(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】3Dプリンタ用金属粉および造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/16 20060101AFI20231030BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20231030BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231030BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231030BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20231030BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231030BHJP
【FI】
B22F3/16
B22F3/105
B22F1/00 P
B22F1/00 R
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2020522251
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2019021319
(87)【国際公開番号】W WO2019230806
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2018103587
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝部 雅恭
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎一
(72)【発明者】
【氏名】井野 忠
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】中野 秀士
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115648(WO,A1)
【文献】特開2016-102229(JP,A)
【文献】特開2009-270130(JP,A)
【文献】L. WERMUTH et al.,Selective Laser Melting of Noble and Refractory Alloys for Next Generation Spacecraft Thruster,Metallic Materials and Processes: Industrial Challenges -MMP 2015,2015年11月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 12/90
C22C 1/04- 1/05
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属粒子を具備し、
前記複数の金属粒子の粒度分布は、1μm乃至200μmの粒径の範囲内に最大ピークを有し、
前記粒度分布における累積割合が体積割合で90%である粒径D
90と、前記累積割合が体積割合で10%である粒径D
10と、の差D
90-D
10は10μm以上であり、
前記複数の金属粒子は、複数の第1の金属粒子と、複数の第2の金属粒子と、を含み、
前記複数の第1の金属粒子のそれぞれは、最大径が1μm以上でありかつ真球度が90%以上であり、
前記複数の第2の金属粒子のそれぞれは、真球度が90%未満であり、
前記複数の金属粒子のうち、前記複数の第1の金属粒子の割合は、10gあたり0.5g以上5g以下であり、
安息角が40度以上60度以下である、
3Dプリンタ用金属粉。
【請求項2】
前記粒度分布の範囲は0.1μm乃至300μmである、請求項1に記載の金属粉。
【請求項3】
前記複数の金属粒子のそれぞれは、タングステン、モリブデン、レニウム、ニオブ、タンタル、クロム、およびバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を50原子%以上含む、請求項1または請求項2に記載の金属粉。
【請求項4】
前記複数の金属粒子のうち、一次粒子でありかつ最大径が1μm以上である金属粒子は、アスペクト比が1.0以上1.5以下である、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の金属粉。
【請求項5】
真密度に対する嵩密度の比が15%以上である、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の金属粉。
【請求項6】
前記粒度分布は、8μm乃至200μmの粒径の範囲内に前記最大ピークを有する、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の金属粉。
【請求項7】
前記複数の第2の金属粒子の少なくとも一つは、多角形の輪郭を有する、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の金属粉。
【請求項8】
前記複数の第1の金属粒子のそれぞれは、前記最大径が1μm以上60μm以下である、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の金属粉。
【請求項9】
真密度に対する嵩密度の比が15%以上80%以下である、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の金属粉。
【請求項10】
前記複数の第2の金属粒子の少なくとも一つは、角張った表面を有する、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の金属粉。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の金属粉を用いて3Dプリンタにより成形物を形成する工程を具備する、造形物の製造方法。
【請求項12】
前記成形物の平均密度は90%以上である、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記成形物は、フィン構造、ラティス構造、板構造、柱構造、ハニカム構造、中空構造、およびばね構造からなる群より選ばれる少なくとも一つの構造を有する、請求項11または請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、3Dプリンタ用金属粉および造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
新規な成形技術として、3Dプリンタを用いた成形技術(3Dプリンティング)が開発されている。3Dプリンティングは、3次元立体モデルを使って直接的に立体的な成形物を造形する技術である。3Dプリンティングでは、例えば樹脂成形体をレーザを使って加工する。樹脂成形体は、レーザにより溶融するため、立体構造を形成し易い材料である。
【0003】
近年、3Dプリンティングにより、金属材料から造形物を製造することが試みられている。例えば3Dプリンタ用金属粉を使った3Dプリンティングが挙げられる。3Dプリンタ用金属粉を用いた3Dプリンティングは、3Dプリンタ用金属粉を敷き詰めてレーザまたは電子ビームを照射して固める方法である。
【0004】
3Dプリンタ用金属粉としては、例えばステンレス鋼を用いることができる。ステンレス鋼の粉末は、平均粒径により調整できる。ステンレス鋼の融点は1400℃以上1500℃以下である。この融点であれば、3Dプリンティングにより造形物を製造することができる。一方、ステンレス鋼よりも融点が高い金属材料を用いた造形物の製造方法は、必ずしも造形性が十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
実施形態にかかる3Dプリンタ用金属粉は、複数の金属粒子を具備する。複数の金属粒子の粒度分布は、1μm乃至200μmの粒径の範囲内に最大ピークを有する。粒度分布における累積割合が体積割合で90%である粒径D90と、累積割合が体積割合で10%である粒径D10と、の差D90-D10は10μm以上である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態にかかる3Dプリンタ用金属粉は、3Dプリンタを用いて造形物を製造するための金属粉である。金属粉は、複数の金属粒子(metal particles)を含む。
【0009】
金属粉(金属粒子)は、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、レニウム(Re)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、およびバナジウム(V)からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を主成分として含むことが好ましい。主成分とは金属粉の構成元素のうち最も多く含む元素であり、主成分の元素は、例えば全体の50原子%以上含まれる。
【0010】
一般的に、タングステンの融点は3400℃、モリブデンの融点は2620℃、レニウムの融点は3180℃、ニオブの融点は2470℃、タンタルの融点は2990℃、クロムの融点は1905℃、バナジウムの融点は1890℃である。このように融点が1800℃以上の金属を高融点金属という。
【0011】
高融点金属は、融点が高いため、レーザ照射による金属粒子の溶融状態に均一性を必要とする。このためには、粒度分布の最大ピークを制御することや粒度のばらつきを制御することが好ましい。特に、融点が1800℃以上、さらには2400℃以上と高いほど上記制御が求められる。
【0012】
図1は金属粉(金属粒子)の粒度分布の例を示す。
図1の横軸は体積平均径(μm)を示し、左側の縦軸は頻度(%)を示し、右側の縦軸は累積割合(%)を示す。また、横軸の目盛は対数目盛である。縦軸が頻度を示すグラフは、頻度グラフという。また、縦軸が累積割合を示すグラフは累積グラフという。
【0013】
粒度分布はレーザ回折法により計測される。一回の測定に用いる金属粉の量は、測定装置に推奨される量である。一般的には、0.02gを推奨とする。また、最小量は0.01g、最大量は0.03gとする。また、測定サンプルは、計測前に十分攪拌してから計量される。
【0014】
実施形態の金属粉の粒度分布は、1μm乃至200μmの粒径の範囲内に最大ピークを有し、粒度分布における累積割合が体積割合で90%である粒径D90と、累積割合が体積割合で10%である粒径D10と、の差D90-D10は10μm以上である。
【0015】
粒度分布の最大ピークを1μm乃至200μmの範囲にすることにより、金属粉の流動性が改善される。粒度分布の最大ピークが1μm未満では、金属粒子が小さすぎて凝集し易くなる。金属粒子が凝集すると、金属粉の流動性にばらつきが生じる。200μmを超える粒径の範囲に粒度分布の最大ピークがあると、3Dプリンティングにより造形物を製造することが困難になる。粒度分布の最大ピークは、10μm乃至150μmの粒径の範囲内にあることがより好ましい。
【0016】
粒度分布のピークは、1μm乃至200μmの粒径の範囲に1つあることが好ましい。ピークが2つ以上あってもよいが、D90-D10の調整が困難となるおそれがある。ピークとは、粒度分布の頭頂を意味する。粒度分布の値は、上がって頭頂に到達した後、下がっていく。つまり、上がって下がることによりピークを形成する。下がることがなく、上がっていき傾斜が途中で変化する場合ピークを形成しない。
【0017】
粒度分布は0.1μm乃至300μmの粒径の範囲内であることが好ましい。これは粒度分布を求めたときに、粒径0.1μm未満および粒径300μmを超える金属粒子が無いことを示す。粒径が小さ過ぎたり、大き過ぎたりすると3Dプリンティングによる造形性にばらつきが生じるおそれがある。3Dプリンティングは、金属粉にレーザ照射を行いながら造形する技術である。このため、金属粉のサイズに差があると、レーザにより金属粉の表面が溶融する度合いに差が生じるためである。
【0018】
粒径D90、粒径D10は、累積グラフを用いて求められる。粒度分布の最大ピークは頻度グラフを用いて求められる。粒度分布の頻度が0%であることは該当する粒径の金属粒子が無いことを示す。
【0019】
D90-D10が10μm以上であることを式で示すと、D90-D10≧10μmとなる。累積割合を用いることにより、全体の粒径分布を把握することができる。密度が高い造形物を得るためには、大きな金属粒子の隙間に小さな金属粒子が入り込む構造が必要である。D90-D10≧10μmを満たすことにより、大きな金属粒子と小さな金属粒子が存在する形態となる。
【0020】
D90-D10が10μm未満であることは、粒度分布のピークがシャープであることを示す。粒径が揃い過ぎていると、粒間に隙間ができ易いため3Dプリンティングによる造形性が低下する。D90-D10を10μm以上にすることにより、大きな金属粒子の隙間に小さな金属粒子が入り込むため、3Dプリンティングによる造形性が向上する。これにより、緻密な造形物を形成することができる。具体的には、密度90%以上の造形物を得ることができる。密度はアルキメデス法で測定される。
【0021】
D90-D10の上限は特に限定されないが、150μm以下が好ましい。D90-D10が150μmを超えると、粒度分布の調整が難しい。このため、D90-D10は10μm以上150μm以下、さらには10μm以上100μm以下が好ましい。また、さらに好ましくは70μm≧D90-D10≧10μmである。
【0022】
金属粉(複数の金属粒子)は、真球度が90%以上の金属粒子を含むことが好ましい。
図2は、真球度が高い金属粒子の例を示す図である。
図2は、3Dプリンタ用金属粉1、真球度が高い金属粒子2、真球度が低い金属粒子3を示す。
図3は真球度を説明するための模式図である。
図3は、真球度が高い金属粒子2、仮想円4、最大径5を示す。
【0023】
真球度は、拡大写真を使って求められる。拡大写真は、100倍以上1000倍以下の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を使う。真球度が高い金属粒子2はSEM写真にて、輪郭が円形に写る。このため、真球度が高いほど、より真円に近い形に見える。つまりは、外観が球体に見える。真球度が低い金属粒子3はSEM写真にて、表面が角ばってみえる。このため、真球度が低い金属粒子3は輪郭が多角形に見える。
【0024】
真球度の求め方は次の通りである。SEM写真に写る真球度が高い金属粒子2の最大径5を直径とする仮想円4の面積を求める。仮想円4は真円とする。SEM写真に写る真球度が高い金属粒子2の面積を求める。真球度(%)=(一粒の金属粉において実測した面積/最大径を直径とした仮想円の面積)×100、により求める。
【0025】
金属粒子は、真球度が90%以上の金属粒子を含むことが好ましい。3Dプリンタ用金属粉は、真球度が90%以上の真球度が高い金属粒子2と真球度が90%未満の真球度が低い金属粒子3とを含む。真球度が90%以上の金属粒子により、金属粉の流動性が向上する。流動性が向上すると、3Dプリンティングによる造形中の金属粉の供給量を一定に制御できる。供給量を一定に制御できると、造形性のばらつきを低減できる。真球度の上限は100%である。真球度が90%以上であれば、輪郭が角張っていてもよい。真球度が高い金属粒子2の輪郭は円形が好ましい。真球度が高い金属粒子は凝集体になりにくい。
【0026】
金属粒子のうち、一次粒子かつ最大径1μm以上の金属粒子は、アスペクト比が1.0以上1.5以下の範囲内にあることが好ましい。SEM写真にて、一次粒子は凝集していない粒子を示す。つまり、一次粒子かつ最大径1μm以上の金属粒子とは、凝集していない金属粒子の最大径が1μm以上であることを示す。このような金属粒子はアスペクト比が1.0以上1.5以下の範囲内にあることが好ましい。最大径が1μm以上と大きな金属粒子のアスペクト比を1.5以下に制御することにより、大きな金属粒子の周囲にできる隙間を小さくすることができる。この隙間に、小さな金属粒子が入り込む構造にすることができるため、造形性が向上する。
【0027】
アスペクト比の測定方法は、真球度を求めたときのSEM写真を用いる。SEM写真に写る一次粒子の最大径を長径とする。長径の中心から長径に対して垂直な方向の金属粒子の長さを短径とする。長径/短径をアスペクト比とする。この作業を50粒行い、その平均値を平均アスペクト比とする。
【0028】
最大径1μm以上かつ真球度90%以上の金属粒子の割合が10gあたり0.5g以上の範囲内であることが好ましい。10gあたり0.5g以上、真球度が高い金属粒子を混合することにより、流動性が向上する。10gあたり0.5g未満では流動性の改善効果が低い。平均粒径D90は60μm以下が好ましい。真球度が高くても、粒径が大きくなり過ぎると、大きな金属粒子の周囲の隙間が大きくなり、造形性が低下するおそれがある。最大径1μm以上かつ真球度90%以上の金属粒子の割合の上限は10gあたり5g以下が好ましい。最大径1μm以上かつ真球度90%以上の金属粒子のみで形成されていても良い。その一方で、球状の金属粒子が多過ぎると、金属粒子同士の隙間が大きくなるおそれがある。このため、最大径1μm以上60μm以下かつ真球度90%以上100%以下の金属粒子の割合が、10gあたり0.5g以上5g以下の範囲内であることが好ましい。真球度が高い金属粒子の割合が増えると、コストアップの要因となる。
【0029】
最大径1μm以上かつ真球度90%以上の金属粒子の割合を調整する方法は、真球度が高い金属粒子を含む金属粉と低い金属粒子を含む金属粉を別々に製造し、混合する方法が挙げられる。混合粉末から求める場合、10g分の金属粉を任意に抜き取り、SEM観察する方法も有効である。SEM観察により、真球度が高い粉末と低い粉末の面積比を求める。金属粒子の比重を掛けて質量比に換算することができる。これ以外にも、真球度が高い粉末と低い粉末を分級して、質量比を求める方法もある。なお、真球度が金属粒子を含む金属粉と低い金属粒子を含む金属粉を混合するとき、同じ材質のものであれば面積比率と質量比率はほぼ同じ値となる。
【0030】
実施形態の3Dプリンタ用金属粉は、真密度に対する嵩密度の比が15%以上であることが好ましい。真密度に対する嵩密度の比は、相対密度ともいう。相対密度は、金属粉の充填密度を表すことができる。相対密度は、式(嵩密度/真密度)×100(%)により求められる。
【0031】
真密度とは、金属粉の表面や内部の気孔を除いた金属粉そのものの体積を金属粉の質量で割った値である。単一金属の場合、真密度は比重と同じになる。例えば、タングステンの真密度は19.3g/cm3、モリブデンは10.2g/cm3、レニウムは21.0g/cm3、ニオブは8.6g/cm3、タンタルは16.7g/cm3である。また、合金の真密度は、それぞれの成分の比重から算出してもよい。
【0032】
嵩密度とは、金属粉を測定用容器に入れて、測定用容器内の隙間も体積とみなして測定される密度である。嵩密度は見かけ密度とも言われる。金属粉を入れた測定用容器に振動を与えてできた隙間にさらに金属粉を充填して測定される密度をタップ密度という。タップ密度も嵩密度の一種である。
【0033】
嵩密度としては、見かけ密度を用いる。見かけ密度はAmerican Society for Testing and Materials(ASTM)規格の一つであるASTM-B329-98(Apparent Density of Metal Powder and Compounds Using the Scott Volumeter)に準じて測定される。また、金属粉を入れる測定用容器として、直径28mm×高さ20mmの容器を用いる。
【0034】
相対密度が15%以上であるということは、3Dプリンタ用金属粉は振動を与えずとも所定の充填密度を有することを示す。所定の充填密度を有すると、3Dプリンティングによる金属粉の存在割合を安定させることができる。相対密度の上限は特に限定されないが、80%以下が好ましい。相対密度が80%を超えると、密度が高すぎて流動性が低下する可能性がある。相対密度は15%以上80%以下、さらには30%以上80%以下が好ましい。
【0035】
以上のような3Dプリンタ用金属粉は、流動性および造形性に優れている。これにより、3Dプリンティングを用いた造形物を造形するのに好適である。
【0036】
流動性は安息角を測定することにより評価できる。安息角は65度以下であることが好ましい。安息角は、TMIAS0101(粉末特性試験方法:2010)のスコット容積計を使用して測定される。スコット容積計の例を
図4に示す。TMIAS0101はタングステン・モリブデン工業会が発行する工業規格である。スコット容積計については、前述のASTM-B329-98に準じた容積計を用いてもよい。
【0037】
図4は安息角を説明するための模式図である。
図4は、3Dプリンタ用金属粉1、コップ6、安息角7を示す。安息角7は、スコット容積計を使って測定される。スコット容積計の大漏斗に3Dプリンタ用金属粉1を注ぐ。コップ6に3Dプリンタ用金属粉1が一杯になり周囲に溢れるまで流し込む。コップ上面と3Dプリンタ用金属粉1の山の両端のなす安息角7をそれぞれ測定し、その平均角度を安息角とする。3Dプリンタ用金属粉1がコップ6まで自然に落下しないときは金網の上を刷毛で軽くかき混ぜて流し込む。コップ6は直径28mm×高さ20mmのコップである。安息角の測定時の試料は同じものを使っても良いし、それぞれ新しい試料を用いても良い。
【0038】
安息角が65度以下であることは流動性が良いことを示す。流動性が良いことにより3Dプリンタのステージ上に均一に粉末を供給することができる。このため、安息角は65度以下、さらには60度以下が好ましい。さらに好ましくは、50度以下である。
【0039】
任意の粉末を用意し流動性を測定したとき、安息角のばらつきは5度以下であることが好ましい。安息角のばらつき=|5回算出した安息角の平均値-最も遠い値|、で求められる。例えば、安息角が45度、44度、42度、39度、40度であったとき、平均値は42度となる。42度から元も遠い値は45度、39度である。このため、流動性のばらつきは|42-45|=3度または|42-39|=3度である。流動性のばらつきを抑制することにより、ステージ上での粉末の均一性を安定化させることができる。
【0040】
安息角の下限値は特に限定されないが、30度以上である。30度より小さいと流動性が高くなり過ぎて、安息角のばらつきが大きくなりやすい。
【0041】
次に3Dプリンタ用金属粉の製造方法について説明する。実施形態にかかる3Dプリンタ用金属粉は前述の構成を有していれば、その製造方法については特に限定されないが歩留まり良く得るための方法として次のものが挙げられる。
【0042】
まず、目的とする金属粉を用意する。金属粉は、タングステン、モリブデン、レニウム、ニオブ、タンタル、クロム、およびバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を主成分とすることが好ましい。
【0043】
次に、粒度分布、粒径D90、粒径D10、粒径範囲を制御するために分級作業を行うことが好ましい。分級作業は、目開き(μm)が異なる複数のふるいを用意する。粒径の小さな粒子と大きな粒子を除去することが好ましい。ふるいの目開きを調整することにより、10μm以上50μm以下の間隔で粒度を調整する。所定の粒度範囲を有する金属粒子を混合することにより、粒度分布などを制御する方法も挙げられる。粒度分布の制御には気流分級を活用する方法もある。ふるいを使った方法と気流分級の両方を組合せてもよい。
【0044】
例えば、粒径10μm以上50μm以下、51μm以上100μm以下、101μm以上150μm以下、151μm以上200μm以下、201μm以上250μm以下の金属粒子を用意し、必要な量を混合する方法が挙げられる。このように、10μm以上50μm以下の間隔で粒度を調整した金属粉を混合して、粒度分布を制御する方法が好ましい。
【0045】
予め、粉砕機により凝集粉を粉砕しておくことも有効である。凝集粉を粉砕することにより、一次粒子の粒子径で粒度分布を制御し易くなる。粉砕機は、ボールミル、ロッドミル、Semi-Autogenous Grinding(SAG)ミル、ジェットミルなどが挙げられる。
【0046】
真球度90%以上の金属粉を用意して、必要な量を添加する。真球度90%以上の金属粉のみで3Dプリンタ用金属粉を形成してもよい。真球度90%以上の金属粉を分級して、必要な量を添加する方法も有効である。
【0047】
真球度90%以上の金属粉の製造方法としては、アトマイズ処理、粉砕処理、造粒処理などが挙げられる。
【0048】
アトマイズ処理は、金属溶湯を穴から噴射し、流れ出た溶湯流に高圧の水やガスを吹きつけて飛散、凝固させる方法である。溶けた金属を飛散させながら凝固させるので、表面が滑らかな真球度が高い金属粒子を製造することができる。アトマイズ処理としては、金属粒子を噴射して高周波加熱により、溶融、凝固させる方法もある。アトマイズ処理には、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心力アトマイズ法が挙げられる。
【0049】
粉砕処理は、金属インゴットを粉砕する方法が挙げられる。金属インゴットを粉砕する方法は、ボールミルなどの粉砕機を使って粉砕する方法である。金属インゴットを粉砕すると角張った粉末となる。粉砕機を使った粉砕処理を行うことにより、角が削られて真球度が高い粉末となる。粉砕機を使った粉砕処理は、凝集粉を粉砕する効果もある。
【0050】
粉砕処理としては、回転電極法(Rotating Electrode Process:REP)を用いることも有効である。回転電極法は、回転する電極が高温プラズマによって溶解され、遠心力により液滴として飛ばされる。この液滴をガスジェットにより粉砕して微粉化する方法である。
【0051】
真球度を上げる方法として、造粒処理を使う方法が挙げられる。造粒処理とは、微細粉末を固めて球状にすることを示す。金属粉に樹脂バインダを混合して、球状化する方法が挙げられる。金属粉が高融点金属の場合、低融点金属をバインダとして使う方法も挙げられる。低融点金属としては、融点が1500℃以下のものが好ましい。このような金属としては銅(融点1085℃)、アルミニウム(融点660℃)、ニッケル(融点1455℃)などが挙げられる。このように造粒粉はバインダを使うものである。このため、単なる凝集粉とは区別できる。
【0052】
以上のような方法であれば、粒度分布が1μm乃至200μmの粒径の範囲内に最大ピークを有し、D90-D10が10μm以上である3Dプリンタ用金属粉を製造することができる。
【0053】
実施形態の3Dプリンタ用金属粉を用いた3Dプリンティングにより、3Dプリンタ用金属粉の成形物を有する造形物を製造することができる。造形物は、様々な構造を有するものに適用できる。フィン構造、ラティス構造、板状構造、棒状構造、柱構造、ハニカム構造、中空構造、ばね構造などが挙げられる。
【0054】
実施形態の3Dプリンタ用金属粉を用いることにより、高融点金属であっても流動性および造形性に優れた3Dプリンティングを実現できる。従来、高融点金属は、難焼結材であることから、成形体を高温で加熱することにより焼結体を形成する。焼結体に切削加工などを行うことにより、複雑な形状を形成するため形成が困難である。これに対し、実施形態にかかる造形物は3Dプリンティングにより造形できるため、複雑形状に容易に形成することができる。
【0055】
3Dプリンティングとしては、例えばレーザまたは電子ビームを使った方法が挙げられる。レーザを使った3Dプリンティングは、レーザ焼結法(Selective laser sintering:SLS)と呼ばれている。レ-ザ焼結法の一種に、直接金属レーザ焼結法(Direct metal laser sintering:DMLS)がある。SLSは造形ステージ上に粉末材料を敷き詰めて、レーザビームを照射する方法である。レーザビームの照射により粉末材料が溶融し、その後冷却されることにより造形されていく。造形後に、新たに粉末材料を供給し、レーザ照射を繰り返していく方法である。
【0056】
DMLSは、レーザ出力を高くしたレーザ焼結法である。SLSは炭酸ガスレーザを使用する。DMLSはイッテルビウムレーザを使用する。
【0057】
SLSとDMLSはレーザにより粉末材料を焼結する方法である。レーザを使う方法として、レーザ溶融法(Selective laser melting:SLM)もある。SLMはレーザ照射により粉末材料を溶融して造形していく方式である。
【0058】
電子ビームを使った3Dプリンティングは、電子ビーム溶解法(Electron beam melting:EBM)という。電子ビームは、真空中でフィラメントを加熱して放出された電子を照射するビームのことである。電子ビームは、レーザビームに比べて高出力かつ高速であることが特徴である。EBMは、粉末材料を溶融して造形する技術である。EBMには、金属ワイヤーを用いて造形する方法もある。前述の高融点金属を3Dプリンタで造形する場合は、SLMまたはEBMが好ましい。SLMまたはEBMは、金属粒子を溶融させる方式である。溶融させた方が高密度の造形物を得易くなる。
【0059】
SLS(DMLS含む)はレーザ出力100W以上であることが好ましい。SLMはレーザ出力100W以上であることが好ましい。EBMは、電子ビームの出力が2000W以上であることが好ましい。
【0060】
SLS、SLMまたはEBMは造形速度が100mm/s以上であることが好ましい。造形速度はレーザまたは電子ビームを走査する速度である。造形速度が100mm/s未満であると、造形速度が遅く量産性が低下する。造形速度の上限は特に限定されないが5000mm/s以下が好ましい。高融点金属の場合、5000mm/sより早いと焼結状態または溶融状態にばらつきが生じ、密度の高い造形物を得難くなる。
【0061】
3Dプリンティングは、金属粉を敷いてレーザ照射により固める工程を行い、その上に金属粉を敷いてレーザ照射で固める工程を繰り返していく。流動性を向上させることにより、金属粉を均一に供給することができる。嵩密度を所定の範囲である金属粉を用いることにより、金属粉の存在量を安定化させることができる。これにより、金属粉同士の隙間を小さくして敷くことができるので造形性が向上する。このため、高融点金属であっても、3Dプリンティングにより造形物を歩留まり良く製造することができる。また、密度が高い成形物を有する造形物を得ることができる。成形物の相対密度または平均密度は90%以上であることが好ましい。真球度が高い金属粒子を含有させることにより、金属粒子同士の密着性を向上させることができる。この点からも密度の高い造形物を得ることができる。さらに、造形物の密度ばらつきを低減した3Dプリンティングによる造形を行うことができる。
【0062】
金属粉を敷き詰めて3Dプリンティングによる造形を行う場合、敷き詰める厚さよりもすべての金属粒子の粒径を小さくすることが好ましい。金属粉を敷き詰めて3Dプリンティングによる造形を行う方法には、パウダーベット方式と呼ばれるものがある。パウダーベット方式は、敷き詰めた金属粉の表層をコータ(平板状の冶具)で平坦にしていく。敷き詰める厚さよりも、金属粒子の粒径が大きいと、コータに金属粒子が引っかかる。これにより、引っかかった個所は金属粒子の分布状態が変わってしまう。このため、敷き詰める厚さよりも全ての金属粒子の粒径を小さくすることが好ましい。
【実施例】
【0063】
(実施例1~20、比較例1~2)
3Dプリンタ用金属粉として表1、表2に示す金属粉を用意した。実施例1ないし8および比較例1のタングステン粉末は、純度99質量%以上のものを用いた。実施例9ないし15および比較例2のモリブデン粉末は、純度99質量%以上のものを用いた。また、実施例16は純度99質量%以上のレニウム粉末を用いた。実施例17は純度99質量%以上のニオブ粉末を用いた。実施例18は純度99質量%以上のタンタル粉末を用いた。実施例19では、炭化ハフニウム(HfC)粉末を0.7質量%、タングステン粉末を99.3質量%混合した。実施例20では、チタン(Ti)粉末を0.5質量%、モリブデン粉末を99.5質量%混合した。
【0064】
最大径1μm以上30μm以下かつ真球度90%以上100%以下の金属粒子を用意し、最大径1μm以上かつ真球度90%以上の金属粒子の10gあたりの割合が表1または表2に示す値になるように混合した。最大径1μm以上30μm以下かつ真球度90%以上100%以下の金属粒子は、いずれもアスペクト比が1.0以上1.5以下の範囲内であった。
【0065】
粒度分布の調整は、予めふるいわけした金属粒子を混合する方法で行った。真球度90%以上100%以下の金属粒子はアトマイズ処理で作製した。実施例および比較例にかかる金属粉はいずれも粒度分布を0.1μm乃至300μmの粒径の範囲内に調整した。
図1は実施例1にかかる金属粉の粒度分布を示す。
【0066】
観察面積100μm×100μmをSEM写真(1000倍)にて撮影した。観察面積あたりの「最大径1μm以上かつ真球度90%以上の金属粒子の割合」を面積比率で示した。この作業を任意の3箇所行い、その平均値を示した。「最大径1μm以上かつ真球度90%以上の金属粒子の割合」の面積比率が100%とは、すべての金属粒子が最大径1μm以上かつ真球度90%以上であることを示す。面積比率が小さくなるほど、「最大径1μm以上かつ真球度90%以上の金属粒子の割合」が減ることを示す。
【0067】
【0068】
【0069】
実施例および比較例にかかる3Dプリンタ用金属粉の流動性を調べた。流動性は安息角を測定することで評価した。スコット容積計を用意し、試料を大漏斗に注ぎコップが一杯になり周囲にあふれるまで流し込んだ。自然に落下しないときは金網の上を刷毛で軽くかき混ぜて流し込んだ。粉末を周囲にあふれるまで流し込んだ後、コップ上面と粉末がなす角を測定した。この作業を任意の抽出した粉末で5回行い、その平均値を安息角、ばらつきを求めた。ばらつきは安息角の平均値からのずれ角度である。スコット容積計はASTM-B329-98に準拠したものを用いた。
【0070】
嵩密度についても調べた。嵩密度の測定は、ASTMB-329-98に準じた見かけ密度とした。安息角および嵩密度の測定は、直径28mm×高さ20mmの容器を用いて行った。これにより、嵩密度と真密度の比(相対密度)を(嵩密度/真密度)×100(%)により求めた。その結果を表3に示す。
【0071】
【0072】
表から分かる通り、「最大径1μm以上かつ真球度90%以上の金属粒子の割合」が増えるほど流動性は向上した。
【0073】
次に、実施例および比較例に係る3Dプリンタ用金属粉を用いて3Dプリンティングにより成形物を有する造形物を製造した。成形物は、フィン構造または中空構造を有する。フィン構造は、金属板上に高さ2mm×直径2mmの突起を5個有する。中空構造は、外形10mm×内径8mm×高さ5mmである。
【0074】
3Dプリンタとしては、SLM方式とEBM方式の2種類を用意した。SLM方式ではレーザ出力400W、造形速度300mm/sで3Dプリンティングを行った。SLM方式ではパウダーベット方式で3Dプリンティングを行った。パウダーベット方式は、敷き詰めた金属粉の厚さよりも、金属粒子の粒径が小さくなるようにした。EBM方式は電子ビーム出力3500W、造形速度1000mm/sで行った。
【0075】
それぞれ得られた造形物の密度を測定した。密度はアルキメデス法で測定した。それぞれ10個ずつ造形を行った。造形物10個の密度の平均値を平均密度とした。平均密度からのずれを密度ばらつきとした。その結果を表4に示す。
【0076】
【0077】
表から分かる通り、実施例にかかる金属粉は造形性が向上した。特に、最大径1μmかつ真球度90%以上100%以下の金属粒子を含むものは造形性が向上した。SLM法およびEBM法のどちらで造形しても高い密度が得られた。このため、実施例にかかる金属粉は3Dプリンタによる造形に適した粉末である。
【0078】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。