(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】改良されたαβT加工細胞製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/078 20100101AFI20231030BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231030BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231030BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20231030BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231030BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231030BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20231030BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231030BHJP
【FI】
C12N5/078
A61K35/17
A61P31/04
A61P31/12
A61P35/00
A61P37/04
C12N1/00 A
C12N5/0783
(21)【出願番号】P 2019570793
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2019004357
(87)【国際公開番号】W WO2019156145
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2018022488
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018184167
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載日:平成30年9月5日 掲載アドレス:https://www.meeting-schedule.com/jca2018/(第77回日本癌学会学術総会の電子版抄録集)
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598086844
【氏名又は名称】株式会社メディネット
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊福 利彦
(72)【発明者】
【氏名】笹渡 繁巳
【審査官】中根 知大
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-536812(JP,A)
【文献】国際公開第2017/142014(WO,A1)
【文献】J.Clin.Invest., 2013,Vol. 123, No. 10, pp. 4479-4488
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
αβT加工細胞の製造方法であって、
該方法が、
ヒト由来の単離された末梢血単核球を
(1)IL-2、
(2)抗CD3抗体、ならびに
(3)2-deoxy-d-glucose(2DG)又はその誘導体
存在下で、7-14日間インビトロ培養することを含み、
該αβT加工細胞が、αβT細胞を約74%~90%並びにγδT細胞およびNK細胞を約10%~26%含
み、
前記2-deoxy-d-glucose(2DG)の誘導体が、2-フルオロ-2-デオキシグルコース、2-フルオロ-2-デオキシグルコース-6-リン酸、2-フルオロ-2-デオキシグルコース-1-リン酸およびこれらの生理学的に許容される塩又は溶媒和物からなる群から選択される、
上記製造方法。
【請求項2】
前記αβT加工細胞中、CD8陽性メモリーT細胞が、
78%
以上含まれる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記αβT加工細胞中、IL-2R陽性αβT細胞が25%以上および/または、パーフォリン陽性αβT細胞が15%以上および/または、グランザイム陽性αβT細胞が20%以上含まれる請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
2-deoxy-d-glucose(2DG)又はその誘導体で刺激されたαβT加工細胞を含む、がんを治療又は予防するための医薬組成物であって、
該αβT加工細胞が、αβT細胞を約74%~90%並びにγδT細胞およびNK細胞を約10%~26%含
み、
前記2-deoxy-d-glucose(2DG)の誘導体が、2-フルオロ-2-デオキシグルコース、2-フルオロ-2-デオキシグルコース-6-リン酸、2-フルオロ-2-デオキシグルコース-1-リン酸およびこれらの生理学的に許容される塩又は溶媒和物からなる群から選択される、
上記医薬組成物。
【請求項5】
前記がんがNKG2Dリガンドを発現している、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
NKG2Dリガンドが、MICA、MICB、RAET1ε、RAET1α、RAET1β、RAET1γ、RAET1δ、Mult1、H60a、H60b、H60c、およびULBP1~5からなる群から選択される、請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
NKG2Dリガンドを発現しているがんが骨肉種、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん、子宮内膜がん、膀胱がん、肺がん、膵臓がん、結腸がん、前立腺がん、白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、骨髄性白血病、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病、甲状腺がん、濾胞性甲状腺がん、骨髄異形成症候群(MDS)、線維肉腫、横紋筋肉腫、メラノーマ、ぶどう膜メラノーマ、奇形癌、神経芽腫、神経膠腫、神経膠芽腫、角化棘細胞腫、腎臓がん、未分化大細胞リンパ腫、食道扁平上皮細胞癌、肝細胞癌、濾胞性樹状細胞癌、腸がん、筋層浸潤がん、精巣がん、表皮癌、脾臓がん、頭頸部がん、胃がん、肝臓がん、骨がん、脳がん、網膜がん、胆道がん、小腸がん、唾液腺がん、子宮がん、精巣がん、結合組織がん、前立腺肥大症、脊髄形成異常、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、鼻咽腔がん、神経内分泌がん、中皮腫、血管肉腫、カポジ肉腫、カルチノイド、食道胃がん、ファローピウス管がん、腹膜がん、漿液性乳頭状ミュラー管がん、悪性腹水、消化管間質腫瘍(GIST)、リー・フラウメニ症候群からなる群から選択される、請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
2-deoxy-d-glucose(2DG)又はその誘導体で刺激されたαβT加工細胞を含む、細菌又はウイルスの感染を治療又は予防するための医薬組成物であって、
該αβT加工細胞が、αβT細胞を約74%~90%並びにγδT細胞およびNK細胞を約10%~26%含
み、
前記2-deoxy-d-glucose(2DG)の誘導体が、2-フルオロ-2-デオキシグルコース、2-フルオロ-2-デオキシグルコース-6-リン酸、2-フルオロ-2-デオキシグルコース-1-リン酸およびこれらの生理学的に許容される塩又は溶媒和物からなる群から選択される、
上記医薬組成物。
【請求項9】
前記細菌が、グラム陰性菌又はグラム陽性菌から選択される、請求項
8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ウイルスが、サイトメガロウイルス、インフルエンザウイルス、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、アデノウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、ヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV)およびHIVからなる群から選択される、請求項
8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
再生医療等製品の製造における、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法により製造されたαβT加工細胞の使用。
【請求項12】
前記再生医療等製品が、がんを治療又は予防するための再生医療等製品である、請求項
11に記載の使用。
【請求項13】
前記再生医療等製品が、細菌又はウイルスの感染を治療又は予防するための再生医療等製品である、請求項
11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん細胞に対する傷害性を高めた細胞傷害性T細胞の製造方法、該細胞傷害性T細胞を含むがん治療薬、該治療薬を用いた治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫細胞治療(Adoptive T Cell Therapy)とは、患者から採取したT細胞をインビトロで増幅し、患者体内に戻すことにより、体内のがん細胞を免疫反応により治療することを目標とするがん免疫療法の1つである。免疫細胞治療は主として用いる細胞の種類により、以下に分類される:
1)樹状細胞ワクチン療法、2)αβT細胞療法、3)細胞傷害性T細胞(CTL)療法、4)γδT細胞療法、5)NK細胞療法、などが盛んに行われている(非特許文献1)。
【0003】
樹状細胞ワクチン療法とは、末梢血液中の単球から分化させた樹状細胞(Dendritic Cells: DC)に、その標的となるがん細胞を貪食させて体内に戻し、がん細胞を傷害する能力のある細胞(主にT細胞)や抗体産生機能をもつB細胞にがんや病原体の目印(抗原)を伝える役割を担う「抗原提示細胞(Antigen Presenting Cell: APC)」として機能させることにより、がんを治療する方法である。
【0004】
αβT細胞療法とは、末梢血液中に含まれるリンパ球を約2週間、インターロイキン-2(IL-2)と抗CD3抗体を用いて培養し、その全体を活性化・増殖させたのち体内に戻す治療法である。末梢血のTリンパ球の大半がαβ型のT細胞受容体(T Cell Receptor:TCR)を持つαβT細胞であり、増殖した細胞の多くもαβT細胞ということになる。
【0005】
細胞傷害性T細胞(CTL)療法は、一般的に体外でがん細胞やがん抗原を取り込ませたDCを用いてT細胞を刺激することにより、がん抗原特異的な細胞傷害性をもつT細胞を増幅し、体内に戻す治療法である。しかしながら、血液中のがん特異的CTLはわずかであり、治療に十分な数を得ることは困難である。
【0006】
γδT細胞は、リンパ球ストレス(細胞傷害)監視機構(lymphoid stress-surveillance)と呼ばれる生体防御反応を担う中心的な細胞であり、γδT細胞療法とは、患者から採血した末梢血中にわずかに存在する(1~5%)γδ型T細胞受容体(Vγ9Vδ2受容体)をもつγδT細胞を選択的に増殖させ、体内に戻す治療法である。γδT細胞はαβT細胞が認識する「抗原」とは別のがん細胞表面に比較的共通して発現する分子などを認識することでがんを殺傷する「抗原非特異的」な抗腫瘍効果が得られる(特許文献1および非特許文献2)。
【0007】
NK(Natural Killer)細胞療法とは、末梢血中に含まれるNK細胞などの異常細胞を傷害する能力の高い細胞を、IL-2など複数の刺激物質を用いて活性化、増殖させて体内に戻し、がんを治療する方法である。NK細胞は、自然免疫系を担うリンパ球の1種で、強い細胞傷害能を有しており、特に、MHC class I分子が発現低下または消失した細胞を認識し殺傷する機構を有すること、および、抗体依存性細胞傷害(ADCC)における主たるエフェクター細胞として機能することなどから、ウイルス感染細胞の排除に重要な細胞である。
【0008】
免疫細胞治療は、従来の外科治療、放射線治療、化学治療の三大療法に比べて副作用がほとんどないという利点を有しており、第4のがん治療法として実際の肺がん患者に対して先進医療としても施されている治療法である。しかしながら、がんに対するさらなる治療効果向上には、1)細胞傷害機能を増強し体内で長期間機能維持でき、2)がん特異性が高く、3)がん組織内でも機能低下を起こさない免疫細胞が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許3056230号
【文献】国際公開2013/153800号
【0010】
【文献】HUMAN CELL 5巻3号(1992)
【文献】Blomed & Pharmacother (1993) 47, 73-78
【文献】BIOTHRAPY 4巻10号(1990)
【文献】J Immunol. 2012 Feb 15;188(4):1847-55.
【文献】Curr Immunol Rev. 2009 Feb;5(1):22-34.
【文献】BLOOD, 15 2004 vol103(8) 3065-3072
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
免疫細胞治療のうち、従来から実施されているαβT細胞療法に着目し、よりがんに対する攻撃性を有する免疫細胞治療を提供する。さらに、他の細胞ストレスを引き起こす障害(例えばウイルス感染、細菌感染、薬剤ストレス、酸化ストレスなど)に対しても、有効な免疫細胞治療を提供する(非特許文献5)。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のように、αβT細胞は、樹状細胞などからがん抗原を提示され、その抗原を目印にがん細胞に攻撃を加える。しかしながら、それに加えて抗原非特異的ながん細胞傷害活性を持つ機構があることがわかっている。(非特許文献6)。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、αβT細胞をインビトロ培養する際、細胞培養液中に、マンノース代謝を介してタンパク質の糖鎖修飾(N-結合型糖鎖)を変化させる化合物 [2-deoxy-d-glucose (以下、2DGとする)]を添加すると、調製した免疫細胞は、従来のαβT加工細胞に比べて、抗原非特異的な強い抗腫瘍効果(エフェクター機能)を獲得することを発見した。
【発明の効果】
【0013】
2DGは、従来医薬としてそのまま、投与されることもあった。しかしながら、2DGは同時にがん細胞に対しても作用し免疫細胞の標的分子であるNKG2Dリガンドの細胞表面の発現を阻害するため、がん細胞がNK細胞やT細胞の認識から逃れる可能性があった(非特許文献4)。それに対して、本願発明は免疫細胞のインビロト培養時に2DGを用いることにより、特定のNKG2Dリガンドを発現しているがんに対して、特異的かつ選択的にがん免疫療法を提供することができる。さらに、αβT細胞の細胞表面上の糖鎖修飾を変えることにより、体内に投与された場合、がん細胞によるエフェクター機能抑制を回避することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】CD8
+T細胞サブセットの分布を示すFACSプロット。図の数字は各象限における細胞のパーセンテージを示す。cont:抗CD3抗体刺激、IL-2添加培地で培養;2DG:抗CD3抗体刺激、IL2および2DG添加培地で培養。
【
図2A】2DGなし(cont)又は2DG存在下(2DG)で培養したαβT加工細胞をRPMI1640+10%FCS培地に置換し、24時間後の培養上清中のサイトカインの量。由来するドナーごとに線を結んだ。量はBio-plexで測定した。cont:抗CD3抗体刺激、IL-2添加培地で培養;2DG:抗CD3抗体刺激、IL2および2DG添加培地で培養。
【
図2B】2DGなし(cont)又は2DG存在下(2DG)で培養したαβT加工細胞をRPMI1640+10%FCS培地に置換し、PMA/イオノマイシン刺激24時間後の培養上清中のパーフォリンおよびグランザイムの量。量はELISA法で測定した。
【
図2C】がん細胞に対する2DGなし(cont)又は2DG存在下(2DG)で培養したαβT加工細胞の細胞傷害活性。活性の割合は、蛍光標識したがん細胞とαβT加工細胞を共培養し、傷害を受けたがん細胞の蛍光減衰量、1%NP40処置した最大蛍光減衰量、がん細胞のみの自然減衰量から計算された。NS:有意差なし;*P<0.01
【
図2D】αβT加工細胞をがん細胞と共培養した場合の脱顆粒マーカーCD107aを有するCD8
+T細胞の割合。2DGなし(cont)又は2DG存在下(2DG)で培養したαβT加工細胞。
【
図3A】2DGなし(cont)又は2DG存在下(2DG)で培養したαβT加工細胞のNKG2Dの発現量。NS:有意差なし
【
図3B】がん細胞表面上のNKG2Dリガンドの発現。
【
図3C】抗NKG2D抗体による細胞傷害活性の抑制。2DGなし(cont)又は2DG存在下(2DG)で培養したαβT加工細胞。NS:有意差なし;*P<0.01
【
図4A】解糖系阻害剤で培養したαβT加工細胞のCD8
+T細胞サブセットの分布を示すFACSプロット。図の数字は各象限における細胞のパーセンテージを示す。
【
図4B】2DG、オキサメートまたはブロモピルベートの解糖系への影響。NS:有意差なし;*P<0.01
【
図4C】がん細胞に対する解糖系阻害剤(±)で培養したαβT加工細胞の細胞傷害活性。NS:有意差なし;*P<0.01
【
図5B】2DG存在下αβT細胞培養へのD-マンノース添加による細胞傷害活性の抑制。2DGなし(cont)、2DG存在下(2DG)、2DGとD-マンノース存在下(2DG+D-Man)又は2DGとL-マンノース存在下(2DG+L-Man)で培養したαβT加工細胞。NS:有意差なし;*P<0.01
【
図5C】2DG存在下αβT細胞培養へのD-マンノース添加による細胞内パーフォリン産生抑制。2DGなし(cont)、2DG存在下(2DG)、2DGとD-マンノース存在下(2DG+D-Man)又は2DGとL-マンノース存在下(2DG+L-Man)で培養したαβT加工細胞。
【
図5D】2DGで培養したαβT加工細胞のIL-2受容体発現のFACSプロット。図の数字は各象限における細胞のパーセンテージを示す。2DGなし(cont)、2DG存在下(2DG)、2DGとD-マンノース存在下(2DG+D-Man)又は2DGとL-マンノース存在下(2DG+L-Man)で培養したαβT加工細胞。
【
図5E】2DG存在下(2DG)で培養したαβT加工細胞のIL-2再刺激によるIFNγ産生の上昇。量はELISA法で測定した。2DGなし(cont)、2DG存在下(2DG)、2DGとD-マンノース存在下(2DG+D-Man)又は2DGとL-マンノース存在下(2DG+L-Man)で培養したαβT加工細胞。*P<0.01
【
図5F】αβT加工細胞のIL-2受容体のmRNA発現量の比較。発現量はリアルタイムPCR法を用いて測定した。2DGなし(cont)、2DG存在下(2DG)、2DGとD-マンノース存在下(2DG+D-Man)又は2DGとL-マンノース存在下(2DG+L-Man)で培養したαβT加工細胞。
【
図6A】2DG存在下(2DG)で培養したαβT加工細胞のガレクチン-3結合能の低下。2DGなし(cont)又は2DG存在下(2DG)で培養したαβT加工細胞。
【
図6B】2DG存在下(2DG)で培養したαβT加工細胞のガレクチン-3による、αβT加工細胞のアポトーシス(PI+/Annexin+)誘導の抑制。2DGなし(cont)又は2DG存在下(2DG)で培養したαβT加工細胞。
【
図7A】2DG処理αβT細胞によるin-vivo抗腫瘍効果。2DGなし(cont)又は2DG存在下(2DG)で培養したαβT加工細胞、およびPBS(Vehicle)を静脈注射したマウスの腫瘍サイズイメージング。
【
図7B】2DG処理αβT細胞によるin-vivo抗腫瘍効果。2DGなし(cont)又は2DG存在下(2DG)で培養したαβT加工細胞、およびPBS(Vehicle)を静脈注射したマウスの生存率比較。
【発明を実施するための形態】
【0015】
従って、本発明は本発明の構成は以下の[1]から[15]の通りである:
[1]単離された末梢血単核球を
(1)IL-2、
(2)抗CD3抗体、ならびに
(3)2-deoxy-d-glucose(2DG)又はその誘導体
存在下でインビトロ培養することを含む、αβT加工細胞の製造方法;
[2]前記αβT加工細胞中、αβT細胞約74%~90%;γδT細胞およびNK細胞約10%~26%を含む、[1]に記載の製造方法;
[3]前記αβT加工細胞中、CD8陽性メモリーT細胞が、78%以上含まれる、[1]に記載の製造方法;
[4]前記αβT加工細胞中、IL-2R陽性αβT細胞が20、21、22、23、24、25、26、27、28 29或いは30%以上および/または、パーフォリン陽性αβT細胞が10、11、12、13、14、15、16、17、18、19或いは20%以上および/または、グランザイム陽性αβT細胞が15、16、17、18,19、20、21、22、23、24或いは25%以上含まれる[1]に記載の製造方法;
[5]2DGの誘導体や類似体が、2-デオキシマンノース-6-リン酸、2-デオキシマンノース-1-リン酸およびGDP-2-デオキシマンノース、2-フルオロ-2-デオキシグルコース、2-フルオロデオキシグルコース、2-フルオロ-デオキシグルコース-6-リン酸、2-フルオロ-デオキシグルコース-1-リン酸、2-フルオロ-デオキシマンノース、2-フルオロ-デオキシマンノース-6-リン酸、2-フルオロ-デオキシマンノース-1-リン酸、またはガラクトースやマンノース等の六員環を有する糖およびその誘導体ならびにこれらの生理学的に許容される塩又は溶媒和物からなる群から選択される、
[1]~[4]のいずれか一項に記載の製造方法。
【0016】
[6]2-deoxy-d-glucose(2DG)又はその誘導体で刺激されたαβT加工細胞を含む、がんを治療又は予防するための医薬組成物;
[7]前記がんがNKG2Dリガンドを発現している、[6]に記載の医薬組成物;
[8]NKG2Dリガンドが、MICA、MICB、RAET1ε、RAET1α、RAET1β、RAET1γ、RAET1δ、Mult1、H60a、H60b、H60c、およびULBP1~6MICAからなる群から選択される、[7]に記載の医薬組成物;
[9]NKG2Dリガンドを発現しているがんが骨肉種、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん、子宮内膜がん、メラノーマ、膀胱がん、肺がん、膵臓がん、結腸がん、前立腺がん、白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、骨髄性白血病、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病、甲状腺がん、濾胞性甲状腺がん、骨髄異形成症候群(MDS)、線維肉腫、横紋筋肉腫、メラノーマ、ぶどう膜メラノーマ、奇形癌、神経芽腫、神経膠腫、神経膠芽腫、角化棘細胞腫、腎臓がん、未分化大細胞リンパ腫、食道扁平上皮細胞癌、肝細胞癌、濾胞性樹状細胞癌、腸がん、筋層浸潤がん、精巣がん、表皮癌、脾臓がん、頭頸部がん、胃がん、肝臓がん、骨がん、脳がん、網膜がん、胆道がん、小腸がん、唾液腺がん、子宮がん、精巣がん、結合組織がん、前立腺肥大症、脊髄形成異常、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、鼻咽腔がん、神経内分泌がん、中皮腫、血管肉腫、カポジ肉腫、カルチノイド、食道胃がん、ファローピウス管がん、腹膜がん、漿液性乳頭状ミュラー管がん、悪性腹水、消化管間質腫瘍(GIST)、リー・フラウメニ症候群からなる群から選択される、[7]に記載の医薬組成物。
【0017】
[10]2-deoxy-d-glucose(2DG)又はその誘導体で刺激されたαβT加工細胞を含む、細菌又はウイルスの感染を治療又は予防するための医薬組成物;
[11]前記細菌が、グラム陰性菌又はグラム陽性菌から選択される、[10]に記載の医薬組成物;
[12]前記ウイルスが、サイトメガロウイルス、インフルエンザウイルス、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、アデノウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、ヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV)およびHIVからなる群から選択される、[10]に記載の医薬組成物。
【0018】
[13]再生医療等製品の製造における、[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法により製造されたαβT加工細胞の使用;
[14]前記再生医療等製品が、がんを治療又は予防するための再生医療等製品である、[13]に記載の使用;
[15]前記再生医療等製品が、細菌又はウイルスの感染を治療又は予防するための再生医療等製品である、[13]に記載の使用。
【0019】
<1.αβT加工細胞の製造方法>
まず、αβT細胞の細胞源となるPBMCsを準備する。ここで「末梢血単核球(PBMCs)」とは、末梢血から分離された、リンパ球(ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、αβT細胞、γδT細胞など)、単球などを含む細胞集団を意味する。PBMCsを準備する方法は、特に限定されない。たとえば、採血により得られた末梢血を密度勾配遠心することで、PBMCsを得ることができる。1回の採血量は、αβT細胞療法を行う患者に応じて適宜設定すればよいが、例えば24~72mL程度である。
また、多量の細胞を確保する必要がある場合には、成分採血装置を用いて単核球成分を採取することが可能である。
【0020】
採取したPBMCsは培養液(培地)に懸濁し、得られた細胞懸濁液にIL-2、抗CD3抗体、ならびに2DGを添加して、αβT細胞を培養する。PBMCsをIL-2および抗CD3抗体の存在下で培養することにより、αβT細胞を選択的に増殖および活性化させて、活性化αβT細胞を高純度に含む細胞集団を調製することができる。2DG添加を含まない従来のαβT加工細胞の製造では、約94%がT細胞、約6%がNK細胞であり、T細胞のうちαβT細胞約86%(CD8陽性T細胞約69%+CD4陽性T細胞約31%);γδT細胞約14%を含む細胞集団が調製された。
抗CD3抗体は培地中に添加しても、培養容器に固相化してもよいが、抗CD3抗体を固相化したフラスコ等の培養容器にリンパ球を播種することで、より好適に培養できることが知られている(例えば、特許3056230号)。IL-2の濃度は培地中に100~2000IU/mLの濃度となるように添加することが好ましい。
培養は、34~38℃、好ましくは37℃で、2~10%、好ましくは5%のCO2条件下で行い、培養期間は1日~20日、特に1~2週間程度が好ましい。
使用する培地は特に限定されないが、AIM-V培地(インビトロジェン)、RPMI-1640培地(インビトロジェン)、ダルベッコ改変イーグル培地(インビトロジェン)、イスコフ培地(インビトロジェン)、KBM培地(コージンバイオ)、ALyS培地(細胞科学研究所)等細胞培養に使用されている市販の培地を使用することができる。あらかじめIL-2が含まれた、ヒト末梢血T細胞用培地(例えば、ALyS505N;細胞科学研究所)であってもよい。また、必要に応じて5~20%の牛血清、牛胎児血清、ヒト血清、ヒト血漿等を添加することができる。
【0021】
本発明において、2-deoxy-d-glucoseとは以下の式で表される化合物、あるいはその薬物学的に許容できる塩又は溶液を指す。
【化1】
【0022】
2DGと同等に用いることの出来る化合物として、公知の2DGの誘導体や類似体が挙げられる。これに限定しないが、2-デオキシマンノース-6-リン酸、2-デオキシマンノース-1-リン酸およびGDP-2-デオキシマンノース、2-フルオロ-2-デオキシグルコース、2-フルオロデオキシグルコース、2-フルオロ-デオキシグルコース-6-リン酸、2-フルオロ-デオキシグルコース-1-リン酸、2-フルオロ-デオキシマンノース、2-フルオロ-デオキシマンノース-6-リン酸、2-フルオロ-デオキシマンノース-1-リン酸、またはガラクトースやマンノース等の六員環を有する糖およびその誘導体等が挙げられる。上記化合物は、フリー体であってもよく、その生理学的に許容される塩又は溶媒和物であってもよい。さらに、水和物であっても非水和物であってもよい。塩は限定されないが、塩酸塩等の無機塩や酢酸塩、クエン酸塩、ギ酸塩等の有機酸塩を含む。
【0023】
PBMCsの培養時に添加する薬剤の濃度は、5mM以下が好ましく実施例においては2mMで用いている。
【0024】
以上の手順により、αβT加工細胞を大量に含む細胞集団を得ることができる。得られた細胞集団は、後述するようにαβT細胞療法において患者に投与する細胞として利用することができる。また、再生医療等製品としても用いることができる。
【0025】
「再生医療等製品」とは、
1)(i)人又は動物の体の構造又は機能の再建、修復又は形成、或いは
(ii)人又は動物の疾病の治療又は予防、
に使用されることが目的とされている物のうち、人又は動物の細胞に培養その他の加工を施したもの;或いは
2)人又は動物の疾病の治療に使用されることが目的とされている物のうち、人又は動物の細胞に導入され、これらの体内で発現する遺伝子を含有させたもの
を指す。特に限定しないが、
1) ヒト細胞加工製品
ア ヒト体細胞加工製品
イ ヒト体性幹細胞加工製品
ウ ヒト胚性幹細胞加工製品
エ ヒト人工多能性幹細胞加製品
2)動物 細胞加工製品
ア 動物体細胞加工製品
イ 動物体性幹細胞加工製品
ウ 動物胚性幹細胞加工製品
エ 動物人工多能性幹細胞加製品
3)遺伝子治療用製品
ア プラスミドベクター製品
イ ウイルスベクター製品
ウ 遺伝子発現治療製品(ア・イを除く。)
が挙げられ、本願発明のαβT加工細胞を大量に含む細胞集団はヒト体細胞加工製品に該当する。
【0026】
NKG2D(別名CD314;又はKiller Cell Lectin Like Receptor K1(KLRK1))はNKG2Dファミリーの細胞表面レセプター(タイプII型膜貫通タンパク質)で、NK細胞、CD8+αβT細胞およびγδT細胞に発現している。NKG2Dは、リガンドが結合した際には、会合しているアダプタータンパク質DAP10やDAP12等を介して、NK細胞の細胞傷害活性や、特定のT細胞集団の共役刺激を誘導する。NKG2Dのリガンドは、ストレス誘導性のMHCクラスI関連分子MIC A、MIC B、RAET1E、RAET1G、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4などであり、これらは主に上皮系の細胞や数多くのがん細胞において発現している。NKG2Dリガンドはがん細胞以外の細胞ストレスによって細胞表面に発現誘導される。従って、がん細胞だけでなく、他の細胞ストレス、例えば細菌感染、ウイルス感染などでも誘導され、細菌感染又はウイルス感染した細胞は、本願発明に係るαβT加工細胞の標的たりうる(非特許文献5)。
【0027】
これに限定しないが、NKG2Dリガンドを発現しているがん細胞は、骨肉種、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん、子宮内膜がん、膀胱がん、肺がん、膵臓がん、結腸がん、前立腺がん、白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、骨髄性白血病、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病、甲状腺がん、濾胞性甲状腺がん、骨髄異形成症候群(MDS)、線維肉腫、横紋筋肉腫、メラノーマ、ぶどう膜メラノーマ、奇形癌、神経芽腫、神経膠腫、神経膠芽腫、角化棘細胞腫、腎臓がん、未分化大細胞リンパ腫、食道扁平上皮細胞癌、肝細胞癌、濾胞性樹状細胞癌、腸がん、筋層浸潤がん、精巣がん、表皮癌、脾臓がん、膀胱がん、頭頸部がん、胃がん、肝臓がん、骨がん、脳がん、網膜がん、胆道がん、小腸がん、唾液腺がん、子宮がん、精巣がん、結合組織がん、前立腺肥大症、脊髄形成異常、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、鼻咽腔がん、神経内分泌がん、骨髄異形成症候群、中皮腫、血管肉腫、カポジ肉腫、カルチノイド、食道胃がん、ファローピウス管がん、腹膜がん、漿液性乳頭状ミュラー管がん、悪性腹水、消化管間質腫瘍(GIST)、リー・フラウメニ症候群が挙げられる。
【0028】
これに限定しないが、感染によってNKG2Dリガンドを誘導する細菌は、大腸菌のようなグラム陰性菌やマイコバクテリウムのようなグラム陽性菌が挙げられる。
【0029】
これに限定しないが、感染によってNKG2Dリガンドを誘導するウイルスは、サイトメガロウイルス、インフルエンザウイルス、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、アデノウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、ヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV)およびHIVなどが挙げられる。
【0030】
<2.αβT加工細胞を含む医薬>
本発明の医薬は、上述の本発明の製造方法により製造されたαβT加工細胞を含む、がんを治療・予防するための医薬である。
【0031】
本発明の医薬は、例えば、本発明の製造方法により製造されたαβT加工細胞を医薬品として利用可能な液体(例えば、生理食塩水)に懸濁させた注射剤(細胞懸濁液)である。この注射剤は、静脈内や皮内、皮下などに注射されてもよいし、病変部に直接注入されてもよいし、点滴として全身投与されてもよい。生理学的に許容できる担体または賦形剤を含んでもよい。
【0032】
本発明の医薬は、必須成分として本発明の製造方法により製造されたαβT細胞を含むが、任意成分としてその他の成分を含んでいてもよい。例えば、IL-2などのサイトカインを含んでもよく、抗がん剤などを含んでもよい。これらの薬剤は同時投与であってもよく、一定時間の間隔を空けての連続投与であってもよい。
【0033】
上記抗がん剤はこれに限定されないが、例えば、ゲムシタビン、5-FU、シスプラチン、ドセタキセル、パクリタキセル、ゾレドロン酸、免疫チェックポイント阻害剤等が挙げられる。
【0034】
本発明の医薬に含まれるαβT加工細胞の数は、投与方法や疾患の種類、患者の症状などに応じて適宜設定されうる。通常は、108~1012個/人(好ましくは109個/人)となるように設定すればよい。
【0035】
本発明の医薬の製造方法は、特に限定されない。例えば、本発明の医薬は、1)本発明のαβT加工細胞の製造方法により得られたαβT加工細胞を遠心分離などにより回収し;2)回収したαβT加工細胞を洗浄液(例えば、生理食塩水やPBSなど)で洗浄し;3)洗浄したαβT加工細胞を遠心分離などにより回収し;4)回収したαβT加工細胞を医薬品として利用可能な液体(例えば、生理食塩水)に懸濁させることで、経静脈投与が可能な点滴剤として製造されうる。
【0036】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0037】
実施例1.2DG存在下でのαβT加工細胞の調製
血液のサンプルは、すべての協力機関の倫理審査委員会の承認後に採取した。末梢血単核球(PBMCs)を、健常人ボランティアドナーの血液から単離した。PBMCsを、抗CD3モノクローナル抗体(ヤンセンファーマ株式会社)を固相化した培養容器で、IL-2を175IU/ml含むALyS培地(細胞科学研究所)中にて2週間自家血漿または血清を補って培養した。2DG(SIGMA ALDRICH社)は2mMを加えた。
【0038】
実施例2.
フローサイトメトリーを用いたCD8
+
T細胞サブセットの分布解析
実施例1で調製したαβT加工細胞をフローサイトメーターFACS CantoII(BD Biosciences社)を用いて、解析した。細胞をPBSで洗浄後、遠心して、細胞を2%FBS+5mM EDTA入りのPBSに再懸濁し、セルストレーナーに通して凝集物を除去した。氷上で1時間、PE標識抗CD8抗体(Beckman Coulter社)、FITC標識抗CCR7抗体、PE/Cy5標識抗CD45RO抗体(BioLegend社)と共にインキュベートし、洗浄後、計測した。データは、Kaluza(Beckman Coulter社)ソフトウェアを用いて解析した(
図1)。
【0039】
その結果、2DG処理したαβT加工細胞は、メモリーT細胞(CCR7±CD45RO+)の表現型を示した。
未熟なT細胞(ナイーブT細胞)は、未だ抗原刺激を受けていない、CD45RA抗原を細胞表面に発現しているリンパ球細胞であり、樹状細胞などの抗原提示細胞と遭遇することにより活性化され、エフェクターT細胞となる。
エフェクターT細胞はCD45RA抗原の代わりにCD45RO抗原を細胞表面に発現している。また活性化されたT細胞(エフェクターT細胞)は、病原体などの抗原が排除された後には一部の細胞が、メモリーT細胞となる。
メモリーT細胞は、特異的刺激か非特異的刺激かを問わず、既に抗原刺激を受けてCD45RO抗原を発現しているリンパ球細胞であり、長期に体内で特異的又は非特異的抗原の記憶を維持しながら保存される。メモリーT細胞はさらにエフェクターメモリー(effector memory;EM)T細胞(CCR7陰性CD45RO陽性)とセントラルメモリー(central memory;CM)T細胞(CCR7陽性CD45RO陽性)に分けることができる。
したがって、メモリーT細胞群を主成分として含有する製剤は、体内で長期に維持され、免疫細胞治療において高い治療効果が得られる可能性が高い。
【0040】
実施例3.
2DG処理したαβT加工細胞の細胞傷害活性
3.1.
サイトカイン(IL-2、IFN-γならびにTNFα)ならびにパーフォリンおよびグランザイムBの分泌
実施例1で調製したαβT加工細胞のサイトカイン産生能をBio-plex「ヒトサイトカインG1 27plexパネル」(BioRad社)を用いて測定した(
図2A)。具体的には、実施例1で調製したαβT細胞をIL-2なしのRPMI1640+10%FCS添加培地に置換して培養し、24時間後の培養上清を回収して測定した。
さらにPMA(5ng/ml)とイオノマイシン(0.5μg/ml)刺激による脱顆粒後の培養上清中のパーフォリンおよびグランザイムBをそれぞれHuman Perforin ELISA Kit、Human Granzyme B ELISA Kit(abcam社)を用いて測定した(
図2B)。
【0041】
その結果健常人サンプル4例のうち3例でサイトカイン、パーフォリンおよびグランザイムBの分泌はいずれも、2DG処理により増加した。
IL-2はT細胞を活性化し、IFN-γやTNFαはT細胞からも産生され、抗腫瘍効果を発揮する。パーフォリンはキラーT細胞やNK細胞の細胞質内顆粒中に存在する糖タンパク質であり、標的細胞の膜脂質中に入り込み穴を開けることによって細胞傷害をもたらす。グランザイムBはセリンプロテアーゼの一種で、パーフォリン経由で標的細胞内部に侵入してカスパーゼカスケードを活性化し、標的細胞にアポトーシスやネクローシスを誘導する。
従って、2DG処理したαβT加工細胞の細胞傷害活性は従来法に較べて高い細胞傷害活性を有することが示唆された。
【0042】
3.2.
培養細胞に対するインビトロでの細胞傷害活性
蛍光染色法による細胞傷害活性試験を、テラスキャンVPC2(MINERVA TECH社)を用いて行った。がん細胞株K562(白血病細胞株)、Daudi(バーキットリンパ腫細胞株)および、HOS(骨肉種細胞株)およびDLD1(大腸がん細胞株)を蛍光色素CellstainR-Calcein-AM solution(同仁化学研究所)2.55~5μg/mLで30分間標識した。標識したがん細胞とαβT加工細胞を1:25の割合で混合してRPMI1640+10%FBS(IL-2の添加なし)で2~4時間インキュベートした。細胞傷害活性は、1%NP40(界面活性剤)で処理した時の蛍光減衰率を100%として、αβT加工細胞を共培養したがん細胞の蛍光強度の変化を指標に計算した(
図2C)。
【0043】
その結果、2DG処理したαβT加工細胞は従来法に較べて、Daudi細胞以外の細胞に対する細胞傷害活性が有意に上昇することが示された。
【0044】
実施例4.
細胞傷害性と脱顆粒の関係
上記のように2DG処理したαβT加工細胞は、サイトカイン、パーフォリンおよびグランザイムB等のエフェクター因子の分泌が促進され、細胞傷害活性が亢進していた。細胞傷害性T細胞やNK細胞のエフェクター因子の放出には細胞内小胞に局在するCD107aの細胞表面への露出が脱顆粒の指標となることから、細胞傷害性の異なるがん細胞との共培養によるCD107aの細胞表面上の露出を検出した。
APC標識抗CD107a抗体(BioLegend社)存在下、αβT加工細胞とがん細胞を25:1の割合で混合し、6時間培養した。細胞を洗浄後、PE標識抗CD8抗体(Beckman Coulter社)で染色した。フローサイトメーターFACS CantoII(BD Biosciences社)を用いて測定を行い、データは、Kaluza(Beckman Coulter社)ソフトウェアを用いて解析した(
図2D)。
【0045】
その結果、2DG処理したことにより細胞傷害活性が上昇したK562細胞と混合したαβT加工細胞では、CD107aの細胞表面への露出(すなわちCD8+T細胞の脱顆粒)が促進し、細胞傷害活性が上昇しなかったDaudi細胞と混合したαβT加工細胞では、CD107aの細胞表面への露出が促進していなかった。
【0046】
実施例5.NKG2DとNKG2Dリガンドの影響
上記細胞傷害活性と脱顆粒の関係から、2DG処理によってがん細胞を直接認識した細胞傷害活性が亢進している可能性が考えられた。そこでT細胞に発現するNKG2Dとがん細胞側に発現するNKG2Dリガンドを介した細胞傷害について確認した。
【0047】
5.1.
NKG2Dの発現量
フローサイトメーターFACS CantoII(BD Biosciences社)を用いてCD8
+T細胞表面上のNKG2Dの発現を解析した。細胞をPBSで洗浄後、遠心して、細胞を2%FBS+5mM EDTA入りのPBSに再懸濁し、セルストレーナーに通して凝集物を除去した。氷上で1時間PE標識抗NKG2D抗体、FITC標識抗CD3抗体、PC5標識抗CD8抗体(Beckman Coulter社)と共にインキュベートし、洗浄後、計測した。データは、Kaluza(Beckman Coulter社)ソフトウェアを用いて解析した(
図3A)。
【0048】
その結果、2DG処理(±)のαβT加工細胞のNKG2D発現には差が認められなかった。
【0049】
5.2.
がん細胞におけるNKG2Dリガンドの発現
フローサイトメーターFACS CantoII(BD Biosciences社)を用いて、および各種がん細胞表面におけるNKG2Dリガンドの発現を解析した。各がん培養細胞をPBSで洗浄後、遠心して、細胞を2%FBS+5mM EDTA入りのPBSに再懸濁し、セルストレーナーに通して凝集物を除去した。氷上で1時間抗MIC A/B抗体(BioLegend社)、抗ULBP1抗体、抗ULBP2/5/6抗体、および抗ULBP3抗体(R&D systems社)と共にインキュベートし、洗浄後、FITC標識抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch社)を氷上で30分間反応させ、洗浄後計測した。データは、Kaluza(Beckman Coulter社)ソフトウェアを用いて解析した(
図3B)。
【0050】
その結果、Daudi細胞以外で、NKG2Dリガンドが高発現をしており、NKG2DとNKG2Dリガンドの結合が、細胞傷害活性に関係していることが示唆された。
【0051】
5.3.
抗NKG2D抗体による細胞傷害活性の抑制
がんに対する細胞傷害能にαβT加工細胞上のNKG2Dが関与するか調べるため、αβT加工細胞をがん細胞と共培養する前に60分間抗ヒトNKG2Dブロッキング抗体(R&Dsystems社)又はコントロールとしてアイソタイプ抗体であるマウスIgG1(BioLegend社)と反応させた。細胞傷害活性の測定方法は3.2に準じて行った(
図3C)。
【0052】
その結果、NKG2Dをブロックすることにより、2DG処理したαβT加工細胞の細胞傷害活性は、Daudi細胞以外では顕著に減少した。
【0053】
実施例6.細胞傷害活性と解糖系制御の関係
2DGの効果がαβT加工細胞の解糖系阻害によるものなのか検証するため、2DG以外の解糖系阻害剤であるオキサメートならびに、ブロモピルベート(SIGMA ALDRICH社)を加え、2DGと同様の効果を有するかを検証した。
【0054】
6.1.解糖系阻害剤を添加した際のFACS解析
解糖系阻害剤である、オキサメート(2mM)またはブロモピルベート(10μM)を実施例1のαβT加工細胞調製の際、2DGの代わりに添加して、αβT加工細胞を調製した。調製したαβT加工細胞を実施例2に記載の方法でCD8+T細胞サブセットの分布解析を行った。
【0055】
その結果、解糖系阻害剤であるオキサメート(2mM)またはブロモピルベート(10μM)処理したαβT加工細胞では、2DGのような表現型は示さなかった(
図4A)。
【0056】
6.2.解糖能の評価
2DGは解糖系の阻害剤であることから、2DG以外の解糖系阻害剤であるオキサメートまたはブロモピルベートをαβT加工細胞調製の際、2DGの代わりに添加して、αβT加工細胞を調製し、それらの細胞の解糖能を評価した。
【0057】
XF解糖ストレスキット(アジレントテクノロジーズ社)を用いて、細胞の主要なエネルギー代謝経路である解糖能を評価した。測定には細胞外の水素イオン濃度(mpH/min)の変化をモニターすることでて解糖系≒細胞外酸性化速度(ECAR)として算出する細胞外フラックスアナライザーXF(アジレントテクノロジーズ社)を用いた。解析にはWave(アジレントテクノロジーズ社)ソフトウェアを用いた。
1)Glycolysis:定常状態における解糖能を示した。
2)Glycolytic Capacity:細胞が有する最大限の解糖能を示した。
【0058】
その結果、2DG処理したαβT加工細胞と各阻害剤で処理したαβT加工細胞の解糖系は、同様に阻害されていることを確認した(
図4B)。
【0059】
6.3.培養細胞に対するインビトロでの細胞傷害活性
実施例3の3.2.の方法を用いて、解糖系阻害剤であるオキサメート(2mM)またはブロモピルベート(10μM)処理したαβT加工細胞の各がん細胞に対する傷害活性を調べた。
【0060】
その結果、オキサメートおよびブロモピルベートで処理したαβT加工細胞は、2DG処理していない細胞と比較して細胞傷害活性の増強は認められなかった(
図4C)。
従って2DG処理によるαβT加工細胞の細胞傷害活性の増強には解糖系阻害以外の機構の関与が示唆された。
【0061】
実施例7.細胞傷害活性と糖鎖修飾の関係
2DGはマンノースと類似の構造を有することによってN結合型糖鎖を構成するマンノースの付加反応を阻害することが知られている。そこで2DGの効果がαβT加工細胞の糖鎖修飾への影響によるものなのか検証するため、2DG処理によるαβT加工細胞の糖鎖の変化ならびに、マンノースを加えて2DGの効果が抑制されるか検証した。
【0062】
7.1.
細胞表面糖鎖のLC-MS質量分析解析
αβT加工細胞から、BlotGlyco(住友ベークライト社)を用いて糖鎖を精製、ラベル化し、LC-MS質量分析解析を行った(
図5A)。ピークの番号の細胞あたりの糖鎖量(fmol)と糖鎖の推定構造を表1に示す。
【表1】
【0063】
糖鎖解析の結果、2DG処理の効果は、Nグリカンの前駆体である、(Hex)3(Man)9(GlcNAc)2の合成抑制というよりも、主として、デオキシへソース(Deoxyhexose)が導入された成熟分枝Nグリカンが異常に増えていることが示された。従って、2DGで処理されたαβT加工細胞のNグリコシル化された表面タンパク質は、様々なリガンドに対する親和性が変化していることが示唆された。
【0064】
7.2.D-マンノースによる2DG処理αβT加工細胞の細胞傷害活性の抑制
2DGは糖鎖修飾の際のマンノース付加を競合的に阻害することが報告されている。それ故、2DG処理αβT細胞加工にD-マンノースを追加することで細胞傷害活性能が抑制されるか検討した。
実施例1の調製の際、D-マンノース(SIGMA ALDRICH社)またはL-マンノース(東京科成工業)を2mM添加してαβT加工細胞を調製し、3.2の方法で、細胞傷害活性を測定した。
【0065】
その結果、D-マンノースを加えると2DGの効果が減じることがわかった。一方でD-マンノースの異性体であるL-マンノースを添加しても2DGの細胞傷害活性に影響はなかった(
図5B)。
【0066】
7.3.D-マンノースによる2DG処理αβT加工細胞の細胞内パーフォリン産生抑制
次にマンノースが2DG処理αβT加工細胞の細胞内パーフォリン量の増加を阻害するか検証した。実施例1の調製の際、D-マンノース(SIGMA ALDRICH社)またはL-マンノース(東京科成工業)を2mM添加してαβT加工細胞を調製し、細胞をIntraPrep Permeabilization Reagent(Beckman Coulter社)にて処理し、細胞内パーフォリンの発現量をAPC標識抗パーフォリン抗体を用いて染色した。フローサイトメーターFACS CantoII(BD Biosciences社)にて測定を行い、データは、Kaluza(Beckman Coulter社)ソフトウェアを用いて解析した。Mean Fluorescence Intensity(MFI)値は平均蛍光強度で発現量を反映する。
【0067】
その結果、D-マンノースを加えると2DGの効果が減じることがわかった。一方でL-マンノース添加による影響は無かった。(
図5C)。また、データは示さないが細胞内グランザイムBについても同様の結果であった。
【0068】
7.4.2DGによるIL-2受容体発現誘導
エフェクター細胞の細胞内パーフォリン、グランザイムBはT細胞上のIL-2受容体からの刺激によって発現誘導されることが知られている。そこでIL-2受容体の発現を確認した。7.3.で調製したαβT加工細胞をPBSで洗浄後、遠心して、細胞を2%FBS+5mM EDTA入りのPBSに再懸濁し、セルストレーナーに通して凝集物を除去した。氷上で1時間PE/Cy5標識抗IL-2R抗体(BioLegend社)およびFITC標識抗CD3抗体(Beckman Coulter社)と共にインキュベートし、洗浄後、フローサイトメーターFACS CantoII(BD Biosciences社)にて測定を行った。データは、Kaluza(Beckman Coulter社)ソフトウェアを用いて解析した。
【0069】
その結果、2DG処理したαβT加工細胞はIL-2受容体の細胞表面への発現が上昇しており、D-マンノースによりその発現が抑えられることが示唆された(
図5D)。
【0070】
7.5.
インターフェロンγの分泌誘導
2DGで培養したαβ加工細胞のIL-2受容体発現が上昇していたことから、IL-2を介した細胞応答も上昇するのか確認した。2DGなし(cont)、2DG存在下(2DG)、2DGとD-マンノース存在下(2DG+D-Man)又は2DGとL-マンノース存在下(2DG+L-Man)で培養したαβT加工細胞を回収し、IL-2なしのRPMI1640培地+10%FCSにて24時間前培養した後、再度IL-2(0、50、250IU/ml、ニプロ社)添加RPMI1640培地+10%FCSにて培養した。24時間後の培養上清を回収し、IFN-γ産生量をELISA Kit(abcam社)で測定した(
図5E)。
【0071】
7.6.
2DGによるIL-2受容体遺伝子発現誘導
2DGによるIL-2受容体の発現量の変化がタンパク質発現レベルで制御を受けているのか遺伝子発現レベルで制御されているのかを確認した。2DGなし(cont)、2DG存在下(2DG)、2DGとD-マンノース存在下(2DG+D-Man)又は2DGとL-マンノース存在下(2DG+L-Man)で培養したαβT加工細胞からRNAを抽出し、逆転写酵素(Superscript III、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)でcDNAを合成した。各条件のcDNAを用いてIL-2受容体αの遺伝子発現量をリアルタイムPCRシステム ViiA7(アプライドバイオシステムズ社)にて測定した。各サンプルのIL-2受容体αの発現量は内在性コントロールβ-アクチンで補正した後、contを1として相対値をグラフ化した(
図5F)。
【0072】
実施例8.ガレクチン-3による細胞傷害活性の抑制
ガレクチン-3はβ-ガラクトシドに親和性を持つ糖認識ドメインを1つ以上有するガレクチンファミリーの1つであり、がん細胞から分泌され、血管新生を誘導するだけでなくCD8陽性T細胞上の糖鎖修飾受容体に結合して細胞の不応答またはアポトーシスを誘導する。2DGの効果がαβT加工細胞の細胞表面上の糖鎖修飾を変化させるものであるため、2DG処理したαβT加工細胞に対する、ガレクチン-3の影響に変化があるかを調べた。
【0073】
8.1.ガレクチン-3結合能
2DG処理(±)のαβT加工細胞がガレクチン-3と結合するか検証した。0~4mMの2DG添加で培養したαβT加工細胞にリコンビナントガレクチン-3(BBI Solutions社)を加え、4℃で30分、インキュベート後、抗ガレクチン-3抗体(LifeSpan BioScience社)と反応させ、FITC標識抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch社)でガレクチン-3結合能を検出した。尚、ガレクチン-3結合の実験コントロールとしてガレクチンの糖鎖への結合を阻害するラクトース(SIGMA ALDRICH社)0.1M添加条件をおいた。フローサイトメーターFACS CantoII(BD Biosciences社)にて測定を行い、データはKaluza(Beckman Coulter社)ソフトウェアを用いて解析した。
【0074】
その結果、2DG処理ののαβT加工細胞は2DGなし(cont)と比べてガレクチンの結合能が低下しており、2DGの濃度依存的にガレクチン-3との結合能が減少することが示唆できた(
図6A)。
【0075】
8.2.ガレクチン-3によるアポトーシス誘導
0.1Mラクトース(SIGMA ALDRICH社)(±)の条件下で、αβT加工細胞を3μMリコンビナントガレクチン-3(BBI Solutions社)で刺激した。細胞をPBSで洗浄後、ANNEXIN V-FITC Apoptosis Detection Kit(ナカライテスク社)を用いてPropidium Iodide (PI)(死細胞検出用)とFITC標識AnnexinV(アポトーシス検出用)で染色した。フローサイトメーターFACS CantoII(BD Biosciences社)にて測定を行い、データはKaluza(Beckman Coulter社)ソフトウェアを用いて解析した。蛍光標識(FITC)-AnnexinVは細胞膜の内側に存在する膜リン脂質(フォスファチジルセリン:PS)と強い親和性を有するするため、アポトーシスによってPSが細胞膜表面に露出するとAnnexinVが結合する。DNAと結合するPIは細胞膜の損傷がない場合、細胞内に取り込まれない。後期のアポトーシス細胞はAnnexinVとPIの両方に染まる。
【0076】
その結果、ガレクチン-3によるアポトーシス誘導が2DG処理したαβT加工細胞では起こりにくいことが示唆された(
図6B)。従って、2DG処理したαβT加工細胞は腫瘍環境においてもガレクチンを介したがん細胞の免疫からのエスケープ機能を回避することが期待でき、従来のαβT加工細胞より、腫瘍内において抗腫瘍効果を発揮することが期待できる。
【0077】
実施例9.
免疫不全マウスモデルを用いたin-vivo抗腫瘍作用
免疫不全マウス(NOGマウス)(6~8週齢)を日本チャールズリバーより購入し、大阪大学動物実験委員会のガイドラインに従って、特定の病原体を含まない条件下で飼育した。0日目に、PBS200μl中の200万個のヒトがん細胞(K562-Luc)を全マウスに尾静脈注射した。続いて、2DG処理したαβT加工細胞(
図7の2DG群:7匹のNOGマウス)、又は2DG処理していないαβT加工細胞(
図7のcont群:6匹のNOGマウス)を、マウスあたり2000万個細胞の用量で週一回(0日目、7日目、14日目、21日目(
図7Bの▲))静脈内注射した。Vehicle群(6匹のNOGマウス)には、PBS200μlを0日目、7日目、14日目、21日目に静脈内注射した。
腫瘍のサイズは、In vivo Imaging System(IVIS)(住商ファーマ社)にて28日目に測定し、比較検討した(
図7A)。なお、Cont群において27日目にマウス1匹が死亡したため、Cont群のIVIS測定は5匹で行った。また、生存期間についても比較検討した(
図7B)。なお、28日目以降のCont群とVehicle群の生存率変化は同じ動向を示し、32日目に生存率0となった。
【0078】
2DG処理したαβT加工細胞を注入したマウス(2DG群)は、PBSで処理したNOGマウス(Vehicle群)よりも有意に低い腫瘍サイズを示した(
図7A)。さらに、2DG処理したαβT加工細胞の注入は、2DG処理していないαβT加工細胞(Cont)およびPBS(Vehicle)で処置したマウスと比較してNOGマウスの生存を有意に延長した(
図7B)。したがって、2DG処理したαβT加工細胞はIn vivoでの抗腫瘍細胞効果を促進した(
図7A、
図7B)。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本願発明を用いることにより、直接薬剤を投与するよりも、特定のNKG2Dリガンドを発現しているがんに対して、特異的かつ選択的にがん免疫療法を提供することができる。さらに、αβT加工細胞の細胞表面上の糖鎖修飾を変化させることにより、体内に投与された場合、腫瘍環境におけるエフェクター機能抑制を回避することが期待できる。