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特許7375716単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質評価方法、単結晶シリコンブロックの品質評価プログラム、単結晶シリコンブロックの製造方法およびシリコンウェーハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質評価方法、単結晶シリコンブロックの品質評価プログラム、単結晶シリコンブロックの製造方法およびシリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20231031BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C30B29/06 502H
C30B15/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020166501
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057967
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】最勝寺 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】金 大基
(72)【発明者】
【氏名】園部 太暉
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-081680(JP,A)
【文献】特開2020-033200(JP,A)
【文献】特開2007-099556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法によって育成された単結晶シリコンインゴットを切断して得られた単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質を評価する方法であって、
前記単結晶シリコンインゴットの育成時の結晶引き上げ速度の実績値を取得する第1工程と、
結晶引き上げ方向に沿って前記単結晶シリコンブロックの酸素濃度を測定する第2工程と、
前記測定された酸素濃度に基づいて、該酸素濃度が測定された位置に対応する前記結晶引き上げ速度を補正する第3工程と、
前記補正された前記結晶引き上げ速度に基づいて前記単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質を評価する第4工程と、
を含むことを特徴とする単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質評価方法。
【請求項2】
前記第3工程の引き上げ速度の補正は、前記単結晶シリコンブロックの結晶引き上げ方向両端部での酸素濃度間の補間線と前記測定された酸素濃度との差分に基づいて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第3工程において補正された前記結晶引き上げ速度は、補正前の結晶引き上げ速度をv、補正後の結晶引き上げ速度をv、前記補間線と前記測定された酸素濃度との差分をΔO、aを定数とすると、
=v+a×ΔO (A)
の関係を満たす、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記第3工程において、補正された前記結晶引き上げ速度は、補正前の結晶引き上げ速度に補正量を加えることにより算出する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2工程においては、フーリエ変換赤外分光法により酸素濃度の測定を行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第4工程においては、前記補正された結晶引き上げ速度が所定の範囲内にあるか否かに基づいて前記単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質の評価を行う、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
コンピュータに、請求項1~6のいずれか一項に記載の単結晶シリコンブロックの品質評価方法を実行させるための単結晶シリコンブロックの品質評価プログラム。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質評価方法によって良品と判定された単結晶シリコンブロックを得ることを特徴とする単結晶シリコンブロックの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の単結晶シリコンブロックの製造方法によって製造された単結晶シリコンブロックに対してウェーハ加工処理を施してシリコンウェーハを得ることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質評価方法、単結晶シリコンブロックの品質評価プログラム、単結晶シリコンブロックの製造方法およびシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスの基板として、シリコンウェーハが使用されている。シリコンウェーハは、チョクラルスキー(Czochralski、CZ)法により育成した単結晶シリコンインゴット(以下、単に「シリコン結晶」とも言う。)を切断し、得られた単結晶シリコンブロック(以下、単に「シリコンブロック」とも言う。)に対してウェーハ加工処理を施すことによって得ることができる。
【0003】
近年、半導体デバイスのさらなる微細化および高集積化に伴い、基板であるシリコンウェーハには、Grown-in欠陥がないこと、すなわち無欠陥であることが要求されている。Grown-in欠陥は、空孔が凝集して形成されるボイド欠陥や、格子間シリコンが析出する格子間型転位クラスターなどを指し、製造されたシリコンウェーハ中に残留して、半導体デバイスにおけるゲート酸化膜の劣化やリーク電流の原因となり得る。
【0004】
シリコン結晶の融液からの成長において、固液界面から結晶に導入される空孔および格子間シリコンの挙動は、ボロンコフのモデルによって説明されている。すなわち、固液界面近傍での単結晶シリコンの引き上げ方向の温度勾配Gに対する結晶の引き上げ速度vの比v/Gの値が臨界値(以下、「臨界v/G」とも言う。)よりも大きい場合には、空孔が格子間シリコンより優勢に導入され、温度の低下中に対消滅反応により格子間シリコンが消滅し、空孔のみが生き残る。これに対して、v/Gの値が臨界v/Gよりも小さい場合には、格子間シリコンが空孔より優勢に導入され、温度の低下中に空孔は消滅し、格子間シリコンのみが生き残る(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
そして、v/Gの値が臨界v/Gの近傍で点欠陥濃度が欠陥発生の臨界過飽和度未満である場合には、無欠陥のシリコン結晶が得られる。一般に、無欠陥のシリコン結晶が得られる引き上げ速度vの幅(マージン)は極めて狭く、設定引き上げ速度vの±2%以内に制御することが必要となる。
【0006】
図1は、v/Gの値とシリコン結晶内の欠陥分布との関係を示しており、横軸はシリコン結晶の直径方向の位置を示している。図1に示すように、シリコン結晶は、v/Gの値が大きい場合には、COPが検出される結晶領域であるCOP発生領域41に支配され、v/Gの値が小さくなるにつれて、特定の酸化熱処理を施すとリング状のOSF領域として顕在化するOSF潜在核領域42、酸素の析出が起きやすくCOPが検出されない結晶領域である酸素析出促進領域(以下、「P(1)領域」ともいう)43、酸素析出物が存在しCOPが検出されない結晶領域である酸素析出促進領域(以下、「P(2)領域」ともいう)44に支配される。
【0007】
v/Gがさらに小さくなると、酸素の析出が起きにくくCOPが検出されない結晶領域である酸素析出抑制領域(以下、「P領域」ともいう)45、そして侵入型転位クラスターが検出される結晶領域である転位クラスター領域(以下、「L/DL領域」ともいう)46に支配される。
【0008】
v/Gの値に応じて上述のような欠陥分布を示すシリコン結晶を切断して得られたシリコンブロックから採取されるシリコンウェーハにおいて、P(1)領域43、OSF潜在核領域42、P(2)領域44、およびP領域45の結晶領域のいずれか、あるいはそれらの組み合わせからなるシリコン単結晶から採取されるシリコンウェーハは、結晶欠陥の少ない、あるいは結晶欠陥のないシリコンウェーハとなる。
【0009】
一般に、シリコン結晶の引き上げ中に温度勾配Gの値が変化するため、無欠陥結晶のみからなるシリコン結晶を引き上げるためには、vの値を調整する必要がある。そこで、特許文献1では、シリコン結晶の引き上げ速度の実績値をコンピュータに取り込み、結晶引き上げ速度の実績値と目標値との差が所定値以上となった場合は、所定値以上となった位置でシリコン結晶を切断し、Grown-in欠陥のないシリコンブロックを得る技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-99556号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】V.V.Voronkov,J.Crystal Growth,59,625(1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載された結晶引き上げ速度の実績値に基づいて品質を評価する方法では、全体が無欠陥結晶で構成されていると判定された単結晶シリコンブロックであっても、無欠陥結晶ではない領域で構成された部分が存在する場合があり、評価の精度に問題があった。
【0013】
そこで本発明の目的は、単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質を従来よりも高精度に評価することができる単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質評価方法、単結晶シリコンブロックの品質評価プログラム、単結晶シリコンブロックの製造方法およびシリコンウェーハの製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]チョクラルスキー法によって育成された単結晶シリコンインゴットを切断して得られた単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質を評価する方法であって、
前記単結晶シリコンインゴットの育成時の結晶引き上げ速度の実績値を取得する第1工程と、
結晶引き上げ方向に沿って前記単結晶シリコンブロックの酸素濃度を測定する第2工程と、
前記測定された酸素濃度に基づいて、該酸素濃度が測定された位置に対応する前記結晶引き上げ速度を補正する第3工程と、
前記補正された前記結晶引き上げ速度に基づいて前記単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質を評価する第4工程と、
を含むことを特徴とする単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質評価方法。
【0015】
[2]前記第3工程の引き上げ速度の補正は、前記単結晶シリコンブロックの結晶引き上げ方向両端部での酸素濃度間の補間線と前記測定された酸素濃度との差分に基づいて行う、前記[1]に記載の方法。
【0016】
[3]前記第3工程において、補正された前記結晶引き上げ速度は、補正前の結晶引き上げ速度に補正量を加えることにより算出する、前記[1]または[2]に記載の方法。
【0017】
[4]前記第3工程において補正された前記結晶引き上げ速度は、補正前の結晶引き上げ速度をv、補正後の結晶引き上げ速度をv、前記補間線と前記測定された酸素濃度との差分をΔO、aを定数とすると、
=v+a×ΔO (A)
の関係を満たす、前記[2]または[3]に記載の方法。
【0018】
[5]前記第2工程においては、フーリエ変換赤外分光法により酸素濃度の測定を行う、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法。
【0019】
[6]前記第4工程においては、前記補正された結晶引き上げ速度が所定の範囲内にあるか否かに基づいて前記単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質の評価を行う、前記[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。
【0020】
[7]コンピュータに、前記[1]~[6]のいずれか一項に記載の単結晶シリコンブロックの品質評価方法を実行させるための単結晶シリコンブロックの品質評価プログラム。
【0021】
[8]前記[1]~[6]のいずれか一項に記載の単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質評価方法によって良品と判定された単結晶シリコンブロックを得ることを特徴とする単結晶シリコンブロックの製造方法。
【0022】
[9]前記[8]に記載の単結晶シリコンブロックの製造方法によって製造された単結晶シリコンブロックに対してウェーハ加工処理を施してシリコンウェーハを得ることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質を従来よりも高精度に評価することができる。そのため、P(1)領域43、OSF潜在核領域42、P(2)領域44、およびP領域45の結晶領域のいずれか、あるいはそれらの組み合わせからなる、結晶欠陥の少ないあるいは結晶欠陥のないシリコンウェーハを高精度に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】結晶引き上げ方向の温度勾配に対する結晶引上げ速度の比と結晶欠陥分布との関係を説明する図である。
図2】本発明による単結晶シリコンブロックの品質評価方法の一例のフローチャートである。
図3】第3工程における結晶引き上げ速度の補正方法の一例を説明する図である。
図4】発明例に関するデータを示しており、(a)結晶引き上げ速度の実績値、(b)単結晶シリコンブロックの酸素濃度、および(c)補正された結晶引き上げ速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質評価方法)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図2は、本発明による単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質評価方法のフローチャートを示している。本発明による単結晶シリコンブロックの品質評価方法は、チョクラルスキー(Czochralski、CZ)法によって育成された単結晶シリコンインゴットを切断して得られた単結晶シリコンブロックの品質を評価する方法であって、単結晶シリコンインゴットの育成時の結晶引き上げ速度の実績値を取得する第1工程と、結晶引き上げ方向に沿って上記単結晶シリコンブロックの酸素濃度を測定する第2工程と、上記測定された酸素濃度に基づいて、該酸素濃度が測定された位置に対応する結晶引き上げ速度を補正する第3工程と、補正された結晶引き上げ速度に基づいて単結晶シリコンブロックの品質を評価する第4工程と、を含むことを特徴とする。
【0026】
本発明者らは、特許文献1に記載された方法よりも高精度に単結晶シリコンブロックの品質を評価する方法について鋭意検討した。上述のように、特許文献1に記載された方法では、結晶引き上げ速度の実績値に基づいてシリコンブロックの品質を評価している。しかし、無欠陥結晶を得るための指標である臨界v/Gの値は、シリコン結晶の酸素濃度の影響を受けることが知られている(例えば、中村浩三他、「CZシリコン結晶の欠陥におよぼす不純物の効果(B,C,N,O,Sb,As,P)」、59回シリコンテクノロジー分科会(2004)参照)。
【0027】
そこで、本発明者らは、単結晶シリコンインゴットの育成時の結晶引き上げ速度の実績値を結晶の酸素濃度に基づいて補正し、補正した結晶引き上げ速度に基づいてブロックの品質を評価したところ、特許文献1に記載された方法よりも高精度にシリコンブロックの品質を評価できることを見出し、本発明を完成させたのである。以下、各工程について説明する。
【0028】
<第1工程>
まず、第1工程において、評価対象の単結晶シリコンブロックを得た単結晶シリコンインゴットの育成時の結晶引き上げ速度の実績値を取得する。上述のように、単結晶シリコンインゴットの引き上げ時に、結晶欠陥の少ないあるいは結晶欠陥のない結晶を得るべく結晶引き上げ速度を調整しており、結晶引き上げ速度の実績値は、通常、単結晶引き上げ装置に接続された記憶装置に格納されている。そこで、第1工程において、上記記憶装置に格納されている結晶引上げ速度の実績値を取得する。
【0029】
本発明による方法に供する単結晶シリコンブロックは、CZ法によって育成された単結晶シリコンインゴットを切断して得られた単結晶シリコンブロックである。単結晶シリコンブロックの直径は、特に限定されず、例えば150mm以上(例えば、150mm、200mm、300mm、450mm)とすることができる。単結晶シリコンブロックの直径は、所望とするシリコンブロックの直径よりも大きな直径を有するシリコン結晶を育成し、育成したシリコン結晶の外周を研削することによって調整することができる。
【0030】
単結晶シリコンブロックの結晶引き上げ方向の長さについても、特に限定されないが、例えば、100mm以上400mm以下とすることができる。
【0031】
また、単結晶シリコンブロックの導電型についても特に限定されず、仕様に応じて適切なドーパントを用いてn型またはp型とすることができる。ドーパントの濃度についても、使用に応じて適切な値とすることができる。
【0032】
単結晶シリコンブロックの酸素濃度についても、特に限定されず、低酸素(例えば、1×1017atoms/cm以上8×1017atoms/cm以下)、中酸素(例えば、8×1017atoms/cm超11×1017atoms/cm以下)および高酸素(例えば、11×1017atoms/cm超15×1017atoms/cm以下)とすることができる。なお、上記酸素濃度は格子間酸素の濃度であり、ASTMF121-1979に基づく濃度である。
【0033】
なお、ブロックの結晶引き上げ方向の両端部からサンプルウェーハを採取して欠陥や酸素濃度などの品質を予め評価しておき、少なくとも両サンプルが結晶欠陥の少ないあるいは結晶欠陥のない結晶からなるシリコンブロックを本発明の評価方法に供することが好ましい。何故なら、ブロック両端での結晶引き上げ速度結果および酸素濃度結果の組合せが結晶欠陥の少ないあるいは結晶欠陥のない結晶となる条件の構成要素であり、ブロック両端の結晶引き上げ速度および酸素濃度それぞれを線(例えば直線)で結んで補間して求めたブロック間位置の結晶引き上げ速度および酸素濃度が、ブロック間任意の位置での結晶欠陥の少ないあるいは結晶欠陥のない結晶となる条件の構成要素と考えることができるからである。その考え方を基本としてその条件から実際の引き上げ速度の乖離量と酸素濃度との乖離量を求めることによって、結晶欠陥という観点でシリコン単結晶の出来栄えを評価することができる。
【0034】
<第2工程>
次に、第2工程において、結晶引き上げ方向に沿って単結晶シリコンブロックの酸素濃度を測定する。上述のように、シリコン結晶の酸素濃度によって臨界V/Gの値が変動する。そこで、第2工程では、第3工程において結晶引き上げ速度を補正するために、シリコンブロックの酸素濃度を測定する。酸素濃度の測定は、非破壊検査である非接触方式の測定方法により行うことが好ましい。例えば、フーリエ変換赤外分光法(Fourier Transform Infrared Spectroscopy、FT-IR法)により、ブロック状態で結晶長さ方向の酸素濃度を測定する方法を用いることができる。
【0035】
FT-IR法によるブロックの酸素濃度の測定は、結晶引き上げ方向に対応する方向に沿って行う。酸素濃度の測定は連続的に行う必要はないが、酸素濃度が仕様の範囲内にあるか否かを適切に判断できる適切な間隔(例えば、10mm)で行うことが好ましい。
【0036】
<第3工程>
続いて、第3工程において、第2工程において測定されたシリコンブロックの酸素濃度に基づいて、該酸素濃度が測定された位置に対応する結晶引き上げ速度を補正する。具体的には、上記補正は、シリコンブロックの結晶引き上げ方向両端部での酸素濃度間の補間線と第2工程において測定された酸素濃度との差分に基づいて行うことができる。より具体的には、補正前の結晶引き上げ速度に補正量を加えることにより、補正された結晶引き上げ速度を算出することができる。
【0037】
図3は、第3工程で行う結晶引き上げ速度の補正方法の一例を説明する図である。図3に示した例においては、まず、シリコンブロックの結晶引き上げ方向の両端での酸素濃度間に補間線(図3の例においては、直線)を引く。次に、第2工程において測定したシリコンブロック内の酸素濃度と、上記補正線の酸素濃度との差分ΔOを求める。そして、例えば下記の式(A)に基づいて、結晶引き上げ速度を補正することができる。
=v+a×ΔO (A)
ここで、vは補正前の結晶引き上げ速度、vは補正後の結晶引き上げ速度、ΔOは補間線と測定された酸素濃度との差分、aは定数である。この定数aは、シリコンブロック(シリコン結晶)の酸素濃度と臨界V/Gの変化との関係から求めることができる。なお、上記式(A)はΔOの一次式であるが、それに限定されず、実験結果に整合するものであれば指数関数や複次関数で表すこともできる。
【0038】
また、図3に示した例においては、シリコンブロック両端の酸素濃度間の補間線は直線であるが、必ずしも直線とする必要はなく、一方の酸素濃度から他方の酸素濃度に単調に増加または減少する曲線(例えば、指数関数や二次関数)とすることもできる。
【0039】
<第4工程>
最後に、第4工程において、補正された結晶引き上げ速度に基づいて単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質を評価する。これは、具体的には、補正された結晶引き上げ速度が所定の範囲内(例えば、±2%以内)にあるか否かに基づいて単結晶シリコンブロックの品質の評価を行うことができる。上記ずれが所定の範囲内にあれば、評価に供したシリコンブロックが所定の品質基準を満たす良品である判定し、ずれが所定の範囲内になければ、不良品であると判定することができる。
【0040】
こうして、本発明により、従来よりも高精度に単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質を評価することができる。本発明は、特に結晶欠陥の少ない、あるいは結晶欠陥のないシリコンウェーハが得られるシリコン単結晶の製造に好適である。
【0041】
(単結晶シリコンブロックの品質評価プログラム)
本発明による単結晶シリコンブロックの品質評価プログラムは、コンピュータに、上述した本発明による単結晶シリコンブロックの品質評価方法を実行させるためのプログラムである。このプログラムは、コンピュータの記憶部に格納することができ、コンピュータ内のCPUによって、各処理内容を実行するための処理内容を記述したプログラムを、適宜、記憶部から読み込んで各ステップを実行させることができる。
【0042】
また、この処理内容を記述したプログラムを、例えばBlu-ray(登録商標)、DVD、CD-ROMなどの可搬型記録媒体の販売、譲渡、貸与等により流通させることができるほか、そのようなプログラムを、例えばネットワーク上にあるサーバの記憶部に記憶しておき、ネットワークを介してサーバから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、流通させることができる。
【0043】
また、そのようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記録媒体に記録されたプログラムまたはサーバから転送されたプログラムを、一旦、自己の記憶部に記憶することができる。また、このプログラムの別の実施態様として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバからプログラムが転送される度に、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。
【0044】
(単結晶シリコンブロックの製造方法)
本発明による単結晶シリコンブロックの製造方法は、上述した本発明による単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質評価方法によって良品と判定された単結晶シリコンブロックを得ることを特徴とする。
【0045】
上述のように、本発明によれば、単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質を従来に比べて高精度に評価することができる。従って、単結晶シリコンブロック内部の品質が所定の品質基準を満たすための所定の結晶引き上げ速度の管理範囲を、評価ばらつきを加味した過剰な設定にする必要がなくなる。ここで、所定の品質基準は、品質仕様によって異なるため一意に決定することはできないが、例えば全体が無欠陥結晶で構成され、かつ低酸素濃度のブロックである。
【0046】
(シリコンウェーハの製造方法)
本発明によるシリコンウェーハの製造方法は、上述した本発明による単結晶シリコンブロックの製造方法によって製造された単結晶シリコンブロックに対してウェーハ加工処理を施して、複数枚のシリコンウェーハを得ることを特徴とする。
【0047】
上述した本発明による単結晶シリコンブロックの製造方法によって、単結晶シリコンブロック内部の品質が所定の品質基準を満たすための所定の結晶引き上げ速度の管理範囲を、評価ばらつきを加味した過剰な設定にする必要がなくなるため、従来所定の品質基準を満たしているにもかかわらず不良としていた部分が存在する割合が従来よりも低減されたブロックを得ることができる。よって、上記ブロックに対してウェーハ加工処理を施して得られるシリコンウェーハの収率を従来よりも改善することができる。
ウェーハ加工処理は、外周研削工程、ワイヤーソー工程、ラッピング工程、面取り工程、エッチング工程、熱処理工程、研磨工程、品質検査工程など、仕様に応じて従来公知の工程で構成することができる。
【実施例
【0048】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0049】
(発明例)
図2に示したフローチャートに従って、単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質を評価した。まず、CZ法によりn型の単結晶シリコンインゴット(直径:約310mm、ドーパント:リン、酸素濃度:8.5~10.0×1017atoms/cm)を育成した。その際、引き上げ中のデータを単結晶引き上げ装置に接続された記憶装置に格納した。得られた単結晶シリコンインゴットのトップ部およびボトム部を切断して除去した後、ワイヤーソーによって直胴部を長さ300mmのシリコンブロックに切断した。上述のように得られたシリコンブロックの各々に対して、外周研削処理を施し、直径301mmに調節した。直径を調整した単結晶シリコンブロックの結晶引き上げ方向両端部からサンプルウェーハ(厚み:1500μm)を採取し、結晶欠陥および酸素濃度を含む品質を評価した。その結果、所定の品質基準を満たすことを確認した。こうして、本発明に供する単結晶シリコンブロックを得た。
【0050】
次に、図2に示したフローチャートに従って、上述のように得られた単結晶シリコンブロックの品質を評価した。まず、単結晶引き上げ装置の記憶部に格納した結晶引き上げ速度の実績値を取得した(第1工程)。シリコンブロックの1つについて得られた結晶引き上げ速度の実績値を図4(a)に示す。次に、シリコンブロックの各々に対して、シリコンブロックの結晶引き上げ方向の酸素濃度を測定した(第2工程)。酸素濃度の測定は、ブロック状態でFT-IR法を用いて結晶引き上げ方向に沿って10mmの間隔で行った。図4(a)にデータを示したシリコンブロックに対する酸素濃度を図4(b)に示す。続いて、測定した酸素濃度に基づいて、上記酸素濃度に対応する位置に対応する結晶引き上げ速度の実績値を補正した(第3工程)。引き上げ速度の補正は、上記式(A)を用いて行い、式中の定数aの値は0.0006とした。図4(a)および(b)にデータを示したブロックに対する補正後の結晶引き上げ速度を図4(c)に示す。
【0051】
図4(a)に示した補正前の結晶引き上げ速度によれば、シリコン結晶の引き上げ中、結晶引き上げ速度は目標値の±2%の範囲内に収まっている。これは、特許文献1に記載された評価方法によれば、得られたシリコンブロックが全て無欠陥結晶で構成されていることを示している。これに対して、図4(c)から、補正された結晶引き上げ速度によれば、シリコン結晶の引き上げ中に結晶引き上げ速度が目標値の-2%(下限値)を下回る箇所があったことが分かる。これは、本発明による評価方法によれば、上記下限値を下回る箇所では、無欠陥結晶が得られていないことを示している。そこで、上記下限値を下回った箇所でシリコンブロックを切断して品質を評価したところ、転位クラスターが形成されていることが分かった。この結果から、本発明の方法によって、単結晶シリコンブロックの品質をより高精度に評価できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、従来よりも高精度で単結晶シリコンブロックの結晶欠陥に関する品質を評価することができるため、半導体ウェーハ製造業において有用である。
【符号の説明】
【0053】
41 COP発生領域
42 OSF潜在核領域
43 酸素析出促進領域
44 酸素析出促進領域
45 酸素析出抑制領域
46 転位クラスター領域
図1
図2
図3
図4