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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】ガリウム含有膜の成膜方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/365 20060101AFI20231027BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20231027BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
H01L21/365
H01L21/368 Z
C23C16/455
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022168063
(22)【出願日】2022-10-20
(62)【分割の表示】P 2021136607の分割
【原出願日】2018-12-18
(65)【公開番号】P2023011687
(43)【公開日】2023-01-24
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145388(JP,A)
【文献】特開2016-051824(JP,A)
【文献】特開2013-028480(JP,A)
【文献】特開2016-146442(JP,A)
【文献】特開2017-052855(JP,A)
【文献】特開2016-126988(JP,A)
【文献】特開2018-070422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/365
H01L 21/368
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料溶液を霧化又は液滴化して生成されたミストを、キャリアガスを用いて搬送し、成膜室内において前記ミストを加熱して、基体上で前記ミストを熱反応させて成膜を行うガリウム含有膜の成膜方法であって、
前記原料溶液として少なくとも塩酸とガリウムの錯体又は塩を含む原料溶液を用い、
前記成膜室内における前記基体を含む加熱面が鉛直方向に張る空間の体積をV(cm)としたときに、前記ミストを含む前記キャリアガスの流量Q(L/min)を、V/100以上、30V以下とすることを特徴とするガリウム含有膜の成膜方法。
【請求項2】
原料溶液を霧化又は液滴化して生成されたミストを、キャリアガスを用いて搬送し、前記ミストを加熱して、基体上で前記ミストを熱反応させて成膜を行うガリウム含有膜の成膜方法であって、
前記原料溶液として少なくとも塩酸とガリウムの錯体又は塩を含む原料溶液を用い、
前記ミストを加熱する時間を0.002秒以上6秒以下とすることを特徴とするガリウム含有膜の成膜方法。
【請求項3】
前記ミストを加熱する時間を0.02秒以上0.5秒以下とすることを特徴とする請求項2に記載のガリウム含有膜の成膜方法。
【請求項4】
前記ミストを加熱する時間を0.07秒以上0.3秒以下とすることを特徴とする請求項2又は3に記載のガリウム含有膜の成膜方法。
【請求項5】
前記原料溶液として少なくとも塩酸とガリウムのアセチルアセトナート錯体を含む原料溶液を用いることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のガリウム含有膜の成膜方法。
【請求項6】
前記ミストを熱反応させる前記基体の加熱温度を100℃以上600℃以下とすることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のガリウム含有膜の成膜方法。
【請求項7】
前記基体として、板状であり、成膜を行う面の面積が100mm以上のものを用いることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のガリウム含有膜の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミスト状の原料を用いて基体上に酸化ガリウム膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルスレーザー堆積法(Pulsed laser deposition:PLD)、分子線エピタキシー法(Molecular beam epitaxy:MBE)、スパッタリング法等の非平衡状態を実現できる高真空成膜装置が開発されており、これまでの融液法等では作製不可能であった酸化物半導体の作製が可能となってきた。また、霧化されたミスト状の原料を用いて、基板上に結晶成長させるミスト化学気相成長法(Mist Chemical Vapor Deposition:Mist CVD。以下、「ミストCVD法」ともいう。)が開発され、コランダム構造を有する酸化ガリウム(α-酸化ガリウム、α-Gaと表記することもある。)の作製が可能となってきた。α-酸化ガリウムは、バンドギャップの大きな半導体として、高耐圧、低損失及び高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子への応用が期待されている。
【0003】
ミストCVD法に関して、特許文献1には、管状炉型のミストCVD装置が記載されている。特許文献2には、ファインチャネル型のミストCVD装置が記載されている。特許文献3には、リニアソース型のミストCVD装置が記載されている。特許文献4には、管状炉のミストCVD装置が記載されており、特許文献1に記載のミストCVD装置とは、ミスト発生器内にキャリアガスを導入する点で異なっている。特許文献5には、ミスト発生器の上方に基板を設置し、さらにサセプタがホットプレート上に備え付けられた回転ステージであるミストCVD装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-257337号公報
【文献】特開2005-307238号公報
【文献】特開2012-46772号公報
【文献】特許第5397794号
【文献】特開2014-63973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ミストCVD法は、他のCVD法とは異なり高温にする必要もなく、α-酸化ガリウムのコランダム構造のような準安定相の結晶構造も作製可能である。α-酸化ガリウムの作製には、ガリウム源として、ガリウムアセチルアセトナートや臭化ガリウム、ヨウ化ガリウム等が用いられている。このような材料は比較的高価であり、また、供給の安定性にも不安がある。こういった観点から、塩化ガリウム、又は、金属ガリウムを塩酸で溶解したものは、安価な材料であり、また、材料の安定供給が期待できるため、ミストCVD法に用いる材料の選択肢の一つとなる。
【0006】
しかしながら、本発明者が、塩化ガリウムや塩酸を含む材料を用いて検討を行ったところ、上記のような材料を用いた場合に比べ、成膜速度が著しく低下してしまうという問題があることを、見出した。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、ミストCVD法において、低コストで成膜速度に優れたα-酸化ガリウム膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、原料溶液を霧化又は液滴化して生成されたミストを、キャリアガスを用いて搬送し、前記ミストを加熱して、基体上で前記ミストを熱反応させて成膜を行う酸化ガリウム膜の製造方法であって、前記原料溶液として少なくとも塩化物イオンとガリウムイオンを含む原料溶液を用い、前記ミストを加熱する時間を0.002秒以上6秒以下とする酸化ガリウム膜の製造方法を提供する。
【0009】
このような酸化ガリウム膜の製造方法によれば、成膜速度の低下という問題を改善し、低コストで酸化ガリウム膜を製造できる。
【0010】
このとき、前記ミストを加熱する時間を0.02秒以上0.5秒以下とする酸化ガリウム膜の製造方法とすることができる。
【0011】
これにより、安定してより高い成膜速度とすることができる。
【0012】
このとき、前記ミストを加熱する時間を0.07秒以上0.3秒以下とする酸化ガリウム膜の製造方法とすることができる。
【0013】
これにより、より安定してより高い成膜速度とすることができる。
【0014】
このとき、前記ミストを熱反応させる前記基体の加熱温度を100℃以上600℃以下とする酸化ガリウム膜の製造方法とすることができる。
【0015】
これにより、より確実に低コストで酸化ガリウム膜を成膜することができる。
【0016】
このとき、前記基体として、板状であり、成膜を行う面の面積が100mm以上のものを用いる酸化ガリウム膜の製造方法とすることができる。
【0017】
これにより、大面積の酸化ガリウム膜を低コストで得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の酸化ガリウム膜の製造方法によれば、成膜速度の低下を改善し、低コストで酸化ガリウム半導体膜を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る成膜方法に用いる成膜装置の一例を示す概略構成図である。
図2】成膜装置におけるミスト化部の一例を説明する図である。
図3】ミスト加熱領域を示す図である。
図4】キャリアガス流量Qと成膜速度の関係を示す図である。
図5】ミストの加熱時間Tと成膜速度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
上述のように、ミストCVD法において、低コストで成膜速度に優れたα-酸化ガリウム膜の製造方法が求められていた。
【0022】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、原料溶液を霧化又は液滴化して生成されたミストを、キャリアガスを用いて搬送し、前記ミストを加熱して、基体上で前記ミストを熱反応させて成膜を行う酸化ガリウム膜の製造方法であって、前記原料溶液として少なくとも塩化物イオンとガリウムイオンを含む原料溶液を用い、前記ミストを加熱する時間を0.002秒以上6秒以下とする酸化ガリウム膜の製造方法により、成膜速度の低下という問題を改善し、低コストで酸化ガリウム膜を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0023】
ここで、本発明でいうミストとは、気体中に分散した液体の微粒子の総称を指し、霧、液滴等と呼ばれるものを含む。
【0024】
以下、図面を参照して説明する。
【0025】
図1に、本発明に係る酸化ガリウム膜の製造方法に使用可能な成膜装置101の一例を示す。成膜装置101は、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部120と、ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部130と、ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部140と、ミスト化部120と成膜部140とを接続し、キャリアガスによってミストが搬送される搬送部109とを有する。また、成膜装置101は、成膜装置101の全体又は一部を制御する制御部(図示なし)を備えることによって、その動作が制御されてもよい。
【0026】
(原料溶液)
本発明においては、酸化ガリウム膜の製造に用いる原料として、少なくともガリウムイオン及び塩化物イオンを含む点に特徴の一つを有する。このような材料は、安価であり、供給の安定性にも優れている。
【0027】
原料溶液104aは、少なくともガリウムイオン及び塩化物イオンを含んでいれば特に限定されない。すなわち、ガリウムの他、例えば、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、イリジウム、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の金属イオンを含んでもよい。
【0028】
前記原料溶液104aは、上記金属をミスト化できるものであれば特に限定されないが、前記原料溶液104aとして、前記金属を錯体又は塩の形態で、水に溶解又は分散させたものを好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩などが挙げられる。また、上記金属を、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸等に溶解したものも塩の水溶液として用いることができる。
【0029】
また、前記原料溶液104aには、酸を混合してもよい。前記酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などのハロゲン化水素、次亜塩素酸、亜塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、ヨウ素酸等のハロゲンオキソ酸、蟻酸等のカルボン酸、硝酸、等が挙げられる。
【0030】
塩酸もしくは塩化ガリウム以外の材料を用いる場合は、上述のように、少なくとも塩酸も混合させて、ガリウムイオン及び塩化物イオンを存在させる必要がある。コストの観点からは、金属ガリウムを塩酸に溶解したもの、もしくは塩化ガリウム水溶液が最も好ましい。
【0031】
さらに、前記原料溶液には、酸化ガリウム膜の電気的特性を制御するために、ドーパントが含まれていてもよい。これにより、酸化ガリウム膜の半導体膜としての利用が容易になる。前記ドーパントは特に限定されない。例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム又はニオブ等のn型ドーパント、又は、銅、銀、スズ、イリジウム、ロジウム等のp型ドーパントなどが挙げられる。ドーパントの濃度は、例えば、約1×1016/cm~1×1022/cmであってもよく、約1×1017/cm以下の低濃度にしても、約1×1020/cm以上の高濃度としてもよい。
【0032】
(ミスト化部)
ミスト化部120では、原料溶液104aを調整し、前記原料溶液104aをミスト化してミストを発生させる。ミスト化手段は、原料溶液104aをミスト化できさえすれば特に限定されず、公知のミスト化手段であってよいが、超音波振動によるミスト化手段を用いることが好ましい。より安定してミスト化することができるためである。
【0033】
このようなミスト化部120の一例を図2に示す。例えば、原料溶液104aが収容されるミスト発生源104と、超音波振動を伝達可能な媒体、例えば水105aが入れられる容器105と、容器105の底面に取り付けられた超音波振動子106を含んでもよい。詳細には、原料溶液104aが収容されている容器からなるミスト発生源104が、水105aが収容されている容器105に、支持体(図示せず)を用いて収納されている。容器105の底部には、超音波振動子106が備え付けられており、超音波振動子106と発振器116とが接続されている。そして、発振器116を作動させると、超音波振動子106が振動し、水105aを介して、ミスト発生源104内に超音波が伝播し、原料溶液104aがミスト化するように構成されている。
【0034】
(搬送部)
搬送部109は、ミスト化部120と成膜部140とを接続する。搬送部109を介して、ミスト化部120のミスト発生源104から成膜部140の成膜室107へと、キャリアガスによってミストが搬送される。搬送部109は、例えば、供給管109aとすることができる。供給管109aとしては、例えば石英管や樹脂製のチューブなどを使用することができる。
【0035】
(成膜部)
再び図1を参照し、成膜部140では、ミストを加熱し熱反応を生じさせて、基体110の表面の一部又は全部に成膜を行う。成膜部140は、例えば、成膜室107を備え、成膜室107内には基体110が設置されており、該基体110を加熱するためのホットプレート108を備えることができる。ホットプレート108は、図1に示されるように成膜室107の外部に設けられていてもよいし、成膜室107の内部に設けられていてもよい。また、成膜室107には、基体110へのミストの供給に影響を及ぼさない位置に、排ガスの排気口112が設けられてもよい。また、本発明においては、基体110を成膜室107の上面に設置するなどして、フェイスダウンとしてもよいし、基体110を成膜室107の底面に設置して、フェイスアップとしてもよい。
【0036】
熱反応は、加熱によりミストが反応すればよく、反応条件等も特に限定されない。原料等に応じて適宜設定することができる。ホットプレート108で基体110を加熱することにより、基体110の近傍に存在するミストを加熱することができる。このようにすることで、複雑な加熱機構を設けることなく、容易にミストを加熱することが可能である。また、後述するように、このような加熱方法は、ミストを加熱する時間の制御が容易である。
【0037】
基体110の加熱温度は100~600℃の範囲とすることが好ましい。このような温度範囲であれば、より確実にミストが熱反応する温度に加熱することができ、低コストで酸化ガリウム膜を成膜することができる。好ましくは200℃~600℃の範囲であり、さらに好ましくは300℃~550℃の範囲とすることができる。
【0038】
熱反応は、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下、空気雰囲気下及び酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、成膜物に応じて適宜設定すればよい。また、反応圧力は、大気圧下、加圧下又は減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、大気圧下の成膜であれば、装置構成が簡略化できるので好ましい。
【0039】
(基体)
基体110は、成膜可能であり膜を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体110の材料も、特に限定されず、公知の基体を用いることができ、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、鉄やアルミニウム、ステンレス鋼、金等の金属、シリコン、サファイア、石英、ガラス、酸化ガリウム等が挙げられるが、これに限られるものではない。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、板状の基体が好ましい。板状の基体の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、10~2000μmであり、より好ましくは50~800μmである。基体が板状の場合、成膜を行う面の面積は100mm以上が好ましい。より好ましくは口径が2インチ(50mm)以上である。このような基体を用いることにより、大面積のα-酸化ガリウム膜を低コストで得ることができる。
【0040】
(キャリアガス供給部)
キャリアガス供給部130は、キャリアガスを供給するキャリアガス源102aを有し、キャリアガス源102aから送り出されるキャリアガス(以下、「主キャリアガス」という)の流量を調節するための流量調節弁103aを備えていてもよい。また、必要に応じて希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源102bや、希釈用キャリアガス源102bから送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103bを備えることもできる。
【0041】
キャリアガスの種類は、特に限定されず、成膜物に応じて適宜選択可能である。例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類でも、2種類以上であってもよい。例えば、第1のキャリアガスと同じガスをそれ以外のガスで希釈した(例えば10倍に希釈した)希釈ガスなどを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよく、空気を用いることもできる。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。
【0042】
本明細書においては、キャリアガスの流量Qは、使用するキャリアガスの総流量を指す。上記の例では、キャリアガス源102aから送り出される主キャリアガスの流量と、希釈用キャリアガス源102bから送り出される希釈用キャリアガスの流量の総流量を、キャリアガスの流量Qとする。
【0043】
(成膜方法)
次に、図1を参照しながら、本発明に係る酸化ガリウム膜の製造方法の一例を説明する。
【0044】
まず、原料溶液104aをミスト化部120のミスト発生源104内に収容し、基体110をホットプレート108上に直接又は成膜室107の壁を介して設置し、ホットプレート108を作動させる。
【0045】
次に、流量調節弁103a、103bを開いてキャリアガス源102a、102bからキャリアガスを成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガスで十分に置換するとともに、主キャリアガスの流量と希釈用キャリアガスの流量をそれぞれ調節し、キャリアガスの流量Qを制御する。
【0046】
ミストを発生させる工程では、超音波振動子106を振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化させてミストを生成する。次に、ミストをキャリアガスにより搬送する工程では、ミストがキャリアガスによってミスト化部120から搬送部109を経て成膜部140へ搬送され、成膜室107内に導入される。成膜を行う工程で、成膜室107内に導入されたミストは、成膜室107内でホットプレート108の熱により熱処理され熱反応して、基体110上に成膜される。
【0047】
ここで、ミストを加熱する時間Tと酸化ガリウム膜の成膜速度との関係を調査した結果について説明する。
【0048】
熱反応に関する説明で述べたように、ミストの加熱は、成膜室107内の加熱面を含む空間で生じると考えられる。以下、この空間を「ミスト加熱領域」と呼ぶ。図3(a)~(e)に、成膜部140における成膜室107の構造の具体例を示す。なお、図3においては、基体は省略している。図3に示すように、成膜室107内で加熱面が鉛直方向に張る空間(斜線で示される領域)がミスト加熱領域500である。図3(a)、(c)、(e)は、成膜室107内の一部の領域がミスト加熱領域500となっている例であり、図3(b)、(d)は、成膜室107内の全部の領域がミスト加熱領域500となっている例である。
【0049】
キャリアガスの流量Qを調節することにより、成膜原料であるミストが前記ミスト加熱領域500に滞留する時間を調節することができる。ミストは、ミスト加熱領域500に滞留している間に加熱されるため、ミストを加熱する時間Tは、ミストがミスト加熱領域500に滞留する時間に等しい。つまり、ミスト加熱領域500の体積をVとしたとき、前述の滞留時間に相当するV÷Qが、ミストを加熱する時間Tに相当する(T=V/Q)。
【0050】
まず、キャリアガス流量Qと成膜速度との関係を、高さが異なる成膜室を用いて調査を行った。成膜室の高さは、0.5cm、0.09cm、0.9cmの3種類とし、ホットプレートの伝熱面積は113cmで共通とした。つまり、ミスト加熱領域の体積Vは、それぞれ、57cm、10cm、102cmである。
【0051】
図4にキャリアガス流量Qと成膜速度との関係を示す。横軸はキャリアガス流量Q(L/分)、縦軸は成膜速度(μm/時間)である。各プロットは凡例に示すように、ミスト加熱領域の体積V(57cm、10cm、102cm)に対応する。図4から明らかなように、成膜室の高さ(ミスト加熱領域の体積)がどのような場合であっても、成膜速度分布は最大となるピークを有し、キャリアガス流量Qに対して成膜速度が高くなる条件が存在することがわかった。
【0052】
この結果を用いて、ミスト加熱領域500でのミストの滞留時間(ミスト加熱領域500の体積V÷キャリアガス流量Q)、すなわち、ミストを加熱する時間Tを算出し、ミストを加熱する時間T(秒)を横軸にとったグラフを図5に示す。各プロットは凡例に示すように、ミスト加熱領域の体積V(57cm、10cm、102cm)に対応する。図5に示すように、ミストを加熱する時間Tを0.002秒以上6秒以下とすると、少なくともガリウムイオン及び塩化物イオンを含む溶液を原料とした場合でも、大きな成膜速度で酸化ガリウム膜の製造を行うことが可能となることを見出した。
【0053】
ミストを加熱する時間Tが短すぎる(0.002秒未満)と、ミストが反応する前に炉外に放出されてしまい、逆にミストを加熱する時間Tが長すぎる(6秒より長い)と、炉内でミストの反応(蒸発)が進行してしまい、基板上で反応が起きなくなってしまうものと考えられる。
【0054】
ハロゲン化物の水溶液は水と共沸混合物を形成する。中でも塩化物は、臭化物やヨウ化物に比べ共沸温度が低い。このため、臭化物やヨウ化物に比べミストの蒸発が速く(すなわち、塩化物は蒸発しやすい)、従来の材料を用いた場合と同等の条件では、成膜速度が著しく低下してしまっていたと解釈される。ミストを加熱する時間Tは、好ましくは0.02秒以上0.5秒以下であり、より好ましくは0.07秒以上0.3秒以下である。
【実施例
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0056】
(実施例1)
上述の調査結果に基づいて、コランダム構造を有する酸化ガリウム(α-酸化ガリウム)の成膜を行った。
【0057】
まず、塩化ガリウム0.1mol/Lの水溶液を調整し、これを原料溶液104aとした。この原料溶液104aをミスト発生源104内に収容した。次に、基体110として4インチ(直径100mm)のc面サファイア基板を、成膜室107内でホットプレート108に隣接するように設置した。ホットプレート108を作動させて温度を500℃に昇温した。ホットプレート108の伝熱面積は113cmであり、成膜室内の高さは0.5cmであることから、ミスト加熱領域500の体積は57cmである。
【0058】
続いて、流量調節弁103a、103bを開いてキャリアガス源102a、102bからキャリアガスとして酸素ガスを成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した。この後、主キャリアガスの流量を0.4L/分、希釈用キャリアガスの流量を16L/分とし、キャリアガス流量Qを16.4L/分に調節した。この場合のミストを加熱する時間は、0.21秒である。
【0059】
次に、超音波振動子106を2.4MHzで振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化してミストを生成した。このミストを、キャリアガスによって供給管109aを経て成膜室107内に導入した。そして、大気圧下、500℃の条件で、成膜室107内でミストを熱反応させて、基体110上にα-酸化ガリウムの薄膜を形成した。成膜時間は30分とした。
【0060】
得られた基体110上の薄膜について、干渉式膜厚計を用いて膜厚を測定した。測定箇所を基体110の面内の17点として、平均値を算出し平均膜厚を得た。得られた平均膜厚を成膜時間30分で割った値を成膜速度とした。
【0061】
また、得られたα-酸化ガリウムの薄膜についてX線回折測定を行い、結晶性を評価した。具体的には、α-酸化ガリウムの(0006)面回折ピークのロッキングカーブを測定し、その半値全幅を求めた。
【0062】
(比較例1)
希釈用キャリアガスの流量を0L/分、キャリアガス流量Qを0.4L/分とすることで、ミストを加熱する時間を8.55秒とした以外は、実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。
【0063】
(実施例2)
ホットプレート108の伝熱面積を113cmのままとし、成膜室内の高さが0.09cm(ミスト加熱領域の体積=10cm)の成膜室を使用した。また、主キャリアガスの流量を0.08L/分、希釈用キャリアガスの流量を2.82L/分とし、キャリアガス流量Qを2.9L/分に調節した。この場合のミストを加熱する時間は、0.21秒である。これ以外は、実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。
【0064】
(比較例2)
希釈用キャリアガスの流量を0L/分、キャリアガス流量Qを0.08L/分とすることで、ミストを加熱する時間を7.50秒とした以外は、実施例2と同じ条件で成膜、評価を行った。
【0065】
(実施例3)
ホットプレート108の伝熱面積を113cmのままとし、成膜室内の高さが0.9cm(ミスト加熱領域の体積=102cm)の成膜室を使用した。また、主キャリアガスの流量を0.8L/分、希釈用キャリアガスの流量を28.7L/分とし、キャリアガス流量Qを29.5L/分に調節した。この場合のミストを加熱する時間は、0.21秒である。これ以外は、実施例1,2と同じ条件で成膜、評価を行った。
【0066】
(比較例3)
希釈用キャリアガスの流量を0L/分、キャリアガス流量Qを0.8L/分とすることで、ミストを加熱する時間を7.65秒とした以外は、実施例3と同じ条件で成膜、評価を行った。
【0067】
実施例1-3、比較例1-3の評価結果を表1に示す。実施例1-3は、比較例1-3に比べて成膜速度が著しく高いことがわかる。
【0068】
また、実施例1-3はいずれも比較例1-3に比べ半値全幅が小さくなっており、結晶性が大幅に改善されていることがわかった。比較例1-3のようにミストを加熱する時間が長いと、ミスト中の水分が炉内に設置した基体に到達する前に蒸発してしまい、粉体を形成し、これが基体に付着して結晶性を悪化させていると考えられる。ミストを加熱する時間を短くすることで上記のような粉体の形成は抑制され、結晶性の良好なα-酸化ガリウムが形成できることがわかった。
【0069】
【表1】
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0071】
101…成膜装置、 102a…キャリアガス源、
102b…希釈用キャリアガス源、 103a…流量調節弁、
103b…流量調節弁、 104…ミスト発生源、 104a…原料溶液、
105…容器、 105a…水、 106…超音波振動子、 107…成膜室、
108…ホットプレート、 109…搬送部、 109a…供給管、
110…基体、 112…排気口、 116…発振器、
120…ミスト化部、130…キャリアガス供給部、140…成膜部、
500…ミスト加熱領域。
図1
図2
図3
図4
図5