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特許7375580成膜用支持基板、および、多結晶基板の製造方法
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  • 特許-成膜用支持基板、および、多結晶基板の製造方法 図1
  • 特許-成膜用支持基板、および、多結晶基板の製造方法 図2
  • 特許-成膜用支持基板、および、多結晶基板の製造方法 図3
  • 特許-成膜用支持基板、および、多結晶基板の製造方法 図4
  • 特許-成膜用支持基板、および、多結晶基板の製造方法 図5
  • 特許-成膜用支持基板、および、多結晶基板の製造方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】成膜用支持基板、および、多結晶基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 25/18 20060101AFI20231031BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20231031BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C30B25/18
C30B29/36 A
C23C16/42
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020011546
(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2021116210
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】寺島 彰
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/159754(WO,A1)
【文献】特開平10-226574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 25/18
C30B 29/36
C23C 16/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的気相蒸着法による成膜対象となる成膜用支持基板であって、
成膜対象面と、前記成膜対象面に形成された溝を備え、
前記溝の幅寸法が、1mm~10mmであり、前記成膜用支持基板の厚さ方向における、前記溝の深さ寸法が、0.5mm以上であ
前記成膜用支持基板が、成膜してから前記溝の内側を分離して円形状基板を得るための支持基板であり、
前記溝が平面視で円形状に形成されており、
前記溝の内径寸法が、前記円形状基板の直径寸法よりも0mm~2mm大きい、成膜用支持基板。
【請求項2】
前記溝が形成された箇所における、前記成膜用支持基板の厚さ寸法が2mm以上である、請求項1に記載の成膜用支持基板。
【請求項3】
前記溝が、前記成膜対象面において重ならないように複数箇所に形成されている、請求項1または2に記載の成膜用支持基板。
【請求項4】
前記成膜対象面が前記成膜用支持基板の両面であり、
前記両面の前記成膜対象面にそれぞれ形成された前記溝が、同一形状であり、かつ、前記厚さ方向において、同じ箇所に形成されている、請求項1~のいずれか1項に記載の成膜用支持基板。
【請求項5】
前記溝の断面形状が長方形状である、請求項1~のいずれか1項に記載の成膜用支持基板。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の成膜用支持基板を用いて多結晶基板を製造する方法であって、
前記成膜用支持基板の前記成膜対象面に化学的気相蒸着法により多結晶膜が成膜した、前記成膜用支持基板と前記多結晶膜との積層体から、前記溝の箇所において、前記溝の内側を分離して多結晶基板中間体を得る、分離工程と、
前記多結晶基板中間体から、前記成膜用支持基板を除去して多結晶基板を得る、除去工程と、を備える、多結晶基板の製造方法。
【請求項7】
前記溝が平面視で円形状に形成されており、
前記分離工程において、コアドリルを用いて前記溝を切削して、前記溝の内側を分離する、請求項に記載の多結晶基板の製造方法。
【請求項8】
前記多結晶膜の厚さが0.5mm~1.5mmである、請求項またはに記載の多結晶基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜用支持基板、および、多結晶基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(以下、「SiC」と記載することがある。)は、シリコン(以下、「Si」と記載することがある。)と比較すると、3倍程度の大きなバンドギャップ(4H-SiCで、3.8eV程度、6H-SiCでは、3.1eV程度、Siは1.1eV程度)と高い熱伝導率(5W/cm・K程度、Siは1.5W/cm・K程度)を有する。このことから、近年、パワーデバイス用途の基板材料として単結晶の炭化ケイ素が使用され始めている。
【0003】
例えば、従来用いられてきたSiパワーデバイスと比較して、SiCパワーデバイスは5倍~10倍程度大きい耐電圧と数百度以上高い動作温度を実現し、さらに素子の電力損失を1/10程度に低減することができるため、鉄道車両用インバーターなどで実用化されている。
【0004】
通常、炭化ケイ素単結晶基板は、昇華再結晶法(改良レーリー法)と呼ばれる気相法で作製され(例えば非特許文献1参照)、所望の直径および厚さに加工される。
【0005】
改良レーリー法は、固体状の炭化ケイ素原料(通常は粉末状)を高温(2,400℃程度以上)で加熱・昇華させて、不活性ガス雰囲気中を昇華したシリコン原子と炭素原子が2,400℃の蒸気として拡散により輸送され、原料よりも低温に設置された種結晶上に過飽和となって再結晶化することにより塊状の単結晶の炭化ケイ素を育成する製造方法である。
【0006】
しかし、この改良レーリー法は、プロセス温度が2,400℃以上と非常に高いため、結晶成長の温度制御や対流制御、結晶欠陥の制御が非常に難しい。そのため、この方法で作製された単結晶炭化ケイ素基板には、マイクロパイプと呼ばれる結晶欠陥やその他の結晶欠陥(積層欠陥等)が多数存在し得ることから、電子デバイス用途に耐え得る高品質の結晶の基板を歩留まりよく製造することが極めて難しい。
【0007】
その結果、電子デバイス用に用いることのできる結晶欠陥の少ない高品質な炭化ケイ素単結晶基板は非常に高額なものとなってしまい、そのような炭化ケイ素単結晶基板を用いたデバイスも高額なものになっていた。このことから、炭化ケイ素単結晶基板が普及することの妨げとなっていた。
【0008】
そこで、近年、炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板を準備し、前記炭化ケイ素単結晶基板と前記炭化ケイ素多結晶基板とを貼り合わせる工程を行い、その後、前記炭化ケイ素単結晶基板を薄膜化する工程を行い、炭化ケイ素多結晶基板上に炭化ケイ素単結晶薄板層を形成した基板を製造することが提案されている(例えば非特許文献2参照)。
【0009】
この製造方法によれば、炭化ケイ素単結晶基板の厚さを従来に比べ数分の一から数百分の一にまで減少させることができ、よって、従来のように炭化ケイ素基板のすべてを高額な、高品質の炭化ケイ素単結晶で構成する場合に比べて炭化ケイ素基板のコストを大幅に低減させることができる。また、結晶欠陥の少ない高品質な炭化ケイ素単結晶層上にパワーデバイス等の素子を形成することができるため、デバイス性能の向上および製造歩留りを大きく改善させることができる。
【0010】
このような炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板とを貼り合わせる工程において、炭化ケイ素多結晶基板は緻密で高純度であると共に、高平坦度であることが求められる。このため、この炭化ケイ素多結晶基板の製造には化学的気相蒸着法(以下、「CVD法」と記載することがある。)が用いられる。
【0011】
特許文献1には、化学的気相蒸着法(CVD法)を用いた炭化ケイ素多結晶基板の製造方法が記載されている。それによれば、CVD法により黒鉛支持基板の表面に炭化ケイ素を析出させ、所望の膜厚に成膜した後、黒鉛支持基板を除去して炭化ケイ素多結晶を得ることができる。得られた炭化ケイ素多結晶は、焼結法で製造された炭化ケイ素多結晶に比較して緻密で高純度であり、耐食性、耐熱性、強度特性にも優れている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Yu. M. Tairov and V. F. Tsvetkov: J.of Cryst.Growth,43(1978)p.209
【文献】精密工学会誌,2017, 83巻, 9号, p.833-836
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平8-26714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ここで、黒鉛性の支持基板に炭化ケイ素等の多結晶膜を成膜したのちに、黒鉛性の支持基板を除去して多結晶基板を製造する方法の一例として、多結晶膜を成膜して得られる多結晶膜と黒鉛性の支持基板との積層体から、所望の大きさに分離した積層体から黒鉛性の支持基板を除去して多結晶基板を得る方法が考えられる。
【0015】
この方法により多結晶基板を製造する場合、特に、ビッカース硬度が24GPaと非常に硬い炭化ケイ素の場合には、分離するために長い時間を要するとともに、分離するための工具の磨耗が非常に大きくなり、分離する工程でのコストが高くなるという問題があった。
【0016】
従って、本発明は、上記のような問題点に着目し、支持基板と化学的気相蒸着法により成膜された膜との積層体から所望の大きさの積層体を分離しやすく、分離に要する時間が短くなり生産効率が向上するとともに、分離用工具の摩耗を抑制して、分離用工具の長寿命化によりコストを低減することができる、成膜用支持基板、および、これを用いた多結晶基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の成膜用支持基板は、化学的気相蒸着法による成膜対象となる成膜用支持基板であって、成膜対象面と、前記成膜対象面に形成された溝を備え、前記溝の幅寸法が、1mm~10mmであり、前記成膜用支持基板の厚さ方向における、前記溝の深さ寸法が、0.5mm以上である。
【0018】
本発明の成膜用支持基板において、前記溝が形成された箇所における、前記成膜用支持基板の厚さ寸法が2mm以上であってもよい。
【0019】
本発明の成膜用支持基板において、前記成膜用支持基板が、成膜してから前記溝の内側を分離して円形状基板を得るための支持基板であり、前記溝が平面視で円形状に形成されており、前記溝の内径寸法が、前記円形状基板の直径寸法よりも0mm~2mm大きくてもよい。
【0020】
本発明の成膜用支持基板において、前記溝が、前記成膜対象面において重ならないように複数箇所に形成されていてもよい。
【0021】
本発明の成膜用支持基板において、前記成膜対象面が前記成膜用支持基板の両面であり、前記両面の前記成膜対象面にそれぞれ形成された前記溝が、同一形状であり、かつ、前記厚さ方向において、同じ箇所に形成されていてもよい。
【0022】
本発明の成膜用支持基板において、前記溝の断面形状が長方形状であってもよい。
【0023】
本発明の多結晶基板の製造方法は、本発明の成膜用支持基板を用いて多結晶基板を製造する方法であって、前記成膜用支持基板の前記成膜対象面に化学的気相蒸着法により多結晶膜が成膜した、前記成膜用支持基板と前記多結晶膜との積層体から、前記溝の箇所において、前記溝の内側を分離して多結晶基板中間体を得る、分離工程と、
前記多結晶基板中間体から、前記成膜用支持基板を除去して多結晶基板を得る、除去工程と、を備える。
【0024】
本発明の多結晶基板の製造方法において、前記溝が平面視で円形状に形成されており、前記分離工程において、コアドリルを用いて前記溝を切削して、前記溝の内側を分離してもよい。
【0025】
本発明の多結晶基板の製造方法において、前記多結晶膜の厚さが0.5mm~1.5mmであってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の成膜用支持基板であれば、化学的気相蒸着法により成膜したときに、溝が形成されていない箇所よりも溝の箇所において膜が薄く成膜され、成膜用支持基板と成膜された膜との積層体から所望の大きさの積層体を分離しやすく、分離に要する時間が短くなり生産効率が向上するとともに、分離用工具の摩耗を抑制して、分離用工具の長寿命化によりコストを低減することができる。
【0027】
また、本発明の多結晶基板の製造方法によれば、本発明の成膜用支持基板に成膜して、溝の箇所において、溝の内側を分離することにより、成膜用支持基板と成膜された膜との積層体から所望の大きさの積層体を分離しやすく、分離に要する時間が短くなり生産効率が向上するとともに、分離用工具の摩耗を抑制して、分離用工具の長寿命化によりコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法における、製造工程の一例を示す図である。
図2】本実施形態の成膜用支持基板を示す平面図である。
図3図2に示した成膜用支持基板のA-A線断面における領域Pを模式的に示す断面図である。
図4】本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法において用いる成膜装置の一例を模式的に示す断面図である。
図5】本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法の各工程における、支持基板、炭化ケイ素多結晶膜、炭化ケイ素多結晶基板を模式的に示す断面図である。
図6】本実施形態の成膜用支持基板に炭化ケイ素多結晶膜を成膜した状態の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態にかかる成膜用支持基板、および、成膜用支持基板を用いた多結晶基板の製造方法について、図面を参照して説明する。本実施形態の成膜用支持基板は、化学的気相蒸着法により炭化ケイ素、窒化チタン、窒化アルミニウム、炭化チタン、ダイヤモンドライクカーボン等の多結晶膜を成膜させる成膜対象として用いることができる。炭化ケイ素多結晶等の硬度の高い多結晶膜を成膜して多結晶基板を製造する場合に有効であることから、本実施形態では、炭化ケイ素多結晶膜を成膜して、炭化ケイ素多結晶基板を製造する場合を例示して説明する。本実施形態の方法により製造された炭化ケイ素多結晶基板は、例えば、炭化ケイ素単結晶基板と貼り合わせることにより、パワーデバイス用の基板として用いることができる。
【0030】
[成膜用支持基板]
本実施形態の成膜用支持基板100は、黒鉛製であり、炭化ケイ素多結晶膜200を両面に成膜するものであり、後述するように、炭化ケイ素多結晶基板500を製造するために用いることができる。また、成膜用支持基板100は、平行平板状のもの、すなわち、図面に示すように、成膜対象面110、120がおもて面と裏面に相当する平行な平板を好適に用いることができる。なお、本明細書において、平行平板における「平行」は、厳密な平行だけでなく、成膜用支持基板100の平行な面を作成する上で不可避な誤差を有する場合も含む。なお、本実施形態の成膜用支持基板は、後述の除去工程における成膜用支持基板の除去容易性、溝を形成するための加工性、成膜用支持基板自体のコスト等の観点から、黒鉛製の支持基板を好適に用いることができる。
【0031】
図2図3に示すように、成膜用支持基板100は、化学的気相蒸着法により炭化ケイ素多結晶膜200を成膜する成膜対象面110と、成膜対象面110に対して裏面となる成膜対象面120と、成膜対象面110に形成された3つの溝111と、成膜対象面120に形成された3つの溝121と、を備える。また、平面視において、溝111、溝121の内部は、中間体形成部130であり、後述するように、炭化ケイ素多結晶膜200を成膜したのちに分離されて、炭化ケイ素多結晶基板中間体400を構成する部分である。また、溝111、溝121は、図2図3に示すように、同一形状の平面視円形状であり、かつ、成膜用支持基板100の厚さ方向において、同じ箇所に形成されている。また、成膜用支持基板100の平面視において、図2に示すように、本実施形態の成膜用支持基板100に形成された溝111、121は、円形状であり、同一の形状で重ならないように成膜対象面110、120のそれぞれ3箇所に形成されている。すなわち、成膜用支持基板100には、おもて面、裏面を併せて、溝が6箇所に形成されている。
【0032】
また、溝111、121の幅寸法(図3のw)は、1mm~10mmであり、成膜用支持基板100の厚さ方向における、溝111、121の深さ寸法(図3のd)が、0.5mm以上である。幅寸法が小さすぎると溝111、121の内側を分離するときに分離用工具を溝111、121の間に入れることが難しくなり、幅寸法が大きすぎると成膜時に気相化合物が溝111、121内に供給されやすくなり、溝111、121が形成されていない箇所よりも溝111、121内が薄くなるように成膜するという効果が低くなる可能性がある。また、溝111、121が浅すぎると、溝111、121内に気相化合物が供給されやすくなる。また、溝111、121の深さ寸法の上限は特に限定されないが、溝111、121の箇所における成膜用支持基板100の厚さ寸法等を考慮して、設定することができる。
【0033】
また、溝111、121が形成されていない箇所における、成膜用支持基板100の厚さ寸法(図3のH)は、特に限定はされないが、溝111、121が形成された箇所の強度や、成膜用支持基板100の質量、成膜用支持基板100自体のコストを考慮して、例えば、3mm~10mm程度とすることができる。また、溝111、121が形成された箇所における、成膜用支持基板100の厚さ寸法(図3のh)は2mm以上とすることができる。これにより、成膜用支持基板100に溝111、121を形成しても、成膜用支持基板100としての強度をより確実に保つことができる。
【0034】
また、溝111,121の内径寸法は、製造する炭化ケイ素多結晶基板500の直径寸法(例えば、4インチや6インチ)よりも0mm~2mm大きくすることができる。これにより、炭化ケイ素多結晶基板500の製造過程において、成膜用支持基板100を除去した後に外周部分を研削加工や研磨加工することにより直径寸法を調整して、所望の寸法を有する炭化ケイ素多結晶基板を得ることができる。
【0035】
また、溝111、121が平面視円形状に形成されていることから、成膜用支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300からコアドリル等の分離用工具を用いて効率よく炭化ケイ素多結晶基板中間体400を分離することができる。また、炭化ケイ素多結晶基板500は通常円形状に製造されることから、溝111、121を円形状に形成しない場合に比べて、後加工の負担を少なくすることができる。
【0036】
また、溝111、121は、成膜用支持基板100の両面の成膜対象面110、120にそれぞれ同一形状、かつ、厚さ方向において、同じ箇所に形成されている。これにより、成膜用支持基板100の両面に炭化ケイ素多結晶膜を成膜して炭化ケイ素多結晶基板を製造すれば、1箇所の中間体形成部130において、2枚の炭化ケイ素多結晶基板を得ることができる。また、溝111、121は、重ならないように、成膜対象面110、120のそれぞれ3箇所に形成されている。これにより、例えば、成膜対象面が両面である本実施形態の成膜用支持基板100であれば、1枚の成膜用支持基板100から6枚の炭化ケイ素多結晶基板500を製造することができ、製造効率を高めて製造コストを低減することができる。
【0037】
また、本実施形態の成膜用支持基板100は、例えば、黒鉛製の平板の表面に、コアドリル等を用いて溝111、121を形成することにより製造することができる。
【0038】
本実施形態の成膜用支持基板100は、成膜対象面110、120に、幅寸法が1mm~10mmで、厚さ方向における深さ寸法が、0.5mm以上の溝111、121が形成されている。これにより、化学的気相蒸着法により成膜したときに、溝111、121が形成されていない箇所よりも溝111、121の箇所において炭化ケイ素多結晶膜200が薄く成膜され、成膜用支持基板100と化学的気相蒸着法により成膜された炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300から、所望の大きさの積層体(炭化ケイ素多結晶基板中間体400)を分離しやすく、分離に要する時間が短くなり生産効率が向上するとともに、分離用工具の摩耗を抑制して、分離用工具の長寿命化によりコストを低減することができる。
【0039】
また、本実施形態の成膜用支持基板100の溝111、121の断面形状は、図3に示すように、溝を形成する際の加工性等を考慮して長方形状に形成されているが、特に限定されず、他の形状でもよい。また、溝111、121の断面形状が長方形状に形成されていることにより、例えば、コアドリルを用いて溝111、121の内側を分離して炭化ケイ素多結晶基板中間体400を分離する場合に、一般的にコアドリルの断面形状も長方形状であることから、溝111、121の形状とコアドリルの断面形状が一致して、加工が容易となり分離しやすくなる。本実施形態の成膜用支持基板100においては、溝111、121の形状は平面視円形状に形成されていたが、溝の形状、大きさは特に円形状に限定されず、所望の炭化ケイ素多結晶基板の形状や大きさに合わせることができる。また、成膜対象面110、120における、溝111、121の数は3つに限定されず、1つや2つでもよいし、4つ以上でもよい。
【0040】
また、本実施形態の成膜用支持基板100においては、2つの成膜対象面(成膜対象面110、120)を有していたが、成膜対象は片面としてもよく、炭化ケイ素多結晶基板の製造計画や蒸着炉の構造等の条件により適宜決定すればよい。また、本実施形態の成膜用支持基板100を用いて炭化ケイ素多結晶基板500を製造する場合であっても、片面のみに炭化ケイ素多結晶膜を成膜してもよい。
【0041】
[炭化ケイ素多結晶基板の製造方法]
次に、成膜用支持基板100を用いた、本実施形態の多結晶基板の製造方法について説明する。本実施形態においては、前述したように炭化ケイ素多結晶基板を製造する方法を例示して説明する。本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法は、成膜用支持基板100の成膜対象面110、120に化学的気相蒸着法により炭化ケイ素多結晶膜200を成膜する成膜工程と、炭化ケイ素多結晶膜200が成膜した、成膜用支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300から、溝111、121の箇所において、溝111、121の内側を分離して炭化ケイ素多結晶基板中間体400を得る、分離工程と、炭化ケイ素多結晶基板中間体400から、成膜用支持基板100を除去して炭化ケイ素多結晶基板500を得る、除去工程と、を備える。本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法の手順を図1に示した。
【0042】
次に、本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法について、成膜工程、分離工程、除去工程の順に説明する。
【0043】
(成膜工程)
成膜工程について、図2図6を参照して説明する。以下の説明は成膜工程の一例であり、問題のない範囲で温度、圧力、ガス雰囲気等の各条件や、手順等を変更してもよい。
【0044】
成膜工程は、図2図3図5(A)に示す成膜用支持基板100を準備したのちに、成膜用支持基板100の成膜対象面110、120に、化学的気相蒸着法により炭化ケイ素多結晶膜200を成膜する工程であり、例えば、以下に説明する成膜装置1000を用いて行うことができる。
【0045】
図4に示すように、成膜装置1000は、成膜装置1000の外装となる筐体1010と、成膜用支持基板100に炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させる成膜室1020と、成膜室1020より排出された原料ガスやキャリアガスを後述のガス排出口1040へ導入する排出ガス導入室1050と、排出ガス導入室1050を覆うボックス1060と、ボックス1060の外部より成膜室1020内を加温する、カーボン製のヒーター1070と、成膜室1020の上部に設けられ、成膜室1020に原料ガスやキャリアガスを導入するガス導入口1030と、ガス排出口1040と、成膜用支持基板100を保持する基板ホルダー1080を有する。また、基板ホルダー1080は、棒状の保持部材1081と、保持部材1081を成膜室1020内に固定する保持台座1082と、を有する。また、保持台座1082は、成膜室1020の側壁の内側の2箇所に設けられ、保持台座1082には、保持部材1081を挿し込んで固定することができる穴(不図示)が形成されており、棒状の保持部材1081の長手方向を水平に保持することができる。また、保持部材1081において、成膜用支持基板100が保持される箇所は、後述するナットN1、ナットN2を締結するためのねじ切り加工が施されている。すなわち、図4に示すように、成膜装置1000において、成膜用支持基板100は、ナットN1、ナットN2を用いて挟んで固定されることにより、保持部材1081に成膜対象面110、120が鉛直方向になるように保持される。なお、本実施形態においては、成膜用支持基板100は成膜対象面110、120が鉛直方向になるように保持されているが、保持方法は特に限定されず、例えば、成膜対象面110、120が水平方向となるように保持されてもよい。また、成膜室1020内に保持される成膜用支持基板100の枚数は特に限定されず、1枚でもよいし、複数枚でもよい。また、成膜用支持基板100の成膜対象面110、120に対して、炭化ケイ素多結晶膜200をより均一に析出させるために、成膜工程において、成膜用支持基板100を回転させてもよい。
【0046】
成膜工程の具体的な手順について説明する。まず、成膜室1020内に成膜用支持基板100を保持した状態で、減圧状態で、Ar等の不活性ガス雰囲気下で、成膜の反応温度まで、ヒーター1070により成膜用支持基板100を加熱する。成膜の反応温度まで達したら、不活性ガスの供給を止めて、成膜室1020内に炭化ケイ素多結晶膜200の成分を含む原料ガスやキャリアガスを供給する。
【0047】
炭化ケイ素多結晶膜の成膜温度は、1000℃~1400℃程度とすることができる。特に、1300℃程度以上の温度領域では、成膜用支持基板100の表面形状が炭化ケイ素多結晶膜200の成膜速度に大きな影響を与え、成膜用支持基板100の表面に凹状の部分(例えば、溝111、121)があると、その部分に気相化合物が十分に供給され難くなり、凹状の部分における炭化ケイ素多結晶膜200の成膜速度は、周囲の成膜速度に比べて著しく低下する。よって、本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法は、成膜温度が1300℃程度以上の領域で特に有効である。成膜用支持基板の表面形状により成膜される炭化ケイ素多結晶膜の厚さが異なることに着目し、成膜用支持基板の表面にあらかじめ様々な凹状形状を作製しておき、化学的気相蒸着法により凹状形状を有する成膜用支持基板の表面に炭化ケイ素多結晶膜を析出させ、さらに、成膜用支持基板と炭化ケイ素多結晶膜との積層体から、炭化ケイ素多結晶基板中間体を、分離用工具を用いて分離した。そして、成膜用支持基板の機械的強度、分離に要する時間、分離後の分離用工具の磨耗量などを総合的に鑑みて、適切な凹状形状に関して鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0048】
原料ガスとしては、炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させることができれば、特に限定されず、一般的に炭化ケイ素多結晶膜の成膜に使用されるSi系原料ガス、C系原料ガスを用いることができる。例えば、Si系原料ガスとしては、シラン(SiH)を用いることができるほか、モノクロロシラン(SiHCl)、ジクロロシラン(SiHCl)、トリクロロシラン(SiHCl)、テトラクロロシラン(SiCl)などのエッチング作用があるClを含む塩素系Si原料含有ガス(クロライド系原料)を用いることができる。C系原料ガスとしては、例えば、メタン(CH)、プロパン(C)、アセチレン(C)等の炭化水素を用いることができる。上記のほか、トリクロロメチルシラン(CHClSi)、トリクロロフェニルシラン(CClSi)、ジクロロメチルシラン(CHClSi)、ジクロロジメチルシラン((CHSiCl)、クロロトリメチルシラン((CHSiCl)等の有機珪素化合物を気相で還元熱分解する方法も用いることができる。
【0049】
また、キャリアガスとしては、炭化ケイ素多結晶膜200の成膜を阻害することなく、原料ガスを成膜用支持基板100へ展開することができれば、一般的に使用されるキャリアガスを用いることができる。例えば、熱伝導率に優れ、炭化ケイ素に対してエッチング作用があるHガスをキャリアガスとして用いることができる。また、これら原料ガスおよびキャリアガスと同時に、第3のガスとして、不純物ドーピングガスを同時に供給することもできる。例えば、炭化ケイ素多結晶膜200を成膜用支持基板100から分離することで得られる炭化ケイ素多結晶基板の導電型をn型とする場合には窒素(N)、p型とする場合にはトリメチルアルミニウム(TMA)を用いることができる。
【0050】
炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させる際には、上記のガスを適宜混合して供給する。また、所望の炭化ケイ素多結晶膜200の性状に応じて、成膜工程の途中でガスの混合割合、供給量等の条件を変更してもよい。
【0051】
また、炭化ケイ素以外を成膜する場合には、成膜する多結晶に応じてガス、温度、圧力、時間等の成膜条件を設定することができる。窒化チタンの多結晶膜を形成する場合には、TiClガス、Nガス等を用いることができる。窒化アルミニウムの多結晶膜を形成する場合には、AlClガス、NHガス等を用いることができる。炭化チタンの多結晶膜を形成する場合には、TiClガス、CHガス等を用いることができる。ダイヤモンドライクカーボンの多結晶膜を形成する場合には、アセチレン等の炭化水素ガスを用いることができる。
【0052】
成膜用支持基板100の表面や気相での化学反応により、加熱した成膜用支持基板100の両面に炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させることができる。これにより、図5(B)、図6に示すように、成膜用支持基板100に炭化ケイ素多結晶膜200が成膜された、成膜用支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300が得られる。成膜工程における炭化ケイ素多結晶膜の成膜厚さ(図6のT)は、成膜用支持基板100を除去したのちに平坦度を調整する加工をすることにより一般的な厚さの炭化ケイ素多結晶基板が得られる厚さである、溝が形成されていない箇所において例えば0.5mm~1.5mm程度とすることができる。以上のように形成された積層体300は、常温程度まで冷却されたのちに、分離工程に供される。
【0053】
(分離工程)
分離工程は、積層体300から、溝111、121の箇所(図5(B)の線B)において、溝111、121の内側を分離して炭化ケイ素多結晶基板中間体400を得る工程である。具体的には、溝111、121の箇所本実施形態においては、溝111、121が円形状に形成されていることから、例えば、線状に切削する工具や、円形状に切削するコアドリル(図5(B)のM)等の工具用いて溝111、121を切削して、溝111、121の内側を分離することができる。なお、コアドリルを用いる場合、溝111、121の内側を後の工程で用いることから、円形状に切削するドリル(コアビット)のみを用いて、センタードリルは用いずに加工を行うことができる。コアドリルを用いることにより、円形状の炭化ケイ素多結晶基板中間体400を得る場合に、作業性を向上させることができる。また、コアドリルを用いて成膜用支持基板100の溝111、121を形成した場合には、溝111、121を形成したものと同じコアドリルか、溝111、121の幅寸法よりも厚さ寸法の小さい刃のコアドリルを用いて、炭化ケイ素多結晶基板中間体400を分離することができる。なお、成膜用支持基板の溝が円形状に形成されていない場合には、回転刃等を備える切削機を用いて溝の形状に合わせて切削して溝の内側を分離してもよい。
【0054】
以上の分離工程により、図5(C)に示す炭化ケイ素多結晶基板中間体400が得られる。このとき、成膜用支持基板100の溝111、121は厚さ方向において同じ箇所に形成されていることから、一度の分離作業により同じ箇所の溝111、121が切削される。
【0055】
(除去工程)
除去工程は、炭化ケイ素多結晶基板中間体400から、成膜用支持基板100の中間体形成部130を除去して炭化ケイ素多結晶基板500を得る工程である。中間体形成部130は、Oや空気等の酸化性ガス雰囲気下で数百度に加熱して、中間体形成部130のみを燃焼させることにより、除去することができる。炭化ケイ素多結晶基板中間体400は、積層体300を溝111、121の箇所(図5(B)の線Bの箇所)で分離して得られることから、中間体形成部130の側面が露出しているが、必要に応じて、炭化ケイ素多結晶基板中間体400に、図5(C)の線Cの箇所で中間体形成部130をスライスする、スライス加工を施してもよい。炭化ケイ素多結晶基板中間体400にスライス加工を施すことにより、中間体形成部130の露出面積が大きくなり、より効率的に中間体形成部130を燃焼除去することができる。
【0056】
さらに、除去工程ののち、必要に応じて、直径・面取り加工、厚さ・平坦度加工、洗浄を行う。直径・面取り加工とは、図5(C)の線Dの箇所まで、ダイヤモンド砥石等を用いて外周部分を研削することにより、余分な部分を除去して、所望の直径寸法に調整するとともに、炭化ケイ素多結晶基板の外周部分全体の角を落とす加工を施すものである。また、厚さ・平坦度炭化ケイ素単結晶基板との貼り合わせ基板を製造する等の用途に適した厚さ・平坦度とするために、成膜面を研削・研磨して厚さと平坦度を調整するものである。以上により炭化ケイ素多結晶基板(図5(D))が得られる。
【0057】
本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法は、成膜用支持基板100の成膜対象面110、120に化学的気相蒸着法により炭化ケイ素多結晶膜200を成膜する成膜工程と、炭化ケイ素多結晶膜200が成膜した、成膜用支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300から、溝111、121の箇所において、溝111、121の内側を分離して炭化ケイ素多結晶基板中間体400を得る、分離工程と、炭化ケイ素多結晶基板中間体400から、成膜用支持基板100を除去して炭化ケイ素多結晶基板500を得る、除去工程と、を備える。
【0058】
成膜用支持基板100を用いて成膜された炭化ケイ素多結晶膜200の厚さは、図6に示すように、例えば、溝111、121の幅が3mm、溝の深さが1mmの成膜用支持基板に、溝111、121が形成されていない箇所(図6のT)において0.8mm~1.2mm程度の炭化ケイ素多結晶膜200を成膜した場合、溝111、121の底部の中央付近の最も厚い箇所(図6のt1)において0.4mm程度、底部の両端付近の最も薄い箇所(図6のt2)で0.1mm以下程度となる。このように、化学的気相蒸着法による炭化ケイ素多結晶膜の成膜時には、溝111、121内は気相化合物の供給が少なくなり、成膜した炭化ケイ素多結晶膜の膜厚が薄くなる。特に、溝111、121のエッジ部分(溝111、121の底部における幅方向両端部分)は影となることで気相化合物の供給が著しく少なくなり、膜厚が最も薄くなる。
【0059】
本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法によれば、本実施形態の成膜用支持基板100に炭化ケイ素多結晶膜200を成膜して、溝111、121の箇所において、溝111、121の内側を分離することにより、分離する箇所においては、炭化ケイ素多結晶膜の厚さが薄くなっていることから、成膜用支持基板100と化学的気相蒸着法により成膜された炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300から、所望の大きさの積層体(炭化ケイ素多結晶基板中間体400)を分離しやすくなり、分離に要する時間が短くなり生産効率が向上するとともに、分離用工具の摩耗を抑制して、分離用工具の長寿命化によりコストを低減することができる。
【0060】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【実施例
【0061】
以下、本発明の実施例および比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されることはない。
【0062】
本実施例においては、前述した実施形態の成膜用支持基板100を保持部材1081に保持し、成膜装置1000を用いて炭化ケイ素多結晶膜200を成膜する成膜工程を行ったのち、コアドリルを用いて分離工程を行った。
【0063】
(実施例1)
成膜用支持基板として、直径360mm、厚さ6mmの黒鉛製支持基板に、内径寸法が151mm、幅寸法が1mm、深さ寸法が0.5mmの円形状の溝を成膜対象面上に重ならないように3箇所に内径151mm、外径152mmで、170番手のダイヤモンド砥粒を付したコアドリルのコアドリルを用いて形成した。成膜対象面を成膜用支持基板の両面として、溝は、黒鉛性支持基板のおもて面と裏面の両面にそれぞれ同一形状、かつ、厚さ方向において、同じ箇所に形成した。
【0064】
このような成膜用支持基板を前述した実施形態の成膜装置1000の成膜室に成膜対象面が鉛直方向となるように、10枚保持して、成膜工程を行った。まず、成膜室1020内を不図示の排気ポンプにより真空引きをした後、1320℃まで加熱した。原料ガスとして、SiCl、CHを用い、キャリアガスとしてHを用い、不純物ドーピングガスとしてNを用いた。炭化ケイ素多結晶膜の成膜は、SiCl:CH:H:N=1:1:10:10の比率で上記ガスを混合して成膜室1020内に供給し、20時間の成膜を実施した。このとき、溝が形成されていない箇所の膜厚は0.8mm~1.2mmであり、溝の底部の中央付近の最も厚い部分の膜厚は、0.6mmであった。
【0065】
次に、分離工程を行った。成膜用支持基板と炭化ケイ素多結晶膜との積層体について、溝の箇所で溝の内側を分離して、炭化ケイ素多結晶基板中間体を得た。分離工程には、内径151mm、外径152mmで、170番手のダイヤモンド砥粒を付したコアドリルを用いた。分離工程において、10枚の成膜用支持基板に形成された30箇所の溝において炭化ケイ素多結晶基板中間体を分離して、炭化ケイ素多結晶基板中間体を分離するために要した時間を計測して、30回の平均時間を算出した。また、断面において、溝の箇所に成膜した炭化ケイ素多結晶膜の最も厚い箇所、すなわち、溝の底部の中央付近に成膜した炭化ケイ素多結晶膜の厚さ寸法を測定した。また、14枚の成膜用支持基板に形成された40箇所の溝において炭化ケイ素多結晶基板中間体を分離して、コアドリルの砥石摩耗率を確認した。砥石摩耗率は、コアドリルの摩耗寸法(mm)/積層体の加工厚さ(mm)×100(%)として算出した。分離時間、炭化ケイ素多結晶膜の溝の中央における厚さ寸法、砥石摩耗率の結果を表1に示した。さらに、得られた炭化ケイ素多結晶基板中間体を成膜用支持基板にスライス加工を施したのちに、除去工程に供して、成膜用支持基板の除去を行った。成膜用支持基板の除去後の炭化ケイ素多結晶基板に対して、直径・面取り加工、厚さ・平坦度加工、洗浄を行い、炭化ケイ素多結晶基板を得た。得られた炭化ケイ素多結晶基板は、目視での確認により、損傷等の問題がないことが確認された。
【0066】
(実施例2~実施例4、比較例1~比較例3)
成膜用支持基板に形成した溝の幅寸法、深さ寸法を種々変更したこと以外は、実施例1と同様にして、炭化ケイ素多結晶基板を製造した。比較例1においては、溝を形成しなかった。溝の幅寸法は、実施例2では2mm、実施例3では2mm、実施例4では3mm、比較例2では1mm、比較例3では0.5mmとした。また、溝の深さ寸法は、実施例2では1mm、実施例3では2mm、実施例4では1mm、比較例2では0.3mm、比較例3では2mmとした。また、炭化ケイ素多結晶基板中間体を分離するために要した時間、断面において、溝の箇所に成膜した炭化ケイ素多結晶膜の最も厚い箇所、すなわち、溝の底部の中央付近に成膜した炭化ケイ素多結晶膜の厚さ寸法を測定した結果、砥石摩耗率を表1に示した。成膜用支持基板の除去後の炭化ケイ素多結晶基板に対して、直径・面取り加工、厚さ・平坦度加工、洗浄を行い、炭化ケイ素多結晶基板を得た。得られた炭化ケイ素多結晶基板は、目視での確認により、損傷等の問題がないことが確認された。
【0067】
【表1】
【0068】
本発明の例示的態様である実施例1の溝を形成しない比較例1に比べて、分離時間が1/2程度、砥石摩耗率が1/3程度となった。また、実施例2~実施例4においても、成膜用支持基板に溝を形成することにより、分離時間と砥石摩耗率を低減できることが示された。
【0069】
以上のことから、本発明の例示的態様である実施例の成膜用支持基板、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法であれば、溝が形成された箇所、すなわち、炭化ケイ素多結晶基板中間体を分離する箇所においては、炭化ケイ素多結晶膜の厚さが薄くなっていることから、成膜用支持基板と化学的気相蒸着法により成膜された炭化ケイ素多結晶膜との積層体から、炭化ケイ素多結晶基板中間体を分離しやすくなって、分離する際の時間が大幅に短縮され、生産効率を向上させることができる。また、コアドリル等の分離用工具の摩耗を抑制することができることが示され、分離用工具の長寿命化によりコストを低減することができる。
【符号の説明】
【0070】
100 成膜用支持基板
110、120 成膜対象面
111、121 溝
200 炭化ケイ素多結晶膜
300 積層体
400 炭化ケイ素多結晶基板中間体
500 炭化ケイ素多結晶基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6