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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】ミニトマトの苗の栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/05 20180101AFI20231027BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
A01G22/05 Z
A01G7/00 601C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020194874
(22)【出願日】2020-11-25
(65)【公開番号】P2021129550
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2020027336
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】篠田 晶子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 良一
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 泰永
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-121589(JP,A)
【文献】特開2015-142585(JP,A)
【文献】特開2010-004869(JP,A)
【文献】米国特許第08847514(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 22/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミニトマトの苗に対し、光を照射しない暗期に続く予め定めた第1の期間、青色光を連続的に照射し、
前記苗に対し、前記第1の期間に続く予め定めた第2の期間、青色光と赤色光とを連続的に照射し、
前記青色光の日積算光合成有効光量子量は、4mol・m- 2 ・day- 1 以上11mol・m- 2 ・day- 1 以下であり、前記赤色光の日積算光合成有効光量子量は、4mol・m- 2 ・day- 1 以上11mol・m- 2 ・day- 1 以下であることを特徴とするミニトマトの苗の栽培方法。
【請求項2】
前記第1の期間は、4時間以上10時間以下であることを特徴とする請求項1に記載のミニトマトの苗の栽培方法。
【請求項3】
前記第1の期間は、前記第2の期間より短いことを特徴とする請求項1または2に記載のミニトマトの苗の栽培方法。
【請求項4】
前記暗期、前記第1の期間および前記第2の期間を合わせた期間が1日間であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のミニトマトの苗の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマト類の苗の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1には、人工光を照射して植物の苗を栽培する育苗方法が開示されている。この育苗方法では、果菜類の苗に対し、人工光である赤色照明光と青色照明光とを交互に照射し、赤色照明光と青色照明光との日積算光合成有効光量子量を特定の範囲とすることで、定植後の苗の活着性を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-169509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ミニトマト等のトマト類は、苗の栽培条件によって、花房を構成する花梗が分岐する所謂ダブル花房が発生する場合がある。そして、トマト類の収穫量を増やすためには、ダブル花房の発生率を高めることが好ましい。
本発明は、ダブル花房の発生率が高いトマト類の苗の栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本発明が適用されるミニトマトの苗の栽培方法は、ミニトマトの苗に対し、光を照射しない暗期に続く予め定めた第1の期間、青色光を連続的に照射し、
前記苗に対し、前記第1の期間に続く予め定めた第2の期間、青色光と赤色光とを連続的に照射し、前記青色光の日積算光合成有効光量子量は、4mol・m- 2 ・day- 1 以上11mol・m- 2 ・day- 1 以下であり、前記赤色光の日積算光合成有効光量子量は、4mol・m- 2 ・day- 1 以上11mol・m- 2 ・day- 1 以下であることを特徴とする
ここで、前記第1の期間は、4時間以上10時間以下であることを特徴とすることができる。
また、前記第1の期間は、前記第2の期間より短いことを特徴とすることができる。
また、前記暗期、前記第1の期間および前記第2の期間を合わせた期間が1日間であることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ダブル花房の発生率が高いミニトマトの苗の栽培方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】(a)~(c)は、ミニトマトの花房の状態を示した図であって、花房に実がなっている状態を示した図である。
図2】実施例2~4のそれぞれについて、第1花房、第2花房および第3花房のダブル花房に形成された実または花芽の数を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、トマト類の栽培方法の概要について説明する。トマト類の栽培方法は、例えば、播種発芽工程、一次育苗工程、二次育苗工程、定植収穫工程の順で進行する。ここで、トマト類とは、大玉トマト、中玉トマト(ミディトマト)およびミニトマトの各品種を含む。以下では、トマト類の一例としてミニトマトを例に挙げて説明する。
【0009】
播種発芽工程では、ミニトマトの種を培養土に播く。例えば、複数のセルを有するセルトレイの各セルに培養土を充填し、各セルに充填した培養土の上面に窪みを形成する。そして、この窪みにミニトマトの種を1粒ずつ播いた後、種の上に培養土を被せる。なお、本実施の形態の説明において、以上の手順を、播種と表記する場合がある。
次いで、播種を行ったセルトレイを、予め定めた温度および湿度に調整された催芽器に収容する。そして、セルトレイの各セルに播種した種からわずかに芽が出るまでの間、催芽器により栽培を行う。「種からわずかに芽が出る」とは、ミニトマトの場合、例えば、培養土の間から芽(子葉を支える茎)が視認できる一方で、この子葉を支える茎が完全には立っていない状態を意味する。本実施の形態の説明において、「種からわずかに芽が出る」ことを、発芽と表記する場合がある。ミニトマトの種の場合、催芽器に入れてからおよそ72時間(3日間)で発芽する。
【0010】
セルトレイの各セルに播種した種が発芽したら、セルトレイを植物栽培装置へ移し、一次育苗工程を行う。ここで、植物栽培装置は、セルトレイで発芽した苗を予め定めた大きさになるまでの間、育成するための装置(育苗装置)である。植物栽培装置は、例えば、セルトレイが載置される栽培棚、セルトレイで生育する苗に人工光を照射する光照射部、セルトレイの培養土に対し養液を供給する給水部、植物栽培装置の各部を制御する制御部等を備える。本実施の形態で用いる植物栽培装置では、光照射部は、セルトレイの苗に対し赤色光を照射する赤色光照射部と、セルトレイの苗に対し青色光を照射する青色光制御部とを有している。そして、光照射部は、制御部による制御に基づき、セルトレイの苗に照射する赤色光および青色光の照射条件等が調整される。
一次育苗工程では、植物栽培装置により、発芽した苗に対し人工光の照射および養液の供給等を行い、苗が予め定めた大きさになるまでの間、苗の育成を行う。ミニトマトの場合、例えば、本葉が4枚~5枚展開するまでの約14日~30日間、苗の育成を行う。なお、一次育苗工程における人工光の照射条件については、後段にて詳細に説明する。
【0011】
一次育苗工程により苗が予め定めた大きさになったら、各セルの苗を、ロックウール、ヤシガラ、ウレタン樹脂、土壌等の支持体に鉢上げし、二次育苗工程を行う。
二次育苗工程では、鉢上げした苗に対し人工光または自然光の照射および養液の供給等を行い、苗が予め定めた大きさになるまでの間、苗の育成を行う。ミニトマトの場合、例えば、一段目の花房(第1花房、以下同様)に花芽が形成されるまで、言い換えると、第1花房の花の向きが判明するまでの約7日~10日間、苗の育成を行う。
なお、一次育苗工程による苗の生育状態やミニトマトの種類等によっては、二次育苗工程は必ずしも行わなくてもよい。
【0012】
二次育苗工程により苗が予め定めた大きさになったら、それぞれの支持体の苗を温室や土壌等の圃場へ移し、定植収穫工程を行う。
定植収穫工程では、苗に対し自然光の照射および養液の供給等を行い、苗の育成を行う。定植収穫工程では、苗の成長に伴って、第1花房、第2花房…と下段の花房から順に、開花し、結実する。その後、それぞれの花房に形成された実に色がついたら、色がついた実から順に収穫を行う。
なお、定植収穫工程では、必要に応じて、わき芽の除去、摘果、摘芯、追肥等の作業を行う。
【0013】
ところで、上述した工程によりミニトマト等のトマト類を栽培する場合、一次育苗工程における光の照射条件によって、定植収穫工程において、苗に所謂ダブル花房が発生する場合がある。ダブル花房とは、それぞれの花房を構成する花梗が花房の基部から先端部に至る途中で分岐し、分岐したそれぞれの花梗に花芽が形成される現象である。また、本実施の形態の説明では、ダブル花房に対し、花梗が分岐しない通常の花房をシングル花房と表記する。
図1(a)~(c)は、ミニトマトの花房の状態を示した図であって、花房に実がなっている状態を示した図である。図1(a)、(b)は、ダブル花房を示しており、図1(c)は、シングル花房を示している。
【0014】
図1(a)、(b)に示すように、ダブル花房の苗は、花房を構成する花梗10が分岐部13を有しており、分岐部13から花房の先端側に延びる第1花梗部11と第2花梗部12とを有している。そして、ダブル花房の苗では、第1花梗部11と第2花梗部12との双方に花芽が形成され、第1花梗部11と第2花梗部12との双方に実20がなる。ここで、ダブル花房には、図1(a)に示すように、分岐部13が花梗10の基部に形成される場合と、図1(b)に示すように、分岐部13が花梗10の基部と先端部との間に形成される場合とが存在する。図1(a)に示すダブル花房では、第1花梗部11と第2花梗部12との双方に実20が形成される。また、図1(b)に示すダブル花房では、第1花梗部11と第2花梗部12とに加えて、花房の基部から分岐部13に至るまでの花梗10にも実20が形成される。
一方、図1(c)に示すように、シングル花房の苗は、分岐部13(図1(a)、(b)参照)を有していない。
【0015】
そして、図1(a)~(b)に示すようなダブル花房の苗では、図1(c)に示すシングル花房の苗と比べて、花房に形成される実20の個数が増える。言い換えると、ダブル花房の苗では、シングル花房の苗と比べて、実20の収穫量が増える。この例では、図1(a)、(b)に示すダブル花房の苗は、図1(c)に示すシングル花房の苗と比べて、符号15で示す第2花梗部12に形成された実20の分だけ、収穫量が増える。
【0016】
このように、ミニトマト等のトマト類の収穫量を増やすためには、定植収穫工程において、トマト類の苗にダブル花房を発生させることが好ましい。
以下、トマト類の苗におけるダブル花房を発生させるための一次育苗工程における光の照射条件について、ミニトマトを例に挙げて詳細に説明する。
【0017】
本実施の形態が適用される栽培方法では、一次育苗工程において、ミニトマトの苗に対し、光を照射しない暗期(D)に続く予め定めた第1の期間(A)、青色光を連続的に照射し、第1の期間(A)に続く予め定めた第2の期間(B)、青色光と赤色光とを連続的に照射する。言い換えると、本実施の形態では、ミニトマトの苗に対し、第1の期間(A)と第2の期間(B)とに亘って青色光を連続的に照射する。青色光を連続的に照射する第1の期間(A)と第2の期間(B)とのうち、後半の第2の期間(B)に、赤色光を連続的に照射する。
なお、本実施の形態において、「光を連続的に照射する」とは、基本的には光を切れ目なく継続して照射することを意味するが、短い期間であれば光を照射しない期間を有していてもよい。短い期間とは、通常は30分以下、好ましくは5分以下、より好ましくは1分以下の期間を意味する。
【0018】
そして、本実施の形態のミニトマトの苗の栽培方法では、暗期(D)、第1の期間(A)および第2の期間(B)を1周期として、苗の生育状況に応じて繰り返し行う。暗期(D)、第1の期間(A)および第2の期間(B)を合わせた1周期の長さは、例えば1日間(24時間)とすることができる。また、ミニトマトの一次育苗工程では、暗期(D)、第1の期間(A)および第2の期間(B)を1周期(1日間)とした場合、この周期を例えば14周期~30周期(14日間~30日間)繰り返して行う。
【0019】
第1の期間(A)は、1回あたりの時間が4時間以上10時間以下の範囲であることが好ましい。第1の期間(A)の長さをこの範囲とすることで、ミニトマトの苗にダブル花房が発生しやすくなる。
また、第2の期間(B)は、1回あたりの時間が4時間以上10時間以下の範囲であることが好ましい。第2の期間(B)の長さをこの範囲とすることで、ミニトマトの苗にダブル花房が発生しやすくなる。
さらに、第1の期間(A)の長さは、第2の期間(B)の長さ以下であることが好ましい。
さらにまた、暗期(D)は、第1の期間(A)の長さおよび第2の期間(B)の長さによっても異なるが、例えば、1回あたりの時間が4時間以上12時間以下の範囲である。
【0020】
本実施の形態では、第1の期間(A)および第2の期間(B)に照射する青色光は、ピーク波長が400nm以上515nm以下の範囲の光である。ミニトマトの苗の光合成反応に対する効率や苗の徒長抑制の観点から、青色光の中心波長は、430nm以上470nm以下の範囲が好ましく、440nm以上460nm以下の範囲がより好ましい。
また、第2の期間(B)に照射する赤色光は、ピーク波長が570nm以上730nm以下の範囲の光である。ミニトマトの苗の光合成反応に対する効率や苗の成長速度の観点から、赤色光の中心波長は、640nm以上680nm以下の範囲が好ましい。
【0021】
本実施の形態では、第1の期間(A)および第2の期間(B)における青色光の照射、第2の期間(B)における赤色光の照射は、従来公知の人工光源を用いることができる。青色光および赤色光の照射に用いる人工光源としては、LED(Light Emitting Diode)、LD(Laser Diode)、有機EL(Electro Luminescence)等が挙げられ、これらの中でもLEDを用いることが好ましい。
青色光を照射するLEDとしては、例えば、ピーク波長400nm~515nmの光を照射するInGaN発光層を有する青色LEDを用いることができる。また、赤色光を照射するLEDとしては、例えば、ピーク波長が570nm~730nmの光を照射するAlGaInP発光層を有する赤色LEDを用いることができる。
【0022】
本実施の形態では、青色光の光量は、苗の栽培面上における日積算光合成有効光量子量(Daily Light Integral;DLI)で、4mol・m-2・day-1以上15mol・m-2・day-1以下の範囲とすることができる。青色光のDLIが4mol・m-2・day-1未満である場合、苗の生育が悪くなる場合がある。また、青色光のDLIが15mol・m-2・day-1を超える場合、植物苗等の生育には影響しない一方で、エネルギー消費量が増大する傾向がある。
青色光のDLIは、4mol・m-2・day-1以上11mol・m-2・day-1以下の範囲とすることが好ましい。青色光のDLIを11mol・m-2・day-1以下とすることで、DLIが11mol・m-2・day-1を超える場合と比べて、苗の生育が抑制される一方で、ミニトマトの苗にダブル花房が発生しやすくなり収穫量が増加する。
【0023】
また、赤色光の光量は、苗の栽培面上におけるDLIで、4mol・m-2・day-1以上15mol・m-2・day-1以下の範囲とすることができる。赤色光のDLIが4mol・m-2・day-1未満である場合、苗の生育が悪くなる場合がある。また、赤色光のDLIが15mol・m-2・day-1を超える場合、植物苗等の生育には影響しない一方で、エネルギー消費量が増大する傾向がある。
赤色光のDLIは、4mol・m-2・day-1以上11mol・m-2・day-1以下の範囲とすることが好ましい。赤色光のDLIを11mol・m-2・day-1以下とすることで、DLIが11mol・m-2・day-1を超える場合と比べて、苗の生育が抑制される一方で、ミニトマトの苗にダブル花房が発生しやすくなり収穫量が増加する。
【0024】
なお、本実施の形態の説明において、苗の栽培面とは、苗が生育する培養土の上面を意味する。そして、苗の栽培面における光量は、栽培面にセンサを載せて測定することができる。また、培養土を用いずに水耕栽培等によって苗を栽培する場合、栽培面とは、苗が定植されるパネルの上面を意味する。
【0025】
また、本実施の形態では、一次育苗工程における栽培時の温度は、一般的にミニトマトの苗の栽培を行う温度であればよく、例えば、16℃以上28℃以下の範囲とすることができ、17℃以上26℃以下の範囲とすることが好ましい。
また、一次育苗工程における栽培時の湿度(相対湿度)は、一般的にミニトマトの苗の栽培を行う湿度であればよく、例えば、39%以上90%以下の範囲とすることができ、50%以上80%以下の範囲とすることが好ましい。
栽培時の温度および湿度をこの範囲とすることで、苗の徒長を抑制し、苗の生育を促進することが可能となる。
【0026】
また、一次育苗工程では、炭酸ガス濃度を大気中の濃度としてもよく、炭酸ガスを付加して炭酸ガス濃度を大気と比べて増加させてもよい。炭酸ガスを付加する場合、炭酸ガス濃度は、例えば400ppm以上1200ppm以下の範囲とすることができ、700ppm以上1000ppm以下の範囲とすることが好ましい。
【0027】
本実施の形態の栽培方法は、上述したように、大玉トマト、中玉トマト(ミディトマト)およびミニトマト等のナス科のトマト類に適用することができ、中でもミニトマトにより好ましく適用される。
【実施例
【0028】
続いて、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
本発明が適用される栽培方法を用いて、以下のようにミニトマトの苗の栽培を行った。
まず、72個のセルが格子状に形成されたセルトレイの各セルに、たね培土1号(スミリン農産工業株式会社製)とフヨーライト2号(芙蓉パーライト株式会社製)とを1:1の比率で混合した培養土を充填した。そして、各セルに充填した培養土の上面に窪みを形成し、この窪みにミニトマト「プチぷよ」の種を1粒ずつ播いた後、種の上に培養土を被せた。
【0029】
次いで、各セルの培養土に播種を行ったセルトレイを、27℃に保った催芽器に3日間収容した(播種発芽工程)。
その後、セルトレイを閉鎖型の植物栽培装置へ移し(栽培0日目)、以下の栽培条件で、栽培21日目まで一次育苗工程を行った。
【0030】
培養液としては、1L当たりにハイテンポCu(住友化学株式会社製)2.93mLとハイテンポAr(住友化学株式会社製)0.98mLとを溶解したものを用い、その電気伝導度(EC)を1.6dS/m、pHを5.9とした。また、窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)の含有比率は、N:P:K=5.9:1.1:2.4とした。
潅水(培養土の供給)は、1日1回、10分間(8時40分から8時50分まで)行い、潅水の終了後は、セルトレイの底面から30mm程度の高さまで培養液が満たされた状態とした。
【0031】
また、一次育苗工程を行う際の育苗装置の環境は、平均温度が23℃となるように設定した。具体的には、0時から8時までの間は18℃に設定し、8時から14時までの間は25℃に設定した。また、湿度の制御は行わなかったが、一次育苗工程を行っている際の相対湿度の実測値は39%~60%であった。また、植物栽培装置内の二酸化炭素濃度は、1000ppmとした。
【0032】
光源としては、青色光と赤色光とを照射する照明(RRB、品番:UL0005#01-0R、LEDチップ:赤160個+青80個、波長:赤640nm~680nm、青425nm~475nm、中心波長:赤660nm、青450nm、昭和電工株式会社製)を備えた直管型LED照明を用いた。そして、この直管型LED照明を、タイマー付き調光器によって青色光と赤色光とで独立して調光し、青色光および赤色光の照射時間、照射光量等の制御を行った。
また、青色光および赤色光の光量の測定は、光量子センサ(LI-190、LI-COR)およびライトメータ(LI-250、LI-COR)を使用した。
【0033】
光の照射は、一次育苗工程を行う栽培0日目から栽培21日目までの各日、第1の期間(A)として8時から18時までの10時間、青色光(光合成有効光量子密度(PPFD;Photosynthetic Photon Flux Density):145μmol・m-2・s-1)を照射した。また、第1の期間(A)に続く第2の期間(B)として18時から4時までの10時間、青色光(PPFD:145μmol・m-2・s-1)と赤色光(PPFD:290μmol・m-2・s-1)とを照射した。さらに、第2の期間(B)に続く暗期(D)として4時から8時までの4時間は、光の照射は行わなかった。なお、一次育苗工程を行う栽培0日目から栽培21日目までの間、上記のように光の照射を行うことで、第1の期間(A)、第2の期間(B)、暗期(D)、第1の期間(A)、第2の期間(B)、…のように、各期間が繰り返し行われる。
青色光のDLIは、10.4mol・m-2・day-1であり、赤色光のDLIは、10.4mol・m-2・day-1であった。
【0034】
(比較例1)
光源として蛍光灯(日立Hf蛍光ランプ、ハイルミックFHF32EX-N-K、3波長型昼白色蛍光灯32ワット)を用い、以下の条件で光を照射した以外は、実施例2と同様にして、一次育苗工程を行った。
光の照射は、一次育苗工程を行う栽培0日目から栽培21日目までの各日、8時から0時までの16時間、白色光(PPFD:363μmol・m-2・s-1)を照射し、0時から8時までの8時間は光を照射しなかった。
白色光のDLIは、20.9mol・m-2・day-1であった。
【0035】
(評価)
実施例1および比較例1について、一次育苗工程を終了した苗を植物栽培装置から出し、植物栽培用ロックウール「やさいはなポット75×75×75mm」(日本ロックウール株式会社製)に植えて、ハウス内の二次育苗室にて自然光を用いて二次育苗工程を行った。そして、一次育苗を開始してから数えて栽培30日目(二次育苗を開始してから10日目)に、二次育苗工程を終了した苗を、長さ1000mmのスラブ「Grotop Expert」(Grodan社製)を使用し、圃場に定植した。
そして、一次育苗を開始してから数えて栽培101日目(定植してから69日目)に、苗の第3花房および第4花房にダブル花房が発生しているかを目視により観察した。付言すると、第3花房および第4花房について、花房を構成する花梗が分岐しているか否かを観察した。観察は、実施例1および比較例1のそれぞれについて、10株の苗を選択して行った。
【0036】
実施例1の苗では、第3花房におけるダブル花房の発生率が30%であり(すなわち、10株の苗のうち3株の苗にダブル花房が発生していることが観察された。以下同様。)、第4花房におけるダブル花房の発生率が70%であった。
一方、比較例1では、第3花房におけるダブル花房の発生率が0%であり、第4花房におけるダブル花房の発生率が30%であった。
【0037】
(実施例2)
ミニトマト「千果」の種を用い、以下の条件で光を照射した以外は、実施例1と同様にして、一次育苗工程を行った。
光の照射は、一次育苗工程を行う栽培0日目から栽培21日目までの各日、第1の期間(A)として8時から12時12分までの4時間12分、青色光(PPFD:181μmol・m-2・s-1)を照射した。また、第1の期間(A)に続く第2の期間(B)として12時12分から20時までの7時間48分、青色光(PPFD:181μmol・m-2・s-1)と赤色光(PPFD:279μmol・m-2・s-1)とを照射した。さらに、第2の期間(B)に続く暗期(D)として20時から8時までの12時間は、光の照射は行わなかった。
青色光のDLIは、7.8mol・m-2・day-1であり、赤色光のDLIは、7.8mol・m-2・day-1であった。
【0038】
(実施例3)
以下の条件で光を照射した以外は、実施例2と同様にして、一次育苗工程を行った。
光の照射は、一次育苗工程を行う栽培0日目から栽培21日目までの各日、第1の期間(A)として8時から12時12分までの4時間12分、青色光(PPFD:241μmol・m-2・s-1)を照射した。また、第1の期間(A)に続く第2の期間(B)として12時12分から20時までの7時間48分、青色光(PPFD:241μmol・m-2・s-1)と赤色光(PPFD:372μmol・m-2・s-1)とを照射した。さらに、第2の期間(B)に続く暗期(D)として20時から8時までの12時間は、光の照射は行わなかった。
青色光のDLIは、10.4mol・m-2・day-1であり、赤色光のDLIは、10.4mol・m-2・day-1であった。
【0039】
(実施例4)
以下の条件で光を照射した以外は、実施例2と同様にして、一次育苗工程を行った。
光の照射は、一次育苗工程を行う栽培0日目から栽培21日目までの各日、第1の期間(A)として8時から12時12分までの4時間12分、青色光(PPFD:301μmol・m-2・s-1)を照射した。また、第1の期間(A)に続く第2の期間(B)として12時12分から20時までの7時間48分、青色光(PPFD:301μmol・m-2・s-1)と赤色光(PPFD:465μmol・m-2・s-1)とを照射した。さらに、第2の期間(B)に続く暗期(D)として20時から8時までの12時間は、光の照射は行わなかった。
青色光のDLIは、13.0mol・m-2・day-1であり、赤色光のDLIは、13.1mol・m-2・day-1であった。
【0040】
(比較例2)
以下の条件で光を照射した以外は、実施例2と同様にして、一次育苗工程を行った。
光の照射は、一次育苗工程を行う栽培0日目から栽培21日目までの各日、8時から14時48分までの6時間48分、青色光(PPFD:210μmol・m-2・s-1)と赤色光(PPFD:360μmol・m-2・s-1)とを照射した。次いで、14時48分から20時までの5時間12分、青色光(PPFD:210μmol・m-2・s-1)を照射した。次いで、20時から8時までの12時間は、光の照射は行わなかった。
青色光のDLIは、9.1mol・m-2・day-1であり、赤色光のDLIは、8.8mol・m-2・day-1であった。
【0041】
(評価)
実施例2~4および比較例2について、一次育苗工程を終了した苗を育苗装置から出し、植物栽培用ロックウール「やさいはなポット75×75×75mm」(日本ロックウール株式会社製)に植えて、ハウス内の二次育苗室にて自然光を用いて二次育苗工程を行った。そして、一次育苗を開始してから数えて栽培30日目(二次育苗を開始してから10日目)に、二次育苗工程を終了した苗を、長さ1000mmのスラブ「Grotop Expert」(Grodan社製)を使用し、圃場に定植した。
そして、一次育苗を開始してから数えて栽培46日目(定植してから14日目)に、第1花房、第2花房および第3花房にダブル花房が発生しているかを目視により観察した。付言すると、第1花房、第2花房および第3花房について、花房を構成する花梗が分岐しているか否かを観察した。観察は、実施例2~4および比較例2のそれぞれについて、10株の苗を選択して行った。なお、栽培46日目では、第3花房は完全には展開しておらず、展開途中の状態であった。
【0042】
実施例2~4の苗では、第1花房、第2花房および第3花房にダブル花房が発生した苗が観察された。一方、比較例2では、第1花房、第2花房および第3花房にダブル花房が発生した苗が観察されなかった。
【0043】
実施例2~4の苗について、第1花房、第2花房および第3花房のダブル花房に形成された実または花芽の数を計測した。ここで、ダブル花房に形成された実または花芽の数とは、ダブル花房が形成されることによって増加した実または花芽の数であって、図1(a)、(b)において符号15で示すように、ダブル花房の分岐部13から延びる2つの花梗のうち形成された実または花芽が少ない花梗における実または花芽の数である。
図2は、実施例2~4のそれぞれについて、第1花房、第2花房および第3花房のダブル花房に形成された実または花芽の数を示したグラフである。図2では、実施例2~4のそれぞれについて、10株の苗について計測した実または花芽の数の平均値を示している。
【0044】
図2に示すように、実施例2~4では、第1の期間(A)に照射する青色光、第2の期間(B)に照射する青色光および赤色光の日積算光合成有効光量子量DLIが小さいほど、ダブル花房により形成される実または花芽の数が多くなり、収穫量が増えることが確認された。
【符号の説明】
【0045】
10…花梗、11…第1花梗部、12…第2花梗部、13…分岐部、20…実
図1
図2