(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】温度センサ素子
(51)【国際特許分類】
G01K 7/22 20060101AFI20231030BHJP
G01K 7/16 20060101ALI20231030BHJP
H01C 7/04 20060101ALI20231030BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231030BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
G01K7/22 A
G01K7/16 S
H01C7/04
C08L101/00
C08L101/12
(21)【出願番号】P 2020023717
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2019068127
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早坂 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】九内 雄一朗
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-335738(JP,A)
【文献】特開2017-157671(JP,A)
【文献】特開平3-211702(JP,A)
【文献】特許第6352517(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 7/16-7/25
H01C 7/04
C08L 101/00
C08L 101/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、前記一対の電極に接して配置される感温膜と、を含む温度センサ素子であって、
前記感温膜は、導電性高分子を含み、
前記導電性高分子は、共役高分子及びドーパントを含み、
前記ドーパントは、有機酸であり、
前記ドーパントは、分子容積が
0.206nm
3以上
0.500nm
3
以下であるドーパントを含む、温度センサ素子。
【請求項2】
前記感温膜は、マトリクス樹脂と、前記マトリクス樹脂中に含有される複数の導電性ドメインとを含み、
前記導電性ドメインが前記導電性高分子を含む、請求項1に記載の温度センサ素子。
【請求項3】
前記マトリクス樹脂は、ポリイミド系樹脂を含む、請求項2に記載の温度センサ素子。
【請求項4】
前記ポリイミド系樹脂は、芳香族環を含む、請求項3に記載の温度センサ素子。
【請求項5】
前記共役高分子がポリアニリン系高分子である、請求項1~4のいずれか1項に記載の温度センサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度センサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
温度変化により電気抵抗値(指示値とも言う)が変化する感温膜を備えるサーミスタ型温度センサ素子が従来公知である。従来、サーミスタ型温度センサ素子の感温膜には、無機半導体サーミスタが用いられてきた。無機半導体サーミスタは硬いため、これを用いた温度センサ素子にフレキシブル性を持たせることは通常困難である。
【0003】
特開平03-255923号公報(特許文献1)は、NTC特性(Negative Temperature Coefficient;温度上昇に伴って電気抵抗値が減少する特性)を有する高分子半導体を用いたサーミスタ型赤外線検知素子に関する。該赤外線検知素子は、赤外線入射による温度上昇を電気抵抗値の変化として検出することによって赤外線を検知するものであり、一対の電極と、部分ドープされた電子共役有機重合体を成分とする上記高分子半導体からなる薄膜とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された赤外線検知素子は、上記薄膜が有機物で構成されているため、該赤外線検知素子にフレキシブル性を付与することが可能となる。
しかし、温度センサ素子が示す電気抵抗値の繰り返し安定性については考慮されていない。
電気抵抗値の繰り返し安定性とは、温度センサ素子で測定する対象(例えば環境)の温度が変動する場合であっても、該対象の温度が当初の温度と同じ温度になった時には、当初の温度で示していた電気抵抗値と同じ電気抵抗値を示すことができる能力を意味する。測定対象の温度が変化した後で当初の温度と同じ温度になった時、当初の温度の時に示した電気抵抗値と同じ電気抵抗値を示すか、又は電気抵抗値の数値の差があるもののその差が小さいと、その温度センサ素子は電気抵抗値の繰り返し安定性に優れると言える。
【0006】
本発明の目的は、有機物を含む感温膜を備えるサーミスタ型温度センサ素子であって、電気抵抗値の繰り返し安定性に優れる温度センサ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す温度センサ素子を提供する。
[1] 一対の電極と、前記一対の電極に接して配置される感温膜と、を含む温度センサ素子であって、
前記感温膜は、導電性高分子を含み、
前記導電性高分子は、共役高分子及びドーパントを含み、
前記ドーパントは、分子容積が0.08nm3以上であるドーパントを含む、温度センサ素子。
[2] 前記感温膜は、マトリクス樹脂と、前記マトリクス樹脂中に含有される複数の導電性ドメインとを含み、
前記導電性ドメインが前記導電性高分子を含む、[1]に記載の温度センサ素子。
[3] 前記マトリクス樹脂は、ポリイミド系樹脂を含む、[2]に記載の温度センサ素子。
[4] 前記ポリイミド系樹脂は、芳香族環を含む、[3]に記載の温度センサ素子。
[5] 前記共役高分子がポリアニリン系高分子である、[1]~[4]のいずれかに記載の温度センサ素子。
【発明の効果】
【0008】
電気抵抗値の繰り返し安定性に優れる温度センサ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る温度センサ素子の一例を示す概略上面図である。
【
図2】本発明に係る温度センサ素子の一例を示す概略断面図である。
【
図3】実施例1における温度センサ素子の作製方法を示す概略上面図である。
【
図4】実施例1における温度センサ素子の作製方法を示す概略上面図である。
【
図5】実施例1における温度センサ素子が備える感温膜のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る温度センサ素子(以下、単に「温度センサ素子」ともいう。)は、一対の電極と、該一対の電極に接して配置される感温膜とを含む。
図1は、温度センサ素子の一例を示す概略上面図である。
図1に示される温度センサ素子100は、第1電極101及び第2電極102からなる一対の電極と、第1電極101及び第2電極102の双方に接して配置される感温膜103とを含む。感温膜103は、その両端部がそれぞれ第1電極101、第2電極102上に形成されることによってこれらの電極に接している。
温度センサ素子は、第1電極101、第2電極102及び感温膜103を支持する基板104をさらに含むことができる(
図1参照)。
【0011】
図1に示される温度センサ素子100は、感温膜103が温度変化を電気抵抗値として検出するサーミスタ型の温度センサ素子である。
感温膜103は、温度上昇に伴って電気抵抗値が減少するNTC特性を有する。
【0012】
[1]第1電極及び第2電極
第1電極101及び第2電極102としては、感温膜103よりも電気抵抗値が十分に小さいものが用いられる。温度センサ素子が備える第1電極101及び第2電極102の電気抵抗値は、具体的には、温度25℃において、好ましくは500Ω以下であり、より好ましくは200Ω以下であり、さらに好ましくは100Ω以下である。
【0013】
第1電極101及び第2電極102の材質は、感温膜103よりも十分に小さい電気抵抗値が得られる限り特に制限されず、例えば、金、銀、銅、プラチナ、パラジウム等の金属単体;2種以上の金属材料を含む合金;酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の金属酸化物;導電性有機物(導電性のポリマー等)などであることができる。
第1電極101の材質と第2電極102の材質とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0014】
第1電極101及び第2電極102の形成方法は特に制限されず、蒸着、スパッタリング、コーティング(塗布法)等の一般的な方法であってよい。第1電極101及び第2電極102は、基板104に直接形成することができる。
第1電極101及び第2電極102の厚みは、感温膜103よりも十分に小さい電気抵抗値が得られる限り特に制限されないが、例えば50nm以上1000nm以下であり、好ましくは100nm以上500nm以下である。
【0015】
[2]基板
基板104は、第1電極101、第2電極102及び感温膜103を支持するための支持体である。
基板104の材質は、非導電性(絶縁性)である限り特に制限されず、熱可塑性樹脂等の樹脂材料、ガラス等の無機材料などであることができる。基板104として樹脂材料を用いると、典型的には感温膜103がフレキシブル性を有していることから、温度センサ素子にフレキシブル性を付与することができる。
【0016】
基板104の厚みは、好ましくは、温度センサ素子のフレキシブル性及び耐久性等を考慮して設定される。基板104の厚みは、例えば10μm以上5000μm以下であり、好ましくは50μm以上1000μm以下である。
【0017】
[3]感温膜
感温膜は、導電性高分子を含む。導電性高分子は、共役高分子及びドーパントを含み、好ましくは、ドーパントがドープされた共役高分子である。
感温膜は、導電性高分子のみから形成されていてもよいし、導電性高分子とマトリクス樹脂とを含んでいてもよい。
電気抵抗値の繰り返し安定性を向上させる観点から、感温膜は、マトリクス樹脂と導電性高分子とを含むことが好ましく、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散され、導電性高分子を含む複数の導電性ドメインとを含むことがより好ましい。
【0018】
[3-1]導電性高分子
導電性高分子は、共役高分子及びドーパントを含み、好ましくは、ドーパントがドープされた共役高分子である。
共役高分子は、通常、それ自体の電気伝導度が極めて低く、例えば1×10-6S/m以下であるように、電気伝導性をほとんど示さない。共役高分子自体の電気伝導度が低いのは、価電子帯に電子が飽和していて、電子が自由に移動できないためである。一方で、共役高分子は、電子が非局在化しているため、飽和ポリマーに比べてイオン化ポテンシャルが著しく小さく、また電子親和力が非常に大きい。したがって、共役高分子は、適切なドーパント、例えば電子受容体(アクセプター)又は電子供与体(ドナー)との間で電荷移動を起こしやすく、ドーパントが共役高分子の価電子帯から電子を引き抜くか、又は、伝導帯に電子を注入することができる。そのため、ドーパントをドープさせてなる共役高分子、すなわち導電性高分子では、価電子帯に少数のホール、又は、伝導帯に少数の電子が存在し、これが自由に移動できるために、導電性が飛躍的に向上する傾向にある。
【0019】
導電性高分子を形成する共役高分子は、リード棒間の距離を数mm~数cmにして電気テスターで測った際の単品での線抵抗Rの値が、温度25℃において、好ましくは0.01Ω以上300MΩ以下の範囲である。このような共役高分子とは、分子内に共役系構造を有するものであり、例えば二重結合と単結合とが交互に連なっている骨格を有する分子、共役する非共有電子対を有する高分子などが挙げられる。このような共役高分子は、前述のように、ドーピングによって容易に電気伝導性を与えることが可能である。共役高分子としては、特に制限されないが、例えば、ポリアセチレン;ポリ(p-フェニレンビニレン);ポリピロール;ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)[PEDOT]等のポリチオフェン系高分子;ポリアニリン系高分子などが挙げられる。ここで、ポリチオフェン系高分子とは、ポリチオフェン、ポリチオフェン骨格を有し、かつ側鎖に置換基が導入されている高分子、ポリチオフェン誘導体などである。本明細書において、「系高分子」というときは、同様の分子を意味する。
共役高分子は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
重合や同定の容易さの観点から、共役高分子は、ポリアニリン系高分子であることが好ましい。
【0021】
ドーパントとしては、共役高分子に対して電子受容体(アクセプター)として機能する化合物、及び、共役高分子に対して電子供与体(ドナー)として機能する化合物が挙げられる。
本発明に係る温度センサ素子の感温膜に含まれる導電性高分子は、分子容積が0.08nm3以上であるドーパントを含む。導電性高分子は、分子容積が0.08nm3以上であるドーパントを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。これにより、温度センサ素子の電気抵抗値の繰り返し安定性を向上させることができる。また、温度センサ素子を長時間使用する場合又は、温度センサ素子で測定する対象(例えば環境)の温度が変動する場合であっても、温度センサ素子が再現性の良い電気抵抗値を示すことが可能となる。
導電性高分子が分子容積0.08nm3以上のドーパントを含むことにより、温度センサ素子の電気抵抗値の繰り返し安定性が向上するのは、上記のドーパントであれば共役高分子から脱離しにくいことが一因であると推定される。共役系高分子が上記の分子容積を有する場合、ドーパントの構造又は立体障害などにより、脱離しにくくなると考えられる。
【0022】
電気抵抗値の繰り返し安定性を向上させる観点から、導電性高分子に含まれるドーパントの分子容積は、好ましくは0.10nm3以上であり、より好ましくは0.15nm3以上であり、さらに好ましくは0.18nm3以上であり、ことさら好ましくは0.22nm3以上であり、ことさらさらに好ましくは0.24nm3以上である。
導電性高分子に含まれるドーパントの分子容積は、通常1nm3以下であり、好ましくは0.8nm3以下であり、より好ましくは0.5nm3以下である。このような分子容積を有することにより、ドープをより進めることができ、ドープ率のバラツキを抑えることができる。
【0023】
ドーパントの分子容積は、ドーパントを構成する原子の大きさ、立体構造などにより変化する。
【0024】
導電性高分子は、分子容積が0.08nm3以上であるドーパントとともに、分子容積が0.08nm3未満であるドーパントをさらに含むことができる。ただし、電気抵抗値の繰り返し安定性を向上させる観点から、導電性高分子は、分子容積が0.08nm3以上であるドーパントのみを含むことが好ましい。
【0025】
ドーパントの分子容積は、その分子構造に基づき、一般的な計算ソフトを用いたDFT(Density Functional Theory;B3LYP/6-31G)計算によって求めることができる。計算ソフトとしては、例えば、HULINKS社製の量子化学計算プログラム「Gaussian シリーズ」等が挙げられる。
【0026】
導電性高分子に含まれるドーパントは、共役高分子からの脱離を抑制して電気抵抗値の繰り返し安定性の低下を抑制する観点から、沸点が高い方が好ましい。ドーパントの大気圧における沸点は、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは150℃以上であり、さらに好ましくは200℃以上である。
導電性高分子が2種以上のドーパントを含む場合、少なくとも1種が上記範囲の沸点を有することが好ましく、すべてのドーパントが上記範囲の沸点を有することがより好ましい。
【0027】
分子容積が0.08nm3以上であるドーパントは、上述のように、共役高分子に対してアクセプターとして機能する化合物であってもよいし、共役高分子に対してドナーとして機能する化合物であってもよい。
分子容積が0.08nm3以上であり、アクセプターであるドーパントの好ましい例は、有機化合物であり、中でも、共役高分子がポリアニリン系高分子である場合には、有機酸が好ましく用いられる。共役高分子がポリアニリン系高分子である場合、有機酸はプロトン供与性が低いため、ポリアニリン系高分子が酸化分解されにくく、感温膜の長期安定性が良くなる傾向にある。
有機酸としては、例えば、2-(2-ピリジル)エタンスルホン酸、イソキノリン-5-スルホン酸、ノナフルオロ-1-ブタンスルホン酸、m-トルイジン-4-スルホン酸、3-アミノベンゼンスルホン酸、3-アミノ-4-メチルベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、5-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸、8-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸、アントラキノン-2-スルホン酸、アントラキノン-1-スルホン酸、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸、2-メチルアントラキノン-6-スルホン酸、ポリ(4-スチレンスルホン酸)、2-メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0028】
分子容積が0.08nm3以上であり、ドナーであるドーパントの好ましい例は、アルキルアミンであり、アルキルアミンは直鎖状でも分岐状でもよい。アルキルアミンは、主鎖であるアルキル基の炭素数が3以上のアルキルアミンであることが好ましい。
ドナーであるドーパントとしては、トリブチルアミン、トリイソアミルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリアミルアミン、トリ-n-デシルアミン、トリス(2-エチルヘキシル)アミン、トリノニルアミン、トリウンデシルアミンなどが挙げられる。
【0029】
導電性高分子の好ましい一例は、共役高分子がポリアニリン系高分子であり、ドーパントが、0.08nm3以上の分子容積を有するものであり、かつアクセプターである形態がある。
導電性高分子の好ましい他の一例は、共役高分子がポリアニリン系高分子であり、ドーパントが、0.08nm3以上の分子容積を有するものであり、かつアクセプターとしての有機酸である形態がある。
【0030】
感温膜103におけるドーパントの含有量は、導電性高分子の導電性の観点から、感温膜に対して、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上である。また、当該含有量は、感温膜に対して、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。
【0031】
ドーパントの含有量は、共役高分子1molに対して、好ましくは0.1mol以上であり、より好ましくは0.4mol以上である。また、当該含有量は、共役高分子1molに対して、好ましくは3mol以下であり、より好ましくは2mol以下である。
【0032】
導電性高分子の電気伝導度は、分子鎖内の電子伝導度、分子鎖間の電子伝導度及びフィブリル間の電子伝導度を合算したものである。
また、キャリア移動は一般的に、ホッピング伝導機構によって説明される。非晶領域の局在準位に存在する電子は、局在状態間の距離が近い場合、トンネル効果で隣接する局在準位に飛び移ることが可能である。局在状態間のエネルギーが異なる場合には、そのエネルギー差に応じた熱励起過程が必要となる。このような熱励起過程を伴うトンネル現象による伝導がホッピング伝導である。
【0033】
また、低温時やフェルミレベル近傍の状態密度が高い場合には、エネルギー差の大きい近傍の準位へのホッピングよりエネルギー差の小さい遠方の準位へのホッピングが優位になる。このような場合、広範囲ホッピング伝導モデル(Mott-VRHモデル)が適用される。
広範囲ホッピング伝導モデル(Mott-VRHモデル)から理解できるように、導電性高分子は、温度の上昇に伴って電気抵抗値が低下するNTC特性を有する。
【0034】
[3-2]マトリクス樹脂
感温膜は、導電性高分子とマトリクス樹脂とを含むことが好ましく、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散され、導電性高分子を含む複数の導電性ドメインとを含むことがより好ましい。マトリクス樹脂は、感温膜中に複数の導電性ドメインを分散固定するためのマトリクスである。
図2は、温度センサ素子の一例を示す概略断面図である。
図2に示される温度センサ素子100において感温膜103は、マトリクス樹脂103aと、マトリクス樹脂103a中に分散される複数の導電性ドメイン103bとを含む。
導電性ドメイン103bとは、温度センサ素子が備える感温膜103において、マトリクス樹脂103a中に分散される複数の領域であって、電子の移動に寄与する領域をいう。
導電性ドメイン103bは、共役高分子及びドーパントを含む導電性高分子を含み、好ましくは導電性高分子で構成される。
【0035】
導電性高分子を含む複数の導電性ドメイン103bをマトリクス樹脂103a中に分散させることによって、導電性ドメイン間の距離をある程度離すことができる。これにより、温度センサ素子が検出する電気抵抗を、主に導電性ドメイン間のホッピング伝導(
図2において矢印で示すような電子移動)に由来する電気抵抗とすることができる。ホッピング伝導は、広範囲ホッピング伝導モデル(Mott-VRHモデル)から理解できるように、温度に対して高い依存性がある。したがって、ホッピング伝導を優位にすることで、感温膜103が示す電気抵抗値の温度依存性を高めることができる。
【0036】
導電性高分子を含む複数の導電性ドメイン103bをマトリクス樹脂103a中に分散させることにより、電気抵抗値の繰り返し安定性に優れる温度センサ素子が得られる傾向にある。
また、導電性高分子を含む複数の導電性ドメイン103bをマトリクス樹脂103a中に分散させることにより、温度センサ素子の使用時に感温膜103にクラック等の欠陥が生じにくく、またドーパントの脱離も防ぐことができるため、経時安定性に優れる感温膜103を有する温度センサ素子が得られる傾向にある。
【0037】
マトリクス樹脂103aとしては、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物、熱硬化性樹脂の硬化物、熱可塑性樹脂等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。また、外部からの水や熱が導電性ドメイン103b間のホッピング伝導へ与える影響をより低減する観点から、マトリクス樹脂103aは、水や熱の影響を受けにくいものであることが好ましい。
【0038】
熱可塑性樹脂としては、特に制限されず、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;セルロース系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂;アクリロニトリル・スチレン系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアセタール系樹脂;変性ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド系樹脂などが挙げられる。
マトリクス樹脂103aは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
中でも、マトリクス樹脂103aは、その高分子のパッキング性(分子パッキング性とも言う)が高いことが好ましい。分子パッキング性の高いマトリクス樹脂103aを用いることにより、感温膜103に水分が侵入するのを効果的に抑制することができる。感温膜103への水分の侵入の抑制は、温度センサ素子の電気抵抗値の繰り返し安定性を向上できる。また、下記1)及び2)に示されるような測定精度の低下の抑制にも寄与することができる。
1)感温膜103中に水分が拡散すると、水によるイオンチャンネルが形成されて、イオン電導等による電気伝導度の上昇が生じる傾向にある。イオン電導等による電気伝導度の上昇は、温度変化を電気抵抗値として検出するサーミスタ型温度センサ素子の測定精度を低下させ得る。
2)感温膜103中に水分が拡散すると、マトリクス樹脂103aの膨潤が生じ、導電性ドメイン103b間の距離が広がる傾向にある。このことは、温度センサ素子が検出する電気抵抗値の増加を招き、測定精度を低下させ得る。
【0040】
分子パッキング性は、分子間相互作用に基づくものである。したがって、マトリクス樹脂103aの分子パッキング性を高めるための一つの手段は、分子間相互作用を生じさせやすい官能基又は部位を高分子鎖に導入することである。
上記官能基又は部位としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等のように水素結合を形成することができる官能基や、π-πスタッキング相互作用を生じさせることができる官能基又は部位(例えば芳香族環等の部位)が挙げられる。
【0041】
とりわけ、マトリクス樹脂103aとしてπ-πスタッキングできる高分子を用いると、π-πスタッキング相互作用によるパッキングが分子全体に均一に及びやすいため、感温膜103への水分の侵入をより効果的に抑制することができる。
また、マトリクス樹脂103aとしてπ-πスタッキングできる高分子を用いると、分子間相互作用を生じさせる部位が疎水性であるため、感温膜103への水分の侵入をより効果的に抑制することができる。
結晶性樹脂及び液晶性樹脂もまた、高度な秩序構造を有しているため、分子パッキング性の高いマトリクス樹脂103aとして好適である。
【0042】
感温膜103の耐熱性及び感温膜103の製膜性等の観点から、マトリクス樹脂103aとして好ましく用いられる樹脂の一つは、ポリイミド系樹脂である。π-πスタッキング相互作用を生じやすいことから、ポリイミド系樹脂は、芳香族環を含むことが好ましく、主鎖に芳香族環を含むことがより好ましい。
【0043】
ポリイミド系樹脂は、例えば、ジアミン及びテトラカルボン酸を反応させたり、これらに加えて酸塩化物を反応させることによって得ることができる。ここで、上記のジアミン及びテトラカルボン酸は、それぞれの誘導体も含むものである。本明細書中で単に「ジアミン」と記載した場合、ジアミン及びその誘導体を意味し、単に「テトラカルボン酸」と記載したときも同様にその誘導体も意味する。
ジアミン及びテトラカルボン酸は、それぞれ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記ジアミンとしては、ジアミン、ジアミノジシラン類等が挙げられ、好ましくはジアミンである。
ジアミンとしては、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、又はこれらの混合物が挙げられ、好ましくは芳香族ジアミンを含む。芳香族ジアミンを用いることにより、π-πスタッキングできるポリイミド系樹脂を得ることが可能となる。
芳香族ジアミンとは、アミノ基が芳香族環に直接結合しているジアミンをいい、その構造の一部に脂肪族基、脂環基又はその他の置換基を含んでいてもよい。脂肪族ジアミンとは、アミノ基が脂肪族基又は脂環基に直接結合しているジアミンをいい、その構造の一部に芳香族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。
構造の一部に芳香族基を有する脂肪族ジアミンを用いることによっても、π-πスタッキングできるポリイミド系樹脂を得ることが可能である。
【0045】
芳香族ジアミンとしては、例えば、フェニレンジアミン、ジアミノトルエン、ジアミノビフェニル、ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、ジアミノナフタレン、ジアミノジフェニルエ-テル、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ジアミノジフェニルスルフィド、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ジアミノジフェニルスルホン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノジフェニルメタン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビスアミノフェニルプロパン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビスアミノフェノキシベンゼン、ビス[(アミノ-α,α’-ジメチルベンジル)ベンゼン、ビスアミノフェニルジイソプロピルベンゼン、ビスアミノフェニルフルオレン、ビスアミノフェニルシクロペンタン、ビスアミノフェニルシクロヘキサン、ビスアミノフェニルノルボルナン、ビスアミノフェニルアダマンタン、上記化合物中の1個以上の水素原子がフッ素原子又はフッ素原子を含む炭化水素基(トリフルオロメチル基等)に置き換わった化合物などが挙げられる。
芳香族ジアミンは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
フェニレンジアミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミンなどが挙げられる。
ジアミノトルエンとしては、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエンなどが挙げられる。
ジアミノビフェニルとしては、ベンジジン(別称:4,4’-ジアミノビフェニル)、o-トリジン、m-トリジン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BAPA)、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニルなどが挙げられる。
ビス(アミノフェノキシ)ビフェニルとしては、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(2-メチル-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルなどが挙げられる。
【0047】
ジアミノナフタレンとしては、2,6-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレンなどが挙げられる。
ジアミノジフェニルエ-テルとしては、3,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、4,4’-ジアミノジフェニルエ-テルなどが挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]エーテルとしては、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エ-テル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エ-テル、ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エ-テル、ビス(4-(2-メチル-4-アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4-(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)フェニル)エーテルなどが挙げられる。
【0048】
ジアミノジフェニルスルフィドとしては、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィドが挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルフィドとしては、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィドなどが挙げられる。
ジアミノジフェニルスルホンとしては、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルホンとしては、ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェニル)]スルホン、ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェニル)スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(2-メチル-4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホンなどが挙げられる。
ジアミノベンゾフェノンとしては、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0049】
ジアミノジフェニルメタンとしては、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]メタンとしては、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタンなどが挙げられる。
ビスアミノフェニルプロパンとしては、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)プロパン等が挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]プロパンとしては、2,2-ビス[4-(2-メチル-4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、などが挙げられる。
【0050】
ビスアミノフェノキシベンゼンとしては、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2-メチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(2-メチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼンなどが挙げられる。
ビス(アミノ-α,α’-ジメチルベンジル)ベンゼン(別称:ビスアミノフェニルジイソプロピルベンゼン)としては、1,4-ビス(4-アミノ-α,α’-ジメチルベンジル)ベンゼン(BiSAP、別称:α,α’-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン)、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-メチルフェノキシ)-α,α’-ジメチルベンジル]ベンゼン、α,α’-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼンなどが挙げられる。
【0051】
ビスアミノフェニルフルオレンとしては、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
ビスアミノフェニルシクロペンタンとしては、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)シクロペンタンなどが挙げられる。
ビスアミノフェニルシクロヘキサンとしては、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-アミノフェニル)4-メチル-シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0052】
ビスアミノフェニルノルボルナンとしては、1,1-ビス(4-アミノフェニル)ノルボルナン、1,1-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)ノルボルナン、1,1-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)ノルボルナンなどが挙げられる。
ビスアミノフェニルアダマンタンとしては、1,1-ビス(4-アミノフェニル)アダマンタン、1,1-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)アダマンタン、1,1-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)アダマンタンなどが挙げられる。
【0053】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,4-ビス(2-アミノ-イソプロピル)ベンゼン、1,3-ビス(2-アミノ-イソプロピル)ベンゼン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、シロキサンジアミン類、上記化合物において1個以上の水素原子がフッ素原子又はフッ素原子を含む炭化水素基(トリフルオロメチル基等)に置き換わった化合物等が挙げられる。
脂肪族ジアミンは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
テトラカルボン酸としては、テトラカルボン酸、テトラカルボン酸エステル類、テトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、好ましくはテトラカルボン酸二無水物を含む。
【0055】
テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ヒドロキノンジベンゾエ-ト-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(ODPA)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4、4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物;
2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン等のテトラカルボン酸の二無水物;
上記化合物において1個以上の水素原子がフッ素原子又はフッ素原子を含む炭化水素基(トリフルオロメチル基等)に置き換わった化合物;等が挙げられる。
テトラカルボン酸二無水物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
酸塩化物としては、テトラカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の酸塩化物が挙げられ、なかでもジカルボン酸化合物の酸塩化物を使用することが好ましい。ジカルボン酸化合物の酸塩化物の例としては、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)〔OBBC〕、テレフタロイルクロリド(TPC)などが挙げられる。
【0057】
マトリクス樹脂103aがフッ素原子を含むと、感温膜103に水分が侵入するのをより効果的に抑制できる傾向にある。フッ素原子を含むポリイミド系樹脂は、その調製に用いるジアミン及びテトラカルボン酸の少なくともいずれか一方にフッ素原子を含むものを用いることによって調製することができる。
フッ素原子を含むジアミンの一例は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)である。フッ素原子を含むテトラカルボン酸の一例は、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)である。
【0058】
ポリイミド系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは20000以上であり、より好ましくは50000以上であり、また、好ましくは1000000以下であり、より好ましくは500000以下である。
重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフ装置によって求めることができる。
【0059】
マトリクス樹脂103aは、それを構成する全樹脂成分を100質量%とするとき、ポリイミド系樹脂を、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、なおさらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは100質量%含む。ポリイミド系樹脂は、好ましくは芳香族環を含むポリイミド系樹脂であり、より好ましくは、芳香族環及びフッ素原子を含むポリイミド系樹脂である。
【0060】
マトリクス樹脂103aの含有量は、感温膜103の質量を100質量%とするとき、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、なおさらに好ましくは40質量%以上である。温度センサ素子の電力消費低減の観点及び温度センサ素子の正常作動の観点から、マトリクス樹脂103aの含有量は、感温膜103の質量を100質量%とするとき、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下である。
感温膜用高分子組成物におけるマトリクス樹脂103aの含有量は、該組成物中の固形成分を100質量%するとき、上記感温膜103の質量を100質量%するときの含有量の範囲と同じ範囲となる。
【0061】
マトリクス樹脂103aの含有量が大きいと、電気抵抗が大きくなる傾向にあり、測定に必要な電流が増えるため電力消費が著しく大きくなることがある。また、マトリクス樹脂103aの含有量が大きいため、電極間の導通が得られないことがある。マトリクス樹脂103aの含有量が大きいと、流れる電流によってジュール熱が発生することがあり、温度測定そのものが困難になることもある。
【0062】
[3-3]感温膜の構成
感温膜103は、マトリクス樹脂103aと、マトリクス樹脂103a中に分散される複数の導電性ドメイン103bとを含む構成を有していることが好ましい。導電性ドメイン103bは、共役高分子及びドーパントを含む導電性高分子を含み、好ましくは導電性高分子で構成される。
【0063】
感温膜103において、共役高分子及びドーパントの合計の含有量は、感温膜103への水分の侵入を効果的に抑制する観点から、マトリクス樹脂103a、共役高分子及びドーパントの合計量100質量%に対して、好ましくは95質量%以下である。この含有量は、より好ましくは90質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下であり、なおさらに好ましくは70質量%以下であり、特に好ましくは60質量%以下である。共役高分子及びドーパントの合計の含有量が95質量%を超えると、感温膜103におけるマトリクス樹脂103aの含有量が小さくなるため、感温膜103への水分の侵入を抑制する効果が低下する傾向にある。
【0064】
温度センサ素子の電力消費低減の観点及び温度センサ素子の正常作動の観点から、感温膜103において、共役高分子及びドーパントの合計の含有量は、マトリクス樹脂103a、共役高分子及びドーパントの合計量100質量%に対して、好ましくは5質量%以上である。この含有量は、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは15質量%以上であり、なおさらに好ましくは20質量%以上である。
【0065】
共役高分子及びドーパントの合計の含有量が小さいと、電気抵抗が大きくなる傾向にあり、測定に必要な電流が増えるため電力消費が著しく大きくなることがある。また、共役高分子及びドーパントの合計の含有量が小さいため、電極間の導通が得られないことがある。共役高分子及びドーパントの合計の含有量が小さいと、流れる電流によってジュール熱が発生することがあり、温度測定そのものが困難になることもある。したがって、導電性高分子を形成しうる共役高分子及びドーパントの合計の含有量は、上記の範囲内であることが好ましい。
【0066】
感温膜103の厚みは、特に制限されないが、例えば、0.3μm以上50μm以下である。温度センサ素子のフレキシブル性の観点から、感温膜103の厚みは、好ましくは0.3μm以上40μm以下である。
【0067】
[3-4]感温膜の作製
感温膜103は、共役高分子、ドーパント、溶剤、及び任意で使用されるマトリクス樹脂(例えば熱可塑性樹脂)を攪拌混合することで感温膜用高分子組成物を調製し、この組成物から製膜することで得られる。成膜方法としては、例えば、基板104上に感温膜用高分子組成物を塗布し、次いでこれを乾燥し、必要に応じてさらに熱処理する方法が挙げられる。感温膜用高分子組成物の塗布方法としては、特に制限されず、例えば、スピンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、ディップコート法、エアーナイフコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ブレードコート法、滴下法等が挙げられる。
【0068】
マトリクス樹脂103aを活性エネルギー線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂から形成する場合には、硬化処理がさらに施される。活性エネルギー線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いる場合には、感温膜用高分子組成物への溶剤の添加が不要な場合があり、この場合、乾燥処理も不要である。
感温膜用高分子組成物においては通常、共役高分子とドーパントとが導電性高分子のドメイン(導電性ドメイン)を形成している。感温膜用高分子組成物がマトリクス樹脂を含むと、マトリクス樹脂を含まない場合に比べて導電性ドメインが該組成物中により分散された状態となり、導電性ドメイン間の伝導がホッピング伝導となりやすく、電気抵抗値を正確に検出することができることから好ましい。
【0069】
感温膜用高分子組成物がマトリクス樹脂を含む場合、該組成物(溶剤を除く)の全量に対するマトリクス樹脂の含有量と、該組成物から形成される感温膜103における共役高分子に対するマトリクス樹脂の含有量とは実質的に同じであることが好ましい。
感温膜用高分子組成物に含まれる各成分の含有量は、溶剤を除く感温膜用高分子組成物の各成分の合計に対する各成分の含有量であるが、感温膜用高分子組成物から形成される感温膜103における各成分の含有量と実質的に同じであることが好ましい。
【0070】
製膜性の観点から、感温膜用高分子組成物に含まれる溶剤は、共役高分子、ドーパント及び任意で使用されるマトリクス樹脂を溶解可能な溶剤であることが好ましい。
溶剤は、使用する共役高分子、ドーパント及び任意で使用されるマトリクス樹脂の溶剤への溶解性等に応じて選択されることが好ましい。
使用可能な溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N-メチルホルムアミド、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド、m-クレゾ-ル、フェノ-ル、p-クロルフェノール、2-クロル-4-ヒドロキシトルエン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジオキサン、γ-ブチロラクトン、ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、1,4-ジオキサン、イプシロンカプロラクタム、ジクロロメタン、クロロホルム等が挙げられる。
溶剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
感温膜用高分子組成物は、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を1種又は2種以上含んでいてもよい。
【0072】
感温膜用高分子組成物における共役高分子、ドーパント及びマトリクス樹脂の合計含有量は、感温膜用高分子組成物の固形分(溶剤以外の全成分)を100質量%とするとき、好ましくは90質量%以上である。該合計含有量は、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは98質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0073】
[4]温度センサ素子
温度センサ素子は、上記した構成要素以外の他の構成要素を含むことができる。他の構成要素としては、例えば、電極、絶縁層、感温膜を封止する封止層等、温度センサ素子に一般的に使用されるものが挙げられる。
【0074】
上記した感温膜を含む温度センサ素子は、電気抵抗値の繰り返し安定性に優れる。電気抵抗値の繰り返し安定性は、以下の方法で評価することができる。まず、
図3に示すように、ガラス基板の一方の表面上にAu電極を一対形成し、その後、
図4に示すように、これら電極の双方に接するように感温膜を形成して、温度センサ素子を作製する。
次に、温度センサ素子の一対のAu電極と市販のデジタルマルチメータとをリード線などで繋ぎ、市販のペルチェ温度コントローラを用いて温度センサ素子の温度を調整する。その後、複数の温度での平均電気抵抗値を測定する。実施例では、10℃、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃及び80℃の8点で測定を行っているが、これに限られるものではなく、5点以上で測定することが好ましい。
【0075】
各温度での平均電気抵抗値は、まず温度センサ素子の温度を10℃に調整し、この温度で一定時間(実施例では1時間)保持し、この1時間における電気抵抗値の平均を10℃での平均電気抵抗値として測定する。次に、温度センサ素子の温度を10℃から順に上げていき、上げた温度で同様に一定時間保持し、この一定時間における電気抵抗値の平均を当該温度での平均電気抵抗値として測定する。これを測定する各温度で同様に行う。以上の操作を1サイクルとし、これを継続して5サイクル行う。なお、2サイクル目以降の試験は、温度センサ素子の温度を10℃に再び調整し、1サイクル目と同様にして行う。
【0076】
1サイクル目における10℃での平均電気抵抗値R1とし、5サイクル目における10℃での平均電気抵抗値R5とし、下記式に従って電気抵抗値の変化率r(%)を算出する。
r(%)=100×(|R1-R5|/R1)
【0077】
変化率r(%)は、小さいほど温度センサ素子が示す電気抵抗値の繰り返し安定性が高いということができ、20%以下であることが好ましい。変化率rは、より好ましくは19%以下、さらに好ましくは15%以下である。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ない限り、質量基準である。
【0079】
(製造例1:脱ドープされたポリアニリンの調製)
脱ドープされたポリアニリンは、下記[1]及び[2]に示す通り、塩酸ドープされたポリアニリンを調製し、これを脱ドープすることで調製した。
【0080】
[1]塩酸ドープされたポリアニリンの調製
アニリン塩酸塩(関東化学(株)製)5.18gを水50mLに溶解させて第1水溶液を調製した。また、過硫酸アンモニウム(富士フィルム和光純薬(株)製)11.42gを水50mLに溶解させて第2水溶液を調製した。
次に、第1水溶液を35℃に温調しながら、マグネティックスターラを用いて400rpmで10分間攪拌し、その後、同温度で攪拌しながら、第1水溶液に第2水溶液を5.3mL/minの滴下速度で滴下した。滴下後、反応液を35℃に保ったまま、さらに5時間反応させたところ、反応液に固体が析出した。
その後、ろ紙(JIS P 3801化学分析用2種)を用いて反応液を吸引濾過し、得られた固体を水200mLで洗浄した。その後、0.2M塩酸100mL、次いでアセトン200mLで洗浄した後に真空オーブンで乾燥させて、下記式(1)で表される塩酸ドープされたポリアニリンを得た。
【0081】
【0082】
[2]脱ドープされたポリアニリンの調製
上記[1]で得られた塩酸ドープされたポリアニリンの4gを、100mLの12.5質量%のアンモニア水に分散させ、マグネティックスターラで約10時間攪拌したところ、反応液に固体が析出した。
その後、ろ紙(JIS P 3801化学分析用2種)を用いて反応液を吸引濾過し、得られた固体を水200mL、次いでアセトン200mLで洗浄した。その後、50℃で真空乾燥させて、下記式(2)で表される脱ドープされたポリアニリンを得た。濃度が5質量%となるように、脱ドープされたポリアニリンをN-メチルピロリドン(NMP;東京化成工業(株))に溶解させて、脱ドープされたポリアニリン(共役高分子)の溶液を調製した。
【0083】
【0084】
(製造例2:マトリクス樹脂の調製)
国際公開第2017/179367号の実施例1の記載に従って、ジアミンとして下記式(3)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を、テトラカルボン酸二無水物として下記式(4)で表される4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)をそれぞれ用いて、下記式(5)で表される繰り返し単位を有するポリイミドの粉体を製造した。
濃度が8質量%となるように上記粉体をプロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタートに溶解させて、ポリイミドの溶液を調製した。
【0085】
【0086】
<実施例1>
[1]感温膜用高分子組成物の調製
製造例1で調製した脱ドープされたポリアニリンの溶液1.000gと、NMP(東京化成工業(株))1.656gと、製造例2で調製したマトリクス樹脂としてのポリイミドの溶液1.458gと、ドーパントとしての2-(2-ピリジル)エタンスルホン酸(東京化成工業(株))0.041gとを混合して、感温膜用高分子組成物(固形分5質量%)を調製した。ドーパントは、脱ドープされたポリアニリン1molに対して1.6molとなる量を使用した。
【0087】
[2]温度センサ素子の作製
図3及び
図4を参照しながら、温度センサ素子の作製手順について説明する。
図3を参照して、1辺5cmの正方形のガラス基板(コーニング社の「イーグルXG」)の一方の表面上に、イオンコータ((株)エイコー製「IB-3」)を用いたスパッタリングによって、長さ2cm×幅3mmの長方形のAu電極を一対形成した。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた断面観察によるAu電極の厚みは、200nmであった。
次に、
図4を参照して、ガラス基板上に形成した一対のAu電極の間に、上記[1]で調製した感温膜用高分子組成物を200μL滴下した。滴下によって形成された感温膜用高分子組成物の膜は、双方の電極に接していた。その後、常圧下50℃で2時間及び真空下50℃で2時間の乾燥処理を行った後、100℃で約1時間の熱処理を行うことにより感温膜を形成して、温度センサ素子を作製した。感温膜の厚みをDektak KXT(BRUKER社製)で測定したところ、30μmであった。
【0088】
<実施例2>
製造例1で調製した脱ドープされたポリアニリンの溶液1.000gと、NMP(東京化成工業(株))1.748gと、製造例2で調製したマトリクス樹脂としてのポリイミドの溶液1.458gと、ドーパントとしてのイソキノリン-5-スルホン酸(東京化成工業(株))0.046gとを混合して、感温膜用高分子組成物(固形分5質量%)を調製した。ドーパントは、脱ドープされたポリアニリン1molに対して1.6molとなる量を使用した。
この感温膜用高分子組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0089】
<実施例3>
製造例1で調製した脱ドープされたポリアニリンの溶液1.000gと、NMP(東京化成工業(株))2.128gと、製造例2で調製したマトリクス樹脂としてのポリイミドの溶液1.458gと、ドーパントとしてのノナフルオロ-1-ブタンスルホン酸(富士フィルム和光純薬(株)製)0.066gとを混合して、感温膜用高分子組成物(固形分5質量%)を調製した。ドーパントは、脱ドープされたポリアニリン1molに対して1.6molとなる量を使用した。
この感温膜用高分子組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0090】
<実施例4>
製造例1で調製した脱ドープされたポリアニリンの溶液1.000gと、NMP(東京化成工業(株))1.610gと、製造例2で調製したマトリクス樹脂としてのポリイミドの溶液1.458gと、ドーパントとしての4-フルオロ-ベンゼンスルホン酸(富士フィルム和光純薬(株)製)0.039gとを混合して、感温膜用高分子組成物(固形分5質量%)を調製した。ドーパントは、脱ドープされたポリアニリン1molに対して1.6molとなる量を使用した。
この感温膜用高分子組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0091】
<実施例5>
製造例1で調製した脱ドープされたポリアニリンの溶液1.000gと、NMP(東京化成工業(株))1.535gと、製造例2で調製したマトリクス樹脂としてのポリイミドの溶液1.458gと、ドーパントとしてのベンゼンスルホン酸(Sigma-Aldrich社製)0.035gとを混合して、感温膜用高分子組成物(固形分5質量%)を調製した。ドーパントは、脱ドープされたポリアニリン1molに対して1.6molとなる量を使用した。
この感温膜用高分子組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0092】
<比較例1>
製造例1で調製した脱ドープされたポリアニリンの溶液1.000gと、NMP(東京化成工業(株))0.875gと、製造例2で調製したマトリクス樹脂としてのポリイミドの溶液1.458gとを混合して、高分子組成物(固形分5質量%)を調製した。
次に、実施例1の[2]と同じ方法で作製した一対のAu電極を有するガラス基板を用意し、一対のAu電極の間に、上で調製した高分子組成物を200μL滴下した。滴下によって形成された高分子組成物の膜は、双方の電極に接していた。その後、常圧下50℃で2時間及び真空下50℃で2時間の乾燥処理を行った後、100℃で約1時間の熱処理を行った。
その後、0.2mol/L塩酸(関東化学(株)製)50mL中に、ガラス基板ごと12時間浸漬してポリアニリンのドープを行った。浸漬後、純水でよく洗浄し、吸着した水分をウエス及びエアガンを用いて除去した。その後、真空下25℃で1時間の乾燥処理を行って、温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0093】
実施例1~5及び比較例1で用いたドーパントの種類及びその分子容積を表1に示す。
ドーパントの分子容積は、その分子構造に基づき、HULINKS社製の量子化学計算プログラム「Gaussian 16」を用いたDFT(Density Functional Theory;B3LYP/6-31G)計算によって求めた。
実施例1で作製した温度センサ素子が有する感温膜の断面を写したSEM写真を
図5に示す。白く写っている部分が、マトリクス樹脂中に分散して配置された導電性ドメインである。
【0094】
[温度センサ素子の評価]
下記の評価実験により、温度センサ素子が示す電気抵抗値の繰り返し安定性を評価した。
温度センサ素子が有する一対のAu電極とデジタルマルチメータ(OWON社製「B35T+」)とをリード線で繋いだ。ペルチェ温度コントローラ(ハヤシレピック(株)製「HMC-10F-0100」)を用いて温度センサ素子の温度を調整し、10℃、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃及び80℃の各温度での平均電気抵抗値を測定した。
【0095】
各温度での平均電気抵抗値は、以下の方法で測定した。まず、上記ペルチェ温度コントローラを用いて温度センサ素子の温度を10℃に調整し、この温度で1時間保持した。この1時間における電気抵抗値の平均を10℃での平均電気抵抗値として測定した。次に、温度センサ素子の温度を20℃に調整し、この温度で1時間保持した。この1時間における電気抵抗値の平均を20℃での平均電気抵抗値として測定した。10℃及び20℃以外の他の温度についても同様にして、保持時間1時間における電気抵抗値の平均をその温度での平均電気抵抗値として測定した。以上の操作を1サイクルとする。
2サイクル目の試験は、温度センサ素子の温度を10℃に再び調整し、1サイクル目と同様にして行った。測定は、試験を継続して5サイクル行った。
1サイクル目における10℃での平均電気抵抗値R1と5サイクル目における10℃での平均電気抵抗値R5とを用いて、下記式に従って電気抵抗値の変化率r(%)を求めた。結果を表1に示す。変化率r(%)は、小さいほど温度センサ素子が示す電気抵抗値の繰り返し安定性が高いといえるため、20%以下であることが望ましい。
r(%)=100×(|R1-R5|/R1)
【0096】
比較例1の温度センサ素子は、上記の評価試験を行っている途中で感温膜にクラックが生じ、5サイクル目までの試験を行うことができなかった。
【0097】
【符号の説明】
【0098】
100 温度センサ素子、101 第1電極、102 第2電極、103 感温膜、103a マトリクス樹脂、103b 導電性ドメイン、104 基板。