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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】レーザ装置及びレーザ安定化方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/139 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
H01S3/139
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019150933
(22)【出願日】2019-08-21
(65)【公開番号】P2021034464
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】白川 裕介
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-152308(JP,A)
【文献】特開2011-232055(JP,A)
【文献】特開2013-016713(JP,A)
【文献】特開2013-153111(JP,A)
【文献】特開2019-087550(JP,A)
【文献】特開2008-141054(JP,A)
【文献】実開平02-111404(JP,U)
【文献】特開平11-102507(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0213304(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101615755(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力する共振器と、
前記共振器から出力された前記レーザ光が入射される吸収セルと、
前記吸収セルを透過した前記レーザ光を検出して光検出信号を出力する光検出部と、
前記光検出信号の2次微分信号を生成する微分演算部と、
印加される駆動電圧に応じて前記共振器の共振器長を変化させるアクチュエータと、
前記駆動電圧を出力するアクチュエータ駆動部と、
制御部と、を備えるレーザ装置であって、
前記制御部は、
前記駆動電圧を増加方向または減少方向である掃引方向に掃引させるアクチュエータ制御部と、
前記駆動電圧が掃引される間、前記2次微分信号に基づいて特異点を検出し、当該特異点が検出された時点の前記駆動電圧の電圧値をメモリに記憶させる探索処理を行う探索部と、
前記探索処理において検出された複数の前記特異点からノイズを判別するノイズ判別部と、を備え、
前記特異点として検出された前記ノイズが存在する場合、前記アクチュエータ制御部は、前記掃引方向において前記ノイズを経過した位置である復帰値に前記駆動電圧を設定し、前記探索部は、前記駆動電圧が前記復帰値から前記掃引方向に再掃引される間、前記探索処理を再度行うことを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
レーザ光を出力する共振器と、
前記共振器から出力された前記レーザ光が入射される吸収セルと、
前記吸収セルを透過した前記レーザ光を検出して光検出信号を出力する光検出部と、
前記光検出信号の2次微分信号を生成する微分演算部と、
印加される駆動電圧に応じて前記共振器の共振器長を変化させるアクチュエータと、
前記駆動電圧を出力するアクチュエータ駆動部と、を備えるレーザ装置を用いて、
前記駆動電圧を増加方向または減少方向である掃引方向に変化させる間、前記2次微分信号に基づいて特異点を検出し、当該特異点が検出された時点の前記駆動電圧の電圧値をメモリに記憶させる探索処理を行う探索工程と、
前記探索工程において検出された複数の前記特異点からノイズを判別するノイズ判別工程と、
前記特異点として検出された前記ノイズが存在する場合、前記掃引方向において前記ノイズを経過した位置である復帰値に前記駆動電圧を設定する工程と、
前記駆動電圧を前記復帰値から前記掃引方向に再掃引させる間、前記探索処理を実施する再探索工程と、
を行うことを特徴とするレーザ安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置及びレーザ安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光の発振周波数を吸収セルの特定の飽和吸収線に安定化させるレーザ装置が知られている。
例えば、特許文献1に記載のレーザ装置は、レーザ光を出射する共振器と、共振器から出射したレーザ光が照射される吸収セルと、吸収セルを透過したレーザ光を検出して光検出信号を出力する光検出器とを備えている。このレーザ装置では、共振器長を所定範囲で変化させながら、光検出信号及び当該光検出信号の2次微分信号に基づいて飽和吸収線を探索し、目標とする飽和吸収線が観測された共振器長を実現することにより、レーザ光の発振周波数を目標とする飽和吸収線に固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-016713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の特許文献1に記載のレーザ装置では、レーザ光がシングルモード発振ではなく多モード発振の状態にある場合や外乱の影響を受けた場合など、ノイズが飽和吸収線として誤検出されてしまう場合がある。ノイズが飽和吸収線として誤検出されると、飽和吸収線のカウント数がメモリに記憶されたパラメータとは異なる値となり、探索処理がエラーとなってしまう。探索処理を問題なく再開するためには、ノイズが落ち着くまで待機する必要があり、探索処理の全体にかかる時間が長くなってしまう。
【0005】
本発明は、目標とする飽和吸収線の探索処理がエラーとなった場合において、待機時間を必要とせずに探索処理を再開できるレーザ装置及びレーザ安定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザ装置は、レーザ光を出力する共振器と、前記共振器から出力された前記レーザ光が入射される吸収セルと、前記吸収セルを透過した前記レーザ光を検出して光検出信号を出力する光検出部と、前記光検出信号の2次微分信号を生成する微分演算部と、印加される駆動電圧に応じて前記共振器の共振器長を変化させるアクチュエータと、前記駆動電圧を出力するアクチュエータ駆動部と、制御部と、を備えるレーザ装置であって、前記制御部は、前記駆動電圧を増加方向または減少方向に掃引させるアクチュエータ制御部と、前記駆動電圧が掃引される間、前記2次微分信号に基づいて特異点を検出し、当該特異点が検出された時点の前記駆動電圧の電圧値をメモリに記憶させる探索処理を行う探索部と、前記探索処理において検出された複数の前記特異点からノイズを判別するノイズ判別部と、を備え、前記特異点として検出された前記ノイズが存在する場合、前記探索部は、前記ノイズが検出された電圧値より大きい値から前記駆動電圧が増加方向に掃引される間、または、前記ノイズが検出された電圧値より小さい値から前記駆動電圧が減少方向に掃引される間、前記探索処理を行うことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、直前の探索処理においてノイズが特異点として検出され、目標とする飽和吸収線の探索処理がエラーとなった場合、ノイズが検出される電圧範囲を過ぎた位置から、次回の探索処理が行われる。このため、ノイズが落ち着くまでの待機時間を必要とせず、探索処理を再開することができる。
【0008】
本発明のレーザ装置において、前記特異点として検出された前記ノイズが存在する場合、前記アクチュエータ制御部は、前記駆動電圧を、前記ノイズが検出された電圧値よりも大きい値から増加方向に掃引する、または、前記ノイズが検出された電圧値よりも小さい値から減少方向に掃引することが好ましい。
このような本発明によれば、駆動電圧を最大電圧値から減少させる場合、または、駆動電圧を最小電圧値から増加させる場合と比べて、駆動電圧の掃引時間を短縮化できる。
【0009】
本発明のレーザ安定化方法は、レーザ光を出力する共振器と、前記共振器から出力された前記レーザ光が入射される吸収セルと、前記吸収セルを透過した前記レーザ光を検出して光検出信号を出力する光検出部と、前記光検出信号の2次微分信号を生成する微分演算部と、印加される駆動電圧に応じて前記共振器の共振器長を変化させるアクチュエータと、前記駆動電圧を出力するアクチュエータ駆動部と、を備えるレーザ装置を用いて、前記駆動電圧を増加方向または減少方向に変化させる間、前記2次微分信号に基づいて特異点を検出し、当該特異点が検出された時点の前記駆動電圧の電圧値をメモリに記憶させる探索処理を行う探索工程と、前記探索工程において検出された複数の前記特異点からノイズを判別するノイズ判別工程と、前記特異点として検出された前記ノイズが存在する場合、前記駆動電圧を前記ノイズが検出された時点の前記電圧値よりも大きい値から増加方向に変化させる間、または、前記駆動電圧を前記ノイズが検出された時点の前記電圧値よりも小さい値から減少方向に変化させる間、前記探索処理を実施する再探索工程とを行うことを特徴とする。
本発明のレーザ安定化方法によれば、上述した本発明のレーザ装置と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るレーザ装置を模式的に示す図。
図2】前記実施形態のレーザ装置における制御装置を示すブロック図。
図3】駆動電圧を変化させた場合の光検出信号及び2次微分信号の各出力値の変化を示すグラフ。
図4図3に示す光検出信号及び2次微分信号の各出力値の変化について、一部を拡大して示すグラフ。
図5】前記実施形態のレーザ安定化方法を説明するためのフローチャート。
図6図3に示す光検出信号及び2次微分信号にノイズが発生している例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
〔レーザ装置〕
図1に示すように、レーザ装置1は、励起用光源10と、共振器20と、導波光学部30と、検波部40と、制御装置50と、を備える。
励起用光源10は、制御装置50の制御により駆動され、駆動電流が流れることにより、例えば808nm付近の励起光La1を出射する。
【0012】
共振器20は、レーザ媒体21と、非線形光学結晶22と、エタロン23と、共振器ミラー24と、アクチュエータ25と、これらを内部に格納する筐体26とを備えている。
レーザ媒体21は、例えばNd:YVO結晶等により構成され、励起光La1によって励起されて、例えば1064nm付近の波長の光(基本波光)を出射する。また、励起光La1が入射される側のレーザ媒体21の面には、励起光La1を透過し、基本波光を反射するコーティングが施されている。
【0013】
非線形光学結晶22は、例えばKTP結晶等により構成され、レーザ媒体21から出射される基本波光を、例えば532nm付近の波長の光(第2高調波光)に変換する。
エタロン23は、所定波長の光を透過させることにより、基本波光及び第2高調波光をシングルモードにする。
【0014】
共振器ミラー24は、アクチュエータ25を介して筐体26に取り付けられている。共振器ミラー24のエタロン23側の面には、基本波光を反射し、第2高調波光を透過させるコーティングが施されている。
アクチュエータ25は、例えばピエゾ素子等により構成され、制御装置50の制御により駆動されて、共振器ミラー24の位置を変化させる。つまり、アクチュエータ25は、共振器長を変化させる。
【0015】
このような共振器20では、レーザ媒体21から出射した基本波光が、レーザ媒体21と共振器ミラー24との間を往復し、非線形光学結晶22によって第2高調波光に変換される。非線形光学結晶22に変換された第2高調波光は、共振器ミラー24を透過し、レーザ光La2として共振器20から出射される。
【0016】
導波光学部30は、例えば、λ/2板31及び第1偏光ビームスプリッタ32を含む複数の光学部材により構成される。この導波光学部30では、レーザ光La2が、λ/2板31に偏光方向を調整されて第1偏光ビームスプリッタ32に入射する。第1偏光ビームスプリッタ32に入射した光は、P偏光の透過光と、S偏光の反射光に分離され、このうち、S偏光の反射光(レーザ光La3)は、レーザ装置1の外部に出射され、測長等に使用される。第1偏光ビームスプリッタ32を透過したP偏光のレーザ光La4は、検波部40に入射される。
【0017】
検波部40は、導波光学部30のレーザ光La4が入射する光入射部42と、光入射部42からのレーザ光La4が透過される光吸収部43と、光吸収部43を透過したレーザ光を反射し、光吸収部43に再入射させる光反射部44とを備える。
【0018】
光入射部42は、導波光学部30の第1偏光ビームスプリッタ32を透過したP偏光のレーザ光La4が入射される部分である。この光入射部42には、第2偏光ビームスプリッタ421と、λ/4板422と、光検出部424とが設けられている。
第2偏光ビームスプリッタ421は、光入射部42に入射したP偏光のレーザ光La4を透過させ、吸収セル431から入射したS偏光のレーザ光を光検出部424に反射させる。
λ/4板422は、第2偏光ビームスプリッタ421側から入射されるP偏光のレーザ光La4を円偏光に変換して吸収セル431側に出射させる。また、吸収セル431側から入射した円偏光のレーザ光をS偏光に変換して第2偏光ビームスプリッタ421側に出射させる。
光検出部424は、第2偏光ビームスプリッタ421で反射された光を検出し、光強度に応じた光検出信号SL1を制御装置50に出力する。
【0019】
光吸収部43は、吸収セル431を備えている。吸収セル431には、封入ガス(例えばヨウ素)が封入されており、入射されたレーザ光のうち、封入ガスの吸光特性に応じた所定波長の光を吸光する。
光反射部44は、光吸収部43を介して光入射部42とは反対側に設けられる。この光反射部44は、吸収セル431を透過したレーザ光を反射する反射ミラー442を備える。
【0020】
本実施形態では、光入射部42に入射したP偏光のレーザ光La4は、第2偏光ビームスプリッタ421及びλ/4板422を透過し、光吸収部43の吸収セル431に向かって出射される。吸収セル431を透過したレーザ光は、光反射部44の反射ミラー442で反射され、再度吸収セル431に入射される。そして、吸収セル431の内部の封入ガスに吸収されなかった透過レーザ光が、再度λ/4板422を透過して第2偏光ビームスプリッタ421に入射される。したがって、第2偏光ビームスプリッタ421に再入射したレーザ光は、λ/4板422を2度通過することでS偏光の光となり、第2偏光ビームスプリッタ421で反射されて、光検出部424に入射される。
【0021】
なお、本実施形態では説明を省略しているが、非線形光学結晶22及びエタロン23には、それぞれ、制御装置50によって制御される角度調整機構が設けられてもよい。また、非線形光学結晶22、エタロン23、筐体26及び光吸収部43には、それぞれ、制御装置50によって制御される温制御機構が設けられてもよい。
【0022】
制御装置50は、光検出部424から入力された光検出信号SL1に基づいて、アクチュエータ25の動作を制御し、レーザ光La2の発振周波数を特定の飽和吸収線に安定化させる。
具体的に、制御装置50は、図2に示すように、アクチュエータ25に対して駆動電圧Vを印加するアクチュエータ駆動部51と、光検出信号SL1に基づいて2次微分信号SL2及び3次微分信号SL3を生成する微分演算部52と、各信号SL1~SL3に基づいてアクチュエータ駆動部51へ制御信号Scを出力する制御部53と、メモリ54とを備えている。
【0023】
制御部53は、メモリ54に記憶されたプログラムを読み込み実行することで、アクチュエータ制御部531、探索部532及びノイズ判別部533として機能する。
アクチュエータ制御部531は、アクチュエータ駆動部51に対して制御信号Scを出力することにより、アクチュエータ駆動部51からアクチュエータ25に印加される駆動電圧Vを制御する。これにより、共振器20の共振器長が制御される。
探索部532は、2次微分信号SL2に現れる飽和吸収線とみられる特徴点を検出し、検出された特徴点から目標とする飽和吸収線を探索する探索処理を実施する。
ノイズ判別部533は、探索部532により検出された各特徴点がノイズであるか否かを判別する。
【0024】
〔飽和吸収線〕
図3は、光検出信号SL1及び2次微分信号SL2を示す図である。この図3は、各信号SL1,SL2の出力値を縦軸とし、アクチュエータ25への駆動電圧Vを横軸とし、駆動電圧Vを変化させた場合(共振器長を変化させた場合)における各信号SL1,SL2の変化を示す図である。
なお、光検出信号SL1は、光検出部424により光電変換された信号を反転増幅しているため、電圧極性が反転している。すなわち、吸収セル431に対するレーザ光の吸収率が高いと、光検出信号SL1の出力値は増大する。
【0025】
図3に示すように、駆動電圧Vを所定範囲で変化させた場合、光検出信号SL1の出力値が増大する範囲、すなわちレーザ光が吸収セル431に吸収される範囲(以下、吸収領域Rv1~Rv4)が所定周期で観測される。2次微分信号SL2には、吸収領域Rv1~Rv4毎に、飽和吸収線のまとまりであるピーク群M1~M4が現れる。
本実施形態では、1以上の飽和吸収線が飽和吸収線群を構成している。例えば、図4に示すピーク群M2には、飽和吸収線群N1(飽和吸収線a1)、飽和吸収線群N2(飽和吸収線a2~a5)、飽和吸収線群N3(飽和吸収線a6~a9)、飽和吸収線群N4(飽和吸収線a10)、飽和吸収線群N5(飽和吸収線a11~a14)、飽和吸収線群N6(飽和吸収線a15)が観測される。
以上の各ピーク群M1~M4に属する飽和吸収線群の数及び組み合わせ、ならびに、各飽和吸収線群に属する飽和吸収線の数は、パラメータとして、メモリ54に記憶されている。
【0026】
〔レーザ安定化方法〕
レーザ装置1におけるレーザ安定化方法について、図5に示すフローチャートを参照して説明する。なお、以下では、説明の便宜上、目標とする飽和吸収線を、ピーク群M2に属する飽和吸収線a10とする。
【0027】
(探索処理)
まず、アクチュエータ制御部531は、アクチュエータ25に印加する駆動電圧Vを最大電圧値に設定する(ステップS1)。
【0028】
ステップS1の後、アクチュエータ制御部531は、駆動電圧Vを最大電圧値から最小電圧値まで徐々に掃引する。駆動電圧Vが掃引される間、探索部532は、目標となる飽和吸収線a10が属するピーク群M2を探索する(ステップS2;探索工程)。
【0029】
ステップS2において、探索部532は、例えば、2次微分信号SL2の出力値が所定の閾値Vth1以上であるときに特異点を検出し、当該特異点が検出された時点の駆動電圧Vの電圧値を記憶させる(例えば図4参照)。
【0030】
ステップS2の後、制御部53は、ピーク群M2を探索できたか否かを判定する(ステップS3)。具体的には、制御部53は、ピーク群M2に関する各種パラメータをメモリ54から参照し、この各種パラメータに合致する特異点のまとまりが検出されたか否かを判定する。
【0031】
ステップS3においてNoと判定された場合、ステップS12に進む。なお、ステップS12以降の処理については後述する。
【0032】
一方、ステップS3においてYesと判定された場合、アクチュエータ制御部531は、駆動電圧Vを、次の駆動電圧Vの掃引方向において、ピーク群M2に対応する吸収領域Rv2よりも少し手前となる値に設定する(ステップS4)。
【0033】
次いで、アクチュエータ制御部531は、吸収領域Rv2の手前となる値から当該吸収領域Rv2の後ろとなる値まで、例えば増加方向に駆動電圧Vを掃引する。駆動電圧Vが掃引される間、探索部532は、目標となる飽和吸収線a10が属するピーク群M2を探索する(ステップS5)。ピーク群M2を探索する方法は、上述のステップS2と同様である。
ステップS5の後、制御部53は、ステップS3と同様に、目標とするピーク群M2を探索できたか否かを判定する(ステップS6)。
【0034】
ステップS6においてNoと判定された場合、ステップS15に進み、エラー処理を実施する。エラー処理は、例えば、ユーザにエラーを知らせる情報を出力する。
【0035】
一方、ステップS6においてYesと判定された場合、アクチュエータ制御部531は、吸収領域Rv2の手前となる値から当該吸収領域Rv2の後ろとなる値に向かって、例えば減少方向に駆動電圧Vを掃引する。駆動電圧Vが掃引される間、探索部532は、目標とする飽和吸収線a10を探索する(ステップS7)。
このステップS7において、探索部532は、上述のステップS2と同様の方法によって特異点を検出しつつ、特異点の検出回数をカウントする。そして、駆動電圧Vの掃引方向が減少方向である場合には5回目に検出される特異点を、目標とする飽和吸収線a10として検出し、検出時点の電圧値Vgをメモリ54に記憶させる。
【0036】
次に、制御部53は、目標とする飽和吸収線a10が探索できたか否かを判定する(ステップS8)。このステップS8では、例えば、飽和吸収線a10となる特異点が検出された時点の電圧値Vgが予め定められた理想範囲内である場合に、目標とする飽和吸収線a10が探索できたと判定することができる。
【0037】
ステップS8においてNoと判定された場合、ステップS15に進み、エラー処理を実施する。
一方、ステップS8においてYesと判定された場合、アクチュエータ制御部531は、駆動電圧Vを、目標とする飽和吸収線a10が検出された電圧値Vgに固定する(ステップS9)。これにより、レーザ光La2の発振周波数は、目標とする飽和吸収線a10に合わせられる。
【0038】
ステップS9の後、制御部53は、2次微分信号SL2の出力値が例えば閾値Vth1以上に安定しているか否かを監視する(ステップS10)。これにより、レーザ光La2の発振周波数が目標とする飽和吸収線a10に安定化しているか否かを監視する。仮に、2次微分信号SL2の出力値が閾値Vth1よりも小さいと判定された場合(ステップS10:Noの場合)、ステップS11の復帰処理を行う。なお、復帰処理は、従来技術と同様であるため、本実施形態では説明を省略する。
【0039】
(再探索処理)
上述のステップS3でNoと判定された場合、ノイズ判別部533は、ステップS2で検出された複数の特異点からノイズを判別する(ステップS12;ノイズ判別工程)。
【0040】
ノイズ判別部533の具体的手法については、特に限定されないが、光検出信号SL1の出力値やメモリ54に記憶されたパラメータを利用することで、ノイズを判別できる。
例えば、レーザ光がシングルモード発振ではなく多モード発振の状態にある場合や外乱の影響を受けた場合、レーザ光が吸収セル431に吸収され始める駆動電圧Vの範囲でノイズが生じ易い。このノイズは、2次微分信号SL2の各出力値が閾値Vth1以上となることで特異点として検出されてしまうことがある。例えば、図6には、吸収領域Rv2のプラス側の境界付近に生じたノイズを例示している。本実施形態では、このようなノイズの性質に基づいて、吸収領域Rv1~Rv4の各境界付近で検出された特異点をノイズとして判別してもよい。
また、飽和吸収線は、レーザ光が吸収セル431に吸収される間に観測されるものである。このため、ノイズ判別部533は、光検出信号SL1が閾値Vth2以下である場合に検出された特異点をノイズとして判別してもよい。
また、ノイズ判別部533は、検出された複数の特異点から、メモリ54に記憶されたパラメータに合致する特異点を選択し、選択されない残りの特異点をノイズとして判別してもよい。
【0041】
次に、アクチュエータ制御部531は、ステップS12で判別されたノイズが存在するか否かを判定する(ステップS13)。
ノイズが存在する場合(ステップS13でYesの場合)、アクチュエータ制御部531は、ステップS2の終了時点で最小電圧値になっていた駆動電圧Vを増加させ、ノイズが検出された電圧値よりも少し小さい値(復帰値)に駆動電圧Vを設定する。すなわち、駆動電圧Vを、ステップS2の電圧掃引方向(減少方向)においてノイズを経過した位置の値に設定する(ステップS14)。
【0042】
なお、ステップS14において、ノイズが複数存在する場合には、ノイズが検出された電圧値のうち、最も大きい電圧値を基準として、当該電圧値よりも少し小さい値を復帰値Vrとする。
また、「ノイズが検出された電圧値よりも少し小さい値」とは、ノイズの影響を避けることができる程度に、ノイズが検出された電圧値から所定量だけ小さい値であればよい。
例えば、図6には、吸収領域Rv2のプラス側の境界付近にノイズが存在する場合に設定される復帰値Vrを例示している。
【0043】
その後、ステップS2に戻る。このステップS2において、アクチュエータ制御部531は、駆動電圧Vを復帰値から最小電圧値まで徐々に減少させ、探索部532は、目標となる飽和吸収線a10が属するピーク群M2を探索する(再探索工程)。
【0044】
一方、ノイズが存在しない場合(ステップS13でNoの場合)、待機時間を挟んでステップS1に戻り、フローを再開する。
【0045】
〔本実施形態の効果〕
本実施形態のレーザ装置1において、制御部53は、駆動電圧Vを掃引させるアクチュエータ制御部531と、駆動電圧Vが掃引される間、2次微分信号SL2に基づいて特異点を検出し、当該特異点が検出された時点の駆動電圧Vの電圧値をメモリ54に記憶させる探索処理を行う探索部532と、探索処理において検出された複数の特異点からノイズを判別するノイズ判別部533と、を有する。そして、探索部532は、特異点として検出されたノイズが存在する場合、ノイズが検出された時点の電圧値よりも小さい値から駆動電圧Vが減少方向に変化する間、探索処理を行う。
【0046】
このような本実施形態では、直前の探索処理においてノイズが特異点として検出され、目標とする飽和吸収線の探索処理がエラーとなった場合、ノイズが検出される電圧範囲を過ぎた位置から、次回の探索処理が行われる。このため、ノイズが落ち着くまでの待機時間を必要とせず、探索処理を再開することができる。
また、本実施形態では、再探索処理においてノイズを記憶することが回避されるため、メモリ54の容量が不要に消費されることを抑制できる。
【0047】
本実施形態のレーザ装置1において、アクチュエータ制御部531は、特異点として検出されたノイズが存在する場合、駆動電圧Vをノイズが検出された電圧値よりも小さい値から減少方向に掃引する。
このような本実施形態によれば、駆動電圧Vを最大電圧値から減少させる場合と比べて、駆動電圧Vの掃引時間を短縮化できる。
【0048】
〔変形例〕
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0049】
例えば、前記実施形態において、アクチュエータ制御部531は、特異点として検出されたノイズが存在する場合、駆動電圧Vをノイズが検出された電圧値よりも大きい値から増加方向に掃引してもよい。同様に、探索部532は、特異点として検出されたノイズが存在する場合、ノイズが検出された時点の電圧値よりも大きい値から駆動電圧Vが増加方向に変化する間、探索処理を行ってもよい。
このような変形例によっても、前記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0050】
前記実施形態において、探索部532は、特異点として検出されたノイズが存在する場合(ステップS13でYesの場合)、ステップS14で復帰値を設定する処理の替わりに、ノイズが検出された電圧値を含む領域を記録禁止領域に設定してもよい。また、記録禁止領域が設定された後、ステップS1に戻り、アクチュエータ制御部531は、駆動電圧Vを最大電圧値に設定してもよい。
このような変形例によれば、前記実施形態と同様、ノイズが検出される電圧範囲を過ぎた位置から特異点を記憶する処理が行われるため、ノイズが落ち着くまでの待機時間を必要とせず、探索処理を再開することができる。また、このような変形例によれば、駆動電圧Vを最大電圧値から掃引することによって共振器長の制御を安定的に行うことができる。
【0051】
前記実施形態のステップS6においてNoの場合、ステップS15でエラー処理を行う替わりに、上述のステップS12~S14と同様の処理を行ってもよい。この変形例では、特異点として検出されたノイズが存在する場合、ノイズを経過した位置の値に駆動電圧Vを設定した後、ステップS5に戻る。そして、ノイズが検出される電圧値を過ぎた位置から探索処理を行うことができる。
同様に、前記実施形態のステップS8においてNoの場合、ステップS15でエラー処理を行う替わりに、上述のステップS12~S14と同様の処理を行ってもよい。この変形例では、特異点として検出されたノイズが存在する場合、ノイズを経過した位置の値に駆動電圧Vを設定した後、ステップS7に戻る。そして、ノイズが検出される電圧範囲を過ぎた位置から探索処理を行うことができる。
【符号の説明】
【0052】
1…レーザ装置、10…励起用光源、20…共振器、21…レーザ媒体、22…非線形光学結晶、23…エタロン、24…共振器ミラー、25…アクチュエータ、26…筐体、30…導波光学部、32…第1偏光ビームスプリッタ、40…検波部、42…光入射部、421…第2偏光ビームスプリッタ、424…光検出部、43…光吸収部、431…吸収セル、44…光反射部、442…反射ミラー、50…制御装置、51…アクチュエータ駆動部、52…微分演算部、53…制御部、531…アクチュエータ制御部、532…探索部、533…ノイズ判別部、54…メモリ、La1…励起光、La2~La4…レーザ光、M1~M4…ピーク群、Rv1~Rv4…吸収領域、SL1…光検出信号、SL2…2次微分信号、V…駆動電圧、Vg…電圧値、Vth1,Vth2…閾値。
図1
図2
図3
図4
図5
図6