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特許7375519ハロゲン化アクリル酸エステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】ハロゲン化アクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/39 20060101AFI20231031BHJP
   C07C 69/533 20060101ALI20231031BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231031BHJP
【FI】
C07C67/39
C07C69/533
C07B61/00 300
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019227711
(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2021095363
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】岡本 未央
(72)【発明者】
【氏名】森澤 義富
(72)【発明者】
【氏名】民辻 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】竹内 優
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-001340(JP,A)
【文献】特開2014-024755(JP,A)
【文献】特表2017-522286(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163756(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/034906(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102211998(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
C07C 67/39
C07C 69/533
C07B 61/00
・DB
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基の存在下、式(1)で表される化合物を式(2)で表される化合物と反応させる工程を含むことを特徴とする、式(4)で表される化合物の製造方法。
【化1】

[式中、
、XおよびXは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子を示し、
Yは、ハロゲン原子を示し、
Rは、C1-8アルキル基、C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基またはC6-10アリール基を示し、
ここで、前記C1-8アルキル基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基で置換されていてもよく、
前記C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基およびC6-10アリール基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルキル基、C1-4ハロアルキル基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基でそれぞれ置換されていてもよい。]
【請求項2】
反応が、水を含む反応系で行われる、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
反応が、水を含む溶媒下で行われる、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
反応途中に水を添加する、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項5】
塩基が、アルカリ金属C1-4アルコキシドである、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
式(2)におけるRがC1-4アルキル基であり、かつ塩基がRONaまたはROKであって、ROHの溶液の形態で使用される、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
塩基が、アルカリ金属水酸化物であり、水溶液の形態で使用される、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
反応が、30~180℃の範囲内で行われる、請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
Yが、フッ素原子である、請求項1~8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
Rが、C1-2アルキル基である、請求項1~9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
およびXが、共にフッ素原子である、請求項1~10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
が、フッ素原子である、請求項1~11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
塩基の存在下、式(1)で表される化合物を式(2)で表される化合物と反応させ、次いで得られた反応混合物を水の存在下で反応させることを特徴とする、式(4)で表される化合物の製造方法。
【化4】

[式中、
、XおよびXは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子を示し、
Yは、ハロゲン原子を示し、
Rは、C1-8アルキル基、C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基またはC6-10アリール基を示し、
ここで、前記C1-8アルキル基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基で置換されていてもよく、
前記C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基およびC6-10アリール基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルキル基、C1-4ハロアルキル基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基でそれぞれ置換されていてもよい。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化アクリル酸エステルの製造方法、およびその合成中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化アクリル酸エステル、特にα-フルオロアクリル酸エステルは、光ファイバーのさや材料用などの光学材料、塗料用中間体、半導体レジスト材料の中間体などの重合体の単量体や、医薬品合成中間体などとして有用である。
【0003】
α-フルオロアクリル酸エステルの製造法としては、ナトリウムメトキシドの存在下でα-フルオロ酢酸メチルをシュウ酸と反応させ、生成したエノールナトリウム塩中間体をパラホルムアルデヒドと反応させて、α-フルオロアクリル酸メチルを製造する方法(特許文献1);
遷移金属触媒および塩基の存在下、1-フルオロエテン誘導体を一酸化炭素およびメタノールと反応させて、α-フルオロアクリル酸メチルを製造する方法(特許文献2)が知られている。
【0004】
特許文献1の方法は、α-フルオロ酢酸メチルの毒性が高いため、取り扱いが困難であり、また安全に行うことができない。また、2工程の反応であるため、簡便な方法とは言い難い。
特許文献2の方法は、一酸化炭素の毒性が高いため、取り扱いが困難で安全に行うことができない。また、反応をオートクレーブ中で行っており、工業的生産に適した方法とは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】CN 102211998 A
【文献】WO 2014/034906 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、毒性が高い原料を使用せずに、安全でかつ簡便な方法で、しかも工業的生産に適した方法でハロゲン化アクリル酸エステルを製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、容易に入手でき、毒性が低い下記の式(1)で表される化合物を原料とするルートが、安全でかつ簡便な方法で、工業的生産に適した方法でハロゲン化アクリル酸エステルを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]
塩基の存在下、式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)ともいう)を式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)ともいう)と反応させる工程を含むことを特徴とする、式(4)で表される化合物(以下、化合物(4)ともいう)の製造方法。
【0009】
【化1】
【0010】
[式中、
、XおよびXは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子を示し、
Yは、ハロゲン原子を示し、
Rは、C1-8アルキル基、C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基またはC6-10アリール基を示し、
ここで、前記C1-8アルキル基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基で置換されていてもよく、
前記C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基およびC6-10アリール基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルキル基、C1-4ハロアルキル基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基でそれぞれ置換されていてもよい。]
[2]
反応が、水を含む反応系で行われる、上記[1]記載の製造方法。
[3]
反応が、水を含む溶媒下で行われる、上記[1]または[2]記載の製造方法。
[4]
反応途中に水を添加する、上記[1]または[2]記載の製造方法。
[5]
塩基が、アルカリ金属C1-4アルコキシドである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
式(2)におけるRがC1-4アルキル基であり、かつ塩基がRONaまたはROKであって、ROHの溶液の形態で使用される、上記[5]に記載の製造方法。
[7]
塩基が、アルカリ金属水酸化物であり、水溶液の形態で使用される、上記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
反応が、30~180℃の範囲内で行われる、上記[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
Yが、フッ素原子である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]
Rが、C1-2アルキル基である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]
およびXが、共にフッ素原子である上記[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]
が、フッ素原子である、上記[1]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
【0011】
[13]
塩基の存在下、式(1)で表される化合物を式(2)で表される化合物と反応させることを特徴とする、式(3)で表される化合物(以下、化合物(3)ともいう)の製造方法。
【0012】
【化2】
【0013】
[式中、
、XおよびXは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子を示し、
Yは、ハロゲン原子を示し、
Rは、C1-8アルキル基、C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基またはC6-10アリール基を示し、
ここで、前記C1-8アルキル基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基で置換されていてもよく、
前記C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基およびC6-10アリール基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルキル基、C1-4ハロアルキル基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基でそれぞれ置換されていてもよい。]
【0014】
[14]
式(3)で表される化合物を水の存在下で反応させることを特徴とする、式(4)で表される化合物の製造方法。
【0015】
【化3】
【0016】
[式中、
およびXは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子を示し、
Yは、ハロゲン原子を示し、
Rは、C1-8アルキル基、C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基またはC6-10アリール基を示し、
ここで、前記C1-8アルキル基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基で置換されていてもよく、
前記C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基およびC6-10アリール基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルキル基、C1-4ハロアルキル基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基でそれぞれ置換されていてもよい。]
【0017】
[15]
塩基の存在下、式(1)で表される化合物を式(2)で表される化合物と反応させ、次いで得られた反応混合物を水の存在下で反応させることを特徴とする、式(4)で表される化合物の製造方法。
【0018】
【化4】
【0019】
[式中、
、XおよびXは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子を示し、
Yは、ハロゲン原子を示し、
Rは、C1-8アルキル基、C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基またはC6-10アリール基を示し、
ここで、前記C1-8アルキル基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基で置換されていてもよく、
前記C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基およびC6-10アリール基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルキル基、C1-4ハロアルキル基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基でそれぞれ置換されていてもよい。]
【0020】
[16]
式(3a)で表される化合物。
【0021】
【化5】
【0022】
[式中、XおよびXは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子を示し、Yは、ハロゲン原子を示し、Rは、C1-8アルキル基を示す。]
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、毒性が高い原料を使用せずに、安全でかつ簡便な方法で、しかも工業的生産に適した方法でハロゲン化アクリル酸エステルを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本明細書中で用いられる基の定義について詳述する。特記しない限り基は、以下の定義を有する。
【0025】
本明細書中、式で表される化合物を、「化合物」に式の番号を付して示す。例えば、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」と示す。
本明細書中「~」または「-」で表される数値範囲は、「~」または「-」の前後の数字を下限値または上限値とする数値範囲を意味する。
本明細書中、元素記号「C」に「-」の前後の数字で数値範囲を付したものを任意の基の名称に付して示す場合には、「-」の前後の数字を下限値または上限値とする整数個の炭素数である任意の基をそれぞれを示している。例えば、炭素数が1~3個であるアルキル基を「C1-3アルキル基」と示すことがあるが、これは、-CH、-C、-C等のそれぞれを示している。他の基についても同様である。
【0026】
本明細書中、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を意味する。
【0027】
本明細書中、「C1-8アルキル基」とは、炭素数1~8の、直鎖状または分岐鎖状の飽和炭化水素基を意味する。「C1-8アルキル基」としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、へプチル、オクチル等が挙げられ、C1-4アルキル基が好ましい。
【0028】
本明細書中、「C1-4アルキル基」とは、炭素数1~4の、直鎖状または分岐鎖状の飽和炭化水素基を意味する。「C1-4アルキル基」としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルが挙げられ、C1-2アルキル基が好ましい。
【0029】
本明細書中、「C1-2アルキル基」とは、炭素数1~2の、直鎖状または分岐鎖状の飽和炭化水素基を意味する。「C1-2アルキル基」としては、メチル、エチルが挙げられ、メチルが好ましい。
【0030】
本明細書中、「C1-4アルコキシ基」とは、式R11O-(ここで、R11は、C1-4アルキル基を表す。)で表される基を意味する。「C1-4アルコキシ基」としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブチルオキシ、イソブチルオキシ、sec-ブチルオキシ、tert-ブチルオキシが挙げられる。
【0031】
本明細書中、「C1-4ハロアルキル基」とは、「C1-4アルキル基」中の水素原子の1個以上が、ハロゲン原子で置換された基を意味する。「C1-4ハロアルキル基」としては、例えば、フルオロメチル、2-フルオロエチル、3-フルオロプロピル、4-フルオロブチル、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、クロロメチル、2-クロロエチル、ブロモメチル、2-ブロモエチル、ヨードメチル、2-ヨードエチル等が挙げられ、トリフルオロメチルが好ましい。
【0032】
本明細書中、「C1-4ハロアルコキシ基」とは、「C1-4アルコキシ基」中の水素原子の1個以上が、ハロゲン原子で置換された基を意味する。「C1-4ハロアルコキシ基」としては、例えば、ブロモメトキシ、2-ブロモエトキシ、3-ブロモプロポキシ、4-ブロモブトキシ、ヨードメトキシ、2-ヨードエトキシ、3-ヨードプロポキシ、4-ヨードブトキシ、フルオロメトキシ、2-フルオロエトキシ、3-フルオロプロポキシ、4-フルオロブトキシ、トリブロモメトキシ、トリクロロメトキシ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、ペルフルオロエトキシ、ペルフルオロプロポキシ、ペルフルオロイソプロポキシ、1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエトキシが挙げられる。
【0033】
本明細書中、「C3-8シクロアルキル基」とは、炭素数3~8の環状の飽和炭化水素基を意味する。「C3-8シクロアルキル基」としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルが挙げられる。
【0034】
本明細書中、「C6-10アリール基」とは、炭素数6~10の、芳香族性を有する炭化水素基を意味する。「C6-10アリール基」としては、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチルが挙げられ、フェニルが好ましい。
【0035】
本明細書中、「C7-14アラルキル基」とは、「C6-10アリール基」で置換された「C1-4アルキル基」を意味する。「C7-14アラルキル基」としては、ベンジル、1-フェニルエチル、2-フェニルエチル、3-フェニルプロピル、4-フェニルブチル、(1-ナフチル)メチル、(2-ナフチル)メチル等が挙げられ、ベンジルが好ましい。
【0036】
「保護されていてもよいアミノ基」の保護基としては、tert-ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル、アセチル、トリフルオロアセチル等が挙げられる。
【0037】
「保護されていてもよいカルボキシ基」の保護基としては、メチル、エチル、tert-ブチル、ベンジル等が挙げられる。
【0038】
「保護されていてもよいヒドロキシ基」の保護基としては、ベンジル、トリチル等が挙げられる。
【0039】
「保護されていてもよいスルファニル基」の保護基としては、メチル、エチル、ベンジル、トリチル等が挙げられる。
【0040】
以下、式(1)~(4)における各基の定義を説明する。
は、ハロゲン原子を示す。
は、好ましくは、フッ素原子、塩素原子または臭素原子であり、より好ましくは、フッ素原子または塩素原子であり、特に好ましくは、フッ素原子である。
【0041】
およびXは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子を示す。
およびXは、好ましくは、独立してそれぞれ、フッ素原子または塩素原子であり、特に好ましくは、共にフッ素原子である。
【0042】
Yは、ハロゲン原子を示す。
Yは、好ましくは、フッ素原子である。
【0043】
Rは、C1-8アルキル基、C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基またはC6-10アリール基を示し、
ここで、前記C1-8アルキル基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基で置換されていてもよく、
前記C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基およびC6-10アリール基は、ハロゲン原子、シアノ基、C1-4アルキル基、C1-4ハロアルキル基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルコキシ基、保護されていてもよいアミノ基、保護されていてもよいカルボキシル基、保護されていてもよいヒドロキシ基、保護されていてもよいスルファニル基およびビニル基から選択される基でそれぞれ置換されていてもよい。
Rの具体例としては、
メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、へプチル、オクチル、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、2-フルオロエチル、2,2,2-トリフルオロエチル、3,3,3-トリフルオロプロピル、2,2,2-トリフルオロプロピル、1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル、1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロオクチル、1H,1H,6H-デカフルオロヘキシル、1H,1H,2H,2H,8H-ドデカフルオロオクチル、メトキシメチル、2-トリフルオロメトキシエチル、ヒドロキシメチル、5-ヒドロキシペンチル、7-ヒドロキシヘプチル、3-アミノプロピル、4-カルボキシペンチル、6-メルカプトヘキシル;
シクロペンチル、シクロヘキシル、4-ヒドロキシシクロヘキシル;
フェニル、4-フルオロフェニル、4-トリフルオロメチルフェニル、4-メトキシフェニル;
ベンジル、4-フルオロベンジル、(4-トリフルオロメチルフェニル)メチル;
ウンデセ-10-エン-1-イル;
等が挙げられる。
【0044】
Rは、好ましくは、保護されていてもよいアミノ基で置換されていてもよいC1-8アルキル基であり、より好ましくはC1-8アルキル基であり、さらに好ましくはC1-4アルキル基であり、さらにより好ましくはC1-2アルキル基であり、特に好ましくは、メチルである。
【0045】
以下、本発明の製造方法を説明する。
本発明では、化合物(4)は、塩基の存在下、化合物(1)を化合物(2)と反応させる工程を含む方法により製造される。
【0046】
【化6】
【0047】
[式中の各記号は前記と同義である。]
化合物(1)は、市販品を使用することができ、あるいは自体公知の方法で製造することもできる。
化合物(1)としては、下記の式(1a)で表される化合物が好ましい。
【0048】
【化7】
【0049】
[式中の各記号は前記と同義である。]
中でも、Xが、フッ素原子、塩素原子または臭素原子であり、かつXおよびXが、独立してそれぞれ、フッ素原子または塩素原子である、化合物(1a)が好ましく、Xが、フッ素原子または塩素原子であり、かつXおよびXが、共にフッ素原子である化合物(1a)がより好ましい。
【0050】
化合物(1a)の具体例としては、1-クロロ-1,2,3-トリフルオロ-1-プロペン、1,3-ジクロロ-1,2-ジフルオロ-1-プロペン、3-ブロモ-1,1,2-トリフルオロ-1-プロペン、3-クロロ-1,1,2-トリフルオロ-1-プロペン、1,1,2,3-テトラフルオロ-1-プロペンが好ましく、3-クロロ-1,1,2-トリフルオロ-1-プロペン、1,1,2,3-テトラフルオロ-1-プロペンがより好ましく、1,1,2,3-テトラフルオロ-1-プロペンが特に好ましい。それらの構造を以下に示す。
【0051】
【化8】
【0052】
なお、化合物(1)は、シス体、トランス体のいずれでもよく、それらの混合物でもよい。混合物の場合、その混合比は任意である。
【0053】
化合物(2)は、市販品を使用することができる。
化合物(2)としては、保護されていてもよいアミノ基で置換されていてもよいC1-8アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、3-アミノプロパノール等が好ましく、メタノール、エタノールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。
化合物(2)の使用量は、化合物(1)1モルに対して、通常0.001~10モル、好ましくは、0.1~6.0モルである。化合物(2)は、反応溶媒を兼ねてもよく、その場合の使用量は溶媒量である。
【0054】
塩基としては、化合物(2)を脱プロトン化して、アニオン性の求核剤に変換できる塩基であればよく、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物類;リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド等のアルカリ金属C1-4アルコキシド類;リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類;水素化ナトリウム、水素化リチウム等のアルカリ金属水素化物類;および以下の構造のホスファゼン塩基(イミノホスホラン塩基)類が挙げられる。
【0055】
【化9】
【0056】
塩基は、好ましくは、アルカリ金属水酸化物類、アルカリ金属C1-4アルコキシド類またはアルカリ金属水素化物類であり、より好ましくは、アルカリ金属水酸化物類またはアルカリ金属C1-4アルコキシド類である。好適な具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド等のアルカリ金属C1-4アルコキシド類;が挙げられる。
塩基がアルカリ金属水酸化物の場合、水溶液の形態で使用されることが好ましい。
塩基がアルカリ金属C1-4アルコキシドの場合、アルコール溶液の形態で使用されることが好ましく、当該アルコールは化合物(2)であることがより好ましい。即ち、好適な一態様は、式(2)におけるRがC1-4アルキル基であり、かつ塩基がRONaまたはROKであって、ROH溶液の形態で使用される態様である。好適な具体例は、ナトリウムメトキシド/メタノール溶液(R=メチル)、ナトリウムエトキシド/エタノール溶液(R=エチル)およびカリウムtert-ブトキシド/tert-ブタノール溶液(R=tert-ブチル)である。
塩基の使用量は、化合物(1)に対して、通常0.001~10当量、好ましくは、0.01~3.0当量である。
【0057】
反応は、溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;スルホラン、水等が挙げられ、これらは2種以上を混合して使用してもよい。好ましい溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミドである。
塩基がアルカリ金属C1-4アルコキシド類であって、アルコール溶液の形態で使用される場合は、上記の溶媒なしで反応を行ってもよい。
溶媒の使用量は、化合物(1)に対して、通常0.1~100倍容量である。
【0058】
反応は、化合物(1)および化合物(2)の混合物(必要により溶媒も)に、塩基を添加(好ましくは滴下)することにより行うことが好ましい。具体的には、化合物(1)、または化合物(1)の溶媒の溶液に、化合物(2)を加えた混合物に、塩基を添加(好ましくは滴下)することにより行う。
反応は、通常30~180℃の範囲、好ましくは60~130℃の範囲で行われる。
反応の終了は、薄層クロマトグラフィー等により確認することができる。
【0059】
化合物(1)と化合物(2)との反応は、反応系に水が存在していると、化合物(3)を経由して化合物(4)の生成まで進行するが、反応系に水が存在していないと、化合物(3)の生成で留まる。
【0060】
【化10】
【0061】
[式中の各記号は前記と同義である。]
化合物(3)は水の存在下で反応して、化合物(4)に変換される。
【0062】
【化11】
【0063】
[式中の各記号は前記と同義である。]
従って、化合物(1)と化合物(2)との反応を、水を含む反応系で行うことにより、化合物(4)の生成まで進行させることができる。
【0064】
水を含む反応系で行う方法としては、具体的には、水を含む溶媒下で反応を行う;塩基としてアルカリ金属水酸化物水溶液を用いて反応を行う;水を含む化合物(2)を用いて反応を行う;反応途中で水を添加する;等の方法が挙げられる。
水を含む溶媒に関し、N,N-ジメチルホルムアミドは、通常20~1300ppmの範囲で水を含有し、テトラヒドロフランは、通常10~1800ppmの範囲で水を含有している。
水を含む化合物(2)に関し、メタノールは、通常100~5000ppmの範囲で水を含有し、エタノールは、通常1~2000ppmの範囲で水を含有し、2-プロパノールは、通常1~2000ppmの範囲で水を含有している。
なお、本明細書中、「ppm」は質量基準である。
反応系中の水の量は、化合物(1)1モルに対して、通常触媒量である。
触媒量の水は、化合物(2)に対して触媒的作用を示すことにより、化合物(2)が化合物(3)とも反応して化合物(4)を生成する反応を促進すると考えられる。なお、水が触媒量ではなく多量に存在する場合は、化合物(3)と反応して化合物(4)を生成する原料としても働くと考えられる。
【0065】
水を含む反応系での化合物(1)と化合物(2)との反応の温度は、通常30~180℃の範囲、好ましくは60~130℃の範囲である。
反応の終了は、薄層クロマトグラフィー等により確認することができる。
【0066】
あるいは、水が存在していない反応系で、化合物(1)を化合物(2)と反応させて、化合物(3)を得、次いでこれを水の存在下で反応させて、化合物(4)を製造してもよい。
【0067】
この場合、溶媒としては、通常水を含まない溶媒が使用されるか、あるいは脱水したものが使用される。また、塩基としては、アルカリ金属C1-4アルコキシド類が好適に使用される。化合物(2)としては、必要により脱水したものが使用される。
【0068】
水が存在していない反応系での化合物(1)と化合物(2)との反応の温度は、例えば、塩基がアルカリ金属C1-4アルコキシドの場合、通常30~80℃の範囲、好ましくは50~80℃の範囲である。
【0069】
化合物(3)の水の存在下での反応は、化合物(1)と化合物(2)との反応混合物から化合物(3)を単離した後に行ってもよいが、簡便に行えることから、化合物(1)と化合物(2)との反応混合物にそのまま行うが好ましいい。
化合物(3)の水の存在下での反応の温度は、通常80~180℃の範囲である。
反応の終了は、薄層クロマトグラフィー等により確認することができる。
【0070】
反応終了後、常法に従って、反応混合物から濃縮、晶出、再結晶、蒸留、溶媒抽出、分溜、クロマトグラフィー等の分離手段により、目的とする化合物(4)を単離および/または精製できる。
【0071】
なお、化合物(3)のうち、化合物(3a)は新規な化合物である。
【0072】
【化12】
【0073】
[式中、XおよびXは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子を示し、Yは、ハロゲン原子を示し、Rは、C1-8アルキル基を示す。]
中でも、XおよびXが、独立してそれぞれ、フッ素原子または塩素原子であり、Yが、フッ素原子であり、かつRが、C1-2アルキル基である化合物(3a)が好ましく、XおよびXが、共にフッ素原子であり、Yが、フッ素原子であり、かつRが、C1-2アルキル基である化合物(3a)がより好ましい。
化合物(3a)の好適な具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0074】
【化13】
【実施例
【0075】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
[分析方法]
例1~3で得られた生成物について、GCおよびGC-MSにて分析を実施した。いずれもカラムはRTX-200を使用し、-20℃5min→10℃/min→250℃20minで行った。
カールフィッシャー滴定法により水分量の測定を行った
【0076】
[例1]
1,1,2,3-テトラフルオロ-1-プロペン(X、X、XおよびYが全てフッ素原子である化合物(1))0.77g(1.3M、N,N-ジメチルホルムアミド溶液:水分量300ppm)にメタノール(水分量400ppm)0.22gを加え、ここに48%水酸化カリウム水溶液0.01gを添加して、120℃にて2時間撹拌した。GC分析により、転化率35%、CH=CF-CFOCHを収率5%、CH=CF-COOCHを収率30%で得た。また、GC-MS分析を実施したところ、新規ピークが二本確認された。一つは純品のCH=CF-COOCHとピークおよびフラグメントが一致することを確認された。また、もう一つは親フラグメント126、その他フラグメントとして95、81、31などが確認され、中間体CH=CF-CFOCHを経由して反応していることが確認された。この溶液をさらに12時間反応を行うと、転化率100%、CH=CF-CFOCHを収率4%、CH=CF-COOCHを収率96%で得た。
【0077】
[例2]
1,1,2,3-テトラフルオロ-1-プロペン(X、X、XおよびYが全てフッ素原子である化合物(1))0.77g(1.3M、N,N-ジメチルホルムアミド溶液:水分量800ppm)にメタノール(水分量1200ppm)0.22gを加え、ここに28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.06gを添加して、120℃にて8時間撹拌した。GC分析により、転化率100%、CH=CF-CFOCHを7%、CH=CF-COOCHを93%で得た。また、GC-MS分析を実施したところ、例1と同様に、CH=CF-CFOCHおよびCH=CF-COOCHが確認された。
【0078】
[例3]
1,1,2,3-テトラフルオロ-1-プロペン(X、X、XおよびYが全てフッ素原子である化合物(1))0.77g(1.3M、N,N-ジメチルホルムアミド溶液:水分量100ppm)に、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(水分量20ppm)1.64gを添加して、50℃にて14時間撹拌した。GC分析により、転化率91%、CH=CF-CFOCHを71%、CH=CF-COOCHを19%で得た。また、GC-MS分析を実施したところ、例1と同様に、CH=CF-CFOCH、CH=CF-COOCHが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、毒性が高い原料を使用せずに、安全でかつ簡便な方法で、しかも工業的生産に適した方法でハロゲン化アクリル酸エステルを製造できる。