(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】温度センサ素子
(51)【国際特許分類】
G01K 7/22 20060101AFI20231030BHJP
G01K 7/16 20060101ALI20231030BHJP
H01C 7/04 20060101ALI20231030BHJP
C08L 101/04 20060101ALI20231030BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
G01K7/22 A
G01K7/16 S
H01C7/04
C08L101/04
C08L101/12
(21)【出願番号】P 2020023719
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2019068130
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早坂 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】九内 雄一朗
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/052777(WO,A1)
【文献】特許第6352517(JP,B1)
【文献】特開2017-157671(JP,A)
【文献】特開2006-312673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 7/16 - 7/28
H01C 7/00 - 7/12
C08L 101/04
C08L 101/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、前記一対の電極に接して配置される感温膜と、を含む温度センサ素子であって、
前記感温膜は、フッ素原子を含むものであり、また前記感温膜は、マトリクス樹脂と、前記マトリクス樹脂中に含有される複数の導電性ドメインとを含み、
前記導電性ドメインは、導電性高分子を含
み、
前記マトリクス樹脂は、フッ素原子を含有する、温度センサ素子。
【請求項2】
前記感温膜は、感温膜の総質量を100質量%として、フッ素原子の含有率が1質量%以上である、請求項
1に記載の温度センサ素子。
【請求項3】
前記マトリクス樹脂は、感温膜に含まれるマトリクス樹脂の総質量を100質量%として、フッ素含有率が4質量%以上である、請求項1
又は2に記載の温度センサ素子。
【請求項4】
前記マトリクス樹脂は、ポリイミド系樹脂成分を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の温度センサ素子。
【請求項5】
前記ポリイミド系樹脂成分は、ポリイミド系樹脂成分の総質量を100質量%として、フタルイミド環の含有率が5質量%以上である、請求項
4に記載の温度センサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度センサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
温度変化により電気抵抗値が変化する感温膜を備えるサーミスタ型温度センサ素子が従来公知である。従来、サーミスタ型温度センサ素子の感温膜には、無機半導体サーミスタが用いられてきた。無機半導体サーミスタは硬いため、これを用いた温度センサ素子にフレキシブル性を持たせることは通常困難である。
【0003】
特開平03-255923号公報(特許文献1)は、NTC特性(Negative Temperature Coefficient;温度上昇に伴って電気抵抗値が減少する特性)を有する高分子半導体を用いたサーミスタ型赤外線検知素子に関する。該赤外線検知素子は、赤外線入射による温度上昇を電気抵抗値の変化として検出することによって赤外線を検知するものであり、一対の電極と、部分ドープされた電子共役有機重合体を成分とする上記高分子半導体からなる薄膜とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された赤外線検知素子は、上記薄膜が有機物で構成されているため、該赤外線検知素子にフレキシブル性を付与することが可能となる。
しかし、特許文献1は、赤外線検知素子が置かれる湿度環境の変化に伴う指示値(電気抵抗値とも言う。)の変動を抑制すること(指示値の安定性)について考慮していない。
【0006】
本発明の目的は、有機物を含む感温膜を備えるサーミスタ型温度センサ素子であって、それが置かれる湿度環境の影響を受けにくく、湿度環境の変化に伴う電気抵抗値の変動を抑制することができる温度センサ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す温度センサ素子を提供する。
[1] 一対の電極と、前記一対の電極に接して配置される感温膜と、を含む温度センサ素子であって、
前記感温膜は、フッ素原子を含むものであり、また前記感温膜は、マトリクス樹脂と、前記マトリクス樹脂中に含有される複数の導電性ドメインとを含み、
前記導電性ドメインは、導電性高分子を含む、温度センサ素子。
[2] 前記マトリクス樹脂は、フッ素原子を含有する、[1]に記載の温度センサ素子。
[3] 前記感温膜は、感温膜103の総質量を100質量%として、フッ素原子の含有率が1質量%以上である、[1]又は[2]に記載の温度センサ素子。
[4] 前記マトリクス樹脂は、感温膜に含まれるマトリクス樹脂の総質量を100質量%として、フッ素含有率が4質量%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の温度センサ素子。
[5] 前記マトリクス樹脂は、ポリイミド系樹脂成分を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の温度センサ素子。
[6] 前記ポリイミド系樹脂成分は、ポリイミド系樹脂成分の総質量を100質量%として、フタルイミド環の含有率が5質量%以上である、[5]に記載の温度センサ素子。
【発明の効果】
【0008】
置かれる湿度環境の影響を受けにくく、湿度環境の変化に伴う電気抵抗値の変動を抑制することができる温度センサ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る温度センサ素子の一例を示す概略上面図である。
【
図2】本発明に係る温度センサ素子の一例を示す概略断面図である。
【
図3】実施例1における温度センサ素子の作製方法を示す概略上面図である。
【
図4】実施例1における温度センサ素子の作製方法を示す概略上面図である。
【
図5】実施例1における温度センサ素子が備える感温膜のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る温度センサ素子(以下、単に「温度センサ素子」ともいう。)は、一対の電極と、該一対の電極に接して配置される感温膜とを含む。
図1は、温度センサ素子の一例を示す概略上面図である。
図1に示される温度センサ素子100は、第1電極101及び第2電極102からなる一対の電極と、第1電極101及び第2電極102の双方に接して配置される感温膜103とを含む。感温膜103は、その両端部がそれぞれ第1電極101、第2電極102上に形成されることによってこれらの電極に接している。
温度センサ素子は、第1電極101、第2電極102及び感温膜103を支持する基板104をさらに含むことができる(
図1参照)。
【0011】
図1に示される温度センサ素子100は、感温膜103が温度変化を電気抵抗値として検出するサーミスタ型の温度センサ素子である。
感温膜103は、温度上昇に伴って電気抵抗値が減少するNTC特性を有する。
【0012】
[1]第1電極及び第2電極
第1電極101及び第2電極102としては、感温膜103よりも電気抵抗値が十分に小さいものが用いられる。温度センサ素子が備える第1電極101及び第2電極102の電気抵抗値は、具体的には、温度25℃において、好ましくは500Ω以下であり、より好ましくは200Ω以下であり、さらに好ましくは100Ω以下である。
【0013】
第1電極101及び第2電極102の材質は、感温膜103よりも十分に小さい電気抵抗値が得られる限り特に制限されず、例えば、金、銀、銅、プラチナ、パラジウム等の金属単体;2種以上の金属材料を含む合金;酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の金属酸化物;導電性有機物(導電性のポリマー等)などであることができる。
第1電極101の材質と第2電極102の材質とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0014】
第1電極101及び第2電極102の形成方法は特に制限されず、蒸着、スパッタリング、コーティング(塗布法)等の一般的な方法であってよい。第1電極101及び第2電極102は、基板104に直接形成することができる。
第1電極101及び第2電極102の厚みは、感温膜103よりも十分に小さい電気抵抗値が得られる限り特に制限されないが、例えば50nm以上1000nm以下であり、好ましくは100nm以上500nm以下である。
【0015】
[2]基板
基板104は、第1電極101、第2電極102及び感温膜103を支持するための支持体である。
基板104の材質は、非導電性(絶縁性)である限り特に制限されず、熱可塑性樹脂等の樹脂材料、ガラス等の無機材料などであることができる。基板104として樹脂材料を用いると、典型的には感温膜103がフレキシブル性を有していることから、温度センサ素子にフレキシブル性を付与することができる。
【0016】
基板104の厚みは、好ましくは、温度センサ素子のフレキシブル性及び耐久性等を考慮して設定される。基板104の厚みは、例えば10μm以上5000μm以下であり、好ましくは50μm以上1000μm以下である。
【0017】
[3]感温膜
図2は、温度センサ素子の一例を示す概略断面図である。
図2に示される温度センサ素子100のように、本発明に係る温度センサ素子において感温膜103は、マトリクス樹脂103aと、マトリクス樹脂103a中に含有される複数の導電性ドメイン103bとを含む。複数の導電性ドメイン103bは、マトリクス樹脂103a中に分散されていることが好ましい。
導電性ドメイン103bとは、温度センサ素子が備える感温膜103において、マトリクス樹脂103a中に含有される複数の領域であって、電子の移動に寄与する領域をいう。導電性ドメイン103bは、導電性高分子を含み、好ましくは導電性高分子で構成される。
【0018】
感温膜103は、フッ素原子を含有する。「感温膜103がフッ素原子を含有する」とは、感温膜中にフッ素原子が存在することをいう。フッ素原子を含有する感温膜103によれば、感温膜103に水分が侵入するのを抑制することができる。感温膜103への水分の侵入の抑制は、下記1)及び2)に示されるような測定精度の低下の抑制にも寄与することができる。
1)感温膜103中に水分が拡散すると、水によるイオンチャンネルが形成されて、イオン電導等による電気伝導度の上昇が生じる傾向にある。感温膜103への水分の侵入を抑制することができる感温膜103によれば、このような感温膜103中に拡散する水分に起因する電気伝導度の上昇を抑制することができる。
2)感温膜103中に水分が拡散すると、マトリクス樹脂103aの膨潤が生じ、導電性ドメイン103b間の距離が広がる傾向にある。このことは、温度センサ素子が検出する電気抵抗値の上昇を招く。感温膜103への水分の侵入を抑制することができる感温膜103によれば、このような感温膜103中に拡散する水分に起因する電気伝導度の低下を抑制することができる。
【0019】
以上のとおり、フッ素原子を含有する感温膜103を備える温度センサ素子によれば、それが置かれる湿度環境の影響を受けにくく、湿度環境の変化に伴う電気抵抗値の変動を抑制することができる。感温膜103は、高湿度環境下において感温膜103への水分の侵入が抑制されるため、例えば、温度センサ素子を高湿度環境下に置いた後、それより低湿度の環境下に置いた場合であっても、一定の温度に対する電気抵抗値の数値に変動(差異)が生じにくい傾向にある。
【0020】
感温膜103のフッ素原子の含有率(以下、「フッ素含有率」ともいう。)は、好ましくは1質量%以上である。「感温膜103のフッ素含有率」とは、感温膜103の総質量を100質量%としたときの、それに占めるフッ素原子の総質量の割合(質量%)を意味する。
【0021】
感温膜103のフッ素含有率は、温度センサ素子が置かれる想定される湿度環境に応じて調整することが好ましい。温度センサ素子が置かれる湿度環境が比較的高い場合、感温膜103のフッ素含有率は、より好ましくは2質量%以上であり、さらに好ましくは3質量%以上であり、なおさらに好ましくは4質量%以上であり、特に好ましくは5質量%以上であり、最も好ましくは10質量%以上である。温度センサ素子がその表面に結露を生じる湿度環境に置かれる場合、マトリクス樹脂103aのフッ素含有率は、4質量%以上であることが好ましい。一方で、フッ素含有率が40質量%以上を超えると、基板又は電極と感温膜103との密着性が低下しはがれやすくなり、温度センサ素子の長期安定性が低くなるだけでなく、炭素-フッ素結合は結合距離が短いため、感温膜103が剛直となりフレキシブル性が低下する。感温膜103のフッ素含有率は、後述するマトリクス樹脂のフッ素含有率の算出と同様に算出することができ、感温膜の質量に対するフッ素原子の含有量として算出すればよい。
【0022】
[3-1]導電性高分子
導電性ドメイン103bに含まれる導電性高分子は、共役高分子及びドーパントを含み、好ましくはドーパントがドープされた共役高分子である。
【0023】
共役高分子は、通常、それ自体の電気伝導度が極めて低く、例えば1×10-6S/m以下であるように、電気伝導性をほとんど示さない。共役高分子自体の電気伝導度が低いのは、価電子帯に電子が飽和していて、電子が自由に移動できないためである。一方で、共役高分子は、電子が非局在化しているため、飽和ポリマーに比べてイオン化ポテンシャルが著しく小さく、また電子親和力が非常に大きい。したがって、共役高分子は、適切なドーパント、例えば電子受容体(アクセプター)又は電子供与体(ドナー)との間で電荷移動を起こしやすく、ドーパントが共役高分子の価電子帯から電子を引き抜くか、又は、伝導帯に電子を注入することができる。そのため、ドーパントをドープさせた共役高分子、すなわち導電性高分子では、価電子帯に少数のホール、又は、伝導帯に少数の電子が存在し、これが自由に移動できるために、導電性が飛躍的に向上する傾向にある。
【0024】
導電性高分子は、リード棒間の距離を数mm~数cmにして電気テスターで測った際の単品での線抵抗Rの値が、温度25℃において、好ましくは0.01Ω以上300MΩ以下の範囲である。
導電性高分子を構成する共役高分子とは、分子内に共役系構造を有するものであり、例えば二重結合と単結合とが交互に連なっている骨格を含有する高分子、共役する非共有電子対を有する高分子などが挙げられる。
このような共役高分子は、前述のように、ドーピングによって容易に電気伝導性を与えることが可能である。
【0025】
共役高分子としては、特に制限されないが、例えば、ポリアセチレン;ポリ(p-フェニレンビニレン);ポリピロール;ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)〔PEDOT〕等のポリチオフェン系高分子;ポリアニリン系高分子(ポリアニリン、及び置換基を有するポリアニリン等)などが挙げられる。ここで、ポリチオフェン系高分子とは、ポリチオフェン、ポリチオフェン骨格を有し、かつ側鎖に置換基が導入されている高分子、ポリチオフェン誘導体などである。本明細書において、「系高分子」というときは、同様の分子を意味する。
共役高分子は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
重合や同定の容易さの観点から、共役高分子は、ポリアニリン系高分子であることが好ましい。
【0027】
ドーパントとしては、共役高分子に対して電子受容体(アクセプター)として機能する化合物、及び、共役高分子に対して電子供与体(ドナー)として機能する化合物が挙げられる。
電子受容体であるドーパントとしては、特に制限されないが、例えば、Cl2、Br2、I2、ICl、ICl3、IBr、IF3等のハロゲン類;PF5、AsF5、SbF5、BF3、SO3等のルイス酸;HCl、H2SO4、HClO4等のプロトン酸;FeCl3、FeBr3、SnCl4等の遷移金属ハロゲン化物;テトラシアノエチレン(TCNE)、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)、アミノ酸類、ポリスチレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、カンファースルホン酸等の有機化合物などが挙げられる。
電子供与体であるドーパントとしては、特に制限されないが、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属;Be、Mg、Ca、Sc、Ba、Ag、Eu、Yb等のアルカリ土類金属又は他の金属などが挙げられる。
ドーパントは、共役高分子の種類に応じて適切に選択されることが好ましい。
ドーパントは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
感温膜103におけるドーパントの含有量は、導電性高分子の導電性の観点から、共役高分子1molに対して、好ましくは0.1mol以上であり、より好ましくは0.4mol以上である。また、当該含有量は、共役高分子1molに対して、好ましくは3mol以下であり、より好ましくは2mol以下である。
【0029】
感温膜103におけるドーパントの含有量は、導電性高分子の導電性の観点から、感温膜の質量を100質量%として、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上である。また、当該含有量は、感温膜に対して、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。
【0030】
導電性高分子の電気伝導度は、分子鎖内の電子伝導度、分子鎖間の電子伝導度及びフィブリル間の電子伝導度を合算したものである。
また、キャリア移動は一般的に、ホッピング伝導機構によって説明される。非晶領域の局在準位に存在する電子は、局在状態間の距離が近い場合、トンネル効果で隣接する局在準位に飛び移ることが可能である。局在状態間のエネルギーが異なる場合には、そのエネルギー差に応じた熱励起過程が必要となる。このような熱励起過程を伴うトンネル現象による伝導がホッピング伝導である。
【0031】
また、低温時やフェルミレベル近傍の状態密度が高い場合には、エネルギー差の大きい近傍の準位へのホッピングよりエネルギー差の小さい遠方の準位へのホッピングが優位になる。このような場合、広範囲ホッピング伝導モデル(Mott-VRHモデル)が適用される。
広範囲ホッピング伝導モデル(Mott-VRHモデル)から理解できるように、導電性高分子は、温度の上昇に伴って電気抵抗値が低下するNTC特性を有する。
【0032】
[3-2]マトリクス樹脂
感温膜は、マトリクス樹脂と導電性高分子とを含む。具体的には、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に含有された導電性高分子を含む複数の導電性ドメインとを含む。複数の導電性ドメイン103bは、マトリクス樹脂103a中に分散されていることが好ましい。マトリクス樹脂103aは、感温膜103中に複数の導電性ドメイン103bを固定するためのマトリクスである。
【0033】
導電性高分子を含む複数の導電性ドメイン103bをマトリクス樹脂103a中に含有させる、好ましくは分散させることによって、導電性ドメイン間の距離をある程度離すことができる。これにより、温度センサ素子が検出する電気抵抗を、主に導電性ドメイン間のホッピング伝導(
図2において矢印で示すような電子移動)に由来する電気抵抗とすることができる。ホッピング伝導は、広範囲ホッピング伝導モデル(Mott-VRHモデル)から理解できるように、温度に対して高い依存性がある。したがって、ホッピング伝導を優位にすることで、感温膜103が示す電気抵抗値の温度依存性を高めることができる。
【0034】
導電性高分子を含む複数の導電性ドメイン103bをマトリクス樹脂103a中に含有させる、好ましくは分散させることにより、温度センサ素子の使用時に感温膜103にクラック等の欠陥が生じにくく、経時安定性に優れる感温膜103を有する温度センサ素子が得られる傾向にある。
【0035】
感温膜はフッ素原子を含有するが、特にマトリクス樹脂103aがフッ素原子を含有することが好ましい。「マトリクス樹脂103aがフッ素原子を含有する」とは、マトリクス樹脂の高分子構造にフッ素原子が存在することをいう。フッ素原子を含有するマトリクス樹脂が導電性ドメインの周りを取り囲むことで効率的に水の侵入を抑制することができる。また、マトリクス樹脂103aがフッ素原子を含有することで、導電性高分子の導電性を損なうことなく、フッ素原子を導入することができる。
【0036】
フッ素原子を含有するマトリクス樹脂103aを用いた感温膜103によれば、感温膜103への水分の侵入を抑制することができる。感温膜103への水分の侵入の抑制は、前述の1)及び2)に示されるような測定精度の低下の抑制にも寄与することができる。
【0037】
以上のとおり、フッ素原子を含有する感温膜103を備える温度センサ素子によれば、感温膜103への水分の侵入が抑制されるためそれが置かれる湿度環境の影響を受けにくく、湿度環境の変化に伴う電気抵抗値の変動を抑制することができる。従って、この温度センサ素子は、例えば、温度センサ素子を高湿度環境下に置いた後、それより低湿度の環境下に置いた場合であっても、一定の湿度に対する電気抵抗値の数値に変動(差異)が生じにくい傾向にある。すなわち、温度センサ素子は、湿度の影響を受けることなく温度をより正確に測定することができる。
【0038】
マトリクス樹脂103aのフッ素原子の含有率(以下、「フッ素含有率」ともいう。)は、好ましくは4質量%以上である。「マトリクス樹脂103aのフッ素含有率」とは、感温膜103を構成するマトリクス樹脂103aの総質量を100質量%としたときの、それに占めるフッ素原子の総質量の割合(質量%)を意味する。なお、感温膜103を構成するマトリクス樹脂103aが、2種以上の樹脂から構成される場合はその合計質量を100質量%とする。
【0039】
マトリクス樹脂103aのフッ素含有率は、以下の方法に従って測定することができる。マトリクス樹脂を作製するなど、その構造単位又は繰り返し単位の構造が特定できる場合、その構造に基づき、当該構造の全原子量に対する当該構造におけるフッ素原子の含有率を算出することでフッ素含有率を求めることができる。ここで、繰り返し単位とは、ポリイミド樹脂において繰り返されるポリイミドの構造、すなわち後述するジアミン及びテトラカルボン酸などの原料成分に由来する構造単位が結合した構造を意味する。
【0040】
また、マトリクス樹脂の構造を構造解析により特定できる場合は、特定されたマトリクス樹脂の構造に基づき、当該構造の全原子量に対する当該構造におけるフッ素原子の含有率を算出することでフッ素含有率を求めることができる。マトリクス樹脂の構造を特定できない場合は、公知の燃焼イオンクロマトグラフ法などで測定することができる。具体的に、所定量のマトリクス樹脂を大気雰囲気下又は酸素雰囲気下(例えば酸素濃度75%程度)で燃焼させ、発生したガスを水酸化ナトリウム水溶液等の吸着液に吸収さる。次に、この吸着液をイオンクロマトグラフィーで測定することで、測定したマトリクス樹脂におけるフッ素原子の含有率を求めることができる。吸着液は、必要により還元処理などが施されてもよい。
【0041】
マトリクス樹脂103aのフッ素含有率は、温度センサ素子が置かれる想定される湿度環境に応じて調整することが好ましい。温度センサ素子が置かれる湿度環境が比較的高い場合などにおいては、マトリクス樹脂103aのフッ素含有率は、より好ましくは6質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上であり、なおさらに好ましくは15質量%以上であり、特に好ましくは20質量%以上である。温度センサ素子がその表面に結露を生じる湿度環境に置かれる場合、マトリクス樹脂103aのフッ素含有率は、15質量%以上であることが好ましい。
【0042】
マトリクス樹脂103aのフッ素含有率は、通常50質量%以下である。基板との密着性、基板及び電極との密着性などの観点から、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。
【0043】
マトリクス樹脂103aとしては、マトリクス樹脂103a全体としてフッ素原子を含有する限り特に制限されず、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物、熱硬化性樹脂の硬化物、熱可塑性樹脂等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
マトリクス樹脂103aが1種の樹脂から構成される場合、該樹脂がフッ素原子を含有することが好ましい。マトリクス樹脂103aが2種以上の樹脂から構成される場合、少なくとも1種の樹脂がフッ素原子を含有することが好ましい。
【0044】
上記熱可塑性樹脂としては、特に制限されず、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;セルロース系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂;アクリロニトリル・スチレン系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアセタール系樹脂;変性ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド系樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、フッ素原子を含有していてもよい。
【0045】
中でも、マトリクス樹脂103aは、その高分子のパッキング性(分子パッキング性とも言う)が高いことが好ましい。分子パッキング性の高いマトリクス樹脂103aを用いることにより、感温膜103に水分が侵入するのをより効果的に抑制することができる。分子パッキング性の高いマトリクス樹脂103aを用いると、湿度環境の変化に伴う電気抵抗値の変動がより効果的に抑制される傾向にある。
【0046】
分子パッキング性は、分子間相互作用に基づくものである。したがって、マトリクス樹脂103aの分子パッキング性を高めるための一つの手段は、分子間相互作用を生じさせやすい官能基又は部位を高分子鎖に導入することである。
上記官能基又は部位としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等のように水素結合を形成することができる官能基や、π-πスタッキング相互作用を生じさせることができる官能基又は部位(例えば芳香族環等の部位)などが挙げられる。
【0047】
とりわけ、マトリクス樹脂103aとしてπ-πスタッキングできる高分子を用いると、π-πスタッキング相互作用によるパッキングが分子全体に均一に及びやすいため、感温膜103への水分の侵入をより効果的に抑制することができる。
また、マトリクス樹脂103aとしてπ-πスタッキングできる高分子を用いると、分子間相互作用を生じさせる部位が疎水性であるため、感温膜103への水分の侵入をより効果的に抑制することができる。
結晶性樹脂及び液晶性樹脂もまた、高度な秩序構造を有しているため、分子パッキング性の高いマトリクス樹脂103aとして好適である。
【0048】
感温膜103の耐熱性及び感温膜103の製膜性等の観点から、マトリクス樹脂103aは、好ましくはポリイミド系樹脂成分を含む。π-πスタッキング相互作用が生じやすいことから、より好ましくは、ポリイミド系樹脂成分が芳香族環を含有する芳香族ポリイミド系樹脂を含む。芳香族ポリイミド系樹脂は、主鎖に芳香族環を含むことが好ましい。
ポリイミド系樹脂成分とは、樹脂組成物に含まれるポリイミド樹脂をさす。すなわち、ポリイミド樹脂成分が1種のポリイミド樹脂を含む場合、樹脂組成物が含有するポリイミド樹脂成分とはこの1種のポリイミド樹脂を意味し、ポリイミド樹脂成分が2種以上のポリイミド樹脂を含む場合、樹脂組成物が含有するポリイミド樹脂成分とはこの2種以上のポリイミド樹脂を意味する。
【0049】
ポリイミド系樹脂成分は、マトリクス樹脂103aにフッ素原子を含有させるフッ素化ポリイミド系樹脂を1種以上含むことが好ましい。ただし、マトリクス樹脂103aがポリイミド系樹脂成分以外の他の樹脂成分をさらに含む場合、ポリイミド系樹脂成分及び他の樹脂成分の少なくともいずれか一方がフッ素原子を含有していればよい。
【0050】
マトリクス樹脂103aがポリイミド系樹脂成分を含む場合において、マトリクス樹脂103aは、ポリイミド系樹脂成分のみで構成されていてもよいし、他の樹脂成分をさらに含んでいてもよい。
感温膜103の耐熱性及び感温膜103の製膜性等の観点、並びにマトリクス樹脂103aの分子パッキング性の観点から、マトリクス樹脂103aは、それを構成する全樹脂成分を100質量%とするとき、ポリイミド系樹脂成分を、好ましくは50質量%以上含む。マトリクス樹脂103aの含有量は、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、なおさらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは100質量%含む。
【0051】
また、ポリイミド系樹脂成分は、上記芳香族環としてフタルイミド環を含み、該フタルイミド環の含有率(以下、「フタルイミド環含有率」ともいう。)が5質量%以上であることが好ましい。フタルイミド環含有率は、ポリイミド系樹脂成分の総質量を基準(100質量%)としたときの、それに占めるフタルイミド環の総質量の割合(質量%)を意味する。
【0052】
フタルイミド環含有率が5質量%以上であるポリイミド系樹脂成分をマトリクス樹脂103aの一部又は全部として用いると、フタルイミド環がπ-πスタッキング相互作用に大きく寄与するため、マトリクス樹脂103aの分子パッキング性を高めることができる。
【0053】
ポリイミド系樹脂成分のフタルイミド環含有率は、π-πスタッキング相互作用による分子パッキング性向上の観点から、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上であり、なおさらに好ましくは30質量%以上である。
フタルイミド環含有率は、通常60質量%以下であり、より典型的には50質量%以下である。
【0054】
ポリイミド系樹脂成分が有するフタルイミド環とは、下記式(i)で表される構造である。
【0055】
【0056】
上記フタルイミド環において、N原子及びベンゼン環を形成するC原子は、ポリイミド系樹脂中のフタルイミド環以外の他の構造単位や置換基と結合していてもよい。このとき、他の構造単位や置換基と結合しているN原子及びC原子には、水素原子が結合していなくてもよい。フタルイミド環は、フタルイミド環を有するポリイミド系樹脂の主鎖及び側鎖のいずれか一方、又は両方に導入されていてもよいが、主鎖に導入されていることが好ましい。なお、主鎖とは、ポリイミド系樹脂の最長の鎖をいう。
【0057】
ポリイミド系樹脂成分が有するフタルイミド環は、下記式(ii)で表される構造を有していることが好ましい。式中、*1及び*2は、それぞれ隣接する主鎖構造との結合手を表す。式(ii)中、*2で表される結合手の位置は、4位又は5位であることがより好ましい。
【0058】
【0059】
フタルイミド環含有率は、式「フタルイミド環の総質量/ポリイミド系樹脂成分の総質量」から算出することができ、例えば、ポリイミド系樹脂成分を構成するポリイミド系樹脂中の繰返し単位の分子量及び繰返し単位に含まれるフタルイミド環の分子量に基づいて算出することができる。
【0060】
上記フタルイミド環1つあたりの分子量は、フタルイミド環における、ポリイミド系樹脂中のフタルイミド環以外の他の構造単位との結合数及び置換基の結合数に関わらず145とする。また、複数のフタルイミド環がフタルイミド環の一辺を共有して縮合した構造を有する場合、縮合した複数のフタルイミド環それぞれをフタルイミド環として数え、それぞれのフタルイミド環の分子量を145とする。ピロメリット酸ジイミドの構造を有する場合は、フタルイミド環1つとして数え、分子量は145とする。
【0061】
上記ポリイミド系樹脂成分の総質量は、ポリイミド系樹脂中の繰返し単位の分子量に基づいて算出される。このとき、フタルイミド環部分の分子量については、他の構造単位との結合数及び置換基の結合数に応じて算出されるため、145とは限らない。
【0062】
ポリイミド系樹脂成分を構成するポリイミド系樹脂は、例えば、ジアミン及びテトラカルボン酸を反応させたり、これらに加えて酸塩化物を反応させることによって得ることができる。ここで、上記のジアミン及びテトラカルボン酸は、それぞれの誘導体も含むものである。本明細書中で単に「ジアミン」と記載した場合、ジアミン及びその誘導体を意味し、単に「テトラカルボン酸」と記載したときも同様にその誘導体も意味する。
ジアミン及びテトラカルボン酸は、それぞれ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
フッ素化ポリイミド系樹脂は、ジアミン及びテトラカルボン酸のうちの少なくとも一方にフッ素原子を有する化合物を用いて得ることができる。ジアミン及びテトラカルボン酸がそれぞれフッ素原子を有していてもよい。
【0064】
フタルイミド環を有するポリイミド系樹脂は、ジアミン及びテトラカルボン酸の反応によりフタルイミド環が導入されるように、例えば、テトラカルボン酸の誘導体である無水フタル酸構造を有する化合物と、ジアミンとを用いて得ることができる。
【0065】
上記ジアミンとしては、ジアミン、ジアミノジシラン類等が挙げられ、好ましくはジアミンである。
ジアミンとしては、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、又はこれらの混合物が挙げられ、好ましくは芳香族ジアミンを含む。
芳香族ジアミンとは、アミノ基が芳香族環に直接結合しているジアミンをいい、その構造の一部に脂肪族基、脂環基又はその他の置換基を含んでいてもよい。脂肪族ジアミンとは、アミノ基が脂肪族基又は脂環基に直接結合しているジアミンをいい、その構造の一部に芳香族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。
【0066】
芳香族ジアミンとしては、例えば、フェニレンジアミン、ジアミノトルエン、ジアミノビフェニル、ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、ジアミノナフタレン、ジアミノジフェニルエ-テル、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ジアミノジフェニルスルフィド、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ジアミノジフェニルスルホン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノジフェニルメタン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビスアミノフェニルプロパン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビスアミノフェノキシベンゼン、ビス[(アミノ-α,α’-ジメチルベンジル)]ベンゼン、ビスアミノフェニルジイソプロピルベンゼン、ビスアミノフェニルフルオレン、ビスアミノフェニルシクロペンタン、ビスアミノフェニルシクロヘキサン、ビスアミノフェニルノルボルナン、ビスアミノフェニルアダマンタン、上記化合物中の1個以上の水素原子がフッ素原子又はフッ素原子を含む炭化水素基(トリフルオロメチル基等)に置き換わった化合物などが挙げられる。
芳香族ジアミンは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
フェニレンジアミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミンなどが挙げられる。
ジアミノトルエンとしては、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエンなどが挙げられる。
ジアミノビフェニルとしては、ベンジジン(別称:4,4’-ジアミノビフェニル)、o-トリジン、m-トリジン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BAPA)、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニルなどが挙げられる。
ビス(アミノフェノキシ)ビフェニルとしては、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(2-メチル-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルなどが挙げられる。
【0068】
ジアミノナフタレンとしては、2,6-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレンなどが挙げられる。
ジアミノジフェニルエ-テルとしては、3,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、4,4’-ジアミノジフェニルエ-テルなどが挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]エーテルとしては、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エ-テル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エ-テル、ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エ-テル、ビス(4-(2-メチル-4-アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4-(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)フェニル)エーテルなどが挙げられる。
【0069】
ジアミノジフェニルスルフィドとしては、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィドが挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルフィドとしては、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィドなどが挙げられる。
ジアミノジフェニルスルホンとしては、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルホンとしては、ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェニル)]スルホン、ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェニル)]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(2-メチル-4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホンなどが挙げられる。
ジアミノベンゾフェノンとしては、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0070】
ジアミノジフェニルメタンとしては、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]メタンとしては、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタンなどが挙げられる。
ビスアミノフェニルプロパンとしては、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)プロパン等が挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]プロパンとしては、2,2-ビス[4-(2-メチル-4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、などが挙げられる。
【0071】
ビスアミノフェノキシベンゼンとしては、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2-メチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(2-メチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼンなどが挙げられる。
ビス(アミノ-α,α’-ジメチルベンジル)ベンゼン(別称:ビスアミノフェニルジイソプロピルベンゼン)としては、1,4-ビス(4-アミノ-α,α’-ジメチルベンジル)ベンゼン(BiSAP、別称:α,α’-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン)、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-メチルフェノキシ)-α,α’-ジメチルベンジル]ベンゼン、α,α’-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼンなどが挙げられる。
【0072】
ビスアミノフェニルフルオレンとしては、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
ビスアミノフェニルシクロペンタンとしては、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)シクロペンタンなどが挙げられる。
ビスアミノフェニルシクロヘキサンとしては、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-アミノフェニル)4-メチル-シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0073】
ビスアミノフェニルノルボルナンとしては、1,1-ビス(4-アミノフェニル)ノルボルナン、1,1-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)ノルボルナン、1,1-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)ノルボルナンなどが挙げられる。
ビスアミノフェニルアダマンタンとしては、1,1-ビス(4-アミノフェニル)アダマンタン、1,1-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)アダマンタン、1,1-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)アダマンタンなどが挙げられる。
【0074】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,4-ビス(2-アミノ-イソプロピル)ベンゼン、1,3-ビス(2-アミノ-イソプロピル)ベンゼン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、シロキサンジアミン類、上記化合物において1個以上の水素原子がフッ素原子又はフッ素原子を含む炭化水素基(トリフルオロメチル基等)に置き換わった化合物等が挙げられる。
脂肪族ジアミンは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0075】
テトラカルボン酸としては、テトラカルボン酸、テトラカルボン酸エステル類、テトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、好ましくはテトラカルボン酸二無水物を含む。
【0076】
テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ヒドロキノンジベンゾエ-ト-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(ODPA)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4、4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物;
2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン等のテトラカルボン酸の二無水物等が挙げられる。
【0077】
また、テトラカルボン酸二無水物としては、上記化合物において1個以上の水素原子がフッ素原子又はフッ素原子を含む炭化水素基(トリフルオロメチル基等)に置き換わった化合物も挙げられる。テトラカルボン酸二無水物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0078】
酸塩化物としては、テトラカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の酸塩化物が挙げられ、なかでもジカルボン酸化合物の酸塩化物を使用することが好ましい。ジカルボン酸化合物の酸塩化物の例としては、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)〔OBBC〕、テレフタロイルクロリド(TPC)などが挙げられる。
【0079】
フッ素原子を含むポリイミド系樹脂(以下、フッ素化ポリイミド系樹脂とも言う)は、その調製に用いるジアミン及びテトラカルボン酸の少なくともいずれか一方にフッ素原子を含むものを用いることによって調製することができる。
フッ素原子を含むジアミンの一例は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)である。フッ素原子を含むテトラカルボン酸の一例は、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)である。
【0080】
ポリイミド系樹脂成分を構成するポリイミド系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは20000以上であり、より好ましくは50000以上であり、また、好ましくは1000000以下であり、より好ましくは500000以下である。
重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフ装置によって求めることができる。
【0081】
一方で、製膜性の観点からは、マトリクス樹脂103aは製膜しやすい特性を有するものが好ましい。その一例として、マトリクス樹脂103aは、ウェット製膜性に優れる可溶性樹脂であることが好ましい。このような特性を与える樹脂構造としては、主鎖に適度に屈曲構造があるものが挙げられ、例えば、主鎖にエーテル結合を含有させて屈曲させる方法、主鎖にアルキル基などの置換基を導入して立体障害で屈曲させる方法などが挙げられる。
【0082】
[3-3]感温膜の構成
感温膜103は、マトリクス樹脂103aと、マトリクス樹脂103a中に含有される複数の導電性ドメイン103bとを含む構成を有する。複数の導電性ドメイン103bは、マトリクス樹脂103a中に分散されていることが好ましい。導電性ドメイン103bは、導電性高分子(ドーパントがドープされた共役高分子)を含み、好ましくは導電性高分子で構成される。マトリクス樹脂103a中に複数の導電性ドメイン103bが含有される、好ましくは分散される構成にすることにより、ホッピングする距離が長くなる傾向にある。ホッピングする距離が長くなると、抵抗値が大きくなるため、検出される電気抵抗値の変化量が主にホッピング伝導に由来するものとなる。これにより、感温膜103が示す単位温度当たりの電気抵抗値が高くなる結果、温度センサ素子の温度測定の精度を高めることができる。
【0083】
感温膜103において、共役高分子及びドーパントの合計の含有量は、感温膜103への水分の侵入を効果的に抑制する観点から、マトリクス樹脂103a、共役高分子及びドーパントの合計量100質量%に対して、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下であり、なおさらに好ましくは60質量%以下である。共役高分子及びドーパントの合計の含有量が90質量%を超えると、感温膜103におけるマトリクス樹脂103aの含有量が小さくなるため、感温膜103への水分の侵入を抑制する効果が低下する傾向にある。
【0084】
温度センサ素子の電力消費低減の観点及び温度センサ素子の正常作動の観点から、感温膜103において、共役高分子及びドーパントの合計の含有量は、マトリクス樹脂103a、共役高分子及びドーパントの合計量100質量%に対して、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上であり、なおさらに好ましくは30質量%以上である。
【0085】
共役高分子及びドーパントの合計の含有量が小さいと、電気抵抗が大きくなる傾向にあり、測定に必要な電流が増えるため電力消費が著しく大きくなることがある。また、共役高分子及びドーパントの合計の含有量が小さいため、電極間の導通が得られないことがある。共役高分子及びドーパントの合計の含有量が小さいと、流れる電流によってジュール熱が発生することがあり、温度測定そのものが困難になることもある。したがって、導電性高分子を形成しうる共役高分子及びドーパントの合計の含有量は、上記の範囲内であることが好ましい。
【0086】
感温膜103の厚みは、特に制限されないが、例えば、0.3μm以上50μm以下である。温度センサ素子のフレキシブル性の観点から、感温膜103の厚みは、好ましくは0.3μm以上40μm以下である。
【0087】
[3-4]感温膜の作製
感温膜103は、共役高分子、ドーパント、マトリクス樹脂(例えば熱可塑性樹脂)及び溶剤を攪拌混合することで感温膜用高分子組成物を調製し、この組成物から製膜することで得られる。成膜方法としては、例えば、基板104上に感温膜用高分子組成物を塗布し、次いでこれを乾燥し、必要に応じてさらに熱処理する方法が挙げられる。感温膜用高分子組成物の塗布方法としては、特に制限されず、例えば、スピンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、ディップコート法、エアーナイフコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ブレードコート法、滴下法等が挙げられる。
【0088】
マトリクス樹脂103aを活性エネルギー線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂から形成する場合には、硬化処理がさらに施される。活性エネルギー線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いる場合には、感温膜用高分子組成物への溶剤の添加が不要な場合があり、この場合、乾燥処理も不要である。
【0089】
感温膜用高分子組成物においては通常、共役高分子とドーパントとが導電性高分子のドメイン(導電性ドメイン)を形成している。感温膜用高分子組成物がマトリクス樹脂を含むと、マトリクス樹脂を含まない場合に比べて導電性ドメインが該組成物中により分散された状態となり、導電性高分子ドメイン間の伝導がホッピング伝導となりやすく、電気抵抗値を正確に検出することができることから好ましい。
【0090】
感温膜用高分子組成物(溶剤を除く)におけるマトリクス樹脂の含有量と、該組成物から形成される感温膜103におけるマトリクス樹脂の含有量とは実質的に同じであることが好ましい。また、感温膜用高分子組成物に含まれる各成分の含有量は、溶剤を除く感温膜用高分子組成物の各成分の合計に対する各成分の含有量であるが、感温膜用高分子組成物から形成される感温膜103における各成分の含有量と実質的に同じであることが好ましい。
【0091】
製膜性の観点から、感温膜用高分子組成物に含まれる溶剤は、共役高分子、ドーパント及びマトリクス樹脂を溶解可能な溶剤であることが好ましい。
溶剤は、使用する共役高分子、ドーパント及びマトリクス樹脂の溶剤への溶解性等に応じて選択されることが好ましい。
使用可能な溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N-メチルホルムアミド、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド、m-クレゾ-ル、フェノ-ル、p-クロルフェノール、2-クロル-4-ヒドロキシトルエン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジオキサン、γ-ブチロラクトン、ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、1,4-ジオキサン、イプシロンカプロラクタム、ジクロロメタン、クロロホルム等が挙げられる。
溶剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0092】
感温膜用高分子組成物は、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を1種又は2種以上含んでいてもよい。
【0093】
感温膜用高分子組成物における共役高分子、ドーパント及びマトリクス樹脂の合計含有量は、感温膜用高分子組成物の固形分(溶剤以外の全成分)を100質量%とするとき、好ましくは90質量%以上である。該合計含有量は、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは98質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0094】
[4]温度センサ素子
温度センサ素子は、上記した構成要素以外の他の構成要素を含むことができる。他の構成要素としては、例えば、電極、絶縁層、感温膜を封止する封止層等、温度センサ素子に一般的に使用されるものが挙げられる。
【0095】
上記感温膜を含む温度センサ素子は、それが置かれる環境の湿度条件の影響を受けにくく、従来の温度センサ素子よりも正確に温度を測定することができる。このことは、温度センサ素子の湿度環境の変化に伴う電気抵抗値の変動を測定することで評価でき、例えば以下の方法で評価することができる。
【0096】
まず、室温で常湿(40~60%RH程度)の環境下に温度センサ素子を一定時間静置する。その後、温度センサ素子の一対の電極と市販のデジタルマルチメータとをリード線で繋ぎ、その環境下での電気抵抗値R1を測定する。次に、温度センサ素子を同じ温度で相対湿度がより低い環境下に静置し、この環境下での電気抵抗値R2を測定する。なお、後述の実施例では、温度センサ素子を温度30℃で相対湿度60%RHの環境下に15時間静置して電気抵抗値1を測定し、次いで、温度センサ素子を温度30℃で相対湿度30%RHの環境下に1時間静置して電気抵抗値2を測定している。
【0097】
以上のようにして測定した電気抵抗値を下記式に代入し、電気抵抗値の変化率r(%)を求めることができる。
r(%)=100×(|R1-R2|/R1)
【0098】
変化率r(%)は、その数値が小さいほど、より高い湿度の環境下に長時間静置した後により低い湿度の環境下に静置した後でも、それぞれの湿度環境で測定される電気抵抗値間の差が小さいことを意味する。温度センサ素子は、温度変化を電気抵抗値として検出するため、このような温度センサ素子によれば、湿度の変化に影響を受けることなく、温度をより正確に測定することができる。
【0099】
変化率r(%)は、1%以下であることが好ましい。より好ましくは0.9%以下であり、さらに好ましくは0.7%以下である。変化率r(%)は、0%に近いほど好ましい。変化率r(%)が上記の範囲であると、上記感温膜を備える温度センサ素子が、湿度の変化に影響を受けることなく、温度をより正確に測定することができる傾向にあるため好ましい。
【実施例】
【0100】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ない限り、質量基準である。
【0101】
(製造例1:脱ドープされたポリアニリンの調製)
脱ドープされたポリアニリンは、下記[1]及び[2]に示す通り、塩酸ドープされたポリアニリンを調製し、これを脱ドープすることで調製した。
【0102】
[1]塩酸ドープされたポリアニリンの調製
アニリン塩酸塩(関東化学(株)製)5.18gを水50mLに溶解させて第1水溶液を調製した。また、過硫酸アンモニウム(富士フィルム和光純薬(株)製)11.42gを水50mLに溶解させて第2水溶液を調製した。
次に、第1水溶液を35℃に温調しながら、マグネティックスターラを用いて400rpmで10分間攪拌し、その後、同温度で攪拌しながら、第1水溶液に第2水溶液を5.3mL/minの滴下速度で滴下した。滴下後、反応液を35℃に保ったまま、さらに5時間反応させたところ、反応液に固体が析出した。
その後、ろ紙(JIS P 3801化学分析用2種)を用いて反応液を吸引濾過し、得られた固体を水200mLで洗浄した。その後、0.2M塩酸100mL、次いでアセトン200mLで洗浄した後に真空オーブンで乾燥させて、下記式(1)で表される塩酸ドープされたポリアニリンを得た。
【0103】
【0104】
[2]脱ドープされたポリアニリンの調製
上記[1]で得られた塩酸ドープされたポリアニリンの4gを、100mLの12.5質量%のアンモニア水に分散させ、マグネティックスターラで約10時間攪拌したところ、反応液に固体が析出した。
その後、ろ紙(JIS P 3801化学分析用2種)を用いて反応液を吸引濾過し、得られた固体を水200mL、次いでアセトン200mLで洗浄した。その後、50℃で真空乾燥させて、下記式(2)で表される脱ドープされたポリアニリンを得た。濃度が5質量%となるように、脱ドープされたポリアニリンをN-メチルピロリドン(NMP;東京化成工業(株))に溶解させて、脱ドープされたポリアニリン(共役高分子)の溶液を調製した。
【0105】
【0106】
(製造例2:マトリクス樹脂1の調製)
国際公開第2017/179367号の実施例1の記載に従って、ジアミンとして下記式(3)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を、テトラカルボン酸二無水物として下記式(4)で表される4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)をそれぞれ用いて、下記式(5)で表される繰り返し単位を有するポリイミドの粉体を製造した。
濃度が8質量%となるように上記粉体をプロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタートに溶解させて、ポリイミド溶液(1)を調製した。以下の実施例では、マトリクス樹脂1としてポリイミド溶液(1)を用いている。
【0107】
【0108】
(製造例3:マトリクス樹脂2の調製)
ジアミンとして下記式(6)で表される4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)及び下記式(7)で表される1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン(BiSAP)を用い、テトラカルボン酸二無水物として下記式(8)で表される1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)を用いた。そして、BAPB:BiSAP:HPMDAのモル比を、0.5:0.5:1としたこと以外は、特開2016-186004号公報の合成例2の記載に従ってポリイミド溶液を得、同公報の実施例2の記載に従ってポリイミド粉体を得た。
濃度が8質量%となるように上記粉体をγ-ブチロラクトンに溶解させて、ポリイミド溶液(2)を調製した。以下の実施例では、マトリクス樹脂2としてポリイミド溶液(2)を用いている。
【0109】
【0110】
<実施例1>
[1]感温膜用高分子組成物の調製
製造例1で調製した脱ドープされたポリアニリンの溶液0.500gと、NMP(東京化成工業(株))0.920gと、マトリクス樹脂1としてのポリイミド溶液(1)0.730gと、ドーパントとしての(+)-カンファースルホン酸(東京化成工業(株))0.026gとを混合して、感温膜用高分子組成物を調製した。
【0111】
[2]温度センサ素子の作製
図3及び
図4を参照しながら、温度センサ素子の作製手順について説明する。
図3を参照して、1辺5cmの正方形のガラス基板(コーニング社の「イーグルXG」)の一方の表面上に、イオンコータ((株)エイコー製「IB-3」)を用いたスパッタリングによって、長さ2cm×幅3mmの長方形のAu電極を一対形成した。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた断面観察によるAu電極の厚みは、200nmであった。
次に、
図4を参照して、ガラス基板上に形成した一対のAu電極の間に、上記[1]で調製した感温膜用高分子組成物を200μL滴下した。滴下によって形成された感温膜用高分子組成物の膜は、双方の電極に接していた。その後、常圧下50℃で2時間及び真空下50℃で2時間の乾燥処理を行った後、100℃で約1時間の熱処理を行うことにより感温膜を形成して、温度センサ素子を作製した。感温膜の厚みをDektak KXT(BRUKER社製)で測定したところ、30μmであった。
【0112】
<実施例2>
実施例1のポリイミド溶液(1)0.730gを、ポリイミド溶液(1)0.520g及びポリイミド溶液(2)0.210gに変更した以外は、実施例1と同様にして感温膜用高分子組成物を調製した。この感温膜用高分子組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして感温膜を形成し、温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0113】
<実施例3>
実施例1のポリイミド溶液(1)0.730gを、ポリイミド溶液(1)0.210g及びポリイミド溶液(2)0.520gに変更した以外は、実施例1と同様にして感温膜用高分子組成物を調製した。この感温膜用高分子組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして感温膜を形成し、温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0114】
<実施例4>
実施例1のポリイミド溶液(1)0.730gを、ポリイミド溶液(1)0.100g及びポリイミド溶液(2)0.630gに変更した以外は、実施例1と同様にして感温膜用高分子組成物を調製した。この感温膜用高分子組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして感温膜を形成し、温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0115】
<実施例5>
実施例1のポリイミド溶液(1)0.730gを、ポリイミド溶液(1)0.420g及びポリイミド溶液(2)0.310gに変更した以外は、実施例1と同様にして感温膜用高分子組成物を調製した。この感温膜用高分子組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして感温膜を形成し、温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0116】
<実施例6>
実施例1のポリイミド溶液(1)0.730gを、ポリイミド溶液(1)0.310g及びポリイミド溶液(2)0.420gに変更した以外は、実施例1と同様にして感温膜用高分子組成物を調製した。この感温膜用高分子組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして感温膜を形成し、温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0117】
<比較例1>
実施例1のポリイミド溶液(1)0.730gを、ポリイミド溶液(2)0.730gに変更した以外は、実施例1と同様にして感温膜用高分子組成物を調製した。この感温膜用高分子組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして感温膜を形成し、温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0118】
実施例1~6及び比較例1で調製した感温膜用高分子組成物の固形分を100質量%としたときのマトリクス樹脂1及び2の含有率(質量%)を表1に示す。感温膜用高分子組成物の固形分とは、溶剤以外の全成分をいう。
また、実施例1~6及び比較例1で調製した感温膜用高分子組成物において、その固形分を100質量%としたときの脱ドープされたポリアニリン(共役高分子)の含有率は、いずれも23.1質量%であった。
実施例1で作製した温度センサ素子が有する感温膜の断面を写したSEM写真を
図5に示す。白く写っている部分が、マトリクス樹脂中に分散して配置された導電性ドメインである。
【0119】
[マトリクス樹脂のフッ素含有率]
実施例1~6及び比較例1について、感温膜を構成するマトリクス樹脂のフッ素含有率(質量%)を、次のようにして算出した。結果を表1に示す。
【0120】
マトリクス樹脂2は、上記式(6)、(7)及び(8)で表される構造単位を有する樹脂であり構造内にフッ素原子を有しないため、フッ素含有率は0質量%とした。したがって、比較例1のマトリクス樹脂のフッ素含有率(質量%)は、0質量%とした。
【0121】
マトリクス樹脂1は、上記式(5)で表される繰り返し単位を有する樹脂であり、この繰り返し単位の構造に基づき、当該構造の全原子量に対する当該構造のフッ素原子の含有率を算出した。繰り返し単位当たりの分子量を728とし、フッ素の原子量を19とし、これらと繰り返し単位中のフッ素原子の数(12個)から、マトリクス樹脂1のフッ素含有率を31.3質量%と算出した。したがって、実施例1のマトリクス樹脂のフッ素含有率(質量%)は、31.3質量%とした。
【0122】
実施例2~6は、マトリクス樹脂1及び2を混合して使用している。そのため、マトリクス樹脂の全量におけるフッ素含有率Z(質量%)は、マトリクス樹脂全量におけるマトリクス樹脂1及び2の含有率をそれぞれX(質量%)及びY(質量%)とし、下記式によりを算出した。
マトリクス樹脂全量におけるフッ素含有率Z=X/(X+Y)×31.3
【0123】
[感温膜中のフッ素含有率]
感温膜中のフッ素含有率は、下記式で算出した。式中のZは、上記マトリクス樹脂のフッ素含有率に記載のものと同じである。Wは、感温膜中の樹脂含有率(質量%)とする。結果を表1に示す。
感温膜中のフッ素含有率(質量%)=W × Z
なお、実施例1及び実施例4について、感温膜中のフッ素含有率を、上述の燃焼イオンクロマトグラフ法を用いて測定したところ、それぞれ、14.2質量%、2.1質量%であった。
【0124】
[マトリクス樹脂のフタルイミド環含有率の算出]
算出に当たり、フタルイミド環の分子量を145、マトリクス樹脂1の繰返し単位の分子量を728、マトリクス樹脂2の繰返し単位の分子量を545、マトリクス樹脂1の繰返し単位中のフタルイミド環の数を2、マトリクス樹脂2の繰返し単位中のフタルイミド環の数を0とした。感温膜用高分子組成物に含まれるマトリクス樹脂1及びマトリクス樹脂2の量に基づいて、実施例及び比較例で用いたマトリクス樹脂のフタルイミド環含有率を算出した。具体的に、マトリクス樹脂のフタルイミド環含有率(質量%)は、マトリクス樹脂1の含有量をA(g)、マトリクス樹脂2の含有量をB(g)とするとき、下記式で算出した。ここで、マトリクス樹脂1及びマトリクス樹脂2の含有量とは、ポリイミド溶液1及び2に含まれるポリイミドの量とした。
マトリクス樹脂のフタルイミド環含有率=100×(145×2×A)/[728×(A+B)]
【0125】
[温度センサ素子の評価]
温度センサ素子の評価は、温度センサ素子が置かれる湿度環境の変化が、温度センサ素子の示す指示値(電気抵抗値)に与える影響を評価することで行った。具体的には、次のように行った。
温度センサ素子を温度30℃で相対湿度60%RHの環境下に15時間静置した。その後、温度センサ素子の一対のAu電極とデジタルマルチメータ(OWON社製「B35T+」)とをリード線で繋ぎ、温度センサ素子を温度30℃で相対湿度60%RHの環境下の電気抵抗値R60を測定した。
その後、温度センサ素子を温度30℃で相対湿度30%RHの環境下に1時間静置し、温度30℃で相対湿度30%RHの環境下の電気抵抗値R30を測定した。
下記式に従って、電気抵抗値の変化率r(%)を求めた。結果を表1に示す。
r(%)=100×(|R60-R30|/R60)
【0126】
上記式において、変化率r(%)は、小さいほど高湿度環境下に長時間静置した後であっても、湿度環境の変化に伴う電気抵抗値の変動がより抑制されていることになる。すなわち、湿度の影響を受けずに温度を測定することができる。
【0127】
【符号の説明】
【0128】
100 温度センサ素子、101 第1電極、102 第2電極、103 感温膜、103a マトリクス樹脂、103b 導電性ドメイン、104 基板。