(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】分子構造を決定するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20 20180101AFI20231030BHJP
G01N 23/20058 20180101ALI20231030BHJP
G01N 23/04 20180101ALI20231030BHJP
【FI】
G01N23/20 380
G01N23/20058
G01N23/04 330
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020107072
(22)【出願日】2020-06-22
【審査請求日】2023-05-30
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】バルト,ビュッセ
(72)【発明者】
【氏名】アバイ,コテチャ
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-531009(JP,A)
【文献】特開平06-148101(JP,A)
【文献】特表2004-507717(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0049363(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0275655(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0025021(US,A1)
【文献】HOVMOLLER, Sven,Crystal structure determiation from EM images and electron diffraction patterns,Advances in Imaging and Electron Physics,2002年01月01日,Vol. 123,Pages 257-289
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G01N 33/00 - G01N 33/98
G01B 15/00 - G01B 15/08
G16C 10/00 - G16C 99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルの分子構造を決定するための方法であって、
入射ビームに対して前記サンプルを傾斜させながら前記サンプルの複数の回折パターンを取得することと、
前記複数の回折パターンの回折ピークの強度に基づいて構造因子の振幅を決定することと、
前記サンプルの
第1の電子顕微鏡画像(
第1のEM画像)を取得することと、
前記第1のEM画像を取得した後に、前記第1のEM画像を取得するための電流密度より高い電流密度で第2のEM画像を取得することと、
前記
第1のEM画像
、前記第2のEM画像および前記複数の回折パターンの前記回折ピークの前記強度に基づいて前記構造因子の位相を決定することと、
前記構造因子の前記振幅および前記構造因子の前記位相に基づいて前記サンプルの前記分子構造を決定することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記第2のEM画像に基づいてコントラスト伝達関数(CTF)を決定することをさらに含み、前記第2のEM画像に基づいて前記構造因子の前記位相を決定することが、前記CTFに基づいて前記構造因子の前記位相を決定すること、を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記
第1のEM画像を取得することが、ある傾斜角で前記
第1のEM画像を取得することを含み、前記
第1のEM画像
、前記第2のEM画像および前記複数の回折パターンの前記回折ピークの前記強度に基づいて前記構造因子の前記位相を決定することが、前記
第1のEM画像および前記傾斜角での前記回折ピークの強度に基づいて前記傾斜角での前記構造因子の前記位相を決定することを含む、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記傾斜角での前記構造因子の前記位相が、前記回折ピークのフリーデル対の強度に基づいてさらに決定される、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記回折ピークの前記強度と前記回折ピークの前記フリーデル対の前記強度が異なる、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記回折ピークの強度に基づいて前記構造因子の前記振幅を決定することが、特定の傾斜角での前記構造因子の前記振幅を、前記傾斜角での前記回折ピークの強度の平方根をとることにより計算することを含む、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項7】
前記回折ピークの強度に基づいて前記構造因子の前記振幅を決定することが、前記回折ピークの前記強度を曲線にフィッティングさせることと、特定の傾斜角での前記構造因子の前記振幅を、前記傾斜角での前記曲線の強度の平方根をとることにより計算することを含む、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項8】
前記複数の回折パターンを閾値処理することにより前記回折ピークを特定することをさらに含む、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の回折パターンの前記回折ピークの強度が非ゼロである、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項10】
サンプルの分子構造を決定するためのシステムであって、
電子ビームを生成するための電子源と、
前記電子ビームに対して前記サンプルを傾斜させるためのサンプルホルダーと、
前記サンプルの回折パターンを取得するための第1の検出器と、
前記サンプルの電子顕微鏡(EM)画像を取得するための第2の検出器と、
非一時的な媒体に格納されたコンピュータ可読命令を備えたコントローラであって、
前記サンプルが前記サンプルホルダーを介して前記電子ビームに対して傾斜させながら、前記電子ビームを前記サンプルの第1の場所に向けて、前記第1の検出器を介して前記サンプルの複数の
回折パターンを取得することと、
前記複数の回折パターンの回折ピークの強度に基づいて構造因子の振幅を決定することと、
前記電子ビームを前記サンプルの第2の場所に向けて、前記第2の検出器を介して前記サンプルの低線量EM画像
および高線量EM画像を取得することと、
前記低線量EM画像
、高線量EM画像および前記回折ピークの前記強度に基づいて前記構造因子の位相を決定することと、
前記構造因子の前記振幅および前記構造因子の前記位相に基づいて前記サンプルの前記分子構造を決定することと、を行うように構成されたコントローラと、を備える、システム。
【請求項11】
前記コントローラが、
前記電子ビームを前記サンプルの前記第2の場所に向けて、前記低線量EM画像を取得する前に前記サンプルを第1の傾斜角に配置することと、
前記低線量EM画像を取得した後に、前記サンプルの前記第2の場所での高線量EM画像を取得することと、を行うようにさらに構成され、
前記低線量EM画像および前記回折ピークの前記強度に基づいて前記構造因子の前記位相を決定することが、前記低線量EM画像、前記回折ピークの前記強度、および前記高線量EM画像に基づいて前記第1の傾斜角での前記構造因子の前記位相を決定することを含む、請求項
10に記載のシステム。
【請求項12】
前記コントローラが、2つの直交軸に沿って前記サンプルを傾斜させるようにさらに構成され、前記複数の回折パターンを取得することが、前記サンプルを前記2つの直交軸のうちの一方に沿って傾斜させながら第1の回折パターングループを取得することと、前記サンプルを前記2つの直交軸のうちの他方に沿って傾斜させながら第2の回折パターングループを取得することと、を含む、請求項
10または
11に記載のシステム。
【請求項13】
前記コントローラが、
前記高線量EM画像を取得した後に前記サンプルを第2の傾斜角に配置することと、
前記電子ビームを前記第2の傾斜角で配置された前記サンプルの第3の場所に向けて、前記サンプルの第2の低線量EM画像および第2の高線量EM画像を順次取得することと、
前記第2の低線量EM画像、前記第2の高線量EM画像、および前記回折ピークの前記強度に基づいて前記第2の傾斜角での前記構造因子の前記位相を決定することと、を行うようにさらに構成され、
前記構造因子の前記振幅および前記構造因子の前記位相に基づいて前記分子構造を決定することが、前記構造因子の前記振幅、前記第1の傾斜角での前記構造因子の前記位相、および前記第2の傾斜角での前記構造因子の前記位相に基づいて前記分子構造を決定することを含む、請求項
11に記載のシステム。
【請求項14】
前記コントローラが、前記サンプルホルダーを介して前記サンプルを連続的に傾斜させながら前記複数の回折パターンを取得するように構成されている、請求項
10、11および
13のいずれかに記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、概して、分子構造を決定するための方法およびシステムに関し、より具体的には、回折パターンおよび電子顕微鏡画像に基づいて分子構造を決定することに関する。
【背景技術】
【0002】
有機分子の分子構造は、その対応する構造因子によって決定されることがある。構造因子は、結晶の格子が入射放射線をどのように散乱させるかを示す。結晶を形成する分子の3D分子構造は、結晶の構造因子を決定することで解決することができることがある。結晶からの散乱波は互いに干渉し、2次元回折パターンを形成することがある。回折パターンにおける高強度は、散乱角がブラッグ条件を満たすときに強め合って形成される。構造因子には、振幅と位相が含まれる。構造因子の振幅は回折パターンから取得し得るが、位相情報は失われる。分子構造を解明するために、結晶の電子顕微鏡画像から位相情報を抽出することがある。特に、位相情報は、電子顕微鏡画像のフーリエ変換から読み取られることがある。
【発明の概要】
【0003】
一実施形態では、分子構造を決定するための方法は、傾斜角範囲でサンプルを傾斜させながらサンプルの複数の回折パターンを取得することと、複数の回折パターンの回折ピークの強度に基づいて構造因子の振幅を決定することと、サンプルの電子顕微鏡(EM)画像を取得することと、EM画像および複数の回折パターンの回折ピークの強度に基づいて構造因子の位相を決定することと、構造因子の振幅および構造因子の位相に基づいてサンプルの分子構造を決定することと、を含む。このようにして、分子構造は、サンプルの回折パターンおよびEM画像から解明され得る。サンプルは、マクロ結晶を粉砕することによって調製されたラメラであってもよい。
【0004】
上記の概要は、発明を実施するための形態でさらに説明される概念の選択を簡略化した形で紹介するために提供されていることを理解されたい。特許請求される主題の主要なまたは本質的な特徴を特定することを意味するものではなく、その範囲は、詳細な説明に続く特許請求の範囲によって一意に定義される。さらに、特許請求される主題は、上記または本開示の任意の部分で言及された任意の欠点を解決する実装に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】例示的な実施形態による、分子構造を決定するためのシステムを示す。
【
図2A】逆空間における3次元結晶とエワルド球の反射の位置の例を示す。
【
図3】回折パターンおよび電子顕微鏡画像に基づいて分子構造を決定する方法の例を示す高レベルのフローチャートである。
【
図4】回折パターンおよび電子顕微鏡画像を取得するためのラメラの場所の例を示す。
【
図6】回折傾斜系列を取得するサブルーチンの例である。
【
図7A】複数の回折パターンでサンプリングされた回折ピークを示す。
【
図7B】
図7Aの回折ピークに対して生成されたロッキングカーブを示す。
【
図8】電子顕微鏡傾斜系列を取得するためのサブルーチンの例である。
【
図9】構造因子の位相を決定するサブルーチンの例を示す。
【
図10B】
図10Aと同じ傾斜角で取得された低線量電子顕微鏡画像のフーリエ変換を示す。
【0006】
同様の参照番号は、図面のいくつかの図を通して対応する部分を指す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の説明は、サンプルの回折パターンおよび電子顕微鏡(EM)画像に基づいて分子構造を決定するためのシステムおよび方法に関する。一例では、回折パターンおよびEM画像は、
図1の電子顕微鏡システムなどの電子顕微鏡イメージングシステムから取得されてもよい。
【0008】
分子構造は、実空間のフーリエ変換である逆空間におけるその構造因子に基づいて解明されてもよい。構造因子には、振幅と位相が含まれる。構造因子の振幅と構造因子の位相の両方が、逆空間において画定された3次元(3D)データセットである。実空間の結晶格子面からの散乱波は、逆空間で反射を形成する。各反射には、逆空間の原点に対して中心対称に配置されたフリーデル対がある。反射とそのフリーデル対は、フリーデルペアを形成する。反射は、2D回折パターンを介してキャプチャまたはサンプリングし得る。
図2Aに示すように、回折パターンの回折ピークは、その対応する反射が、逆空間の湾曲したエワルド球と(またはそこからの閾値距離内で)重複する場合にのみ現れる。弱い位相物体の場合、回折パターン内の反射のフリーデルペアの振幅は同じ強度を持つ場合がある。しかしながら、エワルド球の曲率が原因で、単一の回折パターンでは反射のフリーデルペアの振幅をキャプチャすることができない場合がある。言い換えれば、
図2Bの回折パターンに示されるように、回折パターンの回折ピークは中心対称でなくてもよい。回折パターンの回折ピークのフリーデルペアは、異なる強度を有する場合がある。したがって、構造因子のフリーデルペアの強度は異なる場合がある。さらに、EM画像に基づいて構造因子の位相を決定する場合、回折ピークのフリーデルペアの強度が等しくないために生じる追加の位相シフトを考慮する必要がある。
【0009】
図3は、サンプルの回折傾斜系列とEM傾斜系列に基づいて3D結晶の分子構造を決定する方法の例を示す。回折傾斜系列には複数の傾斜角で取得された回折パターンが含まれ、EM傾斜系列には複数の傾斜角で取得されたEM画像が含まれる。サンプルはラメラの形態であってもよい。構造因子の振幅は、回折傾斜系列の回折ピークの強度に基づいて決定されてもよい。構造因子の位相は、サンプルのEM画像および回折傾斜系列からの回折ピークの強度に基づいて解明されてもよい。
図4は、回折パターンおよびEM画像を取得するためのラメラ上の場所の例を示す。
図5は、異なる傾斜角でのラメラを示す。
図6は、構造因子の振幅を決定するためのサブルーチンを示す。
図7Aおよび
図7Bは、回折ピークのロッキングカーブを生成するプロセスを示す。
図8は、EM傾斜系列を取得するためのサブルーチンを示す。
図9は、構造因子の位相を決定するためのサブルーチンを示す。
図10Aおよび10Bは、それぞれ、同じ傾斜角で取得された低線量EM画像の回折パターンおよびフーリエ変換を示す。
【0010】
図1を参照すると、本開示の実施形態による透過型電子顕微鏡(TEM)システム100が示されている。TEMシステム100は、電子ビーム11などの放出軸110に沿って荷電粒子をカラム12に向かって放出する電子源10を含む。電子源10は、高エネルギー電子、すなわち、約10keVと1,000keVとの間の典型的なエネルギーを有する電子を生成してもよい。いくつかの実施形態では、カラム12は、コンデンサレンズ120および121などの1つ以上のコンデンサレンズと、開口122などの1つ以上の開口とを含んでもよい。カラム12は、電子源10から生成された電子をコリメートし、電子ビームをサンプル14上に向ける。サンプル14は、サンプルホルダー13によって保持され得る。サンプルホルダー13は、サンプルを傾斜させるおよび/または並進させることによってサンプル位置を調整し得る。電子ビームがサンプルの選択された領域のみを照射することを可能にするために、コンデンサアパーチャ15は任意選択でビーム経路に挿入されてもよい。
【0011】
TEMシステム100は、サンプルの回折パターンとEM画像の両方を取得するために使用されてもよい。回折撮像モードでは、実線で示すように、散乱電子は、サンプル14を透過し、対物レンズ123、中間レンズ126、および投影レンズ127を順に進んだ後、検出器25によって収集され得る。散乱されなかったビームは、ビームストッパ17によって遮断され得る。収集された散乱電子は、選択領域電子回折(SAED)パターンなどの電子回折パターンを形成するために使用され得る。EM撮像モードでは、ビームストッパ17がビーム経路から取り外される。サンプル14から送信された電子は、破線で示されるように、対物レンズ123、中間レンズ126、および投影レンズ127を順に進み、検出器25上にサンプルのTEM画像を形成する。
【0012】
検出器25は、受け取った電子を検出し、信号を画像プロセッサ24に送って画像を形成し得る。検出器25は、信号を画像プロセッサ24に送る前に信号を増幅するための増幅器を含んでもよい。一例では、検出器25は、CCDカメラまたはCMOSカメラとしてもよい。いくつかの実施形態では、回折パターン取得およびEM画像取得のために異なる検出器を使用してもよい。
【0013】
コントローラ30は、オペレータの命令に応答して手動で、または非一時的メモリ(またはコンピュータ可読媒体)32に格納されたコンピュータ可読命令に従って自動的にかのいずれかで、TEMシステム100の動作を制御し得る。コントローラ30は、プロセッサを含み、本明細書で説明する方法のいずれかを実施するために、コンピュータ可読命令を実行して、TEMシステム100の様々な構成要素を制御するように構成されてもよい。例えば、コントローラは、選択された領域アパーチャ15および対物絞り124の位置を調整することにより、SAEDパターンまたはEM画像を取得するように撮像モードを調整してもよい。コントローラ30は、電流密度を調整することにより、サンプルに向けて照射される電子ビームの線量を調整してもよい。例えば、電流密度は、コンデンサ光学系(コンデンサレンズ120および121など)を調整することによって調整してもよい。コントローラ30は、カラム12の1つ以上のアパーチャおよび/またはレンズを調整することによって、入射ビームのプロファイルを調整し得る。コントローラ30は、サンプルホルダー13を調整することにより、入射ビームに対するサンプルの位置および/または向きを調整し得る。コントローラ30は、サンプルの通知および/または画像を表示するためにディスプレイ31にさらに結合されてもよい。コントローラ30は、ユーザ入力デバイス33からユーザ入力を受け取り得る。ユーザ入力デバイス33は、キーボード、マウス、またはタッチスクリーンを含み得る。
【0014】
TEMシステムは例として説明されているが、回折パターンおよびEM画像は他の顕微鏡システムで取得され得ることを理解されたい。一実施形態では、回折パターンおよびEM画像は、異なる顕微鏡システムによって取得されてもよい。一例として、回折パターンは、X線回折システムから取得されたX線回折パターンであってもよい。別の例として、EM画像は、走査型透過電子顕微鏡(STEM)システムから取得されてもよい。TEMシステムの本考察は、単に1つの好適な画像化モダリティの例として提供されている。
【0015】
図2Aは、逆格子における3D結晶およびエワルド球の反射の例の位置を示す。
図2Bは、
図2Aの条件下で取得された対応する回折パターンを示す。
図2Aでは、反射の位置は、逆空間のkx-kz平面に示されている。逆空間は、軸kx、ky、およびkzによって画定される。3D結晶は、方向212に荷電粒子ビームで照射される。反射(201、202、203、204、および205)は、逆空間での3D結晶の反射のサブセットを表す。ここで、反射(201~205)は、kx-kz平面において破線210に沿って整列する。アーチ211は、エワルド球の一部である。反射のフリーデルペアは、同じ振幅を持ち得るが、エワルド球の曲率が原因で、回折ピークのフリーデルペアの強度が異なる場合がある。エワルド球に近い(すなわち、短い距離内の)反射は、回折パターンに高強度の回折ピークとして現れる。この例では、軸kzの右側の反射(すなわち、kx>0)は、軸kzの左側の反射(すなわち、kx<0)と比較して、エワルド球に近くなる。対応する回折パターン
図2Bでは、回折ピーク(223、224、225、および226)は、逆空間のkx-ky平面の線222に沿って整列している。ほとんどの回折ピークは、画像の右側、回折パターンの原点(すなわち、逆空間の原点)にあるビームストッパ221の右側に現れる。回折ピーク223と224はフリーデルペアである。回折ピーク225と226のフリーデル対は、回折パターンでキャプチャされない。言い換えれば、回折ピーク225と226のフリーデル対の強度は、それぞれ回折ピーク225と226の強度と比較してより低い。
【0016】
図3は、分子の分子構造を決定するための方法300の例を示す。分子は、2D結晶または3D結晶の形態であり得る。分子構造は、その構造因子の振幅および位相を解明することによって決定し得る。構造因子の振幅は、回折傾斜系列に基づいて決定され得る。構造因子の位相は、回折傾斜系列およびEM傾斜系列に基づいて決定され得る。
【0017】
302で、結晶サンプルを調製する。サンプルはラメラの形態であってもよい。ラメラは、マクロ結晶から粉砕されてもよい。例えば、ラメラは、集束イオンビームなどの荷電粒子ビームを使用してマクロ結晶を粉砕することによってマクロ結晶から形成されてもよい。マクロ結晶は、シッティングまたはハンギングドロップ蒸気拡散またはバッチ結晶化などの標準的なタンパク質結晶化法によって調製されてもよい。ラメラの厚さは、調査中の分子のタイプに基づいて決定され得る。例えば、分子構造が無傷であることを確実にするために、ラメラの厚さは、結晶の単位格子のサイズよりも大きくてもよい。ラメラの厚さは、300nm未満であってもよい。ラメラが薄いほど、構造因子の振幅を決定する際の動的散乱の影響を減らし得る。いくつかの実施形態では、サンプルは、複数のラメラを含み得る。
【0018】
図4は、集束イオンビームでマクロ結晶を粉砕することによって調製されたラメラ401の一例を示す。各ラメラについて、回折パターンおよびEM画像を取得するために複数の場所を画像化し得る。例えば、
図4では、ラメラの実線の四角はEM画像の取得に使用される場所を示し、ラメラの破線の四角は回折パターンの取得に使用される場所を示す。回折パターンの撮像領域およびEM画像は同じであってもよい。画像のピクセル解像度は、分子構造の所望の解像度に基づいて決定され得る。例えば、分子構造で5オングストロームの望ましい解像度では、ナイキスト条件を満たすために、EM画像で2.5オングストロームのピクセル解像度が必要になることがある。撮像領域は、結晶の放射線硬度によって決定され得る。一例では、撮像領域は、0.01~1μm
2であり得る。
【0019】
303で、画像を取得するために、
図1のイメージングシステムなどのイメージングシステムを設定する。イメージングシステムを設定することは、ラメラをシステムに読み込むことを含み得る。イメージングシステムを設定することは、サンプルを画像化する前にコマのない位置合わせを行うことを含み得る。
【0020】
304で、サンプルの回折傾斜系列を取得する。回折傾斜系列は、複数の2D回折パターンを含む3Dデータセットであ。回折パターンは、0.1el/A2未満の電流密度で取得された電子回折パターンであり得る。例えば、電流密度は0.01el/A2である。
【0021】
一実施形態では、ラメラは、傾斜速度で傾斜軸を中心に連続的に傾斜させてもよい。傾斜軸は、入射ビームに対して直交してもよい。傾斜速度は、所望のサンプリング解像度および回折パターンの取得速度に基づいて決定されてもよい。傾斜角の差Δθごとにラメラを傾斜させると、回折パターンが形成され得る。言い換えれば、各回折パターンは、傾斜角差Δθにわたる。連続して取得された回折パターン間の傾斜角差Δθは、所望のサンプリング解像度に基づいて決定されてもよい。例えば、傾斜角差Δθは、所望のサンプリング解像度が増加するにつれて減少してもよい。さらに、傾斜角差Δθは、より細かいスライスを得るために、オーバーサンプリングレートに基づいて調整されてもよい。傾斜角差Δθは、オーバーサンプリングレートに反比例してもよい。一例では、傾斜角差Δθは3度であってもよい。すなわち、3度の角度傾斜ごとに1つの回折パターンが取得される。別の実施形態では、ラメラは個別に傾斜させられてもよい。例えば、ラメラは、最初に傾斜角差Δθだけ傾斜されてもよい。次に、荷電粒子ビームをサンプルに向けて照射して、サンプルがビームに対して静止しているときに回折パターンを取得する。
【0022】
図5は、軸x、y、およびzによって画定される実空間における異なる傾斜角でのラメラの位置を示す。ラメラは、z軸に沿って、矢印501によって示される荷電粒子ビームで照射され得る。ラメラは、入射ビームに直交する軸の周りに傾斜させられてもよい。例えば、ラメラは、矢印510によって示されるように、y軸を中心に傾斜させられ、または回転されてもよい。y軸は、サンプルホルダーの回転軸に対応し得る。傾斜角は、ラメラとx軸の間の角度によって画定されてもよい。例えば、位置502では、ラメラの傾斜角はゼロである。位置504では、ラメラは正の傾斜角505を有する。位置503では、ラメラは負の傾斜角506を有する。
【0023】
いくつかの実施形態では、傾斜角の範囲は、サンプルホルダーの最大回転範囲によって制限されてもよい。傾斜角の範囲は、サンプルホルダーの最大回転範囲と同じであってもよい。例えば、ラメラを-70度~+70度に傾斜させながら、回折傾斜系列を取得してもよい。一実施形態では、全回折傾斜系列が、サンプルの同じ場所で取得されてもよい。別の実施形態では、回折傾斜系列は、サンプルの複数の場所から取得されてもよい。例えば、傾斜角が-70度~0度の範囲の回折パターンをサンプルの第1の場所で取得し、傾斜角が0度~70度の範囲の回折パターンをサンプルの第2の場所で取得してもよい。分子構造の損傷を回避するために、各場所で取得される回折パターンの数は、電子ビームの線量によって制限されてもよい。いくつかの実施形態では、回折傾斜系列は、302で調製された複数のラメラから取得されてもよい。
【0024】
いくつかの実施形態では、回折傾斜系列は、2つの直交軸に沿って傾斜させることによって取得される回折パターンを含んでもよい。例えば、
図5に示すように、第1のグループの回折パターンをサンプルをy軸に沿って傾斜させることにより取得し、第2のグループの回折パターンをサンプルをx軸に沿って傾斜させることにより取得してもよい。2つの直交軸に沿って傾斜させながら取得した回折パターンを含めることにより、3D逆空間の回折ピークのより正確なプロファイルを取得し得る。さらに、構造因子の振幅の決定に対する動的散乱の影響を低減し得る。
【0025】
306で、構造因子の振幅を、回折傾斜系列に基づいて計算し得る。構造因子の振幅は、回折傾斜系列の回折ピークの強度に基づいて決定されてもよい。各回折ピークは、逆空間での反射に対応する。結晶のサイズおよび/またはビームの広がりが有限であるため、回折ピークは、デルタ関数ではない場合があるが、逆空間の体積を占める。言い換えれば、回折ピークの強度は、逆空間の体積内で広がる(すなわち、強度がゼロではない)。したがって、単一の回折パターンでは、回折ピークの完全な角度スポットプロファイルをキャプチャすることができず、複数の傾斜角での回折ピークの強度が構造因子の振幅を解明するために使用される。
【0026】
図6および
図7A~7Bは、構造因子の振幅計算を詳細に示す。構造因子の振幅は、回折ピークの強度が非ゼロである傾斜角のサブセットにわたる各回折ピークの角度スポットプロファイル(またはロッキングカーブ)に基づいて決定され得る。各ロッキングカーブは、複数の傾斜角にわたる回折ピークの強度をフィッティングすることによって生成される。
【0027】
601で、回折傾斜系列の各回折ピークの強度を決定する。回折ピークの強度を決定することは、特定の回折ピークに属する高強度スポットをグループ化することによって各回折ピークを特定することと、回折パターンの回折ピークの高強度スポットの合計強度に基づいて回折パターンの(または傾斜角での)回折ピークの強度を計算することと、を含んでもよい。
【0028】
602で、回折傾斜系列を閾値化してもよい。例えば、背景を削除した後、回折傾斜系列の低強度のデータポイント(またはピクセル)を、閾値処理によって除外する。背景は、非弾性散乱電子、試料支持フィルムから散乱した電子、または試料の非結晶部分によって生じ得る。一例では、背景は、ローパスフィルタリングを介して除去されてもよい。低強度のデータポイントを削除した後、閾値レベルより高い強度のデータポイントのみが保持される。一実施形態では、閾値レベルを事前に決定してもよい。別の実施形態では、閾値レベルを、回折傾斜系列の最大強度に基づいて決定してもよい。例えば、閾値レベルは、最大強度の10%パーセントであってもよい。さらに別の実施形態では、閾値レベルは、イメージングシステムの感度によって決定されてもよい。例えば、閾値レベルは、回折傾斜系列のノイズレベルであってもよい。
【0029】
604で、回折傾斜系列の回折ピークを特定する。例えば、回折ピークを特定することは、各回折パターン内の高強度スポットを特定することと、回折ピークに属する高強度スポットを特定することと、を含んでもよい。高強度スポットは、高強度データポイント(またはピクセル)のグループを含む回折パターン内の領域である。高強度スポットを特定することは、高強度スポットの場所および合計強度を決定することを含んでもよい。高強度スポットは、互いに重ならなくてもよい。一実施形態では、高強度スポットを特定することは、各高強度スポットの境界を特定することを含んでもよい。各高強度スポットの合計強度は、高強度スポットの境界内のすべてのデータポイント(またはピクセル)の強度を平均または合計することによって計算してもよい。高強度スポットの場所は、逆空間における高強度スポット境界の幾何学的中心であってもよい。
【0030】
各回折ピークに属する高強度スポットを特定することは、その強度および場所に基づいて高強度スポットをグループ化することを含んでもよい。回折ピークは、複数の回折パターンでキャプチャされてもよい。一実施形態では、回折ピークに属する高強度スポットは、逆空間における高強度スポットの距離に基づいて特定されてもよい。例えば、逆空間において互いに閾値距離内にある高強度スポットは、1つの回折ピークに属すると決定される。高強度スポット間の距離は、回折パターン内の高強度スポットの場所および回折パターンの傾斜角に基づいて決定してもよい。各回折ピークの高強度スポットは、高強度スポットの合計強度に基づいてさらに特定されてもよい。例えば、傾斜角が大きくなると、合計強度は最初に増加し、次に減少する。
【0031】
606で、各回折パターンの回折ピークの強度を計算する。例えば、回折パターンの(または傾斜角での)回折ピークの強度は、回折パターン内の回折ピークの高強度スポットの合計強度である。
【0032】
図7Aは、回折傾斜系列における回折ピークの例の強度を示す。
図7Aでは、回折傾斜系列701は、複数の傾斜角θで取得された複数の回折パターンを含む。高強度スポットの一例が、各回折パターン711、712、713、および714に示されている。回折パターン711~714の高強度スポットは、逆空間で互いに近くにあるため、同じ回折ピークに属すると判断される。高強度スポットのグレーレベルは、高強度スポットの合計強度、または回折パターンの回折ピークの強度を示す。高強度スポットは、合計強度が高くなるほど暗くなる。合計強度は最初に増加し、次に傾斜角の増加につれて減少する。
【0033】
608で、各回折ピークのロッキングカーブ(または角度スポットプロファイル)を、複数の回折パターンの回折ピークの強度に基づいて生成してもよい。例えば、ロッキングカーブは、回折ピークの強度をガウス曲線などの曲線に適合させることによって生成されてもよい。
【0034】
図7Bは、
図7Aの傾斜角θ1~θ2からの回折ピークの強度に基づいて生成されたロッキングカーブ725の例を示す。
図7Bにおいて、x軸は傾斜角である。y軸は、回折ピークの強度であり、矢印で示すように強度が増加する。この例では、ラメラを連続的に回転させながら回折パターンを取得しているため、各高強度スポットの合計強度は、傾斜角差Δθの幅を持つバー状になる。バー721、722、723、および724の高さは、それぞれ、回折パターン711、712、713、および714の高強度スポットの合計強度に対応する。回折ピークの強度は、傾斜角θ1~θ2のゼロより上であり、他の場所ではゼロである。ロッキングカーブは、回折ピークの強度を曲線でフィッティングすることによって生成されてもよい。例えば、高強度スポットの合計強度は、ガウス曲線でフィッティングされてもよい。
【数1】
ただし、I
maxは、回折ピークの最大強度であり、θ
0は、最大強度I
maxを有する傾斜角であり、σは、ガウス曲線の標準偏差である。標準偏差σは、回折ピークの強度をガウス曲線でフィッティングすることによって取得してもよい。逆空間における回折ピークの場所は、ロッキングカーブに基づいて決定されてもよい。例えば、逆空間における回折ピークの場所は、最大強度を有する傾斜角(
図7Bのθ
0など)と回折パターンにおける最大強度を有する高強度のスポットの場所(
図7Aの回折パターン713の回折ピークの場所など)とに基づいて決定されてもよい。
【0035】
610で、ロッキングカーブに基づいて構造因子の振幅を決定してもよい。空間周波数kでの構造因子の振幅は、対応する傾斜角θ’でのロッキングカーブの平方根をとることによって計算されてもよい。
すなわち、
【数2】
ただし、F(k)は、逆空間における空間周波数k(すなわち、回折ピークの場所)での構造因子の振幅であり、I(θ’)は、傾斜角θでのロッキングカーブの強度である。傾斜角θ’は、空間周波数kに基づいて計算されてもよい。なお、絶対構造因子を決定するには、ロッキングカーブにわたるスケーリングの適切な積分が必要である。本発明では、フリーデル対に対応する構造因子の相対的強度のみが重要であり、したがって、積分およびスケーリングは必要とされない。
【0036】
このようにして、構造因子の振幅は、回折ピークのロッキングカーブに基づいて決定され得る。ロッキングカーブは、回折傾斜系列における回折ピークの強度にフィッティングすることによって生成される。逆空間における回折ピークの場所は、回折パターンにおける対応する高強度スポットの場所に基づいて決定されてもよい。特定の傾斜角での回折ピークの強度は、傾斜角での高強度スポットの合計強度であってもよい。
【0037】
図3に戻ると、308で、EM傾斜系列を取得する。EM傾斜系列には、複数の傾斜角でのサンプルの低線量と高線量の両方のEM画像が含まれてもよい。例えば、各傾斜角で、サンプルの同じ場所で低線量と高線量のEM画像が取得される。
図8は、複数のEM画像を取得するためのサブルーチン800の例を示す。
【0038】
802で、複数のEM画像の傾斜角を決定する。EM傾斜系列の傾斜角の範囲は、
図3の304における回折傾斜系列の傾斜角の範囲と同じであってもよい。EM傾斜系列間の間隔、すなわち連続するEM画像間の傾斜角差は、回折傾斜系列と異なってもよい。一実施形態では、EM撮像の傾斜角の間隔は、回折傾斜系列の傾斜角差Δθに基づいて決定されてもよい。傾斜角の間隔は、利用可能な撮像領域にさらに依存してもよい。
【0039】
804で、ラメラのサンプルを新しい場所にずらし、802で決定された傾斜角の1つに傾斜させてもよい。サンプルホルダーを操作することにより、ラメラをずらし、かつ傾斜させてもよい。いくつかの実施形態では、新しい場所は、異なるラメラ上の場所であってもよい。一実施形態では、ラメラは、回折傾斜系列と同じ傾斜軸の周りに傾斜してもよい。別の実施形態では、ラメラは、回折傾斜系列とは異なる傾斜軸の周りに傾斜してもよい。傾斜軸は、入射ビーム軸に直交してもよい。
【0040】
806で、サンプルの低線量率EM画像を取得してもよい。低線量EM画像は、低減された電流密度を使用して取得してもよい。例えば、低線量EM画像は、0.1el/オングストローム2未満の電流密度で取得されもよい。低線量EM画像は、0.01el/オングストローム2の電流密度で取得されてもよい。低線量EM画像には、結晶格子からのブラッグ反射が含まれる。
【0041】
808で、低線量EM画像を取得した直後に、サンプルの場所を調整することなく、サンプルの高線量EM画像を取得してもよい。高線量EM画像は、低線量EM画像取得の電流密度を使用して取得されてもよい。例えば、高線量EM撮像の電流密度は、10~100μg/オングストローム2であってもよい。ラメラのサンプルの領域に高エネルギー電子を照射することにより、撮像領域内の分子構造が損傷する可能性がある。したがって、高線量EM画像には、結晶格子からのブラッグ反射は含まれない。高線量EM画像から、イメージングシステムの収差を反映するコントラスト伝達関数(CTF)を導出してもよい。
図10Bは、低線量EM画像のフーリエ変換を示す。
図10Bの中心の周りのトーンリングは、イメージングシステムの焦点外れ、球面収差および非点収差などの収差によって生じ得る。低線量のため、トーンリングは、低線量EM画像と同じ傾斜角で取得された
図10Aの回折パターンと比較して、EM画像ではほとんど見えない。したがって、CTFの計算には高線量EM画像が必要である。
図10Aの領域1001の回折ピークは、
図10Bの領域1002の高強度信号に対応する。
【0042】
810で、サブルーチン800は、802で決定されたすべての傾斜角でのEM画像が取得されるかどうかを決定する。すべての傾斜角が撮像されている場合、サブルーチン800は終了する。それ以外の場合は、別の場所のEM画像および傾斜角を取得する。
【0043】
一実施形態では、入射ビームに対してサンプルを連続的に傾斜させながら回折傾斜系列を取得し、サンプルが入射ビームに対して静止している間に複数のEM画像の各EM画像を取得する。したがって、各回折パターンは傾斜角の範囲に対応し、各EM画像は離散的な傾斜角に対応する。EM取得中にサンプルを傾斜させると、EM画像の高解像度情報が不鮮明になり、フーリエ変換されたEM画像の解像度が低下することがあるため、EM取得中のサンプルは静止したままである。
【0044】
図3に戻ると、310で、構造因子の位相は、308で取得されたEM傾斜系列および回折パターン内の回折ピークの強度に基づいて決定されてもよい。
図9は、構造因子の位相を決定するためのサブルーチン900の例を示す。特に、傾斜角での2D構造因子位相は、低線量EM画像のフーリエ変換、傾斜角で果たされた高線量EM画像から導出されたCTF、および傾斜角での回折ピークのフリーデルペアの強度に基づいて解明してもよい。次に、複数の傾斜角での2D構造因子位相を、構造因子の位相の3Dデータセットに再構築してもよい。
【0045】
902で、ステップ308から選択された傾斜角で取得された高線量および低線量のEM画像をメモリに読み込んでもよい。選択された角度は、
図8の802で決定された傾斜角のうちの1つであってもよい。
【0046】
904で、CTFは、高線量EM画像から導出されてもよい。一実施形態では、CTFは、高線量EM画像のフーリエ変換に基づいて導出されてもよい。傾斜角に基づいてCTFをさらに調整して、傾斜したサンプル(ラメラなど)の撮像領域にわたる不均一な焦点に対処してもよい。
【0047】
906では、選択された傾斜角での構造因子の位相(すなわち、2D構造位相)は、低線量EM画像のフーリエ変換、904で導出されたCTF、および選択した傾斜角での回折ピークのフリーデルペアの強度に基づいて計算されてもよい。
【0048】
例えば、低線量EM画像の単一のフーリエ成分は次のように表される。
【数3】
ただし、I
θ(x)は傾斜角θで取得され、xは実空間における場所であり、kは逆空間における空間周波数であり、F(k)およびF(-k)は構造因子のフリーデルペアの振幅であり、γ(k)は904で導出されたCTFであり、αkは空間周波数kでの構造因子の位相である。F(k)およびF(-k)は、回折パターンの回折ピークのフリーデルペアの強度の平方根に比例する。
図2Bに示されているように、反射とエワルド球との間の距離は原点に対して中心対称ではないため、回折パターンの回折ピークのフリーデルペアの強度は異なり得る。したがって、構造因子のフリーデルペアの振幅F(k)とF(-k)は異なり得る。一実施形態では、所与の空間周波数での構造因子の振幅は、回折ピークのロッキングカーブに基づいて取得してもよい。例えば、
図7Bに示されているように、構造因子の振幅F(k’)は、ロッキングカーブI(θ’)の平方根であってもよい。別の実施形態では、ロッキングカーブを生成することなく、F(k’)は、回折パターンの回折ピークの強度から直接得てもよい。例えば、
図7Bでは、F(k’)は、強度731の平方根に設定されてもよい。別の例では、回折パターンおよびEM画像が同じ離散角θ’で撮像された場合、構造因子の振幅は、回折パターンの回折ピーク強度の平方根として設定されてもよい。
【0049】
式(1)は以下のようにさらに簡略化され得る。
【数4】
ただし、
【数5】
【数6】
【数7】
及び
【数8】
である。
このように、傾斜角θでの構造因子の位相α
kは、低線量EM画像I
θ(x)のフーリエ変換、構造因子のフリーデルペアの強度、およびCTFに基づいて解明し得る。構造因子のフリーデルペア(または回折ピークのフリーデルペア)の強度の違いにより、β(k)+π/2の追加の位相シフトが発生する。フリーデルペアの強度が等しい場合、すなわちF(k’)=F(-k’)、β(k’)=-π/2の場合、追加の位相シフトは存在しない。
【0050】
908では、位相の原点が2D構造因子位相で確立される。特に、2D構造因子位相は、実空間の座標系の共通の原点に調整されるため、異なる傾斜角を持つ2D構造因子位相をマージして、構造因子の3D位相を取得し得る。一実施形態では、位相の原点は、同じ位相を持つ傾斜軸上の2D構造因子位相を要求することによって確立されてもよい。例えば、実空間のy軸を中心にサンプルを傾斜させることでEM画像を取得する場合、2D構造因子位相を調整して、逆空間のky軸に沿った反射の位相が同じになるようにしてもよい。
【0051】
910で、サブルーチン900は、すべてのEM画像が処理されたかどうかをチェックする。言い換えると、サブルーチン900は、EM撮像のすべての傾斜角が処理されたかどうかをチェックする。答えがいいえである場合、912で別の傾斜角が選択され、選択された傾斜角での構造因子の位相が計算される。そうでない場合、すべてのEM画像が処理されると、さまざまな角度の2D構造因子に基づいて、構造因子の3D位相が914で構築されてもよい。構造因子位相を構築することは、結晶軸に対する傾斜角に基づいて2D構造因子位相をマージすることを含み得る。
【0052】
図3に戻ると、312で、分子構造は、306で決定された構造因子の振幅および310で決定された構造因子の位相に基づいて再構築されてもよい。分子構造は、実空間における結晶の原子座標を含んでもよい。一例では、分子構造は、3D構造因子振幅および3D構造因子位相の逆フーリエ変換に基づいて決定されてもよい。いくつかの実施形態では、分子構造は、取得された回折傾斜系列に基づいてさらに洗練されてもよい。例えば、分子構造内の原子の場所を微調整して、計算された回折パターンと観測された回折パターンとの差を最小限に抑えてもよい。計算された回折は、解明された分子構造のフーリエ変換、および回折傾斜系列からの観察された回折パターンによって決定されてもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、回折傾斜系列を取得する前に、EM傾斜系列を取得してもよい。いくつかの実施形態では、回折傾斜系列またはEM傾斜系列の傾斜角度範囲は、結晶の既知の対称性に基づいて減少してもよい。例えば、第1の傾斜角範囲をカバーする第1の回折傾斜系列を取得してもよい。第1の傾斜角範囲よりも大きい第2の傾斜角範囲をカバーする第2の回折傾斜系列が、第1の回折傾斜系列および結晶の既知の対称性に基づいて構築されてもよい。
【0054】
このようにして、3D結晶の分子構造は、回折傾斜系列およびEM傾斜系列に基づいて解明され得る。回折傾斜系列は、第1の範囲の傾斜角で取得された回折パターンを含み得、EM傾斜系列は、第2の範囲の傾斜角で取得された低線量および高線量のEM画像を含んでもよい。3D構造因子振幅は、傾斜角にわたるロッキングカーブの積分に基づいて決定されてもよい。3D構造因子位相は、EM傾斜系列および3D構造因子振幅に基づいて解明されてもよい。分子構造は、構造因子の振幅と位相に基づいて取得されてもよい。
【0055】
回折パターンを取得することの技術的効果は、構造因子の振幅を取得することである。複数の回折パターンの回折ピークの強度に基づいて構造因子の振幅を決定する技術的効果は、回折ピークの合計強度をキャプチャすることである。回折パターンの回折ピークのフリーデルペアの強度に基づいて2D構造因子の位相を決定する技術的効果は、フリーデルペアの強度が等しくないために発生する追加の位相シフトを考慮し得ることである。各傾斜角での高線量EM画像および低線量EM画像を取得することの技術的効果は、低線量EM画像に対応するCTFが高線量EM画像に基づいて決定され得ることである。
【0056】
一実施形態では、サンプルの分子構造を決定するための方法は、傾斜角範囲でサンプルを傾斜させながらサンプルの複数の回折パターンを取得することと、複数の回折パターンの回折ピークの強度に基づいて構造因子の振幅を決定することと、サンプルの電子顕微鏡(EM)画像を取得することと、EM画像および複数の回折パターンの回折ピークの強度に基づいて構造因子の位相を決定することと、構造因子の振幅および構造因子の位相に基づいてサンプルの分子構造を決定することと、を含む。本方法の最初の例では、EM画像を取得した後、そのEM画像を取得するための電流密度より高い電流密度でサンプルの第2のEM画像を取得し、さらに第2のEM画像に基づいて構造因子の位相を決定する。本方法の第2の例は、任意選択で第1の例を含み、第2のEM画像に基づいてコントラスト伝達関数(CTF)を決定することをさらに含み、第2のEM画像に基づいて構造因子の位相を決定することが、CTFに基づいて構造因子の位相を決定すること、をさらに含む。本方法の第3の例は、任意選択で第1および第2の例のうちの1つ以上を含み、EM画像を取得することが、傾斜角範囲内の傾斜角でEM画像を取得することを含み、EM画像および複数の回折パターンの回折ピークの強度に基づいて構造因子の位相を決定することが、EM画像および傾斜角での回折ピークの強度に基づいて傾斜角での構造因子の位相を決定することを含むこと、をさらに含む。本方法の第4の例は、任意選択で第1~第3の例のうちの1つ以上を含み、傾斜角での構造因子の位相が、回折ピークのフリーデル対の強度に基づいてさらに決定されること、をさらに含む。本方法の第5の例は、任意選択で第1~第4の例のうちの1つ以上を含み、回折ピークの強度と回折ピークのフリーデル対の強度とが異なること、をさらに含む。方法の第6の例は、任意選択で第1~第5の例のうちの1つ以上を含み、回折ピークの強度に基づいて構造因子の振幅を決定することが、特定の傾斜角での構造因子の振幅を、その傾斜角での回折ピークの強度の平方根をとることにより計算することを含むこと、をさらに含む。本方法の第7の例は、任意選択で第1~第6の例のうちの1つ以上を含み、回折ピークの強度に基づいて構造因子の振幅を決定することが、回折ピークの強度を曲線にフィッティングさせることと、特定の傾斜角での構造因子の振幅を、その傾斜角での曲線の強度の平方根をとることにより計算することと、を含むこと、をさらに含む。本方法の第8の例は、任意選択で第1~第7の例のうちの1つ以上を含み、複数の回折パターンを閾値処理することによって回折ピークを特定すること、をさらに含む。本方法の第9の例は、任意選択で第1~第8の例のうちの1つ以上を含み、複数の回折パターンの回折ピークの強度が、非ゼロであること、をさらに含む。本方法の第10の例は、任意選択で第1~第9の例のうちの1つ以上を含み、サンプルがラメラであること、をさらに含む。
【0057】
別の実施形態では、命令を含む非一時的コンピュータ可読媒体であって、命令は実行時に、傾斜角範囲でサンプルを傾斜させながらサンプルの複数の回折パターンを取得することと、複数の回折パターンの各回折ピークの強度に基づいて構造因子の振幅を決定することと、複数の傾斜角でのサンプルの電子顕微鏡(EM)画像を取得することと、複数のEM画像および回折ピークの強度に基づいて構造因子の位相を決定することと、構造因子の振幅および構造因子の位相に基づいてサンプルの分子構造を決定することと、をプロセッサに実行させる。第1の例では、複数のEM画像および回折ピークの強度に基づいて構造因子の位相を決定することが、複数のEM画像および回折ピークのフリーデルペアの強度に基づいて構造因子の位相を決定することを含む。非一時的コンピュータ可読媒体の第2の例は、任意選択で第1の例を含み、複数のEM画像および回折ピークの強度に基づいて構造因子の位相を決定することが、回折ピークの強度に基づいて構造因子のフリーデルペアの強度を決定し、複数のEM画像および構造因子のフリーデルペアの強度に基づいて構造因子の位相を決定すること、を含むこと、をさらに含む。非一時的コンピュータ可読媒体の第3の例は、任意選択で第1および第2の例のうちの1つ以上を含み、実行時に、サンプルの第1の場所での複数の回折パターンを取得することと、サンプルの第2の場所での複数のEM画像を取得することと、をプロセッサに実行させる命令をさらに含む。
【0058】
さらに別の実施形態では、サンプルの分子構造を決定するためのシステムは、電子ビームを生成するための電子源と、電子ビームに対してサンプルを傾斜させるためのサンプルホルダーと、サンプルの回折パターンを取得するための第1の検出器と、サンプルの電子顕微鏡(EM)画像を取得するための第2の検出器と、非一時的な媒体に格納されたコンピュータ可読命令を備えたコントローラであって、サンプルホルダーを介してサンプルを傾斜角範囲内で傾斜させることと、電子ビームをサンプルの第1の場所に向けて、サンプルを傾斜させながら第1の検出器を介してサンプルの複数の電子回折パターンを取得することと、複数の回折パターンの回折ピークの強度に基づいて構造因子の振幅を決定することと、電子ビームをサンプルの第2の場所に向けて、第2の検出器を介してサンプルの低線量EM画像を取得することと、低線量EM画像および回折ピークの強度に基づいて構造因子の位相を決定することと、構造因子の振幅および構造因子の位相に基づいてサンプルの分子構造を決定することと、を行うように構成されるコントローラと、を含む。システムの第1の例では、コントローラが、電子ビームをサンプルの第2の場所に向けて低線量EM画像を取得する前に、サンプルを第1の傾斜角に配置することと、低線量EM画像を取得した後に、サンプルの第2の場所での高線量EM画像を取得することと、を行うようにさらに構成され、低線量EM画像および回折ピークの強度に基づいて構造因子の位相を決定することが、低線量EM画像、回折ピークの強度、および高線量EM画像に基づいて第1の傾斜角での構造因子の位相を決定することを含む。システムの第2の例は、任意選択で第1の例を含み、コントローラが、2つの直交軸に沿ってサンプルを傾斜させるようにさらに構成され、複数の回折パターンを取得することが、サンプルを2つの直交軸のうちの一方に沿って傾斜させながら第1の回折パターングループを取得することと、2つの直交軸のうちの他方に沿ってサンプルを傾斜させながら第2の回折パターングループを取得することと、を含むこと、をさらに含む。システムの第3の例は、任意選択で第1および第2の例のうちの1つ以上を含み、コントローラが、高線量EM画像を取得した後にサンプルを第2の傾斜角に配置することと、電子ビームを第2の傾斜角で配置されたサンプルの第3の場所に向けて、サンプルの第2の低線量EM画像および第2の高線量EM画像を順次取得することと、第2の低線量EM画像、第2の高線量EM画像、および回折ピークの強度に基づいて第2の傾斜角での構造因子の位相を決定することと、を行うようにさらに構成され、構造因子の振幅および構造因子の位相に基づいて分子構造を決定することが、構造因子の振幅、第1の傾斜角での構造因子の位相、および第2の傾斜角での構造因子の位相に基づいて分子構造を決定することをさらに含む。システムの第4の例は、任意選択で第1および第3の例のうちの1つ以上を含み、コントローラが、サンプルホルダーを介してサンプルを連続的に傾斜させながら複数の回折パターンを取得するように構成されること、をさらに含む。