(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】ウエーハの加工方法、及びフレーム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20231030BHJP
【FI】
H01L21/78 Q
H01L21/78 N
(21)【出願番号】P 2019208984
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】木内 逸人
(72)【発明者】
【氏名】原田 成規
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-076043(JP,U)
【文献】特開2018-082086(JP,A)
【文献】特開2016-104576(JP,A)
【文献】特開2000-150424(JP,A)
【文献】米国特許第08445361(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハを個々のデバイスチップに分割するウエーハの加工方法であって、
ウエーハを収容する開口部を中央に備え表面と裏面とを有するリング状の本体と、該本体に形成され表面から裏面に至る複数の貫通口と、該貫通口に対応して外周部に形成されたシートを折り返す折り返し部と、から構成されるフレームを準備するフレーム準備工程と、
ウエーハを該フレームよりも大き
く貼着面に糊層が形成されていない熱圧着シートの中央部に位置付けて圧着するウエーハ圧着工程と、
該フレームを熱圧着シート
の該貼着面に敷設する熱圧着シート敷設工程と、
熱圧着シートの外周を該フレームの折り返し部で折り返し該本体の表面と裏面とに位置付けられた熱圧着シート同士を、該貫通口を介して圧着するフレーム圧着工程と、
ウエーハの表面に形成された分割予定ラインを加工してウエーハを個々のデバイスチップに分割する分割工程と、
該熱圧着シートから個々のデバイスチップをピックアップするピックアップ工程と、
から少なくとも構成されるウエーハの加工方法。
【請求項2】
該分割工程において実施される該加工は、切削ブレードを回転可能に備えた切削手段によってウエーハの分割予定ラインを分割する切削加工、又はレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段によってウエーハの分割予定ラインを分割するレーザー加工のいずれかを含む、請求項1に記載のウエーハの加工方法。
【請求項3】
該熱圧着シートは、ポリオレフィン系シート、又はポリエステル系シートであり、
該ポリオレフィン系シートは、ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート、ポリスチレンシートのいずれかであり、
該ポリエステル系シートは、ポリエチレンテレフタレートシート、ポリエチレンナフタレートシートのいずれかである請求項1、又は2に記載のウエーハの加工方法。
【請求項4】
該ウエーハ圧着工程において熱圧着シートを加熱する際の加熱温度は、該熱圧着シートとしてポリエチレンシートが選択された場合は120℃~140℃であり、ポリプロピレンシートが選択された場合は160℃~180℃であり、ポリスチレンシートが選択された場合は220℃~240℃であり、ポリエチレンテレフタレートシートが選択された場合は250℃~270℃であり、ポリエチレンナフタレートが選択された場合は160℃~180℃である請求項3に記載のウエーハの加工方法。
【請求項5】
シートを介してウエーハを支持するフレームであって、
ウエーハを収容する開口部を中央に備えた表面と裏面とを有するリング状の本体と、
該本体に形成され表面から裏面に至る複数の貫通口と、
該貫通口に対応して外周部に形成されシートを折り返す折り返し部と、
から構成されるフレーム。
【請求項6】
該折り返し部は、直線で形成され、複数の折り返し部により該本体の外形が多角形で構成される請求項5に記載のフレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハを個々のデバイスチップに分割するウエーハの加工方法、及びウエーハの加工方法に好適なフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが、分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハは、切削ブレードを回転可能に備えた切削装置、又はレーザー光線を照射して加工を施すレーザー加工装置によって個々のデバイスに分割され、携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
また、ウエーハは、切削装置、又はレーザー加工装置に搬入される前にウエーハを収容する開口部を有するフレームの該開口部に位置付けられ裏面からダイシングテープが貼着されてダイシングテープによってフレームと一体化される。そして、フレームと一体にされたウエーハは、切削装置、又はレーザー加工装置によって個々のデバイスチップに分割され、その後、ウエーハの形態を保った状態でピックアップ工程に搬送されて、ダイシングテープから個々のデバイスチップがピックアップされて配線基板等にボンディングされる(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、ダイシングテープとしては、例えば、塩化ビニルシートが採用されており、塩化ビニルシートを使用する場合は、塩化ビニルシートの上面に糊層を敷設して粘着力を付与し、糊層を有する塩化ビニルシートを介してウエーハ及びフレームを一体とする。しかし、糊層を有する塩化ビニルシートを使用してウエーハとフレームを一体として切削ブレードでウエーハを切削すると、糊層を構成する糊剤が切削水と共に飛散してデバイスの表面に付着し、デバイスの品質を低下させるという問題がある。また、レーザー光線の照射によってウエーハを個々のデバイスチップに分割する場合、糊層の一部がデバイスチップの裏面に付着してデバイスの品質を低下させるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、ウエーハをフレームと一体化して個々のデバイスチップに分割する際にデバイスの品質を低下させないウエーハの加工方法、及び該ウエーハの加工方法に好適なフレームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハを個々のデバイスチップに分割するウエーハの加工方法であって、ウエーハを収容する開口部を中央に備え表面と裏面とを有するリング状の本体と、該本体に形成され表面から裏面に至る複数の貫通口と、該貫通口に対応して外周部に形成されたシートを折り返す折り返し部と、から構成されるフレームを準備するフレーム準備工程と、ウエーハを該フレームよりも大きく貼着面に糊層が形成されていない熱圧着シートの中央部に位置付けて圧着するウエーハ圧着工程と、該フレームを熱圧着シートの該貼着面に敷設する熱圧着シート敷設工程と、熱圧着シートの外周を該フレームの折り返し部で折り返し該本体の表面と裏面とに位置付けられた熱圧着シート同士を、該貫通口を介して圧着するフレーム圧着工程と、ウエーハの表面に形成された分割予定ラインを加工してウエーハを個々のデバイスチップに分割する分割工程と、該熱圧着シートから個々のデバイスチップをピックアップするピックアップ工程と、から少なくとも構成されるウエーハの加工方法が提供される。
【0008】
該分割工程において実施される該加工は、切削ブレードを回転可能に備えた切削手段によってウエーハの分割予定ラインを分割する切削加工、又はレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段によってウエーハの分割予定ラインを分割するレーザー加工のいずれかを含むことが好ましい。
【0009】
該熱圧着シートは、ポリオレフィン系シート、又はポリエステル系シートであり、該ポリオレフィン系シートは、ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート、ポリスチレンシートのいずれかであり、該ポリエステル系シートは、ポリエチレンテレフタレートシート、ポリエチレンナフタレートシートのいずれかであることが好ましく、該ウエーハ圧着工程において熱圧着シートを加熱する際の加熱温度は、該熱圧着シートとしてポリエチレンシートが選択された場合は120℃~140℃であり、ポリプロピレンシートが選択された場合は160℃~180℃であり、ポリスチレンシートが選択された場合は220℃~240℃であり、ポリエチレンテレフタレートシートが選択された場合は250℃~270℃であり、ポリエチレンナフタレートが選択された場合は160℃~180℃であることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、シートを介してウエーハを支持するフレームであって、ウエーハを収容する開口部を中央に備えた表面と裏面とを有するリング状の本体と、該本体に形成され表面から裏面に至る複数の貫通口と、該貫通口に対応して外周部に形成されシートを折り返す折り返し部と、から構成されるフレームが提供される。該折り返し部は、直線で形成され、複数の折り返し部により該本体の外形が多角形で構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のウエーハの加工方法は、複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハを個々のデバイスチップに分割するウエーハの加工方法であって、ウエーハを収容する開口部を中央に備え表面と裏面とを有するリング状の本体と、該本体に形成され表面から裏面に至る複数の貫通口と、該貫通口に対応して外周部に形成されたシートを折り返す折り返し部と、から構成されるフレームを準備するフレーム準備工程と、ウエーハを該フレームよりも大きく貼着面に糊層が形成されていない熱圧着シートの中央部に位置付けて圧着するウエーハ圧着工程と、該フレームを熱圧着シートの該貼着面に敷設する熱圧着シート敷設工程と、熱圧着シートの外周を該フレームの折り返し部で折り返し該本体の表面と裏面とに位置付けられた熱圧着シート同士を、該貫通口を介して圧着するフレーム圧着工程と、ウエーハの表面に形成された分割予定ラインを加工してウエーハを個々のデバイスチップに分割する分割工程と、該熱圧着シートから個々のデバイスチップをピックアップするピックアップ工程と、から少なくとも構成されることにより、熱圧着シートの貼着面に糊層がなく、切削手段、又はレーザー光線照射手段を用いてウエーハを分割しても、糊剤がデバイスに付着してデバイスの品質を低下させることがない。
【0012】
本発明のフレームは、ウエーハを収容する開口部を中央に備えた表面と裏面とを有するリング状の本体と、該本体に形成され表面から裏面に至る複数の貫通口と、該貫通口に対応して外周部に形成されシートを折り返す折り返し部と、から構成されていることにより、熱圧着シートを使用しても、熱圧着シートをフレームに確実に固定することが可能となり、上記したウエーハの加工方法を適切に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態のウエーハの加工方法に好適なフレームの斜視図である。
【
図2】ウエーハ圧着工程においてウエーハを保持テーブルに載置する態様を示す斜視図である。
【
図3】(a)ウエーハを熱圧着シートの中央部に位置付ける態様を示す斜視図、(b)ウエーハを熱圧着シートの中央部に圧着する態様を示す斜視図である。
【
図4】フレームを熱圧着シートに敷設する熱圧着シート敷設工程の実施態様を示す斜視図である。
【
図5】熱圧着シートの外周をフレームの折り返し部で折り返す態様を示す斜視図である。
【
図6】(a)熱圧着シートの外周が折り返し部で折り返されたフレームと、フレーム圧着工程に使用する超音波溶着機の概略を示す斜視図、(b)フレームの本体の表面と裏面とに位置付けられた熱圧着シート同士を、貫通口を介して圧着する態様を示す側面図(一部断面図)である。
【
図7】(a)ウエーハを切削して分割する分割工程の実施態様を示す斜視図、(b)個々のデバイスチップに分割されたウエーハを示す斜視図である。
【
図8】ピックアップ工程の実施態様を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に基づいて実施されるウエーハの加工方法、及び該ウエーハの加工方法に好適なフレームに係る実施形態について添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0015】
図1には、本実施形態のウエーハの加工方法に好適なフレーム10の斜視図が示されている。フレーム10は、被加工物であるウエーハを収容可能な開口部13を中央に備え表面10aと裏面10bとを有するリング状の本体12と、本体12に形成され表面10aから裏面10bに至る複数の貫通口14と、貫通口14に対応して外周部に形成され後述するシートをフレーム10に貼着する際に該シートを折り返す複数の折り返し部16と、を備えている。折り返し部16は、
図1に示すように、本体12に形成された貫通口14の配列に沿って、本体12の外周に直線状に形成されることが好ましい。なお、本実施形態のフレーム10は、本体12の外周部に直線状に形成された複数の折り返し部16が形成され、該複数の折り返し部16によって正八角形が構成されている。しかし、本発明は、フレーム10の形状を、上記した正八角形とすることに限定されず、例えば、正六角形であってもよいし、他の多角形であってもよい。
【0016】
本実施形態における被加工物は、
図2に示すように、複数のデバイス22が分割予定ライン24によって区画され表面20aに形成されたウエーハ20である。以下に、本実施形態のウエーハの加工方法に従って、ウエーハ20を分割予定ライン24に沿って切断し、個々のデバイスチップに分割する手順について説明する。
【0017】
本実施形態のウエーハの加工方法を実施するに際し、まず、
図1に基づき説明した上記のフレーム10を準備する(フレーム準備工程)。フレーム準備工程を実施したならば、次いで、
図2、
図3に参照しながら以下に説明するウエーハ圧着工程を実施する。
【0018】
ウエーハ圧着工程を実施するに際し、まず、
図2に示す熱圧着装置30(一部のみ示している)にウエーハ20を搬送し、ウエーハ20を反転し表面20aを下方に向けて、熱圧着装置30の保持テーブル32の吸着面34の中央に載置する。吸着面34は、保持テーブル32の枠部32aに囲繞されており、通気性を有する部材、例えばポーラスセラミックスから構成されている。保持テーブル32は、図示しない吸引源に接続されており、該吸引源によって吸着面34上に負圧が作用される。なお、本実施形態では、ウエーハ20の表面20a側を下方に向けて保持テーブル32に保持したが、本発明はこれに限定されず、ウエーハ20を反転せずに、裏面20b側を下方に向けて保持テーブル32上に保持させるものであってもよい。
【0019】
吸着面34上にウエーハ20を載置したならば、
図3(a)に示すように、予め用意した熱圧着シートTを上方から敷設する。熱圧着シートTは、上記したフレーム10よりも大きいサイズであり、熱圧着シートTの中心とウエーハ20の中心とが一致するように載置することで、ウエーハ20が熱圧着シートTの中央部に位置付けられる。また、熱圧着シートTは、保持テーブル32の吸着面34よりも大きいものが選択される。
【0020】
本実施形態において使用される熱圧着シートTは、加熱することにより粘着力を発揮するシートであり、ポリオレフィン系シート、又はポリエステル系シートが好適である。ポリオレフィン系シートを採用する場合は、ポリエチレン(PE)シート、ポリプロピレン(PP)シート、ポリスチレン(PS)シートのいずれかから選択され、ポリエステル系シートを採用する場合は、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート、ポリエチレンナフタレート(PEN)シート、のいずれかから選択されることが好ましい。本実施形態においては、熱圧着シートTとして、上記した例の中からポリエチレンシートが選択されているものとして以下に説明する。なお、熱圧着シートTのウエーハ20と対向する貼着面には糊層は形成されていない。
【0021】
保持テーブル32上に熱圧着シートTを敷設したならば、
図3(b)に示すように、図示しない吸引源を作動して、保持テーブル32を介して負圧Vmを作用させ、吸着面34上に載置されたウエーハ20、及び熱圧着シートTを吸引する。次いで、
図3(b)に示すように、熱圧着シートT上に、加熱ローラ36を位置付ける。加熱ローラ36は矢印R1で示す方向に回転可能に保持されており、加熱ローラ36の表面36aには、熱圧着シートTが加熱されて粘着力を発揮しても付着しないように、フッ素樹脂がコーティングされている。加熱ローラ36の内部には、電気ヒータ及び温度センサが内蔵(図示は省略する)されており、別途用意される制御手段(図示は省略する)によって、加熱ローラ36の表面36aが所望の温度に調整される。
【0022】
加熱ローラ36を熱圧着シートT上に位置付けたならば、熱圧着シートTを加熱ローラ36で加熱しながら押圧し、
図3(b)に示すように、加熱ローラ36を矢印R1で示す方向に回転させながら、熱圧着シートTの表面に沿って矢印R2で示す方向に移動させる。加熱ローラ36によって熱圧着シートTを加熱する際の加熱温度は、120℃~140℃の範囲に設定される。この加熱温度は、熱圧着シートTを構成するポリエチレンシートの融点近傍の温度であり、熱圧着シートTが過度に溶融せず、且つ軟化して粘着性を発揮する温度である。熱圧着シートTが押圧される際には、保持テーブル32を介して吸着面34上に負圧Vmが作用しており、ウエーハ20の裏面20bと熱圧着シートTとの間に残存していた空気が完全に吸引除去されて、ウエーハ20の裏面20bと熱圧着シートTとが密着して圧着されて一体とされる。以上により、ウエーハ圧着工程が完了する。
【0023】
上記したようにウエーハ圧着工程が完了したならば、次いで、
図4に示すように、熱圧着シートTと一体にされたウエーハ20を適宜の作業テーブル40に搬送し、作業テーブル40の上面40a上に、熱圧着シートTを下方に、ウエーハ20の表面20a側を上方に向けて載置し、ウエーハ20がフレーム10の開口部13の中央に位置付けられるように、フレーム10を熱圧着シートT上に敷設する(熱圧着シート敷設工程)。なお、本実施形態では、フレーム10を熱圧着シートT上に敷設すべく、ウエーハ20が圧着された熱圧着シートTを作業テーブル40に搬送したが、本発明はこれに限定されず、例えば、上記したウエーハ圧着工程を実施すると共に、保持テーブル32上において熱圧着シート敷設工程を実施し、フレーム10を熱圧着シートTに敷設してもよい。
【0024】
上記したように、熱圧着シートTは、フレーム10よりも大きく設定されている。したがって、熱圧着シートTの外周には、
図5に示すように、フレーム10の折り返し部16から外方にはみ出した折り返し面Taが形成される。そして、折り返し面Taをフレーム10の外周部に形成された全ての折り返し部16に沿って全周にわたり表面10aに当接するように折り返す。なお、熱圧着シート敷設工程を実施した際に、熱圧着シートTの外周に形成される折り返し面Taのはみ出し量は、
図6(a)に示すように、折り返し部16に沿って折り返した際に、フレーム10の本体12に形成された貫通口14を覆うように設定される。
【0025】
図6(a)に示すように、熱圧着シートTの折り返し面Taをフレーム10の折り返し部16に沿って折り返したならば、フレーム10の本体12の表面10aと裏面10bとに位置付けられた熱圧着シートT同士を、該貫通口14を介して圧着する。該圧着を実施する際には、例えば、
図6(a)に示す超音波溶着機50を使用することができる。超音波溶着機50は、上部ハンドル52aと、下部ハンドル52bとを含むハンドル52と、超音波ホーン54と、受け台56とを備えている。上部ハンドル52aの内部には、例えば20kHzの電気信号によって振動する振動子(図示は省略する)が配設されており、該振動子に連結された超音波ホーン54を20kHzの周波数で振動させる。ハンドル52を握ることで、超音波ホーン54の下端面54aと、受け台56の上端面56aとが当接する。
【0026】
超音波ホーン54の下端面54a及び受け台56の上端面56aは、いずれもフレーム10の本体12に形成された貫通口14よりも小さい径で設定されており、
図6(b)に示すように、超音波ホーン54及び受け台56を貫通口14の上下に位置付けて、フレーム10の表面10aと裏面10bとに位置付けられた熱圧着シートT同士を、貫通口14を介して超音波ホーン54の下端面54aと受け台56の上端面56aとによって挟み込む。超音波ホーン54から熱圧着シートTに伝達された振動子の振動エネルギーによって超音波ホーン54と受け台56とによって挟まれた熱圧着シートTの境界面では強力な摩擦熱が発生し、熱圧着シートTの溶融温度近傍まで瞬時に上昇し、貫通口14において熱圧着シートT同士が圧着される。このような圧着加工を、フレーム10の本体12に形成された全ての貫通口14に対して実施し、熱圧着シートTがフレーム10に固定されて、フレーム圧着工程が完了する。上記したウエーハ圧着工程、熱圧着シート敷設工程、フレーム圧着工程を実施することで、フレーム10、ウエーハ20、及び熱圧着シートTが一体とされる。なお、上記した実施形態では、先にウエーハ圧着工程を実施した後、熱圧着シート敷設工程、及びフレーム圧着工程を実施したが、本発明は、この工程順に限定されない。例えば、ウエーハ20がまだ圧着されていない熱圧着シートTとフレーム10とにより、上記した熱圧着シート敷設工程、及びフレーム圧着工程を実施し、その後、ウエーハ20を熱圧着シートTの中央部に位置付けて圧着するウエーハ圧着工程を実施するようにしてもよい。
【0027】
上記したように、ウエーハ圧着工程、熱圧着シート敷設工程、及びフレーム圧着工程を実施し、熱圧着シートTを介してフレーム10とウエーハ20とを一体としたならば、ウエーハ20を、
図7(a)に示す切削装置60(一部のみ示している)に搬送し、後述する分割工程を実施する。
【0028】
切削装置60は、図示を省略するウエーハ20を吸引保持するためのチャックテーブルと、切削手段61とを備えている。切削手段61は、スピンドルハウジング62に支持された回転スピンドル63の先端部に固定され外周に切り刃を有する切削ブレード64と、切削ブレード64を保護するブレードカバー65とを備えている。ブレードカバー65には、切削ブレード64に隣接する位置に切削水供給手段66が配設されており、ブレードカバー65を介して導入される切削水を切削位置に向けて供給する。回転スピンドル63の他端側には図示しないモータ等の回転駆動源が配設されており、該回転駆動源よって回転スピンドル63を回転させることにより切削ブレード64が矢印で示す方向に回転させられる。
【0029】
上記した切削装置60によって分割工程を実施するには、まず、アライメント用の撮像手段(図示は省略する)を用いて、該チャックテーブルに保持されたウエーハ20を撮像し、ウエーハ20の表面20aに形成された加工すべき領域、すなわち分割予定ライン24を検出する。分割予定ライン24を検出し、その位置情報を適宜の制御手段(図示は省略する)に記憶したならば、該分割予定ライン24の位置情報に基づいて、該チャックテーブルに保持されたウエーハ20と、切削手段61とを相対的に移動させて加工送りすることで、ウエーハ20の分割予定ライン24に沿って切削溝100を形成する切削加工を実施する。その結果、
図7(b)に示すように、ウエーハ20上の全ての分割予定ライン24に沿って切削溝100を形成することで、ウエーハ20が個々のデバイスチップ22’に分割されて分割工程が完了する。
【0030】
該分割工程を実施したならば、次いで、熱圧着シートTから個々のデバイスチップ22’をピックアップするピックアップ工程を実施する。ピックアップ工程を実施するに際し、分割工程が実施されたウエーハ20を
図8に示すピックアップ装置80に搬送する。ピックアップ装置80は、昇降可能に構成されたフレーム保持部材81と、その上面部にフレーム10を載置してフレーム10を保持するクランプ82と、クランプ82により保持されたフレーム10に保持されたウエーハ20を拡張するため少なくとも上方が開口した円筒形状からなる拡張ドラム83と、拡張ドラム83を囲むように設置された複数のエアシリンダ84a及びエアシリンダ84aから延びるピストンロッド84bから構成される支持手段84と、ピックアップコレット85と、拡張ドラム83内に位置付けられ、プッシュロッド86aを有するエアシリンダ86と、を備えている。エアシリンダ86は、ピックアップコレット85の先端吸引部85aと同期して平面方向で移動可能に構成されている。ピックアップコレット85には図示しない吸引手段が接続されており、ピックアップコレット85の先端部85aからデバイスチップ22’を吸引する。
【0031】
拡張ドラム83は、フレーム10の開口部13の内径よりも小さく、熱圧着シートTに圧着されたウエーハ20の外径よりも大きく設定されている。ここで、
図8に示すように、ピックアップ装置80は、フレーム保持部材81と、拡張ドラム83の上面部が略同一の高さになる位置(点線で示す)と、支持手段84の作用によりフレーム保持部材81が下降させられ、拡張ドラム83の上端部が、フレーム保持部材81の上端部よりも相対的に高くなる位置(実線で示す)と、にすることができる。
【0032】
フレーム保持部材81を下降させて、拡張ドラム83の上端を、点線で示す位置から、実線で示す高い位置になるように相対的に変化させると、フレーム10に圧着された熱圧着シートTは拡張ドラム83の上端縁によって拡張させられる。ここで、ウエーハ20は、上記した分割工程において個々のデバイスチップ22’に分割されており、熱圧着シートTが拡張されてウエーハ20に放射状に引張力が作用することによりデバイスチップ22’同士の間隔が広げられる。
【0033】
上記したように、デバイスチップ22’同士の間隔が広げられたならば、ピックアップコレット85と、エアシリンダ86とをピックアップする所望のデバイスチップ22’の位置に移動させて、間隔が広げられた状態のデバイスチップ22’の下方からプッシュロッド86aの作用により上昇させ、ピックアップコレット85の先端部85aで吸着して、熱圧着シートT上からピックアップする。熱圧着シートTからピックアップされたデバイスチップ22’は、次工程に搬送されるか、又は、図示しない収容ケースに収容される。以上により、ピックアップ工程が完了し、本実施形態のウエーハの加工が完了する。なお、上記の説明において参照した本実施形態を示す各図の寸法、及び角度は、説明の都合上適宜調整されており、実際の寸法比、及び角度を正確に示すものではない。
【0034】
上記した実施形態では、分割工程を、切削ブレード64を備えた切削装置60によって実施する例を示したが、本発明はこれに限定されず、他の加工装置によって該分割工程を実施するものであってもよい。他の加工装置には、例えば、分割予定ライン24に沿ってレーザー光線を照射して、ウエーハ20の表面にアブレーション加工を施すレーザー加工装置や、ウエーハ20の内部にレーザー光線の集光点を位置付けて改質層を形成するレーザー加工装置等が含まれる。
【0035】
また、上記した実施形態では、フレーム圧着工程において超音波溶着機50を使用して、超音波ホーン54と受け台56とによって挟まれた熱圧着シートTの境界面で摩擦熱を発生させて、フレーム10の本体12の貫通口14において熱圧着シートT同士を圧着させたが、本発明はこれに限定されず、加熱用の電気ヒータ等によって貫通口14に位置付けられた熱圧着シートTを加熱、押圧することにより圧着するようにしてもよい。
【0036】
上記した実施形態では、熱圧着シートTをポリエチレンシートとしたが、本発明はこれに限定されず、ポリオレフィン系のシート、又はポリエステル系のシートから適宜選択することができる。
【0037】
熱圧着シートTを、ポリオレフィン系のシートから選択する場合、上記した実施形態において選択されたポリエチレンシートの他に、ポリプロピレンシート、ポリスチレンシートのいずれかから選択することができ、熱圧着シートTとしてポリプロピレンシートを選択した場合は、上記したウエーハ圧着工程を実施する際の加熱温度を160℃~180℃とすることが好ましい。また、熱圧着シートTとしてポリスチレンシートを選択した場合は、ウエーハ圧着工程を実施する際の加熱温度を220℃~240℃とすることが好ましい。
【0038】
さらに、熱圧着シートTを、ポリエステル系のシートから選択する場合には、ポリエチレンテレフタレートシート、ポリエチレンナフタレートシートのいずれかから選択することができ、熱圧着シートTとしてポリエチレンテレフタレートシートを選択した場合は、ウエーハ圧着工程を実施する際の加熱温度を250℃~270℃とすることが好ましい。また、熱圧着シートTとしてポリエチレンナフタレートシートを選択した場合は、ウエーハ圧着工程を実施する際の加熱温度を160℃~180℃とすることが好ましい。
【0039】
上記した実施形態によれば、熱圧着シートTを使用してフレーム10とウエーハ20とを一体としていることから、熱圧着シートTの貼着面に糊層がなく、切削手段を用いてウエーハ20を分割しても、糊剤が飛散してデバイス22の表面に付着してデバイス22の品質を低下させることがない。同様に、レーザー光線を分割予定ライン24に沿って照射して分割溝を形成(アブレーション加工)したり、分割予定ライン24に沿って内部に改質層を形成したり(SD加工)して個々のデバイスチップ22’に分割しても、デバイスチップ22’の裏面に糊が付着したりすることがなく、デバイス22の品質を低下させることがない。また、従来からウエーハを保持するために使用されている一般的なフレームの表面は平滑であり、熱圧着シートTを加熱して粘着力を発揮させてフレームに押圧しても、十分な貼着力を得られずに、そのようなフレームを用いた場合は、本実施形態のウエーハの加工方法のいずれかの工程で、フレームから熱圧着シートTが離反するおそれがある。しかし、上記した実施形態のように、貫通口14を備えたフレーム10を用いることで、熱圧着シートTをフレーム10に確実に固定することができ、熱圧着シートTを使用してフレーム10とウエーハ20とを一体とすることが可能となり、上記したウエーハの加工方法を確実に実現することができる。
【符号の説明】
【0040】
10:フレーム
10a:表面
10b:裏面
12:本体
13:開口部
14:貫通口
16:折り返し部
20:ウエーハ
20a:表面
20b:裏面
22:デバイス
22’:デバイスチップ
24:分割予定ライン
30:熱圧着装置
32:保持テーブル
32a:枠体
34:吸着面
36:加熱ローラ
36a:ローラ表面
40:作業テーブル
40a:上面
50:超音波溶着器
52:ハンドル
52a:上ハンドル
52b:下ハンドル
54:ホーン
56:受け台
60:切削装置
61:切削手段
62:スピンドルハウジング
63:回転スピンドル
64:切削ブレード
65:ブレードカバー
66:切削水供給手段
80:ピックアップ装置
81:フレーム保持部材
82:クランプ
83:拡張ドラム
84:支持手段
85:ピックアップコレット
85a:吸引部
86:エアシリンダ
86a:プッシュロッド
100:切削溝
T:熱圧着シート
Ta:折り返し面
Tb:溶着部