IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 55/02 20060101AFI20231026BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20231026BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
C08L55/02
C08L23/02
C08L51/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020506315
(86)(22)【出願日】2018-11-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 KR2018014514
(87)【国際公開番号】W WO2019103519
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2020-02-05
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】10-2017-0158627
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】リュ、スン-チョル
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ソン-ファン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョン-キ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソン-リョン
(72)【発明者】
【氏名】ナム、チン-オ
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】瀧澤 佳世
【審判官】近野 光知
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-219558(JP,A)
【文献】特開2011-219557(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0041363(KR,A)
【文献】国際公開第2007/108379(WO,A1)
【文献】特開2013-112783(JP,A)
【文献】特開平10-87908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物80重量%から99.8重量%;
(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル系化合物由来の単位を含むグラフト共重合体0.1重量%から10重量%;及び
(3)アルファオレフィン系共重合体0.1重量%から10重量%
を含み、
前記(3)アルファオレフィン系共重合体は、20℃から70℃の溶融温度(Tm)及び-100℃から-20℃のガラス転移温度(Tg)を有し、
前記(3)アルファオレフィン系共重合体は、5%から20%の結晶化度を有し、
前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物が、
(A)ブタジエン系ゴム質重合体コア40重量%から70重量%と、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフトシェル30重量%から60重量%とを含む第1ブタジエン系グラフト共重合体;及び
(B)ブタジエン系ゴム質重合体コア5重量%から30重量%と、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフトシェル70重量%から95重量%とを含む第2ブタジエン系グラフト共重合体を含み、
さらに(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル系化合物由来の単位を含む共重合体を含むABS系グラフト共重合体組成物であり、
前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物が、混合物の総重量対比
(A)第1ブタジエン系グラフト共重合体5重量%から50重量%;
(B)第2ブタジエン系グラフト共重合体0.5重量%から55重量;及び
(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル系化合物由来の単位を含む共重合体15重量%から85重量%を含む
樹脂組成物。
【請求項2】
前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物中、前記(A)第1ブタジエン系グラフト共重合体及び(B)第2ブタジエン系グラフト共重合体の総量と、前記(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル系化合物由来の単位を含む共重合体の量は、20:80から80:20の重量比である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)共重合体の前記芳香族ビニル系化合物由来の単位は、α-メチルスチレン由来の単位を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル系化合物由来の単位を含む共重合体は、100℃から150℃のガラス転移温度を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物がさらに(D)耐熱性熱可塑性共重合体を含み、
前記耐熱性熱可塑性共重合体は、マレイミド化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(D)耐熱性熱可塑性共重合体は、前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物100重量部を基準として5重量部から19重量部の量で含まれる、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物中、前記(A)第1ブタジエン系グラフト共重合体及び(B)第2ブタジエン系グラフト共重合体の総量と、前記(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル系化合物由来の単位を含む共重合体及び(D)耐熱性熱可塑性樹脂の総量は、20:80から80:20の重量比である、請求項5または6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル系化合物由来の単位を含むグラフト共重合体は、ポリオレフィン系重合体コアとシアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフト共重合体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル系化合物由来の単位を含むグラフト共重合体は、ポリオレフィン重合体コアと、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル系化合物由来の単位を30:70から70:30の重量比で含む、請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記(3)アルファオレフィン系共重合体は、30,000から200,000の重量平均分子量を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記(3)アルファオレフィン系共重合体は、分子内のエチレン由来の単位と1-ブテン由来の単位の比率が60:40から80:20の重量比であるエチレン-1-ブテン共重合体である、請求項1~10のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いて製造された熱可塑性樹脂であって、
前記熱可塑性樹脂は、VDA230-206規格の標準条件で、80℃及び湿度95%で350時間放置した後、23℃及び湿度50%で24時間放置してエージングしてから、PRN(Risk-Priority-Number)値を測定したとき、前記PRN値が5以下である、熱可塑性樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年11月24日付韓国特許出願第10-2017-0158627号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、樹脂組成物に関し、より具体的には、ABS系熱可塑性樹脂組成物、グラフト共重合体、及びアルファオレフィン系共重合体を含み、機械的物性に優れ、加工性に優れつつも環境の変化による摩擦音発生の変化が少ない樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ABS(Acrylonitrile-Butadiene-Styrene)樹脂は、加工性、成形性、耐衝撃性、強度及び光沢などに優れ、各種電機、電子及び雑貨部品に広く用いられている。最近のABS樹脂の用途展開の方向が機能性を主とした多様化中心から、多機能化、複雑化中心に変化するのに伴って複合的な機能を保有した樹脂に対する要求が徐々に増大している。
【0004】
特に、ABS樹脂は、寸法安定性、加工性及び耐化学性に優れ、モニターハウジング、ゲーム機ハウジング、家電製品、事務機器、自動車用ランプハウジングなどの材料として多く用いられている。最近は、耐衝撃性、耐化学性及び加工性などに優れたABS樹脂に耐熱性及び低光沢性を付与し、自動車の内装材として用いようとする研究が多く進められている。
【0005】
ABS樹脂は、各部品を成形した後、組み立てて用いる場合が多く、各部品が組み立てられた状態で振動が加えられるか、収縮及び膨張をしながらぶつかるようになる場合が多いので、このとき、聞きたくない摩擦音を発生し得る。最近、製品の高級化が進められながら、匂い及び騷音などの発生が少ない感性品質に優れた製品が要求されており、これによって、特に自動車会社を中心に、素材的側面で摩擦時の騷音の発生が少ない素材に対する要求が多くなるに伴い、素材製造社等を中心に摩擦音を少なく発生する素材を開発するための試みがなされている。例えば、日本公開特許第2012-046669号公報には、EPDM樹脂にSAN樹脂をグラフトさせた後、水素添加してジエンの二重結合を除去した重合体をABS樹脂と複合し、摩擦音を低減させた摩擦音の低減樹脂が開示されている。しかし、前記摩擦音の低減樹脂は、製造工程が複雑で、実際のテスト結果、エージング(aging)前には摩擦音の特性指標であるRPN値が3以下と非常に優れているが、エージング後にはRPN値が3以上の場合もあるなど、持続的で実質的な摩擦音低減の効果には不備な点がある。
【0006】
したがって、製造工程が簡単でありながらも、ABS樹脂が有する物性の低下が少なく、加工性に優れ、環境の変化による摩擦音の発生等の変化が少ない新たな樹脂組成物の開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-046669号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、製造工程が簡単でありながらも、ABS樹脂が有する物性の低下が少なく、加工性に優れ、環境変化による摩擦音の発生等の変化が少ない樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物80重量%から99.8重量%;(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフト共重合体0.1重量%から10重量%;及び(3)アルファオレフィン系共重合体0.1重量%から10重量%を含む、樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、製造工程が簡単でありながらも、ABS樹脂が有する物性の低下が少なく、加工性に優れ、環境の変化による摩擦音の発生等の変化が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に対する理解を助けるために、本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】
本発明の説明及び特許請求の範囲で用いられた用語や単語は、通常的かつ辞典的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適宜定義することができるとの原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物80重量%から99.8重量%;(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体0.1重量%から10重量%;及び(3)アルファオレフィン系共重合体0.1重量%から10重量%を含む。
【0014】
本発明による樹脂組成物は、(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物に(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフト共重合体及び(3)アルファオレフィン系共重合体が配合されたものであって、前記(3)アルファオレフィン系共重合体は、様々な素材との低い相溶性を有するため、摩擦時の粘着性を下げ、蓄積された機械的エネルギーを吸収して摩擦音を効果的に減らす一方、前記(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフト共重合体が、前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体と(3)アルファオレフィン系共重合体の間の相溶性を高めて樹脂の安定性を高めることにより、効果的でありながらも持続的に摩擦音を減らすという効果を奏することができる。
【0015】
これらそれぞれの成分に対する詳細な説明は、次のとおりである。
【0016】
(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物
本発明の樹脂組成物で、前記ブタジエン系グラフト共重合体は、例えば、ブタジエン系ゴム質重合体コア及びシアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフトシェルを含むブタジエン系グラフト共重合体であってもよく、また、前記ブタジエン系ゴム質重合体、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位以外の化合物から由来された単位をさらに含ませ、難燃特性、耐熱特性、無光特性などの物性を向上させたブタジエン系グラフト共重合体であってもよい。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物の総重量を基準として、(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物を80重量%から99.8重量%含んでもよく、具体的に85重量%から99.4重量%含んでもよく、さらに具体的に90重量%から99重量%含んでもよい。
【0018】
一方、本発明の一例において、前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物は、(A)ブタジエン系ゴム質重合体コア40重量%から70重量%とシアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフトシェル30重量%から60重量%を含む第1ブタジエン系グラフト共重合体;(B)ブタジエン系ゴム質重合体コア5重量%から30重量%とシアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフトシェル70重量%から95重量%を含む第2ブタジエン系グラフト共重合体を含み;さらに、(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体を含んでもよい。
【0019】
前記(A)第1ブタジエン系グラフト共重合体は、ブタジエン系ゴム質重合体コア40重量%から70重量%、具体的に55重量%から65重量%とシアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフトシェル30重量%から60重量%、具体的に35重量%から45重量%を含むものであってもよい。
【0020】
前記第1ブタジエン系グラフト共重合体は、市販されるものを購買して用いるか、製造して用いてもよく、本発明の一例において、前記第1ブタジエン系グラフト共重合体は、乳化重合により製造されたものであってもよい。
【0021】
前記ブタジエン系ゴム質重合体コアの平均粒径(D50)は、要求される光沢度、機械的物性により適切に調節されてもよく、本発明の一例において、前記第1ブタジエン系グラフト共重合体は、前記ブタジエン系ゴム質重合体コアとして、平均粒径が0.1μmから0.4μm、具体的に0.25μmから0.35μmであるゴム質重合体を含んでもよい。前記平均粒径(D50)が前記範囲より小さい場合、衝撃強度及び耐環境応力亀裂性が低下し、前記範囲より大きい場合、ゴム製造の時間が長くなって光沢が低下し得る。
【0022】
前記(B)第2ブタジエン系グラフト共重合体は、ブタジエン系ゴム質重合体コア5重量%から30重量%、具体的に5重量%から15重量%、さらに具体的に10重量%から15重量%とシアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフトシェル70重量%から95重量%、具体的に85重量%から95重量%、さらに具体的に85重量%から90重量%を含むものであってもよい。
【0023】
前記第2ブタジエン系グラフト共重合体は、市販されるものを購買して用いるか、製造して用いてもよく、本発明の一例において、前記第2ブタジエン系グラフト共重合体は塊状重合により製造されたものであってもよい。
【0024】
本発明の一例において、前記第2ブタジエン系グラフト共重合体は、前記ブタジエン系ゴム質重合体コアとして、平均粒径が0.8μmから6μm、具体的に1μmから3.5μmであるゴム質重合体を含んでもよい。前記ブタジエン系ゴム質重合体コアの平均粒径が前記範囲より小さい場合、衝撃強度及び耐環境応力亀裂性が低下し、前記範囲より大きい場合、ゴム製造の時間が長くなり、ゴム粒子間の距離が遠いので、衝撃強度と光沢が低下し得る。
【0025】
前記第2ブタジエン系グラフト共重合体が前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物に含まれる場合、摩擦音を減少させることができ、第1ブタジエン系グラフト共重合体に比べて大きい分子量で衝撃強度を向上させることができ、少ない残留モノマー(残留化合物)の含量により樹脂組成物の匂いを改善することができる。
【0026】
前記第1ブタジエン系グラフト共重合体及び第2ブタジエン系グラフト共重合体のそれぞれにおいて、前記ブタジエン系ゴム質重合体は、ポリブタジエンまたはポリブタジエン誘導体を挙げることができる。前記ポリブタジエン誘導体は、ポリブタジエン85重量%から99重量%に、必要に応じてスチレン、アクリロニトリル及び有機シラン化合物などからなる群より選択される1種以上を1重量%から15重量%共重合したものを挙げることができる。
【0027】
また、前記第1ブタジエン系グラフト共重合体及び第2ブタジエン系グラフト共重合体のそれぞれにおいて、前記シアン化ビニル化合物由来の単位で前記シアン化ビニル化合物は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びこれらの誘導体からなる群より選択された1種以上を含んでもよく、具体的にアクリロニトリルを含んでもよい。
【0028】
また、前記第1ブタジエン系グラフト共重合体及び第2ブタジエン系グラフト共重合体のそれぞれにおいて、前記芳香族ビニル化合物由来の単位で前記芳香族ビニル化合物は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、C1-3のアルキル基で置換されたアルキルスチレン(例えば、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレンなど)、及びハロゲンで置換されたスチレンからなる群より選択された1種以上を含んでもよく、具体的にスチレンを含んでもよい。
【0029】
一方、(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体は、単独で用いられるか、分子量が異なる2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0030】
本発明の一例において、前記(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体は、前記シアン化ビニル化合物由来の単位を20重量%から40重量%、具体的に25重量%から35重量%含んでもよい。
【0031】
前記(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体が前記シアン化ビニル化合物由来の単位を前記範囲で含む場合、ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体との相溶性が良くなるので、優れた物性バランスを維持してアルファオレフィンの剥離現象を防止することができる。また、前記シアン化ビニル化合物由来の単位の含量が高くなるほど耐薬品性と機械的物性が向上し、前記芳香族ビニル化合物由来の単位の含量が高くなるほど流動性が良くなるので、圧出加工が容易になり得る。
【0032】
本発明の一例において、前記(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体は、100℃から150℃のガラス転移温度を有するものであってもよく、具体的に100℃から130℃のガラス転移温度を有するものであってもよい。
【0033】
前記(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体が前記範囲のガラス転移温度を有する場合、重合が容易で優れた物性バランスを維持することができる。
【0034】
前記(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体の前記芳香族ビニル化合物は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、C1-3のアルキル基で置換されたアルキルスチレン(例えば、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレンなど)、及びハロゲンで置換されたスチレンからなる群より選択された1種以上を含んでもよく、具体的にα-メチルスチレンを含んでもよい。前記芳香族ビニル化合物がα-メチルスチレンを含む場合、α-メチルスチレンが耐熱性を高めるという効果を奏することができる。本発明の一例において、前記芳香族ビニル化合物がα-メチルスチレンを含む場合、α-メチルスチレンが耐熱性を高めるという効果を奏することができ、前記α-メチルスチレンの含量が増加するほど全体の樹脂組成物の耐熱度が増加し得るが、α-メチルスチレンの含量が高すぎる場合、樹脂組成物を用いた加工時の解重合(depolymerization)によるガスの発生が酷くなり得る。
【0035】
本発明の一例において、前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物は、混合物の総重量対比(A)第1ブタジエン系グラフト共重合体5重量%から50重量%;(B)第2ブタジエン系グラフト共重合体0.5重量%から55重量;及び(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体15重量%から85重量%を含んでもよく、具体的に、それぞれ10重量%から40重量%;1重量%から50重量;及び20重量%から80重量%含んでもよい。
【0036】
前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物が(A)第1ブタジエン系グラフト共重合体、(B)第2ブタジエン系グラフト共重合体、及び(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体をともに含みながら、これらをそれぞれ前記含量の範囲で含む場合、衝撃強度に優れ、低い摩擦音の等級(RPN)を示し、樹脂組成物内に残留モノマー(残留化合物)が減少するという効果を奏することができる。
【0037】
本発明の一例において、前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物が、前記(A)第1ブタジエン系グラフト共重合体、(B)第2ブタジエン系グラフト共重合体、及び(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体を含む場合、前記(A)第1ブタジエン系グラフト共重合体及び(B)第2ブタジエン系グラフト共重合体の総合と、前記(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体の含量は、20:80から80:20の重量比を満たすことができ、具体的に30:70から50:50の重量比、さらに具体的に30:70から50未満:50超過の重量比を満たすことができる。
【0038】
前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物が、前記共重合体(A)及び(B)の総合と共重合体(C)の含量が前記重量比を満たす場合、優れた物性バランスを示すことができ、摩擦音改善の効果を奏することができる。
【0039】
一方、本発明の一例において、前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物は、ABS系グラフト共重合体樹脂であってもよく、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンが共重合されたABS(Acrylonitrile-Butadiene-Styrene)樹脂、及び前記アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体に前記アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン以外の単量体などが共重合された難燃ABS樹脂、耐熱ABS樹脂、無光ABS樹脂などを挙げることができる。
【0040】
また、前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物が(A)第1ブタジエン系グラフト共重合体及び(B)第2ブタジエン系グラフト共重合体を含む場合、前記(A)第1ブタジエン系グラフト共重合体及び(B)第2ブタジエン系グラフト共重合体のそれぞれは、前述した条件を満たすABS系グラフト共重合体樹脂であってもよく、具体的に、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンが共重合されたABS(Acrylonitrile-Butadiene-Styrene)樹脂、及び前記アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体に前記アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン以外の単量体などが共重合された難燃ABS樹脂、耐熱ABS樹脂、無光ABS樹脂であってもよい。
【0041】
また、本発明の一例において、前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物は、さらに(D)耐熱性熱可塑性共重合体を含んでもよく、前記(D)耐熱性熱可塑性共重合体は、マレイミド化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体であってもよい。
【0042】
前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物が前記(D)耐熱性熱可塑性共重合体をさらに含む場合、本発明の一例による樹脂組成物の耐熱性がさらに向上し得る。前記(D)耐熱性熱可塑性共重合体は、前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物100重量部を基準として5重量部から19重量部含まれてもよく、具体的に10重量部から15重量部含まれてもよい。ここで、前記(D)耐熱性熱可塑性共重合体の含量の基準となる前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物100重量部は、前記(A)第1ブタジエン系グラフト共重合体;(B)第2ブタジエン系グラフト共重合体;及び(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体の総合100重量部を意味する。
【0043】
前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物が前記(D)耐熱性熱可塑性共重合体を前記含量の範囲で含む場合、本発明の一例による樹脂組成物の耐熱性がさらに向上し、前記含量が過小である場合、耐熱性向上の効果が足りず、前記含量が過大である場合、衝撃強度及び流動性が低下し得る。
【0044】
一方、本発明の一例において、前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物が前記(A)から(C)以外に前記(D)耐熱性熱可塑性共重合体をさらに含む場合、前記(A)第1ブタジエン系グラフト共重合体及び(B)第2ブタジエン系グラフト共重合体の総合と、前記(C)シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含む共重合体及び(D)耐熱性熱可塑性共重合体の総合は、20:80から80:20の重量比を満たすことができ、具体的に30:70から50:50の重量比、さらに具体的に30:70から50未満:50超過の重量比を満たすことができる。
【0045】
前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物が、前記共重合体(A)及び(B)の総合と、共重合体(C)及び耐熱性熱可塑性共重合体(D)の総合とを前記重量比で含む場合、優れた機械的及び熱的特性を発揮することができる。
【0046】
本発明の一例において、前記(D)耐熱性熱可塑性共重合体は、マレイミド化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を30:70から70:30重量部、具体的に40:60から60:40重量部、さらに具体的に50:50から60:40重量部含んでもよい。
【0047】
前記(D)耐熱性熱可塑性共重合体で、前記マレイミド化合物由来の単位の含量が増加するほどガラス転移温度が高くなるので、前記マレイミド化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を前記重量比で含む場合、適切な衝撃強度と流動性を発揮しながらも優れた耐熱性を発揮することができる。
【0048】
前記マレイミド化合物由来の単位で、前記マレイミド化合物は、N-フェニルマレイミド 、N-エチルマレイミド及びN-シクロヘキシルマレイミドからなる群より選択された1種を含んでもよく、具体的にN-フェニルマレイミド を含んでもよい。
【0049】
前記芳香族ビニル化合物由来の単位で、前記芳香族ビニル化合物は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、C1-3のアルキル基で置換されたアルキルスチレン、及びハロゲンで置換されたスチレンからなる群より選択された1種以上を含んでもよく、具体的にスチレンを含んでもよい。
【0050】
本発明の一例において、前記(D)耐熱性熱可塑性共重合体は、150℃から250℃のガラス転移温度を有するものであってもよく、具体的に180℃から220℃のガラス転移温度を有するものであってもよい。前記(D)耐熱性熱可塑性共重合体は前記ガラス転移温度の範囲を有するので、樹脂組成物の耐熱度をさらに向上させるという効果を奏することができる。
【0051】
(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフト共重合体
本発明による樹脂組成物で、前記(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフト共重合体は、前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体と(3)アルファオレフィン系共重合体の間の相溶性を高めるので、樹脂の安定性を高め、摩擦音を減少させるのに役立つ。
【0052】
本発明による樹脂組成物で、前記(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフト共重合体は、樹脂組成物の総重量対比0.1重量%から10重量%含まれてもよく、具体的に0.5重量%から5重量%含まれてもよい。前記(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフト共重合体が前記含量の範囲で含まれる場合、適切に前述したところのような相溶性増大の効果及び摩擦音減少の効果を奏することができる。前記グラフト共重合体(2)の含量が前記範囲に比べて過小である場合、(1)ブタジエン系グラフト共重合体と(3)アルファオレフィン系共重合体の間の相溶性が足りないため、樹脂の表面に剥離現象が起こることがあり、前記グラフト共重合体(2)の含量が前記範囲に比べて過大である場合、最終の樹脂組成物の機械的物性が低下し、製造コストが過大に増加し得る。
【0053】
本発明の一例による樹脂組成物において、前記(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフト共重合体は、ポリオレフィン系重合体コアの存在下にシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物の混合物がグラフト共重合したグラフト共重合体であってもよい。
【0054】
前記(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフト共重合体は、分子内にポリオレフィン重合体コアと、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むものであってもよく、前記ポリオレフィン重合体コアはオレフィンとの相溶性を示すことができ、前記シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位は、ブタジエン系グラフト共重合体組成物との相溶性を示すことができる。
【0055】
前記(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフト共重合体は、分子内にポリオレフィン重合体コアと、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を30:70から70:30の重量比で含んでもよく、具体的に40:60から60:40の重量比で含んでもよい。前記本発明の一例による樹脂組成物で、前記(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル化合物由来の単位を含むグラフト共重合体が前記含量比で含まれる場合、(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物と(3)アルファオレフィン系共重合体の間の分離による表面剥離現象を防止するという効果を奏することができる。
【0056】
前記ポリオレフィン系重合体由来の単位で、前記ポリオレフィン系重合体は、オレフィンとの相溶性を有するポリオレフィン系重合体であれば特に制限されない。
【0057】
前記シアン化ビニル化合物由来の単位で、前記シアン化ビニル化合物は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びこれらの誘導体からなる群より選択された1種以上を含んでもよく、具体的にはアクリロニトリルを含んでもよい。
【0058】
前記芳香族ビニル化合物由来の単位で前記芳香族ビニル化合物は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、C1-3のアルキル基で置換されたアルキルスチレン、及びハロゲンで置換されたスチレンからなる群より選択された1種以上を含んでもよく、具体的にスチレンを含んでもよい。
【0059】
(3)アルファオレフィン系共重合体
前記(3)アルファオレフィン系共重合体は、ポリエチレンのアルファ位置にC4からC30のアルキル基が付着しているくし状のエチレン-アルファオレフィン共重合体であってもよい。
【0060】
前記アルファオレフィン系共重合体は、ポリエチレンのアルファ位置に付着しているC4からC30のアルキル基の存在により、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系重合体または共重合体とは区分され、前記アルファオレフィン系共重合体でないオレフィン系重合体または共重合体が前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体との相溶性が足りないか相溶性を示すことができないのとは異なり、前記アルファオレフィン系共重合体は、アルファ位置に付着しているアルキル基の存在によって、前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体との相溶性を示すことができる。
【0061】
前記アルファ位置に付着しているアルキル基の分子の大きさは制限されないが、ブタジエン系グラフト共重合体のゴム成分であるブタジエン系ゴム質重合体コアとの相溶性を考慮するとき、具体的に、アルファ位置にC4アルキルが位置するエチレン-1-ブテン共重合体であってもよい。
【0062】
材料間の摩擦が生じるときには、材料の表面で粘着(Stick)と滑り(Slip)が繰り返される現象が現れ、摩擦時の粘着過程で重合体の鎖に蓄積された機械的エネルギーが滑り過程でリリース(release)されながら摩擦音を発生するようになる。樹脂組成物がアルファオレフィンを含む場合、前記アルファオレフィン系共重合体は非極性であるため、多くの種類の素材と低い相溶性を示し、そのため、素材間の摩擦時に表面粘着性を減らすだけでなく、ガラス転移温度が低いため、摩擦時に蓄積された機械的エネルギーを吸収して熱エネルギーに切り替えることにより、摩擦音が発生することを効果的に防止することができる。
【0063】
本発明による樹脂組成物は、前記(3)アルファオレフィン系共重合体を0.1重量%から10重量%含んでもよく、具体的に0.5重量%から5重量%含んでもよい。前記(3)アルファオレフィン系共重合体が前記範囲で含まれる場合、前記(3)アルファオレフィン系共重合体が樹脂組成物の摩擦時の摩擦音の発生を効果的に低減させることができる。前記(3)アルファオレフィン系共重合体が前記含量の範囲に比べて過小である場合、十分な摩擦音低減の効果を示すことができず、前記含量の範囲に比べて過大である場合、樹脂組成物の機械的物性が低下することがあり、剥離現象が起こる可能性がある。
【0064】
前記(3)アルファオレフィン系共重合体は、30,000から200,000の重量平均分子量を有してもよく、具体的に40,000から100,000の重量平均分子量を有してもよい。前記(3)アルファオレフィン系共重合体の前記重量平均分子量が過小である場合、前記アルファオレフィン系共重合体が最終樹脂の表面から出るようになる傾向が増加して相分離が生じることがあり、前記重量平均分子量が過大である場合、アルファオレフィン共重合体が最終樹脂の内部に存在する傾向が増加し、物性が低下して摩擦音の指数が増加し得る。よって、前記(3)アルファオレフィン系共重合体が前記範囲の重量平均分子量を有する場合、前記アルファオレフィン共重合体が最終樹脂の表面から適切な位置(深さ)に存在して優れた物性及び適切な摩擦音低減の効果を奏することができる。
【0065】
前記(3)アルファオレフィン系共重合体は、5%から20%の結晶化度を有してもよく、具体的に7%から15%の結晶化度を有してもよい。前記(3)アルファオレフィン系共重合体が前記範囲の結晶化度を有する場合、適切な摩擦音低減の効果を奏することができる。前記結晶化度が過小である場合、摩擦音の指数値が高くなるようになり、過大である場合、相溶性が不良になって剥離現象が生じ得る問題がある。
【0066】
前記(3)アルファオレフィン系共重合体は、20℃から70℃の溶融温度(Tm)及び-100℃から-20℃のガラス転移温度(Tg)を有してもよく、具体的に20℃から70℃の溶融温度(Tm)及び-100℃から-20℃のガラス転移温度(Tg)を有してもよい。前記(3)アルファオレフィン系共重合体が前記範囲の溶融温度(Tm)及びガラス転移温度(Tg)を有する場合、適切な摩擦音低減の効果を奏することができる。前記溶融温度(Tm)及びガラス転移温度(Tg)が低い場合、表面粘着性が増加して摩擦音が増加することがあり、高い場合、摩擦音を熱エネルギーに変換する能力(damping)が劣るので摩擦音が増加し得る。
【0067】
一方、本発明の一例において、前記(3)アルファオレフィン系共重合体がエチレン-1-ブテン共重合体の場合、前記(3)アルファオレフィン系共重合体は、分子内のエチレンとブチルの比率が60:40から80:20の重量比であってもよく、具体的に70:30から75:25の重量比であってもよい。前記(3)アルファオレフィン系共重合体がエチレン-1-ブテン共重合体でありながら、分子内のエチレンとブチルの比率が前記範囲を満たす場合、前記(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物と優れた相溶性を発揮して樹脂の剥離現象が起こらず、樹脂が優れた機械的物性を示し得ながらも、優れた摩擦音低減の効果を奏することができる。
【0068】
また、本発明の一例による樹脂組成物は、本発明の目的を脱しない範囲内で、必要に応じて、滑剤、潤滑剤、離型剤、光及び紫外線安定剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、充填剤、衝撃補強剤などの他の添加剤を追加することができ、他の樹脂あるいは他のゴム成分をともに用いることも可能である。
【0069】
本発明の一例による樹脂組成物により製造された熱可塑性樹脂は、前記本発明の一例による樹脂組成物が含む樹脂、樹脂組成物、または樹脂組成物の組成を含んでもよい。すなわち、本発明の一実施形態による樹脂組成物により製造された熱可塑性樹脂は、(1)ブタジエン系グラフト共重合体の混合物80重量%から99.8重量%;(2)ポリオレフィン系重合体由来の単位、シアン化ビニル化合物由来の単位及び芳香族ビニル系化合物由来の単位を含むグラフト共重合体0.1重量%から10重量%;及び(3)アルファオレフィン系共重合体0.1重量%から10重量%を含むものであってもよい。
【0070】
本発明の一実施形態による樹脂組成物により製造された熱可塑性樹脂は、VDA230-206規格の標準条件でPRN(Risk-Priority-Number)値を3回測定して平均値を求めたとき、前記PRN値が5以下であってもよく、具体的に4以下、さらに具体的に1から3であってもよい。
【0071】
また、本発明の一実施形態による樹脂組成物により製造された熱可塑性樹脂は、VDA230-206規格の標準条件で、80℃及び湿度95%で350時間放置した後、23℃及び湿度50%で24時間放置してエージングしてから、PRN(Risk-Priority-Number)値を3回測定して平均値を求めたとき、前記PRN値が5以下であってもよく、具体的に4以下、より具体的に3以下であってもよく、さらに具体的に1から2.3であってもよい。
【0072】
前記VDA230-206規格の標準条件によるPRN(Risk-Priority-Number)値の測定は、例えば、ジーグラーインストルメント社(Ziegler instrument GmbH)のSSP-04テスターを用いてなされてもよく、PRN(Risk-Priority-Number)値が1から3であるとき摩擦音の発生がないものと、4から5であるとき摩擦音の発生と未発生が共存するものと、6から10であるとき摩擦音が発生するものと評価される。
【0073】
また、本発明は、一例により、前記樹脂組成物を用いて製造された成型品を提供することができる。
【0074】
前記成型品は、プラスチックで製造され得る品物の場合に特に制限されず、具体的な一例として、ディスプレイ製品、携帯電話、ノートパソコン、及び冷蔵庫などのハウジングまたは各種プラスチック部品、及び自動車用部品などであってもよい。
【0075】
以下、実施例及び実験例によって本発明をさらに詳細に説明する。しかし、下記実施例及び実験例は、本発明を例示するためのものであって、これらのみに本発明の範囲が限定されるものではない。
【0076】
[実施例]
実施例1
<樹脂組成物の製造>
ブタジエン系ゴム質重合体コアの含量が60重量%であり、粒径が3,000Åである、乳化重合により製造されたABS樹脂(A)22重量%、ブタジエン系ゴム質重合体コアの含量が12重量%であり、粒径が12,000Åである、塊状重合により製造されたABS樹脂(B)2重量%、及びアクリロニトリルの含量が30重量%であるアルファ-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合体(C)71重量%と、エチレンの含量が50重量%であるエチレン-スチレン-アクリロニトリル(PE-SAN)共重合体(2)2重量%、及び重量平均分子量が100,000、結晶化度が9.7%、溶融温度(Tm)が32℃、ガラス転移温度(Tg)が-58℃であり、エチレンとブチルの比率が64:36であるエチレン-1-ブテン共重合体(3)3重量%を混合して樹脂組成物を製造した。
【0077】
<試片の製造>
前記樹脂組成物100重量部に、滑剤としてEBA(N’N-エチレンビス-ステアリン酸アミド)0.3重量部と、酸化防止剤としてSongnox1076(ソンウォン産業社製)0.2重量部及びPEP-24(ADEKA社製)0.2重量部を添加した後、これを溶融、混練圧出してペレットを製造した。前記圧出は、L/D=29、直径40mmである二軸圧出機を用いて、シリンダーの温度は260℃に設定した。製造されたペレットで物性試片を射出成形して試片を製造した。
【0078】
実施例2及び3
下記表1に記載された含量及び成分で樹脂組成物を製造したことを除いては、実施例1と同一の方法で樹脂組成物及び試片を得た。
【0079】
実施例4及び5
実施例4及び5は、樹脂組成物の製造時にさらにフェニルマレイミドの含量が52重量%であるフェニルマレイミド-スチレン共重合体を用いたことを除いては、下記表1に記載された含量で実施例1と同一の方法を介して樹脂組成物及び試片を得た。
【0080】
下記表1で含量が0と記載されたのは、当該成分を用いていないことを意味する。
【0081】
【表1】
【0082】
比較例1
<樹脂組成物の製造>
ブタジエン系ゴム質重合体コアの含量が60重量%であり、粒径が3,000Åである、乳化重合により製造されたABS樹脂(A)25重量%、アクリロニトリルの含量が30重量%であるアルファ-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合体(C)60重量%と、アクリロニトリルの含量が31重量%であるスチレン-アクリロニトリル(SAN)共重合体(D’)15重量%とを混合して樹脂組成物を製造した。
【0083】
<試片の製造>
前記樹脂組成物100重量部に、滑剤としてEBA(N’N-エチレンビス-ステアリン酸アミド)0.5重量部と、酸化防止剤としてSongnox1076(ソンウォン産業社製)0.2重量部及びPEP-24(ADEKA社製)0.2重量部を添加した後、これを溶融、混練圧出してペレットを製造した。前記圧出は、L/D=29、直径40mmである二軸圧出機を用いて、シリンダーの温度は260℃に設定した。製造されたペレットで物性試片を射出成形して試片を製造した。
【0084】
比較例2
エチレンの含量が50重量%であるポリエチレン-ポリスチレン共重合体(PE-PS)(2’)をさらに用いたことを除いては、下記表2に記載された含量で比較例1と同一の方法を介して樹脂組成物及び試片を得た。
【0085】
比較例3
エチレンの含量が50重量%であるエチレン-スチレン-アクリロニトリル(PE-SAN)共重合体(2)をさらに用いたことを除いては、下記表2に記載された含量で比較例1と同一の方法を介して樹脂組成物及び試片を得た。
【0086】
比較例4
下記表2に記載された含量で樹脂組成物を製造したことを除いては、比較例1と同一の方法で樹脂組成物及び試片を得た。
【0087】
比較例5
アクリロニトリルの含量が31重量%であるスチレン-アクリロニトリル(SAN)共重合体(C)の代わりに、フェニルマレイミドの含量が52重量%であるフェニルマレイミド-スチレン共重合体(D)20重量%を用いたことを除いては、下記表2に記載された含量で比較例1と同一の方法を介して樹脂組成物及び試片を得た。
【0088】
比較例6
前記アクリロニトリルの含量が31重量%であるスチレン-アクリロニトリル(SAN)共重合体(C)を用いていないことを除いては、下記表2に記載された含量で比較例1と同一の方法を介して樹脂組成物及び試片を得た。
【0089】
下記表2で含量が0と記載されたのは、当該成分を用いていないことを意味する。
【0090】
【表2】
【0091】
実験例
前記実施例及び比較例により製造された試片に対し、下記の方法で物性を評価した。
【0092】
(1)アイゾット(IZOD)衝撃強度(kgf・cm/cm):23℃の常温で24時間放置後、ASTM D256方法により厚さ3.2mmの試片にノッチ(notch)を出して測定した。
【0093】
(2)流動性:ASTM D1238方法により、220℃、10kgの条件で測定した。
【0094】
(3)熱変形温度:ASTM D648方法により、厚さ6.4mmの試片を用いて測定した。
【0095】
(4)摩擦音:VDA230-206規格の標準条件でジーグラーインストルメンツ社(Ziegler instrument GmbH)のSSP-04テスターを用いて、各条件でエージングの前後、それぞれ3回ずつPRN(Risk-Priority-Number)値を測定して平均値を求めた。
【0096】
エージング条件は、80℃及び湿度95%で350時間放置した後、23℃及び湿度50%で24時間放置であり、PRN(Risk-Priority-Number)値が1から3であるとき摩擦音の発生がないものと、4から5であるとき摩擦音の発生と未発生が共存するものと、6から10であるとき摩擦音が発生するものと評価した。下記表3に、ジーグラーインストルメンツ社(Ziegler instrument GmbH)のSSP-04テスターを用いたVDA230-206規格の標準テスト条件を示した。
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】

【0100】
前記表4及び5で確認できるように、実施例1から5の樹脂組成物は、エージング前後の摩擦音の等級値に大きな変化がなかったが、比較例1から6の樹脂組成物はエージング後の摩擦音の等級が増加した。