(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】乾燥卵白の凍結造粒物
(51)【国際特許分類】
A23L 15/00 20160101AFI20231027BHJP
A23B 5/04 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
A23L15/00 B
A23B5/04 A
(21)【出願番号】P 2023129687
(22)【出願日】2023-08-09
【審査請求日】2023-09-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】下橋 真人
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-124988(JP,A)
【文献】特開昭61-146144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 5/03
A23L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥卵白の凍結造粒物であって、
前記凍結前の造粒物中に水分が22~ 33質量%であり、
前記凍結前の造粒物の大きさが2.16メッシュ(JIS規格:目開き9.5mm)パス、かつ100メッシュ(JIS規格:目開き150μm)オンが50質量%以上であり、
前記造粒物が凍結されてなることを特徴とする、
乾燥卵白の凍結造粒物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥卵白の凍結造粒物に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥卵白は、菓子・パン類、水産練り製品、畜産練り製品および麺類などに利用され、近年では、プロテイン飲料などへの利用も増加している。
乾燥卵白の利用に際しては、乾燥卵白を粉末状態のまま用いても良いが、水などの溶液に溶解して用いることもしばしばある。
しかしながら、乾燥卵白は、水に溶解する際ダマになりやすく、完全に溶解するには非常に長い時間を要することが問題となっている。
【0003】
この問題を解決する手段として、卵白液をパン型乾燥法により乾燥して、フレーク状乾燥卵白とし、これを粉砕して粉末状乾燥卵白を製造する方法において、粉砕前あるいは粉砕後の乾燥卵白に界面活性剤を添加混合することを特徴とする粉末状乾燥卵白の製造方法(特許文献1)や、乾燥卵白を100℃ないし160℃の温度で1時間ないし10時間加熱処理することを特徴とする易溶性乾燥卵白の製造方法(特許文献2)や、乾燥卵白と乳化剤および食用油脂とを混合する乾燥卵白加工品の製造方法(特許文献3)などが提案されている。
【0004】
しかし、これらの方法では、添加物を使用する必要があり、熱変性により卵白の機能性が低下する恐れがある。また、水への溶解性も未だ十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】昭56-55145号公報
【文献】昭58-43740号公報
【文献】特開2009-45024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、高度な技術や添加物を必要とせず、溶液への溶解性が高い乾燥卵白の凍結造粒物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、凍結前の水分と、凍結前の一定の大きさの造粒物の含有率が特定範囲である乾燥卵白の凍結造粒物とすることによって、意外にも、水などの溶液への溶解性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
乾燥卵白の凍結造粒物であって、前記凍結前の造粒物中に水分が22~ 33質量%であり、前記凍結前の造粒物の大きさが2.16メッシュ(JIS規格:目開き9.5mm)パス、かつ100メッシュ(JIS規格:目開き150μm)オンが50質量%以上であり、前記造粒物が凍結されてなる乾燥卵白の凍結造粒物、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高度な技術や添加物を必要とせず、溶解性の高い乾燥卵白の凍結造粒物を提供できるため、乾燥卵白市場のさらなる拡大が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において特に規定しない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0011】
<本発明の特徴>
本発明は、乾燥卵白の凍結造粒物であって、前記凍結前の造粒物の水分が22~33質量%、前記凍結前の造粒物の大きさが2.16メッシュパス(JIS規格:目開き9.5mm)、かつ100メッシュ(JIS規格:目開き150μm)オンが50質量%以上を満たす、乾燥卵白の凍結造粒物であることによって、水などの溶液への溶解性が高い乾燥卵白の凍結造粒物を提供できることに特徴を有する。
【0012】
<乾燥卵白>
本発明の乾燥卵白の凍結造粒物に用いられる乾燥卵白は、特に限定されないが、食品用に市販されているものを用いればよい。
具体的には、次のような乾燥卵白を用いることができる。乾燥卵白の原料である卵白液は、殻付卵を割卵して卵黄を除いたもの、凍結卵白を解凍したもの、酵素処理したもの、脱塩処理したもの、リゾチーム等卵白中の一部の成分を除いたもの、酵素、酵母、細菌等により脱糖処理したものなどを用いることができる。卵白液は、水分2%~14%程度となるように乾燥すればよく、方法としては、噴霧乾燥、凍結乾燥、浅盤乾燥などの常法を用いればよい。乾燥卵白は乾燥した後に熱蔵したものを用いてもよい。
【0013】
<乾燥卵白の凍結造粒物>
本発明の乾燥卵白の凍結造粒物は、前述の乾燥卵白を原料として用い、水を結合剤として造粒し、凍結したものである。本発明の乾燥卵白の凍結造粒物は、主に顆粒状であるが、粉状、塊状のものが混在していてもよい。
本発明の乾燥卵白の凍結造粒物は、乾燥卵白が有する、ゲル化性などの機能性は維持しながら、溶液への溶解性が改善されたものである。
【0014】
<凍結前の造粒物の水分>
本発明の凍結前の造粒物の水分は22~33%である。凍結前の造粒物の水分が前記範囲より少ないと、水との親和性が低くなり、溶解性が悪くなる。前記範囲より多いと、乾燥卵白の造粒物が大きな塊となり溶解性が悪くなり、さらに水分が過剰になると、泥状になり、造粒物として取り扱うことができなくなる。
また、本発明の効果が得られやすいことから、より好ましくは、24~31%が良い。
【0015】
<水分の測定方法>
本発明の凍結前の造粒物の水分は一般的な方法で測定することができる。例えば、「赤外線水分計FD-800(株式会社ケット科学研究所製)」等で測定することができる。
【0016】
<凍結前の造粒物の大きさと含有率>
本発明の凍結前の造粒物は、大きさが2.16メッシュパス(JIS 規格:目開き9.5mm)、かつ100メッシュ(JIS規格:目開き150μm)オンのものを50質量%以上含む。2.16メッシュパスより粒子が大きいと、塊が大きすぎるため、溶解性が悪くなる。一方、100メッシュオンより粒子が小さいと、粒子が細かすぎるため、溶液に浮いてしまい、溶解性が悪くなる。
また、本発明の効果が得られやすいことから、2.16メッシュパス、かつ100メッシュオンの凍結前の造粒物を75%以上含むと良い。
【0017】
<乾燥卵白の凍結造粒物の製造方法>
本発明の凍結前の乾燥卵白造粒物の製造方法としては、乾燥卵白造粒物の水分と造粒物の大きさとその割合を前述の範囲に調節できれば、特に限定されず、例えば、高速撹拌混合機や撹拌造粒機、転動造粒機を用いることができる。
具体的には、例えば、高速撹拌混合機を用い、均一に水分が行き渡るように、乾燥卵白を激しく撹拌しながら、徐々に加水して乾燥卵白造粒物を調製することができる。
【0018】
次に、得られた乾燥卵白造粒物の溶解性を高めるため、乾燥卵白造粒物を凍結する。凍結の方法としては、特に限定されず、例えば、急速凍結であってもよく、緩慢凍結であってもよいが、後述のとおり緩慢凍結の方が好ましい。具体的には、例えば緩慢凍結であれば、-1℃~-5℃の温度帯を30分以上の時間をかけて通過させ、-18℃以下まで冷却する方法が挙げられる。
【0019】
<他の原料>
本発明の乾燥卵白造粒物は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他原料を含有することができる。このような原料としては、例えば、グラニュ糖、上白糖、三温糖、果糖ぶどう糖液糖、フルクトース、トレハロース、グルコース、乳糖、オリゴ糖、糖アルコール等の糖、澱粉類、デキストリン類、グリシン、酢酸ナトリウム等の静菌剤、有機酸、有機酸塩等のpH調整剤、保存料、酸化防止剤、香料、植物性油脂等が挙げられる。
【0020】
<本発明の作用効果>
本発明の乾燥卵白の凍結造粒物は、凍結前の水分と、一定の大きさの造粒物の含有率が特定範囲である乾燥卵白の造粒物を凍結することによって、溶液への溶解性を向上させることができる。
その作用機序は明らかではないが、適度な水分が乾燥卵白同士の結着材として作用して造粒され、更に該乾燥卵白造粒物を凍結することで、氷の針状結晶が乾燥卵白同士の間に入り込み、乾燥卵白同士が分離し易い状態となるため、水への溶解性が向上したと推測される。特に、緩慢凍結することで、氷が針状結晶となりやすく、水への溶解性が増したと推測される。
【0021】
以下、本発明について、実施例、比較例、及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
まず、乾燥卵白(キユーピー株式会社製、乾燥卵白Kタイプ)300gを高速撹拌混合機(EIRICH製、インテンシブミキサーEL1型)に投入した。
次に、混合パンの回転速度を85rpm、ローターの周速度を10m/sに調整し、乾燥卵白を撹拌しながら、水を0.17ml/sの速度で合計78g投入し、均一に分散するまで3分間撹拌混合した。
後述する方法で、水分の測定と、特定の大きさの造粒物の含有率を算出した後、-25℃の冷凍倉庫で24時間かけて凍結をし、乾燥卵白の凍結造粒物を得た。
【0023】
<凍結前の造粒物の水分の測定>
実施例1で調製した、凍結前の造粒物の水分を水分計(株式会社ケット科学研究所製、赤外線水分計FD-800)に、乾燥卵白造粒物を10g置き、105℃の条件下で測定した。
測定の結果、実施例1の凍結前の造粒物に含まれる水分は24.2%であった。
【0024】
<凍結前の造粒物の大きさと含有率の算出>
最初に、200メッシュ(JIS規格:目開き75μm)、100メッシュ(JIS規格:目開き150μm)、60メッシュ(JIS規格:目開き250μm)、42メッシュ(JIS規格:目開き355μm)、30メッシュ(JIS規格:目開き500μm)、2.16メッシュ(JIS規格:目開き9.5mm)の6つの篩を、目の細かい方から荒い順に積み上げ、6段重ねの篩を準備し、電磁式ふるい振とう器(三田村理研工業株式会社製)にセットした。
次に、実施例1で調製した、凍結前の造粒物50g(A)を、6段重ねの一番上の篩(2.16メッシュの篩)に置き、電磁式ふるい振とう器にて強度80で10分間振とうした。
そして、2.16メッシュパスかつ、100メッシュオンの範囲の凍結前造粒物を集め、その重さを測定した結果44g(B)であった。
最後に、以下のような計算式で大きさが2.16メッシュパスかつ、100メッシュオンの凍結前の造粒物の含有率を算出した。
凍結前の造粒物の含有率:B/A×100=88%
【0025】
<試験例1:乾燥卵白造粒物中の水分含有量の検討>
表1に記載の配合に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2~9及び、比較例1、2、4、5の乾燥卵白造粒物を調製した。比較例3は表1の配合に変更し、更に凍結を行わなかった以外は実施例1と同様にして調製した。また、対照として加水0%の乾燥卵白も準備した。
次に、実施例1と同様の方法で、対照、実施例2~9及び、比較例1~5の凍結前造粒物の水分量を測定し、2.16メッシュパスかつ、100メッシュオンの大きさの乾燥卵白造粒物の含有率を算出した。
【0026】
【0027】
<溶解性の確認>
250mlのトールビーカー(内径55mm)に実施例1~9、及び比較例1~5の造粒物と水を入れ、マグネティックスターラーRS-1D(アズワン株式会社製)を用い、撹拌子38×7mm、回転数500rpmで15分撹拌し、目視にて溶解性を確認した。
なお、実施例1~9及び、比較例1~5の造粒物と水の添加量は、対照の乾燥卵白10g(水分含有量5.7%)と水100gの固形分に合わせて、表2のように調整した。
表2に各造粒物と水の添加量及び、溶解性の結果を示す。
溶解性は以下の評価基準に従って評価した。
【0028】
[溶解性の評価基準]
A:均一に分散していた。
B:若干溶け残りがあるが、ほぼ均一に分散していた。
C:塊が残っていた。
【0029】
【0030】
表2に示した通り、凍結前の造粒物の水分が22~33%であり、大きさが2.16メッシュパスかつ、100メッシュオンが50%以上である(実施例1~9)と対照と比較して溶解性が高いことが分かる。更に、凍結前の造粒物の水分が24~31%であり、大きさが2.16メッシュパスかつ、100メッシュオンが75%以上であると、より溶解性が高くなることが分かる。
一方、凍結前の水分が22%未満で、大きさが2.16メッシュパスかつ、100メッシュオンが50%未満の場合、溶解性が悪くなることが分かる(比較例1~3)。
【要約】
【課題】
本発明の目的は、高度な技術や添加物を必要とせず、溶解性の高い乾燥卵白の凍結造粒物を提供するものである。
【解決手段】
乾燥卵白の凍結造粒物であって、
前記凍結前の造粒物中に水分が22~ 33質量%であり、
前記凍結前の造粒物の大きさが2.16メッシュ(JIS規格:目開き9.5mm)パス、かつ100メッシュ(JIS規格:目開き150μm)オンが50質量%以上であり、
前記造粒物が凍結されてなる
乾燥卵白の凍結造粒物
【選択図】なし