(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】ガラス基板、ブラックマトリックス基板及びディスプレイパネル
(51)【国際特許分類】
C03B 18/14 20060101AFI20231031BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20231031BHJP
C03C 17/32 20060101ALI20231031BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20231031BHJP
G02F 1/1333 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C03B18/14
C03C19/00 Z
C03C17/32 B
C03C3/091
G02F1/1333 500
(21)【出願番号】P 2020548241
(86)(22)【出願日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2019033916
(87)【国際公開番号】W WO2020059457
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018173839
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼永 博文
(72)【発明者】
【氏名】小林 大介
(72)【発明者】
【氏名】小野 和孝
(72)【発明者】
【氏名】竹中 敦義
(72)【発明者】
【氏名】前柳 佳孝
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06065309(US,A)
【文献】特開2010-064900(JP,A)
【文献】特開平11-246238(JP,A)
【文献】国際公開第2017/209139(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/021499(WO,A1)
【文献】TAKEDA, Satoshi, 他,Coloration due to colloidal Ag particles formed in float glass,Journal of Non-Crystalline Solids,NL,2000年03月,265,pp.133 - 142
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 18/14
C03C 19/00
C03C 17/32
C03C 3/091
G02F 1/1333
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の主表面と端面とを有する
フロート成形されたガラス基板
(但し、主表面から深さ9.0μm以上の深さにおいてSn原子の濃度に変化がみられる場合を除く。)であって、
主表面から深さ0.1~0.3μmにおけるSn原子濃度をガラス基板表層部のSn原子濃度とし、主表面から深さ9.0~9.2μmにおけるSn原子濃度をガラス基板内部のSn原子濃度として、
少なくとも一方の主表面において、前記ガラス基板表層部のSn原子濃度から前記ガラス基板内部のSn原子濃度を減じて求めた差分が2.0×10
18atomic/cm
3以上、1.4×10
19atomic/cm
3以下であり、
前記少なくとも一方の主表面において、
前記主表面から深さ0.1~0.5μmにおけるSn原子濃度(atomic/cm
3)のデプスプロファイルを線形近似して求めた一次関数の傾きをガラス基板表層部のSn原子濃度勾配としたとき、前記ガラス基板表層部のSn原子濃度勾配は-1.0×10
23atomic/cm
4以上、-1.0×10
22atomic/cm
4以下であるガラス基板。
【請求項2】
酸化物基準のモル%表示で
SiO
2を50~75%、
Al
2O
3を7~25%、
B
2O
3を0.1~12%含有し、
MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が7~25%である、無アルカリガラスからなる、請求項1に記載のガラス基板。
【請求項3】
酸化物基準のモル%表示で
SiO
2を64~72%、
Al
2O
3を9~15%、
B
2O
3を1~9%、
MgOを4~12%、
CaOを3~10%、
SrOを0.5~6%含有し、
MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が10~22%である、無アルカリガラスからなる、請求項2に記載のガラス基板。
【請求項4】
前記無アルカリガラスは、歪点が650℃以上であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10
-7~45×10
-7/℃である、請求項3に記載のガラス基板。
【請求項5】
前記無アルカリガラスは、酸化物基準のモル%表示で、アルカリ金属酸化物の含有量が0.5%以下である、請求項3または4に記載のガラス基板。
【請求項6】
フロート法で製造される請求項1~5のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項7】
前記少なくとも一方の主表面は、研磨して形成された研磨面である、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項8】
前記研磨面は、AFMにより1×1μm角の観察視野かつ256×256のピクセル数で取得したテクスチャ方向インデックスであるStdi値が0.75以下である、請求項7に記載のガラス基板。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のガラス基板における前記主表面の少なくとも一方の面上にブラックマトリックス膜が形成されたブラックマトリックス基板。
【請求項10】
請求項9に記載のブラックマトリックス基板を備えるディスプレイパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板に関する。また、前記ガラス基板表面にブラックマトリックス膜が形成されたブラックマトリックス基板及び前記ブラックマトリックス基板を備えるディスプレイパネルにも関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ若しくは有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用、太陽電池用または有機EL照明用等の基板として、ガラス基板が広く使用されている。これらの用途においては、ガラス基板上に樹脂材料等から構成される膜(以下、樹脂膜ともいう)等の膜を形成し、表示特性等の特性を向上させている。
【0003】
しかしながら、前記膜とガラス基板との相互作用が小さいため密着性が不十分となることがあり、生産工程において局部的に前記膜がガラス基板から剥離することがあり、生産歩留まりの低下、管理の手間や製造コストの増大が問題となっていた。
【0004】
このような問題を解消するために、例えば、樹脂材料とガラス基板との相互作用を改善して密着性を向上するために、ガラス基板に有機官能基を付与する方法、被膜を形成する方法等が用いられている(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2000-221485号公報
【文献】日本国特開2000-302487号公報
【文献】日本国特開2001-192235号公報
【文献】国際公開第2014/163035号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フラットパネルディスプレイの高精細化等に伴い、ガラス基板の表面に形成する膜に対し、より微細なパターン形成等が要求されるようになっており、該膜とガラス基板とのより高い密着性、さらには製造時の管理やコストの負担も抑制できるガラス基板が求められている。
【0007】
したがって、本発明はガラス基板の表面に形成される膜との密着性に優れ、かつ生産効率の高いガラス基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、少なくとも一方の主表面のSn濃度が特定範囲以上であるガラス基板は、ガラス基板の表面に形成する膜との密着性が高く、生産性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一態様は、一対の主表面と端面とを有するガラス基板であって、
主表面から深さ0.1~0.3μmにおけるSn原子濃度をガラス基板表層部のSn原子濃度とし、主表面から深さ9.0~9.2μmにおけるSn原子濃度をガラス基板内部のSn原子濃度として、
少なくとも一方の主表面において、ガラス基板表層部のSn原子濃度からガラス基板内部のSn原子濃度を減じて求める表層拡散Sn原子濃度が2.0×1018atomic/cm3以上、1.4×1019atomic/cm3以下であるガラス基板である。
【0010】
本発明の一態様のガラス基板は、前記少なくとも一方の主表面において、ガラス基板表層部のSn原子濃度勾配が-1.0×1023atomic/cm4以上、-1.0×1022atomic/cm4以下であることが好ましい。ガラス基板表層部のSn原子濃度勾配とは、前記主表面から深さ0.1~0.5μm(0.1×10-4~0.5×10-4cm)におけるSn原子濃度(atomic/cm3)のデプスプロファイルを線形近似して求めた一次関数の傾きをいう。
【0011】
本発明の一態様のガラス基板は、酸化物基準のモル%表示でSiO2を50~75%、Al2O3を7~25%、B2O3を0.1~12%含有し、MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が7~25%である、無アルカリガラスからなることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様のガラス基板は、前記無アルカリガラスについて、歪点が650℃以上であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃であることが好ましい。
【0013】
本発明の一態様のガラス基板は、前記無アルカリガラスについて、酸化物基準のモル%表示で、アルカリ金属酸化物の含有量が0.5%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の一態様のガラス基板はフロート法で製造されることが好ましい。
【0015】
本発明の一態様のガラス基板は、前記少なくとも一方の主表面が、研磨して形成された研磨面であることが好ましい。
【0016】
本発明の一態様のガラス基板は、前記研磨面におけるテクスチャ方向インデックス(Stdi値)が0.75以下であることが好ましい。Stdi値は、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)により1×1μm角の観察視野かつ256×256のピクセル数で取得した形状像を、画像解析ソフト(例えば、イメージメトロジー製SPIP)を用いて、レベリング処理を行い、ラフネス解析を行うことで計算されるパラメータである。
【0017】
本発明の一態様は、前記ガラス基板における前記主表面の少なくとも一方の面上にブラックマトリックス膜が形成されたブラックマトリックス基板である。
【0018】
本発明の一態様は、前記ブラックマトリックス基板を備えるディスプレイパネルである。
【発明の効果】
【0019】
本発明のガラス基板における表層拡散Sn原子はガラス基板の外部から拡散させたSn原子であり、主に2価のSn原子として存在する。本発明のガラス基板は、表層拡散Sn原子濃度が特定範囲以上であることにより、ガラス基板の表層部に2価のSn原子が特定範囲以上存在しており、それにより、該ガラス基板と膜との密着性が向上するものと考えられる。したがって、本発明のガラス基板によれば、ガラス基板と膜との密着性が優れるため、樹脂等の膜をパターニングする場合、より微細なパターンの形成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(a)は、残し解像度とガラス基板内部のSn原子濃度との関係を示す図である。
図1(b)は、残し解像度と表層拡散Sn原子濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<ガラス基板>
以下において、本発明の一態様のガラス基板について詳細に説明する。本明細書において、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用され、特段の定めがない限り、以下において「~」は、同様の意味をもって使用される。また、本明細書において、ガラス組成における各成分の含有量は、特に断りのない限り、酸化物基準のモル百分率表示で表されたものとする。
【0022】
本発明のガラス基板は、一対の主表面と端面とを有するガラス基板であって、表層拡散Sn原子濃度が2.0×1018atomic/cm3以上、1.4×1019atomic/cm3以下であることを特徴とする。表層拡散Sn原子濃度は、主表面から深さ0.1~0.3μmにおけるSn原子濃度をガラス基板表層部のSn原子濃度とし、主表面から深さ9.0~9.2μmにおけるSn原子濃度をガラス基板内部のSn原子濃度として、少なくとも一方の主表面において、ガラス基板表層部のSn原子濃度からガラス基板内部のSn原子濃度を減じることにより求める。
【0023】
ガラス基板の表層において、Sn原子濃度が高く、例えばフロート成形のソーダライムガラスにおいて、ガラス基板の表層のSn原子の価数は2価であり、一方、ガラス基板の内部のSn原子の価数は4価である[G. H. Frischat, C. Muller-Fildebrandt, D. Moseler, G. Heide, J. Non-Cryst. Solids 283 (2001) 246-249.]。したがって、ガラス基板の表層における高い濃度のSn原子はガラス基板の外部から拡散させたSn原子であり、主に2価のSn原子として存在すると考えられる。2価のSn原子はガラス基板の表面に形成した樹脂等の膜中に拡散してガラス基板と該膜との密着性を向上させると考える。一方、4価のSn原子はガラス中でネットワークフォーマとして機能しているため、該膜中には拡散しないと考えられる。
【0024】
本発明の一態様のガラス基板は、ガラス基板の表層において前記表層拡散Sn原子濃度が2.0×1018atomic/cm3以上であることにより、2価のSn原子がガラス基板に形成した樹脂等の膜に拡散して該膜との密着性が向上し、該膜をパターニングする場合、より微細なパターン形成が可能となる。本発明の一態様のガラス基板は、前記表層拡散Sn原子濃度が2.5×1018atomic/cm3以上が好ましく、3.0×1018atomic/cm3以上がさらに好ましく、4.0×1018atomic/cm3以上が特に好ましく、5.0×1018atomic/cm3以上が最も好ましい。
【0025】
なお、本発明のガラス基板における表層拡散Sn原子はガラス基板の外部から拡散させたSn原子であり、主に2価のSn原子として存在する。この2価のSn原子により、該ガラス基板と膜との密着性が向上するものと考えられる。したがって、本発明のガラス基板によれば、樹脂等の膜をパターニングする場合、より微細なパターンの形成が可能となる。
【0026】
一方、前記表層拡散Sn原子濃度が1.4×1019atomic/cm3を超えると、ガラス基板を用いたデバイス製造工程において、Sn原子が蛍光発光を起こして不具合が生じるおそれがある。例えば、TFTプロセスの1つであるレーザーアニール工程において、波長308nmのエキシマレーザの照射光をSn原子が吸収して蛍光発光が生じ、TFT特性が低下する不具合が顕著になるおそれがある。本発明の一態様のガラス基板は、前記表層拡散Sn原子濃度が、1.2×1019atomic/cm3以下が好ましく、1.1×1019atomic/cm3以下がさらに好ましく、9.5×1018atomic/cm3以下が特に好ましく、8.9×1018atomic/cm3以下が最も好ましい。
【0027】
ガラス基板の表層部および内部のSn原子濃度、表層部のSn原子の濃度勾配は、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometory:SIMS)で測定されたSn原子濃度(atomic/cm3)のデプスプロファイルより算出できる。Sn原子濃度の定量には、120Snがイオン注入された石英ガラスを標準試料として用いる。SIMSの分析条件としては、例えば、以下の条件が挙げられる。なお、以下で示す分析条件は例示であり、測定装置、サンプルなどによって適宜変更されるべきものである。特に、Sn原子濃度のデプスプロファイルのプロット間隔が0.05μm以上の場合には、以下の分析条件を変更し、プロット間隔を0.05μm未満にする必要がある。なお、SIMSにおける表面近傍のSn原子濃度の測定精度は、表面汚染等の影響で低下することが懸念される。そのため、ガラス基板の表層部のSn原子濃度を求める際には、主表面から深さ0.1~0.3μmの領域をガラス基板の表層部とする。また、表層部のSn原子の濃度勾配を求める際には、0.1~0.5μm(0.1×10-4~0.5×10-4cm)の領域を採用し、横軸の深さの単位はcmとする。
【0028】
ガラス基板表層部のSn原子濃度は、主表面から深さ0.1~0.3μmにおけるSn原子濃度を平均して求める。そのため、ガラス基板表層部のSn原子濃度は、ガラス基板表層部の平均Sn原子濃度ともいえる。
また、ガラス基板内部のSn原子濃度は、主表面から深さ9.0~9.2μmにおけるSn原子濃度を平均して求める。そのため、ガラス基板内部のSn原子濃度は、ガラス基板内部の平均Sn原子濃度ともいえる。
【0029】
(分析条件)
装置:アルバック・ファイ社製四重極型二次イオン質量分析装置(ADEPT1010)
一次イオン種:OX
+(酸素イオン)
一次イオンの加速電圧:6keV
一次イオンの電流値:100nA
一次イオンのラスターサイズ:80×80μm角
二次イオンの検出領域:一次イオンのラスターサイズの4%(一次イオンのラスターサイズが80×80μm角ならば、二次イオンの検出領域は16×16μm角となる。)
検出二次イオン種:30Si+、120Sn+、124Sn+
【0030】
上記条件でガラス基板および標準試料の板厚方向の深さに関してスパッタリングを行い、30Si+、120Sn+、124Sn+のデプスプロファイルを取得する。このデプスプロファイルの横軸はスパッタ時間、縦軸は二次イオン強度である。
ここで、Srを含むガラス基板でSn原子濃度を測定するときは、124Sn+のデプスプロファイルを用いることが好ましい。これは、Srを含むガラス基板では、例えば、天然同位体比が最も大きい120Snは88Sr+16O+16Oなどと質量干渉し、120Snの次に天然同位体比が大きい118Snは88Sr+30Siなどと質量干渉するためである。一方、124Snは88Sr+18O+18Oと質量干渉するが、88Sr+18O+18Oの検出強度は18Oの天然同位体比を考慮すればとても小さく、無視できる。
なお、本明細書において、124Sn+の相対感度係数を求めるために用いる標準試料は、石英ガラスであり、Srを含有しないため、Srによる質量干渉がない。そのため、標準試料では120Snを測定できる。標準試料は、石英ガラスに120Snをイオン注入して作製する。
【0031】
次に、Veeco社製Dektak150などの触針式表面形状測定器を用いて、スパッタリングによって形成される分析クレータの深さを計測する。この分析クレータの深さから、スパッタリング速度を算出し、ガラス基板および標準試料のデプスプロファイルの横軸をスパッタ時間から深さへ変換する。デプスプロファイルの横軸は、深さ0μmから板厚方向の深さXμmへとプラス方向に増加させる。
【0032】
続いて、124Snと120Snの天然存在比(5.94/32.85=0.181)を考慮し、標準試料の120Sn+のデプスプロファイルを124Sn+のデプスプロファイルへ変換し、124Sn+の相対感度係数を求める。このとき、マトリックス成分としては、30Si+を選択する。
【0033】
最後に、ガラス基板の30Si+と124Sn+のデプスプロファイルおよび124Sn+の相対感度係数を用いて、Sn原子濃度(atomic/cm3)を縦軸としたデプスプロファイルを得る。このガラス基板のSn原子濃度のデプスプロファイルより、表層部および内部のSn原子濃度、さらにSn原子の濃度勾配を求める。なお、ガラス基板表層部からガラス基板内部に向かって(板厚方向の深さ)Sn原子濃度が減少する場合、Sn原子濃度勾配はマイナス値となる。
【0034】
なお、Sn原子濃度のデプスプロファイルのプロット間隔が0.05μm以上の場合には、上記の分析条件の内、一次イオンの加速電圧、電流値、ラスターサイズを適宜変更し、スパッタリング速度を落とす必要がある。例えば、一次イオンの加速電圧を下げれば、スパッタリング速度は低下する。
【0035】
なお、ガラス基板の表面にパターン化された樹脂膜などが形成され、ガラス基板の表面側からのSIMS分析が実質的に困難な場合、樹脂膜面の反対面側からガラス基板を研磨し、研磨面側から上記のSIMS分析を実施することで、Sn原子濃度のデプスプロファイルを取得することが可能である。研磨後のガラス基板の板厚は10μm程度が理想である。なお、板厚方向で表層部(樹脂膜面側)から内部(樹脂膜面の反対面側)に向かって(板厚方向の深さ)Sn原子の濃度が減少する場合、Sn原子濃度勾配の値はマイナス値となる。
【0036】
前記樹脂膜としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂若しくはポリエステル樹脂等を含有する樹脂膜、またはこれらの樹脂等に微細カーボン等の黒色物質を分散混合させた樹脂製のブラックマトリックス膜等が挙げられる。
【0037】
本発明の一態様のガラス基板は、ガラス基板表層部のSn原子濃度勾配が-1.0×1023atomic/cm4以上、-1.0×1022atomic/cm4以下が好ましい。ガラス基板表層部のSn原子濃度勾配とは、前記主表面から深さ0.1~0.5μm(0.1×10-4~0.5×10-4cm)におけるSn原子濃度(atomic/cm3)のデプスプロファイルを線形近似して求めた一次関数の傾きをいう。
【0038】
ガラス基板表層部のSn原子濃度勾配は、-9.6×1022atomic/cm4以上がさらに好ましく、-9.0×1022atomic/cm4以上が特に好ましく、-8.5×1022atomic/cm4以上が最も好ましい。ガラス基板表層部のSn原子濃度勾配が-1.0×1022atomic/cm4以下ならば、2価のSn原子がガラス基板の表面に形成した膜中に拡散してガラス基板と該膜との密着性がより向上する。また、ガラス基板表層部のSn原子濃度勾配が-1.0×1023以上であれば、ガラス基板を用いたデバイス製造工程において、Sn原子が蛍光発光する不具合を低減することが期待できる。
【0039】
本発明の一態様のガラス基板は、酸化物基準のモル%表示で
SiO2を50~75%、
Al2O3を7~25%、
B2O3を0.1~12%含有し、
MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が7~25%である、無アルカリガラスからなることが好ましい。
【0040】
無アルカリガラスとは、Na2O、K2O、Li2O等のアルカリ金属酸化物を実質的に含有しないものである。ここで、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないとは、原料等から混入する不可避的不純物以外にはアルカリ金属酸化物を含有しないことを意味する。すなわち、アルカリ金属酸化物を意図的に含有させないものを意味する。
【0041】
SiO2の含有量は50%以上が好ましく、より好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは62%以上、最も好ましくは64%以上である。また、含有量は75%以下が好ましく、より好ましくは72%以下、さらに好ましくは70%以下、特に好ましくは68%以下である。SiO2の含有量を50%以上とすることにより、耐酸性の低下、密度の増大、歪点の低下、線膨張係数の増大およびヤング率の低下を防ぐことができる。SiO2の含有量を75%以下とすることにより、高温粘度の上昇および溶融性の低下を防ぐことができる。
【0042】
Al2O3の含有量は7%以上が好ましく、より好ましくは9%以上、さらに好ましくは10%以上、特に好ましくは11%以上である。また、含有量は25%以下が好ましく、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは17%以下、特に好ましくは15%以下、最も好ましくは13%以下である。Al2O3の含有量を7%以上とすることにより、失透温度が著しく上昇してガラス中に失透が生じ易くなるのを防ぐことができる。また、Al2O3の含有量を25%以下とすることにより、粘性の増加、溶解温度の上昇および気泡の混入を防ぐことができる。
【0043】
B2O3の含有量は0.1%以上が好ましく、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは3%以上である。また、含有量は12%以下が好ましく、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは9%以下である。B2O3の含有量を0.1%以上とすることにより、ガラスの溶解反応性が向上し、失透温度を低下させることができる。また、B2O3の含有量を12%以下とすることにより、耐酸性を向上できる。
【0044】
MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計(MgO+CaO+SrO+BaO)は、7%以上が好ましく、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは11%以上、特に好ましくは12%以上、最も好ましくは15%以上である。また、含有量の合計は25%以下が好ましく、より好ましくは22%以下、さらに好ましくは21%以下、特に好ましくは20%以下、最も好ましくは19.5%以下である。MgO+CaO+SrO+BaOを7%以上とすることにより、ガラスの溶融性が良好となる。また、MgO+CaO+SrO+BaOを25%以下とすることにより、ガラスの密度、熱膨張係数が低下する。
【0045】
MgOは、無アルカリガラスの密度および熱膨張係数を低下させ、歪点を過大に低下させず、溶融性を向上させる成分である。MgOを含有する場合、MgOの含有量は上記効果を発現するために、1.5%以上が好ましく、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは4%以上、特に好ましくは5%以上、最も好ましくは7%以上である。また、無アルカリガラスの分相を抑え、失透特性、耐酸性および耐BHF(バッファードフッ酸)性を向上する点から、MgOの含有量は15%以下が好ましく、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0046】
CaOは、無アルカリガラスの密度および熱膨張係数を低下させ、歪点を過大に低下させず、溶融性を向上させる成分である。CaOを含有する場合、CaOの含有量は上記効果を発現するために、3%以上が好ましく、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは7%以上である。また、無アルカリガラスの失透特性、耐酸性および耐アルカリ性を向上し、密度および熱膨張係数を低下させる点から、CaOの含有量は15%以下が好ましく、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0047】
SrOは、無アルカリガラスの密度および熱膨張係数を低下させ、歪点を過大に低下させず、溶融性を向上させる成分である。SrOを含有する場合、SrOの含有量は、上記効果を発現するために、0.5%以上が好ましく、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは3%以上である。また、無アルカリガラスの失透特性、耐酸性および耐アルカリ性を向上し、密度および熱膨張係数を低下させる点から、SrOの含有量は10%以下が好ましく、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下である。
【0048】
BaOは、必須成分ではないが、無アルカリガラスの分相を抑え、失透特性および耐薬品性を向上させるため含有できる。しかし、BaOを多く含有すると比重が大きくなり、ヤング率が下がり、平均熱膨張係数が大きくなりすぎる傾向がある。そのため、BaOの含有量は5%以下が好ましく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。特に好ましくは、本発明の無アルカリガラスはBaOを実質的に含有しない。
なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。本発明において、BaOを実質的に含有しないとは、例えば含有量が0.3%以下であり、好ましくは0.2%以下である。
【0049】
本発明の一態様のガラス基板に用いる無アルカリガラスの組成としては、例えば、下記が挙げられる。
(1)SiO2を64~67%、Al2O3を10~12%、B2O3を7~9%、MgOを5~7%、CaOを4~6%、SrOを4~6%、BaOを0~1%含有し、MgO+CaO+SrO+BaOが15~17%であるガラス
(2)SiO2を65~69%、Al2O3を11~14%、B2O3を0.5~2%、MgOを8~10%、CaOを4~6%、SrOを3~5%、BaOを0~1%含有し、MgO+CaO+SrO+BaOが18~20%であるガラス
(3)SiO2を63~69%、Al2O3を10~16%、B2O3を0.5~3.5%、MgOを7~13%、CaOを5~10%、SrOを0.5~4%、BaOを0~3%含有し、MgO+CaO+SrO+BaOが17~22%であるガラス
(4)SiO2を65~69%、Al2O3を9~13%、B2O3を8~12%、MgOを0~4%、CaOを7~11%、SrOを0~3%、BaOを0~1%、SnO2を0~1%含有し、MgO+CaO+SrO+BaOが10~14%であるガラス
【0050】
本発明の一態様のガラス基板は、前記無アルカリガラスが、アルカリ金属酸化物の含有量が0.5%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2%以下であり、さらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.08%以下、最も好ましくは0.05%以下である。アルカリ金属酸化物の含有量を0.5%以下とすることにより、アルカリ金属イオンがガラス基板上に形成された樹脂膜等の膜に拡散して膜特性を劣化させるのを抑制できる。アルカリ金属酸化物としては、Na2O、K2O、Li2Oが挙げられる。
【0051】
本発明の一態様のガラス基板は、前記無アルカリガラスの歪点が650℃以上であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃であることが好ましい。
【0052】
前記無アルカリガラスの歪点は650℃以上であることが好ましく、より好ましくは670℃以上であり、さらに好ましくは700℃以上である。無アルカリガラスの歪点を650℃以上とすることにより、フラットパネルディスプレイ製造時等における熱変形や寸法変化を抑制できる。歪点の上限は制限されないが、典型的には750℃以下である。歪点はJIS R3103-2(2001年)に従い、繊維引き伸ばし法により測定される。
【0053】
前記無アルカリガラスの50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7/℃以上であることが好ましく、より好ましくは32×10-7/℃以上、さらに好ましくは35×10-7/℃以上である。また、平均熱膨張係数は45×10-7/℃以下であることが好ましく、より好ましくは43×10-7/℃以下、さらに好ましくは40×10-7/℃以下である。前記平均熱膨張係数が30×10-7/℃以上であることにより、ガラス基板上に形成される樹脂膜等の膜との前記平均熱膨張係数との差が大きくなりすぎるのを防止できる。また、前記平均熱膨張係数が45×10-7/℃以下であることにより、耐熱衝撃性が小さくなりすぎるのを抑制できる。
【0054】
50~350℃での平均熱膨張係数は、次のようにして測定される。ガラスを徐冷点で30分間保持した後、60℃/分の速度で冷却し、徐冷する。ついでこの徐冷したガラスについて、示差熱膨張計(TMA)を用いて、室温から400℃までに線膨張量と温度との曲線を測定し、これから50~350℃における平均線膨張係数を算出し、平均熱膨張係数とする。
【0055】
本発明の一態様のガラス基板は、フロート法により製造されたフロートガラスであることが好ましい。フロート法によれば、ガラス基板の大型化が容易であり、且つ平坦性・均質性に優れたガラス基板となる。
【0056】
本発明の一態様のガラス基板は、少なくとも一方の主表面が研磨して形成された研磨面であることが好ましい。主表面を研磨面とすることにより、ガラス基板の表面に付着した異物(例えば、スズの付着による異物欠点等)や傷を除去でき、ガラス基板の表面に形成する樹脂膜等の膜をパターニングした時の不具合(例えば、パターンの欠け、突起、ピンホール、断線など)を抑制でき、より微細なパターンを形成できる。
【0057】
本発明の一態様のガラス基板は、前記研磨面におけるテクスチャ方向インデックス(Stdi値)が0.75以下であることが好ましい。Stdi値とは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)により1×1μm角の観察視野かつ256×256のピクセル数で取得した形状像を、画像解析ソフト(例えば、イメージメトロジー製SPIP)を用いて、レベリング処理を行い、ラフネス解析を行うことで計算されるパラメータをいう。
【0058】
AFMで取得した1×1μm角の観察視野かつ256×256のピクセル数の形状像を基に、画像解析ソフトで計算されるStdi値は0.75以下が好ましく、0.74以下がさらに好ましく、0.72以下が特に好ましく、0.70以下が最も好ましい。Stdi値の下限は特に制限されないが、典型的には0.20以上である。Stdiが0.75以下であることにより、表面に付着した異物が研磨により十分に除去されたガラス基板となる。
【0059】
Stdi値とは、ガラス表面に形成されたテクスチャ(加工表面が一様に持つ性質や状態)の方向性の優劣を示す指標で、0から1の値を取る。テクスチャが優勢な方向性を持つ場合、Stdi値は0に近づく。一方、テクスチャが方向性を持たない場合、Stdi値は1に近づく。すなわち、研磨によってガラス表面に方向性を持つテクスチャが形成されれば、Stdi値は0に近づく。Stdi値はAFMにより形状像を取得した後、画像解析ソフト(例えば、イメージメトロロジー社製SPIP)により求めることができる。
【0060】
本発明の一態様のガラス基板の板厚は特に制限されないが、厚みが0.7mm以下であると軽量化が達成できるため好ましい。本発明の無アルカリガラスは、厚みが0.65mm以下がより好ましく、0.55mm以下がさらに好ましく、0.45mm以下が特に好ましく、0.4mm以下が最も好ましい。厚みを0.1mm以下、あるいは0.05mm以下とすることもできる。ただし、自重たわみを防ぐ観点からは、厚みは0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。
【0061】
本発明の一態様のガラス基板は、表層部の除去前後における波長400nmの蛍光発光強度差(△I400)が、90以下であることが好ましい。△I400は、ガラス基板の主表面を厚み方向に8μm除去したガラス基板の主表面において波長400nmにおける蛍光発光強度(Ib400)と、該ガラス基板の表層部を除去する前の主表面において波長400nmにおける蛍光発光強度(Is400)との差(Is400-Ib400)を意味する。
【0062】
表層部の除去前後における波長400nmの蛍光発光強度差(△I400)が90以下であると、ガラス基板を用いたデバイス製造工程において、Sn原子が蛍光発光して引き起こす不具合を低減することが期待できる。波長400nmの蛍光発光強度差(△I400)は、より好ましくは85以下、さらに好ましくは80以下、特に好ましくは75以下、最も好ましくは70以下である。
【0063】
波長400nmの蛍光発光強度差(△I400)が小さすぎる場合、ガラス基板表層部へのSn原子の拡散量が少ないことを意味しており、ガラス基板の表面に形成する膜との密着性が悪化するおそれがある。そのため、波長400nmの蛍光発光強度差(△I400)は5以上が好ましく、より好ましくは10以上、さらに好ましくは20以上、特に好ましくは25以上、最も好ましくは30以上である。
【0064】
蛍光発光強度は、分光蛍光光度計(例えば、日立ハイテクサイエンス製、型式:F-7000)を用いて、300~600nmの範囲で測定する。蛍光発光強度の測定条件は、励起光波長240nm、管電圧350V、励起側スリット幅10nm、蛍光側スリット幅10nmとし、蛍光側に波長295nm以下の光をカットするフィルターを用いる。なお、光源強度および検出器の感度を安定させるため、蛍光発光強度の測定は、分光蛍光光度計を立ち上げてから1時間以上経過した後に実施する。前記測定条件において蛍光発光強度は任意単位である。
【0065】
<ガラス基板の製造方法>
本発明の一態様のガラス基板は、例えば次のような方法で製造することができる。必要に応じてSnO2などの清澄剤を含むガラス原料を溶解した後、フロート法、フュージョン法等により、溶融ガラスから板状のガラスリボンに成形し、ガラスリボンから所定の大きさに切り出されて製造される。また、必要に応じて板状に成形されたガラスを研磨し、洗浄する。
【0066】
本発明の一態様のガラス基板の製造方法においては、フロート法により成形することにより、フロート成形時に溶融スズとガラス成分とが相互拡散し、ガラス表面に2価のSn原子を含有させて、ガラス基板の表面に形成する樹脂膜等の膜とガラス基板との密着性を向上させることができる。したがって、本発明の一態様のガラス基板の製造方法はフロート法による成形工程を備えることが好ましい。
【0067】
本発明の一態様のガラス基板の製造方法は、フロート法による成形工程と、研磨工程と、研磨されたガラス基板を洗浄する洗浄工程を備えるものとして以下に説明する。
【0068】
本発明の一態様のガラス基板は、上記したようにガラス基板の表面に付着した異物が研磨により十分に除去されていることが好ましい一方、ガラス基板の生産性を向上する点からは、研磨工程における研磨量が少ないことが好ましい。したがって、研磨前のガラス基板は表面に付着した異物の量が少ないガラスであることが、研磨工程における研磨量を少なくできるため好ましい。
【0069】
表面に付着した異物の量が少ないガラスは、フロート法による成形工程の条件を適宜調整することにより製造できる。具体的には、例えば、フロートバス入口のガラス融液の温度を好ましくは1400℃以下、より好ましくは最大1100℃以上1400℃以下(最大温度が1400~1100℃の範囲内)、さらに好ましくは1350℃以下、よりさらに好ましくは最大1150℃以上1350℃以下(最大温度が1150~1350℃の範囲内)、特に好ましくは1320℃以下、最も好ましくは最大1180℃以上1320℃以下(最大温度が1180~1320℃の範囲内)とする。フロートバス入口のガラス融液の温度を1400℃以下とすることにより、溶融スズによる欠点等の異物がガラス表面に付着しにくくなる。これにより、少ない研磨量で表面に付着した異物が十分に除去されたガラス基板を得ることができる。
【0070】
研磨工程は、ガラス基板の表面を、例えば、研磨パッドを使用し、砥粒を含む研磨剤(スラリー)により研磨する。研磨剤に含有される砥粒は特に限定されず、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子および酸化マンガン粒子等の粒子が挙げられるが、研磨効率の点で、特に酸化セリウム粒子が好ましい。砥粒の平均粒径は、例えば0.8~1.5μmの範囲が好ましい。このような研磨工程を経ることにより、ガラス基板の表面においてAFMで測定されるStdi値が0.75以下とできることから好ましい。
【0071】
ガラス基板の表面における表層拡散Sn濃度を所定濃度とする点から、研磨工程における研磨量は、2.0μm未満が好ましく、より好ましくは1.8μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1.0μm以下、特に好ましくは0.7μm以下、最も好ましくは0.5μm以下である。
【0072】
洗浄工程においては、酸性の洗浄液によりガラス基板の表面を洗浄後、必要に応じてアルカリ性の洗浄液により洗浄する。ガラス基板が液晶表示装置(LCD)用等のアルミノホウケイ酸ガラスからなるガラス基板である場合、ガラス基板を酸性の洗浄液で洗浄した場合にガラス基板の表面において、アルミニウムイオン等のガラス成分が抜け出してOH基を過剰に含む親水性の高い層が形成され、該層が樹脂膜等の膜とガラス基板との密着性を低下させる場合がある。
【0073】
本発明の一態様のガラス基板は、ガラス基板の表層において前記表層拡散Sn原子濃度が2.0×1018atomic/cm3以上であることにより、ガラス基板に形成した樹脂等の膜との密着性を向上できる。そのため、ガラス基板を酸性の洗浄液で洗浄してガラス基板表面のアルミニウムイオン等のガラス成分が抜け出た場合であっても、樹脂等の膜との密着性に優れるガラス基板を提供できる。本発明の一態様のガラス基板によれば、表面を酸性やアルカリ性の洗浄液を用いて好適に洗浄でき、表面の付着異物を十分に低減できるので、清浄性に優れるガラス基板を提供できる。
【0074】
本発明の一態様のガラス基板は、アルミニウムを含むケイ酸ガラスからなるガラス基板であり、ΔAl/Si値が0.26超であることが好ましい。ΔAl/Si値とは、X線光電子分光法により測定された、ガラス基板の内部のAl原子濃度(atomic%)からSi原子濃度(atomic%)を除した値であるAl/Si値から、同じくX線光電子分光法により測定された、ガラス基板の表面のAl/Si値を差し引いた値をいう。
【0075】
ΔAl/Si値が0.26超であることにより、ガラス基板の表面を酸性やアルカリ性の洗浄液を用いて好適に洗浄し、付着異物が十分に低減された清浄性に優れるガラス基板を提供できる。ΔAl/Si値は、0.27以上がより好ましい。
【0076】
本発明の一態様のガラス基板の製造方法においては、好ましくはフロート法による成形工程を備えることにより、ガラス基板の表層拡散Sn濃度を所定濃度とすることにより、樹脂膜等の膜とガラス基板との密着性を向上できる。
【0077】
洗浄方法は、洗浄液をガラス基板の表面に直接接触させて洗浄する方法であれば、特に限定されない。洗浄方法としては、例えば、スクラブ洗浄、シャワー洗浄(噴射洗浄)、ディップ(浸漬)洗浄等が挙げられる。洗浄液の温度は特には限定されることはなく、室温(15℃)~95℃で使用される。95℃を超える場合には、洗浄液中の水が沸騰するおそれがあり、洗浄操作上不便である。
【0078】
酸性の洗浄液に含有される有機酸としては、例えば、アスコルビン酸、クエン酸のような有機カルボン酸や、有機ホスホン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。洗浄液には、これらの有機酸とともに、無機酸(例えば、硫酸、リン酸、硝酸、フッ酸、塩酸など)を加えることができ、無機酸を単独で使用することも可能である。また、前記無機酸を使用した場合、pHの変動を抑制するために、無機酸とともにこれらの酸の塩を加えることも可能である。
【0079】
キレート効果を有する有機カルボン酸や有機ホスホン酸などの化合物は、洗浄性の観点から、洗浄液中に含んでもよい。一方、ガラスからのアルミニウム等の成分の抜け出しを促進する可能性があるため、これらの化合物は洗浄液中に含有しない方が好ましい。
【0080】
ここで、キレート効果を有する有機カルボン酸としては、例えば、ジカルボン酸系キレート剤、トリカルボン酸系キレート剤、グルコン酸系キレート剤、ニトリロ三酢酸系キレート剤、イミノコハク酸系キレート剤等が挙げられる。
【0081】
有機ホスホン酸とは、式:-P(=O)(OH)2で表わされるホスホン酸基が、炭素原子に結合した構造を有する有機化合物をいう。有機ホスホン酸1分子あたりの上記式で表わされるホスホン酸基の数は、2以上が好ましく、2~8がより好ましく、2~4が特に好ましい。
【0082】
有機ホスホン酸としては、置換基を有してもよい炭化水素類の炭素原子に結合した水素原子を、ホスホン酸基に置換した構造を有する化合物、および、アンモニアやアミン類の窒素原子に結合した水素原子を、-CH2-P(=O)(OH)2で表わされるメチレンホスホン酸基に置換した構造を有する化合物が好ましい。具体的には例えば、メチルジホスホン酸等が挙げられる。
【0083】
アルカリ性の洗浄液は、塩基を含有し、塩基以外にキレート剤や界面活性剤を含有することができる。キレート剤は、洗浄性の観点から、洗浄液中に含んでもよい。なお、キレート剤は、ガラスからのアルミニウム成分の抜け出しを促進する可能性がある。
【0084】
アルカリ性の洗浄液に含有される塩基としては、例えば、アルカリ金属水酸化物やアルカリ金属炭酸塩などのアルカリ金属化合物、アミン類、水酸化第4級アンモニウムなどが挙げられる。塩基としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0085】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸系キレート剤、グルコン酸系キレート剤、ニトリロ三酢酸系キレート剤、イミノコハク酸系キレート剤が挙げられる。特に、エチレンジアミン四酢酸系キレート剤が好ましい。界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0086】
洗浄工程後、乾燥を行ってもよい。乾燥方法としては、例えば、温風を吹き付ける方法、圧縮した空気を吹き付ける方法等が挙げられる。
【0087】
このようにして得られたガラス基板は、その表面に樹脂膜等の膜を形成する場合に、該膜との密着性が高く、かつ歩留まりが良好である、カラー液晶ディスプレイパネル等の製品が製造できる。例えば、カラー液晶ディスプレイパネルを製造する場合には、ガラス基板の主表面の少なくとも一方の面上にブラックマトリックス膜、カラーフィルター層、オーバーコート層、ITO透明導電膜を順次設ければよい。
【0088】
ここで、ブラックマトリックスとしては、寸法精度良くパターン形成できる、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂等に微粉カーボン等の黒色物質を分散混合されてなる樹脂を用いることが好ましく、公知のパターン形成によりブラックマトリックス膜を形成する。また、カラーフィルター層もカラー液晶ディスプレイに使用される公知の材料を、公知の方法、例えば、顔料分散法、フィルム転写法、染色法、印刷法、電着法等により形成すればよい。
【0089】
また、オーバーコート層は、ブラックマトリックス膜上に設けられるカラーフィルター層のR、G、Bがその境界で生じる凹凸を平坦化するために設けられ、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の公知の方法で形成すればよい。さらに公知の方法でITO透明電極膜を形成すればよい。
【0090】
このようにして得られた液晶ディスプレイパネルは、上記本発明のガラス基板を使用しているため、製造時および使用時におけるブラックマトリックス膜等の膜がガラス基板から剥がれにくく、製品歩留まりが良好で、性能の安定したものとなる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、表中の物性の各測定結果について、空欄は未測定であることを表す。
【0092】
〔評価方法〕
[残し解像度]
樹脂膜であるブラックマトリックス膜とガラス基板との密着性を次の手順で評価した。バインダ樹脂、架橋剤、光重合開始剤、シランカップリング剤およびカーボンブラックを含有する感光性ブラックマトリックス形成用樹脂組成物を使用して評価した。
【0093】
次いで、この感光性ブラックマトリックス形成用樹脂組成物を、洗浄後のガラス基板の表面に、スピンコート装置を用いて塗布(スピンコート)した後、ホットプレートを使用し、85℃で90秒間加熱・乾燥して塗膜を形成した。
【0094】
その後、露光装置を使用し、フォトマスクを介して露光(照度:30mW/cm2、露光量:30mJ/cm2、露光GAP:50μm)した後、現像装置を使用し、0.08%KOH水溶液を用いて70秒間現像した。なお、本評価では、KOH濃度は高く、現像時間は長い、厳しい現像条件で評価した。続いて、純水洗浄することにより、ガラス基板の表面に樹脂ブラックマトリックス膜のパターンを形成した。
【0095】
フォトマスクは、以下に示すL1~L4の4種類のパターン形状を有し、かつ種類ごとに線幅を1μmずつ変化させた計105種類のパターンとした。
L1:パターン間隔100μmで1ブロック(2835μm×2000μm)に25本の線状パターン(線幅は1~25μmの範囲で可変)
L2:パターン間隔50μmで1ブロック(2952.6μm×2000μm)に30本の線状パターン(線幅は1~30μmの範囲で可変)
L3:パターン間隔200μmで1ブロック(2682.5μm×2000μm)に25本の線状パターン(線幅は1~25μmの範囲で可変)
L4:パターン間隔200μmで1ブロック(2682.5μm×2000μm)に25本の短い線状パターン(線幅は1~25μmの範囲で可変)
【0096】
純水洗浄後のガラス基板をレーザー顕微鏡(キーエンス社製、装置名:VK-9510)により観測し、ガラス基板上に樹脂ブラックマトリックス膜のパターンが残るマスクの線幅(以下、残し解像度という。)を、L1~L4の4種類のパターン形状それぞれについて調べた。そして、4種類のパターン形状それぞれについての残し解像度の平均を求めた。なお、残し解像度の値が小さいほど、洗浄後のガラス基板上に形成された樹脂ブラックマトリックス膜の密着性が高いことを示す。
【0097】
[表面清浄度]
上記残し解像度の評価したガラス基板の表面をレーザー顕微鏡で観察し、表面付着異物およびパターン不具合(欠け、凸欠陥、ピンホール)を評価した。評価は以下のようにした。
A:表面付着異物、パターン不具合が5箇所以下
B:表面付着異物、パターン不具合が6箇所以上
パターン不具合は、ガラス基板表面の清浄性と関連があり、ガラス基板表面の洗浄が不十分なとき、ガラス基板表面の付着異物が多いときに発生する。
【0098】
[SIMS測定]
上述したSIMS測定により、Sn原子濃度(atomic/cm3)のデプスプロファイルを取得し、表層拡散Sn原子濃度(atomic/cm3)を算出した。表層拡散Sn原子濃度は、表層部のSn原子濃度[深さ0.1~0.3μmにおけるSn原子濃度(atomic/cm3)]、内部のSn原子濃度[深さ9.0~9.2μmにおけるSn原子濃度(atomic/cm3)]を測定し、表層部のSn原子濃度から内部のSn原子濃度を減じることにより求めた。
【0099】
また、表層部のSn原子の濃度勾配として、主表面から深さ0.1~0.5μm(0.1×10-4~0.5×10-4cm)におけるSn原子濃度(atomic/cm3)のデプスプロファイルを線形近似し、一次関数の傾きを求めた。なお、Sn原子濃度のデプスプロファイルのプロット間隔は約0.04μmであった。また、板厚方向で表層部から内部に向かって(板厚方向の深さ)Sn原子の濃度が減少する場合、Sn原子濃度勾配の値はマイナス値となる。Sn原子濃度勾配の単位はatomic/cm4とする。
【0100】
[Sn相対濃度]
X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)により、Sn3d5/2軌道とSi2p軌道に対応する光電子スペクトルを測定した。前記光電子スペクトルからバックグラウンドを除去して、Sn3d5/2軌道とSi2p軌道とに対応する光電子ピークの面積を求め、これらをそれぞれSn3d5/2軌道由来の単位時間当たりの光電子数NSn、Si2p軌道由来の単位時間当たりの光電子数NSiとした。バックグラウンドの除去は、Sn3d5/2軌道とSi2p軌道とに対応する光電子ピークに対して同一の関数を用いて行った。
【0101】
Sn相対濃度C0は、NSnおよびNSiを用いて次式により計算した。
C0=(NSn/486.028)/[(NSi/34.52)+(NSn/486.028)]=NSn/(14.08NSi+NSn)
ここで、486.028および34.52はそれぞれSn、Siに対する相対感度係数である。
【0102】
XPSの測定条件は下記の通りとした。
測定装置:アルバック・ファイ社製、Quantera-SXM
モニターピーク:Nsi[Si2p]、NSn[Sn3d5/2]
検出角(試料表面と検出器とのなす角度):45°
【0103】
XPSスペクトルの解析には、解析ソフト[アルバック・ファイ社製、MultiPak(商標)]を使用した。スペクトルのバックグラウンドの引き方には、Shirley法を適用した。
【0104】
[ΔAl/Si値]
X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)により、ガラス基板の内部及びガラス基板の表面におけるAl原子濃度とSi原子濃度を測定した。ガラス基板の内部におけるAl原子濃度とSi原子濃度の比を内部Al/Si値(原子濃度比)とした。また、ガラス基板の表面におけるAl原子濃度とSi原子濃度の比を表面Al/Si値(原子濃度比)とした。内部Al/Si値から表面Al/Si値を差し引いた値をΔAl/Si値(原子濃度比)とした。以下、表面Al/Si値と内部Al/Si値の測定手順を記す。
【0105】
<表面Al/Si値の測定>
ガラス基板の主表面におけるAl原子濃度およびSi原子濃度を、XPSを用いて測定し、Al/Si値(原子濃度比)を求めた。測定には、アルバック・ファイ社製のPHI5500を使用し、Si(2p)およびAl(2p)のピークを用い、パスエネルギー117.4eV、エネルギーステップ0.5eV/step、検出角(試料表面と検出器とのなす角度)15°の条件で測定を行った。スペクトルの解析には、解析ソフトMultiPakを使用した。スペクトルのバックグラウンドの引き方には、Shirley法を適用した。
【0106】
<内部Al/Si値の測定>
上記の方法で表面Al/Si値を測定した後、Al原子濃度およびSi原子濃度の深さ方向分布を、C60イオンスパッタリングを用いたXPSにより測定した。XPS測定装置および解析ソフトは、表面Al/Si値の測定と同じものを使用した。また、スペクトルのバックグラウンドの引き方には、Shirley法を適用した。測定条件は、パスエネルギーを117.4eV、エネルギーステップを0.5eV/step、モニターピークをSi(2p)およびAl(2p)、検出角を75°とした。そして、スパッタ間隔を5分間とし、5分間スパッタを行うごとに、形成されたクレータ底部のAl原子濃度およびSi原子濃度を測定した。このような測定を、Al原子濃度およびSi原子濃度が深さ方向で一定となる領域まで実施した。この濃度一定領域におけるAl濃度およびSi濃度の比を内部Al/Si値(原子濃度比)とした。
【0107】
[テクスチャ方向インデックス(Stdi値)]
ブルカージャパン社製AFM(型式:MultimodeVIIISPM、NanoscopeV controller)を用い、下記の条件で形状像を取得した。
測定モード:Tapping
スキャンスピード:1Hz
カンチレバー:Olympus社製AC160TS
観察視野:1μm×1μm
解像度:256×256ピクセル
【0108】
その後、画像解析ソフト(イメージメトロロジー社製SPIPイメージ解析ソフトウェア バージョン6.2.6)を用い、形状像のレべリング処理を実施し、ラフネス解析によりテクスチャ方向インデックス(Stdi値)を求めた。
【0109】
<蛍光発光スペクトル測定>
分光蛍光光度計(日立ハイテクサイエンス製、型式:F-7000)を用いて、300~600nmの範囲で蛍光発光強度を測定した。蛍光発光強度の測定条件は、励起光波長240nm、管電圧350V、励起側スリット幅10nm、蛍光側スリット幅10nmとし、蛍光側に波長295nm以下の光をカットするフィルターを用いた。なお、光源強度および検出器の感度を安定させるため、蛍光発光強度の測定は、分光蛍光光度計を立ち上げてから1時間以上経過した後に実施した。前記測定条件において蛍光発光強度は任意単位である。なお、各サンプルの蛍光発光強度は数点の実測値から回帰することにより求めたものであり、各サンプルにおける研磨加工の精度は8.0±0.4μmの範囲内である。
【0110】
ガラス基板の主表面を厚み方向に8μm除去したガラス基板の主表面において波長400nmにおける蛍光発光強度(Ib400)と、このガラス基板の主表面を除去する前の主表面において波長400nmにおける蛍光発光強度(Is400)と、を測定した。また、ガラス基板の主表面を厚み方向に除去した後と前、すなわち、表層部の除去前後における波長400nmの蛍光発光強度との差(Is400-Ib400)を求め、これを波長400nmの蛍光発光強度差(△I400)とした。「研磨厚み(μm)」が「8」の場合の△I400とは、具体的には例えば、「厚み8μmのガラス基板(除去後)の蛍光発光強度と厚み16μmのガラス基板(除去前)の蛍光発光強度との差」となる。
【0111】
表1に実施例の目標組成を酸化物基準のモル%表示で示し、表2に実施例の結果を示す。表2において、例1は参考例であり、例2~5、8、10、11は実施例であり、例6、7、9は比較例である。
【0112】
〔ガラス基板の製造〕
各成分の原料を、表1に示す目標組成となるように調合し、連続溶融窯にて溶解を行い、フロート法にて板成形を行い、無アルカリガラス基板を得た。ガラス基板の表面を、研磨パッドと平均粒径0.8~1.0μmの酸化セリウム粒子を含む研磨剤(昭和電工社製、商品名:SHOROX A10)とを用いて表2に示す研磨厚みとなるように研磨した。
【0113】
未研磨のガラス基板(例1)および研磨後のガラス基板(例2~11)を、酸性の洗浄液を1分間に25Lの流量で吹き付けながら、PVA製の回転ブラシでスクラブ洗浄した。洗浄工程において、洗浄液としては酸性の洗浄液をpH2.7になるように水で希釈したものを用い、洗浄液の温度は25℃、スクラブ時間は3~5秒間とした。
【0114】
例1~11で得られたガラス基板を用いて上記した方法により各項目を評価した結果を表2に示す。また、残し解像度と、内部のSn原子濃度、表層拡散Sn原子濃度との関係を
図1(a)および(b)にそれぞれ示す。
【0115】
【0116】
【0117】
表2および
図1(b)に示すように、表層拡散Sn原子濃度は樹脂膜との密着性と相関しており、表層拡散Sn原子濃度が2.0×10
18atomic/cm
3以上であることにより、ガラス基板上に形成した膜との優れた密着性を実現できることがわかった。また、
図1(a)に示すように、ガラス基板内部のSn原子濃度は、該膜との密着性向上に寄与していないことがわかった。さらに、表2に示すように、表層拡散Sn原子濃度を1.4×10
19atomic/cm
3以下とすることにより、Sn原子による蛍光発光を抑制できることがわかった。
【0118】
これらの結果から、ガラス基板の少なくとも一方の主面における表層拡散Sn原子濃度を2.0×1018atomic/cm3以上、1.4×1019atomic/cm3以下とすることにより、ガラス基板上に形成した膜との優れた密着性および生産効率の向上を実現できることがわかった。
【0119】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2018年9月18日出願の日本特許出願(特願2018-173839)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。