(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】透過荷電粒子顕微鏡検査における革新的撮像方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20231027BHJP
【FI】
H01J37/22 501A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019006668
(22)【出願日】2019-01-18
【審査請求日】2022-01-14
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】バルト ヨーゼフ ヤンセン
(72)【発明者】
【氏名】リンボー ユー
(72)【発明者】
【氏名】エーリク ミキール フランケン
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-003336(JP,A)
【文献】特表2017-511571(JP,A)
【文献】特開2011-228223(JP,A)
【文献】Xueming Li et al.,Electron counting and beam-induced motion correction enable near-atomic-resolution single-particle cryo-EM,NATURE METHODS,2013年,Vol. 10, No. 6,p.584-590, ONLINE METHODS
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過荷電粒子顕微鏡を使用する方法であって、
- 試料を試料ホルダに提供することと、
-
照射システムを使用して、荷電粒子ビームをソースから前記試料に誘導することと、
- 撮像システムを使用して、前記試料内を透過する荷電粒子を検出器に誘導することと、を含み、
以下の処理:
- 取得ステップにおいて、時間区間T
の間、前記検出器を粒子計数モードで使用して、個々の粒子検出入射に関する時空間データを記録し、前記時空間データを生の形態で、画像フレーム
への変換が行われることなく
前記検出器から出力すること、
- 前記時間区間Tを複数の部分時間区間Tnに細分割することと、
- 各部分時間区間Tnについて、対応する線量分割データセットDnを、Tnの間に取得される時空間データを使用して作成することにより、線量分割データセットの集合{Dn}を生成することと、
- 前記線量分割データセットのうち少なくとも2つの線量分割データセットを互いに比較し、この比較を使用して
補正を決定することと、
- 後続のレンダリングステップにおいて、数値補正演算を実行しながら、前記時空間データから最終画像を作成すること
を特徴とする、方法。
【請求項2】
前記比較は、
- 画像類似度指標(ISM)、
- 相互情報(MI)関係、
- 相互相関、
- 平均二乗差(MSD)、
- 位相相関、
- 局所特徴ベースマッチング、
のうち少なくとも1つを使用して行われる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補正演算は、前記時空間データへの適用のための座標変換を含む、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記補正演算は、ドリフト、コマ収差、非点収差、歪み、焦点ぼけ、前記試料に対する放射線損傷、およびこれらの組み合わせを含む群から選択される少なくとも1つの影響を軽減するように行われる、
請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
圧縮演算が、前記取得
ステップにおいて取得されたデータに対して行われて、データ冗長性を低減する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記補正演算は、フィルタリング演算を含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
透過荷電粒子顕微鏡であって、
- 荷電粒子ビームを生成するためのソースと、
- 試料を保持するための試料ホルダと、
- 前記試料に前記荷電粒子を照射するための
照射システムと、
- 前記試料内を透過する荷電粒子を検出器に誘導するための撮像システムと、
- 前記顕微鏡の動作の少なくとも幾つかの局面を制御するためのコントローラと、を備え、前記コントローラは、
以下の処理:
- 取得ステップにおいて、時間区間T
の間、前記検出器を粒子計数モードで使用して、個々の粒子検出入射情報に関する時空間データを記録し、前記時空間データを生の形態で、画像フレーム
への変換が行われることなく
前記検出器から出力することと、
- 前記時間区間Tを複数の部分時間区間Tnに細分割することと、
- 各部分時間区間Tnについて、対応する線量分割データセットDnを、Tnの間に取得される時空間データを使用して作成することにより、線量分割データセットの集合{Dn}を生成することと、
- 前記線量分割データセットのうち少なくとも2つの線量分割データセットを互いに比較し、この比較を使用して
補正を決定することと、
- 後続のレンダリングステップにおいて、数値補正演算を実行しながら、前記時空間データから最終画像を作成することと、を実行するように構成されることを特徴とする、透過荷電粒子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過荷電粒子顕微鏡を使用する方法に関し、
- 試料を試料ホルダに提供することと、
- 照明システムを使用して、荷電粒子ビームをソースから前記試料に誘導することと、
- 撮像システムを使用して、試料内を透過する荷電粒子を検出器に誘導することと、を含む。
【0002】
本発明はまた、このような方法を実施することができる透過荷電粒子顕微鏡に関する。
【0003】
荷電粒子顕微鏡検査は、微小物体を撮像する、特に電子顕微鏡検査の形態で撮像処理を実行する、益々重要になっている周知の方法である。これまで、基本的な種類の電子顕微鏡は、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、および走査透過電子顕微鏡(STEM)のような多くの周知の装置類に進化してきており、更には、例えばイオンビームミリングまたはイオンビーム誘導蒸着(IBID)のような支援作用を可能にする「machining(機械加工)」集束イオンビーム(FIB)を更に用いた、いわゆる「dual-beam(デュアルビーム)」装置(例えば、FIB-SEM)のような様々な補助装置類に進化してきている。
より具体的には、
- SEMでは、走査電子ビームを試料に照射すると、試料から、例えば2次電子、後方散乱電子、X線、ならびに陰極線蛍光(赤外線光子、可視光子、および/または紫外線光子)の形態の「補助」放射線の放出が開始され、次に、この放出される放射線の1種類以上の放射線成分が、検出され、画像を蓄積するために使用される。
- TEMでは、試料に照射するために使用される電子ビームは、試料に貫通するために十分高いエネルギーとなるように選択され(試料は、この目的のために、一般的に、SEM試料の場合よりも薄くなる)、次に、試料から放出される透過電子を使用して画像を生成することができる。このようなTEMを走査モードで動作させると(したがって、STEMになる)、問題の画像が、照射電子ビームの走査運動中に蓄積される。
【0004】
照射ビームとして電子を使用することの代替として、荷電粒子顕微鏡検査は、他の種類の荷電粒子を使用して行うこともできる。この点に関して、「chargedparticle(荷電粒子)」という句は、例えば電子、正イオン(例えば、GaイオンまたはHeイオン)、負イオン、陽子、および陽電子を含むものとして広く解釈される必要がある。電子顕微鏡検査以外の荷電粒子顕微鏡検査に関しては、例えば幾つかの別の情報を以下のサイト、参考文献から収集することができる。
https://en.wikipedia.org/wiki/Focused_ion_beam
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_Helium_Ion_Microscope
-W.H.Escovitz,T.R.FoxandR.Levi-Setti,「ScanningTransmissionIonMicroscopewithaFieldIonSource」、Proc.Nat.Acad.Sci.USA72(5),pp.1826-1828(1975).
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22472444
【0005】
撮像および(局所的な)表面改質(例えば、ミリング、エッチング、蒸着など)を行うことに加え、荷電粒子顕微鏡はまた、他の機能を有することができ、例えば、分光法を実施する、フーリエ変換図形を解析する、イオンチャネリング/イオン後方散乱分析(ラザフォード後方散乱分析)を検討することができるなどである。
【0006】
一般に、荷電粒子顕微鏡(CPM)は、少なくとも以下の構成要素を備える。
- 例えば、電子の場合のWソースもしくはLaB6ソース、ショットキーガンもしくはコールドフィールドエミッションガン(CFEG)のような粒子ソース、またはイオンの場合の液体金属イオンソース(LMIS)もしくはナノアパーチャイオンソース(NAIS)。
- ソースからの放射線ビームを操作し、放射線ビームを集束させる、放射線ビームの収差を低減する、放射線ビームをトリミングする(ダイヤフラムで)、放射線ビームをフィルタリングするなどのように、放射線ビームに対して特定の操作を実行するように機能する照明システム(照明用粒子光学カラム)。照射システムは、一般的に、1つ以上の(荷電粒子)レンズを備え、他の種類の(粒子)光学部品も備えることができる。所望される場合、照明器には、偏向システムを設けることができ、偏向システムを駆動して、偏向システムの出射ビームが走査運動を調査対象の試料に対して行うことができる。
- 調査対象の試料を保持および位置決めする(例えば、傾斜させる、回転させる)ことができる、試料ホルダ。所望される場合、このホルダを移動させて、試料がビームに対して走査運動を行うようにすることができる。一般に、このような試料ホルダは、位置決めシステムに接続される。極低温試料を保持するように設計される場合、試料ホルダは、前記試料を極低温に、例えば適切に接続される極低温槽を使用して維持するための手段を備えることができる。
- 本質的に単体とするか、または複合/分散させることができ、かつ検出対象の放射線によって異なる多くの形態を採ることができる検出器(照射対象の試料から放出される放射線を検出する)。例として、フォトダイオード、CMOS検出器、CCD検出器、光起電力セル、X線検出器(シリコンドリフト検出器およびSi(Li)検出器など)などを挙げることができる。一般に、CPMは、幾つかの異なる種類の検出器を含むことができ、検出器の選択は、異なる状況において行うことができる。
【0007】
透過荷電粒子顕微鏡(TCPM;例えば(S)TEMのような)は、具体的には、
- 試料(平面)内を透過するほとんどの荷電粒子を捕え、かつ荷電粒子を検出/撮像装置、分光装置(EELS装置:EELS=電子エネルギー損失分析器のような)などのような検出装置に誘導する(集束させる)撮像システム。上に言及した照明器の場合と同様に、撮像システムは、収差緩和、トリミング、フィルタリングなどのような他の機能を実行することもでき、撮像システムは、一般的に、1つ以上の荷電粒子レンズおよび/または他の種類の粒子光学部品を備える。
【0008】
以下に、本発明は、-1例として-電子顕微鏡検査の特定の状況において説明することができる場合がある。しかしながら、このような簡略化は、単に明瞭性/例示を意図したものであり、限定的に解釈されるべきではない。
【0009】
TCPMにおける画像の取得は、多くの場合、比較的複雑な手順であり、様々な(競合する)ファクタに関して余裕を持たせる必要がある。例えば、試料は通常、荷電粒子を照射している結果として放射線損傷を受けるので、多くの場合、可能であれば、比較的低い照射ビーム電流/比較的弱い照射強度が好ましい。これにより、今度は、利用可能な撮像光束を弱くすることができるので、実現可能な信号対雑音比(SNR)に悪影響を与える傾向がある。これらの問題に対処するために、TCPMオペレータは多くの場合、所定の試料部分の比較的大きな連続する成分画像(「フレーム」)を比較的弱いビーム強度で撮影し、次にこれらの成分画像を合成して複合画像とすることにより、例えばドリフトの影響を測定する/低減することを選択する。格納空間/処理能力をより効率的に使用しようとする試みでは、成分画像は、格納される前に、これらの成分画像に、いわゆる量子化処理を施すことにより「simplified(簡略化される)」場合があり-量子化処理は、時間量子化(成分画像の数を、2つ以上のカメラフレーム群を合計することにより減らす)、空間量子化(画素の数を、2つ以上のカメラ画素群を合計することにより減らす)、および/または画素密度量子化(1個の画素値を表すために使用されるビットの数を減らす)の組み合わせとすることができる-これにより、格納される/取り出される/処理される合計ファイルサイズを小さくすることができる。しかしながら、このような量子化により必然的に、例えば外挿、補間、および/または丸め処理に付随する誤差が生じる。
【0010】
本発明の目的は、これらの問題に対処することにある。より具体的には、本発明の目的は、従来のTCPM撮像方法とは根本的に異なるアプローチを使用する代替的なTCPM撮像方法を提供することにある。特に、本発明の目的は、この新規のアプローチが、ドリフト、歪み、収差、および試料に対する放射線損傷のような影響に関連する撮像異常を補正する革新的な方法を提供する必要があることにある。
【0011】
これらの目的および他の目的は、上記冒頭の段落に記載される方法において達成され、以下の処理:
- 取得ステップにおいて、時間区間Tを継続して、前記検出器を粒子計数モードで使用して、個々の粒子検出入射情報に関する時空間データを記録し、前記時空間データを生の形態で、画像フレームに作成することなく出力することと、
- 次のレンダリングステップにおいて、数値補正演算を実行しながら、前記時空間データから最終画像を作成することと、を特徴とする。
【0012】
当業者であれば、粒子計数モードで検出するというコンセプトに精通しているので、検出した放射線束が比較的狭く、および/または検出器のリフレッシュ時間/不感時間が比較的短く、個々の粒子による衝突を記録/計数することができる(例えば、検出器画素当たり複数回検出される累積入射線量を測定するのではなく)。
【0013】
上に言及した先行技術とは異なり、本発明は、取得ステップ中に生成される検出入射情報ストリームを、当該検出入射情報ストリームを画像フレームに作成することにより「pre-interpret(事前解釈)」しようと試みることなく利用する。説明として、ある程度の類推が、コンピュータ科学に対してできるので、
- ハードディスクが複製される場合、ビットストリームは、当該ストリームの解釈が行われることなく、1つのディスクから別のディスクにコピーされ、クローニングソフトウェアは、クローンビットにより表されるファイルの種類(例えば、テキスト文書、映像、音楽ファイルなど)には関係しない。
結果として、このような演算は、一般的に、比較的迅速に進行する。
- ハードディスクをオペレーティングシステム内でコピーする場合、個々のファイルが1つのディスクから別のディスクに転送される。これにより、必然的にオーバヘッドが生じ、当該演算を比較的遅く進行させる傾向にある。
【0014】
本発明において、「bits(ビット)」(上の類推を指す場合の)とは、個々の荷電粒子検出入射情報であり、これらの荷電粒子検出入射情報の各々は基本的に、時空間における所定の座標である。これらのビットは「生の」形態で出力/ストリーミングされる(すなわち、「そのままの」または「自然な」形態で)、これらのビットを画像フレーム(画素配列)に作成しようとするアブイニシオ解釈ステップを経ることなく、出力/ストリーミングされる。これにより、データを、取得後の補正により容易に役立つ比較的純粋な形態で保持することができる。例えば、画像フレーム生成に関連する補間関連損失(および、付随する解像度の低下)が回避されて、異常(例えば、[コマ収差、三重非点収差、球面収差、焦点ぼけ]のような収差、歪み、ドリフト[ローカルドリフトおよび/またはグローバルドリフト]、試料損傷などにより生じる)は、例えば、好適な座標変換演算または他の機能的操作を時空間データに適用することにより、より正確に特定して軽減することができる。入手可能なデータの形態をより純粋にすることにより、このような処理を大幅に促進して、所望される場合、処理をオンザフライで実行されることを可能にするが、当然ながら、遡及的な補正も可能である。また、以下でより詳細に説明されるように、本発明が「生の」データを使用する際の方法により、非常に有効な圧縮方法を適用することができるので有利である。
【0015】
本発明の状況では、異なる種類の補正演算を区別することができる。例えば、
- 場合によっては、ポイントごとの補正を生の時空間データに直接適用することも可能である。このような補正の例が、例えば線形ドリフト、回転、スケーリング誤差、歪み/倍率異方性などを補正するために使用することができる空間座標変換である。
- 他の場合では、機能的補正を作成画像に、例えば偏差/異常-例えば、コマ収差または放射線起因の試料損傷のような-は、簡単な空間座標変換により表すことができない状況において適用することがより適切となり得る。このような補正は、例えば採用される表現関数を修正することにより行うことができる。例えば、Bスプライン関数を修正して(局所的に)、懸念される偏差/異常を解消することができる。当業者であれば、スプライン関数は区分多項式関数であり、区分多項式関数は、区分多項式関数を構成する区分の接合点(「knots(結び目)」)において連続していることを理解できるであろう。次数nのBスプライン関数は、同じ結び目で定義される同じ次数のスプライン関数の基底関数であり、全ての可能なスプライン関数をBスプラインの線形結合で表現することができることを意味している。コンピュータグラフィックス/コンピュータ支援設計(ComputerAidedDesign:CAD)のような分野では多くの場合、データのBスプライン表現が使用される。
【0016】
本発明の1つの実施形態では、最終画像作成の前に、分析ステップが行われ、分析ステップは、
・ 前記時間区間Tを複数の部分時間区間Tnに細分割すること、
・ 各部分時間区間Tnについて、対応する線量分割データセットDnを、Tnの間に取得される時空間データを使用して作成することにより、線量分割データセットの集合{Dn}を生成すること、および
・ 前記線量分割データセットのうち少なくとも2つの線量分割データセットを互いに比較し、この比較を使用して前記補正を決定すること、を含む。
【0017】
これにより、例えばドリフトおよび試料への放射線損傷のような異常が容易に明らかになる。このような分析ステップでは、所定の線量分割データセットは、例えば前の、または後の線量分割データセットから逸脱していることを、および/または幾つかの線量分割データセットの平均から逸脱していることを観測することができる。一旦、このような逸脱が観測されると、逸脱を基準として使用して、逸脱を低減する補正処理を決定することができる。実際の比較は、所望される場合、パターン認識ソフトウェアを使用して行うことができ、パターン認識ソフトウェアは、例えば、
- 画像類似度指標(SSIMのような)、
- (正規化)相互情報(MI)関係、
- (正規化)相互相関、
- 平均二乗差(MSD)、
- 位相相関、
- 例えばSIFT、SURF、DAISY、HOG、BRIEFなどの局所特徴ベースマッチングのうち少なくとも1つ以上を利用することができる。
【0018】
しかしながら、補正演算を、前の線量分割データセット比較ステップを必要とすることなく決定することができる状況が存在し得ることにも留意されたい。例えば、ドリフトの場合、顕微鏡内の位置センサは出力を提供することができ、この出力により、ドリフトの絶対値/方向を時間の関数として求めることができるので、この影響の「blind(ブラインド)」補正を実行することができる。
【0019】
本発明によれば、上に言及した「補正演算(correctionoperation)」は、補正演算が決定されるとすぐに適用する必要はない。すぐに適用するのではなく、補正演算をメモリタグ/タブ/ヘッダに格納して/一時的に格納して、後の時点で最終画像作成手順中に適用することができる。このようなアプローチは、本発明の撮像プロセスの後半段階/最終段階まで、データを可能な限り「生の」状態に保つ傾向に適合している。
【0020】
上に示唆したように、本発明はデータ圧縮に役立ち、データ圧縮により、データの格納および処理に必要なリソースを節約することに役立ち得る。荷電粒子検出入射情報が、画像フレームへの変換が行われることなく生の時空間形態の出力となるので、検出器との各粒子の衝突は基本的に、デジタルの「1」(例えば、1個の画素に衝突する場合)または「複数の1」の小集団(例えば、小集団の画素に衝突し、衝突重心が決定される場合)により表すことができる。衝突が生じない画素位置は、それに対応して「0」で表すことができる。各画素を別のビットで表すのではなく、基本的に、「複数の1」の間に現れる「複数の0」を計数し(いわゆる「ランレングス符号化」)、これらのゼロの個数の計数値を、仮に各ゼロに固有のビットが付与されるとした場合に必要とされるよりもずっと小さい数字を使用して格納する。これは、以下の理由により実現可能である。
- 時空間データは本質的に疎である。
- いわゆる「ステートレスモデル(statelessmodel)」を利用することができるので、所定の画素位置における荷電粒子の衝突が観測される確率pは、荷電粒子が空間的に、および/または時間的に隣接する画素とは無関係であると仮定することができる。
【0021】
これらの状況においては、シャノンエントロピーによって与えられる理論的限界に非常に近い、相対的に非常に大きな圧縮比(例えば、約50×)を達成することができる。更に、圧縮は無損失であり、比較的簡単な解凍処理により元のデータを忠実に再現することができる。
【0022】
本発明の1つの実施形態では、前記数値補正演算は、フィルタリング演算を含む。この状況における好適なフィルタの例としては、例えば、
- 画像フィルタを挙げることができ、画像フィルタは、例えば以下のフィルタを含む。
・ リニア周波数帯域フィルタ(低域通過、高域通過、帯域通過)。
・ 線形位相フィルタ(位相変調にのみ用いられる)。
・ 非線形フィルタ(メジアンフィルタ、バイラテラルフィルタ、非ローカル手段、異方性拡散、ヒステリシスフィルタなど)。
- 「ネイティブ形態(Nativeform)」フィルタ-ネイティブ形態/生データに直接適用されて、検出入射情報を特定の基準に基づいて廃棄および/または変更する。例えば、
・ 特定のタイムスタンプにおける検出入射情報を除去する
・ 特定の位置における検出入射情報を除去する
・ 検出入射情報を所定のモデル(すなわち、補正関数)に従って置き換える。
【0023】
本発明は、ここで、例示的な実施形態および添付の概略図に基づいてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明が実施されるTCPMの1つの実施形態の縦断面図を表している。
【
図2】本発明の1つの実施形態をフローチャート/ワークフローの形態で示している。
【0025】
図において、該当する場合、対応する部分は、対応する参照記号を使用して示すことができる。
【0026】
実施形態1
図1(寸法通りではない)は、本発明を実施することができる透過荷電粒子顕微鏡Mの1つの実施形態のかなり大まかな概略図である。より具体的には、
図1はTEM/STEMを示している(しかし、本発明の状況では、透過荷電粒子顕微鏡は、ほんの一例を挙げると、イオン型顕微鏡と同じであることが明らかである)。図において、真空筐体2内では、電子ソース4は、電子-光軸B'に沿って伝搬し、電子光学照明システム(照明器)6を横断する電子ビームBを生成して、電子を試料Sの選択部分に誘導する/集束させるように機能する(試料Sは、例えば(局所的に)薄くする/平板状にすることができる)。更に図示されるのは偏向器8であり、偏向器8は(とりわけ)、ビームBの走査運動を行うために使用することができる。
【0027】
試料Sは、試料ホルダHに保持され、試料ホルダHは、ホルダHを(取り外し可能に)取り付ける取り付け先のクレードルA'を移動させる位置決め装置/ステージAにより複数の自由度で位置決めすることができる。例えば、試料ホルダHは、(とりわけ)XY平面(図示されるデカルト座標系を参照されたい。通常、Zに平行な運動およびX/Y回りの傾斜も可能である)内で移動させることができるフィンガを備えることができる。このような移動により、試料Sの異なる部分が、軸線B'に沿って進む(Z方向に)電子ビームBによって、照明/撮像/検査されることを可能にする(および/または走査運動が、ビーム走査の代替として、行われることを可能にする)。所望される場合、任意の冷却装置(図示せず)を、試料ホルダHと密に熱的に接触させて、試料ホルダH(および、試料ホルダ上の試料S)を、例えば極低温に維持することができる。
【0028】
電子ビームBは、試料Sと相互作用して、(例えば)2次電子、後方散乱電子、X線、および光放射線(陰極線蛍光)を含む様々な種類の「刺激(stimulated)」放射線が試料Sから放出されるようになる。所望される場合、これらの放射線種類のうちの1つ以上の放射線種類は、例えば複合シンチレータ/光電子増倍管またはEDX(エネルギー分散型X線分析)モジュールとすることができる検出装置22を援用して検出することができる。このような場合、画像は、SEMにおける原理と基本的に同じ原理を使用して作成することができる。しかしながら、代替的に、または補完的に、試料Sを横断して移動し、試料S内を(透過し)、試料から射出/放出されて軸線B'に沿って伝搬し続ける(しかし、実質的には、一般的に、ある程度偏向しながら/散乱しながら)電子を検討することができる。このような透過電子束は、撮像システム(投影レンズ)24に入射し、撮像システム24は一般的に、多種多様な静電レンズ/磁気レンズ、偏向器、補正器(例えばスティグメータのような)などを備えている。通常の(非走査)TEMモードでは、この撮像システム24は、透過電子束を蛍光スクリーン26に集束させることができ、蛍光スクリーン26は、所望される場合、後退させる/引き込むことにより、蛍光スクリーン26を軸線B'から外れるようにすることができる(矢印26'で模式的に示すように)。試料Sの(一部の)画像(または、フーリエ変換図形)は、撮像システム24によりスクリーン26上に形成され、この画像は、筐体2の壁の好適な部分に位置する視認ポート28を介して視認することができる。スクリーン26の後退機構は、例えば本質的に機械的および/また電気的な機構であり、ここには図示されていない。
【0029】
スクリーン26上の画像を視認することの代替として、代わりに、撮像システム24から出ていく電子束の焦点深度が一般的に、極めて深い(例えば、約1メートル)という事実を利用することができる。その結果、以下のように、様々な他の種類の検出器/検出装置をスクリーン26の下流で使用することができ、例えば以下のようなカメラを使用することができる:
- TEMカメラ30。カメラ30の位置に、電子束は、静止画像(または、フーリエ変換図形)を形成することができ、静止画像は、コントローラ/プロセッサ20により処理することができ、例えばフラットパネルディスプレイのような表示装置(図示せず)に表示することができる。必要ではない場合、カメラ30は、後退させて/引き込み(矢印30'で概略に示すように)、カメラを軸線B'から外れるようにすることができる。
- STEMカメラ32。カメラ32の出力は、試料S上のビームBの(X、Y)走査位置の関数として記録することができ、カメラ32の出力の「マップ(map)」である画像は、X、Yの関数として作成することができる。カメラ32は、カメラ30に特徴的に含まれる画素行列とは異なり、例えば直径が20mmの1個の画素を含むことができる。更に、カメラ32は一般的に、カメラ30(例えば、102画像/秒)よりもはるかに高い取得レート(例えば、106ポイント/秒)を有する。
この場合も同じく、必要でない場合、カメラ32は、後退させて/引き込み(矢印32'で概略に示すように)、カメラを軸線B'から外れるようにすることができる(このような後退は、例えばドーナツ形の環状暗視野カメラ32の場合には必要とされない。このようなカメラでは、中心孔により、カメラが使用されていなかった場合に電子束を通過させることができる)。
- カメラ30または32を使用して撮像を行うことの代替として、例えばEELSモジュールとすることができる分光装置34を駆動することもできる。
【0030】
部品30、32、および34の順序/位置は厳密ではなく、多くの可能な変形が考えられることに留意されたい。例えば、分光装置34は、撮像システム24と一体化することもできる。
【0031】
コントローラ(コンピュータプロセッサ)20は、図示される様々な構成要素に、制御線(バス)20'を介して接続されることに留意されたい。このコントローラ20は、処理を同期させる、設定値を提供する、信号を処理する、計算を実行する、およびメッセージ/情報を表示装置(図示せず)に表示するといった多種多様な機能を提供することができる。言うまでもなく、(模式的に描かれる)コントローラ20は、筐体2の内側または外側に(部分的に)位置させることができ、所望に応じて、単体構造または複合構造を有することができる。
【0032】
当業者であれば、筐体2の内部が気密な真空状態に保持される必要はないことを理解できるであろう。例えば、いわゆる「環境制御型TEM/STEM」では、所定の周囲ガス雰囲気が、筐体2内に意図的に導入される/保持される。当業者はまた、実際には、筐体2の容積を閉じ込めて、可能であれば、筐体が、軸線B'をほとんど包み込むようになって、採用する電子ビームが小径管内を通過し、しかも広がってソース4、試料ホルダH、スクリーン26、カメラ30、カメラ32、分光装置34などのような構造を収容する小径管(例えば、直径約1cm)の形態を採ると有利となり得ることを理解できるであろう。
【0033】
本発明の特定の状況では、プロセッサ20は、TEMカメラ30に指示して、時間区間Tの間の個々の荷電粒子衝突を、比較的低いビーム電流/線量率(例えば、0.02電子/画素/フレーム)を使用して撮影/記録する。記録された衝突は、プロセッサ20により、メモリに「生の」/そのままの時空間形態で格納される。この取得ステップの後、プロセッサ20はレンダリングステップを実行し、レンダリングステップでは、少なくとも1つの数値補正演算を実行しながら、前記時空間データから最終画像を作成して、例えばドリフト、収差、歪み、および試料損傷のうちの1つ以上に関連する望ましくない異常/偏差を軽減する。このような数値補正演算は、例えば最終画像作成の前にプロセッサ20により実行される分析ステップを使用して決定/抽出することができ、分析ステップでは、
・ 取得時間Tを細分割して複数の部分時間区間Tnとする;
・ 各部分時間区間Tnについて、対応する線量分割データセットDnを、Tn中に取得される時空間データを使用して作成することにより、線量分割データセットの集合{Dn}を生成する;
・ 前記線量分割データセットのうち少なくとも2つの線量分割データセットを互いに比較して前記補正を決定する。
【0034】
線量分割データセットをこのように比較することにより、ポイントごとの異常が明らかになり、次に逆座標変換を行うことができる。代替的に/補完的に、補正は、データに関して採用される表現関数を修正することにより行うことができる。例えば、B-スプライン関数を(局所的に)修正して、特定の異常/偏差を解消することができる。
【0035】
実施形態2
荷電粒子が任意の画素位置に観測される確率がpcであると仮定し、したがって荷電粒子がこの位置に観測されない確率が1-pcであると仮定する。これは、ステートレスモデルを意味している、すなわち、荷電粒子が特定の画素位置に検出される確率は、空間および時間の両方において、いずれかの他の位置に検出されることとは無関係である。各個々のデータセット内の線量率が低いとすると、この仮定は合理的である。状況依存的確率を計算するために付加される複雑さは、実現することができる限界過圧縮を前提とすると、特に価値はない。
【0036】
画素の大部分が0(荷電粒子なし)であるため、ランレングス符号化法を採用する。データセット内の任意の開始位置を起点とすることがステートレスであると仮定すると、荷電粒子が開始位置から距離kの画素位置に観測される確率の密度関数(PDF)は、理論的には次式により与えられる。
p(k)=pc(1-pc)k
理論的には、距離kには制限はないが、実際には、最大値kmaxを選択してシンボルの数をkmax+1に制限することができ、この場合、PDFは以下の通りとなる。
k∈{0,1、...、kmax-1}である場合には、
p(k)=pc(1-pc)k
k=kmaxである場合には、
【数1】
【0037】
圧縮アルゴリズムでは、kの観測値は、符号化および復号化されるシンボルであり、異なるシンボルの総数は、kmax+1である。圧縮は、例えばハフマン符号化または算術符号化を使用して実行することができる。
【0038】
理論的には、pc(線量率)およびNsub(デカルト座標xおよびy方向のサブ画素符号化ビットの数)を前提とすると、データセット内の合計情報量(ビット単位)は、次式により与えられる:
H=-pc(log2pc)-(1-pc)log2(1-pc)+2pcNsub
非圧縮表現が画素当たり8ビット(B-スプライン表現)を使用すると仮定すると、圧縮比は、次式により与えられる。
C=8/H
本発明では、典型的な線量条件が理論的なシャノン限界に近い場合、C≒50が達成された。
【0039】
実施形態3
図2は、本発明の1つの実施形態をフローチャート/ワークフローの形態で示している。様々な図示されるステップは、以下の通りに説明することができる。
1: 取得、時間区間Tを粒子計数モードで継続する。
取得データを、画像フレームに事前作成しておくことなく、生の時空間形態で格納する。
所望される場合、データは、例えば上の実施形態2に記載されているように、圧縮することができる。
3: 分析ステップオプション。
この場合、
3a: ステップ7において、既定の数値補正を適用しながら、画像レンダリングステップ5に進む、または
3b: まず、局面9、11、および13を含む分析ステップを実行する。
5: 数値補正演算を実行しながら、前記時空間データから最終画像を作成する。
7: 撮像異常に対処するために適用される数値補正。
9: 時間区間Tを複数の部分時間区間Tnに細分割する。
各部分時間区間Tnについて、対応する線量分割データセットDnを、Tnの間に取得される時空間データを使用して作成することにより、線量分割データセットの集合{Dn}を生成する。
11: 前記線量分割データセットのうち少なくとも2つの線量分割データセットを互いに比較する。
13: ステップ11における比較を使用して、ステップ7において適用される補正(の一部)を決定/計算する。