(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】非晶性エポキシ系繊維、繊維構造体および成形体
(51)【国際特許分類】
D01F 6/76 20060101AFI20231027BHJP
【FI】
D01F6/76 A
(21)【出願番号】P 2021574577
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 JP2021000302
(87)【国際公開番号】W WO2021153178
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2020014084
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】井上 由輝
(72)【発明者】
【氏名】津高 剛
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 了慶
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-005210(JP,A)
【文献】特開2014-114514(JP,A)
【文献】特開昭49-025219(JP,A)
【文献】米国特許第04207408(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96
9/00-9/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複屈折値が0.005以下であ
り、下記一般式で表される非晶性エポキシ系樹脂を含む、非晶性エポキシ系繊維。
【化1】
(式中、Xは二価フェノール残基であり、nは20以上である)
【請求項2】
請求項
1に記載の非晶性エポキシ系繊維であって、単繊維の平均繊維径が40μm以下である、非晶性エポキシ系繊維。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の非晶性エポキシ系繊維であって、100℃での乾熱収縮率が40%以下である、非晶性エポキシ系繊維。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の非晶性エポキシ系繊維を少なくとも一部に含む、繊維構造体。
【請求項5】
請求項
4に記載の繊維構造体であって、混繊糸、織編物、または不織布である、繊維構造体。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の非晶性エポキシ系繊維をマトリックスとして用いた成形体。
【請求項7】
請求項
6に記載の成形体の製造方法であって、請求項1~
3のいずれか一項に記載の非晶性エポキシ系繊維または請求項
4もしくは
5に記載の繊維構造体を、前記非晶性エポキシ系繊維を構成する非晶性エポキシ系樹脂のガラス転移温度以上で加熱して成形する、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、日本国で2020年1月30日に出願した特願2020-014084の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、非晶性エポキシ系繊維およびこの繊維を用いた繊維構造体に関し、さらにこの繊維を溶融させて得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0003】
非晶性エポキシ系樹脂は、様々な材料との接着性に優れている熱可塑性樹脂であり、比較的低温で成形することが可能であるため、様々な用途に用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1(米国特許第8,409,486号明細書)では、非晶性エポキシ系樹脂であるポリヒドロキシエーテルを溶融紡糸して得られる繊維材料を、バインダー繊維として補強繊維を固定させるために用いている。具体的には、特定の重量平均分子量およびガラス転移温度を有するポリヒドロキシエーテルからなる熱可塑性繊維材料により補強繊維を所定の配置で固定してプリフォームを形成し、プリフォーム中にマトリックス材料を注入後、硬化処理を行って熱可塑性繊維材料をマトリックス材料と架橋させることにより得られる複合材について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、特許文献1では、ポリヒドロキシエーテルからなる繊維材料をバインダー繊維として用いているに過ぎず、複合材のマトリックス樹脂には別途準備している熱硬化性樹脂を用いている。
【0007】
一方で、近年、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用いた複合材についても注目を集めている。そして、上述したように、非晶性エポキシ系樹脂は比較的低温で成形することが可能であるため、非晶性エポキシ系繊維を含む繊維構造体を、熱可塑性複合材のマトリックス樹脂を形成する材料として用いることができれば、補強繊維(例えば、炭素繊維など)との接着性の良好な複合材を容易に成形できることが期待される。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のポリヒドロキシエーテルからなる繊維材料では、寸法安定性に劣っており、このような繊維材料を溶融させて成形体を形成する場合、成形性に劣るという課題があった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、上記課題を解決するものであり、寸法安定性に優れた非晶性エポキシ系繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、非晶性エポキシ系樹脂を繊維化する際の紡糸条件や延伸条件を変更した場合に、得られる非晶性エポキシ系繊維の高温下における乾熱収縮率に差が生じることを見出した。そして、この乾熱収縮率の差は繊維の配向性が影響していることを見出し、さらに研究を行った結果、配向性を示す指標である複屈折値が特定の範囲内にある非晶性エポキシ系繊維は、高温下における乾熱収縮率を十分に抑制することができること、すなわち、寸法安定性に優れていることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
複屈折値が0.005以下(好ましくは0.004以下、より好ましくは0.003以下、さらに好ましくは0.002以下)である、非晶性エポキシ系繊維。
〔態様2〕
態様1に記載の非晶性エポキシ系繊維であって、下記一般式で表される非晶性エポキシ系樹脂を含む、非晶性エポキシ系繊維。
【化1】
(式中、Xは二価フェノール残基であり、nは20以上(好ましくは20~300、より好ましくは40~280、さらに好ましくは50~250)である)
〔態様3〕
態様1または2に記載の非晶性エポキシ系繊維であって、単繊維の平均繊維径が40μm以下(好ましくは38μm以下、より好ましくは35μm以下)である、非晶性エポキシ系繊維。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の非晶性エポキシ系繊維であって、100℃での乾熱収縮率が40%以下(好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下、特に好ましくは20%以下)である、非晶性エポキシ系繊維。
〔態様5〕
態様1~4のいずれか一態様に記載の非晶性エポキシ系繊維を少なくとも一部に含む、繊維構造体。
〔態様6〕
態様5に記載の繊維構造体であって、混繊糸、織編物、または不織布である、繊維構造体。
〔態様7〕
態様1~4のいずれか一態様に記載の非晶性エポキシ系繊維をマトリックスとして用いた成形体。
〔態様8〕
態様7に記載の成形体の製造方法であって、態様1~4のいずれか一態様に記載の非晶性エポキシ系繊維または態様5もしくは6に記載の繊維構造体を、前記非晶性エポキシ系繊維を構成する非晶性エポキシ系樹脂のガラス転移温度以上で加熱して成形する、成形体の製造方法。
【0012】
なお、請求の範囲および/または明細書に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の非晶性エポキシ系繊維は、複屈折値を特定の範囲に制御しているため、寸法安定性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(非晶性エポキシ系樹脂)
本発明の非晶性エポキシ系繊維は、非晶性エポキシ系樹脂で構成される。本発明で用いる非晶性エポキシ系樹脂とは、二価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、または二価フェノール化合物と二官能エポキシ化合物との重付加反応から得ることができる熱可塑性樹脂であってもよい。
【0015】
非晶性エポキシ系樹脂の原料となる二価フェノール化合物としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル)ベンゼン、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン[ビスフェノールS]等を挙げることができる。これらの二価フェノール化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、二価フェノール化合物としては、ビスフェノール類を用いることが好ましく、特に、ビスフェノールA、ビスフェノールFおよびビスフェノールSからなる群から選択される少なくとも1種の二価フェノール化合物を用いることがより好ましい。
【0016】
非晶性エポキシ系樹脂の原料となる二官能エポキシ化合物としては、上記の二価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応で得られるエポキシオリゴマー、例えば、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、メチルハイドロキノンジグリシジルエーテル、クロロハイドロキノンジグリシジルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルオキシドジグリシジルエーテル、2,6-ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、ジクロロビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらの二官能エポキシ化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。二官能エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の二官能エポキシ化合物を用いることがより好ましい。
【0017】
非晶性エポキシ系樹脂の製造は、無溶媒下または反応溶媒の存在下で行うことができ、用いる反応溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトフェノン、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、スルホラン等を好適に使用することができる。また、溶媒反応で得られた非晶性エポキシ系樹脂は、蒸発器等を用いた脱溶媒処理をすることにより、溶媒を含まない固形状の樹脂とすることができる。
【0018】
非晶性エポキシ系樹脂の製造では、従来公知の重合触媒を使用することができ、例えば、アルカリ金属水酸化物、第三級アミン化合物、第四級アンモニウム化合物、第三級ホスフィン化合物、第四級ホスホニウム化合物等を好適に使用することができる。
【0019】
本発明の非晶性エポキシ系繊維は、下記式で表される非晶性エポキシ系樹脂を含んでいてもよい。
【0020】
【0021】
式中、Xは二価フェノール残基、nは20以上であってもよい。二価フェノール残基は、上記二価フェノール化合物に由来する化学構造であってもよく、1種または2種以上の化学構造を含んでいてもよい。例えば、Xは、ビスフェノールA、ビスフェノールFおよびビスフェノールSからなる群から選択される少なくとも1種の二価フェノール化合物に由来する化学構造を有していてもよい。nは、平均重合度を表し、例えば、20~300の範囲であってもよく、好ましくは40~280、より好ましくは50~250の範囲であってもよい。
【0022】
また、非晶性エポキシ系樹脂は、末端に水酸基(例えば、フェノール性水酸基)、エポキシ基等の官能基を有していてもよい。
【0023】
なお、本発明において、「非晶性」であることは、サンプルを示差走査型熱量計(DSC)において、窒素中、10℃/分の速度で昇温した際の、吸熱ピークの有無で確認することができる。吸熱ピークが非常にブロードであり明確に吸熱ピークを判断できない場合は、実使用においても問題ないレベルであるので、実質的に非晶性と判断してもよい。
【0024】
非晶性エポキシ系樹脂の重量平均分子量は、紡糸性向上の観点から、10,000~100,000の範囲であってもよく、好ましくは20,000~90,000、より好ましくは30,000~80,000であってもよい。なお、非晶性エポキシ系樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値を示す。
【0025】
非晶性エポキシ系樹脂のガラス転移温度(以下、Tgと称することがある)は、非晶性エポキシ系繊維の成形性の観点から、100℃以下であってもよく、好ましくは98℃以下、より好ましくは95℃以下であってもよい。非晶性エポキシ系樹脂のガラス転移温度の下限について特に制限はないが、得られる繊維の耐熱性の観点から、例えば、30℃以上であってもよく、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であってもよい。なお、非晶性エポキシ系樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定される。
【0026】
非晶性エポキシ系樹脂は、例えば、300℃、せん断速度1000sec-1での溶融粘度が600~4000poiseであってもよく、好ましくは700~3000poise、より好ましくは800~2000poiseであってもよい。
【0027】
本発明の非晶性エポキシ系繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、非晶性エポキシ系樹脂以外の成分を含んでいてもよく、このような非晶性エポキシ系樹脂以外の成分としては、例えば、酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、ラジカル抑制剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、染料、顔料、非晶性エポキシ系樹脂以外のポリマー等が挙げられる。
【0028】
本発明の非晶性エポキシ系繊維は、非晶性エポキシ系樹脂を50重量%以上含有していてもよく、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上、さらにより好ましくは99.5重量%以上含有していてもよい。
【0029】
(非晶性エポキシ系繊維)
本発明の非晶性エポキシ系繊維は、複屈折値が0.005以下である。ここで、複屈折値は、非晶性エポキシ系樹脂の分子配向状態を示す指標であり、複屈折値が小さいほど、繊維軸方向に対する分子の配向性が低いことを表す。本発明の非晶性エポキシ系繊維は、特定の複屈折値を有しているため、高温下における収縮性を低減することができる。非晶性エポキシ系繊維の複屈折値は、好ましくは0.004以下、より好ましくは0.003以下、さらに好ましくは0.002以下であってもよい。また、複屈折値の下限は特に限定されないが、例えば、0.0001程度であってもよい。なお、複屈折値は、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0030】
本発明の非晶性エポキシ系繊維は、単繊維の平均繊維径を用途等に応じて適宜調整することができ、単繊維の平均繊維径が40μm以下であってもよく、好ましくは38μm以下、より好ましくは35μm以下であってもよい。例えば、非晶性エポキシ系繊維を複合材のマトリックス樹脂を形成する材料として用いる場合、単繊維の平均繊維径が上記範囲にあることにより、補強繊維とよく混合させることが可能となる。また、単繊維の平均繊維径の下限値は、特定の複屈折値を有する限り特に限定されないが、例えば、5μm以上であってもよく、好ましくは12μm以上、より好ましくは15μm以上であってもよい。なお、繊維断面形状が真円でない場合には、単繊維の平均繊維径は、繊維断面形状の外接円径により測定される値であってもよい。
【0031】
本発明の非晶性エポキシ系繊維は、そのフィラメント本数は用途等に応じて適宜調整することができ、モノフィラメントであってもよく、マルチフィラメントであってもよい。マルチフィラメントの場合、例えば、フィラメント本数は5~3000本であってもよく、好ましくは10~2000本、より好ましくは30~1500本、さらに好ましくは50~500本であってもよい。
【0032】
本発明の非晶性エポキシ系繊維は、総繊度を用途等により適宜調整することができ、例えば、1~10000dtexであってもよく、好ましくは10~5000dtex、より好ましくは50~3000dtex、さらに好ましくは100~1500dtexであってもよい。
【0033】
本発明の非晶性エポキシ系繊維は、特定の複屈折値を有しているため、100℃での乾熱収縮率を低減することができる。例えば、100℃における乾熱収縮率が40%以下であってもよく、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下、特に好ましくは20%以下であってもよい。乾熱収縮率の下限は特に限定されず、0%であるのが好ましいが、例えば、1%程度であってもよい。このように、本発明の非晶性エポキシ系繊維は、寸法安定性に優れているため、成形性に優れる。また、本発明の非晶性エポキシ系繊維は、非晶性エポキシ系樹脂で構成されるため、比較的低温での成形が可能であり、低温成形性にも優れる。なお、この乾熱収縮率は、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0034】
(非晶性エポキシ系繊維の製造方法)
本発明の非晶性エポキシ系繊維の製造方法は、非晶性エポキシ系樹脂を溶融紡糸する紡糸工程を含んでいてもよく、紡糸工程における紡糸条件(特に、紡糸温度および紡糸速度)を調整することにより、紡糸時に溶融ポリマーにかかるせん断応力を低下させ、特定の複屈折値を満たす非晶性エポキシ系繊維を得ることができる。
【0035】
非晶性エポキシ系樹脂の溶融紡糸に際しては、公知の溶融紡糸装置を用いることができる。例えば、溶融押出し機で非晶性エポキシ系樹脂のペレットを溶融混練し、溶融ポリマーを紡糸筒に導く。そして、溶融ポリマーをギヤポンプで計量し、紡糸ノズルから所定の量を吐出させ、得られた糸条を、巻き取ることによって、本発明の非晶性エポキシ系繊維を製造することができる。なお、溶融紡糸後巻き取られた糸条は、延伸せずにそのまま使用することが可能である。
【0036】
紡糸工程では、紡糸温度における溶融粘度を低下させることにより、溶融ポリマーにかかるせん断応力を低下させることができるため、繊維の配向性を抑制させることができる。例えば、紡糸温度におけるせん断速度1000sec-1での溶融粘度が600~4000poiseになるように紡糸温度を調整してもよく、好ましくは700~3000poise、より好ましくは800~2000poiseであってもよい。紡糸温度を高くすることにより非晶性エポキシ系樹脂の溶融粘度を低下させることができるが、非晶性エポキシ系樹脂の種類に応じて紡糸温度は適宜設定することが可能であり、例えば、紡糸温度は、250~330℃であってもよく、好ましくは260~320℃、より好ましくは280~315℃であってもよい。
【0037】
紡糸口金における紡糸孔(単孔)の大きさは、所望の繊維径に応じて適宜設定可能であるが、例えば、0.02~1mm2程度、好ましくは0.03~0.5mm2程度、より好ましくは0.03~0.15mm2程度であってもよい。なお、紡糸孔の形状は、必要な繊維断面形状に応じて適宜選択することができるが、真円形状であることが好ましい。
【0038】
紡糸ノズルからの吐出速度は、紡糸温度における溶融ポリマーの粘度や、ノズルの孔径、吐出量に応じて、適宜設定可能であるが、比較的低くすることにより、ノズル内で溶融ポリマーにかかるせん断応力を低下させることができる。例えば、吐出速度は、2.54m/分~42.4m/分の範囲であってもよく、好ましくは4.24m/分~33.9m/分、より好ましくは4.24m/分~25.4m/分であってもよい。
【0039】
その際の紡糸速度(巻取速度)は、紡糸温度における溶融ポリマーの粘度や、ノズルの孔径、吐出量に応じて、適宜設定することが可能であるが、比較的低くすることにより、繊維の配向性を低下させることができる。例えば、100m/分~2000m/分の範囲で引き取ることが好ましく、より好ましくは100m/分~1500m/分、さらに好ましくは100m/分~1000m/分、特に好ましくは100m/分~750m/分、最も好ましくは100m/分~500m/分であってもよい。また、吐出速度と巻取速度との比(ドラフト;巻取速度/吐出速度)は、繊維の配向性を調整する観点から、例えば、2~300の範囲であってもよく、好ましくは5~200、より好ましくは10~100、さらに好ましくは15~50の範囲であってもよい。
【0040】
また、本発明における非晶性エポキシ系繊維の製造方法では、溶融紡糸後得られた繊維を延伸せずにそのまま未延伸糸として使用してもよく、また、非晶性エポキシ系繊維が特定の複屈折値を有する限り、紡糸工程により得られた繊維に対して、例えば、繊維径を調整する観点から、延伸する延伸工程を含んでいてもよい。高温下における収縮性を低減する観点からは、未延伸糸として使用することが好ましい。
延伸工程を含む場合には、非晶性エポキシ系繊維の複屈折値を調整する観点から、未延伸糸の複屈折値が0.0045以下であることが好ましく、より好ましくは0.0035以下、さらに好ましくは0.0025以下、特に好ましくは0.0015以下であってもよい。延伸温度は、非晶性エポキシ系樹脂のガラス転移温度(Tg)を基準として、Tg-30℃以上Tg+20℃以下であることが好ましい。また、非晶性エポキシ系繊維の複屈折値を調整する観点から、紡糸ノズルから吐出された糸条に対して、延伸倍率を限りなく低く(例えば、延伸倍率1.01~1.3程度、好ましくは延伸倍率1.01~1.2程度)設定して延伸するのが好ましいが、繊維径の調整との両立を考慮して、延伸温度に応じて延伸倍率を設定してもよい。例えば、延伸温度がTg-30℃以上Tg-20℃未満の時は、延伸倍率が1.01~1.2であることが好ましく、Tg-20℃以上Tg℃未満の時は、延伸倍率が1.01~1.4であることが好ましく、Tg℃以上Tg+20℃以下の時は、延伸倍率が1.01~1.7であることが好ましい。
【0041】
(繊維構造体)
本発明の非晶性エポキシ系繊維は、それを少なくとも一部に含む繊維構造体として使用することができる。非晶性エポキシ系繊維は、例えば、ステープルファイバー、ショートカットファイバー、フィラメントヤーン、紡績糸、紐状物、ロープなどのあらゆる繊維形態において用いることができる。また、非晶性エポキシ系繊維は、非複合繊維であってもよく、複合繊維であってもよい。
【0042】
本発明の繊維構造体は布帛であってもよい。布帛としては、本発明の非晶性エポキシ系繊維を用いている限り特にその形状は限定されず、布帛の形状としては、不織布(紙も含む)、織物、編物などの各種布帛が含まれる。このような布帛は、公知または慣用の方法により非晶性エポキシ系繊維を用いて製造することができる。
【0043】
本発明の繊維構造体は、本発明の効果を損なわない限り、非晶性エポキシ系繊維と他の繊維と組み合わせてもよい。例えば、非晶性エポキシ系繊維と他の繊維とを混繊した混繊糸を用いることができる。布帛としては、本発明による非晶性エポキシ系繊維を、例えば、主体繊維として含んでおり、その割合は、全体に対して50質量%以上、好ましくは、80質量%以上、特に、90質量%以上含んでいてもよい。このような布帛(特に紙や不織布)とすることによって、非晶性エポキシ系繊維の特性を生かした布帛を得ることができる。繊維構造体を複合材の製造に用いる場合、繊維構造体は、他の繊維として補強繊維を含む、混繊糸や混繊布帛であってもよい。
【0044】
非晶性エポキシ系繊維やそれを含む繊維構造体は、様々な形状において、産業資材分野、農業資材分野、土木資材分野、電気電子分野、光学材料分野、航空機・自動車・船舶分野などをはじめとして多くの用途に極めて有効に使用することができる。
【0045】
(成形体)
本発明の非晶性エポキシ系繊維は、それをマトリックスとして用いた成形体として使用することができる。本発明において、成形体は、非晶性エポキシ系繊維または繊維構造体を成形して得ることができるものであればよく、例えば、非晶性エポキシ系繊維または繊維構造体を成形した、補強繊維を含まない成形体であってもよく、非晶性エポキシ系繊維または繊維構造体を補強繊維とともに成形した、補強繊維を含む複合材であってもよい。
【0046】
本発明の成形体の製造方法は、前記非晶性エポキシ系繊維または繊維構造体を準備する工程と、非晶性エポキシ系樹脂のガラス転移温度以上で前記非晶性エポキシ系繊維または繊維構造体を加熱する加熱成形工程と、を少なくとも備えていてもよい。
【0047】
加熱成形方法については、非晶性エポキシ系繊維を溶融して一体化する限り特に制限はなく、一般的な成形体の成形方法を使用することができる。
【0048】
加熱成形工程では、非晶性エポキシ系樹脂のガラス転移温度以上で加熱することにより非晶性エポキシ系繊維を溶融して所望の形状に成形できる限り制限はなく、例えば、その加熱温度は、300℃以下であってもよく、好ましくは280℃以下であってもよい。また、非晶性エポキシ系繊維は比較的低温でも成形可能であるため、成形体の劣化を防ぐ観点から、加熱温度は、250℃以下であってもよく、好ましくは230℃以下であってもよい。
【0049】
成形体を加熱成形する際に、加圧下で成形してもよい。その圧力も特に制限はないが、通常は0.05N/mm2以上(例えば0.05~15N/mm2)の圧力で行われる。加熱成形する際の時間も特に制限はないが、長時間高温に曝すとポリマーが劣化してしまう可能性があるので、通常は30分以内であることが好ましい。
【0050】
なお、成形体の形状に特に制限は無く、用途に応じて適宜設定可能である。仕様の異なる布帛を複数枚積層したり、仕様の異なる布帛をある大きさの金型の中に別々に配置したりして、加熱成形することも可能である。場合によっては、他の補強繊維布帛や複合材と併せて成形することもできる。そして、目的に応じて、一度加熱成形して得られた成形体を、再度加熱成形することも可能である。
【0051】
本発明の成形体が補強繊維を含む複合材である場合、複合材の製造方法としては、繊維構造体と補強繊維布帛(例えば、補強繊維織物)等とを積層した積層体を加熱成形する製造方法や、補強繊維を含む繊維構造体を加熱成形する製造方法等が挙げられる。
【0052】
複合材に用いる補強繊維の種類は特に限定されないが、得られる複合材の機械的強度の観点から、ガラス繊維、炭素繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスイミダゾール繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール繊維、セラミック繊維、および金属繊維からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの補強繊維は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、力学物性を高める観点から、炭素繊維またはガラス繊維が好ましい。
【0053】
補強繊維布帛の形状は、特に限定されず、用途等に応じて適宜設定することができ、例えば、織物、ノンクリンプファブリック(NCF)、一方向引き揃え材(UD材)、編物、不織布等が挙げられる。
【0054】
本発明の成形体は、その密度が2.00g/cm3以下であることが好ましい。好ましくは1.95g/cm3以下、より好ましくは1.90g/cm3以下である。密度の下限値は、材料の選択などに応じて適宜決定されるが、例えば0.1g/cm3程度であってもよい。
【0055】
また、本発明の成形体は、その厚みが0.05mm以上(好ましくは0.1mm以上)であることが好ましい。より好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であってもよい。また、厚みの上限は、成形体に求められる厚みに応じて適宜設定することができるが、例えば10mm程度であってもよい。
【0056】
本発明の成形体は、特別な工程を必要とせず安価に製造できることから、例えば、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、デジタルビデオカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、玩具用品、電気、電子機器部品、その他家電製品などの筐体;内装部材、外装部材、支柱、パネル、補強材などの土木・建材用部品;乗り物(自動車、二輪車、船舶、航空機など)の各種メンバ、各種フレーム、各種ヒンジ、各種アーム、各種車軸、各種車輪用軸受、各種ビーム、各種ピラー、各種サポート、各種レール;インストルメントパネル、シートフレーム、ドアトリム、ピラートリム、ハンドル、各種モジュールなどの乗り物用内装部品;シャーシ、トレイ、外板、またはボディー部品、バンパー、モール、アンダーカバー、エンジンカバー、整流板、スポイラー、カウルルーバー、エアロパーツなどの乗り物用外装部品;モーター部品、CNGタンク、ガソリンタンク、燃料ポンプ、エアーインテーク、インテークマニホールド、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、各種配管、各種バルブなどの乗り物用燃料系、排気系、または吸気系部品;ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブなどのドローン・航空機用部品などとして、好適に用いられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何等限定されるものではない。なお、以下の実施例において、各種物性は下記の方法により測定したものを示す。
【0058】
[溶融粘度]
非晶性エポキシ系樹脂の溶融粘度は、株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ「1C PMD-C」を用い、300℃、せん断速度1000sec-1で測定した。
【0059】
[複屈折値]
ベレック型コンペンセーターを備え付けた、オリンパス株式会社製偏光顕微鏡「BX53」を用い、λ=546.1nm(e-line)の光源下で測定したレタデーションから複屈折値を下記式より算出した。なお、繊維の厚みは、繊維径を示す。
Δn=R/d
Δn:複屈折値、R:レタデーション(nm)、d:繊維の厚み(nm)
【0060】
[平均繊維径(μm)]
走査型電子顕微鏡(SEM)にて、所定の倍率で拡大撮影し、ランダムに選択した100本の繊維径を測定した値の平均値を平均繊維径とした。
【0061】
[寸法安定性評価]
寸法安定性は繊維の乾熱収縮率として評価した。10cmに切り出した繊維を、末端を固定しない状態で100℃に保たれた空気恒温槽中で30分間保持した後の繊維長(Xcm)から、次式を用いて算出した。
乾熱収縮率(%)={(10-X)/10}×100
【0062】
[成形性評価]
成形体のマトリックスとして非晶性エポキシ系繊維50wt%、補強繊維として13mmのカット長の炭素繊維(帝人株式会社製:平均繊維径7μm、比重1.8g/cm3)50wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付254g/m2の混合不織布(混抄紙)を得た。次いで、得られた不織布を260℃で3分間、3N/mm2の加圧下でプレス成形し、厚み1mmの複合材を得た。成形性は、複合材の外観(表面の荒れ、厚みムラ、収縮の有無、反りの有無)で、下記の基準で評価した。
◎:表面の荒れや厚みムラ、収縮、反りがない。
〇:表面の荒れ、厚みムラ、収縮、反りがわずかに見られる。
×:表面の荒れ、厚みムラ、収縮、反りが非常に大きい。
【0063】
[低温成形性評価]
成形体のマトリックスとして非晶性エポキシ系繊維55wt%、補強繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日本電気硝子製:平均繊維径10.5μm、比重2.5g/cm3)45wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付98g/m2の混合不織布(混抄紙)を得た。次いで、得られた不織布を200℃で1分間、3N/mm2の加圧下でプレス成形し、厚み1mmの複合材を得た。成形性は、複合材の外観(表面の荒れ、厚みムラ、収縮の有無、反りの有無)で、下記の基準で評価した。
◎:表面の荒れや厚みムラ、収縮、反りがない。
〇:表面の荒れ、厚みムラ、収縮、反りがわずかに見られる。
×:表面の荒れ、厚みムラ、収縮、反りが非常に大きい。
【0064】
[実施例1]
非晶性エポキシ系樹脂として、重量平均分子量が60000、ガラス転移温度が84℃、300℃での溶融粘度が890poiseであるビスフェノールA(BPA)型フェノキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、「YP-50s」)を使用した。この樹脂を2軸押出機にて溶融押出し、0.2mmΦ×100ホールの丸孔ノズルより紡糸温度300℃で吐出し、吐出速度を4.5m/分、巻取速度を167m/分、吐出速度と巻取速度との比(ドラフト)を37.1に調整して繊維を巻き取った。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0065】
[実施例2]
吐出速度を8.1m/分、巻取速度を300m/分、吐出速度と巻取速度との比(ドラフト)を37.0に調整した以外は実施例1と同様に繊維を得た。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0066】
[実施例3]
吐出速度を12.1m/分、巻取速度を450m/分、吐出速度と巻取速度との比(ドラフト)を37.2に調整した以外は実施例1と同様に繊維を得た。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0067】
[実施例4]
吐出速度を25.9m/分、巻取速度を1400m/分、吐出速度と巻取速度との比(ドラフト)を54.1に調整した以外は実施例1と同様に繊維を得た。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0068】
[実施例5]
吐出速度を9.0m/分、巻取速度を167m/分、吐出速度と巻取速度との比(ドラフト)を18.6に調整した以外は実施例1と同様に繊維を得た。さらにこの繊維を延伸温度100℃、延伸速度12m/分、延伸倍率1.5倍で延伸して延伸繊維を得た。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0069】
[実施例6]
延伸温度80℃、延伸速度12m/分、延伸倍率1.25倍とした以外は実施例5と同様に延伸繊維を得た。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0070】
[実施例7]
延伸温度60℃、延伸速度12m/分、延伸倍率1.05倍とした以外は実施例5と同様に延伸繊維を得た。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0071】
[比較例1]
吐出速度を9.0m/分、巻取速度を167m/分、吐出速度と巻取速度との比(ドラフト)を18.6に調整した以外は実施例1と同様に繊維を得た。さらにこの繊維を延伸温度100℃、延伸速度12m/分、延伸倍率1.75倍で延伸して延伸繊維を得た。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0072】
[比較例2]
延伸温度80℃、延伸速度12m/分、延伸倍率1.5倍で延伸した以外は比較例1と同様に延伸繊維を得た。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0073】
[比較例3]
延伸温度60℃、延伸速度12m/分、延伸倍率1.25倍で延伸した以外は比較例1と同様に延伸繊維を得た。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0074】
[比較例4]
実施例4で得られた繊維を延伸温度60℃、延伸速度12m/分、延伸倍率1.1倍で延伸して延伸繊維を得た。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0075】
[比較例5]
吐出速度を4.0m/分、巻取速度を1400m/分、吐出速度と巻取速度との比(ドラフト)を350に調整した以外は実施例1と同様に繊維を得た。得られた繊維の評価を行い、結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
表1に示すように、実施例1~4では、いずれも紡糸条件を調整することにより特定の複屈折値を有する非晶性エポキシ系繊維を得ることができ、また、実施例5~7では、紡糸条件ならびに延伸条件を調整することにより特定の複屈折値を有する非晶性エポキシ系繊維を得ることができ、寸法安定性に優れている。そのため、このような非晶性エポキシ系繊維は、それをマトリックスとして用いて成形した複合材の外観が良好であり、成形性に優れている。
【0078】
一方、比較例1~5では、得られた繊維は複屈折値を制御できていないため、寸法安定性が劣っている。そのため、得られた繊維をマトリックスとして用いて成形した複合材は、表面の荒れ、厚みムラおよび収縮が非常に大きく、得られた繊維は成形性に劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の非晶性エポキシ系繊維およびそれを含む繊維構造体は、各種用途において好適に利用することができ、さらに、非晶性エポキシ系繊維を溶融させてマトリックス化した成形体としても利用することができる。このような、非晶性エポキシ系繊維、繊維構造体および成形体は、一般産業資材分野、電気・電子分野、土木・建築分野、航空機・自動車・鉄道・船舶分野、農業資材分野、光学材料分野、医療材料分野等において、極めて有効に使用することができる。
【0080】
以上のとおり、本発明の好適な実施態様を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。