(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】オレフィンの回収方法
(51)【国際特許分類】
C07C 7/12 20060101AFI20231031BHJP
C07C 11/04 20060101ALI20231031BHJP
B01D 53/047 20060101ALI20231031BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20231031BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20231031BHJP
C07C 205/57 20060101ALN20231031BHJP
C07F 3/06 20060101ALN20231031BHJP
【FI】
C07C7/12
C07C11/04
B01D53/047
B01J20/22 A
B01J20/34 E
C07C205/57
C07F3/06
(21)【出願番号】P 2021542666
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029335
(87)【国際公開番号】W WO2021039273
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2019152875
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢広
(72)【発明者】
【氏名】奥村 吉邦
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/115033(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/103778(WO,A1)
【文献】特開2013-063951(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0073788(US,A1)
【文献】特開2003-144827(JP,A)
【文献】特表2018-523730(JP,A)
【文献】米国特許第04769047(US,A)
【文献】特開2011-219471(JP,A)
【文献】特開2017-189750(JP,A)
【文献】特開2018-071894(JP,A)
【文献】特開平07-033404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07F
B01D
B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンを原料とする化学反応プロセスのストリームから圧力スイング吸着法により未反応のオレフィンを回収する方法において、吸着圧力(P)とオレフィン吸着量(A)を示した吸着等温線において、吸着量(A)を圧力(P)の関数としてA=f(P)とした場合、AをPで微分した値(dA/dP)において、吸着時に極大値を示す圧力P3及び脱着時に極大値を示す圧力P4が、吸着操作圧力P1と脱着操作圧力P2の間にある金属錯体を分離剤として用い、
前記脱着操作圧力P2が常圧以上であり、
前記金属錯体が、金属イオンと有機配位子から構成され、
前記金属イオンが亜鉛のイオンであり、前記有機配位子が、5-ニトロイソフタル酸、1,2-ジ(4-ピリジル)エタン、及び1,2-ジ(4-ピリジル)エチレンの組み合わせであることを特徴とするオレフィン回収方法。
【請求項2】
前記金属錯体の吸着操作時の吸着等温線において、吸着操作圧力P1におけるオレフィン吸着量A1と、脱着操作圧力P2におけるオレフィン吸着量A2とが、
(A1-A2)×P2/((P1-P2)×A2)≧0.4
の関係を満たす請求項
1に記載のオレフィン回収方法。
【請求項3】
前記オレフィンの炭素原子数が2~4である請求項1
又は2に記載のオレフィン回収方法。
【請求項4】
前記オレフィンがエチレンである請求項1~
3のいずれか一項に記載のオレフィン回収方法。
【請求項5】
前記化学反応プロセスが酢酸ビニル製造プロセス、酢酸エチル製造プロセス、酢酸アリル製造プロセス、ポリエチレン製造プロセス、又はポリプロピレン製造プロセスのいずれかである請求項1~
4のいずれか一項に記載のオレフィン回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オレフィンを原料とする化学反応プロセスから未反応のオレフィンを回収する方法に関する。より詳しくは再使用可能な金属錯体を分離剤として用いるオレフィン回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン又はプロピレンを酸素ガス及び酢酸と反応させて酢酸ビニル又は酢酸アリルを製造するプロセス、エチレン又はプロピレンを重合してポリエチレン又はポリプロピレンを製造するプロセス、エチレンと酢酸とから酢酸エチルを製造するプロセス、エチレンと酸素ガスとから酢酸を製造するプロセスのようなオレフィンを原料とする化学反応プロセスでは、未反応の原料オレフィンは循環ガスとして再利用されることが多い。この再利用を、
図3に示すオレフィンを原料とする化学反応のプロセスの模式図を用いて説明する。原料オレフィンは反応器へ送られ分離器で目的物を多く含む液と未反応の原料オレフィンを多く含むガスに分離される。目的物を多く含む液は粗製タンクに一時蓄えられたのち精製系へと送られる。未反応オレフィンを多く含むガスは循環ガスとして原料を追加混合され反応器へ送られる。この循環ガスには、原料オレフィン中に微量含まれる不純物や圧補償用の窒素ガス等が含まれており、これら不純物や窒素ガスがプロセス内に蓄積することを抑制するために、循環ガスの一部を排ガスとして系外に抜き出して廃棄している。この抜き出した排ガスは原料オレフィンを多く含むためオレフィンを回収することが望ましい。
【0003】
混合ガスから特定のガスを分離するのに有用な多孔性金属錯体が開発されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、細孔の構造又はサイズの変化を伴いながら特定のガスのみ選択的に吸着する多孔性金属錯体が記載されている。さらに、特許文献2及び非特許文献1には、接触するガスの種類により構造が変化するフレキシブルな多孔性金属錯体及びそれを用いたガス分離方法も記載されている。また、特許文献3には、ゲート的にガス吸着を示すゲート型高分子錯体と、I型的にガスを吸着するI型錯体の両方の特性がスイッチング材によって変化する多孔性金属錯体が記載されている。吸着等温線の型については非特許文献2に記載されている。非特許文献1には一定の圧力まではほとんどガスを吸着しないが一定圧力以上で急激に吸着量が増加するゲートオープン型の吸着等温線を示す金属錯体が記載されている。なお、ここでいう「多孔性」とは、吸着対象である炭化水素分子を取り込んだり、放出したりできるサイズで、金属錯体が分子レベルの特殊な構造(空隙)を有することを意味する。柔軟な構造を有する金属錯体の場合、圧力などの外的刺激による構造変化により空隙の形状及び/又はサイズが変化する場合がある。
【0004】
これらの文献には、実際の工業的分離プロセスに用いる場合の吸着したガスを多孔性金属錯体から脱着させる方法としては、真空ポンプ等を利用して減圧する方法、加熱する方法、及び加熱真空引きする方法が記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-208028号公報
【文献】特許第4994398号公報
【文献】特許第4834048号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】植村一広、北川進、未来材料、第2巻、44~51頁(2002年)
【文献】竹内雍、「吸着分離」、培風館、35頁(2000年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなガスを吸着する材料を実際の工業的な圧力スイング吸着法のプロセスに分離剤として用いる場合には、吸着したガスを分離剤から脱着させて再使用できることが必要である。しかしながら多くの分離剤は、非特許文献2記載のI型の吸着等温線を示し、一般に常圧では十分に脱着させることができないため、脱着操作圧力P2を常圧より低く設定して真空ポンプ等を用いて減圧状態とする。減圧によるガスの脱着は、そのための設備投資や運転のエネルギーコストがかかるため、好ましい方法とは言えない。
【0008】
本発明の目的は、オレフィンを原料とする化学反応プロセスのストリームから圧力スイング吸着法により未反応のオレフィンを回収する方法において、比較的高い脱着操作圧力、より好ましくは常圧以上の圧力でガスを脱着して分離剤を再使用することができるオレフィン回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、分離剤(吸着剤)の吸着圧力(P)とオレフィン吸着量(A)を示した吸着等温線において、吸着量(A)を圧力(P)の関数としてA=f(P)とした場合のAをPで微分した値(dA/dP)において、吸着時に極大値を示す圧力P3及び脱着時に極大値を示す圧力P4が、吸着操作圧力P1と脱着操作圧力P2の間にある金属錯体を分離剤として用いると、圧力P2で容易にオレフィンを脱着回収できることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は以下の[1]~[8]を包含する。
【0010】
[1]
オレフィンを原料とする化学反応プロセスのストリームから圧力スイング吸着法により未反応のオレフィンを回収する方法において、吸着圧力(P)とオレフィン吸着量(A)を示した吸着等温線において、吸着量(A)を圧力(P)の関数としてA=f(P)とした場合、AをPで微分した値(dA/dP)において、吸着時に極大値を示す圧力P3及び脱着時に極大値を示す圧力P4が、吸着操作圧力P1と脱着操作圧力P2の間にある金属錯体を分離剤として用いることを特徴とするオレフィン回収方法。
[2]
前記金属錯体の吸着操作時の吸着等温線において、吸着操作圧力P1におけるオレフィン吸着量A1と、脱着操作圧力P2におけるオレフィン吸着量A2とが、
(A1-A2)×P2/((P1-P2)×A2)≧0.4
の関係を満たす[1]に記載のオレフィン回収方法。
[3]
前記脱着操作圧力P2が常圧以上である[1]又は[2]のいずれかに記載のオレフィン回収方法。
[4]
前記オレフィンの炭素原子数が2~4である[1]~[3]のいずれかに記載のオレフィン回収方法。
[5]
前記オレフィンがエチレンである[1]~[4]のいずれかに記載のオレフィン回収方法。
[6]
前記化学反応プロセスが酢酸ビニル製造プロセス、酢酸エチル製造プロセス、酢酸アリル製造プロセス、ポリエチレン製造プロセス、又はポリプロピレン製造プロセスのいずれかである[1]~[5]のいずれかに記載のオレフィン回収方法。
[7]
前記金属錯体が、金属イオンと有機配位子から構成され、前記有機配位子が、下記(1)~(3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物である[1]~[6]のいずれかに記載のオレフィン回収方法。
(1)分子内に、カルボキシ基及び/又は水酸基を2つ以上有し、複素環を有さず、金属イオンに二座配位可能な有機化合物
(2)分子内に、N、O又はSから選択される1のヘテロ原子を有する単環式又は多環式の飽和又は不飽和の複素環と、カルボキシ基又は水酸基を有する、金属イオンに二座配位可能な有機化合物
(3)分子内に、N、O及びSからなる群より選択されるヘテロ原子を2以上有する単環式又は多環式の飽和又は不飽和の複素環を有する、金属イオンに二座配位可能な有機化合物
[8]
前記金属錯体が、金属イオンと有機配位子から構成され、前記有機配位子が、炭素原子数4~20のアルキレンジカルボン酸化合物、炭素原子数4~20のアルケニレンジカルボン酸化合物、下記一般式(I)~(III)で表されるジカルボン酸化合物:
【化1】
(式中、R
1はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、ホルミル基、炭素原子数1~4のアシロキシ基、炭素原子数1~4のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基、アミノ基、炭素原子数1~4のモノアルキルアミノ基、炭素原子数1~4のアルキル基を有するジアルキルアミノ基又は炭素原子数1~4のアシルアミノ基であり、2つ以上のR
1が縮合して環を形成してもよい。)、下記一般式(IV)で表されるジカルボン酸化合物:
【化2】
(式中、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素原子数1~4のアルキル基であり、Xは水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルケニル基、炭素原子数2~4のアルキニル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、水酸基又はアミノ基である。)、下記一般式(V)で表されるヒドロキシカルボン酸化合物:
【化3】
(式中、R
3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルケニル基、炭素原子数2~4のアルキニル基又は炭素原子数1~4のアルコキシ基である。)、下記一般式(VI)~(VIII)で表される有機化合物:
【化4】
(式中、R
3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルケニル基、炭素原子数2~4のアルキニル基又は炭素原子数1~4のアルコキシ基である。)、及び、下記一般式(IX)~(XII)で表される有機化合物:
【化5】
(式中、Yは独立に、酸素原子、硫黄原子、-CH
2-、-CH(OH)-、-CO-、-NH-、-C
2N
4-、-C≡C-、-C
2H
2-又は-C
6H
4-であり、R
4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、ホルミル基、炭素原子数1~4のアシロキシ基、炭素原子数1~4のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基、アミノ基、炭素原子数1~4のモノアルキルアミノ基、炭素原子数1~4のアルキル基を有するジアルキルアミノ基又は炭素原子数1~4のアシルアミノ基であり、nは0~3の整数である。)からなる群より選択される1以上の有機化合物である[1]~[7]のいずれかに記載のオレフィン回収方法。
【発明の効果】
【0011】
オレフィンを原料とする化学反応プロセスにおける圧力スイング吸着法による未反応オレフィンの回収工程で、比較的高い脱着操作圧力、より好ましくは常圧以上の脱着操作圧力で未反応オレフィンを分離剤から脱着してオレフィンを回収することができ、減圧のための設備投資や運転のエネルギーコストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ゲートオープン型吸着剤の吸着等温線の模式図である。
【
図2】ゲートオープン型吸着剤の吸着等温線の微分式の模式図である。
【
図3】オレフィンを原料とする化学反応プロセスの模式図である。
【
図5】実施例1の金属錯体(1)の25℃でのエチレンの吸脱着等温線である。
【
図6】実施例1の分離剤(1)の25℃でのエチレンの吸脱着等温線である。
【
図7】実施例1の分離剤(1)の25℃でのエチレンの吸脱着等温線を圧力(P)で微分したものである。
【
図8】実施例2の金属錯体(2)の25℃でのエチレンの吸脱着等温線である。
【
図9】実施例2の分離剤(2)の25℃でのエチレンの吸脱着等温線である。
【
図10】実施例2の分離剤(2)の25℃でのエチレンの吸脱着等温線を圧力(P)で微分したものである。
【
図11】比較例1の金属錯体(3)の25℃でのエチレンの吸脱着等温線である。
【
図12】比較例1の分離剤(3)の25℃でのエチレンの吸脱着等温線である。
【
図13】比較例1の分離剤(3)の25℃でのエチレンの吸脱着等温線を圧力(P)で微分したものである。
【
図14】実施例1の金属錯体(1)の粉末X線回折パターンである。
【
図15】実施例2の金属錯体(2)の粉末X線回折パターンである。
【
図16】比較例1の金属錯体(3)の粉末X線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明するが、以下の記載が本発明の全ての実施形態及び本発明に関する全ての利点を開示したものと見なしてはならない。
【0014】
1.オレフィン回収方法
一実施形態のオレフィン回収方法に用いる分離剤(吸着剤)は、ゲートオープン型吸着剤に分類され、その吸着等温線における圧力(P)と吸着量(A)の関係を
図1の模式図で説明する。吸着時の等温線(図中黒塗り四角)における吸着操作圧力P1における平衡吸着量はA1であり、脱着時の等温線(図中白抜き四角)における脱着操作圧力P2における平衡吸着量はA2である。このとき吸着時の等温線と脱着時の等温線は全く重なっていてもよいし、脱着時の等温線は低圧側にシフトしてヒステリシスがあってもよい。
【0015】
次に、吸着量(A)を圧力(P)の関数としてA=f(P)とした場合、AをPで微分した値(dA/dP)と圧力(P)の関係を
図2の模式図で説明する。吸着時のdA/dP(図中黒塗り四角)において吸着操作圧力P1より低圧側P3に極大値があり、脱着時のdA/dP(図中白抜き四角)において脱着操作圧力P2より高圧側P4に極大値がある。このとき吸着時に極大値を示す圧力P3と脱着時の極大値を示す圧力P4は全く重なっていてもよいし、P4は低圧側にシフトしてもよい。
【0016】
一実施形態のオレフィン回収方法は、オレフィンを原料とする化学反応プロセスのストリームから圧力スイング吸着法を用いて、吸着圧力(P)とオレフィン吸着量(A)を示した吸着等温線において、吸着量(A)を圧力(P)の関数としてA=f(P)とした場合に、AをPで微分した値(dA/dP)において、吸着時に極大値を示す圧力P3及び脱着時に極大値を示す圧力P4が、吸着操作圧力P1と脱着操作圧力P2の間にある金属錯体を分離剤として用いることを特徴とする。
【0017】
金属錯体の吸着操作時の吸着等温線において、吸着操作圧力P1におけるオレフィン吸着量A1と、脱着操作圧力P2におけるオレフィン吸着量A2とが、分離効率の観点から(A1-A2)×P2/((P1-P2)×A2)の値が0.4以上である関係を満たすことが好ましく、(A1-A2)×P2/((P1-P2)×A2)の値が0.5以上である関係を満たすことがより好ましく、(A1-A2)×P2/((P1-P2)×A2)の値が2.0以上である関係を満たすことがさらに好ましい。なお、前記式は下記式を書き換えたものである。
【0018】
【0019】
回収対象の好適なオレフィン(ガス)は炭素原子数2~4の炭化水素であり、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、メチルアセチレン(1-プロピン)、n-ブタン、イソブタン、1-ブテン、trans-2-ブテン、イソブテン、1,3-ブタジエン等が挙げられる。特にエチレンが好ましい。
【0020】
化学反応プロセスは、オレフィンを原料とするものであれば特に限定されないが、酢酸ビニル製造プロセス、酢酸エチル製造プロセス、酢酸アリル製造プロセス、ポリエチレン製造プロセス、又はポリプロピレン製造プロセスのいずれかであることが好ましい。
【0021】
2.金属錯体
一実施形態のオレフィン回収方法で使用される分離剤である、吸着圧力(P)とオレフィン吸着量(A)を示した吸着等温線において、吸着量(A)を圧力(P)の関数としてA=f(P)とした場合、AをPで微分した値(dA/dP)において、吸着時に極大値を示す圧力P3及び脱着時に極大値を示す圧力P4が、吸着操作圧力P1と脱着操作圧力P2の間にある金属錯体は、金属イオンと該金属イオンと結合可能な有機配位子とから形成される金属錯体であることが好ましい。このような金属錯体は多孔質構造を有している。この多孔質構造は分子レベルの細孔を含み、当該細孔内には気体分子を収容することができる。
【0022】
上記の金属錯体のオレフィンの吸着等温線は、非特許文献1に記載されているように、吸着において、一定の圧力まであまり吸着しないが、ある圧力を超えると吸着量が急増するような吸着等温線を示し、加えて脱着においてもある圧力以上ではそれほど脱着しないがある圧力以下になると急激に吸着量が減少する、すなわち脱着量が急増するような吸着等温線であることが好ましい。吸着操作圧力P1は吸着量が十分に高い領域の圧力範囲であることが好ましく、脱着操作圧力P2は吸着量が十分に減少する領域の圧力範囲であることが好ましい。P2が常圧以上、すなわち標準大気圧である1atm以上であることがより好ましい。
【0023】
前記の金属錯体の細孔は、圧力などの外部からの刺激によってその構造又はサイズの変化を伴いながらガスを吸着できるような柔軟な構造であることが好ましい。多孔性の金属錯体が有する細孔のサイズは特に限定されないが、例えば2Å~50Åであることが好ましく、より好ましくは2Å~30Åであり、さらに好ましくは2Å~20Åである。
【0024】
2-1.金属イオン
金属錯体を構成する金属イオンとしては、有機配位子との組織化により特定の分子を収容可能な細孔を形成できるものであれば特に限定されない。好ましくはマグネシウム、カルシウム、アルミニウム、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、鉛及びパラジウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属の陽イオンが挙げられる。より好ましくは、マグネシウム、アルミニウム、銅及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の金属イオンである。最も好ましくは銅又は亜鉛である。
【0025】
2-2.有機配位子
金属錯体を構成する有機配位子としては、分子内に金属イオンと配位結合可能な部位を2つ以上有し、金属イオンとの組織化により特定の分子を収容し得る細孔を複数有する多孔質構造を構成できる有機化合物であれば特に限定されないが、下記(1)~(3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物であることが好ましい。
有機配位子(1):カルボキシ基及び/又は水酸基を2つ以上有し、複素環を有さない、金属イオンに二座配位可能な有機化合物
有機配位子(2):カルボキシ基又は水酸基を有し、環内にN、O又はSから選択されるヘテロ原子を1つ有する、金属イオンに二座配位可能な飽和又は不飽和の単環式又は多環式の複素環式化合物
有機配位子(3):1又は複数の環内にN、O及びSからなる群より選択されるヘテロ原子を2以上有する、金属イオンに二座配位可能な飽和又は不飽和の単環式又は多環式の複素環式化合物
【0026】
<有機配位子(1):カルボキシ基及び/又は水酸基を2つ以上有し、複素環を有さない、金属イオンに二座配位可能な有機化合物>
有機配位子(1)としては、炭素原子数4~20のアルキレンジカルボン酸化合物(炭素原子数には、カルボキシ基を構成する炭素原子が含まれる)、炭素原子数4~20のアルケニレンジカルボン酸化合物(炭素原子数には、カルボキシ基を構成する炭素原子が含まれる)、下記一般式(I)~(IV)で表されるジカルボン酸化合物、及び下記一般式(V)で表されるヒドロキシカルボン酸化合物が挙げられる。
【0027】
炭素原子数4~20のアルキレンジカルボン酸化合物(炭素原子数には、カルボキシ基を構成する炭素原子が含まれる)の炭素原子数は得られる錯体の持つ細孔サイズの観点から4~10が好ましく、4~6がより好ましい。具体的にはコハク酸、グルタル酸、及びアジピン酸が挙げられる。中でもコハク酸が好ましい。
【0028】
炭素原子数4~20のアルケニレンジカルボン酸化合物(炭素原子数には、カルボキシ基を構成する炭素原子が含まれる)の炭素原子数は得られる錯体の持つ細孔サイズの観点から4~10が好ましく、4~6がより好ましい。具体的にはフマル酸、グルタコン酸、ムコン酸(ヘキセンジカルボン酸)が挙げられる。
【0029】
一般式(I)~(III)で表されるジカルボン酸化合物は下記の化学式で示される。
【化6】
式(I)~(III)中、R
1はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、ホルミル基、炭素原子数1~4のアシロキシ基、炭素原子数1~4のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基、アミノ基、炭素原子数1~4のモノアルキルアミノ基、炭素原子数1~4のアルキル基を有するジアルキルアミノ基又は炭素原子数1~4のアシルアミノ基であり、2つ以上のR
1が縮合して環を形成してもよい。上記ジアルキルアミノ基においては、2つのアルキル基は同一であっても、異なっていてもよい。
【0030】
ハロゲン原子としてはフッ素原子及び塩素原子が好ましい。
【0031】
炭素原子数1~4のアルキル基としては、直鎖、分枝状又は環状のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が挙げられる。炭素原子数1~4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。炭素原子数1~4のアシロキシ基としては、炭素原子数1~4の直鎖状又は分枝状のアルキル基が置換したもの(例えば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、イソプロピオニルオキシ基等)が挙げられる。炭素原子数1~4のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基としては、炭素原子数1~4の直鎖又は分枝状のアルキル基が置換したもの(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等)が挙げられる。炭素原子数1~4のモノアルキルアミノ基としては、炭素原子数1~4の直鎖又は分枝状のアルキル基が置換したもの(例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基等)が挙げられる。炭素原子数1~4のアルキル基を有するジアルキルアミノ基としては、炭素原子数1~4の直鎖又は分枝状のアルキル基が置換したもの(例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジsec-ブチルアミノ基等)が挙げられる。炭素原子数1~4のアシルアミノ基としては、炭素原子数1~4の直鎖又は分枝状のアルキル基が置換したもの(例えば、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基等)が挙げられる。これらの中でもR1としては水素原子が好ましい。
【0032】
一般式(IV)で表されるジカルボン酸化合物は下記の化学式で示される。
【化7】
式(IV)中、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素原子数1~4のアルキル基であり、Xは水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルケニル基、炭素原子数2~4のアルキニル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、水酸基又はアミノ基である。炭素原子数2~4のアルケニル基としては、直鎖、分枝状又は環状のいずれであってもよく、例えば、ビニル基、アリル基、クロチル基等が挙げられ、炭素原子数2~4のアルキニル基としては、直鎖又は分枝状のいずれであってもよく、例えば、エチニル基、プロパルギル基、ブチニル基等が挙げられる。その他のR
2及びXの具体例は前記R
1で説明したものと同様である。これらの中でもR
2は水素原子であることが好ましい。Xとしては水素原子、メチル基、ニトロ基、及びカルボキシ基が原料コストの観点から好ましい。
【0033】
一般式(V)で表されるヒドロキシカルボン酸化合物は下記の化学式で示される。
【化8】
式(V)中、R
3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルケニル基、炭素原子数2~4のアルキニル基又は炭素原子数1~4のアルコキシ基である。R
3の具体例は前記R
1及びR
2で説明したものと同様である。これらの中でもR
3は水素原子であることが好ましい。
【0034】
有機配位子(1)としては、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、5-ニトロイソフタル酸、及びメチルイソフタル酸が好ましい。
【0035】
<有機配位子(2):カルボキシ基又は水酸基を有し、環内にN、O又はSから選択されるヘテロ原子を1つ有する、金属イオンに二座配位可能な飽和又は不飽和の単環式又は多環式の複素環式化合物>
有機配位子(2)としては、下記一般式(VI)~(VIII)で表される有機化合物が挙げられる。
【化9】
式(VI)~(VIII)中、R
3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルケニル基、炭素原子数2~4のアルキニル基又は炭素原子数1~4のアルコキシ基である。R
3の具体例は前記R
1及びR
2で説明したものと同様である。これらの中でもR
3は水素原子であることが好ましい。
【0036】
有機配位子(2)としては、ピリジンジカルボン酸、イソニコチン酸、及びニコチン酸が好ましい。
【0037】
<有機配位子(3):1又は複数の環内にN、O及びSからなる群より選択されるヘテロ原子を2以上有する、金属イオンに二座配位可能な飽和又は不飽和の単環式又は多環式の複素環式化合物>
有機配位子(3)としては、下記一般式(IX)~(XII)で表される有機化合物が挙げられる。
【化10】
式(IX)、(X)及び(XII)中、Yは独立に、酸素原子、硫黄原子、-CH
2-、-CH(OH)-、-CO-、-NH-、-C
2N
4-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル基)、-C≡C-、-C
2H
2-又は-C
6H
4-であり、好ましくは-CH
2-、-C≡C-、-C
2H
2-又は-C
6H
4-である。R
4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、ホルミル基、炭素原子数1~4のアシロキシ基、炭素原子数1~4のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基、アミノ基、炭素原子数1~4のモノアルキルアミノ基、炭素原子数1~4のアルキル基を有するジアルキルアミノ基又は炭素原子数1~4のアシルアミノ基である。R
4の具体例は前記R
1で説明したものと同様である。nは0~3の整数であり、好ましくは0、1又は2である。
【0038】
有機配位子(3)としては、ピラジン及びその誘導体、4,4’-ビピリジン、1,2-ジ(4-ピリジル)エタン、1,2-ジ(4-ピリジル)エチレン、及び1,2-ジ(4-ピリジル)アセチレンが好ましい。
【0039】
上記有機配位子は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよく、吸着等の対象とするオレフィンの種類に応じて適宜選択すればよい。上記有機化合物の中でも、炭素原子数4~20のアルキレンジカルボン酸化合物、一般式(I)、一般式(IV)、一般式(IX)及び一般式(X)で示される有機化合物が好ましい。より好ましくは、フマル酸、テレフタル酸及びその誘導体、イソフタル酸及びその誘導体、ピラジン及びその誘導体、4,4’-ビピリジン、1,2-ジ(4-ピリジル)エタン、1,2-ジ(4-ピリジル)エチレン、及び1,2-ジ(4-ピリジル)アセチレンが挙げられ、さらに好ましくは、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、5-ニトロイソフタル酸、ピラジン、2,3-ピラジンカルボン酸、1,2-ジ(4-ピリジル)エタン、及び1,2-ジ(4-ピリジル)エチレンが挙げられる。
【0040】
2種以上の有機配位子を使用する場合の組み合わせにも特に制限はない。例えば、上記有機配位子(1)と有機配位子(3)のそれぞれから選択される有機配位子の組み合わせ、及び上記有機配位子(3)から選択される2種以上の有機配位子の組み合わせが好ましく、より好ましくは一般式(I)と一般式(IX)で示される有機化合物との組み合わせ、一般式(IV)と一般式(IX)で示される有機化合物の組み合わせ、一般式(X)と一般式(IX)で示される有機化合物の組み合わせ、及び一般式(X)で表される2種以上の有機化合物の組み合わせが挙げられ、さらに好ましくは5-ニトロイソフタル酸と1,2-ジ(4-ピリジル)エタンと1,2-ジ(4-ピリジル)エチレンとの組み合わせ、及び2,3-ピラジンカルボン酸とピラジンとの組み合わせが挙げられる。
【0041】
2-3.金属錯体の製造方法
金属錯体は、上記金属の金属塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、蟻酸塩、酢酸塩、炭酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、四フッ化ホウ酸塩、六フッ化リン酸塩等)、水酸化物及び酸化物からなる群より選ばれる金属原料と上述の有機配位子とを、水又は有機溶媒に溶解させ、数時間から数日間反応させることにより得ることができる。有機溶媒としては、上記金属塩及び有機配位子が溶解するものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、水又はこれらの2種以上の混合溶媒等が使用できる。反応条件も特に限定されず、反応の進行度合いに応じて適宜調節すればよいが、例えば、反応温度は室温(25℃)~150℃とすることが好ましい。また、上記反応は加圧下で行ってもよい。
【0042】
製造方法の一例として、湿式摩砕機を用いた方法がある。例えば、装置に、ジカルボン酸化合物(I)と、金属塩、二種以上のジピリジル化合物(IX)、溶媒、及び摩砕用ボールを投入し、摩砕操作を行いながら、反応を行うことができる。
【0043】
前記反応においては、原料を湿式摩砕機中で反応させ、結晶として析出してくる生成物の金属錯体を摩砕しつつ反応を完了させることが好ましい。
【0044】
湿式摩砕に用いる装置としてはボールミル、ロッドミル、ビーズミル等の粉砕機及びニーダー、二軸スクリュー押出機等の混練機が挙げられる。摩砕機を用いることで、従来の水熱合成法等に比べて、粒子径の小さな金属錯体が得られるため、吸着速度の観点から有利である。また、合成時間も数分~数時間程度で合成が完了するため、製造時間を大幅に短縮することができる。
【0045】
3.オレフィン回収用分離剤
オレフィン回収用分離剤として使用することのできる金属錯体の形態としては粒状、粉末状、繊維状、フィルム状、板状等種々の態様が挙げられるが、粉末状であることが好ましい。金属錯体は平均粒径が1μm~500μm(より好ましくは5μm~100μm)のものが好ましく使用できる。なお、本開示において「平均粒径」とは、数累積頻度50%径(メジアン径)であって、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置により測定される。
【0046】
前記の金属錯体をそのままあるいは適当な方法で成形した成形体を分離剤として用いてもよい。
【0047】
分離剤に含まれる金属錯体の量は50質量%~97質量%であることが好ましい。吸着性能及び分離剤の生産性を考慮すると、金属錯体の含有量は70質量%~97質量%であることがより好ましい。金属錯体の含有量が50質量以上であると単位質量当たりの炭化水素ガスの吸着効率を高めることができ、一方97質量%以下であると分離剤の生産性を良好なものとすることができる、あるいは必要な強度を得ることができる。
【0048】
分離剤は、必要に応じて金属錯体以外に、高分子バインダー成分、滑剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0049】
高分子バインダー成分は金属錯体粒子を結着する結着剤として機能する成分である。高分子バインダー成分は、エチレン性炭化水素重合体、ポリエステル、ポリアミド、及びポリエーテルからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、(メタ)アクリル酸と炭素原子数1~10の(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体が特に好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」又は「メタクリル酸」を意味する。
【0050】
エチレン性炭化水素重合体の具体例としては部分鹸化ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリ酪酸ビニル、ポリビニルブチラール樹脂、メタクリル酸メチルとメタクリル酸ヒドロキシエチルの共重合体、メタクリル酸メチルとメタクリル酸の共重合体、メタクリル酸エチルとメタクリル酸の共重合体、メタクリル酸プロピルとメタクリル酸の共重合体、メタクリル酸ブチルとメタクリル酸の共重合体、メタクリル酸アミルとメタクリル酸の共重合体、メタクリル酸2-エチルヘキシルとメタクリル酸の共重合体、アクリル酸メチルとアクリル酸ヒドロキシエチルの共重合体、アクリル酸メチルとアクリル酸の共重合体、アクリル酸エチルとアクリル酸の共重合体、アクリル酸プロピルとアクリル酸の共重合体、アクリル酸ブチルとアクリル酸の共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体の部分鹸化品、エチレンとアクリル酸の共重合体、エチレンとメタクリル酸の共重合体、スチレンとアクリル酸の共重合体、スチレンとメタクリル酸の共重合体、メタクリル酸メチルとメタクリル酸グリシジルの共重合体、アクリル酸メチルとアクリル酸グリシジルの共重合体、エチレンとメタクリル酸グリシジルの共重合体、メタクリル酸メチルとメタクリル酸ジメチルアミノエチルの共重合体、アクリル酸メチルとアクリル酸ジメチルアミノエチルの共重合体、エチレンとメタクリル酸ジメチルアミノエチルの共重合体、メタクリル酸メチルとスチレンスルホン酸の共重合体、メタクリル酸メチルとビニルスルホン酸との共重合体等が挙げられる。
【0051】
ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等が挙げられる。ポリアミドとしては6-ナイロン(登録商標)、6,6-ナイロン(登録商標)等が挙げられる。ポリエーテルとしてポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。これら高分子は末端に官能基を有するが、金属錯体と組み合わせるために必要とされる官能基量に満たない場合、側鎖に官能基を有するモノマーを共重合(共縮合)することで官能基を導入することができる。
【0052】
分離剤に含まれる高分子バインダー成分の量は、分離剤の構成成分の合計100質量%に対して3質量%~20質量%であることが好ましく、より好ましくは5質量%~15質量%であり、さらに好ましくは5質量%~12質量%である。
【0053】
滑剤は打錠成形時の打錠不良を防止するための添加剤である。滑剤としては、打錠時にキャッピング等の打錠不良を防止しうるものであれば特に制限されない。具体的な滑剤としては、グラファイト、窒化ホウ素、ステアリン酸、ステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0054】
分離剤に含まれる滑剤の量は、分離剤の構成成分の合計100質量%に対して0.1質量%~5質量%であることが好ましく、より好ましくは1質量%~4質量%である。
【0055】
分離剤の大きさは1.0mm~10.0mmであることが好ましい。より好ましくは3.0mm~7.0mmであり、さらに好ましくは4.0mm~6.0mmである。分離剤の大きさが1.0mm以上であると成形体の強度を高める、あるいは生産性を良好なものとすることができる。分離剤の大きさが10.0mm以下であると成形体内部のオレフィンの拡散性を高めて時間当たりの吸着量を向上させることができる。本開示において、分離剤の大きさとは定方向最大径(Krummbein径)を意味する。
【0056】
4.オレフィン回収用分離剤の製造方法
オレフィン回収用分離剤の製造方法は特に限定されないが、例えば、打錠成形法等が挙げられる。打錠成形法によりペレット状物を作製する場合、まず、金属錯体とその他の成分を所定の配合比で混合して造粒する。次いで、得られた造粒品と任意で用いられる滑剤及びその他の成分を所定の配合比で混合して、打錠成形機で任意の圧力で打錠する。
【0057】
5.吸脱着操作
オレフィン回収用分離剤を用いてオレフィンを回収する方法としては、圧力スイング吸着法(Pressure Swing Adsorption)が好ましい。
【0058】
圧力スイング吸着法においては、前述のオレフィン回収用分離剤に、吸着操作圧力P1で回収目的のオレフィンを含む混合ガスを接触させて、オレフィンを選択的に吸着させる吸着工程を含む。吸着工程においては、前記分離剤を充填した充填塔を吸着操作圧力P1まで上昇させ、目的のオレフィンを含む混合ガスを供給することで、目的のオレフィンが分離剤に吸着して濃縮され、目的のオレフィンが減損した混合ガスの残りのガスが排出される。
【0059】
圧力スイング吸着法においては、前記の吸着工程の後に、脱着操作圧力P2に変化させて、分離剤に吸着しているオレフィンを脱離させる工程させる脱着工程を含む。脱着工程においては、前記分離剤を充填した充填塔を脱着操作圧力P2まで低下させ、これにより目的のオレフィンは分離剤から脱離して目的のオレフィンが濃縮されたガスが排出される。
【0060】
圧力スイング吸着法において、吸着温度は回収目的とするオレフィン及び分離剤に用いる金属錯体によって決定されるが、173~373Kが好ましく、223~353Kがより好ましく、最も好ましくは273~333Kである。
【0061】
圧力スイング吸着法において、吸着操作圧力P1及び脱着操作圧力P2は、特に制限されるものではないが、P1における吸着量A1と、P2における吸着量A2の差が大きくなるようにすることが好ましい。吸着操作圧力P1は、10kPaG~10MPaG(110kPaA~10.1MPaA)が好ましく、50kPaG~3MPaG(150kPaA~3.1MPaA)がより好ましく、特に好ましくは100kPaG~1MPaG(200kPaA~1.1MPaA)である。脱着操作圧力P2は、-100kPaG~1MPaG(≒0kPaA~1.1MPaA)が好ましく、-50kPaG~500kPaG(50kPaA~600kPaA)がより好ましく、最も好ましくは常圧(0kPaG)~100kPaG(100kPaA~200kPaA)である。なお、「kPaG」はゲージ圧、「kPaA」は絶対圧を意味する。
【0062】
好適な実施形態としてオレフィン回収装置の模式図を
図4に示す。
図4において、吸着塔4には前述の金属錯体を含む分離剤が充填されており、その一端にバルブV1を介して原料ガス供給配管、バルブV3を介してオレフィン濃縮ガス用配管、他端にV2を介して透過ガス用配管が接続され、圧変動又は流量の脈動を抑制するために、バルブV1~V3のそれぞれにバッファータンク1、バッファータンク2、バッファータンク3が接続されている。バルブV1~V3は制御手段により、それらの動作を制御することができるようになっている。圧力スイング吸着法は、一般的な圧縮機や減圧機を必ずしも必要としないことが特徴である。
【0063】
図4に示す分離装置を用いてオレフィンを回収する場合、例えば以下のように制御される。まず、吸着塔4内にバッファータンク1経由でバルブV1を通して原料ガスを導入し、バルブV2を閉じた状態で吸着塔4内を昇圧することで、吸着操作圧力P1までにおいて、目的のオレフィンが選択的に前述の金属錯体を含む分離剤に吸着される。その後、バルブV2を開けることにより、目的のオレフィン濃度が減少したガスは、透過ガスとしてバルブV2を通ってバッファータンク2経由で排出される。
【0064】
次に、バルブV1及びV2を閉じ、バルブV3を開けることにより、吸着塔4内の圧力を脱着操作圧力P2になるまで脱圧することで、目的のオレフィンが濃縮されたガスが前述の金属錯体を含む分離剤から脱離して、オレフィン濃縮ガスとしてバッファータンク3経由で排出される。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本開示の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0066】
1.オレフィン回収用分離剤の製造
金属錯体と高分子バインダー溶液を混合して乳鉢で混練し、風乾しながら粉砕し、0.75mmメッシュの篩を通過したものを造粒品として得た。これに滑剤としてグラファイトを必要量加えてよく混合したものを、打錠成形機を用いて打錠圧600MPaで打錠して、厚み約4mm、直径3mmの円柱状の成形体(ペレット)を製造した。得られた成形体を120℃で6時間以上減圧乾燥し、吸着水などを除去して各試験に供した。
【0067】
2.評価方法
2-1.吸脱着等温線
実施例及び比較例で用いた成形体(ペレット)をガス吸着量測定装置(日本ベル株式会社製「BELSORP-HP」(登録商標)を用いて容量法にて25℃で測定し、吸脱着等温線を作成した。いずれの試料の場合も、試料中の多孔性金属錯体量が0.3g~0.5gとなるようにして測定した。
【0068】
2-2.分離試験
実施例及び比較例で得られた成形体(ペレット)を、
図4に示すようなバルブ、バッファータンク及び配管を備えた吸着塔に充填した。吸着操作圧力P1:700kPaA、脱着操作圧力P2:120kPaAとなるように、オレフィンを含む混合ガスを供給し、バルブ制御を行って、透過ガス及びオレフィン濃縮ガスを得た。それぞれのガスをサンプリングして、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。
分析条件:
装置:Agilent社490マイクロGC
カラム:PorapacQ、10m
キャリア:He
検出器:TCD
【0069】
(実施例1)
金属錯体(1):[Zn(NO2-ip)(bpe)0.8(bpa)0.2]の合成
ジルコニア製容器(45mL)に、酸化亜鉛(0.41g,5.0mmol,1eq.)、5-ニトロイソフタル酸(1.07g,5.0mmol,1.0eq.)、1,2-ジ(4-ピリジル)エタン(0.18g,1.0mmol,0.2eq.)、1,2-ジ(4-ピリジル)エチレン(0.73g,4.0mmol,0.8eq.)、蒸留水(5mL)、及びジルコニアボール(3mmφ、25g)を加え、常温(25℃)、400rpmで1時間、反応させながら湿式摩砕(フリッチュ社クラシックラインP-7を使用)した。その後、内容物を桐山漏斗を用いて濾過し、析出した金属錯体をイオン交換水、エタノールの順で洗浄後、乾燥した。金属錯体は白色固体として2.09g(収率:91%)得られた。これを金属錯体(1)とした。
【0070】
得られた金属錯体(1)の粉末X線回折パターンを測定した。測定はX線回折装置(株式会社リガク製「マルチフレックス」)を用いて、回折角(2θ)=3~50°の範囲を走査速度3°/分で走査し、対称反射法で行った。測定結果を
図14に示す。
【0071】
分離剤(1)
金属錯体(1)87質量部、高分子バインダー(メタクリル酸とメタクリル酸メチルの共重合体、エボニック・ジャパン製、オイドラギットS100)5質量部、及びテトラヒドロフラン200質量部を混合して乳鉢で混練し、風乾しながら粉砕し、0.5mmメッシュの篩を通過したものを造粒品として得た。これに滑剤としてグラファイト(日本黒鉛工業株式会社製、ACP)を、成形体100質量部における組成が3質量部になるように加えてよく混合したものを、室温で打錠成形機を用いて成形体を製造した。得られた成形体を120℃で6時間以上乾燥して分離剤(1)とした。
【0072】
(吸脱着等温線)
金属錯体(1)及び分離剤(1)について25℃におけるエチレンの吸脱着等温線を測定した。結果を
図5及び
図6にそれぞれ示す。縦軸は、単位質量当たりの対象ガス(エチレン)の吸着量を示す。
図6において、分離剤(1)の、エチレンの有効吸着量は、吸着操作時の700kPaAにおいて35.1mL(STP:標準状態)/g、脱着操作時の120kPaAにおいて2.5mL(STP)/gであった。(A1-A2)×P2/((P1-P2)×A2)の値は、2.70であった。
【0073】
(圧力Pで微分)
分離剤(1)について得られたエチレンの吸着等温線を、吸着量(A)を圧力(P)の関数としてA=f(P)とした場合のPで微分した値(dA/dP)と圧力(P)の関係を
図7に示す。吸着時に極大値を示す圧力P3は約240kPaAであり、脱着時に極大値を示す圧力P4は約210kPaAであり、吸着操作圧力P1を700kPaA、脱着操作圧力P2を120kPaAとすると、P3及びP4は、P1とP2の間にある。
【0074】
(分離試験)
図4に示すような分離実験装置に、吸着塔に分離剤(1)を17.0g充填した。エチレン91.7%、エタン3.1%、窒素5.2%(数値は体積基準、以下、原料ガス、透過ガス及びオレフィン濃縮ガスについて同じ。)の混合ガスを原料ガスとして、流量539.5cm
3/分(STP)で供給した。実験中の各工程のバルブV1、V2、V3の開閉状態及び時間を表1に示す。工程は工程1から順に工程2、工程3、工程4と進み、工程1に戻る。各工程の時間は、原料ガスに対して透過ガスがおよそ20%になるように設定した。50回~70回繰り返したところで、1サイクル当たり流量は、それぞれ原料ガスは944mL、透過ガスは198mL、オレフィン濃縮ガスは800mLであった。透過ガスの分析結果は、エチレン82.2%、エタン4.4%、窒素13.4%、オレフィン濃縮ガスの分析結果はエチレン93.8%、エタン2.7%、窒素3.5%であった。これらを表2に示す。
【0075】
(実施例2)
金属錯体(2):[Zn(NO2-ip)(bpe)0.7(bpa)0.3]の合成
ジルコニア製容器(45mL)に、酸化亜鉛(0.41g,5.0mmol,1eq.)、5-ニトロイソフタル酸(1.07g,5.0mmol,1.0eq.)、1,2-ジ(4-ピリジル)エタン(0.27g,1.5mmol,0.3eq.)、1,2-ジ(4-ピリジル)エチレン(0.63g,3.5mmol,0.7eq.)、蒸留水(5mL)、及びジルコニアボール(3mmφ、25g)を加え、常温(25℃)、400rpmで1時間、反応させながら湿式摩砕(フリッチュ社クラシックラインP-7を使用)した。その後、内容物を桐山漏斗を用いて濾過し、析出した金属錯体をイオン交換水、エタノールの順で洗浄後、乾燥した。金属錯体は白色固体として1.99g(収率:88%)得られた。これを金属錯体(2)とした。
【0076】
得られた金属錯体(2)について、前記の方法で粉末X線回折パターンを測定した。測定結果を
図15に示す。
【0077】
分離剤(2)
金属錯体(1)に替えて金属錯体(2)を用いた以外は実施例1と同様にして分離剤(2)を得た。
【0078】
(吸脱着等温線)
金属錯体(2)及び分離剤(2)について25℃におけるエチレンの吸脱着等温線を測定した。結果を
図8及び
図9にそれぞれ示す。
図9において、分離剤(2)の、エチレンの有効吸着量は、吸着操作時の700kPaAにおいて37.0mL(STP)/g、脱着操作時の120kPaAにおいて11.5mL(STP)/gであった。(A1-A2)×P2/((P1-P2)×A2)の値は、0.46であった。
【0079】
(圧力Pで微分)
分離剤(2)について得られたエチレンの吸着等温線を、吸着量(A)を圧力(P)の関数としてA=f(P)とした場合のPで微分した値(dA/dP)と圧力(P)の関係を
図10に示す。吸着時に極大値を示す圧力P3は約170kPaAであり、脱着時に極大値を示す圧力P4は約140kPaAであり、吸着操作圧力P1を700kPaA、脱着操作圧力P2を120kPaAとすると、P3及びP4は、P1とP2の間にある。
【0080】
(分離試験)
図4に示すような分離実験装置に、吸着塔に分離剤(2)を19.8g充填した。エチレン91.9%、エタン3.0%、窒素5.1%の混合ガスを原料ガスとして、流量539.5cm
3/分(STP)で供給した。実験中の各工程のバルブV1、V2、V3の開閉状態及び時間を表1に示す。工程は工程1から順に工程2、工程3、工程4と進み、工程1に戻る。各工程の時間は、原料ガスに対して透過ガスがおよそ20%になるように設定した。50回~70回繰り返したところで、1サイクル当たり流量は、それぞれ原料ガスは939mL、透過ガスは188mL、オレフィン濃縮ガスは766mLであった。透過ガスの分析結果は、エチレン81.2%、エタン4.3%、窒素14.5%、オレフィン濃縮ガスの分析結果はエチレン93.5%、エタン2.6%、窒素3.8%であった。これらを表2に示す。
【0081】
(比較例1)
金属錯体(3):[Zn(NO2-ip)(bpe)0.4(bpa)0.6]の合成
ジルコニア製容器(45mL)に、酸化亜鉛(0.41g,5.0mmol,1eq.)、5-ニトロイソフタル酸(1.07g,5.0mmol,1.0eq.)、1,2-ジ(4-ピリジル)エタン(0.55g,3.0mmol,0.6eq.)、1,2-ジ(4-ピリジル)エチレン(0.36g,2.0mmol,0.4eq.)、蒸留水(5mL)、及びジルコニアボール(3mmφ、25g)を加え、常温(25℃)、400rpmで1時間、反応させながら湿式摩砕(フリッチュ社クラシックラインP-7を使用)した。その後、内容物を桐山漏斗を用いて濾過し、析出した金属錯体をイオン交換水、エタノールの順で洗浄後、乾燥した。金属錯体は白色固体として1.86g(収率:82%)得られた。これを金属錯体(3)とした。
【0082】
得られた金属錯体(3)について、前記の方法で粉末X線回折パターンを測定した。測定結果を
図16に示す。
【0083】
分離剤(3)
金属錯体(1)に替えて金属錯体(3)を用いた以外は実施例1と同様にして分離剤(3)を得た。
【0084】
(吸脱着等温線)
金属錯体(3)及び分離剤(3)について25℃におけるエチレンの吸脱着等温線を測定した。結果を
図11及び
図12にそれぞれ示す。
図12において分離剤(3)の、エチレンの有効吸着量は、吸着操作時の700kPaAにおいて34.5mL(STP)/g、脱着操作時の120kPaAにおいて19.1mL(STP)/gであった。(A1-A2)×P2/((P1-P2)×A2)の値は、0.17であった。
【0085】
(圧力Pで微分)
分離剤(3)について得られたエチレンの吸着等温線を、吸着量(A)を圧力(P)の関数としてA=f(P)とした場合のPで微分した値(dA/dP)と圧力(P)の関係を
図13に示す。吸着時は低圧ほど高い値を示し、脱着時も低圧ほど高い値を示し、吸着操作圧力P1を700kPaA、脱着操作圧力P2を120kPaAとすると、P1とP2の間に極大値を示す圧力はなかった。
【0086】
(分離試験)
図4に示すような分離実験装置に、吸着塔に分離剤(3)を18.1g充填した。エチレン91.7%、エタン3.0%、窒素5.2%の混合ガスを原料ガスとして、流量539.5cm
3/分(STP)で供給した。実験中の各工程のバルブV1、V2、V3の開閉状態及び時間を表1に示す。工程は工程1から順に工程2、工程3、工程4と進み、工程1に戻る。各工程の時間は、原料ガスに対して透過ガスがおよそ20%になるように設定した。50回~70回繰り返したところで、1サイクル当たり流量は、それぞれ原料ガスは675mL、透過ガスは137mL、オレフィン濃縮ガスは547mLであった。透過ガスの分析結果は、エチレン87.9%、エタン4.1%、窒素8.0%、オレフィン濃縮ガスの分析結果はエチレン92.5%、エタン2.8%、窒素4.7%であった。これらを表2に示す。
【0087】
分離試験の結果より、透過ガスが原料ガスのおよそ20%になるように運転すると、1サイクル当たりの分離剤の単位重量当たりのエチレン回収量は、分離剤(1)が44.1mL/サイクル/g、分離剤(2)が36.2mL/サイクル/gであり、分離剤(3)の28.0mL/サイクル/gに対して多く、オレフィン回収効率に優れている。
【0088】
また、透過ガスにおけるエチレン濃度/(エタン濃度+窒素濃度)を算出すると、分離剤(1)が4.6、分離剤(2)が4.3であり、分離剤(3)の7.2に対して低く、エチレン選択性でも優れている。
【0089】
これらの結果から、本開示の金属錯体を分離剤として用いたオレフィン回収方法が優れていることは明らかである。
【0090】
【0091】
【産業上の利用可能性】
【0092】
本開示のオレフィン回収方法は、オレフィンを原料とした化学反応プロセスのストリームから圧力スイング吸着法により未反応のオレフィンを回収する方法において、比較的高い脱着操作圧力、好ましくは常圧以上でガスを脱着して再使用することができる分離剤を用いて効率的にオレフィンを回収することができる。
【符号の説明】
【0093】
1、2、3 バッファータンク
4 吸着塔
V1、V2、V3 バルブ