体用・太陽電池用等のパッシベーション膜、層間絶縁膜、保護膜、液晶表示装置のバックライトに使用されるプリズムレンズシート、プロジェクションテレビ等のスクリーンに使用されるフレネルレンズシート、レンチキュラーレンズシート等のレンズシートのレンズ部、またはこのようなシートを用いたバックライト等、液晶カラーフィルターの保護膜やスペーサー、DNA分離チップ、マイクロリアクター、ナノバイオデバイス、ハードディスク用記録材料、固体撮像素子、太陽電池パネル、発光ダイオード、有機発光デバイス、ルミネセントフィルム、蛍光フィルム、MEMS素子、アクチュエーター、ホログラム、プラズモンデバイス、偏光板、偏光フィルム、マイクロレンズ等の光学レンズ、光学素子、光コネクター、光導波路、光学的造形用注型剤、歯科材料、爪装飾(ネイル)用途等の人体に接触する硬化性組成物用途等を挙げることができ、例えばコーティング剤として適用できる基材としては金属、木材、ゴム、プラスチック、ガラス、セラミック製品等を挙げることができる。
【0173】
上記硬化性組成物の用途としては、なかでも、感度に優れるとの効果をより効果的に発揮する観点からは、例えば、3Dプリンタ用途等の厚みが厚い部材用途を含むインク用途、着色剤を含む着色光硬化性インク用途、水への溶解性に優れるとの効果をより効果的に発揮する観点からは、爪装飾(ネイル)用途等の人体に接触する硬化性組成物用途等の低有機溶剤組成物用途であることが好ましい。
【0174】
B.ラジカル重合開始剤
次に、本発明のラジカル重合開始剤について説明する。
本発明のラジカル重合開始剤は、下記一般式(A)で表される化合物、すなわち、本発明の化合物Aを含むものである。
【0175】
【0176】
ここで、一般式(A)中、Zは、直接結合、>NR101、>O、>S、>S=O又は>C=OでありZは、>CR102 、>NR101、>O、>S、>S=O又は>C=Oを表し、R、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、CN、NO、水酸基、炭素原子数1~20のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数6~30のアリール基、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数7~30のアリールアルキル基、炭素原子数2~20の複素環含有基又は下記一般式(B1)で表される塩形成基を含む基を表し、R、R、R、R、R、R、R及びRの少なくとも1つは、塩形成基Bを含む基であり、R101及びR102は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~30のアリール基、炭素原子数7~30のアリールアルキル基又は炭素原子数2~20の複素環含有基を表す。
【0177】
【0178】
ここで、一般式(B1)中、Lは、直接結合又はb+1価の結合基を表し、Bは、酸性基の塩又は塩基性基の塩を表し、bは、1~10の整数を表し、*は、ベンゼン環との結合箇所を表す。
【0179】
本発明のラジカル重合開始剤は、本発明の化合物Aを含むため、感度及び水への溶解性に優れている。
【0180】
本発明のラジカル重合開始剤は、本発明の化合物Aを含むものである。以下、本発明のラジカル重合開始剤の各成分について、詳細に説明する。
【0181】
1.化合物A
本発明の化合物Aは、上記一般式(A)で表される化合物Aである。この化合物Aについては、上記「A.化合物」の項に記載の内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0182】
本発明の化合物Aの種類としては、ラジカル重合開始剤中に1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。本発明のラジカル重合開始剤は、例えば、2種類以上5種類以下の化合物Aを含むことができる。例えば、本発明のラジカル重合開始剤は、本発明の化合物Aとして、酸性基の塩を含む基を有する化合物Aと、塩基性基の塩を含む基を有する化合物Aと、の2種類を含むものとすることができる。また、本発明のラジカル重合開始剤は、酸性基の塩を含む基を1つ含む化合物Aと、酸性基の塩を含む基を2つ含む化合物Aと、の2種類を含むものとすることができる。
【0183】
本発明の化合物Aの含有量としては、ラジカル重合開始剤の種類等に応じて適宜設定されるものである。含有量としては、ラジカル重合開始剤の固形分100質量部中に、100質量部、すなわち、本発明のラジカル重合開始剤は、本発明の化合物Aのみからなるものでもよい。また、本発明の化合物Aの含有量は、ラジカル重合開始剤の固形分100質量部中に、100質量部未満、すなわち、ラジカル重合開始剤が本発明の化合物A及びその他の成分を含む組成物であってもよく、例えば、10質量部より多く99質量部以下とすることができ、50質量部以上95質量部以下であることが好ましい。なお、固形分とは、溶剤以外のすべての成分を含むものである。本発明のラジカル重合開始剤は、感度及び水への溶解性により優れたものとなるからである。
【0184】
2.その他のラジカル重合開始剤
本発明のラジカル重合開始剤は、本発明の化合物Aを含むものであるが、必要に応じて、本発明の化合物A以外のラジカル重合開始剤化合物(以下、「他の開始剤化合物」とも称す)を含むことができる。本発明の化合物Aに他の開始剤化合物を組み合わせることで、長波長領域の光を効果的に吸収可能となり、本発明のラジカル重合開始剤は、感度により優れたものとなるからである。
【0185】
本発明のラジカル重合化合物においては、上記他の開始剤化合物が、水への溶解性を有するものであることが好ましく、中でも、水100質量部に対する水への溶解度が、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることが好ましく、特に、2質量部以上であることが好まし、中でも特に、10質量部以上であることが好ましく、なかでも、30質量部以上であることが好ましく、特に、50質量部以上であることが好ましい。本発明の化合物Aの水への溶解性に優れるとの効果をより効果的に発揮できるからである。また、水性組成物に有用なものとなるからである。溶解度の上限については、大きいほど好ましく、特に限定されるものでもないが、例えば、1000質量部以下とすることができ、300質量部以下であることが好ましい。
【0186】
このような他の開始剤化合物としては、本発明の化合物A以外の化合物であればよく、公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。他の開始剤化合物としては、例えば、特開2016-176009号公報に記載されるラジカル重合開始剤等を挙げることができる。
【0187】
上記他の開始剤化合物の市販品としては、N-1414、N-1717、N-1919、PZ-408、NCI-831、NCI-930、SP-246((株)ADEKA社製)、IRGACURE184、IRGACURE2959、IRGACURE1173、IRGACURE369、IRGACURE907、IRGACURE651、IRGACURE379EG、IRGACURE819、IRGACURE754、IRGACURE TPO、IRGACURE OXE 01、IRGACURE OXE 02、IRGACURE OXE 03、IRGACURE OXE 04、IRGACURE127、IRGACURE MBF、IRGACURE500、(BASF(株)社製)、TR-PBG-304、TR-PBG-305、TR-PBG-309、TR-PBG-311、TR-PBG-314、TR-PBG-315、TR-PBG-327、TR-HABI 101、TR-HABI 102、TR-HABI 103、TR-HABI 104、TR-HABI 105、TR-HABI 106、TR-HABI 107、TR-OBM、TR-BDK、TR-EDB、TR-EHA、TR-DMB、TR-PTSA、TR-4MBP、TR-BMS、TR-MBF、TR-EMK、TR-NPG、TR-LCV(Tronly社製)SPI-02、SPI-03(Samyang社製)等が挙げられる。
【0188】
他の開始剤化合物としては、なかでも、下記一般式(I)で表される化合物(以下、「化合物I」とも称す)であることが好ましい。化合物Iは、水への溶解性に優れ、本発明の化合物Aの水への溶解性に優れるとの効果をより効果的に発揮できるからである。また、化合物Iは、本発明の化合物Aと共に用いられることで、長波長領域の光をより効果的に吸収可能となり、感度により優れたものとなるからである。
【0189】
【0190】
ここで、一般式(I)中、Xは炭素原子数6~15のアリール基を表し、Xは炭素原子数1~8の直鎖のアルキル基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルキル基、炭素原子数1~8の直鎖のアルコキシ基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルコキシ基、または炭素原子数6~15のアリール基を表し、Am+はm価のカチオン成分を表し、mは、1~3の整数を表す。
【0191】
上記一般式(I)中のXに用いられる炭素原子数6~15のアリール基中の水素原子は、無置換であってもよいが、上記水素原子が炭素原子数1~8の直鎖のアルキル基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルキル基、炭素原子数1~8の直鎖のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~8の分岐を有するハロゲン化アルキル基、炭素原子数1~8の直鎖のアルコキシ基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルコキシ基、炭素原子数1~8の直鎖のハロゲン化アルコキシ基、炭素原子数3~8の分岐を有するハロゲン化アルコキシ基で置換されていてもよい。
【0192】
また、一般式(I)中のXは、炭素原子数1~8の直鎖のアルキル基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルキル基、炭素原子数1~8の直鎖のアルコキシ基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルコキシ基、または炭素原子数6~15のアリール基を表すものである。
【0193】
に用いられる炭素原子数6~15のアリール基中の水素原子は、無置換であってもよいが、炭素原子数1~8の直鎖のアルキル基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルキル基、炭素原子数1~8の直鎖のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~8の分岐を有するハロゲン化アルキル基、炭素原子数1~8の直鎖のアルコキシ基、炭素原子数3~8の分岐を有するアルコキシ基、炭素原子数1~8の直鎖のハロゲン化アルコキシ基、炭素原子数3~8の分岐を有するハロゲン化アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、エポキシ基、ビニル基、ビニルエーテル基、メルカプト基、イソシアネート基または複素環含有基で置換されていてもよい。Xで表される基中のメチレン基は、酸素原子または硫黄原子で置換されていてもよい。
【0194】
上記X及びXに用いられる炭素原子数6~15のアリール基としては、例えば、フェニル、トリメチルフェニル、トリル、キシリル、ナフチルおよびアンスリル基等が挙げられる。
【0195】
上記X及びX並びにこれらの水素原子を置換する置換基として用いられる炭素原子数1~8の直鎖のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、アミル、ヘキシル、ヘプチルおよびオクチル等が挙げられる。
【0196】
上記X及びX並びにこれらの水素原子を置換する置換基として用いられる炭素原子数3~8の分岐を有するアルキル基としては、例えば、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、イソアミル、t-アミル、イソオクチル、2-エチルヘキシルおよびt-オクチル等が挙げられる。
【0197】
上記X及びX並びにこれらの水素原子を置換する置換基として用いられる炭素原子数1~8の直鎖のハロゲン化アルキル基としては、上記炭素原子数1~8の直鎖のアルキル基の水素原子が、ハロゲン原子で一つ以上置換されたものを表す。
【0198】
上記X及びX並びにこれらの水素原子を置換する置換基として用いられる炭素原子数3~8の分岐を有するハロゲン化アルキル基としては、上記炭素原子数3~8の直鎖のアルキル基の水素原子が、ハロゲン原子で一つ以上置換されたものを表す。
【0199】
上記X及びX並びにこれらの水素原子を置換する置換基として用いられる炭素原子数1~8の直鎖のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシおよびn-オクチルオキシ等が挙げられる。
【0200】
上記X及びX並びにこれらの水素原子を置換する置換基として用いられる炭素原子数3~8の分岐を有するアルコキシ基としては、例えば、イソプロポキシ、イソブトキシ、シクロブトキシ、t-ブトキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシおよびイソオクチルオキシ等が挙げられる。
【0201】
上記X及びX並びにこれらの水素原子を置換する置換基として用いられる炭素原子数1~8の直鎖のハロゲン化アルコキシ基としては、上記炭素原子数1~8の直鎖のアルコキシ基の水素原子が、ハロゲン原子で一つ以上置換されたものを表す。
【0202】
上記X及びX並びにこれらの水素原子を置換する置換基として用いられる炭素原子数3~8の分岐を有するハロゲン化アルコキシ基としては、上記炭素原子数3~8の直鎖のアルコキシ基の水素原子が、ハロゲン原子で一つ以上置換されたものを表す。
【0203】
上記X及びXに用いられるハロゲン化アルキル基及びハロゲン化アルコキシ基に用いられるハロゲン原子、及び、X及びXで表される基中の水素原子を置換する置換基として用いられるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0204】
本発明に係る化合物Iにおいては、Xが、フェニル、トリル、キシリル、2,4,6-トリメチルフェニルおよびナフチルであることが好ましい。Xが、上述の基であることで、上記化合物Iは、安定性、吸収波長および水への溶解性に優れたものとなるからである。なかでも本発明に係る化合物Iにおいては、Xが、2,4,6-トリメチルフェニル基であることが好ましい。本発明に係る化合物Iは、感度により優れたものとなるからである。
【0205】
本発明に係る化合物Iにおいては、上記Xが、炭素原子数6~15のアリール基であることが好ましく、なかでも、フェニル、トリル、キシリル、2,4,6-トリメチルフェニルおよびナフチルであることが好ましい。上記Xが上述の基であることで、本発明に係る化合物Iは、安定性、吸収波長および水への溶解性に優れたものとなるからである。なかでも本発明においては、上記Xが、フェニル基であることが好ましい。本発明に係る化合物Iは、感度により優れたものとなるからである。
【0206】
mは、1~3の数を表すが、水への溶解性の観点から、1~2の整数であることが好ましく、1の整数であることが好ましい。
【0207】
上記Am+はm価のカチオン成分であり、アシルホスフィン酸と対イオンを形成可能なものである。このようなカチオン成分としては、本発明に係る化合物Iに所望の水溶解性を付与できるものであればよく、例えば、上記「A.化合物」の「1.塩形成基を含む基」の「(1)塩形成基B」の「(1-1)酸性基の塩」の項に記載のカチオン成分と同様の内容とすることができる。
【0208】
上記カチオン成分は、本発明の化合物Aが塩形成基Bとして酸性基の塩を含む場合、本発明の化合物A中の酸性基の塩を構成するカチオン成分と同一カチオンであることが好ましい。上記カチオン成分であることで、本発明のラジカル重合開始剤は、例えば、溶剤、樹脂等と混合した際に、凝集又は沈殿の少ない分散安定性に優れたものとなるからである。
【0209】
本発明のラジカル重合開始剤においては、なかでも、カチオン成分が、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンまたはアミン系カチオンであることが好ましく、特に、アルカリ金属イオン又は上記一般式(C3)で表される3級アンモニウムカチオン(カチオンC3)であることが好ましく、特に、アルカリ金属イオン又はカチオンC3であることが好ましく、なかでも特に、カチオンC3であることが好ましい。上記カチオン成分がカチオンC3であることで、本発明に係る化合物Iは、感度及び水への溶解性により優れたものとなるからである。また、本発明の化合物Aとの組み合わせにより、本発明のラジカル重合開始剤は、感度により優れたものとなるからである。
【0210】
上記他の開始剤化合物の含有量としては、本発明のラジカル重合開始剤の用途等に応じて適宜設定することができるが、例えば、本発明の化合物A100質量部に対して、1質量部以上1000質量部以下の範囲とすることができ、100質量部以上800質量部以下であることが好ましく、なかでも、200質量部以上600質量部以下であることが好ましい。
【0211】
3.ラジカル重合開始剤
本発明のラジカル重合開始剤は、本発明の化合物A及び上述の他の開始剤化合物以外のその他の成分を含むものであってもよい。このようなその他の成分としては、例えば、後述する「C.組成物」の「2.ラジカル重合性化合物」、「4.溶剤」、「5.樹脂成分」及び「6.その他の成分」の項に記載の内容を挙げることができる。その他の成分は、なかでも、上記「5.樹脂成分」の項に記載の非感光性樹脂を含むことが好ましい。本発明のラジカル重合開始剤の成形性、保存安定性に優れたものとなるからである。
【0212】
本発明のラジカル重合開始剤は、溶剤の含有量が少ないことが好ましく、例えば、ラジカル重合開始剤100質量部中、10質量部以下であることが好ましく、なかでも、5質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることが好ましい。本発明のラジカル重合開始剤を添加する組成物の硬化処理が容易となるからである。
【0213】
本発明のラジカル重合開始剤の製造方法としては、上記各成分を所望の含有量となるように混合できる方法であればよく、公知の混合方法を用いることができる。本発明のラジカル重合開始剤の用途としては、例えば、光照射等により硬化する硬化性組成物等に用いることができる。なお、硬化性組成物の具体的な用途としては、上記「A.化合物」の項に記載の内容と同様とすることができる。
【0214】
C.組成物
次に、本発明の組成物について説明する。
本発明の組成物は、上記一般式(A)で表される化合物Aと、ラジカル重合性化合物と、を含むものである。
【0215】
本発明の組成物によれば、本発明の化合物Aを用いることで、感度に優れ、有機溶剤の含有量が少ない組成物を得ることが容易だからである。以下、本発明の組成物の各成分について詳細に説明する。
【0216】
1.化合物A
本発明の化合物Aの300nm以上600nm以下の範囲の最大吸収波長としては、露光光を吸収して、ラジカルを発生可能なものであればよいが、380nm以上であることが好ましい。このような本発明の化合物Aの最大吸収波長のより好ましい範囲については、上記「A.化合物A」の項に記載の内容と同様とすることができるため、ここでの説明は省略する。
【0217】
本発明の化合物Aの含有量としては、組成物に対して所望の硬化性等を付与できるものであれば特に限定されるものではない。含有量としては、例えば、組成物の固形分100質量部に対して、0.05質量部以上10質量部以下とすることができ、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。なお、固形分とは、溶剤以外のすべての成分を含むものである。
【0218】
本発明の組成物に含まれる本発明の化合物Aの種類は、1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよく、例えば、2種類以上5種類以下とすることができる。なお、本発明の化合物Aについては、「B.ラジカル重合開始剤」の項に記載の内容と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0219】
2.ラジカル重合性化合物
本発明の組成物に係るラジカル重合性化合物は、ラジカル重合性基を有し、ラジカルにより重合可能な化合物である。ラジカル重合性基としては、例えば、(メタ)アクリル基、メタクリル基、ビニル基等のエチレン性不飽和二重結合等を挙げることができる。なお、(メタ)アクリルは、アクリル及びメタクリルを含む意味で用いるものである。また、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートを含む意味で用いるものである。
【0220】
本発明の組成物に係るラジカル重合性化合物は、酸価を有する化合物であってもよく、酸価を有しない化合物であってもよい。酸価を有する化合物としては、例えば、カルボキシル基を有する化合物等を挙げることができる。本発明の組成物に係るラジカル重合性化合物が酸価を有する化合物を含むことにより、組成物は、溶剤として水を含む場合に、分散安定性に優れたものとなる。
【0221】
また、光照射部位のアルカリ現像液への溶解性が低下する。このため、本発明の組成物は、例えば、アルカリ現像液等の溶媒への溶解性が光照射前後で変化する感光性組成物として用いることができる。より具体的には、本発明の組成物は、酸価を有する化合物を含むことで、ネガ型組成物として用いることができる。
【0222】
アルカリ現像液としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液や、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ現像液として一般的に使用されているものを用いることができる。
【0223】
上記酸価を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基等を有する(メタ)アクリレート化合物を挙げることができる。
【0224】
上記酸価を有しない化合物としては、エポキシアクリレート樹脂、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル等のカルボキシル基等を有しない(メタ)アクリレート化合物を挙げることができる。
【0225】
本発明の組成物においては、ラジカル重合性化合物は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。例えば、ラジカル重合性化合物として、エチレン性不飽和二重結合基を有し、酸価を有する化合物及びエチレン性不飽和二重結合基を有し、酸価を有しない化合物を組み合わせて使用することができる。本発明の組成物においては、ラジカル重合性化合物は、2種以上を混合して使用する場合には、それらを予め共重合して共重合体として使用してもよい。このようなラジカル重合性化合物等としては、より具体的には、特開2016-176009号公報に記載されるラジカル重合性化合物等を挙げることができる。
【0226】
本発明の組成物においては、ラジカル重合性化合物の含有量は、所望の強度の硬化物を得られるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、組成物の固形分100質量部に対して10質量部以上99質量部以下とすることができる。含有量が上述の範囲であることで、本発明の組成物は、例えば、本発明の化合物Aを安定的に保持可能だからである。
【0227】
3.その他のラジカル重合開始剤
本発明の組成物は、化合物Aを含むものであるが、必要に応じて、化合物A以外のラジカル重合開始剤化合物(他の開始剤化合物)を含むことができる。他の開始剤化合物の含有量及び種類等については、上記「B.ラジカル重合開始剤」の「2.その他のラジカル重合開始剤」の項に記載の内容と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0228】
4.溶剤
本発明の組成物は、本発明の化合物A及びラジカル重合性化合物を含むものであるが、必要に応じて溶剤を含むことができる。溶剤は、本発明の化合物Aおよびラジカル重合性化合物等の各成分を分散又は溶解可能なものである。したがって、常温(25℃)大気圧下で液状であっても、本発明の化合物A、ラジカル重合性化合物は溶剤には含まれない。上記溶剤としては、水、有機溶剤の何れも用いることができる。溶剤としては、環境負荷低減、人体への影響低減、有機材料上に塗布する場合、有機材料の溶解抑制等の観点からは、水を含むものであることが好ましい。
【0229】
本発明の組成物においては、水の含有量としては、溶剤100質量部中に、50質量部以上であることが好ましく、なかでも80質量部以上であることが好ましく、特に、90質量部以上であることが好ましく、中でも特に、100質量部であること、すなわち、溶剤として水のみを含むことが好ましい。水の含有量が上述の範囲であることで、本発明の組成物は、環境負荷低減、人体への影響低減、有機材料上に塗布する場合、有機材料の溶解抑制等により優れたものとなるからである。
【0230】
本発明の組成物において、溶剤に用いることができる有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、ジエチルケトン、アセトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよび2-ヘプタノン等のケトン類;エチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンおよびジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸シクロヘキシル、乳酸エチル、コハク酸ジメチルおよびテキサノール等のエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテルおよびエチレングリコールモノエチルエーテル等のセロソルブ系溶剤;メタノール、エタノール、イソ-またはn-プロパノール、イソ-またはn-ブタノールおよびアミルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルアセテート、エチレングリコールモノエチルアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート(PGMEA)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテートおよびエトキシエチルプロピオネート等のエーテルエステル系溶剤;ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族系溶剤;ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤;テレピン油、D-リモネンおよびピネン等のテルペン系炭化水素油;ミネラルスピリット、スワゾール#310(以上、コスモ松山石油製);およびソルベッソ#100(以上、エクソン化学製);等のパラフィン系溶剤;四塩化炭素、クロロホルム、トリクロロエチレン、塩化メチレンおよび1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素系溶剤;クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤;カルビトール系溶剤、アニリン、トリエチルアミン、ピリジン、酢酸、アセトニトリル、二硫化炭素、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。有機溶剤は、水との相溶性が良好であるとの観点から、アルコール系溶剤であることが好ましい。
【0231】
本発明の組成物においては、溶剤の含有量は、本発明の組成物の用途等に応じて適宜設定することができるが、例えば、本発明の組成物100質量部中に10質量部以上とすることができ、50質量部以上95質量部以下であることが好ましい。塗膜の厚みの調整が容易だからである。
【0232】
5.樹脂成分
本発明の組成物は、ラジカル重合性化合物以外の樹脂成分を含むものであってもよい。樹脂成分としては、カチオン重合性化合物、アニオン重合性化合物等の重合性基を有する重合性化合物、重合性基を有しない重合体等を挙げることができる。
【0233】
樹脂成分の含有量は、その使用目的に応じて適宜選択され特に制限されないが、例えば、組成物の固形分100質量部に対して10質量部以上90質量部以下とすることができる。また、樹脂成分及びラジカル重合性化合物の合計の含有量は、その使用目的に応じて適宜選択され特に制限されないが、例えば、組成物の固形分100質量部に対して合計で10質量部以上99質量部以下とすることができる。
【0234】
(1)カチオン重合性化合物
本発明の組成物においては、カチオン重合性化合物としては、カチオン重合可能な重合性基を1以上有するものとすることができ、上記重合性基を1つ有する単官能化合物、上記重合性基を2以上有する多官能化合物を用いることができる。
【0235】
カチオン重合性化合物としては、例えば、エポキシ基を有するエポキシ化合物及びオキセタン基を有するオキセタン化合物等の環状エーテル基を有する化合物、並びにビニルエーテル基を有するビニルエーテル化合物等を挙げることができる。このようなカチオン重合性化合物等としては、より具体的には、特開2016-176009号公報に記載されるカチオン重合性化合物等を挙げることができる。カチオン重合性化合物は、2種以上を混合して使用する場合には、それらを予め共重合して共重合体として使用してもよい。カチオン重合性化合物は、光カチオン開始剤、熱カチオン開始剤等のカチオン開始剤と共に用いることができる。
【0236】
(2)アニオン重合性化合物
本発明の組成物においては、アニオン重合性化合物としては、アニオン重合可能な重合性基を1以上有するものとすることができ、上記重合性基を1つ有する単官能化合物、上記重合性基を2以上有する多官能化合物を用いることができる。アニオン重合性化合物としては、例えば、エポキシ基を有するエポキシ化合物、ラクトン基を有するラクトン化合物、(メタ)アクリル基を有する化合物等を挙げることができる。
【0237】
ラクトン化合物としては、β-プロピオラクトン、ε-カプロラクトン等を挙げることができる。なお、エポキシ化合物については、上記カチオン重合性化合物として例示したエポキシ化合物を用いることができる。また、(メタ)アクリル基を有する化合物としては、上記ラジカル重合性化合物として例示したものを用いることができる。アニオン重合性化合物は、2種以上を混合して使用する場合には、それらを予め共重合して共重合体として使用してもよい。
【0238】
(3)感光基を有する化合物
本発明の組成物においては、重合性化合物としては、光二量化可能な不飽和結合を有する感光基を有する化合物(以下、「感光基含有化合物」とも称す)も用いることができる。このような感光基及びそれを含む感光基含有化合物としては、特開2016-193985号公報に記載の内容と同様とすることができる。
【0239】
感光基としては、より具体的には、スチルバゾリウム基、シンナモイル基等を挙げることができる。
【0240】
感光基含有化合物は、例えば、水酸基を有する化合物であることが好ましい。上記感光基を有する化合物は、水への溶解性に優れたものとなるからである。
【0241】
(4)重合性基を有しない重合体
上記重合体は、重合性基を有しないものである。このような重合体としては、繰り返し構造を含むものであればよく、感光性を有する感光性樹脂、感光性を有しない非感光性樹脂等を挙げることができる。
【0242】
(4-1)感光性樹脂
上記感光性樹脂は、感光性を有するものであり、例えば、酸発生剤と共に用いられ、酸の作用でエステル基またはアセタール基等の化学結合の切断等、現像液に対する溶解性が増加する方向に変化するポジ型樹脂を挙げることができる。このようなポジ型樹脂としては、例えば、特開2016-89085号公報に記載のレジストベース樹脂または化合物等を用いることができる。
【0243】
(4-2)非感光性樹脂
上記非感光性樹脂としては、感光性を有しないものであればよく、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルホン、ポリビニルブチラール、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ノルボルネン系樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、イソブチレン無水マレイン酸共重合樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリニビルピロリドン等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0244】
ポリビニルアルコールとしては、一般的にポバールと呼ばれるビニルアルコールを重合させたポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、または酢酸ビニルと共重合性を有する単量体との共重合体のけん化物等を用いることができる。また、これらのポリビニルアルコールが各種官能基で変性された変性ポリビニルアルコールも用いることができる。変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開2009-113347号公報に記載のアセト酢酸エステル基を有するポリビニルアルコール系等を用いることができる。非感光性樹脂としては、重合性化合物の重合物も用いることができる。すなわち、本発明の組成物は、重合性化合物を含む組成物の硬化物であってもよい。
【0245】
(4-3)重合体
これら重合体の重量平均分子量(Mw)は、本発明の組成物の用途等に応じて適宜設定されるものであるが、例えば、1500以上とすることができ、1500以上300000以下とすることができる。なお、上記重量平均分子量Mwは、例えば、東ソー(株)製のHLC-8120GPCを用い、溶出溶剤を0.01モル/リットルの臭化リチウムを添加したN-メチルピロリドンとし、校正曲線用ポリスチレンスタンダードをMw377400、210500、96000、50400、20650、10850、5460、2930、1300、580(以上、Polymer Laboratories社製 Easi PS-2シリーズ)及びMw1090000(東ソー(株)製)とし、測定カラムをTSK-GEL ALPHA-M×2本(東ソー(株)製)として測定して得ることができる。また、測定温度は40℃とすることができ、流速は1.0mL/分とすることができる。
【0246】
6.その他の成分
本発明の組成物は、本発明の化合物A、ラジカル重合性化合物、他の重合開始剤、溶剤及び樹脂成分以外にも、必要に応じてその他の成分を含むことができる。その他の成分としては、カチオン重合性化合物と共に添加し得る、又は感光性化合物と共に酸発生剤として添加し得るカチオン重合開始剤、アニオン重合性化合物と共に添加し得るアニオン重合開始剤等の重合開始剤等を挙げることができる。
【0247】
このようなカチオン重合開始剤等としては、より具体的には、特開2016-176009号公報に記載されるカチオン開始剤等を用いることができる。また、上記アニオン重合開始剤等としては、より具体的には、特開2017-073389号公報に記載される光アニオン重合開始剤、熱アニオン重合開始剤等を挙げることができる。
【0248】
その他の成分としては、重合開始剤以外にも、着色剤、無機化合物、着色剤及び無機化合物等を分散させる分散剤、連鎖移動剤、増感剤、界面活性剤、シランカップリング剤、メラミン等の添加剤を挙げることができる。
【0249】
添加剤については、公知の材料を用いることができ、例えば、国際公開第2014/021023号公報に記載のものを用いることができる。
【0250】
本発明の組成物は、必要に応じて、上記化合物以外に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化リチウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸カリウム等の塩成分を含むものであってもよい。その他の成分の含有量は、その使用目的に応じて適宜選択され特に制限されないが、例えば、組成物の固形分100質量部に対して合計で50質量部以下とすることができる。
【0251】
7.組成物
本発明の組成物の製造方法としては、上記各成分を所望の含有量となるように混合できる方法であればよく、公知の混合方法を用いることができる。本発明の組成物の用途としては、例えば、光照射により硬化する光硬化性組成物として用いることができる。なお、具体的な用途としては、上記「A.化合物」の項に記載の内容と同様とすることができる。
【0252】
D.硬化物
次に、本発明の硬化物について説明する。
本発明の硬化物は、本発明の組成物の硬化物である。以下、本発明の硬化物について詳細に説明する。なお、本発明の組成物については、上記「C.組成物」の項に記載の内容と同様とすることができる。
【0253】
本発明の硬化物は、本発明の硬化物からなるものであり、ラジカル重合性化合物の重合物を少なくとも含むものである。ラジカル重合性化合物の重合物の含有量は、上記「C.組成物」の項に記載のラジカル重合性化合物の含有量と同様とすることができる。
【0254】
本発明の硬化物としては、溶剤を実質的に含まないものとすることができる。本発明の硬化物に含まれる溶剤の含有量としては、例えば、硬化物100質量部に対して、1質量部以下とすることができ、0.5質量部以下であることが好ましい。溶剤の含有量が上述の範囲であることで、本発明の硬化物は、経時安定性に優れるからである。
【0255】
本発明の硬化物の平面視形状、厚み等については、本発明の硬化物の用途等に応じて適宜設定することができる。
【0256】
本発明の硬化物の製造方法としては、本発明の組成物の硬化物を所望の形状となるように形成できる方法であれば特に限定されるものではない。このような製造方法としては、例えば、後述する「E.硬化物の製造方法」の項に記載の内容と同様とすることができるため、ここでの説明は省略する。
【0257】
本発明の硬化物の用途等については、上記「A.化合物」の項に記載の内容と同様とすることができる。
【0258】
E.硬化物の製造方法
次に、本発明の硬化物の製造方法について説明する。
本発明の硬化物の製造方法は、本発明の組成物に光照射する工程を有するものである。以下、本発明の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0259】
1.光照射する工程
本工程は、本発明の組成物に対して光照射する工程である。本工程において、本発明の組成物に対して照射される光としては、本発明の化合物Aがラジカルを生成可能なものであればよい。光の波長としては、内部にまで充分に光を進入させるために波長ピーク300nm以上500nm以下のものが好ましく、なかでも、350nm以上500nm以下であることが好ましく、特に、380nm以上480nm以下であることが好ましく、なかでも特に、400nm以上470nm以下であることが好ましい。
【0260】
照射される光の照射量としては、所望の硬度の硬化物を形成可能なものであればよく、本発明の組成物の塗膜の厚み等に応じて適宜調整されるものである。光強度としては、例えば、10mW/cm以上300mW/cm以下が好ましく、より好ましくは25mW/cm以上100mW/cm以下であり、照射時間は5秒~500秒が好ましく、より好ましくは10秒~300秒とすることができる。
【0261】
光照射の光源としては、例えば、超高圧水銀、水銀蒸気アーク、カーボンアーク、キセノンアーク、LED光源等を挙げることができる。
【0262】
照射される光としては、レーザー光を用いてもよい。レーザー光としては、波長340nm~430nmの光を含むものを用いることができる。レーザー光の光源としては、アルゴンイオンレーザー、ヘリウムネオンレーザー、YAGレーザー、及び半導体レーザー等の可視から赤外領域の光を発するものも用いることができる。なお、これらのレーザーを使用する場合には、本発明の組成物は、可視から赤外の当該領域を吸収する増感色素を含むことができる。
【0263】
本発明の硬化物の製造方法においては、光照射の方法は、平面視上、本発明の組成物の塗膜の全面に対して光照射する方法であってもよく、上記塗膜の一部に対して光照射する方法であってもよい。光照射の対象が塗膜の一部である場合、光照射の方法は、例えば、マスク等を介して光照射する方法、組成物の硬化する部位のみに光照射する方法等を用いることができる。
【0264】
なお、本発明の組成物については、上記「C.組成物」の項に記載の内容と同様とすることができる。本発明の組成物は、硬化物の形成のため、通常、重合性化合物を含むものである。
【0265】
2.その他の工程
本発明の硬化物の製造方法は、光照射する工程を含むものであるが、必要に応じてその他の工程を含むものであってもよい。その他の工程としては、例えば、光照射する工程前に実施される本発明の組成物の塗膜を形成する工程、光照射する工程後に実施される現像する工程、得られた塗膜を形成する工程後に実施される溶剤を除去する工程、光照射する工程後に実施される加熱する工程(ポストベーク工程)等を挙げることができる。また、本発明の組成物が熱ラジカル重合開始剤、熱カチオン重合開始剤、熱アニオン重合開始剤等の熱重合開始剤を含む場合、光照射する工程前後に、本発明の組成物を加熱して硬化させる工程を含むものであってもよい。
【0266】
塗膜を形成する工程としては、所望の厚みの組成物の塗膜を得ることができる方法であればよく、例えば、スピンコーター、ロールコーター、バーコーター、ダイコーター、カーテンコーター、各種の印刷、浸漬等の公知の方法を用いることができる。
【0267】
本発明の組成物の塗膜が形成される基材としては、硬化物の用途等に応じて適宜設定することができ、例えば、ソーダガラス、石英ガラス、半導体基板、金属、紙、プラスチック等を含むものを挙げることができる。なお、上記硬化物は、基材上で形成された後、基材から剥離して用いても、基材から他の基材に転写して用いてもよい。
【0268】
現像する工程における現像方法としては、未硬化の組成物を除去できる方法であればよく、例えば、アルカリ現像液を用いて除去する方法等の公知の現像方法を用いることができる。
【0269】
溶剤を除去する工程における溶剤の除去方法としては、硬化物に含まれる溶剤の含有量を所望量とすることができる方法であればよく、例えば、加熱する方法、すなわち、除去する工程としてプリベーク工程を実施する方法等を挙げることができる。
【0270】
光照射する工程後に実施される、加熱する工程(ポストベーク工程)における加熱温度としては、上記硬化物の機械的強度を向上できる温度であればよく、硬化物の種類、用途等に応じて適宜設定することができる。
【0271】
3.その他
本発明の硬化物の製造方法により製造される硬化物及び用途等については、上記「D.硬化物」の項に記載の内容と同様とすることができる。
【0272】
本発明のラジカル重合開始剤、これを含有する組成物、その硬化物、その製造方法、および化合物は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例
【0273】
I.化合物の評価
[実施例1-1]
9-オキソ-チオキサンテン-4-カルボン酸10.0gを塩化メチレン100mLに分散した。室温でN-ブチルジエタノールアミンを7.0g滴下した。30分撹拌することにより、均一の溶液になった。ロータリーエバポレーターにより濃縮し、ジエチルエーテル100mLで洗浄をすることにより、15.5gの下記式(61)で表される化合物を得た。得られた化合物のNMR及びIR結果を下記表1及び表2に示す。
【0274】
[実施例1-2]
9-オキソ-チオキサンテン-4-カルボン酸10.0gを塩化メチレン100mLに分散した。室温でエタノール42mLにKOH2.4gを溶解させた溶液を滴下した。30分撹拌することにより、均一の溶液になった。ロータリーエバポレーターにより濃縮し、ジエチルエーテル100mLで洗浄をすることにより、11.1gの下記式(1)で表される化合物を得た。得られた化合物のNMR及びIR結果を下記表1及び表2に示す。
【0275】
【0276】
[比較例1-1]
ラジカル重合開始剤として、下記式(101)で表される化合物(BASF社製IRGACURE2959、以下、「化合物101」とも称す)を準備した。
【0277】
[比較例1-2]
ラジカル重合開始剤として、下記式(102)で表される化合物(BASF社製IRGACURE184、以下、「化合物102」とも称す)を準備した。
【0278】
[比較例1-3]
ラジカル重合開始剤として、下記式(103)で表される化合物(ベンゾフェノン、以下、「化合物103」とも称す)を準備した。
【0279】
[比較例1-4]
ラジカル重合開始剤として、下記式(104)で表される化合物(カンファーキノン、以下、「化合物104」とも称す)を準備した。
【0280】
[比較例1-5]
反応フラスコにフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸5.0g(17.3mmol)、ジクロロメタン50mlを入れ、室温で攪拌しながら、完全に溶解させた。N-ブチルジエタノールアミン2.8g(17.3mmol)を加え、そのまま室温で5時間攪拌を継続した。反応溶液を脱溶媒し、10℃以下迄冷却して固化した残渣をヘキサンで洗浄し、減圧乾燥後、淡黄色の結晶として収量7.5g(収率97.4%)で、下記式(105)で表されるアシルホスフィン酸塩(以下、「化合物105」とも称す)を得た。なお、このアシルホスフィン酸塩は、上記化合物Iに該当する化合物であり、ラジカル重合開始剤として機能する化合物である。
【0281】
[比較例1-6]
ラジカル重合開始剤として、下記式(106)で表される化合物(チオキサントンカルボン酸、以下、「化合物106」とも称す)を準備した。
【0282】
【0283】
【表1】
【0284】
【表2】
【0285】
[評価]
実施例及び比較例で得た化合物について、下記の評価を行った。
【0286】
1.水への溶解性
温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境下で、100gの脱イオン水をスターラーで撹拌しながら、実施例及び比較例で得た化合物を0.1g毎に徐々に溶解していき、溶けなくなった(浮遊や沈殿、析出、白濁が見られた)時点での溶解量を測定することで、水への溶解度(質量部)を得た。結果を下記表3に示す。
【0287】
2.最大吸収波長
(1)実施例及び比較例で得た化合物を、脱イオン水に溶解し、測定用水溶液として、0.1質量%水溶液を得た。
(2)測定用水溶液を、石英セル(光路長10mm、厚み1.25mm)に充填し、分光光度計(例えば、日本分光製可視紫外吸光度計V-670等)を用いて吸収スペクトルを測定した。
(3)得られた吸収スペクトルから、300nm以上600nm以下の範囲の最大吸収波長を得た。結果を下記表3に示す。なお、下記比較例1-2~4及び比較例1-6は、水への溶解性が低かったため、溶媒としてアセトニトリルに溶解した測定用溶液を用いて測定した。また、吸収スペクトルは、予め溶媒単体での吸収スペクトルを測定し、測定用溶液の吸収スペクトルから溶媒の吸収スペクトルを差し引いて補正したものを用いた。
【0288】
【表3】
【0289】
II.組成物の評価
[製造例1:感光基及び水酸基を有している水溶性重合体水溶液No.1]
1000部のイオン交換水を入れた反応フラスコに水酸基含有ポリマーとしてニチゴーG-Polymer OKS-1083(鹸化度99;日本合成化学工業製)138部をゆっくり投入し、1時間攪拌した後、90℃まで加温して完全に溶解させた。40℃まで冷却し、水酸基の2mol%分の感光基付与剤としてホルミルスチリルピリジニウムとリン酸0.7部を投入し、40℃で2時間攪拌を継続した。溶液を室温まで冷却後、固形分が15質量%となるよう、イオン交換水を追加し、室温で更に1時間攪拌を行ない、5μmフィルターでろ過した後、イオン交換水を加えて固形分を10質量%に調整し、感光基及び水酸基を有している水溶性重合体水溶液No.1を得た。
【0290】
[製造例2:ラジカル重合性基及び水酸基を有している水溶性重合体水溶液No.1]
1000部のイオン交換水を入れた反応フラスコに水酸基含有ポリマーとしてゴーセノールGL-05(鹸化度87;日本合成化学工業製)138部をゆっくり投入し、1時間攪拌した後、90℃まで加温して完全に溶解させた。50℃まで冷却し、感光性付与剤として水酸基の2mol%分のN-メチロールアクリルアミドとp-トルエンスルホン酸0.1部を投入し、50℃3時間攪拌を継続した。溶液を室温まで冷却後、イオン交換水を追加し、室温で更に1時間攪拌を行ない、5μmフィルターでろ過した後、イオン交換水を加えて固形分を10質量%に調整し、ラジカル重合性基及び水酸基を有している水溶性重合体水溶液No.1を得た。
【0291】
[製造例3:ポリビニルアルコール水溶性重合体水溶液No.1]
ポリビニルアルコールゴーセノールNL-05(鹸化度98;日本合成化学工業製)10.0gを、攪拌しているイオン交換水90.0gにゆっくり添加し、そのまま室温で1時間攪拌した。その後、内温を85℃から90℃に調整し、2時間攪拌を継続した。溶解を確認した後に、室温まで冷却し、1μmフィルターでろ過した後、イオン交換水を加えて固形分を10質量%に調整し、ポリビニルアルコール水溶性重合体水溶液No.1を得た。
【0292】
[製造例4:ポリビニルアルコール水溶性重合体水溶液No.2]
ゴーセネックスZ-200(鹸化度99;日本合成化学工業製)10.0gを、攪拌しているイオン交換水90.0gにゆっくり添加し、そのまま室温で1時間攪拌した。その後、内温を85℃から90℃に調整し、2時間攪拌を継続した。溶解を確認した後に、室温まで冷却し、1μmフィルターでろ過し、ポリビニルアルコール水溶性重合体水溶液No.2を得た。
【0293】
[製造例5:ポリピロリドン水溶液No.1]
ポリビニルピロリドンとしてK90(日本触媒製)10.0gを、攪拌しているイオン交換水90.0gにゆっくり添加し、そのまま室温で1時間攪拌した。その後、内温を85℃から90℃に調整し、2時間攪拌を継続した。溶解を確認した後に、室温まで冷却し、1μmフィルターでろ過し、ポリピロリドン水溶液No.1を得た。
【0294】
[実施例2-1~2-38及び比較例2-1~2-16]
下記表4~表9に記載の配合に従って、各成分を室温で1時間撹拌して、組成物を得た。なお、表中の配合の数値は質量部を表す。また、実施例2-13は、ラジカル重合性基及び水酸基を有している水溶性重合体水溶液No.1(固形分10質量%)を400質量部と、ポリビニルアルコール変性水溶性重合体水溶液No.2(固形分10質量%)を400質量部と、を含むため、これらの重合体水溶液に由来する水を720質量部含むものである。また、表中の各成分の符号は、下記の成分を表す。得られた実施例及び比較例の組成物について、下記の手順で評価を行った。
【0295】
1.相溶性(組成物への相溶性)
各組成物について1時間撹拌直後の状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
○:透明均一~微白濁
△:白濁
×:相溶しない、ゲル化または不溶物が見られる
評価が○であるものは、ラジカル重合開始剤が組成物に十分に分散又は溶解し、評価が△であるものは、ラジカル重合開始剤が分散しており、ラジカル重合開始剤は、組成物への相溶性に優れると判断できる。また、評価が×であるものは、ラジカル重合開始剤が組成物中で凝集又は沈殿しており、組成物への溶解性が低いと判断できる。
【0296】
2.硬化性(感度)
実施例及び比較例の組成物を使用し、ガラス基板上にアプリケーターで塗布し、各波長で露光(500mJ/cm)後、表面にべたつきの無い試験片は23℃のイオン交換水に30秒浸漬し、120℃で10分乾燥した後の膜厚の変化を確認した(水に浸漬せず、露光、乾燥のみの塗布膜の膜厚は10μmであった)。使用した光源は高圧水銀灯(波長365nm換算17mW/cm)ならびに各波長LED光源(365nm,385nm,395nm,405nm,420nm,450nm,470nm)の波長を用いて硬化試験を行った。
◎:水に浸漬乾燥後、膜厚変化が5%以内
〇:水に浸漬乾燥後、膜厚変化が20%未満
△:水に浸漬乾燥後、膜厚変化が20%以上だが、膜が残存した場合
×:水に浸漬乾燥後何も残存しない
なお、評価が◎~○であるものは、十分に硬化しており感度が高いと判断できる。また、◎、〇、△の順で硬化に優れ、感度が高いと判断できる。また、評価が×であるものは、十分に硬化せず、感度が低いと判断できる。
【0297】
(ラジカル重合開始剤:A、B成分
A-1:実施例1-1で得た化合物(式(61)で表される化合物)
A-2:実施例1-2で得た化合物(式(1)で表される化合物)
A-3:下記式(201)で表される化合物
B-1:比較例1-1の化合物(式(101)で表される化合物)
B-2:比較例1-2の化合物(式(102)で表される化合物)
B-3:比較例1-3の化合物(式(103)で表される化合物)
B-4:比較例1-4の化合物(式(104)で表される化合物)
B-5:比較例1-5の化合物(式(105)で表される化合物)
B-6:比較例1-6の化合物(式(106)で表される化合物)
【0298】
【0299】
(ラジカル重合性化合物:C成分)
C-1:NKエステル A-GLY-20E(アルキレンオキサイド変性アクリレート;新中村化学工業製)
C-2:NKエコノマー A-PG5054E(アルキレンオキサイド変性アクリレート;新中村化学工業製)
C-3:FAM-301(多官能アクリルアミド化合物;富士フィルム製)
C-4:アクリロイルモルフォリン
C-5:ヒドロキシエチルアクリルアミド
C-6:製造例2で得たラジカル重合性基及び水酸基を有している水溶性重合体水溶液No.1
【0300】
(重合性化合物:感光基を有する樹脂:D成分)
D-1:製造例1で得た感光基及び水酸基を有している水溶性重合体水溶液No.1
【0301】
(重合性基を有しない重合体:非感光性樹脂:E成分)
E-1:ポリビニルアルコール変性水溶性重合体水溶液No.1
E-2:ポリビニルアルコール変性水溶性重合体水溶液No.2
E-3:ポリピロリドン水溶液No.1
【0302】
(溶剤:F成分)
F-1:水
【0303】
(着色剤:G成分)
G-1:BONJET BLACK CW-1(改質カーボンブラック自己分散体、濃度20%;オリヱント化学工業社製)
G-2:MICROPIGMO WMRD-5(Pigment Red17樹脂分散体、濃度20%;オリヱント化学工業社製)
G-3:MICROPIGMO WMGN-5(Pigment Green7樹脂分散体、濃度21%;オリヱント化学工業社製)
G-4:MICROPIGMO WMBE-5(Pigment Blue15:6樹脂分散体、濃度20%;オリヱント化学工業社製)
【0304】
(添加剤:H成分)
H-1:メガファックF-444(フッ素系レベリング剤;DIC製)
H-2:オルガチックスZC-126(塩化ジルコニル水溶液:成分濃度30%、Zr含有量11%;マツモトファインケミカル製)
H-3:オルガチックスWS-700(有機チタン変性ポリエチレンイミン、成分濃度10%水溶液;マツモトファインケミカル製)
H-4:下記式(111)で表される化合物(チオキサントン)
H-5:下記式(112)で表される化合物(イソプロピルチオキサントン)
H-6:下記式(113)で表される化合物(ジエチルチオキサントン)
【0305】
【0306】
【表4】
【0307】
【表5】
【0308】
【表6】
【0309】
【表7】
【0310】
【表8】
【0311】
【表9】
【0312】
表3~表9より、実施例の化合物Aは、感度及び組成物への相溶性の両者に優れることが確認できた。例えば、化合物Aは、溶剤として水を含む組成物へも良好に溶解または分散することができることが確認できた。また、実施例2-33~2-38の結果から、実施例の化合物Aは、アクリルアミド基、水酸基等の親水性基を有するラジカル重合性化合物等との相溶性に優れる結果、無溶剤である場合でも、組成物中への優れた相溶性を発揮できることを確認できた。
【0313】
実施例の化合物A(化合物A-1及びA-2)は、最大吸収波長が380nm以上のものであるが、波長ピークが400nm以上の露光光を用いて硬化させた場合でも、十分に硬化でき、感度により優れたものとなることが確認できた。これに対して、比較例1-1~1-3及び比較例1-5等の化合物は、波長ピークが400nm以上の露光光では十分に硬化できない場合があることが確認できた。これにより、実施例の化合物Aは、組成物の深部も安定的に硬化できる深部硬化性に優れることが確認できた。また、このような深部硬化性により、例えば、インク等の着色剤を含む組成物の硬化等に有用であることが確認できた。
【0314】
実施例2-2及び2-7の比較から、実施例の化合物Aをその他のラジカル重合開始剤、特に、化合物Iに相当する化合物と併用することで、実施例の化合物Aを単独で用いた場合よりも、長波長領域の光で組成物を硬化させることができ、感度により優れたものとなることが確認できた。
【0315】
一方、実施例2-2及び実施例2-7の結果と、比較例2-5及び比較例2-14~2-16の結果と、を比較すると、単にチオキサントン骨格を有するものを、化合物Iと併用するのみでは感度向上効果が得られず、化合物A及び化合物Iの組合せにより、感度向上効果が得られることが確認できた。
【0316】
また、実施例2-1~2-30は、比較例2-4と比較すると、透明性に優れることが確認できた。このようなことから、実施例の化合物A、それを用いたラジカル重合開始剤及び組成物は、インク等に使用した場合に、色再現性に優れたものとなることが確認できた。