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特許7375747重合体組成物、シアノ基含有重合体の製造方法およびシアノ基含有重合体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】重合体組成物、シアノ基含有重合体の製造方法およびシアノ基含有重合体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20231031BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20231031BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20231031BHJP
   C08K 5/5475 20060101ALN20231031BHJP
   C08K 5/56 20060101ALN20231031BHJP
【FI】
C08L101/02
C08F8/30
C08K5/00
C08K5/5475
C08K5/56
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020516282
(86)(22)【出願日】2019-04-18
(86)【国際出願番号】 JP2019016610
(87)【国際公開番号】W WO2019208380
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2018085256
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100195017
【弁理士】
【氏名又は名称】水間 章子
(72)【発明者】
【氏名】安 祐輔
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-070506(JP,A)
【文献】特表2007-519666(JP,A)
【文献】特表2014-523893(JP,A)
【文献】特表2012-515839(JP,A)
【文献】特表2003-507451(JP,A)
【文献】特開2012-025939(JP,A)
【文献】Catalytic reversible alkene-nitrile interconversion through controllable transfer hydrocyanation,SCIENCE,VOL 351 ISSUE 6275,p.832-836
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン性二重結合含有重合体と、
下記式(1)
R-C-CN・・・(1)
[式(1)中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香環基、シアノ基、ヒドロキシ基、またはシクロアルキル基を示す。]
で表されるシアノ基含有化合物と、
ニッケル錯体、助触媒としてのルイス酸、及び配位子からなるヒドロシアノ化触媒と、
を含む、重合体組成物。
【請求項2】
前記オレフィン性二重結合含有重合体の重量平均分子量が、1,000以上1,000,000以下である、請求項1に記載の重合体組成物。
【請求項3】
前記シアノ基含有化合物の含有量が、前記オレフィン性二重結合含有重合体に対して、0.05モル%以上200000モル%以下である、請求項1または2に記載の重合体組成物。
【請求項4】
前記式(1)中、前記Rが、置換基を有さないアルキル基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の重合体組成物。
【請求項5】
前記式(1)中、前記Rに含まれる炭素原子の数が30以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の重合体組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の重合体組成物を用いて前記オレフィン性二重結合含有重合体のヒドロシアノ化反応を行う反応工程を含む、シアノ基含有重合体の製造方法。
【請求項7】
前記ヒドロシアノ化反応によって減少する、前記オレフィン性二重結合含有重合体のオレフィン性二重結合の減少率が、0.1モル%以上100モル%以下である、請求項6に記載のシアノ基含有重合体の製造方法。
【請求項8】
前記反応工程を、下記式(2)
R-CH=CH ・・・(2)
[式(2)中、Rは、前記式(1)中のRと同じである。]
で表されるビニル基含有化合物の沸点以上の温度で行う、請求項6または7に記載のシアノ基含有重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体組成物およびそれを用いたシアノ基含有重合体の製造方法、ならびにシアノ基含有重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シアノ基を含有する重合体が、様々な用途に使用されている。そして、シアノ基を含み、且つ、耐候性低下や弾性低下等の原因になり得るオレフィン性二重結合の量が低減されたゴム材料の製造方法として、例えば特許文献1では、共役ジエンおよび(メタ)アクリロニトリルを必須成分とするニトリル基含有の共重合体の炭素-炭素二重結合を、特定の触媒の存在下で選択的に水素化する方法が提案されている。
【0003】
また、非特許文献1では、パラジウム触媒の存在下、エチレンとアクリロニトリルとを共重合することにより、シアノ基を含み、且つ、オレフィン性二重結合を含まない共重合体を得る方法が提案されている。
【0004】
また、オレフィン性二重結合を有する化合物をヒドロシアノ化してシアノ基を導入する技術に関して、特許文献2では、2種のルイス酸促進剤の存在下、ゼロ価ニッケルにより触媒されたペンテンニトリルの接触ヒドロシアノ化により、アジポニトリル(ナイロン6,6の合成中間体)を得る方法が提案されている。
【0005】
また、非特許文献2においては、アルキルニトリルを用いてオレフィン類をヒドロシアノ化する方法として、オレフィン類およびブチロニトリルをニッケル触媒の存在下反応させて、オレフィン類をヒドロシアノ化する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平01-045402号公報
【文献】特開平02-006451号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】K.Nozaki et al.、「Formation of linear copolymers of ethylene and acrylonitrile catalyzed by phosphine sulfonate palladium complexes」、Journal of the American Chemical Society 2007年、129巻、8948~8949頁
【文献】Morandi et al.、「Catalytic reversible alkene-nitrile interconversion through controllable transfer hydrocyanation」、Science、2016年2月19日、第351巻、第6275号、832~836頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法では、水素添加反応を行う際に、高圧の水素を使用しなければならないため、耐圧性の反応容器が必要という制約がある。
また、非特許文献1の方法では、高分子量の重合体を得ることは難しい。
更に、特許文献2に記載の方法は、毒性の高いシアン化水素を使用しなければならない点で問題である。
そして、特許文献2および非特許文献2の方法は、低分子化合物のヒドロシアノ化に関する技術であり、特許文献2および非特許文献2では重合体のヒドロシアノ化に関しては何らの示唆もされていない。
そのため、オレフィン性二重結合の量を低減させつつシアノ基を重合体に効率的に導入して、シアノ基含有重合体を簡便に製造する方法が求められていた。
【0009】
そこで、本発明は、オレフィン性二重結合の量を低減させつつシアノ基を重合体に効率的に導入して、シアノ基含有重合体を簡便に製造することを可能にする技術、および、オレフィン性二重結合の量が低減されたシアノ基含有重合体を含む組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、ポリブタジエンなどのオレフィン性二重結合含有重合体をヒドロシアノ化すれば、オレフィン性二重結合の量を低減させつつ、シアノ基が導入された重合体が得られることに着想した。そこで、本発明者は更に検討を重ね、ヒドロシアノ化触媒の存在下、オレフィン性二重結合含有重合体と、所定のシアノ基含有化合物とを反応させると、オレフィン性二重結合含有重合体のオレフィン性二重結合が選択的にヒドロシアノ化されて、オレフィン性二重結合の量を低減させつつ、シアノ基を重合体に効率的に導入できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の重合体組成物は、オレフィン性二重結合含有重合体と、下記式(1)
R-C-CN・・・(1)
[式(1)中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香環基、シアノ基、ヒドロキシ基、またはシクロアルキル基を示す。]
で表されるシアノ基含有化合物と、ヒドロシアノ化触媒と、を含むことを特徴とする。このような成分を含む本発明の重合体組成物によれば、オレフィン性二重結合含有重合体をヒドロシアノ化し、オレフィン性二重結合の量を低減させつつシアノ基を重合体に効率的に導入して、シアノ基含有重合体を簡便に製造することができる。
【0012】
ここで、本発明の重合体組成物は、前記オレフィン性二重結合含有重合体の重量平均分子量が、1,000以上1,000,000以下であることが好ましい。オレフィン性二重結合含有重量体の重量平均分子量が上記範囲内であれば、オレフィン性二重結合含有重合体に起因したゲル化等の副反応を抑制できるため、シアノ基含有重合体を効率的に製造することができる。
【0013】
また、本発明の重合体組成物において、前記シアノ基含有化合物の含有量が、前記オレフィン性二重結合含有重合体に対して、0.05モル%以上200000モル%以下であることが好ましい。重合体組成物中のシアノ基含有化合物の含有量が上記範囲内であれば、本発明の重合体組成物を用いて、シアノ基含有重合体をより効率的に製造することができる。
【0014】
そして、本発明の重合体組成物において、前記式(1)中、前記Rが、置換基を有さないアルキル基であることが好ましい。式(1)中のRが、置換基を有さないアルキル基であれば、本発明の重合体組成物を用いて、シアノ基含有重合体を更に効率的に製造することができる。
【0015】
また、本発明の重合体組成物において、前記式(1)中、前記Rに含まれる炭素原子の数が30以下であることが好ましい。式(1)中、Rに含まれる炭素原子の数が30以下であれば、本発明の重合体組成物を用いてシアノ基含有重合体を製造する際に、シアノ基含有重合体の収率を向上させることができる。
【0016】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のシアノ基含有重合体の製造方法は、本発明の重合体組成物を用いて前記オレフィン性二重結合含有重合体のヒドロシアノ化反応を行う反応工程を含むことを特徴とする。本発明の重合体組成物を用いてオレフィン性二重結合含有重合体のヒドロシアノ化反応を行う反応工程を含むことで、オレフィン性二重結合の量を低減させつつシアノ基を重合体に効率的に導入して、シアノ基含有重合体を簡便に製造することができる。
【0017】
また、本発明のシアノ基含有重合体の製造方法において、前記ヒドロシアノ化反応によって減少する、前記オレフィン性二重結合含有重合体のオレフィン性二重結合の減少率が、0.1モル%以上100モル%以下であることが好ましい。ヒドロシアノ化反応によって減少する、オレフィン性二重結合の減少率が上記範囲内であれば、オレフィン性二重結合の量が好適に低減されたシアノ基含有重合体を提供することができる。
【0018】
そして、本発明のシアノ基含有重合体の製造方法では、前記反応工程を、下記式(2)
R-CH=CH ・・・(2)
[式(2)中、Rは、前記式(1)中のRと同じである。]
で表されるビニル基含有化合物の沸点以上の温度で行うことが好ましい。反応工程を式(2)で表されるビニル基含有化合物の沸点以上の温度で行うことで、ヒドロシアノ化反応が進行し易くなる。
【0019】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のシアノ基含有重合体組成物は、シアノ基含有重合体と、ヒドロシアノ化触媒とを含むことを特徴とする。本発明の重合体組成物を用いて上述したヒドロシアノ化反応を行うことによりシアノ基含有重合体を製造すれば、このような成分を含むシアノ基含有重合体組成物が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、オレフィン性二重結合の量を低減させつつシアノ基を重合体に効率的に導入して、シアノ基含有重合体を簡便に製造するために用いることができる重合体組成物と、該重合体組成物を用いたシアノ基含有重合体の製造方法を提供することができる。更に、本発明によれば、オレフィン性二重結合の量が低減されたシアノ基含有重合体を含む、シアノ基含有重合体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の重合体組成物は、本発明のシアノ基含有重合体の製造方法において、シアノ基含有重合体を製造するために用いることができる。そして、本発明のシアノ基含有重合体の製造方法は、本発明の重合体組成物を用いることで、オレフィン性二重結合の量を低減させつつシアノ基を重合体に効率的に導入し、シアノ基含有重合体を簡便に製造する方法である。更に、本発明のシアノ基含有重合体組成物は、オレフィン性二重結合の量が低減されたシアノ基含有重合体を含む組成物であり、例えば、ゴム成形品などを製造する際に好適に使用することができる。
【0022】
(重合体組成物)
本発明の重合体組成物は、オレフィン性二重結合含有重合体と、シアノ基含有化合物と、ヒドロシアノ化触媒とを含み、任意に、溶媒および/またはその他の成分を更に含み得る。
【0023】
<オレフィン性二重結合含有重合体>
本発明の重合体組成物中に含まれるオレフィン性二重結合含有重合体は、ヒドロシアノ化触媒の存在下、シアノ基含有化合物とヒドロシアノ化反応する重合体である。本発明において、オレフィン性二重結合含有重合体は、分子中にオレフィン性二重結合としての炭素-炭素二重結合を有する重合体であれば、特に限定されるものではない。なお、本発明のオレフィン性二重結合含有重合体は、通常、シアノ基を有さないものである。
【0024】
オレフィン性二重結合含有重合体としては、共役ジエン化合物(例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン等)や、非共役ジエン化合物などのオレフィン性二重結合を2つ以上有する化合物由来の単量体単位を含む重合体が挙げられる。具体的には、オレフィン性二重結合含有重合体としては、例えば、ポリブタジエン(PBD)、ポリイソプレン(PIP)、ポリシクロペンテン(PCP)、スチレン-イソプレン-スチレン-ブロック共重合体(SIS)、スチレンブタジエン共重合体(SBD)、アクリル重合体(ACL)、ポリブタジエン-ポリイソプレン共重合体(PBD-PI)、ポリジシクロペンタジエン、ポリノルボルネン等が挙げられ、中でも、PBD、PIP、PCP、SIS、ACLおよびPBD-PIが好ましく、PBD、PCP、SISおよびACLがより好ましい。なお、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0025】
オレフィン性二重結合含有重合体が共役ジエン化合物由来の単量体単位を含む重合体である場合、当該オレフィン性二重結合含有重合体中の1,2-ビニル結合と1,4-ビニル結合の比率は、モル比(1,2-ビニル結合/1,4-ビニル結合)で、通常99/1~1/99であり、95/5~5/95が好ましく、90/10~10/90が特に好ましい。
【0026】
[重量平均分子量(Mw)]
そして、オレフィン性二重結合含有重合体の重量平均分子量(Mw)は、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、3,000以上であることが更に好ましく、5,000以上であることがより一層好ましく、1,000,000以下であることが好ましく、600,000以下であることがより好ましく、500,000以下であることが更に好ましく、400,000以下であることがより一層好ましく、200,000以下であることが特に好ましく、100,000以下であることが最も好ましい。オレフィン性二重結合含有重合体の重量平均分子量が上記範囲内であれば、オレフィン性二重結合含有重合体に起因したゲル化等の副反応をより抑制できるため、シアノ基含有重合体をより効率的に製造することができる。また、オレフィン性二重結合含有重合体の重量平均分子量が上記上限値以下であれば、オレフィン性二重結合の量を効率的に低減させることができる。なお、本発明において、オレフィン性二重結合含有重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0027】
[分子量分布]
そして、オレフィン性二重結合含有重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、1以上であることが好ましく、10以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることが更に好ましく、2以下であることが特に好ましい。オレフィン性二重結合含有重合体の分子量分布が上記範囲内であれば、オレフィン性二重結合含有重合体によるゲル化等の副反応を更に抑制できるため、シアノ基含有重合体を更に効率的に製造することができる。なお、本発明において、分子量分布は、オレフィン性二重結合含有重合体の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比を指す。また、オレフィン性二重結合含有重合体の数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0028】
[オレフィン性二重結合含有重合体の製造方法]
本発明の重合体組成物中に含まれるオレフィン性二重結合含有重合体は、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法等の従来公知の方法により製造することができる。また、オレフィン性二重結合含有重合体として、市販品を用いてもよい。なお、本発明で用いるオレフィン性二重結合含有重合体は、通常、水素化されたものではない。
【0029】
[オレフィン性二重結合含有重合体の含有量]
そして、本発明の重合体組成物中、オレフィン性二重結合含有重合体の含有量は、重合体組成物中の全固形分100質量%に対して1質量%以上100質量%以下であることが好ましい。重合体組成物中のオレフィン性二重結合含有重合体の含有量が上記下限値以上であれば、本発明の重合体組成物を用いてシアノ基含有重合体を製造する際に、ヒドロシアノ化反応が好適に進行する。一方、重合体組成物中のオレフィン性二重結合含有重合体の含有量が上記上限値以下であれば、本発明の重合体組成物を用いてシアノ基含有重合体を製造する際に、ヒドロシアノ化反応後の触媒残渣を容易に除去することができる。
【0030】
<シアノ基含有化合物>
本発明の重合体組成物中に含まれるシアノ基含有化合物は、ヒドロシアノ化触媒の存在下、上述したオレフィン性二重結合含有重合体とヒドロシアノ化反応する化合物であり、下記式(1)で表される。
R-C-CN・・・(1)
【0031】
そして、上記シアノ基含有化合物は、オレフィン性二重結合含有重合体が有するオレフィン性二重結合をヒドロシアノ化し、下記式(2)で表されるビニル基含有化合物を生成する。
R-CH=CH ・・・(2)
【0032】
ここで、上記式(1)および式(2)中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香環基、シアノ基、ヒドロキシ基、またはシクロアルキル基を示す。
【0033】
そして、置換基を有していてもよいアルキル基のアルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基等が挙げられる。
【0034】
また、置換基を有していてもよい芳香環基の芳香環基としては、芳香族炭化水素環基、または、芳香族複素環基が挙げられる。
【0035】
そして、芳香族炭化水素環基としては、例えば、ベンゼン環基、ナフタレン環基、アントラセン環基、フェナントレン環基、ピレン環基、フルオレン環基等が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果がより得られやすい点で、ベンゼン環基、ナフタレン環基、アントラセン環基、フルオレン環基が好ましく、ベンゼン環基、ナフタレン環基がより好ましい。
【0036】
更に、芳香族複素環基としては、例えば、1H-イソインドール-1,3(2H)-ジオン環基、1-ベンゾフラン環基、2-ベンゾフラン環基、アクリジン環基、イソキノリン環基、イミダゾール環基、インドール環基、オキサジアゾール環基、オキサゾール環基、オキサゾロピラジン環基、オキサゾロピリジン環基、オキサゾロピリダジル環基、オキサゾロピリミジン環基、キナゾリン環基、キノキサリン環基、キノリン環基、シンノリン環基、チアジアゾール環基、チアゾール環基、チアゾロピラジン環基、チアゾロピリジン環基、チアゾロピリダジン環基、チアゾロピリミジン環基、チオフェン環基、トリアジン環基、トリアゾール環基、ナフチリジン環基、ピラジン環基、ピラゾール環基、ピラノン環基、ピラン環基、ピリジン環基、ピリダジン環基、ピリミジン環基、ピロール環基、フェナントリジン環基、フタラジン環基、フラン環基、ベンゾ[b]チオフェン環基、ベンゾ[c]チオフェン環基、ベンゾイソオキサゾール環基、ベンゾイソチアゾール環基、ベンゾイミダゾール環基、ベンゾオキサジアゾール環基、ベンゾオキサゾール環基、ベンゾチアジアゾール環基、ベンゾチアゾール環基、ベンゾチオフェン環基、ベンゾトリアジン環基、ベンゾトリアゾール環基、ベンゾピラゾール環基、ペンゾピラノン環基、キサンテン環基等が挙げられる。
【0037】
これらの中でも、芳香族複素環基としては、フラン環基、ピラン環基、チオフェン環基、オキサゾール環基、オキサジアゾール環基、チアゾール環基、チアジアゾール環基等の単環の芳香族複素環基;および、ベンゾチアゾール環基、ベンゾオキサゾール環基、キノリン環基、1-ベンゾフラン環基、2-ベンゾフラン環基、ベンゾ[b]チオフェン環基、1H-イソインドール-1,3(2H)-ジオン環基、ベンゾ[c]チオフェン環基、チアゾロピリジン環基、チアゾロピラジン環基、ベンゾイソオキサゾール環基、ベンゾオキサジアゾール環基、ベンゾチアジアゾール環基、キサンテン環基等の縮合環の芳香族複素環基;が好ましい。
【0038】
そして、置換基を有していてもよいアルキル基、または置換基を有していてもよい芳香環基の置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;シアノ基;メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~6のアルキル基;ビニル基、アリル基等の炭素数2~6のアルケニル基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の少なくとも1つの水素原子がハロゲンで置換された炭素数1~6アルキル基;ジメチルアミノ基等の炭素数2~12のN,N-ジアルキルアミノ基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;ニトロ基;フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~20の芳香族炭化水素環基;-OCF;-C(=O)-R;-C(=O)-O-R;-O-C(=O)-R;および-SO;等が挙げられる。ここで、Rは、(i)置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、(ii)置換基を有していてもよい炭素数2~20のアルケニル基、(iii)置換基を有していてもよい炭素数3~12のシクロアルキル基、または、(iv)置換基を有していてもよい炭素数5~12の芳香族炭化水素環基を表す。また、Rは、メチル基、エチル基等の炭素数1~6のアルキル基;または、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基等の、炭素数1~6のアルキル基若しくは炭素数1~6のアルコキシ基を置換基として有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素環基を表す。
【0039】
ここで、本発明の重合体組成物を用いてシアノ基含有重合体を効率的に製造できる観点から、上記式(1)および式(2)中、Rは、置換基を有さないアルキル基であることが好ましい。
【0040】
本発明において上記式(1)で表されるシアノ基含有化合物としては、具体的には、例えば、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ペンタニトリル、3-フェニルプロピオニトリル、デカンニトリル等のアルキルニトリルが挙げられる。これらの中でも、本発明の重合体組成物を用いてシアノ基含有重合体を製造する際に、上記(1)で表されるシアノ基含有化合物の溶媒への溶解性を向上させることでシアノ基含有重合体の生産性を向上させる観点から、上記式(1)で表されるシアノ基含有化合物は、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ペンタニトリルであることが好ましく、ブチロニトリルであることがより好ましい。
【0041】
ここで、上記式(1)で表されるシアノ基含有化合物において、式(1)中、Rに含まれる炭素原子の数は、30以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であることが更に好ましい。Rに含まれる炭素原子の数が30以下であれば、オレフィン性二重結合含有重合体と、式(1)で表されるシアノ基含有化合物とのヒドロシアノ化反応によって生成する、下記式(2)
R-CH=CH ・・・(2)
[式(2)中、Rは、前記式(1)中のRと同じである。]
で表されるビニル基含有化合物が揮発して反応系外に排出され易くなる。そのため、平衡反応であるヒドロシアノ化反応を進行し易くして、シアノ基含有重合体の収率を向上させることができる。なお、上記Rが置換基を有する場合には、上記Rに含まれる炭素原子の数は、置換基の炭素原子を含めた数である。
【0042】
[シアノ基含有化合物の製造方法]
ここで、シアノ基含有化合物の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法により製造することができる。また、シアノ基含有化合物として、市販品を用いてもよい。
【0043】
[シアノ基含有化合物の含有量]
そして、本発明の重合体組成物中、上記式(1)で表されるシアノ基含有化合物の含有量は、オレフィン性二重結合含有重合体100モル%に対して、0.05モル%以上であることが好ましく、0.2モル%以上であることがより好ましく、0.5モル%以上であることが更に好ましく、200000モル%以下であることが好ましく、10000モル%以下であることがより好ましく、5000モル%以下であることが更に好ましく、1000モル%以下であることがより一層好ましく、100モル%以下であることが特に好ましく、25モル%以下であることが最も好ましい。重合体組成物中、上記式(1)で表されるシアノ基含有化合物の含有量が上記範囲内であれば、本発明の重合体組成物を用いたシアノ基含有重合体の製造方法において、ヒドロシアノ化反応が好適に進行する。
【0044】
<ヒドロシアノ化触媒>
本発明の重合体組成物中に含まれるヒドロシアノ化触媒は、オレフィン性二重結合含有重合体と、上記式(1)で表されるシアノ基含有化合物とのヒドロシアノ化反応において、触媒として機能するものであれば限定されない。ヒドロシアノ化触媒としては、例えば、ニッケル錯体と、助触媒と、配位子とを用いることができる。
【0045】
[ニッケル錯体]
ここで、ニッケル錯体としては、例えば、塩化ニッケル(II)、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケル(II)ジクロリド、[1,2-ビス(ジフェニルホスィノ)エタン]ニッケル(II)ジクロリド、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)、ビス(2,4-ペンタンジオナト)ニッケル(II)水和物、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル等が挙げられる。これらの中でも、本発明の重合体組成物を用いたシアノ基含有重合体の製造方法において、ヒドロシアノ化反応を好適に行える観点からは、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルが好ましい。
【0046】
-ニッケル錯体の含有量-
ここで、重合体組成物中、ニッケル錯体の含有量は、オレフィン性二重結合含有重合体100モル%に対して、0.01モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがより好ましく、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。重合体組成物中のニッケル錯体の含有量が上記範囲内であれば、本発明の重合体組成物を用いたシアノ基含有重合体の製造方法において、ヒドロシアノ化反応がより好適に進行する。
【0047】
[助触媒]
また、助触媒としては、例えば、トリクロロアルミニウム、トリブロモアルミニウム、ジクロロメチルアルミニウム、ジクロロエチルアルミニウム、ジエチルクロロアルミニウム、ジメチルクロロアルミニウム等のルイス酸が挙げられる。これらの中でも、本発明の重合体組成物を用いたシアノ基含有重合体の製造方法において、ヒドロシアノ化触媒の触媒機能が好適に発揮される観点からは、ジメチルクロロアルミニウムが好ましい。
【0048】
-助触媒の含有量-
また、重合体組成物中、助触媒の含有量は、オレフィン性二重結合含有重合体100モル%に対して、0.01モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがより好ましく、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。重合体組成物中の助触媒の含有量が上記範囲内であれば、本発明の重合体組成物を用いたシアノ基含有重合体の製造方法において、ヒドロシアノ化触媒の触媒機能がより好適に発揮される。
【0049】
[配位子]
そして、配位子としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリパラフルオロフェニルホスフィン、トリパラトリフルオロメチルフェニルホスフィン、トリパラメトキシフェニルホスフィン、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル等が挙げられる。これらの中でも、本発明の重合体組成物を用いたシアノ基含有重合体の製造方法において、ヒドロシアノ化触媒の触媒機能が更に好適に発揮される観点からは、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルが好ましい。
【0050】
-配位子の含有量-
そして、重合体組成物中、配位子の含有量は、オレフィン性二重結合含有重合体100モル%に対して、0.01モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがより好ましく、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。重合体組成物中の配位子の含有量が上記範囲内であれば、本発明の重合体組成物を用いたシアノ基含有重合体の製造方法において、ヒドロシアノ化触媒の触媒機能がより一層好適に発揮される。
【0051】
[溶媒]
更に、本発明の重合体組成物が任意に含み得る溶媒としては、特に限定されることなく、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン、シクロトルエン等が挙げられる。これらの中でも、本発明の重合体組成物を用いたシアノ基含有重合体の製造方法において、上記式(1)で表されるシアノ基含有化合物の溶媒への溶解性を向上させることで、シアノ基含有重合体の生産性を高める観点からは、溶媒として、トルエン、キシレン、ベンゼンが好ましく、トルエンがより好ましい。本発明の重合体組成物は、これらの溶媒のうち1種類を単独で含んでいてもよいし、2種類以上を含んでいてもよい。
【0052】
-溶媒の含有量-
そして、重合体組成物中に含まれ得る溶媒の含有量は、オレフィン性二重結合含有重合体100質量部に対して50質量部以上2000質量部以下であることが好ましい。重合体組成物中の溶媒の含有量が上記範囲内であれば、オレフィン性二重結合含有重合体に起因したゲル化等の副反応を十分に抑制できるため、シアノ基含有重合体を極めて効率的に製造することができる。
【0053】
[その他の成分]
また、重合体組成物中に任意に含まれ得るその他の成分としては、特に限定されることなく、例えば、上述したヒドロシアノ化触媒以外の他の触媒等が挙げられる。その他の成分は、本発明の効果を損なわない範囲で含み得る。
【0054】
<重合体組成物の調製方法>
本発明の重合体組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、上述した各成分を既知の方法により混合することで、重合体組成物を調製することができる。
【0055】
そして、本発明の重合体組成物は、シアノ基含有重合体を製造するために好適に用いることができる。そこで、以下では、本発明の重合体組成物を用いたシアノ基含有重合体の製造方法について説明するが、本発明の重合体組成物の用途は、以下の一例に限定されるものではない。
【0056】
<シアノ基含有重合体の製造方法>
本発明のシアノ基含有重合体の製造方法は、本発明の重合体組成物を用いてオレフィン性二重結合含有重合体のヒドロシアノ化反応を行う反応工程を含み、任意に、回収工程を含み得る。
【0057】
<反応工程>
本発明のシアノ基含有重合体の製造方法において、反応工程では、本発明の重合体組成物を用いて、オレフィン性二重結合含有重合体のヒドロシアノ化反応を行う。
【0058】
[ヒドロシアノ化反応]
反応工程で行うヒドロシアノ化反応は、本発明の重合体組成物に含まれるヒドロシアノ化触媒を触媒として、重合体組成物中のオレフィン性二重結合含有重合体と、上述した式(1)で表されるシアノ基含有化合物とを反応させる。このヒドロシアノ化反応により、オレフィン性二重結合含有重合体のオレフィン性二重結合は選択的にヒドロシアノ化されて、シアノ基が重合体に効率的に導入されたシアノ基含有重合体と、下記式(2)で表されるビニル基含有化合物とが得られる。
【0059】
R-CH=CH ・・・(2)
式(2)中、Rは、上述した式(1)中のRと同じであることから、ここでの説明は省略する。
【0060】
ここで、上記シアノ基含有重合体としては、例えば、以下の式(4)または式(5)で示されるものが挙げられる。
【0061】
【化1】
【0062】
上記式(4)中、Phはフェニル基を示し、rはランダムを示し、m,n,oおよびpはそれぞれ繰り返し数を示す。
また、上記式(5)中、Buはブタジエンを示し、rはランダムを示し、m,n,oおよびpはそれぞれ繰り返し数を示す。
【0063】
-反応温度-
そして、反応工程における反応温度は、20℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが更に好ましく、例えば、110℃程度とすることができる。反応温度が上記下限値以上であれば、反応工程においてヒドロシアノ化反応を十分に行うことができる。一方、反応温度が上記上限値以下であれば、反応工程においてオレフィン性二重結合含有重合体や上記式(1)で表されるシアノ基含有化合物の分解およびゲル化を十分に抑制することができる。
【0064】
ここで、上記反応工程は、上記式(2)で表されるビニル基含有化合物の沸点以上の温度で行うことが好ましい。なぜなら、ヒドロシアノ化反応は平衡反応であるため、反応温度を上記式(2)で表されるビニル基含有化合物の沸点以上の温度とすれば、ビニル基含有化合物が揮発して反応系外に排出されることにより、ヒドロシアノ化反応が進行し易くなるからである。
【0065】
-反応時間-
また、反応工程における反応時間は、1分以上であることが好ましく、5分以上であることがより好ましく、48時間以下であることが好ましく、24時間以下であることがより好ましく、例えば、30分程度とすることができる。反応時間が上記下限値以上であれば、反応工程においてヒドロシアノ化反応を十分に行うことができる。一方、反応時間が上記上限値以下であれば、シアノ基含有重合体の製造に要する時間を低減し、プロセス性を高めることができる。
【0066】
[オレフィン性二重結合の減少率]
そして、上記ヒドロシアノ化反応によって減少する、オレフィン性二重結合含有重合体のオレフィン性二重結合の減少率は、0.1モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、通常は100モル%以下であることが好ましい。オレフィン性二重結合の減少率が上記範囲内であれば、本発明のシアノ基含有重合体の製造方法によって、オレフィン性二重結合の量が低減されたシアノ基含有重合体を効率的に得ることができる。なお、オレフィン性二重結合の減少率は、本明細書の実施例に記載の方法によって求めることができる。
【0067】
[ヒドロシアノ化率]
また、本発明のシアノ基含有重合体の製造方法によって得られるシアノ基含有重合体は、ヒドロシアノ化率が0.1%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、通常は100%以下であることが好ましい。ヒドロシアノ化率が上記範囲内であれば、本発明のシアノ基含有重合体の製造方法によって、オレフィン性二重結合の量が低減されたシアノ基含有重合体を効率的に得ることができる。なお、ヒドロシアノ化率は、本明細書の実施例に記載の方法によって求めることができる。
【0068】
<回収工程>
そして、本発明のシアノ基含有重合体の製造方法が任意に含み得る回収工程では、上記反応工程後に得られたシアノ基含有重合体を回収する。シアノ基含有重合体の回収方法は、特に限定されることなく、例えば、反応工程の後に得られた反応溶液をメタノール等の貧溶媒中に滴下してシアノ基含有重合体を凝固させ、ろ過などの固液分離手段を用いて凝固したシアノ基含有重合体を分離することにより、回収することができる。
【0069】
[シアノ基含有重合体の重量平均分子量]
本発明の製造方法によって得られるシアノ基含有重合体の重量平均分子量は、1000以上であることが好ましく、30,000以上であることがより好ましく、50,000以上であることが更に好ましく、500,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましい。シアノ基含有重合体の重量平均分子量が上記範囲内であれば、本発明のシアノ基含有重合体の製造方法によって得られるシアノ基含有重合体を、例えばゴム成形品などを製造する際に好適に使用することができる。
【0070】
[分子量分布]
そして、本発明の製造方法によって得られるシアノ基含有重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.0以上であることが好ましく、4.0以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましい。シアノ基含有重合体の分子量分布が上記範囲内であれば、本発明の製造方法によって得られるシアノ基含有重合体を、例えば、ゴム成形品などを製造する際に更に好適に使用することができる。
【0071】
なお、本発明の製造方法によって得られるシアノ基含有重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィーを使用して測定することができる。
【0072】
[ガラス転移温度]
そして、本発明の製造方法によって得られるシアノ基含有重合体は、ガラス転移温度が-150℃以上であることが好ましく、-50℃以上であることがより好ましく、-10℃以上であることが更に好ましく、50℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましい。シアノ基含有重合体のガラス転移温度が上記範囲内であれば、得られるシアノ基含有重合体を、例えばゴム成形品などを製造する際により一層好適に使用することができる。なお、ガラス転移温度は、本明細書の実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0073】
<シアノ基含有重合体組成物>
そして、本発明のシアノ基含有重合体組成物は、シアノ基含有重合体と、ヒドロシアノ化触媒とを含み、任意に溶媒および/またはその他の成分を更に含む。
【0074】
ここで、シアノ基含有重合体組成物中に含まれるシアノ基含有重合体は、シアノ基を有し、任意に、オレフィン性二重結合を更に有するものである。なお、シアノ基含有重合体組成物中に含まれるシアノ基含有重合体の重量平均分子量等のシアノ基含有重合体の性状は、本発明のシアノ基含有重合体の製造方法によって得られるシアノ基含有重合体の性状と同様とすることができる。
【0075】
更に、シアノ基含有重合体組成物中に任意で含まれる溶媒および/またはその他の成分としては、本発明の重合体組成物中に任意で含まれる溶媒やその他の成分と同様のものの他、下記式(3)で表されるビニル基含有化合物が挙げられる。
R-CH=CH ・・・(3)
【0076】
なお、式(3)中、Rは、前記式(1)中のRと同じであることから、ここでの説明は省略する。
【0077】
そして、シアノ基含有重合体組成物は、本発明の重合体組成物をヒドロシアノ化反応させることにより、得ることができる。即ち、本発明のシアノ基含有重合体の製造方法によって得られる反応混合物を、そのまま、シアノ基含有重合体組成物として用いることができる。
【0078】
なお、本発明のシアノ基含有重合体組成物において、シアノ基含有重合体組成物中の全固形分100%に対するシアノ基含有重合体の割合は、0.1モル%以上100モル%以下であることが好ましい。シアノ基含有重合体組成物中の全固形分に対するシアノ基含有重合体の割合が上記範囲内であれば、本発明のシアノ基含有重合体組成物を用いて、例えばゴム成形品などを効率的に製造することができる。
【0079】
また、本発明のシアノ基含有重合体組成物において、シアノ基含有重合体組成物中の全固形分100%に対するヒドロシアノ化触媒(ニッケル錯体と、助触媒と、配位子との合計量)の割合は、0.005モル%以上10モル%以下であることが好ましい。シアノ基含有重合体組成物中の全固形分に対するヒドロシアノ化触媒の割合が上記範囲内であれば、本発明のシアノ基含有重合体組成物を用いてゴム成形品などを製造した際に、製造後に残存するヒドロシアノ化触媒の除去が容易となる。
【0080】
更に、本発明のシアノ基含有重合体組成物において、シアノ基含有重合体組成物中の全固形分100%に対するビニル基含有化合物の割合は、0.1モル%以上99モル%以下であることが好ましい。シアノ基含有重合体組成物中の全固形分に対するビニル基含有化合物の割合が上記範囲内であれば、本発明のシアノ基含有重合体組成物を用いてゴム成形品などを製造した後に、製造後に残存するビニル基含有化合物の除去および官能基化による機能化が容易となる。
【実施例
【0081】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、オレフィン性二重結合の割合、オレフィン性二重結合の減少率、ヒドロシアノ化率、重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布、ガラス転移温度、および反応効率は、それぞれ以下の方法を使用して測定または評価した。
【0082】
<オレフィン性二重結合の割合>
各実施例および各比較例で行う反応前後における重合体のNMRを測定した。そして、反応前の重合体のオレフィン性二重結合由来のNMRピーク値と、反応後の重合体のオレフィン性二重結合由来のNMRピーク値とから、反応前の重合体中のオレフィン性二重結合の割合を100%としたときの、反応後の重合体中のオレフィン性二重結合の割合を求めた。オレフィン性二重結合の割合が少ないほど、反応後に重合体中に残存するオレフィン性二重結合の量が少ないことを示す。
【0083】
<オレフィン性二重結合の減少率>
オレフィン性二重結合の減少率は、反応後の粗生成物を重クロロホルムに溶解させHNMRを測定し、ビニル領域のシグナルの積分値と脂肪族領域のシグナルの積分値の比率から算出した。
【0084】
<ヒドロシアノ化率>
各実施例および各比較例で行う反応前のオレフィン性二重結合含有重合体のオレフィン性二重結合由来のNMRピーク値と、反応後に得られた重合体のオレフィン性二重結合由来のNMRピーク値との差を百分率で示したものを、ヒドロシアノ化率とした。
【0085】
<重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布>
ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を測定し、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
その際、測定器としてはHLC-8320(東ソー社製)を用い、カラムはTSKgelα-M(東ソー社製)二本を直列に連結して用い、検出器は示差屈折計RI-8320(東ソー社製)を用いた。そして、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用いて、重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を標準ポリスチレン換算値として求めた。そして、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0086】
<ガラス転移温度(Tg)>
示差走査型熱量計(DSC,日立ハイテクサイエンス社製X-DSC7000)を用いて、-90℃~60℃まで10℃/分で昇温する条件で、反応により得られた重合体のガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0087】
<反応効率の評価>
ヒドロシアノ化率と、オレフィン性二重結合含有重合体の全有機基中に占めるビニル基の割合との差(「ヒドロシアノ化率」-「オレフィン性二重結合含有重合体の全有機基中に占めるビニル基の割合」。なお、オレフィン性二重結合含有重合体がポリブタジエンの場合には、「1,2-ビニル結合」の割合を、「オレフィン性二重結合含有重合体の全有機基中に占めるビニル基の割合」とした。)を反応効率の指標値として用いた。そして、この指標値から、反応効率を以下のように評価した。
A・・・指標値の範囲「0」~「100」
B・・・指標値の範囲が「-40」~「-1」
C・・・指標値の範囲が「-70」~「-41」
D・・・指標値の範囲が「-100」~「-71」
指標値が大きいほど、反応効率が良いことを示す。
【0088】
(実施例1)
窒素雰囲気下、耐圧性のガラス反応容器に、オレフィン性二重結合含有重合体としてのポリブタジエン(1,2-ビニル結合と1,4-ビニル結合との質量比(1,2-ビニル結合/1,4-ビニル結合):90/10、重量平均分子量:5,800、分子量分布:1.31)12.5gと、シアノ基含有化合物として、脱気・脱水したブチロニトリル30mLとを加えた後、ニッケル錯体としてのビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルをポリブタジエン100部に対して0.12部(0.285モル%)と、助触媒としてのジメチルクロロアルミニウム0.23mL(ポリブタジエンに対して0.285モル%)と、配位子としてのビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルをポリブタジエン100部に対して0.24部(0.285モル%)と、を加えた。この混合物を、窒素雰囲気下、120℃で17時間反応させた。反応後に得られた重合体について、オレフィン性二重結合の割合、オレフィン性二重結合の減少率、ヒドロシアノ化率、重量平均分子量、分子量分布およびガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。また、反応生成物中に実施例1で使用したニッケル錯体、助触媒および配位子が含まれていることをHNMRによって確認した。
【0089】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で反応を行った。具体的には、窒素雰囲気下、耐圧性のガラス反応容器に、オレフィン性二重結合含有重合体としてのポリブタジエン(1,2-ビニル結合と1,4-ビニル結合との質量比(1,2-ビニル結合/1,4-ビニル結合):95/5、重量平均分子量:44,500、分子量分布:1.03)0.6g、シアノ基含有化合物として、脱気・脱水したブチロニトリル2mL、および溶媒としてのトルエン20mLを加えた。その後、ニッケル錯体としてのビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルをポリブタジエン100部に対して0.06部(2モル%)と、助触媒としてのジメチルクロロアルミニウム0.22mL(ポリブタジエンに対して2モル%)と、配位子としてのビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルをポリブタジエン100部に対して0.12部(2モル%)と、を加えた。この混合物を、窒素雰囲気下、110℃で30分間反応させた。反応後、得られた重合体について、オレフィン性二重結合の割合、オレフィン性二重結合の減少率、ヒドロシアノ化率、重量平均分子量、分子量分布およびガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。また、反応生成物中に、実施例2で使用したニッケル錯体、助触媒および配位子が含まれていることをHNMRによって確認した。
【0090】
(実施例3)
実施例1と同様の手順で反応を行った。具体的には、窒素雰囲気下、耐圧性のガラス反応容器に、オレフィン性二重結合含有重合体としてのポリブタジエン(1,2-ビニル結合と1,4-ビニル結合との質量比(1,2-ビニル結合/1,4-ビニル結合):96/4、重量平均分子量:120,000、分子量分布:1.10)0.6g、シアノ基含有化合物として、脱気・脱水したブチロニトリル2mL、および溶媒としてのトルエン20mLを加えた。その後、ニッケル錯体としてのビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルをポリブタジエン100部に対して0.06部(2モル%)と、助触媒としてのジメチルクロロアルミニウム0.22mL(ポリブタジエンに対して2モル%)と、配位子としてのビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルをポリブタジエン100部に対して0.12部(2モル%)と、を加えた。この混合物を、窒素雰囲気下、110℃で30分間反応させた。反応後、得られた重合体について、オレフィン性二重結合の割合、オレフィン性二重結合の減少率、ヒドロシアノ化率、重量平均分子量、分子量分布およびガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。また、反応生成物中に、実施例3で使用したニッケル錯体、助触媒および配位子が含まれていることをHNMRによって確認した。
【0091】
(実施例4)
実施例1と同様の手順で反応を行った。具体的には、窒素雰囲気下、耐圧性のガラス反応容器に、オレフィン性二重結合含有重合体としてのポリブタジエン(1,2-ビニル結合と1,4-ビニル結合との質量比(1,2-ビニル結合/1,4-ビニル結合):83/17、重量平均分子量:64,000、分子量分布:1.07)0.8g、シアノ基含有化合物として、脱気・脱水したブチロニトリル2mL、および溶媒としてのトルエン20mLを加えた。その後、ニッケル錯体としてのビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルをポリブタジエン100部に対して0.06部(1.8モル%)と、助触媒としてのジメチルクロロアルミニウム0.22mL(ポリブタジエンに対して1.8モル%)と、配位子としてのビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルをポリブタジエン100部に対して0.12部(1.8モル%)と、を加えた。この混合物を、窒素雰囲気下、110℃で30分間反応させた。反応後、得られた重合体について、オレフィン性二重結合の割合、オレフィン性二重結合の減少率、ヒドロシアノ化率、重量平均分子量、分子量分布およびガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。また、反応生成物中に、実施例4で使用したニッケル触媒、助触媒および配位子が含まれていることをHNMRによって確認した。
【0092】
(実施例5)
実施例1と同様の手順で反応を行った。具体的には、窒素雰囲気下、耐圧性のガラス反応容器に、オレフィン性二重結合含有重合体としてのポリブタジエン(1,2-ビニル結合と1,4-ビニル結合との質量比(1,2-ビニル結合/1,4-ビニル結合):50/50、重量平均分子量:61,000、分子量分布:1.03)0.3g、シアノ基含有化合物として、脱気・脱水したブチロニトリル1mL、および溶媒としてのトルエン10mLを加えた。その後、ニッケル錯体としてのビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルをポリブタジエン100部に対して0.03部(2モル%)と、助触媒としてのジメチルクロロアルミニウム0.11mL(ポリブタジエンに対して2モル%)と、配位子としてのビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルをポリブタジエン100部に対して0.06部(2モル%)と、を加えた。この混合物を、窒素雰囲気下、110℃で30分間反応させた。反応後、得られた重合体について、オレフィン性二重結合の割合、オレフィン性二重結合の減少率、ヒドロシアノ化率、重量平均分子量、分子量分布およびガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。また、反応生成物中に、実施例5で使用したニッケル錯体、助触媒および配位子が含まれていることをHNMRによって確認した。
【0093】
(実施例6)
実施例1と同様の手順で反応を行った。具体的には、窒素雰囲気下、耐圧性のガラス反応容器に、オレフィン性二重結合含有重合体としてのポリシクロペンテン(PCP)(分岐なし、重量平均分子量:500,000、分子量分布:2.00)1gと、シアノ基含有化合物として、脱気・脱水したブチロニトリル8mL、および溶媒としてのトルエン24mLとを加えた。その後、ニッケル錯体としてのビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルをポリシクロペンテン100部に対して0.72部(2モル%)と、助触媒としてのジメチルクロロアルミニウム0.27mL(ポリシクロペンテンに対して2モル%)と、配位子としてのビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルをポリシクロペンテン100部に対して0.14質量部(2モル%)と、を加えた。この混合物を、窒素雰囲気下、110℃で4時間反応させた。反応後、得られた重合体について、オレフィン性二重結合の割合、オレフィン性二重結合の減少率、ヒドロシアノ化率、重量平均分子量、分子量分布およびガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。また、反応生成物中に、実施例6で使用したニッケル錯体、助触媒および配位子が含まれていることをHNMRによって確認した。
【0094】
(実施例7)
実施例1と同様の手順で反応を行った。具体的には、窒素雰囲気下、耐圧性のガラス反応容器に、オレフィン性二重結合含有重合体としてのポリブタジエン(1,2-ビニル結合と1,4-ビニル結合との質量比(1,2-ビニル結合/1,4-ビニル結合):95/5、重量平均分子量:44,500、分子量分布:1.03)0.6g、シアノ基含有化合物として、脱気・脱水した3-フェニルプロピオニトリル2mL、および溶媒としてのトルエン20mLを加えた。その後、ニッケル錯体としてのビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルをポリブタジエン100部に対して0.06部(2モル%)と、助触媒としてのジメチルクロロアルミニウム0.22mL(ポリブタジエンに対して2モル%)と、配位子としてのビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルをポリブタジエン100部に対して0.12質量部(2モル%)と、を加えた。この混合物を、窒素雰囲気下、110℃で30分間反応させた。反応後、得られた重合体について、オレフィン性二重結合の割合、オレフィン性二重結合の減少率、ヒドロシアノ化率、重量平均分子量、分子量分布およびガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。また、反応生成物中に、実施例7で使用したニッケル錯体、助触媒および配位子が含まれていることをHNMRによって確認した。
【0095】
(実施例8)
実施例1と同様の手順で反応を行った。具体的には、窒素雰囲気下、耐圧性のガラス反応容器に、オレフィン性二重結合含有重合体としてのポリブタジエン((1,2-ビニル結合と1,4-ビニル結合との質量比(1,2-ビニル結合/1,4-ビニル結合):95/5、重量平均分子量:44,500、分子量分布:1.03)0.6g、シアノ基含有化合物としてのデカンニトリル2mL、および溶媒としてのトルエン20mLを加えた。その後、ニッケル錯体としてのビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルをポリブタジエン100部に対して0.06部(2モル%)と、助触媒としてのジメチルクロロアルミニウム0.22mL(ポリブタジエンに対して2モル%)と、配位子としてのビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルをポリブタジエン100部に対して0.12部(2モル%)と、を加え、110℃で30分間反応させた。反応後、得られた重合体について、オレフィン性二重結合の割合、オレフィン性二重結合の減少率、ヒドロシアノ化率、重量平均分子量、分子量分布およびガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。また、反応生成物中に、実施例8で使用したニッケル触媒、助触媒および配位子が含まれていることをHNMRによって確認した。
【0096】
(比較例1)
窒素雰囲気下、耐圧性のガラス反応容器に、オレフィン性二重結合含有重合体としてのポリブタジエン(1,2-ビニル結合と1,4-ビニル結合との質量比(1,2-ビニル結合/1,4-ビニル結合):95/5、重量平均分子量:44,500、分子量分布:1.03)0.6g、シアノ基含有化合物としてのアクリロニトリル2mL、および溶媒としてのトルエン20mLを加えた。その後、ニッケル錯体としてのビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルをポリブタジエン100部に対して0.06部(2モル%)と、助触媒としてのジメチルクロロアルミニウム0.22mL(ポリブタジエンに対して2モル%)と、配位子としてのビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルをポリブタジエン100部に対して0.12部(2モル%)と、を加えた。この混合物を、窒素雰囲気下、110℃で17時間反応させた。反応後、得られた重合体について、オレフィン性二重結合の割合、オレフィン性二重結合の減少率、ヒドロシアノ化率、重量平均分子量、分子量分布およびガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1中、「PBD」は、ポリブタジエンを表し、「PCP」はポリシクロペンテンを表し、「Ni(COD)」は、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルを表す。
表1より、シアノ基含有化合物として、本発明で規定する所定のシアノ基含有化合物を使用した実施例1~8では、反応によってオレフィン性二重結合含有重合体中のポリブタジエンまたはポリシクロペンテンのオレフィン性二重結合の量が低減し、反応後に得られた重合体にはシアノ基が導入されていることが分かる。
これに対し、シアノ基含有化合物として、本発明で規定する所定のシアノ基含有化合物に含まれないアクリロニトリルを使用した比較例1では、反応によってオレフィン性二重結合含有重合体としてのポリブタジエンのオレフィン性二重結合の量が低減せず、反応後に得られた重合体にはシアノ基が導入されていないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、オレフィン性二重結合の量を低減させつつシアノ基を重合体に効率的に導入して、シアノ基含有重合体を簡便に製造することを可能にする技術を提供することができる。