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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20231027BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
H01L21/302 101D
H05H1/46 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020013408
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021119595
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川那辺 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】田村 仁
【審査官】川原 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-358131(JP,A)
【文献】特開2000-357683(JP,A)
【文献】特開2003-188103(JP,A)
【文献】特開2000-164392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
H01L 21/205
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/461
H01L 21/469
H01L 21/86
H05H 1/00-1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料がプラズマ処理される処理室と、導波管を介してマイクロ波の高周波電力を供給する高周波電源と、前記導波管を介して供給されたマイクロ波を共振させる空洞共振部と、前記処理室の上部を封しする誘電体板と、前記処理室内に磁場を形成する磁場形成手段とを備えるプラズマ処理装置において、
前記空洞共振部内の前記誘電体板の上に配置された導体および前記導体の外側に配置されたリング状の導体をさらに備え
前記導波管の内径は、前記導体の外径より小さく、
前記リング状の導体の内径から前記導体の外径を減じた値を2倍した値は、前記マイクロ波の波長より大きく、かつ、前記マイクロ波の波長を3倍した値より小さいことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理装置において、
前記導体と前記リング状の導体を可動させる可動手段と、
所望のプラズマ密度となるように前記可動手段を制御する制御装置をさらに備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項に記載のプラズマ処理装置において、
前記導体と前記リング状の導体を可動させる可動手段と、
前記処理室内の圧力を基に前記可動手段を制御する制御装置をさらに備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項に記載のプラズマ処理装置において、
前記導体は、中央部に貫通孔が形成されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,エッチング等,真空容器内の処理室内に形成したプラズマを用いて当該処理室内に配置された半導体ウエハ等の基板状試料を処理するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造においてプラズマエッチング,プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition),プラズマアッシング等のプラズマ処理が広く用いられている。プラズマ処理装置の一つであるエッチング装置においては,デバイス量産性の観点から,一台のエッチング装置で,異方性加工と等方性加工の両立が求められている。
【0003】
異方性の加工はウエハに垂直に入射するイオンを主体としたイオンアシスト反応で,等方性の加工には等方的に拡散してウエハに入射するラジカルが主体となる化学反応で実現できる。一般に,低圧ではイオン密度が高くなってイオン主体のエッチングが,高圧ではラジカル密度が高くなってラジカル主体のエッチングができる。したがって,エッチング装置は,0.1Pa程度の低圧から数十Paの高圧までの広範な圧力領域で動作できることが望ましい。更に,デバイス量産性を確保するためには,このような広範な圧力領域において,ウエハ面内で均一にエッチングできることが必要である。
【0004】
プラズマの生成方式としてECR(Electron Cyclotron Resonance)や誘導結合や容量結合などが知られている。ECR方式では誘導結合や容量結合などのプラズマ生成方式では実現困難な1Pa以下の低圧領域においても効率的かつ均一にプラズマを生成できることが特徴の一つである。ECRとは,電磁波発生源から導入される電磁波周波数と電磁コイルにより形成された磁場による電子のサイクロトロン周波数が一致したときに生じる共鳴現象である。
【0005】
プラズマは,ECRで加速した高エネルギーの電子がガス分子に衝突して電離して生成される。放電室内圧力が比較的低圧であれば,電子の平均自由行程が長いため,電子がECRで十分に加速してからガス分子と衝突電離し,ECRの条件を満たす等磁場面の近傍で効率的にプラズマが生成される。
【0006】
通常,ECRの条件を満たす等磁場面は放電室内に面状に広がるため,プラズマが生成される領域は放電室内で面状あるいはリング状に広がりを持つ。したがって,比較的均一なプラズマ処理が実現できる。しかし,放電室内圧力が高くなれば,電子の平均自由行程が短いため,電磁波からエネルギーを受け取った電子は即座にガス分子と衝突して電離や解離をする。したがって,プラズマの生成領域はECRの条件を満たす等磁場面近傍ではなく,電磁波の入射するマイクロ波導入窓の直下かつ導波管の直下である放電室中心軸近傍に局在化することとなる。したがって,高圧条件下ではエッチングレートが中心高の分布となり,不均一となりやすい。
【0007】
放電室中心部へのプラズマ生成の局在化を抑制する先行技術として,例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1のECR方式を用いたプラズマ処理装置は、放電室と電磁波伝送部との間に配置されたマイクロ波導入窓と、マイクロ波導入窓の下部に配置された電磁波反射板および補助反射板を有している。電磁波反射板と補助反射板との間に形成されたリング状電磁波放射口から電磁波を放電室内に入射させ、ECR面にリング状プラズマを生起させることにより、試料を覆う均一なプラズマを形成し、均一性が高いプラズマ処理を実現している。
【0008】
また、特許文献2は磁場を用いずにマイクロ波のみでプラズマを生成する方式のプラズマ処理装置に関する。マイクロ波の伝搬する導波管と、処理容器内に導入されるマイクロ波導入窓と、導波管とマイクロ波導入窓との間に配置された円環状のリングスロットと、マイクロ波導入窓の処理容器側に配置され、マイクロ波導入窓を透過したマイクロ波の電界を遮蔽する遮蔽板とを備える。遮蔽板を設けたことで、処理容器内中央部のプラズマ密度を低減し、試料面内のプラズマ処理の不均一を低減している。
【0009】
また、特許文献3には処理室内の第一のプラズマに加えて、マイクロ波導入窓内の空間の中央部に第二のプラズマを形成する方法が示されている。第二のプラズマ密度をカットオフ密度以上にすることで第二のプラズマが電磁波反射板のような役割を持つ。また、第二のプラズマを生成しなければ電磁波を透過する機能を持つ。したがって、第二のプラズマ密度を調節することにより、多様な条件でプラズマ処理の不均一を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平9-148097号公報
【文献】特開2013-211270号公報
【文献】特開2019-110028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
マイクロ波ECRプラズマエッチング装置において、0.1Pa~数十Paの広範な圧力領域でエッチングレートなどのプラズマ処理の特性のウエハ面内分布均一化は困難である。特に数Pa以上の高圧領域においては、その実現が困難であった。
【0012】
高圧時にプラズマ処理の均一化が難しい理由として、プラズマ生成の局在化と等方的な拡散が優位になることが挙げられる。放電室内圧力が高くなれば,電子の平均自由行程が短くなるため,電磁波からエネルギーを受け取った電子は即座にガス分子と衝突して電離や解離をする。したがって,プラズマの生成領域は電磁波の入射するマイクロ波導入窓の直下かつ導波管の直下である放電室中心軸近傍に局在化する。
【0013】
また、圧力が高くなると、荷電粒子とガス分子との衝突が増加し、等方性の拡散が支配的になっていく。更に、荷電粒子は処理室内の壁面に衝突すると消失するため、等方的な拡散が優位となるとプラズマ密度は壁面より遠い箇所、すなわち放電室中心部にて高くなる。すなわち、ウエハ面内のイオンフラックスは外周部よりも中心部の方が高い凸分布となり、その均一化は困難となる。このような不均一を改善する方法として以下の先行文献があるが、それぞれについて課題がある。
【0014】
特許文献1記載の方法ではマイクロ波導入窓のプラズマ処理室側に電磁波遮蔽板が設置される構成である。本手法では電磁波遮蔽板が高密度プラズマの近傍にあることからスパッタリングによる金属汚染の発生リスクが高い。また、本文献記載のようなマイクロ波導入窓の下部に電磁波遮蔽板の設置方法が非常に困難であり、その実現方法についての記載はない。
【0015】
例えば、電磁波遮蔽板をマイクロ波導入窓の下に固定する方法として、接着剤やネジで固定する方法が考えられる。接着剤を用いた場合、接着剤が処理室内のラジカルやイオンにより反応して反応生成物が発生し、被処理基板に入射し、意図しない不具合が発生するリスクが高い。また、誘電体と電磁波遮蔽板の熱膨張差により接着剤はがれなどのリスクがある。また、ネジを使った方法では取付けや取外しの際に物理的にネジとネジ穴が擦られるため、誘電体窓が削られて異物が発生するリスクがある。
【0016】
特許文献2記載の方法は磁場を利用しないプラズマ処理装置に関して、円環状のリングスロットからマイクロ波が導入される構成である。本文献記載の方法は磁場を用いない方式であり、磁場を有する方式での検討がなされていない。本発明者らの検討によると、有磁場方式のプラズマ処理装置に単純にリングスロット方式を採用しても、マイクロ波導入窓の中心部にマイクロ波が回り込み、更にプラズマ処理室の中心部において選択的にマイクロ波電力が吸収されてプラズマ分布が局在化することがわかった。これは、プラズマ中の電磁波の分散関係が磁場の有無で大きく異なることに起因すると考えられる。すなわち、磁場を有する方式特有の検討がなされねばならない。
【0017】
特許文献3記載の方法ではカットオフ密度以上となった第二のプラズマを電磁波遮蔽板のように用いる。しかし、第二のプラズマの生成にマイクロ波電力が吸収されてしまい、第一のプラズマの効率的生成が困難であった。また、第二のプラズマの生成により、石英窓が削れてしまい、第二のプラズマの生成領域が経時的に拡大することから、第二のプラズマ密度分布が経時的に変化し、結果としてプラズマ処理の特性が経時的に変化してしまうという問題があった。
【0018】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、ECRプラズマ処理装置において広範な圧力領域において、高均一なプラズマ処理が実現できるプラズマ処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記した課題を解決するために、本発明では、試料がプラズマ処理される処理室と、導波管および空洞共振部を介してマイクロ波の高周波電力を供給する高周波電源と、処理室内に磁場を形成する磁場形成手段とを備えるプラズマ処理装置において、空洞共振部内に配置されたリング状の電磁波導入手段をさらに備えて構成した。
【発明の効果】
【0020】
ECRプラズマ処理装置において広範な圧力領域において、高均一なプラズマ処理が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第一の実施例に係るエッチング装置の概略の構成を示す断面のブロック図である。
図2】本発明の第一の実施例に係る空洞部の拡大断面図である。
図3】本発明の第一の実施例に係るプラズマ密度分布の計算結果を表形式に示した図である。
図4】本発明の第二の実施例に係るエッチング装置の概略の構成を示す断面のブロック図である。
図5】本発明の第二の実施例に係るリング窓の拡大断面図である。
図6】本発明の第二の実施例に係るプラズマ密度分布の計算結果を示す図である。
図7】本発明の第三の実施例に係る空洞部周辺の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、同軸状にマイクロ波が導入され、空洞共振部を有するマイクロ波プラズマ処理装置において、前記空洞共振部内にて内側導体板と外側導体板を有し、処理室内の圧力に基づいてマイクロ波電力を制御して、プラズマ密度分布を制御するようにしたものである。
【0023】
また、上記構成において、内側導体板と外側導体板と、それらを一体化する手段によって構成される電磁波導入手段と、前記電磁波導入手段を可動させる機構を有し、処理室内の圧力に基づいて前記電磁波導入手段が可動することにより、プラズマ密度分布を制御するようにしたものである。
【0024】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。
【0025】
ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例1】
【0026】
本発明の第一の実施例に係るプラズマ処理装置の例として、エッチング装置の場合について説明する。図1に本発明の第一の実施例に係るエッチング装置100の断面における概略の構成を示す。
【0027】
本実施例に係るエッチング装置100は、真空チャンバ40を有し、真空チャンバ40の内部に内筒16を備えている。真空チャンバ40の上部は空洞室41を構成し、空洞室41には、マイクロ波源1で発生させたマイクロ波を、方形導波管2、アイソレータ3、自動整合器4、円矩形変換器5、円形導波管6を介して空洞室41の内部の空洞部7に供給する構成となっている。
【0028】
空洞部7には、マイクロ波を反射するための内側導体板8と外側導体板9がマイクロ波導入窓10の上側に配置され、マイクロ波導入窓10の下側には少し間隔をおいて複数のガス供給孔42が形成されたシャワープレート11が配置されている。内側導体板8の中心とシャワープレート11の中心には、それぞれプラズマ発光モニタ用の微小な貫通孔32と33が形成されている。マイクロ波導入窓10とシャワープレート11との間の空間には、ガス供給手段17からガスが供給される。
【0029】
空洞室41の周囲及び上部には複数の電磁コイル13が空洞室41の中心と同軸上に配置され、電磁コイル13の外側はヨーク14で覆われている。複数の電磁コイル13はコイル電源43と接続している。
【0030】
真空チャンバ40の内部には、被処理基板18を搭載する基板ステージ兼高周波電極19が絶縁板20を介して配置されている。絶縁板20は、図示していない手段により、真空チャンバ40に支持されている。また、真空チャンバ40はコンダクタンス調整バルブ21を介して、ターボ分子ポンプ22に接続している。さらに、基板ステージ兼高周波電極19は、自動整合器23を介してバイアス電源24に接続している。
【0031】
真空チャンバ40の内部で基板ステージ兼高周波電極19の上部から内筒16の内部のシャワープレート11にかけて、プラズマ処理室12を形成する。
【0032】
空洞室41及び円矩形変換器5には、プラズマ処理室12において発生したプラズマ15の発光をモニタリングするために、受光部29が取り付けられている。プラズマ処理室12で発生したプラズマの発光により、シャワープレート11に形成されたガス供給孔42のうち中心部から離れ位置に形成されたガス供給孔42を通り内側導体板8と外側導体板9との間を通過した光を、空洞室41の上面に取り付けた受光部29-1で検出する。
【0033】
一方、シャワープレート11の中央部に形成された微小な貫通孔33と内側導体板8に中央部に形成された微小な貫通孔32を透過した光を、円矩形変換器5に取り付けた受光部29-2で検出する。受光部29-1と29-2とで検出して得られたそれぞれの信号は、光ファイバ30を介して発光分光器31に送られる。受光部29-1と29-2、光ファイバ30と発光分光器31とで、発光検出部35を構成する。なお、言うまでもなく、シャワープレート11の材料として、透明石英のように光を透過する材料を用いた場合は、必ずしも微小な貫通孔33は必要ではない。また、このとき、シャワープレート11のガス供給孔42を介して光を透過させる必要もない。
【0034】
マイクロ波源1、ガス供給手段17、ターボ分子ポンプ22、バイアス電源24、発光分光器31は、それぞれ制御部50に接続されて制御される。
【0035】
上記した構成において、エッチング装置100には、制御部50で制御されたマイクロ波源1からマイクロ波が発振され、方形導波管2とアイソレータ3と自動整合器4と円矩形変換器5を介して円形導波管6に伝送される。本実施例では工業的によく用いられる2.45GHzのマイクロ波を使用する。アイソレータ3は反射波からマイクロ波源1を保護するために用い、自動整合器4は負荷インピーダンスを調整し、反射波を抑制して効率的に電磁波を供給するために用いる。
【0036】
円形導波管6より導入されたマイクロ波は空洞室41の内部の空洞部7に伝搬する。空洞部7を囲む空洞室41の内壁面は金属で形成されており、マイクロ波導入窓10の上側に配置された内側導体板8と外側導体板9とにより空洞部7は周囲を導体で囲まれることになり、空洞共振器が構成される。
【0037】
この空洞共振器内のマイクロ波の一部は、内側導体板8と外側導体板9との間の開口部を介して、マイクロ波導入窓10とシャワープレート11を透過してプラズマ処理室12に導入される。内側導体板8と外側導体板9は軸対称なマイクロ波伝搬を実現させるために軸対称形状であることが望ましい。本実施例では内側導体板8は円板であり、外側導体板9は内側導体板8の外径よりも大きな開口部を有した円環状の板である。
【0038】
プラズマ処理室12から空洞室41にかけての周囲に配置された複数の電磁コイル13に制御部50で制御されたコイル電源43から電流を供給することにより、プラズマ処理室12内でECRに必要な磁束密度を満たすように静磁界を形成する。ヨーク14は装置外部への磁場の漏洩を防ぐ磁気シールドの役割を持つ。
【0039】
電磁コイル13とヨーク14で形成される磁力線はプラズマ処理室12の上方から下方に向かって外周方向に広がる拡散磁場となる。2.45GHzのマイクロ波の場合、ECRに必要な磁束密度は875Gである。制御部50で制御されたコイル電源43から複数の電磁コイル13に印加する電力により静磁界分布を調整して、875Gの等磁場面(ECR面)をプラズマ処理室12の内部に入るように調整することで、プラズマ15が効率的に生成される。
【0040】
真空チャンバ40のプラズマ処理室12に対応する部分の側壁には、真空チャンバ40の側壁をプラズマから保護するために、内筒16が設置されている。プラズマ15の近傍に位置する内筒16は、プラズマ耐性の高い材料として石英を用いる。あるいはプラズマ耐性が高い材料として、イットリア、アルミナ、フッ化イットリウム、フッ化アルミニウム、窒化アルミニウムなどを用いても良い。
【0041】
マイクロ波導入窓10及びシャワープレート11の材料としては、マイクロ波を透過する材料として石英を用いる。あるいはマイクロ波を透過する材料であれば他の誘電体材料を用いても良い。あるいはプラズマ耐性が高い材料として、イットリア、アルミナ、フッ化イットリウム、フッ化アルミニウム、窒化アルミニウムなどを用いても良い。
【0042】
マイクロ波導入窓10とシャワープレート11の間には、制御部50で制御されたガス供給手段17からガスが供給される。ガス供給手段17には図示していないマスフローコントローラによって所望の流量で供給する機能が含まれている。また、ガス供給手段17から供給するガス種は被処理基板18に形成された被処理膜等に応じて適宜選択され、複数のガス種を所定の流量で組み合わせて供給することができる。シャワープレート11にはガス供給孔42が複数設けられており、ガス供給手段17によりマイクロ波導入窓10とシャワープレート11の間に供給されたガスは、ガス供給孔42を介してプラズマ処理室12に供給される。供給されたガスはコンダクタンス調整バルブ21を介してターボ分子ポンプ22により真空排気される。
【0043】
プラズマ処理室12の下部には被処理基板18を載置する基板ステージ兼高周波電極19とその下部には絶縁板20が備えられており、基板ステージ兼高周波電極19にはバイアス電力を供給するために自動整合器23を介してバイアス電源24が接続されている。バイアス電源24は、制御部50で制御される。本実施例ではバイアス電源の周波数として400kHzのものを用いた。基板ステージ兼高周波電極19には図示しない被処理基板18の吸着機構と温調手段が備えられており、所望のエッチングができるように必要に応じて被処理基板18の温度が調節される。
【0044】
エッチング処理は、電磁コイル13によって形成される磁場と、マイクロ波源1から供給したマイクロ波によってプラズマ処理室12に導入されるガスをプラズマ化し、そこで生成したイオンやラジカルを被処理基板に照射してなされる。
【0045】
次に、空洞室41の内部の空洞部7の拡大図を図2に示す。内側導体板8はマイクロ波導入窓10上部の中央部に、外側導体板9は外周部に設置され、円形導波管6と空洞室41、マイクロ波導入窓10及び内側導体板8と外側導体板9は、中心軸を共有して軸対称に配置されている。内側導体板8の位置がこの中心軸からずれるとマイクロ波の軸対称な導入が難しくなり、プラズマ処理の均一性に影響を及ぼす。このため、位置ずれ抑制のために、マイクロ波導入窓10には内側導体板8をはめこむための段差部が形成されている。あるいは段差部を形成せずに、すべりによる位置ずれ抑制のため、内側導体板8とマイクロ波導入窓10間にゴムシートを設置しても良い。あるいは内側導体板8とマイクロ波導入窓10を接着する手段を用いても良い。
【0046】
外側導体板9は前記と同様の理由によりマイクロ波導入窓10の段差部にはめこまれて設置される。あるいは空洞室41の側壁面にはめ込む形で設置されても良い。また、外側導体板9の外周面と空洞室41の側壁面とは必ずしも接触している必要はなく、マイクロ波を透過しない範囲でわずかな隙間があっても良い。
【0047】
図2において、D1は内側導体板8の外径、D2は円形導波管6の内径、W1は外側導体板9と内側導体板8間で形成される開口部の幅(内側導体板8の外径と外側導体板9の内径との差の半分)を表す。
【0048】
「発明が解決しようとする課題」の欄において記載したように、プラズマ処理室12内の圧力が高い場合、マイクロ波がプラズマ処理室12の中心軸に沿って入射すると、プラズマ生成の局在化につながる要因となる。一見すると、マイクロ波の処理室中心軸への直接的入射を抑制するためには外側導体板9は必要なく、中心軸上に内側導体板8を設置するだけで良いように思われる。しかし、この構成ではマイクロ波導入窓10内にてマイクロ波が中心部に回り込み、高圧時のプラズマの局在化の抑制が難しいことがわかった。
【0049】
本発明者らの検討の結果、高圧時におけるプラズマの中心軸への局在化抑制のためには、空洞部7内に内側導体板8と外側導体板9を設置し、更に、D1、D2、W1のパラメータを以下の式(1)及び(2)を満足する範囲で選択する必要があることがわかった。ここでλはマイクロ波の波長を表し、マイクロ波電力の周波数が2.45GHzの場合、約120mmである。なお、本実施例では、D2はTE11モードのマイクロ波を伝送できる直径として90mmとした。
【0050】
【数1】
【0051】
【数2】
【0052】
ここで、数1に示すように、導波管6の内径(D2)は、導体8の外径(D1)より小さくなるように設定する。
【0053】
また、数2に示すように、リング状の導体9の内径から導体8の外径を減じた値を2倍した値(2W1)は、マイクロ波の波長(λ)より大きく、かつ、マイクロ波の波長(λ)を3倍した値より小さい値に設定する。
【0054】
図3はプラズマ処理室12内部のプラズマ密度分布について、マイクロ波とプラズマ処理室12内部の圧力を変えて計算した結果を示す。プラズマ処理室12内部の圧力を低圧(0.4Pa):301と高圧(4Pa):302ごとに、マイクロ波の電力を低:303、中:304、高:305に切り替えたときの、プラズマ密度分布を示す。内側導体板8と外側導体板9の寸法は式(1)、(2)を満たす範囲で設定し、D1は120mm、D2は90mm、W1は100mmとした。プラズマ密度は、マイクロ波の電磁界モデルとドリフト-拡散モデルの連成計算により見積もった。実際のプラズマ処理では複数種のガスが使われるが、簡単のためにArガスの場合のみ考慮した。
【0055】
図3から、プラズマ処理室12内部の圧力が低圧:301の0.4Paに設定した時にマイクロ波電力を低:303から中:304、または中:304から高:305に増加させると、プラズマ密度分布311乃至313が径方向外側に広がることがわかる。すなわち、マイクロ波源1から供給するマイクロ波を調整することにより、プラズマ処理室12の内部におけるプラズマの径方向の密度分布を調整することができる。
【0056】
また、プラズマ処理室12内部の圧力を4Paの高圧:302に設定した時には、マイクロ波を低:303から中:304、または中:304から高:305に増加させると、プラズマ密度分布321乃至323がリング状に広がっていることがわかる。被処理基板18に向かうにつれてプラズマが拡散していくためにコンター図下部に向かうにつれて径方向に均一なプラズマ分布が得られる。このようなプラズマの分布の傾向は、数十Pa程度の高圧まで得られる。
【0057】
制御部50は、受光部29-1と29-2とで検出したそれぞれの信号を受けて発光分光器31で構成される発光検出部35により得られたプラズマの発光強度の径方向分布情報及びプラズマ処理室12の内部の圧力の情報(プロセスレシピに基づく設定圧力の情報、又は、図示していない圧力計で計測して得た圧力情報)に基づき、マイクロ波源1から供給するマイクロ波電力、電磁コイル13による外部磁場を調整し、所望のプラズマの径方向密度分布が得られるように調整する。
【0058】
あるいは、被処理基板18の被処理膜の表面の反射光と裏面の反射光による干渉光をモニタリングして被処理膜の膜厚分布をモニタリングしても良い。計測した膜厚分布に基づき、マイクロ波電力、外部磁場を調整し、被処理膜が所望の膜厚分布が得られるようにプラズマ処理をしても良い。本実施例では発光を計測する箇所が2か所の場合について説明したが、これに限られることはなく、必要に応じて計測箇所を増やしても良い。
【0059】
本実施例によれば、0.1Pa程度の低圧から数十Pa程度の高圧までの広範な圧力領域において、ウエハ面内で均一なプラズマ処理を実現することができる。
【実施例2】
【0060】
次に第二の実施例に係るエッチング装置200の構成を図4に示す。第一の実施例で説明したエッチング装置100と異なる点は、第二の実施例におけるエッチング装置200では、内側導体板8-1と外側導体板9-1とを誘電体25-1で接続して一体化し、それらを空洞室41の内部の空洞部7で上下動させる可動機構26がシリンダ28を介して外側導体板9-1に接続された点である。以後、内側導体板8-1と外側導体板9-1と誘電体25-1を総称してリング窓27-1と呼ぶ。本実施例におけるエッチング装置200のうち、第一の実施例で説明したエッチング装置100と同じ構成には同じ番号を付して、説明を省略する。
【0061】
シリンダ28は空洞部7内のマイクロ波電界の軸対称性を確保するために、空洞室41の側壁近傍にあることが望ましい。また、可動機構26はステッピングモータやエアシリンダなど任意の駆動機構を選べばよい。本構成により、可動機構26によってリング窓27を上下させることにより、プラズマ処理室12へのマイクロ波の導入位置を調整することができる。
【0062】
図5(A)にリング窓27-1を拡大した図を示す。内側導体板8-1、外側導体板9-1、リング状の誘電体25-1にはそれぞれ図5(A)に示すような段差部が形成され、一体となっている。
【0063】
一方、図5(B)は図5(A)で説明したリング窓27-1とは別の構成を有するリング窓27-2を示している。リング窓27-2は、外側導体9-2の上に段差部を有する円板状の誘電体25-2が載り、誘電体25-2の上部に内側導体8-2が設置されている。
【0064】
内側導体板8-1と外側導体板9-1を誘電体25-1で一体化できる構成であれば、誘電体25-1の形は円形やリング状に限らなくても良い。また、内側導体板8-1、外側導体板9-1と誘電体25-1は段差部にはめ込む構成としたが、可動機構26でリング窓27が可動した際に位置がずれる場合があるので、接着剤やネジ等で固定しても良い。
【0065】
図6に本実施例における構成を用いたときのプラズマ密度分布の計算結果を示す。本計算は、プラズマ処理室12内部の圧力を0.4Paの低圧条件にて行った。図6(A)はリング窓27-1がマイクロ波導入窓10の上に設置された状態におけるプラズマ密度分布331であり、実施例1とほぼ同等の構成である。図6(B)は可動機構26により、リング窓27-1をマイクロ波導入窓10に対して上方に移動させた状態におけるプラズマ密度分布332である。
【0066】
被処理基板18に近い方(図6(A)及び(B)において下側の部分)において、図6(B)のプラズマ密度分布332は、図6(A)のプラズマ密度分布331に比べて、径方向外側に広がることがわかる。すなわち、リング窓27-1を上下させることにより、プラズマ密度の径方向分布を制御することができる。すなわち、第一の実施例に比べてより広範にプラズマ密度の径方向分布を調整でき、プラズマ処理に要求される均一性が得やすくなる。
【0067】
また、プラズマ処理室12内部の圧力を高圧に設定した場合には、実施例1の場合と同様に、マイクロ波を増加させると、プラズマ密度分布がリング状に広がり、被処理基板18に向かうにつれてプラズマが拡散していくために被処理基板18に近い領域で径方向に均一なプラズマ分布が得られる。このようなプラズマの分布の傾向は、数十Pa程度の高圧まで得られる。
【0068】
本実施例においても、プラズマ15の発光をモニタリングするために、円矩形変換器5及び空洞部7上方には受光部29-1と29-2とを備え、検出信号が光ファイバ30を介して発光分光器31に送られる。制御部51は、発光分光器31で得られたプラズマの発光強度の径方向分布の情報、及びプラズマ処理室12の内部の圧力の情報(プロセスレシピに基づく設定圧力の情報、又は、図示していない圧力計で計測して得た圧力情報)に基づき、マイクロ波源1から供給するマイクロ波電力、リング窓27-1の上下位置、電磁コイル13による外部磁場を調整し、所望のプラズマの径方向密度分布が得られるように調整する。
【0069】
あるいは、被処理基板18の被処理膜の表面の反射光と裏面の反射光による干渉光をモニタリングして被処理膜の膜厚分布をモニタリングしても良い。計測した膜厚分布に基づき、マイクロ波電力、リング窓27の上下位置、外部磁場を調整し、被処理膜が所望の膜厚分布が得られるようにプラズマ処理をしても良い。本実施例では発光を計測する箇所が2か所の場合について説明したが、これに限られることはなく、必要に応じて計測箇所を増やしても良い。
【0070】
本実施例によれば、広範にプラズマ密度の径方向分布を調整でき、広範な圧力領域において、より均一なプラズマ処理を実現することができる。
【実施例3】
【0071】
次に第三の実施例を図7に示す。図7は空洞室41とその周辺構造の拡大断面図である。本実施例において、内側導体板8-3と外側導体板9-3とを誘電体25-3で接続して一体化し、それらを空洞室41の内部の空洞部7で上下動させる可動機構26がシリンダ28を介して外側導体板9-3に接続されている構成は実施例2と同様であるが、内側導体板8-3と外側導体板9-3には無数の開口部44が形成されている点が異なる。
【0072】
内側導体板8-3と外側導体板9-3はマイクロ波を反射する必要があるため、開口部44を透過してマイクロ波が伝搬しないように、開口部44の開口径Dは、マイクロ波電力の波長に対して十分小さく設定される。例えば開口径Dは1mm以下であれば十分である。これにより、円形導波管6から空洞室41に供給されたマイクロ波電力は、内側導体板8-3と外側導体板9-3を透過することができないが、プラズマ15からの紫外光や可視光領域の光は開口部44を通すことができる。あるいは、マイクロ波を反射し、光を透過する目的を満たすならば、内側導体板8-3と外側導体板9-3はITO電極等の透明導電膜であっても良い。このとき、透明電極の厚みは、マイクロ波が透過しないような表皮深さ以上の厚みにする必要がある。
【0073】
プラズマ15の発光をモニタリングするために、円矩形変換器5及び空洞部7の上方には受光部29-1と29-2が設けられ、それぞれの検出信号が光ファイバ30を介して発光分光器31に送られる。発光分光器31で得られたプラズマの発光強度の径方向分布情報は、図示していない制御部に送られる。それ以降の処理は実施例2の場合と同様であって、プラズマ処理で用いるマイクロ波電力、リング窓27の上下位置、電磁コイル13による外部磁場を調整し、所望のプラズマの径方向密度分布が得られるように調整する。
【0074】
あるいは、被処理基板18の被処理膜の表面の反射光と裏面の反射光による干渉光をモニタリングして被処理膜の膜厚分布をモニタリングしても良い。計測した膜厚分布に基づき、マイクロ波電力、リング窓27の上下位置、外部磁場を調整し、被処理膜が所望の膜厚分布が得られるようにプラズマ処理をしても良い。本実施例では発光を計測する箇所が2か所しかないが、必要に応じて計測箇所を増やしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は,半導体ウエハ等の基板上の試料をエッチング等で処理するプラズマ処理装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 マイクロ波源
7 空洞部
8 内側導体板
9 外側導体板
10 マイクロ波導入窓
11 シャワープレート
12 プラズマ処理室
13 電磁コイル
14 ヨーク
17 ガス供給手段
18 被処理基板
19 基板ステージ兼高周波電極
20 絶縁板
22 ターボ分子ポンプ
24 バイアス電源
26 可動機構
27-1,27-2 リング窓
28・・・シリンダ
29-1,29-2 受光部
31 発光分光器
35 発光検出部
40 真空チャンバ
41 空洞室
50,51 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7