(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】カセットスタンド、反応ユニット及び遺伝子検査装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20231030BHJP
【FI】
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2022532964
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2020026055
(87)【国際公開番号】W WO2022003915
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】程 博豪
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇人
(72)【発明者】
【氏名】山形 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】牧野 瑶子
(72)【発明者】
【氏名】柴原 匡
【審査官】飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-112040(JP,A)
【文献】特開2011-234693(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013607(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/087372(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
G01N 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子検査装置に用いるカセットスタンドであって、
複数の試験管を一列に並べた試験管ユニット又は複数の試験管を一列に設置可能な試験管ユニットを、複数個並べて設置可能であり、
一つの前記試験管ユニットに含まれる前記試験管又は前記試験管の設置場所の列と、隣り合う前記試験管ユニットに含まれる前記試験管又は前記試験管の前記設置場所の前記列と、の間に通気開口部が設けられ、
前記試験管ユニットは、前記試験管ユニットにより構成されるレーンの上方の空間を前記レーン毎に分断する縦フランジ部を有し、
前記カセットスタンドの側面部に設置又は接続をした排気ファンにより、前記カセットスタンドの内部空間を負圧とし、前記試験管の上方から前記通気開口部に向かう気体の下降流を発生させる構成を有する、カセットスタンド。
【請求項2】
遺伝子検査装置に用いる反応ユニットであって、
複数の試験管を一列に並べた試験管ユニット又は複数の試験管を一列に設置可能な試験管ユニットと、
前記試験管ユニットを複数個並べて設置可能なカセットスタンドと、を含み、
一つの前記試験管ユニットに含まれる前記試験管又は前記試験管の設置場所の列と、隣り合う前記試験管ユニットに含まれる前記試験管又は前記試験管の前記設置場所の前記列と、の間に通気開口部が設けられ、
前記試験管ユニットは、前記試験管ユニットにより構成されるレーンの上方の空間を前記レーン毎に分断する縦フランジ部を有し、
前記カセットスタンドの側面部に設置又は接続をした排気ファンにより、前記カセットスタンドの内部空間を負圧とし、前記試験管の上方から前記通気開口部に向かう気体の下降流を発生させる構成を有する、反応ユニット。
【請求項11】
前記試験管ユニットは、2つの縦フランジ部を有し、
前記複数の試験管は、前記2つの縦フランジ部の間に配置される構成を有する、請求項2記載の反応ユニット。
【請求項14】
複数の試験管を一列に並べた試験管ユニット又は複数の試験管を一列に設置可能な試験管ユニットと、
前記試験管ユニットを複数個並べて設置可能なカセットスタンドと、を含み、
一つの前記試験管ユニットに含まれる前記試験管又は前記試験管の設置場所の列と、隣り合う前記試験管ユニットに含まれる前記試験管又は前記試験管の前記設置場所の前記列と、の間に通気開口部が設けられ、
前記試験管ユニットは、前記試験管ユニットにより構成されるレーンの上方の空間を前記レーン毎に分断する縦フランジ部を有し、
前記カセットスタンドの側面部に設置又は接続をした排気ファンにより、前記カセットスタンドの内部空間を負圧とし、前記試験管の上方から前記通気開口部に向かう気体の下降流を発生させる構成を有する、遺伝子検査装置。
【請求項15】
前記排気ファンは、前記遺伝子検査装置の筐体に設置されている、請求項14記載の遺伝子検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カセットスタンド、反応ユニット及び遺伝子検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床医療や診断の目的で生体由来の検体中に含まれる核酸から遺伝情報を得る際には、検体からの核酸分子の抽出技術と標的配列の増幅による定量化技術とが必要である。それらの一連の技術を自動化した全自動遺伝子検査装置が臨床現場で使用されている。
【0003】
核酸の検査を行う場合に用いられる核酸増幅技術としては、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)を用いた方法(以下「PCR法」と略称する。)がある。PCR法は、耐熱性ポリメラーゼとプライマーを利用し、温度の昇降によって標的核酸を増幅させる技術であり、遺伝子工学や生物学的試験法・検出法等の分野で広く利用されている。PCR法の原理は、標的DNA配列を含む2本鎖DNAが1本鎖に解離する温度に維持する第1段階と、解離した1本鎖DNAに正方向および逆方向のプライマーがアニーリングする温度に維持する第2段階と、DNAポリメラーゼによって1本鎖DNAに相補的なDNA鎖が合成される温度に維持する第3段階との3段階に設定したサーマルプロフィール(温度昇降)に従うサイクルを多数回繰り返すことにより、標的DNAを幾何級数的に増輻させるものである。
【0004】
このようなPCR法を応用した定量検査方法には、リアルタイムPCRあるいは定量的ポリメラーゼ連鎖反応(以下「qPCR」と略称する。)がある。qPCR法は、高感度の遺伝子解析方法で、定量的遺伝子発現解析、病原体検出、創薬ターゲット検証等の臨床検査での応用が進んでいる。qPCR法においては、増幅しているときの標的核酸の濃度を、間接的に蛍光反応光の強度で計測する。
【0005】
しかし、PCR増幅過程は敏感であり、検査すべき検体以外に由来する標的DNAが極微量混入しても、本来増幅しない検体に増幅が発生することになる(以下「偽陽性増幅」という。)。この偽陽性増幅は、全自動遺伝子検査装置の正確性に影響を与える。
【0006】
手動で核酸抽出とPCRサンプル作製を行う場合には、操作における不具合により分注ピペッターや分注チップの汚染が生じ、偽陽性増幅の原因になり得る。このため、室内全体に下降気流や上昇気流を発生させるクリーンベンチの中で試験を実施することが望ましい。これにより、操作中に発生する核酸分子を含有するエアロゾルを排出する。全自動遺伝子検査装置の場合は、複数の検体の検査試験を並行して実施するため、高速分注により発生するエアロゾルやミストが装置内に広がり、異なる検体間でクロスコンタミネーションが発生する原因になる。
【0007】
特許文献1には、試薬およびサンプル核酸を反応容器に分注する分注チップに蓋をする閉栓機構と、分注チップ先端に酵素が残存する酵素を失活させる加熱部と、チップ廃棄箱と、を備えた核酸検査装置を用いることにより、分注チップに付着した酵素を失活させることができ、クロスコンタミネーションの最大のリスクである、意図しない増幅を防止することができることが開示されている。
【0008】
特許文献2には、放射化学合成や放射性医薬品の分析及び調剤を実施する装置において、パレットに設けた複数の容器の間から気体を上向きに吐出する気体流路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-234693号公報
【文献】米国特許出願公開第2016/0003791号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
検査効率を向上させるために用いられる多レーン型全自動遺伝子検査装置においては、複数の反応レーン及び分注機構が設置され、異なる検体を同時に反応させるようになっている。また、このような装置においては、検体から核酸の抽出、抽出した核酸の精製、PCRによる増幅及び蛍光検出などの一連の操作を同じレーンで行うことが効率的である。
【0011】
複数のレーンは、平行に並べられ、それぞれのレーンにおいて使用する試薬は、分注機構により運搬され、検体が入っている試験管に注入される。この際、試験管に分注チップが挿入され、高速の吸引・吐出の操作が行われるため、核酸分子を含有するエアロゾルやミストが発生し、隣接レーンに移動し、クロスコンタミネーションが生じる場合がある。
【0012】
特許文献1に開示されている核酸検査装置によれば、分注チップに付着した酵素の失活は可能である。しかしながら、この装置は、複数の試験管が隣接している状態で、分注動作が頻繁に行われる場合には、隣の試験管で発生する飛沫によるクロスコンタミネーションを防止することができない。
【0013】
特許文献2に開示されている装置においては、複数の試験管が隣接している場合、分注動作等により発生した液滴飛沫が上向きの気流だけでは十分には排出されないで隣の試験管に落ちることがある。また、上向きの気流により試験管の上方に設けられた構造物に飛沫が一旦付着し、次の検査の前に試験管に落下し、サンプルを汚染するおそれがある。
【0014】
本発明の目的は、遺伝子検査装置において、異なる検体間で生じるクロスコンタミネーションを防止し、検査精度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の反応ユニットは、遺伝子検査装置に用いるものであって、複数の試験管を有する試験管ユニット又は複数の試験管を設置可能な試験管ユニットと、試験管ユニットを設置可能なカセットスタンドと、を含み、カセットスタンドの上面部には、通気開口部が設けられ、カセットスタンドの側面部に設置又は接続をした排気ファンにより、カセットスタンドの内部空間を負圧とし、試験管の上方から通気開口部に向かう気体の下降流を発生させる構成を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、遺伝子検査装置において、異なる検体間で生じるクロスコンタミネーションを防止し、検査精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1の遺伝子検査装置を構成する多レーン型並行増幅反応部を示す分解斜視図である。
【
図2】実施例1において試験管ユニットをカセットスタンドに装着した状態を示す断面図である。
【
図3】実施例1の試験管ユニットを示す斜視図である。
【
図4A】実施例1のカセットスタンドを示す斜視図である。
【
図4B】
図4Aのカセットスタンドの変形例を示す斜視図である。
【
図5】実施例2の遺伝子検査装置を構成する多レーン型並行増幅反応部を示す分解斜視図である。
【
図6】実施例1の構成におけるシミュレーションの結果を示す断面図である。
【
図7】縦フランジ及びカセットスタンドの上面部のスリットがない場合のシミュレーションの結果を示す断面図である。
【
図8】本実施例の構成において、
図6とは異なる初期条件でシミュレーションを行った結果を示す断面図である。
【
図9】縦フランジがない場合のシミュレーションの結果を示す断面図である。
【
図10】遺伝子検査装置の一例を示す斜視図である。
【
図11】
図10の遺伝子検査装置の内部の構成を示す斜視図である。
【
図12】実施例3の反応ユニットを示す斜視図である。
【
図13】実施例4の反応ユニットを示す斜視図である。
【
図14】実施例5の反応ユニットを示す斜視図である。
【
図15】実施例6の反応ユニットを示す斜視図である。
【
図16】実施例7の反応ユニットを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、血液や尿等の生体由来の検体に含まれる核酸を分析する核酸分析装置に関する。核酸分析装置は、遺伝子検査装置の一種である。遺伝子検査装置は、カセットスタンド、カセットスタンドを含む反応ユニット、分注チップ等を含む。
【0019】
以下、実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、実施例1の遺伝子検査装置を構成する多レーン型並行増幅反応部の構成を示したものである。なお、本明細書においては、多レーン型並行増幅反応部を「反応ユニット」と呼ぶ。
【0021】
本図に示すように、反応ユニットの基本要素は、上側の試験管ユニット1A、1B、1C及び下側のカセットスタンド2である。試験管ユニット1A、1B、1Cはそれぞれ、一つのレーンを構成するものであり、三本の試験管15と、試験管15を連結する横フランジ12(横フランジ部)と、横フランジ12と直交した縦フランジ11(縦フランジ部)と、を含む。横フランジ12と縦フランジ11とは、断面L字形状を形成している。横フランジ12には、三本の試験管15が設置され、それぞれの試験管15の上面には、円形開口13が設けられている。また、横フランジ12には、縦フランジ11が設置されている辺の対辺の近傍に横フランジ12を貫通するスリット14(通気開口部)が設けられている。
【0022】
カセットスタンド2は、その内部に空間を有する直方体形状を有し、上面部21には、上面部21を貫通する長方形のスリット22(通気開口部)及び円形開口23が設けられている。また、カセットスタンド2の側面部24には、排気ファン25が設置されている。カセットスタンド2は、スリット22、円形開口23及び排気ファン25以外には外部に連通する箇所を有しない構造である。排気ファン25は、カセットスタンド2の内部の空気(気体)を外部に排気する機能を有する。
【0023】
本図に示すように、試験管ユニット1A、1B、1Cをカセットスタンド2に装着する際には、試験管ユニット1A、1B、1Cの試験管15が円形開口23に挿入される。そして、カセットスタンド2の上面部21が横フランジ12と接触し、試験管ユニット1A、1B、1Cが支持される。
【0024】
図2は、本実施例において試験管ユニットをカセットスタンドに装着した状態を示す断面図である。
【0025】
本図において、試験管ユニット1A、1B、1Cの横フランジ12に設けられているスリット14と、カセットスタンド2の上面部21に設けられているスリット22とが接続され、横フランジ12の上方の空間とカセットスタンド2の内部空間とが連通する。試験管15は、カセットスタンド2の上面部21に設けられている円形開口23(
図1)に挿入されている。そして、横フランジ12は、カセットスタンド2の上面部21に接触している。これにより、試験管ユニット1A、1B、1Cが支持されている。
【0026】
カセットスタンド2に設けられている排気ファン25(
図1)により、カセットスタンド2の内部空間が負圧となる。その負圧により、スリット14及びスリット22を通して、試験管ユニット1A、1B、1Cの上方の空間から空気を吸込み、試験管ユニット1A、1B、1Cの上方にダウンフロー3(下降気流)を発生させる。さらに、カセットスタンド2の内部空間を負圧とすることにより、試験管ユニット1A、1B、1Cをカセットスタンド2に密着させる効果もある。
【0027】
縦フランジ11は、試験管ユニット1A、1B、1Cにより構成されるレーンの上方の空間を分断する仕切り板としての機能を有する。縦フランジ11は、レーンの隔壁ということもできる。このため、それぞれのレーンに設置された試験管15の上面近傍においては、隣接するレーンへの空気の移動が制限される。これにより、それぞれのレーンにおいてダウンフロー3が生じる。試薬を分注する分注チップを上下する際には、核酸分子を含有するエアロゾルやミストが発生する場合があるが、分注チップの下端部の位置が縦フランジ11の上端部の高さ以下にすることにより、エアロゾルやミストの隣接レーンへの移動を防止することができる。
【0028】
ダウンフロー3は、試験管ユニット1A、1B、1Cの上方から流入し、試験管15の上方を通過し、スリット14に到達する。この気流に伴い、試験管15から放出される核酸分子を含有するエアロゾルやミストは、カセットスタンド2の内部空間に輸送される。さらに、エアロゾルやミストは、排気ファン25(
図1)によって装置外に排出される。排気ファン25の下流側には、フィルタを設置し、コンタミネーションに係る微粒子を捕捉し、二次的な汚染を防止する。
【0029】
本実施例においては、三つのレーンを有する構成を示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、レーンの数がいくつであってもよい。また、カセットスタンド2の材質は限定されないが、試験管ユニット1は、通常、プラスチック製である。
【0030】
図3は、本実施例の試験管ユニットを示す斜視図である。
【0031】
本図に示すように、一つの試験管ユニット1は、三本の試験管15を有し、一つのレーンを形成している。矢印301で表される方向に平行に縦フランジ11が設置されている。スリット14も、矢印301で表される方向に平行に設けられている。言い換えると、通気開口部は、試験管ユニットのレーンに平行なスリット形状を有する。
【0032】
本図においては、試験管15が三本の場合を示しているが、使用目的に応じて、一つの試験管ユニット1に試験管15がいくつあってもよい。ただし、同一の試験管ユニット1に設置された一連の試験管15は、一つの検体に対する一つの検査においてのみ使用され、使用後に廃棄され、新たな検査の際には新しい試験管ユニット1が使用される。
【0033】
なお、
図1に示す三つの試験管ユニット1A、1B、1Cは同一のものであり、
図3の試験管ユニット1と同様なものである。
【0034】
図4Aは、
図1のカセットスタンド2のみを示したものである。
【0035】
本図に示すように、カセットスタンド2は、三本の試験管を有する試験管ユニットを三個、計九本の試験管を挿入する円形開口23を有している。それぞれの試験管ユニットに対応するレーンの片側にはそれぞれ、スリット22が設けられている。レーンは、矢印401で表される方向に沿うものである。したがって、矢印401は、「レーン方向」と呼ぶことができる。
【0036】
カセットスタンド2の側面部24には、排気ファン25が設置されている。
【0037】
図4Bは、カセットスタンドの変形例を示す斜視図である。
【0038】
本図においては、カセットスタンド2の側面部24には、排気ファンを接続する排気用開口部31が設けられている。排気ファンは、遺伝子検査装置(図示していない)の筐体側に排気用開口部31に接続されるように設置されている。
【0039】
なお、本実施例においては、スリット14とスリット22とが連通する構成を有しているが、横フランジ12にスリット14が設けられていない構成であっても、スリット22が横フランジ12により塞がれることなく試験管15の上方の気体を吸い込むように開放されていれば、所望の効果が得られる。
【0040】
例えば、試験管ユニット1A、1B、1Cの横フランジ12とカセットスタンド2の上面部21との間に隙間を設けた構成が考えられる。この場合、横フランジ12又は上面部21に凸部を設けて横フランジ12を浮かせてもよい。ここで、凸部の形状は、棒状又は点状であってもよい。この場合、試験管15を挿入する円形開口23の周縁部の一部に直径の大きい部分を設け、試験管15を挿入した際にその部分が塞がれないようにした構成としてもよい。
【0041】
また、横フランジ12に覆われない位置にスリット22を設けてもよい。例えば、本実施例においては、横フランジ12(
図2)の図中右端よりも右方にスリット22を設けた構成である。後述の
図15及び16のスリット252も、この類型に含まれる。
【0042】
つぎに、本実施例の構成の妥当性を検証するため、気流による粒子挙動について数値計算によるシミュレーションを行った。これは、
図1及び2に示す三本の試験管で三つのレーンの場合の構成をモデル化し、有限体積法によるシミュレーションである。このシミュレーションにおいては、排気ファンの動作に対応する設定条件として、カセットスタンドの内部空間を負圧とする条件を与えて、試験管ユニットの上方におけるダウンフローの発生を模擬した。
【0043】
図6は、本実施例の構成におけるシミュレーションの結果を示したものである。
【0044】
本図においては、核酸分子を含有するエアロゾルや試液ミストを模擬した固体や液体の微小粒子6が試験管15の内部に存在するという初期条件を与えて、微小粒子6の軌跡のシミュレーションを行った結果を示している。
【0045】
本図に示すように、微小粒子6は、試験管15の内部から試験管15の上方に移動し、ダウンフローに従って、試験管15の上方からスリット14及びスリット22を通過し、カセットスタンド2の内部空間に移動し、装置の外部に排出される。矢印5は、微小粒子6の軌跡を模式的に表したものである。
【0046】
このシミュレーションにおいては、それぞれのレーンにスリット14及びスリット22がある場合には、微小粒子6の隣接レーンへの移動が生じないことがわかった。
【0047】
図7は、縦フランジ及びカセットスタンドの上面部のスリットがない場合を示したものである。
【0048】
本図においては、上方の気体を吸い込んでダウンフローを生じさせるスリットがなく、微小粒子6の水平方向の移動を制限する縦フランジもない。このため、シミュレーションの結果として、微小粒子6は、矢印7で表されるように、試験管ユニット701の試験管715の内部から隣接レーンに移動し、試験管715の内部に入り込むことを確認した。
【0049】
図8は、本実施例の構成において、
図6とは異なる初期条件でシミュレーションを行った結果を示したものである。
【0050】
本図においては、微小粒子806が試験管15の上方に存在するという初期条件を与えて、微小粒子806の軌跡のシミュレーションを行った結果を示している。
【0051】
本図に示すように、微小粒子806は、ダウンフローに従って、試験管15の上方からスリット14及びスリット22を通過し、カセットスタンド2の内部空間に移動し、装置の外部に排出される。矢印8は、微小粒子806の軌跡を模式的に表したものである。
【0052】
このシミュレーションにおいては、それぞれのレーンに縦フランジ11がある場合には、水平方向の気流が抑制され、隣接レーンへの微小粒子806の移動を防止する効果があることがわかった。言い換えると、縦フランジ11は、既に試験管15の上方に放出された微小粒子806の更なる移動を防止する効果がある。
【0053】
分注機構に設置した分注チップの下端部からは、核酸分子を含有する微小粒子が発生することがあり得るため、本図に示す効果を考慮すると、縦フランジの上端部は、分注チップの下端部より高くすることが望ましく、クロスコンタミネーション防止効果が高いと考えられる。
【0054】
なお、縦フランジ11がなく、スリット14及びスリット22のみを有する構成であっても、カセットスタンド2の内部空間を十分な負圧とすることができれば、所望の効果は得られる。
【0055】
図9は、スリットはあるが縦フランジがない場合のシミュレーションの結果を示したものである。
【0056】
本図においては、
図8と同様に、微小粒子906が試験管ユニット901の試験管915の上方に存在するという初期条件を与えている。
【0057】
この場合においては、スリット14及びスリット22からの気体の吸い込みが不十分な場合、縦フランジがないと、試験管915の上方の微小粒子906が、矢印9で表されるように、水平方向に移動するおそれがある。
【0058】
よって、
図8に示すように、縦フランジ11を設置することが望ましい。
【0059】
なお、本実施例の構成によれば、コンタミネーション源である試験管から出た粒子は、カセットスタンドの内部空間に移動し、装置外に排出され、又はフィルタに捕捉されるため、試験管の上方に再び戻ることがない。このため、二次的なコンタミネーションの発生も防ぐことができる。
【0060】
以上のシミュレーション結果から、本実施例は、多レーン型全自動遺伝子検査装置におけるクロスコンタミネーションの発生を防止する効果があると考えられる。
【実施例2】
【0061】
図5は、実施例2の反応ユニットを示す分解斜視図である。
【0062】
本図においては、試験管ユニット1の横フランジ12には、試験管15の上面に設けられた円形開口13に沿った形状を有する円弧形開口部514が設けられている。円弧形開口部514(通気開口部)は、半円形状である。カセットスタンド2の上面部21には、円弧形開口部522(通気開口部)が設けられている。試験管ユニット1をカセットスタンド2に取り付けることにより、円弧形開口部514と円弧形開口部522とが連通するように構成されている。
【0063】
よって、カセットスタンド2に設けられている排気ファン25により、カセットスタンド2の内部空間が負圧とし、円弧形開口部514及び円弧形開口部522を通して、試験管ユニット1の上方にダウンフローを発生させることができる。これにより、個々の円形開口13から飛散した核酸分子を含有する微小粒子のレーン方向への移動も防止することができる。
【0064】
つぎに、反応ユニットについての他の実施例について説明する。なお、以下の説明においては、実施例1及び2と共通する構成については説明を省略する。
【実施例3】
【0065】
図12は、実施例3の反応ユニットを示す斜視図である。
【0066】
本図においては、円形開口13の両側に小孔224(縦方向開口部)が設けられている。小孔224は、カセットスタンド2の上面部21に設けられた通気開口部(図示していない)に連通している。
【実施例4】
【0067】
図13は、実施例4の反応ユニットを示す斜視図である。
【0068】
本図においては、円形開口13の片側(縦フランジ11の反対側)に小孔224(縦方向開口部)が設けられている。小孔224は、カセットスタンド2の上面部21に設けられた通気開口部(図示していない)に連通している。
【実施例5】
【0069】
図14は、実施例5の反応ユニットを示す斜視図である。
【0070】
本図においては、レーンの両端部にスリット234(縦方向開口部)が設けられている。スリット234は、カセットスタンド2の上面部21に設けられた通気開口部(図示していない)に連通している。
【実施例6】
【0071】
図15は、実施例6の反応ユニットを示す斜視図である。
【0072】
本図においては、円形開口13の両側に縦フランジ11が設けられている。隣り合うレーンの間に位置するカセットスタンド2の上面部21には、スリット252(通気開口部)が設けられている。
【実施例7】
【0073】
図16は、実施例7の反応ユニットを示す斜視図である。
【0074】
本図においては、実施例6の構成に加え、縦フランジ11の下部にスリット254(横方向開口部)が設けられている。
【0075】
以下、遺伝子検査装置について図面を用いて説明する。
【0076】
図10は、遺伝子検査装置の一例を示したものである。
【0077】
本図において、遺伝子検査装置は、装置本体151と、制御端末152と、を備えている。装置本体151の窓からは、上記の反応ユニットの一部が見えるようになっている。制御端末152においては、ユーザが装置の操作条件等を適宜入力することができ、検査結果等の表示を確認することができる。
【0078】
図11は、
図10の遺伝子検査装置の内部の構成を示したものである。
【0079】
本図においては、八つのレーンが設けられている。それぞれのレーンには、縦フランジ171、173、試験管174、175、176等が設置されている。
【符号の説明】
【0080】
1、1A、1B、1C:試験管ユニット、2:カセットスタンド、3:ダウンフロー、5、7、8、9:矢印、6、806、906:微小粒子、11:縦フランジ、12:横フランジ、13、23:円形開口、14、22、234、252、254:スリット、15:試験管、21:上面部、24:側面部、25:排気ファン、151:装置本体、152:制御端末、224:小孔、301、401:矢印、514、522:円弧形開口部。