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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】ケガキ治具及びケガキ線の刻印方法
(51)【国際特許分類】
   B25H 7/04 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
B25H7/04 J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022120436
(22)【出願日】2022-07-28
【審査請求日】2023-02-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 勝則
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智章
(72)【発明者】
【氏名】野村 祐司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慶
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特許第7079879(JP,B1)
【文献】実公昭55-023820(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25H 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状体の外周面にケガキ線を刻印するケガキ治具であって、
前記ケガキ線は、前記管状体を保持した前記ケガキ治具を回転させるか、又は、前記管状体を回転さえることにより形成し、
前記ケガキ治具は、
前記管状体の端部に沿って押し当てられるプレートと、
前記プレートに取り付けられ、前記管状体の軸線と平行な軸線を有する、一対の第一支持部と、
前記プレートに取り付けられる、少なくとも1つの第二支持部と、
ばね部材により、前記第二支持部を前記管状体に当接させるように力を与える当接手段と、
一方の前記第一支持部に取り付けられたケガキ手段と、を有し、
前記ケガキ手段、他方の前記第一支持部、及び、少なくとも1つの前記第二支持部が、前記管状体の外周面に接することにより、前記管状体は、前記ケガキ手段、及び他方の前記第一支持部と、少なくとも1つの前記第二支持部とによって挟持され、
前記ケガキ手段は、外周端が刃部とされた平面視円板状の丸刃からなり、該丸刃の刃部が前記管状体の外周面と接触することにより前記ケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ治具。
【請求項2】
管状体の外周面にケガキ線を刻印するケガキ治具であって、
前記ケガキ線は、前記管状体を保持した前記ケガキ治具を回転させるか、又は、前記管状体を回転さえることにより形成し、
前記ケガキ治具は、
前記管状体の端部に沿って押し当てられるプレートと、
前記プレートに取り付けられ、前記管状体の軸線と平行な軸線を有する、一対の第一支持部と、
前記プレートに取り付けられる、少なくとも1つの第二支持部と、
ばね部材により、前記第二支持部を前記管状体に当接させるように力を与える当接手段と、
一対の前記第一支持部に取り付けられたケガキ手段と、を有し、
一対の前記ケガキ手段、及び、少なくとも1つの前記第二支持部が、前記管状体の外周面に接することにより、前記管状体は、一対の前記ケガキ手段と、少なくとも1つの前記第二支持部とによって挟持され、
前記ケガキ手段は、外周端が刃部とされた平面視円板状の丸刃からなり、該丸刃の刃部が前記管状体の外周面と接触することにより前記ケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ治具。
【請求項3】
一対の前記第一支持部、及び前記第二支持部は、各々の軸線を中心に回転自在、あるいは、無回転で前記プレートに取り付けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のケガキ治具。
【請求項4】
前記第一支持部は、前記丸刃と前記プレートとの間に配置されるスペーサであり、
前記第一支持部を交換することで前記丸刃軸線方向における位置を変更することにより、前記管状体の前記外周面に刻印される前記ケガキ線の、前記管状体の一端からの距離を調整可能に設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のケガキ治具。
【請求項5】
前記当接手段は、前記ケガキ手段と他方の前記第一支持部と少なくとも1つの前記第二支持部とで前記管状体を挟み込むように、前記第二支持部を前記プレートに沿ってスライド移動させることが可能な操作部と、該操作部を操作したときに、前記操作部の位置を復元する方向であって、且つ、前記第二支持部に対して、前記管状体に当接する方向で弾性力を発生するように設けられる前記ばね部材と、を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のケガキ治具。
【請求項6】
前記当接手段は、一対の前記ケガキ手段と少なくとも1つの前記第二支持部とで前記管状体を挟み込むように、前記第二支持部を前記プレートに沿ってスライド移動させることが可能な操作部と、該操作部を操作したときに、前記操作部の位置を復元する方向であって、且つ、前記第二支持部に対して、前記管状体から離間する方向で弾性力を発生するように設けられる前記ばね部材と、を有する
ことを特徴とする請求項2に記載のケガキ治具。
【請求項7】
前記ばね部材は交換可能であり、前記ばね部材を交換することで、一対の前記第一支持部、及び前記第二支持部の前記管状体に対する当接力を5~20Nに調節することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のケガキ治具。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載のケガキ治具を用い、管状体の外周面にケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ線の刻印方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケガキ治具、及び、それを用いたケガキ線の刻印方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体製造プラント等のような超高純度ガスを使用するプラントにおいては、一般に、電解研摩を施したステンレス配管を用いてガス供給配管が構成されている。このようなステンレス配管同士を突き合わせて接合する方法としては、例えば、自動TIG(Tungsten Inert Gas)溶接等の方法が採用されている。
【0003】
一方、自動TIG溶接等の方法においては、しばしば、溶接部の狙いずれが発生することがあることから、このような狙いずれの発生の有無を溶接施工後に確認することが求められる。このため、従来から、例えば、溶接されるべき被溶接配管の外周面における、配管の端部から数mm~数十mm程度の位置に、予め、配管用のケガキ用治具を用いてケガキ線を刻印し、このケガキ線を基準線として、狙いずれ発生の有無や、溶接部における凹み等の欠陥の有無を目視確認する検査が行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-071750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のケガキ用治具は、ケガキ手段としてケガキ針を用いていることから、被溶接配管の外周面との間で点接触となるため、ケガキ針の先端が摩耗しやすく耐久性に欠けるという問題があった。
また、特許文献1に記載のケガキ用治具は、ケガキ針を用いて被溶接配管の外周面を引っ掻くものであるため、ケガキ針と被溶接配管の外周面との間の滑りが良好とはならないことから、使い勝手が劣っているという問題があった。
さらに、特許文献1に記載のケガキ用治具を用いると、被溶接配管の肉厚が薄い場合に、ケガキ線が深く形成されることがあり、この部分の肉厚が薄くなることで被溶接配管が切れてしまい、品質を損なうおそれがあるという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、管状体の肉厚が薄い場合であっても、管状体の外周面に、管状体の品質を損なうことなく、容易且つ正確にケガキ線を刻印することができるとともに、耐久性及び使い勝手に優れたケガキ治具、及び、それを用いたケガキ線の刻印方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記問題を解決するために鋭意検討を重ねた。この結果、管状体の外周面にケガキ線を刻印するケガキ手段を支持する構成、並びに、管状体を支持する構成を最適化することで、管状体の肉厚が薄い場合であっても、管状体の外周面に、容易且つ正確にケガキ線を刻印することができるとともに、耐久性や使い勝手も向上することを見いだし、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下に示す構成を採用する。
【0008】
[1] 管状体の外周面にケガキ線を刻印するケガキ治具であって、前記管状体の端部に沿って押し当てられるプレートと、前記プレートに取り付けられ、前記管状体の軸線と平行な軸線を有する、一対の第一支持部、及び、一対の前記第一支持部とともに前記管状体に当接することで該管状体を支持する少なくとも1つの第二支持部と、一対の前記第一支持部、及び前記第二支持部の前記管状体に対する当接力を調節する当接力調節手段と、少なくとも一方の前記第一支持部に取り付けられたケガキ手段と、を有し、前記ケガキ手段は、外周端が刃部とされた平面視円板状の丸刃からなり、該丸刃の刃部が前記管状体の外周面と接触することにより、前記外周面を周回するように前記ケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ治具。
【0009】
[2] 前記丸刃が一対で設けられており、一対の前記丸刃が、一対の前記第一支持部に対して、それぞれ取り付けられていることを特徴とする上記[1]に記載のケガキ治具。
【0010】
[3] 一対の前記第一支持部、及び前記第二支持部は、各々の軸線を中心に回転自在、あるいは、無回転で前記プレートに取り付けられていることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のケガキ治具。
【0011】
[4] 一対の前記第一支持部は、前記丸刃の前記軸線方向における位置を変更することにより、前記管状体の前記外周面に刻印される前記ケガキ線の、前記管状体の一端からの距離を調整可能に設けられていることを特徴とする上記[1]~[3]の何れかに記載のケガキ治具。
【0012】
[5] 前記当接力調節手段は、一対の前記第一支持部と前記第二支持部とで前記管状体を挟み込むように、前記第二支持部を前記プレートに沿ってスライド移動させることが可能な操作部と、該操作部を操作したときに、前記操作部の位置を復元する方向であって、且つ、前記第二支持部に対して、前記管状体に当接する方向で弾性力を発生するように設けられるばね部材と、を有し、前記ばね部材の弾性力により、前記第一支持部に取り付けられた前記丸刃の前記管状体に対する当接力を調節しながら、前記管状体の前記外周面に前記ケガキ線を刻印することを特徴とする上記[1]~[4]の何れかに記載のケガキ治具。
【0013】
[6] 前記当接力調節手段は、一対の前記第一支持部と前記第二支持部とで前記管状体を挟み込むように、前記第二支持部を前記プレートに沿ってスライド移動させることが可能な操作部と、該操作部を操作したときに、前記操作部の位置を復元する方向であって、且つ、前記第二支持部に対して、前記管状体から離間する方向で弾性力を発生するように設けられるばね部材と、を有し、前記操作部の操作により、一対の前記第一支持部及び前記第二支持部を前記管状体に当接させ、前記第一支持部に取り付けられた前記丸刃の前記管状体に対する当接力を調節しながら、前記管状体の前記外周面に前記ケガキ線を刻印可能であることを特徴とする上記[1]~[4]の何れかに記載のケガキ治具。
【0014】
[7] 前記当接力調節手段は、一対の前記第一支持部、及び前記第二支持部の前記管状体に対する当接力を5~20Nに調節することを特徴とする上記[1]~[6]の何れかに記載のケガキ治具。
【0015】
[8] 上記[1]~[7]の何れかに記載のケガキ治具を用い、管状体の外周面にケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ線の刻印方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るケガキ治具によれば、まず、一対の第一支持部、及び第二支持部の管状体に対する当接力を調節する当接力調節手段を備えることで、管状体の外周面に対する丸刃の当接力を最適化することができる。これにより、被溶接配管の肉厚が薄い場合であっても、ケガキ線が深く形成されるのを抑制することが可能になり、ケガキ線の部分の肉厚が薄くなりすぎず、被溶接配管が切れてしまうのを防止できるので、品質を損なうことがない。
また、ケガキ手段として平面視円板状の丸刃を用いることで、この丸刃の刃部と管状体の外周面との間が線接触となり、管状体の外周面に対する当接力が均一且つ緩やかに分散される。これにより、先の尖ったケガキ針等を用いた場合に比べて、ケガキ線の溝が浅く形成されるのに伴い、丸刃が摩耗するのを抑制できるとともに、上記同様、ケガキ線が深くなりすぎるのを防止できる。
また、平面視円板状の丸刃を用いることで、管状体の外周面に対する丸刃の姿勢や追従性が安定する。これにより、管状体の外周面に刻印されるケガキ線の位置もぶれることなく安定するとともに、ケガキ治具の使い勝手も向上する。
従って、管状体の肉厚が薄い場合であっても、管状体の外周面に、管状体の品質を損なうことなく、容易且つ正確にケガキ線を刻印することができるとともに、耐久性及び使い勝手に優れたケガキ治具を提供することが可能となる。
【0017】
また、本発明に係るケガキ線の刻印方法によれば、上述した本発明に係るケガキ治具を用いてケガキ線を刻印する方法なので、上記同様、管状体の肉厚が薄い場合であっても、管状体の外周面に、容易且つ正確にケガキ線を刻印することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、管状体がセットされる表面側からケガキ治具をみた状態を概略で示す斜視図である。
図1B】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、図1Aに示したケガキ治具に管状体をセットして管状体の外周面にケガキ線を刻印する手順を示す図で、管状体がセットされた表面側からケガキ治具をみた状態を概略で示す斜視図である。
図2A】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、図1Aに示したケガキ治具を側面側からみた概略図である。
図2B】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、図2Aに示したケガキ治具に管状体をセットして管状体の外周面にケガキ線を刻印する手順を示す図で、ケガキ治具を側面側からみた概略図である。
図3】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、当接力調節手段に用いられるばね部材の各寸法と荷重との関係を示す概略図である。
図4A】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、当接力調節手段に用いられるばね部材の一例を示す概略図である。
図4B】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、当接力調節手段に用いられるばね部材の他の例を示す概略図である。
図5A】本発明の第2実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、管状体をケガキ治具にセットする操作を説明する図で、管状体がセットされる表面側からケガキ治具をみた状態を概略で示す斜視図である。
図5B】本発明の第2実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、図5Aに示したケガキ治具にセットされた管状体の外周面にケガキ線を刻印する手順を示す図で、管状体がセットされた表面側からケガキ治具をみた状態を概略で示す斜視図である。
図6A】本発明の第2実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、図5Aに示したケガキ治具を側面側からみた概略図である。
図6B】本発明の第2実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、図6Aに示したケガキ治具に管状体をセットして管状体の外周面にケガキ線を刻印する手順を示す図で、ケガキ治具を側面側からみた概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した実施形態であるケガキ治具、及び、それを用いたケガキ線の刻印方法について、図1A及び図1B図6A及び図6Bを適宜参照しながら説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするため、便宜上、特徴となる部分を拡大あるいは簡略化して示している場合がある。また、以下の説明において例示される材料等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
本実施形態のケガキ治具及びケガキ線の刻印方法は、例えば、自動TIG溶接等の方法によって端部が突き合わせ溶接された配管(管状体)について、溶接部の狙いずれの発生の有無を溶接施工後に確認するためのケガキ線を刻印する用途に用いられる。この場合、例えば、溶接されるべき配管の外周面における、配管の端部から数mm~数十mm程度の位置(一例として15mm程度)に、予め、配管用のケガキ用治具を用いてケガキ線を刻印する。そして、溶接施工後、ケガキ線を基準線として、狙いずれ発生の有無や、溶接部における凹み等の欠陥の有無を目視確認する検査を行う。
【0021】
<第1実施形態>
以下に、本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びそれを用いたケガキ線の刻印方法について、図1A及び図1B、並びに、図2A及び図2Bを参照しながら詳細に説明する。
図1Aは、本実施形態のケガキ治具1を、配管(管状体)Pがセットされる表面2a側からみた概略斜視図であり、図1Bは、図1Aに示したケガキ治具1に配管Pをセットして配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印する手順を示す図で、配管Pがセットされた表面2a側からケガキ治具1を見た状態を示す概略斜視図である。また、図2Aは、図1Aに示したケガキ治具1を側面2e側からみた概略図であり、図2Bは、図2Aに示したケガキ治具1に配管Pをセットして配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印する手順を示す図で、ケガキ治具1を側面2e側からみた概略図である。
図3は、本実施形態のケガキ治具1に備えられる当接力調節部5(当接力調節手段;図1A等を参照)に用いられるばね部材53の各寸法と荷重との関係を示す概略図である。また、図4Aは、当接力調節部5に用いられるばね部材の一例を示す概略図であり、図4Bは、ばね部材の他の例を示す概略図である。
【0022】
[ケガキ治具の構成]
図1A及び図1B、並びに、図2A及び図2Bに示すように、本実施形態のケガキ治具1は、管状体である配管Pの外周面P1と接触するケガキ手段である丸刃3を有し、配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印するものである。
【0023】
本実施形態のケガキ治具1は、配管Pの一端(端部)P3に沿って押し当てられるプレート2と、プレート2に取り付けられ、配管Pの中心軸P4と平行な軸線Jを有する、一対のスペーサ(第一支持部)36,36、及び、一対のスペーサ36,36とともに配管Pに当接することで配管Pを支持するローラ(少なくとも1つの第二支持部)4と、を有する。
また、本実施形態のケガキ治具1は、一対のスペーサ36,36及びローラ4の配管Pに対する当接力を調節する当接力調節部(当接力調節手段)5を備えてなる。
さらに、ケガキ治具1は、少なくとも一方のスペーサ36に取り付けられる丸刃(ケガキ手段)3を有し、本実施形態で説明する例においては、丸刃3a,3bからなる一対で設けられており、それぞれ、一対のスペーサ36,36の何れかに対して取り付けられている。
そして、本実施形態のケガキ治具1は、一対の丸刃3a,3bが、外周端が刃部31とされた平面視円板状に構成され、これら一対の丸刃3a,3bの各々の刃部31,31が配管Pの外周面P1と接触することにより、外周面P1を周回するようにケガキ線Kを刻印する構成とされている。
【0024】
また、図示例のケガキ治具1は、一対のスペーサ36,36が配管Pの中心軸P4と平行な軸線Jで配置され、一対のスペーサ36,36に取り付けられた一対の丸刃3a,3bも、上記同様、各々平行な軸線Jで配置されている。さらに、図示例のケガキ治具1は、ローラ4も、一対の丸刃3a,3bと平行な軸線Jで配置されている。
ケガキ治具1は、詳細を後述するように、プレート2と、一対の丸刃3a,3b(一対のスペーサ36,36)と、ローラ4とで配管Pを支持することにより、ケガキ線Kの刻印時に配管Pを保持できる構成とされている。
そして、上記の各構成要素は、ケガキ治具1の筐体として機能するプレート2に組み付けられている。
【0025】
プレート2は、上述したように、配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印する際に、配管Pの一端P3に沿って押し当てられるものであり、このプレート2、一対の丸刃3a,3b、及びローラ4で配管Pを保持できるように構成される。また、プレート2は、本実施形態のケガキ治具1の筐体、即ち、ベースプレートとしても機能するものであり、例えば、所定の厚みを有する金属製ブロックに対して、孔開け加工や角部処理、表面処理等を施した部材からなる。図示例のプレート2は、表面2a側又は背面2b側から見た平面視で、4箇所の角部がコーナーカット加工された概略矩形状とされている。
【0026】
また、プレート2には、一対のスペーサ36,36を取り付けるための図示略のボルト孔が一対で形成されている。より詳細には、2箇所の図示略のが、プレート2の上面2cから下面2d側に若干下がった位置で、上面2cと平行に並べられ、且つ、平面視で左右対称となる位置で、一対のスペーサ36,36に対応した位置で配置されている。
また、プレート2には、ローラ4を可動に取り付けるためのスリット孔22が形成されている。図示例においては、スリット孔22は、プレート2の下面2d側に寄った位置で縦長状に形成されているとともに、平面視で概略中央に配置されている。
さらに、プレート2には、詳細を後述する当接力調節部5の支持板51を取り付けるための図示略の挿通孔が一対で形成されている。即ち、プレート2には、2箇所の図示略の挿通孔が、プレート2の上面2c近傍の位置で、上面2cと平行に並べられ、且つ、平面視で左右対称となる位置で配置されている。
【0027】
プレート2の材料としては、特に限定されず、例えば、ステンレス鋼やアルミニウム等、この分野で従来から用いられている金属材料を何ら制限無く採用することができる。
また、プレート2の平面視形状としては、特に限定されず、配管Pの一端P3に対して安定的に当接でき、且つ、ケガキ治具1の使用者が把持しやすい形状、例えば、図示例のような角部がコーナーカットされた矩形状の他、角部がR状とされた矩形状や、丸形形状等を採用することも可能である。
また、プレート2の平面視寸法、及び、厚み寸法としても、特に限定されず、筐体としての強度確保等も考慮しながら、上記同様、ケガキ治具1の使用者が把持しやすい寸法とされていればよい。
【0028】
一対の丸刃3a,3bは、上述したように、配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印するものであり、図1A及び図1Bに示すように、平面視円板状に構成され、外周端が、配管Pの外周面P1と接する刃部31とされている。また、図示例の一対の丸刃3a,3bは、軸線Jを中心とする図示略の基部に、軸線Jと同軸に配置される図示略の貫通孔が設けられている。また、図示例の一対の丸刃3a,3bは、刃部31を含む外周側の位置が、軸線J近傍の基部に比べて薄く構成される。
【0029】
また、図1A及び図1Bに示すように、本実施形態のケガキ治具1においては、一対で設けられた2つのスペーサ36,36が、プレート2に対し、図示略の一対のボルト孔に対応する位置で取り付けられ、これら一対のスペーサ36,36の各々の先端側に丸刃3a又は丸刃3bが取り付けられている。
【0030】
具体的には、図示例においては、一対の丸刃3a,3bは、それぞれ、プレート2の表面2aとの間にスペーサ36を介した状態で、ボルト37によってプレート2に取り付けられている。このとき、2本のボルト37のねじ切り部分は、プレート2に一対で設けられたボルト孔に挿入され、先端部がナット38に螺入される。
上記のように、一対の丸刃3a,3bが、プレート2の表面2aとの間にスペーサ36を介して取り付けられていることで、一対の丸刃3a,3bの軸線J方向における位置を変更できる。
【0031】
一対の丸刃3a,3bの各々の材質としては、特に限定されず、一般的な工具用鋼を何ら制限無く採用でき、具体的には、例えば、ハイス鋼、又は、超硬材等を採用できる。
ハイス鋼(High-Speed Steel)は、超速度鋼とも呼ばれ、一般的な工具用鋼における高温下での耐軟化性の低さを補い、より高速での金属材料の切削が可能になるものなので、一対の丸刃3a,3bの材料に採用した場合には、より容易且つ正確なケガキ線の刻印が可能となる。
また、超硬材は、所謂超硬合金であり、炭化タングステンやコバルト、ニッケルなどを焼結して製造されることから、セラミックスに近い性質も有するため、上記のハイス鋼のような鉄鋼系素材とは性質が大きく異なるが、上記同様、一対の丸刃3a,3bの材料に採用することで、より容易且つ正確なケガキ線の刻印が可能となる。
なお、例えば、一対の丸刃3a,3bを、それぞれ異なる材料から構成しても構わない。
【0032】
一対の丸刃3a,3bの各々の外径としても、特に限定されないが、配管Pの外周面P1に対する線接触を確保する観点から、例えば、5~50mm程度が好ましく、10~30mmがより好ましい。
【0033】
一対のスペーサ36,36としても、特に限定されず、例えば、樹脂や金属からなる筒状部材を何ら制限無く採用できる。一方、一対のスペーサ36,36の材質としては、配管Pに傷がつくのを防止する観点から、ケガキ対象となる配管の材質よりも軟らかい材質であることが好ましい。
【0034】
本実施形態のケガキ治具1は、上記の一対のスペーサ36,36を備え、それぞれ長さの異なるスペーサ36に適宜変更することにより、一対の丸刃3a,3bの軸線J方向における位置、即ち、一対の丸刃3a,3bのプレート2の表面2aからの距離を変更することが可能になる。これにより、配管Pの外周面P1に刻印されるケガキ線Kの、配管Pの一端P3からの距離を調整することが可能になる。
【0035】
一対のスペーサ36,36の各々の外径としても、特に限定されないが、ケガキ作業時にスペーサ36が配管Pの外周面P1に干渉するのを防止するため、一対の丸刃3a,3bの外径よりも若干小さな外径とすることが好ましい。
【0036】
本実施形態では、例えば、一対のスペーサ36,36のうちの一方が、配管Pの外周面P1と接触することにより、軸線Jを中心に、配管Pと同期回転しながら外周面P1を周回するように、回転自在に設置することができる。
一方、本実施形態では、一対のスペーサ36,36のうちの一方が、配管Pの外周面P1と接触することにより、外周面P1を無回転で周回するように、プレート2に対して固定されている構成を採用することも可能である。
上記のように、スペーサ36がプレート2に固定され、無回転とされている場合には、配管Pに傷がつくのを防止する観点から、スペーサ36の材質として、例えば、真鍮、樹脂、アルミニウム等を用いることが好ましい。
【0037】
また、本実施形態においては、一対の丸刃3a,3bを無回転で固定した構成とした場合には、一対の丸刃3a,3bが回転することなく外周面P1に接触することで、この外周面P1にケガキ線Kを浅い溝として刻印することができる。
【0038】
一方、本実施形態においては、一対の丸刃3a,3bが各々の軸線Jを中心に回転自在とされ、これら丸刃3a,3bが、それぞれ配管Pの外周面P1と接触しながら配管Pと同期回転することにより、配管Pの外周面側にケガキ線Kを刻印する構成を採用することも可能である。
上記のように、一対の丸刃3a,3bが回転自在であることにより、配管Pの外周面P1に刻印されるケガキ線Kを、一対の丸刃3a,3bが無回転である場合に比べて深い溝として形成されるので、ケガキ線Kを深く形成したい場合に有効である。
一方、配管Pの肉厚が薄い場合に配管Pが切れるのを確実に防止することや、一対の丸刃3a,3bの耐久性や寿命等を考慮し、配管Pの外周面P1に刻印されるケガキ線Kをできるだけ浅く形成したい場合には、上記のように一対の丸刃3a,3bを無回転で固定すればよい。
なお、例えば、1つの丸刃3aを用いる場合であっても、スペーサ36に対して、無回転で固定した構成としてもよいし、回転自在に設置された構成であってもよい。
【0039】
また、本実施形態においては、例えば、一対の丸刃3a,3bのうち、一方の丸刃3aが軸線Jを中心に回転自在とされ、配管Pの外周面P1と接触しながら配管Pと同期回転することにより、配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印する一方、他方の丸刃3bが回転することなく配管Pの外周面P1に接触することにより、配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印する構成としてもよい。
このような構成とした場合には、一対の丸刃3a,3bのうち、回転自在とされた一方の丸刃3aが、配管Pの外周面P1に対して比較的深めの溝からなるケガキ線Kを刻印するように作用する一方、無回転で固定された他方の丸刃3bが、配管Pの外周面P1に対して比較的浅めの溝からなるケガキ線Kを刻印するように作用する。これにより、配管Pの外周面P1に刻印されるケガキ線Kを、最適な深さを有する溝として形成することが可能になる。
【0040】
なお、本実施形態においては、一対の丸刃3a,3bの刃部31が完全に露出した構成について説明しているが、これには限定されない。例えば、一対の丸刃が、図示略のカバーによって覆われ、配管にケガキ線を刻印するのに必要な位置のみが、カバーに形成される円弧状の切り欠き部によって露出した構成を採用することも可能である。
このような場合に用いるカバーとしても、特に限定されず、例えば、樹脂性や金属製のもの等、その加工性等を勘案しながら適宜採用することができる。
なお、図示略の一対のカバーに形成される円弧状の切り欠き部としては、例えば、ケガキ治具1に配管Pをセットしたときに、一対の丸刃3a,3bにおける配管Pの外周面P1と接触する位置と対応するように配置されていることが、配管Pと図示略のカバーとが干渉することを避ける観点から好ましい。
【0041】
本実施形態においては、上記のような丸刃3a,3bを一対で設けた構成を採用することで、図1B及び図2Bに示すように、一対の丸刃3a,3b、プレート2の表面2a、及びローラ4の計4点支持によって配管Pを支持することができる。図示例においては、丸刃3aと配管Pとの接点C1、丸刃3bと配管Pとの接点C2、プレート2の表面2aと配管Pとの接点C3、並びにローラ4と配管Pとの接点C4で配管Pが4点支持されている。これにより、ケガキ治具1に配管Pをセットして外周面P1にケガキ線Kを刻印する際の、配管Pの保持姿勢が安定し、安定したケガキ作業を行うことが可能になる。
【0042】
また、本実施形態においては、例えば、丸刃3を1つだけ備えた構成を採用することも考えられ、このような構成であっても、配管の外周面にケガキ線を刻印することが可能である。一方、このような場合には、詳細な図示は省略するが、配管Pの支持形態が、1つの丸刃3と、スペーサ36と、プレート2と、ローラ4とによる4点支持となる。この場合、丸刃3aを取り付けたスペーサ36と、丸刃3aを取り付けていないスペーサ36との軸線J方向における長さは、プレート2とともに配管Pを3点支持できる条件であれば特に制限はなく、同一の長さであってもよいし、異なる長さであってもよい。
なお、丸刃3が1つだけだと、配管Pの外周面P1に刻印さえるケガキ線Kが見た目に薄くなり過ぎ、視認性が若干低下するケースも考えられる。このような観点から、丸刃3は一対で備えられていることがより好ましい。
【0043】
ローラ4は、上述したように、丸刃3と平行な軸線Jで配置され、回転自在に構成される。また、図1A及び図2A、並びに、図2A及び図2Bに示す例のローラ4は、配管Pの外周面P1と接触しながら配管Pと同期回転することにより、プレート2の表面2a、一対の丸刃3a,3b、及びローラ4による4点支持で配管Pを保持する。また、図示例においては、一対の丸刃3a,3bとローラ4とが平面視で逆二等辺三角形の配置形態となるように構成されている。
また、図示例のローラ4は概略円筒形状に構成されており、図示略の貫通孔が軸線上に設けられている。
【0044】
ローラ4としては、例えば、従来公知のベアリング等を用いることができるが、これには限定されず、円筒状(ドーナツ状)の部材であれば、如何なるものであっても採用することが可能である。
また、ローラ4の材質としても特に限定されず、例えば、外周部が金属からなるものを用いることができるが、外周が樹脂のものを用いることが、配管Pの外周面P1に傷がつくのを防止できる観点から好ましい。
【0045】
また、ローラ4は、プレート2に設けられたスリット孔22に対し、ローラ4の軸線上に設けられた貫通孔に挿入されるボルト41と、プレート2の背面2bに配置されるナット42との螺合により、詳細を後述する当接力調節部5に備えられたスライド板52に対して固定される。このとき、ローラ4は、スリット孔22の長さ方向において、一対の丸刃3a,3b(一対のスペーサ36,36)側に接近又は離間するようにスライド移動自在に配置される。また、ローラ4は、後述の当接力調節部5の操作により、スリット孔22の長さ方向の範囲においてスライド移動する。
【0046】
本実施形態のケガキ治具1を用いて配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印する際は、詳細を後述する当接力調節部5により、ローラ4を一対の丸刃3a,3b側にスライド移動させ、配管Pの一端P3をプレート2の表面2aに当接させながら、配管Pの外周面P1にローラ4を接触させるとともに、配管Pの外周面P1に一対の丸刃3a,3bを接触させることで、配管Pを4点支持で保持する。この際、当接力調節部5の操作により、ローラ4の配管Pに対する当接力(押圧力)を調節することで、一対の丸刃3a,3bと配管Pの外周面P1との間で発生する当接力を最適に調整する。そして、この状態で、ケガキ治具1を回転させるか、あるいは配管Pを回転させることにより、配管Pの外周面P1に対して、一対の丸刃3a,3bでケガキ線Kを最適な深さで刻印することができる。
【0047】
本実施形態では、ローラ4についても、一対の丸刃3a,3bと同様、軸線Jを中心に回転自在に構成してもよいし、あるいは、無回転としても構わない。
【0048】
また、本実施形態においては、上記のように、ローラ4を1箇所にのみ設けた構成について説明しているが、これには限定されず、ローラ4の設置数は適宜決定することが可能である。
【0049】
当接力調節部5は、上述したように、一対の丸刃3a,3b(一対のスペーサ36,36)及びローラ4の配管Pに対する当接力を調節するものである。当接力調節部5は、一対の丸刃3a,3b(一対のスペーサ36,36)とローラ4とで配管Pの外周面P1を挟み込むように、ローラ4をプレート2のスリット孔22に沿ってスライド移動させることが可能な操作部として、スライド板(操作部)52及びスライドシャフト(操作部)54を有して構成される。図1A及び図1B、並びに、図2A及び図2B中に示す例では、当接力調節部5は、プレート2の背面2bにおける上面2cに固定された支持板51と、スライド板52と、ばね部材53と、スライドシャフト54と、を有する。
【0050】
支持板51は、スライドシャフト54を支持するものであり、図示例では、平面視で概略矩形状の板状部材からなる。支持板51は、2個のねじ51b,51bにより、取り付け端部51aがプレート2の背面2bに固定されており、図示例では、プレート2に形成された2箇所の図示略の挿通孔に挿通された2個のねじ51b,51bが、取り付け端部51aに形成された図示略のねじ穴に螺入されることで、支持板51がプレート2に固定されている。また、図示例では、支持板51は、プレート2に対して直交するように片持ち支持構造で取り付けられている。また、支持板51には、平面視でプレート2寄りの位置に、詳細を後述するスライドシャフト54が挿通される貫通孔51cが形成されている。
【0051】
支持板51の材料としては、特に限定されず、例えば、ステンレス鋼やアルミニウム等、支持板51が取り付けられるプレート2と同じ金属材料を何ら制限無く採用することができる。
また、支持板51の平面視形状としても、図示例のような平面視矩形状に限定されるものではなく、ケガキ治具1の使用者が把持しやすい形状、例えば、角部がコーナーカットされた矩形状や、角部がR状とされた矩形状、あるいは丸形形状等を採用することも可能である。
また、支持板51の平面視寸法、及び、厚み寸法としても、特に限定されず、支持板としての強度確保等も考慮しながら、ケガキ治具1の使用者が把持しやすい寸法とされていればよい。
【0052】
スライド板52は、上述したように、プレート2に設けられるスリット孔22に挿通されたボルト41を介して、ローラ4をスリット孔22の長さ方向でスライド移動可能に支持するものである。図示例のスライド板52は、平面視で概略矩形状とされたL字状部材から構成されており、直立板52aがプレート2と対向するように配置され、水平板52bが、プレート2における下面2d側に配置されている。
【0053】
また、スライド板52の直立板52aには、ボルト41のねじ部が挿通される図示略のボルト孔cが形成されており、このボルト孔にボルト41のねじ部が挿通される。そして、ボルト41のねじ部がナット42に螺入されることで、ボルト41が挿通されたローラ4がスライド板52によって支持される。なお、図2A及び図2Bに示す例においては、スライド板52の直立板52aとプレート2の背面2bとの間に、ボルト41のねじ部が螺入されることで、ナット42との間に直立板52aを挟み込んで固定するための薄型のナット43が配置されている。同様に、ローラ4とプレート2の表面2aとの間には、ボルト41のねじ部が螺入されることで、ボルト41のヘッド部との間にローラ4を挟みこみ、ローラ4を回転自在(あるいは無回転)で固定するための薄型のナット43が配置されている。
【0054】
さらに、スライド板52の直立板52aの上端には、スライドシャフト54を固定するための孔部52dが形成されており、この孔部52dに、後述するスライドシャフト54の下端が嵌合されるか、あるいは螺入されることによって固定されている。
【0055】
スライド板52の材料としても、特に限定されず、支持板51と同様、例えば、ステンレス鋼やアルミニウム等の金属材料を何ら制限無く採用することができる。
また、スライド板52の平面視形状としても、平面視矩形状に限定されるものではなく、支持板51と同様、ケガキ治具1の使用者が把持しやすい形状、例えば、角部がコーナーカットされた矩形状や、角部がR状とされた矩形状、あるいは丸形形状等を採用することも可能である。
また、スライド板52の平面視寸法、及び、厚み寸法としても、特に限定されず、強度確保等も考慮しながら、ケガキ治具1の使用者が把持しやすい寸法とされていればよい。
【0056】
ばね部材53は、ばね作用の復元力(弾性力、ばね強さ)によってスライド板52及びローラ4をスライド移動させることで、配管Pに対する当接力を発現させるものである。即ち、ばね部材53は、詳細を後述するスライドシャフト54が内部に挿通されるように、このスライドシャフト54に取り付けられており、一端53b側が後述するスライドシャフト54のフランジ54aに当接し、他端53c側が支持板51の上面51dに当接している。これにより、ばね部材53は、スライドシャフト54の操作によって圧縮されることで、復元力を発現する。
【0057】
本実施形態のばね部材53は、線材53aが螺旋状に捲回されたコイルばね(圧縮コイルばね)からなるものであり、長さ方向で圧縮することで、伸長方向への復元力を発現する。
ばね部材53の材質としても特に限定されず、例えば、ステンレス等、コイルばね等に用いられる一般的なばね用材料を何ら制限無く採用することが可能である。
なお、ばね部材53の復元力等についての詳細は後述する。
【0058】
スライドシャフト54は、ケガキ治具1の使用者が操作することで、ばね部材53を押し下げてスライド板52をスライド移動させ、ローラ4を一対の丸刃3a,3bから離間する方向にスライド移動させるとともに、ばね部材53を押し下げて圧縮する。スライドシャフト54は、図示例では棒状の部材からなり、ばね部材53のストッパとなるフランジ54aが上端側に設けられている。また、上述したように、スライドシャフト54の下端側は、スライド板の孔部52dに固定されている。
【0059】
スライドシャフト54の材質としても、特に限定されず、支持板51やスライド板52と同様、ステンレス等の金属材料を何ら制限無く使用することが可能である。
【0060】
本実施形態においては、ケガキ治具1の使用者が、当接力調節部5に備えられるスライドシャフト54を押下操作したとき、ばね部材53が、スライドシャフト54の位置を復元する方向であって、且つ、ローラ4に対して、配管Pに当接する方向、即ち、一対の丸刃3a,3b側にスライド移動する方向で復元力(弾性力)を発生させる。このような操作、並びに、ばね部材53の復元力により、一対のスペーサ36,36に取り付けられた一対の丸刃3a,3bの配管Pの外周面P1に対する当接力を調整しながら、外周面P1に最適な深さのケガキ線Kを刻印することができる。
【0061】
本実施形態においては、一対の丸刃3a,3b及びローラ4の配管Pに対する当接力については、特に限定されず、配管Pの材質や肉厚等に応じて、形成されるケガキ線Kの深さが最適になるよう、当接力調節部5により、適宜、調整することができる。一方、本実施形態においては、配管Pの品質を損なうことなく最適な深さであって、且つ、正確にケガキ線Kを形成する観点から、当接力調節部5を適宜調整することで、一対の丸刃3a,3b及びローラ4の配管Pに対する当接力を5~20Nに調節することが好ましい。また、上記の観点からは、一対の丸刃3a,3b及びローラ4の配管Pに対する当接力を6~18Nに調節することがより好ましく、8~15Nが最も好ましい。
【0062】
上記のように、本実施形態のケガキ治具1に備えられる当接力調節部5により、一対の丸刃3a,3b及びローラ4の配管Pに対する当接力を調節する方法としては、ばね部材53の復元力(弾性力)を変更する方法が挙げられる。
ここで、図3中に示すような、線材53aが螺旋状に捲回されたコイルばね(圧縮コイルばね)からなるばね部材53において、該ばね部材53の復元力を調節できる因子としては、線材53aの線径d(mm)、非圧縮時の自由高さHf(mm)、ばね部材53全体の外径O.D(mm)、基準荷重Pr1(N)時の基準荷重時高さH1(mm)、及び、許容荷重Pr2(N)時の許容荷重時高さH2(mm)が挙げられる。これらのうち、基準荷重時高さH1(mm)、及び、許容荷重時高さH2(mm)は、線径d(mm)や外径O.D(mm)等を変更することで調節することができる。
【0063】
例えば、線材53aの線径d(mm)を大きくした場合には復元力が大きくなり、一対の丸刃3a,3b及びローラ4の配管Pに対する当接力が大きくなる一方、線径d(mm)を小さくした場合には復元力が小さくなり、上記当接力も小さくなる。
また、ばね部材53全体の外径O.D(mm)を大きくした場合には復元力が大きくなり、一対の丸刃3a,3b及びローラ4の配管Pに対する当接力が大きくなる一方、外径O.D(mm)を小さくした場合には復元力が小さくなり、上記当接力も小さくなる。
【0064】
また、非圧縮時の自由高さHf(mm)に対する、基準荷重Pr1(N)時の基準荷重時高さH1(mm)の比率を大きくした場合には、復元力が大きくなり、一対の丸刃3a,3b及びローラ4の配管Pに対する当接力が大きくなる。その一方、自由高さHf(mm)に対する基準荷重時高さH1(mm)の比率を小さくした場合には、復元力が小さくなり、上記当接力も小さくなる。
また、非圧縮時の自由高さHf(mm)に対する、許容荷重Pr2(N)時の許容荷重時高さH2(mm)の比率を大きくした場合には、復元力が大きくなり、一対の丸刃3a,3b及びローラ4の配管Pに対する当接力が大きくなる。その一方、自由高さHf(mm)に対する許容荷重時高さH2(mm)の比率を小さくした場合には、復元力が小さくなり、上記当接力も小さくなる。
【0065】
なお、ばね部材53における線材53aの端末の処理形状は、特に限定されず、ばね部材53を構成するコイルばねのサイズ等に応じた形状とすればよい。例えば、図4Aに示すような、線材53aの端末を研削処理することなくクローズド・エンド構造とされたばね部材53Aを採用してもよいし、図4Bに示すような、線材53aの端末を研削処理した形状のばね部材53Bを採用してもよい。
【0066】
また、本実施形態のケガキ治具1によって外周面P1にケガキ線Kが刻印される配管Pの肉厚は、特に限定されるものではないが、0.2mm~2.8mmが好ましく、0.5mm~2.4mmがより好ましく、0.7mm~2mmがさらに好ましい。配管Pの肉厚が上記範囲であれば、本実施形態のケガキ治具1を適用することで得られる、配管Pの肉厚が薄い場合であっても、配管Pの外周面P1に、品質を損なうことなく、容易且つ正確にケガキ線Kを刻印できるという効果が顕著に得られる。
【0067】
ここで、配管Pの肉厚は、配管径の大小とは無関係であるが、一般に、配管径が小さなものの方が、肉厚が薄くなる傾向がある。即ち、本実施形態のケガキ治具1を用いることで、肉厚が薄めである小径の配管Pにケガキ線Kを刻印する場合であっても、品質を損なうことなく、容易且つ正確にケガキ線Kを刻印することが可能となる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態のケガキ治具1によれば、一対の丸刃3a,3b(一対のスペーサ36,36)、及びローラ4の配管Pに対する当接力を調節する当接力調節部5を備えた構成を採用することにより、配管Pの外周面P1に対する一対の丸刃3a,3bの当接力を最適な範囲に調節できる。これにより、配管Pの肉厚が薄い場合であっても、ケガキ線Kが深く形成されるのを抑制することが可能になり、ケガキ線Kの部分の肉厚が薄くなりすぎず、配管Pが切れてしまうのを防止できるので、品質を損なうことがない。
【0069】
また、ケガキ手段として平面視円板状の一対の丸刃3a,3bを用いた場合、これら一対の丸刃3a,3bの刃部31と配管Pの外周面P1との間が線接触となり、配管Pの外周面P1に対する押圧力が均一且つ緩やかに分散される作用が得られる。これにより、先の尖ったケガキ針等を用いた場合に比べて、ケガキ線Kの溝が浅く形成されるのに伴い、一対の丸刃3a,3bの各々が摩耗するのを抑制できるとともに、上記同様、ケガキ線Kが深くなりすぎるのを防止できる。
【0070】
また、平面視円板状とされた一対の丸刃3a,3bを用いた場合、配管Pの外周面P1に対する一対の丸刃3a,3bの姿勢や追従性が安定するので、配管Pの外周面P1に刻印されるケガキ線Kの位置もぶれることなく安定するとともに、ケガキ治具1の使い勝手も向上する。また、一対の丸刃3a,3bをケガキ手段に用いた場合、外周端である刃部31のどの位置においてもケガキ線Kを刻印することが可能なため、長期的に使用できるというメリットもある。
【0071】
さらに、本実施形態のケガキ治具1によれば、配管Pの一端P3がプレート2の表面2aに当接することに加え、配管Pの外周面P1にローラ4が接触し、配管Pの外周面P1に一対の丸刃3a,3bが接触することで、配管Pを外周面P1側から挟み込んで支持する構造を採用している。これにより、配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印する際の姿勢並びに動作が安定する作用が得られる。また、配管Pの内周面P2に対してローラ等を接触させることなく、外周面P1にケガキ線Kを刻印する構成なので、配管Pの内周面P2に塵や埃等が付着することがないことから、配管Pの内部に不純物が混入するのを防止できる。また、一対の丸刃3a,3bと、スリット孔22に沿ってスライド移動可能なローラ4とで、配管Pの外周面P1をクランプする構造なので、外径及び内径の少なくとも何れかが異なる配管を用いる場合であっても、容易に調整して対応することが可能である。
【0072】
従って、本実施形態のケガキ治具1によれば、配管Pの肉厚が薄い場合であっても、配管Pの外周面P1に、配管Pの品質を損なうことなく、容易且つ正確にケガキ線Kを刻印することができるとともに、耐久性及び使い勝手に優れたケガキ治具1を提供することが可能となる。
【0073】
なお、本実施形態のケガキ治具1においては、一対の丸刃3a,3bとして専用部品を製造して用いてもよいが、市販のパイプカッター刃を用いることも可能である。この場合には、例えば、一対の丸刃3a,3bとローラ4とによる配管Pへの当接力を、当接力調節部5によって調節することにより、配管Pの外周面P1に刻印されるケガキ線Kが深くなり過ぎないように最適化しながら、ケガキ線Kを刻印することが好ましい。
【0074】
[ケガキ線の刻印方法]
本実施形態のケガキ線の刻印方法について、主に図1A及び図1B、並びに、図2A及び図2Bを参照しながら説明する。
本実施形態のケガキ線の刻印方法は、上述した本実施形態のケガキ治具1を用いて配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印する方法である。
【0075】
まず、スペーサ36のサイズを確認・調整して一対の丸刃3a,3bの軸線方向における位置を決定することにより、配管Pの外周面P1上におけるケガキ線Kを形成すべき位置を決定する。
【0076】
次いで、図1B及び図2Bに示すように、当接力調節部5に備えられるスライドシャフト54を押下操作することにより、ローラ4の位置をスリット孔22に沿って移動させ、ローラ4を、一対の丸刃3a,3bから離間した位置に配置し、この状態で、プレート2の表面2a側に、ケガキ線Kの刻印対象となる配管Pをセットする。
このとき、配管Pを構成する円筒壁の一部を、一対の丸刃3a,3bとローラ4との間に配置するとともに、配管Pの一端P3がプレート2の表面2aに当接するようにセットする。
【0077】
次いで、スライドシャフト54の押下操作を終了することにより、ローラ4の位置をスリット孔22に沿って移動させ、配管Pを構成する円筒壁(外周面P1)の一部を、一対の丸刃3a,3bとローラ4とによって挟み込む。このとき、当接力調節部5に備えられるばね部材53が、スライドシャフト54の位置を復元する方向であって、且つ、ローラ4に対して、配管Pに当接する方向、即ち、一対の丸刃3a,3b側にスライド移動する方向で復元力(弾性力)を発生させる。このようなばね部材53の復元力により、配管Pの外周面P1には、一対の丸刃3a,3bが所定の当接力で接触した状態となり、さらに、ローラ4も所定の当接力で当接した状態となる。
【0078】
次いで、プレート2の表面2a、一対の丸刃3a,3b及びローラ4による4点支持で配管Pを保持しながら、ケガキ治具1を回転させるか、あるいは配管Pを回転させることにより、配管Pの外周面P1に対して、一対の丸刃3a,3bでケガキ線Kを刻印する。この際、例えば、配管Pあるいはケガキ治具1を複数回で回転させることにより、配管Pの外周面P1に確実にケガキ線Kを刻印することがより好ましい。
上記のような操作、及び、ばね部材53の復元力により、一対のスペーサ36,36に取り付けられた一対の丸刃3a,3bの配管Pの外周面P1に対する当接力を調整しながら、外周面P1に最適な深さのケガキ線Kを刻印する。
【0079】
次いで、スライドシャフト54を再び押下操作することにより、ローラ4の位置をスリット孔22に沿って移動させ、配管Pの外周面P1から一対の丸刃3a,3b及びローラ4を離間させ、配管Pをケガキ治具1から取り外す。
以上のような手順により、配管Pの外周面P1における所望の位置に、最適な深さでケガキ線Kを刻印することができる。
【0080】
本実施形態のケガキ線Kの刻印方法によれば、上述した本実施形態のケガキ治具1を用いてケガキ線Kを刻印する方法なので、上記同様、配管Pの肉厚が薄い場合であっても、配管Pの外周面P1に、容易且つ正確にケガキ線Kを刻印することが可能となる。
【0081】
<第2実施形態>
以下に、本発明の第2実施形態であるケガキ治具の構成、並びに、それを用いたケガキ線の刻印方法について、主に図5A及び図5B、並びに、図6A及び図6Bを参照して詳細に説明する。
なお、以下に示す本実施形態のケガキ治具1A、並びに、ケガキ線Kの刻印方法の説明においては、図1A及び図1B図4A及び図4Bに示した第1実施形態のケガキ治具1と同じ構成については、同じ符号を付与し、同じ図面を参照する場合があるとともに、その詳細な説明を省略する場合がある。
【0082】
図5Aは、本実施形態のケガキ治具1Aに配管Pをセットする操作を説明する図で、配管Pがセットされる表面2a側からケガキ治具1をみた状態を示す概略斜視図であり、図5Bは、図5Aに示したケガキ治具1にセットされた配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印する手順を示す図で、配管Pがセットされた表面2A側からケガキ治具1をみた状態を示す概略斜視図である。また、図6Aは、図5Aに示したケガキ治具1を側面2e側からみた概略図であり、図6Bは、図6Aに示したケガキ治具1に配管Pをセットして配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印する手順を示す図で、ケガキ治具1を側面2e側からみた概略図である。
【0083】
図5A及び図5B、並びに、図6A及び図6Bに示すように、本実施形態のケガキ治具1Aは、第1実施形態のケガキ治具1と同様、プレート2と、一対のスペーサ36,36と、ローラ4と、丸刃3a,3bと、一対の丸刃3a,3b(一対のスペーサ36,36)及びローラ4の配管Pに対する当接力を調節する当接力調節部5Aを備えている。また、本実施形態のケガキ治具1Aは、一対の丸刃3a,3bが、外周端が刃部31とされた平面視円板状に構成され、これら一対の丸刃3a,3bの各々の刃部31,31が配管Pの外周面P1と接触することにより、外周面P1を周回するようにケガキ線Kを刻印する構成とされている点でも、図1A及び図1B、並びに、図2A及び図2Bに示した第1実施形態のケガキ治具1と同様である。
【0084】
さらに、本実施形態のケガキ治具1Aに備えられる当接力調節部5Aは、一対の丸刃3a,3b(一対のスペーサ36,36)とローラ4とで配管Pを挟み込むように、ローラ4をプレート2に沿ってスライド移動させることが可能な操作部として、スライド板52及びスライドシャフト54を有する点で、第1実施形態のケガキ治具1に備えられる当接力調節部5と同様である。
【0085】
一方、本実施形態のケガキ治具1Aは、当接力調節部5Aに備えられるスライド板52を押し込み操作したときに、ばね部材53が、スライド板52の位置を復元する方向であって、且つ、ローラ4に対して、配管Pから離間する方向で復元力(弾性力)を発生させる点で、第1実施形態のケガキ治具1とは異なる。
そして、本実施形態のケガキ治具1Aは、当接力調節部5Aに備えられるスライド板52の押し込み操作により、一対の丸刃3a,3b及びローラ4を配管Pに当接させ、一対のスペーサ36,36に取り付けられた一対の丸刃3a,3bの配管Pの外周面P1に対する当接力を調整しながら、外周面P1に最適な深さのケガキ線Kを刻印可能な構成とされている点で、第1実施形態のケガキ治具1とは異なる。
【0086】
即ち、本実施形態のケガキ治具1Aに備えられる当接力調節部5Aは、ばね部材53がスライドシャフト54に挿通されるとともに、一端53bが支持板51の下面51eに当接するとともに、他端53cがスライド板52の水平板52bの内面側に当接するように配置されている点で、第1実施形態のケガキ治具1に備えられる当接力調節部5とは異なる。
【0087】
本実施形態のケガキ治具1Aに備えられる当接力調節部5Aは、使用者が操作をしていないときは、ばね部材53の弾性力により、スライド板52がプレート2の下面2d側に配置された状態を維持する。そして、スライド板52の押し込み操作を行うことでローラ4をスライド移動させ、このローラ4と一対の丸刃3a,3bとで配管Pを挟み込み、使用者がこの状態を維持することで、配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印できる。即ち、第1実施形態のケガキ治具1においては、ばね部材53が、支持板51とスライド板52との間を近接させる方向で復元力を発生させるのに対し、本実施形態においては、ばね部材が、支持板51とスライド板52との間を離間させる方向で復元力を発生させる。
【0088】
上記のような当接力調節部5Aを備えるケガキ治具1Aを用いて配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印する場合には、以下のような操作を実施する。
まず、第1の実施形態で説明した方法と同様、スペーサ36のサイズを確認・調整して一対の丸刃3a,3bの軸線方向における位置を決定することにより、配管Pの外周面P1上におけるケガキ線Kを形成すべき位置を決定した後、プレート2の表面2a側に、ケガキ線Kの刻印対象となる配管Pをセットする。
このとき、図5A及び図6Aに示すように、配管Pを構成する円筒壁の一部を、一対の丸刃3a,3bとローラ4との間に配置するとともに、配管Pの一端P3がプレート2の表面2aに当接するようにセットする。
【0089】
次いで、図5B及び図6Bに示すように、当接力調節部5Aに備えられるスライド板52を押し込み操作することにより、ローラ4の位置をスリット孔22に沿って移動させ、配管Pを構成する円筒壁(外周面P1)の一部を、一対の丸刃3a,3bとローラ4とによって挟み込む。このとき、当接力調節部5に備えられるばね部材53が、スライド板52の位置を復元する方向であって、且つ、ローラ4に対して、配管Pから離間するようにスライド移動する方向で復元力(弾性力)を発生させる。このような、ばね部材53の復元力に対し、使用者が、当該復元力を上回る押圧力でスライド板52の押し込み操作を継続することにより、配管Pの外周面P1に対し、一対の丸刃3a,3bが所定の当接力で接触した状態を維持し、さらに、ローラ4も所定の当接力で当接した状態を維持する。
【0090】
次いで、プレート2の表面2a、一対の丸刃3a,3b及びローラ4による4点支持で配管Pを保持しながら、ケガキ治具1Aを回転させるか、あるいは配管Pを回転させることにより、配管Pの外周面P1に対して、一対の丸刃3a,3bでケガキ線Kを刻印する。
上記のようなスライド板52の押し込み操作、及び、ばね部材53の復元力により、一対のスペーサ36,36に取り付けられた一対の丸刃3a,3bの配管Pの外周面P1に対する当接力を調整しながら、外周面P1に最適な深さのケガキ線Kを刻印する。
【0091】
次いで、スライド板52の押し下げ操作を終了することにより、スライド板52がばね部材53の復元力によってプレート2の下面2d側にスライド移動するのに伴い、ローラ4がスリット孔22に沿ってスライド移動する。これにより、配管Pの外周面P1から一対の丸刃3a,3b及びローラ4が離間させ、配管Pをケガキ治具1Aから取り外す。
【0092】
以上のような手順により、ケガキ治具1Aを用いて、配管Pの外周面P1における所望の位置に、最適な深さでケガキ線Kを刻印することができる。
【0093】
本実施形態のケガキ治具1A、並びに、それを用いたケガキ線Kの刻印方法によれば、上記同様、配管Pの肉厚が薄い場合であっても、配管Pの外周面P1に、容易且つ正確にケガキ線Kを刻印することが可能となる。
【0094】
ここで、当接力調節部5Aのスライド板52を指で押し込みながら、配管Pの外周面P1にケガキ線Kを刻印する場合、使用者によるスライド板52への押圧力によっては、当接力が増大してケガキ線Kが深くなりすぎるケースも考えられる。しかしながら、本実施形態のケガキ治具1Aのように、ばね部材53が、スライド板52の位置を復元する方向、即ち、ローラ4を配管Pから離間する方向で復元力を発生させる構成を採用することで、使用者によるスライド板52への押圧力が必要以上に大きくなるのを防止できる。これにより、ケガキ線Kが深くなりすぎることがないので、配管Pの肉厚が薄い場合であっても、配管Pが切れてしまうことなく、容易且つ正確にケガキ線Kを刻印することが可能となる。
【0095】
<その他の形態>
以上、実施形態により、本発明に係るケガキ治具、及び、それを用いたケガキ線の刻印方法の一例を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記の実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0096】
<作用効果>
本実施形態のケガキ治具1(1A)によれば、一対の丸刃3a,3b(一対のスペーサ36,36)及びローラ4の配管Pに対する当接力を調節する当接力調節部5(5A)を備えることで、配管Pの外周面P1に対する一対の丸刃3a,3bの当接力を最適化することができる。これにより、配管Pの肉厚が薄い場合であっても、ケガキ線Kが深く形成されるのを抑制することが可能になり、ケガキ線Kの部分の肉厚が薄くなりすぎず、配管Pが切れてしまうのを防止できるので、品質を損なうことがない。
また、ケガキ手段として平面視円板状の丸刃3を用いることで、この丸刃3の刃部31と配管Pの外周面P1との間が線接触となり、配管Pの外周面P1に対する当接力が均一且つ緩やかに分散される。これにより、先の尖ったケガキ針等を用いた場合に比べて、ケガキ線Kの溝が浅く形成されるのに伴い、丸刃3が摩耗するのを抑制できる上記同様、ケガキ線Kが深くなりすぎるのを防止できる。
また、平面視円板状の丸刃3を用いることで、配管Pの外周面P1に対する丸刃3の姿勢や追従性が安定する。これにより、配管Pの外周面P1に刻印されるケガキ線Kの位置もぶれることなく安定するとともに、ケガキ治具1(1A)の使い勝手も向上する。
従って、配管Pの肉厚が薄い場合であっても、配管Pの外周面P1に、配管Pの品質を損なうことなく、容易且つ正確にケガキ線Kを刻印することができるとともに、耐久性及び使い勝手に優れたケガキ治具1(1A)を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のケガキ治具によれば、上記のように、配管(管状体)の肉厚が薄い場合であっても、配管の外周面に、配管の品質を損なうことなく、容易且つ正確にケガキ線を刻印することができるとともに、耐久性及び使い勝手に優れたものである。従って、本発明のケガキ治具は、例えば、自動TIG溶接等の方法によって端部が突き合わせ溶接された配管について、溶接部の狙いずれの発生の有無を溶接施工後に確認するためのケガキ線を刻印する用途において極めて有用である。
【符号の説明】
【0098】
1,1A…ケガキ治具
2…プレート
2a…表面
2b…背面
2c…上面
2d…下面
2e…側面
22…スリット孔
3…丸刃(ケガキ手段)
3a,3b…一対の丸刃(丸刃;ケガキ手段)
31…刃部
36…スペーサ((一対の)第一支持部)
37…ボルト
38…ナット
4…ローラ(少なくとも1つの第二支持部)
41…ボルト
42…ナット
43…ナット(薄型のナット)
5,5A…当接力調節部(当接力調節手段)
51…支持板
51a…取り付け端部
51b…ねじ
51c…貫通孔
51d…上面
51e…下面
52…スライド板(操作部)
52a…直立板
52b…水平板
52d…孔部
53,53A,53B…ばね部材
53a…線材
53b…一端
53c…他端
54…スライドシャフト(操作部)
54a…フランジ
J…軸線
P…配管(管状体)
P1…外周面
P2…内周面
P3…一端
P4…中心軸
K…ケガキ線
【要約】
【課題】管状体の肉厚が薄い場合であっても、管状体の外周面に、管状体の品質を損なうことなく、容易且つ正確にケガキ線を刻印することができるとともに、耐久性及び使い勝手に優れたケガキ治具及びケガキ線の刻印方法を提供する。
【解決手段】配管Pの一端P3に沿って押し当てられるプレート2と、プレート2に取り付けられ、配管Pの中心軸P4と平行な軸線を有する、一対のスペーサ36,36、及び、一対のスペーサ36,36とともに配管Pに当接することで配管Pを支持するローラ4と、一対のスペーサ36,36及びローラ4の配管Pに対する当接力を調節する当接力調節部5と、少なくとも一方のスペーサ36に取り付けられる丸刃3と、を有し、丸刃3は、外周端が刃部31とされた平面視円板状であり、丸刃3の刃部31が配管Pの外周面P1と接触することにより、外周面P1を周回するようにケガキ線Kを刻印する。
【選択図】図2B
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B