(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法、3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒、およびこれを用いたアクリル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 37/03 20060101AFI20231031BHJP
B01J 27/18 20060101ALI20231031BHJP
B01J 37/06 20060101ALI20231031BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20231031BHJP
C07C 51/377 20060101ALI20231031BHJP
C07C 57/04 20060101ALI20231031BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231031BHJP
【FI】
B01J37/03 Z
B01J27/18 Z
B01J37/06
B01J37/08
C07C51/377
C07C57/04
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2022560407
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 KR2021014200
(87)【国際公開番号】W WO2022114519
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】10-2020-0163037
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジェヨン
(72)【発明者】
【氏名】バン、ジュンウプ
(72)【発明者】
【氏名】チョイ、ジェ スーン
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2012-0025888(KR,A)
【文献】国際公開第2014/181545(WO,A1)
【文献】特開2016-175840(JP,A)
【文献】特表2016-520099(JP,A)
【文献】特開2019-069433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 51/377
C07C 57/04
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のカルシウム塩の溶液に第1のリン酸塩の溶液を点滴してアパタイト(Apatite)ケーキを製造する段階;
第2のカルシウム塩の溶液に第2のリン酸塩の溶液を点滴してピロリン酸カルシウム(Calcium pyrophosphate、CaPP)ケーキを製造する段階;
前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムケーキを製造する段階;および
前記リン酸カルシウムケーキを焼成する段階
を含む、
ヒドロキシアパタイト(Hydroxyapatite、HAP)およびピロリン酸カルシウムを含む3-ヒドロキシプロピオン酸(3-Hydroxypropionic acid)の脱水反応用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムケーキを製造する段階における前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキの重量比が10:90~80:20である、請求項1に記載の3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記第1のカルシウム塩の溶液および前記第2のカルシウム塩の溶液のカルシウム塩の濃度がそれぞれ0.1M以上5M以下である、請求項1または2に記載の3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記第1のリン酸塩の溶液および前記第2のリン酸塩の溶液のリン酸塩の濃度がそれぞれ0.1M以上5M以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記第1のカルシウム塩の溶液に第1のリン酸塩の溶液を点滴してアパタイトケーキを製造する段階は、前記第1のカルシウム塩の溶液を含む浴槽(bath)に前記第1のリン酸塩の溶液を点滴する段階を含み、
前記第2のカルシウム塩の溶液に第2のリン酸塩の溶液を点滴してピロリン酸カルシウムケーキを製造する段階は、前記第2のカルシウム塩の溶液を含む浴槽に前記第2のリン酸塩の溶液を点滴する段階を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法。
【請求項6】
前記第1のリン酸塩の溶液の点滴および前記第2のリン酸塩の溶液の点滴は、それぞれ30秒以上1時間以下の時間で行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法。
【請求項7】
前記第1のリン酸塩は、Li
3PO
4、Na
3PO
4およびK
3PO
4からなる群より選択された1以上またはその水和物である、請求項1から6のいずれか一項に記載の3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法。
【請求項8】
前記第2のリン酸塩は、ピロリン酸(H
4P
2O
7)、Li
4P
2O
7、Na
4P
2O
7およびK
4P
2O
7からなる群より選択された1以上またはその水和物である、請求項1から7のいずれか一項に記載の3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法。
【請求項9】
前記第1のカルシウム塩の溶液および前記第2のカルシウム塩の溶液は、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび酢酸カルシウムからなる群より選択された1以上のカルシウム塩またはその水和物を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法。
【請求項10】
前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムケーキを製造する段階は、
前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムスラリーを製造する段階;および
前記リン酸カルシウムスラリーを濾過、洗浄および乾燥してリン酸カルシウムケーキを製造する段階を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法。
【請求項11】
前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムスラリーを製造する段階は、20℃~60℃の温度で1時間~48時間で攪拌する段階を含む、請求項10に記載の3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法。
【請求項12】
前記焼成は、300℃~700℃の温度条件で行われる、請求項1から11のいずれか一項に記載の3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法。
【請求項13】
ヒドロキシアパタイト相(Phase)およびピロリン酸カルシウム相を含む3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒であって、
前記3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の前記ヒドロキシアパタイト相および前記ピロリン酸カルシウム相の重量比が10:90~80:20である、3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒。
【請求項14】
請求項13に記載の3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒を用いて3-ヒドロキシプロピオン酸を脱水反応させてアクリル酸を製造する段階を含むアクリル酸の製造方法。
【請求項15】
前記脱水反応は、70℃~400℃の温度条件で行われる、請求項14に記載のアクリル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年11月27日付にて韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10-2020-0163037号の出願日の利益を主張し、その内容の全ては本明細書に含まれる。
【0002】
本発明は、3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法、3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒、およびこれを用いたアクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
3-ヒドロキシプロピオン酸(3-HP)は、様々な物質に転換されることのできるプラットホーム化合物であり、グルコースやグリセロールなどから生物学的な転換工程によって得られる。
【0004】
3-ヒドロキシプロピオン酸(3-HP)は、脱水反応によってアクリル酸に転換されることができ、前記脱水反応には、SiO2、TiO2、Al2O3、ゼオライトのような固体酸触媒;アンモニア、ポリビニルピロリジン、メタルヒドロキシド、Zr(OH)4のような塩基触媒;または、MgSO4、Al2(SO4)3、K2SO4、AlPO4、Zr(SO4)2のような金属触媒が使用され、生成されるアクリル酸の歩留まりは60~90%のレベルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国公開特許第10-2012-0025888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法、3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒、およびこれを用いたアクリル酸の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、第1のカルシウム塩溶液に第1のリン酸塩溶液を点滴してアパタイト(Apatite)ケーキを製造する段階;
第2のカルシウム塩溶液に第2のリン酸塩溶液を点滴してピロリン酸カルシウム(Calcium pyrophosphate、CaPP)ケーキを製造する段階;
前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムケーキを製造する段階;および
前記リン酸カルシウムケーキを焼成する段階を含む、
ヒドロキシアパタイト(Hydroxyapatite、HAP)およびピロリン酸カルシウムを含む3-ヒドロキシプロピオン酸(3-Hydroxypropionic acid)の脱水反応用触媒の製造方法を提供する。
【0008】
本発明の一実施形態は、ヒドロキシアパタイト相(Phase)およびピロリン酸カルシウム相を含む3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒であって、前記触媒の前記ヒドロキシアパタイト相および前記ピロリン酸カルシウム相の重量比が10:90~80:20である3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒を提供する。
【0009】
また、本発明の一実施形態は、前記触媒を用いて3-ヒドロキシプロピオン酸を脱水反応させてアクリル酸を製造する段階を含むアクリル酸の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態による3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒の製造方法によって製造された触媒は、3-ヒドロキシプロピオン酸を脱水反応させてアクリル酸を製造する工程に使用する際、高いアクリル酸の歩留まりを奏するという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0012】
本明細書において、物質の「相(phase)」とは、ある物質が集まって、巨視的な観点で均一な物理的性質および化学的性質を有する系または集団を作っている状態を意味する。このような相の存在は、Bruker社のD4 endeavor X-ray diffractometerを使用して、特定の電圧、電流、スキャン速度、およびスキャンステップの条件でXRD分析を通じて確認することができる。すなわち、XRD分析の結果によって、特定の2θ(theta)の範囲内で発生するピークを観察して確認することができる。
【0013】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0014】
本発明の一実施形態は、第1のカルシウム塩溶液に第1のリン酸塩溶液を点滴してアパタイト(Apatite)ケーキを製造する段階;
第2のカルシウム塩溶液に第2のリン酸塩溶液を点滴してピロリン酸カルシウム(Calcium pyrophosphate、CaPP)ケーキを製造する段階;
前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムケーキを製造する段階、および
前記リン酸カルシウムケーキを焼成する段階を含む、
ヒドロキシアパタイト(Hydroxyapatite、HAP)およびピロリン酸カルシウムを含む3-ヒドロキシプロピオン酸(3-Hydroxypropionic acid)の脱水反応用触媒の製造方法を提供する。
【0015】
触媒がヒドロキシアパタイト(HAP)またはピロリン酸カルシウムの単一相を有する場合、3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応においてアクリル酸の歩留まりが低下し、寿命が短いため、工程性に劣るという問題があった。
【0016】
その反面、ヒドロキシアパタイトおよびピロリン酸カルシウムを含む触媒は、脱水反応の歩留まりが改善し、寿命が長いため、工程性が改善するという長所を有する。前記触媒がヒドロキシアパタイトおよびピロリン酸カルシウムを含む際、ヒドロキシアパタイトおよびピロリン酸カルシウムの混合相を有するものであると定義することができる。前記混合相は、ヒドロキシアパタイトおよびピロリン酸カルシウムが単純に混合していることを意味する。
【0017】
アパタイトケーキおよびピロリン酸カルシウムケーキは、リン酸塩溶液とカルシウム塩溶液とを互いに反応させて製造され、従来のように母液としてリン酸塩溶液にカルシウム塩溶液を点滴する代わりに、母液として前記カルシウム塩溶液にリン酸塩溶液を点滴して各ケーキを製造する場合、前記混合相が容易に形成されることを研究し、本発明を完成した。
【0018】
具体的に、本発明の一実施形態による触媒の製造方法は、カルシウム塩溶液に第1のリン酸塩溶液を点滴してアパタイトケーキを製造する段階;およびカルシウム塩溶液に第2のリン酸塩溶液を点滴してピロリン酸カルシウムケーキを製造する段階を含む。
【0019】
本明細書において、点滴(dropping)とは、溶液を液滴の形態で落とすことを意味し、点滴の速度(単位:体積/時間、例:mL/min)と点滴時間を調節して点滴量を調節することができる。前記点滴は、該当技術分野の通常の方法を利用してもよい。
【0020】
本発明の一実施形態において、前記第1のカルシウム塩溶液に第1のリン酸塩溶液を点滴してアパタイトケーキを製造する段階は、前記第1のカルシウム塩溶液を含む浴槽(bath)に前記第1のリン酸塩溶液を点滴する段階を含み、前記第2のカルシウム塩溶液に第2のリン酸塩溶液を点滴してピロリン酸カルシウムケーキを製造する段階は、前記第2のカルシウム塩溶液を含む浴槽(bath)に前記第2のリン酸塩溶液を点滴する段階を含む。
【0021】
本発明の一実施形態において、前記第1のカルシウム塩溶液に第1のリン酸塩溶液を点滴してアパタイトケーキを製造する段階は、前記第1のカルシウム塩溶液を含む浴槽に前記第1のリン酸塩溶液を点滴する段階を含む。具体的に、第1のカルシウム塩溶液を含む浴槽を用意した後、前記浴槽に第1のリン酸塩溶液をゆっくりと点滴することができる。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記第2のカルシウム塩溶液にリン酸塩溶液を点滴してピロリン酸カルシウムケーキを製造する段階は、前記第2のカルシウム塩溶液を含む浴槽に前記第2のリン酸塩溶液を点滴する段階を含む。具体的に、第2のカルシウム塩溶液を含む浴槽を用意した後、前記浴槽に第2のリン酸塩溶液をゆっくりと点滴することができる。
【0023】
前記点滴の速度は、それぞれ0.1mL/min以上10mL/min以下、または1mL/min以上10mL/min以下であってもよい。前記の範囲に満たないと、反応が遅くなって工程性が低下し、前記の速度を超えると、反応が急激に起こって沈殿物が発生することがあるため、前記の範囲に調整することが好ましい。
【0024】
前記カルシウム塩溶液にリン酸塩溶液を点滴してリン酸カルシウム塩を製造する段階は、従来のリン酸塩溶液にカルシウム塩溶液を点滴してリン酸カルシウム塩を製造する方式とは相違する。従来のように、リン酸塩溶液を母液にしてカルシウム塩溶液を点滴する場合、ピロリン酸ナトリウム(Na2CaP2O7)水和物が生成し、熱処理の後にピロリン酸カルシウム相がうまく形成されず、ヒドロキシアパタイト(HAP)およびピロリン酸カルシウムの混合相がうまく形成されないという問題があった。
【0025】
その反面、本発明の一実施形態のように、カルシウム塩溶液にリン酸塩溶液を点滴してリン酸カルシウム塩を製造する場合、ピロリン酸カルシウム(Ca2P2O7)水和物の形成によって、ヒドロキシアパタイトおよびピロリン酸カルシウムの混合相が容易に形成されることができる。
【0026】
前記混合相が存在するか否かは、製造された触媒のXRD(X-ray diffraction)分析を用いて確認することができる。この際、XRD分析は、Bruker社のD4 endeavor X-ray diffractometerを使用してもよく、CuKaランプ、40kV電圧、40mA電流、0.8deg/minのスキャン速度(Scan speed)、0.015のスキャンステップ(Scan step)の条件で2θ(theta)範囲の10度(°)~60°(°)の範囲内で発生するピークを観察する方法で混合相が存在するか否かを測定することができる。
【0027】
具体的に、2θ(theta)角度の25.9度(°)および31.7度(°)でヒドロキシアパタイト相に該当するピーク(peak)と26.7度(°)および30.5度(°)でピロリン酸カルシウム(CaPP)の相に該当するピークが同時に現れることを確認することによって、前記混合相が存在することが確認される。
【0028】
本明細書の一実施形態において、前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムケーキを製造する段階の前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキの重量比は10:90~80:20、15:85~70:30、18:82~55:45、または20:80~50:50であってもよい。
【0029】
また、本明細書の一実施形態において、前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムケーキを製造する段階の前記アパタイトケーキの重量比は前記ピロリン酸カルシウムケーキの重量比より小さくてもよい。前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムケーキを製造する段階の前記アパタイトケーキの重量比が前記ピロリン酸カルシウムケーキの重量比より小さい場合、前記リン酸カルシウムケーキを用いて製造したヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒を用いたアクリル酸を製造する際、アクリル酸の歩留まりがさらに高くなることがある。
【0030】
本明細書の一実施形態において、前記第1のカルシウム塩溶液および前記第2のカルシウム塩溶液のカルシウム塩の濃度は、それぞれ0.1M以上5M以下であってもよい。
【0031】
本明細書の一実施形態において、前記第1のカルシウム塩溶液および前記第2のカルシウム塩溶液のカルシウム塩の濃度がそれぞれ0.1M以上5M以下、好ましくは0.3M以上2M以下、より好ましくは1M以上1.5M以下であってもよい。前記範囲を超える場合、ピロリン酸カルシウムのゲル化が起こって、攪拌中に粒子が固くなるという問題があり、前記の範囲に満たない場合、触媒の生産性が低くなるという問題がある。
【0032】
本明細書の一実施形態において、前記第1のリン酸塩溶液および前記第2のリン酸塩溶液のリン酸塩の濃度は、それぞれ0.1M以上5M以下であってもよい。
【0033】
本明細書の一実施形態において、前記第1のリン酸塩溶液および前記第2のリン酸塩溶液のリン酸塩の濃度がそれぞれ0.1M以上5M以下、好ましくは0.3M以上2M以下、より好ましくは0.5M以上1M以下であってもよい。前記範囲を超える場合、ピロリン酸カルシウムのゲル化が起こって、攪拌中に粒子が固くなるという問題があり、前記の範囲に満たない場合、触媒の生産性が低くなるという問題がある。
【0034】
本明細書の一実施形態において、前記第1のリン酸塩溶液の点滴および前記第2のリン酸塩溶液の点滴は、25秒以上1時間以下、好ましくは30秒以上1時間以下の時間で行われてもよい。
【0035】
本明細書の一実施形態において、前記第1のリン酸塩は、Li3PO4、Na3PO4およびK3PO4からなる群より選択された1以上またはその水和物であってもよい。
【0036】
本明細書の一実施形態において、前記第2のリン酸塩は、ピロリン酸(H4P2O7)、Li4P2O7、Na4P2O7およびK4P2O7からなる群より選択された1以上またはその水和物であってもよい。
【0037】
本明細書の一実施形態において、前記第1のカルシウム塩溶液および第2のカルシウム塩溶液は、それぞれ塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび酢酸カルシウムからなる群より選択された1以上のカルシウム塩またはその水和物を含んでもよい。
【0038】
本明細書の一実施形態において、前記リン酸塩溶液およびカルシウム塩溶液を混合してリン酸カルシウムケーキを製造する段階は、20℃~60℃の温度で1時間~48時間撹拌する段階を含んでもよい。
【0039】
本明細書の一実施形態において、前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムケーキを製造する段階は、前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムスラリーを製造する段階;および前記リン酸カルシウムスラリーを濾過、洗浄および乾燥してリン酸カルシウムケーキを製造する段階を含んでもよい。
【0040】
本明細書の一実施形態において、前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムケーキを製造する段階は、前記リン酸カルシウムケーキを粉砕する段階をさらに含んでもよい。
【0041】
前記リン酸カルシウムケーキを粉砕する段階は、前記リン酸カルシウムケーキを5μm~100μmの平均粒度(D50)を有する粉末に粉砕する段階を含んでもよい。前記平均粒度(D50)は、平均粒度分布図において累積百分率が50%に達したときの粒度を意味する。平均粒度(D50)は、ホリバ(Horiba)社のLaser Particle size Analyer LA-950の装備を使用してもよく、前記リン酸カルシウム粉末を含む溶液を水で希釈して分散液を製造し、Laser Particle size Analyerに投入して15℃~35℃の温度範囲で測定することができる。
【0042】
本明細書の一実施形態において、前記リン酸カルシウムスラリーを濾過、洗浄および乾燥する段階において、前記乾燥は、80℃~120℃で5時間~48時間で行われてもよい。
【0043】
本明細書の一実施形態において、前記リン酸カルシウムケーキまたは粉末をリン酸カルシウムペレットに成形する段階をさらに含んでもよい。
【0044】
本明細書の一実施形態において、前記リン酸カルシウムケーキを焼成する段階は、300℃~700℃の温度条件で行われてもよい。焼成が十分に行われるように、前記温度条件は、400℃~600℃または450℃~550℃に調節されてもよい。
【0045】
本明細書の一実施形態において、前記リン酸カルシウムケーキを焼成する段階は、1時間~24時間で行われてもよい。
【0046】
本発明の一実施形態は、ヒドロキシアパタイト相(Phase)およびピロリン酸カルシウム相を含む3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒を提供する。前記触媒は、上述の製造方法によって製造されたものであってもよい。
【0047】
本明細書の一実施形態において、前記脱水反応用触媒の前記ヒドロキシアパタイト相および前記ピロリン酸カルシウム相(phase)の重量比は10:90~80:20であってもよい。
【0048】
本明細書の一実施形態において、前記脱水反応用触媒の前記ヒドロキシアパタイト相および前記ピロリン酸カルシウム相の重量比は10:90~80:20、15:85~70:30、18:82~55:45、または20:80~50:50であってもよい。すなわち、前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキを混合してリン酸カルシウムケーキを製造する段階の前記アパタイトケーキおよび前記ピロリン酸カルシウムケーキの重量比と同一である。
【0049】
また、本明細書の一実施形態において、前記脱水反応用触媒の前記ヒドロキシアパタイト相の重量比が前記ピロリン酸カルシウム相の重量比より小さくてもよい。
【0050】
前記脱水反応用触媒の前記ヒドロキシアパタイト相の重量比が前記ピロリン酸カルシウム相の重量比より小さい場合、前記脱水反応用触媒を用いたアクリル酸を製造する際、アクリル酸の歩留まりがさらに高くなることがある。
【0051】
本発明の一実施形態において、前記ピロリン酸カルシウムは、β-ピロリン酸カルシウム(β-Calcium pyrophosphate、β-Capp)であってもよい。
【0052】
また、本発明の一実施形態は、前記触媒を用いて3-ヒドロキシプロピオン酸を脱水反応させてアクリル酸を製造する段階を含むアクリル酸の製造方法を提供する。
【0053】
前記3-ヒドロキシプロピオン酸は、グルコースまたはグリセロールを転換して製造することができる。例えば、グリセロールとカルボン酸を含む反応物からアリルアルコールを含む生成物を製造し、前記生成物に不均一系触媒および塩基性溶液を投入および酸化させて製造してもよい。具体的な製造方法は、特許文献韓国公開特許第10-2015-0006349号公報に記載されたとおりである。
【0054】
前記3-ヒドロキシプロピオン酸を脱水反応させてアクリル酸を製造する段階は、以下の反応式のように行われる。
[反応式]
【化1】
【0055】
前記脱水反応は、前記3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応用触媒が備えられた回分式反応器、半回分式反応器、連続攪拌タンク反応器、プラグフロー反応器、固定床反応器、および流動層反応器からなる群より選択されるいずれかの反応器またはこれらのうち2以上を連結した混合反応器で行われてもよい。
【0056】
前記脱水反応は、70℃~400℃、好ましくは100℃~300℃、より好ましくは70℃~280℃で進行されてもよい。
【0057】
前記脱水反応は、減圧、常圧、加圧下で運転してもよい。好ましくは減圧蒸留方式を使用してもよい。前記減圧蒸留の際の圧力は、5mbar~50mbar、10~40mbar、または15~30mbarに制御されるとよい。前記圧力が5mbar未満であれば、アクリル酸以外の有機溶媒も回収されて高純度のアクリル酸を回収することが難しくなる場合があり、50mbarを超えれば、アクリル酸への脱水反応が行われなかったり、アクリル酸の回収が難しかったりする場合がある。
【0058】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を説明するための手段であり、実施例に記載された事項によって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0059】
<触媒の製造>
(1)実施例1
リン酸ナトリウム(Na3PO412H2O)23g(=0.75M)を80mLの蒸留水に溶かした第1のリン酸塩溶液Aと塩化カルシウム水和物(CaCl22H2O)14gを80mLの蒸留水に溶かしたカルシウム塩溶液B(モル濃度:1.19M)を用意した。
【0060】
前記カルシウム塩溶液Bを常温の40mlの蒸留水に3ml/minの速度で30秒間点滴して浴槽(bath)を用意した。前記浴槽(bath)に前記第1のリン酸塩溶液を3ml/minの速度で30秒間点滴した。この際、点滴時の浴槽(bath)の母液であるカルシウム塩の濃度が高い条件で粒子が形成されることができる。
【0061】
前記溶液が混合されることで得られたスラリーを、フィルター、濾過および洗浄してCa5(PO4)3OHケーキ(cake)を製造した。
【0062】
ピロリン酸ナトリウム(Na2P2O7)23g(=0.21M)を180mLの蒸留水に溶かした第2のリン酸塩Cおよび塩化カルシウム水和物(CaCl22H2O)27gを180mLの蒸留水に溶かしたカルシウム塩溶液D(モル濃度:1.02M)を用意した。
【0063】
前記カルシウム塩溶液Dを常温の40mlの蒸留水に3ml/minの速度で30秒間点滴して浴槽(bath)を用意した。前記浴槽(bath)に前記第2のリン酸塩溶液を3ml/minの速度で点滴した。
【0064】
前記溶液が混合されることで得られたスラリーを、フィルター、濾過および洗浄してβ-ピロリン酸カルシウム(β-calcium pyrophosphate)ケーキを製造した。
【0065】
製造されたアパタイト{Ca5(PO4)3OH}ケーキとβ-ピロリン酸カルシウム(β-calcium pyrophosphate)ケーキを1Lの水で20:80の重量比で混合し、室温で約2時間撹拌した。その後、これを濾過して水を濾過する過程を3回繰り返した。その後、洗浄過程を経て得られたケーキを乾燥した後、500℃で焼成してヒドロキシアパタイト相およびピロリン酸カルシウム相の重量比が20:80である混合相触媒を製造した。
【0066】
(2)実施例2
製造されたアパタイト{Ca5(PO4)3OH}ケーキとβ-ピロリン酸カルシウム(β-calcium pyrophosphate)ケーキを1Lの水で70:30の重量比で混合したことを除いて、実施例1と同様の方法でヒドロキシアパタイト相およびピロリン酸カルシウム相の重量比が70:30である混合相触媒を製造した。
【0067】
(3)実施例3
製造されたアパタイト{Ca5(PO4)3OH}ケーキとβ-ピロリン酸カルシウム(β-calcium pyrophosphate)ケーキを1Lの水で15:85の重量比で混合したことを除いて、実施例1と同様の方法でヒドロキシアパタイト相およびピロリン酸カルシウム相の重量比が15:85である混合相触媒を製造した。
【0068】
(4)比較例1
リン酸ナトリウム(Na3PO412H2O)23gを80mLの蒸留水に溶かした第1のリン酸塩溶液Aと塩化カルシウム水和物(CaCl22H2O)14gを80mLの蒸留水に溶かしたカルシウム塩溶液Bを用意した。
【0069】
前記カルシウム塩溶液Bを常温の40mlの蒸留水に3ml/minの速度で30秒間点滴して浴槽(bath)を用意した。前記浴槽(bath)に前記第1のリン酸塩溶液を3ml/minの速度で点滴した。
【0070】
前記溶液が混合されることで得られたスラリーを、フィルター、濾過および洗浄してCa5(PO4)3OHケーキ(cake)を製造した。
製造されたCa5(PO4)3OHケーキを1Lの水と混合した後、濾過して水を濾過する過程を3回繰り返した。その後、洗浄過程を経て得られたケーキを乾燥した後、500℃で焼成してHAP単一相触媒を製造した。
【0071】
(5)比較例2
ピロリン酸ナトリウム(Na2P2O7)23g(=0.21M)を180mLの蒸留水に溶かした第2のリン酸塩Cおよび塩化カルシウム水和物(CaCl22H2O)27gを180mLの蒸留水に溶かしたカルシウム塩溶液D(モル濃度:1.02M)を用意した。
【0072】
前記カルシウム塩溶液Dを常温の40mlの蒸留水に3ml/minの速度で30秒間点滴して浴槽(bath)を用意した。前記浴槽(bath)に前記第2のリン酸塩溶液を3ml/minの速度で点滴した。
【0073】
前記溶液が混合されることで得られたスラリーを、フィルター、濾過および洗浄してβ-ピロリン酸カルシウム(β-calcium pyrophosphate)ケーキを製造した。
【0074】
製造されたCa5(PO4)3OHケーキを1Lの水と混合した後、濾過して水を濾過する過程を3回繰り返した。その後、洗浄過程を経て得られたケーキを乾燥した後、500℃で焼成してβ-ピロリン酸カルシウム単一相触媒を製造した。
【0075】
(6)比較例3
アナターゼ相(Anatase phase)を有する二酸化チタン触媒(TiO2、Thermo Fisher Scientific社製)を用意した。
【0076】
(7)比較例4
シリカゲル触媒(silica gel、Aladdin社製)を用意した。
【0077】
<実験例>3-ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応
直径1/2inchの石英反応管に前記製造された実施例1で製造された触媒0.4gを充填した後、Reactor Furnaceに反応管を連結および締結した。
【0078】
窒素キャリアガス(N2)を25sccmの速度で反応管内にパージングさせながら反応温度である280℃まで昇温(昇温速度:約12.5℃/min)させた。
【0079】
反応温度に達した後、シリンジポンプを用いて3-ヒドロキシプロピオン酸水溶液(濃度:20wt%)を反応器の上端部に1.5mL/hで投入した。
【0080】
投入された3-ヒドロキシプロピオン酸は、反応管内で気化し、触媒存在下で脱水反応を経てアクリル酸に転換された。この後、反応管の下端部のサンプルトラップ(3℃に維持)で液相に凝縮しているアクリル酸を収得した(実験例1)。この際、High-performance Liquid Chromatography(HPLC)とGas Chromatography Flame Ionization Detector(GC-FID)を用いてアクリル酸の生成と3-ヒドロキシプロピオン酸の生成および消耗量をモル(mole)数で定量化した。
【0081】
この際、実験例1によって収得したアクリル酸の歩留まりは94.9%であった。
【0082】
これ以外に、前記製造された実施例2および3と比較例1~4の触媒を触媒ローディング量、反応温度、キャリアガスおよびキャリアガスの流量のような触媒の実験条件を下記の表1のように変更したことを除いて、実施例1の触媒を用いてアクリル酸を製造したのと同様の方法で3-ヒドロキシプロピオン酸を脱水反応させてアクリル酸を製造した(実験例2~10)。
【0083】
実験例2~10によって収得したアクリル酸の歩留まりは下記の表1のとおりであった。
【0084】
この際、アクリル酸の歩留まりは下記式1~式3によって算出した。
[式1]
3-ヒドロキシプロピオン酸の転換率(conversion,%)=100×(反応前の3-ヒドロキシプロピオン酸のモル数-反応後の3-ヒドロキシプロピオン酸のモル数)/(反応前の3-ヒドロキシプロピオン酸のモル数)
[式2]
アクリル酸の選択度(yield、%)=100×(生成されたアクリル酸のモル数)/(反応した3-ヒドロキシプロピオン酸のモル数)
[式3]
アクリル酸の歩留まり(yield,%)=(3-ヒドロキシプロピオン酸の転換率×アクリル酸の選択度)/100
【0085】
【0086】
実験例8および9で用いた二酸化チタンとシリカゲル触媒は、従来の3-ヒドロキシプロピオン酸脱水反応に優れた効果を有するものと知られていたが、前記表1から、アクリル酸歩留まりが80%未満であり、歩留まりに限界があることが確認できた。
【0087】
また、前記表1から、実験例5および6で用いたヒドロキシアパタイト(HAP)の単一相触媒は、触媒ローディング量を増加させてもアクリル酸の歩留まりが劣ることが確認できた。
【0088】
前記表1の実験例1、3、4および7から、β-ピロリン酸カルシウム単一相触媒は、同じ触媒条件でアクリル酸を収得しても、ヒドロキシアパタイトおよびピロリン酸カルシウムの混合相を有する触媒よりアクリル酸の歩留まりが劣ることが確認できた。
【0089】
その反面、同じ触媒条件であっても、ヒドロキシアパタイトおよびピロリン酸カルシウムの混合相を有する触媒は、β-ピロリン酸カルシウム単一相触媒、TiO2またはSilice gelを触媒として用いた場合よりもアクリル酸の歩留まりが高く示されることが確認でき、ヒドロキシアパタイトの単一相触媒を使用するときに比べて触媒のローディング量が少ないにも関わらず、アクリル酸の歩留まりが高く示されることが確認できた。
【0090】
すなわち、本発明に係る混合相を有する触媒は、3-ヒドロキシプロピオン酸を脱水反応させてアクリル酸を製造する工程に使用する際、高いアクリル酸の歩留まりを示すという効果を有することが確認できた。