(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】気温の推定方法、気温の推定装置、及び気温の推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/10 20060101AFI20231027BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20231027BHJP
【FI】
G01W1/10 D
G06Q10/04
(21)【出願番号】P 2020016417
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】植山 秀紀
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-114053(JP,A)
【文献】特開2015-163861(JP,A)
【文献】特開2005-085059(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0148229(US,A1)
【文献】Hideki UEYAMA,“Classification of recent studies by method type for surface air temperature map development and estimation of daily temperature using a radiative cooling scale”,Journal of Agricultural Meeology,日本,The society of Agricultual Meteorology of Japan,2013年03月10日,Vol.69,No.3,pp.215-227,https://doi.org/10.2480/agrmet.69.3.12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00 - 1/18
G06Q 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注目地点について過去の第1所定期間における気温を示す気温指標値として予測された過去予測値と、前記注目地点について前記第1所定期間にお
いて観測された実測値である過去観測値と
、の差分を示す差分指標値と、前記注目地点の近隣に存在する近隣地点について前記第1所定期間における放射冷却強度指標を示す過去RCSデータとを回帰分析して、前記差分指標値と、放射冷却強度指標との関係式を決定する回帰分析工程と、
前記回帰分析工程で決定した関係式と、前記近隣地点について気温を推定する対象日時における放射冷却強度指標を示すRCSデータとから、補正値を算出する算出工程と、
数値予報モデルにより予測された、前記注目地点についての前記対象日時における気温として予測された対象日時の予測値を取得する取得工程と、
前記取得工程において取得した前記対象日時の予測値を、前記算出工程で算出した補正値に基づいて補正する補正工程と、
を含むことを特徴とする、
気温の推定方法。
【請求項2】
前記過去予測値、前記過去観測値、及び前記過去RCSデータは、1日未満の第2所定期間毎に取得された値であることを特徴とする、請求項1に記載の
気温の推定方法。
【請求項3】
前記回帰分析工程では、1日における時間帯を複数の異なる時間帯に分け、複数の時間帯のそれぞれについてグループを設定して前記差分指標値及び前記過去RCSデータをグループ分けし、グループ毎に回帰分析することを特徴とする、請求項2に記載の
気温の推定方法。
【請求項4】
前記回帰分析工程では、所定の気圧面における気温帯を複数の異なる気温帯に分け、複数の気温帯のそれぞれについてグループを設定して前記差分指標値及び前記過去RCSデータをグループ分けし、グループ毎に回帰分析することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の
気温の推定方法。
【請求項5】
前記補正工程で補正して得られた前記対象日時の推定気温に基づいて、寒波の襲来を予報し、作物の冷害を予報する予報工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の
気温の推定方法。
【請求項6】
注目地点について過去の第1所定期間における気温を示す気温指標値として予測された過去予測値と、前記注目地点について前記第1所定期間にお
いて観測された実測値である過去観測値と
、の差分を示す差分指標値と、前記注目地点の近隣に存在する近隣地点について前記第1所定期間における放射冷却強度指標を示す過去RCSデータとを回帰分析して、前記差分指標値と、放射冷却強度指標との関係式を決定する回帰分析部と、
前記回帰分析部が決定した関係式と、前記近隣地点について気温を推定する対象日時における放射冷却強度指標を示すRCSデータとから、補正値を算出する算出部と、
数値予報モデルにより予測された、前記注目地点についての前記対象日時における気温として予測された対象日時の予測値を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記対象日時の予測値を、前記算出部が算出した補正値に基づいて補正する補正部と、
を備えることを特徴とする、
気温の推定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の
気温の推定装置としてコンピュータを機能させるための推定プログラムであって、前記回帰分析部、前記算出部、及び前記補正部としてコンピュータを機能させるための
気温の推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定方法、推定装置、及び推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
作物の栽培管理を最適化し、生産性を向上させる観点から、未来における作物の栽培地点の気温を把握することは重要である。
【0003】
気象庁は、数値予報モデルの計算による気温の予測値を配信している。しかしながら、数値予報モデルによる計算は、利用した物理法則のみによって挙動が支配されるため、予測値にはモデルバイアスが含まれており、実測値から合わないという実情があった。このため、気象庁は、数値予報モデルの出力値を実際の観測値に基づいてカルマンフィルターにより補正した値である気温ガイダンスを配信している。
【0004】
また、特許文献1には、気象庁のメソ数値予報モデル(MSM)の高度別データから気温減率を算出し、実際の標高とMSMの計算標高との差により生じる気温差を補正する方法が記載されている。当該方法はさらに、補正したデータを画像処理技術の一つである、スプライン法を使って1kmメッシュデータとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような気象庁の気温ガイダンスで使用されているカルマンフィルターは、適用可能であるのは恒常的に観測値が取得される地点のみであり、常設の気温観測地点にしか適用できないという問題がある。また、特許文献1に記載の技術では、既存の画像処理技術によりデータを内挿しているため、5km格子内の地形の変化には対応していない。また、冷気湖及び斜面温暖帯といった、地形の影響により生じる局地気象の影響が、熱力学式に基づく大気の状態(大気の熱の動き)の計算では、評価することができないことにより生じる誤差を補正することができていないという問題がある。
【0007】
本発明の一態様は、気温を推定する精度が高い推定方法及び推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る推定方法は、注目地点について過去の第1所定期間における気温を示す気温指標値として予測された過去予測値と、前記注目地点について前記第1所定期間における前記気温指標値として予測された過去観測値との差分を示す差分指標値と、前記注目地点の近隣に存在する近隣地点について前記第1所定期間における放射冷却強度指標を示す過去RCSデータとを回帰分析して、前記差分指標値と、放射冷却強度指標との関係式を決定する回帰分析工程と、前記回帰分析工程で決定した関係式と、前記近隣地点について気温を推定する対象日時における放射冷却強度指標を示すRCSデータとから、補正値を算出する算出工程と、前記注目地点について前記対象日時における気温として予測された対象日時の予測値を、前記算出工程で算出した補正値に基づいて補正する補正工程と、を含む。
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る推定装置は、注目地点について過去の第1所定期間における気温を示す気温指標値として予測された過去予測値と、前記注目地点について前記第1所定期間における前記気温指標値として予測された過去観測値との差分を示す差分指標値と、前記注目地点の近隣に存在する近隣地点について前記第1所定期間における放射冷却強度指標を示す過去RCSデータとを回帰分析して、前記差分指標値と、放射冷却強度指標との関係式を決定する回帰分析部と、前記回帰分析部が決定した関係式と、前記近隣地点について気温を推定する対象日時における放射冷却強度指標を示すRCSデータとから、補正値を算出する算出部と、前記注目地点について前記対象日時における気温として予測された対象日時の予測値を、前記算出部が算出した補正値に基づいて補正する補正部と、を備える。
【0010】
本発明の各態様に係る推定装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記推定装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記推定装置をコンピュータにて実現させる推定装置の推定プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、気温を推定する精度が高い推定方法及び推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一態様に係る推定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の一態様に係る推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施例1における、RCSと、財田アメダスポイントの予測値と観測値との温位差との関係を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例2における、RCSと、仙遊観測所の予測値と観測値との温位差との関係を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例3における、RCSと、生野観測所の予測値と観測値との温位差との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例1における、観測値と推定値との間の関係を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施例2における、観測値と推定値との間の関係を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施例3における、観測値と推定値との間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔推定方法〕
本発明の一態様に係る推定方法は、注目地点について過去の第1所定期間における気温を示す気温指標値として予測された過去予測値と、前記注目地点について前記第1所定期間における前記気温指標値として予測された過去観測値との差分を示す差分指標値と、前記注目地点の近隣に存在する近隣地点について前記第1所定期間における放射冷却強度指標を示す過去RCSデータとを回帰分析して、前記差分指標値と、放射冷却強度指標との関係式を決定する回帰分析工程と、前記回帰分析工程で決定した関係式と、前記近隣地点について気温を推定する対象日時における放射冷却強度指標を示すRCSデータとから、補正値を算出する算出工程と、前記注目地点について前記対象日時における気温として予測された対象日時の予測値を、前記算出工程で算出した補正値に基づいて補正する補正工程と、を含む。本発明の一態様に係る推定方法は、取得工程及び予報工程の少なくとも1つの工程をさらに含んでいることが好ましい。
【0014】
本発明の一態様に係る推定方法について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、本発明の一態様に係る推定方法の一例を示すフローチャートである。
図2は、本発明の一態様に係る推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【0015】
ステップS1において、取得部11は、以下の(i)~(vii)を取得する(取得工程)。
【0016】
(i)注目地点の過去予測値
(ii)注目地点の過去観測値
(iii)近隣地点の上層気圧面における過去予測値
(iv)近隣地点の過去予測値
(v)近隣地点の上層気圧面における対象日時の予測値
(vi)近隣地点の対象日時の予測値
(vii)注目地点の対象日時の予測値。
【0017】
(i)注目地点の過去予測値とは、注目地点について過去の第1所定期間における気温を示す気温指標値として予測された過去予測値である。予測値は、例えば、気象庁の全球数値予報モデル(Global Spectral Model:GSM)、メソスケールモデル(Meso Scale Model:MSM)等により予測された予測値である。後述する各予測値も同様である。第1所定期間は、後述する回帰分析工程において、差分指標値と放射冷却強度指標との関係式を決定することができる期間であればよい。例えば、第1所定期間は、3か月以上であることが好ましく、半年以上であることがより好ましい。
【0018】
気温指標値は、気温そのもの、又は気温を標準気圧(1000hPa)下における温度に変換した温位である。回帰分析部12は、温位を下記式(1)により気温及び気圧を用いて算出することができる。
【数1】
式(1)中、θは温位(K)、Tは気温(K)、P
Zは気圧(hPa)、Cpは低圧比熱(1005J・kg
-1・K
-1)である。
【0019】
回帰分析部12は、気圧から温位への変換に用いる気圧を、下記式(2)により地点の標高から算出することができる。
【数2】
式(2)中、Pは大気圧(hPa)、P
0は海面気圧(hPa)、Tは気温(K)、γは気温減率(-0.0065K・m
-1)、zは標高(m)、Rは気体定数(8.314J・mol
-1・K
-1)、mは気体の分子量(0.28964kg・mol
-1)、gは重力加速度(9.8065m・s
-2)である。気温を温位に変換することにより、気圧の違い(高度差)が気温に及ぼす影響を解消することができるため、気温を推定する精度を高めることができる。
【0020】
(ii)注目地点の過去観測値とは、注目地点について第1所定期間における気温指標値として予測された過去観測値である。
【0021】
(iii)近隣地点の上層気圧面における過去予測値とは、近隣地点の上層気圧面について第1所定期間における気温指標値として予測された過去予測値である。近隣地点は、注目地点の近隣の場所であればよく、例えば、注目地点の近隣のアメダス(Automated Meteorological Data Acquisition System)ポイントであることが好ましい。近隣地点の上層気圧面は、近隣地点(地上)の気圧よりも低い気圧面であればよい。例えば、近隣地点の上層気圧面は、925hPaであることが好ましい。近隣地点の気圧が925hPaよりも低い場合、近隣地点の上層気圧面は、925hPaよりも低い気圧面であればよい。
【0022】
(iv)近隣地点の過去予測値とは、近隣地点について第1所定期間における気温指標値として予測された過去予測値である。回帰分析部12は、近隣地点の過去予測値を、近隣地点の周辺に存在する複数の周辺地点の過去予測値を用いて距離重み付け平均法(Inverse Distance Weighting method、逆距離加重法とも称する)により算出してもよい。例えば、近隣地点について第1所定期間における温位として予測された過去予測値は、近隣地点の周辺に存在する4つの周辺地点について第1所定期間における温位として予測された過去予測値を用いて距離重み付け平均法により算出する。具体的には式(3)により算出することができる。
【数3】
式(3)中、Lは下記式(4)により算出される。
【数4】
また、θは温位(K)、l
1~l
4は各周辺地点から近隣地点までの距離、θ
1~θ
4は各周辺4地点について予測された温位(K)である。
【0023】
(i)注目地点の過去予測値、(ii)注目地点の過去観測値、(iii)近隣地点の上層気圧面における過去予測値、及び(iv)近隣地点の過去予測値は、1日未満の第2所定期間毎に取得された値であることが好ましい。これにより、1日未満毎の気温を推定することができる。1日未満毎の気温を推定することにより、寒波の襲来の予報、熱中症の危険の予測等を適切に行うことができる。第2所定期間は、1日未満であれば特に限定されないが、例えば1時間である。
【0024】
(v)近隣地点の上層気圧面における対象日時の予測値とは、近隣地点の上層気圧面について気温を推定する対象日時における気温指標値として予測された予測値である。
【0025】
(vi)近隣地点の対象日時の予測値とは、近隣地点について対象日時における気温指標値として予測された予測値である。回帰分析部12は、近隣地点の対象日時の予測値を、近隣地点の過去予測値と同様に、近隣地点の周辺に存在する複数の周辺地点の対象日時の予測値を用いて距離重み付け平均法により算出してもよい。
【0026】
(vii)注目地点の対象日時の予測値とは、注目地点について対象日時における気温指標値として予測された予測値である。取得部11は、図示しない入力部を介してユーザによる指示を受け付けて、ステップS1の処理を開始してもよいし、予め設定された期間毎に定期的にステップS1の処理を開始してもよい。
【0027】
ステップS2において、回帰分析部12は、(i)注目地点の過去予測値と、(ii)注目地点の過去観測値との差分を示す差分指標値を算出する。(i)注目地点の過去予測値及び(ii)注目地点の過去観測値が気温である場合、差分指標値は気温差である。(i)注目地点の過去予測値及び(ii)注目地点の過去観測値が温位である場合、差分指標値は温位差である。
【0028】
ステップS3において、回帰分析部12は、近隣地点の過去RCSデータ、及び近隣地点の対象日時のRCSデータを算出する。ここで、本明細書中において、放射冷却強度指標(RCS:Radiative Cooling Scale)とは、下記式(5)によって示される指標である。
RCS=(近隣地点の上層気圧面における温位)-(近隣地点の温位) …(5)
近隣地点の過去RCSデータは、(iii)近隣地点の上層気圧面における過去予測値に対応する温位と、(iv)近隣地点の過去予測値に対応する温位との温位差である。回帰分析部12は、ステップS1において取得部11が取得した(iii)近隣地点の上層気圧面における過去予測値と、(iv)近隣地点の過去予測値とから近隣地点の過去RCSデータを算出する。近隣地点の過去RCSデータは、第2所定期間毎の値であることが好ましい。
【0029】
また、近隣地点の対象日時のRCSデータは、(v)近隣地点の上層気圧面における対象日時の予測値に対応する温位と、(vi)近隣地点の対象日時の予測値に対応する温位との温位差である。回帰分析部12は、ステップ1において取得部11が取得した(v)近隣地点の上層気圧面における対象日時の予測値と、(vi)近隣地点の対象日時の予測値とからRCSデータを算出する。
【0030】
ステップS4において、回帰分析部12は、差分指標値と、過去RCSデータとを回帰分析して、差分指標値と放射冷却強度指標との関係式を決定する(回帰分析工程)。具体的には、回帰分析部12は、下記式(6)の関係式の係数A及びBを決定する。
(差分指標値)=A・RCS+B …(6)
ステップS4において、回帰分析部12は、1日における時間帯を複数の異なる時間帯に分け、複数の時間帯のそれぞれについてグループを設定して差分指標値及び過去RCSデータをグループ分けし、グループ毎に回帰分析することが好ましい。これにより、斜面上部等、気温の逆転層が生じる地形における気温を推定する精度を高めることができる。
【0031】
例えば、昼の時間帯と夜の時間帯とにグループ分けした差分指標値及び過去RCSデータを、回帰分析部12が回帰分析するときに用いることが好ましい。各時間帯は適宜設定すればよいが、一例として、昼の時間帯は、日の出の2時間後から日没までの時間帯とし、夜の時間帯は昼の時間帯以外の時間帯としてもよい。
【0032】
また、ステップS4において、回帰分析部12は、所定の気圧面における気温帯を複数の異なる気温帯に分け、複数の気温帯のそれぞれについてグループを設定して差分指標値及び過去RCSデータをグループ分けし、グループ毎に回帰分析することが好ましい。これにより、寒波の流入時における低温帯の気温を推定する精度を高めることができる。
【0033】
所定の気圧面は、上層気圧面(例えば850hPa面、950hPa面等)であることが好ましい。所定の気圧面及び当該所定の気圧面における気温帯は適宜設定すればよい。一例として、850hPa面の気温が-5℃以上の気温帯と、850hPa面の気温が-5℃未満の気温帯とにグループ分けした差分指標値及び過去RCSデータを、回帰分析部12が回帰分析するときに用いてもよい。
【0034】
ステップS4において、回帰分析部12は、複数の異なる時間帯及び所定の気圧面における複数の異なる気温帯を組み合わせてグループを設定して回帰分析してもよい。回帰分析部12は、一例として、以下の4つのグループを設定して差分指標値及び過去RCSデータをグループ分けし、グループ毎に回帰分析して、4つの関係式を決定してもよい。
(a)昼の時間帯、かつ、850hPa面の気温が-5℃以上の気温帯
(b)昼の時間帯、かつ、850hPa面の気温が-5℃未満の気温帯
(c)夜の時間帯、かつ、850hPa面の気温が-5℃以上の気温帯
(d)夜の時間帯、かつ、850hPa面の気温が-5℃未満の気温帯。
【0035】
係数Aは、例えば、-1.0~-0.3の範囲である。係数Bは、例えば、0.5~4.0の範囲である。具体的な式(6)の一例を以下に示す(後述の実施例と同一の式である)。
〔生野〕
(差分指標値)=-0.534・RCS+1.72
(差分指標値)=-0.670・RCS+0.86
(差分指標値)=-0.310・RCS+1.83
(差分指標値)=-0.453・RCS+1.66
〔仙遊〕
(差分指標値)=-0.534・RCS+1.83
(差分指標値)=-0.678・RCS+0.91
(差分指標値)=-0.446・RCS+2.13
(差分指標値)=-0.563・RCS+1.60
〔財田〕
(差分指標値)=-0.647・RCS+3.25
(差分指標値)=-0.692・RCS+2.84
(差分指標値)=-0.429・RCS+2.74
(差分指標値)=-0.961・RCS+3.66
【0036】
ステップS5において、算出部13は、ステップS4で決定した関係式と、ステップ3で決定した近隣地点の対象日時のRCSデータとから補正値を算出する(算出工程)。ステップS4で関係式を決定するときに用いた差分指標値が気温差である場合、ステップS5において算出部13が算出する補正値は気温差である。ステップS4で関係式を決定するときに用いた差分指標値が温位差である場合、ステップS5において算出部13が算出する補正値は温位差である。
【0037】
ステップS6において、補正部14は、(vii)注目地点の対象日時の予測値を、ステップS5で算出した補正値に基づいて補正する(補正工程)。ステップS5において算出部13が算出した補正値が気温差である場合、注目地点の対象日時の予測値である気温を当該補正値によって補正した気温を、対象日時の推定気温とする。ステップS5において算出部13が算出した補正値が温位差である場合、注目地点の対象日時の予測値に対応する温位を当該補正値によって補正し、補正された温位を気温に変換し、対象日時の推定気温とする。本発明の一態様に係る推定方法は、寒い気温、暑い気温、及び過ごし易い気温を含めた全ての気温帯に適用可能である。出力制御部16は、インターネット等の通信を介して、ステップS6において補正した推定気温を、ディスプレイ、スマートフォン、タブレット端末等の外部の表示装置に出力してもよい。これにより、ユーザが表示装置に表示された推定気温を把握することができる。
【0038】
ステップS7において、予報部15は、ステップS6において補正部14が補正して得られた対象日時の推定気温に基づいて、寒波の襲来を予報し、作物の冷害を予報する(予報工程)。予報部15が寒波の襲来を予報し、作物の冷害を予報することにより、ユーザが対象日時よりも前に、作物を栽培している農地に対して寒波の襲来に対する適切な対処を行うことができるため、作物の生産性の向上に繋げることができる。
【0039】
また、本発明の一態様に係る推定方法は、ステップS7の代わりに、対象日時の推定気温に基づいて、熱中症の危険を予測する熱中症予測工程、病害虫の発生を予測する病害虫発生予測工程等を含んでいてもよい。出力制御部16は、インターネット等の通信を介して、ステップS7において予報した結果を、外部の表示装置に出力してもよい。これにより、ユーザが表示装置に表示された予報の結果を把握することができる。
【0040】
〔推定装置〕
以下、本発明の一態様に係る推定装置について説明する。但し、上述した推定方法において説明した内容と重複する内容に関しては、その説明を簡略化または繰り返さないこととする。
【0041】
図2に示すように、推定装置1は、取得部11、回帰分析部12、算出部13、補正部14、予報部15、及び出力制御部16を備えている。推定装置1は、注目地点について対象日時における気温を推定する装置である。推定装置1は、例えば、演算部(プロセッサ、CPU(Central Processing Unit)等)及び記憶部(RAM等のメインメモリ、HDD/SDD等のストレージ、レジスタ及びキャッシュメモリ等)から構成される。記憶部は、データベース(DB)から取得したデータなど、各処理で必要なデータを記憶するものであってもよい。推定装置1は、ユーザの指示を受け付ける入力部(図示しない)をさらに備えていてもよい。
【0042】
取得部11は、例えばインターネット等の通信を介して、上述した(i)~(vii)を取得する。具体的には、取得部11は、ステップS1の処理を行う。取得部11は、注目地点の予測値DB2から(i)注目地点の過去予測値、及び(vii)注目地点の対象日時の予測値を取得する。取得部11は、注目地点の観測値DB3から(ii)注目地点の過去観測値を取得する。取得部11は、近隣地点の予測値DB4から(iv)近隣地点の過去予測値、及び(vi)近隣地点の対象日時の予測値を取得する。取得部11は、近隣地点の上層気圧面の予測値DB5から(iii)近隣地点の上層気圧面における過去予測値、及び(v)近隣地点の上層気圧面における対象日時の予測値を取得する。
【0043】
回帰分析部12は、差分指標値と、過去RCSデータとを回帰分析して、差分指標値と放射冷却強度指標との関係式を決定する。具体的には、回帰分析部12は、ステップS2~ステップS4の処理を行う。算出部13は、回帰分析部12が決定した関係式と、近隣地点の対象日時のRCSデータとから補正値を算出する。具体的には、算出部13は、ステップS5の処理を行う。補正部14は、注目地点の対象日時の予測値を、算出部13が算出した補正値に基づいて補正する。具体的には、補正部14は、ステップS6の処理を行う。
【0044】
予報部15は、補正部14が補正して得られた対象日時の推定気温に基づいて、寒波の襲来を予報し、作物の冷害を予報する。具体的には、補正部14は、ステップS7の処理を行う。なお、本実施形態において、推定装置1が予報部15を備えているが、推定装置1とは異なる、推定装置1と通信可能な別体の装置が予報部15を備えていてもよい。出力制御部16は、補正部14が補正して得られた対象日時の推定気温、又は予報部15が予報して得られた結果を、外部の表示装置に出力する。
【0045】
〔ソフトウェアによる実現例〕
推定装置1の制御ブロック(特に取得部11、回帰分析部12、算出部13、補正部14、及び予報部15)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0046】
後者の場合、推定装置1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0047】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0048】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0049】
(回帰分析)
〔実施例1〕
香川県の財田アメダスポイントについて、2014年10月1日~2014年12月31日(関係式決定期間)における、GSMから取得した1時間毎の気温予測値、及び当該関係式決定期間における観測値を用いて、気温の推定を行った。気温は上述した式(1)、(2)によって温位に変換した。
【0050】
RCSの算出には、香川県の滝宮アメダスポイントの925hPa面、及び滝宮アメダスポイントの周辺に存在する4つの周辺地点について、当該関係式決定期間における、GSMから取得した1時間毎の気温予測値を用いた。気温は上述した式(1)、(2)によって温位に変換し、上述した式(3)によって4つの周辺地点についての温位の距離重み付け平均法により滝宮アメダスポイントの地上の温位としてRCSを算出した。
【0051】
以下の(a)~(d)についてグループを設定して差分指標値及び過去RCSデータをグループ分けし、グループ毎に回帰分析を行って4つの関係式を決定した。
【0052】
(a)昼の時間帯、かつ、850hPa面の気温が-5℃以上の気温帯
(b)昼の時間帯、かつ、850hPa面の気温が-5℃未満の気温帯
(c)夜の時間帯、かつ、850hPa面の気温が-5℃以上の気温帯
(d)夜の時間帯、かつ、850hPa面の気温が-5℃未満の気温帯
昼の時間帯は、日の出の2時間後から日没までの時間帯とし、夜の時間帯は昼の時間帯以外の時間帯とした。決定した関係式を
図3に示す。
図3は、実施例1における、RCSと、財田アメダスポイントの予測値と観測値との温位差との関係を示すグラフである。決定した4つの関係式を以下に示す。
(a)(温位差)=-0.647・RCS+3.25
(b)(温位差)=-0.692・RCS+2.84
(c)(温位差)=-0.429・RCS+2.74
(d)(温位差)=-0.961・RCS+3.66
【0053】
〔実施例2〕
香川県の仙遊観測所について、上記関係式決定期間における、GSMから取得した1時間毎の気温予測値、及び上記関係式決定期間における観測値を用いて、実施例1と同様に気温の推定を行った。決定した関係式を
図4に示す。
図4は、実施例2における、RCSと、仙遊観測所の予測値と観測値との温位差との関係を示すグラフである。決定した4つの関係式を以下に示す。
(a)(温位差)=-0.534・RCS+1.83
(b)(温位差)=-0.678・RCS+0.91
(c)(温位差)=-0.446・RCS+2.13
(d)(温位差)=-0.563・RCS+1.60
【0054】
〔実施例3〕
香川県の生野観測所について、上記関係式決定期間における、GSMから取得した1時間毎の気温予測値、及び上記関係式決定期間における観測値を用いて、実施例1と同様に気温の推定を行った。RCSは実施例1と同様の値を用いた。決定した関係式を
図5に示す。
図5は、実施例3における、RCSと、生野観測所の予測値と観測値との温位差との関係を示すグラフである。決定した4つの関係式を以下に示す。
(a)(温位差)=-0.534・RCS+1.72
(b)(温位差)=-0.670・RCS+0.86
(c)(温位差)=-0.310・RCS+1.83
(d)(温位差)=-0.453・RCS+1.66
【0055】
(気温推定)
滝宮アメダスポイントの925hPa面及び4つの周辺地点について、2015年1月1日~2015年5月31日(気温推定期間)における、GSMから取得した1時間毎の気温予測値を用いて、当該気温推定期間におけるRCSを算出した。気温は上述した式(1)、(2)によって温位に変換し、上述した式(3)によって4つの周辺地点についての温位の距離重み付け平均法により滝宮アメダスポイントの地上の温位としてRCSを算出した。
【0056】
実施例1~3について、算出した各関係式と、算出したRCSとから、温位差である補正値を算出した。財田アメダスポイント、仙遊観測所、及び生野観測所について、上記気温推定期間における、GSMから取得した1時間毎の気温予測値と、算出した補正値とを用いて、各注目地点の気温を推定した。気温である当該気温予測値は、上述した式(1)、(2)によって温位に変換した。当該気温予測値に対応する温位を、算出した補正値によって補正し、補正された温位を気温に変換して対象日時の推定値とした。上記気温推定期間における各注目地点の実際の観測値と、推定値との比較を行った結果を
図6~8に示す。
図6は、実施例1における、観測値と推定値との間の関係を示すグラフである。
図7は、実施例2における、観測値と推定値との間の関係を示すグラフである。
図8は、実施例3における、観測値と推定値との間の関係を示すグラフである。
図6~8に示すように、観測値と推定値との間に大きなずれは生じなかった。
【符号の説明】
【0057】
1 推定装置
2 注目地点の予測値DB
3 注目地点の観測値DB
4 近隣地点の予測値DB
5 近隣地点の上層気圧面の予測値DB
11 取得部
12 回帰分析部
13 算出部
14 補正部
15 予報部