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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】研磨ヘッドシステムおよび研磨装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/30 20120101AFI20231026BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B24B37/30 E
B24B37/30 C
H01L21/304 622K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020036801
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021137908
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】安田 穂積
(72)【発明者】
【氏名】中野 政身
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-252192(JP,A)
【文献】特開2006-011434(JP,A)
【文献】特開2015-045369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/30
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピースを研磨面に摺接させるための研磨ヘッドシステムであって、
磁気粘弾性エラストマーシートと、
前記磁気粘弾性エラストマーシートに対向する複数の磁場印加装置と、
前記複数の磁場印加装置に電気的に接続され、電流を前記複数の磁場印加装置に独立に供給するように構成された電流供給装置を備えている、研磨ヘッドシステム。
【請求項2】
前記複数の磁場印加装置は、前記磁気粘弾性エラストマーシートの径方向および周方向に沿って分布している、請求項1に記載の研磨ヘッドシステム。
【請求項3】
前記複数の磁場印加装置は、複数の磁石と、前記複数の磁石をそれぞれ囲む複数の電磁コイルと、前記複数の磁石および前記複数の電磁コイルが収容された磁気ヨークを備えている、請求項1または2に記載の研磨ヘッドシステム。
【請求項4】
前記磁石は、アルニコ磁石、鉄クロムコバルト磁石、およびサマリウムコバルト磁石のうちのいずれか1つである、請求項3に記載の研磨ヘッドシステム。
【請求項5】
前記磁石は、保磁力が20000~70000A/mで、かつ残留磁束密度が1.0T以上の磁石である、請求項3または4に記載の研磨ヘッドシステム。
【請求項6】
前記電流供給装置は、正方向の単発パルス電流または逆方向の単発パルス電流を選択的に、前記複数の電磁コイルのうちの少なくとも1つに供給するように構成されている、請求項4または5に記載の研磨ヘッドシステム。
【請求項7】
前記複数の磁場印加装置は、前記複数の電磁コイルの端部と前記磁気粘弾性エラストマーシートとの間に配置された複数の非磁性スペーサをさらに備え、
前記複数の磁石、前記複数の非磁性スペーサ、および前記磁気ヨークは、前記磁気粘弾性エラストマーシートに接触している、請求項3乃至6のいずれか一項に記載の研磨ヘッドシステム。
【請求項8】
前記複数の磁石に加わる力を測定する複数の荷重検出器をさらに備えている、請求項3乃至7のいずれか一項に記載の研磨ヘッドシステム。
【請求項9】
キャリアと、
前記キャリアから遠ざかる方向および前記キャリアに近づく方向に前記複数の磁場印加装置および前記磁気粘弾性エラストマーシートを移動させるアクチュエータをさらに備えている、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の研磨ヘッドシステム。
【請求項10】
研磨面を有する研磨パッドを支持するためのパッド支持体と、
ワークピースを前記研磨面に摺接させるための、請求項1乃至9に記載の研磨ヘッドシステムを備えている、研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ、基板、パネルなどのワークピースを研磨パッドに摺接させて該ワークピースを研磨する研磨ヘッドシステムに関する。また、本発明は、そのような研磨ヘッドシステムを備えた研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造では、ウェーハ上に様々な種類の膜が形成される。成膜工程の後には、膜の不要な部分や表面凹凸を除去するために、ウェーハが研磨される。化学機械研磨(CMP)は、ウェーハ研磨の代表的な技術である。このCMPは、研磨面上にスラリーを供給しながら、ウェーハを研磨面に摺接させることにより行われる。ウェーハに形成された膜は、スラリーに含まれる砥粒や研磨パッドによる機械的作用と、スラリーの化学成分による化学的作用との複合により研磨される。
【0003】
図11は、CMPに使用される従来の研磨ヘッドを示す断面図である。研磨ヘッドは、キャリア400の下面に保持された弾性膜(メンブレン)201を有している。この弾性膜201は、同心状の複数の円環壁202a~202dを有している。これら円環壁202a~202dは、弾性膜201の内側の空間を複数の圧力室205A~205Dに分割する。これら圧力室205A~205Dには圧縮気体が供給される。弾性膜201は、それぞれの圧力室205A~205Dを満たす圧縮気体の圧力を受け、ウェーハWを研磨パッド300の研磨面300aに対して押し付けることができる。複数の圧力室205A~205Dは、複数の圧力レギュレータR1~R4にそれぞれ連通している。これらの圧力レギュレータR1~R4は、対応する圧力室205A~205D内の圧縮気体の圧力を独立に制御することが可能であり、これにより研磨ヘッドは、ウェーハWの異なる領域を異なる押圧力で押し付けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-047503号公報
【文献】米国特許第7074114号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウェーハWに膜を形成する工程は、めっき、化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)などの種々の成膜技術を用いて行われる。これらの成膜技術では、ウェーハWの全面に亘って膜が均一に形成されないことがある。例えば、ウェーハWの周方向に沿って膜厚のばらつきがあることもある。特に、複数の成膜装置を用いて複数のウェーハにそれぞれ膜を形成した場合には、膜厚分布がウェーハ間で異なることがある。
【0006】
図11に示す従来の研磨ヘッドは、ウェーハWの半径方向に沿った押圧力を独立に変化させることができるので、ウェーハWの半径方向の研磨プロファイルを制御することは可能である。しかしながら、圧力室205A~205Dの配置は同心状であるので、上述した研磨ヘッドは、ウェーハWの周方向に沿った押圧力を制御することができず、ウェーハWの周方向における研磨プロファイルを制御することができない。
【0007】
そこで、本発明は、ウェーハ、基板、パネルなどのワークピースの研磨プロファイルを精密に制御することができる研磨ヘッドシステムを提供する。また、本発明は、そのような研磨ヘッドシステムを備えた研磨装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、ワークピースを研磨面に摺接させるための研磨ヘッドシステムであって、磁気粘弾性エラストマーシートと、前記磁気粘弾性エラストマーシートに対向する複数の磁場印加装置と、前記複数の磁場印加装置に電気的に接続され、電流を前記複数の磁場印加装置に独立に供給するように構成された電流供給装置を備えている、研磨ヘッドシステムが提供される。
【0009】
一態様では、前記複数の磁場印加装置は、前記磁気粘弾性エラストマーシートの径方向および周方向に沿って分布している。
一態様では、前記複数の磁場印加装置は、複数の磁石と、前記複数の磁石をそれぞれ囲む複数の電磁コイルと、前記複数の磁石および前記複数の電磁コイルが収容された磁気ヨークを備えている。
一態様では、前記磁石は、アルニコ磁石、鉄クロムコバルト磁石、およびサマリウムコバルト磁石のうちのいずれか1つである。
一態様では、前記磁石は、保磁力が20000~70000A/mで、かつ残留磁束密度が1.0T以上の磁石である。
【0010】
一態様では、前記電流供給装置は、正方向の単発パルス電流または逆方向の単発パルス電流を選択的に、前記複数の電磁コイルのうちの少なくとも1つに供給するように構成されている。
一態様では、前記複数の磁場印加装置は、前記複数の電磁コイルの端部と前記磁気粘弾性エラストマーシートとの間に配置された複数の非磁性スペーサをさらに備え、前記複数の磁石、前記複数の非磁性スペーサ、および前記磁気ヨークは、前記磁気粘弾性エラストマーシートに接触している。
一態様では、前記研磨ヘッドシステムは、前記複数の磁石に加わる力を測定する複数の荷重検出器をさらに備えている。
一態様では、前記研磨ヘッドシステムは、キャリアと、前記キャリアから遠ざかる方向および前記キャリアに近づく方向に前記複数の磁場印加装置および前記磁気粘弾性エラストマーシートを移動させるアクチュエータをさらに備えている。
【0011】
一態様では、研磨面を有する研磨パッドを支持するためのパッド支持体と、ワークピースを前記研磨面に摺接させるための上記研磨ヘッドシステムを備えている、研磨装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
複数の磁場印加装置のそれぞれは、磁気粘弾性エラストマーシートのヤング率(縦弾性係数)を局所的に増加させることができる。ヤング率が増加した部位は、他の部位よりも高い圧力でワークピースを研磨面に対して摺接させることができる。複数の磁場印加装置は、従来の研磨ヘッドの圧力室に比べて、自由に配列することができ、かつ圧力室に接続される気体供給ライン、バルブ、圧力レギュレータなども不要である。特に、複数の磁場印加装置は、磁気粘弾性エラストマーシートの径方向および周方向に沿って配列することができる。したがって、研磨ヘッドシステムは、ワークピースの研磨プロファイルを精密に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】研磨装置の一実施形態を示す模式図である。
図2図1に示す研磨ヘッドを含む研磨ヘッドシステムの一実施形態を示す断面図である。
図3】研磨ヘッドシステムの他の実施形態を示す断面図である。
図4】研磨ヘッドシステムのさらに他の実施形態を示す断面図である。
図5図2乃至図4に示す磁場印加装置の底面図である。
図6図5のA-A線断面図である。
図7図6に示す磁場印加装置が発生する磁場を測定したグラフである。
図8】粘弾性可変装置の他の実施形態を示す模式図である。
図9】粘弾性可変装置のさらに他の実施形態を示す模式図である。
図10】研磨装置の他の実施形態を示す模式図である。
図11】従来の研磨ヘッドを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、研磨装置の一実施形態を示す模式図である。図1に示すように、研磨装置は、研磨パッド2を支持するパッド支持体3と、ウェーハ、基板、パネルなどのワークピースWを研磨パッド2に押し付ける研磨ヘッド1と、研磨パッド2上にスラリーなどの研磨液を供給するための研磨液供給ノズル5を備えている。
【0015】
パッド支持体3は、支持軸3aを介して支持体回転モータ6に連結されており、その支持軸3aを中心に回転可能になっている。支持体回転モータ6は、パッド支持体3の下方に配置されている。研磨パッド2はパッド支持体3の上面に貼付されており、研磨パッド2の上面はワークピースWを研磨する研磨面2aを構成している。パッド支持体回転装置としての支持体回転モータ6は、パッド支持体3および研磨パッド2を矢印で示す方向に回転させるように構成されている。研磨液供給ノズル5は研磨パッド2およびパッド支持体3の上方に配置されており、この研磨液供給ノズル5から研磨パッド2の研磨面2a上に研磨液(例えばスラリー)が供給されるようになっている。
【0016】
研磨ヘッド1は、ヘッドシャフト10の下端に連結されている。ヘッドシャフト10はヘッドアーム12を貫通して延びている。ヘッドシャフト10はアクチュエータ15に連結されており、ヘッドシャフト10および研磨ヘッド1は、アクチュエータ15によりヘッドアーム12に対して上下動するようになっている。本実施形態では、アクチュエータ15は、エアシリンダ15Aと圧力レギュレータ15Bの組み合わせから構成されている。圧力レギュレータ15Bは、エアシリンダ15Aに連通しており、エアシリンダ15A内の気体の圧力を調節するように構成されている。
【0017】
アクチュエータ15は、研磨ヘッド1およびヘッドシャフト10をヘッドアーム12に対して相対的に移動させることが可能である。アクチュエータ15によって移動される研磨ヘッド1の方向は、研磨面2aに垂直である。ヘッドシャフト10の上端にはロータリージョイント18が取り付けられている。
【0018】
アクチュエータ15を構成するエアシリンダ15Aは、支持台30に固定されている。この支持台30は、ヘッドアーム12の上面に固定されている。エアシリンダ15Aは、ヘッドシャフト10を回転可能に支持する軸受20と、軸受20を保持するブリッジ22を介して、ヘッドシャフト10に連結されている。研磨ヘッド1は、ヘッドシャフト10、軸受20、およびブリッジ22を介してエアシリンダ15Aに連結されている。
【0019】
エアシリンダ15Aは、圧力レギュレータ15Bを通って延びる圧縮気体供給ライン16に接続されている。圧縮気体供給ライン16および圧力レギュレータ15Bを通じて圧縮気体(例えば圧縮空気)がエアシリンダ15A内に供給されると、エアシリンダ15Aはヘッドシャフト10および研磨ヘッド1を下降させ、研磨ヘッド1は、その下面に接触しているワークピースWを研磨パッド2の研磨面2aに対して押し付けることができる。研磨ヘッド1がワークピースWの全体を研磨面2aに対して押し付ける力は、アクチュエータ15を構成する圧力レギュレータ15Bによって調節される。
【0020】
ヘッドシャフト10は、その軸方向に移動可能にボールスプライン軸受32に支持されている。このボールスプライン軸受32の外周部にはプーリ35が固定されている。ヘッドアーム12には、研磨ヘッド回転装置としての研磨ヘッド回転モータ37が固定されており、上記プーリ35は、研磨ヘッド回転モータ37に取り付けられたプーリ40にベルト39を介して接続されている。研磨ヘッド回転モータ37が回転すると、プーリ40、ベルト39、およびプーリ35を介してボールスプライン軸受32およびヘッドシャフト10が一体に回転し、研磨ヘッド1がヘッドシャフト10を中心に回転する。プーリ35,40、ベルト39、およびボールスプライン軸受32は、ヘッドアーム12内に配置されている。ヘッドアーム12は、フレーム(図示せず)に支持された旋回軸43によって支持されている。
【0021】
研磨装置は、研磨ヘッド1、研磨ヘッド回転モータ37、アクチュエータ15の圧力レギュレータ15Bを含む各機器の動作を制御する動作制御部50をさらに備えている。動作制御部50は、プログラムが格納された記憶装置50aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する処理装置50bを備えている。記憶装置50aは、RAMなどの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。処理装置50bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、動作制御部50の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0022】
動作制御部50は、少なくとも1台のコンピュータから構成されている。前記少なくとも1台のコンピュータは、1台のサーバまたは複数台のサーバであってもよい。動作制御部50は、エッジサーバであってもよいし、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークに接続されたクラウドサーバであってもよいし、あるいはネットワーク内に設置されたフォグコンピューティングデバイス(ゲートウェイ、フォグサーバ、ルーターなど)であってもよい。動作制御部50は、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークにより接続された複数のサーバであってもよい。例えば、動作制御部50は、エッジサーバとクラウドサーバとの組み合わせであってもよい。
【0023】
ワークピースWは次のようにして研磨される。パッド支持体3および研磨ヘッド1を図1の矢印で示す方向に回転させながら、研磨液が研磨液供給ノズル5からパッド支持体3上の研磨パッド2の研磨面2aに供給される。ワークピースWは研磨ヘッド1によって回転されながら、研磨パッド2上に研磨液が存在した状態でワークピースWは研磨ヘッド1によって研磨パッド2の研磨面2aに摺接される。ワークピースWの表面は、研磨液の化学的作用と、研磨液に含まれる砥粒または研磨パッド2の機械的作用により研磨される。
【0024】
図2は、図1に示す研磨ヘッド1を含む研磨ヘッドシステムの一実施形態を示す断面図である。図2に示すように、研磨ヘッドシステムは、ヘッドシャフト10の下端に連結されたキャリア51と、キャリア51に連結された粘弾性可変装置55を備えている。粘弾性可変装置55は、磁気粘弾性エラストマーシート58と、磁気粘弾性エラストマーシート58に対向する複数の磁場印加装置60と、これら磁場印加装置60に電気的に接続された電流供給装置62を備えている。磁気粘弾性エラストマーシート58はキャリア51の下方に配置されており、複数の磁場印加装置60は、キャリア51と磁気粘弾性エラストマーシート58との間に配置されている。
【0025】
磁気粘弾性エラストマーシート58および磁場印加装置60は、キャリア51とともに研磨ヘッド1を構成する。したがって、キャリア51、磁気粘弾性エラストマーシート58、および磁場印加装置60は、一体に上下動し、一体に回転する。電流供給装置62は、研磨ヘッド1の外に配置されている。一実施形態では、電流供給装置62は、研磨ヘッド1内に配置されてもよい。電流供給装置62は、動作制御部50に電気的に接続されており、電流供給装置62の動作は動作制御部50によって制御される。
【0026】
研磨ヘッド1は、磁気粘弾性エラストマーシート58を囲むリテーナリング65と、リテーナリング65とキャリア51との間に配置された環状メンブレン66をさらに備えている。リテーナリング65はキャリア51の下方に配置され、環状メンブレン66はリテーナリング65の上部に接続されている。リテーナリング65は、ワークピースWを囲むように配置されており、研磨中にワークピースWが研磨ヘッド1から飛び出すことを防止している。
【0027】
環状メンブレン66の内部には環状の圧力室67が形成されている。この圧力室67は、圧縮気体供給ライン68に連通している。圧縮気体供給ライン68には、圧力レギュレータ69が取り付けられている。圧縮気体供給ライン68は、ロータリージョイント18および圧力レギュレータ69を通って延びている。圧縮空気などの圧縮気体は、圧縮気体供給ライン68および圧力レギュレータ69を通って圧力室67内に供給される。圧力室67内の圧縮気体はリテーナリング65を研磨パッド2の研磨面2aに対して押し付けることができる。圧力室67内の圧縮気体の圧力は、圧力レギュレータ69によって調節される。圧力レギュレータ69は動作制御部50に接続されており、圧力レギュレータ69の動作(すなわち、圧力室67内の圧縮気体の圧力)は動作制御部50によって制御される。
【0028】
粘弾性可変装置55は、複数の磁場印加装置60と磁気粘弾性エラストマーシート58を保持する磁気ヨーク71をさらに備えている。磁気ヨーク71は、キャリア51の下に配置され、キャリア51の下部に固定されている。磁気ヨーク71は、磁場印加装置60によって発生される磁場を制御するための部材であり、透磁率や残留磁気特性などの電磁気的特性の良い磁性材料(例えば鉄)から構成されている。キャリア51、リテーナリング65、環状メンブレン66、磁気粘弾性エラストマーシート58、磁気ヨーク71、および複数の磁場印加装置60は、研磨ヘッド1を構成し、研磨ヘッド1はヘッドシャフト10と一体に回転し、かつ上下動する。
【0029】
研磨されるべきワークピースWは、磁気粘弾性エラストマーシート58の下面に接触している。磁気粘弾性エラストマーシート58は、ワークピースWと同じ大きさおよび同じ形状を有しており、ワークピースWの被研磨面とは反対側の面の全体に接触するように構成されている。ワークピースWの研磨中、アクチュエータ15を構成するエアシリンダ15Aは、磁気粘弾性エラストマーシート58を含む研磨ヘッド1を下降させ、磁気粘弾性エラストマーシート58はワークピースWを研磨パッド2の研磨面2aに対して押し付ける。ワークピースWは、スラリーなどの研磨液の存在下で研磨パッド2の研磨面2aに摺接され、ワークピースWの表面は研磨液の化学的作用と研磨液に含まれる砥粒または研磨パッド2の機械的作用により平坦化される。
【0030】
磁気粘弾性エラストマーシート58は、その一部に磁場が印加されると、その部分のみのヤング率(縦弾性係数)が局所的に増加するという特性を有している。すなわち、磁気粘弾性エラストマーシート58の全体は、弾性を有した柔らかいメンブレンであるが、その一部に磁場が印加されると、その部分が固くなる。言い換えれば、磁場が印加された磁気粘弾性エラストマーシート58の部分の剛性が高くなる。
【0031】
エアシリンダ15Aから研磨ヘッド1に与えられる力が一定である条件下において、磁気粘弾性エラストマーシート58の一部に磁場が印加されると、その部分のワークピースWに対する圧力が増加する。結果として、ワークピースWの研磨レートは局所的に上昇する。複数の磁場印加装置60は、磁気粘弾性エラストマーシート58の複数の部位にそれぞれ磁場を印加し、磁気粘弾性エラストマーシート58の上記複数の部位のヤング率(あるいは剛性)を上昇させるように配置されている。
【0032】
電流供給装置62は、電流を複数の磁場印加装置60に独立かつ選択的に供給することができるように構成されている。すなわち、電流供給装置62は、電流を複数の磁場印加装置60のうちの少なくとも1つに選択的に供給し、前記少なくとも1つの磁場印加装置60は磁場を発生させて、磁気粘弾性エラストマーシート58の対応する部位のヤング率を局所的に上昇させることができる。
【0033】
磁気粘弾性エラストマーシート58は、弾性を有するエラストマー基材と、このエラストマー基材内に分散された磁性粒子を有している。磁性粒子は、エラストマー基材の厚さ方向に配向するクラスターをエラストマー基材内で形成している。本実施形態では、エラストマー基材は、シリコンゴムとシリコンオイルとの混合から構成されており、磁性粒子は鉄粉から構成されている。シリコンゴムに代えて、各種ゴム材、ジメチルポリシロキサン、天然ゴムなどを用いてもよい。エラストマー基材は、ゲル状であってもよい。
【0034】
磁気粘弾性エラストマーシート58は、シリコンゴムとシリコンオイルとの混合がエラストマーを形成する範囲内で、できるだけ柔らかいことが好ましい。これは、磁場が印加されたときに磁気粘弾性エラストマーシート58のヤング率をできるだけ大きく変化させて、ワークピースWに対する局所圧力を大きくするためである。このような観点から、磁気粘弾性エラストマーシート58の初期ヤング率(初期縦弾性係数)は、0.05MPa~1.00MPaの範囲内である。ここで、初期ヤング率(初期縦弾性係数)は、磁場が印加されていないときの磁気粘弾性エラストマーシート58のヤング率である。磁気粘弾性エラストマーシート58の初期ヤング率は、シリコンゴムとシリコンオイルとの混合割合によって変えることができる。
【0035】
磁気粘弾性エラストマーシート58の透磁率を大きくして強い磁場が印加されるようにするために、磁気粘弾性エラストマーシート58内の磁性粒子の濃度は、ある程度高くすることが好ましい。その一方で、磁性粒子の濃度が高すぎると、エラストマー基材の量が減少し、磁気粘弾性エラストマーシート58を柔らかくすることが困難になる。このような観点から、磁性粒子の濃度は、70~90wt%の範囲内である。
【0036】
本実施形態では、磁気粘弾性エラストマーシート58の厚さは、2.0mmである。磁気粘弾性エラストマーシート58が薄すぎると、意図した機能を持つ磁気粘弾性エラストマーシート58の製造が困難となる。その一方で、磁気粘弾性エラストマーシート58が厚すぎると、磁場が磁気粘弾性エラストマーシート58内に十分に透過しないことがあり、磁気粘弾性エラストマーシート58の局所的なヤング率が変化しにくくなる(ワークピースWに対する局所圧力が上昇しにくくなる)。このような観点から、磁気粘弾性エラストマーシート58の厚さは、0.5mm~3.0mmの範囲内としてもよい。
【0037】
本実施形態では、ワークピースWは磁気粘弾性エラストマーシート58に直接接触している。磁気粘弾性エラストマーシート58に含まれる磁性粒子に起因するワークピースWの汚染を防止するために、一実施形態では、図3に示すように、磁気粘弾性エラストマーシート58とワークピースWとの間に弾性膜73を配置してもよい。この弾性膜73は、柔軟な樹脂、例えばシリコンゴムから構成される。弾性膜73は、磁気粘弾性エラストマーシート58の下面、すなわちワークピース押圧面に貼り付けられる。図3に示す実施形態のその他の構成は、図2に示す実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0038】
図2および図3に示す実施形態では、リテーナリング65とキャリア51との間に環状メンブレン66が配置されているが、一実施形態では、環状メンブレン66を省略し、リテーナリング65がキャリア51に直接固定されてもよい。
【0039】
図4に示すように、一実施形態では、キャリア51と複数の磁場印加装置60との間に、アクチュエータ75を配置してもよい。アクチュエータ75は、複数の磁場印加装置60、磁気ヨーク71、および磁気粘弾性エラストマーシート58を含む粘弾性可変装置55を、キャリア51から遠ざかる方向および近づく方向に移動させるように構成されている。
【0040】
アクチュエータ75は、圧力室76を内側に形成する弾性シート77を備えている。圧力室76は、キャリア61と弾性シート77との間に位置している。弾性シート77はキャリア51に保持されており、弾性シート77の外面は磁場印加装置60と磁気ヨーク71に接触している。圧力室76は、圧縮気体供給ライン80に連通しており、圧縮気体供給ライン80は、ロータリージョイント18および圧力レギュレータ82を通って延びている。圧縮空気などの圧縮気体は、圧縮気体供給ライン80および圧力レギュレータ82を通って圧力室76内に供給される。
【0041】
図4に示す実施形態では、図1乃至図3に示すアクチュエータ15に代えて、研磨ヘッド位置決め装置84が設けられている。この研磨ヘッド位置決め装置84は、ヘッドシャフト10に連結されたボールねじ機構85と、ボールねじ機構85を駆動するサーボモータ86を備えている。ボールねじ機構85は、サーボモータ86に連結されたねじ85Aと、ヘッドシャフト10に連結された可動部85Bを有する。ねじ85Aは可動部85Bに螺合されている。サーボモータ86がねじ85Aを回転させると、可動部85Bがねじ85Aに沿って移動し、これによりヘッドシャフト10および研磨ヘッド1が可動部85Bとともに移動する。
【0042】
研磨ヘッド位置決め装置84は、研磨ヘッド1の研磨パッド2に対する相対的な高さを調節するための機構である。研磨ヘッド位置決め機構84は、研磨ヘッド1を予め定められた高さに位置させ、その高さに研磨ヘッド1が保たれたまま、圧縮気体が圧力室76と圧力室67に供給される。
【0043】
圧力室76内の圧力は、弾性シート77を介して磁場印加装置60、磁気ヨーク71、および磁気粘弾性エラストマーシート58に伝えられ、磁気粘弾性エラストマーシート58はワークピースWを研磨パッド2の研磨面2aに対して押し付ける。圧力室67内の圧力は、環状メンブレン66を介してリテーナリング65に伝えられ、リテーナリング65は研磨パッド2の研磨面2aを押し付ける。
【0044】
圧力室76内の圧縮気体の圧力は圧力レギュレータ82によって調節され、圧力室67内の圧縮気体の圧力は圧力レギュレータ69によって調節される。圧力レギュレータ82および圧力レギュレータ69は、動作制御部50に接続されている。動作制御部50は、圧力レギュレータ82および圧力レギュレータ69を独立に制御することが可能である。したがって、圧力レギュレータ82および圧力レギュレータ69は、圧力室76内の圧力と、圧力室67内の圧力を独立に調節することができる。
【0045】
本実施形態によれば、2つの圧力室76,67内の圧力は、ワークピースWおよびリテーナリング65に別々に加えられる。したがって、研磨ヘッド1は、ワークピースWおよびリテーナリング65をそれぞれ目標とする力(圧力)で研磨パッド2の研磨面2aに対して正確に押し付けることができる。図4に示す研磨ヘッド1は、図3に示す弾性膜73を備えてもよい。
【0046】
次に、磁場印加装置60について説明する。図5は、図2乃至図4に示す磁場印加装置60の底面図であり、図6は、図5のA-A線断面図である。複数の磁場印加装置60は、磁性コアである複数の磁石78と、複数の磁石78をそれぞれ囲む複数の電磁コイル81を備えている。各磁石78は円柱形状を有し、各電磁コイル81は円筒形状を有する。ただし、本発明は本実施形態には限定されず、磁石78は多角柱の形状を有してもよい。電磁コイル81も同様に他の形状を有してもよい。図6に示すように、複数の電磁コイル81は、電流供給装置62に電気的に接続されている。電流供給装置62から電流が電磁コイル81に供給されると、電磁コイル81は磁場を磁石78内に発生させる。
【0047】
複数の磁場印加装置60は、磁気ヨーク71に形成された複数の孔71a内にそれぞれ収容されている。磁場印加装置60は、電磁コイル81の端部と磁気粘弾性エラストマーシート58との間に配置された非磁性スペーサ90を備えている。非磁性スペーサ90は、磁石78の端部を囲んでおり、磁気ヨーク71の孔71a内に配置されている。各非磁性スペーサ90は、円環状であり、各磁石78と同心状に配置されている。本実施形態では、非磁性スペーサ90は、非磁性のステンレス鋼から構成されている。
【0048】
複数の磁石78の端面と、複数の非磁性スペーサ90の端面と、磁気ヨーク71の端面は、同一平面内にある。磁気ヨーク71、複数の磁石78、および複数の非磁性スペーサ90は、磁気粘弾性エラストマーシート58に接触している。より具体的には、磁石78の端面、非磁性スペーサ90の端面、および磁気ヨーク71の端面は、磁気粘弾性エラストマーシート58の裏側に接触している。磁気粘弾性エラストマーシート58の表側は、ワークピースWを支持するワークピース支持面を構成している。
【0049】
図7は、図6に示す磁場印加装置60が発生する磁場を測定したグラフである。図7の縦軸は磁束密度を表し、横軸は磁石78の中心からの距離を表している。図7に示す実線は、図6に示す、磁気ヨーク71、複数の磁石78、および複数の非磁性スペーサ90が磁気粘弾性エラストマーシート58に接触した配置を有する磁場印加装置60の磁場の磁束密度の分布を示している。図7の点線は比較例として、非磁性スペーサ90を設けず、磁石78のみが磁気粘弾性エラストマーシート58に接触し、磁気ヨーク71は磁気粘弾性エラストマーシート58に接触していない配置を有する磁場印加装置の磁場の磁束密度の分布を示している。
【0050】
図7から分かるように、磁気ヨーク71、複数の磁石78、および複数の非磁性スペーサ90が磁気粘弾性エラストマーシート58に接触した本実施形態の配置は、複数の磁石78のみが磁気粘弾性エラストマーシート58に接触する配置に比べて、磁場印加装置60が発生させる磁場を強めることができる。したがって、各磁場印加装置60は、強い磁場を磁気粘弾性エラストマーシート58に印加することができる。
【0051】
磁石78は、高い着磁と容易な消磁ができるように、保磁力[Hcj]が20000~70000A/mで、かつ残留磁束密度[Br]が1.0T以上の磁石である。このような磁石の例として、着磁および消磁が容易なアルニコ磁石、鉄クロムコバルト磁石、サマリウムコバルト磁石が挙げられる。
【0052】
本実施形態では、磁石78としてアルニコ5磁石が用いられている。アルニコ5磁石の周りの電磁コイル81に正方向の電流を瞬間的に流すと、アルニコ5磁石は永久磁石として機能し始める。すなわち、電磁コイル81に正方向の電流を瞬間的に流すと、アルニコ5磁石は着磁し、電磁コイル81への電流の供給を止めた後でも、アルニコ5磁石は磁場を発生し続ける。一方、電磁コイル81に逆方向の電流を瞬間的に流すと、アルニコ5磁石が消磁し、永久磁石としての機能が消滅する。鉄クロムコバルト4磁石も同様の特性を有している。
【0053】
電流供給装置62は、正方向の単発パルス電流または逆方向の単発パルス電流を選択的に、複数の電磁コイル81のうちの少なくとも1つに供給するように構成されている。正方向の単発パルス電流は、アルニコ5磁石からなる磁石78を着磁させるための着磁トリガー電流であり、逆方向の単発パルス電流は、アルニコ5磁石からなる磁石78を消磁させるための消磁トリガー電流である。電流供給装置62は、正方向の単発パルス電流および/または逆方向の単発パルス電流を、複数の電磁コイル81に独立に供給することができるように構成されている。
【0054】
電流供給装置62は、動作制御部50に電気的に接続されている。電流供給装置62の動作は動作制御部50によって制御される。具体的には、動作制御部50は、電流供給装置62に指令を発して、正方向の単発パルス電流または逆方向の単発パルス電流を選択的に、複数の電磁コイル81のうちの少なくとも1つに供給させる。より具体的には、動作制御部50は、作動させるべき磁場印加装置60を決定し、電流供給装置62に指令を発して、予め定められた大きさ(アンペア:A)の正方向の単発パルス電流または逆方向の単発パルス電流を、決定された磁場印加装置60の電磁コイル81に供給させる。
【0055】
電流供給装置62と、アルニコ5磁石からなる磁石78との組み合わせは、次のような利点がある。鉄のような保磁力の極めて小さい材料を磁石78に使用した場合、磁場を発生し続けるためには電磁コイル81に電流を流し続ける必要がある。しかしながら、電流を流し続けるにつれて、電磁コイル81が徐々に発熱する。電磁コイル81の熱は磁気粘弾性エラストマーシート58に伝わり、磁気粘弾性エラストマーシート58が熱膨張するか、あるいは熱によって磁気粘弾性エラストマーシート58が硬化する。結果として、磁場の強さが一定であるにもかかわらず、磁気粘弾性エラストマーシート58のヤング率が少しずつ変化してしまう。さらに、磁石78を消磁しても、熱の影響で磁気粘弾性エラストマーシート58のヤング率が元に戻らない。
【0056】
そこで、このような問題を解決するために、本実施形態では、電流を瞬間的に電磁コイル81に印加する電流供給装置62と、アルニコ5磁石からなる磁石78との組み合わせが使用されている。上述したように、電流供給装置62が電磁コイル81に正方向の単発パルス電流(着磁トリガー電流)を流すと、磁石78は着磁し、電磁コイル81への電流供給が停止した後も磁石78は永久磁石として機能する。一実施形態では、正方向の単発パルス電流(着磁トリガー電流)のパルス幅、すなわち時間的長さは、0.05~0.1秒の範囲内である。したがって、電磁コイル81はほとんど発熱せず、磁気粘弾性エラストマーシート58への伝熱も起こらない。
【0057】
同様に、電流供給装置62が電磁コイル81に逆方向の単発パルス電流(消磁トリガー電流)を流すと、アルニコ5磁石からなる磁石78は消磁し、永久磁石としての機能が消滅する。一実施形態では、この逆方向の単発パルス電流(消磁トリガー電流)のパルス幅、すなわち時間的長さは、0.05~0.1秒の範囲内である。したがって、電磁コイル81はほとんど発熱せず、磁気粘弾性エラストマーシート58への伝熱も起こらない。
【0058】
このように、電流を瞬間的に印加する電流供給装置62と、アルニコ5磁石からなる磁石78との組み合わせは、電磁コイル81の発熱を最小にし、磁気粘弾性エラストマーシート58のヤング率変化の再現性を確保することができる。結果として、本実施形態の研磨ヘッドシステムは、ワークピースWに対する局所圧力を精度良く制御することができ、ワークピースWの研磨プロファイルを精密に制御することができる。電流供給装置62と、鉄クロムコバルト4磁石からなる磁石78との組み合わせも、同様の効果が得られる。
【0059】
電流供給装置62は、複数の電磁コイル81にそれぞれ電気的に接続された複数のコンデンサー(図示せず)と、パルス電流の流れ方向を正方向と逆方向との間で切り替える切り替え装置(図示せず)を有している。各コンデンサーは、商用電源などの交流電源から供給される交流電力を整流して電荷をその内部に蓄え、その後電荷を瞬間的に放電することで、単発パルス電流を電磁コイル81に印加する。ただし、電流供給装置62の構成は、本実施形態に係るコンデンサータイプに限らず、他のタイプであってもよい。
【0060】
複数の磁場印加装置60は、磁気粘弾性エラストマーシート58の全体に亘って分布している。より具体的には、複数の磁場印加装置60は、磁気粘弾性エラストマーシート58の径方向および周方向に沿って分布している。したがって、複数の磁場印加装置60は、磁気粘弾性エラストマーシート58の径方向に沿った複数の部位、および周方向に沿った複数の部位を選択的に硬化させることができる。結果として、研磨ヘッド1は、ワークピースWの径方向に沿った研磨プロファイルおよびワークピースWの周方向に沿った研磨プロファイルを精密に制御することができる。
【0061】
図5に示す磁場印加装置60の配列は一例である。複数の磁場印加装置60が磁気粘弾性エラストマーシート58の径方向および周方向に沿って分布している限りにおいて、磁場印加装置60の配列は特に限定されない。例えば、複数の磁場印加装置60はマトリックス状に配列されてもよい。
【0062】
磁気粘性流体(MR流体ともいう)は、磁気粘弾性エラストマーシート58と同じような磁場印加による粘弾性可変特性を有している。しかしながら、磁気粘性流体は流動性が高いため、チャンバーなどの部屋内に閉じ込める必要がある。仮に、磁気粘性流体が部屋から漏れると、研磨パッド2やワークピースWを汚染してしまう。これに対し、磁気粘弾性エラストマーシート58は弾性があるものの、流動性はないため、磁気粘弾性エラストマーシート58の一部が離脱することはない。さらに、磁気粘弾性エラストマーシート58は、磁場を受けた部分だけ局所的にヤング率(または剛性)を変えることができ、その部分の周囲のヤング率はそのままに維持することができる。これに対して、磁気粘性流体は、それ自体が流動性を持つために、ヤング率を安定的に変化させることが難しい。
【0063】
図8は、粘弾性可変装置55の他の実施形態を示す模式図である。特に説明しない本実施形態の構成は、図1乃至図6を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。本実施形態の粘弾性可変装置55は、複数の磁石78に加わる力を測定する複数の荷重検出器93を備えている。複数の荷重検出器93は、複数の磁石78と磁気粘弾性エラストマーシート58との間に配置されている。複数の荷重検出器93は、複数の磁石78の下端にそれぞれ接触している。
【0064】
ワークピースWの研磨中にアクチュエータ15(図2または図3参照)またはアクチュエータ75(図4参照)が発生する力は、複数の磁石78および磁気粘弾性エラストマーシート58を経由してワークピースWに伝えられる。荷重検出器93は、ワークピースWの研磨中に磁石78に加えられる力を測定する。荷重検出器93としては、ロードセルまたは面圧検出器を用いることができる。荷重検出器93は、動作制御部50に電気的に接続されており、荷重検出器93によって測定された力の測定値は、動作制御部50に送られるようになっている。
【0065】
磁気粘弾性エラストマーシート58はヒステリシス特性を持つために、同じ強さの磁場を磁気粘弾性エラストマーシート58に印加しても、同じ剛性が再現されないことがある。動作制御部50は、荷重検出器93から送られる測定値が目標の値に達するように、複数の磁場印加装置60の少なくとも1つを制御するように構成されている。
【0066】
図9に示すように、複数の荷重検出器93は、複数の磁石78と磁気ヨーク71との間に配置されてもよい。複数の荷重検出器93は、複数の磁石78の上端にそれぞれ接触している。その他の構成は、図2乃至図8を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0067】
図1乃至図9を参照して説明したそれぞれの実施形態に係る研磨ヘッドシステムは、図1に示すタイプの研磨装置のみならず、図10に示すタイプの研磨装置にも適用可能である。以下、図10に示すタイプの研磨装置について説明する。
【0068】
図10は、研磨装置の他の実施形態を示す模式図である。研磨ヘッド1は、磁気粘弾性エラストマーシート58が上を向くように配置されている。研磨ヘッド1に支持されたワークピースWの被研磨面は上を向いている。研磨ヘッド1の上方には、研磨液供給ノズル5と、研磨パッド2を保持したパッド支持体3が配置されている。研磨パッド2の下面は研磨面2aを構成し、研磨面2aは下方を向いている。研磨パッド2は、ワークピースWよりも小さいサイズを有している。
【0069】
パッド支持体3は支持軸3aの下端に固定されており、支持軸3aの上部は支持アーム100に回転可能に支持されている。支持軸3aは、支持アーム100内に配置されている支持軸回転モータ6に連結されている。支持軸3a、パッド支持体3、および研磨パッド2は、支持軸回転モータ6により一体に回転される。支持軸3aは、支持アーム100に保持されたアクチュエータ99に連結されている。アクチュエータ99は、支持軸3aを下方に押し、支持軸3aに固定されているパッド支持体3は研磨パッド2の研磨面2aをワークピースWの表面に対して押し付けることができる。
【0070】
支持アーム100は揺動軸101に連結されており、揺動軸101は揺動装置102に連結されている。揺動装置102は、揺動軸101を回転させるための電動機(図示せず)を有している。揺動装置102が揺動軸101を時計回りおよび反時計回りに交互に所定の角度だけ回転させると、支持アーム100は揺動軸101を中心に揺動し、これにより支持アーム100に連結されたパッド支持体3および研磨パッド2は、ワークピースWの表面上をその半径方向に往復する。
【0071】
研磨ヘッド1のキャリア51は、ヘッドシャフト10の上端に固定されている。ヘッドシャフト10は研磨ヘッド回転モータ37に連結されており、ヘッドシャフト10および研磨ヘッド1は研磨ヘッド回転モータ37により一体に回転される。研磨ヘッド1は、上述したリテーナリング65、環状メンブレン66、圧力室67、圧縮気体供給ライン68を備えていないが、その他の構成は、図1乃至図9を参照して説明した実施形態のうちのいずれかと同じである。図10は、図1に示す実施形態が研磨装置に適用された例を示すが、図1以外の上述した実施形態も同様に適用可能である。
【0072】
ワークピースWは次のようにして研磨される。パッド支持体3および研磨ヘッド1を図1の矢印で示す方向に回転させながら、研磨液が研磨液供給ノズル5から研磨ヘッド1上のワークピースWの被研磨面上に供給される。パッド支持体3は研磨パッド2の研磨面2aをワークピースWに押し付けながら、パッド支持体3および研磨パッド2をワークピースWの半径方向に移動させる。ワークピースW上に研磨液が存在した状態で、ワークピースWは研磨ヘッド1によって回転されながら、ワークピースWは研磨パッド2の研磨面2aに摺接される。ワークピースWの表面は、研磨液の化学的作用と、研磨液に含まれる砥粒または研磨パッド2の機械的作用により研磨される。
【0073】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0074】
1 研磨ヘッド
2 研磨パッド
2a 研磨面
3 パッド支持体
3a 支持軸
5 研磨液供給ノズル
6 支持体回転モータ
10 ヘッドシャフト
12 ヘッドアーム
15 アクチュエータ
15A エアシリンダ
15B 圧力レギュレータ
16 圧縮気体供給ライン
18 ロータリージョイント
20 軸受
22 ブリッジ
30 支持台
32 ボールスプライン軸受
35 プーリ
37 研磨ヘッド回転モータ
39 ベルト
40 プーリ
43 旋回軸
50 動作制御部
50a 記憶装置
50b 処理装置
51 キャリア
55 粘弾性可変装置
58 磁気粘弾性エラストマーシート
60 磁場印加装置
62 電流供給装置
65 リテーナリング
66 環状メンブレン
67 圧力室
68 圧縮気体供給ライン
69 圧力レギュレータ
71 磁気ヨーク
73 弾性膜
75 アクチュエータ
76 圧力室
77 弾性シート
78 磁石
80 圧縮気体供給ライン
81 電磁コイル
82 圧力レギュレータ
84 研磨ヘッド位置決め装置
85 ボールねじ機構
85A ねじ
85B 可動部
86 サーボモータ
90 非磁性スペーサ
93 荷重検出器
99 アクチュエータ
100 支持アーム
101 揺動軸
102 揺動装置
W ワークピース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11