IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キユーピー株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】液卵代替組成物及びその凝固物
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/00 20060101AFI20231027BHJP
   A23J 3/14 20060101ALI20231027BHJP
   A23L 15/00 20160101ALN20231027BHJP
【FI】
A23J3/00 508
A23J3/14
A23L15/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023063806
(22)【出願日】2023-04-11
【審査請求日】2023-06-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】磯部 和宏
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-266758(JP,A)
【文献】特開2023-010509(JP,A)
【文献】特表2020-515294(JP,A)
【文献】特開2022-160827(JP,A)
【文献】特許第7204038(JP,B1)
【文献】特許第7054763(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 3/14
A23L 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性タンパク質、着色料、食油及びゲル化剤を含有する液卵代替組成物であって、
前記植物性タンパク質を0.05質量%~15質量%含み、
前記着色料が黄色系、オレンジ系、赤系のいずれか1種以上であり、かつ0.001質量%~5質量%含み、
前記植物性タンパク質中のキャベツタンパク質の割合が1質量%以上である、
液卵代替組成物。
【請求項2】
植物性タンパク質、着色料、食油及びゲル化剤を含有する液卵代替組成物であって、
前記着色料が黄色系、オレンジ系、赤系のいずれか1種以上であり、
液卵代替組成物中にキャベツタンパク質を0.05質量%~5質量%含む、
液卵代替組成物。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項に記載の液卵代替組成物の凝固物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液卵代替組成物及びその凝固物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康への配慮や、植物性食品への嗜好の高まりなどから、卵を使用せずに植物性
タンパク質などの原料を使用し、卵の代わりに調理に用いることができる液卵代替組成物
が開発されている。
【0003】
植物性タンパク質を使用した液卵代替組成物は着色料を用いて本物の卵に近い色調にな
るよう調整されており、特許文献1では、パプリカオイル、パームオレインを用いて卵の
色調になるよう調節している。
【0004】
しかしながら、実際の卵は加熱すると硫化黒変などにより少しくすんだ黄色になるため
、着色料による調整だけでは、より本物の卵に近い、自然な色調を再現出来ていなかった
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2022-160827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、本物の卵のような自然な色調に調節された液卵代替組成物及
びその凝固物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、植物性タンパク質
と着色料を含有する液卵代替組成物であって、前記植物性タンパク質中のキャベツタンパ
ク質の割合又はキャベツタンパク質の含有量が特定の範囲であることよって、意外にも、
本物の卵のような自然な色調に調節された液卵代替組成物及びその凝固物が得られること
を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の態様によれば、
植物性タンパク質と着色料を含有する液卵代替組成物であって、前記植物性タンパク質
中のキャベツタンパク質の割合が1質量%以上である、液卵代替組成物が提供される。
【0009】
また、本発明の第2の態様によれば、
植物性タンパク質と着色料を含有する液卵代替組成物であって、液卵代替組成物中にキ
ャベツタンパク質を0.05質量%~5質量%含む、液卵代替組成物が提供される。
【0010】
本発明の第1の態様又は第2の態様のいずれかに記載の液卵代替組成物の凝固物が提供
される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本物の卵のような自然な色調に調節された液卵代替組成物及びその凝
固物が提供されることにより、卵代替食品市場のさらなる拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において特に規定しない限り、「%」は「
質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0013】
<液卵代替組成物>
本発明の液卵代替組成物は、卵を含有しない又は卵を少量含有する液卵代替組成物であ
って、第1の態様によれば、植物性タンパク質及び着色料を含有し、前記植物性タンパク
質中のキャベツタンパク質の割合が1%以上であり、第2の態様によれば、液卵代替組成
物中にキャベツタンパク質を0.05%~5%含むものである。
本発明の液卵代替組成物は、液卵同様に本物のスクランブルエッグや炒り卵などの加熱
凝固卵に近い外観および食感を有する凝固物を調製することができる。
【0014】
「卵を含有しない」とは、鶏、鶉、アヒルの卵など、一般に食用に供される鳥類の卵由
来の原料を含有していないことをいい、「卵を少量含有する」とは、前記鳥類の卵由来の
原料を、液卵代替組成物中に5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下含
有することをいう。
【0015】
本発明の液卵代替組成物のpHは5.0~8.0であるとよい。pHが前記範囲内であ
ることにより、本物の卵に近い自然な色調に調整されやすい。また、pHが前記上限を超
えた場合、液卵代替組成物の色調が暗くなり、自然な色調に調整しにくい傾向がある。
【0016】
<凝固物>
本発明の凝固物とは、本発明の液卵代替組成物を用いて調製した凝固物をいう。
本発明の液卵代替組成物を使用する限り、いずれの形態でもよく、例えば、スクランブ
ルエッグ、オムレツ、卵焼き、炒り卵、薄焼き卵、錦糸卵、及びこれらを含む調理品など
が挙げられる。本発明の凝固物は、加熱凝固卵の代替物として用いることができる。
当該凝固物の製造方法に制限は無く、例えば、加熱又は冷却により凝固させてもよいし
、特定の溶液に接触させることで凝固させてもよいが、上記液卵代替組成物をフライパン
、湯煎、その他の適当な方法で加熱して、凝固させた加熱凝固物であることが好ましい。
【0017】
<キャベツタンパク質>
本発明におけるキャベツタンパク質とは、キャベツから抽出されたタンパク質をいう。
キャベツタンパク質の原料となるキャベツは、特に制限されるものではなく、あらゆる
品種のキャベツやキャベツ類が挙げられるが、これらのうちでも、好ましくはキャベツ、
赤キャベツ、ケールなどが挙げられる。
さらに、これらキャベツの産地、収穫の時期についても特に制限されるものではない。
本発明で使用するキャベツタンパク質は、キャベツを粉砕して粉末状にしたものや、キ
ャベツからタンパク質を抽出した精製タンパク質を用いることができる。また、上記のキ
ャベツ類から、単独の品種で、或いは2種以上の品種を組み合わせて用いることもできる

なお、キャベツタンパク質に対し、必要に応じて、ゲル化性を高めるためのトランスグ
ルタミナーゼ処理などの酵素処理を行うこともできる。
【0018】
本発明の液卵代替組成物は、前記キャベツタンパク質を好ましくは0.05%~5%含
有するとよく、より好ましくは0.2%~2%含有するとよい。キャベツタンパク質の含
有量が前記範囲であると、本物の卵に近い自然な色調に調整されやすい。
【0019】
<植物性タンパク質>
本発明における植物性タンパク質とは、前記キャベツタンパク質を含む、植物を由来と
するタンパク質である。
本発明で使用することができる植物性タンパク質の原料は、前記のキャベツやキャベツ
類の他に、例えば、大豆、白インゲン豆、赤インゲン豆、エンドウ、緑豆、ルピン豆、ヒ
ヨコ豆、ヒラ豆、ササゲなどの豆類、ゴマ、キャノーラ種子、ココナッツ種子、アーモン
ド種子などの種子類、とうもろこし、そば、麦、米などの穀物類、野菜類、果物類などが
挙げられる。
本発明の液卵代替組成物にはキャベツタンパク質が含まれていれば、その他用いる植物
性タンパク質に制限はないが、本物の卵のような色調や食感、風味が得られやすいことか
ら、特に、大豆、白インゲン豆、アーモンド種子、米から選ばれる1種以上を原料とする
植物性タンパク質を用いるとよい。
【0020】
本発明で使用する植物性タンパク質は、原料の植物性素材を粉砕して粉末状にしたもの
や、原料の植物性素材からタンパク質を抽出した精製タンパク質を用いることができる。
なお、植物性タンパク質に対し、必要に応じて、ゲル化性を高めるためのトランスグル
タミナーゼ処理などの酵素処理を行うこともできる。
【0021】
本発明の液卵代替組成物は、前記植物性タンパク質を好ましくは0.05%~15%含
有するとよく、より好ましくは0.5%~10%含有するとよい。
植物性タンパク質の含有量が前記範囲であると、本物の卵に近い自然な色調に調整され
やすく、また、適度な流動性があり、液卵と同様に扱うことができる。
なお、前記植物性タンパク質の割合は、植物性タンパク質から抽出されたタンパク質の
みの割合を指し、植物性タンパク質に由来するタンパク質以外の成分は含まない。
【0022】
<植物性タンパク質中のキャベツタンパク質の割合>
本発明の液卵代替組成物は、植物性タンパク質中のキャベツタンパク質の割合が好まし
くは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、更に好ましくは10%以上である
とよい。植物性タンパク質中のキャベツタンパク質の割合が前記範囲であると、本物の卵
に近い自然な色調に調整されやすい。
【0023】
<着色料>
本発明の液卵代替組成物は加熱した凝固卵に近い色調に調整するために、着色料を含有
する。
本発明で用いる着色料は、食用に用いられる着色料であり、加熱した凝固卵に近い卵の
色調が得られやすい着色料を用いればよく、例えば黄色系、オレンジ系、赤系の着色料を
用いることができる。具体的には、例えば、アナトー色素、ウコン色素、クチナシ色素、
パプリカ色素、コチニール色素、紅麹色素、ベニバナ色素、マリーゴールド色素、パーム
オレイン、トウガラシオイル、ニンジンオイル、オレンジオイル、β―カロテンなどを用
いることができる。なお、パームオレインは、食用油脂としても用いられるが、本発明で
は、着色のための成分として用いることができる。
また、本発明で用いられる着色料は1種類のみでも、2種類以上を組み合わせて用いて
もよい。
本発明における着色料としては、加熱凝固卵に近い色調を得られやすいことから、クチ
ナシ色素、アナトー色素、パプリカ色素のいずれか1種以上を含んでいるとよい。
着色料の含有量は特に限定しないが、本発明の効果を得られやすいことから、液卵代替
組成物全体に対し、好ましくは0.001%以上であるとよく、より好ましくは0.00
1%~5%であるとよい。
【0024】
<ゲル化剤>
本発明の液卵代替組成物は、加熱凝固卵に近い食感を得るため、ゲル化剤を含有するこ
とができる。本発明に用いられるゲル化剤としては、ガム質、ペクチン、カードラン、プ
ルラン、マンナン、寒天、加工澱粉等が挙げられる。
ガム質としては、例えば、キサンタンガム、ネイティブジェランガム、脱アシルジェラ
ンガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、タラガム、グアガム、アラビアガム、タ
マリンドガム、サイリュームシードガム等が挙げられる。加工澱粉としては、ヒドロキシ
プロピル澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸
化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉等が挙げられる。
これらのゲル化剤は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい

本発明におけるゲル化剤は、加熱した凝固卵に近い弾力のある食感を得る観点から、ネ
イティブジェランガムを含んでいるとよい。
また、本発明のゲル化剤の含有量は、加熱した凝固卵に近い食感を得る観点から、好ま
しくは0.1%~10%であるとよく、より好ましくは0.5%~5%以下であるとよい
【0025】
<他の原料>
本発明の液卵代替組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の原料を含有
することができる。このような原料としては、例えば、醤油、食塩、胡椒、アミノ酸など
の調味料類、グラニュ糖、上白糖、三温糖、果糖ぶどう糖液糖、澱粉類、デキストリン、
フルクトース、トレハロース、グルコース、乳糖、オリゴ糖、糖エタノールなどの糖類、
グリシン、酢酸ナトリウムなどの静菌剤、有機酸、有機酸塩などのpH調整剤、保存料、
酸化防止剤、香料などが挙げられる。
【0026】
<液卵代替組成物の製造方法>
次に、本発明の液卵代替組成物の代表的な製造方法について下記に記載するが、これら
は本発明を特に限定するものではない。
具体的には、キャベツタンパク質、その他植物性タンパク質、着色料、水と、その他の
原料と、を攪拌混合し、液卵代替組成物を調製する。このとき植物性タンパク質中のキャ
ベツタンパク質の割合を1%以上となるように調節するか、キャベツタンパク質の含有量
を0.05%~5%に調節する。なお、必要に応じて、加熱殺菌工程を行うこともできる
【0027】
以下、本発明について、実施例、比較例、及び試験例に基づき具体的に説明する。なお
、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例
【0028】
[実施例1]
表1に記載の配合に従って、ゲル化剤(ネイティブジェランガム)と食油を混合し、そ
のゲル化剤混合油を水に投入し、ヒスコトロンで5分撹拌して分散させた。その後キャベ
ツタンパク質を含むキャベツ粉末を溶解させ、その他の原料も加えてよく撹拌し、液卵代
替組成物を調製した。
なお、使用したキャベツ粉末(「国産キャベツ(粉末)」、株式会社ピーアットライフ
社製)は、キャベツタンパク質を21.1%含んでいた。
【0029】
<表1>
【0030】
<試験例1:植物タンパク質中のキャベツタンパク質の割合の検討>
表2に記載の配合に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例2~14、比較例
1~2の液卵代替組成物を調製した。
なお、使用したアーモンドタンパク質抽出物(「Almond Protein Powder(Blanched)
」、Blue Diamond Growers社製)は、アーモンドタンパク質を44.4%含んでいた。
【0031】
<表2>
【0032】
調製した液卵代替組成物を約170℃に加熱したフライパンで加熱し、スクランブルエ
ッグ様の凝固物を調製した。複数の訓練されたパネルによって、凝固物の色調を下記基準
で評価した。なお、B評価以上を合格とした。
結果は表3に示した。
【0033】
[風味の評価基準]
A:本物のスクランブルエッグのような自然なくすみのある色調が十分再現できている

B1:着色料の鮮やかな色がやや強く感じるが、自然なくすみのある色調は再現できて
いる 。
B2:ややくすみが強く感じるが、自然な色調は再現できている 。
C1:着色料の色が鮮やかすぎて不自然な色調になっている。
C2:くすみが強すぎてスクランブルエッグの色調ではない。
【0034】
<表3>
【0035】
表3の実施例1~14に示すように、植物性タンパク質中のキャベツタンパク質の割合
が1%以上又は、キャベツタンパク質の含有量が0.05%~5%であれば、キャベツタ
ンパク質以外の植物性タンパク質や、着色料、ゲル化剤の種類や配合量によらず、本物の
スクランブルエッグのような自然な色調の凝固物が得られることが分かる。
一方、比較例1はキャベツタンパク質を含んでいないため、着色料の鮮やかな色がその
まま表れ、本物のスクランブルエッグのような自然なくすみのある色の凝固物が得られな
かった。比較例2は着色料が含まれていないため、そもそも卵らしい黄色味が無く、キャ
ベツタンパク質のくすみも強く表れすぎていたため、スクランブルエッグとは異なる色調
の凝固物となっていた。

【要約】
【課題】卵を含有せずに、本物の卵のような自然な色調に調節された液卵代替組成物及び
その凝固物を提供する。
【解決手段】植物性タンパク質と着色料を含有する液卵代替組成物であって、
前記植物性タンパク質中のキャベツタンパク質の割合が1質量%以上である。
【選択図】なし