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特許7375807樹脂フィルムの製造方法、並びに、位相差フィルム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】樹脂フィルムの製造方法、並びに、位相差フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231031BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20231031BHJP
   C08G 61/06 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/02
C08G61/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021501988
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020006105
(87)【国際公開番号】W WO2020175217
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2019036070
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019036106
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 俊秀
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/180729(WO,A1)
【文献】特許第6406479(JP,B2)
【文献】特開2010-243821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C 55/02
C08G 61/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成された原反フィルムを用意する準備工程と、
前記原反フィルムを、面延伸倍率1.1倍以上に延伸して、延伸フィルムを得る延伸工程と、
前記延伸フィルムの温度を、前記延伸工程の終了時点での温度T1から、温度T3まで昇温する昇温工程と、
前記延伸フィルムの温度を、前記温度T3以上に維持する熱固定工程と、を含む、樹脂フィルムの製造方法であって;
前記昇温工程が、
前記延伸フィルムの温度を、前記温度T1から、前記温度T3よりも5℃以上低い温度T2まで、一定の昇温速度で昇温する、前期昇温工程と、
前記延伸フィルムの温度を、前記温度T2から前記温度T3まで昇温する、後期昇温工程と、を含み;
前記前期昇温工程において、前記延伸フィルムの温度が昇温され始めた時点から前記温度T2に到達する時点までの時間が、15秒以上250秒以下であり;
前記前期昇温工程において前記延伸フィルムの温度が前記温度T2に到達した時点から、熱固定工程における前記温度T3以上での維持を終了する時点までの時間が、10秒以上250秒以下であり;
前記重合体が、ガラス転移温度Tg及び結晶化ピーク温度Tcを有し;
前記温度T1が、Tg+5℃以上Tg+25℃以下であり;
前記温度T2が、Tc+5℃以上Tc+30℃以下であり;
前記温度T3が、Tc+10℃以上Tc+100℃以下である、樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物である、請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成された位相差フィルムであって、
前記位相差フィルムの厚み方向の複屈折が、0.008以上であり、
前記位相差フィルムの内部ヘイズが、1%以下であり、且つ、
下記式(II-1)で示される膜厚バラツキVtIIが、5%以下である、位相差フィルム。
VtII[%]=[(tII max-tII min)/tII ave]×100 (II-1)
(前記式(II-1)中、
II maxは、前記位相差フィルムの厚みの最大値を示し、
II minは、前記位相差フィルムの厚みの最小値を示し、
II aveは、前記位相差フィルムの厚みの平均値を示す。)
【請求項4】
前記位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthが、200nm以上である、請求項3に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物である、請求項3又は4に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法であって;
前記製造方法が、
脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成された原反フィルムを用意する準備工程と、
前記原反フィルムを、面延伸倍率1.1倍以上に延伸して、延伸フィルムを得る延伸工程と、
前記延伸フィルムの温度を、前記延伸工程の終了時点での温度T1から、温度T3まで昇温する昇温工程と、
前記延伸フィルムの温度を、前記温度T3以上に維持する、熱固定工程と、を含み;
前記昇温工程が、
前記延伸フィルムの温度を、前記温度T1から、前記温度T3よりも5℃以上低い温度T2まで、一定の昇温速度で昇温する、前期昇温工程と、
前記延伸フィルムの温度を、前記温度T2から前記温度T3まで昇温する、後期昇温工程と、を含み;
前記前期昇温工程において、前記延伸フィルムの温度が昇温され始めた時点から前記温度T2に到達する時点までの時間が、15秒以上250秒以下であり;
前記前期昇温工程において前記延伸フィルムの温度が前記温度T2に到達した時点から、熱固定工程における前記温度T3以上での維持を終了する時点までの時間が、10秒以上250秒以下であり;
前記重合体が、ガラス転移温度Tg及び結晶化ピーク温度Tcを有し、
前記温度T1が、Tg+5℃以上Tg+25℃以下であり、
前記温度T2が、Tc+5℃以上Tc+30℃以下であり、
前記温度T3が、Tc+10℃以上Tc+100℃以下である、位相差フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムの製造方法、並びに、位相差フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂を用いた樹脂フィルムが知られている。例えば、特許文献1には、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂を用いて、延伸フィルムを製造する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6406479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂を用いた樹脂フィルムの製造方法として、前記の樹脂によって形成された原反フィルムを用意する工程と、この原反フィルムを延伸して延伸フィルムを得る工程と、この延伸フィルムに熱固定処理を施して樹脂フィルムを得る工程と、を含む方法がある。延伸によれば、通常は、重合体の分子を配向させられるので、フィルムにレターデーションを発現させることができる。また、熱固定処理によれば、通常は、重合体の結晶化を促進させられるので、フィルムの熱膨張率を低くできる。よって、前記の製造方法によれば、所望のレターデーションを有し熱膨張率が小さい樹脂フィルムを得られると期待される。
【0005】
本発明者の検討によれば、前記の製造方法における原反フィルムの延伸を高い温度で行うと、レターデーションの発現性が低くなったり、得られる樹脂フィルムの内部ヘイズが大きくなったりし易いことが判明している。そこで、本発明者は、延伸を、低い温度で行うことを試みた。具体的には、延伸を、Tg+5℃以上Tg+25℃以下(Tgは、重合体のガラス転移温度を表す。)で行うことを試みた。ところが、このように低い温度で延伸を行うと、最終的に得られる樹脂フィルムの膜厚バラツキが大きくなりうることが見出された。
【0006】
第一の本発明は、前記の第一の課題に鑑みて創案されたもので、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成され、且つ、熱膨張率、膜厚バラツキ及び内部ヘイズのいずれもが小さい樹脂フィルムを製造できる、低い温度での延伸を含む製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成されたフィルムは、延伸により重合体の分子を配向させられるので、複屈折を発現できる。また、このように延伸されたフィルムに熱固定を行って重合体の結晶化を進行させると、複屈折を大きくすることができる。そこで、本発明者は、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂を含む樹脂フィルムを用意し、この樹脂フィルムに延伸及び熱固定を行うことによって、大きい複屈折を有する位相差フィルムを製造することを試みた。
【0008】
一般に、樹脂フィルムの延伸を高い延伸温度で行った場合、複屈折の発現性が小さくなる傾向がある。そこで、本発明者は、大きい複屈折を達成するためには、延伸温度を低くすることを試みた。しかし、延伸温度が低い場合、得られる位相差フィルムの膜厚バラツキが大きくなる傾向があった。よって、従来の技術では、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂を用いて、複屈折が大きく且つ膜厚バラツキが小さい位相差フィルムを製造することは、困難であった。
【0009】
第二の本発明は、前記の第二の課題に鑑みて創案されたもので、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成され、複屈折が大きく且つ膜厚バラツキが小さい位相差フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記の第一及び第二の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、原反フィルムを用意する準備工程と、原反フィルムを所定の面延伸倍率で延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、延伸フィルの温度を昇温する昇温工程と、延伸フィルムの温度を所定範囲に維持する熱固定工程と、を含む樹脂フィルムの製造方法において、昇温工程における延伸フィルムの昇温を適切に制御することにより、前記の第一及び第二の課題を解決できることを見出し、第一及び第二の本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0011】
〔1〕 脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成された原反フィルムを用意する準備工程と、
前記原反フィルムを、面延伸倍率1.1倍以上に延伸して、延伸フィルムを得る延伸工程と、
前記延伸フィルムの温度を、前記延伸工程の終了時点での温度T1から、温度T3まで昇温する昇温工程と、
前記延伸フィルムの温度を、前記温度T3以上に維持する熱固定工程と、を含む、樹脂フィルムの製造方法であって;
前記昇温工程が、
前記延伸フィルムの温度を、前記温度T1から、前記温度T3よりも5℃以上低い温度T2まで、一定の昇温速度で昇温する、前期昇温工程と、
前記延伸フィルムの温度を、前記温度T2から前記温度T3まで昇温する、後期昇温工程と、を含み;
前記前期昇温工程において、前記延伸フィルムの温度が昇温され始めた時点から前記温度T2に到達する時点までの時間が、15秒以上250秒以下であり;
前記前期昇温工程において前記延伸フィルムの温度が前記温度T2に到達した時点から、熱固定工程における前記温度T3以上での維持を終了する時点までの時間が、10秒以上250秒以下であり;
前記重合体が、ガラス転移温度Tg及び結晶化ピーク温度Tcを有し;
前記温度T1が、Tg+5℃以上Tg+25℃以下であり;
前記温度T2が、Tc+5℃以上Tc+30℃以下であり;
前記温度T3が、Tc+10℃以上Tc+100℃以下である、樹脂フィルムの製造方法。
〔2〕 前記重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物である、〔1〕に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0012】
〔3〕 脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成された位相差フィルムであって、
前記位相差フィルムの面内方向の複屈折及び厚み方向の複屈折の少なくとも一方が、0.008以上であり、
前記位相差フィルムの内部ヘイズが、1%以下であり、且つ、
下記式(II-1)で示される膜厚バラツキVtIIが、5%以下である、位相差フィルム。
VtII[%]=[(tII max-tII min)/tII ave]×100 (II-1)
(前記式(II-1)中、
II maxは、前記位相差フィルムの厚みの最大値を示し、
II minは、前記位相差フィルムの厚みの最小値を示し、
II aveは、前記位相差フィルムの厚みの平均値を示す。)
〔4〕 前記位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthが、200nm以上である、〔3〕に記載の位相差フィルム。
〔5〕 前記重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物である、〔3〕又は〔4〕に記載の位相差フィルム。
〔6〕 〔3〕~〔5〕のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法であって;
前記製造方法が、
脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成された原反フィルムを用意する準備工程と、
前記原反フィルムを、面延伸倍率1.1倍以上に延伸して、延伸フィルムを得る延伸工程と、
前記延伸フィルムの温度を、前記延伸工程の終了時点での温度T1から、温度T3まで昇温する昇温工程と、
前記延伸フィルムの温度を、前記温度T3以上に維持する、熱固定工程と、を含み;
前記昇温工程が、
前記延伸フィルムの温度を、前記温度T1から、前記温度T3よりも5℃以上低い温度T2まで、一定の昇温速度で昇温する、前期昇温工程と、
前記延伸フィルムの温度を、前記温度T2から前記温度T3まで昇温する、後期昇温工程と、を含み;
前記前期昇温工程において、前記延伸フィルムの温度が昇温され始めた時点から前記温度T2に到達する時点までの時間が、15秒以上250秒以下であり;
前記前期昇温工程において前記延伸フィルムの温度が前記温度T2に到達した時点から、熱固定工程における前記温度T3以上での維持を終了する時点までの時間が、10秒以上250秒以下であり;
前記重合体が、ガラス転移温度Tg及び結晶化ピーク温度Tcを有し、
前記温度T1が、Tg+5℃以上Tg+25℃以下であり、
前記温度T2が、Tc+5℃以上Tc+30℃以下であり、
前記温度T3が、Tc+10℃以上Tc+100℃以下である、位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
第一の本発明によれば、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成され、且つ、熱膨張率、膜厚バラツキ及び内部ヘイズのいずれもが小さい樹脂フィルムを製造できる、低い温度での延伸を含む製造方法を提供できる。
【0014】
第二の本発明によれば、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成され、複屈折が大きく且つ膜厚バラツキが小さい位相差フィルム及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0016】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長さの上限に特段の制限は無いが、通常、幅に対して10万倍以下である。
【0017】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0018】
以下の説明において、長尺のフィルムの長手方向は、通常は製造ラインにおけるフィルム搬送方向と平行である。また、MD方向(mashine direction)は、製造ラインにおけるフィルムの搬送方向であり、通常は長尺のフィルムの長手方向と平行である。さらに、TD方向(transverse direction)は、フィルム面に平行な方向であって、前記MD方向に垂直な方向であり、通常は長尺のフィルムの幅方向と平行である。
【0019】
以下の説明において、面内方向とは、別に断らない限り、厚み方向と直交する方向を表す。
【0020】
[I.第一実施形態]
[I-1.樹脂フィルムの製造方法の概要]
本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂によって、樹脂フィルムを製造する方法である。以下の説明において、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を「脂環式結晶性重合体」ということがある。また、脂環式結晶性重合体を含む前記の樹脂を「結晶性樹脂」ということがある。
【0021】
第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、
結晶性樹脂で形成された原反フィルムを用意する準備工程(i)と;
原反フィルムを、所定範囲の面延伸倍率に延伸して、延伸フィルムを得る延伸工程(ii)と;
延伸フィルムの温度を、延伸工程の終了時点での温度T1から、所定の温度T3まで昇温する昇温工程(iii)と;
延伸フィルムの温度を、温度T3以上に維持する、熱固定工程(iv)と;
を含む。以下の説明では、延伸工程の終了時点での温度T1を、「延伸終了温度」T1ということがある。また、昇温工程で昇温される温度T3を、「熱固定開始温度」T3ということがある。
【0022】
また、第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法において、前記昇温工程(iii)は、
延伸フィルムの温度を、延伸終了温度T1から、熱固定開始温度T3よりも5℃以上低い温度T2まで、一定の昇温速度で昇温する、前期昇温工程(iii-1)と;
延伸フィルムの温度を、温度T2から熱固定開始温度T3まで昇温する、後期昇温工程(iii-2)と;
を含む。以下の説明では、前期昇温工程(iii-1)で昇温される温度T2を、「経由温度」T2ということがある。
【0023】
さらに、第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法において、延伸終了温度T1、経由温度T2及び熱固定開始温度T3は、それぞれ、所定の温度範囲に収まる。また、前期昇温工程(iii-1)において、延伸フィルムの温度が昇温され始めた時点から経由温度T2に到達する時点までの時間が、所定の範囲にある。以下の説明では、前期昇温工程(iii-1)において延伸フィルムの温度が昇温され始めた時点から経由温度T2に到達する時点までの時間を「前期昇温時間」ということがある。
【0024】
さらに、第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法において、前期昇温工程(iii-1)において延伸フィルムの温度が経由温度T2に到達した時点から、熱固定工程(iv)における熱固定開始温度T3以上での維持を終了する時点までの時間が、所定範囲にある。以下の説明では、前期昇温工程(iii-1)において延伸フィルムの温度が経由温度T2に到達した時点から、熱固定工程(iv)における熱固定開始温度T3以上での維持を終了する時点までの時間を、「T2以降時間」ということがある。
【0025】
これらの要件を満たす第一実施形態に係る製造方法は、延伸工程(ii)における低い温度での延伸を含む製造方法でありながら、結晶性樹脂で形成され、且つ、熱膨張率、膜厚バラツキ及び内部ヘイズのいずれもが小さい樹脂フィルムを製造できる。
【0026】
[I-2.準備工程(i)]
準備工程(i)では、結晶性樹脂で形成された延伸前のフィルムとしての原反フィルムを用意する。結晶性樹脂は、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体としての脂環式結晶性重合体を含む。脂環式構造を含有する重合体とは、分子内に脂環式構造を有する重合体を表す。このような脂環式構造を含有する重合体は、例えば、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物でありうる。
【0027】
脂環式結晶性重合体が有する脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れる樹脂フィルムが得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0028】
脂環式結晶性重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。脂環式結晶性重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合を前記のように多くすることにより、耐熱性を高めることができる。全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、100重量%以下としうる。
また、脂環式結晶性重合体において、脂環式構造を有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0029】
脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体としての脂環式結晶性重合体は、結晶性を有する。「結晶性を有する重合体」とは、融点Tmを有する重合体を表す。すなわち、「結晶性を有する重合体」とは、示差走査熱量計(DSC)で融点を観測することができる重合体を表す。
【0030】
脂環式結晶性重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる樹脂フィルムが得られ易いことから、脂環式結晶性重合体としては、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
【0031】
具体的には、脂環式結晶性重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものがより好ましい。脂環式結晶性重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0032】
上記重合体(α)~重合体(δ)としては、WO2018/062067号公報に開示されている製造方法により得られる重合体を用いうる。
【0033】
脂環式結晶性重合体の融点Tmは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Tmを有する脂環式結晶性重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた樹脂フィルムを得ることができる。
【0034】
通常、脂環式結晶性重合体は、ガラス転移温度Tgを有する。脂環式結晶性重合体の具体的なガラス転移温度Tgは、特に限定されないが、通常は85℃以上、通常170℃以下である。
【0035】
通常、脂環式結晶性重合体は、結晶化ピーク温度Tcを有する。脂環式結晶性重合体の具体的な結晶化ピーク温度Tcは、特に限定されないが、好ましくは120℃以上であり、好ましくは220℃以下である。
【0036】
重合体のガラス転移温度Tg、融点Tm及び結晶化ピーク温度Tcは、以下の方法によって測定できる。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷する。続いて、この重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体のガラス転移温度Tg、融点Tm及び結晶化ピーク温度Tcを測定しうる。
【0037】
脂環式結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。このような重量平均分子量を有する脂環式結晶性重合体は、成形加工性と耐熱性とのバランスに優れる。
【0038】
脂環式結晶性重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。ここで、Mnは数平均分子量を表す。このような分子量分布を有する脂環式結晶性重合体は、成形加工性に優れる。
脂環式結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定しうる。
【0039】
脂環式結晶性重合体は、樹脂フィルムを製造するよりも前においては、結晶化していてもよく、結晶化していなくてもよい。脂環式結晶性重合体の結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0040】
脂環式結晶性重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0041】
結晶性樹脂において、脂環式結晶性重合体の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式結晶性重合体の割合が前記範囲の下限値以上である場合、樹脂フィルムの耐熱性を高めることができる。脂環式結晶性重合体の割合の上限は、100重量%以下でありうる。
【0042】
結晶性樹脂は、脂環式結晶性重合体に加えて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤;石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリアルキレンワックス等のワックス;ソルビトール系化合物、有機リン酸の金属塩、有機カルボン酸の金属塩、カオリン及びタルク等の核剤;ジアミノスチルベン誘導体、クマリン誘導体、アゾール系誘導体(例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、及びベンゾチアソール誘導体)、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ナフタル酸誘導体、及びイミダゾロン誘導体等の蛍光増白剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維等の無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー;及び、軟質重合体等の、脂環式結晶性重合体以外の任意の重合体;などが挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0043】
原反フィルムの厚みは、後の延伸工程(ii)における延伸倍率を考慮して、適切に設定しうる。原反フィルムの具体的な厚みは、通常5μm以上、好ましくは10μm以上であり、通常1mm以下、好ましくは500μm以下である。
【0044】
原反フィルムは、例えば、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、注型成形法、圧縮成形法等の樹脂成型法によって製造しうる。これらの中でも、厚みの制御が容易であることから、押出成形法が好ましい。
【0045】
押出成形法における製造条件は、好ましくは下記の通りである。シリンダー温度(溶融樹脂温度)は、好ましくはTm以上、より好ましくは「Tm+20℃」以上であり、好ましくは「Tm+100℃」以下、より好ましくは「Tm+50℃」以下である。また、フィルム状に押し出された溶融樹脂が最初に接触する冷却体は特に限定されないが、通常はキャストロールを用いる。このキャストロール温度は、好ましくは「Tg-50℃」以上であり、好ましくは「Tg+70℃」以下、より好ましくは「Tg+40℃」以下である。さらに、冷却ロール温度は、好ましくは「Tg-70℃」以上、より好ましくは「Tg-50℃」以上であり、好ましくは「Tg+60℃」以下、より好ましくは「Tg+30℃」以下である。このような条件で原反フィルムを製造する場合、厚み1μm~1mmの原反フィルムを容易に製造できる。ここで、「Tm」は、前述したように、脂環式結晶性重合体の融点を表し、「Tg」は脂環式結晶性重合体のガラス転移温度を表す。
【0046】
[I-3.延伸工程(ii)]
準備工程(i)において原反フィルムを用意した後、原反フィルムを延伸する延伸工程(ii)を行う。この延伸工程(ii)での延伸により、結晶性樹脂で形成された延伸後のフィルムとしての延伸フィルムを得ることができる。
【0047】
延伸工程(ii)における延伸は、所定の範囲の面延伸倍率で行う。面延伸倍率とは、「延伸前の原反フィルムの面積」に対する「延伸後の延伸フィルムの面積」の比で表される延伸倍率である。よって、面延伸倍率は、下記式(I-1)で表される。
面延伸倍率 = {(延伸後の延伸フィルムの面積)/(延伸前の原反フィルムの面積)} (I-1)
【0048】
延伸工程(ii)における面延伸倍率の範囲は、通常1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上であり、通常は20倍以下、好ましくは10倍以下、より好ましくは5倍以下である。具体的な面延伸倍率は、前記の範囲から、製造したい樹脂フィルムの光学特性、厚み、強度などの要素に応じて適切に設定することが望ましい。面延伸倍率が前記範囲の下限値以上である場合、延伸によって大きな複屈折を発現させることができる。また、面延伸倍率が前記範囲の上限値以下である場合、フィルムの破断を抑制して、樹脂フィルムの製造を容易に行うことができる。
【0049】
延伸は、所定の範囲の延伸温度で行うことが好ましい。具体的な延伸温度の範囲は、通常「Tg+5℃」以上、好ましくは「Tg+10℃」以上であり、通常「Tg+25℃」以下、好ましくは「Tg+20℃」以下である。延伸温度が前記範囲の下限値以上である場合、フィルムを十分に軟化させて延伸を均一に行うことができる。また、延伸温度が前記範囲の上限値以下である場合、脂環式結晶性重合体の結晶化の進行によるフィルムの硬化を抑制できるので、延伸を円滑に行うことができ、また、延伸によって大きな複屈折を発現させることができる。さらに、通常は、得られる樹脂フィルムのヘイズを小さくして透明性を高めることができる。延伸工程において、延伸温度は、時間毎に変動してもよいが、一定であることが好ましい。原反フィルムは一般に薄いので、ある温度の雰囲気に入れられた原反フィルムの温度は、通常、速やかにその雰囲気の温度へと調整される。したがって、延伸される原反フィルムの温度は、通常、その雰囲気の温度に一致している。よって、通常は、上記延伸温度は、延伸工程(ii)でフィルムが曝される雰囲気温度に一致し、よって延伸機の設定温度に一致しうる。
【0050】
なお、準備工程(i)の後、延伸工程(ii)の前に、原反フィルムを所定の延伸温度に加熱するために予熱を行ってもよい。通常は予熱温度と延伸温度は同じであるが、異なっていても良い。予熱温度は延伸終了温度T1に対し、好ましくはT1+5℃以下、より好ましくはT1+2℃以下であり、好ましくはT1-10℃以上、より好ましくはT1-5℃以上である。
予熱は原反フィルムを前記の予熱温度にある雰囲気内で一定時間保持することにより行われる。上述したように、原反フィルムは一般に薄いので、原反フィルムの温度は、通常、その雰囲気の温度に一致している。したがって、通常は、予熱後の原反フィルムの温度は、雰囲気温度に一致し、よってオーブン等の温度調整装置の設定温度に一致しうる。
予熱時間は任意であるが、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上でありえ、また、好ましくは60秒以下、より好ましくは30秒以下でありえる。
【0051】
延伸に要する時間としての延伸時間は、延伸倍率に応じて設定しうる。
【0052】
延伸方法に格別な制限は無く、任意の延伸方法を用いうる。例えば、原反フィルムを長手方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸法)、原反フィルムを幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸法)等の、一軸延伸法;原反フィルムを長手方向に延伸すると同時に幅方向に延伸する同時二軸延伸法、原反フィルムを長手方向及び幅方向の一方に延伸した後で他方に延伸する逐次二軸延伸法等の、二軸延伸法;原反フィルムを幅方向に平行でもなく垂直でもない斜め方向に延伸する方法(斜め延伸法);などが挙げられる。
【0053】
前記の縦一軸延伸法としては、例えば、ロール間の周速の差を利用した延伸方法などが挙げられる。
また、前記の横一軸延伸法としては、例えば、テンター延伸機を用いた延伸方法などが挙げられる。
さらに、前記の同時二軸延伸法としては、例えば、ガイドレールに沿って移動可能に設けられ且つ原反フィルムを固定しうる複数のクリップを備えたテンター延伸機を用いて、クリップの間隔を開いて原反フィルムを長手方向に延伸すると同時に、ガイドレールの広がり角度により原反フィルムを幅方向に延伸する延伸方法などが挙げられる。
また、前記の逐次二軸延伸法としては、例えば、ロール間の周速の差を利用して原反フィルムを長手方向に延伸した後で、その原反フィルムの両端部をクリップで把持してテンター延伸機により幅方向に延伸する延伸方法などが挙げられる。
さらに、前記の斜め延伸法としては、例えば、原反フィルムに対して長手方向又は幅方向に左右異なる速度の送り力、引張り力又は引取り力を付加しうるテンター延伸機を用いて原反フィルムを斜め方向に連続的に延伸する延伸方法などが挙げられる。
【0054】
前記のような延伸を原反フィルムに施すことにより、延伸フィルムが得られる。この延伸フィルムの、延伸工程の終了時点での温度が延伸終了温度T1である。延伸終了温度T1は、通常、上述した延伸温度の範囲に収まっている。そこで、第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法では、延伸フィルムの温度を、延伸終了温度T1から熱固定開始温度T3まで昇温する昇温工程(iii)を行う。
【0055】
[I-4.前期昇温工程(iii-1)]
昇温工程(iii)は、延伸フィルムの温度を、延伸終了温度T1から経由温度T2まで、一定の昇温速度で昇温する、前期昇温工程(iii-1)を含む。通常、延伸工程(ii)と前期昇温工程(iii-1)とは、連続して行われるので、延伸工程(ii)と前期昇温工程(iii-1)との間に他の工程は行われない。
【0056】
経由温度T2は、熱固定開始温度T3よりも、通常、5℃以上低い。よって、経由温度T2は、通常、下記式(I-2)を満たす。
T3-T2≧5℃ (I-2)
より詳細には、熱固定開始温度T3と経由温度T2との差T3-T2は、通常5℃以上、好ましくは10℃以上であり、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下である。このような経由温度T2に昇温するまでの期間の延伸フィルムの温度変化を制御することにより、樹脂フィルムの膜厚バラツキを効果的に小さくできる。また、温度差T3-T2は、結晶化の過度の進行を抑制して内部ヘイズの上昇を抑制できる観点からは、前記範囲の下限値以上であることが望ましく、樹脂フィルムの膜厚バラツキを効果的に抑制できる観点からは、前記範囲の上限値以下であることが望ましい。
【0057】
また、経由温度T2は、通常、脂環式結晶性重合体の結晶化ピーク温度Tcとの間に、所定の関係を満たす。具体的には、経由温度T2は、通常「Tc+5℃」以上、好ましくは「Tc+10℃」以上であり、通常「Tc+30℃」以下、好ましくは「Tc+25℃」以下である。このような経由温度T2に昇温するまでの期間の延伸フィルムの温度変化を制御することにより、樹脂フィルムの膜厚バラツキを効果的に小さくできる。特に、樹脂フィルムの膜厚バラツキを十分に抑制するためには、経由温度T2が前記範囲の下限値以上であることが望ましい。さらに、工程に要する時間を短縮し、結晶化の過度の進行を抑制して内部ヘイズの上昇を抑制できる観点からは、経由温度T2が前記範囲の上限値以下であることが望ましい。
【0058】
前期昇温工程(iii-1)において、延伸フィルムの温度の昇温は、一定の昇温速度で行われる。昇温速度が「一定」とは、前期昇温工程(iii-1)を時間で10等分して得られる時間区分それぞれの温度変化ΔTiの変動係数が、所定値以下であることを表す。具体的には、前期昇温工程(iii-1)において、延伸フィルムの温度が昇温され始めた時点から経由温度T2に到達する時点までの時間を、10等分して、10の時間区分を得る。そして、各時間区分における延伸フィルムの温度変化ΔTiを求める。これら10の時間区分の温度変化ΔTiから、その変動係数[=標準偏差/平均値×100(%)]を求める。この変動係数が、通常20%以下、好ましくは10%以下である場合、昇温速度が「一定」であると定義する。延伸フィルムの温度が延伸終了温度T1から経由温度T2に到達するまでの昇温速度を一定にすることにより、樹脂フィルムの膜厚バラツキを効果的に小さくできる。
【0059】
前期昇温工程(iii-1)において、延伸フィルムの温度が昇温され始めた時点から経由温度T2に到達する時点までの前期昇温時間は、通常15秒以上、好ましくは20秒以上であり、通常250秒以下、好ましくは200秒以下である。延伸終了温度T1から経由温度T2までの昇温を、前記のような所定の時間をかけて行うことにより、樹脂フィルムの膜厚バラツキを効果的に小さくできる。また、前期昇温時間が前記範囲の上限値以下である場合、内部ヘイズの上昇を抑制できる。
【0060】
さらに、前期昇温工程(iii-1)における前期昇温時間は、「1[秒/℃]×(T2[℃]-T1[℃])」以上が特に好ましく、また、「3[秒/℃]×(T2[℃]-T1[℃])」以下が特に好ましい。前期昇温時間が前記範囲の下限値以上である場合、樹脂フィルムの膜厚バラツキを効果的に小さくできる。また、前期昇温時間が前記範囲の上限値以下である場合、内部ヘイズの上昇を効果的に抑制できる。
【0061】
延伸フィルムは一般に薄いので、延伸フィルムの温度は、通常、その雰囲気の温度に一致する。したがって、前期昇温工程(iii-1)での昇温は、例えば、延伸フィルムの雰囲気の温度を調整可能な温度調整装置によって行いうる。通常は、前期昇温工程(iii-1)における延伸フィルムの温度は、前期昇温工程(iii-1)でフィルムが曝される雰囲気温度に一致し、よって温度調整装置の設定温度に一致しうる。このような温度調整装置としては、非接触でフィルムを加熱可能な温度調整装置が好ましく、具体例を挙げると、オーブン及び加熱炉が挙げられる。
【0062】
具体例を挙げると、前期昇温工程(iii-1)は、温度調整可能なオーブンを用いて行いうる。例えば、オーブン内に延伸フィルムを収納した状態で、そのオーブンの温度を上述した条件を満たすように延伸終了温度T1から経由温度T2まで変化させることにより、前期昇温工程(iii-1)を行うことができる。
【0063】
別の具体例を挙げると、前期昇温工程(iii-1)は、内部に温度設定可能なフィルム搬送路を有するオーブンを用いて行いうる。例えば、オーブン内のフィルム搬送路を、フィルム搬送方向において複数の区画に区分する。そして、それらの区画の温度を、下流ほど高温になるように、設定する。この場合、具体的な区画の温度は、それらの区画を通って搬送される延伸フィルムの温度が、上述した条件を満たすように設定する。そして、このオーブンのフィルム搬送路を通るように延伸フィルムを搬送することにより、前期昇温工程(iii-1)を行うことができる。
【0064】
前期昇温工程(iii-1)は、通常、延伸フィルムが収縮によって変形しないように、延伸フィルムの少なくとも二辺を保持した状態で行う。「延伸フィルムの少なくとも二辺を保持した状態」とは、延伸フィルムにたわみが認められない程度に、保持具で延伸フィルムを保持した状態をいう。ただし、この状態には、延伸フィルムが実質的に延伸されるような保持状態は含まれない。また、実質的に延伸されるとは、延伸フィルムのいずれかの方向への延伸倍率が通常1.03倍以上になることをいう。
【0065】
[I-5.後期昇温工程(iii-2)]
昇温工程(iii)は、前期昇温工程(iii-1)の後に、延伸フィルムの温度を、経由温度T2から熱固定開始温度T3まで昇温する、後期昇温工程(iii-2)を含む。通常、前期昇温工程(iii-1)と後期昇温工程(iii-2)とは、連続して行われるので、前期昇温工程(iii-1)と後期昇温工程(iii-2)との間に他の工程は行われない。
【0066】
熱固定開始温度T3は、通常、脂環式結晶性重合体の結晶化ピーク温度Tcとの間に、所定の関係を満たす範囲において設定される。具体的には、熱固定開始温度T3は、通常「Tc+10℃」以上、好ましくは「Tc+20℃」以上、特に好ましくは「Tc+30℃」以上であり、通常「Tc+100℃」以下、好ましくは「Tc+60℃」以下、特に好ましくは「Tc+40℃」以下の範囲で設定される。後期昇温工程(iii-2)の後の熱固定工程(iv)では、この熱固定開始温度T3以上の温度範囲に延伸フィルムの温度が維持され、脂環式結晶性重合体の結晶化が進行しうる。よって、熱固定開始温度T3が前記範囲の下限値以上である場合、熱固定工程(iv)での脂環式結晶性重合体の結晶化を効果的に進行させて、熱膨張率の小さい樹脂フィルムを得ることができる。また、通常は、樹脂フィルムの複屈折を大きくできる。他方、熱固定開始温度T3が前記範囲の上限値以下である場合、樹脂フィルムのヘイズを小さくできる。
【0067】
後期昇温工程(iii-2)における昇温速度は、任意である。また、後期昇温工程(iii-2)において、延伸フィルムの温度が経由温度T2から昇温され始める時点から、熱固定開始温度T3に到達する時点までの時間は、任意である。以下の説明では、後期昇温工程(iii-2)において延伸フィルムの温度が経由温度T2から昇温され始める時点から、熱固定開始温度T3に到達する時点までの時間を「後期昇温時間」ということがある。
【0068】
上述のように、延伸フィルムは一般に薄いので、延伸フィルムの温度は、通常、その雰囲気の温度に一致する。したがって、後期昇温工程(iii-2)における昇温は、例えば、前期昇温工程(iii-1)と同じ温度調整装置によって行いうる。通常は、後期昇温工程(iii-2)における延伸フィルムの温度は、後期昇温工程(iii-2)でフィルムが曝される雰囲気温度に一致し、よって温度調整装置の設定温度に一致しうる。温度調整装置の例としては、前期昇温工程(iii-1)で例示した温度調整装置と同じ例が挙げられる。
【0069】
後期昇温工程(iii-2)は、通常、延伸フィルムが収縮によって変形しないように、延伸フィルムの少なくとも二辺を保持した状態で行う。後期昇温工程(iii-2)における延伸フィルムの「少なくとも二辺を保持した状態」とは、前期昇温工程(iii-1)における延伸フィルムの「少なくとも二辺を保持した状態」と同じでありうる。
【0070】
[I-6.熱固定工程(iv)]
後期昇温工程(iii-2)で延伸フィルムの温度を熱固定開始温度T3まで昇温した後で、その延伸フィルムの温度を所定の熱固定温度に維持する熱固定工程(iv)を行う。通常、後期昇温工程(iii-2)と熱固定工程(iv)とは、連続して行われるので、後期昇温工程(iii-2)と熱固定工程(iv)との間に他の工程は行われない。
【0071】
熱固定温度は、熱固定開始温度T3以上の範囲で設定される。熱固定温度の具体的な範囲は、熱固定開始温度T3の範囲として説明した範囲と同じ範囲でありうる。熱固定温度は、時間毎に変動してもよいが、一定であることが好ましい。特に好ましくは、熱固定工程(iv)での延伸フィルムの温度は、熱固定開始温度T3で一定に維持される。
【0072】
熱固定工程(iv)においては、通常、脂環式結晶性重合体の結晶化が促進される。このように促進された結晶化の進行によって、結晶性樹脂の熱特性を改善でき、よって熱膨張率の小さい樹脂フィルムを得ることができる。また、通常は、結晶化の進行により、脂環式結晶性重合体の分子が、延伸工程(ii)における延伸方向に高度に配向しうるので、フィルムの複屈折を大きくできる。さらに、前期昇温工程(iii-1)において上述したように制御しながら昇温が行われることにより、昇温のための急速な加熱に伴うフィルム面内の温度ムラを抑制でき、面内の張力バランスを均一に保つことができるので、樹脂フィルムの膜厚バラツキを抑制できる。
【0073】
熱固定工程(iv)において、延伸フィルムの温度を熱固定温度に維持する時間を、「熱固定時間」ということがある。熱固定工程(iv)において、熱固定時間は、T2以降時間(即ち、前期昇温工程(iii-1)において延伸フィルムの温度が経由温度T2に到達した時点から、熱固定工程(iv)における熱固定開始温度T3以上での維持を終了する時点までの時間)が所定の範囲に収まるように設定される。具体的には、T2以降時間は、通常10秒以上、好ましくは15秒以上であり、通常250秒以下、好ましくは180秒以下である。T2以降時間は、前期昇温工程(iii-1)の終了時点から熱固定工程(iv)の終了時点までの時間に相当する。T2以降時間が、前記範囲の下限値以上である場合、脂環式結晶性重合体の結晶化を効果的に進行させて、樹脂フィルムの熱特性を改善できるので、樹脂フィルムの熱膨張率を小さくできる。また、通常は、複屈折の大きい樹脂フィルムを得ることができる。他方、T2以降時間が前記範囲の上限値以下である場合、樹脂フィルムのヘイズを小さくできる。
【0074】
さらに、T2以降時間は、「60[秒]-0.2[秒/℃]×T3[℃]」以上が特に好ましく、また、「360[秒]-1.3[秒/℃]×T3[℃]」以下が特に好ましい。T2以降時間が前記範囲の下限値以上である場合、脂環式結晶性重合体の結晶化を効果的に進行させて、樹脂フィルムの熱特性を改善できるので、樹脂フィルムの熱膨張率を小さくできる。また、通常は、複屈折の大きい樹脂フィルムを得ることができる。他方、T2以降時間が前記範囲の上限値以下である場合、樹脂フィルムのヘイズを小さくできる。
【0075】
また、熱固定工程(iv)における熱固定時間は、T2以降時間の1/4以上が好ましく、T2以降時間の1/3以上がより好ましく、T2以降時間の1/2以上が特に好ましい。熱固定時間が、前記範囲の下限値以上である場合、脂環式結晶性重合体の結晶化を効果的に進行させて、樹脂フィルムの熱特性を改善できるので、樹脂フィルムの熱膨張率を小さくできる。また、通常は、複屈折の大きい樹脂フィルムを得ることができる。
【0076】
上述のように、延伸フィルムは一般に薄いので、延伸フィルムの温度は、通常、その雰囲気の温度に一致する。したがって、熱固定工程(iv)は、通常、前記の熱固定温度にある雰囲気内で延伸フィルムを保持することによって、行われる。通常は、熱固定工程(iv)における延伸フィルムの温度は、熱固定工程(iv)でフィルムが曝される雰囲気温度に一致し、よって温度調整装置の設定温度に一致しうる。そして、熱固定時間は、前記の熱固定温度にある雰囲気内で延伸フィルムを保持する時間に一致しうる。この場合、好適な温度調整装置は、非接触でフィルムを加熱可能な温度調整装置が好ましく、具体例を挙げると、オーブン及び加熱炉が挙げられる。
【0077】
熱固定工程(iv)は、延伸フィルムの少なくとも二辺を保持した状態で、行うことが好ましい。延伸フィルムの少なくとも二辺を保持した状態で熱固定工程(iv)を行う場合、保持された辺の間の領域において延伸フィルムの熱収縮による変形を抑制することができる。熱固定工程(iv)における延伸フィルムの「少なくとも二辺を保持した状態」は、前期昇温工程(iii-1)における延伸フィルムの「少なくとも二辺を保持した状態」と同じでありうる。延伸フィルムの少なくとも二辺を保持した状態で熱固定工程(iv)を行う場合、熱収縮しないように少なくとも2辺を保持された延伸フィルムの温度が前記の熱固定温度に維持された時間が、前記の熱固定時間の範囲に収まることが好ましい。
【0078】
好ましくは、熱固定工程(iv)では、上記の「延伸フィルムの少なくとも二辺を保持した状態」に代えて、「延伸フィルムの少なくとも二辺を保持して緊張させた状態」とする。「延伸フィルムの少なくとも二辺を保持して緊張させた状態」とは、延伸フィルムに延伸に至らないまでもある程度の張力をかけることをいう。これは、熱固定工程(iv)では、延伸工程(ii)よりも高い温度に延伸フィルムが曝されることによる熱収縮を考慮した方が好ましいためである。これにより、延伸フィルムの平滑性を損なうことなく、結晶化を進めることができる。
【0079】
[I-7.任意の工程]
第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、上述した工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。
【0080】
例えば、上述した樹脂フィルムの製造方法は、熱固定工程(iv)の後で、熱固定工程(iv)で得られた樹脂フィルムを熱収縮させ残留応力を除去するために、緩和工程(v)を行ってもよい。緩和工程(v)では、熱固定工程(iv)で得られた樹脂フィルムを平坦に維持しながら、所定の温度範囲で、前記樹脂フィルムの緊張を緩和する緩和処理を行う。
【0081】
樹脂フィルムの緊張を緩和する、とは、保持装置によって保持されて緊張した状態から樹脂フィルムを解放することをいい、樹脂フィルムが緊張していなければ樹脂フィルムが保持装置で保持されていてもよい。このように緊張が緩和されると、樹脂フィルムは熱収縮を生じうる状態となる。緩和工程(v)では、樹脂フィルムに熱収縮を生じさせることによって、加熱時において生じうる応力を解消している。そのため、樹脂フィルムの高温環境下での熱収縮を小さくできるので、高温環境下での寸法安定性に優れる樹脂フィルムが得られる。
【0082】
樹脂フィルムの緊張の緩和は、一時に行ってもよく、時間をかけて連続的又は段階的に行ってもよい。ただし、得られる樹脂フィルムの波打ち及びシワ等の変形の発生を抑制するためには、緊張の緩和は、連続的又は段階的に行うことが好ましい。
【0083】
前記の樹脂フィルムの緊張の緩和は、樹脂フィルムを平坦に維持しながら行う。ここで樹脂フィルムを平坦に維持する、とは、樹脂フィルムに波打ち及びシワといった変形を生じないように樹脂フィルムを平面形状に保つことをいう。これにより、得られる樹脂フィルムの波打ち及びシワ等の変形の発生を抑制できる。
【0084】
緩和処理の際の樹脂フィルムの処理温度は、熱固定工程(iv)での熱固定温度T3に対し、T3+20℃以下、好ましくはT3+10℃以下の範囲内で、またT3-50℃以上、好ましくはT3-20℃以上の範囲内であることが好ましい。これにより、樹脂フィルムの残留応力を効果的に除去することができる。
【0085】
緩和工程(v)において、樹脂フィルムを前記の温度範囲に維持する処理時間は、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上である。この処理時間の上限は、熱固定時間と緩和工程(v)での処理時間の合計が90秒以下であり、かつ熱固定時間の2倍が緩和工程(v)での処理時間以上となるように設定することが好ましい。処理時間が前記範囲の下限値以上である場合、樹脂フィルムの高温環境下での寸法安定性を効果的に高めることができる。また、上限値以下である場合、樹脂フィルムの高温環境下での寸法安定性を効果的に高めることができ、また、緩和工程(v)における結晶化の進行によるヘイズの上昇を抑制できる。
【0086】
緩和工程(v)において枚葉の樹脂フィルムに緩和処理を施す場合、例えば、その樹脂フィルムの四辺を保持しながら、保持部分の間隔を連続的又は段階的に狭める方法を採用しうる。この場合、樹脂フィルムの四辺において保持部分の間隔を同時に狭めてもよい。また、一部の辺において保持部分の間隔を狭めた後で、別の一部の辺の保持部分の間隔を狭めてもよい。さらに、一部の辺の保持部分の間隔を狭めないで維持してもよい。また、一部の辺の保持部分の間隔は連続的又は段階的に狭め、別の一部の辺の保持部分の間隔を一時に狭めてもよい。
【0087】
また、緩和工程(v)において長尺の樹脂フィルムに緩和処理を施す場合、例えば、テンター延伸機を用いて、クリップを案内しうるガイドレールの間隔を樹脂フィルムの搬送方向において狭めたり、隣り合うクリップの間隔を狭めたりする方法が挙げられる。
【0088】
樹脂フィルムを保持した状態で保持部分の間隔を狭めることで樹脂フィルムの緊張の緩和を行う場合、間隔を狭める程度は、熱固定工程(iv)で得られた樹脂フィルムに残留していた応力の大きさに応じて設定しうる。
通常、熱固定工程(iv)で得られた樹脂フィルムには、既に延伸処理が施されているので、大きな応力が残留する傾向がある。そのため、この樹脂フィルムの緊張を緩和するために間隔を狭める程度は、延伸処理が施されていないフィルムを用いる場合に比べて大きくすることが好ましい。
【0089】
緩和工程(v)において保持間隔を狭める程度は、緩和工程(v)での樹脂フィルムの処理温度において樹脂フィルムに緊張を与えない状態での熱収縮率S(%)を基準として定めうる。具体的には、保持間隔を狭める程度は、通常0.1S以上、好ましくは0.5S以上、より好ましくは0.7S以上、また通常1.2S以下、好ましくは1.0S以下、より好ましくは0.95S以下である。また、例えば直交する2方向で熱収縮率Sが異なる場合のように、前記熱収縮率Sに異方性がある場合は、各々の方向について前記範囲内で保持間隔を狭める程度を定めうる。このような範囲にすることで、樹脂フィルムの残留応力を十分に除去し、かつ平坦性を維持させることができる。
【0090】
また、上述した樹脂フィルムの製造方法は、例えば、任意の工程として、樹脂フィルムに表面処理を施す工程を含んでいてもよい。
【0091】
[I-8.製造できる樹脂フィルム]
上述した製造方法により、結晶性樹脂で形成された樹脂フィルムを得ることができる。この樹脂フィルムは、膜厚バラツキを小さくでき、内部ヘイズを小さくでき、且つ、熱膨張率を小さくできる。
【0092】
(I-8.1.膜厚バラツキ)
樹脂フィルムの膜厚バラツキVtは、小さいほど好ましく、具体的には、好ましくは5.0%以下、更に好ましくは4.0%以下、特に好ましくは3.0%以下である。第一実施形態に係る製造方法によれば、このように膜厚バラツキVtが小さい樹脂フィルムを得ることができる。通常、このような膜厚バラツキVtが小さい樹脂フィルムは、レターデーション及び配向を均一にできるので、当該樹脂フィルムを備える画像表示装置の表示画質を均一にさせることができる。樹脂フィルムの膜厚バラツキVtの下限は、理想的には0.0%であるが、0.0%超であってもよい。
【0093】
樹脂フィルムの膜厚バラツキVtは、樹脂フィルムの全体的な厚みの均一さを表す指標であり、下記式(I-3)で示される。
Vt[%]=[(t max-t min)/t ave]×100 (I-3)
(式(I-3)中、
maxは、樹脂フィルムの厚みの最大値を示し、
minは、樹脂フィルムの厚みの最小値を示し、
aveは、樹脂フィルムの厚みの平均値を示す。)
この膜厚バラツキVtは、下記の方法で測定できる。
【0094】
まず、樹脂フィルムの厚みの測定対象領域を、樹脂フィルムの面上に定める。例えば、樹脂フィルムの4辺(長辺及び短辺)の長さがいずれも1m以下の枚葉のフィルムの場合、フィルム面全体を測定対象領域としうる。また、例えば、樹脂フィルムの4辺(長辺及び短辺)の長さのいずれかもしくはいずれもが1mを超える枚葉のフィルム又は長尺のフィルムの場合、フィルム面に含まれる短辺の長さ×短辺の長さのサイズの任意の領域を測定対象領域としうる。
【0095】
次に、上述のように定めた測定対象領域内で、樹脂フィルムの厚みの測定箇所を少なくとも30点定める。これら測定箇所は、フィルム面上において上記測定対象領域の外縁側に分布する測定箇所を直線で結んで形成される多角形の面積が、測定対象領域の70%以上を占めるようにする。ただし、外縁側に分布する測定箇所は、互いに隣り合う2点の測定箇所を結ぶ線分と、その線分の一方の端点とその端点の隣にある測定箇所とを結ぶ線分とがなす内角が180°以下であるという条件を満たす。外縁側に分布する測定箇所が定まる限りにおいて、他の測定箇所は上記多角形の領域内でその位置及び数を任意に定めることができる。ただし、前記の測定箇所は、測定箇所を頂点とする全ての三角形Xが下記の要件(A)及び(B)を満たすように定められる。(A)三角形Xの面積は、50cm以下である。(B)三角形Xの面積は、測定対象領域の面積の5%以下である。ここで、三角形Xは、複数の測定箇所のうちの3点を頂点とした三角形である。ただし、複数の測定箇所のうちの3点を頂点とした三角形のうち、その辺上及びその内側の領域に当該3点以外の測定箇所を含む三角形は、三角形Xの範疇に含めない。例えば、4辺の長さがいずれも1m以下の枚葉のフィルムの場合、実施例で説明するような方法で測定箇所を定めうる。
そして、上記のように定めた測定箇所で樹脂フィルムの厚みを測定する。少なくとも30点の計測箇所で得られた厚みのうち、その最大値を、樹脂フィルムの厚みの最大値t maxとし、その最小値を、樹脂フィルムの厚みの最小値t minとし、その平均値を、樹脂フィルムの厚みの平均値t aveとする。そして、こうして求めた最大値t max、最小値t min及び平均値t aveを式(I-3)に代入して、膜厚バラツキVtを求めうる。
【0096】
(I-8.2.内部ヘイズ)
一般に、ヘイズには、フィルムの表面にある微細な凹凸による光散乱によるものと、フィルム内部の屈折率分布によるものとが含まれる。樹脂フィルムの内部ヘイズとは、樹脂フィルムのヘイズ全体から、樹脂フィルムの表面にある微細な凹凸による光散乱によるヘイズを差し引いたものをいう。第一実施形態に係る製造方法によれば、製造される樹脂フィルムの内部ヘイズを小さくでき、具体的には、好ましくは1.0%以下、更に好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.2%以下にできる。このような内部ヘイズが小さい樹脂フィルムは、透明性に優れるので、当該樹脂フィルムを備える画像表示装置の画像鮮明性を向上させることができる。樹脂フィルムの内部ヘイズの下限は、理想的には0.0%であるが、0.0%超であってもよい。
【0097】
樹脂フィルムの内部ヘイズは、下記の方法で測定しうる。
シクロオレフィンフィルム、透明光学粘着フィルム、透明光学粘着フィルム、及び、シクロオレフィンフィルムをこの順に備える貼合積層体を形成する。この貼合積層体のヘイズ値を、ヘイズメーターを用いて測定する。測定された貼合積層体のヘイズ値は、シクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値の和に該当する。
他方、樹脂フィルムの両表面に、前記の透明光学粘着フィルムを介して、前記のシクロオレフィンフィルムを貼合して、試験積層体を得る。次いで、この試験積層体のヘイズを、ヘイズメーターを用いて測定する。測定の結果得られた試験積層体のヘイズ値から、上述したシクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値の和を差し引いて、樹脂フィルムの内部ヘイズを得ることができる。
【0098】
(I-8.3.熱膨張率)
上述した製造方法により、熱膨張率の小さい樹脂フィルムを得ることができる。この樹脂フィルムの具体的な熱膨張率は、好ましくは0.0%~2.0%、更に好ましくは0.0%~1.0%、特に好ましくは0.0%~0.5%である。このように熱膨張率が小さい樹脂フィルムは、温度変化による寸法変化が小さいので、例えばこの樹脂フィルムを基材として用いるフィルムセンサーなどの製造歩留まりを向上させることができる。
【0099】
樹脂の熱膨張率は、下記の方法で測定しうる。
樹脂フィルムから、5mm×20mmの短冊状の試料を切り出す。延伸工程(ii)での延伸方向が一方向である場合、その延伸方向と試料の長手方向とを一致させるように、切り出しを行う。また、延伸工程(ii)での延伸方向が二方向以上である場合、延伸倍率が最大の延伸方向と試料の長手方向とを一致させるように、切り出しを行う。延伸倍率が最大の延伸方向が複数ある場合には、延伸倍率が最大の延伸方向のうちの一つと試料の長手方向とを一致させるように、切り出しを行う。この試料の長手方向に50mNの張力を加えた状態で、昇温速度10℃/分で、温度20℃から130℃までの線膨張を測定する。ここで「線膨張」とは、試料の長手方向の寸法の変化量を表す。測定された線膨張の値を、線膨張前の試験片の長さで割り算して、熱膨張率(%)を計算できる。
【0100】
(I-8.4.その他の特性)
樹脂フィルムの面内レターデーションReは、樹脂フィルムの用途に応じて任意である。第一実施形態に係る製造方法によれば、広範な範囲で樹脂フィルムの面内方向の複屈折を調整できるので、薄くても、用途に応じた面内レターデーションReを有することができる。
例えば、樹脂フィルムの面内レターデーションReは、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下、特に好ましくは3nm以下であってもよい。この場合、樹脂フィルムは、当該樹脂フィルムを厚み方向に透過する光に対して光学等方性のフィルムとして機能できる。
また、例えば、樹脂フィルムの面内レターデーションReは、好ましくは100nm以上、より好ましくは110nm以上、特に好ましくは120nm以上であり、好ましくは180nm以下、より好ましく170nm以下、特に好ましくは160nm以下でありうる。この場合、樹脂フィルムは、1/4波長板として機能できる。
さらに、例えば、樹脂フィルムの面内レターデーションReは、好ましくは245nm以上、より好ましくは265nm以上、特に好ましくは270nm以上であり、好ましくは320nm以下、より好ましくは300nm以下、特に好ましくは295nm以下でありうる。この場合、樹脂フィルムは、1/2波長板として機能できる。
【0101】
樹脂フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、樹脂フィルムの用途に応じて任意である。第一実施形態に係る製造方法によれば、広範な範囲で樹脂フィルムの厚み方向の複屈折を調整できるので、薄くても、用途に応じた厚み方向のレターデーションRthを有することができる。例えば、樹脂フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、好ましくは200nm以上、より好ましくは250nm以上、特に好ましくは300nm以上でありうる。また、上限は、10000nm以下でありうる。
【0102】
樹脂フィルムの面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(Nx-Ny)×tで表される値である。また、樹脂フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(Nx+Ny)/2}-Nz]×tで表される値である。「Nx」は、樹脂フィルムの面内方向で、屈折率が最大となる方向の屈折率を表す。また、「Ny」は、樹脂フィルムの面内方向で、屈折率が最小となる方向の屈折率を表す。さらに、「Nz」は、樹脂フィルムの厚み方向の屈折率を表す。また、「t」は、樹脂フィルムの厚みを表し、その値は、通常、樹脂フィルムの厚みの平均値t aveを採用しうる。面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthは、前記の通り、複屈折測定装置(Axometrics社製「AxoScan」)を用いて、測定波長590nmで測定しうる。
【0103】
熱固定工程(iv)で脂環式結晶性重合体の結晶化が促進されているので、得られる樹脂フィルムが含む脂環式結晶性重合体は、ある程度以上の結晶化度を有しうる。具体的な結晶化度の範囲は所望の性能に応じて適宜選択しうるが、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、特に好ましくは30%以上である。この脂環式結晶性重合体を有することにより、樹脂フィルムは、前述した優れた効果に加えて、更に高い耐屈曲性及び耐薬品性を有しうる。
樹脂フィルムに含まれる脂環式結晶性重合体の結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0104】
樹脂フィルムは、上述したように膜厚バラツキVtを小さくできるので、通常は、屈曲しても不均一な応力集中が生じにくく、その結果、破断が生じにくい。また、通常、樹脂フィルムは、膜厚だけでなく、レターデーション及び重合体分子の配向方向でも、面内方向の均一性を高くできるので、レターデーション及び配向方向のムラを小さくできる。
【0105】
樹脂フィルムの全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは88%以上である。樹脂フィルムの全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定しうる。
【0106】
樹脂フィルムの厚みは、所望の用途に応じて適切に設定でき、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。樹脂フィルムの厚みが前記範囲の下限値以上である場合、ハンドリング性を良好にしたり、強度を高くしたりできる。また、樹脂フィルムの厚みが上限値以下である場合、長尺の樹脂フィルムの巻取りを容易にできる。第一実施形態に係る製造方法で製造される樹脂フィルムは、膜厚バラツキVtを小さくできるので、通常は、ロールに巻き取るときの巻きムラを小さくすることができ、また、シワの発生も抑えられる。さらに、通常は、樹脂フィルムの表面に塗工層を設けるときの塗工ムラ及び塗工厚みのムラを抑えることができる。
【0107】
樹脂フィルムは、任意の用途に用いうる。中でも、樹脂フィルムは、例えば、光学等方性フィルム及び位相差フィルム等の光学フィルム、電気電子用フィルム、バリアフィルム用の基材フィルム、並びに、導電性フィルム用の基材フィルムとして好適である。前記の光学フィルムとしては、例えば、液晶表示装置用の位相差フィルム、偏光板保護フィルム、有機EL表示装置の円偏光板用の位相差フィルム、等が挙げられる。電気電子用フィルムとしては、例えば、フレキシブル配線基板、フィルムコンデンサー用絶縁材料、などが挙げられる。バリアフィルムとしては、例えば、有機EL素子用の基板、封止フィルム、太陽電池の封止フィルム、などが挙げられる。導電性フィルムとしては、例えば、有機EL素子や太陽電池のフレキシブル電極、タッチパネル部材、などが挙げられる。
【0108】
[II.第二実施形態]
[II-1.位相差フィルムの概要]
本発明の第二実施形態に係る位相差フィルムは、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成されている。第一実施形態と同じく、以下の説明において、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を「脂環式結晶性重合体」ということがある。また、脂環式結晶性重合体を含む前記の樹脂を「結晶性樹脂」ということがある。この位相差フィルムの面内方向の複屈折及び厚み方向の複屈折の少なくとも一方は、所定値以上である。また、この位相差フィルムの内部ヘイズは、所定値以下である。さらに、下記式(II-1)で示される位相差フィルムの膜厚バラツキVtIIは、所定値以下である。
VtII[%]=[(tII max-tII min)/tII ave]×100 (II-1)
(式(II-1)中、
II maxは、位相差フィルムの厚みの最大値を示し、
II minは、位相差フィルムの厚みの最小値を示し、
II aveは、位相差フィルムの厚みの平均値を示す。)
【0109】
本発明の第二実施形態に係る位相差フィルムは、従来の技術によっては製造することが困難であったが、第一実施形態で説明した製造方法を用いることにより、樹脂フィルムとしての位相差フィルムを製造することができる。
【0110】
[II-2.結晶性樹脂]
結晶性樹脂は、第一実施形態と同じものを用いうる。第二実施形態において第一実施形態と同じ結晶性樹脂を用いる場合、第一実施形態と同じ利点を得ることができる。
【0111】
第二実施形態において、結晶性樹脂に含まれる脂環式結晶性重合体は、位相差フィルムを製造するよりも前においては、結晶化していなくてもよい。しかし、位相差フィルムが製造された後においては、当該位相差フィルムを形成する結晶性樹脂が含む脂環式結晶性重合体は、通常、結晶化していることにより、ある程度の結晶化度を有することができる。位相差フィルムに含まれる脂環式結晶性重合体の結晶化が進行している場合、位相差フィルムは大きい複屈折を有することができる。具体的な結晶化度の範囲は所望の性能に応じて適宜選択しうるが、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、特に好ましくは30%以上である。また、通常は、位相差フィルムに含まれる脂環式結晶性重合体の結晶化度が前記範囲の下限値以上である場合、位相差フィルムに高い耐熱性や耐薬品性を付与することができる。
位相差フィルムに含まれる脂環式結晶性重合体の結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0112】
[II-3.位相差フィルムの特性]
(II-3.1.位相差フィルムの複屈折)
位相差フィルムの面内方向で、屈折率が最大となる方向の屈折率を「NxII」で表す。また、位相差フィルムの面内方向で、屈折率が最小となる方向の屈折率を「NyII」で表す。さらに、位相差フィルムの厚み方向の屈折率を「NzII」で表す。また、これらの方向の屈折率の差を、下記の式(II-2)~(II-4)のように表す。
ΔNxy=NxII-NyII (II-2)
ΔNxz=NxII-NzII (II-3)
ΔNyz=NyII-NzII (II-4)
【0113】
前記の場合、式(II-2)で表される屈折率の差ΔNxyは、位相差フィルムの面内方向の複屈折を表す。また、式(II-3)で表される屈折率の差ΔNxzと式(II-4)で表される屈折率の差ΔNyzとの平均「(ΔNxz+ΔNyz)/2」は、位相差フィルムの厚み方向の複屈折を表す。第二実施形態に係る位相差フィルムでは、その面内方向の複屈折「ΔNxy」及び厚み方向の複屈折「(ΔNxz+ΔNyz)/2」の少なくとも一方が、0.008以上である。
【0114】
詳細には、第二実施形態に係る位相差フィルムの面内方向の複屈折「ΔNxy」は、通常0.008以上、好ましくは0.015以上、更に好ましくは0.020以上である。第二実施形態に係る位相差フィルムは、このように大きい値の面内方向の複屈折「ΔNxy」を達成することができる。位相差フィルムの面内方向の複屈折「ΔNxy」の上限は、特段の制限はないが、通常0.025以下でありうる。面内方向の複屈折「ΔNxy」が前記の上限値以下である場合、位相差フィルムの機械的強度を高くできる。
【0115】
また、第二実施形態に係る位相差フィルムの厚み方向の複屈折「(ΔNxz+ΔNyz)/2」は、通常0.008以上、好ましくは0.012以上、更に好ましくは0.015以上である。第二実施形態に係る位相差フィルムは、このように大きい値の厚み方向の複屈折「(ΔNxz+ΔNyz)/2」を達成することができる。位相差フィルムの厚み方向の複屈折「(ΔNxz+ΔNyz)/2」の上限は、特段の制限はないが、通常0.022以下でありうる。厚み方向の複屈折「(ΔNxz+ΔNyz)/2」が前記の上限値以下である場合、位相差フィルムの機械的強度を高くできる。
【0116】
位相差フィルムの面内方向の複屈折「ΔNxy」及び厚み方向の複屈折「(ΔNxz+ΔNyz)/2」のうちの両方が前記の範囲にあってもよく、面内方向の複屈折「ΔNxy」のみが前記の範囲にあってもよく、厚み方向の複屈折「(ΔNxz+ΔNyz)/2」のみが前記の範囲にあってもよい。よって、例えば、面内方向の複屈折「ΔNxy」が前記範囲にあり、且つ、厚み方向の複屈折「(ΔNxz+ΔNyz)/2」が前記範囲の下限値未満にあってもよい。また、例えば、厚み方向の複屈折「(ΔNxz+ΔNyz)/2」が前記範囲にあり、且つ、面内方向の複屈折「ΔNxy」が前記範囲の下限値未満にあってもよい。具体的な複屈折の値は、位相差フィルムの用途に応じて設定することが望ましい。
【0117】
位相差フィルムの面内方向の複屈折「ΔNxy」は、位相差フィルムの面内レターデーションReを、位相差フィルムの厚みtIIで割り算して、Re/tIIとして求めることができる。また、位相差フィルムの厚み方向の複屈折「(ΔNxz+ΔNyz)/2」は、位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthを、位相差フィルムの厚みtIIで割り算して、Rth/tIIとして求めることができる。面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthは、複屈折測定装置(Axometrics社製「AxoScan」)を用いて、測定波長590nmで測定し得る。また、複屈折の計算の際、位相差フィルムの厚みtIIとしては、通常、後述する位相差フィルムの厚みの平均値tII aveを採用しうる。
【0118】
(II-3.2.位相差フィルムの内部ヘイズ)
位相差フィルムの内部ヘイズとは、位相差フィルムのヘイズ全体から、位相差フィルムの表面にある微細な凹凸による光散乱によるヘイズを差し引いたものをいう。第二実施形態に係る位相差フィルムの内部ヘイズは、通常1.0%以下、好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.2%以下である。第二実施形態に係る位相差フィルムは、このように小さい値の内部ヘイズを達成することができる。そして、このような内部ヘイズが小さい位相差フィルムは、透明性に優れるので、当該位相差フィルムを備える画像表示装置の画像鮮明性を向上させることができる。位相差フィルムの内部ヘイズの下限は、理想的には0.0%であるが、0.0%超であってもよい。
【0119】
位相差フィルムの内部ヘイズは、下記の方法で測定し得る。
シクロオレフィンフィルム、透明光学粘着フィルム、透明光学粘着フィルム、及び、シクロオレフィンフィルムをこの順に備える貼合積層体を形成する。この貼合積層体のヘイズ値を、ヘイズメーターを用いて測定する。測定された貼合積層体のヘイズ値は、シクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値の和に該当する。
他方、位相差フィルムの両表面に、前記の透明光学粘着フィルムを介して、前記のシクロオレフィンフィルムを貼合して、試験積層体を得る。次いで、この試験積層体のヘイズを、ヘイズメーターを用いて測定する。測定の結果得られた試験積層体のヘイズ値から、上述したシクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値の和を差し引いて、位相差フィルムの内部ヘイズを得ることができる。
【0120】
(II-3.3.位相差フィルムの膜厚バラツキ)
第二実施形態に係る位相差フィルムの膜厚バラツキVtIIは、通常5.0%以下、好ましくは4.0%以下、特に好ましくは3.0%以下である。第二実施形態に係る位相差フィルムは、このように膜厚バラツキVtIIを小さくできる。そして、このような膜厚バラツキが小さい位相差フィルムは、レターデーション及び配向を均一にできるので、当該位相差フィルムを備える画像表示装置の画質を均一にさせることができる。位相差フィルムの膜厚バラツキVtIIの下限は、理想的には0.0%であるが、0.0%超であってもよい。
【0121】
位相差フィルムの膜厚バラツキVtIIは、位相差フィルムの全体的な厚みの均一さを表す指標であり、前記の式(II-1)で表される。この膜厚バラツキVtIIは、位相差フィルムの厚みの最大値tII max、最小値tII min及び平均値tII aveを用いて求めうる。具体的には、膜厚バラツキVtIIは、下記の方法で測定できる。
【0122】
まず、位相差フィルムの厚みの測定対象領域を、位相差フィルムの面上に定める。例えば、位相差フィルムの4辺(長辺及び短辺)の長さがいずれも1m以下の枚葉のフィルムの場合、フィルム面全体を測定対象領域としうる。また、例えば、位相差フィルムの4辺(長辺及び短辺)の長さのいずれかもしくはいずれもが1mを超える枚葉のフィルム又は長尺のフィルムの場合、フィルム面に含まれる短辺の長さ×短辺の長さのサイズの任意の領域を測定対象領域としうる。
【0123】
次に、上述のように定めた測定対象領域内で、位相差フィルムの厚みの測定箇所を少なくとも30点定める。これら測定箇所は、フィルム面上において上記測定対象領域の外縁側に分布する測定箇所を直線で結んで形成される多角形の面積が、測定対象領域の70%以上を占めるようにする。ただし、外縁側に分布する測定箇所は、互いに隣り合う2点の測定箇所を結ぶ線分と、その線分の一方の端点とその端点の隣にある測定箇所とを結ぶ線分とがなす内角が180°以下であるという条件を満たす。外縁側に分布する測定箇所が定まる限りにおいて、他の測定箇所は上記多角形の領域内でその位置及び数を任意に定めることができる。ただし、前記の測定箇所は、測定箇所を頂点とする全ての三角形Xが下記の要件(A)及び(B)を満たすように定められる。(A)三角形Xの面積は、50cm以下である。(B)三角形Xの面積は、測定対象領域の面積の5%以下である。ここで、三角形Xは、複数の測定箇所のうちの3点を頂点とした三角形である。ただし、複数の測定箇所のうちの3点を頂点とした三角形のうち、その辺上及びその内側の領域に当該3点以外の測定箇所を含む三角形は、三角形Xの範疇に含めない。例えば、4辺の長さがいずれも1m以下の枚葉のフィルムの場合、実施例で説明するような方法で測定箇所を定めうる。
そして、上記のように定めた測定箇所で位相差フィルムの厚みを測定する。少なくとも30点の計測箇所で得られた厚みのうち、その最大値を、位相差フィルムの厚みの最大値tII maxとし、その最小値を、位相差フィルムの厚みの最小値tII minとし、その平均値を、位相差フィルムの厚みの平均値tII aveとする。そして、こうして求めた最大値tII max、最小値tII min及び平均値tII aveを式(II-1)に代入して、膜厚バラツキVtIIを求めうる。
【0124】
(II-3.4.位相差フィルムのその他の特性)
位相差フィルムの面内レターデーションReは、位相差フィルムの用途に応じて任意である。第二実施形態に係る位相差フィルムは、広範な範囲で面内方向の複屈折「ΔNxy」を調整できるので、薄くても、用途に応じた面内レターデーションReを有することができる。
例えば、位相差フィルムの面内レターデーションReは、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下、特に好ましくは3nm以下であってもよい。この場合、位相差フィルムは、当該位相差フィルムを厚み方向に透過する光に対して光学等方性のフィルムとして機能できる。
また、例えば、位相差フィルムの面内レターデーションReは、好ましくは100nm以上、より好ましくは110nm以上、特に好ましくは120nm以上であり、好ましくは180nm以下、より好ましく170nm以下、特に好ましくは160nm以下でありうる。この場合、位相差フィルムは、1/4波長板として機能できる。
さらに、例えば、位相差フィルムの面内レターデーションReは、好ましくは245nm以上、より好ましくは265nm以上、特に好ましくは270nm以上であり、好ましくは320nm以下、より好ましくは300nm以下、特に好ましくは295nm以下でありうる。この場合、位相差フィルムは、1/2波長板として機能できる。
【0125】
位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、位相差フィルムの用途に応じて任意である。第二実施形態に係る位相差フィルムは、広範な範囲で厚み方向の複屈折「(ΔNxz+ΔNyz)/2」を調整できるので、薄くても、用途に応じた厚み方向のレターデーションRthを有することができる。例えば、位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、好ましくは200nm以上、より好ましくは250nm以上、特に好ましくは300nm以上でありうる。また、上限は、10000nm以下でありうる。
【0126】
位相差フィルムの面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(NxII-NyII)×tIIで表される値である。また、位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(NxII+NyII)/2}-NzII]×tIIで表される値である。面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthは、前記の通り、複屈折測定装置(Axometrics社製「AxoScan」)を用いて、測定波長590nmで測定しうる。
【0127】
位相差フィルムは、上述したように膜厚バラツキVtIIが小さいので、通常は、屈曲しても不均一な応力集中が生じにくく、その結果、破断が生じにくい。また、通常、位相差フィルムは、膜厚だけでなく、レターデーション及び重合体分子の配向方向でも、面内方向での均一性が高いので、レターデーション及び配向方向のムラを小さくできる。
【0128】
位相差フィルムの全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは88%以上である。位相差フィルムの全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定しうる。
【0129】
位相差フィルムの厚みは、所望の用途に応じて適切に設定でき、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。位相差フィルムの厚みが前記範囲の下限値以上である場合、ハンドリング性を良好にしたり、強度を高くしたりできる。また、位相差フィルムの厚みが上限値以下である場合、長尺の位相差フィルムの巻取りを容易にできる。第二実施形態に係る位相差フィルムは、膜厚バラツキVtIIが小さいので、通常は、ロールに巻き取るときの巻きムラを小さくすることができ、また、シワの発生も抑えられる。さらに、通常は、位相差フィルムの表面に塗工層を設けるときの塗工ムラ及び塗工厚みのムラを抑えることができる。
【0130】
位相差フィルムは、任意の用途に用いうる。例えば、位相差フィルムの用途は、液晶表示装置用の位相差フィルム、偏光板保護フィルムとしての位相差フィルム、有機EL表示装置の円偏光板用の位相差フィルム、等が挙げられる。
【0131】
[II-4.位相差フィルムの製造方法]
第二実施形態に係る位相差フィルムは、第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法により、樹脂フィルムとして製造できる。第二実施形態に係る位相差フィルムの製造方法として、第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法を採用することによって、はじめて、上述した本発明の第二実施形態に係る位相差フィルムを製造することができる。
【0132】
第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法によって第二実施形態に係る位相差フィルムを樹脂フィルムとして製造する場合、第一実施形態で説明したのと同じ利点を得ることができる。
更に、熱固定開始温度T3と経由温度T2との差T3-T2が、前期昇温工程(iii-1)の項で説明した範囲の上限値以下である場合、脂環式結晶性重合体の結晶化を効果的に進行させて、位相差フィルムの複屈折を効果的に高めることができる。
【実施例
【0133】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0134】
[I.第一の発明に対応する実施例及び比較例の説明]
[第一の発明に対応する実施例及び比較例での評価方法]
(重合体の水素化率の測定方法)
重合体の水素化率は、オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、145℃で、H-NMR測定により測定した。
【0135】
(重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの測定方法)
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム(東ソー社製「HLC-8320」)を用いて、ポリスチレン換算値として測定した。測定の際、カラムとしてはHタイプカラム(東ソー社製)を用い、溶媒としてはテトラヒドロフランを用いた。また、測定時の温度は、40℃であった。
【0136】
(重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法)
重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定は以下のようにして行った。オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体の13C-NMR測定を行った。この13C-NMR測定の結果において、オルトジクロロベンゼン-dの127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとを同定した。これらのシグナルの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
【0137】
(ガラス転移温度Tg、融点Tm及び結晶化ピーク温度Tcの測定方法)
重合体のガラス転移温度Tg、融点Tm及び結晶化ピーク温度Tcの測定は、以下のようにして行った。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷した。続いて、この重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体のガラス転移温度Tg、融点Tm及び結晶化ピーク温度Tcを測定した。
【0138】
(樹脂フィルムの膜厚及び膜厚バラツキの測定方法)
実施例又は比較例で得た矩形の樹脂フィルムの四辺の、各々端部から50mm幅の部分を裁ち落とし、残りの部分を試験片として得た。
【0139】
試験片の4辺のうち、互いに向き合う1組の辺を「辺A」とし、かつ、辺Aに直交するもう1組の辺を「辺B」とし、辺Aに平行な3本の直線をフィルム面上に定めた。3本の直線のうち、1本は、一方の辺Aから、辺Bの長さの1/20の距離だけ離れた直線とし、別の1本は、辺Bの中点を通る直線とし、残りの1本は、他方の辺Aから、辺Bの長さの1/20の距離だけ離れた直線とした。各直線上において、一方の辺Bから辺Aの長さの1/20にある距離の点を厚みの計測箇所の始点とし、他方の辺Bから辺Aの長さの1/20にある点を終点として、等間隔で互いに離れた10点の計測箇所を定め、各計測箇所で、厚みを計測した。厚み(μm)は、接触式ウェブ厚さ計(明産社製「RC-101」)を用いて測定した。
そして、合わせて30点の計測箇所で得られた厚みのうち、その最大値を、樹脂フィルムの厚みの最大値t maxとし、その最小値を、樹脂フィルムの厚みの最小値t minとし、その平均値を、樹脂フィルムの厚みの平均値t aveとした。
【0140】
こうして求めた樹脂フィルムの厚みの最大値t max、最小値t min及び平均値t aveから、式(I-3)により、樹脂フィルムの膜厚バラツキVt[%]を計算した。
また、樹脂フィルムの厚みの平均値t aveを、後述する表に膜厚として示した。
【0141】
(樹脂フィルムのレターデーションの測定方法)
膜厚の測定後の試験片から、その中央部を100mm×100mmサイズに、試験片の各辺に平行にカットして切り出して、レターデーション測定用のサンプルフィルムを得た。このサンプルフィルムの4つの角それぞれの近傍の位置に、4つの測定点を設定した。具体的には、角からサンプルフィルムの中心に向けて20mm近づいた位置に、4つの測定点を設定した。これら4つの測定点と、サンプルフィルムの中心点との計5点で、サンプルフィルムの面内レターデーション及び厚み方向のレターデーションを測定した。測定は、複屈折測定装置(Axometrics社製「AxoScan」)を用いて、測定波長590nmで行った。こうして得られた測定値の平均値を、樹脂フィルムの面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthとして得た。
【0142】
(樹脂フィルムの内部ヘイズの測定方法)
レターデーションの測定後のサンプルフィルムから、50mm×50mmのサイズのフィルム片を切り出した。このフィルム片の両表面に、厚み50μmの透明光学粘着フィルム(3M社製「8146-2」)を介して、シクロオレフィンフィルム(日本ゼオン社製「ゼオノアフィルムZF14-040」、厚み40μm)を貼合して、試験積層体を得た。次いで、この試験積層体のヘイズを、ヘイズメーター(日本電色工業社製「NDH5000」)を用いて測定した。測定の結果得られたヘイズ値から、シクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値の和0.04%を差し引いて、試験片としての樹脂フィルムの内部ヘイズを求めた。
【0143】
また、シクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値の和は、下記の要領で測定した。シクロオレフィンフィルム、透明光学粘着フィルム、透明光学粘着フィルム、及び、シクロオレフィンフィルムをこの順に備える貼合積層体を形成した。そして、この貼合積層体のヘイズ値を測定し、こうして得られた測定値を、シクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値の和とした。
【0144】
(樹脂フィルムの熱膨張率の測定方法)
レターデーションの測定後のサンプルフィルムの、内部ヘイズ測定用のフィルム片を切り出した残りの部分を、5mm×20mmの短冊状に切り出して、試料を得た。この切り出しは、短冊状の試料の長手方向が、原反フィルムのTD方向に一致するように、行った。この試料の長手方向に50mNの張力を加えた状態で、昇温速度10℃/分で、温度20℃から130℃までの線膨張を測定した。測定は、熱機械分析装置(エスエスアイ・ナノテクノロジー社製「TMA/SS7100」)を用いて行った。測定された線膨張の値を、元の長さ(即ち、線膨張前の長さ)で割り算して、熱膨張率(%)を求めた。
【0145】
[製造例I-1.ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の製造]
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この金属製耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び1-ヘキセン1.8部を加え、53℃に加温した。
【0146】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解した溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。
この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,830および29,800であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.37であった。
【0147】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0148】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間水素化反応を行った。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素化物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0149】
前記の反応液に含まれる水素化物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物28.5部を得た。この水素化物の水素化率は99%以上、ガラス転移温度Tgは97℃、融点Tmは266℃、結晶化ピーク温度Tcは136℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0150】
[製造例I-2.原反フィルムの製造]
製造例I-1で得たジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合して、結晶性樹脂を得た。
【0151】
前記の結晶性樹脂を、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出機(東芝機械社製「TEM-37B」)に投入した。前記の二軸押出機によって、樹脂を熱溶融押出成形によりストランド状の成形体に成形した。この成形体をストランドカッターにて細断して、樹脂のペレットを得た。前記の二軸押出機の運転条件を、以下に示す。
・バレル設定温度:270℃~280℃
・ダイ設定温度:250℃
・スクリュー回転数:145rpm
・フィーダー回転数:50rpm
【0152】
引き続き、得られた樹脂のペレットを、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機に供給した。フィルム成形機の運転条件として、バレル温度280℃~290℃、ダイ温度270℃、及びスクリュー回転数30rpmを設定した。このフィルム成形機が、前記樹脂ペレットが溶融した溶融樹脂を、表面線速度3.8m/分で回転するキャストロール上に向けて、幅500mmのフィルム状に、押し出した(キャスト)。その後、押し出された溶融樹脂が、ロール上で冷却されることにより、長尺のフィルム状に成形されて、厚み80μmの原反フィルムを得た。
【0153】
[実施例I-1]
バッチ式二軸延伸装置(エトー社製)を用意した。この延伸装置は、それぞれ独立に温度設定が可能な3つのオーブンユニットと、フィルム片を固定可能な延伸用のクリップとを備えていた。この延伸装置を用いれば、オーブンの設定温度を調整することにより、フィルム片の温度を任意の昇温速度で昇温させることが可能である。また、この延伸装置を用いれば、クリップにフィルム片を固定したままオーブンユニットを交換することで、フィルム片の温度を急速に変更することが可能である。
【0154】
製造例I-2で得られた厚み80μmの原反フィルムを、MD方向:150mm、TD方向:200mmのサイズにカットして、矩形のフィルム片を得た。このフィルム片を、前記の延伸装置に取り付けた。具体的には、フィルム片の四辺を、延伸装置のクリップに固定した。
【0155】
その後、クリップを固定した状態で、フィルム片の温度を、後述する延伸温度と同じ予熱温度に30秒間維持した(予熱工程)。
【0156】
次いで、延伸温度110℃でクリップの間隔を30秒間かけて広げることにより、MD方向の長さは固定したままTD方向に2.0倍に延伸した(延伸工程)。よって、この延伸の面延伸倍率は2.0倍であった。延伸は一定の温度で行ったので、延伸終了温度T1は110℃であった。
【0157】
その後、引き続きフィルム片の四辺を当該クリップで固定した状態で、フィルム片の温度を前記の延伸終了温度T1から155℃の経由温度T2に、130秒かけて昇温した(前期昇温工程)。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数が6%であったことから、昇温速度が一定であることを確認した。
【0158】
さらに、引き続き30秒間かけて、フィルム片の温度を、前記の経由温度T2から170℃の熱固定開始温度T3に昇温させた(後期昇温工程)。
【0159】
次いで、フィルム片の温度を、前記の熱固定開始温度T3に30秒間維持した(熱固定工程)。その後、延伸装置からフィルム片を取り出し、取り出されたフィルム片を樹脂フィルムとして評価した。
また、フィルム片に含まれる重合体(ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物)の結晶化度(%)を、X線回折法によって測定したところ、32%であった。
【0160】
[実施例I-2]
後期昇温工程を、前期昇温工程で用いられていたオーブンユニットと、予め熱固定開始温度T3に設定しておいたオーブンユニットとを交換することによって行った。よって、後期昇温工程における昇温は急速に進行し、経由温度T2から熱固定開始温度T3までのフィルム片の昇温は3秒以内に完了した。
また、熱固定工程において、延伸装置からのフィルム片の取り出しを、後期昇温工程においてオーブンユニットを交換した時点から30秒後の時点で行った。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0161】
[実施例I-3]
前期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を50秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、11%であった。以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0162】
[実施例I-4]
前期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を20秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、14%であった。以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0163】
[実施例I-5]
前期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を15秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、15%であった。以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0164】
[比較例I-1]
前期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を10秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、16%であった。以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0165】
[比較例I-2]
前期昇温工程を、延伸工程で用いられていたオーブンユニットと、予め経由温度T2に設定しておいたオーブンユニットとを交換することによって行った。よって、前期昇温工程における昇温は急速に進行し、延伸終了温度T1から経由温度T2までのフィルム片の昇温は3秒以内に完了した。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0166】
[比較例I-3]
前期昇温工程を、延伸工程で用いられていたオーブンユニットと、予め経由温度T2に設定しておいたオーブンユニットとを交換することによって行った。よって、前期昇温工程における昇温は急速に進行し、延伸終了温度T1から経由温度T2までのフィルム片の昇温は3秒以内に完了した。
また、後期昇温工程を、前期昇温工程で用いられていたオーブンユニットと、予め熱固定開始温度T3に設定しておいたオーブンユニットとを交換することによって行った。よって、後期昇温工程における昇温は急速に進行し、経由温度T2から熱固定開始温度T3までのフィルム片の昇温は3秒以内に完了した。
さらに、熱固定工程において、延伸装置からのフィルム片の取り出しを、後期昇温工程においてオーブンユニットを交換した時点から30秒後の時点で行った。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0167】
[実施例I-6]
前期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を200秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、5%であった。以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0168】
[実施例I-7]
前期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を250秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、4%であった。以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0169】
[比較例I-4]
前期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を300秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、3%であった。以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0170】
[実施例I-8]
後期昇温工程を、前期昇温工程で用いられていたオーブンユニットと、予め熱固定開始温度T3に設定しておいたオーブンユニットとを交換することによって行った。よって、後期昇温工程における昇温は急速に進行し、経由温度T2から熱固定開始温度T3までのフィルム片の昇温は3秒以内に完了した。
また、熱固定工程において、延伸装置からのフィルム片の取り出しを、後期昇温工程においてオーブンユニットを交換した時点から15秒後の時点で行った。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0171】
[比較例I-5]
後期昇温工程を、前期昇温工程で用いられていたオーブンユニットと、予め熱固定開始温度T3に設定しておいたオーブンユニットとを交換することによって行った。よって、後期昇温工程における昇温は急速に進行し、経由温度T2から熱固定開始温度T3までのフィルム片の昇温は3秒以内に完了した。
また、熱固定工程において、延伸装置からのフィルム片の取り出しを、後期昇温工程においてオーブンユニットを交換した時点から5秒後の時点で行った。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0172】
[比較例I-6]
前期昇温工程を、延伸工程で用いられていたオーブンユニットと、予め経由温度T2に設定しておいたオーブンユニットとを交換することによって行った。よって、前期昇温工程における昇温は急速に進行し、延伸終了温度T1から経由温度T2までのフィルム片の昇温は3秒以内に完了した。
また、後期昇温工程を、前期昇温工程で用いられていたオーブンユニットと、予め熱固定開始温度T3に設定しておいたオーブンユニットとを交換することによって行った。よって、後期昇温工程における昇温は急速に進行し、経由温度T2から熱固定開始温度T3までのフィルム片の昇温は3秒以内に完了した。
さらに、熱固定工程において、延伸装置からのフィルム片の取り出しを、後期昇温工程においてオーブンユニットを交換した時点から5秒後の時点で行った。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0173】
[実施例I-9]
後期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を経由温度T2から熱固定開始温度T3まで昇温するのに要する昇温時間を、120秒に変更した。
また、後期昇温工程及び熱固定工程において、熱固定開始温度T3を190℃に変更した。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0174】
[実施例I-10]
後期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を経由温度T2から熱固定開始温度T3まで昇温するのに要する昇温時間を、170秒に変更した。
また、後期昇温工程及び熱固定工程において、熱固定開始温度T3を190℃に変更した。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0175】
[比較例I-7]
後期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を経由温度T2から熱固定開始温度T3まで昇温するのに要する昇温時間を、270秒に変更した。
また、後期昇温工程及び熱固定工程において、熱固定開始温度T3を190℃に変更した。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0176】
[実施例I-11]
予熱工程及び延伸工程において、予熱温度及び延伸温度を115℃に変更した。よって、延伸終了温度T1は、115℃であった。
また、前期昇温工程において、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間が130秒となるように、昇温速度を変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、6%であった。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0177】
[実施例I-12]
予熱工程及び延伸工程において、予熱温度及び延伸温度を120℃に変更した。よって、延伸終了温度T1は、120℃であった。
また、前期昇温工程において、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間が130秒となるように、昇温速度を変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、6%であった。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0178】
[比較例I-8]
予熱工程及び延伸工程において、予熱温度及び延伸温度を130℃に変更した。よって、延伸終了温度T1は、130℃であった。
また、前期昇温工程において、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間が130秒となるように、昇温速度を変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、6%であった。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0179】
[実施例I-13]
予熱工程及び延伸工程において、予熱温度及び延伸温度を105℃に変更した。よって、延伸終了温度T1は、105℃であった。
また、前期昇温工程において、経由温度T2を165℃に変更した。さらに、前期昇温工程において、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間が200秒となるように、昇温速度を変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、5%であった。
さらに、後期昇温工程を、前期昇温工程で用いられていたオーブンユニットと、予め熱固定開始温度T3に設定しておいたオーブンユニットとを交換することによって行った。よって、後期昇温工程における昇温は急速に進行し、経由温度T2から熱固定開始温度T3までのフィルム片の昇温は3秒以内に完了した。
また、熱固定工程において、延伸装置からのフィルム片の取り出しを、後期昇温工程においてオーブンユニットを交換した時点から30秒後の時点で行った。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0180】
[実施例I-14]
予熱工程及び延伸工程において、予熱温度及び延伸温度を120℃に変更した。よって、延伸終了温度T1は、120℃であった。
また、前期昇温工程において、経由温度T2を145℃に変更した。さらに、前期昇温工程において、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間が25秒となるように、昇温速度を変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、13%であった。
以上の事項以外は、実施例I-1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0181】
[結果]
前記の実施例及び比較例の構成及び結果を、下記の表に示す。
【0182】
【表1】
【0183】
【表2】
【0184】
[II.第二の発明に対応する実施例及び比較例の説明]
[第二の発明に対応する実施例及び比較例での評価方法]
(重合体の水素化率の測定方法)
重合体の水素化率は、第一の発明に対応する実施例及び比較例で用いた測定方法と同じ方法で測定した。
【0185】
(重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの測定方法)
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、第一の発明に対応する実施例及び比較例で用いた測定方法と同じ方法で測定した。
【0186】
(重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法)
重合体のラセモ・ダイアッドの割合は、第一の発明に対応する実施例及び比較例で用いた測定方法と同じ方法で測定した。
【0187】
(ガラス転移温度Tg、融点Tm及び結晶化ピーク温度Tcの測定方法)
重合体のガラス転移温度Tg、融点Tm及び結晶化ピーク温度Tcの測定は、第一の発明に対応する実施例及び比較例で用いた測定方法と同じ方法で測定した。
【0188】
(位相差フィルムの膜厚及び膜厚バラツキの測定方法)
実施例又は比較例で得た矩形の位相差フィルムの四辺の、各々端部から50mm幅の部分を裁ち落とし、残りの部分を試験片として得た。
【0189】
試験片の4辺のうち、互いに向き合う1組の辺を「辺A」とし、かつ、辺Aに直交するもう1組の辺を「辺B」とし、辺Aに平行な3本の直線をフィルム面上に定めた。3本の直線のうち、1本は、一方の辺Aから、辺Bの長さの1/20の距離だけ離れた直線とし、別の1本は、辺Bの中点を通る直線とし、残りの1本は、他方の辺Aから、辺Bの長さの1/20の距離だけ離れた直線とした。各直線上において、一方の辺Bから辺Aの長さの1/20にある距離の点を厚みの計測箇所の始点とし、他方の辺Bから辺Aの長さの1/20にある点を終点として、等間隔で互いに離れた10点の計測箇所を定め、各計測箇所で、厚みを計測した。厚み(μm)は、接触式ウェブ厚さ計(明産社製「RC-101」)を用いて測定した。
そして、合わせて30点の計測箇所で得られた厚みのうち、その最大値を、位相差フィルムの厚みの最大値tII maxとし、その最小値を、位相差フィルムの厚みの最小値tII minとし、その平均値を、位相差フィルムの厚みの平均値tII aveとした。
【0190】
こうして求めた位相差フィルムの厚みの最大値tII max、最小値tII min及び平均値tII aveから、式(II-1)により、位相差フィルムの膜厚バラツキVtII[%]を計算した。
また、位相差フィルムの厚みの平均値tII aveを、後述する表に膜厚として示した。
【0191】
(位相差フィルムのレターデーションの測定方法)
位相差フィルムのレターデーションは、第一の発明に対応する実施例及び比較例で用いた樹脂フィルムのレターデーションの測定方法と同じ方法で測定した。
【0192】
(位相差フィルムの複屈折の測定方法)
位相差フィルムの面内レターデーションReを、位相差フィルムの厚みの平均値tII aveで割り算して、面内方向の複屈折ΔNxyを求めた。
また、位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthを、位相差フィルムの厚みの平均値tII aveで割り算して、厚み方向の複屈折「(ΔNxz+ΔNyz)/2」を求めた。
【0193】
(位相差フィルムの内部ヘイズの測定方法)
位相差フィルムの内部ヘイズは、第一の発明に対応する実施例及び比較例で用いた樹脂フィルムの内部ヘイズの測定方法と同じ方法で測定した。
【0194】
[製造例II-1.ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の製造]
製造例I-1と同じ方法により、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を得た。この水素化物の水素化率は99%以上、ガラス転移温度Tgは97℃、融点Tmは266℃、結晶化ピーク温度Tcは136℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0195】
[製造例II-2.原反フィルムII-1の製造]
製造例II-1で得たジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合して、結晶性樹脂を得た。
【0196】
前記の結晶性樹脂を、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出機(東芝機械社製「TEM-37B」)に投入した。前記の二軸押出機によって、樹脂を熱溶融押出成形によりストランド状の成形体に成形した。この成形体をストランドカッターにて細断して、樹脂のペレットを得た。前記の二軸押出機の運転条件を、以下に示す。
・バレル設定温度:270℃~280℃
・ダイ設定温度:250℃
・スクリュー回転数:145rpm
・フィーダー回転数:50rpm
【0197】
引き続き、得られた樹脂のペレットを、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機に供給した。フィルム成形機の運転条件として、バレル温度280℃~290℃、ダイ温度270℃、及びスクリュー回転数30rpmを設定した。このフィルム成形機が、前記樹脂ペレットが溶融した溶融樹脂を、表面線速度3m/分で回転するキャストロール上に向けて、幅500mmのフィルム状に、押し出した(キャスト)。その後、押し出された溶融樹脂が、ロール上で冷却されることにより、長尺のフィルム状に成形されて、厚み100μmの原反フィルムII-1を得た。
【0198】
[製造例II-3.原反フィルム2の製造]
キャストロールの表面線速度を6m/分に変更したこと以外は、製造例II-2と同じ操作を行って、厚み50μmの原反フィルムII-2を製造した。
【0199】
[実施例II-1]
バッチ式二軸延伸装置(エトー社製)を用意した。この延伸装置は、それぞれ独立に温度設定が可能な3つのオーブンユニットと、フィルム片を固定可能な延伸用のクリップとを備えていた。この延伸装置を用いれば、オーブンの設定温度を調整することにより、フィルム片の温度を任意の昇温速度で昇温させることが可能である。また、この延伸装置を用いれば、クリップにフィルム片を固定したままオーブンユニットを交換することで、フィルム片の温度を急速に変更することが可能である。
【0200】
製造例II-2で得られた厚み100μmの原反フィルムII-1を、MD方向:150mm、TD方向:150mmのサイズにカットして、矩形のフィルム片を得た。このフィルム片を、前記の延伸装置に取り付けた。具体的には、フィルム片の四辺を、延伸装置のクリップに固定した。
【0201】
その後、クリップを固定した状態で、フィルム片の温度を、後述する延伸温度と同じ予熱温度に30秒間維持した(予熱工程)。
【0202】
次いで、延伸温度110℃でクリップの間隔を広げることにより、フィルム片をMD方向及びTD方向に30秒間かけて同時に延伸する同時二軸延伸を行った(延伸工程)。MD方向及びTD方向の延伸倍率はいずれも2.2倍であり、面延伸倍率は4.84倍であった。この同時二軸延伸は一定の温度で行ったので、延伸終了温度T1は110℃であった。
【0203】
その後、引き続きフィルム片の四辺を当該クリップで固定した状態で、フィルム片の温度を前記の延伸終了温度T1から155℃の経由温度T2に、90秒かけて昇温した(前期昇温工程)。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数が変動係数は8%であったことから、昇温速度が一定であることを確認した。
【0204】
さらに、引き続き30秒間かけて、フィルム片の温度を、前記の経由温度T2から170℃の熱固定開始温度T3に昇温させた(後期昇温工程)。
【0205】
次いで、フィルム片の温度を、前記の熱固定開始温度T3に30秒間維持した(熱固定工程)。その後、延伸装置からフィルム片を取り出し、取り出されたフィルム片を位相差フィルムとして評価した。
また、フィルム片に含まれる重合体(ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物)の結晶化度(%)を、X線回折法によって測定したところ、35%であった。
【0206】
[実施例II-2]
前期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を50秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、11%であった。以上の事項以外は、実施例II-1と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0207】
[実施例II-3]
前期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を20秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、14%であった。以上の事項以外は、実施例II-1と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0208】
[比較例II-1]
前期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を10秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、16%であった。以上の事項以外は、実施例II-1と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0209】
[比較例II-2]
前期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を10秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、16%であった。
また、後期昇温工程を、前期昇温工程で用いられていたオーブンユニットと、予め熱固定開始温度T3に設定しておいたオーブンユニットとを交換することによって行った。よって、後期昇温工程における昇温は急速に進行し、経由温度T2から熱固定開始温度T3までのフィルム片の昇温は3秒以内に完了した。
また、熱固定工程において、延伸装置からのフィルム片の取り出しを、後期昇温工程においてオーブンユニットを交換した時点から30秒後の時点で行った。
以上の事項以外は、実施例II-1と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0210】
[比較例II-3]
前期昇温工程を、延伸工程で用いられていたオーブンユニットと、予め経由温度T2に設定しておいたオーブンユニットとを交換することによって行った。よって、前期昇温工程における昇温は急速に進行し、延伸終了温度T1から経由温度T2までのフィルム片の昇温は3秒以内に完了した。
また、後期昇温工程を、前期昇温工程で用いられていたオーブンユニットと、予め熱固定開始温度T3に設定しておいたオーブンユニットとを交換することによって行った。よって、後期昇温工程における昇温は急速に進行し、経由温度T2から熱固定開始温度T3までのフィルム片の昇温は3秒以内に完了した。
さらに、熱固定工程において、延伸装置からのフィルム片の取り出しを、後期昇温工程においてオーブンユニットを交換した時点から30秒後の時点で行った。
以上の事項以外は、実施例II-1と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0211】
[実施例II-4]
前期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を200秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、5%であった。
また、後期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を経由温度T2から熱固定開始温度T3まで昇温するのに要する昇温時間を、150秒に変更した。
さらに、熱固定工程において、フィルム片の温度を熱固定開始温度T3に維持する時間を50秒に変更した。
以上の事項以外は、実施例II-1と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0212】
[比較例II-4]
前期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を300秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、3%であった。
また、後期昇温工程において、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を経由温度T2から熱固定開始温度T3まで昇温するのに要する昇温時間を、225秒に変更した。
さらに、熱固定工程において、フィルム片の温度を熱固定開始温度T3に維持する時間を75秒に変更した。
以上の事項以外は、実施例II-1と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0213】
[実施例II-5]
予熱温度及び延伸温度を120℃に変更した。よって、延伸終了温度T1も、120℃に変更された。また、前期昇温工程において、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間が90秒となるように、フィルム片の昇温速度を調整した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、8%であった。
以上の事項以外は、実施例II-1と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0214】
[実施例II-6]
予熱温度及び延伸温度を122℃に変更した。よって、延伸終了温度T1も、122℃に変更された。また、前期昇温工程において、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間が90秒となるように、フィルム片の昇温速度を調整した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、8%であった。
以上の事項以外は、実施例II-1と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0215】
[比較例II-5]
予熱温度及び延伸温度を130℃に変更した。よって、延伸終了温度T1も、130℃に変更された。また、前期昇温工程において、フィルム片の温度を延伸終了温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間が90秒となるように、フィルム片の昇温速度を調整した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、8%であった。
以上の事項以外は、実施例II-1と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0216】
[実施例II-7]
延伸工程におけるMD方向の延伸倍率を2.0倍、TD方向の延伸倍率を2.0倍に変更することにより、面延伸倍率を4.00倍に変更した。
また、前期昇温工程において、経由温度T2を165℃に変更した。さらに、昇温速度を変更することにより、フィルム片の温度を延伸温度T1から経由温度T2まで昇温するのに要する昇温時間を70秒に変更した。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は、9%であった。
また、後期昇温工程及び熱固定工程において、熱固定開始温度T3を180℃に変更した。
さらに、後期昇温工程を、前期昇温工程で用いられていたオーブンユニットと、予め前記の熱固定開始温度T3に設定しておいたオーブンユニットとを交換することによって行った。よって、後期昇温工程における昇温は急速に進行し、経由温度T2から熱固定開始温度T3までのフィルム片の昇温は3秒以内に完了した。
また、熱固定工程において、延伸装置からのフィルム片の取り出しを、後期昇温工程においてオーブンユニットを交換した時点から30秒後の時点で行った。
以上の事項以外は、実施例II-1と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0217】
[実施例II-8]
製造例II-3で得られた厚み50μmの原反フィルム2を、MD方向:150mm、TD方向:250mmのサイズにカットして、矩形のフィルム片を得た。このフィルム片を、実施例II-1と同じ延伸装置に取り付けた。具体的には、フィルム片の四辺を、延伸装置のクリップに固定した。
【0218】
その後、クリップを固定した状態で、フィルム片の温度を、後述する延伸温度と同じ予熱温度に30秒間維持した(予熱工程)。
【0219】
次いで、延伸温度115℃でクリップの間隔を広げることにより、フィルム片をTD方向の長さを固定したままMD方向に30秒間かけて延伸する固定端一軸延伸を行った(延伸工程)。MD方向の延伸倍率は2.50倍であり、よって面延伸倍率も2.50倍であった。この固定端一軸延伸は一定の温度で行ったので、延伸終了温度T1は115℃であった。
【0220】
その後、引き続きフィルム片の四辺を当該クリップで固定した状態で、フィルム片の温度を前記の延伸終了温度T1から150℃の経由温度T2に、90秒かけて昇温した(前期昇温工程)。この前期昇温工程を10等分した各時間区分の温度変化ΔTiの変動係数は8%であったことから、昇温速度が一定であることを確認した。
【0221】
さらに、引き続き30秒間かけて、フィルム片の温度を、前記の経由温度T2から170℃の熱固定開始温度T3に昇温させた(後期昇温工程)。
【0222】
次いで、フィルム片の温度を、前記の熱固定開始温度T3に30秒間維持した(熱固定工程)。その後、延伸装置からフィルム片を取り出し、取り出されたフィルム片を位相差フィルムとして評価した。
【0223】
[実施例II-9]
MD方向への延伸倍率を2.00倍に変更することにより、面延伸倍率を2.00倍に変更したこと以外は、実施例II-8と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0224】
[結果]
前記の実施例及び比較例の構成及び結果を、下記の表に示す。下記の表において、略称の意味は、以下の通りである。
延伸方法の欄「A」:同時二軸延伸(MD、TD等倍延伸)。
延伸方向の欄「B」:固定端一軸延伸(MD)。
【0225】
【表3】
【0226】
【表4】