(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】老化抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20231031BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20231031BHJP
A61K 35/742 20150101ALI20231031BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231031BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231031BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20231031BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20231031BHJP
【FI】
A23L33/135
A61Q19/08
A61K35/742
A61P43/00 107
A61P43/00
A61P17/00
A61K8/99
A23K10/16
(21)【出願番号】P 2019149502
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2018226860
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 主典
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】本間 亮介
(72)【発明者】
【氏名】虫明 優一
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-121219(JP,A)
【文献】特開2001-136959(JP,A)
【文献】特表2018-520695(JP,A)
【文献】特開2006-006117(JP,A)
【文献】特開2013-252069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、K
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枯草菌
の死菌を有効成分と
し、前記枯草菌は芽胞形成能欠損株であり、
老化による受動性の低下を抑制することで、老化によって引き起こされる触覚感度の鈍化又は反射的行動の衰退を抑制する用途に使用される老化抑制剤。
【請求項2】
枯草菌を液体培養して得られる菌体を有効成分とする、請求項1記載の老化抑制剤。
【請求項3】
請求項1
又は2記載の老化抑制剤を含み、
老化による受動性の低下を抑制することで、老化によって引き起こされる触覚感度の鈍化又は反射的行動の衰退を抑制する用途に使用される飲食品、化粧品、医薬品又は飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化抑制剤及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化の進展に伴って健康に対する意識がますます高まっており、老化を抑制できる食品や医薬品の開発が強く望まれている。
【0003】
これまでに老化抑制剤として、乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズクレモリス H-61株(NITE AP-92)を含有することを特徴とする老化抑制剤(特許文献1)、カテキン類を有効成分とする老化抑制剤(特許文献2)及びコエンザイムQ10とザクロ加工物とを含有する老化抑制剤(特許文献3)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4604207号公報
【文献】特開2008‐63318号公報
【文献】特開2015‐17081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、天然物由来の新規な老化抑制剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、枯草菌に老化抑制効果があることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]の態様に関する。
[1]枯草菌を有効成分とする、老化抑制剤。
[2]枯草菌を液体培養して得られる菌体を有効成分とする、[1]記載の老化抑制剤。
[3]枯草菌が芽胞形成能欠損株である、[1]又は[2]記載の老化抑制剤。
[4][1]~[3]の何れかに記載の老化抑制剤を含む飲食品、化粧品、医薬品又は飼料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、天然物由来の新規な老化抑制剤を提供できる。また、殺菌後の死菌において老化抑制効果が認められることから、枯草菌の死菌体を使用することで、製造設備の衛生管理や製品の品質管理が容易になり、老化抑制剤を効率的に製造できる。また、有効成分が化学合成品ではなく、食経験のある菌のため、継続した長期的な摂取が望ましい老化抑制剤として最適である。さらに、芽胞形成能欠損株を使用すれば、一般的な微生物と同様に100℃以下の穏和な条件で殺菌を行うことができ、芽胞菌で問題となる殺菌不足による製造設備の汚染を防ぐことができるため、各種食品への添加や製剤化が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】27週齢老化促進モデルマウスの老化度評点に及ぼす枯草菌の投与効果を示す。
【
図2】老化促進モデルマウスへの枯草菌投与による、老化度評点の推移を示す。
【
図3】57週齢老化促進モデルマウスの受動性の低下、被毛の艶の悪化及び被毛の粗造性の増加に及ぼす枯草菌の投与効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の老化抑制剤は、枯草菌を有効成分とするものであり、摂取により、老化により引き起こされる種々の変化を抑制するといった老化抑制効果を有する。
【0011】
本発明に記載の枯草菌は、老化抑制剤の有効成分となる枯草菌(Bacillus subtilis)であれば、生菌でも死菌でもよく、特に限定されないが、バチルス・サブチリス・サブスピーシーズ・サブチリス(B.subtilis.subsp.subtilis)が好ましく、バチルス・サブチリスNBRC3009、バチルス・サブチリスNBRC3013、バチルス・サブチリスNBRC13169等の納豆菌がより好ましく、独立行政法人製品評価技術基盤機構等から入手することができる。死菌でも老化抑制効果があるため、枯草菌の死菌体を使用することで、製造設備の衛生管理や製品の品質管理が容易になり、老化抑制剤を効率的に製造できる。また、芽胞形成能欠損株を使用すれば、100℃以下の穏和な殺菌条件で死菌体を調製することができるため、芽胞菌で問題となる殺菌不足による製造設備の汚染を防ぐことができ、各種食品への添加や製剤化が容易となる。
【0012】
本発明で使用される枯草菌は、特に限定されないが、芽胞形成能欠損株が好ましく、芽胞形成能欠損株の取得方法としては、遺伝子組換えによる方法、突然変異による方法等が例示できるが、自然突然変異による方法が好ましい。自然突然変異による芽胞形成能欠損株の取得方法は、特に限定されず、高温焙養法や、野生株と欠損株のコロニーのメラニン色素の着色により識別するランダム法、異化代謝産物抑制(Catabolite repression)様現象を利用した方法(J.F.Michel,B.Cami,P.Schaeffer:Ann.Inst.Pasteur,114,11;21(1968))が例示できるが、異化代謝産物抑制様現象を利用した方法が好ましい。異化代謝産物抑制様現象を利用する方法により得られる芽胞形成能欠損株は、芽胞形成能と供にリゾチーム活性及び形質転換能が欠損しているため、溶菌による問題がなく継代することができ、芽胞形成能欠損という形質を維持することができる。
【0013】
枯草菌の培養には、通常の細菌培養用培地が使用でき、炭素源、窒素源、無機物、その他枯草菌が必要とする微量栄養素等を含有するものであれば、合成培地、天然培地の何れでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、シュクロース、デキストリン、澱粉、グリセリン、糖蜜等が使用できる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類、DL-アラニン、L-グルタミン酸等のアミノ酸類、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー等の窒素含有天然物が使用できる。無機物としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化第二鉄等が使用できる。
【0014】
枯草菌の培養条件は、適宜設定できるが、通気、振盪、攪拌等により好気的に液体培養するのが好ましく、培養温度は例えば20~50℃が例示でき、30~45℃が好ましく、培養時間は例えば2~72時間が例示でき、4~48時間が好ましく、6~36時間がより好ましく、培地のpHは例えば5.0~9.0が例示でき、5.5~8.5が好ましい。
【0015】
枯草菌は培養後に殺菌してもよく、殺菌条件は一般的な方法であれば特に限定されないが、例えば60~120℃で1~30分間又は80~100℃で5~20分間の加熱が好ましい。菌体の回収は、遠心分離機等で培地を除去した後、緩衝液、生理食塩水、滅菌水等で菌体を洗浄し、遠心分離機等により固液分離して集菌できる。さらに、エアードライ、スプレードライ、真空及び/又は凍結乾燥等を行って粉末化してもよい。
【0016】
本発明の老化抑制剤の摂取方法として、本菌株を含む製剤等を経口投与することが好ましく、老化抑制効果が認められる投与量であれば特に限定されないが、ヒトに対しては体重1kgあたり、菌体重量で50mg/日以上の投与が好ましく、安全性の面で問題はないため、上限は特に限定されないが、通常60~200mg/日程度の投与が好ましく、80~150mg/日程度の投与が適当である。該投与量を菌体重量として含む製剤を1日1回又は数回に分けて摂取すればよい。
【0017】
本発明の老化抑制剤はその有効成分が天然物由来であり、かつ、製造が容易なため、広く利用でき、各種製品に添加が可能で、液状で添加してもよく、冷蔵、冷凍又は乾燥状態で添加してもよく、老化抑制効果を有する飲食品、化粧品、医薬品、飼料等を調製することができる。各種製品中の枯草菌含有量は、摂取により老化抑制効果が認められる量であれば特に限定されないが、0.1~20重量%が好ましく、0.2~10重量%がより好ましく、0.5~5重量%がさらに好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【実施例1】
【0019】
(1.枯草菌菌体の調製)
異化代謝産物抑制様現象を利用した自然突然変異により、納豆菌の一種であるバチルス・サブチリスNBRC13169から、芽胞形成能を欠損した、芽胞形成能欠損株:バ
利用した自然突然変異は、特許第6019528号公報の実施例に記載の方法で行い、該公報に記載の方法で芽胞形成能が欠損した株であることを確認した。
【0020】
前記枯草菌を、液体培地(酵母エキス:2%、グルコース:5%、水道水:93%)に接種して37℃で24時間通気攪拌培養した後、90℃で10分間加熱殺菌処理した。次いで、遠心分離機を用いて培地を除去し、回収した菌体を水道水で洗浄した後、さらに遠心分離機で固液分離することで、菌体を回収した。回収した菌体をスプレードライヤーで乾燥し、枯草菌の死菌体粉末を調製した。
【0021】
(2.老化促進モデルマウス(SAMP8)における枯草菌投与効果の確認)
9週齢の老化促進マウス(SAMP8)に、枯草菌投与群(7匹:s1~s7)として前記1で得られた菌体粉末を1%配合したMF飼料(オリエンタル酵母工業製)を与え、また、対照群(7匹:c1~c7)としてMF飼料を与えて飼育した。実験期間中、飼料および水は自由摂取させ、各マウスの体重及び飼料摂取量を測定した。各群の1日当たりの餌の摂取量を表1に示した。尚、9~27週の飼育期間における、マウスの平均体重は何れの群も約32gだった。
【0022】
【0023】
(2-1.機能評価による老化度の判定:27週齢時)
27週齢時の各群、各7匹について、「老化促進モデルマウスを用いた機能評価」(細川・梅澤、p.294‐297、食品機能研究法、篠原・鈴木・上野川編、光琳、2000年)に記載の方法により、老化進行の指標として、11項目からなる行動や外見の変化(1)能動性の低下、2)受動性の低下、3)被毛の艶の悪化、4)被毛の粗造性の増加、5)脱毛、6)皮膚の潰瘍及び痂皮形成、7)眼瞼炎及び眼の周囲の皮膚の糜爛、8)角膜の混濁、9)角膜潰瘍、10)白内障、11)背骨の前後湾曲の増強)を各0~4点の5段階で点数化し、その総点数によって表される老化度評点を算出して、老化度を判定した。結果を表2に示した。また、各群の1匹あたりの老化度評点の平均値及び標準偏差について
図1に示した。
【0024】
【0025】
(2-2.機能評価による老化度の判定:57週齢時)
57週齢まで、4~5週間おきに、2-1と同様に、11項目からなる行動や外見の変化を各0~4点の5段階で点数化した。各群の各週齢における老化度評点の平均値の推移について
図2に示した。また、各群の57週齢時の、受動性の低下、被毛の艶の悪化及び被毛の粗造性の増加について、1匹あたりの各点数の平均値及び標準偏差を
図3に示した。尚、57週齢時の生存数は、各群共、4匹だった。
【0026】
(2-3-1.老化度評価)
表2及び
図1より、27週齢時に、対照群に比べて枯草菌投与群で老化度評点が有意に低く、さらに、
図2より、57週齢までの老化度評点の推移では、対照群に比べて枯草菌投与群で、終始、老化度評点が低く、枯草菌の経口投与により、老化が抑制されることが確認できた。特に、57週齢では、
図3に示したとおり、受動性の低下、被毛の艶の悪化及び被毛の粗造性の増加で、対照群に比べて枯草菌投与群で有意に低い点数であり、枯草菌の経口投与によって、老化により引き起こされる、触覚感度の鈍化又は反射的行動の衰退を抑制する効果や、外観の加齢変化である毛の変化を抑制する効果が発揮されたと考えられる。
【0027】
尚、枯草菌投与群では、27週齢までの飼育期間におけるマウスの平均体重約32g当たり、菌体重量で1日当たり43~56mgの投与で効果が認められた。
【0028】
(2-3-2.排泄物の評価)
対照群では、44週齢まで見られなかった下痢症状が、49週齢からみられたのに対し、枯草菌投与群では、49週齢及び53週齢においても正常な糞の状態であり、57週齢になって、53週齢まで見られなかった下痢症状がみられた。
【0029】
下痢症状は、老化による腸の機能低下によって引き起こされたと考えられ、枯草菌の経口投与によって、腸の機能低下を抑えることができると考えられる。