(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】無機固体電解質含有組成物、全固体二次電池用シート、全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20231026BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20231026BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231026BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231026BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20231026BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20231026BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231026BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/134
H01M4/1395
H01B1/06 A
H01B1/10
(21)【出願番号】P 2021548468
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036472
(87)【国際公開番号】W WO2021060541
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2019177551
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】望月 宏顕
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-212990(JP,A)
【文献】特開2016-139512(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111131(WO,A1)
【文献】特表2018-515893(JP,A)
【文献】特開2008-103243(JP,A)
【文献】国際公開第2017/030154(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/017310(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
H01B 1/06
H01B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、活物質と、下記(A)~(C)から選択される少なくとも1つの化合物(SA)とを含有する無機固体電解質含有組成物であって、
前記無機固体電解質含有組成物の固形分100質量%中において、前記固体電解質と前記活物質との合計含有量が50質量%以上であり、前記活物質の含有量が30%以上である、無機固体電解質含有組成物
(ただし、活性光線で活性化された無機固体電解質及び活物質の少なくとも1種の表面に下記オルガノポリシロキサン(C)が共有結合を介して担持された粒子を含む無機固体電解質含有組成物を除く)。
(A):下記式(1)で表される化合物
式(1) R-A-X
式(1)中、Rはフッ化炭化水素基とフッ素原子を有さない炭化水素基とを含む基を示す。Aは芳香族環構造を含まない2価の連結基を示す。Xは下記官能基群(I)で示される官能基を示す。
(B):下記官能基群(I)に含まれる官能基のうち少なくとも一つのリン酸基若しくはアルコキシシリル基を有する、パーフルオロポリエーテル、ポリクロロトリフルオロエチレン又はポリテトラフルオロエチレン
(C):下記官能基群(I)に含まれる官能基のうち少なくとも一つの官能基を有するオルガノポリシロキサン
<官能基群(I)>
酸性基、塩基性窒素原子を有する基、アミド基、ウレア基、ウレタン基、アルコキシシリル基、エポキシ基、イソシアネート基、水酸基、又は(メタ)アクリロイルオキシ基
【請求項2】
前記無機固体電解質含有組成物の固形分100質量%中における、前記無機固体電解質の含有量[SE]と前記化合物(SA)の合計含有量[SA]との比率:[SA]/[SE]が0.0003~0.11である、請求項1に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項3】
前記オルガノポリシロキサン(C)が前記官能基群(I)に含まれる官能基のうちカルボキシ基、エポキシ基、メタクリロイル基又は水酸基を有する、請求項1又は2に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項4】
ポリマーバインダーを含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項5】
前記無機固体電解質含有組成物の固形分100質量%中における、前記ポリマーバインダーの含有量[BR]と前記化合物(SA)の合計含有量[SA]との比率:[BR]/[SA]が0.2~5である、請求項
4に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項6】
前記活物質がケイ素元素又はスズ元素を含有する活物質である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項7】
前記化合物(SA)が前記式(1)で表される化合物を含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項8】
前記無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項9】
分散媒を含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項10】
前記分散媒がケトン化合物、脂肪族化合物及びエステル化合物から選ばれる、請求項
9に記載の無機固体電解質含有組成物。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物で構成した層を有する全固体二次電池用シート。
【請求項12】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物で構成した活物質層を有する全固体二次電池用電極シート。
【請求項13】
正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
前記正極活物質層及び前記負極活物質層の少なくとも1つの層が、請求項1~
10のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物で構成した層である、全固体二次電池。
【請求項14】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の無機固体電解質含有組成物を製膜する、全固体二次電池用シートの製造方法。
【請求項15】
請求項
14に記載の製造方法を経て全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機固体電解質含有組成物、全固体二次電池用シート、全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体二次電池は負極、電解質、正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性及び信頼性を大きく改善することができる。また長寿命化も可能になるとされる。更に、全固体二次電池は、電極と電解質を直接並べて直列に配した構造とすることができる。そのため、有機電解液を用いた二次電池に比べて高エネルギー密度化が可能となり、電気自動車又は大型蓄電池等への応用が期待されている。
【0003】
このような全固体二次電池において、構成層(固体電解質層、負極活物質層、正極活物質層等)を形成する物質として、無機固体電解質、活物質、導電助剤等の固体粒子材が用いられる。そのため、このような構成層を形成する材料(構成層形成材料)には、通常、固体粒子材に加えて、固体粒子材を結着させるバインダー、分散媒に分散させる分散剤等の材料が用いられる。
例えば、特許文献1には、正極活物質と、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、導電助剤と、特定の官能基を有する化合物を含んでなる分散剤とを含有する正極用材料が記載されている。特許文献2には、(A)周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、特定の含有量で(B)特定の条件を満たす含フッ素化合物と、(C)分散媒とを含有する固体電解質組成物が記載されている。特許文献3には、周期律表第一族又は第二族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、高分子分散剤として特定の式で表される化合物(B)とを含む固体電解質組成物が記載されている。
また、構成層形成材料に無機固体電解質等と併用させる物質ではなく、固体電解質を予め表面処理した固体電解質を用いた材料も提案されている。例えば、特許文献4には、少なくともリチウム及びリンを含有する硫化物系固体電解質の表面がフッ素含有シラン化合物又はフッ素含有アクリル樹脂でコーティングされてなるリチウム電池用被コーティング固体電解質と、バインダーとを含有する溶液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/194759号
【文献】国際公開第2018/016544号
【文献】国際公開第2016/136089号
【文献】特開2010-033732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体粒子材(単に固体粒子ともいう。)で形成した構成層においては、一般に、固体粒子間(例えば、無機固体電解質同士間、無機固体電解質及び活物質間、活物質同士間)の界面接触状態が十分ではない。更に、全固体二次電池の構成層、特に活物質層が充放電によって膨張収縮(周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの放出吸収に伴う活物質の収縮膨張)を繰り返すと、固体粒子同士の接触状態は次第に低下する。特に、リチウムと合金形成可能な(負極)活物質は高いイオン伝導度を示し、基本的な電池性能の向上に資する点で着目されているが、その一方で、充放電による膨張収縮が大きく固体粒子同士の接触状態が著しく低下する。このような固体粒子同士の接触状態の低下は、構成層中の固体粒子間に空隙が徐々に生じることに起因していると考えられ、全固体二次電池の抵抗を上昇させるだけでなく、サイクル特性をも低下させる。
【0006】
本発明は、全固体二次電池の構成層形成材料として用いることにより、全固体二次電池の充放電による空隙の発生を抑制できる構成層を実現可能な無機固体電解質含有組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、この無機固体電解質含有組成物を用いた、全固体二次電池用シート、全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、無機固体電解質に対して、特定の分子構造を有し、かつ特定の官能基を導入した化合物(SA)を組み合わせて用いた無機固体電解質含有組成物が、全固体二次電池の構成層形成材料として用いることにより、固体粒子同士の摩擦抵抗が低減して充放電による構成層の膨張収縮時に空隙が発生しにくい構成層を実現できることを見出した。また、この無機固体電解質含有組成物で形成された構成層を全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の構成層として採用することにより、全固体二次電池について低抵抗化とサイクル特性の改善が可能となることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、下記(A)~(C)から選択される少なくとも1つの化合物(SA)とを含有する無機固体電解質含有組成物。
(A):下記式(1)で表される化合物
式(1) R-A-X
式(1)中、Rは、フッ素原子を有さない炭素数6以上の脂肪族炭化水素基(ただし、ステロイド環構造を含まない。)、又はフッ化炭化水素基とフッ素原子を有さない炭化水素基とを含む基を示す。Aは芳香族環構造を含まない2価の連結基を示す。Xは下記官能基群(I)で示される官能基を示す。
(B):下記官能基群(I)に含まれる官能基のうち少なくとも一つの官能基を有する、パーフルオロポリエーテル、ポリクロロトリフルオロエチレン又はポリテトラフルオロエチレン
(C):下記官能基群(I)に含まれる官能基のうち少なくとも一つの官能基を有するオルガノポリシロキサン
<官能基群(I)>
酸性基、塩基性窒素原子を有する基、アミド基、ウレア基、ウレタン基、アルコキシシリル基、エポキシ基、イソシアネート基、水酸基、又は(メタ)アクリロイルオキシ基
<2>無機固体電解質含有組成物の固形分100質量%中における、無機固体電解質の含有量[SE]と化合物(SA)の合計含有量[SA]との比率:[SA]/[SE]が0.0003~0.11である、<1>に記載の無機固体電解質含有組成物。
<3>ポリマーバインダーを含む、<1>又は<2>に記載の無機固体電解質含有組成物。
<4>無機固体電解質含有組成物の固形分100質量%中における、ポリマーバインダーの含有量[BR]と化合物(SA)の合計含有量[SA]との比率:[BR]/[SA]が0.2~5である、<3>に記載の無機固体電解質含有組成物。
<5>活物質を含有する、<1>~<4>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物。
<6>活物質がケイ素元素又はスズ元素を含有する活物質である、<5>に記載の無機固体電解質含有組成物。
<7>化合物(SA)が式(1)で表される化合物を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物。
<8>無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物。
<9>分散媒を含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物。
<10>分散媒がケトン化合物、脂肪族化合物及びエステル化合物から選ばれる、<1>~<9>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物。
<11>上記<1>~<10>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物で構成した層を有する全固体二次電池用シート。
<12>上記<5>又は<6>に記載の無機固体電解質含有組成物で構成した活物質層を有する全固体二次電池用電極シート。
<13>正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層の少なくとも1つの層が、<1>~<10>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物で構成した層である、全固体二次電池。
<14>上記<1>~<10>のいずれか1つに記載の無機固体電解質含有組成物を製膜する、全固体二次電池用シートの製造方法。
<15>上記<14>に記載の製造方法を経て全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無機固体電解質含有組成物は、全固体二次電池の構成層形成材料として用いることにより、全固体二次電池の充放電による空隙の発生を抑制できる構成層を実現できる。また、本発明の全固体二次電池用シート及び全固体二次電池用電極シートは、全固体二次電池の構成層として用いることにより、低抵抗化と優れたサイクル特性とを示す全固体二次電池を実現できる。更に、本発明の全固体二次電池は低抵抗化と優れたサイクル特性とを示す。
また、本発明の全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の各製造方法は、上述の優れた特性を示す全固体二次電池用シート及び全固体二次電池を製造できる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
【
図2】実施例で作製した全固体二次電池(コイン電池)を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明において化合物の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、この化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタアクリルの一方又は両方を意味する。(メタ)アクリレートについても同様である。
本発明において、置換又は無置換を明記していない置換基、連結基等(以下、置換基等という。)については、その基に適宜の置換基を有していてもよい意味である。よって、本発明において、単に、YYY基と記載されている場合であっても、このYYY基は、置換基を有しない態様に加えて、更に置換基を有する態様も包含する。これは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、例えば後述する置換基Zが挙げられる。
本発明において、特定の符号で示された置換基等が複数あるとき、又は複数の置換基等を同時若しくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。また、特に断らない場合であっても、複数の置換基等が隣接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい意味である。
本発明において、ポリマーは、重合体を意味するが、いわゆる高分子化合物と同義である。また、ポリマーバインダー(単にバインダーともいう。)は、ポリマーで構成されたバインダーを意味し、ポリマーそのもの、及びポリマーを含んで形成されたバインダーを包含する。
【0012】
[無機固体電解質含有組成物]
本発明の無機固体電解質含有組成物は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、後述する(A)~(C)から選択される少なくとも1つの化合物(SA)を含有する。
本発明の無機固体電解質含有組成物において、無機固体電解質と化合物(SA)との含有状態等は特に制限されず、無機固体電解質等の固体粒子と化合物(SA)が独立に存在(分散)していてもよい。すなわち、化合物(SA)は固体粒子の表面に吸着若しくは付着していてもいなくてもよいが、吸着若しくは付着していることが好ましい。
【0013】
本発明の無機固体電解質含有組成物は、全固体二次電池の充放電を繰り返しても空隙が発生しにくい構成層を形成でき、充放電により膨張収縮する活物質層、特に膨張収縮が大きな負極活物質層についても空隙の発生を抑制して、固体粒子同士の所期の接触状態を維持できる。このような構成層を備えた全固体二次電池は、本発明の無機固体電解質含有組成物を全固体二次電池の構成層形成材料として用いることにより、低抵抗化とサイクル特性の改善とを実現できる。
【0014】
上記の作用効果は、本発明の無機固体電解質含有組成物において、無機固体電解質に対して、後述する化合物(SA)を組み合わせて用いることにより、実現される。その理由の詳細はまだ明らかではないが、次のように考えられる。
すなわち、無機固体電解質含有組成物で形成された構成層中において、無機固体電解質(更には、共存しうる、活物質、導電助剤)等の固体粒子と併用する化合物(SA)は、その官能基で固体粒子(特に無機固体電解質)、通常その表面に付着若しくは吸着している。化合物(SA)が吸着等した固体粒子は、その化合物(SA)の介在により、近傍に位置する別の固体粒子に対して(例えば、無機固体電解質同士、無機固体電解質と活物物質、活物質同士)高い摺動性(滑り性)を示す(小さな表面摩擦抵抗を示す)。その結果、構成層の膨張収縮によっても固体粒子同士の所期の接触状態を維持できると考えられる。
例えば、活物質層について具体的に説明すると、全固体二次電池の充電により膨張した活物質層は、放電により、固体粒子が空隙を発生しないように移行して高密状態に収縮する。全固体二次電池は、通常加圧拘束されているため高密な活物質層への収縮は助長される。このような高密な活物質層への収縮は固体粒子間に上記化合物(SA)が介在している限り、繰り返し実現できる。
上述のように、上記化合物(SA)を含有する構成層は、全固体二次電池の充放電による空隙、特に収縮時の空隙の発生を抑制でき、その結果、全固体二次電池を充放電しても固体粒子同士の所期の接触状態を維持できる。そのため、本発明の無機固体電解質含有組成物で形成した構成層を備えた全固体二次電池は低抵抗化とサイクル特性とを高い水準で両立できる。
詳細は後述するが、本発明の上記作用効果は、ポリマーバインダーを併用することにより、特に、無機固体電解質、上記化合物(SA)及びポリマーバインダーを特定の含有割合で併用することにより、更に優れたものとなる。
【0015】
本発明の無機固体電解質含有組成物は、全固体二次電池用シート(全固体二次電池用電極シートを含む。)又は全固体二次電池の、固体電解質層又は活物質層の形成材料(構成層形成材料)として好ましく用いることができる。特に、充放電による膨張収縮が大きい負極活物質を含む全固体二次電池用負極シート又は負極活物質層の形成材料として好ましく用いることができ、この態様においては、高い活物質容量を示しつつも低抵抗化及び高いサイクル特性を達成できる。
【0016】
本発明の無機固体電解質含有組成物は非水系組成物であることが好ましい。本発明において、非水系組成物とは、水分を含有しない態様に加えて、含水率(水分含有量ともいう。)が好ましくは500ppm以下である形態をも包含する。非水系組成物において、含水率は、200ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。無機固体電解質含有組成物が非水系組成物であると、無機固体電解質の劣化を抑制することができる。含水量は、無機固体電解質含有組成物中に含有している水の量(無機固体電解質含有組成物に対する質量割合)を示し、具体的には、0.02μmのメンブレンフィルターでろ過し、カールフィッシャー滴定を用いて測定された値とする。
【0017】
本発明の無機固体電解質含有組成物は、無機固体電解質に加えて、活物質、更には導電助剤等を含有する態様も包含する(この態様の組成物を電極用組成物という。)。
以下、本発明の無機固体電解質含有組成物が含有する成分及び含有しうる成分について説明する。
【0018】
<無機固体電解質>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、無機固体電解質を含有する。
本発明において、無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンに解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば、特に限定されず、電子伝導性を有さないものが一般的である。本発明の全固体二次電池がリチウムイオン電池の場合、無機固体電解質は、リチウムイオンのイオン伝導性を有することが好ましい。
上記無機固体電解質は、全固体二次電池に通常使用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。例えば、無機固体電解質としては、(i)硫化物系無機固体電解質、(ii)酸化物系無機固体電解質、(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質、及び、(iv)水素化物系無機固体電解質が挙げられ、活物質と無機固体電解質との間により良好な界面を形成することができる観点から、硫化物系無機固体電解質が好ましい。
【0019】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0020】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(S1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。
La1Mb1Pc1Sd1Ae1 (S1)
式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0021】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0022】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(Li2S)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P2S5))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS2、SnS、GeS2)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0023】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、Li2SとP2S5との比率は、Li2S:P2S5のモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。Li2SとP2S5との比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0024】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-H2S、Li2S-P2S5-H2S-LiCl、Li2S-LiI-P2S5、Li2S-LiI-Li2O-P2S5、Li2S-LiBr-P2S5、Li2S-Li2O-P2S5、Li2S-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-P2O5、Li2S-P2S5-SiS2、Li2S-P2S5-SiS2-LiCl、Li2S-P2S5-SnS、Li2S-P2S5-Al2S3、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-ZnS、Li2S-Ga2S3、Li2S-GeS2-Ga2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-GeS2-Sb2S5、Li2S-GeS2-Al2S3、Li2S-SiS2、Li2S-Al2S3、Li2S-SiS2-Al2S3、Li2S-SiS2-P2S5、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li10GeP2S12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0025】
(ii)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
酸化物系無機固体電解質は、イオン伝導度として、1×10-6S/cm以上であることが好ましく、5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、1×10-5S/cm以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0026】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO3〔xaは0.3≦xa≦0.7を満たし、yaは0.3≦ya≦0.7を満たす。〕(LLT); LixbLaybZrzbMbb
mbOnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。); LixcBycMcc
zcOnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xcは0<xc≦5を満たし、ycは0<yc≦1を満たし、zcは0<zc≦1を満たし、ncは0<nc≦6を満たす。); Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadPmdOnd(xdは1≦xd≦3を満たし、ydは0≦yd≦1を満たし、zdは0≦zd≦2を満たし、adは0≦ad≦1を満たし、mdは1≦md≦7を満たし、ndは3≦nd≦13を満たす。); Li(3-2xe)Mee
xeDeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。); LixfSiyfOzf(xfは1≦xf≦5を満たし、yfは0<yf≦3を満たし、zfは1≦zf≦10を満たす。); LixgSygOzg(xgは1≦xg≦3を満たし、ygは0<yg≦2を満たし、zgは1≦zg≦10を満たす。); Li3BO3; Li3BO3-Li2SO4; Li2O-B2O3-P2O5; Li2O-SiO2; Li6BaLa2Ta2O12; Li3PO(4-3/2w)Nw(wはw<1); LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4; ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO3; NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi2P3O12; Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyhP3-yhO12(xhは0≦xh≦1を満たし、yhは0≦yh≦1を満たす。); ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12(LLZ)等が挙げられる。
またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(Li3PO4); リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON; LiPOD1(D1は、好ましくは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt及びAuから選ばれる1種以上の元素である。)等が挙げられる。
更に、LiA1ON(A1は、Si、B、Ge、Al、C及びGaから選ばれる1種以上の元素である。)等も好ましく用いることができる。
【0027】
(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質
ハロゲン化物系無機固体電解質は、ハロゲン原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
ハロゲン化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiCl、LiBr、LiI、ADVANCED MATERIALS,2018,30,1803075に記載のLi3YBr6、Li3YCl6等の化合物が挙げられる。中でも、Li3YBr6、Li3YCl6を好ましい。
【0028】
(iv)水素化物系無機固体電解質
水素化物系無機固体電解質は、水素原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
水素化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiBH4、Li4(BH4)3I、3LiBH4-LiCl等が挙げられる。
【0029】
無機固体電解質は粒子であることが好ましい。この場合、無機固体電解質の粒子径(体積平均粒子径)は特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
無機固体電解質の粒子径の測定は、以下の手順で行う。無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散液試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要により日本産業規格(JIS) Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0030】
無機固体電解質は、1種を含有していても、2種以上を含有していてもよい。
固体電解質層を形成する場合、固体電解質層の単位面積(cm2)当たりの無機固体電解質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
ただし、無機固体電解質含有組成物が後述する活物質を含有する場合、無機固体電解質の目付量は、活物質と無機固体電解質との合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0031】
無機固体電解質の、無機固体電解質含有組成物中の含有量は、特に制限されないが、結着性の点、更には分散性の点で、固形分100質量%において、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、同様の観点から、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが特に好ましい。
ただし、無機固体電解質含有組成物が後述する活物質を含有する場合、無機固体電解質含有組成物中の無機固体電解質の含有量は、活物質と無機固体電解質との合計含有量が上記範囲であることが好ましい。
本発明において、固形分(固形成分)とは、無機固体電解質含有組成物を、1mmHgの気圧下、窒素雰囲気下150℃で6時間乾燥処理したときに、揮発若しくは蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、後述の分散媒以外の成分を指す。
【0032】
<化合物(SA)>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、特定の化合物(SA)として下記(A)~(C)のいずれか1つ以上の化合物を含有する。
(A):後述する式(1)で表される化合物
(B):下記官能基群(I)に含まれる官能基のうち少なくとも一つの官能基を有する、パーフルオロポリエーテル、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン
(C):下記官能基群(I)に含まれる官能基のうち少なくとも一つの官能基を有するオルガノポリシロキサン
【0033】
本発明において、上記(A)、(B)又は(C)に包含される化合物を、便宜上、化合物群(A)、(B)又は(C)と総称していうことがある。
本発明の無機固体電解質含有組成物が含有する化合物(SA)は、1つ以上であればよく、例えば、1~3つとすることができる。複数含有する場合は、同一の化合物群((A)~(C)のいずれか)から選択されてもよく、異なる化合物群から選択されてもよい。
下記(A)~(C)の各化合物は、上述のように、構成層中に無機固体電解質と併用されることにより、全固体二次電池の充放電による空隙の発生を抑制できるという共通の作用効果を示す。この作用効果に優れる点で、化合物(A)が好ましい。
【0034】
化合物(SA)が含有する官能基は、下記官能基群(I)に含まれる官能基のうち少なくとも一つである。下記群(I)に含まれる官能基は、無機固体電解質をはじめ、活物質、更には導電助剤等と相互作用して吸着する性質を有する。この相互作用は、特に制限されないが、例えば、水素結合によるもの、酸-塩基によるイオン結合によるもの、共有結合によるもの、芳香環によるπ-π相互作用によるもの、又は、疎水-疎水相互作用によるもの等が挙げられる。これらの官能基が相互作用する場合、官能基の化学構造は変化しても変化しなくてもよい。例えば、上記π-π相互作用等においては、通常、官能基は変化せず、そのままの構造を維持する。一方、共有結合等による相互作用においては、通常、カルボン酸基等の活性水素が離脱したアニオンとなって(官能基が変化して)固体粒子と結合する。
化合物1分子が有する官能基の数は、1以上であれば特に制限されず、適宜に設定される。例えば、化合物(A)が有する官能基の数は、1~6個とすることができ、1個又は2個がより好ましい。化合物(B)及び化合物(C)が有する官能基の数は、ポリマー構造により一義的に決定できず、例えば、1~100個とすることができ、化合物(B)は1個又は2個が好ましい。
<官能基群(I)>
酸性基、塩基性窒素原子を有する基、アミド基、ウレア基、ウレタン基、アルコキシシリル基、エポキシ基、イソシアネート基、水酸基、又は(メタ)アクリロイルオキシ基
【0035】
酸性基としては、特に制限されず、例えば、カルボン酸基(-COOH)、スルホン酸基(スルホ基:-SO3H)、リン酸基(ホスホ基:-OPO(OH)2)、ホスホン酸基及びホスフィン酸基が挙げられ、カルボン酸基が好ましい。
塩基性窒素原子を有する基としては、アミノ基、ピリジル基、イミノ基及びアミジン基(-C(=NR)-NR2)が挙げられる。アミノ基は後述する置換基Zのアミノ基と同義であるが、無置換アミノ基又はアルキルアミノ基が好ましい。アミジン基の3つのRはそれぞれ水素原子又は置換基(例えば後述する置換基Zから選択される基)を示す。
ウレア基としては、例えば、-NR15CONR16R17(ここで、R15、R16及びR17は水素原子又は炭素数1~20のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数7以上のアラルキル基を表す。)が好ましい例として挙げられる。このウレア基としては、-NR15CONHR17(ここで、R15及びR17は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数7以上のアラルキル基を表す。)がより好ましく、-NHCONHR17(ここで、R17は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数7以上のアラルキル基を表す。)が特に好ましい。
【0036】
ウレタン基としては、例えば、-NHCOOR18、-NR19COOR20、-OCONHR21、-OCONR22R23(ここで、R18、R19、R20、R21、R22及びR23は炭素数1~20のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数7以上のアラルキル基を表す。)などの、少なくともイミノ基とカルボニル基とを含む基が好ましい例として挙げられる。ウレタン基としては、-NHCOOR18、-OCONHR21(ここで、R18、R21は炭素数1~20のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数7以上のアラルキル基を表す。)などがより好ましく、-NHCOOR18、-OCONHR21(ここで、R18、R21は炭素数1~10のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数7以上のアラルキル基を表す。)などが特に好ましい。
アミド基としては、特に制限されないが、例えば、-CONR16R17、-NR15-COR18(R15~R18は上記の通りである。)などの、カルボニル基とアミノ基若しくはイミノ基とを含む基が好ましい例として挙げられる。アミド基としては、-NR15-COR18が好ましく、-NHCOR18がより好ましい。
【0037】
アルコキシシリル基としては、特に制限されず、モノ-、ジ-若しくはトリ-アルコキシシリル基が挙げられ、好ましくは炭素数1~20の、より好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基が挙げられる。例えば、メトキシシリル、エトキシシリル、t-ブトキシシリル、シクロヘキシルシリル、更には後述する置換基Zで例示する各基が挙げられる。
(メタ)アクリロイルオキシ基としては、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシが挙げられる。
【0038】
酸性基、塩基性窒素原子を有する基、水酸基等は塩を形成していてもよい。
化合物(SA)が有する官能基は、酸性基、アルコキシシリル基、アミド基、ウレア基、ウレタン基又はエポキシ基が好ましく、酸性基がより好ましい。
【0039】
化合物(A)は、下記(1)で表される化合物である。
式(1) R-A-X
式(1)中、Rは、フッ素原子を有さない炭素数6以上の脂肪族炭化水素基(ただし、ステロイド環構造を含まない。)、又はフッ化炭化水素基とフッ素原子を有さない炭化水素基とを含む基を示す。Aは芳香族環構造を含まない2価の連結基を示す。Xは上記官能基群(I)で示される官能基を示す。
【0040】
Rとしては、フッ素原子を有さない炭素数6以上の脂肪族炭化水素基(ただし、ステロイド環構造を含まない。)をとる形態(便宜上、第一形態という)と、フッ化炭化水素基とフッ素原子を有さない炭化水素基とを含む基をとる形態(便宜上、第二形態という)とのいずれかの基をとる。
第一形態において、Rは脂肪族炭化水素基である。これにより、構成層中において上記化合物(SA)が吸着した固体粒子は、その近傍に存在する別の固体粒子に対する相互作用が低下して、固体粒子同士の摩擦抵抗を低減させることができる。
Rとして採りうる脂肪族炭化水素基は、特に制限されず、脂肪族飽和炭化水素基(アルキル基)であっても脂肪族不飽和炭化水素基(アルケニル基、アルキニル基)であってもよい。中でも、アルキル基又はアルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
また、脂肪族炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でも環状でもよく、一部に環状構造を含んでいてもよい。ただし、この脂肪族炭化水素基は、下記に示すステロイド環構造(ステロイド骨格)を含まない。ステロイド環構造を含まないとは、脂肪族炭化水素基がその構造中にステロイド環構造を含まないこと、更に脂肪族炭化水素基自体がステロイド環構造の基ではないことを意味する。脂肪族炭化水素基は、環状構造を含まないことが好ましく、非環状炭化水素基(直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基)がより好ましい。脂肪族炭化水素基が環状構造を含まない態様として、縮合環構造、好ましくは2環以上、より好ましくは3環以上の縮合環構造を含まない態様も挙げられる。この縮合環構造は脂肪族でも芳香族でもよい。
脂肪族炭化水素基は、固体粒子に対する摩擦抵抗の低減の点で、直鎖状又は分岐状が好ましく、直鎖状がより好ましい。
【0041】
【0042】
脂肪族炭化水素基の炭素数は、6以上であり、固体粒子の摩擦抵抗の低減及びサイクル特性の点で、8以上が好ましく、12以上がより好ましく、18以上が更に好ましい。一方、炭素数の上限は、特に制限されないが、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、22以下が更に好ましい。
脂肪族炭化水素基の炭素数は、脂肪族炭化水素基を構成する炭素原子の炭素数を意味し、脂肪族炭化水素基が置換基を有する場合、置換基を構成する炭素原子の数を含まない。ただし、脂肪族炭化水素基が分岐状炭化水素基である場合、分岐鎖を構成する炭素原子の数を含む(例えば、2-エチルヘキシル基である場合、炭素数は8とする。)。
【0043】
脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよいが、フッ素原子及びステロイド環構造を置換基として有することはない。脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限されない。例えば、後述する置換基Zを挙げることができ、上記官能基群(I)に含まれる官能基以外の基、及びアリール基以外の基が好ましい。すなわち、脂肪族炭化水素基は、置換基として官能基群(I)に含まれる官能基、アリール基又はこれらを含む基を有さないことが好ましい。
【0044】
第二形態において、Rとして採りうる、フッ化炭化水素基とフッ素原子を有さない炭化水素基とを含む基としては、フッ化炭化水素基とフッ素原子を有さない炭化水素基とからなる基と、更にこれら以外の基の別の基(すなわち、フッ化炭化水素基以外、かつフッ素原子を有さない炭化水素基以外の別の基)を含む基との両形態が挙げられる。別の基は、通常、フッ化炭化水素基とフッ素原子を有さない炭化水素基との間に結合している。別の基としては、特に制限されず、後述するAとして採りうる連結基が挙げられる。本発明においては、フッ化炭化水素基とフッ素原子を有さない炭化水素基とからなる基が好ましい。
フッ化炭化水素基を構成するフッ素化される前の炭化水素基、及びフッ素原子を有さない炭化水素基は、特に制限されず、芳香族炭化水素基でもよいが、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。これにより、固体粒子の摩擦抵抗を低減できる。
この脂肪族炭化水素基は、特に制限されず、脂肪族飽和炭化水素基であっても脂肪族不飽和炭化水素基であってもよい。中でも、アルキル基又はアルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。また、脂肪族炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でも環状でもよく、一部に環状構造を含んでいてもよいが、直鎖状又は分岐状が好ましく、直鎖状がより好ましい。第二形態における脂肪族炭化水素基はステロイド環構造を含んでいてもよい。
【0045】
第二形態におけるフッ化炭化水素基は、フッ素化された炭化水素基であり、その炭素数は特に限定されない。フッ化炭化水素基の炭素数は、例えば、1以上とすることができ、固体粒子の摩擦抵抗の低減、低抵抗化及びサイクル特性の点で、2以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。一方、炭素数の上限は、特に制限されないが、20以下が好ましく、15以下がより好ましく、8以下が更に好ましい。
フッ化炭化水素基は、フッ素化される前の炭化水素基が有するすべての水素原子がフッ素原子で置換されていてもよく(パーフルオロ炭化水素基)、その一部がフッ素原子で置換されていてもよい。本発明では、固体粒子の摩擦抵抗を効果的に低減できる点で、パーフルオロ炭化水素基が好ましい。なお、水素原子の一部がフッ素原子で置換されている場合、残りの水素原子はフッ素原子以外の置換基で置換されていてもよい。
【0046】
第二形態におけるフッ素原子を有さない炭化水素基は、フッ化炭化水素基以外の炭化水素基であればよく、置換基を有していてもよいが、置換基を有さない炭化水素基(無置換炭化水素基)が好ましい。フッ素原子を有さない炭化水素基の炭素数は、例えば、1以上とすることができ、固体粒子の摩擦抵抗の低減、低抵抗化及びサイクル特性の点で、2以上が好ましい。一方、炭素数の上限は、特に制限されないが、20以下が好ましく、10以下がより好ましく、6以下が更に好ましい。
【0047】
第二形態における、フッ化炭化水素基とフッ素原子を有さない炭化水素基との組み合わせは、特に制限されず、上述の好ましいもの同士の組み合わせが挙げられる。なかでも、フッ化炭化水素基を構成する炭化水素基及びフッ素原子を有さない炭化水素基は、いずれも、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましく、直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であることが更に好ましく、直鎖状アルキル基であることが特に好ましい。
第二形態における、フッ化炭化水素基とフッ素原子を有さない炭化水素基と結合様式は、特に制限されず、一方の炭化水素基の側鎖として他方の炭化水素基が結合(例えば、全体として分岐鎖状炭化水素基を形成)してもよいが、直鎖状に結合(好ましくは全体として直鎖状炭化水素基を形成)することが好ましい。また、いずれの炭化水素基が上記式(1)の連結基Aに結合していてもよいが、固体粒子の摩擦抵抗の低減の点で、フッ素原子を有さない炭化水素基が連結基Aに結合し、フッ化炭化水素基が末端(自由)となることが好ましい。
フッ化炭化水素基とフッ素原子を有さない炭化水素基とを含む基としての合計炭素数は、フッ化炭化水素基及びフッ素原子を有さない炭化水素基がとりうる炭素数の合計範囲内で適宜に決定され、好ましくは、第一形態における脂肪族炭化水素基の炭素数の範囲と同義である。本発明において、上記合計炭素数の意味は、第一形態における脂肪族炭化水素基の炭素数の意味と同義であり、置換基を構成する炭素原子の数を含まない。
【0048】
本発明において、炭化水素基は、その分子鎖内部に1つ以上のヘテロ原子(炭素原子以外、かつ水素原子以外の原子であって、例えば酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ケイ素原子)を含んでいてもよいが、含んでいないことが好ましい態様の1つである。
【0049】
式(1)中のAは、芳香族環構造を含まない2価の連結基を示し、脂肪族基であることが好ましい。
Aとしてとりうる連結基としては、特に制限されないが、例えば、アルキレン基(炭素数は1~20が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が更に好ましい)、アルケニレン基(炭素数は2~18が好ましく、2~10がより好ましく、2~6が更に好ましい)、酸素原子、硫黄原子、イミノ基(-NRN-)、カルボニル基、リン酸連結基(-O-P(OH)(O)-O-)、ホスホン酸連結基(-P(OH)(O)-O-)、又はこれらの組み合わせに係る基等が挙げられる。
連結基としてとりうるアルキレン基及びアルケニレン基は、それぞれ、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれでもよいが、固体粒子の摩擦抵抗の低減の点で、アルキレン基は直鎖状又は分岐鎖状が好ましく、アルケニレン基は直鎖状が好ましい。環状のアルキレン基としてはシクロへキサン環基、ノルボルナン環基が挙げられ、環状のアルケニレン基としてはシクロへキセン環基、ノルボルネン環基等が挙げられる。
【0050】
上記各基の組み合わせに係る基としては、アルキレン基、アルケニレン基、カルボニル基、酸素原子、硫黄原子及びイミノ基を組み合わせてなる基が好ましく、アルキレン基、アルケニレン基、カルボニル基、酸素原子及びイミノ基を組み合わせてなる基がより好ましく、-CO-O-基を含む基が更に好ましく、-CO-O-基とアルキレン基又はアルケニレン基とを組み合わせてなる基が特に好ましい。-CO-O-基を含む基において、-CO-O-基は式(1)中のRと結合することが好ましく、-CO-O-基中の酸素原子が式(1)中のRと結合することがより好ましい。-CO-O-基を含む基としては実施例で用いた各化合物に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明において、連結基を構成する原子の総数は、1~36であることが好ましく、1~24であることがより好ましく、1~12であることが更に好ましく、1~6であることが特に好ましい。連結基の連結原子数は10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。下限としては、1以上である。上記連結原子数とは式(1)のRとXとを結ぶ最少の原子数をいう。例えば、実施例で用いた化合物A-08のシクロへキサン環と-CO-O-基とからなる連結基である場合、連結基を構成する原子の数は19となるが、連結原子数は4となる。
【0051】
Aとして採りうる連結基は、アルキレン基、酸素原子、又は-CO-O-基とアルキレン基若しくはアルケニレン基とを組み合わせてなる基が好ましく、固体粒子の摩擦抵抗の低減の点で、アルキレン基がより好ましい。
ただし、式(1)において、R-A-基が単一の基(アラルキル基を除く)をとる場合、単一の基に含まれる上記連結基の最小単位をAとし、残りをRとする。例えば、R-A-基が全体としてアルキル基(実施例で用いた化合物A-01ではウンデカニル基)である場合、Aをメチレン基(連結基としてのアルキレン基の最小単位)とし、残りの基(化合物A-01ではデカニル基)をRとする。
【0052】
Aとして採りうる連結基は、置換基を有していてもよいが、置換基を有していないことが好ましい。Aが有していてもよい置換基としては、上記官能基群(I)から選択される官能基以外で上記Rとして採りうる基以外の置換基Zが挙げられる。
【0053】
式(1)中のXは、上述の官能基群(I)に含まれる官能基を示す。官能基としては上述の通りであり、好ましいものも同じである。
【0054】
化合物(A)としては、置換基を有していてもよい。置換基としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えば、後述する置換基Zを挙げることができ、上記官能基群(I)に含まれる官能基以外の基、及びアリール基以外の基が好ましい。
化合物(A)は、好ましくは低分子化合物であり、その分子量は適宜に決定される。分子量として、例えば150~1000とすることができる。
【0055】
化合物(B)は、パーフルオロポリエーテル、ポリクロロトリフルオロエチレン又はポリテトラフルオロエチレンであり、パーフルオロポリエーテルが好ましい。
パーフルオロポリエーテルとしては、特に限定されないが、アルキレンオキシド、アリーレンオキシド等を構成成分とする重合体が挙げられる。化合物(B)は、フッ素化された構成成分を有する重合体であれば、その他は特に制限されない。例えば、アルキレンオキシド中のアルキレン基の炭素数は特に限定されず、例えば、1~10とすることができ、1~6であることが好ましい。アリーレンオキシド中のアリーレン基の炭素数は特に限定されず、例えば6~10とすることができる。
【0056】
化合物(B)は上記官能基群(I)から選択される官能基を有する。官能基は、化合物(B)を形成する構成成分のいずれに導入されていてもよいが、重合鎖の主鎖末端に導入されていることが好ましい。
化合物(B)の数平均分子量は、特に制限されないが、例えば、1000~50000とすることができる。
パーフルオロポリエーテルとしては、例えば、フルオロリンク(登録商法)シリーズ(PFPE、Solvey社製)、MORESCO社製のものが挙げられる。ポリクロロトリフルオロエチレンとしては、例えば、ネオフロン PCTFE Mシリーズ(ダイキン社製)が挙げられる。ポリテトラフルオロエチレンとしては、ポリフロン PTFEシリーズ(ダイキン社製)、更には、Shamrock Technologies社製のものが挙げられる。
【0057】
化合物(C)のオルガノポリシロキサンは、特に制限されないが、シロキサン構造を有し、かつ官能基群(I)に含まれる官能基のうち少なくとも一つの官能基を有する重合体である。
オルガノポリシロキサンが有するシロキサン構造は、例えば、-Si(RS
2)-O-で表される構造単位が挙げられる。この構造単位において、RSは水素原子又は置換基を示し、置換基としては、特に制限されず、ヒドロキシ基、アルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。)、アルケニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2又は3が特に好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が更に好ましく、1~3が特に好ましい。)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が特に好ましい。)、アリールオキシ基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が特に好ましい。)、アラルキル基(炭素数7~23が好ましく、7~15がより好ましく、7~11が特に好ましい。)、更に後述する式(2)における、置換基ZC若しくは-R11-Xで表される基等が挙げられる。中でも、炭素数1~3のアルキル基、フェニル基、置換基ZC又は-R11-Xで表される基がより好ましく、炭素数1~3のアルキル基又は-R11-Xで表される基が更に好ましい。
【0058】
シロキサン構造は、上記構造単位を2以上有する重合鎖が好ましく、この重合鎖を形成する全構造単位の重合度は、特に制限されないが、1~1000であることが好ましく、1~500であることがより好ましく、1~200であることが特に好ましい。上記重合鎖の数平均分子量は、特に制限されず、400以上であることが好ましく、800以上であることがより好ましく、2,000以上であることが更に好ましい。上限としては、特に制限されず、500,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、50,000以下であることが特に好ましい。重合鎖の数平均分子量は、後述するように、標準ポリスチレン換算の数平均分子量として、測定できる。
【0059】
オルガノポリシロキサンは下記式(2)で表される重合体が好ましい。
【0060】
【0061】
式(2)中、R15は、アルキル基又はアリール基を示し、アルキル基が好ましい。R15として採りうるアルキル基及びアリール基は、それぞれ、上記構造単位におけるRSとして採りうるアルキル基及びアリール基と同義であり、好ましいものも同じである。ただし、R15はメチルが特に好ましい。同一のケイ素原子に結合する2つのR15は、それぞれ、同一でも異なっていてもよいが、いずれもメチルであることが好ましい。
R16は、アルキル基又はアリール基を示し、アルキル基が好ましい。同一のケイ素原子に結合する2つのR16は、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。R16として採りうるアルキル基及びアリール基は、それぞれ、上記構造単位におけるRSとして採りうるアルキル基及びアリール基と同義であり、好ましいものも同じである。
【0062】
R11は、連結基を示す。R11として採りうる連結基としては、特に制限されないが、例えば、炭素数1~30のアルキレン基、炭素数3~12のシクロアルキレン基、炭素数6~24のアリーレン基、炭素数3~12のヘテロアリーレン基、エーテル基(-O-)、スルフィド基(-S-)、ホスフィニデン基(-PR-:Rは水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基)、シリレン基(-SiRS1RS2-:RS1、RS2は水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基)、カルボニル基、イミノ基(-NRN-:RNは水素原子、炭素数1~6のアルキル基若しくは炭素数6~10のアリール基)、又は、これらを2個以上(好ましくは2~10個)組み合わせた連結基であることが好ましい。中でも、アルキレン基、イミノ基、エーテル基、スルフィド基若しくはカルボニル基、又は、これらを2個以上(好ましくは2~5個)組み合わせた連結基が好ましい。
【0063】
Xは、上記式(1)におけるXと同義である。
【0064】
【0065】
式(Z)中、R17及びR18は、それぞれ、アルキル基又はアリール基を示す。R17及びR18として採りうるアルキル基及びアリール基は、それぞれ、上記シロキサン構造におけるRSとして採りうるアルキル基及びアリール基と同義であり、好ましいものも同じである。R17及びR18は同一でも異なっていてもよい。R19は、炭素数1~4の無置換アルキル基を示す。y2は1~100の整数であり、好ましくは1~50の整数であり、より好ましくは1~20の整数である。
【0066】
式(2)において、x1、x2及びx3は、それぞれ、0以上の整数である。
x1は、0~50の整数が好ましく、0~20の整数がより好ましい。
x2は、0~50の整数が好ましく、0~20の整数がより好ましい。
x3は、1~500の整数が好ましく、1~200の整数がより好ましい。
x4は、0~200の整数が好ましく、0~100の整数がより好ましく、0~30の整数がより好ましい。
x1、x2、x3及びx4は、合計で、1~500の整数であり、好ましくは1~200の整数であり、より好ましくは1~100の整数である。
x1及びx3がそれぞれ2以上の整数を採る場合、式2において、同一のケイ素原子に結合する2つのZC又はR15は、互いに同じでも異なっていてもよい。
y1は1~30の整数であり、好ましくは1~20の整数であり、より好ましくは1~10の整数である。
【0067】
式(2)中、Yは上述した-R11-Xで表される基、又はR16を示し、2つのYはそれぞれ、同一でも異なっていてもよい。
式(2)で表される重合体は、1分子中に少なくとも1つの-R11-Xで表される基を有する、例えば、式(2)において、X4及びy1は少なくとも1であるか、2つのYのうち少なくとも1つは-R11-Xで表される基をとる。すなわち、x4が0の場合、2つのYのうちいずれか1つは-R11-Xで表される基を示すか、又は、2つのYがいずれもR16である場合、x4及びy1は1以上の整数である。
【0068】
上記化合物(A)~(C)は、それぞれ、市販品を用いてもよく、適宜に合成してもよい。合成方法は、特に制限されず、公知の方法を選択し、適宜に条件を設定することができる。
【0069】
- 置換基Z -
アルキル基(好ましくは炭素数1~20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル、ペンチル、ヘプチル、1-エチルペンチル、ベンジル、2-エトキシエチル、1-カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素数2~20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3~20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル等、本明細書においてアルキル基というときには通常シクロアルキル基を含む意味であるが、ここでは別記する。)、アリール基(好ましくは炭素数6~26のアリール基、例えば、フェニル、1-ナフチル、4-メトキシフェニル、2-クロロフェニル、3-メチルフェニル等)、アラルキル基(好ましくは炭素数7~23のアラルキル基、例えば、ベンジル、フェネチル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数2~20のヘテロ環基で、より好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有する5又は6員環のヘテロ環基である。ヘテロ環基には芳香族ヘテロ環基及び脂肪族ヘテロ環基を含む。例えば、テトラヒドロピラン環基、テトラヒドロフラン環基、2-ピリジル、4-ピリジル、2-イミダゾリル、2-ベンゾイミダゾリル、2-チアゾリル、2-オキサゾリル、ピロリドン基等)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、3-メチルフェノキシ、4-メトキシフェノキシ等、本明細書においてアリールオキシ基というときにはアリーロイルオキシ基を含む意味である。)、ヘテロ環オキシ基(上記ヘテロ環基に-O-基が結合した基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2-エチルヘキシルオキシカルボニル、ドデシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、1-ナフチルオキシカルボニル、3-メチルフェノキシカルボニル、4-メトキシフェノキシカルボニル等)、ヘテロ環オキシカルボニル基(上記ヘテロ環基に-O-CO-基が結合した基)、アミノ基(好ましくは炭素数0~20のアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基を含み、例えば、アミノ(-NH2)、N,N-ジメチルアミノ、N,N-ジエチルアミノ、N-エチルアミノ、アニリノ等)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0~20のスルファモイル基、例えば、N,N-ジメチルスルファモイル、N-フェニルスルファモイル等)、アシル基(アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロ環カルボニル基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシル基、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、オクタノイル、ヘキサデカノイル、アクリロイル、メタクリロイル、クロトノイル、ベンゾイル、ナフトイル、ニコチノイル等)、アシルオキシ基(アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、アルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヘテロ環カルボニルオキシ基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、オクタノイルオキシ、ヘキサデカノイルオキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、クロトノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ、ニコチノイルオキシ等)、アリーロイルオキシ基(好ましくは炭素数7~23のアリーロイルオキシ基、例えば、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1~20のカルバモイル基、例えば、N,N-ジメチルカルバモイル、N-フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1~20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1~20のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ、エチルチオ、イソプロピルチオ、ベンジルチオ等)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6~26のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ、1-ナフチルチオ、3-メチルフェニルチオ、4-メトキシフェニルチオ等)、ヘテロ環チオ基(上記ヘテロ環基に-S-基が結合した基)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル等)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6~22のアリールスルホニル基、例えば、ベンゼンスルホニル等)、アルキルシリル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルシリル基、例えば、モノメチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル等)、アリールシリル基(好ましくは炭素数6~42のアリールシリル基、例えば、トリフェニルシリル等)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~20のアルコキシシリル基、例えば、モノメトキシシリル、ジメトキシシリル、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル等)、アリールオキシシリル基(好ましくは炭素数6~42のアリールオキシシリル基、例えば、トリフェニルオキシシリル等)、ホスホリル基(好ましくは炭素数0~20のリン酸基、例えば、-OP(=O)(RP)2)、ホスホニル基(好ましくは炭素数0~20のホスホニル基、例えば、-P(=O)(RP)2)、ホスフィニル基(好ましくは炭素数0~20のホスフィニル基、例えば、-P(RP)2)、ホスホン酸基(好ましくは炭素数0~20のホスホン酸基、例えば、-PO(ORP)2)、スルホ基(スルホン酸基)、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)が挙げられる。RPは、水素原子又は置換基(好ましくは置換基Zから選択される基)である。
また、これらの置換基Zで挙げた各基は、上記置換基Zが更に置換していてもよい。
上記アルキル基、アルキレン基、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基及び/又はアルキニレン基等は、環状でも鎖状でもよく、また直鎖でも分岐していてもよい。
【0070】
化合物(SA)の、無機固体電解質含有組成物中の含有量は、特に制限されないが、固体粒子の摩擦抵抗低減の点で、固形分100質量%において、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.4質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、電池抵抗の低減の点で、10質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、2.5質量%以下であることが更に好ましく、1.2質量%以下であることが特に好ましい。
【0071】
本発明の無機固体電解質含有組成物において、固形分100質量%中における、無機固体電解質の含有量[SE]と化合物(SA)の合計含有量[SA]との比率:[SA]/[SE]は、特に制限されないが、固体粒子の摩擦抵抗の低減、低抵抗化及びサイクル特性の点で、0.0003~0.11であることが好ましく、固体粒子の摩擦抵抗の更なる低減、また低抵抗化及びサイクル特性改善を高水準で両立できる点で、0.003~0.05であることがより好ましく、0.007~0.05であることが更に好ましく、0.01~0.03であることが特に好ましい。
【0072】
本発明の無機固体電解質含有組成物が下記のポリマーバインダーを含有する場合、無機固体電解質含有組成物の固形分100質量%中における、ポリマーバインダーの含有量[BR]と化合物(SA)の合計含有量[SA]との比率:[BR]/[SA]は、特に制限されないが、固体粒子の摩擦抵抗の低減、低抵抗化及びサイクル特性の点で、0.05~15であることが好ましく、固体粒子の摩擦抵抗の更なる低減、また低抵抗化及びサイクル特性改善を高水準で両立できる点で、0.1~10であることがより好ましく、0.2~5であることが更に好ましく、0.8~5であることが特に好ましい。
【0073】
<ポリマーバインダー>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、ポリマーバインダーを含有することが好ましい。ポリマーバインダーを含有することにより、固体粒子の結着性を向上させることができ、サイクル特性等の向上に資する。
ポリマーバインダーを形成するポリマーとしては、特に制限されず、全固体二次電池の構成層に通常用いられる各種ポリマーが挙げられる。例えば、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等の逐次重合(重縮合、重付加若しくは付加縮合)系ポリマー、更には、フッ素系ポリマー(含フッ素ポリマー)、炭化水素系ポリマー、ビニル系ポリマー、(メタ)アクリルポリマー等の連鎖重合系ポリマーが挙げられる。
【0074】
逐次重合系ポリマーとしてとりうる、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミドの各ポリマーとしては、例えば、特開2015-088480号公報に記載のハードセグメントとソフトセグメントとを有するポリマー、及び国際公開第2018/147051号、国際公開第2018/020827号及び国際公開第2015/046313号に記載の各ポリマー等を挙げることができる。
【0075】
含フッ素ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンジフルオリド(PVdF)、ポリビニリデンジフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)、ポリビニリデンジフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンの共重合体(PVdF-HFP-TFE)が挙げられる。PVdF-HFPにおいて、PVdFとHFPとの共重合比[PVdF:HFP](質量比)は、特に限定されないが、9:1~5:5が好ましく、9:1~7:3がより好ましい。PVdF-HFP-TFEにおいて、PVdFとHFPとTFEとの共重合比[PVdF:HFP:TFE](質量比)は、特に限定されないが、20~60:10~40:5~30であることが好ましい。
【0076】
炭化水素系ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリスチレンブタジエン共重合体、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリブチレン、アクリロニトリルブタジエン共重合体、又はこれらの水添(水素化)ポリマーが挙げられる。スチレン系熱可塑性エラストマー又はその水素化物としては、特に制限されないが、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、水素化SIS、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素化SBS、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)、更には上記各ブロック共重合体に対応するランダム共重合体等が挙げられる。本発明において、炭化水素系ポリマーは、主鎖に結合する不飽和基(例えば1,2-ブタジエン構成成分)を有しないものが化学架橋の形成を抑制できる点で好ましい。
ビニル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル化合物(M1)以外のビニル系モノマーを例えば50モル%以上含有するポリマーが挙げられる。ビニル系モノマーとしては、後述するビニル化合物等が挙げられる。ビニル系ポリマーとしては、具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリ酢酸ビニル、又はこれらを含む共重合体等が挙げられる。
このビニル系ポリマーは、ビニル系モノマー由来の構成成分以外に、後述する(メタ)アクリルポリマーを形成する(メタ)アクリル化合物(M1)由来の構成成分、更には後述するマクロモノマーに由来する構成成分(MM)を有することが好ましい。ビニル系モノマー由来の構成成分の含有量は、(メタ)アクリルポリマーにおける(メタ)アクリル化合物(M1)由来の構成成分の含有量と同じであることが好ましい。(メタ)アクリル化合物(M1)由来の構成成分の含有量は、ポリマー中、50モル%未満であれば特に制限されないが、0~40モル%であることが好ましく、5~35モル%であることがより好ましい。構成成分(MM)の含有量は(メタ)アクリルポリマーにおける含有量と同じであることが好ましい。
【0077】
(メタ)アクリルポリマーとしては、(メタ)アクリル酸化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物及び(メタ)アクリルニトリル化合物から選択される少なくとも1種の(メタ)アクリル化合物(M1)を(共)重合して得られるポリマーが好ましい。また、(メタ)アクリル化合物(M1)とその他の重合性化合物(M2)との共重合体からなる(メタ)アクリルポリマーも好ましい。その他の重合性化合物(M2)としては、特に制限されず、スチレン化合物、ビニルナフタレン化合物、ビニルカルバゾール化合物、アリル化合物、ビニルエーテル化合物、ビニルエステル化合物、イタコン酸ジアルキル化合物等のビニル化合物が挙げられる。ビニル化合物としては、例えば、特開2015-88486号公報に記載の「ビニル系モノマー」が挙げられる。
更に、マクロモノマーに由来する構成成分(MM)を有する(メタ)アクリルポリマーも好ましい。このような(メタ)アクリルポリマーとしては、例えば、国際公開第2016/132872号に記載の、側鎖成分として質量平均分子量1,000以上のマクロモノマーが組み込まれており下記官能基群(b)のうち少なくとも1種を有しているポリマーが挙げられる。
官能基群(b):カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基
(メタ)アクリルポリマー中において、(メタ)アクリル化合物(M1)由来の構成成分の含有量は50モル%以上であることが好ましく、その他の重合性化合物(M2)の含有量は、特に制限されないが、例えば50モル%以下とすることができ、50モル%未満であることが好ましい。構成成分(MM)の含有量は1~70質量%であることが好ましい。
【0078】
ポリマーバインダーとしては、ポリウレタン、フッ素系ポリマー又は炭化水素系ポリマーが好ましく、ポリウレタン、PVdF-HFP、SEBS、SBS、SBR又はHSBRがより好ましく、ポリウレタン、PVdF-HFP又はSEBSが更に好ましく、ポリウレタン又はPVdF-HFPが特に好ましい。
【0079】
逐次重合系ポリマーを形成する主鎖は、特に制限されないが、下記式(I-1)~(I-4)のいずれかで表される構成成分を2種以上(好ましくは2~8種、より好ましくは2~4種)組み合わせてなる主鎖、又は下記式(I-5)で表されるカルボン酸二無水物と下記式(I-6)で表される構成成分を導くジアミン化合物とを逐次重合してなる主鎖が好ましい。このような主鎖を有するポリマーとしては、例えば、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル及びポリカーボネートが挙げられる。各構成成分の組み合わせは、ポリマー種に応じて適宜に選択される。ポリカーボネートからなる主鎖としては、RP1の両端部に酸素原子を導入した下記式(I-2)で表される構成成分若しくはRP1として式(I-3)で表される構成成分を採る下記式(I-2)で表される構成成分と、下記式(I-3)で表される構成成分とを有する主鎖が挙げられる。構成成分の組み合わせにおける1種の構成成分とは、下記のいずれか1つの式で表される構成成分の種類数を意味し、1つの下記式で表される構成成分を2種有していても、2種の構成成分とは解釈しない。
【0080】
【0081】
式中、RP1及びRP2は、それぞれ分子量又は質量平均分子量が20以上200,000以下の分子鎖を示す。この分子鎖の分子量は、その種類等によるので一義的に決定できないが、例えば、30以上が好ましく、50以上がより好ましく、100以上が更に好ましく、150以上が特に好ましい。上限としては、100,000以下が好ましく、10,000以下がより好ましい。分子鎖の分子量は、ポリマーの主鎖に組み込む前の原料化合物について測定する。
RP1及びRP2としてとりうる上記分子鎖は、特に制限されないが、炭化水素鎖、ポリアルキレンオキシド鎖、ポリカーボネート鎖又はポリエステル鎖が好ましく、炭化水素鎖又はポリアルキレンオキシド鎖がより好ましく、炭化水素鎖、ポリエチレンオキシド鎖又はポリプロピレンオキシド鎖が更に好ましい。
【0082】
RP1及びRP2としてとりうる炭化水素鎖は、炭素原子及び水素原子から構成される炭化水素の鎖を意味し、より具体的には、炭素原子及び水素原子から構成される化合物の少なくとも2つの原子(例えば水素原子)又は基(例えばメチル基)が脱離した構造を意味する。ただし、本発明において、炭化水素鎖は、例えば下記式(M2)で表される炭化水素基のように、鎖中に酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含む基を有する鎖も包含する。炭化水素鎖の末端に有し得る末端基は炭化水素鎖には含まれないものとする。この炭化水素鎖は、炭素-炭素不飽和結合を有していてもよく、脂肪族環及び/又は芳香族環の環構造を有していてもよい。すなわち、炭化水素鎖は、脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素から選択される炭化水素で構成される炭化水素鎖であればよい。
【0083】
このような炭化水素鎖としては、上記分子量を満たすものであればよく、低分子量の炭化水素基からなる鎖と、炭化水素ポリマーからなる炭化水素鎖(炭化水素ポリマー鎖ともいう。)との両炭化水素鎖を包含する。
低分子量の炭化水素鎖は、通常の(非重合性の)炭化水素基からなる鎖であり、この炭化水素基としては、例えば、脂肪族若しくは芳香族の炭化水素基が挙げられ、具体的には、アルキレン基(炭素数は1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が更に好ましい)、アリーレン基(炭素数は6~22が好ましく、6~14が好ましく、6~10がより好ましい)、又はこれらの組み合わせからなる基が好ましい。RP2としてとりうる低分子量の炭化水素鎖を形成する炭化水素基としては、アルキレン基がより好ましく、炭素数2~6のアルキレン基が更に好ましく、炭素数2又は3のアルキレン基が特に好ましい。この炭化水素鎖は置換基として重合鎖(例えば(メタ)アクリルポリマー)を有していてもよい。
【0084】
脂肪族の炭化水素基としては、特に制限されず、例えば、下記式(M2)で表される芳香族の炭化水素基の水素還元体、公知の脂肪族ジイソソアネート化合物が有する部分構造(例えばイソホロンからなる基)等が挙げられる。また、後掲する各例示の構成成分が有する炭化水素基も挙げられる。
芳香族の炭化水素基は、例えば、後掲する各例示の構成成分が有する炭化水素基が挙げられ、アリーレン基(例えば、後述する置換基Zで挙げたアリール基から更に水素原子を1つ以上除去した基、具体的にはフェニレン基、トリレン基若しくはキシリレン基)又は下記式(M2)で表される炭化水素基が好ましい。
【0085】
【0086】
式(M2)中、Xは、単結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-SO2-、-S-、-CO-又は-O-を示し、結着性の観点で、-CH2-または-O-が好ましく、-CH2-がより好ましい。ここで例示した上記アルキレン基は、置換基Z、好ましくはハロゲン原子(より好ましくはフッ素原子)で置換されていてもよい。
RM2~RM5は、それぞれ、水素原子又は置換基を示し、水素原子が好ましい。RM2~RM5としてとりうる置換基としては、特に制限されず、後述する置換基Zが挙げられ、例えば、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルケニル基、-ORM6、―N(RM6)2、-SRM6(RM6は置換基を示し、好ましくは炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基を示す。)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)が好ましく挙げられる。-N(RM6)2としては、アルキルアミノ基(炭素数は、1~20が好ましく、1~6がより好ましい)又はアリールアミノ基(炭素数は、6~40が好ましく、6~20がより好ましい)が挙げられる。
【0087】
炭化水素ポリマー鎖は、重合性の炭化水素が(少なくとも2つ)重合してなるポリマー鎖であって、上述の低分子量の炭化水素鎖よりも炭素原子数が大きい炭化水素ポリマーからなる鎖であれば特に制限されないが、好ましくは30個以上、より好ましくは50個以上の炭素原子から構成される炭化水素ポリマーからなる鎖である。炭化水素ポリマーを構成する炭素原子数の上限は、特に制限されず、例えば3,000個とすることができる。この炭化水素ポリマー鎖は、主鎖が、上記炭素原子数を満たす、脂肪族炭化水素で構成される炭化水素ポリマーからなる鎖が好ましく、脂肪族飽和炭化水素若しくは脂肪族不飽和炭化水素で構成される重合体(好ましくはエラストマー)からなる鎖であることがより好ましい。重合体としては、具体的には、主鎖に二重結合を有するジエン系重合体、及び、主鎖に二重結合を有しない非ジエン系重合体が挙げられる。ジエン系重合体としては、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエン共重合体、イソブチレンとイソプレンの共重合体(好ましくはブチルゴム(IIR))、ブタジエン重合体、イソプレン重合体及びエチレン-プロピレン-ジエン共重合体等が挙げられる。非ジエン系重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体及びスチレン-エチレン-ブチレン共重合体等のオレフィン系重合体、並びに、上記ジエン系重合体の水素還元物が挙げられる。
【0088】
RP1及びRP2としてとりうる炭化水素鎖は、後述するように置換基を有していてもよく、エーテル基若しくはカルボニル基又はその両方を有していることが好ましい。特に、式(I-3)又は式(I-4)で表される構成成分のRP2として採りうる炭化水素鎖は、エーテル基若しくはカルボニル基又はその両方(例えば-CO-O-基が挙げられ、好ましくはカルボキシ基)を有していることが好ましい。上記エーテル基及びカルボニル基の端部には、水素原子等の原子又は置換基(例えば後述する置換基Z)を有することが好ましい。
【0089】
炭化水素鎖となる炭化水素は、その末端に反応性基を有することが好ましく、縮重合可能な末端反応性基を有することがより好ましい。縮重合又は重付加可能な末端反応性基は、縮重合又は重付加することにより、上記各式のRP1又はRP2に結合する基を形成する。このような末端反応性基としては、イソシネート基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基及び酸無水物等が挙げられ、中でもヒドロキシ基が好ましい。
末端反応性基を有する炭化水素ポリマーとしては、例えば、いずれも商品名で、NISSO-PBシリーズ(日本曹達社製)、クレイソールシリーズ(巴工業社製)、PolyVEST-HTシリーズ(エボニック社製)、poly-bdシリーズ(出光興産社製)、poly-ipシリーズ(出光興産社製)、EPOL(出光興産社製)及びポリテールシリーズ(三菱化学社製)等が好適に用いられる。
【0090】
ポリアルキレンオキシド鎖(ポリアルキレンオキシ鎖)としては、公知のポリアルキレンオキシ基からなる鎖が挙げられる。ポリアルキレンオキシ鎖中のアルキレンオキシ基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、2又は3であること(ポリエチレンオキシ鎖又はポリプロピレンオキシ鎖)が更に好ましい。ポリアルキレンオキシ鎖は、1種のアルキレンオキシ基からなる鎖でもよく、2種以上のアルキレンオキシ基からなる鎖(例えば、エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基からなる鎖)でもよい。
ポリカーボネート鎖又はポリエステル鎖としては、公知のポリカーボネート又はポリエステルからなる鎖が挙げられる。
ポリアルキレンオキシ鎖、ポリカーボネート鎖又はポリエステル鎖は、それぞれ、末端にアルキル基(炭素数は1~12が好ましく、1~6がより好ましい)を有することが好ましい。
RP1及びRP2としてとりうるポリアルキレンオキシ鎖、ポリカーボネート鎖及びポリエステル鎖の末端は、RP1及びRP2として上記各式で表される構成成分に組み込み可能な通常の化学構造に適宜に変更することができる。例えば、ポリアルキレンオキシ鎖は末端酸素原子が取り除かれて上記構成成分のRP1又はRP2として組み込まれる。
【0091】
分子鎖が含むアルキル基の内部若しくは末端に、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、カルボニル基(>C=O)、イミノ基(>NRN:RNは水素原子、炭素数1~6のアルキル基若しくは炭素数6~10のアリール基)を有していてもよい。
上記各式において、RP1及びRP2は2価の分子鎖であるが、少なくとも1つの水素原子が-NH-CO-、-CO-、-O-、-NH-又は-N<で置換されて、3価以上の分子鎖となっていてもよい。
【0092】
RP1は、上記分子鎖の中でも、炭化水素鎖であることが好ましく、低分子量の炭化水素鎖であることがより好ましく、脂肪族若しくは芳香族の炭化水素基からなる炭化水素鎖が更に好ましく、芳香族の炭化水素基からなる炭化水素鎖が特に好ましい。
RP2は、上記分子鎖の中でも、低分子量の炭化水素鎖(より好ましくは脂肪族の炭化水素基)、又は低分子量の炭化水素鎖以外の分子鎖が好ましく、低分子量の炭化水素鎖及び低分子量の炭化水素鎖以外の分子鎖をそれぞれ含む態様がより好ましい。この態様においては、式(I-3)、式(I-4)及び式(I-6)のいずれかで表される構成成分は、RP2が低分子量の炭化水素基鎖である構成成分と、RP2が低分子量の炭化水素鎖以外の分子鎖である構成成分の少なくとも2種を含む。
【0093】
上記式(I-1)で表される構成成分の具体例を下記に示す。また、上記式(I-1)で表される構成成分を導く原料化合物(ジイソシアネート化合物)としては、例えば、国際公開第2018/020827号に記載の、式(M1)で表されるジイソシアネート化合物及びその具体例、更にはポリメリック4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。なお、本発明において、式(I-1)で表される構成成分及びこれを導く原料化合物は下記具体例及び上記文献に記載のものに限定されない。
【0094】
【0095】
上記式(I-2)で表される構成成分を導く原料化合物(カルボン酸若しくはその酸クロリド等)は、特に制限されず、例えば、国際公開第2018/020827号の段落[0074]に記載の、カルボン酸又は酸クロリドの化合物及びその具体例が挙げられる。
【0096】
上記式(I-3)又は式(I-4)で表される構成成分の具体例を下記に示す。また、上記式(I-3)又は式(I-4)で表される構成成分を導く原料化合物(ジオール化合物又はジアミン化合物)としては、それぞれ、特に制限されず、例えば、国際公開第2018/020827号に記載の各化合物及びその具体例が挙げられ、更にジヒドロキシオキサミドも挙げられる。なお、本発明において、式(I-3)又は式(I-4)で表される構成成分及びこれを導く原料化合物は下記具体例及び上記文献に記載のものに限定されない。
なお、下記具体例において、構成成分中に繰り返し構造を有する場合、その繰り返し数は1以上の整数であり、上記分子鎖の分子量又は炭素原子数を満たす範囲で適宜に設定される。
【0097】
【0098】
式(I-5)において、RP3は芳香族若しくは脂肪族の連結基(4価)を示し、下記式(i)~(iix)のいずれかで表される連結基が好ましい。
【0099】
【0100】
式(i)~(iix)中、X1は単結合又は2価の連結基を示す。2価の連結基としては、炭素数1~6のアルキレン基(例えば、メチレン、エチレン、プロピレン)が好ましい。プロピレンとしては、1,3-ヘキサフルオロ-2,2-プロパンジイルが好ましい。Lは-CH2=CH2-又は-CH2-を示す。RX及びRYはそれぞれ水素原子又は置換基を表す。各式において、*は式(1-5)中のカルボニル基との結合部位を示す。RX及びRYとして採りうる置換基としては、特に制限されず、後述する置換基Zが挙げられ、アルキル基(炭素数は1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が更に好ましい)又はアリール基(炭素数は6~22が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が更に好ましい)が好ましく挙げられる。
【0101】
上記式(I-5)で表されるカルボン酸二無水物、及び上記式(I-6)で表される構成成分を導く原料化合物(ジアミン化合物)は、それぞれ、特に制限されず、例えば、国際公開第2018/020827号及び国際公開第2015/046313号に記載の各化合物及びその具体例が挙げられる。
【0102】
RP1、RP2及びRP3は、それぞれ、置換基を有していてもよい。この置換基としては、特に制限されず、例えば、後述する置換基Zが挙げられ、RM2として採りうる上記置換基が好適に挙げられる。
【0103】
ポリウレタンは、下記に示すように、式(I-1)で表される構成成分に加えて、上記式(I-3)又は式(I-4)、好ましくは式(I-3)で表される構成成分として、RP2が低分子量の炭化水素基からなる鎖(官能基として、好ましくはエーテル基若しくはカルボニル基を有する基又はその両方、より好ましくはカルボキシ基を含む基を有する)である構成成分(好ましくは下記式(I-3A)で表される構成成分)と、RP2が分子鎖として上記の炭化水素ポリマー鎖である構成成分(好ましくは下記式(I-3C)で表される構成成分)と、RP2が分子鎖として上記ポリアルキレンオキシド鎖である構成成分(好ましくは下記式(I-3B)で表される構成成分)との少なくとも1種を有していることが好ましい。
【0104】
【0105】
式(I-1)において、RP1は上述の通りである。式(I-3A)において、RP2Aは低分子量の炭化水素基からなる鎖(好ましくは脂肪族の炭化水素基)を示し、官能基として、好ましくは後述する官能基群(Ia)から選択される少なくとも1つの基、より好ましくはエーテル基若しくはカルボニル基又はその両方を含む基、更に好ましくはカルボキシ基を有している。例えば2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸等のビス(ヒドロキシメチル)酢酸化合物が挙げられる。式(I-3B)において、RP2Bはポリアルキレンオキシ鎖を示す。式(I-3C)において、RP2Cは炭化水素ポリマー鎖を示す。RP2Aとしてとりうる低分子量の炭化水素基からなる鎖、RP2Bとしてとりうるポリアルキレンオキシ鎖及びRP2Cとしてとりうる炭化水素ポリマー鎖は、それぞれ、上記式(I-3)におけるRP2としてとりうる脂肪族の炭化水素基、ポリアルキレンオキシ鎖及び炭化水素ポリマー鎖と同義であり、好ましいものも同じである。
なお、ポリウレタン中における上記各式で表される構成成分の含有量は後述する。
【0106】
ポリウレタンは、ポリエーテル構造を含む構成成分を主鎖に有することが好ましい。なかでも少なくとも2種のポリエーテル構造を主鎖に有するものが好ましい。
本発明において、「ポリエーテル構造」とは、2以上のアルキレンオキシ基が連結してなる構造(ポリアルキレンオキシ鎖又はアルキレンオキシド鎖ともいう)をいい、例えば、-(O-アルキレン基)n-構造(nは重合度を示し、2以上の数である。)を示す。
この「ポリエーテル構造」は、単独のポリアルキレンオキシ鎖であってもよく、(化学構造が異なる)少なくとも2種のポリアルキレンオキシ鎖の共重合物に由来する構造であってもよい。本発明においては、単独のポリアルキレンオキシ鎖であることが好ましい。
「ポリエーテル構造」は、適宜、原子又は連結基を介して、ポリマーの主鎖に組み込まれる。このときの原子及び連結基としては、後述する式(I-7)のXで挙げたものと同義である。
ポリエーテル構造を含む構成成分としては、特に制限されず、ポリアルキレングリコール等のポリエーテルポリオールに由来する構成成分、ポリエーテルポリアミン等に由来する構成成分が挙げられる。
【0107】
本発明において、ポリエーテル構造について「少なくとも2種」とは、主鎖を形成する構成成分の異同及び主鎖中に組み込まれる位置に関わらず、(アルキレン基が)互いに異なる化学構造を持つポリエーテル構造の種類数が少なくとも2種であること意味し、同一の化学構造を持つポリエーテル構造は、異なる構成成分に組み込まれていても、また1つの構成成分中に複数組み込まれていても、1種とする。
ポリウレタンが有するポリエーテル構造の種類数は、2種以上であればよく、2種若しくは3種であることが好ましく、2種であることがより好ましい。
【0108】
ポリエーテル構造を形成するアルキレンオキシ基は、特に制限されず、例えば上記RP2として採りうるポリアルキレンオキシド鎖が挙げられ、アルキレンオキシ基中のアルキレン基の炭素数は1~6であることが好ましく、2~4であることがより好ましい。
ポリエーテル構造の組み合わせとしては、特に制限されないが、ポリエチレンオキシ鎖、ポリプロピレンオキシ鎖及びポリテトラメチレンオキシ鎖から選ばれる少なくとも2種のポリエーテル構造が好ましい。ポリエチレンオキシ鎖と、ポリプロピレンオキシ鎖又はポリテトラメチレンオキシ鎖とを含む組み合わせがより好ましく、ポリエチレンオキシ鎖とポリプロピレンオキシ鎖とを含む組み合わせが更に好ましい。
【0109】
少なくとも2種のポリエーテル構造の(数平均)分子量は、特に制限されないが、400以下であることが好ましく、350以下であることがより好ましく、300以下であることが更に好ましく、250以下であることが特に好ましい。(数平均)分子量の下限は、特に制限されないが、実際的には100以上であることが好ましく、150以上であることがより好ましい。
本発明において、少なくとも2種のポリエーテル構造の(数平均)分子量とは、各ポリエーテル構造の(数平均)分子量とモル分率との積の総和を意味する。
各ポリエーテル構造の(数平均)分子量は、後述する方法により、(主鎖に組み込まれた状態ではなく)ポリエーテル構造を含む構成成分を導く化合物(通常、各端部に水素原子が結合した化合物、例えば後述するポリエーテルポリオール)について測定した値とする。
【0110】
各ポリエーテル構造の(数平均)分子量は、特に制限されないが、上述の「少なくとも2種のポリエーテル構造の数平均分子量」を満たす範囲内で適宜に設定される。
また、各ポリエーテル構造の重合度は、2以上であれば特に制限されず、上述の「少なくとも2種のポリエーテル構造の数平均分子量」を満たす範囲内で適宜に設定される。重合度は、アルキレンオキシ基の炭素数等にもよるが、例えば、2~10であることが好ましく、3~8であることがより好ましく、2~5であることが更に好ましい。
ポリエーテル構造を含む構成成分としては、例えば、下記式(I-7)で表される構成成分が挙げられる。
【化10】
【0111】
式中、Xは、単結合、酸素原子若しくは窒素原子、又は連結基を含む基を示し、RP4A及びRP4Bは互いに異なるアルキレン基を示す。n1及びn2は重合度を示す。
Xは、上記式中のアルキレンオキシ鎖の末端基に応じて適宜に選択される。例えば、アルキレンオキシ基の末端が酸素原子である場合、単結合又は連結基を含む基となり、アルキレンオキシ基の末端がアルキレン基である場合、酸素原子若しくは窒素原子又は連結基を含む基となる。Xとして採りうる連結基を含む基としては、連結基からなる基と、連結基及び酸素原子又は窒素原子を組み合わせた基とが挙げられる。この連結基としては、特に制限されないが、例えば、置換基Zで挙げた各基から水素原子を更に1個除去した基が挙げられ、好ましくはRP4A若しくはRP4Bとして採りうるアルキレン基が挙げられる。上記式(I-7)で表される構成成分における2つのXは同一でも異なっていてもよい。
【0112】
RP4A及びRP4Bとして採りうるアルキレン基は、特に制限されないが、上述の、ポリエーテル構造を形成するアルキレンオキシ基中のアルキレン基と同義であり、好ましいものも同じである。RP4AとRP4Bとの組み合わせとしては、上述の、ポリエーテル構造の組み合わせで説明した組み合わせと同義であり、好ましいものも同じである。
【0113】
n1及びn2は、それぞれ、重合度を示し、n1は2以上の数であり、n2は0又は1を超える数であり、2以上の数とすることもできる。
n2が0である場合、式(I-7)で表される構成成分は、単独のポリアルキレンオキシ鎖を含む構成成分となる。この形態において、ポリウレタンの主鎖は、上記式(I-7)で表される異なる構成成分を少なくとも2種有し、2種若しくは3種有することが好ましく、2種有することがより好ましい。この形態において、式(I-7)で表される構成成分は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレンエーテルグリコールから選ばれる少なくとも2種に由来する構成成分であることが好ましい。また、n2が1を超える数である式(I-7)で表される構成成分を有していてもよい。
この態様において、式(I-7)で表される2種以上の異なる構成成分の(数平均)分子量、各構成成分の(数平均)分子量は、それぞれ、上述の少なくとも2種のポリエーテル構造の(数平均)分子量と同義であり、好ましい範囲も同じである。また、式(I-7)で表される2種以上の異なる構成成分におけるn1は、それぞれ、(数平均)分子量を満たす範囲内で適宜に設定され、上述のポリエーテル構造の重合度と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0114】
n2が1を超える数である場合、式(I-7)で表される構成成分は、2種のポリアルキレンオキシ鎖の共重合物を含む構成成分となる。共重合物における2つのポリアルキレンオキシ鎖の結合様式は、特に制限されず、ランダム結合でもブロック結合でも交互結合でもよい。この形態において、ポリウレタンの主鎖は、上記式(I-7)で表される構成成分を少なくとも1種有していればよく、1種有することが好ましい。この形態において、式(I-7)で表される構成成分としては、例えば、ポリエチレンオキシ鎖及びポリプロピレンオキシ鎖の共重合体からなる構成成分が挙げられる。
式(I-7)で表される構成成分の(数平均)分子量は、上述の少なくとも2種のポリエーテル構造の(数平均)分子量と同義であり、好ましい範囲も同じである。また、2つのポリアルキレンオキシ鎖の(数平均)分子量は、それぞれ、上述の各ポリエーテル構造の(数平均)分子量と同義であり、好ましい範囲も同じである。同一のポリアルキレンオキシ鎖を複数有する場合、ポリアルキレンオキシ鎖の(数平均)分子量は合計分子量とする。更に、n1及びn2は、それぞれ、(数平均)分子量を満たす範囲内で適宜に設定され、上述のポリエーテル構造の重合度と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0115】
上記式(I-7)は2種のポリエーテル構造(アルキレンオキシ鎖)を含む構成成分を規定しているが、本発明において、ポリエーテル構造を含む構成成分、上記式(I-7)で表される構成成分は、3種以上のポリエーテル構造を含んでいてもよい。
【0116】
上記式(I-7)で表される構成成分の具体例を以下及に示すが、本発明はこれに限定されない。下記具体例において、アルキレンオキシ基の重合度を省略するが、上記した範囲で設定される。
【化11】
【0117】
ポリウレタンは、上記各式で表される構成成分以外の構成成分を有していてもよい。このような構成成分は、上記各式で表される構成成分を導く原料化合物と逐次重合可能なものであれば特に制限されない。
【0118】
ポリウレタン中の上記各式(1-1)~式(I-7)で表される構成成分の(合計)含有量は、特に限定されないが、5~100質量%であることが好ましく、10~100質量%であることがより好ましく、50~100質量%であることが更に好ましく、80~100質量%であることが更に好ましい。この含有量の上限値は、上記100質量%にかかわらず、例えば、90質量%以下とすることもできる。
ポリウレタン中の、上記各式で表される構成成分以外の構成成分の含有量は、特に限定されないが、50質量%以下であることが好ましい。
【0119】
ポリウレタンが上記式(I-1)~式(I-6)のいずれかで表される構成成分を有する場合、その含有量は、特に制限されず、以下の範囲に設定できる。
すなわち、ポリウレタン中の、式(I-1)若しくは式(I-2)で表される構成成分、又は式(I-5)で表されるカルボン酸二無水物由来の構成成分の含有量は、特に制限されず、10~50モル%であることが好ましく、20~50モル%であることがより好ましく、30~50モル%であることが更に好ましい。
ポリウレタン中の、式(I-3)、式(I-4)又は式(I-6)で表される構成成分の含有量は、それぞれ、特に制限されず、0~50モル%であることが好ましく、5~40モル%であることがより好ましく、10~30モル%であることが更に好ましい。
【0120】
式(I-3)又は式(I-4)で表される構成成分のうち、RP2が低分子量の炭化水素基からなる鎖である構成成分(例えば上記式(I-3A)で表される構成成分)の、ポリウレタン中の含有量は、特に制限されないが、例えば、0~50モル%であることが好ましく、1~30モル%であることがより好ましく、2~20モル%であることが更に好ましく、4~10モル%であることが更に好ましい。
式(I-3)又は式(I-4)で表される構成成分のうち、RP2が分子鎖として上記ポリアルキレンオキシ鎖である構成成分(例えば上記式(I-3B)で表される構成成分)の、ポリウレタン中の含有量は、特に制限されないが、例えば、0~50モル%であることが好ましく、0~45モル%であることがより好ましく、0~43モル%であることが更に好ましい。
式(I-3)又は式(I-4)で表される構成成分のうち、RP2が分子鎖として上記炭化水素ポリマー鎖である構成成分(例えば上記式(I-3C)で表される構成成分)の、ポリウレタン中の含有量は、特に制限されないが、例えば、0~50モル%であることが好ましく、1~45モル%であることがより好ましく、3~40モル%であることがより一層好ましく、3~30モル%であることが更に好ましく、3~20モル%であることが特に好ましく、3~10モル%であることが最も好ましい。
【0121】
ポリエーテル構造を有する構成成分、例えば式(I-7)で表される構成成分の、ポリウレタン中の(合計)含有量は、特に制限されないが、例えば、10~60モル%であることが好ましく、20~55モル%であることがより好ましく、30~50モル%であることが更に好ましく、35~45モル%であることが特に好ましい。
ポリウレタンが式(I-7)で表される異なる構成成分を複数有する場合、各構成成分の含有量は、上記(合計)含有量を満たす範囲内で適宜に決定される。例えば、式(I-7)で表される異なる構成成分を2種有する場合、一方の構成成分(好ましくは、分子量が大きなアルキレンオキシ基で形成されたポリエーテル構造を有する構成成分)の含有量は、例えば、5~30モル%であることが好ましく、10~25モル%であることがより好ましく、15~20モル%であることが更に好ましい。他方の構成成分(好ましくは、分子量が小さなアルキレンオキシ基で形成されたポリエーテル構造を有する構成成分)の含有量は、例えば、10~50モル%であることが好ましく、15~40モル%であることがより好ましく、20~30モル%であることが更に好ましい。また、一方の構成成分と他方の構成成分との含有量の比[一方の構成成分:他方の構成成分]は、特に制限されないが、例えば、10:90~80:20であることが好ましく、20:80~70:30であることがより好ましい。
一方、ポリウレタンが式(I-7)で表される異なる構成成分を3種以上有する場合、分子量が最も小さなアルキレンオキシ基で形成されたポリエーテル構造を有する構成成分を上記他方の構成成分とし、それ以外の構成成分を上記一方の構成成分とする。
なお、式(I-7)で表される構成成分が式(I-3B)で表される構成成分にも該当する場合、式(I-7)で表される構成成分の含有量は、式(I-3B)で表される構成成分の上記含有量に関わらず、上記式(I-7)で表される構成成分で説明した上記含有量とする。
【0122】
なお、ポリウレタンが各式で表される構成成分を複数有する場合、各構成成分の上記含有量は合計含有量とする。
【0123】
- 官能基 -
ポリウレタンは、無機固体電解質等の固体粒子の表面への濡れ性又は吸着性を高めるための官能基を有することが好ましい。このような官能基としては、固体粒子の表面において水素結合等の物理的相互作用を示す基及び固体粒子の表面に存在する基と化学結合を形成し得る基が挙げられ、具体的には、下記官能基群(Ia)から選択される基を少なくとも1つ有することがより好ましい。ただし、固体粒子の表面への濡れ性又は吸着性をより効果的に発現する観点からは、官能基同士で結合を形成することが可能な2種以上の基を有さないことが好ましい。
<官能基群(Ia)>
カルボキシ基、スルホン酸基(-SO3H)、リン酸基(-PO4H2)、アミノ基(-NH2)、ヒドロキシ基、スルファニル基、イソシアナト基、アルコキシシリル基及び3環以上の縮環構造を有する基
【0124】
カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、スルファニル基等の塩を形成しうる基は、その塩でもよく、例えば、ナトリウム塩及びカルシウム塩が挙げられる。
アルコキシシリル基は、少なくとも一つのアルコキシ基(炭素数は1~12が好ましい。)でSi原子が置換されたシリル基であればよく、Si原子上のその他の置換基としては、アルキル基、アリール基等が挙げられる。アルコキシシリル基としては、例えば、後述の置換基Zにおけるアルコキシシリル基の記載が好ましく適用できる。
3環以上の縮環構造を有する基は、コレステロール環構造を有する基、又は3環以上の芳香族環が縮環した構造を有する基が好ましく、コレステロール残基又はピレニル基がより好ましい。
【0125】
カルボキシ基、スルホン酸基(-SO3H)、リン酸基(-PO4H2)、ヒドロキシ基及びアルコキシシリル基は無機固体電解質又は正極活物質との吸着性が高く、3環以上の縮環構造を有する基は負極活物質等との吸着性が高い。アミノ基(-NH2)、スルファニル基及びイソシアナト基は無機固体電解質との吸着性が高い。
【0126】
ポリウレタンは、上記官能基群(Ia)から選択される官能基を、ポリマーを形成するいずれの構成成分に有していてもよく、またポリマーの主鎖又は側鎖のいずれに有していてもよい。上記官能基を有する構成成分として、例えば、式(I-3A)で表される構成成分が挙げられる。
ポリウレタン中における官能基群(Ia)から選択される官能基の含有量は、特に制限されないが、例えば、上記官能基群(Ia)から選択される官能基を有する構成成分の、ポリウレタンを構成する全構成成分中の割合は、0.01~50モル%が好ましく、0.02~49モル%が好ましく、0.1~40モル%がより好ましく、1~30モル%が更に好ましく、3~25モル%が特に好ましい。
【0127】
ポリウレタン(各構成成分及び原料化合物)は、置換基を有していてもよい。置換基としては、特に制限されないが、好ましくは下記置換基Zから選択される基が挙げられる。
【0128】
ポリウレタンは、主鎖が有する結合の種類に応じて公知の方法により原料化合物を選択し、原料化合物を重付加又は縮重合等して、合成することができる。合成方法としては、例えば、国際公開第2018/151118号を参照できる。
【0129】
上述の好ましいポリウレタンとしては、例えば、国際公開第2018/020827号及び国際公開第2015/046313号、更には特開2015-088480号公報に記載の各ポリウレタンに2種のポリエーテル構造を主鎖に組み込んだもの等を挙げることができる。
【0130】
(ポリマーバインダー又はポリマーバインダーを形成するフッ素系共重合体の物性若しくは特性等)
ポリマーバインダーの水分濃度は、100ppm(質量基準)以下が好ましい。また、このポリマーバインダーは、フッ素系共重合体を晶析させて乾燥させてもよく、ポリマーバインダー分散液をそのまま用いてもよい。
フッ素系共重合体は、非晶質であることが好ましい。本発明において、ポリマーが「非晶質」であるとは、典型的には、ガラス転移温度で測定したときに結晶融解に起因する吸熱ピークが見られないことをいう。
【0131】
ポリマーバインダーの形状は、特に制限されないが、粒子状であってもよい。このときの粒子形状は、偏平状、無定形等であってもよいが、球状若しくは顆粒状が好ましい。粒子状のポリマーバインダーの粒子径は、特に制限されないが、0.1nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることが更に好ましく、10nm以上であることが特に好ましく、50nm以上であることが最も好ましい。上限値としては、1.0μm以下であることが好ましく、700nm以下であることが更に好ましく、500nm以下であることが特に好ましい。
複合ポリマー粒子の平均粒径は、上記無機固体電解質の平均粒径と同様にして測定できる。
なお、全固体二次電池の構成層におけるポリマーバインダーの平均粒子径は、例えば、電池を分解してポリマーバインダーを含有する構成層を剥がした後、その構成層について測定を行い、予め測定していたポリマーバインダー以外の粒子の粒子径の測定値を排除することにより、測定することができる。
【0132】
ポリマーの質量平均分子量は、特に制限されないが、例えば、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、20,000以上が更に好ましく、50,000以上が特に好ましい。上限としては、5,000,000以下が実質的であるが、3,000,000以下が好ましく、1,000,000以下がより好ましく、500,000以下が特に好ましい。
【0133】
- 分子量の測定 -
本発明において、ポリマー、重合鎖の分子量については、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算の質量平均分子量又は数平均分子量をいう。その測定法としては、基本として下記条件1又は条件2(優先)の方法により測定した値とする。ただし、ポリマーの種類によっては適宜適切な溶離液を選定して用いればよい。
(条件1)
カラム:TOSOH TSKgel Super AWM-H(商品名、東ソー社製)を2本つなげる
キャリア:10mMLiBr/N-メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
(条件2)
カラム:TOSOH TSKgel Super HZM-H、TOSOH TSKgel Super HZ4000、TOSOH TSKgel Super HZ2000(いずれも商品名、東ソー社製)をつないだカラムを用いる。
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0134】
ポリマーバインダーを形成するポリマーは、非架橋ポリマーであっても架橋ポリマーであってもよい。また、加熱又は電圧の印加によってポリマーの架橋が進行した場合には、上記分子量より大きな分子量となっていてもよい。好ましくは、全固体二次電池の使用開始時にポリマーが上述の範囲の質量平均分子量であることである。
【0135】
本発明の無機固体電解質含有組成物は、ポリマーバインダーを1種含有するものでも、複数種含有するものでもよい。
ポリマーバインダーの、無機固体電解質含有組成物中の含有量は、特に制限されないが、結着性及び抵抗の点で、固形分100質量%において、0.1~10.0質量%であることが好ましく、0.2~5.0質量%であることがより好ましく、0.3~4.0質量%であることが更に好ましい。
【0136】
本発明において、バインダーの質量に対する、無機固体電解質と活物質の合計質量(総量)の質量比[(無機固体電解質の質量+活物質の質量)/(バインダーの合計質量)]は、1,000~1の範囲が好ましい。この比率は更に500~2がより好ましく、100~10が更に好ましい。
【0137】
<分散媒>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、上記の各成分を分散させる分散媒を含有せず固体混合物としてもよいが、分散媒を含有することが好ましく、無機固体電解質等の固体粒子が分散媒中に分散したスラリーであることが好ましい。
分散媒としては、使用環境において液状を示す有機化合物であればよく、例えば、各種有機溶媒が挙げられ、具体的には、アルコール化合物、エーテル化合物、アミド化合物、アミン化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ニトリル化合物、エステル化合物等が挙げられる。
分散媒としては、非極性分散媒(疎水性の分散媒)でも極性分散媒(親水性の分散媒)でもよいが、優れた分散性を発現できる点で、非極性分散媒が好ましい。非極性分散媒とは、一般に水に対する親和性が低い性質をいうが、本発明においては、例えば、エステル化合物、ケトン化合物、エーテル化合物、香族化合物、脂肪族化合物等が挙げられる。
【0138】
アルコール化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ソルビトール、キシリトール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールが挙げられる。
【0139】
エーテル化合物としては、例えば、アルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等)、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、アルキレングリコールジアルキルエーテル(エチレングリコールジメチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)、環状エーテル(テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2-、1,3-及び1,4-の各異性体を含む)等)が挙げられる。
【0140】
アミド化合物としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。
【0141】
アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。
ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、ジプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン(DIBK)、イソブチルプロピルケトン、sec-ブチルプロピルケトン、ペンチルプロピルケトン、ブチルプロピルケトンなどが挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
脂肪族化合物としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、パラフィン、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリルなどが挙げられる。
エステル化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、ペンタン酸ブチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸イソブチル、ピバル酸プロピル、ピバル酸イソプロピル、ピバル酸ブチル、ピバル酸イソブチルなどが挙げられる。
【0142】
本発明においては、中でも、エーテル化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、エステル化合物が好ましく、ケトン化合物、脂肪族化合物又はエステル化合物がより好ましい。
【0143】
分散媒を構成する化合物の炭素数は特に制限されず、2~30が好ましく、4~20がより好ましく、6~15が更に好ましく、7~12が特に好ましい。
【0144】
分散媒は常圧(1気圧)での沸点が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。上限は250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることが更に好ましい。
【0145】
本発明の無機固体電解質含有組成物が分散媒を含有する場合、分散媒は、少なくとも1種であればよく、2種以上であってもよい。また、分散媒の含有量は、特に制限されず適宜に設定することができる。例えば、無機固体電解質含有組成物中、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、40~60質量%が特に好ましい。
【0146】
<活物質>
本発明の無機固体電解質含有組成物には、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質を含有することもできる。活物質としては、以下に説明するが、正極活物質及び負極活物質が挙げられる。
本発明において、活物質(正極活物質又は負極活物質)を含有する無機固体電解質含有組成物を電極用組成物(正極用組成物又は負極用組成物)ということがある。
【0147】
(正極活物質)
正極活物質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質であり、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく電池を分解して、遷移金属酸化物、又は、有機物、硫黄などのLiと複合化できる元素などでもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素Ma(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素Mb(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P及びBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Maの量(100モル%)に対して0~30モル%が好ましい。Li/Maのモル比が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0148】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO2(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi2O2(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])及びLiNi0.5Mn0.5O2(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn2O4(LMO)、LiCoMnO4、Li2FeMn3O8、Li2CuMn3O8、Li2CrMn3O8及びLi2NiMn3O8が挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO4及びLi3Fe2(PO4)3等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP2O7等のピロリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類並びにLi3V2(PO4)3(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、Li2FePO4F等のフッ化リン酸鉄塩、Li2MnPO4F等のフッ化リン酸マンガン塩及びLi2CoPO4F等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、Li2CoSiO4等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO又はNMCがより好ましい。
【0149】
正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質の粒子径(体積平均粒子径)は特に制限されない。例えば、0.1~50μmとすることができる。正極活物質粒子の粒子径は、上記無機固体電解質の粒子径と同様にして測定できる。正極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル又は篩などが好適に用いられる。粉砕時には水又はメタノール等の分散媒を共存させた湿式粉砕も行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級は、特に限定はなく、篩、風力分級機などを用いて行うことができる。分級は乾式及び湿式ともに用いることができる。
焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。
【0150】
正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質層を形成する場合、正極活物質層の単位面積(cm2)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
【0151】
正極活物質の、無機固体電解質含有組成物中における含有量は特に制限されず、固形分100質量%において、10~97質量%が好ましく、30~95質量%がより好ましく、40~93質量が更に好ましく、50~90質量%が特に好ましい。
【0152】
(負極活物質)
負極活物質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質であり、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金形成可能(合金化可能)な負極活物質等が挙げられる。中でも、炭素質材料、金属複合酸化物又はリチウム単体が信頼性の点から好ましく用いられる。全固体二次電池の大容量化が可能となる点では、リチウムと合金化可能な活物質が好ましい。本発明の固体電解質組成物で形成した構成層は固体粒子同士が強固に結着しているため、負極活物質としてリチウムと合金形成可能な負極活物質を用いることができる。これにより、全固体二次電池の大容量化と電池の長寿命化とが可能となる。
【0153】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂若しくはフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。更に、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維及び活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー並びに平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
これらの炭素質材料は、黒鉛化の程度により難黒鉛化炭素質材料(ハードカーボンともいう。)と黒鉛系炭素質材料に分けることもできる。また炭素質材料は、特開昭62-22066号公報、特開平2-6856号公報、同3-45473号公報に記載される面間隔又は密度、結晶子の大きさを有することが好ましい。炭素質材料は、単一の材料である必要はなく、特開平5-90844号公報記載の天然黒鉛と人造黒鉛の混合物、特開平6-4516号公報記載の被覆層を有する黒鉛等を用いることもできる。
炭素質材料としては、ハードカーボン又は黒鉛が好ましく用いられ、黒鉛がより好ましく用いられる。
【0154】
負極活物質として適用される金属若しくは半金属元素の酸化物としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な酸化物であれば特に制限されず、金属元素の酸化物(金属酸化物)、金属元素の複合酸化物若しくは金属元素と半金属元素との複合酸化物(纏めて金属複合酸化物という。)、半金属元素の酸化物(半金属酸化物)が挙げられる。これらの酸化物としては、非晶質酸化物が好ましく、更に金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイドも好ましく挙げられる。本発明において、半金属元素とは、金属元素と非半金属元素との中間の性質を示す元素をいい、通常、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルの6元素を含み、更にはセレン、ポロニウム及びアスタチンの3元素を含む。また、非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。2θ値で40°~70°に見られる結晶性の回折線の内最も強い強度が、2θ値で20°~40°に見られるブロードな散乱帯の頂点の回折線強度の100倍以下であるのが好ましく、5倍以下であるのがより好ましく、結晶性の回折線を有さないことが特に好ましい。
【0155】
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物又は上記カルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族~15(VB)族の元素(例えば、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBi)から選択される1種単独若しくはそれらの2種以上の組み合わせからなる(複合)酸化物、又はカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga2O3、GeO、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb2O4、Pb3O4、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O8Bi2O3、Sb2O8Si2O3、Sb2O5、Bi2O3、Bi2O4、GeS、PbS、PbS2、Sb2S3又はSb2S5が好ましく挙げられる。
Sn、Si、Geを中心とする非晶質酸化物に併せて用いることができる負極活物質としては、リチウムイオン又はリチウム金属を吸蔵及び/又は放出できる炭素質材料、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金化可能な負極活物質が好適に挙げられる。
【0156】
金属若しくは半金属元素の酸化物、とりわけ金属(複合)酸化物及び上記カルコゲナイドは、構成成分として、チタン及びリチウムの少なくとも一方を含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。リチウムを含有する金属複合酸化物(リチウム複合金属酸化物)としては、例えば、酸化リチウムと上記金属(複合)酸化物若しくは上記カルコゲナイドとの複合酸化物、より具体的には、Li2SnO2が挙げられる。
負極活物質、例えば金属酸化物は、チタン元素を含有すること(チタン酸化物)も好ましく挙げられる。具体的には、Li4Ti5O12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0157】
負極活物質としてのリチウム合金としては、二次電池の負極活物質として通常用いられる合金であれば特に制限されず、例えば、リチウムアルミニウム合金が挙げられる。
【0158】
リチウムと合金形成可能な負極活物質は、二次電池の負極活物質として通常用いられるものであれば特に制限されない。このような活物質は、全固体二次電池の充放電による膨張収縮が大きく、サイクル特性の低下を加速させるが、本発明の無機固体電解質含有組成物は上述の化合物(SA)を含有するため、サイクル特性の低下を抑制できる。このような活物質として、ケイ素元素若しくはスズ元素を有する(負極)活物質(合金等)、Al及びIn等の各金属が挙げられ、より高い電池容量を可能とするケイ素元素を有する負極活物質(ケイ素元素含有活物質)が好ましく、ケイ素元素の含有量が全構成元素の50モル%以上のケイ素元素含有活物質がより好ましい。
一般的に、これらの負極活物質を含有する負極(例えば、ケイ素元素含有活物質を含有するSi負極、スズ元素を有する活物質を含有するSn負極等)は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位質量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量(エネルギー密度)を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
ケイ素元素含有活物質としては、例えば、Si、SiOx(0<x≦1)等のケイ素材料、更には、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、ランタン等を含むケイ素含有合金(例えば、LaSi2、VSi2、La-Si、Gd-Si、Ni-Si)、又は組織化した活物質(例えば、LaSi2/Si)、他にも、SnSiO3、SnSiS3等のケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。なお、SiOxは、それ自体を負極活物質(半金属酸化物)として用いることができ、また、全固体二次電池の稼働によりSiを生成するため、リチウムと合金化可能な負極活物質(その前駆体物質)として用いることができる。
スズ元素を有する負極活物質としては、例えば、Sn、SnO、SnO2、SnS、SnS2、更には上記ケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。また、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、Li2SnO2を挙げることもできる。
【0159】
本発明においては、上述の負極活物質を特に制限されることなく用いることができるが、電池容量の点では、負極活物質として、リチウムと合金化可能な負極活物質が好ましい態様であり、中でも、上記ケイ素材料又はケイ素含有合金(ケイ素元素を含有する合金)がより好ましく、ケイ素(Si)又はケイ素含有合金を含むことが更に好ましい。
【0160】
上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0161】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の体積平均粒子径は、特に制限されないが、0.1~60μmが好ましい。負極活物質粒子の体積平均粒子径は、上記無機固体電解質の平均粒子径と同様にして測定できる。所定の粒子径にするには、正極活物質と同様に、通常の粉砕機若しくは分級機が用いられる。
【0162】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm2)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
【0163】
負極活物質の、無機固体電解質含有組成物中における含有量は特に制限されず、固形分100質量%において、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%がより好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~75質量%であることが更に好ましい。
【0164】
本発明において、負極活物質層を二次電池の充電により形成する場合、上記負極活物質に代えて、全固体二次電池内に発生する周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンを用いることができる。このイオンを電子と結合させて金属として析出させることで、負極活物質層を形成できる。
【0165】
(活物質の被覆)
正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、LiTaO3、LiNbO3、LiAlO2、Li2ZrO3、Li2WO4、Li2TiO3、Li2B4O7、Li3PO4、Li2MoO4、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、Li2SiO3、SiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、B2O3等が挙げられる。
また、正極活物質又は負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
更に、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
【0166】
<導電助剤>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、導電助剤を含有していることが好ましく、例えば、負極活物質としてのケイ素原子含有活物質は導電助剤と併用されることが好ましい。
導電助剤としては、特に制限はなく、一般的な導電助剤として知られているものを用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェン若しくはフラーレンなどの炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でもよく、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体などの導電性高分子を用いてもよい。
本発明において、活物質と導電助剤とを併用する場合、上記の導電助剤のうち、電池を充放電した際に周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン(好ましくはLiイオン)の挿入と放出が起きず、活物質として機能しないものを導電助剤とする。したがって、導電助剤の中でも、電池を充放電した際に活物質層中において活物質として機能しうるものは、導電助剤ではなく活物質に分類する。電池を充放電した際に活物質として機能するか否かは、一義的ではなく、活物質との組み合わせにより決定される。
【0167】
導電助剤は、1種を含有していてもよいし、2種以上を含有していてもよい。
導電助剤の形状は、特に制限されないが、粒子状が好ましい。
本発明の無機固体電解質含有組成物が導電助剤を含む場合、無機固体電解質含有組成物中の導電助剤の含有量は、固形分100質量%中、0~10質量%が好ましい。
【0168】
<リチウム塩>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、リチウム塩(支持電解質)を含有することも好ましい。
リチウム塩としては、通常この種の製品に用いられるリチウム塩が好ましく、特に制限はなく、例えば、特開2015-088486の段落0082~0085記載のリチウム塩が好ましい。
本発明の無機固体電解質含有組成物がリチウム塩を含む場合、リチウム塩の含有量は、固体電解質100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。上限としては、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0169】
<分散剤>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、分散剤を適宜に含有することができる。本発明の無機固体電解質含有組成物がポリマーバインダーを含有する場合、このポスターが分散剤としても機能するため、このポリマーバインダー以外の分散剤を含有していなくてもよいが、分散剤を含有してもよい。分散剤としては、全固体二次電池に通常使用されるものを適宜選定して用いることができる。一般的には粒子吸着と立体反発及び/又は静電反発を意図した化合物が好適に使用される。
【0170】
<他の添加剤>
本発明の無機固体電解質含有組成物は、上記各成分以外の他の成分として、適宜に、イオン液体、増粘剤、架橋剤(ラジカル重合、縮合重合又は開環重合により架橋反応するもの等)、重合開始剤(酸又はラジカルを熱又は光によって発生させるものなど)、消泡剤、レベリング剤、脱水剤、酸化防止剤等を含有することができる。イオン液体は、イオン伝導度をより向上させるため含有されるものであり、公知のものを特に制限されることなく用いることができる。また、上述のバインダーに含まれるポリマー以外のポリマー、通常用いられる結着剤等を含有していてもよい。
【0171】
(無機固体電解質含有組成物の調製)
本発明の無機固体電解質含有組成物は、無機固体電解質及び上述の化合物(SA)、好ましくは、ポリマーバインダー、分散媒、用途に応じて活物質、導電助剤、更には適宜に、リチウム塩、任意の他の成分を、例えば通常用いる各種の混合機で混合することにより、混合物として、好ましくはスラリーとして、調製することができる。
混合方法は特に制限されず、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。混合する環境は特に制限されないが、乾燥空気下又は不活性ガス下等が挙げられる。
【0172】
[全固体二次電池用シート]
本発明の全固体二次電池用シートは、全固体二次電池の構成層を形成しうるシート状成形体であって、その用途に応じて種々の態様を含む。例えば、固体電解質層に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用固体電解質シートともいう。)、電極、又は電極と固体電解質層との積層体に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用電極シート)等が挙げられる。本発明において、これら各種のシートをまとめて全固体二次電池用シートという。
【0173】
本発明の全固体二次電池用固体電解質シートは、固体電解質層を有するシートであればよく、固体電解質層が基材上に形成されているシートでも、基材を有さず、固体電解質層から形成されているシートであってもよい。全固体二次電池用固体電解質シートは、固体電解質層の他に他の層を有してもよい。他の層としては、例えば、保護層(剥離シート)、集電体、コート層等が挙げられる。
本発明の全固体二次電池用固体電解質シートとして、例えば、基材上に、本発明の無機固体電解質含有組成物で構成した層、通常固体電解質層と、保護層とをこの順で有するシートが挙げられる。全固体二次電池用固体電解質シートが有する固体電解質層は、本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されることが好ましい。この固体電解質層中の各成分の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、本発明の無機固体電解質含有組成物の固形分中における各成分の含有量と同義である。全固体二次電池用固体電解質シートを構成する各層の層厚は、後述する全固体二次電池において説明する各層の層厚と同じである。
【0174】
基材としては、固体電解質層を支持できるものであれば特に限定されず、後述する集電体で説明する材料、有機材料、無機材料等のシート体(板状体)等が挙げられる。有機材料としては、各種ポリマー等が挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース等が挙げられる。無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック等が挙げられる。
【0175】
本発明の全固体二次電池用電極シート(単に「電極シート」ともいう。)は、活物質層を有する電極シートであればよく、活物質層が基材(集電体)上に形成されているシートでも、基材を有さず、活物質層から形成されているシートであってもよい。この電極シートは、通常、集電体及び活物質層を有するシートであるが、集電体、活物質層及び固体電解質層をこの順に有する態様、並びに、集電体、活物質層、固体電解質層及び活物質層をこの順に有する態様も含まれる。電極シートが有する固体電解質層及び活物質層は、本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されることが好ましい。この固体電解質層又は活物質層中の各成分の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、本発明の無機固体電解質含有組成物(電極用組成物)の固形分中における各成分の含有量と同義である。本発明の電極シートを構成する各層の層厚は、後述する全固体二次電池において説明する各層の層厚と同じである。本発明の電極シートは上述の他の層を有してもよい。
【0176】
本発明の全固体二次電池用シートは、固体電解質層及び活物質層の少なくとも1層が本発明の無機固体電解質含有組成物で形成され、好ましくは活物質層が本発明の無機固体電解質含有組成物で形成される。そのため、本発明の無機固体電解質含有組成物で形成された構成層は、後述する実施例で示すように大きな層密度比を実現できる。本発明の全固体二次電池用シートを全固体二次電池の構成層として用いることにより、全固体二次電池の優れたサイクル特性と低抵抗を実現できる。特に負極活物質を本発明の無機固体電解質含有組成物で形成した全固体二次電池用負極シート及び全固体二次電池は、負極活物質としてリチウムと合金形成可能な負極活物質を用いても、高い活物質容量を示しつつも低抵抗化及び高いサイクル特性を達成できる。
【0177】
[全固体二次電池用シートの製造方法]
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法は、特に制限されず、本発明の無機固体電解質含有組成物を用いて、上記の各層を形成することにより、製造できる。例えば、本発明の無機固体電解質含有組成物が固体混合物である場合、基材若しくは集電体上で加圧成形して形成する方法が挙げられる。一方、本発明の無機固体電解質含有組成物が分散媒を含有する場合、好ましくは基材若しくは集電体上(他の層を介していてもよい。)に、製膜(塗布乾燥)して無機固体電解質含有組成物からなる層(塗布乾燥層)を形成する方法が挙げられる。これにより、基材若しくは集電体と、塗布乾燥層とを有する全固体二次電池用シートを作製することができる。ここで、塗布乾燥層とは、本発明の無機固体電解質含有組成物を塗布し、分散媒を乾燥させることにより形成される層(すなわち、本発明の無機固体電解質含有組成物を用いてなり、本発明の無機固体電解質含有組成物から分散媒を除去した組成からなる層)をいう。活物質層及び塗布乾燥層は、本発明の効果を損なわない範囲であれば分散媒が残存していてもよく、残存量としては、例えば、各層中、3質量%以下とすることができる。
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法において、塗布、乾燥等の各工程については、下記全固体二次電池の製造方法において説明する。
【0178】
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法においては、上記のようにして得られた塗布乾燥層を加圧することもできる。加圧条件等については、後述する、全固体二次電池の製造方法において説明する。
また、本発明の全固体二次電池用シートの製造方法においては、基材、保護層(特に剥離シート)等を剥離することもできる。
【0179】
[全固体二次電池]
本発明の全固体二次電池は、正極活物質層と、この正極活物質層に対向する負極活物質層と、正極活物質層及び負極活物質層の間に配置された固体電解質層とを有する。正極活物質層は、好ましくは正極集電体上に形成され、正極を構成する。負極活物質層は、好ましくは負極集電体上に形成され、負極を構成する。
負極活物質層、正極活物質層及び固体電解質層の少なくとも1つの層が本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されており、負極活物質層が本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されていることが好ましい。全ての層が本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されることも好ましい態様の1つである。本発明の無機固体電解質含有組成物で形成された活物質層又は固体電解質層は、好ましくは、含有する成分種及びその含有量比について、本発明の無機固体電解質含有組成物の固形分におけるものと同じである。なお、活物質層又は固体電解質層が本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されない場合、公知の材料を用いることができる。
負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の厚さは、それぞれ、特に制限されない。各層の厚さは、一般的な全固体二次電池の寸法を考慮すると、それぞれ、10~1,000μmが好ましく、20μm以上500μm未満がより好ましい。本発明の全固体二次電池においては、正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも1層の厚さが、50μm以上500μm未満であることが更に好ましい。
正極活物質層及び負極活物質層は、それぞれ、固体電解質層とは反対側に集電体を備えていてもよい。
【0180】
<筐体>
本発明の全固体二次電池は、用途によっては、上記構造のまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池の形態とするためには更に適当な筐体に封入して用いることが好ましい。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金又は、ステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0181】
以下に、
図1を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0182】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、隣接した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e
-)が供給され、そこにリチウムイオン(Li
+)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li
+)が正極側に戻され、作動部位6に電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球をモデル的に採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
【0183】
図1に示す層構成を有する全固体二次電池を2032型コインケースに入れる場合、この全固体二次電池を全固体二次電池用積層体と称し、この全固体二次電池用積層体を2032型コインケースに入れて作製した電池を全固体二次電池と称して呼び分けることもある。
【0184】
(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)
全固体二次電池10においては、正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層のいずれも本発明の無機固体電解質含有組成物で形成されている。この全固体二次電池10は優れた電池性能を示す。正極活物質層4、固体電解質層3及び負極活物質層2が含有する無機固体電解質、化合物(SA)及びポリマーバインダーは、それぞれ、互いに同種であっても異種であってもよい。
本発明において、正極活物質層及び負極活物質層のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、活物質層又は電極活物質層と称することがある。また、正極活物質及び負極活物質のいずれか、又は両方を合わせて、単に、活物質又は電極活物質と称することがある。
【0185】
本発明において、構成層を本発明の無機固体電解質含有組成物で形成すると、サイクル特性に優れ、更に低抵抗な全固体二次電池を実現することができる。
【0186】
全固体二次電池10においては、負極活物質層をリチウム金属層とすることができる。リチウム金属層としては、リチウム金属の粉末を堆積又は成形してなる層、リチウム箔及びリチウム蒸着膜等が挙げられる。リチウム金属層の厚さは、上記負極活物質層の上記厚さにかかわらず、例えば、1~500μmとすることができる。
【0187】
正極集電体5及び負極集電体1は、電子伝導体が好ましい。
本発明において、正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、集電体と称することがある。
正極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたもの(薄膜を形成したもの)が好ましく、その中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。
負極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、アルミニウム、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
【0188】
集電体の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。
集電体の厚みは、特に制限されないが、1~500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0189】
上記全固体二次電池10においては、正極活物質層は公知の構成層形成材料で形成した層を適用することもできる。
本発明において、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層及び正極集電体の各層の間又はその外側には、機能性の層、部材等を適宜介在若しくは配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
【0190】
[全固体二次電池の製造]
全固体二次電池は、常法によって、製造できる。具体的には、全固体二次電池は、本発明の無機固体電解質含有組成物等を用いて、上記の各層を形成することにより、製造できる。以下、詳述する。
【0191】
本発明の全固体二次電池は、本発明の無機固体電解質含有組成物を、適宜基材(例えば、集電体となる金属箔)上に、塗布し、塗膜を形成する(製膜する)工程を含む(介する)方法(本発明の全固体二次電池用シートの製造方法)を行って、製造できる。
例えば、正極集電体である金属箔上に、正極用材料(正極用組成物)として、正極活物質を含有する無機固体電解質含有組成物を塗布して正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極シートを作製する。次いで、この正極活物質層の上に、固体電解質層を形成するための無機固体電解質含有組成物を塗布して、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、負極用材料(負極用組成物)として、負極活物質を含有する無機固体電解質含有組成物を塗布して、負極活物質層を形成する。負極活物質層の上に、負極集電体(金属箔)を重ねることにより、正極活物質層と負極活物質層の間に固体電解質層が挟まれた構造の全固体二次電池を得ることができる。これを筐体に封入して所望の全固体二次電池とすることもできる。
また、各層の形成方法を逆にして、負極集電体上に、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層を形成し、正極集電体を重ねて、全固体二次電池を製造することもできる。
【0192】
別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シートを作製する。また、負極集電体である金属箔上に、負極用材料(負極用組成物)として、負極活物質を含有する無機固体電解質含有組成物を塗布して負極活物質層を形成し、全固体二次電池用負極シートを作製する。次いで、これらシートのいずれか一方の活物質層の上に、上記のようにして、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートの他方を、固体電解質層と活物質層とが接するように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
また別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートを作製する。また、これとは別に、無機固体電解質含有組成物を基材上に塗布して、固体電解質層からなる全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。更に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートで、基材から剥がした固体電解質層を挟むように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
更に、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート又は全固体二次電池用負極シート、及び全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。次いで、全固体二次電池用正極シート又は全固体二次電池用負極シートと全固体二次電池用固体電解質シートとを、正極活物質層又は負極活物質層と固体電解質層とを接触させた状態に、重ねて、加圧する。こうして、全固体二次電池用正極シート又は全固体二次電池用負極シートに固体電解質層を転写する。その後、全固体二次電池用固体電解質シートの基材を剥離した固体電解質層と全固体二次電池用負極シート又は全固体二次電池用正極シートとを(固体電解質層に負極活物質層又は正極活物質層を接触させた状態に)重ねて加圧する。こうして、全固体二次電池を製造することができる。この方法における加圧方法及び加圧条件等は、特に制限されず、後述する、塗布した組成物の加圧において説明する方法及び加圧条件等を適用できる。
【0193】
固体電解質層等は、例えば基板若しくは活物質層上で、無機固体電解質含有組成物等を後述する加圧条件下で加圧成形して形成することもできるし、固体電解質又は活物質のシート成形体を用いることもできる。
上記の製造方法においては、正極用組成物、無機固体電解質含有組成物及び負極用組成物のいずれか1つに本発明の無機固体電解質含有組成物を用いればよく、負極用組成物に本発明の無機固体電解質含有組成物を用いることが好ましく、いずれの組成物に本発明の無機固体電解質含有組成物を用いることもできる。
本発明の固体電解質組成物以外の組成物で固体電解質層又は活物質層を形成する場合、その材料としては、通常用いられる組成物等が挙げられる。また、全固体二次電池の製造時に負極活物質層を形成せずに、後述する初期化若しくは使用時の充電で負極集電体に蓄積した、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンを電子と結合させて、金属として負極集電体等の上に析出させることにより、負極活物質層を形成することもできる。
【0194】
<各層の形成(成膜)>
無機固体電解質含有組成物の塗布方法は特に制限されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート塗布、スリット塗布、ストライプ塗布、バーコート塗布が挙げられる。
このとき、無機固体電解質含有組成物は、それぞれ塗布した後に乾燥処理を施してもよいし、重層塗布した後に乾燥処理をしてもよい。乾燥温度は特に制限されない。下限は、30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。このような温度範囲で加熱することで、分散媒を除去し、固体状態(塗布乾燥層)にすることができる。また、温度を高くしすぎず、全固体二次電池の各部材を損傷せずに済むため好ましい。これにより、全固体二次電池において、優れた総合性能を示し、かつ良好な結着性と、非加圧でも良好なイオン伝導度を得ることができる。
【0195】
無機固体電解質含有組成物を塗布した後、構成層を重ね合わせた後、又は全固体二次電池を作製した後に、各層又は全固体二次電池を加圧することが好ましい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機等が挙げられる。加圧力としては特に制限されず、一般的には5~1500MPaの範囲であることが好ましい。
また、塗布した無機固体電解質含有組成物は、加圧と同時に加熱してもよい。加熱温度としては特に制限されず、一般的には30~300℃の範囲である。無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。なお、バインダーに含まれるポリマーのガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。ただし、一般的にはこのポリマーの融点を越えない温度である。
加圧は塗布溶媒又は分散媒を予め乾燥させた状態で行ってもよいし、溶媒又は分散媒が残存している状態で行ってもよい。
なお、各組成物は同時に塗布してもよいし、塗布乾燥プレスを同時及び/又は逐次行ってもよい。別々の基材に塗布した後に、転写により積層してもよい。
【0196】
製造プロセス、例えば加熱若しくは加圧中の雰囲気としては特に制限されず、大気下、乾燥空気下(露点-20℃以下)、不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)などいずれでもよい。
プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。全固体二次電池用シート以外、例えば全固体二次電池の場合には、中程度の圧力をかけ続けるために、全固体二次電池の拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧はシート面等の被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。
プレス圧は被圧部の面積又は層厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。
プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
【0197】
<初期化>
上記のようにして製造した全固体二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化は特に制限されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を解放することにより、行うことができる。
【0198】
[全固体二次電池の用途]
本発明の全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に制限はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源などが挙げられる。その他民生用として、自動車、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【実施例】
【0199】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。本発明において「室温」とは25℃を意味する。
【0200】
1.硫化物系無機固体電解質の合成
[合成例A]
硫化物系無機固体電解質は、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235、及び、A.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして合成した。
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(Li2S、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g及び五硫化二リン(P2S5、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。Li2S及びP2S5の混合比は、モル比でLi2S:P2S5=75:25とした。
次いで、ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66個投入し、上記硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を密閉した。遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にこの容器をセットし、温度25℃、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行うことで、黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li-P-S系ガラス、以下、LPSと表記することがある。)6.20gを得た。イオン伝導度は0.28mS/cmであり、上記測定方法によるLi-P-S系ガラスの平均粒径は15μmであった。
【0201】
2.化合物(SA)の合成又は準備
以下に示す化合物(SA)A-1~A-28、B-01~B-02及びC-01~C-04をそれぞれ(分散媒)トルエンに溶解して、濃度3質量%の溶液を調製した。
【0202】
【0203】
【0204】
【0205】
上記A-01~A-28で表される各化合物は、上述の式(1)で表される化合物である。
<各化合物の準備又は合成>
(1)化合物A-01~A-04及びA-20~A-24
各化合物として市販の化合物(富士フイルム和光純薬社製)を用いた。
(2)化合物A-05
化合物A-05を、下記文献に記載の方法に従って、合成した。
文献:Analytical chemistry,1998,vol.60,2509-2512
(3)化合物A-06~A-18
化合物A-05の合成において、A-06~A-18を形成するアルコール化合物と酸無水物に変更した以外は、A-05と同様にして、化合物A-06~A-18をそれぞれ合成した。
(4)化合物A-19
下記文献に記載の方法に従って、合成した。
文献:Journal of the American Society for Mass Spectrometry,2014,vol.25,751-757
(5)化合物A-25~A-28
下記の各文献に記載の方法に従って、化合物A-25~A-28をそれぞれ合成した。
(化合物A-25)文献:Organic and Biomolecular chemistry,2014,vol.12,261-264
(化合物A-26)文献:Molecules,2016,vol.21(1),24
(化合物A-27)文献:Bulletin de la Societe Chimique de France,1988,671-680
(化合物A-28)文献:Tetrahedron Letters,1986,vol.27,6329-6332
【0206】
上述の化合物(B)(フッ素系ポリマー)として下記B-01及びB-02の各化合物を準備した。
B-01:フルオロリンク(登録商標)F10(パーフルオロポリエーテル、リン酸基含有、Solvey社製)
B-02:フルオロリンク(登録商標)S10(パーフルオロポリエーテル、アルコキシシリル基含有、Solvey社製)
【0207】
上述の化合物(C)(オルガノポリシロキサン)として下記C-01~C-04の各化合物を準備した。
C-01:X-22-162C(両末端反応性シリコーンオイル、反応性基はカルボキシル基、信越化学工業社製)
C-02:X-22-163A(両末端反応性シリコーンオイル、反応性基はエポキシ基、信越化学工業社製)
C-03:X-22-164C(両末端反応性シリコーンオイル、反応性基はメタクリロイルオキシ基、信越化学工業社製)
C-04:KF-2201(側鎖反応性シリコーンオイル、反応性基は(フェノール性)水酸基、信越化学工業社製)
【0208】
[実施例1]
<負極用組成物S-1~S-44及びcS-1~cS-3の調製>
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記合成例Aで合成したLPSを4.0g、表1に示す化合物(SA)の溶液を表1に示す含有量(固形分量)となる量、及び酪酸ブチルを22g投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)にこの容器をセットし、25℃で、回転数300rpmで60分間攪拌した。その後、負極活物質としてケイ素(Si、Aldrich社製)又黒鉛(CGB20、商品名、日本黒鉛社製)を5.3g、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ社製)を表1に示す含有量となる量、バインダーPVdF-HFP(アルケマ社製、KYNER FLEX 2500-20)の酪酸ブチル分散液を表1に示す含有量(固形分量)となる量投入して、遊星ボールミルP-7に容器をセットし、25℃、回転数100rpmで10分間混合した。こうして、非水系組成物として負極用組成物S-1~S-44及びcS-1~cS-3をそれぞれ調製した。
【0209】
<負極用組成物S-45の調製>
上記負極用組成物S-3の調整において、バインダーPVdF-HFPを下記合成例1で合成したポリウレタンバインダーB-1に変更し、固形分量が同じになるようにバインダーの混合量と酪酸ブチルの混合量を調整したこと以外は、上記負極用組成物S-3の調製と同様にして、非水系組成物として負極用組成物S-45を調製した。
【化15】
【0210】
[合成例1:ポリウレタンB-1の合成及びポリウレタンB-1からなるバインダー分散液B-1の調製]
(ポリウレタンB-1の合成)
300mL3つ口フラスコに、ポリエチレングリコール(PEG200(商品名)、数平均分子量200、富士フイルム和光純薬社製)2.92gと、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量250、SIGMA-Aldrich社製)3.65gと、NISSO-PB G-1000(商品名、日本曹達社製)3.78gと、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸(東京化成工業社製)0.60gを加え、THF(テトラヒドロフラン)80.85gに溶解した。この溶液に、ジフェニルメタンジイソシアネート(富士フイルム和光純薬社製)9.26gを加えて60℃で撹拌し、均一に溶解させた。
得られた溶液に、ネオスタンU-600(商品名、日東化成社製)65mgを添加して60℃で5時間攪伴した。この溶液にメタノール0.96gを加えてポリマー末端を封止して、重合反応を停止し、ポリマーB-1の20質量%THF溶液(ポリマー溶液)を得た。
【0211】
(バインダー分散液B-1の調製)
上記で得られたポリマー溶液15.00gを、THF15.00gで希釈し、撹拌しながら、酪酸ブチル90.00gを1時間かけて滴下し、ポリマーB-1の乳化液を得た。この乳化液を70g程度まで濃縮し、酪酸ブチルを加え、全量を100.00gとすることで、ポリマーB-1からなるバインダーの3質量%酪酸ブチル分散液(バインダー分散液B-1)を得た。
【0212】
<全固体二次電池用負極シートの作製>
上記で得られた各負極用組成物を、厚み10μmのステンレス鋼箔(負極集電体)上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201、テスター産業社製)を用いて塗布し、100℃で2時間加熱して、負極用組成物を乾燥(分散媒を除去)した。その後、ヒートプレス機を用いて、乾燥させた負極用組成物を25℃で加圧(20MPa、1分)して、層厚50μmの負極活物質層を有する全固体二次電池用負極シートPS-1~PS-45及びPcS-1~PcS-3をそれぞれ作製した。
【0213】
負極用組成物cS-2の調製及び全固体二次電池用負極シートPcS-2の作製に用いた化合物(以下に化学構造を示す。)cA-01は本発明で規定する化合物(SA)ではないが、表1において便宜上、化合物(SA)欄に示す。
【化16】
【0214】
【0215】
<表の注>
含有量は、負極用組成物の固形分100質量%中の含有量であり、単位は質量%である。
導電助剤はアセチレンブラック(デンカ社製)である。
バインダーは、PVdF-HFPからなるポリマーバインダー又はポリウレタンバインダーB-1である。
【0216】
<無機固体電解質含有組成物の調製>
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記合成例Aで合成したLPSを4.85g、下記ポリマーバインダー溶液を0.15g(固形分質量)、及び酪酸ブチルを16.0g投入した。その後、この容器をフリッチュ社製遊星ボールミルP-7にセットし、温度25℃、回転数150rpmで10分間混合して、無機固体電解質含有組成物を調製した。
(ポリマーバインダー溶液)
PVdF-HFP(アルケマ社製、KYNER FLEX 2500-20)を酪酸ブチルに溶解させて調製した、固形分濃度3質量%のポリマーバインダー溶液
【0217】
<全固体二次電池用固体電解質シートの作製>
上記で得られた無機固体電解質含有組成物を厚み20μmのアルミニウム箔上に、アプリケーター(商品名:SA-201)を用いて塗布し、80℃で2時間加熱して、無機固体電解質含有組成物を乾燥(分散媒を除去)させた。その後、ヒートプレス機を用いて、温度120℃、加圧力600MPaで10秒間、乾燥させた無機固体電解質含有組成物を加熱及び加圧して、全固体二次電池用固体電解質シートを作製した。固体電解質層の層厚は50μmであった。
【0218】
<固体電解質層を有する全固体二次電池用負極シートの作製>
表2に示す各全固体二次電池用負極シートの負極活物質層上に、上記で作製した全固体二次電池用固体電解質シートを、固体電解質層が負極活物質層に接するように重ね、プレス機を用いて、温度25℃、加圧力50MPaで加圧して転写(積層)した後に、更に温度25℃、加圧力600MPaで加圧した。こうして、全固体二次電池用負極シートの負極活物質層上に層厚50μmの固体電解質層を積層した。
【0219】
<正極用組成物の調製>
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記合成例Aで合成したLPSを2.8g、下記ポリマーバインダー溶液を0.2g(固形分質量)及び酪酸ブチルを22g投入した。この容器をフリッチュ社製遊星ボールミルP-7にセットし、25℃で、回転数300rpmで60分間攪拌した。その後、この容器に、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NMC、アルドリッチ社製)を7.0g投入し、同様にして、遊星ボールミルP-7に容器をセットして、25℃、回転数100rpmで5分間混合した。こうして、正極用組成物を調製した。
(バインダー溶液)
PVdF-HFP(アルケマ社製、KYNER FLEX 2500-20)を酪酸ブチルに溶解させて調製した、固形分濃度3質量%のポリマーバインダー溶液
【0220】
<全固体二次電池用正極シートの作製>
上記で得られた正極用組成物を厚み20μmのアルミニウム箔(正極集電体)上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201)を用いて塗布し、100℃で2時間加熱し、正極用組成物を乾燥(分散媒を除去)した。その後、ヒートプレス機を用いて、乾燥させた正極用組成物を25℃で加圧(10MPa、1分)して、膜厚80μmの正極活物質層を有する全固体二次電池用正極シートを作製した。
作製した全固体二次電池用正極シートを直径14.0mmの円板状に打ち抜いて、円盤状正極シートを得た。
【0221】
<全固体二次電池の製造>
作製した、固体電解質層を有する各全固体二次電池用負極シート(全固体二次電池用固体電解質シートのアルミニウム箔は剥離済み)を直径14.5mmの円板状に切り出した。次いで、
図2に示すように、切り出した円盤状シートの負極集電体が底部側となるようにスペーサーとワッシャー(
図2において図示せず)を組み込んだステンレス製の2032型コインケース11に入れた。この円盤状シートの固体電解質層上に円盤状正極シートを、固体電解質層と正極活物質層とが接するように重ねて、全固体二次電池用積層体12(アルミニウム箔-正極活物質層-固体電解質層-負極活物質層-ステンレス鋼箔からなる積層体)を形成した。その後、2032型コインケース11をかしめることで、
図2に示す全固体二次電池No.1~45及びc1~c3をそれぞれ製造した。このようにして製造した全固体二次電池は、
図1に示す層構成を有している。
【0222】
製造した全固体二次電池No.1~45及びc1~c3等について、下記特性を評価してその結果を表2に示す。
表2に、無機固体電解質含有組成物の固形分100質量%中(負極活物質層)における、無機固体電解質の含有量[SE]と化合物(SA)の含有量[SA]との比率:[SA]/[SE]、及び、ポリマーバインダーの含有量[BR]と化合物(SA)の含有量[SA]との比率:[BR]/[SA]をそれぞれ算出して、示す。
なお、表2中の「化合物(SA)」欄に記載の化合物は負極活物質層中に含有する化合物(SA)を示している。
【0223】
<評価1:層密度試験>
以下の手順で、表2に示す各全固体二次電池に対応する、化合物(SA)を用いて評価用固体電解質成形体ペレットを作製した。
具体的には、5mL遠沈管に、直径3mmのジルコニアビーズを3.0g投入し、上記合成例Aで合成したLPS(0.8g)、表2に示す各全固体二次電池の製造に使用した化合物(SA)の酪酸ブチル溶液若しくは分散液(8.2mg(固形分質量))、更に酪酸ブチル(得られる無機固体電解質含有組成物の固形分濃度が20質量%になるように調整した量)を投入した。その後、この遠沈管を試験管ミキサーSe-04(商品名、タイテック社製)にセットして30分間混合して、無機固体電解質含有組成物を調製した。得られた無機固体電解質含有組成物をアルミカップへ回収し、ホットプレート上、100℃で2時間乾燥して、無機固体電解質含有組成物の粉末を得た。プレス機を用いて得られた粉末を25℃、加圧力200MPa又は600MPa加圧して、評価用固体電解質成形体ペレット(膜厚300~500μm)をそれぞれ作製した。
次いで、作製した各評価用固体電解質成形体ペレットの層密度を、成形後のペレット総厚を測定して体積を見積もり、粉末質量/ペレット体積により、算出した。
同一の化合物(SA)を用いて作製した評価用固体電解質成形体ペレットについて、加圧力600MPaでプレスして作製したペレットの層密度D600に対する、圧力200MPaでプレスして作製したペレットの層密度D200の比率:D200/D600を算出した。
本試験において、この比率:D200/D600が1に近くなるほど、無機固体電解質同士の表面抵抗が小さなっていることを意味し、全固体二次電池の構成層に用いた際に一旦膨張しても膨張前の高密な構成層(空隙の少ない構成層)に収縮しやすくなると考えられる。下記評価基準「C」以上が本試験の合格レベルである。結果を表3に示す。
- 評価基準 -
A: 0.9≦D200/D600<1.0
B: 0.8≦D200/D600<0.9
C: 0.7≦D200/D600<0.8
D: D200/D600<0.7
【0224】
<評価2:活物質容量の評価>
全固体二次電池No.1~45及びc1~c3の電池特性として、活物質の理論容量を下記のようにして算出して評価した。容量が高いほどエネルギー密度が高いことを示す。
- 理論容量の算出 -
リチウムの挿入時の飽和組成から算出した。
黒鉛:黒鉛はC→LiC6となるため、黒鉛1gあたりのLi挿入量は1340(クーロン)となる([(1(g)/6(黒鉛1分子当たりのLi挿入量))/12(黒鉛分子量)]×96500(ファラデー定数))。
3.6クーロンが1mAhのため、黒鉛の理論容量は372(mAh/g)(1340/3.6)となる。
ケイ素:ケイ素はSi→Li4.4Siとなるため、ケイ素1gあたりのLi挿入量は15110(クーロン)となる([(1(g)×4.4(ケイ素1分子当たりのLi挿入量))/28.1(ケイ素分子量)]×96500(ファラデー定数))。
よって、ケイ素の理論容量は4197(mAh/g)(15110/3.6)となる。
- 評価基準 -
A: 1500mAh/g≦活物質理論容量
B: 400mAh/g≦活物質理論容量<1500mAh/g
C: 活物質理論容量< 400mAh/g
【0225】
<評価3:抵抗の評価>
全固体二次電池No.1~45及びc1~c3の電池特性として、その抵抗を測定して、電池抵抗の高低を評価した。
各全固体二次電池の抵抗を、充放電評価装置:TOSCAT-3000(商品名、東洋システム社製)により評価した。充電は、電流密度0.1mA/cm2で電池電圧が4.2Vに達するまで行った。放電は、電流密度0.2mA/cm2で電池電圧が2.5Vに達するまで行った。この充電1回と放電1回とを充放電1サイクルとして繰り返して2サイクル充放電して、2サイクル目の5mAh/g(活物質質量1g当たりの電気量)放電後の電池電圧を読み取った。この電池電圧が下記評価基準のいずれに含まれるかにより、全固体二次電池の抵抗を評価した。
本発明において、電池電圧が高いほど低抵抗であることを意味し、評価基準「C」以上が合格である。
- 評価基準 -
A: 4.0V≦電池電圧
B: 3.7V≦電池電圧<4.0V
C: 3.5V≦電池電圧<3.7V
D: 2.5V≦電池電圧<3.5V
E: 充放電できず
【0226】
<評価4:サイクル特性の評価>
全固体二次電池No.1~45及びc1~c3の電池特性として、放電容量維持率を測定して、サイクル特性を評価した。
具体的には、各全固体二次電池の放電容量維持率を、25℃の環境下で、充放電評価装置:TOSCAT-3000(商品名、東洋システム社製)により測定した。充電は、電流密度0.1mA/cm2で電池電圧が4.2Vに達するまで行った。放電は、電流密度0.1mA/cm2で電池電圧が2.5Vに達するまで行った。この充電1回と放電1回とを充放電1サイクルとして1サイクル充放電を行って、全固体二次電池を初期化した。
初期化後の全固体二次電池について、上記充放電条件と同一の条件で、繰り返し充放電を行った。初期化後の充放電1サイクル目の放電容量(初期放電容量)を100%としたときに、放電容量維持率(初期放電容量に対する放電容量)が75%に達した(低下した)際の充放電サイクル数が、下記評価基準のいずれに含まれるかにより、サイクル特性を評価した。
本試験において、充放電サイクル数が多いほど電池性能(サイクル特性)に優れることを意味し、充放電を複数回繰り返しても(長期の使用においても)初期の電池性能を維持できる。下記評価基準「C」以上が本試験の合格である。
なお、全固体二次電池No.1~45の初期放電容量は、いずれも、全固体二次電池として機能するのに十分な値を示した。
- 評価基準 -
(1)負極活物質としてケイ素を用いた場合
A: 100サイクル≦充放電サイクル数
B: 50サイクル≦充放電サイクル数<100サイクル
C: 10サイクル≦充放電サイクル数< 50サイクル
D: 充放電サイクル数< 10サイクル
(2)負極活物質として黒鉛を用いた場合
A: 500サイクル≦充放電サイクル数
B: 200サイクル≦充放電サイクル数<500サイクル
C: 100サイクル≦充放電サイクル数<200サイクル
D: 充放電サイクル数<100サイクル
【0227】
【0228】
表2に示す結果から次のことが分かる。
無機固体電解質に対して本発明で規定する化合物(SA)以外の化合物を併用した比較例又は上記化合物(SA)を併用していない比較例の無機固体電解質含有組成物は、いずれも、層密度比が小さいため、高い圧力を作用させないと高密な構成層を形成できず、一旦膨張した構成層が膨張前の高密な構成層に収縮しにくいことが分かる。これらの無機固体電解質含有組成物で形成した構成層を有する比較例の全固体二次電池は、抵抗とサイクル特性とを両立できない。
これに対して、無機固体電解質に対して本発明で規定する化合物(SA)を併用した本発明の無機固体電解質含有組成物は、層密度比が大きいため、圧力の高低に大きく影響されずに高密な構成層を形成でき、一旦膨張した構成層が膨張前の高密な構成層に収縮しやすいことが分かる。これらの無機固体電解質含有組成物で形成した構成層を有する本発明の全固体二次電池は、低抵抗化と優れたサイクル特性との両立を実現できることが分かる。特に、負極活物質として充放電による膨張収縮が大きなSiを用いても、高い活物質容量を示しつつも、低抵抗化と優れたサイクル特性とを両立できる。よって、通常の活物質を含有し、又は活物質を含有しない無機固体電解質含有組成物においても、高密な構成層に復元しやすく、全固体二次電池に低抵抗化と優れたサイクル特性を付与できることが分かる。
【0229】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0230】
本願は、2019年9月27日に日本国で特許出願された特願2019-177551に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0231】
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池
11 2032型コインケース
12 全固体二次電池用積層体
13 コイン型全固体二次電池